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講談調で娯楽性が高く、伝説的虚構性を重視。「忠臣蔵」の初心者が大枠を掴むのに良い。

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忠臣蔵 1958_0.jpg
忠臣蔵 [DVD]」(2004) 主演:長谷川一夫

忠臣蔵 [DVD]」(2013)

忠臣蔵(1958)市川.jpg 元禄14年3月、江戸城勅使接待役に当った播州赤穂城主・浅野内匠頭(市川雷蔵)は、日頃から武士道を時世遅れと軽蔑する指南役・吉良上野介(滝沢修)から事毎に意地悪い仕打ちを受けるが、近臣・堀部安兵衛(林成年)の機転で重大な過失を免れ、妻あぐり(山本富士子)の言葉や国家老・大石内蔵助(長谷川一夫)の手紙により慰められ、怒りを抑え役目大切に日を過す。しかし、最終日に許し難い侮辱を受けた内匠頭は、城中松の廊下で上野介に斬りつけ、無念にも討ち損じる。幕府は直ちに事件の処置を計るが、上野介忠臣蔵  昭和33年.jpg贔屓の老中筆頭・柳沢出羽守(清水将夫)は、目付役・多門伝八郎(黒川弥太郎)、老中・土屋相模守(根上淳)らの正論を押し切り、上野介は咎めなし、内匠頭は即日切腹との処分を下す。内匠頭は多門伝八郎の情けで家臣・片岡源右衛門(香川良介)に国許へ遺言を残し、従容と死につく。赤穂で悲報に接した内蔵助は、混乱する家中の意見を籠城論から殉死論へと導き、志の固い士を判別した後、初めて仇討ちの意図を洩らし血盟の士を得る。その中には前髪の大石主税(川口浩)と矢頭右衛門七(梅若正二)、浪々中を馳せ参じた不破数右衛門(杉山昌三九)も加えられた。内蔵助は赤穂城受取りの脇坂淡路守(菅原謙二)を介して浅野家再興Chûshingura(1958).jpgの嘆願書を幕府に提出、内蔵助の人物に惚れた淡路守はこれを幕府に計るが、柳沢出羽守は一蹴する。上野介の実子で越後米沢藩主・上杉綱憲(船越英二)は、家老・千坂兵部(小沢栄太郎)に命じて上野介の身辺を警戒させ、兵部は各方面に間者を放つ。内蔵助は赤穂退去後、京都山科に落着くが、更に浅野家再興嘆願を兼ねて江戸へ下がり、内匠頭後室・あぐり改め瑤泉院を訪れる。瑤泉院は、仇討ちの志が見えぬ内蔵助を責める侍女・戸田局(三益愛子)とは別に彼を信頼している。内蔵助はその帰途に吉良方の刺客に襲われ、多門伝八郎の助勢で事なきを得るが、その邸内で町人姿の岡野金右衛門(鶴田浩二)に引き合わされる。伝八郎は刃傷事件以来、陰に陽に赤穂浪士を庇護していたのだ。一方、大石襲撃に失敗した千坂兵部は清水一角(田崎潤)の報告によって並々ならぬ人物と知り、腹心の女るい(京マチ子)を内蔵助の身辺に間者として送る。江戸へ集った急進派の堀部安兵衛らは、出来れば少人数でもと仇討ちを急ぐが、内蔵助は大義の仇討ちをするには浅野家再興の成否を待ってからだと説く。半年後、祇園一力茶屋で多くの遊女と連日狂態を示す内蔵助の身辺に、内蔵助を犬侍と罵る浪人・関根弥次郎(高松英郎)、内蔵助を庇う浮橋(木暮実千代)ら太夫、仲居姿のるいなどがいた。内蔵助は浅野再興の望みが絶えたと知ると、浮橋を身請けして、妻のりく(淡島千景)に離別を申渡す。長子・主税のみを残しりくや幼い3人の子らと山科を去る母たか(東山千栄子)は、仏壇に内蔵助の新しい位牌を見出し、初めて知った彼の本心にりくと共に泣く。るいは千坂の間者・忠臣蔵  昭和33年tyu.jpg小林平八郎(原聖四郎)から内蔵助を斬る指令を受けるがどうしても斬れず、平八郎は刺客を集め内蔵助を襲い主税らの剣に倒れる。機は熟し、内蔵助ら在京同志は続々江戸へ出発、道中、近衛家用人・垣見五郎兵衛(二代目中村鴈治郎)は、自分の名を騙る偽者と対峙したが、それを内蔵助と知ると自ら偽者と名乗忠臣蔵e.jpgって、本物の手形まで彼に譲る。江戸の同志たちも商人などに姿を変えて仇の動静を探っていたが、吉良方も必死の警戒を続け、しばしば赤穂浪士も危機に陥る。千坂兵部は上野介が越後へ行くとの噂を立て、この行列を襲う赤穂浪士を一挙葬る策を立てるが、これを看破した内蔵助は偽の行列を見送る。やがて、赤穂血盟の士47人は全員江戸に到着し、決行の日は後十日に迫るが、肝心の吉良邸の新しい絵図面だけがまだ無い。岡野金右衛門は同志たちから、彼を恋する大工・政五郎(見明凡太朗)の娘お鈴(若尾文子)を利用してその絵図を手に入れるよう責められていて、決意してお鈴に当る。お鈴は小間物屋の番頭と思っていた岡野金右衛門を初めて赤穂浪士と覚ったが、方便のためだけか、恋してくれているのかと彼に迫り、男の真情を知ると嬉し泣きしてその望みに応じ、政五郎も岡野金右衛門の名も聞かずに来世で娘と添ってくれと頼む。江戸へ帰ったるいは、再び兵部の命で内蔵助を偵察に行くが、内蔵助たちの美しい心と姿に打たれる彼女は逆に吉良家茶会の日を14日と教える。その帰途、内蔵助を斬りに来た清水一角と同志・大高源吾(品川隆二)の斬合いに巻き込まれ、危って一角の刀に倒れたるいは、いまわの際にも一角に内蔵助の所在を偽る。るいの好意とその最期を聞いた内蔵助は、12月14日討入決行の檄を飛ばす。その14日、内蔵助はそれとなく今生の暇乞いに瑤泉院を訪れるが、間者の耳目を警戒して復讐の志を洩らさChûshingura (1958) .jpgず、失望する瑤泉院や戸田局を後に邸を辞す。同じ頃、同志の赤垣源蔵(勝新太郎)も実兄・塩山伊左衛門(竜崎一郎)の留守宅を訪い、下女お杉(若松和子)を相手に冗談口をたたきながらも、兄の衣類を前に人知れず別れを告げて飄々と去る。勝田新左衛門(川崎敬三)もまた、実家に預けた妻と幼児に別れを告げに来たが、舅・大竹重兵衛(志村喬)は新左衛門が他家へ仕官すると聞き激怒し罵る。夜も更けて瑤泉院は、侍女・紅梅(小野道子)が盗み出そうとした内蔵助の歌日記こそ同志の連判状であることを発見、内蔵助の苦衷に打たれる。その頃、そば屋の二階で勢揃いした赤穂浪士47人は、表門裏門の二手に分れ内蔵助の采忠臣蔵 1958_1.jpg配下、本所吉良邸へ乱入。乱闘数刻、夜明け前頃、間十次郎(北原義郎)と武林唯七(石井竜一)が上野介を炭小屋に発見、内蔵助は内匠頭切腹の短刀で止めを刺す。赤穂義士の快挙は江戸中の評判となり、大竹重兵衛は瓦版に婿の名を見つけ狂喜し、塩山伊左衛門は下女お杉を引揚げの行列の中へ弟を探しにやらせお杉は源蔵を発見、大工の娘お鈴もまた恋人・岡野金右衛門の姿を行列の中に発見し、岡野から渡された名札を握りしめて凝然と立ちつくす。一行が両国橋に差しかかった時、大目付・多門伝八郎は、内蔵The Loyal 47 Ronin (1958).jpg忠臣蔵 _V1_.jpg助に引揚げの道筋を教え、役目を離れ心からの喜びを伝える。その内蔵助が白雪の路上で発見したものは、白衣に身を包んだ瑤泉院が涙に濡れて合掌する姿だった―。[公開当時のプレスシートより抜粋]
若尾文子(お鈴)・鶴田浩二(岡野金右衛門)

 1958(昭和33)年に大映が会社創立18年を記念して製作したオールスター作品で、監督は渡辺邦男(1899-1981)。大石内蔵助に大映の大看板スター長谷川一夫、浅野内匠頭に若手の二枚目スター市川雷蔵のほか鶴田浩二、勝新太郎という豪華絢爛たる顔ぶれに加え女優陣にも京マチ子、山本富士子、木暮実千代、淡島千景、若尾文子といった当時のトップスターを起用しています。当時、赤穂事件を題材とした映画は毎年のように撮られていますが、この作品は、その3年後に作られた同じく大作である松田定次監督、片岡千恵蔵主演の「赤穂浪士」('61年/東映)とよく比較されます。「赤穂浪士」の方は大佛次郎の小説『赤穂浪士』をベースとしています。

 "忠臣蔵通"と言われる人たちの間では'61年の東映版「赤穂浪士」の方がどちらかと言えば評価が高く、一方、この'58年の大映版「忠臣蔵」は、「戦後映画化作品の中で最も浪花節的かつ講談調で娯楽性が高く、リアリティよりも虚構の伝説性を重んじる当時の風潮が反映されている作品であり、『忠臣蔵』の初心者が大枠を掴むのに適していると言われている」(Wikipedia)そうです。概ね同感ですが、東映版「赤穂浪士」にしても、史実には無い大佛次郎が作りだしたキャラクターが登場したりするわけで、しかも細部においては必ずしも原作通りではないことを考えると、この大映版「忠臣蔵」は、これはこれで「伝説的虚構性を重視」しているという点である意味オーソドックスでいいのではないかと思いました。

 「赤穂浪士」の片岡千恵蔵の大石内蔵助と、3年先行するこの「忠臣蔵」の長谷川一夫の大石内蔵助はいい勝負でしょうか。「赤穂浪士」が浅野内匠頭に大川橋蔵を持ってきたのに対し、この「忠臣蔵」の浅野内匠頭は市川雷蔵で、「赤穂浪士」が吉良上野介に月形龍之介を持ってきたのに対し、この「忠臣蔵」の吉良上野介は滝沢修です。この「忠臣蔵」の長谷川一夫と滝沢修は、6年後のNHKの第2回大河ドラマ「赤穂浪士」('64年)でも忠臣蔵 1958.jpgそれぞれ大石内蔵助と吉良上野介を演じています(こちらは大佛次郎の『赤穂浪士』が原作)。また、「赤穂浪士」が「大石東下り」の段で知られる立花左近に大河内傳次郎を配したのに対し、こちら「忠臣蔵」は立花左近に該当する垣見五郎兵衛忠臣蔵 1958 中村.jpg二代目中村鴈治郎を配しており、長谷川一夫が初代中村鴈治郎の門下であったことを考えると、兄弟弟子同士の共演とも言えて興味深いです。但し、この場面の演出は片岡千恵蔵・大河内傳次郎コンビの方がやや上だったでしょうか。
二代目中村鴈治郎(垣見五郎兵衛)

勝新太郎(赤垣源蔵)
忠臣蔵_V1_.jpg この作品は、講談などで知られるエピソードをよく拾っているように思われ、先に挙げた内蔵助が武士の情けに助けられる「大石東下り」や、同じく内蔵助がそれとなく瑤泉院を今生の暇乞いに訪れる「南部坂雪の別れ」などに加え、赤垣源蔵が兄にこれもそれとなく別れを告げに行き、会えずに兄の衣服を前に杯を上げる「赤垣源蔵 徳利の別れ」などもしっかり織り込まれています。赤垣源蔵役は勝新太郎ですが、この話はこれだけで「赤垣源蔵(忠臣蔵赤垣源蔵 討入り前夜)」('38年/日活)という1本の映画になっていて、阪東妻三郎が赤垣源蔵を演じています。また、浪々中を馳せ参じた不破数右衛門(杉山昌三九)もちらっと出てきますが、この話も「韋駄天数右衛門」忠臣蔵 1958 simura.jpg('33年/宝塚キネマ)という1本の映画になっていて、羅門光三郎が不破数右衛門を演じています。こちらの話ももう少し詳しく描いて欲しかった気もしますが、勝田新左衛門の舅・大竹重兵衛(志村喬)のエピソードなどは楽しめました(志村喬は戦前の喜劇俳優時代の持ち味を出していた)。

志村喬(大竹重兵衛)

 映画会社の性格かと思いますが、東映版「赤穂浪士」が比較的男優中心で女優の方は脇っぽかったのに対し、こちらは、山本富士子が瑤泉院、京マチ子が間者るい、木暮実千代が浮橋太夫、淡島千景が内蔵助の妻りく、若尾文子が岡野金右衛門(鶴田浩二)の恋人お鈴、中村玉緒が浅野家腰元みどりと豪華布陣です。それだけ、盛り込まれているエピソードも多く、全体としてテンポ良く、楽しむところは楽しませながら話が進みます。山本富士子はさすがの美貌というか貫禄ですが、京マチ子忠臣蔵 鶴田浩二 若尾文子.jpgの女間者るいはボンドガールみたいな役どころでその最期は切なく、若忠臣蔵 1958 yamamoto.jpg忠臣蔵 1958 kyou.jpg忠臣蔵 1958 turuta.jpg尾文子のお鈴は、父親も絡んだ吉良邸の絵図面を巡る話そのものが定番ながらもいいです。

山本富士子(瑤泉院)/京マチ子(女間者おるい)/鶴田浩二(岡野金右衛門)  若尾文子(お鈴)・鶴田浩二

忠臣蔵 1958es.jpg忠臣蔵(1958)6.jpg滝沢修(吉良上野介)・市川雷蔵(浅野内匠頭)

 渡辺邦男監督が「天皇」と呼ばれるまでになったのはとにかく、この人は早撮りで有名で、この作品も35日間で撮ったそうです(初めて一緒に仕事した市川雷蔵をすごく気に入ったらしい)。でも、画面を観ている限りそれほどお手軽な感じは無く、監督の技量を感じました。ストーリーもオーソドックスであり、確かに、自分のような初心者が大枠を掴むのには良い作品かもしれません。松田定次監督、片岡千恵蔵主演の「赤穂浪士」('61年)と同様、役者を楽しむ映画であるとも言え、豪華さだけで比較するのも何ですが、役者陣、特に女優陣の充実度などでこちらが勝っているのではないかと思いました。
 

「忠臣蔵」スチール 淡島千景(大石の妻・りく)/長谷川一夫(大石内蔵助)/木暮実千代(浮橋太夫)
淡島千景『忠臣蔵』スチル1.jpg
淡島千景/東山千栄子(大石の母・おたか)
淡島千景『忠臣蔵』スチル5.jpg

小沢栄太郎(千坂兵部)・京マチ子(女間者おるい)    船越英二(上杉綱憲)
忠臣蔵 小沢栄太郎・京マチ子.jpg 忠臣蔵 船越英二.jpg

Chûshingura (1958)
Chûshingura (1958).jpg忠臣蔵 1958 08.jpg「忠臣蔵」●制作年:1958年●監督:渡辺邦男●製作:永田雅一●脚本:渡辺邦男/八尋不二/民門敏雄/松村正温●撮影:渡辺孝●音楽:斎藤一郎●時間:166分●出演:長谷川一夫/市川雷蔵/鶴田浩二/勝新太郎/川口浩/林成年/荒木忍/香川良介/梅若正二/川崎敬三/北原義郎/石井竜一/伊沢一郎/四代目淺尾奥山/杉山昌三九/葛木香一/舟木洋一/清水元/和泉千忠臣蔵 1958 10.jpg太郎/藤間大輔/高倉一郎/五代千太郎/伊達三郎/玉置一恵/品川隆二/横山文彦/京マチ子/若尾文子/山本富士子淡島千景/木暮実千代/三益愛子/小野道子/中村玉緒/阿井美千子/藤田佳子/三田登喜子/浦路洋子/滝花久子/朝雲照代/若松和子/東山山本富士子『忠臣蔵(1958).jpg千栄子/黒川弥太郎/根上淳/高松英郎/花布辰男/松本克平/二代目澤村宗之助/船越英二/清水将夫/南條新太郎/菅原謙二/南部彰三/春本富士夫/寺島雄作/志摩靖彦/竜崎一郎/坊屋三郎/見明凡太朗/上田寛/小沢栄太郎/田崎潤/原聖四郎/志村喬/二代目中村鴈治郎/滝沢修●公開:1958/04●配給:大映(評価:★★★★)
山本富士子(瑤泉院)

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長谷川一夫(二役)を観るための映画のような印象。古川緑波の彦左衛門も悪くないが...。

家光と彦左38.jpg家光と彦左37.jpg 家光と彦左7-s.JPG
「家光と彦左」VHS  長谷川一夫(徳川家光)・古川緑波

古川緑波(大久保彦左衛門)/黒川弥太郎(松平伊豆守)
家光と彦左01.JPG家光と彦左02.JPG 大久保彦左衛門(古川緑波)は大阪冬の陣で、主君・徳川家康(鳥羽陽之助)を背負って戦地の中ひた走りその命を守った忠君。冬の陣も終わって徳川の世となり、二代将軍秀忠(佐伯秀男)は、家臣・松平伊豆守(黒川弥太郎)の進言を受け、世継ぎに次男国松(小高たかし)を選ぼうとしていた。そこへその彦左衛門が現われ、家康の遺言に奉じ死を賭けて竹千代(林成年)を護り抜くとした。その一途さに秀忠は決定を覆し、長男竹千代を世継ぎにすることに。時は過ぎ、竹千代家光と彦左03.JPGは三代将軍家光(長谷川一夫)となり、明敏果断な名君として尊敬を集めている。一方、彦左衛門は、隠居同前の生活の毎日が寂しく、かつての威光も失われたかに見えた。心配した家光が天海和尚(汐見洋)に相談すると、「時々、愚かな君主になれ」と諭される。家光はそれから時々、わざと愚行をするようになり、彦左衛門は元のように御意見番として元気に現場復帰を果たす。ある日城中で彦左衛門は、家光が彦左衛門のためにわざと芝居をしているとの話を立ち聞きしてしまい、家光家光と彦左04.JPGに密かに感謝し、その芝居に付き合うことにする。家光は、完成したばかりの日光東照宮への訪家光と彦左05.JPG問の先導役を、彦左の最後のはなむけの仕事にする。彦左衛門は道中の宿で、お供の笹尾喜内(渡辺篤)に「命に変えても、わこ(家光)をお守し、最後の御奉公にしたい」と決意を話しているのを、家光はたまたま立ち聞きし感動する。しかし、次の日の宿である宇都宮城で待ち受ける本多上野介正純(清川荘司)は、元々秀忠の世継ぎに次男国松を推していた派であり、城代家老の河村靱負(長谷川一夫、二役)に命じて、城に吊り天井を仕掛けて家光を圧殺する計画を用意していた―。

家光と彦左b1-s.JPG 1941年3月公開のマキノ正博監督、長谷川一夫主演作。長谷川一夫演じる三代将軍家光の古川緑波演じる大久保彦左衛門に対する温かい情愛がコメディタッチで描かれ、終盤は長谷川一夫は将軍家光の暗殺を謀る本多正純(清川荘司)側の家臣・河村靱負との二役になります。しかも、家光役の時には、彦左衛門の前で愚君を装うため白拍子の踊りの輪に飛び入りで加わって踊り(白拍子の"センター"の桜町公子よりも長谷川一夫の殿様の方が踊り慣れている?)、河村靱負役の時には家光歓待を装って歌舞伎役者顔負けに歌舞いてみせるという、剣戟こそ無いものの、半分以上は長谷川一夫を観るための映画のような印象でした。

 古川緑波の彦左衛門も悪くなく、ストーリー的にはそれなりに面白いのですが、宇都宮城で家光が本多正純の策に嵌って"お命頂戴つかまつる"と言われている、そうした危機的な場面でさえ、それを家光が彦左衛門のために組んだ芝居だと思っているというのはあまりにノー天気で、さすがに無理があったように思いました。

本多正純_正信.jpg 歴史的には、本多正純(父・本多正信は徳川家康の側近)が、宇都宮城に吊り天井を仕掛けて、それを落下させることで(家光ではなく)第二代将軍徳川秀忠の暗殺を図ったという「宇都宮城釣天井事件」というのがありますが、実のところは計画そのものがガセネタだったようです。しかしながら、本多正純はその嫌疑によって失脚しており、こうしたガセネタの背後にポリティクスの力が働いていたのは間違いない事なのでしょう。

本多正純(伊東孝明)・本多正信(近藤正臣)父子(「真田丸」(2016))
   
釣天井伝説(宇都宮城釣天井事件)
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 家康の七回忌に日光東照宮を参拝した後、宇都宮城に1泊する予定だった秀忠は、「宇都宮城の普請に不備がある」という密訴を受け、それで予定を変更して宇都宮城を通過して壬生城に宿泊したそうです(宇都宮城の普請に携わった後、秘密を守るために殺害された多くの大工の中の一人・与五郎という男が、亡霊となって恋人であるお稲という女性の枕元に立ち、経緯を知って悲しんだお稲は自殺するが、自殺する前にそのことを書き遺した手紙をお稲の死後に父親が見つけて、日光から宇都宮に向かう将軍の行列に直訴したという伝説がある)。従って、この宇都宮城の家光と彦左11.jpg吊り天井が落下するといった事件は史実では起きていませんが、映画ではやっています。お堂1つをブッ飛ばしていますが、おそらく特殊撮影なのでしょう。そのシーンはよく出来ていたように思いますが、「特殊技術撮影」というクレジットがないので誰がやったのか分かりません(まさかホントにお堂を1つブッ飛ばしてしまったわけではないとは思うが)。

遠山の金さん~はやぶさ奉行~ [VHS]
はやぶさ奉行 片岡.jpgはやぶさ奉行 VHS .jpgはやぶさ奉行 1957.jpg 因みに、この将軍暗殺計画をモチーフにした映画作品としては、片岡千恵蔵が遠山金四郎を演じた「いれずみ判官」シリーズの第12作で、同シリーズでは初のカラー作品だった陣出達朗原作、深田金之助監督の「はやぶさ奉行」('57年/東映)がありますが、 「遠山の金さん」ものであるため時代設定が江戸後期になっており、命を狙われるのは第12代将軍・徳川家慶になっています(大河内傳次郎が堀田備中守役で出てくるが、これは第3代将軍・徳川家光の子・竹千代(後の第4代将軍・徳川家綱)の暗殺計画を扱った「将軍家光の乱心 激突」('89年/東映)で真矢武が演じた堀田正俊(1634-1684)ではなく、正俊系堀田家第9代・堀田正睦(1810-1864)のこと)。また、工事中の物件は日光東照宮・御仮殿であり(史実上の創建年は1639年だが、1863年頃まで御仮殿として使用されていて現存する)、将はやぶさ奉行46.jpg軍暗殺を謀る一味がそこに吊り天井を仕掛け、将軍参詣の当日に落とすというもの。もともと大工の連続殺人から事件ははじまり、背後に何かあると睨んだ金さんが、植木屋に扮して潜伏した先で偶然に出会って意気投合した侠盗ねずみ小僧(大川橋蔵)と組んで、最終的には悪を倒すというものでした。「金さん」ものなので予定調和ですが、こちらも吊り天井は落っこちて、将軍は九死に一生を得ます。

片岡千恵蔵 in「はやぶさ奉行」

 マキノ正博は人形浄瑠璃を学び、女優に対する演技指導では自ら演技をしてみせたそうで、1940年頃に当時まだ10代だった藤間紫(1923-2009/享年85)が踊る日本舞踊に感銘を受け、以後はもっぱら日本舞踊を研究し、その所作を女優の演技指導に活用したそうです。その10代の藤間紫(当時17歳)が、「家光と彦左」終盤の"家光歓待"の場面で「義経」の静御前を踊っています。

「家光と彦左」●制作年:1941年●監督:マキノ正博●製作:滝村和男●脚本:小国英雄●撮影:伊藤武夫●音楽:鈴木静一(琴奏:宮城道雄)●時間:104分●出演:長谷川一夫/古川緑波/黒川弥太郎/鳥羽陽之助/汐見洋/佐伯秀男/清川荘司/渡辺篤/林成年/横山運平/深見泰三/小高たかし/光一/浜田格/下田猛/冬木京三/星十郎/沢村昌之助/江藤勇/小森敏/中村幹次郎/大杉晋/武井大八郎/高松文磨/長島武夫/中村福松/河合英二郎/成田光枝/桜町公子/千葉早智子/藤間紫●公開:1941/03●配給:東宝東京(評価:★★★)

はやぶさ奉行m.jpgはやぶさ奉行04.jpgはやぶさ奉行 片岡 千原.jpg「はやぶさ奉行」●制作年:1957年●監督:深田金之助●脚本:高岩肇●撮影:三木滋人●音楽:高橋半●原作:原作:陣出達朗●時間:93分●出演:片岡千恵蔵/大川橋蔵/千原しのぶ/植木千恵/花柳小菊/大河内傳次郎/進藤英太郎/高松錦之助/明石潮/片岡栄二郎/沢田清/香川良介/仁礼功太郎/上代悠司/市川小太夫/柳永二郎/岡譲司/戸上城太郎/尾上華丈/加賀邦男/大橋史典/団徳麿/岡島艶子/河部五郎/木南兵介●公開:1957/11●配給:東映(評価:★★★)

千原しのぶ(1931-2009)/片岡千恵蔵

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唯一の阪妻版「丹下左膳」。単独で観ればそれなりに面白いが、他と比べると...。

丹下左膳 1952 dvd.jpg丹下左膳 [DVD]」 丹下左膳 (1952年、日本).jpg 淡島千景・阪東妻三郎

丹下左膳 (1952年)_1.jpg 徳川八代将軍吉宗(夏川大二郎)は、日光東照宮の改修工事を柳生藩に下命した。小藩の柳生家ではその費用に困窮したが、藩の生き字引の百余歳の一風宗匠が、柳生家では非常時のために莫大な埋蔵金があり、その在り処の地図は「こけ猿の茶壷」に納めてあると言う。その壷は、柳生家の息子・源三郎(高田浩吉)が、江戸に道場を持つ司馬一刀斎の娘・萩乃(喜多川千鶴)の許への婿入りの引出物に持って行っており、源三郎を道場に入れまいとする師範代・峰丹波(大友柳太朗)と一刀斎の後妻お蓮(村田知栄子)は、こそ泥・鼓の与吉(三井弘次)に源三郎から壷丹下左膳 (1952年、2).jpgを盗ませる。壺を盗んだ与吉は柳生の侍らに追われて、トコロテン売りの小僧ちょび安(かつら五郎)にそれを渡す。ちょび安は丹下左膳(阪東妻三郎)と櫛卷お藤(淡島千景)の夫婦に可愛がられ養子になる。その時ちょび安の持っていた壷は、長屋に住む浪人・蒲生泰軒に盗まれるが、左膳は泰軒を斬ってそれを取り戻す。更に幕府の隠密の総師・愚樂(菅井一郎)により再び盗み去られるが、盗まれた壷は偽物で、本物の壷は与吉によってお蓮の許へ運ばれていた。司馬道場へ婿入りした源三郎だが、お蓮に川船に誘い出され無理に口説かれる。源三郎が靡かないと見ると、船の底に穴をあけ船を沈められる。泳ぎが不得手の源三郎を助けるため左膳が川に跳び込むが、源三郎も左膳もこけ猿の壷もろとも水門へと流される。長屋の住人らは二人の葬式を挙げるが、実は二人は何とか生きていて壷も無事だった。そこで丹波はちょび安を誘拐し、左膳をおびき出して騙し討ちにしようとする―。

丹下左膳 百万両の壺 101.jpg 1952年公開の松田定次監督、阪東妻三郎主演作。戦前の山中貞雄監督、大河内傳次郎主演の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」('35年/日活)と同じく、林不忘(1900-1935/享年35)の『丹下左膳・こけ猿の巻』が原作であり、おそらくこちらの方が原作に近いのでしょう。"こけ猿の壷"を巡って、柳生家、峰丹波一味、幕府隠密、鼓の与吉とお連などが四ツ巴の争奪戦を繰り広げ、しかも最後にちょび安の意外な出自が明かされるという、いわば何でもありの(林不忘らしい?)ストーリーです。

大河内傳次郎「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」('35年/日活)

 と言うことで、この作品単独で観れば相当に面白いのですが、どうしても山中貞雄・大河内傳次郎版「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」と比べてしまい、そうなると、出身地の豊前訛りで「シェイハタンゲ、ナハシャゼン」と名乗る大河内傳次郎の左膳のアクの強さに比べると、「姓は丹下、名は左膳」と正しい滑舌で名乗る阪東妻三郎の左膳はややキャラ的に弱かったかも。「無法松の一生」「王将」的な庶民肌のところは充分に出ていますが、昭和初期、「サイレント映画では、虚無的な浪人者をやらせては妻三郎の右に出るものなし」と謳われた、そのニヒルさは影を潜めてしまっているように思います。

 阪東妻三郎の殺陣の腕前は、同じく剣戟スターだった市川右太衛門、月形竜之介などよりも一段上だったようで、松竹が阪東妻三郎で丹下左膳を撮ることになった時、大河内傳次郎側が「丹下左膳は自分の作品だから、やめてほしい」と松竹に抗議したそうですが、大河内傳次郎もバンツマのカリスマ性に脅威を感じていたのでしょうか。

魔像 dvd 1952.jpg ところが、この作品での阪東妻三郎の殺陣はイマイチで、最後の刀を持たずに出向いた峰丹波(大友柳太朗)一派の所での決闘でも、追って刀を届けたお藤(淡島千景)から刀をなかなか受け取れずやきもきさせますが、これってわざとコメディ調に作っているのでしょうか。50歳を過ぎて年齢的にキツイ殺陣は出来なくなっていたの説もありますが、同年の大曾根辰夫監督の「魔像」('52年/松竹/原作:林不忘)では、かなり鋭い剣戟を見せています。

丹下左膳 大友.jpg 残念ながら、阪東妻三郎は本作の翌年(1953年)51歳で脳内出血により急死し、阪東妻三郎の丹下左膳はこの1作のみです。逆に大河内傳次郎がマキノ雅弘監督の「丹下左膳」('53年/大映)にて55歳で左膳役に復帰し、「続・丹下左膳」('53年/大映)、「丹下左膳 こけ猿の壺」('53年/大映)まで3作を撮っているほか、この作品で悪役の峰丹波を演じた大友柳太朗が、松田定次監督「丹下左膳」('58年/東映)に主演、「丹下左膳 乾雲坤竜の巻」('62年/東映)まで5作で左膳役を演じています。

大友柳太朗「丹下左膳」('53年/大映)(左は松島トモ子)

 山中貞雄監督、大河内傳次郎主演の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」('35年/日活)は、それまでの怪異的存在であった丹下左膳像をモダンな明るい作風にパロディ化してしまったため、原作者の林不忘が、これは左膳ではないと怒ってしまったことからタイトルに「餘話」とあるそうですが、林不忘がその年に35歳で早逝したため、そうしたことを言う人がいなくなって(山中貞雄監督の「丹下左膳餘話 百萬兩の壺」以降の作品の左膳は全て好人物になってしまったらしい)、そのためどこまでが本物でどこまでがパロディなのか分からなくなったような気もします

 そうした意味では、「丹下左膳」('58年/東映)で豪放磊落な丹下左膳を演じた大友柳太朗の戦略は賭けの要素はあったものの結果的に「当たり」で、それに比べるとこの阪東妻三郎版「丹下左膳」('52年/松竹)は、同じ松田定次監督作でありながら、(あくまでも他と比べてだが)ちょっと中途半端だったかもしれません(繰り返すが、この作品そのものはそれなりに面白い)。

丹下左膳 (1952 松竹)s.jpg丹下左膳 (1952年)5.jpg丹下左膳 (1952年) .jpg「丹下左膳」●制作年:1952年●監督:松田定次●製作:小倉浩一郎●脚本:菊島隆三/成澤昌茂●撮影:川崎新太郎●音楽:深井史郎●原作:林不忘●時間:91分(現存90分)●出演:阪東妻三郎/淡島千景/つら五郎/三井弘次/高田浩吉/加賀邦男/富本民平/藤間林太郎/海江田譲二/戸上城太郎/喜多川千鶴/村田知栄子/大友柳太朗/夏川大二郎/菅井一郎●公開:1952/08●配給:松竹(評価:★★★☆)

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片岡千恵蔵がいい。メインストーリーもサイドストーリーもしっかりした作品。

血槍富士 1955 poster.jpg血槍富士 dvd .jpg 血槍富士 片岡1.jpg
血槍富士 [DVD]」  片岡千恵蔵(槍持ちの権八)

血槍富士20.jpg 槍持ちの権八が(片岡千恵蔵)は、若様酒匂小十郎(島田照夫)に付き従い、仲間の源太(加東大介)と東海道を江戸へ向かっている。同じ道を旅するのは、小間物商人の伝次(加賀邦男)、身売りに行く娘おたね(田代百合子)と老爺の与茂作(横山運平)、按摩の藪の市(小川虎之助)、旅の巡礼(進藤英太郎)、旅芸人のおすみ母子(喜多川千鶴・植木千恵)、挙動血槍富士37.jpg不審の旅人・藤三郎(月形龍之介)、権八の槍に見とれた浮浪児の次郎(植木基晴)等である。折しも街道には大泥棒「風の六右衛門」詮議の触れ書が廻っているが、権八はそれどころではない。気立てが優しいが、酒乱癖のある若様を守って旅を終るのが主命であり、供の源太が酒好きなので気が気ではない。一行が袋井に投宿した際に、藤三郎血槍富士44.jpgが大金を持っているのに目をつけた伝次(実は岡っ引)は、さては大泥棒とつけ廻すが、隣室で藪>の市に肩を揉ませている巡礼こそ大泥棒の六右衛門だった。その夜、権八が外出すると、その隙に小十郎は源太を連れて酒を飲み始めて乱れるが、駈けつけた権八が制して事無血槍富士59.jpgきを得る。また旅が始まったが、大井川付近で馬鹿殿ら(渡辺篤・坊屋三郎・杉狂児)が野立てを始めたため通行止めに。隙を狙って六右衛門は馬鹿血槍富士64.jpg殿の路銀を盗むが、その時に顔を見られた次郎に宿で再び出くわし、騒ぎになって抵抗するも、来合わせた権八の槍を前にお縄となる。与茂作が女衒久兵衛(吉田義夫)におたねを渡して帰ろうとすると藤三郎に引留められる。5年前預けた娘を引取るため金山で刻苦精励し貯めた金を持って来たのだが、娘は既に亡くなっていて、その金をおたねを引き取るために使ってくれと言う。小十郎は、素朴な人々を見て武士の世界に嫌気がさし、再び源太と居酒屋に入る。しかし、酔いどれの武士らと口論から斬り合いになり、権八の駈けつけた時には小十郎と源太は惨殺されていた。権八の怒りが爆発する―。

血槍富士81.jpg 1955(昭和30)年2月公開の内田吐夢監督の戦後第一作で、井上金太郎が原作・脚本・監督作を務め「道中悲記」('27年/マキノプロダクション)の再映画化作品であるとのこと(旧作では槍持ちの権八を月形龍之介、仲間の源太を杉狂児が演じている)。内田吐夢監督中国から復員したのが昭和31年というからかなり遅いです。でも、監督業に復帰してすぐにこれだけの作品を撮るというのはやはりスゴイと思います。

 演出がしっかりしていて、主人公の権八役の片岡千恵蔵はもちろん、若様を演じた島田照夫もお供の源太を演じた加東大介も良く、更には大泥棒や旅芸人、娘を売った男などが繰り広げるサイドストーリーも良く(子役2人は共に植木姓であることから窺えるように片岡千恵蔵の長男と長女)、ロードムービーであるとともに、次第に「グランドホテル」風の群像劇の様相を呈してきます。そして最後にほろりとさせられる話があります。売られていく娘を善意の人(ここでは月形龍之介!)が買い戻すという設定は、清水宏監督の「有りがたうさん」('36年/松竹)(原作:川端康成)でもありました。グランドホテル風のロードムービーである点も似ています。

 但し、これで終わりではなく、最後に小十郎と源太が侍数人に殺害される凄惨な場面と、権八がその侍数人を相手に槍で敵討ちをするという「主人の仇討ち」の物語が控えています。タイトルから何となく何か血生臭いことがありそうだと予測はできますが...。

血槍富士82.jpg ラストの片岡千恵蔵の槍の立ち回りは良かったです。槍持ちは所謂「中間(仲間)」の範疇であって、戦闘員である足軽(一応、士分)と家事労働をする下男の中間の身分であり、士分ではなく単なる従者であるとみていいと思います。それでも、槍持ちの権八が主人の死に対して命を賭けて闘うというのが、それまでのストーリーのディテール(例えば、権八が足にまめができて歩けなくなり、心配した主人が高価な膏薬を渡して遅れて来ればよいと言う場面など)から、主人が情け深い人間であることが窺えるため、それに恩義を感じている権八の忠義心の発露として自然に繋がっていきます。しかも、普段は"非戦闘員"であることからくる、テクニックも何も無く、ただ憤りのみで槍を振り回しては突く、泥にまみれた素人っぽい槍遣いの立ち回りを敢えて見せていて、これが所謂"剣戟スター"と言われる人の典型的かつ華麗な殺陣とはまた違っていて、リアルな迫力がありました(それを"剣戟スター"である片岡千恵蔵がやっているのがいい)。

Chiyari Fuji (1955)Jûsan-nin no shikaku (1963)
Chiyari Fuji (1955).jpgJûsan-nin no shikaku (1963).jpg 権八が槍持ちに憧れる少年に、最後は、「お前、槍持ちなんかになるんじゃないぞ」と言って聞かせるのも、同じ内田吐夢監督の「酒と女と槍」('60年/東映)で、主人公の富田蔵人高定(大友柳太朗)が武家社会の虚しさを感じながらも自ら戦場に飛び込んで散っていくのよりも、メッセージ性として一本筋が通っているように思いました。片岡千恵蔵主演作では工藤栄一監督の「十三人の刺客」('63年/東映)をベストワンに推す人が多いですが、群像劇でありながら片岡千恵蔵の活き活きとした演技が印象に残るという点で、こちらの方が上ではないでしょうか。メインストーリーもサイドストーリーもしっかりした作品と言えると思います。

血槍富士 加東5.jpg血槍富士 0.jpg「酒と女と槍」●制作年:1955年●監督:内田吐夢●製作:大川博●脚本:三村伸太郎●撮影:吉田貞次●音楽:小杉太一郎●●時間:94分●出演:片岡千恵蔵/島田照夫/加東大介/喜多川千鶴/植木千恵/加賀邦男/小川虎之助/横山運平/田代百合子/月形龍之介/進藤英太郎/渡辺篤/坊屋三郎/杉狂児/吉田義夫/高松錦之助●公開:1955/02●配給:東映●最初に観た場所(再見):シネマヴェーラ渋谷(16-05-26)(評価:★★★★☆)●併映:「十一人の侍」(工藤栄一)

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説明不足にはケチをつけたくなるが、大友柳太朗を楽しめる分、DVD化する価値はある?

酒と女と槍002.jpg酒と女と槍 vhs.jpg 酒と女と槍 title.jpg
酒と女と槍【ワイド版】 [VHS]

 秀吉(東野英治郎)の怒りにふれた関白秀次(黒川弥太郎)は高野で切腹、半月後には秀次の妻妾38人が三条河原で斬られ、伏見城大手門の前にこんな建札が立つ。「われらこと、故関白殿下諫争の臣として数年酒と女と槍 20花園ひろみ (2).jpgまかりあり候ところ、此の度不慮の儀これあり候ところ、われら職分怠たりの為と申訳なく存じ候。さるによって来る二十八日未の刻を期して切腹仕可」。建札の主は"槍の蔵人"の異名をもつ富田蔵人高定(大友柳太朗)。高定は死ぬまでの数日を心おきなく過すため、豪商・堺屋宗四郎(十朱久雄)の別荘に身を寄せ、贔屓の女歌舞伎太夫・左近(淡島千景)と妥女(花園ひろみ)を呼ぶ。建札を見て高定の心を知った妥女は一人残るが、一夜明けた朝「殿様は女というものの心がお分酒と女と槍 10大友柳太郎 (3).jpgりではございません」という言葉を残して迎えに来た左近と去る。千本松原には多くの見物人が集まったが、高定は乱酔のた酒と女と槍 40大友柳太郎 (4).jpgめ切腹の定刻を過ごし、介錯人(南方英二)に合図したところで秀吉の使者に切腹を止められる。高定は西山の村里に妥女と住むことになる。慶長3年(1598)、秀吉が亡くなる。兄の知信(原健策)は高定に再び切腹を迫るが、高定は兄を追い返し、仕官を勧めて訪れる前田利長(片岡千恵蔵)の家臣・内藤茂十郎(徳大寺伸)の言にも取り合わない。秀吉の死により家康(小沢栄太郎)の野望は高まり、関ケ原で豊臣徳川両家が興亡を賭け対峙する。今度は酒と女と槍 50大友柳太郎 (2).jpg高定の庵に利長本人が訪れて再度仕官を促す。高定に忘れ去ったはずの酒と女と槍 60花園ひろみ.jpg侍魂を呼び起したのは槍だった。子供が生れるとすがりつく妥女を残して、高定は利長の後を追うが、これは同時に左近との約束も破ることであった。関ケ原の本陣で、家康の本営に呼ばれた高定の酒と女と槍 70大友柳太郎 (5).jpg前に突き出されたのは、三成(山形勲)に内通したという兄・知信の首だった。利長のとりなしで陣営に帰った高定に、左近が迫る。女の一念酒と女と槍 90大友柳太郎 (7).jpgをこれで計れと高定を斬りつけ、返す刃でわが胸に懐剣を突き立てる。知信、左近の土饅頭を前に夜を明かした高定。家康の本陣から三成の陣へ。高定の目にはもう敵も味方も生も死もなかった―。

 「飢餓海峡」('65年/東映)で知られる内田吐夢監督の1960年公開作で、原作は海音寺潮五郎の「酒と女と槍と」(『かぶき大名―歴史小説傑作集〈2〉』('03年/文春文庫)などに所収)であり、文庫でおおよそ35ページの短編です。文庫解説の磯貝勝太郎(1935-2016)によれば、海音寺潮五郎は『野史』(嘉永4年、1851)に略述された高定に関する記述に拠ってこの短編を書いており、高定が秀次切腹事件の後、殉死しようと京都の千本松原を死に場所に定めるも、死装束で大勢の群衆や友人等と別れの杯を重ねていくうちに泥酔して切腹を果たせぬまま昏倒、それを秀吉に咎められ、濫りに殉死を試みた者は三族を誅すとの命令が出されため、自ら京都西山に幽居したというのは史実のようです。その後、前田利長がその将才を惜しんで1万石で召し抱え、関ヶ原の戦いでは、侍大将として東軍の前田勢の先陣を務めて加賀国に侵攻、西軍の山口宗永・弘定親子が籠城する大聖寺城を攻めて戦死していますが、その闘いぶりが功を奏して敵城は陥落しています。

 海音寺潮五郎はこれに妥女との逸話の潤色を加えた以外はほぼ史実通りに書いており、最後は前田利長が高定の見事な先陣ぶりと武士らしい最期を称え、自分の眼に狂いは無く、「臆病者に一万石くれるなぞ阿呆の骨頂」と言っていた者は「高定の死体にわびを言えい!」と涙声で怒鳴るところで終わっています。先の磯貝勝太郎によれば、前田家の連中は高定を手助けせず、わざと見殺しにしたようですが、それでも高定は前田利長に忠誠を尽くしたことになります。

 ところが映画では、ラストで大友柳太朗が演じる高定は、まず家康の本陣を襲って家康の心胆を寒からしめ、今度は馬首を翻して三成の陣に馳け登ってこれをこれを突き崩すという動きをみせています。主の前田利長は東軍・家康側についていますから、本来は家康を襲うというのはおかしいのですが、この辺りは、兄を家康に殺された憤りを表しているのでしょうか。

 これまでも高定は、切腹しようとしたら「もし切腹すれば親類・縁者を処罰する」との突然の上意があり、つい先刻まで切腹を迫っていた富田一族が一転して逆に「富田の家のためだ」とこれを制止するという事態のあまりの馬鹿馬鹿しさに高笑いする他はなかったのですが、秀吉が死んだら今度はまた一族が切腹を迫ってきて、もう武家社会の名誉だとか面子だとかにほとほと愛想が尽きたのかも。そうした武家社会に対する抵抗ならば、臆病者の汚名を晴らせないままでも、愛妻と庵暮らしをするのも抵抗の一形態だったようにも思いますが、やはり、戦場で能力を発揮する者は戦場に出たがるのでしょうか(利長が「男を捨てた者が槍を持っているのは妙だ」と指摘し、高定が鉈で槍を斬ろうとするが果たせないというのは原作と同じ)。でも一旦戦場に出たら、あくまで利長の臣下であって、そこを単なる自己顕示したり私憤を晴らしたりする場にしてしまってはマズイのでは。

酒と女と槍 30淡島千景.jpg 秀次の愛妾の中に家康の密偵として送り込まれた左近(淡島千景)の実の妹がいて、誰が密偵か分からない秀吉側は、秀次切腹後、冷酷な三成の進言により(山形勲かあ)妻妾38人全員を処刑しますが、同じく冷酷な家康の方も(小沢栄太郎かあ)そのことを特に何とも思わない―そうしたことに対する左近の怒りと悲しみというのも説明不足でしょうか。妥女と高定を張り合って、自ら降りて後見人的立場に引き下がっただけみたいな描かれ方をしています。

酒と女と槍 80大友柳太郎 (6).jpg このようにいろいろケチはつけたくなりますが、豪放磊落な高定を演じる大友柳太朗を楽しめ、ラストの(滅茶苦茶な)戦場シーンも、馬上で槍を振り回すその豪快さは見所と言えるでしょう。しかも、馬を急旋回させながらそれをやっているからすごいです。これだけでもDVD化する価値はあると思うけれど、現在['16年]のところまだされていません。

 因みに、事の発端となった関白秀次の切腹については、秀次に関する千人斬りなどの暴君論(所謂「殺生関白説」)や秀吉に対する「謀反説」は後から作られたものであり、秀次は秀吉の政治的戦略に翻弄された犠牲者であり、死後も秀吉の引き立て役として歴史上否定され続けてきたが、実は城下繁栄や学問・芸術振興における功績があり、思慮・分別と文化的素養を備えた人物だったという説が近年有力のようです(小和田哲男氏など)。今年['16年]の大河ドラマ「真田丸」では、2013年に国学院真田丸 秀次 .jpg真田丸 秀次 切腹.jpg関白秀次の切腹0_.jpg大の矢部健太郎准教授(当時)が発表した「秀吉は秀次を高野山へ追放しただけだったが、意図に反し秀次が自ら腹を切った」という新説を採用していました(新しいもの好きの三谷幸喜氏?)。
「真田丸」新納慎也(豊臣秀次)/第28話「受難」より/矢部健太郎『関白秀次の切腹』(2016)

酒と女と槍_0.jpg「酒と女と槍」●制作年:1960年●監督:内田吐夢●製作:大川博●脚本:井出雅人●撮影:鷲尾元也●音楽:小杉太一郎●原作:海音寺潮五郎「酒と女と槍と」●時間:99分●出演:大友柳太朗/淡島千景/花園ひろみ/黒川弥酒と女と槍003.jpg太郎/山形勲/東野英治郎/原健策/須賀不二夫/織田政雄/徳大寺伸/小沢栄太郎/片岡栄二郎/高松錦之助/松浦築枝/赤木春恵/水野浩/有馬宏治/十朱久雄/香川良介/楠本健二/浅野光男/舟橋圭子/近江雄二郎/大崎史郎/尾上華丈/石南方英二.jpg丸勝也/村居京之輔/南方英二(後のチャンバラトリオ)/泉春子/片岡千恵蔵恵●公開:1960/05●配給:東映(評価:★★★☆)

大友柳太朗(1912-1985/享年73、自死)

 
真田丸 title.jpg真田丸  dvd.jpg「真田丸」●演出:木村隆文/吉川邦夫/田中正/小林大児/土井祥平/渡辺哲也●制作:屋敷陽太郎/吉川邦夫●脚本:三谷幸喜●音楽:服部隆之●出演:堺雅人/大泉洋/草刈正雄/長澤まさみ/木村佳乃/平岳大/中原丈雄/藤井隆/迫田孝也/高木渉/高嶋政伸/遠藤憲一/榎木孝明/温水洋一/吉田鋼太郎/草笛光子/高畑淳子/内野聖陽/黒木華/藤本隆宏/斉藤由貴/寺島進/西村雅彦/段田安則/藤岡弘、/近藤正臣/小日向文世/鈴木京香/竹内結子/新納慎也/哀川翔●放映:2016/01~12(全50回)●放送局:NHK

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阪妻の明暗対照的な二役のキャラの使い分けが見所。

魔像 dvd 1952.jpg 魔像  1952jh.jpg 魔像  1952.jpg
魔像 [DVD]」山田五十鈴(お紘)・阪東妻三郎(茨右近・神尾喬之助(二役))/津島恵子(園絵)

魔像 1956 08.jpg 千代田城御蔵番詰所では、新参の旗本・神尾喬之助(阪東妻三郎)が、上司の戸部近江之介(永田光男)から新春早々陰湿なイジメを受けている。神尾が江戸小町といわれる園絵(津島恵子)を妻にしたことを、園絵に横恋慕していた戸部が妬みに思っていることに加え、神尾が御蔵番一味の不正に日頃からあれこれと意見してきたことを快く思っておらず、戸部にへつらって17 人の御蔵番同僚たちも神尾をいたぶっているのだった。我慢の限界に達した神尾は思い余って戸部を斬って出奔する。神尾は浪人となり、自分を罵倒した面々への復習を図るが、そこで神尾そっくりの喧嘩助っ人・茨右近(阪東妻三郎(二役))と妻のお紘(山田魔像  195211.jpg五十鈴)に出会う。曲がったことが大嫌いな右近は神尾から事情をきき、彼が残る不正の御蔵番一味17人に天誅を加えることに大賛成、神尾の自宅から園絵を密かに連れて来てやる。神尾は次々と不正役人を倒していく。今や戦々恐々の彼等は、剣豪神保造酒(戸上城太郎)に神尾を討つことを依頼し、神保は園絵と引き換えにそれを承知する。騙されておびき出された園絵だったが、魚心堂(三島雅夫)と名乗る大岡越前守(柳永二郎)の親友に救われる。越前守は、悪役人が大かた退治され、主謀の脇坂山城守(小堀誠)も御役御免になった頃合いを見計らって、世を騒がせた神尾を召取らせ、捕らえたのは神尾ではなく右近の人違いだと断じて、江戸追放だけを申渡す―。

続大岡政談/魔像解決篇.JPG 「鞍馬天狗 角兵衛獅子」('51年/松竹)の大曾根辰夫監督による1952(昭和27年)公開作品で、原作は「丹下左膳」の林不忘による「大岡政談」もの。無声映画時代から幾たびか映画化されていて、伊藤大輔監督、大河内傳次郎主演の「続大岡政談 魔像篇第一」('30年/松竹)、「続大岡政談 魔像解決篇」('30年/松竹)などがあり、阪東妻三郎自身が主演したが「魔像」('36年/版妻プロ)もあります。また、この作品の僅か4年後にも、深田金之助監督、大友柳太朗主演「魔像」('56年/東映)が作られています。

「続大岡政談/魔像解決篇」('31年/日活)

魔像_5.jpg魔像_14.jpg この'52年の阪東妻三郎版では一人二役の阪妻による、ちょっと歌舞伎調で堅め、しかもやや暗めで悪人たちの前にぬっと現れる神尾喬之助と、明るくて悪人と対峙している時でさえ笑いながら剣を振るう茨右近の、同じ浪人でありながら、片や武家的、片や庶民的な対照的なキャラの使い分けが見所でしょうか。それを、映像合成で1つの画面で会話させ、喧嘩屋右近.jpg剣戟をさせ、仕舞いには握手させるなどしていて、サービス満点です(因みに'56年の大友柳太朗版はもっぱらスタンドインで撮っている)。この茨右近は後に「喧嘩屋右近」としてTV時代劇のキャラクターにもなりました。
   
魔像  195209.jpg 神尾と園絵(津島恵子)、右近とお紘(山田五十鈴)という取り合わせも、片や美しく貞淑な女性、片やちゃきちゃきの女性という感じで、神尾と右近のキャラの違いをより浮き立たせていて良かったです。津島恵子は同じ年に小津安二郎監督の「お茶漬の味」('52年/松竹)で現代っ子キャラを演じてみせますが、この「魔像」では大曾根辰夫監督はそうしたキャラは封印し、津島恵子を美しく撮ることに専心したような感じで、ユーモラスで庶民的な婀娜(あだ)っぽさ部分は全部山田五十鈴の方が"担当"したという印象でしょうか。

山田五十鈴(お紘)・阪東妻三郎(茨右近)
   
魔像  1952ド.jpg 魚心堂の三島雅夫(「晩春」('49年/松竹))や大岡越前守の柳永二郎(「本日休診」('52年/松竹))などの脇役も良かったです。'30年、'31年の大河内傳次郎版では、神尾喬之助、茨右近に加えて大岡越前守まで魔像・十七の首10.jpg大河内傳次郎が演じたようですが、まあそこまでやる必要もなかったでしょう(大友柳太朗版でも大友柳太朗は神尾と右近の二役で、大岡越前守は月形龍之介。TVドラマでは、阪東妻三郎の長男・田村高廣が茨右近を、三男・田村正和が神尾喬之助を演じた「魔像・十七の首」('69年/ABC・TBS系[全9回])がある)。
柳永二郎(大岡越前守)・三島雅夫(魚心堂)

魔像 1956u3.JPG魔像  1952s.jpg このお話でちょっと気になったのが、大岡裁き魔像mages.jpgはいいとして、この裁きでは結局、神尾を「右近」にしてしまったら神尾は捕まっていないことになり、それでいいのかなあと。それは大岡越前守の責任外の問題ということでしょうか。

山田五十鈴(お紘)・津島恵子(園絵)

 全体としては、やはり阪妻の二役は、茨右近の方が「王将」('48年/大映)などの系譜が感じられて"らしい"印象を受けました。但し、神尾喬之助のあの「一番首...」「二番首...」と呪文のように唱える暗さもこの映画には不可欠だったのでしょう。

魔像 19562.JPG魔像 dvd 19521.jpg「魔像」●制作年:1952年●監督:大曾根辰夫●脚本:鈴木兵吾●撮影:石本秀雄●音楽:鈴木静一●原作:林不忘●時間:98分●出演:阪東妻三郎/津島恵子/山田五十鈴/柳永二郎/三島雅夫/香川良介/小林重四郎/小堀誠/永田光男/海江田譲二/田中謙三/戸上城太郎●公開:1952/05●配給:松竹(評価:★★★☆)

三島雅夫 in「晩春」('49年/松竹)/柳永二郎 in「本日休診」('52年/松竹)
三島雅夫 晩春.jpg 本日休診 01柳永二郎.jpg

津島恵子 in「とんかつ大将」(1952.02/松竹)/「お茶漬の味」(1952.10/松竹)
とんかつ大将 1952年14.jpg お茶漬の味 パチンコ.jpg

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映画は「本日休診」+「遥拝隊長」(+「多甚古村」?)。
本日休診 DVD.jpg 本日休診_3.jpg  本日休診 文庫 .jpg
<あの頃映画>本日休診 [DVD]」 岸惠子・柳永二郎 『遙拝隊長・本日休診(新潮文庫)

本日休診 01柳永二郎.jpg 三雲医院の三雲八春(柳永二郎)は戦争で一人息子を失い、甥の伍助(増田順二)を院長に迎えて戦後再出発してから1年になる。その1周年記念日、伍助院長は看護婦の本日休診 04岸惠子.jpg瀧さん(岸惠子)らと温泉へ行き、三雲医院は「本日休診」の札を掲げる。八春先生がゆっくり昼寝でもと思った矢先、婆やのお京(長岡輝子)の息子勇作(三國連太郎)が例の発作を起こしたという。勇作は軍隊生活の悪夢に憑かれており、時折いきなり部隊長となって皆に号令、遥拝を命じるため、八春先生は彼の部下になったふりをして本日休診 三國.jpg気を鎮めてやらなければならなかった。勇作が落着いたら、今度は警察の松木ポリス(十朱久雄)が大阪から知り合いを頼って上京したばかりで深夜暴漢に襲われ本日休診 03角梨枝子.jpgたあげく持物を奪われた悠子(角梨枝子)という娘を連れて来る。折から18年前帝王切開で母子共八春先生に助けられた湯川三千代(田村秋子)が来て、悠子に同情してその家へ連れて帰る。が、八春先生はそれでも暇にならず、砂礫船の船頭の女房のお産あり、町のヤクザ加吉(鶴田浩二)が指をつめるのに麻酔を打ってくれとやって来たのを懇々と説教もし本日休診 06鶴田浩二.jpgてやらねばならず、悠子を襲った暴漢の連本日休診 02佐田啓二.jpgれの女が留置場で仮病を起こし、兵隊服の男(多々良純)が盲腸患者をかつぎ込んで来て手術をしろという。かと思うとまたお産があるという風で、「休診日」は八春先生には大変多忙な一日となる。悠子は三千代の息子・湯川春三(佐田啓二)の世話で会社に勤め、加吉はやくざから足を本日休診 05淡島千景.jpg洗って恋人のお町(淡島千景)という飲み屋の女と世帯を持とうと考える。しかしお町が金のため成金の蓑島の自由になったときいて、その蓑島を脅本日休診 10.jpg迫に行き、お町はお町で蓑島の子を流産して八春先生の所へ担ぎ込まれる。兵隊服の男は、治療費が払えず窓から逃げ出すし、加吉は再び賭博で挙げられる。お町は一時危うかったがどうやら持ち直す。そんな中、また勇作の集合命令がかかり、その号令で夜空を横切って行く雁に向かって敬礼する八春先生だった―。

本日休診』d.jpg本日休診●井伏鱒二●文芸春秋社●昭和25年4刷.jpg 1952(昭和29)年公開の渋谷実(1907-1980/享年73)監督作で、原作は第1回読売文学賞小説賞を受賞した井伏鱒二(1898-1993/享年95)の小説「本日休診」であり、この小説は1949(昭和24)年8月「別冊文芸春秋」に第1回発表があり、超えて翌年3回の発表があって完結した中篇です。

本日休診 (1950年)』(1950/06 文藝春秋新社) 収載作品:遥拝隊長 本日休診 鳥の巣 満身瘡痍 貧乏徳利 丑寅爺さん

 町医者の日常を綴った「本日休診」は、井伏鱒二が戦前に発表した田舎村の駐在員の日常を綴った「多甚古村」と対を成すようにも思われますが、「多甚古村」は作者の所へ送られてきた実際の田舎町の巡査の日記をベースに書かれており、より小説的な作為を施したと思われる続編「多甚古村補遺」が後に書かれていますが(共に新潮文庫『多甚古村』に所収)、作家がより作為を施した「多甚古村補遺」よりも、むしろオリジナルの日記に近いと思われる「多甚古村」の方が味があるという皮肉な結果になっているようも思いました。その点、この「本日休診」は、作家としての"作為"の為せる技にしつこさがなく、文章に無駄が無い分キレを感じました。

 医師である主人公を通して、中篇ながらも多くの登場人物の人生の問題を淡々と綴っており、戦後間もなくの貧しく暗い世相を背景にしながらもユーモアとペーソス溢れる人間模様が繰り広げられています。こうしたものが映画化されると、今度はいきなりべとべとしたものになりがちですが、その辺りを軽妙に捌いてみせるのは渋谷実ならではないかと思います。

本日休診 12.jpg 主人公の「医は仁術なり」を体現しているかのような八春先生を演じた柳永二郎は、黒澤明監督の「醉いどれ天使」('48年/東宝)で飲んだくれ医者を演じた志村喬にも匹敵する名演でした。また、「醉いどれ天使」も戦後の復興途上の街を描いてシズル感がありましたが、この「本日休診」では、そこからまた4年を経ているため、戦後間もない雰囲気が上手く出るよう、セットとロケ地(蒲田付近か)とでカバーしているように思本日休診5-02.jpgいました。セット撮影部分は多分に演劇的ですが(本日休診m.jpgそのことを見越してか、タイトルバックとスチール写真の背景は敢えて書割りにしている)、そうい言えば黒澤明の「素晴らしき日曜日」('47年/東宝)も後半はセット撮影でした(「素晴らしき日曜日」の場合、主演俳優が撮影中に雑踏恐怖症になって野外ロケが不能になり後半は全てセット撮影となったという事情がある)。

「本日休診」スチール写真(鶴田浩二/淡島千景)

本日休診 title.jpg本日休診 title2 .jpg クレジットでは、鶴田浩二(「お茶漬の味」('52年/松竹、小津安二郎監督))、淡島千景(「麦秋」('51年/松竹、小津安二郎監督)、「お茶漬の味」)、角梨枝子(「とんかつ大将」('52年/松竹、川島雄三監督))ときて柳永二郎(「魔像」('52年/東映))となっていますが、この映画の主役はやはり八春先生の柳永二郎ということになるでしょう。その他にも、佐田啓二、三國連太郎、岸恵子など将来の主役級から、増田順二、田村秋子、中村伸郎、十朱久雄、長岡輝子、多々良純、望月優子といった名脇役まで多士済々の顔ぶれです。

本日休診 07三国連太郎.jpg この作品を観た人の中には、三國連太郎が演じた「遥拝隊長」こと勇作がやけに印象に残ったという人が多いですが、このキャラクターは遙拝隊長youhaitaichou.jpg原作「本日休診」にはありません。1950(昭和25)年発表の「遥拝隊長」(新潮文庫『遥拝隊長・本日休診』に所収)の主人公・岡崎悠一を持ってきたものです。彼はある種の戦争後遺症的な精神の病いであるわけですが、原作にはその経緯が書かれているので読んでみるのもいいでしょう。また、映画の終盤で、警察による賭場のガサ入れシーンがありますが、これは「多甚古村」にある"大捕物"を反映させたのではないかと思います。

淡島千景鶴田浩二角梨枝子『本日休診』スチル.jpg 脚本は、「風の中の子供」('37年/松竹、坪田譲治原作、清水宏監督)、「風の中の牝鶏」('48年/松竹、小津安二郎監督)の斎藤良輔(1910-2007/享年96)。原作「本日休診」で過去の話やずっと後の後日譚として描かれている事件も、全て休診日とその翌日、及びそれに直接続く後日譚としてコンパクトに纏めていて、それ以外に他の作品のモチーフも入れ、尚且つ破綻することなく、テンポ良く無理のない人情喜劇劇に仕上げているのは秀逸と言えます(原作もユーモラスだが、原作より更にコメディタッチか。原作ではお町は死んでしまうのだが、映画では回復を示唆して終わっている)。

鶴田浩二/淡島千景/角梨枝子

本日休診 スチル.jpg この映画のスチール写真で、お町(淡島千景)らが揃って"遥拝"しているものがあり、ラストシーンかと思いましたが、ラストで勇作(三國連太郎)が集合をかけた時、お町は床に臥せており、これはスチールのためのものでしょう(背景も書割りになっている)。こうした実際には無いシーンでスチールを作るのは好きになれないけれど、作品自体は佳作です。その時代でないと作れない作品というのもあるかも。過去5回テレビドラマ化されていて、実際に観たわけではないですが、時が経てば経つほど元の映画を超えるのはなかなか難しくなってくるような気がします(今世紀になってからは一度も映像化されていない)。
     
本日休診 vhs5.jpg本日休診 1952.jpg「本日休診」●制作年:1939年●監督:渋谷実●脚本:斎藤良輔●撮影:長岡博之●音楽 吉沢博/奥村一●原作:井伏鱒二●時間:97分●出演:柳永二郎/淡島千景/鶴田浩二/角梨枝子/長岡輝子/三國連太郎/田村秋子/佐田啓二/岸恵子/市川紅梅本日休診 08中村伸郎.jpg(市川翠扇)/中村伸郎/十朱久雄/増田順司/望月優子/諸角啓二郎/紅沢葉子/山路義人/水上令子/稲川忠完/多々良純●公開:1952/02●配給:松竹(評価:★★★★)
中村伸郎(お町の兄・竹さん)

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この映画を観た外国人は、谷崎ってこんなに面白いのかと思ったのかもしれないけれど...。

Kagi (1959).jpg市川崑 鍵 .jpg市川崑 鍵 dvd 2015.jpg  鍵 谷崎 中公文庫.jpg
鍵 [DVD]」(2015)『鍵 (中公文庫 (た30-6))
Kagi (1959) 仲代達矢/京マチ子(35歳)

鍵 1959  0.jpg 古美術の鑑定家・剣持(中村鴈治郎)は、主治医・相馬(浜村純)の目を盗んで京都T大の内科に通い、娘・敏子(叶順子)の婚約者でインターンの木村(仲代達矢)に精力回復のホルモン剤注射を妻に内緒で打たせている。ある日その内科を剣持の妻・郁子(京マチ子)が訪ね、夫の通院を知るが夫には黙っている。彼女は夫を嫌っていたが、でも夜は...。木村が家に来て、皆でブランデーを飲んだ際、郁子は酔って風呂鍵 1959 1.jpg場で眠ってしまう。剣持は木村に手伝わせ、裸身の妻を寝室へ運ぶ。木村と郁子を煽り、嫉妬によって自らの気持を若返らせるという剣持の策略だ。その夜も剣持は盛んに妻に鍵 1959 47.jpg酒を勧め、郁子は酔って風呂場へ消える。翌日木村は呼ばれ、フィルムの現像を頼まれる。敏子はそうした現場を目撃してしまう。木村は敏子と既に関係を持っていた。敏子は家を出て間借りする。その彼女の下宿で、郁子は酔ってまた風呂場で倒れる。敏子が剣持に知らせに行く間、木村と郁子は二人きりだった。その夜、剣持が高血圧からの眩暈で倒れるという出来事があった。郁子が何処かへ出掛け、敏子が来て父娘は久しぶりに夕食を共鍵 1959 s.jpgにする。木村と郁子は度々会っている。彼女の貞操が不潔な方法で...言いかけた敏子に剣持は怒り、彼女を追い帰す。彼は妻には黙って木村と敏子を呼び寄せ、急に君たちの結婚の日取りを決めようと言う。敏子は、「母は父が具合が悪いのを前から知っていて、父を興奮させて殺すために貴方を利用していたのかも知れません」と木村に言う。郁子は婚約が整って晴々としている。剣持は映画に3人で行けと小遣いをくれるが、郁鍵 s.jpg子も木村も用事があると言い、敏子が一人残される。夜、郁子が帰って来て、木村と全て結着をつけてきた、木村との間には何も無かったと言う。深夜、郁子の顔の上へ剣持の頭がグラリと崩れ落ち、郁子はテキパキと処置する。木村も来て、郁子は彼に「今夜、十一時にね」と言って裏口の鍵を渡す。夜、女中部屋で2人は抱き合う。郁子は彼に敏子と結婚して、ここに一緒鍵 09.jpgに住み、開業すればと言い、木村はそれに従うつもりだ。ある晩、剣持は郁子に衣服を脱ぐことを命じ、その美しい肉体に歓喜しながら死ぬ。葬式が終わり、骨董品は古美術商が持って行き、家も抵当に入っているらしい。金の切れ目が縁の切れ目と、木村はこの一鍵 _R.jpg家から足を抜きたいと思い始める。敏子は台所の農薬を郁子の紅茶に入れるが、彼女は平然としている。婆やのはな(北林谷栄)が色盲で、ミガキ粉の罐と間違うといけないと中身を入れ替えていたのだ。そのはなが3人のサラダに農薬をふりかける。薬が効き、敏子が倒れ、郁子が眼を閉じ、木村も死ぬ。はなは自分が3人を殺害したと自白するが、警察はボケ老人だと思って相手にせず、妻が夫の後を追い、娘とその婚約者がそれに同情死したと解する―。

 市川崑(1915-2008)監督の1959年公開作品。1960年5月に開催された第13回カンヌ国際映画祭のコンペティションに出品され、審査員賞をミケランジェロ・アントニオーニ監督の「情事」('60年/伊)と同時受賞し、第17回ゴールデングローブ賞(英語版)では、外国語映画賞を受賞しています。

 原作は言わずと知れた谷崎潤一郎の「」で、この作品以降、国内では3回映画化されていますが、それぞれ、1974年版が神代辰巳監督のロマンポルノで(主演:荒砂ゆき、観世栄夫)、1983年版がピンク映画の木俣堯喬の監督作(主演:松尾嘉代、岡田眞澄)、1997年版は池田敏春監督作で(主演:川島なお美、柄本明)、これも川島なお美の裸が売りだったような。この外に1984年のイタリア映画「鍵」(ティント・ブラス監督)があり鍵 川島.jpgます。海外版は未見ですが、日本版で原作の芸術性を重視して撮られているのはこの市川昆監督作だけのような気もします。但し、原作がそもそも「ワイセツか文学か」という議論のネタになりそうな要素を孕んでいるだけに、この市川監督作さえ微妙と言えるかも(評論家か誰かが「ポルノ映画の秀作」と呼んでいた)。

「鍵」1997年版(監督:池田敏春/出演:川島なお美(1960-2015)

 日本版は4作とも原作を改変しており、この市川監督作も、まず、日記という形式を設定していないという大きな枠組み改変があります。従って、日記をしまう箱の「鍵」なども出て来ず、鍵が出てくるのは、郁子(京マチ子)が木村(仲代達矢)に逢引き用に渡す裏口の「鍵」のところです。その外に、夫(中村鴈治郎)の職業が大学教授から美術品鑑定家になっていたりするなど細かい改変があります。

鍵 195971.jpg ストーリー的には、前半はほぼ原作通りに進みますが、半身麻痺の夫が、自分の目の前で妻に裸になることを要求し、その肉体美に歓喜しながら死んでいくというのは映画のオリジナルであり、さらに最後、夫の死後、娘・敏子(叶順子)が母の毒殺を試みるが失敗し、続いて婆や(北林谷栄)が郁子・敏子・木村を毒殺するというのは、"大胆"と言うより"驚愕"の改変と言っていいのではないでしょうか。

鍵 1959 48.png 原作では、また違った意味でのドンデン返しのようなものがあるのですが、それは日記の表現に関わるものであり、映像化が難しい言わば"文学的"なドンデン返しです。一方、映画の方は、最初から日記という枠組みを外してしまっているので、和田夏十(本名:市川由美子、1920-1983)らの脚本は、こうしたオリジナルの結末を用意したのでしょう。この映画を観た外国人は、谷崎ってこんなに面白いのかと思ったのかもしれないけれど、少なくともラストは谷崎じゃないと言いたくもなるような気もします。

鍵 1959 冒頭.jpg でも確かに、仲代達矢演じる木村が冒頭で「人間は誰もが老衰から免れることは出来ません」「この映画は老衰と闘った悲愴で非常に興味のある物語です」とシニカルにコメントし、冷静な語り部的な立場なのかなと思ったら、最後は自身が毒殺の憂き目に遭い、なぜ自分が殺されなければならないのか分からないといったまま苦悶に眼を見張るのが、意外性という意味では効いていたように思います。

鍵 1959 京.jpg 京マチ子(1924- )は、「羅生門」('50年)、「源氏物語」('51年)、「地獄門('52年)、「千姫」('53年)といった時代物の印象が強いですが、こうした現代ものでもしっかり存在感と言うかリアリティを醸していて、やはり女優としては希有な存在と言えるのでしょう。当時35歳で、原作の妻・郁子は46歳ですから、原作の設定よりかなり若いということになりますが、映画にすると(観客のこともあって)大体こんな感じになるのかでしょうか。

鍵-11.jpg鍵 1959 中村鴈治郎.jpg 一方、歌舞伎役者で「映画スターの中村鴈治郎」と言われた2代目・中村鴈治郎(1902-1983)は、当時57歳。2年後に小津安二郎監督の「小早川家の秋」('61年/東宝)でも"好色老人"(愛人宅で亡くなるご隠居)を演じていますが、同じ好色ぶりでも、この「鍵」の方が淫靡な感じがして小早川家の秋 S.jpg(谷崎にマッチしていて?)いいです。大体、主人公の年齢(56歳)と同じ年齢で演じていることになりますが、妻役の京マチ子との間には実年齢で22歳もの開きがあります。

中村鴈治郎 in「小早川家の秋」('61年/東宝)

 因みに、京マチ子はこの作品の10年前に同じく谷崎潤一郎原作で木村恵吾監督の「痴人の愛」('49年/大映)で主人公のナオミを演じていましたが、剣持の娘・敏子を演じた叶順子(1936- )はこの痴人の愛 京マチ子.jpg痴人の愛 叶順子.jpg作品の翌年、同じ木村恵吾監督によってリメイクされた「痴人の愛」('60年/大映)で主人公のナオミを演じています(1963年の人気ピーク時に引退)。
「痴人の愛」('49年)京マチ子、宇野重吉主演/「痴人の愛」('60年)叶順子主演

鍵(1959)1.jpg鍵 1959 01.jpg「鍵」●制作鍵 1957es.jpg年:1959年●監督:市川昆●製作:永田雅一●脚本:長谷部慶治/和田夏十/市川崑●撮影:宮川一夫●音楽:芥川鍵 1957 市川ド.jpg也寸志●原作:谷崎潤一郎●時間:107分●出演:京マチ子/叶順子/仲代達矢/中村鴈治郎/北林谷栄/菅井一郎/倉田マユミ/潮万太郎/星ひかる/浜村純/山茶花究/伊東光一/花布辰男/大山健二/河原侃二/高村栄一/南部彰三/伊達三郎/中條静夫●公開:1959/06●配給:大映(評価:★★★☆)

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鉄板の人情話、王道のストーリー。30代前半でこうした作品を撮る川島雄三という人はスゴイ。

とんかつ大将 1952年dvd .jpg とんかつ大将 1952年13.jpg とんかつ大将 1952年12.jpg
とんかつ大将 SYK119S [DVD]」津島恵子/佐野周二/角梨枝子

とんかつ大将 1952年1.jpg 長屋に住む青年医師・荒木勇作(佐野周二)は「とんかつ大将」と呼ばれみんなに親しまれていた。艶歌師・吟月(三井弘次)と兄弟のようにして同居していたが、吟月は、浅草裏の飲み屋「一直」の女主人・菊江(角梨枝子)に惚れて、一夜勇作を誘って飲みに行った。折も折、菊江の弟・周二(高橋貞二)が喧嘩でゲガして帰って来たので、勇作はその手当をし、近くの病院へかつぎ込む。ところがその病院の女医が、昼間、勇作が自動車にぶつけられた老人・太平(坂本武)に代わって、さんざん油を絞ってやった自動車の主・真弓(津島恵子)だった。てきばきと手術をする勇作の姿に、菊江も真弓も惹きつけられる。やがて傷の直った周二も勇作に諭され、不良から足を洗うべく自主する。勇作には学徒出陣の時未来を約束した多美(幾野道子)という恋人があったが、終戦で復員して帰ると、その多美は彼の親友・丹羽(徳大寺伸)と結婚して利春(設楽幸嗣)という息子もいた。しかも生活の苦しさから、つい多美が百貨店で万引きをして捕らえられたのを勇作が救ってやったことを、丹羽は逆に怨みの眼で見る。一方真弓の病院では、悪徳弁護士・大岩(北竜二)の勧めで、勇作たちの住む長屋を取り壊す計画を進めていたが、勇作は長屋の人々を想って反対運動を起こす。大岩方でも、丹羽たちを使って勇作が元大臣の父の選挙運動のために長屋の連中を利用しているのだと中傷したため、長屋の人々の心は勇作から離れて行く。がある日、急病の利春を勇作が長屋の火事をよそに、手術の手を尽くし救ってやったことから、丹羽の心が解け、やがて長屋の跡にキャバレーを建てようとする大岩の悪計も真弓父娘に知られた。長屋には再び長閑な春が訪れたが、父の急病の報に、勇作は馴染み深い長屋を去って行かなければならなかった―。

とんかつ大将-10.jpg 川島雄三(1918-1963/享年45)が富田常雄の原作を脚色・監督した1952年2月公開作。"鉄板の人情話"或いは"王道のストーリー"と言っていい作品ですが、30代前半でこうした作品を撮ってしまう川島雄という人の才覚は、何か不思議なものさえ感じます。因みに、「とんかつ大将」というのは、主人公の好物がとんかつであることに由来する主人公の愛称です(主人公は「とんかつ屋」ではなく医師である)。
   
 青年医師・勇作を演じる佐野周二は、長屋の住人から好かれる庶民派の正義漢で、また、3人の女性から想いを寄せられる二枚目でもあるこの役が嵌っていました。いつも前向きな主人公ですが、それでも悪徳弁護士らの陰謀で長屋の人たちの心が自分から離れかけた時にはさずがに気持ちが参ってしまい、吟月とウサ晴らしに飲みに行ったけれど、その後、酒を飲もうと火事の中だろうと手術をこなしてしまう様はやっぱりスーパー・ヒーローでした。最後、盲目の少女(小園蓉子)の眼まで見とんかつ大将 00s.jpgえるように治してしまい、ちょっと出来過ぎの印象もなくもなく、実は大物政治家の息子だったということで、では何のために長屋に住んでいたのか、そもそも勤務医なのか開業医なのかもよく分からんと、突っ込みどころは少なからずありますが、そうしたことは後から考えれば思うことであって、観ている間はそう不自然に感じないのは、やはり佐野周二という俳優が本質的に二枚目であるということなのでしょうか(まあ、元々"映画を観て泣きたい人を泣かせる映画"であって、"粗探し"的に観ていては楽しめないタイプの映画ではあるのだが)。

角梨枝子
とんかつ大将 1952年14.jpg角梨枝子 とんかつ大将.jpgとんかつ大将 角梨枝子.2.jpeg 勇作を取り巻く菊江(角梨枝子)、真弓(津島恵子)、多美(幾野道子)の3人の女性がそれぞれ、行きつけの飲み屋の女主人であると同時に親友・吟月の想い人幾野道子 とんかつ大将.jpgでもある女性(菊江)、最近ある事件で見知ることになったプライドの高い同業の医師である女性(真弓)、かつての許婚で今は旧友の妻となっているが貧困と夫の家庭内暴力に苦しんでいる女性(多美)、と三者三様であり、勇作は最後、彼女たちとどうするのかと気を持たせるところが、脚本の妙と言うべきでしょうか。津島恵子が主役級と言えますが、演技面では角梨枝子、リアルな状況設定という面では幾野道子の方が印象に残ったかもしれません。

三井弘次
とんかつ大将o.jpg 男優では、清水宏監督の「大学の若旦那」('33年)や「東京の英雄」('35年)、小津安二郎監督の「非常線の女」('33年)に出ていた三井弘次が(その頃は不良になる不肖の弟といった、この映画で高橋貞二が演じている菊江の弟・周二のような役ばかりだったが)、艶歌師・吟月を演じていい味を出しており、同じく清水宏監督の「按摩と女」('38年)でお客に淡い恋をする按摩の徳市を演じた徳大寺伸が、主人公のかつての許婚を妻にしている飲んだくれのDV夫を、後に「彼岸花」('58年)、「秋日和」('60年)など小津安二郎映画で笠智衆や佐分利信の同級生仲間を演じることが多くなる北竜二が、長屋を取り壊して病院ならぬキャバレーにしようと画策する悪徳弁護士を演じているなど、各々それまでやその後の定番的な役柄と真逆の役柄を演じているのが興味深く、その外、「出来ごころ」('34年)、「浮草物語」('34年)、「東京の宿」('35年)など小津映画の数々の初期作品に主演した坂本武や、「彼岸花」('58年)で佐田啓二の後輩を演じた高橋貞二(1959年に33歳で自らの飲酒運転で事故死)、子役ですが同じく小津映画「お早よう」('59年)にも出ることになる設楽幸嗣(後に、音大を卒業して俳優業から音楽の道に転身)なども目にとまりました。

とんかつ大将 vhs.jpgとんかつ大将  003.jpg 長屋の人々が活き活きとして感じで描けていました。その点は、山中貞雄監督の「人情紙風船」('37年)と双璧ではないでしょうか。

「とんかつ大将」●制作年:1952年●監督・脚本:川島雄三●製作:山口松三郎●撮影:西川亨●音楽:木下忠司●原作:富田常雄●時間:95分●出演:佐野周二/美山悦子/長尾敏之助/津島恵子/角梨枝子/高橋貞二/三井弘次/徳大寺伸/幾野道子/設楽幸嗣/坂本武/小園蓉/北龍二(北竜二)●公開:1952/02●配給:松竹(評価:★★★★)

津島恵子 in「魔像」(1952.05/松竹)/「お茶漬の味」(1952.10/松竹)
魔像  1952.jpg  お茶漬の味 パチンコ.jpg

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原作者に「原作を超えた」と言わせた作品。ドラマではだんだん原作の雰囲気を伝えにくくなってきている?

張込み dvd.jpg 張込み_.jpg 張込み 映画1.gif  張込み 水曜ミステリー1.jpg 張込み 松本清張 カッパノベルズ.jpg
張込み [DVD]」/「『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 張込み』 [Blu-ray]」/大木実・宮口精二/TX系「水曜ミステリー9」松本清張特別企画「張込み」2011年11月2日放映(若村麻由美)/『張込み―松本清張短編全集〈3〉 (カッパ・ノベルス)

張込み 映画 dvd.jpg張込み 3.jpg 警視庁捜査第一課の刑事・下岡(宮口精二)と柚木(大木実)は、質屋殺しの共犯者・石井(田村高廣)を追って佐賀へ発った。主犯の自供によると、石井は兇行に使った拳銃を持ってい、三年前上京の時別れた女・さだ子(高峰秀子)に『張込み』(1958).jpg会いたがっていた。さだ子は今は佐賀の銀行員横川(清水将夫)の後妻になっていた。石井の立寄った形跡はまだなかった。両刑事はその家の前の木賃宿然とした旅館で張込みを開始した。さだ子はもの静かな女で、熱烈な恋愛の経験があるとは見えなかった。ただ、二十以上も年の違う夫を持ち、不幸そうだった。猛暑の中で昼夜の別なく張込みが続けられた。三日目。四日目。だが石井は現れなかった―。

『張込み』(1958)2.jpg 原作は松本清張が「小説新潮」1955年12月号に発表した短編小説。橋本忍脚本、野村芳太郎監督によるこの映画化作品では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が原作の1人に対して2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1人にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写せねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノローグ過剰とならざるを得ず、しかも、見張る側の私的な状況など原作には無い描写を多々盛り込んでおり、もともと短篇であるものを2時間にするとなると、こうならざるを得ないのでしょうか。しかしながら、この作品の世評は高く、野村芳太郎はこの作品で一気にメジャー監督への仲間入りを果たすことになります。

 橋本忍・野村芳太郎のコンビは以降も「ゼロの焦点」('61年)、「影の車」('70年)、「砂の器」('74年)と、この作品以降次々と松本清張作品の映画化を手掛けており、そうした一連の作品の中でもこの作品に対する原作者・松本清張の評価・満足度は高かったそうですが、個人的には、最初にこの映画「張込み」を観た際には、後年の作品ほどの演出のキレが感じられませんでした。ただ、田中小実昌などは「砂の器」よりもこっちの方がずっと傑作だと言っおり、エライ人が出てこないのがいいと。確かにそういう見方もあるかもしれないと思った次第です。

松本清張 .jpg 因みに、松本清張本人が評価していた自作の映画化作品は、この「張込み」と、「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝)、「砂の器」('78年/松竹)だけであったといい(3作とも脚本は橋本忍)、特に「張込み」と「黒い画集 あるサラリーマンの証言」については、 「映画化で一番いいのは『張込み』『黒い画集 あるサラリーマンの証言』だ。両方とも短編小説の映画化で、映画化っていうのは、短編を提供して、作る側がそこから得た発想で自由にやってくれるといいのができる。この2本は原作を超えてる。あれが映画だよ」と述べたとのことです。(白井佳夫・川又昴対談「松本清張の小説映画化の秘密」(『松本清張研究』第1号(1996年/砂書房)、白井佳夫・堀川弘通・西村雄一郎対談「証言・映画『黒い画集・あるサラリーマンの証言』」(『松本清張研究』第3号(1997年/砂書房))。

 この「張込み」という作品は、時代劇に翻案されたものも含めると、これまでに少なくとも10回はテレビドラマ化されています。
 •1959年「張込み(KR(現TBS))」沢村国太郎・山岡久乃・安井昌二
 •1960年「黒い断層~張込み(KR(現TBS))」宇津井健・三井弘次
 •1962年「張込み(NHK)」沼田曜一・福田公子・小林昭二
 •1963年「張込み(NET(現テレビ朝日))」江原真二郎・織田政雄・高倉みゆき
 •1966年「張込み(KTV(関西テレビ))」中村玉緒・下条正巳・高津住男
張込み 吉永小百合.bmp •1970年「張込み(NTV)」加藤剛・八千草薫・浜田寅彦
 •1978年「松本清張おんなシリーズ1・張込み(TBS)」吉永小百合・荻島真一・佐野浅夫
 •1991年「松本清張作家活動40年記念・張込み(CX)」大竹しのぶ・田原俊彦・井川比佐志
 •1996年「文吾捕物絵図 張り込み(TX)」中村橋之助・萬屋錦之介・國生さゆり
 •2002年「松本清張没後10年記念・張込み(ANB)」ビートたけし・緒形直人・鶴田真由

張込み 田村高廣/高峰秀子.jpg 女主人公の方は、映画では高峰秀子が演じ、テレビドラマでは八千草薫や吉永小百合などが演じているとなると、女優にとっては演じてみたい役柄なのでしょう。でも、相応かつ相当の演技力が要求される役どころだと思います。

映画「張込み」 田村高廣/高峰秀子

 一方、張り込む側の男優の方は、テレビドラマ版は、見張りの刑事が2人になっているものが多く、その点では映画版を踏襲していますが、だんだんベテラン刑事と若手刑事の取り合わせという風になっていき(但し、吉永小百合版は若手の荻島真一が一人で張り込み)、ベテランがメインになったり若手がメインになったりと色々バリエーションがあるようです(大竹しのぶ版では若手エリート刑事と地元の田舎刑事との取り合わせ、ビートたけし版ではビートたけしと一緒に張り込む緒形直人の方が「年下の上司」ということになっている)。

若村麻由美.bmp そして2011年にまた、TX系の「水曜ミステリー9」で、「松本清張特別企画」として、若村麻由美・小泉孝太郎主演で放送されました(若村麻由美は「無名塾」種出身。90年代にも清張ドラマに何度か出演しており、女優業復帰でこの人も結構長いキャリアになる)。

張込み 水曜ミステリー2.jpg 張り込む刑事は小泉孝太郎1人で、先輩刑事のムダだという意見に抗して張り込むことを主張する熱血漢である一方で、色男でもあり、かつて関与したDV事件の女性被害者に対して、今はストーカーまがいのことをしているという変なヤツ。原作ではラストに1回あるだけの、主人公の女(若村麻由美)との接触場面が矢鱈と多く、逃亡中の犯人(元恋人)と女を引きあわせるお膳立てまでして、結果として女の目の前で犯人は取り押さえられることになり、これって却って残酷ではなかったか。

張込み 水曜ミステリー3 携帯.jpg 原作にはあまり記述の無い女の家庭での妻としての暮らしぶりが描かれることは、これまでのドラマ化作品でもあったかと思いますが、これはやや"描き過ぎ"。しかも、「幸せそうではない」夫婦生活のはずが、一見「幸せそうな」家庭になっていて、夫婦の結婚の経緯から始まって、女の夫が携帯の着信記録から妻の行動に不審を抱き妻を問い詰めると、ストーカーに狙われていると言うので警察に通報するとか、事件解決後に女は家から出奔してしまうとか―何だか余計なものを付け加え過ぎて、原作とはテーマからして別物になった感じ(ベクトル的には原作と真逆。特にラストは)。

張込み 1958.jpg張込み 映画1.jpg ドラマ化されるごとに原作から離れていく感じがしますが、最近のドラマ化作品が原作と別物に見えるのは、野村芳太郎のモノクロ映画の冒頭で10数分間続く夜行列車のシーンに見られるような(その外にも移動シーンで蒸気機関車がふんだんに見られ、S張込み 1958汽車.pngLファン必見?)、高度成長期初期の熱に浮かされたような活気や雑然とした時代の雰囲気みたいなものが、最近のテレビドラマでは再現されにくいということもあるのかもしれません。まあ、半世紀以上経っているのだから仕方が無いか。 [上写真]「張込み」撮影風景(高峰秀子)

 大方が時代設定を現在に置き換えており、最初から原作を再現するつもりも無いわけですが、1回"原点回帰"したものも観てみたい気がするし、間に入る脚色部分とりわけ演出が、近年の刑事ドラマのパターンをステレオタイプで踏襲しているのにはややウンザリもします(このTX系「水曜ミステリー9」版も、若村麻由美はまあまあなのだが、男優陣の演技は"全滅"に近かったように思う)。

張込み タイトル.jpg 野村芳太郎監督の映画化作品を最初に観た時の個人的評価は星3つでしたが(多分、原作との違いが気にかかったというのもあったと思う)、今観直すと、時代の雰囲気をよく伝えているような印象も。後にこれを超えるものが出てこないため、相対的にこちらの評価が高くなって星半分プラスしたという感じでしょうか。

張込み vhs.jpg張込み 映画2.jpg「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張込み」●時間:116分●出演:大木実/宮口精二/高峰秀子/田村張込み 1958汽車2.png高廣/高千穂ひづる/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)

張込み 水曜ミステリー1.jpg「張込み」●監督:星田良子●製作:TX・BSジャパン●脚本:西岡琢也●原作:松本清張●出演:若村麻由美/小泉孝太郎/忍成修吾/渡辺いっけい/塩見三省/六平直政/田山涼成/上原美佐●放映:2011/11(全1回)●放送局:テレビ東京 

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ストーリー良し、テンポ良し。「ジエルソミーナがグラマーに早変りした魅力」の三原葉子。

黒線地帯 1960 dvd.jpg黒線地帯2008 dvd_.jpg 黒線地帯 [DVD] - 1.jpg 黒線地帯03.jpg
黒線地帯 [DVD]」「黒線地帯 [DVD]」     天知茂/三原葉子

黒線地帯 1960① 天知茂(町田広二).jpg黒線地帯 1960② 魚住純子(佐野兼子.jpg 秘密売春組織に絡む女(瀬戸麗子)を追っていたトップ屋の町田広二(天知茂①)は、街の女易者(魚住純子②)の手引きでポン引のサブ(鳴門洋二③)と行ったホテルで睡眠薬を飲まされ、目覚めた時には傍らでその踊子の女が町田のネクタイで首を絞黒線地帯 1960③ 鳴門洋二(サブ).jpg黒線地帯 1960④ 細川俊夫(鳥井五郎).jpgめられ死んでいた。罠に嵌ったと知った彼は、女易者とポン引の行方を探る。この事件を新聞が報じ、町田のライバル鳥井五郎(細川俊夫④)も動き出す。町田はホテルの女中(城実穂)を街で見かけ、捉まえて話を訊こうとする。女の髪の中からは麻薬が見つかる。車が女を撥ね、彼女は"あの晩の男はサブ"と言い遺す。警察への町田からの匿名通報と同じ頃、事件を知らせる女の電話もあった。鳥井は、男の通報者は町田だと目星をつける。町田は死んだ踊子と親しかったという洗濯屋を黒線地帯 1960⑤ 三原葉子(麻耶).jpg黒線地帯 1960⑥ 水上恵子.jpg探り、街で拾った女の麻薬常用者からポン引のサブの居所を知る。コマ劇場の傍のパチンコ店で町田はサブを追い、マネキン製造所に飛び込み、麻耶(三原葉子⑤)という女と知り合う。彼女は、海軍キャバレーのシンガポール(水上恵子⑥)という女給のことを話してくれ、そのキャバレーに行くと鳥井が来ていた。町田は死んだ女の踊っていた横浜のキャバレーへの黒線地帯 1960⑦三ツ矢歌子(美沙子).jpg途中、美黒線地帯 1960  mituya .jpg沙子(三ツ矢歌子⑦)という高校生を拾う。彼女はフランス人形運搬のバイトをしていたが、町田は人形に麻薬が隠されている事実を掴み、麻耶に自白を迫る。鳥井が来て町田を犯人と決めつけるが、町田は2日の猶予を鳥井に貰う。麻耶はいつしか町田に惹かれいた。警察は町田を犯人として追い、町田は麻耶と逃れるが、途中で麻耶が負黒線地帯 1960⑧ 大友(橘祐吉).jpg傷し、それを看るうちに時は迫る。麻耶は知っていることを町田に全部話し、町田は女易者を見つけ出し、麻薬団のボス(大友純⑧)が例の横浜のキャバレーを根城にしていることを聞き出すと、そのキャバレーに行く。そこには美沙子が人質になっていた―。

 新東宝の地帯(ライン)シリーズの第2弾で、売春禁止法が施行されてから売春組織が地下に潜り、女性たちを麻薬や暴力で拘束しつつ秘かに営業を続けていたのを俗に「白線」「黒線」などといい、同シリーズにはそうした裏社会の組織を舞台とした以下の5作品があります。

白線秘密地帯  .jpg■「白線秘密地帯('58年)監督:石井輝男、主演:宇津井健
■「黒線地帯('60年)監督:石井輝男、主演:天知茂
黄線地帯 イエローライン051.jpg黄線地帯(イエローライン)4.jpg■「黄線地帯 イエローライン('60年・新東宝)監督:石井輝男、主演:吉田輝雄/天知茂
セクシー地帯5.jpg■「セクシー地帯」('61年)監督:石井輝男、主演:吉田輝雄
■「火線地帯('61年)監督:武部弘道男、主演:吉田輝雄/天知茂

「黄線地帯 イエローライン」('60年)/「セクシー地帯」('61年)

 この内、石井輝男(1924-2005/享年81)は「火線地帯」を除く4作を監督し、天知茂(1931-1985/享年54)は「セクシー地帯」を除く4作品に出演していますが、三原葉子(1933-2013/享年79)は5作品"皆勤"です(三原葉子は'58年だけで「女体桟橋」「憲兵と幽霊」「人喰海女」「女王蜂の怒り」「女王蜂」「白線秘密地帯」「ヌードモデル殺人事件」「色競海女の化物屋敷%.jpg「女奴隷船」(新東宝)mihara 2.jpgべ五人女」「スター毒殺事件」「消えた私立探偵」の8本の新東宝作品に出演していて、'59年には菅原文太と共演した「海女の化物屋敷」など6本、'60年もこれも石井輝男監督の「女体渦巻島」や、これまた菅原文太と共演した「女奴隷船」など8本に出演している)。

「海女の化物屋敷」('59年)/「女奴隷船」('60年)

黒線地帯33.png 無実の主人公が警察に追われながら真犯人を探すのというのは(それに女性が絡むというのも含め)ある種定番ストーリーですが、サスペンスフルでテンポもいいです(音楽は渡辺宙明)。東映プロデューサーの天尾完次は、「石井は同じ東宝出身の黒澤明の対極に位置する」と評していますが、主人公が人伝(づて)に訊いて徐々に真相に近づいていく様は、個人的には、黒澤明の「野良犬」('49年/東宝)における黒線地帯202.jpg拳銃を盗まれた新米刑事(三船敏郎)の探索に重なるものがあるようにも思いました(黒澤作品を想起させるほどレベルが高いということか)。三船敏郎演じる刑事に鍵となる情報を与えるのも全て女性でした。

 街や風俗の描き方も秀逸で、今観るとレトロ感充分。冒頭の夜の歌舞伎町から始まって新宿コマ劇場付近から伊勢丹辺りにかけてとか、或いは昼間ヌード劇場の屋上でステップを練習するダンサーらとか、夜の室内シーンで言えば海軍キャバレーとか(ホステス名が"シンガポール"、ビールの符牒が"魚雷"かあ)、いかにも怪しげだけれど口がきけないため「オシパン」と呼ばれていた黒線地帯 1960⑨ (山村邦子キャバレーの女).jpg黒線地帯 1960⑩浅見比呂志(オカマバーのゲーボーイ).jpg女(山村邦子⑨)やゲイボーイ(浅見比呂志⑩)がいる店とか。麻薬団のボス(大友純)は怖そうだったし(あっさり謀殺されてしまうけれど)、終盤の町田と殺し屋ジョー(宗方祐二)の格闘シーンも良かったです。貨物列車の上からはしけの上に飛び移って...。横浜のどの辺りでしょうか。情感を秘めたラストもいいです(ちょっと三原葉子向きではない感じもするが)。

淀川長治.jpg あの淀川長治も、この作品のストーリーや細部の描写を1つ1つ取り上げて褒めていますが、「けれど、そんな筋よりも安っぽいグラマーに扮した三原葉子が出てくると、 もうそれで面自くなる。ジエルソミーナがヌード・グラマーに早変りした魅力である。この映画作者はもっと自信を、もつと本格に取り組むべし」としています(「キネマ旬報」昭和35年2月下旬号第252)。三原葉子は演技力よりも、三原葉子そのものがいいという感じ。淀川長治は石井輝男に黒澤のような作品を期待したのかなあ。石井輝男は5年後にその代表作「網走番外地」('65年/東映)を撮ることになります(三原葉子は「続 網走番外地」('65年/東映)からこのシリーズに出演)。

石井輝男 黒線地帯8.jpg黒線地帯 1960 vhs.jpg「黒線地帯」●制作年:1960年●監督:石井輝男●製作:大蔵貢●脚本:石井輝男/宮川一郎●撮影:吉田重業●音楽:渡辺宙明●時間:80分●出演:天知茂/三原葉子/三ツ矢歌子/細川俊夫/吉田昌代/魚住純子/ 守山竜次/鳴門洋二/宗方祐二/瀬戸麗子/南原洋子/菊川大二郎/鮎川浩/城実穂/浅見比呂志/板根正吾/山村邦子/桂京子/小高まさる/大谷友彦/水上恵子/国創典/倉橋宏明/宮浩一/晴海勇三/村山京司/原聖二●公開:1960/01●配給:新東宝(評価:★★★★)

黒線地帯201.jpg 黒線地帯A.jpg


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前田通子の後継・三原葉子の海女もの(追悼、三原葉子!)。菅原文太の「初主演」作でもあるが...。

海女の化物屋敷 dvd.jpg海女の化物屋敷dvd2.jpg
海女の化物屋敷title.jpg 
海女の化物屋敷 [DVD]」「海女の化物屋敷 [DVD]

海女の化物屋敷33.jpg 青磯の魚場を有する青山家は、当主が変死し、その妻は発狂し自殺、長女も行方不明となり、末娘・由美(瀬戸麗子)が後を継いでいた。魚場を狙う地回りから嫌がらせを受けながらも、由美は先祖の財産を守るべく孤軍奮闘していたが、ある夜、その由美の枕元に髪の毛を振り乱した女の幽霊が現われる。磯では由美の遠戚の海女・加代(万海女の化物屋敷19.jpg里昌代)が仲間の海女と喧嘩していた。海草研究家・水木教授(沼田曜一)は、加代を抱き込み青山家に代々伝わる財宝を狙っていた。由美の親友・恭海女の化物屋敷_7.jpg子(三原葉子)が不安がる由美からの手紙で青山邸にやって来たが、彼女が来てからも怪異は続く。恭子は、自分が風呂上がりに目を離した隙に、入浴中の由美の前に現われた幽霊の後を浜に追う。恭子の海女の化物屋敷 09.jpg恋人の野々宮刑事(菅原文太)は黒真珠を飲み込んだ女の他殺死体が見つかったため、これは恭子の友達と関係があるのではと考え、彼も浜へ来ていた。恭子は幽霊の正体が、地回りに雇われた下男と女中の企みだと気付く。恭子は邸のパーティーで、下男に雇われた婆やが捨てた幽霊の衣装で現われ犯人を挑発するが、逆に、婆やが自殺に見せかけて殺されてしまう―。
菅原文太/三原葉子
海女の化物屋敷_3.jpg海女の化物屋敷title2.jpg 1959(昭和34)年7月公開の新東宝映画、曲谷守平監督の"海女ものスリラー"(海女もの×B級ホラー?)で、三原葉子、菅原文太主演。一応、「菅原文太の初主演作」とされているようですが、親友の瀬戸麗子から「亡霊に呪い殺されそう! 助けて!」との手紙を受け取った三原葉子が心配して青山家を訪ねて来くるところから始まって、彼女(恭子)の視点で話は進み、化物騒動の真相を暴くところまで自らやってしまうので、どちらかと言えば三原葉子の作品という印象が強いです。

海女の化物屋敷1280.jpg 「女真珠王の復讐」('56年)、「海女の戦慄」('57年)など新東宝エロチック・シリーズの功労者・前田通子海女の化物屋敷  mihara1.jpgヌード拒否事件で新東宝を退社した後に、彼女の後を受ける形で三原葉子(1933-2013)が起用されたということもあって、前田通子のお姉さんっぽいキャラを踏襲している感じであり、「女奴隷船」(60年/新東宝)や「地帯(ライン)シリーズ」など後の彼女の作品に見られる玄人女性っぽい感じやきゃぴきゃぴした印象はなく、聡明で理知的な女性を演じているのが興味深いです。

海女の化物屋敷 a .jpg その三原葉子は海女役ではなく、海女役は万里昌代(「女真珠王の復讐」('56年)、「海女の戦慄」('57年)には"万里昌子"名で出演。「海女の戦慄」では回想シーンの他は殆ど水死体役だった)で、万里昌代演じる加代は、地震で海中に没した青山家の墓所に財宝があることを突き止めた沼田曜一演じる水木教授に脅されて(教授は既に自分の妻と青山の長女を手掛けていたのだった)、瀬戸麗子演じる由美と、ついでに恭子(三原葉子)とも一緒に小舟で隠し場所へ連れて行かれ、万里昌代も、お嬢さん役だったはずの瀬戸麗子も、共に沼田曜一に命じられて宝探しのために潜らされます。そして、海中には洞窟が...。

海女の化物屋敷 mihara2.jpg 一方、三原葉子の方は三原葉子で、風呂場での着替えのシーンなどでグラマラスな肢体を披露、最後に由美、加代と共に小舟に誘拐されますが、どういう訳か小舟ではシュミーズ一枚にされていて、沼田曜一の共犯者を演じる国方伝に襲われかけますが、助けに来た菅原文太と海にドボンと...。ここでいいきなり都会からやって来た彼女が地元の海女海女の化物屋敷_2.jpgのようにスイスイ泳いでみせるのが不思議なのですが、察するに、海女の遊泳シーンがこの作品の1つの"売り"のようなもので、となると主演の三原葉子にも、彼女は役柄の上では海女ではないといったことはもうどうでもよく、とにかく他の2人同様たっぷり泳いでもらおうということだったのでしょう。

海女の化物屋敷 菅原.jpg 菅原文太(1933-2014)はすらっとしていて腹筋も割れていて、いかにもモデル出身という感じですが、グラマラスな三原葉子に押されているだけでなく、犯人役の沼田曜一(1924-2006)の怪演にも押されている感じがします。翌1960年1月公開の同じく小野田嘉幹監督の「女奴隷船」(60年/新東宝)では、丹波哲郎を敵役としてアクションしていましたが(この映画で三原葉子はベリーダンスのような踊りを踊っている)、この「海海女の化物屋敷 numata.jpg女の化物屋敷」では、沼田曜一演じる水木教授に拉致された女性らをいつ助けに来るのか、今や遅しと待っていたら、助けに行く前に水木の方が勝手に滑って転んで...え~っという感じ(これではよくある"事件解決後に現場に駆けつけた警官"という間が抜けたパターンと同じではないか)。沼田曜一は、回想シーンでの妻を絞殺するところも、水中銃の銛に射抜かれるところも見せ場充分、これでは菅原文太の影が薄いのも無理はないです。

三原葉子 .jpg海女の化物屋敷dvd7.jpg 三原葉子と沼田曜一の印象が残る映画であり、更に万里昌代、瀬戸麗子が今回の当の海女役であり(右のスチール写真は小野田嘉幹監督「人喰海女」('58年)における三原葉子で、この時は海女役だった)、「初主演」の菅原文太はややお飾り気味という感じだったでしょうか(時として"正義漢"というのは影が薄くなりがちになる)。2006年に亡くなった沼田曜一に続いて、菅原文太が2014年11月に亡くなっており、更につい2週間前['16年2月]、三原葉子が実は2013年7月に亡くなっていたという報に接することとなったのが寂しいです。三原葉子の死は、彼女の出身地の地元紙「盛岡タイムス」が昨年['15年]12月のイベントの予告記事の中で既にさらっと伝えていたのですが(その時点で没後2年以上経っているのだが)、世間では全然話題にならなかったような...。女優・三原葉子を語る会.png
三原葉子 死亡記事.jpg

[上]「日刊ゲンダイ」(2016/2/22)

[左]「盛岡タイムス」(2015/11/30)見出し記事2行目に「1933(昭和8)年盛岡生まれ、2013年に亡くなった。」とある。

海女の化物屋敷g_1.jpg「海女の化物屋敷」●制作年:1959年●監督:曲谷守平●脚海女の化物屋敷_4.jpg本:杉本彰/赤司直●撮影:岡戸嘉外●音楽:長瀬貞夫●原案:葭原幸造●時間:81分●出演:三原葉子/菅原文太/瀬戸麗子/山村邦子/万里昌代海女の化物屋敷02.jpg沼田曜一/国方伝/五月藤江/岬洋二/九重京司/大原永子/由木城太郎/山下明子/沖啓二/倉橋宏明/白川晶雄/高橋一郎/西朱実/宇田勝哉 ●公開:1959/07●配給:新東宝(評価:★★★)
  沼田曜一                万里昌代/瀬戸麗子
海女の化物屋敷A.jpg

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前田通子主演2作品。宇津井健、丹波哲郎、天知茂の影を薄くするほどの「女真珠王の復讐」。

女真珠王の復讐 dvd_.jpg 女真珠王の復讐00.jpg  海女の戦慄 dvd2.jpg 海女の戦慄05.jpg
女眞珠王の復讐 [DVD]」沢井三郎/天知茂/前田通子「海女の戦慄 [DVD]」万里昌子/三ツ矢歌子

女真珠王の復讐22.jpg女真珠王の復讐 dvd裏.jpg 三信貿易の木崎(宇津井健)が社長に書類を届けて帰った夜、守衛が殺され会社の金庫から1500万円が紛失する。木崎は浅沼女真珠王の復讐[2].jpg専務(藤田進)の海外出張に同行する恋人・夏岐(前田通子)を見送った直後に逮捕される。社長も殺されていて、木崎のポケットから金庫の鍵が発見されたことから全てo0320024010261655748.jpgの嫌疑が木崎にかかるが、実はこれらは、浅沼専務と部下の野口(丹波哲郎)が仕掛けた罠だった。夏岐は船上で浅沼に襲われ、海に女真珠王の復讐51.jpg転落する。打ち上げられた南海の孤島には、遭難して漂着生活をする5人の漁師がいた。夏岐に3人の男が襲いかかるが、人女真珠王の復讐 前田通子52.jpg間性を失わない石塚(沢井三郎)と山内(天知茂)により夏岐は助けられる。そして食料を探して潜った海中で、偶然に真珠の宝庫を発見する。それから2年後、外国船に助けられた女真珠王の復讐[1].jpg夏岐は、女真珠王・ヘレン南と変名し日本へ帰って来て、その莫大な財力で浅沼たちの悪事を暴いていく―。
      
女真珠王の復讐9d.jpg 「女真珠王の復讐」は、志村敏(1914-1980)監督による1956(昭和31)年の新東宝の製作・配給映画。原作はプロレタリア映画運動出身の松崎啓次が「青木義久」のペンネームで書いた小説ですが(雑誌「小説と読物」(桃園書房)に掲載)、映画の方は女優のオールヌードシーンが初めて描かれた作品としても有名です(それまではストリッパーなどによる"吹替え"が普通だった)。当の女優・前田通(みち)子は、演技力はそれほどでもないけれど、その憂いを帯びた表情と伸びやかで艶めかしい肉体には、宇津井健、藤田進、丹波哲郎、天知茂といった錚々たる男優陣も影が薄くなりがちといったところでしょうか。まあ、前田通子が主役ですから、それでいいのかもしれませんが。

[下]丹波哲郎・天知茂
女真珠王の復讐2.jpg この類の新東宝作品にありがちなようにストーリーは破綻気味で、会社で秘書をしていた夏岐が偶然流れ着いた南洋の孤島ではいきなり有能な海女ぶりを発揮し(その意味では新東宝作品の"海女もの"の1つとも言えるか。夏岐の素潜りシーンは一部、翌年に天知茂と結婚する、国体水泳選手だった森悠子が"吹替え"を務めたらしく、髪型が明らかに違ってる)、真珠の宝庫を見つけて大金持ちになるといったご都合主義を筆頭に、突っ込みどころは多くありますが、中盤の夏岐を襲う危難と終盤の復讐劇の展開からついつい引き込まれて観てしまいます(細部でストーリー破綻しているのに、全体で起承転結がしっかり成っているということか)。
女真珠王の復讐_0.jpg女真珠王の復讐_1.jpg でも、やはりこの作品の一番は前田通子でしょう。話題になったヌードシーンは遠景、後姿、しかも一瞬ですが、その他にも艶っぽいシーンが多く、東京に戻って来てからもホテルの中でセクシーな部屋着を着ていて、客が来るとスカートを巻くといった仕草が悩ましいです。彼女はこの作品で一躍スターダムへのし上がり、2年間に20本以上の作品に主演、新東宝の屋台骨を支えたほか、1957(昭和32)年の同じく志村敏夫監督による「海女の戦慄」では主題歌(「海女の慕情」)も歌いヒットします。

海女の戦慄dvd.jpg海女の戦慄 title.jpg 「海女の戦慄」の方は―、ミス海女に選ばれたチエ(三ツ矢歌子)がユキ(万里昌子)と一緒に上京するが、予定を過ぎても帰ってこない。数日後、ユキの溺死体が発見される。チエの姉で同じく海女であるヨシ(前田通子)は、風来坊の俊介(若杉英二)とともにチエの行方を探す―というあらすじです。

海女の戦慄il2.jpg 実は妹のチエは、悪漢たちに難破船の宝探しをさせられていたのが真相で、これも新東宝"海女もの"にありがちな展開ですが、そうしたこともあって「女真珠王の復讐」以上にストーリーは破綻気味で、誰かがこのストーリーこそが"戦慄"だと言っていましたが、言い得ていて妙。若杉英二の風来坊はあまりにレトロだし、引き上げられた宝石の小箱のちゃちさには愕然とさせられるし...。

海女の戦慄jpg.jpg 前田通子は今度こそ本物の海女役で冒頭から肌も露わですが、あまり見せすぎるのも興醒めでしょうか。それでも、当時売出し中の三ツ矢歌子の海女姿などと比べるとその肢体はずっと映えて見え、また、若杉英二の、無理があるほどにバタ臭いマドロスぶりのレトロさと比べても、前田通子の方は今観てもモダンで洗練されているように思いました。

前田通子/三ツ矢歌子

海女の戦慄 前田.jpg 前田通子は同1957(昭和32)年、映画「続若君漫遊記・金比羅利生剣」に町娘役で出演中(当時23歳)、加戸野五郎監督にカメラが下から覗く中、「二階の階段の上で裾をまくれ」と注文されますが、その必然性がないと拒絶、押し問答の末、彼女が新東宝の大蔵貢社長に直訴すると、逆に「監督の指示に逆らった」(契約違反)として役を降ろされるとともに会社への損害賠償として100万円(当時)を支払うよう言われ、これを不服として人権擁護局に訴え、彼女の主張が認められて新東新東宝名画傑作選 DVD-BOX IV.jpg宝から謝罪と30万円の慰謝料が彼女に支払われます。しかし、「一女優になめられた」と怒った大蔵貢社長は五社協定を使い、映画界だけでなくテレビ界にまで圧力をかけ、前田が女優の仕事を一切できないようにしたと言われています(「前田通子裾まくり事件」とも言われ、前田通子は、山本富士子、田宮二郎と並んで五社協定に最も苦しめられた役者の一人と言われる)。

新東宝名画傑作選 DVD-BOX IV -エロティックサスペンス編-
「女眞珠王の復讐」「海女の戦慄」(以上、前田通子 主演)、「女体渦巻島」(三原葉子 主演)の3作品を収録。

 結局この「海女の戦慄」が前田通子の最後の新東宝主演作品となりますが、新東宝への前田通子の貢献度は海女の化物屋敷dvd2.jpg高かったように思われ、前田通子がいなくなった後女奴隷船 dvd.jpgは三原葉子(「海女の化物屋敷」('59年)、「女奴隷船」('60年))、万里昌代(「海女の化物屋敷」('59年)。「女真珠王の復讐」「海女の戦慄」には"万里昌子"名で出演。「海女の戦慄」では回想シーンの他は殆ど水死体役だった)らがそのグラマー女優路線を引き継ぎますが、やっぱり前田通子でなくては、という人も多かったのでは。功労者にそうした仕打ちをするような社長だから、会社もやがては潰れてしまうんだろなあ(新東宝は1961(昭和36)年に倒産)。
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女真珠王の復讐1b.jpg女真珠王の復讐 ps.jpg「女真珠王の復讐」●制作年:1956年●監督:志村敏夫●製作:星野和平●脚本:相良準/松木功●撮影:友成達雄●音楽:松井八郎●原作:青木義久「復讐は誰がやる」●時間:89分●出演:前田通子/宇津井健/藤田進/丹波哲郎天知茂/三ツ矢歌子/遠山幸子/小倉繁/若月輝夫/芝田新/林寛/沢井三郎/光岡早苗(後に城山路子)/保坂光代/藤村昌子/石川冷/宮原徹/菊地双三郎/高村洋三/有馬新二/山田長正/国(後に邦)創典/伸夫英一/倉橋宏明/高松政雄/山川朔太郎/北一天知茂s.jpg馬/村山京司/竹中弘直/小林猛/川部修詩/大谷友彦/草間喜代四/岡女真珠王の復讐  丹波s.jpg竜弘/池月正/三宅実/西一樹/東堂泰彦/三井瀧太郎/三村泰二/沢村勇/山口多賀志/万里昌子(後に昌代)/有田淳子/藤田博子/森悠子/ジャック・アルテンバイ●公開:1956/07●配給:新東宝(評価:★★★)
天知茂/丹波哲郎

海女の戦慄1s.jpg海女の戦慄2.jpg「海女の戦慄」_0.jpg「海女の戦慄」●制作年:1957年●監督:志村敏夫●脚本:内田弘三/坂倉英一●撮影:岡戸嘉外●音楽:レイモンド服部●原案:志賀弘●時間:73分●出演:前田通子/天城竜太郎(後に若杉英二)/小倉繁/松本朝夫(後に朝生)/三ツ矢歌子/林寛/芝田新/菊地双三郎/有馬新二/村山京司/九重海女の戦慄 スチール.jpg京司/木下隆二/川原健/桂京子/万里昌子(後に昌代)/大江満彦/石川冷/美舟洋子/有田淳子/秋田真夢/長門順子/水上恵子/島伊津子/保坂光代/辻祐子/葉山由紀子/吉田昌代/水帆順子/太田博之(子役)/武村新/山田長正/信夫英一/広瀬康治/千葉徹/小森敏/国(後に邦)創典/沢村勇/遠藤達雄/高橋一郎/菊川大二郎/南沢潤一●公開:1957/07●配給:新東宝(評価:★★)
「海女の戦慄」(スチール写真)
松本朝夫/三ツ矢歌子/前田通子

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茂吉(佐分利信)は最後、泣かなかったのではないか(妙子(木暮実千代)が話を作っている?)。

お茶漬の味poster.jpgお茶漬けの味 dvd.jpg お茶漬けの味.jpg お茶漬の味00.jpg
お茶漬の味 [DVD]」「お茶漬の味 [DVD] COS-023」 佐分利信/木暮実千代

お茶漬の味36.jpg 会社勤務の佐竹茂吉(佐分利信)は長野出身で質素な生活を好む。妻の妙子(木暮実千代)とはお見合い結婚だが、上流階級出身の妙子にとって夫の質素さが野暮にしか見えず、学生時代の友人たちである雨宮アヤ(淡島千景)、黒田高子(上原葉子)、姪っ子の山内節子(津島恵子)らと遊び歩いて憂さをはらしている。茂吉はそんな妻の気持ちを知りながらも、あえて触れないようにしていた。ところが、節子がお見合いの席から逃げ出したことをきっかけに、茂吉と妙子が衝突する。妙子は口をきかなくなり、あげくのはてに黙って神戸の友人のもとへ出かけてしまう。一方の茂吉はウルグアイでの海外勤務が決まって羽田から出発するが、それを聞いても妙子は帰ってこない。茂吉が発った後、家に帰ってきた妙子にさすがの友人たちも厳しい態度をとる。平然を装う妙子だったが、茂吉の不在という現実に内心は激しく動揺していた。そこへ突如茂吉が夜中になって帰ってくる、飛行機のエンジントラブルだという。喜ぶ妙子に茂吉はお茶漬けを食べたいという。二人で台所に立って準備をし、お茶漬けを食べる二人。お互いに心のうちを吐露し、二人は和解する。夫婦とはお茶漬なのだと妙子を諭す茂吉。妙子は初めて夫のありがたさ、結婚生活のすばらしさに気づく。一方、お見合いを断った節子は若い岡田登(鶴田浩二)にひかれていくのだった―(「Wikipedia」より)。

お茶漬の味 vhs0.jpg 1952(昭和27)年公開の小津安二郎監督作で、野田高梧、 小津安二郎のオリジナル脚本ですが、小津が1939年に中国戦線から復員したあとの復帰第一作として撮るつもりだったのが「有閑マダム連がいて、亭主をほったからしにして遊びまわっている」という内容が内務省の検閲に引っ掛かってお蔵入りになっていたのを、戦後に再度引っ張り出して改稿したものであり、その際に、主人公夫婦がよりを戻す契機となったのが夫の戦争への応召であったのを、ウルグアイのモンテビデオ赴任に変えるなどしています。

お茶漬の味 saburi.jpg 木暮実千代の演技の評価が高い作品ですが、茂吉を演じた佐分利信もいい感じではないでしょうか。奥さんの言いなりになっているようで、実は全て分かった上での行動や態度という感じで、最後の和解のシーンも良かったです。その後、木暮実千代演じる妙子が雨宮アヤ(淡島千景)ら女友達に夫婦和解の様子を伝え、妙子自身大泣きした一方で、茂吉の方も「わかっている」と言って目に涙を溜めて泣いたと夫婦2人で泣いたような話をしますが、この辺りは妙子が話を作っているのではないかなあ(彼女の性格上、自分だけが泣いたことにはしたくなかったのでは)。

お茶漬の味 鶴田・津島.jpg 個人的には、この打ち明け話のシーンが無く、そのまま節子(津島恵子)と岡田(鶴田浩二)が連れだって歩くシーンで終わっても良かったようにも思いましたが、この"のろけ話"ともとれる話を節子が実質2度も聞かされるところが軽くコメディなのだろなあ。妙子から"旦那さんの選び方"の講釈を受けた上で(そうなったのは偶々なのだが)、ラストの岡田と連れだって歩くシーンに繋がっていきます。

津島恵子/鶴田浩二

お茶漬の味 野球観戦.jpgお茶漬の味 パチンコ.jpg 女性3人でのプロ野球観戦(後楽園球場でのパ・リーグ試合でバッターボックスには毎日オリオンズの別当薫が。後楽園球場は当時、毎日オリオンズなど5球団の本拠地だった)や、競輪観戦(後楽園競輪場。1972年に美濃部亮吉都知事の公営ギャンブル廃止策により休止)、パお茶漬の味 笠智衆.jpgチンコなど、昭和20年代後半当時の風俗をふんだんに盛り込んでいるのもこの作品の特徴で、パチンコ屋で偶然再会した茂吉の戦友・平山定郎役の笠智衆が、パチンコ屋の親爺でありながらパチンコが流行るのを「こんなもんが流行っている間は世の中はようならんです。つまらんです。いかんです」と言っているのもおかしいです(しかし、笠智衆は軍歌しか歌わないなあ)。

 歌舞伎座でお見合いというのも、当時としては、こういうセッティングの仕方はよくあったのではないでしょうか。節子(津島恵子)はその見合いをすっぽかして茂吉と岡田の競輪観戦に勝手に合流し、仕舞にはパチンコにまで後楽園球場 競輪場.jpgついてきてしまうわけですが...(お茶漬の味 鶴田・佐分利・津島.jpg競輪レースの模様を"執拗に"撮っているのが興味深い。「小早川家の秋」('61年/東宝)に出演した森繁久彌が、競輪シーンが台本にあるの見て「小津には競輪は撮れない」と言ったそうだが、ここで既にしっかり撮っている。この作品では、隣り合っていた後楽園球場と後楽園競輪場の両方でロケをやったことになる)。
後楽園球場・後楽園競輪場(1976年)

お茶漬の味 津島・鶴田.png秋日和 司葉子 佐田啓二.jpg その後、パチンコに夢中で帰りの遅くなった岡田(鶴田浩二)と節子(津島恵子)がラーメン屋のカウンターで並んでお茶漬の味 カロリー軒.jpgラーメンを食べる場面は、夫婦でお茶漬けを食べるメインストーリーの方のラストの伏線と言えなくもありません。男女が並んでラーメンを食べる場面は後の「秋日和」('60年)におけるアヤ子(司葉子)と後藤(佐田啓二)も同様であり、この2人はやがて結婚することから、岡田と節子もそうしたことが暗示されているのでしょうか。因みにラーメン屋の名前は「三来元」で両作品に共通しています(とんかつ屋「カロリー軒」も小津映画の定番の店名)。

 木暮実千代の他、淡島千景、上原葉子(上原謙の妻)、津島恵子らの演技も楽しめるし、お茶漬の味2.jpgお茶漬の味 佐分利・鶴田.pngちょい役ながら当時19歳の北原三枝(後の石原裕次郎夫人)もバーの女給役で出ていて、鶴田浩二や笠智衆らの演技も同様に楽しめます。でも、やはり、真ん中にいる佐分利信が安心して見ていられるというのが大きいかも。何のことはないストーリーですが、観終わった後の印象はそう悪くはない作品でした。

津島恵子/淡島千景   佐分利信/鶴田浩二

お茶漬の味.jpg

Ochazuke no aji (1952)
Ochazuke no aji (1952) .jpg「お茶漬の味」●制作年:1952年●監督:小津安二郎●製作:山本武●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤一郎●時間:115分●出演:佐分利信/木暮実千代/鶴田浩二/笠智衆/淡島千景/津島恵子/三宅邦子/柳永二郎お茶漬けの味 dvd_.jpg/十朱久雄/望月優子/設お茶漬の味 北原.jpg楽幸嗣/志賀直津子/石川欣一/上原葉子/北原三枝●公開:1952/10●配給:松竹●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(90-08-19)(評価:★★★☆)併映:「東京の合唱(コーラス)」(小津安二郎)お茶漬の味 [DVD]」 鶴田浩二/北原三枝(バーの女給役)
 

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初カラー作品。佐分利信の"昭和的頑固親父"ぶり全開。後期作品の多くの原型的スタイルを含む。

彼岸花 映画pos.jpg彼岸花 映画 dvd.jpg
彼岸花 [DVD]」 山本富士子/有馬稲子/久我美子
[下]「「彼岸花」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター [Blu-ray]
彼岸花 タイトル.jpg彼岸花 小津00_.jpg 会社常務の平山渉(佐分利信)は、妻・清子(田中絹代)と共に出席した旧友・河合(中村伸郎)の娘の結婚式に、同期仲間の三上(笠智衆)が現れないことを不審に思っていた。実は三上は自分の娘・文子(久我美子)が家を出て男と暮らしていることに悩んでおり、いたたまれずに欠席したのだった。三上の頼みで平山は銀座のバーで働彼岸花 映画 02.jpgいているという文子の様子を見に行くことになる。一方の平山にも、適齢期を迎えた娘・節子(有馬稲子)がいた。彼は節子の意思を無視して条件のいい縁談を進める傍ら、平山の馴染みの京都の旅館の女将・佐々木初(浪花千栄子)の娘・幸子(山本富士子)が見合いの話を次々に持ってくる母親の苦情を言うと「無理に結婚することはない」と物分かりのいい返事をする。一方、平山が勝手に縁談を進めていた自分の娘・節子には、実は親に黙って付き合っている谷口(佐田啓二)という相手がいた。そのことを知らされ、それが娘の口から知らされなかったのが平山には面白くなく、彼は娘の恋愛に反対する―。

 小津安二郎監督の1958(昭和33)年作品で、小津監督初のカラー作品でもあり、原作は里見弴。因みに、この作品と同じく、なかなか結婚しない娘のことを気遣う親をモチーフとしたその後の作品「秋日和」('60年)、「秋刀魚の味」('62年)共に里見弴の原作であり(里見彼岸花 佐分利信A.jpg彼岸花 映画1_s.jpg弴ってこんな話ばかり書いていた?)、本作品では、他人の娘には自由恋愛を勧めるのに、自分の娘には自分のお眼鏡に適(かな)った相手でなければ結婚を許さないという、佐分利信の"昭和的頑固親父"ぶりが全開です(浪花千栄子の関西のおばはんぶりも全開だったが)。
佐分利信/田中絹代

江川宇禮雄/笠智衆/北竜二          中村伸郎
彼岸花 映画 dousoukai .jpg中村伸郎 higanbana .jpg 佐分利信、中村伸郎、北竜二が演じる旧友3人組は「秋日和」でも形を変えて登場し、「秋刀魚の味」では笠智衆、中村伸郎、北竜二の3人組になっていました。この「彼岸花」では、佐分利信、笠智衆、中村伸郎、北竜二の"4人組"となっています(その他に江川宇禮雄ら同窓生多数)。加えて佐分利信の娘に有馬稲子(当時26歳)、笠智衆の娘に久我美子(当時27歳)、佐分利信の知人の娘で、この作品においてコメディ・リリーフ的な役割を果たす女性に山本富士子(当時26歳)(大映から借り受け)という顔ぶれですから、考えてみれば結構豪華メンバーでした。
                                       久我美子/渡辺文雄
彼岸花 映画 00.jpg彼岸花 映画5O.jpg 佐分利信演じる平山は、三上の娘・文子(久我美子)には理解を示す一方で(その恋人役は渡辺文雄)、自分の娘・節子(有馬稲子)の結婚には反対し、平山の妻・清子(田中絹代)や次女・久子(桑野みゆき)も間に入って上手く取りなそうとしますが、平山はHiganbana (1958) .jpgますます頑なになります。そこへ節子の友人でもある幸子が現れ、平山に自分の縁談について相談する。が、それは節子の結婚のための芝居だったわけで、結局、彼は出ないと言っていた結婚式にも出ることになり、最後は娘と谷口の結婚を認めて彼女らのいる広島に向かう―という結末です。
Higanbana (1958)
 別に結末まで書こうと書くまいと、そんなビックリするような話ではない点は、その後の小津作品と同じではないかと...。佐田啓二は、「秋日和」では司葉子彼岸花 映画 浪花.jpgが演じたヒロインの結婚相手でしたが、この「彼岸花」と「秋日和」「秋刀魚の味」の3作の中で(主要人物の)結婚式の場面があるのは「秋日和」だけです。結婚式の場面が無いのはその結婚が必ずしも幸せなものとはならなかったことを暗示しているとの説もあるようですが、この「彼岸花」の場合どうなのでしょう(渡辺文雄、何となく頼りなさそう)。「秋刀魚の味」で佐田啓二は、岡田茉莉子演じる妻の尻の下に敷かれて、ゴルフクラブもなかなか買えないでいましたが...(因みに、「秋刀魚の味」では佐田啓二が会社の屋上でゴルフの練習をしているが、この「彼岸花」では佐分利信がゴルフ場で独りラウンドしている。しがないサラリーマンと重役の違いか)。

浪花千栄子/山本富士子

彼岸花 映画01.jpg モチーフばかりでなくセリフや撮影面においても、その後の小津カラー作品の原型的なスタイルを多く含んでおり、この作品に見られる料亭での同期の男たちの会話やそれに絡む女将(高橋とよ)との遣り取り、家の1階に夫婦が暮らし2階に娘たちが暮らすが、階段は映さないという"ルール"(映さないことで親子の断絶を表しているという説がある)、会社のオフィスやバーのカウンターでの会話やその際のカメラワークなど、そして例えばオフィスであればくすんだ赤と緑を基調とした色使いなど、その後も何度も繰り返されるこうした後期の小津作品における"セオリー"的なものを再確認するうえでは再見の価値ありでした。

 この作品で、佐分利信演じる平山の部下で、佐田啓二演じる谷口の後輩でもある近藤役を演じてコメディ的な味を出している高橋貞二は、この作品彼岸花 映画s.jpg高橋貞二.jpgに出た翌年1959年に33歳で自らの飲酒運転で事故死しています(この年に結婚したばかりだった妻も3年後に自殺、青山霊園に夫と共に埋葬されている)。

佐分利信/高橋貞二(1959年に33歳で自らの飲酒運転で事故死)

 そして佐田啓二も、1964年に37歳でクルマにより事故死していますが、共に4人でクルマに乗っていて事故に遭い、亡くなったのはそれぞれ高橋貞二と佐田啓二の一人ずつのみでした。

佐田啓二(1964年に37歳で自動車運転事故死)/久我美子/有馬稲子
彼岸花 映画16.jpg彼岸花 映画9_s.jpg彼岸花 有馬稲子.jpg「彼岸花」●制作年:1958年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●原作:里見弴●時間:118分●出演:佐分利信/有馬稲子/山本富士子/久我美子/田中絹代/佐田彼岸花 sata%20.png啓二/高橋貞二/笠智衆/桑野みゆき/浪花千栄子/渡辺文雄/中村伸郎/北竜二/高橋とよ/桜むつ子/長岡輝子/十朱久雄/須賀不二男/菅原通済/江川宇禮雄/竹田法一/小林十九二/清川晶子/末永功●公開:1958/09●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)(評価:★★★★)●併映:「東京物語」(小津安二郎)/「秋刀魚の味」(小津安二郎)

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「晩春」より幅のあるテーマ。深みがあり、号泣があり、ユーモアもあり。

麦秋 dvd90.jpg 麦秋 dvd V.jpg
麦秋 [DVD] COS-022」「麦秋 [DVD]

 北鎌倉に暮らす間宮家は三世帯家族で、初老の植物学者・周吉(菅井一郎)とその妻・志げ(東山千栄子)、長男で医師の康一(笠智衆)とその妻・史子(三宅邦子)と幼い息子たち2人、それに長女で会社員の紀子(原節子)が生活している。紀子は28歳独身で、その嫁ぎ先が家族の懸念材料になっている。周吉の兄・茂吉(高堂國典)が大和から上京し、なかなか嫁に行かない紀子を心配する一方、周吉にも引退して麦秋 00.jpg大和へ来るよう勧めて帰っていく。紀子の会社の上司である佐竹(佐野周二)も彼女に、商社の常務で旧家の次男、という男性を紹介するという。家族はそれを歓迎するが、年齢が数えで42歳だと分かると志げと史子は不満を口にし、康一はそれを「贅沢は言えない」と非難する。康一の勤務先の医師・矢部謙吉(二本柳寛)の母親・たみ(杉村春子)の耳にもこの話が入る。矢部は戦争で亡くなった間宮家の次男麦秋 sugimura.jpg・省二とは高校からの友人だが、妻が一昨年に幼い娘を残して亡くなっており、たみが再婚相手を探していた。やがて、矢部が秋田の病院へ転任することになり、出発前夜、矢部家に挨拶に訪れた紀子は、たみから「あなたのような人を息子の嫁に欲しかった」と言われ、それを聞いた紀子は「あたしでよ麦秋 笠智衆 .jpgかったら...」と、矢部の妻になることを承諾する。急な展開に間宮家では皆が驚き、緊急家族会議が開かれ、紀子は詰問されるが、彼女は自分の決意を示して譲らず、皆も最後には諒解する。紀子の結婚を機に、康一は診療所を開業し、周吉夫婦は大和に隠居することにし、間宮家はバラバラになることとなった。初夏、大和の家で、周吉と志げが豊かに実った麦畑を眺めながら、これまでの人生に想いを巡らせていた―。

笠智衆(中央)/原節子(背中)

麦秋 1951 hara.jpg 1951(昭和26)年10月公開の小津安二郎監督作で、原節子が「紀子」という名の役(同一人物ではない)を演じた所謂「紀子三部作」の第1作「晩春」('49年)に続く2作目(3作目は「東京物語」('53年))。「晩春」が広津和郎「父と娘」を原作としていたのに対し、この作品は原作が無く、野田高梧、小津安二郎の共同脚本。「東京物語」も同じパターンですが(特定の原作無しの共同脚本)、野田高梧は「『東京物語』は誰にでも書けるが、これはちょっと書けないと思う」と言っていたそうです。

麦秋 0.jpg 「晩春」同様、行き遅れの娘が嫁に行くまでを描いた話ですが、同時に、戦前型の大家族の終焉を描いており、そうした意味では、テーマが拡がっていて(テーマに幅が出て)、「東京物語」にも通じるものがあります。また、大家族の終焉は"幸福な時"の終わりとも重なり、それはそのまま、家長夫婦には後に残されたものは、人生を振り返ることしかない、つまり「死」しかないという無常感にも連なるものがあります。小津自身も、本作において「ストーリーそのものより、もっと深い《輪廻》というか《無常》というか、そういうものを描きたいと思った」と発言しています(幅と併せて、深みのあるテーマと言っていいか)。

麦秋  hara.jpg 原節子を美しく撮っています。この映画が公開された時、小津安二郎と原節子は結婚するのではないかという予測が週刊誌などに流れたそうですが、結局、小津安二郎は生涯独身を通しました。小津自身は後に、結婚しようと思った相手がいなくはなかったが、(シャイな性格で)この映画のようなきっかけを与えてくれる人がいなかったという発言もしていたように思います。ということは、(映画の中では)原節子の方に自分を重ねているのでしょうか。因みに、小津は自分の母親が死ぬまで母親と一緒に暮らし、母親が亡くなった翌年に自らも亡くなっていますが、そう考えると、「晩春」における原節子演じる"紀子"にも自分を重ねていたような気がしなくもないです。

麦秋 原節子.jpg麦秋における原節子の号泣.jpg この映画の原節子演じる紀子は、終始誰に対しても明るいです。それだけに、ラスト近くで一人号泣する場面は重かったです(このそれまでの感情の抑制が一気に剥がれたように急変する手法は「東京物語」でも使われた)。この場合、幸福な大家族の終焉というこの作品のテーマを一人で負ってしまった感じでしょうか。逆『麦秋』(1951年) .jpgに言えば、テーマを原節子の号泣に象徴的に集約させた小津の手腕は見事だと言うべきでしょう。

 小津作品のベストテンでは、「晩春」と上位を争う作品ですが、「晩春」は理屈を論じる上で興味深い作品であるものの("壺"は何を意味するのか、とか)、結局のところ自分自身もよく分からないという部分もあり、一方、この「麦秋」にも、なぜ紀子は突然結婚を決意したのかという大きな謎がありますが、すでに指摘されているように、戦争に行ったきりの次兄の不在とその次兄と親しかった寡夫、彼が語る次兄からの最後の手紙のエピソードとその手紙を譲ってもらえないかという紀子―といった具合に考えると、繋がっていくように思えます。その手紙に麦の穂が同封してあったというのが、タイトルにも絡んで象徴的であり、個人的には「晩春」よりもやや上、「東京物語」に匹敵する評価です。

「麦秋」笠智衆.jpg 但し、「紀子三部作」の中では個人的には後の方で観たため、最初は、笠智衆が紀子(原節子)の兄(職業は医師)を演じているというのが、原節子の父親を演じた「晩春」と比べるとやや意外な感じもして、更には東山千栄子と老夫婦を演じた「東京物語」に対して、ここでは笠智衆は東山千栄子の長男ということになっているため、笠智衆が出てくる度に、そのギャップ修正に慣れるのにコンマ何秒か要したかも。三宅邦子と夫婦で男の子が2人というのは、この作品で子供達が演じるコミカルな様子ごと「お早よう」('59年)に引き継がれています。

笠 智衆

麦秋 2.jpg 他にもコミカルな要素はあって、例えば、紀子とその結婚を知らされた友人・田村アヤ(淡島千景)との会話で、アヤが、紀子が秋田に行くことになったことに「よく思いきったわね。あんたなんて人、とても東京を離れられないんじゃないかと思ってた」といい、「だって、あんたって人、庭に白い草花かなんか植えちゃって、ショパンかなんかかけちゃって、タイルの台所に、電気冷蔵庫かなんか置いちゃって、こう開けるとコカ・コーラかなんか並んじゃって、そんな奥さんになるんじゃないかと思ってたのよ」と早口でまくしたてるのが可笑しいです。彼女が言ってるのが、昭和26年の女性の「憧れる結婚のイメージ」だったのでしょうか(因みに、日本でテレビ放送が始まる2年前)。それに比べると、謙吉との結婚は、医者との結婚とはいえ、子持ちの勤務医でしかも赴任先が秋田ということで、やはりアヤには意外だったのだろなあ。

麦秋 杉村春子.jpg この映画でもう1人号泣したのが、杉村春子演じる謙吉の母親で、紀子の結婚の承諾で信じられない僥倖とばかりに泣くわけですが、やはりこの人の演技はピカイチでした。こうした演技があるから、やや突飛とも思える展開にもリアリティが感じられるのかも。号泣して「ありがとう」のすぐ後に「ものは言ってみるもんね、もし言わなかったらこのままだったかもしれなかった」と思わず本人の前で言ってしまうところは、それを言わせている脚本の妙でもありますが、杉村春子が演じることを前提にこうした台詞を入れているのでしょう。杉村春子は出演しているどの作品でも上手いですが、この作品における彼女は「東京物語」の彼女以上にいいです。
杉村春子

麦秋 1.jpg「麦秋」●制作年:1953年●監督:小津安二郎●製作:山本武●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田麦秋 1951  .jpg雄春●音楽:伊藤宣二●時間:124分●出演:原節子/笠智衆/淡島千景/三宅邦子/菅井一郎/東山千栄子/杉村春子/二本柳寛/佐野周二/村瀬禪/城澤勇夫/高堂国典/高橋とよ/宮内精二/井川邦子/志賀真津子./伊藤和代./山本多美./谷よしの./寺田佳世子./長谷部朋香./山田英子./田代芳子./谷崎純●公開:1951/03●配給:松竹(評価:★★★★☆)
佐野 周二/原 節子/淡島 千景                 佐野 周二
麦秋 佐野 周二 原節子 淡島千景 .jpg麦秋 佐野 周二 .jpg

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作者が本当にやりたかったのは漫画よりアニメーションであったことを如実に窺わせる。

フィルムは生きている2.jpg  西遊記 1960 poster.jpg 西遊記 [DVD].jpg   悟空の大冒険01.jpg
フィルムは生きている』「西遊記」(1960年)ポスター「西遊記 [DVD]」「悟空の大冒険 Complete BOX [DVD]
函入愛蔵版(装丁・装画:和田 誠
フィルムは生きている.jpg マンガ映画を作ることを夢見て地方から東京に出てきた青年・宮本武蔵は、アニメ制作会社へ入社を申し出るが、アニメ作家・壇末魔から「絵の動きが死んでいる」と評されて叶わず、街頭で似顔絵を描いて暮らしていた。そして、その際に出会った、やはりマンガ映画を目指している佐々木小次郎と意気投合し、同居を始める。2人は共同でマンガ映画を作ろうとしたが、どちらの作ったキャラクターを主人公にするかで対立して喧嘩別れしてしまう―。

フィルムは生きている 手塚治虫.jpg 「フィルムは生きている」は、学研の「中学1年生コース」(1958(昭和33)年4月号~1959(昭和34)年3月号)、「中学2年生コース」(1959年4月号~1959年8月号)に連載されもので、これまでも単行本化されたり文庫に収められたりしていますが、本書では、連載第1回のカラーページ部分を再現し、各回の扉絵も収録され、その他に、作者自身が日本マンガ映画史を辿った「マンガ映画 メイドイン・ジャパン」なども巻末にあります。装丁・装画は和田誠氏で、和田氏も巻末に「手塚さんとの出会い」という小文を寄せています。

手塚治虫漫画選集5 「フィルムは生きている」.jpg 物語は、武蔵と小次郎の巌流島の決闘に懸けた「アニメ対決」へと向かっていきますが、一方で、後半に武蔵は視力低下に苦しむことになり、この辺りはベートーヴェンの後半の生涯に重ねた味付けになっています。
『手塚治虫漫画選集5「フィルムは生きている」』(1959)

フィルムは生きている (小学館文庫).jpg 武蔵は明らかに作者自身を投影したキャラクターだと思われますが、興味深いのは、一度は200万部の発行部数を誇る雑誌「少年パック」の一番の人気漫画家となった武蔵が、漫画家の"宍戸梅軒"から「マンガ映画を無理に捨てた武蔵は、自分の心を殺したぬけがらだ」と指摘され、漫画を捨ててマンガ映画に打ち込むというストーリーになっている点で、作者が本当にやりたいのはアニメーションであったことを如実に窺わせるものとなっている点です。
フィルムは生きている (小学館文庫)

 実際には作者は、自らのプロダクション創設後も漫画を描き続けますが、それは漫画がアニメーション制作の資金を稼ぐための手段だったのかもしれません。1961年にプロダクション内に動画部を設立、これが後の虫プロダクションになります。

西遊記 1960.jpg 一方、「マンガ映画 メイドイン・ジャパン」の最後に、東映が「少年猿飛佐助(壇一雄作)」に続いて「西遊記(手塚治虫作)」を製作中であるとありますが、「手塚治虫作」と言いつつ、出来上がった「西遊記」('60年/東映)は、あくまでもそれまでの「白蛇伝」('58年/東映)から次回作の「安寿と厨子王丸」('61年/東映西遊記 1960 2.jpg)にかけての流れの中にあるもので(監督・演出は何れも藪下泰司)、あまり手塚カラーというのが感じらないと言うか、逆にその分、時々「ここは手塚治虫だなあ」と思わせる部分があって、手塚的キャラクター及びその動きの描き方と、当時の東映アニメ調のキャラクター及びその動きの描き方とが全く異質であったことが窺えるものとなっています(但し、実際には手塚治虫は構成のみに関与し、作画には携わっていない)。

悟空の大冒険02.jpg やがて手塚治虫は、「鉄腕アトム」(自らのプロダクションのTVアニメ第1作)の後番組として'67年に「悟空の大冒険」を手掛けることになりますが、やはり、自分のプロダクションで自分の作りたい孫悟空のアニメを作りたいと思ったのではないでしょうか。しかし、手塚治虫のオフィシャルサイトによると、「パイロット版「孫悟空が始まるよー」が悟空が真面目過ぎると子どもたちからの批判を受けて、大幅に設定が改められ、ならば徹底的に不真面目にしてやろうと、スタッフも当時としてはかなり実験的な試みを行い、現代っ子らしいヤンチャ坊主にしたら、今度は「言葉遣いが汚い!」とPTAからの大批判を受けて、放映打ち切りに追いこまれてしまいました」とのことで(放送予定本数は52本だったが39本の放送で終了)、やはりいろいろ苦労はあったようです。

 「西遊記」の仕事を通して手塚が得た教訓は「自分が表現したいことを表現するためには、自分の金で作らなければ駄目だ」ということであったと言われています。しかし、アニメ作りは膨大な人手と手間がかかることから、そのための費用を漫画の仕事によって捻出するという構造は続けざるを得ず、手塚は創作と経営の狭間で常に苦悩し、ある時期ヒット作を生み出しながらも、虫プロダクション(旧)は'73年に倒産します。やはり、当初アニメは、急速に伸びつつも不確実性要素の多い新興ベンチャーのようなものであり、そうした中でテレビ局などは、プロダクションとの関係において自分たちに有利な(危険負担は少なく利益は大きい)契約を結ぶことに注力し、一方のプロダクション側には、そうした交渉ごとのプロというのがいなかったのではないかと思われます。漫画の主人公も苦労しているけれども、現実は現実で、なかなか漫画のようにはいかない面も多かったのではないでしょうか。

「西遊記」1960年.jpg「西遊記」●制作年:1960年●監督:藪下泰司(演出)/手塚治虫(構成)●製作:大川博●脚本:植草圭之助/手塚治虫●撮影:大塚晴郷●音楽:服部良一●原作:手塚 治虫●時間:88分●声の出演:小宮山清/新道乃里子/木下秀雄/篠田節夫/関根信昭/植草圭之助●公開:1960/08●配給:東映(評価:★★★)

悟空の大冒険 03.jpg「悟空の大冒険」●監督:杉井ギサブロー●プロデューサー:川畑栄一●演出:出崎統ほか●脚本:菅野昭彦ほか●音楽:宇野誠一郎●原作:手塚治虫●出演(声):右手和子/増山江威子/野沢那智/愛川欽也/ 滝口順平/近石真介/小原乃梨子/熊倉 一雄/三輪 勝恵/大竹 宏/雨森 雅司/小林 清志●放映:1967/01~09(全39回)●放送局:フジテレビ

【1959年単行本[鈴木出版『手塚治虫漫画選集』第5巻]/1967年再録[「COM」3月号・4月号(『名作劇場』)]/1969年新書化[小学館『ゴールデン・コミックス手塚治虫全集』]/1977年文庫化[講談社『手塚治虫漫画全集』]/1998年再文庫化[小学館文庫]/2011年再文庫化[講談社『手塚治虫漫画全集』]/2014年復刻版(函入愛蔵版)[国書刊行会]】

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今は突っ込み所の多さで楽しめるが、当時は50%の高視聴率。特撮に進化が見られる。

ナショナルキッド 1.jpgナショナルキッド vhs.jpg
「ナショナルキッド 第1部 インカ族の来襲」VHS 
ナショナルキッド インカ金星人.jpg 「ナショナルキッド」は、1960(昭和35)年8月から翌年4月まで日本教育テレビ(NET、現テレビ朝日)系で、毎週木曜日の18:15 - 18:45に放送されたナショナルキッド.jpg東映製作の実写番組で、第1部:「インカ族の来襲」(全13回)、第2部:「海底魔王ネルコン」(全9回)、第3部:「地底魔城」(全8回)、第4部:「謎の宇宙少年」(全9回)の全39回が放映され、この第1部:「インカ族の来襲」は'60年8月4日から10月27日まで放送されました。「月光仮面」などと同じく、TV版が先で、漫画はTVでのヒットを受けての漫画化です(「まぼろし探偵」は漫画が先)。
漫画「ナショナルキッド」一峰大二(原作:喜瀬川 実)昭和36年5月 ぼくら付録

ナショナルキッド02.jpg ヒーローが普段はそのことを隠して普通人として暮らしているのは、先行のTV番組「月光仮面」('58-'59年)、「まぼろし探偵」('59-'60年)(共にKRT(現TBS))などと同様ですが、月光仮面、まぼろし探偵が日常においては探偵であるのに対し、ナショナルキッドは、物故した世界的権威の科学者・旗博士の孫で、宇宙研究所所長を務めている青年・旗竜作が普段の姿という設定。しかし、実の正体は「3万光年彼方のアンドロメダからやってきたスーパーヒーロー」となっています(ここが、月光仮面、まぼろし探偵があくまでも"人間"であることとの大きな違い)。

ナショナルキッド 4.jpg 第1部の「インカ族の来襲」は、「地球人の無謀な核使用を止めさせるため」として、金星からインカ人が飛来、地球人を全滅させるために暗躍を始める―といった導入で始まりますが、ナショナルキッドは(どういう経緯か、既に第1回から"正義の味方"として大人にも子供にも認知済み)、金星どころか、3万光年彼方のアンドロメダ銀河からやってきたわけです。どこでそれが"旗博士の孫"という血縁関係になるのかよく分かりませんが、とにかく次元を超越する能力を持つということで、「3万光年の旅」に関してはあっという間だったのかも(但し、アンドロメダ銀河は実際には地球から約240万光年の距離に位置し、この辺りはややいい加減)。

 旗竜作が不意に現れた敵を追って草陰に飛び込んだかと思ったら、次の瞬間にはナショナルキッドに変身しているのも"光速技"でしょうか。いつも着替えを持ち歩いているのかと考えるのは"地球人"の野暮な発想なのでしょう。それでも、むしろ地球人としての服の方が"着替え"なのだろうかとか、つい色々考えてしまいます("光速"でズボンを脱ぐナショナルキッド?)。それぐらい、ウルトラマンやウルトラセブンに比べて身近に感じられる"宇宙人"です。

ナショナルキッド 2.jpg こちらが宇宙人ならば相手の金星インカ人も宇宙人であり(そうと言われないと宇宙人に見えない。「俺たちひょうきん族」のデビルマンのモデルか?)、金星インカ人が突然姿を消したり"壁抜け"したりすれば、ナショナルキッドも突然現れ"壁抜け"もこなす―これだけスゴイ能力を持っているのに、互いの格闘シーンは東映時代劇の殺陣みたいで、しかも「刀」ならぬ徒手空拳、「手刀」で相手と戦っているというのが微笑ましいです。互いに銃や火器も使いますが、相手に対する決定打にはならず、やはり毎回、後のナショナル劇場「水戸黄門」('69-'11年)に受け継がれたのではないかと思われるような大立ち回りになります。しかし、1話完結ではないので、金星インカ人たちは「今日は負けた、覚えとれ」と言って去っていく―「覚えとれ」という捨て台詞が、親日、親日本語の度合いの深さを物語っています。普通、宇宙人は使わないよ、こんな台詞―といった具合に、今は「突っ込み所」の多さで楽しめますが、当時は日本中の子供が観ていて視聴率は50%強、あの「鉄腕アトム」を抜いたそうです。

ナショナルキッド 小鳩・志村.jpgナショナルキッド 志村.jpg ナショナルキッドこと旗竜作を演じたのは小嶋一郎(第1、第2部)と巽秀太郎(第3、第4部)で、旗青年の助手・小畑尚子(通称チャコ)を志村妙子(当時16歳)が演じていますが、すでに堂々たる演技ぶりです。その前の「新・七色仮面」の最後の方に出ていた時は、本名の「太地喜和子」でクレジットされていましたが、ここでは太地喜和子ではなく「志村妙子」になっています。

ナショナルキッド 阿久津・本間.jpgナショナルキッド アウラ.jpg この第1回には、本間千代子(当時15歳)が金星インカ人に洗脳される山田博士の娘役で出ているほか、女優陣では旗青年に力を貸す科学者・水野博士の娘・良子(よしこ)役で阿久津克子(当時19歳)が最初から出ており、更に回が進むと、インカ金星人の隊長アウラ役で野川美子もタイツ姿で出てきます。
野川美子
          
ナショナルキッド  室田.jpgナショナルキッド 八名信夫.jpg 男優陣では、室田日出男が航空管制官役でチョイ役出演、八名信夫.jpg八名信夫がインカ金星人の一人に扮しています。八名信夫は、東映フライヤーズ(現:日本ハム)に投手として入団したものの故障で現役を引退して役者に転じた人で、入団した球団の親会社が東映だったのが縁だったのではないかと思われます。
室田日出男(航空管制官)/八名信夫(インカ金星人)

ナショナルキッド フルキャスト.jpg その他にも意外な俳優が出ていたりするようですが、クレジットに名前が殆ど出てこないので知りようがなく、そのことがマニアックなファンの間では探索ネタとなっているようです。

 個人的には、第1回から見られる戦闘機の飛行シーンなどの特撮は、テレビ番組としてはかなり水準が高いように思いました。その年の4月に創設されたばかりだった自衛隊の「ブルーインパルス」のアクロバット飛行の映像を組み入れたりもしているところは、局は異なりますが、「月光仮面」の戦車の走行シーンで、自衛隊の観閲式を映像に撮って織り交ぜたのと同じだなあと思ったけれど、特撮シーンと組み合わせつつ自然に見せている点に技術進化が窺えます。

ナショナルキッド03.jpg '14年現在DVD化されておらず(最初の頃は無かったけれど、途中から「明る~いナショナ~ル」のCMソングが入るようになったのが逆に仇になったのか?)、VHSで観ましたが、衛星放送「東映チャンネル」などでたまに放映されているようです(レア度で星半分オマケ)。

「ナショナルキッド(TV版・第1部:「インカ族の来襲」第1話)/謎の円盤来襲」●制作年:1960年●監督:赤坂長義●企画:佐藤正道/野坂和馬●脚本:谷井敬●撮影: 大島国正●音楽:深沢康雄●特撮監督:小池淳●原作:貴瀬川実●出演:小嶋一郎/志村妙子(太地喜和子)/斎藤紫香/阿久津克子/山口勇/宮下安夫/本間千代子/室田日出男●放送局:日本教育テレビ(NET、現テレビ朝日)●放送日:1960/08/04(評価:★★★☆)

ナショナルキッド1.jpgナショナルキッド2.jpg「ナショナルキッド」●監督:赤坂長義/小池淳/渡辺成男●脚本:谷井敬/宮川一郎●音楽:深沢康雄●原作:喜瀬川実/海野十三●出演:小嶋一郎/巽ナショナルキッド 出演者.png秀太郎/志村妙子(太地喜和子)/斎藤紫香/福島卓/木村英世/清水徹/岡田みどり/原一夫/亀井明/河合絃司/岩上瑛/山口勇/本間千代子/八名信夫/室田日出男/林宏●放ナショナルキッド  .jpg映:1960/08~1961/04(全39回)●放送局:日本教育テレビ(現テレビ朝日)

「ナショナルキッド」監督・小池淳(じゅん)氏インタビュー「ナショナルキッドうら話」
聞き手:池田憲章氏(フリーライター、編集者、プロデューサー)/花島優子氏

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平均視聴率40%、最高視聴率67.8%。低予算で作られた初期作品のテンポの緩さにレトロ感。

月光仮面 連続テレビ映画.jpg 月光仮面 vhs.jpg 月光仮面 バラダイ王国の秘宝編 dvd.jpg 月光仮面 DVD-BOX3 第2部 バラダイ王国の秘宝.jpg 月光仮面 DVD-BOX3 第2部 バラダイ王国の秘宝-後篇.jpg    
月光仮面 [VHS]」['99年](第二部 バラダイ王国の秘宝篇(全21話)第1話 姿なき殺人/第三部 マンモス・コング篇(全11話)第11話 悪は滅びる/第五部 その復讐に手を出すな篇(全14話) 第14話 天の裁きを収録「月光仮面 バラダイ王国の秘宝編 Disc1 [DVD] TVG-001」['06年]「月光仮面 DVD-BOX2 第2部 バラダイ王国の秘宝-前篇-」「月光仮面 DVD-BOX3 第2部 バラダイ王国の秘宝-後篇-」['08年] 

月光仮面 バラダイ王国の秘宝.jpg 滅亡したバラダイ王国の巨億の財宝の在り処を示す3つの「黄金の鍵」を得るため、王国に敵対したサタン一族の末裔「サタンの爪」が日本在住のアフナリカ・シャバナン殿下宅に押し入って殿下を殺害し、その1つを奪う。鍵の1つは既に「サタンの爪」が持っており、残る1つの在り処も知っているらしい。新聞でも事件は報じられたが、殿下の死は臥せられる。事件現場にいたお手伝いは、サタンの爪を見た恐怖から寝込んでしまい入院、祝探偵事務所の祝十郞(大瀬康一)らは警察と共に彼女から殿下がアルバムを大事にしていたと聞き出し、そのアルバムを調べてみると写真が1枚ない。そこにお手伝いの悲鳴が聞こえ、看護婦が「患者さんが大変です」と駆け込んでくる。祝らが慌てて病室に戻った時にはお手伝いは既に毒殺されていて、看護婦の姿は無かった―。

月光仮面.jpg 「月光仮面」は、KRT(現TBS)と宣弘社が制作し、1958(昭和33)年2月24日から1959(昭和34)7月5日まで放送されたテレビ冒険活劇で、第1部:「どくろ仮面篇」(71話)、第2部:「バラダイ王国の秘宝」(11話)、第3部:「マンモス・コング」(11話)、第4部:「幽霊党の逆襲」(13 話)、第5部:「その復讐に手を出すな」(14話)の全130話から成ります。第1部が放映回数が多く、そのは後減っているのは、第1部は「月金のベルト」で午後6時から10分番組として放映されていたものが第2部から日曜の午後6時からの30分番組となったためです(第3部の途中から午後7時のゴールデン・タイムにスライド)。劇画化もされましたが、あくまでTVの方が先です。
劇画「月光仮面」楠 高治(原作:川内康範)昭和35年7月 少年クラブ

月光仮面 祝十郎.jpg 原作は川内康範(1920-2008/享年88)、月光仮面(配役テロップの出演者のところで"月光仮面 ...?"と出る)の普段の姿である私立探偵・祝十郎は大瀬康一が演じ、その他に、祝探偵事務所の助手・袋五郎八、カボ子を谷幹一、久里千春(資料では日輪マコだが番組クレジットでは久里千春)らが演じています(シーズンによって配役が若干変動した)。

月光仮面  .jpg阿久悠2jpg.jpg 元々、前番組のスポンサーだった武田薬品が番組提供を降りるという話があり、広告代理店である宣弘社(現・電通アドギア)にとっては武田薬品の意向如何によらずその枠は"マストバイ"の状況となり、急遽プロダクションを設立し、番組制作にも乗り出したという経緯で(宣弘社は作詞家・阿久悠(1937-2007/享年70)が1959年の新卒入社から7年間コピーライターとして在籍した会社であり、「月光仮面」を製作していることが志望理由の1つだった)、結局、武田薬品は提供を継続したものの、製作費は超低予算に抑えられました。

月光仮面 大瀬康一.jpg 26歳の若手・船床定男(1932-1972/享年40)の監督への抜擢もそのためで、大瀬康一も当時は大部屋俳優。しかし、蓋を開ければ大人気番組となり、平均視聴率は40%、最高視聴率は67.8%(東京地区)を記録し、当初1クール(3ヵ月)で終わる予定が1年半続くことになりました。高視聴率は続いて「放送時間になると銭湯から子供たちの姿が消える」とまでも言われましたが、月光仮面のマネをして高所から飛び降りて怪我をする子供が相次いだために打ち切られたとのことです(一部では死者も出たとの話も)。大瀬康一は3年後に「隠密剣士」の主役に起用されます。

月光仮面 登場.jpg この第2部の最初あたりは、まだ低予算の影響が残っていて、室内シーンは宣弘社の社長の自宅を使ったりしたそうで、野外シーンもどこかの空き地で撮影したりしている感じで、月光仮面がコンクリート塀の脇から、それまでかくれんぼでもしていたかのように登場するといった緩いテンポ感です。これが第3部の「マンモス・コング」になるとテンポアップし、"身長15メートル"のコングが登場する関係からミニチュアを使った特殊撮影なども行われています(それでも、コングに対する自衛隊の出撃場面などは、自衛隊の観閲式や訓練に便乗して撮影するなどしたという。スタッフには節約癖が身についてしまっていた?)。作品の質としては後の方(第3部以降)がより洗練されているけれど、この第2部あたりのまったり感も悪くないと思います。

サタンの爪.jpg 「サタンの爪」(左写真)の容貌どくろ仮面.jpgは、とにかく顔がデカイという印象で、その上、第1部の「どくろ仮面」(右写真)とあまり変わり映えがしないのが可笑しいです。更に、その「サタンの爪」の名の由来である"爪"は、手袋に"付け爪"を張り付けただけのものに過ぎず、ここまでくると微笑ましい(?)。この「サタンの爪」は、殿下を襲う前に「黄金の鍵」の背景事情を視聴者に丁寧に説明してくれるし、月光仮面と出くわすごとに、お互いに相手を倒す機会であるのに、「いずれ決着をつける時が来るであろう」み川内康範.jpgたいな感じで先延ばししている―でも、これで、視聴者は「次回も観なくては」ということになっていったのだろなあ。川内康範って人は意外と長けたストーリーテラーだったのかもしれません。

川内康範 作詞家、脚本家、作家。(1920-2008/享年88)

 事件の推移を八卦見占いするカボ子にその「占い」の結果をマジで訊く五郎八、勝手に報道規制を敷いてしまう祝十郎(警察のコンサルタント的立場だからいいのか)、逃げた看護婦を(明らかに殺人犯なのに)誰も追わない警察、雨あられのように飛んでくる銃弾がかすりもしない月光仮面―と突っ込みどころ満載です(この"緩さ"にレトロ感が感じられて星半分オマケ)。

 こうなるとフィルムの保存状況が悪くて当初は映像ソフト化が難しいとされていた第1部「どくろ仮面篇」(デジタルリマスターの技術が進んでDVD化された)も観てみたくなりますが、第1部第1話「月光仮面現わる」はマスター・ネガが破棄されてしまって「幻の第1話」となっているとのこと。月光仮面:「バラダイ王国の秘宝」.jpgCSチャンネル「ファミリー劇場」でシリーズが再放映された際に、他話月光仮面第2部 バラダイ王国の秘宝.jpgからのカットや挿絵を組み合わせて、第1話を再現制作し(制作会社は東北新社)、吹き替えは大瀬康一が実際にアフレコを担当しましたが、53年の年月差は大きすぎるように思われ、「幻」は幻のままでいいような気もします。

「月光仮面(TV版・第2部:「バラダイ王国の秘宝」第1話)/姿なき殺人」●制作年:1958年●監督:船床定男●企画:小林利雄●脚本:川内康範●音楽:小川寛興●出演:大瀬康一/谷幹一/日吉よしやす/千葉隆三/久里千春/山田のり子/玉島精二/小川純/赤尾関三蔵/オレンジ河野●放送局:KRT(現TBS)●放送日:1958/05/25(評価:★★★☆)
月光仮面第2部 バラダイ王国の秘宝(3枚組) [DVD]」(2016/04)

月光仮面1.jpg月光仮面2.jpg「月光仮面」●演出:船床定男●制作:西村俊一●脚本:川内康範●音楽:小川寛興●原作:川内康範●出演:大瀬康一/谷幹一/布地由紀江/千葉隆三/高塔正康/日吉としやす/山田のり子/武藤英司/大塚周夫/十朱三郎/オレンヂ河野/小川純/高塔正康/久野四郎/河野有紀/小栗一也/高木新平●放映:1958/02~1959/07(全130回)●放送局:KRT(現TBS)

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「晩秋」と"裏返しの相似形"か。同じ手を使いながらも、ラストに女性の強さが感じられる。

映画 秋日和  dvd.jpg 映画 秋日和  ブルーレイ.png  映画 秋日和 女性3人.jpg
あの頃映画 秋刀魚の味 [DVD]」「「秋日和」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター [Blu-ray]

映画 秋日和  七回忌.jpg 亡き友・三輪の七回忌に集まった間宮(佐分利信)、田口(中村伸郎)、平山(北竜二)の3人は、未亡人の秋子(原節子)とその娘アヤ子(司葉子)と談笑するうち、年頃のアヤ子の結婚に話が至る。映画 秋日和  男3人.jpg3人は何とかアヤ子を結婚させようと動き始めるが、アヤ子は母親が一人になることが気がかりでなかなか結婚に踏み切れない。間宮の会社の後藤(佐田啓二)がアヤ子に似合いだと考えた3人は、アヤ子が嫁ぐ気になるためにはまず母親が再婚することが先決と考え、平山を再婚相手の候補として画策する。映画 秋日和  伊香保.jpgその動きを察したアヤ子は同僚の佐々木百合子(岡田茉莉子)に相談し、それを聞いて憤慨した百合子は間宮らを一堂に会させてやり込めるが、彼らの説明を聞いて百合子も納得し、母娘の結婚話が進むことになる。しかし秋子は娘と二人で出かけた伊香保温泉の宿で、自分は一人で生きていく決意だと伝え、娘の背中を押す―。

 小津安二郎監督の1960(昭和35)年製作作品で、「彼岸花」('58年)に続いての里見弴の原作であり、娘の結婚を巡る親子の感情のもつれと和解を淡々としたコメディタッチで描いています。

 なかなか結婚しない娘のことを気遣う親という、小津映画に繰り返し見られるモチーフを踏襲していますが、この作品では「親」が、「晩春」('49年)などで見られる「父親」ではなく「母親」になっていて、その母親を、「東京物語」で笠智衆の義理の娘を、「晩春」で笠智衆の実の娘を演じた原節子が演じているのが興味を引きます。

映画 秋日和 原2.jpg映画 秋日和 司.jpg 原節子は当時実年齢40歳にして45歳の未亡人秋子役で、娘役の司葉子は実年齢26歳で24歳のアヤ子を演じていますが、実年齢では14歳差ということになります。当時56歳の笠智衆が秋子の義兄(59歳)という設定であるため、「晩春」と比べると原節子が1世代上にスライドしたことになります。

 「晩秋」においてもこの「秋日和」においても、親の再婚話を前にして娘が「不潔よ」「汚らしい」などという場面がありますが、「晩秋」でそのセリフを言った原節子が、今度は娘・司葉子に言われる側に回っているわけです。その秋子が、再婚話に乗り気になったふりをして、アヤ子を嫁に行く気にさせるというのも、「晩秋」で笠智衆が再婚話に乗ったふりをして原節子演じる娘・紀子を嫁に行かせるのと"同じ手"を使っている訳で、言わば"裏返しの相似形"になっている点が興味深いです。

映画 秋日和 原.jpg 但し、「晩秋」のラストで笠智衆は、娘を嫁にやった後に家で独りになって林檎の皮を剥きながら深くうなだれますが、この作品の原節子演じる秋子は、娘の結婚式を終えてアパートに戻った後、独り静かに微笑を浮かべます。原節子が母親役を演じていることに注目が行きがちな作品ですが、「晩秋」と比べるとこの点が大きく異なるように思います。

 秋子に再婚の意思が無いことは本人が最初から言っていることですが、この"笑み"によって、それは確信として最初からあり、途中で揺らぐことも無かったのだと、個人的には感じられました。平山(北竜二)が、妻に先立たれて不自由し、自分が秋子の再婚相手として話が進んでいると勘違いして有頂天になった挙句に、アヤ子の結婚式では一人しおれていたのとは対極的で、小津安二郎はこの作品で、男と女の強さの違いを描いたかのようにも思います。

秋日和 司葉子 佐田啓二.jpgAkibiyori (1960) 2.jpg また、「晩秋」にも「秋刀魚の味」にも無い結婚式の場面がこの作品にあるのは、このアヤ子(司葉子)と後藤(佐田啓二)の結婚のみが、小津映画ではごく例外的に"幸せな結婚"として暗示されているためとの説もあるようです。個人的には、「お茶漬けの味」('52年)、「早春」('56年)などでもお馴染みのラーメン屋「三来元」で2人が並んでラーメンを食べる場面に、この先2人が上手くいくであろう予兆が示唆されているように思いました。

秋日和 司葉子.jpg映画 秋日和 岡田.jpg 名匠・小津の作品として気負って観たところで、話としては何てことない話のような気もしますが、司葉子を美しく撮っているほか、小津映画初出演の岡田茉莉子(当時27歳)の活き活きとした演技も印象的であり、特に百合子が秋子に会いに行く場面は、昭和前期型(原節子)と昭和後期型(岡田茉莉子)の異なる演出パターンが1つの場面に収まっているという点が興味深かったです。

秋日和 屋上から1.jpg秋日和 屋上から2.jpg 小津映画と言えば、鉄道の駅や走っている列車を映すところから始まるものが多いのですが(或いは作中に必ず駅や列秋日和9.jpg車が出てくる)、この作品は2年前に完成した東京タワーが冒頭に映し出されています。では列車は出てこないかというと、アヤ子や百合子が勤めるオフィスの屋上から東海道線が映し出されていました(その列車には、新婚旅行に向かう2人のかつての同僚が乗っている)。

 ローアングルは和室場面だけでなく、会社のオフィスでの場面もローアングルで撮っていたのだなあと改めて思わされましたが、そのオフィスの受付嬢役で出演していたのが、2年後に「秋刀魚の味」に主演することになる岩下志麻(当時19歳)でした。

映画 秋日和  チラシ.jpg IMDbの評価は「8.2」。海外でも高い評価を得ている作品と言えます。

Akibiyori(1960).jpg「秋日和」●制作年:1960年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●原作:里見弴●時間:128分●出演:原節子/司葉子/佐分利信/岡田茉莉子/佐田啓二/中村伸郎/北竜二/桑野みゆき/三宅佐分利信 秋日和.jpg邦子/沢村貞子/三上真一郎/渡辺文雄/高橋とよ/十朱久雄/南美江/須賀不二男/桜むつ子/笠智衆/田代百合子/設楽幸嗣/千之赫子/岩下志麻●公開:1960/11●配給:松竹(評価:★★★☆)

Akibiyori(1960)
A widow tries to marry off her daughter with the help of her late husband's three friends.

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ラストの会話がくすりと笑える。昭和のノスタルジーを感じさせる作品。

小津 安二郎 「お早う」tirasi.jpg 小津 安二郎 「お早う」dvd2.jpg 小津 安二郎 「お早う」dvd.jpgあの頃映画 松竹DVDコレクション 「お早よう」」(2013) 「「お早よう」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター [Blu-ray]」(2014)

 郊外の住宅地に長屋のように複数の家族が隣り合って暮らしている。林家の息子実(設楽幸嗣)と勇(島津雅彦)はテレビが欲しいと父・啓太郎(笠智衆)、母・民子(三宅邦子)の両親にねだるが、聞き入れてもらえない。男のくせに余計な口数が多いと啓太郎に叱られた子供たちは、要求を聞き入れてもらえるまで口を利かないというストライキを始める―。

 小津安二郎監督の第50作目にあたる作品(カラー第2作)で、初期作品「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」('32年)でも子供たちのストライキがあったことを思い出させます。「生れてはみたけれど」は子供の視点で始まって大人の視点に行き、最後は両者を統合するような感じで、その間に、大人の悲哀感と、それをうっすら感じる子供の成長のようなものがありましたが、こちらは専ら子供の視線であり、さほど悲哀感は無く、からっとしたコメディとなっています。

小津 安二郎 「お早う」父怒る.jpg 林家の子供たちは、先にテレビを自宅に入れている隣の丸山家にテレビを見に行きますが、1959(昭和34)年頃はそういうことがあちこちであったのだろなあと(因みに、テレビ画面の大相撲中継に出てくる栃錦は既に全盛期を過ぎていたが、昭和34年年3月場所で千秋楽に若乃花を破り「奇跡」と言われた復活優勝を遂げている)。

小津 安二郎 「お早う」テレビが来た.jpg 当時55歳の笠智衆が46歳の父親の役を演じていて、実年齢よりかなり若い役作りになっていますが、49歳の時に70歳の役を演じた「東京物語」('53年)で、息子の嫁を演じた三宅邦子と今度は夫婦役というのがやや強引な感じも。当時52歳の東野英治郎演じる啓太郎の「先輩」富沢が55歳で定年退職した後、何とか再就職が決まったのが家電セールスマンの仕事で、啓太郎は先輩へのご祝儀にテレビを買う―それが子供の要求を叶えることになるというほのぼのとした結末。つい先日まで、飲み屋で啓太郎と富沢がテレビを巡って大宅壮一の「一億総白痴化」論に便乗していたことからすると皮肉な結末とも言える?

小津 安二郎 「お早う」佐田・久我.jpg 民子の妹・節子(久我美子)は、勤めていた会社が潰れて失業中で近所の子供たちに英語を教えている福井平一郎(佐田啓二)の元へせっせと翻訳の仕事を届ける―というこの2人の仄かな恋愛感情がサイドストーリーの1つとしてあり、平一郎は林家の子供が口数が多いことを叱られて「大人だってコンチワ、オハヨウ、イイオテンキデスネ、余計なこと言ってるじゃないか」と反論したという話を節子から聞いて興味を抱き、そうした一見無駄であるような言葉が世の中の潤滑油になっているんだろうけれど、子供にはまだ解らないのだろうなあと節子に解説してみせる―その様子を、節子が帰った後に、同居の姉で自動車のセールスをしている加代子(沢村貞子)に、あなただって節子さんに肝腎なことは言わないで余計な話ばかりしているとたしなめられます。

お早よう ラスト.jpg その平一郎がラストで駅のホームで節子と偶然出会って、またしても挨拶と天気の話を繰り返しているのがくすりと笑えます。但し、2人の間に言葉が途切れて間があったと思ったら、平一郎が「あの雲は面白い形をしていますね」とか言い始めたのは、おいおい大丈夫かという感じも。まあ、優しい節子が相手だからともかく、普通だったら「見切られ時」ではないかという気もしなくはありませんでした。

小津 安二郎 「お早う」 佐田啓二.jpg 佐田啓二は当時32歳、5年後に自動車事故で亡くなっており(享年37歳)、一瞬、息子・中井貴一に似ているかなと思わせる部分がありますが、息子の方はもう50歳を超えているのだなあ。
 長屋風住宅街のロケ地は現在の多摩川緑地付近でしょうか。テレビ有りの丸山家の主人を演じているのは大泉滉、近所に鉛筆やゴム紐などを売り歩く押売りに殿山泰司など、懐かしい面々も。

Ohayô(1959).jpg 結局、「ウチはまだまだ」とか何やかや言いながらも、この後かなり短い年数の間にテレビは日本中の家庭に普及したわけで(昭和34年時点の普及率25%以下だったのに対し、昭和37年には約80%に)、近所の家にテレビを見いくというというようなことがあったのは限られた期間の現象ではなかったのかと思われます。どうってことない作品ですが、映像の隅々に昭和のノスタルジーを感じさせる作品です。

Ohayô(1959)
Two boys begin a silence strike to press their parents into buying them a television set.


 
小津 安二郎 「お早う」昭和.jpg小津 安二郎 「お早う」昭和2.jpg

 お早よう 杉村春子2.jpg お早よう 杉村春子.jpg 杉村春子 お早よう 東野英治郎.jpg 東野英治郎  

小津 安二郎 「お早う」笠・三宅・久我.jpg小津 お早う 大泉.jpg 大泉滉・泉京子夫婦の家の室内にあるポスターはルイ・マル「恋人たち」('59年4月日本公開)のもの 「お早よう」●制作年:1959年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:黛敏郎●時間:94分●出演:佐田小津 お早う 殿山.jpg啓二/久我美子笠智衆三宅邦子(左写真)/設楽幸嗣/島津雅彦/高橋とよ/杉村春子/沢村貞子/東野英治郎/長岡輝子/三好栄子/田中春男/大泉滉(中)/泉京子/殿山泰司(右)/佐竹明夫/諸角啓二郎/桜むつ子/千村洋子/須賀不二男●公開:1959/05●配給:松竹●最初に観た場所:ACTミニシアター(90-08-05)(評価:★★★☆)併映:「淑女は何を忘れたか」(小津安二郎) 

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「老成」とは子供への心理的依存を断つことか。義理の関係の方が美しく描かれているのが興味深い。
東京物語 小津 チラシ2.jpg東京物語 小津 dvd.jpg 東京物語 紀子のアパート.jpg   
「東京物語」 小津安二郎生誕110年・ニューデジタルリマスター 【初回限定版】 [Blu-ray]」(2013)
「東京物語」チラシ

 尾道に暮らす平山周吉(笠智衆)とその妻のとみ(東山千栄子)は20年ぶりに東京に出掛け、成人した子供たちの家を訪ねるが、長男の幸一(山村聰)も長女の志げ(杉村春子)も仕事が忙しくて両親にかまってやれない。寂しい思いをする2人を慰めたのが、東京物語 小津 ラスト.jpg戦死した次男の妻の紀子(原節子)であり、彼女は仕事を休んで、2人を東京の観光名所に連れて行く。周吉ととみは、子供たちからはあまり温かく接してもらえなかったが、それでも満足した様子を見せて尾道へ帰る。しかし、その数日後に、とみが危篤状態であるとの電報が子供たちの元に届く。子供たちが尾道の実家に到着した翌日未明に、とみは死去する。とみの葬儀が終わった後、志げは次女の京子(香川香子)に形見の品をよこすよう催促する。その上、紀子以外の子供たちは、葬儀が終わるとそそくさと帰ってしまい、京子は憤慨するが、紀子は義兄姉を庇って若い京子を諭す。紀子が東京に帰る前に、周吉は上京した際の紀子の優しさに感謝を表す。がらんとした部屋で周吉は独り静かな尾道の海を眺めるのだった―。

東京物語11.JPG 小津安二郎監督の代表作とされ、日本映画を代表する傑作とされていますが、世界的な評価も高く、2012年には、英国映画協会発行の「サイト・アンド・サウンド」誌が発表した、世界の映画監督358人が投票で決める最も優れた映画に選ばれています(同誌は小津監督が同作品で「その技術を完璧の域に高め、家族と時間と喪失に関する非常に普遍的な映画をつくり上げた」と評価した)。最初に観た当時は、そんなにスゴイ作品なのかなという印象もありましたが、何回か観ていくうちに、自分の中でも評価が高くなってきた感じで、世評に影響されたというよりも、年齢のせいかなあ(若い人でもこの作品を絶賛する人は多いが)。

左から山村聡、三宅邦子、笠智衆、原節子、杉村春子、東山千栄子

 老年と壮年、地方と大都会、大家族と核家族、ゆったりと流れる時間と慌ただしく流れる時間―といった様々な対立項の位相の中で幾度となく論じられてきた作品ですが、小津自身は「親と子の成長を通して日本の家族制度がどう崩壊するかを描いてみた」と述懐しています。

甘えの周辺292.JPG土居健郎.png 個人的には、『甘えの構造』('71年/弘文堂)で知られた精神科医・土居健郎(1920-2009)が『「甘え」の周辺』('83年/弘文堂)でこの作品について書いていた論考がしっくりきました("論考"と言うより"感想"に近いもので、そう難しいことを言っているわけではないが)。
 土居健郎はその本の「老人と心の健康」という章で、「ある映画から」としてこの作品のストーリーを丁寧に紹介したうえで、「子どもは成長するときに、親と同一化する」(親を見習って成長する)が、「老人になると、どうも逆になるらしい」とし、今度は老人が子供に同一化することで、「この世におさらばする前に、子どもを通してもういっぺん人生をおさらいするのである」としています。その上で、この映画の場合、忙しそうにしている長男夫婦を見ると、それを見て両親たちは、自分たちが来て嬉しいことは嬉しいのだろうが、一方で邪魔になっていることも分かる―但し、自分たちも若い頃は同じだったではないかという思いがあるからこそ、両親たちはそれを責めないのではないかと。

東京物語 熱海.jpg 長女(杉村春子)の勧めで熱海に行って、旅館の部屋が麻雀部屋の真下で寝付かれなかったなど散々な目に遭って帰ってきたけれど、お金を出したのは子供達なので文句も言えず、逆に早く帰って来たことで文句を言われる始末だが、「宿無しになってしもうたなあ」とか言いながらも、それぞれ友達(十朱久雄・東野英治郎)の所と次男の未亡人(原節子)のアパートへと行く―。

 「人間欲を言えばきりがないからのう」と周吉(笠智衆)は言っていますが、両親が子供たちに失望させられたのは確かであるとしても、そこで子供たちは自分達とは異なる別の人格や生活を持った一個人であることを認識したことで、老夫婦も成長していると筆者(土居)は捉えているようです。

東京物語 小津 アパート.jpg この点について土居健郎は、映画評論家・佐藤忠男氏の「小津安二郎は、大人になることは、親に対して他人になっていくことである、と言おうとしているようだ」との指摘を非常に鋭いものとして評価しています(因みに、佐藤忠男の『完本・小津安二郎の芸術』(朝日文庫)は、小津映画に見られる「甘え」をしばしば指摘している。『小津安二郎の芸術』の単行本(朝日新聞社)の初版は1971年の刊行であり、これは『甘えの構造』の初版と同じ年である)。

 その上で筆者(土居)は、老人は老いて子供に依存的にならざるを得ない状況になる場合があるが、経済的に依存することがあっても心理的な依存からは離れていくべきであって、それが「老成・老熟」ということではないかとしています。

 一方で、この映画では、実の親子の関係と比べ、老夫婦と次男の未亡人(原節子)との関係は美しく描かれており、義理同士の関係の方が実の親子の関係より遥かに良い関係として描かれていることがこの作品の興味深い特徴かと思われます。

 この点について土居健郎は、義理の関係の方がお互いに遠慮があるために、我儘を言わずに良い関係が構築されることがあるとしています(土居は、グリム童話の「シンデレラ物語」の、姉妹の中で唯一心根の優しい娘シンデレラが"継子"であったことを指摘している)。

東京物語 小津 笠・原.jpg この映画で笠智衆は実年齢49歳にして70歳の平山周吉を演じたわけですが、その「老成」を演じ切っているのは見事。原節子演じる東京物語 小津 原号泣.jpg紀子がラスト近くで自分の複雑な思いを周吉に打ち明けて号泣する場面は名シーンとされていますが、紀子の全てを受け止める周吉の態度との相互作用からくる場面状況としての美しさと言えるのでは。
 「義理の関係の方がお互いに遠慮があるために、我儘を言わずに良い関係が構築されることがある」と土居健郎に言われてみれば、原節子はうっ伏して号泣するのではなく、こみ上げるものを抑えるような感じで泣いていて、この"節度"がこの作品の美しさを象徴していると言えるのかもしれません。

『東京物語』原節子、香川京子.gif 2013年が小津安二郎の生誕100周年だったため、貴田庄 著 『小津安二郎と「東京物語」』(ちくま文庫)梶村啓二 著 『「東京物語」と小津安二郎』(平凡社新書)など何冊か関連本が刊行されています。この辺りも機会があれば読んでみようかと思っています。


原節子/香川京子

東京物語21.jpg

Tôkyô monogatari(1953)
Tôkyô monogatari (1953).jpg An old couple visit their children and grandchildren in the city; but the children have little time for them.

        
Poster for Yasujiro Ozu Season at BFI Southbank.jpgPoster for Yasujiro Ozu Season at BFI Southbank (1 January - 28 February 2010)

東京物語 笠・東野.jpg東京物語 0.jpg「東京物語」●制作年:1953年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧/小津安二郎●撮影:厚田雄春●音楽:斎藤高順●時間:136分●出演:笠智衆/東山千榮子/原節子/香川京子/三宅邦子/杉村春子中村伸郎/山村聰/大坂志郎/十朱久雄/東野英治郎/長岡輝子/高橋豊子/桜むつ子/村瀬禪/安部徹/三谷幸子/毛利充宏/阿南純子/水木涼子/戸川美子/糸川三鷹オスカー.jpg三鷹オスカー  (2).jpg三鷹オスカー ー.jpg和広●公開:1953/11●配給:松竹●最初に観た場所:三鷹オスカー(82-09-12)(評価:★★★★☆)●併映:「彼岸花」(小津安二郎)/「秋刀魚の味」(小津安二郎)
三鷹オスカー 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

《読書MEMO》
Sight & Sound誌オールタイム・ベスト2012年版.jpg"Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)の上位100作品
[姉妹版:同誌映画批評家によるオールタイム・ベスト50 (The Top 50 Greatest Films of All Time)(2012年版)
Sight & Sound誌オールタイム・ベスト2012.jpg 1位:『東京物語』"Tokyo Story"(1953/日) 監督:小津安二郎
 2位:『2001年宇宙の旅』"2001: A Space Odyssey"(1968/米・英) 監督:スタンリー・キューブリック
 2位:『市民ケーン』"Citizen Kane"(1941/米) 監督:オーソン・ウェルズ
 4位:『8 1/2』"8 1/2"(1963/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 5位:『タクシー・ドライバー』"Taxi Driver"(1976/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 6位:『地獄の黙示録』"Apocalypse Now"(1979/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 7位:『ゴッドファーザー』"The Godfather"(1972/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 7位:『めまい』"Vertigo"(1958/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 9位:『鏡』"Mirror"(1974/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 10位:『自転車泥棒』"Bicycle Thieves"(1948/伊) 監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
 11位:『勝手にしやがれ』"Breathless"(1960/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 12位:『レイジング・ブル』"Raging Bull"(1980/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 13位:『仮面/ペルソナ』"Persona"(1966/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 13位:『大人は判ってくれない』"The 400 Blows"(1959/仏) 監督:フランソワ・トリュフォー
 13位:『アンドレイ・ルブリョフ』"Andrei Rublev"(1966/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 16位:『ファニーとアレクサンデル』"Fanny and Alexander"(1984/スウェーデン)監督:イングマール・ベルイマン
 17位:『七人の侍』"Seven Samurai"(1954/日) 監督:黒澤明
 18位:『羅生門』"Rashomon"(1950/日) 監督:黒澤明
 19位:『バリー・リンドン』"Barry Lyndon"(1975/英・米) 監督:スタンリー・キューブリック
 19位:『奇跡』"Ordet"(1955/ベルギー・デンマーク) 監督:カール・ドライヤー
 21位:『バルタザールどこへ行く』"Au hasard Balthazar"(1966/仏・スウェーデン) 監督:ロベール・ブレッソン
 22位:『モダン・タイムス』"Modern Times"(1936/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 22位:『アタラント号』"L'Atalante"(1934/仏) 監督:ジャン・ヴィゴ
 22位:『サンライズ』"Sunrise: A Song of Two Humans"(1927/米) 監督:F・W・ムルナウ
 22位:『ゲームの規則』"La Règle du jeu"(1939/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 26位:『黒い罠』"Touch Of Evil"(1958/米) 監督:オーソン・ウェルズ
 26位:『狩人の夜』"The Night of the Hunter"(1955/米) 監督:チャールズ・ロートン
 26位:『アルジェの戦い』"The Battle of Algiers"(1966/伊・アルジェリア) 監督:ジッロ・ポンテコルヴォ
 26位:『道』"La Strada"(1954/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 30位:『ストーカー』"Stalker"(1979/ソ連) 監督:アンドレイ・タルコフスキー
 30位:『街の灯』"City Lights"(1931/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 30位:『情事』"L'avventura"(1960/伊) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 30位:『フェリーニのアマルコルド』"Amarcord"(1973/伊・仏) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 30位:『奇跡の丘』"The Gospel According to St Matthew"(1964/伊・仏) 監督:ピエロ・パオロ・パゾリーニ
 30位:『ゴッドファーザー PartⅡ』"The Godfather Part II"(1974/米) 監督:フランシス・フォード・コッポラ
 30位:『炎628』"Come And See"(1985/ソ連) 監督:エレム・クリモフ
 37位:『クローズ・アップ』"Close-Up"(1990/イラン) 監督:アッバス・キアロスタミ
 37位:『お熱いのがお好き』"Some Like It Hot"(1959/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 37位:『甘い生活』"La dolce vita"(1960/伊) 監督:フェデリコ・フェリーニ
 37位:『裁かるゝジャンヌ』"The Passion of Joan of Arc"(1927/仏)  監督:カール・ドライヤー
 37位:『プレイタイム』"Play Time"(1967/仏) 監督:ジャック・タチ
 37位:『抵抗(レジスタンス)/死刑囚の手記より』"A Man Escaped"(1956/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 37位:『ビリディアナ』"Viridiana"(1961/西・メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 44位:『ウエスタン』"Once Upon a Time in the West"(1968/伊・米) 監督:セルジオ・レオーネ
 44位:『軽蔑』"Le Mépris"(1963/仏・伊・米) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 44位:『アパートの鍵貸します』"The Apartment"(1960/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 44位:『狼の時刻』"Hour of the Wolf"(1968/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 48位:『カッコーの巣の上で』"One Flew Over the Cuckoo's Nest"(1975/米) 監督:ミロス・フォアマン
 48位:『捜索者』"The Searchers"(1956/米) 監督:ジョン・フォード
 48位:『サイコ』"Psycho"(1960/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 48位:『カメラを持った男』"Man with a Movie Camera"(1929/ソ連) 監督:ジガ・ヴェルトフ
 48位:『SHOAH』"Shoah"(1985/仏) 監督:クロード・ランズマン
 48位:『アラビアのロレンス』"Lawrence Of Arabia"(1962/英) 監督:デイヴィッド・リーン
 48位:『太陽はひとりぼっち』"L'eclisse"(1962/伊・仏) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 48位:『スリ』"Pickpocket"(1959/仏) 監督:ロベール・ブレッソン
 48位:『大地のうた』"Pather Panchali"(1955/印) 監督:サタジット・レイ
 48位:『裏窓』"Rear Window"(1954/米) 監督:アルフレッド・ヒッチコック
 48位:『グッドフェローズ』"Goodfellas"(1990/米) 監督:マーティン・スコセッシ
 59位:『欲望』"Blow Up"(1966/英) 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
 59位:『暗殺の森』"The Conformist"(1970/伊・仏・西独) 監督:ベルナルド・ベルトルッチ
 59位:『アギーレ 神の怒り』"Aguirre, Wrath of God"(1972/西独) 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク
 59位:『ガートルード』"Gertrud"(1964/デンマーク) 監督:カール・ドライヤー
 59位:『こわれゆく女』"A Woman Under the Influence"(1974/米) 監督:ジャン・カサヴェテス
 59位:『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』"The Good, the Bad and the Ugly"(1966/伊・米) 監督:セルジオ・レオーネ
 59位:『ブルー・ベルベット』"Blue Velvet"(1986/米) 監督:デイヴィッド・リンチ
 59位:『大いなる幻影』"La Grande Illusion"(1937/仏) 監督:ジャン・ルノワール
 67位:『地獄の逃避行』"Badlands"(1973/米) 監督:テレンス・マリック
 67位:『ブレードランナー』"Blade Runner"(1982/米) 監督:リドリー・スコット
 67位:『サンセット大通り』"Sunset Blvd."(1950/米) 監督:ビリー・ワイルダー
 67位:『雨月物語』"Ugetsu monogatari"(1953/日) 監督:溝口健二
 67位:『雨に唄えば』"Singin'in the Rain"(1951/米) 監督:スタンリー・ドーネン & ジーン・ケリー
 67位:『花様年華』"In the Mood for Love"(2000/香港) 監督:ウォン・カーウァイ
 67位:『イタリア旅行』"Journey to Italy"(1954/伊) 監督:ロベルト・ロッセリーニ
 67位:『女と男のいる舗道』"Vivre sa vie"(1962/仏) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 75位:『第七の封印』"The Seventh Seal"(1957/スウェーデン) 監督:イングマール・ベルイマン
 75位:『隠された記憶』"Hidden"(2004/仏・オーストリア・伊・独) 監督:ミヒャエル・ハネケ
 75位:『戦艦ポチョムキン』"Battleship Potemkin"(1925/ソ連) 監督:セルゲイ・エイゼンシュテイン
 75位:『M』"M"(1931/独) 監督:フリッツ・ラング
 75位:『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』"There Will Be Blood"(2007/米) 監督:ポール・トーマス・アンダーソン
 75位:『シャイニング』"The Shining"(1980/英) 監督:スタンリー・キューブリック
 75位:『キートンの大列車追跡』"The General"(1926/米) 監督:バスター・キートン & クライド・ブラックマン
 75位:『マルホランド・ドライブ』"Mulholland Dr."(2001/米) 監督:デイヴィッド・リンチ
 75位:『時計じかけのオレンジ』"A Clockwork Orange"(1971/米) 監督:スタンリー・キューブリック
 75位:『不安と魂』"Fear Eats the Soul"(1974/西独) 監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー
 75位:『ケス』"Kes"(1969/英) 監督:ケン・ローチ
 75位:『ハズバンズ』"Husbands"(1975/米) 監督:ジョン・カサヴェテス
 75位:『ワイルドバンチ』"The Wild Bunch"(1969/米) 監督:サム・ペキンパー
 75位:『ソドムの市』"Salo, or The 120 Days of Sodom"(1975/伊・仏) 監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
 75位:『JAWS/ジョーズ』"Jaws"(1975/米) 監督:スティーヴン・スピルバーグ
 75位:『忘れられた人々』"Los Olvidados"(1950/メキシコ) 監督:ルイス・ブニュエル
 91位:『気狂いピエロ』"Pierrot le fou"(1965/仏・伊) 監督:ジャン=リュック・ゴダール
 91位:『アンダルシアの犬』"Un chien andalou"(1928/仏) 監督:ルイス・ブニュエル
 91位:『チャイナタウン』"Chinatown"(1974/米) 監督:ロマン・ポランスキー
 91位:『ママと娼婦』"La Maman et la putain"(1973/仏) 監督:ジャン・ユスターシュ
 91位:『美しき仕事』"Beau Travail"(1998/仏) 監督:クレール・ドゥニ
 91位:『オープニング・ナイト』"Opening Night"(1977/米) 監督:ジョン・カサヴェテス
 91位:『黄金狂時代』"The Gold Rush"(1925/米) 監督:チャーリー・チャップリン
 91位:『新学期・操行ゼロ』"Zero de Conduite"(1933/仏) 監督:ジャン・ヴィゴ
 91位:『ディア・ハンター』"The Deer Hunter"(1977/米) 監督:マイケル・チミノ
 91位:『ラルジャン』"L' argent"(1983/仏・スイス) 監督:ロベール・ブレッソン

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「インテレクチュアルな好奇心」(五木寛之)を満たす傑作。

点と線―長編推理小説 (1958年).jpg点と線 カッパノベルズ2.JPG 点と線.png
カッパ・ノベルズ(1960/1973) 『点と線―長編推理小説 (カッパ・ノベルス)

点と線―長編推理小説 (1958年)

 汚職事件の摘発が進行中の某省の課長補佐・佐山憲一(31)と、料理屋女中・お時(本名:桑山秀子)の死体が九州の香椎海岸で発見される。2人の死は情死との見解が強まるが、佐山の遺留品の中から、東京から九州方面へ向かう特急「あさかぜ」号の中で発行された「御一人様」の列車食堂のレシートが残っていたことに、地元警察のベテラン刑事・鳥飼重太郎が疑問を抱く。警視庁捜査2課の警部補・三原紀一も現地を訪れ、捜査が進む。実務者の佐山は汚職事件の鍵を握る人物であり、検察は佐山に確認したいことが多くあり、また、佐山の死で"利益を得る"上役官僚が複数いた。その中に、汚職事件の中心にある某省の部長・石田芳男(50)がおり、捜査線上に、某省に出入りする機会工具商・安田辰郎が上がる。佐山とお時の間の繋がりが認められず、三原は2人が青酸カリを飲んだ前後の点と線 4.jpg安田の足取りを追う。すると、2人が青酸カリを飲んだ翌日の夜に、安田が仕事で北海道の小樽に行き、そこで取引先の業者と会っていた。東京から青森へ向かう特急列車や、北海道へ渡る青函連絡船でも、安田がいたことの証言や、乗車記録が残っている。2人が青酸カリを飲んだ夜に安田が九州にいることは物理的に不可能に思えたが、航空機を利用すれば、安田が業者に会う前に九州から北海道に着くことが可能なことに三原は気付く。しかし、安田は該当する便に乗っておらず、乗客全員を当たって偽名などがないか裏付けを取るが、全員がその便に乗っていたことが判明し、捜査は難航する―。

 松本清張(1909‐1992)のあまりにも有名な長編推理小説で、雑誌「旅」の1957(昭和32)年2月号から1958(昭和33)年1月号に連載され、加筆訂正の上、1958年2月に光文社から単行本刊行されていますが、連載当時は、同時期に「週刊読売」に連載されていた『眼の壁』に比べて反響は少なく、作者自身から「病気のため休載にしてほしい」との申し出が「旅」の編集者にあったのを、編集者が「休載するなら『眼の壁』など、他の全ての連載を休載にしてもらう」と迫ったため、結局休載することなく連載が続けられたとのことです。
東京駅の13番線ホームに立つ松本清張[朝日新聞デジタル]
松本清張00.jpg 東京から博多まで夜行列車で20時間ほどかかった時代の話であることを念頭に読む必要はありますが、安田が、自分が東京駅の13番線プラットフォームで料亭「小雪」の女中2人に見送られる際に、向かいの15番線プラットフォームにお時が男性と夜行特急列車「あさかぜ」に乗り込むところを見たという他の目撃者付き証言に対時間の習俗 カッパノベルス.jpgして、13番線から15番線に停まっている「あさかぜ」を見通せるのは17時57分から18時01分までの4分間しかないことが判り、三原は、逆にこの「空白の4分間の謎」から安田に対する嫌疑が確信に近いものとなり、安田が航空機を使ったのではないかというアリバイのトリックを思い立つ(この"移動"トリックは、'61年発表の『点と線』の姉妹編とも言える時間の習俗でも使われている)という展開は、すんなり腑に落ちるものでした(しかし、この後も多くの推理の壁が三原の前に立ちはだかる)。

 今手元にあるのはカッパ・ノベルズの昭和48年発行版で、「香椎海岸」や「青函連絡船」など10枚の写真が収められていてシズル感を高めているほか、冒頭には「東京駅構内で取材する松本清張氏」の写真もあります。

 また、巻末には、昭和44年に行われた、この作品を巡る荒正人・尾崎秀樹の2人の対談があり、その中で、作家の五木寛之氏が、「松本清張氏はプロレタリアート・インテリゲンチャとして成熟した稀有な例」だとし、「その文学はプロレタリアートの怨念とインテレクチュアルな好奇心をバネとしている」と言っていることを取り上げています。"プロレタリアート・インテリゲンチャ"という表現に対して荒正人・尾崎秀樹両氏の間で距離感の違いはあるものの(荒正人は、夏目漱石の本が明治・大正・昭和の時代をかけて1000万部読まれてきたのに対し、松本清張はこの数字に僅か10年で到達してしまったことを取り上げ、大衆社会の中で"米の飯"のような必需品のような読まれ方をしてきたと指摘している)、当時発行部数7000万部だったカッパ・ノベルズの内1000万部が清張作品だったというのはスゴイことだと思いました。

点と線 ラスト.jpg この作品は、『ゼロの焦点』や『砂の器』などの作者の他の代表作に比べると、「インテレクチュアルな好奇心」を満たすウェイトの方が高いように思われ、その点では無駄が少なく、一方、作者が昭和30年代に初めて「社会派推理というジャンルを築いた」という説明の流れの中で紹介される作品としては、"社会派"の部分はやや希薄な印象も受けます。但し、作中で殆ど姿を見せない安田の妻・亮子(最終的には自らの死も心中に見せかけたと推察され、自らも含む2度の"心中偽装"を行ったことになる)の造型は、抑圧された女性の怨念を描いて巧みな後の清張作品の、ある種「原点」的な位置づけにあると言えるかもしれません。
映画「点と線」(1958) 監督:小林恒夫

点と線 テレビ朝日 1シーン.jpg この作品は、「テレビ朝日」開局50周年記念ドラマスペシャルとして2007年11月24日と25日2夜連続で放送されていますが、ビートたけしが鳥飼重太郎を演じることで、三原より鳥飼の方が事件解明の中心になっていて(原作では三原は鳥飼から幾つかの示唆を得ながらも自分で事件を解明する)、かなり原作とは異なった印象を受けました。これまで何度も映像化されているのであればこうした改変もあっていいのかもしれませんが、テレビドラマとしては初の映像化だったので、ストレートに原作をなぞって欲しかった気もします。
テレビ朝日「点と線」(2007) 監督:石橋冠

点と線 チラシ.jpg点と線.jpg 小林恒夫監督による映画化作品('58年/東映)は、高峰三枝子、山形勲といったベテランはともかく、三原刑事役の南廣が映画初出演ということもあり(元々はジャズドラマーだった)、演技がややぎこちないことが、映画そのものがイマイチだった印象に繋がっています。映画の出来はともかく、原作が、これもまた『ゼロの焦点』同様「社会派推理」であると同時に、『ゼロの焦点』以上にトリックの占めるウェイトが高いものであったことを改めて認識させられるものでした。

映画「点と線」(1958) 監督:小林恒夫/主演:高峰三枝子、山形勲

「点と線」 ポスター.jpg「点と線」 ポスター2.jpg「点と線」●制作年:1958年●監督:小林恒夫●企画:根津昇 ●脚本:井手雅人●撮影:藤井静●音楽:木下忠司●原作:松本清張「点と線」●時間:85分●出演:南廣/高峰三枝子/山点と線 志村喬.jpg点と線 加藤嘉.jpg点と線_m.jpg点と線 DVD.jpg形勲/加藤嘉志村喬/三島雅夫/堀雄二/河野秋武/奈良あけみ映画 「点と線」(1958年/東映) .jpg/小宮光江/月丘千秋/楠トシエ/風見章子/織田政雄●劇場公開:1958/11●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸地下(88-01-23) (評価★★★)●併映:「黄色い風土」(石井輝男)/「黒い画集・あるサラリーマンの証言」(堀川弘通)

映画 「点と線 [DVD]」(1958年/東映) 
           

点と線 ビートたけし6.jpg点と線 ビートたけし.jpg「点と線」●監督:石橋冠●制作:五十嵐文郎●脚本:竹山洋●音楽:坂田晃一●原作:松本清張●出演:ビートたけし/高橋克典/内山理名/小林稔侍/樹木希林/原沙知絵/大浦龍宇点と線 テレビ朝日 2.jpg一/平泉成/本田博太郎/金児憲史/名高達男/大鶴義丹/竹中直人/橋爪功/かたせ梨乃/坂口良子/小野武彦/高橋由美子/宇津井健/池内淳子/江守 徹/市原悦子/ 夏川結衣/柳葉敏郎●放映:2007/11(全2回)●放送局:テレビ朝日
ビートたけし×松本清張 点と線 [DVD]


週刊 松本清張 【創刊号】 点と線.jpg点と線 文春文庫.jpg松本 清張 『点と線』 新潮文庫.jpg 【1958年単行本・1960年ノベルズ版・1968年カッパ・ノベルズ改版/1971年文庫化・1993年改版[新潮文庫]/2009年再文庫化[文春文庫]】

点と線 (新潮文庫)

   
点と線―長篇ミステリー傑作選 (文春文庫)
 


週刊『松本清張』 1号 点と線 (デアゴスティーニコレクション)」デアゴスティーニ・ジャパン (2009/10)

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群像活劇。配役の"混乱"が作品の"混沌(カオス)"的雰囲気と重なった。

仁義なき戦い dvd.jpg   女奴隷船 dvd.jpg
仁義なき戦い [DVD]」/「仁義なき戦い」テーマ(津島利章)/「女奴隷船 [DVD]

 広能昌三(菅原文太)は復員後、遊び人の群れに身を投じていたが、山守組々長・山守義雄(金子信雄)はその度胸と気風の良さに感心し、広能を身内にする。まだ小勢力だった山守組は、土居組との抗争に全力を注ぐ。その土居組を破門された若頭・若杉(梅宮辰夫)が山守組に加入し、若杉による土居(名和宏)殺害計画が進む―。 

 「仁義なき戦い」シリーズの作曲家の津島利章の訃報が入ってきました(1936-2013.11.25/享年77)。キネマ旬報が'09(平成21)年に実施した「オールタイム・ベスト映画遺産200(日本映画編)」で、歴代第5位という上位にランクされた作品ですが、個人的にはあの作品で最も印象に残ったのはテーマ曲だったかも。

 内容的には、任侠道を美化して描くそれまでの"時代劇風の舞台演劇"っぽいヤクザ映画から、ヤクザの行動原理も結局は金と権力に拠るという視点に立った、"リアルな群像活劇"へのターニングポイントとなった作品と言われていますが、裏切りに続く裏切りの一方で、主人公の広能だけは、従来の任侠道を貫く者として美化されているような感じで、やや矛盾を感じなくもありません。但し、そのことが作品としての救いにもなっています。「その他大勢」はストレートに「我欲に忠実」な人々とでも言うべきでしょうか。そうした点も含め、深作欣二の作品の中では、その演出力が最も発揮された作品だと思います。

梅宮辰夫の若杉.jpg仁義なき戦いAL_.jpg仁義なき戦い5_AL_.jpg 「仁義なき戦い 広島死闘篇「('73年)、「仁義なき戦い 代理戦争」('73年) 、「仁義なき戦い 頂上作戦('74年)、「仁義なき戦い 完結篇」('74年)も続けて観ましたが、広能の他にも、松方弘樹演じる板井や梅宮辰夫演じる若杉などサブヒーロー的な登場人物がいることはいるのですが、彼らは皆、第1話のこの作品の中で死んでしまいます。
獄中の広能(菅原文太)を訪ねる若杉(梅宮辰夫)

 シリーズの後の方になると、死んだ人物の役を演じた俳優がまた別の役で出てくるので、観ていて奇妙な感じがします。梅宮辰夫の若杉などは結構キーパーソンなのですが、第3話の「代理戦争」で早々に別の役で出てきます(渡瀬恒彦も然り)。しかも、ストーリー的には、この第3話が第1話の続編となっているのでややこしい。松方弘樹は第4話「頂上作作戦」で別の役で登場、第5話「完結篇」でさらに別の役で出てきます。

「仁義なき戦い」73.jpg 準主役級でさえそうですから、主に殺され役である川谷拓三などは第1話から第5話まで全部異なる役で登場、一方で、小林旭は第3話から第5話まで、山城新伍は第2話から第5話まで同じ役で出ていたりもします。流れとしては、誰か特定の個人の生き様を追うというよりは、次第に"群像活劇"の色合いを濃くしていくという感じでしょうか(広能が結構長く刑務所に入っている期間があって、必ずしも毎回は表舞台に出てはこないということもある)。
「仁義なき戦い」('73年)

 個人的には、配役から受ける"混乱"が、そのまま、作品の"混沌(カオス)"的雰囲気と重なりました。その他、千葉真一(第2話)、北大路 欣也(第2話・第5話)、丹波哲郎(第3話、写真のみ)、宍戸錠(第5話)といった面々も登場します。因みに第5話「完結篇」は、当初4話で終わる予定が、シリーズ続行でオマケ的に作られた作品です。

吉祥寺東映.jpg このシリーズを通しで観た「吉祥寺東映」は、当時は座席数の割には狭い映画館で、「仁義なき戦い」上映時は満席で立ち見も出る状態でした。但し、席にアルプス・スタンドのようなかなり急勾配の段差が設けられていたので、前の人が邪魔になるということはありませんでした。東宝配給の「もののけ姫」('97年)の吉祥寺地域での上映誘致を契機に、'96年7月に館名を「吉祥寺プラザ」に変えていますが、久しく行っていないけれど、今どんな感じなのか。
吉祥寺東映 1978(昭和53)年に吉祥寺駅北方面・五日市街道沿いにオープン、1996年7月~吉祥寺プラザ

「女奴隷船」(新東宝)1.jpg 菅原文太は、'60(昭和35)年の正月映画「女奴隷船」(新東宝)に26歳で主演しています。この作品は舟崎淳の「お唐さん」を基にした和風海洋アドベンチャー(?)で、これ、昭和20年初頭の時代設定なのですが(「仁義なき戦い」と大差ない)、日本女性を上海まで運んでセリにかけて売り飛ばす「お唐さん船」というものがストーリー背景となっています。

「女奴隷船」(新東宝)2.jpg菅原文太 「女奴隷船」.jpg 善玉主人公が菅原文太で(この頃は何となく的場浩司と似ている)、悪役は丹波哲郎(この人は昔からこんな感じだったんだなあと)、女優陣は新東宝のセクシー看板女優・三原葉子に、この映画を撮った小野田嘉幹監督と結婚することになる三ツ矢歌子など。

「女奴隷船」(新東宝)3.jpg 菅原文太は丹波哲郎とのアクション対決を演じたりしましたが、う~ん、スゴイ「B級」の冒険アクション&お色気映画。ダサいセットが微笑ましく、但し、東映風のミニチュア特撮を駆使したりしている努力は買えます。音楽は、東大文学部卒心理学科卒で作曲家になった渡辺宙明(1925年生まれ)です。
三原葉子/三ツ矢歌子

女奴隷船l2.jpg 丹波哲郎の海賊の統領役はあまりに漫画チックで笑女奴隷船 1シーン.jpgえますが(洋画の影響?)、これでも作品全体としては新東宝作品群の中では相対的にみてゴージャスな方女奴隷船il2.jpgと言ってよく(この作品は'60年の新東宝のお正月映画であり、新東宝は翌'61年に倒産する)、三原葉子三原葉子のベリーダンス.jpgベリーダンスもどきの踊り(これも洋画の影響?)が見ることができるなど、「珍品」的意味合いで星1個オマケという感じ大井武蔵野館 閉館日2.jpg大井武蔵野館 閉館日22.jpgでしょうか(大井武蔵野館って変わった作品を上映していた)。
大井武蔵野館 1999(平成11)年1月31日閉館

 菅原文太は、新東宝の経営が倒産して東映に移籍してからは10年間くらい「雌伏の時」がありましたが(というと聞こえはいいが、セリフさえない端役時代が長らくあった)、やがて徐々に頭角を現し、この「仁義なき戦い」シリーズでブレイク、この人、東北出身ですが(井上ひさしの「吉里吉里人」の映画化権を持っている)、どうしても「仁義なき戦い」のイメージがあって「じゃけんの~」という広島弁の方が似合ってしまう役者です。

Jingi naki tatakai (1973)
Jingi naki tatakai (1973) .jpg「仁義なき戦い」1973年.jpg仁義なき戦い 1973年1月13日公開.jpg「仁義なき戦い」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:99分●出演:菅原文太/松方弘樹/田中邦衛/金子信雄/梅宮辰夫/成田三樹夫/渡瀬恒彦/曽根晴美/川地民夫/田中邦衛/名和宏/内田朝雄/伊吹吾郎/川谷拓三/中村英子/木村俊恵/渚まゆみ/内田朝雄/三上真一郎/高野真二/高宮敬二/林彰太郎/中村錦司/野口貴史/大前均/志賀勝/岩尾正隆●公開:1973/01●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)●併映:「仁義なき戦い 広島死闘篇」/「仁義なき戦い 代理戦争」/「仁義なき戦い 頂上作戦」/「仁義なき戦い 完結篇」(何れも深作欣二)  

「女奴隷船」ポスター/スチール写真
女奴隷船 ポスター.jpg女奴隷船 スチール.jpg女奴隷船ps.jpg「女奴隷船」●制作年:1960年●監督:小野田嘉幹●製作:大蔵貢●脚本:田辺虎男●撮影:山中晋●音楽:渡辺宙明●原作:舟崎淳「お唐さん」●時間:83分●出演:菅原文太/三原葉子/三ツ矢歌子/丹波女奴隷船 vhs.jpg映画「女奴隷船」【TBSオンデマンド】_.jpg哲郎/左京路子/沢井三郎/大友純/杉山弘太郎/川部修詩/中村虎彦●公開:1960/01●配給:新東宝●最初に観た場所:大井武蔵野館(86-10-04)(評価:★★☆)●併映:「女獣」(曲谷守平)主演:菅原文太
女奴隷船 [VHS]」「映画「女奴隷船」【TBSオンデマンド】」   
        

Hiroshima shitô hen (1973)  
Hiroshima shitô hen (1973) .jpg仁義なき戦い 広島死闘篇12.jpg仁義なき戦い 広島死闘篇.jpg「仁義なき戦い 広島死闘篇」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:100分●出演:菅原文太/前田吟/松本泰郎/司裕介/金子信雄/木村俊恵/名和宏/成田Hiroshima shitô hen _.jpg三樹夫/北大路欣也/山城新伍/宇崎尚韶/笹木俊志/木谷邦臣/小池朝雄/堀正夫/遠藤辰雄/国一太郎/川谷拓三/藤沢徹夫/白仁義なき戦い 広島死闘篇 1973年4月.jpg仁義なき戦い 広島死闘篇_梶.jpg川浩二郎/千葉真一/大木晤郎/室田日出男/八名信夫/志賀勝/広瀬義宣/北川俊夫/仁義なき戦い 広島死闘篇 加藤嘉.JPG藤嘉/中村錦司/梶芽衣子●公開:1973/04●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)
加藤嘉(大友連合会々長・大友長次)

Jingi naki tatakai:Dairi sensô (1973)
Jingi naki tatakai:Dairi sensô (1973).jpg
仁義なき戦い 代理戦争3.jpg仁義なき戦い 代理戦争dvd.jpg「仁義なき戦い 代理戦争」●制作年:1973年●監督:深作UJingi naki tatakaiDairi sensô (1973)L_.jpg欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:102分●出演:菅原文太/小林旭/渡瀬恒彦/山城新伍/池玲子/金子信雄/木村俊恵/仁義なき戦い 代理戦争 1973年9月.jpg成田三樹夫/加藤武/山本麟一/川谷拓三/北村英三/汐路章/内田朝雄/遠藤辰雄/室田日出男/大前均/野口貴史/曽根晴美/名和宏/田中邦衛仁義なき戦い 代理戦争 丹波.jpg丹波哲郎/梅宮辰夫●公開:1973/09●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)


Jingi naki tatakai:Chôjô sakusen (1974)
Jingi naki tatakai:Chôjô sakusen (1974) .jpg
仁義なき戦い 頂上作戦.jpg仁義なき戦い 頂上作戦 1974年1月.jpg「仁義なき戦い 頂上作戦」●制作年:1974年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:101分●出演:菅原文太/梅宮辰夫/黒沢年男/田中邦衛/小林旭/松方弘樹/堀越光恵/木村俊恵/中原早苗/渚まゆみ/金子信雄/小池朝雄/山城新伍/加藤武/夏八木勲/遠藤太津朗/内仁義なき戦い 頂上作戦 小林旭.jpg田朝雄/長谷川明男/小倉一郎/葵三津子/城恵美/八名信夫/汐路章/室田日出男/鈴木瑞穂/野口貴仁義なき戦い 頂上作戦 小林稔侍.jpg頂上作戦 渚まゆみ.jpg史/小林稔侍/岡部正純/高月忠/白川浩二郎/有川正治/●公開:1974/01●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)
小林稔侍・岡部正純・高月忠/渚まゆみ/小林旭(中央)

Jingi naki tatakai:Kanketsu-hen (1974)
Jingi naki tatakai:Kanketsu-hen (1974) .jpg
仁義なき戦い 完結篇.jpg仁義なき戦い 完結篇 1974.jpg「仁義なき戦い 完結篇」●制作年:1974年●監督:深作欣二●脚本:高田宏治●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:98分●出演:菅原文太/伊吹吾郎/野口貴史/寺田誠/桜木健一/松方弘樹/唐沢民賢/白川浩三郎/小林旭/北大路欣也/西田良/曽根晴美/成瀬正孝/宍戸錠/山田吾一/誠直也/織本順吉/高並功/八名信夫/山城新伍/木谷邦臣/田中邦衛/国一太郎/川谷拓三/金子信雄/岩尾正隆/鈴木康弘/天津敏/内田朝雄/野川由美子/藤浩子/中原早苗/橘麻紀/賀川雪絵●公開:1974/06●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)

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昭和28年から昭和32年にかけての発表作品。「張込み」はやはり傑作。

張込み 松本清張 カッパノベルズ.jpg張込み (松本清張短編全集3).jpg   張込み dvd.jpg 張込み 映画1.gif
張込み―松本清張短編全集〈03〉 (光文社文庫)』/「張込み [DVD]
張込み―松本清張短編全集〈3〉 (カッパ・ノベルス)

 '55(昭和30)年発表の「張込み」をはじめ、昭和28年から32年にかけて発表された松本清張(1909-92)の短篇集。

 銀行員の夫との平凡な日常を脱し、かつての恋人(今は強盗殺人犯として逃亡中)との一瞬の情愛に全てを賭けようとする女性を、張込みをする刑事の視点から描いた「張込み」、台頭する後輩家臣・羽柴秀吉の前に、隠忍型の性格ゆえに苦渋の思いを強いられる丹羽長秀の晩節を描いた「腹中の敵」(昭和30年発表)、小倉に在住していた女流歌人・杉田久女(1890-1946)をモデルに、女流歌人・ぬいの愛が狂気に変貌していく様を描いた「菊枕」(昭和28年発表)、考古学に携わる者の間で"考古学の鬼"との異名とったアマチュア考古学者・森本六爾(1903-1936)をモデルに、34歳で亡くなった不遇の考古学者・木村卓治の葛藤と反抗の生涯を描いた「断碑」(昭和29年発表)、同じく考古学者である直良信夫をモデルに、"明石原人"の人骨発見し、旧石器文化説を唱えるも学界から嘲笑される考古学者の苦悩を一人称で描いた「石の骨」(昭和30年発表)、父親とその系譜に対する主人公の嫌悪と葛藤を同じく一人称で綴った「父系の指」(昭和30年発表)、加藤清正の子で、嫡男・光広の退屈凌ぎの悪戯が昂じて、家康に謀反を抱く者ととられ御家取り潰しの憂き目に遭った大名・加藤忠広を史実をもとに描いた「五十四万石の嘘」(昭和31年発表)、江戸時代の佐渡金山を舞台に、夫婦で佐渡に赴任した役人が、自分が島流しにした妻のかつての恋人の今の姿を見ようとして起こる出来事を描いた愛憎劇「佐渡流人行」(昭和32年発表)の8篇を所収。

 朝日新聞にいた松本清張が社を辞めたのが「五十四万石の嘘」を書いた頃と自分であとがきに書いていますから、ここに収められている作品の多くは在職中に書いたものということになりますが、推理小説と呼べるものがない点が興味深く、作者が当時、色々な小説のスタイルを模索していたことが窺えます。

 「腹中の敵」「五十四万石の嘘」「佐渡流人行」は時代もので、「石の骨」「断碑」は考古学もの、「父系の指」は自伝的小説の色合い濃いものですが、それぞれ、歴史ものでは「西郷札」(昭和25年発表)、学究者ものでは「或る『小倉日記』伝」(昭和25年発表)、自伝的なものでは「火の記憶」(昭和27年発表)といった先行作品があります。

 因みに、「五十四万石の嘘」のモデルの丹羽長秀は、秀吉の振舞いに憤って切腹したとの説もありますが、一般には胃癌で亡くなったというのが史実とされており、「菊枕」のモデルの杉田久女は、実際には夫に縛られるような生活を送ったわけでも精神を病んだわけでもないなど、この辺りは「或る『小倉日記』伝」にも見られたような巧みな"物語化"が見られます。

 何れも珠玉の名篇ですが、やはり一番の傑作は、一見平凡な主婦に宿る"女の情念"を描いた「張込み」でしょうか。「今からだとご主人の帰宅に間に合いますよ」と刑事が女主人公に言うくだりが印象に残ります。作者の推理小説への出発点とされている作品ですが、作者自身が、推理小説だとは考えずに書いたと言っているように、サスペンスではあるが、ミステリではありません(敢えて推理小説風に言えば、「倒叙法」がとられていることになるが)。

 橋本忍脚本、野村芳太郎監督で映画化され('58年/モノクロ)、映画では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1対1にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写張込み 3.jpgせねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノローグ過剰とならざるを得ず、しかも、原作には無い描写を多々盛り込んでおり、もともと短篇であるものを2時間にするとなると、こうならざるを得ないのでしょうか。ともかくも、野村芳太郎はこの作品で一気にメジャー監督への仲間入りを果たすことになります。「張込み」 (1958/01 松竹) ★★★☆
張込み 映画2.jpg「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張込み」●時間:116分●出演:大木実/宮口精二/高峰秀子/田村高廣/高千穂ひづる/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)

【1964年ノベルズ化・2002年第3版[カッパ・ノベルス]/2008年文庫化[光文社文庫]】

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話はシンプルだが、アニメーション自体が素晴らしい。日本アニメの黎明期の「別格」的作品か。

白蛇伝 vhs.jpg 白蛇伝 dvd.jpg  白蛇伝1.bmp「白蛇伝」(1958)
白蛇伝 [VHS]」「白蛇伝 [DVD]

白蛇伝2.jpg 心優しい青年・許仙(しゅうせん)に助けられた白蛇の精が、青年を慕って美少女・白娘(ぱいにやん)として現れるが、その正体を知る和尚・法海(ほっかい)によって二人の恋は妨げられ、許仙は命を落としてしまう。その命を助けるためには龍王の許しがなければならず、白娘は命を賭して龍王の試練に立ち向かい、更に青年を蘇らせるべく、法海のもとへ向かう―。

 中国古代の四大民間伝説の一つとされている「白蛇伝」は、上田秋成の『雨月物語』の中の「蛇性の淫」のモチーフにもなっています(と言うことは、白蛇の精は、溝口健二の「雨月物語」('53年/大映)で京マチ子が演じた元御姫にも通じるのか)。

 この作品以前に日本で作られた最大規模のアニメ映画は、松竹動画研究所による大戦中の国策映画「桃太郎 海の神兵」('45年/白黒74分)であり、それに対してこの「白蛇伝」は、東映動画が日本で初めて長編アニメ映画制作システムを構築した上で制作した作品であるとのこと(日本初の長編「カラー」アニメ映画ということになる)。
 
 以来、東宝動画は「少年猿飛佐助」('59年)、「西遊記」('60年)、「安寿と厨子王丸」('61年)、「アラビアンナイト シンドバッドの冒険」('62年)、「わんぱく王子の大蛇退治」('63年)、「わんわん忠臣蔵」('63年)、「ガリバーの宇宙旅行」('65年)と毎年のように長編アニメを発表し、アニメ制作の主導権は長年にわたり東映が握っているということです(「東映アニメまつり」の先駆けなのだなあ)。

 「桃太郎 海の神兵」を観て、その技法に感動したのが手塚治虫ならば、「白蛇伝」を観てアニメーション作家を志したのが宮崎駿、「白蛇伝」は日本アニメの黎明期の傑作とされています。

佐久間良子.jpg白蛇伝3.jpg 当時のことですから、セルは当然1枚1枚が手描きですが、登場人物の動きは、当時"新人女優"だった佐久間良子がヒロインの動きをライブで演じ(厳密に言えば、彼女は当時まだ映画デビューしておらず、俳優座養成所での半年間研修期間中に当作品のモデルとして初めてカメラの前に立つことになった)、その動きをアニメーションに生かすディズニー・アニメと同じ手法を取ることで概ね滑らかなものとなっており、妖術合戦や大波のシーンなどのスペクタクルシーンは迫力満点、更に、場面ごとの背景の描写などは中国の古典的説話の雰囲気をよく醸していて(ここでも、画面の奥行きを出すために背景と動画を何層にも重ねるディズニー・アニメの手法が取られている)、総じて、長編アニメの第1号作品にしてかなり高い完成度と言えるのではないでしょうか。

森繁久彌.jpg宮城まり子 女優5.jpg 声の出演は、森繁久彌宮城まり子の2人だけで各10役以上をこなしたそうで、このやり方は、後のTV番組「まんが日本昔ばなし」(声の出演は常田富士男と市原悦子の2人だけ)に受け継がれました。

 説話を翻案した中国の伝奇物語では、「異類婚姻譚」という物語の大枠は共通していても、このアニメのように恋物語としてハッピーエンドで終わるものもあれば、最後は白娘が妖魔としての正体を露わにし、法海に退治されてしまうというものもあるそうですが、何れにせよ、幾多の魑魅魍魎が登場するオリジナルに比べれば、登場人物を大幅に絞り込んだストーリーはシンプルと言えばシンプル、しかし、アニメの場合はこれでいいのだろうなあ。

白蛇伝 ポスター.jpg 子供の時に劇場で観ましたが、やはり、ストーリーよりもアニメーションそのものがずうっと後々まで印象に残りました(リアルタイムで観たつもりでいたが、実はリヴァイバル上映だった)。

 よくインターネット上で、「日本アニメのマイ・ベスト10」とか「日本アニメ史上の最高傑作は?」などといったサイトを見かけますが、名が挙がっているのは80年代、90年代の作品が多く、意外とこの作品の名が挙がらないのは、やはり何と言っても50年代という古さのためでしょうか?(そもそも、その頃は「アニメ」とは言わず「漫画映画」とか言っていたし)

白蛇伝8.jpg そうした80年代、90年代の作品を挙げている人達は、こんな古いのは観ていないのかなあ。まあ、80年代、90年代の作品と比べても見劣りしない「傑作」であることに違いなく(評価としては一応星4つにしてはいるが)、むしろ、日本アニメ史上におけるポジショニングや個人的な想い出も含めると、それらを超えて「別格」であるという感じはします。 

「白蛇伝」●制作年:1958年●監督(演出):藪下泰司白蛇伝 渡辺.jpg●製作:大川博●脚本:藪下泰司/矢代静一●演出:藪下泰司/芹川有吾●撮影:塚原孝吉/石川光明●音楽:木下忠司/池田正義/鏑木創●時間:79分●声の出演:森繁久彌/宮城まり子/佐久間良子(アニメ作画用モデルとして)●公開:1958/10●配給:東映(評価:★★★★)

渡辺 仙州(編著)/石原 依門(絵)『白蛇伝』(2005/03 偕成社)

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ある面で原作を超え(カメラ)、ある面で原作とは別物に(ストーリー)。
Sanshô dayû (1954) .jpg 山椒大夫.jpg山椒大夫 dvd.jpg 山椒大夫 映画1.jpg
Sanshô dayû (1954) /「山椒大夫」ポスター/「山椒大夫 [DVD]」(左から浪花千栄子・津川雅彦・田中絹代)
山椒大夫 4K デジタル修復版 Blu-ray
山椒大夫_.jpg香川京子の安寿1.bmp ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲得した溝口健二監督の「山椒大夫」('54年/大映)は、宮川一夫のカメラワークが素晴らしく、海へゆっくりとパンしていくラストシーンは、後年ジャン・リュック・ゴダール監督が「気狂いピエロ」のラストで再現したことでも有名ですが、香川京子が演じる安寿の入水シーンでは、画面の手前にかかる笹に"墨汁"を塗ってコントラストを出したりもしたとか(宮川一夫は「七人の侍」でも"墨汁"の雨を降らせた。この人、「無法松の一生」の頃から色々な創意工夫をしている)。これらの場面についての鷗外の記述があまりに簡潔であるため、映像でそれを補って余りあるものとなっています。

山椒大夫 映画2.jpg 但し、一応は鷗外作を「原作」としているものの改変部分も多くあり、まず目立つのが、姉の安寿と弟の厨子王の"姉弟"が"兄妹"に逆転していて、厨子王(花柳喜章、少年時代は津川雅彦)が兄、安寿(香川京子)が妹、となっている点で、これは、花柳喜章、香川京子という配役が先に決まっていたためにこうなったとか。

香川京子の安寿2.bmp 奴隷として売られてかれこれ10年、美少年だった安寿は肉体労働に明け暮れ半ば自暴自棄の単なるダメ男になっていて、そうした兄・厨子王の様変わりに密かに心を痛める健気な妹・安寿-それがある日突然に兄が逃亡を思い立ったら、妹に兄さんだけ逃げて...と言われる―。安寿は自らを犠牲にして、後の厨子王を支える守り本尊となったわけで、こうした設定からも、妹より姉の方がやはり良かったのでは(第一、妹を置いて逃亡する兄...というのも如何なものか)。
香川京子 in「山椒大夫」(1954)

山椒大夫 鴎外原作.jpg 更に原作には、焼きゴテで拷問された安寿の顔のやけどが、仏像の加護でみるみる傷が癒えるという場面がありますが映画には無く、またラストは、厨子王が盲目となった母親と再会した際に、守り本尊を額に押し付けると目が開くというものですが、映画では母親の眼は明かなかったように見え、意図的に霊験譚的なものを排しているように思えます(あの「雨月物語」を撮った監督にして)。

 一方で、安寿と厨子王の父親・平正氏が、朝廷の意に反して困窮する農民を救おうとして筑紫国へ左遷されたことや、両親の"教育方針"など、「原作」には無い部分はしっかり描かれていて、後半は厨子王の出世に至る経緯や「奴隷解放」的施策も描かれていますが("上からの改革"であることには違いない)、この辺りはうんと膨らませていて、完全に一本の"政治時代劇"になってしまっています(いかにも「元禄忠臣蔵」('41‐'42年/松竹)を撮った溝口らしい。ここまでしていても、「原作:森鴎外」と謳っているところは図太い?)

 結果として、全体としても社会風刺的色合いが強くなっていますが、悪く言えば"通俗時代劇"風で、花柳喜章を筆頭に演技も"現代劇"風で平安時代とは思えず、テーマ的にも、果たして1950年代の日本で、「山椒大夫」という説話をベースとした作品の映画化において、こうした観点からの社会風刺が必要だったのか、やや疑問にも思いました。

山椒大夫4.jpg ラストが母子再会で終わるのは原作通りで、ベースとしては母子モノでありながらも、リアリズム乃至"娯楽性"の追求が、結果として土着民話的な説話色の強い原作を、勧善懲悪的な話に変えてしまった感もしなくもなく、「原作」とは別物とみた方が妥当かも(宮川一夫のカメラで星半個から1個プラス)。

「山椒大夫」(花柳喜章、田中絹代)

香川京子.jpg 因みに、安寿役の香川香子にとっては、同年公開の溝口健二監督作品「近松物語」('54年/大映)の1つ前の出演作品となります。映画会社と専属契約を結んだ俳優は他社の作品には出られないという「五社協定」が1953年に締結されましたが、彼女はその前年にフリーとなっていたため、小津安二郎監督の「東京物語」('53年/松竹)、黒澤明監督の「悪い奴ほどよく眠る」('60年/東宝)、「天国と地獄」('63年/東宝)など、各映画会社それぞれの黄金期の巨匠らの作品に出演することになりました。黒澤作品において、女優として三船敏郎との共演回数が最も多かった(9回)人でもあります。

山椒大夫 vhs.jpg「山椒大夫」●制作年:1954年●製作:永田雅一●監督:溝口健二●脚本:八尋不二/依田義賢●撮影:宮川一夫●音楽:早坂文雄●原作:森鷗外「山椒大夫」●時間:124分●出演:田中絹代/花柳喜章/加藤雅彦(津川雅彦)/香川京子/榎並啓子/進藤英太郎/河野秋武/菅井一郎/見明凡太郎/浪花千栄子/毛利菊江/三津田健/清水将夫/香川良介/橘公子/相馬幸子/小園蓉子/小柴幹治/荒木忍/大美輝子/金剛麗子/南部彰三/伊達三郎●公開:1954/03●配給:大映(評価:★★★☆)
山椒太夫 [VHS]

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「幽玄美女」と「糟糠の妻」。ラストは主人公が真実を知ったところで終わった方が余韻が出た?

雨月物語.jpg雨月物語 ps.jpg 雨月物語 dvd.jpg 雨月物語2.jpg
「雨月物語」ポスター/「雨月物語 [DVD]

雨月物語 田中絹代.jpg 戦国時代(天正11年)の琵琶湖周辺の地。陶器が良い儲けになることを知った貧農の源十郎(森雅之)は、妻・宮木(田中絹代)と子、更に実妹(水戸光子)とその夫・藤兵衛(小沢栄)を連れて、焼き上がった陶器を長浜まで運ぼうとするが、海賊が出ることを知り、源十郎は自分の妻子だけ家に帰す。長浜に辿り着いた3人は、順調に陶器を売り捌いて大儲けするが、武士「雨月物語」 (1953 大映).jpgとなって立身出世する野心を捨て切れない藤兵衛は武具を買い求めに行き、藤兵衛の妻は夫を捜す間に狼藉者らに犯されてしまう。一方の源十郎は、臈たけた元御姫様(京マチ子)という女性と出会い、陶器を届けに行った姫の邸で彼女と契りを交わしてしまった揚句、その邸で焼き物を作っては売りに行くという生活を始めてしまう。何年か後、藤兵衛は戦の武勲が認められ、出世した自分の姿を見せに村へ子分を引き連れ戻ろうとする途中、子分達を慰労しようと女郎部屋に立ち寄り、そこで零落し遊女となった妻と出会う。恨み事を言う妻に藤兵衛はひたすら謝るのみ。源十郎の方は、行商の途中で僧侶に死霊に憑かれていると言われて、姫の正体が亡霊であることを知り、やっとの思いで故郷の村に戻る。そこには妻・宮木が優しく待ち受けていたのだが―。

京マチ子 雨月物語.jpg 溝口健二の「雨月物語」('53年/大映)は、1953年のヴェネツィア映画祭サン・マルコ銀獅子賞をはじめ数々の賞に輝いた作品で、この年のヴェネツィア国際映画祭は金獅子賞が"該当無し"だったので、実質的には出品作中トップ評価だったことになります。

京マチ子 雨月物語.jpg 原作は、1776年に発表された上田秋成の「雨月物語」の中の「浅芽が宿」「蛇性の淫」で、2つの話を糾える縄の如くに仕上げた脚本は巧みであり(「蛇性の淫」は本来、中国の古典的説話「白蛇伝」や、能の「道成寺」の由来である"安珍・清姫伝説"と重なる)、更にモーパッサンの短篇「勲章」もモチーフとして織り込まれていたりして、相当に原作を翻案しているようですが、森鷗外の原作を膨らませ過ぎている感のある「山椒大夫」('54年/大映)ほど気にはならなかったです。「原作」と言われているものを実際に読んでいると、それにこだわってしまうのかも。但し、時代設定が近世初期なので(「山椒大夫」は中世)、セリフの言い回しが多少現代風であっても許せてしまうというのもあるかもしれません。

雨月物語 田中絹代2.jpg雨月物語1.jpg 原作自体が優れているわけですが、原作を分かり易く翻案したエンタテインメントとして充実していて、一方で、ジャン=リュック・ゴダールをして「涙が出てくる」と言わしめたほどの霧立ち込める湖に舟を漕ぎだす場面の美しさや、映画史に残るとされる京マチ子の彼岸の妖艶ぶりなど、随所で幽玄美を醸して古典的雰囲気を保持しているのは、宮川一夫のカメラワークによるところが大きいのでしょう(溝口監督からの注文は「絵巻物を撮るように」とのことだったそうだが、それに応えている)。

森雅之 雨月物語.bmp 京マチ子の現実離れした「幽玄美の妖女」と田中絹代や水戸光子の土臭い「糟糠の妻」(結局、男達の野望は叶わないため、最終的にはこの表現は的確でないのだが)の異質の両者のコントラストが良く、それを繋ぐ森雅之(作家・有島武郎の長男)の演技も活き活きしていていいのですが、ラストは、妻・宮木(この時だけ顔のライティングが「姫」と同じ)の真実を源十郎が知ったところで終わった方が、余韻が出たような気もします。

Ugetsu monogatari(1953).jpg雨月物語|.jpg ラストの宮木の母性的なナレーション(田中絹代)も心に滲みて悪くはないですが、その他にも藤兵衛夫婦の「テレビ時代劇のエピローグ」風のやり取りなどもあって、やや解説的と言うか、「幸せの青い鳥は...」的な人生訓風になった感じもします。でも、やはり傑作だと思います。

Ugetsu monogatari(1953)

 因みに、メキシコの作家カルロス・フエンテスが、この溝口の「雨月物語」に想を得て、「アウラ」という作品を書いていますが、これも傑作です。

京マチ子とソフィア・ローレンD.jpg 京マチ子とソフィア・ローレン.jpg 京マチ子とソフィア・ローレン(1955年・ヴェネチア)

雨月物語 田中絹代8.jpg「雨月物語」●制作年:1953年●製作:永田雅一●監督:溝口健二●脚本:川口松太郎/依田義賢●撮影:宮川雨月物語 dvd.gif一夫●音楽:早坂文雄●原作:上田秋生「雨月物語」●時間:96分●出演:森雅之/田中絹代京マチ子/水戸光子/小沢栄太郎/青山京マチ子.jpg杉作/羅門光三郎/香川良介/上田吉二郎/毛利菊枝/南部彰三/光岡龍三郎/天野一郎/尾上栄五郎/伊達三郎/小柳圭子/大美輝子/金剛麗子/横山文彦/玉置一恵/沢村市三郎●公開:1953/03●配給:大映(評価:★★★★☆)

京マチ子(1959年)[共同通信]

《読書MEMO》
●マーティン・スコセッシ監督の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●2001年宇宙の旅(スタンリー・キューブリック)
 ●8 1/2(フェデリコ・フェリーニ)
 ●灰とダイヤモンド(アンジェイ・ワイダ)
 ●市民ケーン(オーソン・ウェルズ)
 ●山猫(ルキノ・ヴィスコンティ)
 ●戦火のかなた(ロベルト・ロッセリーニ)
 ●赤い靴(マイケル・パウエル & エメリック・プレスバーガー)
 ●河(ジャン・ルノワール)
 ●シシリーの黒い霧(フランチェスコ・ロージ)
 ●捜索者(ジョン・フォード)
 ●雨月物語(溝口健二)
 ●めまい(アルフレッド・ヒッチコック)

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特撮よりむしろ"異形の愛"を描いた人間ドラマに比重が置かれている。

ガス人間第1号 チラシ.jpgガス人間第1号 チラシ2.jpgガス人間第一号 dvd.bmp 「ガス人間第一号」 (1960 東宝).jpg 「ガス人間第1号 [DVD]

 同一犯によると思われる連続強盗殺人事件が発生、完全密室での犯罪は多くの謎を残すが、事件の捜査にあたる岡本警部補(三橋達也)と婚約者の新聞記者・田野京子(佐多契子)は、春日流舞踊の家元・藤千代(八千草薫)に疑惑を抱き、家宅捜索により盗まれた紙幣を発見、直ちに彼女を拘留するが、その頃、警視庁記者クラブに突然現れた図書館員の水野(土屋嘉男)は、自分が連続強盗殺人事件の犯人であると名乗り、完全犯罪の種明かしをすると宣言、半信半疑で見守る人たちの前で次第に気体化してガス人間となる。藤千代の無実を証明するために現れた水野は、零落した春日流の藤千代を助ける為、佐野博士(村上冬樹)に騙されて人体実験の犠牲となりガス人間にされてしまった自らの能力を使って、愛する者のために強盗殺人を重ねていたのだった―。

ガス人間第一号3.jpg '60(昭和35)年の東宝作品で、「透明人間」('54年)から「美女と液体人間」('58年)へと続いた東宝「変身人間シリーズ」の集大成とも言える作品であり、円谷英二が特撮監督を務めていますが、特撮部分は水野がガス人間化するところしかなく(ガス人間の鉄格子すり抜けは「ターミネーター2」('84年/米)でジェームズ・キャメロンがパクったという話もあるが)、特撮映画には違いないものの、「特撮」乃至は「スリラー」よりむし「異形の愛」を描いた人間ドラマに比重が置かれています。

ガス人間第一号 八千草薫3.jpgガス人間第一号 八千草薫1.jpg 八千草薫(1931-)が凛とした舞踏の家元を演じて美しく、水野との愛に殉ずる覚悟で踊り続ける"道行き"的なラストは、哀切感溢れるものとなっていますが、ガス人間を演じた土屋嘉男(1927-)の演技も、傲岸且つニヒルな中にも、自らが得体の知れないガス人間であるということからくる翳を秘めていて、しかも一女性に愛を捧げるという、なかなか味のあるものとなっています(どちらかと言うと、ガス人間を愛する藤千代の方が愛の「異形」度が高いかも)。

ガス人間第一号 土屋.jpg 土屋嘉男は、黒澤明監督に目をかけられて「七人の侍」('54年)に出演して以来、黒澤作品に出続けた一方で、ガス人間第一号4.jpg本多猪四郎監督の「ゴジラ」('54年)の撮影現場を個人的興味から見学に行って、やがて東宝特撮映画の常連にもなったという変わり種であり、同じ「東宝」ではありますが、「黒澤組」と「本田組」の両方に属していたような人です(志村喬、藤田進などもそうと言えるが)。

ガス人間026.jpg 出演した東宝特撮映画の数はかなり多く、中でも「ガス人間第一号」の3年前の'57(昭和32)年の地球防衛軍で、わが国で初めて宇宙人役(ミステリアン総統)を演じた役者であることは有名です(「顔が見えなくてもいいから宇宙人役をやりたいという本人の希望だったらしい)。

ガス人間 フィギア.jpg 因みにこの「ガス人間第一号」には今でも根強いファンがいて、土屋嘉男がガス人間に変身するところのフィギアなども商品化されています。

藤千代の屋敷のセットで台本を確認する土屋嘉男(藤千代を愛するガス人間・水野役)と八千草薫、本多監督


ガス人間第一号5.jpg「ガス人間第一号」●制作年:1960年●製作:田中友幸●監督:本多猪四郎●特技監督:円谷英二●脚本:木村武●撮影:高橋通夫●音楽:宮内国郎●時間:91分●出演:三橋達也/佐多契子/八千草薫/左ト全/土屋嘉男/伊藤久哉/田島義文/小杉義男/三島耕/松村達雄/村上冬樹/佐々木孝丸/山田巳之助/松村達雄/宮田羊容/野村浩三/山本廉/松本染升/堤康久/山田彰/広瀬正一/中村哲/塩沢とき●公開:1960/12●配給:東宝(評価:★★★☆)

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小松崎茂デザインのンメカニックが、子供の頃の"懐かしい未来"を想起させる。テーマ曲がいい。

宇宙大戦争 東宝 チラシ.jpg  宇宙大戦争 東宝 チラシ(アメリカ版).jpg 本多 猪四郎 「宇宙大戦争」dvd.jpg  
日本版チラシ(1959)/アメリカ版チラシ(1960)/「宇宙大戦争 [DVD]

 地球軌道上の宇宙ステーションが謎の円盤の攻撃を受けて破壊され、地球上でも世界中で鉄橋や汽船が宙に浮き、凍結した海水が舞い上がるなどの怪奇現象が発生、急遽、国際会議が開かれて調査が行われ、それらは無重力状態を生み出す冷却光線を操るナタール人の仕業であり、ナタール人は既に月面に基地を建設し地球侵略の準備をしていることが判明する。ナタール人基地を破壊するため、勝宮一郎博士(池部良)ら科学者によって編成された攻撃隊が原子力ロケット2機で月へ。ナタール人の基地を発見し、攻撃して打撃を与えるが、ナタール人に操られた岩村(土屋嘉男)が味方ロケット1機を爆破し、残る1機にも危機が迫る。しかし、ナタール人の洗脳が解けた岩村が追撃を食い止め、月からの脱出に成功、地球へ帰還する。迫り来る決戦の時に向け、地球では大気圏外でナタールの円盤を迎撃する戦闘ロケットが建造され、やがてナタール円盤群が地球へ向かって来襲、壮絶な戦いが始まる―。

宇宙大戦争 エフェクト.jpg 日本初の宇宙人の侵略をテーマにした特撮SF作品「地球防衛軍」('57年)の姉妹作で、これも原作は丘美丈二郎(1918-2003)。前作では「地上戦」乃至「地対空戦」だった宇宙人との戦いの場を、この作品では「月面戦」乃至「宇宙空間戦」に移していますが、2年間で画像のエフェクト処理も含め、特撮技術がトータルに向上しているように思えました。伊福部昭のマーチ風のテーマ曲もいい(この曲は2016年の「シン・ゴジラ」にも使われた)。評論家の評価は2年前の前作「地球防衛軍」の方が概ね若干上のようですが、おそらく先駆的要素に対する評価が加味されているのでしょう。

「宇宙大戦争」1.jpg 「絶対零度近くにまで冷却された物体は無重量となる」とか「月面の一部に希薄な大気が存在する」といった、当時の段階で既に科学的には誤りであると「宇宙大戦争」2.jpg判明していたり、当時から曖昧だった学説を援用したりするなどの乱暴な点はありますが(ホバークラフトで月面を移動する場面がある!)、ナタール人の基地があるという想定の月の裏側の様子を、ソ連の無人探査機「ルナ3号」が当時世界で初めて撮影に成功した月面裏側の写真に基づき描くなど、科学性へのこだわりは随所に見られ、月に人類が到達する10年も前にしては、月面やそこを歩行する隊員の様子をよく描いていると思います。

宇宙大戦争 土屋嘉男 .jpg 三原山で撮影されたという月面歩行する隊員の無重力状態でのふわっとした跳ね方は、出演者の一人・土屋嘉男の発案によるもので、土屋嘉男は10年後にアポロ11号の月面着陸の様子をテレビの衛星中継で観て「間違ってなかった」と思ったそうな。因みに土屋嘉男は、前作「地球防衛軍」で日本映画で初めて宇宙人を演じた俳優になりましたが、今回はまともに"人間の役"でした。

土屋嘉男(岩村幸一)

宇宙大戦争 東宝.jpg ドラマ部分が定型的なのはSF作品であるため許せるとして、宇宙人が地球侵略するにあたってわざわざ一人ひとり洗脳するかなというのはあり、壮大なタイトルの割には結末もややショボイかも。

 但し、小松崎茂のデザインを入江義雄が図面に起こし、井上泰幸らによって制作したナタール側・地球人側のメカニックは、この作品の白眉とも言える素晴らしいもので、円谷英二の特撮技術と相俟って、宇宙戦をよりダイナミックに見せている共に、個人的には、子供の頃に想い抱いた"懐かしい未来"を想起させられます。

 この作品は、制作時の6年先の将来(1965年)という時代設定で、人類で初めて月面着陸に成功したのは勝宮一郎(池部良)、白石江津子(安西郷子)ら日本人であるということになり、実際のアポロ11号による月面着陸(1969年)の4年前ということになります。
宇宙大戦争」(サントラ)

東宝「宇宙大戦争」(1959).jpg安西郷子.jpg 当時"文芸路線"俳優だった池部良(1918-2010/享年92)がSF映画に出ているのが珍しく、その池部良とのしっとりしたラブシーンもある安西郷子(1934‐2002/享年68)は、エキゾチックな面立ちの美人女宇宙大戦争007s.jpg宇宙大戦争008s.jpg優でしたが、この作品の2年後、「ガス人間第1号」('60年/東宝)で主演した三橋達也(1923-2004/享年80)と結婚して芸能界を引退しています。

安西徹子(白石江津子)と本多監督と池部良(勝宮一郎博士)/勝宮と江津子のデートシーンの撮影

「宇宙大戦争」 (1959 東宝).jpg「宇宙大戦争」3.jpg「宇宙大戦争」●制作年:1959年●製作:田中友幸●監督:本多猪四郎●特技監督:円谷英二●脚本:関沢新一●音楽:伊福部昭●原作:丘美丈二郎●時間:91分●出演:池部良安西郷子/千田是也/土屋嘉男/伊藤久哉/宇宙大戦争 安西郷子.jpg村上冬樹/ジョージ・ワイマン/レオナルド・スタンフォード/ハロルド・コンウェイ/エリス・リクター/桐野洋雄/野村浩三/エド・キーン/堤康久/加藤茂雄/沢村いき雄/旗持貴佐夫/上村幸之/高田稔/熊谷二良/手塚勝巳/津田光男/岡部正/レオナルド・ウェルチ/緒方燐作●公開:1959/12●配給:東宝(評価:★★★☆)

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日本初の宇宙人の侵略をテーマにした特撮SF映画。戦闘シーンのレベルだけ高い。

地球防衛軍 チラシ.jpg 地球防衛軍 チラシ1.jpg 地球防衛軍 チラシ2.jpg 地球防衛軍 チラシ3.jpg
地球防衛軍 [DVD]」チラシ各種

地球防衛軍 1957.jpg地球防衛軍 白川由美2.jpg 天体物理学者の白川亮一(平田昭彦)が村祭りの日に謎の山火事とともに姿を消した数日後、白石の妹・江津子(白川由美)の恋人である渥美譲治(佐原健二)は白石から託されたレポート「遊星ミステロイドの研究」を中央天文台・安達博士(志村喬)に届ける。そこへ、白石が住んでいた村で山崩れが起きたとの連絡が入り、渥美は調査団の一員として村に向かうが、村からは放射能が検出される。村の異常現象を調査中に、山から金色の巨大ロボット怪獣(モゲラ)が出現し、村落を破壊しながら侵攻を開始したため、対策本部が設置され、自衛隊の攻撃部隊はモゲラに総攻撃をかける。そして、モゲラ侵攻中に謎の円盤が―。

 この「地球防衛軍」は、東宝特撮における初のシネマ・スコープ作品であり、日本映画で初めて宇宙人の侵略をテーマにした特撮SF作品で、原作は探偵小説作家の丘美丈二郎(1918-2003)。ストーリーの方は、10万年前に原水爆戦争で滅びた遊星人ミステリアンの末裔が種族の存亡をかけて地球侵略するという、攻めてくる側にも事情があるような話です(核実験批判が込められているのか)。

地球防衛軍 1957 モグラロボット.jpg地球防衛軍 白川由美.jpg 遊星人が最初に地球侵略のために送りこんだのがモグラ型ロボット「モゲラ」で(そもそも戦闘用ではなく土木用ロボット。元々は平和な星だった)、重装備が昂じてちょっと滑稽なヒヨコ体型になっているのがご愛嬌。白川由美(1936-2016)が入浴中のところへモゲラが迫るというのは、お父さん向けのサービス?

 自衛隊が何とか怪獣をやっつけた後に出てくる遊星人の姿が、フルフェイスのヘルメットを被った地球人にしか見えないのも難(顔は見えないが、メットの下に鼻が覗いている。ミステリアン統統役の土屋嘉男によると、ミステリアンのマスクはアイスクリームの容器の改造だという)。但し、それでもこの作品が一般に高い評価を得ているのは、円谷英二の特撮による遊星人と地球人との砲撃戦、空中戦の迫力のためでしょう。

地球防衛軍 ロケット.jpg 昭和32年制作という古さをあまり感じさせないのは、全体のモダンなトーンもさることながら、この戦闘シーンのレベルの高さによるもので、戦争中に作られた戦意昂揚映画での戦闘機の空中戦シーンなどの際に円谷英二自身が駆使した技術や創意工夫の蓄積が、ここに開花したという感じでしょうか。

 それ以外の部分は、平田昭彦(この人、陸軍士官学校の出身)が遊星人側に与(くみ)してしまうといったドラマ部分も含め、個人的にはイマイチですが、作品の位置付けとしては、「宇宙大戦争」('59年)など、その後の「宇宙モノ」「宇宙怪獣モノ」映画の基盤を作ったという意味で、画期的な作品ということになるのでしょう。

土屋嘉男(ミステリアン総領(左))と本多監督/本多監督と志村喬(安達博士)・佐原健二(渥美譲治)
地球防衛軍 s.jpg 地球防衛軍 4s.jpg

ミステリアン.jpg

地球防衛軍 1957 dvd.jpg「地球防衛軍」●制作年:1957年●製作:田中友幸●監督:本多猪四郎●特技監督:円谷英二●脚本:木村武●音楽:伊福部昭●原作:丘美丈二郎●潤色:香山滋●時間:88分●出演:佐原健二/平田昭彦/白川由美/河内桃子/土屋嘉男/藤田進/伊藤久哉/小杉義男/志村喬/村上冬樹/山田巳之助/中村哲/大川平八郎/笈川武夫/加藤春哉/大村千吉/佐田豊/三原秀夫/三条利喜江/生方壮児/津田光男/今泉廉/大友伸/熊谷二良/草間璋夫/広瀬正一/中丸忠雄●公開:1957/12●配給:東宝(評価:★★★)地球防衛軍 [DVD]

「美女と液体人間」の白川由美.jpg「美女と液体人間」の白川由美e.jpg白川由美 in「美女と液体人間」(1958年)

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日本のホームドラマの基盤がこんなところで着々と築かれていたのだなあと。斎藤達雄、栗島すみ子がいい。

淑女は何を忘れたか vhs.jpg淑女は何を忘れたか1.bmp 流れる dvd .jpg
 「淑女は何を忘れたか [VHS]」(斎藤達雄/栗島すみ子/桑野通子)「流れる [DVD]

ozu  'What Did the Lady Forget?'.jpg節子(桑野通子)と岡田(佐野周二).jpg 大学の医学部教授の小宮(斎藤達雄)は日頃から、口うるさい妻の時子(栗島すみ子)に頭が上がらなかったが、それは、夫婦円満を保つ彼流の秘訣でもあった。そんなある日、大阪より時子の姪・節子(桑野通子)が上京、小宮家にやって来る。自分とは対照的に思ったままに行動する彼女に触発された小宮は、ある揉め事を契機に初めて時子に平手打ちをくらわせてしまう―。

 トーキー時代に入ってもしばらくサイレント映画にこだわり続けた小津安二郎監督の、「一人息子」('36年)に続くトーキー第2作で、サイレント映画時代の彼のコメディ的要素と戦後の家庭劇の要素が混ざった作品のように思えました。

 それまで下町の庶民を題材にすることが多かった小津ですが、この作品では一転して舞台を山の手へ移し(丁度この頃に小津自身も深川から高輪へ転居している)、アメリカ映画から得られた素養をふんだんに生かしたモダニズム溢れるソフィストケティッド・コメディに仕上がっています。

淑女は何を忘れたか3.jpg 31際の若さで夭逝した桑野通子が演じる(当時22歳)姪の節子は、いわば当時のモダンガールといったところでしょうか。未婚だがタバコも酒も嗜むし、車の運転にも興味がある活発な彼女は、妻の尻に敷かれる小宮を見て、夫権の復活を唱えて盛んに小宮をけしかける―そこへ時子がいきなり現れたりして、小宮が節子を叱るフリをする、時子が去ると節子が小宮を軽く小突くなどといった具合に、小宮と節子の遣り取りが、爆笑を誘うというものではないですが、クスッと笑えるものとなっています。

ozu  'What Did the Lady Forget?' 2.jpg この作品の斎藤達雄はいいです。サイレント時代の小津作品では、もてない大学生(「若い日」)やしがないサラリーマン(「生まれてはみたけれど」)を演じたりもしていましたが、この作品で「ドクトル」と世間から呼ばれるインテリを演じてもしっくりきています(独りきりになると結構このドクトルは剽軽だったりするが)。

ozu  'What Did the Lady Forget?' 3.jpg 有閑マダム3人組(栗島すみ子、吉川満子、飯田蝶子)の会話なども、それまでの小津作品には無かったシークエンスですが、関西弁で話しているためかどことなくほんわかした感じがあり、それでいて畳み掛けるところは畳み掛けるという、トーキー2作目にしてこの自在な会話のテンポの操り方には、トーキー参入に際しての小津の周到な事前準備が感じられました。

淑女は何を忘れたか4.jpg その他に、小宮家で家庭教師をすることになる大学の助手・岡田を佐野周二が演じていますが、息子・関口宏より相当濃いハンサム顔に似合わず、この作品では教え子の友達(突貫小僧)に先に算数の問題を解かれてしまって面目を失うというとぼけた役回り。

 小宮は、妻にはゴルフに行ったことにしながら、節子の東京探訪に付き合わされて、その晩は岡田の下宿に泊めてもらいますが、アリバイ工作のためにゴルフ仲間の会社役員(坂本武)に投函を託した葉書に書かれた当日の天候が全く違っていたことに気付いて慌てふためくも、まあ、大丈夫でしょうと、岡田はのんびり構えてしまっています(結局、そのことで小宮の工作は時子にばれてしまう)。

淑女は何を忘れたか2.jpg 岡田と節子の間で何かあるのかなと思いましたが、これは"夫婦"がテーマの映画なのでそうはならず、結局、「雨降れば地固まる」みたいな映画だったんだなあと。

 まあ、全体として他愛の無い話と言えばそうなのですが、こうした細部のユーモラスなシチュエーションの組み入れ方もそうですし、ストーリーの落とし所からも、ああ、日本のホームドラマの基盤がこんなところで着々と築かれていたのだなあと思わせるものがありました。

流れる 栗島すみ子.jpg流れる 栗島すみ子2.jpg また、この作品は、日本映画史上初のスター女優と言われた栗島すみ子(1902-1987)の映画界引退作品でもあり、さすがに堂々たる存在感を見せています。彼女はその後、成瀬巳喜男監督の「流れる」('56年/東宝)で一度だけスクリーンに復帰、田中絹代(1909-1977)、山田五十鈴(1917-2012)、杉村春子(1906-1997)、高峰秀子(1924-2010)らと共演しましたが、それら大女優の更に先輩格だったわけで、まさに貫禄充分!

『お嬢さん』栗島すみ子、岡田時彦.jpg そもそも、成瀬巳喜男の監督デビュー(1930年)よりも栗島すみ子の映画デビューの方が先であり(1921年)、年齢も彼女の方が3歳上。成瀬監督を「ミキちゃん」と呼び、「流れる」撮影の際は、「あたしはミキちゃんを信用して来てるのだから」と、セリフを一切覚えず現場入りしたという話があり、小津安二郎の「お嬢さん」('30年/松竹蒲田)で岡田時彦と共演したりしていることから、自分の父親が自分が1歳の時に亡くなったためその記憶が無い岡田茉莉子(1933-)には、「あなたのお父さんは美男子の中でもずば抜けて美男子だった」と「流れる」の撮影現場で話してやっていたそうな。

栗島すみ子、岡田時彦 in「お嬢さん」('30年/モノクロ。フィルムは現存せず)

流れる 映画ポスター.jpg それにしても「流れる」の配役陣は、今になった見れば見るほどスゴいなあという感じ。大川端にある零落する置屋を住込みのお手伝いさん(田中絹代)の視点から描いた作品でしたが、先に挙げた田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、杉村春子ら大物女優に加えて、岡田茉莉子、中北千枝子、賀原夏子らが脇を固めるという布陣で、成瀬巳喜男作品は個人的には合う合わないがあって、世間で評価されるほど自分としての評価は高くないのですが(若い頃に観たというのもあるかもしれない)、この作品も、ストーリーよりも一人一人の演技が印象に残った感じでした。

流れる 杉村春子.jpg 杉村春子を除いて皆、着物の着こなしがいい、との評がどこかにありましたが、年増芸者を演じた杉村春子は、あれはあれで役に合わせた着こなしだっだのでしょう。個人的には、水野の女将を演じた栗島すみ子の演技は"別格"として、当時、田中絹代・山田五十鈴・高峰秀子の三大女優より一段格下だった杉村春子が一番上手いのではないかと思いました(高峰秀子は子役としてのデビューは早かったが、1940流れる 1シーン.jpg年、豊田四郎監督の「小島の春」に出演した杉村春子の演技にショックを受けて演技開眼したという。杉村春流れる 岡田茉莉子.jpg子を"格下"と言ったら失礼にあたるか)。岡田茉莉子などは実に若々しく、和服を着ると昭和タイプの美女という感じでしたが(着物を着た際にスレンダーで足長に見える)、演技そのものは当時はまだ大先輩たちの域には全然達していなかったのではないでしょうか。機会があれば、また観直してみたいと思います。

岡田茉莉子
 
神保町シアター.jpg桑野通子.jpg「淑女は何を忘れたか」●制作年:1937年●監督:小津安二郎●脚本:伏見晁/ジェームス槇(小津安二郎)●撮影:茂原英雄/厚田雄春●音楽:伊藤冝二●時間:71分●出演:斎藤達雄/栗島すみ子/桑野通子/佐野周二/飯田蝶子/坂本武/吉川満子/葉山正雄/突貫小僧/上原謙●公開:1937/03●配給:松竹大船●最初に観た場所:ACTミニシアター(90-08-05)●2回目:神保町シアター(10-12-11)(評価:★★★)●併映(1回目):「お早よう」(小津安二郎) 神保町シアター 2007(平成19)年7月14日オープン
桑野 通子 (1915-1946/享年31)

淑女は何を忘れたか vhs.jpg


流れる%20(1956年).jpg流れる [DVD]流れる dvd .jpg映画「流れる」.jpg「流れる」●制作年:1956年●監督: 成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●脚本:田中流れる09.jpg澄江/井手俊郎●撮影:玉井正夫●音楽:斎藤一郎●原作:幸田文「流れる」●時間:117分●出 流れる杉村春子.jpg演:田中絹代/山田五十鈴/高峰秀子/杉村春子/岡田茉莉子/中北千枝子/賀原夏子/栗島すみ子(特別出演) /泉千代/加東大介/宮口精二/仲谷昇/中村伸郎●公開:1956/11●配給:東宝(評価:★★★☆)
杉村春子

右手前:田中絹代

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主人公にとっては、嫁が不憫であるとともに、老境の光明にもなっているような。

川端 康成 『山の音』  .jpg2川端 康成 『山の音』新潮文庫.jpg川端 康成 『山の音』sinntyoubunnko .jpg  山の音 dvd.bmp    たまゆら2.jpg
山の音 (新潮文庫)』['57年]/「山の音 [DVD]」/連続テレビ小説「たまゆら」

川端康成肖像(昭和25-26年頃).jpg 1954(昭和29)年・第7回「野間文芸賞」受賞作。

 鎌倉に居を構える一家の家長・尾形信吾(62歳)は、夜中にふと感じた「山の音」に、自分の死期を予告されたような恐怖感を抱き、迫り来る老いや死を実感しながらも、息子・修一の嫁・菊子に、青春期にこの世を去った美しい憧れの女性の面影とを重ね、淡い恋心に似た気持ちを抱く―。

 1935(昭和10)年、東京の谷中から鎌倉に住まいを移した川端康成(1899- 1972)は、終生この地に住み、鎌倉を舞台とした作品を幾つか書きましたが、この『山の音』もその一つで、同じく鎌倉を舞台とした『千羽鶴』と同時期(昭和24年‐29年)に並行して連載発表され、1951(昭和26)年度日本芸術院賞を授与されています(受賞年は1952年。この賞は"作品"ではなく"人"が対象だが、この2作が実質的な受賞対象作か)。

川端康成(1950(昭和25)-1951(昭和26)年頃)

 『山の音』は、「改造文芸」の1949(昭和24)年9月号に「山の音」として掲載したのを皮切りに、「群像」「新潮」「世界川端康成 1949.jpg春秋」などに「雲の炎」「栗の実」「島の夢」「冬桜」「朝の水」「「夜の声」「春の鐘」などといった題名で書き継がれて、1954年に完結、同年4月に単行本『山の音』として筑摩書房から刊行されたもので、作家の50歳から55歳にかけての作品ということになりますが、山本健吉の解説によれば、「川端氏の傑作であるばかりでなく、戦後日本文学の最高峰に位するものである」と。

1949(昭和24)年頃。鎌倉・長谷の自宅にてロダンの彫刻に見入る。

 夫婦二世代で同じ家に住み、父親と息子が同じ会社に通っているなどというのは、当時は珍しいことではなかったのでしょう(小津安二郎など昔の日本映画にありそうだし、「サザエさん」もそうだなあ)。当時は55歳定年制が一般的であったことを考えれば、60歳過ぎても、会社に行けばお付きの女性秘書(事務員と兼務?)もいるというのは、信吾は所謂「高級サラリーマン」の類でしょうか。その事務員・英子と盛り場(ダンスホール)探訪などしたりもして。そうした信吾ですが、妻がいながらにして外に愛人を持つ息子・修一や、子連れで嫁先から出戻ってすっかり怠惰になった娘のために、老妻との穏やかな老後というわけにはいかず、その心境は、常に鬱々とした寂寥感が漂っています。

 そうした日常において、可憐な菊子の存在は信吾の心の窓となっていて、何だかこれも小津安二郎の映画にありそうな設定だなあと。但し、そこは川端康成の作品、舅と嫁の関係が表向きは不倫なものには至らないものの、昔の恋人に菊子を重ねる自分に、結婚する前の菊子を自分は愛したかったのではないかと信吾は自問しており、ついつい菊子の身体に向けられる仔細な観察眼には、かなり性的な要素もあります。

 しかし、現実に信吾が菊子にしてやれることは何も無く、修一と愛人を別れさせようという試みも空振りに終わり(この試みが信吾本人ではなく英子主導なのがミソなのだが)、ドラマチックなことは何も起こらずに、季節だけが虚しく過ぎて行く―信吾の住む鎌倉の四季の移いを背景に、そこに日本的な諦観が織り込まれたような感じで、その繊細なしっとり感が、この作品の持ち味なのでしょう。

 ただ、この菊子という女性はどうなのだろう。老人の「心境小説」の登場人物の1人の生き方を云々するのも何ですが、身籠った子を中絶したのが、「夫に愛人がいる間は夫の子を産まない」という彼女のある種の"潔癖"によるもの乃至は夫への"反抗"だとすれば(共に修一の解釈)、現代の女性たちから見てどれぐらい共感を得られるか。

山の音 スチール.jpg この作品は映画化されていて('54年/東宝)、個人的にはCS放送であまり集中できない環境でしか観ていないので十分な評価は出来ないのですが(一応星3つ半)、監督は小津安二郎ではなく成瀬巳喜男ということもあり、それなりにどろっとしていました(小津も実はどろっとしているのだという見方もあるが)。

山の音4_v.jpg 62歳の信吾を演じた山村聰(1910‐2000)は当時44歳ですから、「東京物語」の笠智衆(当時49歳)以上の老け役。息子・修一役の上原謙(1909‐1991)が当時45歳ですから、実年齢では息子役の上原謙の方が1つ上です。

山の音05_v.jpg そのためもあってか、原節子(1920‐2015)演じる菊子が舅と仲が良すぎるのを嫉妬して修一が浮気に奔り、また、菊子を苛めているともとれるような、それで、ますます信吾が菊子を不憫に思うようになる...という作りになっているように思いました(菊子が中絶しなければ、夫婦関係の流れは変わったように思うが、それでは全然違った物語になってしまうのだろう)。

並木道o.JPG 映画のラストの、信吾と菊子が新宿御苑の並木道を歩くシーンを観てもそうだし(キャロル・リード監督「第三の男」('49年/英)のラストシーンと構図が似ている)、原作についても、信吾と菊子が信吾の郷里に紅葉を観に行くという「書かれざる章」があったのではと山本健吉も想像しているように、信吾と菊子の関係はこのまま続くのだろうなあ。それが、また、信吾の潜在的願望であるということなのでしょう。

たまゆら 川端康成.jpg この作家は、こうした家族物はおたまゆら 朝ドラ.jpg手のものだったのではないかという気もします。「たまゆら」という1965年度のNHKの連続テレビ小説(朝の連ドラ)(平均視聴率は33.6%、最高視聴率は44.7%)の原作(『たまゆら』('55年/角川小説新書))も書き下ろしていたし...(ノーベル文学賞作家が以前にこういうの書いていたというのが、ちょっと面白いけれど)。

「たまゆら」番宣用カラー絵ハガキ

 「たまゆら」は、会社を引退した老人(笠智衆、テレビ初出演)が、第二の人生の門出に『古事記』を手に旅に出るという、朝ドラにしては珍しく男性が主人公の話ですが、この老人には嫁に行ったり嫁入り前だったりの3人の娘がいて、基本的には"家庭内"ドラマ(要するに"ホームドラマ")。NHKの連続テレビ小説の第5作として「うず潮」(林芙美子原作)と「おはなはん」の間の年('65(昭和40)年)に放送され、川端康成自身が通行人役でカメオ出演していました(職業は「サザエさん」のいささか先生みたいな作家ではなかったか)。


日本映画傑作全集 山の音.jpg山の音92.jpg「山の音」●制作年:1954年●監督:成瀬巳喜男●製作:小林一三●脚本:水木洋子●撮影:玉井正夫●音楽:斉藤一郎●原作:川端康成「山の音」●時間:94分●出演山の音39.jpg:原節子/上原謙/山村聡/長岡輝子/杉葉子/丹阿弥谷津子/中北千枝子/金子信雄/角梨枝子/十朱久雄/北川町子/斎藤史子/馬野都留子●公開:1954/01●配給:東宝●評価:★★★☆   
 
 
たまゆら2.jpgたまゆら.jpgたまゆら2.jpg「たまゆら」●演出:畑中庸生●脚本:山田豊/尾崎甫●音楽:崎出伍一●原作:川端康成●出演:笠智衆/加藤道子/佐竹明夫/扇千景/直木晶子/亀井光代/勝呂誉/武内亨/川端康成/光本幸子/長浜藤夫/鳳八千代●放映:1965/04~1966/04(全?回)●放送局:NHK

 【1957年文庫化[新潮文庫]/1957年再文庫化[岩波文庫]/1957年再文庫化[角川文庫]/1967年再文庫化[旺文社文庫]】

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現代劇にもぴったりハマった市川雷蔵の「ある殺し屋」。カルト的珍品?「初春狸御殿」。

ある殺し屋 poster.jpgある殺し屋 dvd2.jpg ある殺し屋の鍵 dvd.jpg  初春狸御殿.jpg
ある殺し屋 [DVD]」「ある殺し屋の鍵 [DVD]」「初春狸御殿 [DVD]」(市川雷蔵/若尾文子/勝新太郎)

ある殺し屋2.jpg 「ある殺し屋」('67年/大映)は、普段は一杯飲屋の主人で刺身魚を自ら捌いたりしているというありきたりの市井の男だが、実はその裏の正体は、大物ヤクザの親分の暗殺なある殺し屋 title.jpgどの仕事を大金で請け負い、それがどんな困難なものであっても完遂するプロの殺し屋(武器としても用いるのは太い針)―という主人公「新田」の役どころを、市川雷蔵(1931-1969/享年37)がニヒルかつスマートに演じている作品で、続編が1作だけ作られています。
     
「ある殺し屋」1.jpg「ある殺し屋」2.bmp 助けてやった女(野川由美子)に付きまとわれてもそれを一向に相手にせず、仲間のフリをして寄ってくるヤクザ(成田三樹夫)に裏切られても、全て織り込みで既に手は打ってある―「ある殺し屋」.jpgあまりにストイックかつクールで、ストーリーだけで見ると非現実的なB級(C級とでも言うか)作品になりそうなものですが、市川ある殺し屋dvd.jpg雷蔵が演じると、殺し屋稼業をしている時でも何だかサラリーマン風にも見えたりして、そうしたステレオタイプのハードボイルド・ヒーローとのギャップ感がなかなかいいリアリティを醸していて、時にはそれが却って凄みになったりもしています。ある殺し屋.jpg 口数は少ないが男気も秘めており、結局、女よりもむしろ男が惚れる男というのはこういうものかと納得させられる(勿論、新田の場合は女性にもモテるのだが)、心地よいハードボイルド作品となっています。
ある殺し屋 [DVD]

「ある殺し屋の鍵」チラシ/「ある殺し屋の鍵 [DVD]
ある殺し屋の鍵 チラシ.jpgある殺し屋の鍵 dvd.jpg 因みに、同年12月に公開された同じく藤原審爾原作・森一生監督の「ある殺し屋の鍵」('67年/大映)では、市川雷蔵が演じる主人公の新田の表向きの職業は、一杯飲屋の主人から日本舞踊の師匠に替わっており(新田は、流れ包丁だったのか? それにしてもビックリの職替え)、脱税王(内田朝雄)とか建設会社の社長(西村晃)とか政財界の黒幕(山形勲)とか色々出できて話はスケールアップしていますが(3人とも新田に殺される役!)、新田のニヒルでスマートな様は変わっていません。原ある殺し屋の鍵 title.jpgある殺し屋の鍵 1シーン.jpg作ストーリーもしっかりしていますが、ストーリーもさることながら、演じている「市川雷蔵」そのものを楽しめる作品ではないかと思います (両作品とも撮影は宮川一夫)。
「ある殺し屋の鍵」市川雷蔵/佐藤友美

「ある殺し屋」1.bmp 市川雷蔵は映画史上最高の時代劇スターと謳われた名優で、映画も「眠狂四郎シリーズ」や「大菩薩峠シリーズ」など数的には時代劇の方の出演が主なのですが、現代劇でもこんなにしっくり来る歌舞伎界出身の俳優は少ないのではないかと思われ、37歳でガンのため夭折したことが惜しまれます(それでも160本近い映画に出演したのだが)。現代劇に出ている時は歌舞伎役者的なニオイがキレイさっぱり無くなるタイプで、そうした系統では、同じく眠狂四郎を演じた片岡孝男(現・片岡仁左衛門)などがいましたが(田村正和も演じていたなあ)、ちょっとそれらと比較にならないかも(早逝したことも、イメージが損なわれないという意味ではプラスに働いているが)。

木村 恵吾 「初春狸御殿」.jpg初春狸御殿 poster.jpg この人の時代劇の方は劇場ではあまり観ていないのですが、木村恵吾監督の「初春狸御殿」('59年/大映)というのは"珍品"。所謂"マゲものミュージカル"という類で、時代劇なのに若尾文子が演じるお姫様が着物にネックレスをしているというのが可笑しく、市川雷蔵と比較されることの多い、あの勝新太郎が、完璧な二枚目役者として出ています。木村恵吾監督はこれ以前にも「狸御殿」「歌う狸御殿」「春爛漫狸祭」「花くらべ狸御殿」を撮っていて(「初春狸御殿」はシリーズ最終作)、50年代にこうした陽気な大衆映画が受けた時期があったことを知っている人がどれぐらいいるか分かりませんが、今の若い人にとってはある種のカルトムービー的位置づけになるのかも。
勝新太郎 in「初春狸御殿」
初春狸御殿bb.jpg 初春狸御殿77.jpg
市川雷蔵 in「ある殺し屋」
「ある殺し屋」森一生 1967.jpgある殺し屋3.jpg「ある殺し屋」●制作年:1967年●監督:森一生●脚本:増村小林幸子 3.jpg保造/石松愛弘●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤原審爾「前夜」●時間:82分●出演:市川雷蔵/野川由美子/成田三樹夫/渚まゆみ/ある殺し屋小林幸子.jpg小林幸子(当時13歳)/小池朝雄/千波丈太郎/松下達夫/伊達三郎/「ある殺し屋」4.bmp「ある殺し屋」3.bmp浜田雄史●公開:1967/04●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋の鍵」(森一生)
市川雷蔵/佐藤友美 in「ある殺し屋の鍵」
「ある殺し屋の鍵」森一生 1967.jpg「ある殺し屋の鍵」●制作年:1967年●監督:森一生●構成:増村保造●脚本:小滝光郎●撮影:宮川一夫●音楽:鏑木創●原作:藤原審爾「消される男」●時間:82分●出演:市川雷蔵/西村晃/佐藤友美/山形勲/中谷一郎/金内吉男/ 伊達三郎/伊東光一/内田朝雄/玉置一恵/森内一夫/伊東義高/志賀明●公開:1967/12●配給:大映●最初に観た場所:大井ロマン(87-10-31)(評価:★★★★)●併映:「ある殺し屋」(森一生)
若尾文子/市川雷蔵 in「初春狸御殿」
初春狸御殿_3.jpg木村 恵吾 「初春狸御殿」2.jpg「初春狸御殿」●制作年:1959年●監督・脚本:木村恵吾●製作:三浦信夫●撮影:今井ひろし●音楽:吉田正●時間:95分●出演:市川雷蔵/若尾文子/若尾文子 市川雷蔵 初春狸御殿a.jpg大井武蔵野館 1989.jpg勝新太郎/中村玉緒/金田一敦子/仁木多鶴子/水谷良重/中村雁治郎/真城千都世/近藤美恵子/楠トシエ/トニー・谷/菅初春狸御殿20.jpg井一郎/江戸屋猫八/三遊亭小金馬/左卜全/藤本二三代/神楽坂浮子/松尾和子/小浜奈々子/岸正子/美川純子/大和七海路/小町瑠美子/毛利郁子/嵐三右衛門●公開:1959/12●配給:大映●最初に観た場所:大井武蔵野館 (86-11-15)(評価:★★★?)●併映:「真田風雲録」(加藤泰)

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何時か確実に訪れる自らの「死」を想起させる。黒澤明に「生きる」を着想させた作品。

イワン・イリッチの死4.jpgイワン・イリッチの死_iwan.jpg イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ.jpg  Ikiru(1952).jpg Ikiru(1952)   
イワン・イリッチの死 (岩波文庫)』 米川正夫:訳 ['34年/'73年改版] 『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)』 望月哲男:訳 ['06年] 

The Death of Ivan Ilyich.jpgレフ・ニコライビッチ・トルストイ.jpg レフ・ニコライビッチ・トルストイ(1828‐1910/享年82)の中篇小説。45歳の裁判官が不治の病に罹り、肉体的にも精神的にも耐え難い苦痛を味わいながら着実に「死」に向かっていく、その3カ月間の心理的葛藤を、今まで世俗的な価値に固執し一定の栄達を得た自らの人生に対する、それがいかに無意味なものであったかという価値観の転倒からくる混乱と絶望、周囲から哀れみの眼差しを浴びながらも、あたかも自分の死が「予定調和」乃至は「ちょっとした不意の出来事」のように受け取られていることへの苛立ち、そして死の直前の苦悶と周囲への思いやりにも似た「回心」に至るまでを、まさに描き難いものを描き切ったと言える作品です。
                         
生きる 映画.jpg「生きる」1952.jpg生きる 志村喬 伊藤雄之助.jpg 1886年3月、文豪57歳の時に完成した作品ですが、1881年に実在のある裁判官の死に接して想を得たもので、主人公の葬儀とその世俗的な生涯の振り返りから始まるこの作品は、黒澤明監督の「生きる」と導入生きるA.jpg部分や主人公が役人である点が似ており、黒澤はこの作品から「生きる」を着想したとされています。映画関連のデータベースでは、「生きる」の原作としてこの小説が記されているものがありましたが、実際のクレジットはどうだったでしょうか。
                               
『生きる』.jpg 映画は映画で独立した傑作であり、トルストイのイワン・イリッチの死』が「原作」であるというより、この作品を「翻案」したという感じに近いかもしれません(或いは、単にそこから着想を得たというだけとも言える。伊藤雄之助が演じた無頼派作家に該当しそうな人物なども『イワン・イリッチの死』には登場しないし)。

 作品テーマから捉えても、「生きる」が残された時間をどう生きるかがテーマであったのに比べ、この作品は、自らの死をどう受け入れるかが大きなテーマになっているように思います。

「生きる」(1952・東宝/出演:志村喬/伊藤雄之助)
   
iイワン・イリイチの死7.jpgThe Death of Ivan Ilyich6.jpg 『イワン・イリッチの死』の主人公イワン・イリッチは、「カイウスは人間である、人間は死すべきものである、従ってカイウスは死すべきものである」という命題の正しさを信じながらも、「自分はカイウスではない」とし、死を受け入れられないでいます。

 彼を最も苦しめるのは、「ただ病気しているだけで、死にかかっているわけではなく、落ち着いて養生していれば治る」という「(彼をとりまく家族など)一同に承認せられた嘘」であり、それは皮肉にも彼自身が生涯奉仕してきた「礼儀」というものからくるものですが、その「嘘」に自分も加担させられていることに彼は苛立つわけです。

 この作品は読む者に、日常の雑事により隠蔽されている、但し何時か確実に訪れる自らの「死」を想い起こさせるものであり、ある意味、怖いと言うか、向き合うのが苦痛に感じる面もありますが、一方で、文庫で僅か100ページ、「メメント・モリ」をテーマとしたものとしては、比較的手に取り易い、ある種"テキスト"的作品であるようにも思います。

 周囲との断絶に苦しむ主人公は、死の直前、自分の今の存在こそが周囲を苦しめており、そこから周囲を解き放つことによって自分も楽になると感じる。その時、そこには「死は無かった」―。
 死は生の側にあり、死自体は無であるということを如実に示す実存的作品であり、訳者の米川正夫(1891‐1965)はドストエフスキー作品の翻訳でも知られた人、最近刊行された光文社古典新訳文庫でも、ドストエフスキーが"専門"である望月哲男氏が翻訳にあたっています。

 尚、望月氏もそうですが、『新潮世界文学20-トルストイ5』('71年)の中で本作品を訳している工藤精一郎氏も主人公の名前を「イワン・イリイチ」としており、韻を踏むことで主人公の規則的な「役人」人生を表象しているらしく、その点からすれば、「イリッチ」より「イリイチ」の方が相応しいのかも。

生きる2.jpg「生きる」●制作年:1952年●製作:本木莊二郎 ●監督:黒澤明●脚本:黒澤明/橋本忍小国英雄●撮影:中井朝一●音楽:早生きる パンフ.bmp坂文雄●原作:生きる 加東.jpgレフ・トルストイ「イワン・イリッチの死」●時間:143分●出演:志村喬/小田切みき/金子信雄/関京子/浦辺粂子/菅井きん「生きる」中村伸郎.jpg「生きる」阿部九洲男.jpg/丹阿弥谷津子/田中春男/千秋実/左ト全/藤原釜足/中村伸郎/渡辺篤/木村功/伊藤雄之助/清水将夫/南美江/加東大介/山田巳之助/阿部九洲男/宮口精二/大井武蔵野館 閉館日2.jpg河崎堅男/勝本圭一郎/鈴木治夫/今井和雄/加藤茂雄/安芸津広/長濱藤夫/川越一平/津田光男/榊田敬二/熊谷二良/片桐常雄/田中春男/日守新一●公開:1952/10●配給:東宝●最初に観た場所:大井武蔵野館 (85-02-24)(評価★★★★)●併映「隠し砦の三悪人」(黒澤明)
   
大井武蔵野館 閉館日.jpg大井武蔵野館2.jpg大井武蔵野館.jpg「大井武蔵野館」ぼうすの小部屋 - おでかけ写真展より/大井武蔵野館 1999(平成11)年1月31日閉館(右写真・最終日の大井武蔵野館)


 

 【1934年文庫化・1973年改定[岩波文庫(米川正夫訳)〕/2006年再文庫化[光文社古典新訳文庫(望月哲男訳『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』)〕】

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写真が豊富(数千点)かつ鮮明。生活費を切り詰め集めた"執念のコレクション"。

東宝特撮怪獣映画大鑑(増補版).jpg 東宝特撮怪獣映画大鑑 増補版.jpg ゴジラ.jpg モスラ対ゴジラ1964.jpg
東宝特撮怪獣映画大鑑』(1999/03 朝日ソノラマ) 「ゴジラ」(1954)/「モスラ対ゴジラ」(1964)

 朝日ソノラマの旧版('89年刊行)の「増補版」。553ページにも及ぶ大型本の中で、'54年の「ゴジラ」から'98年の「モスラ3」までのスチールや撮影風景の写真などを紹介していますが、とにかく写真が充実(数千点)しているのと、その状態が極めてクリアなのに驚かされます。

浅野ゆう子.jpg 怪獣映画ファンサークル代表竹内博氏が、仕事関係で怪獣映画の写真が手元に来る度に自費でデュープして保存しておいたもので(元の写真は出版社や配給会社に返却)、当時の出版・映画会社の資料保管体制はいい加減だから(そのことを氏はよく知っていた)、結局今や出版社にも東宝にもない貴重な写真を竹内氏だけが所持していて、こうした集大成が完成した、まさに生活費を切り詰め集めた"執念のコレクション"です(星半個マイナスは価格面だけ)。

水野久美2.jpg若林映子2.jpg やはり、冒頭に来るのは「ゴジラ」シリーズですが、スチールの点数も多く、ゴジラの変遷がわかるとともに、俳優陣の写真も豊富で、平田昭彦、小泉博、田崎潤、佐原健二、藤木悠、宝田明、高島忠夫、女優だと水野久美若林映子、根岸明美、さらに前田美波里や、ゴジラものではないですが浅野ゆう子('77年「惑星大戦争」)なども出ていたのだなあと。

モスラ対ゴジラ.jpgモスラ.jpgゴジラ ポスター.jpg 「ゴジラ」('54年)は、東宝の田中友幸プロデューサーによる映画「ゴジラ」の企画が先にあって、幻想小説家の香山滋が依頼を受けて書いた原作は原稿用紙40枚ほどのものであり、現在文庫で読める『小説ゴジラ』は、映画が公開された後のノヴェライゼーションです。

ゴジラ 1954.jpgゴジラs29.jpg  自分が生まれる前の作品であり(モノクロ)、かなり後になって劇場で観ましたが、バックに反核実験のメッセージが窺えたものの、怪獣映画ファンの多くが過去最高の怪獣映画と称賛するわりには、自分自身の中では"最高傑作"とするまでには、今ひとつノリ切れなかったような面もあります。やはりこういうのは、子供の時にリアルタイムで観ないとダメなのかなあ。昭和20年代終わり頃に初めて「怪獣映画」というものを観た人たちにとっては、強烈なインパクトはあったと思うけれど、自分がリアルタイムで観ていない作品は、ついつい現代の技術水準や演出などとの比較で観てしまう傾向があるかも。ゴジラ 1954.jpg但し、制作年('54年)の3月にビキニ環礁で米国による水爆実験があり、その年の9月に「第五福竜丸」の乗組員が亡くなったことを考えると、その年の12月に公開されたということは、やはり、すごく時代に敏感に呼応した作品ではあったかと思います。
Gojira (1954)
Gojira (1954) .jpg
「ゴジラ」●制作年:1954年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本:村田武雄/本多猪四郎●撮影:玉井正夫●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二ほか●原作:香山滋●時間:97分●出演:宝田明/河内桃子/平田昭彦/志村喬/堺左千夫/村上冬樹/山本廉/榊田敬二/鈴木豊明 /馬野都留子/菅井きん/笈川武夫/林幹/恩田清二郎/高堂国典/小川虎之助/手塚克巳/橘正晃/帯一郎/中島春雄●公開:1954/11●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿名画座ミラノ (83-08-06)(評価:★★★☆)●併映:「怪獣大戦争」(本多猪四郎)

モスラ_0.jpg 作品区分としてはゴジラ・シリーズではないですが、中村真一郎、福永武彦、堀田善衛の3人の純文学者を原作者とする「モスラ」('61年)の方が、今観ると笑えるところも多いのですが、全体としてはむしろ大人の鑑賞にも堪えうるのではないかと...。まあ、「ゴジラ」と「モスラ」の間には7年もの間隔があるわけで、その間に進歩があって当然なわけだけれど(そう言えば、大映の「ガメラ」('60年)も第一作はモノクロで、かなり子供向けの内容だった)。
「モスラ」('61年)予告

モスラ51.jpg ザ・ピーナッツ(伊藤エミ(1941-2012)、伊藤ユミ(1941-2016))のインドネシア風の歌も悪くないし、東京タワー('58年完成、「ゴジラ」の時「モスラ」(61年).jpgはまだこの世に無かった)に繭を作るなど絵的にもいいです。原作「発光妖精とモスラ」では繭を作るのは東京タワーではなく国会議事堂でしたが、60もののけ姫のオーム.jpg年安保の時節柄、政治性が強いという理由で変更されたとのこと、これにより、モスラは東京タワーを最初に破壊した怪獣となり、東京タワーは完成後僅か3年で破壊の憂き目(?)に。繭から出てきたのは例の幼虫で、これが意外と頑張った? 宮崎駿監督の「もののけ姫」('97年)の"オーム"を観た時、モスラの幼虫を想起した人も多いのではないでしょうか。
モスラ_1.jpg「モスラ」●制作年:1961年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:古関裕而●特殊技術:円谷英二●イメージボード:小松崎茂●原作:中村真一郎/福永武彦/堀田善衛「発光妖精とモスラ4S.jpgモスラ」●時間:101分●出演:フランキー堺/小泉博/香川京子/ジェリー伊藤 /ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/上原謙/志村喬/平田昭彦/佐原健二/河津清三郎/小杉義男/高木弘/田島義文/山本廉/加藤春哉/三島耕/中村哲/広瀬正一/桜井巨郎/堤康久●公開:1961/07●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿シアターアプル (83-09-04)(評価:★★★☆)●併映:「三大怪獣 地球最大の決戦」(本多猪四郎)

モスラ対ゴジラ ポスター2.jpgモスラ対ゴジラ ポスター.jpg この「ゴジラ」第1作を観ると、ゴジラが最初は純粋に"凶悪怪獣"であったというのがよくわかります。それが「ゴジラシリーズ」の第4作「モスラ対ゴジラ」('64年)(下写真)の時はまだモスラの敵役モスラ対ゴジラ 02.jpgだったものの(この作品はゴジラにとって怪獣同士の闘いにおける初黒星、昭和のシリーズでは唯一の敗戦を喫した作品でもある。因みに、「ゴジラシリーズ」の第3作「キングコング対ゴジラ」('62年)は両者引き分け(相撃ち)とされているようだ)、同じ年に公開された('64年12月公開予定だった黒澤明監督「赤ひげ」の撮影が長引いたため、正月興行用に急遽制作された)「ゴジラシリーズ」の第5作「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年)(下写真)「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年)3.jpgになると、宇宙怪獣キングギド三大怪獣 地球最大の決戦.jpgラを倒すべく力を合わせようというモスラ(幼虫)の"呼びかけ"にラドンと共に"説得"されてしまいます。この怪獣たちが極端に擬人化された場面のバカバカしさは見モノでもあり、ある意味、珍品映画として貴重かもしれません。ともかく、ゴジラはこの作品以降、昭和シリーズではすっかり"善玉怪獣"になっています(「三大怪獣 地球最大の決戦」には、後にボンドガールとなる若林映子が、キングギドラに滅若林映子 サルノ王女.jpgぼされた金星人の末裔であるサルノ王女(の意識が憑依した女性)役で出ていたが、王女の本名はマアス・ドオリナ・サルノ(まあ素通りなさるの!)だった)。この作品、「四大怪獣」ではないかとも言わましたが、モスラ、ゴジラ、ラドンの地球の3匹がを力を合わせて宇宙怪獣キングギドラ戦に挑むことから、「地球の三大怪獣」にとっての最大の決戦という意味らしいです。
若林映子(サルノ王女)in「三大怪獣 地球最大の決戦」

Mosura tai Gojira(1964).jpgモスラ対ゴジラ2.jpg「モスラ対ゴジラ」●制作年:1964年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚色:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:89分●出演:宝田明/星由里子/小泉博/ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)/藤木悠/田島義文/佐原健二/谷晃/木村千吉/中モスラ 小美人用に作られた巨大セット.jpgモスラ .jpg山豊/田武謙三/藤田進/八代美紀/小杉義男/田崎潤/沢村いき雄/佐田豊/山本廉/佐田豊●公開:1964/04●配給:東宝(評価:★★★☆)
小泉博・宝田明・星由里子・ザ・ピーナッツ/小美人用に作られた巨大セット(本多監督とザ・ピーナッツ)

Mosura tai Gojira(1964)
「モスラ対ゴジラ」('64年)予告

                  
三大怪獣・地球最大の決戦 パンフレット.jpgSan daikaijû Chikyû saidai no kessen(1964).jpg三大怪獣 地球最大の決戦2.jpg「三大怪獣 地球最大の決戦」.png「三大怪獣 地球最大の決戦」●制作年:1964年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本:関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:97分●出演:夏木陽介/小泉博/星由里子/若林映子/ザ・ピーナッツ/志村喬/伊藤久哉/平田昭彦/佐原健二/沢村いき雄/伊吹徹/野村浩三/田島義文/天本英世/小杉義男/高田稔/英百合子/加藤春哉●時間:93分●公開:1964/12●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿シアターアプル (83-09-04)(評価:★★☆)●併映:「モスラ」(本多猪四郎)
San daikaijû Chikyû saidai no kessen(1964)

怪獣大戦争.jpg怪獣大戦争01.jpg 更に、ゴジラシリーズ第6作「怪獣大戦争」('65年)は、地球侵略をたくらむX星人がキングギ怪獣大戦争 土者.jpgドラ、ゴジラ、ラドンの3大怪獣を操り総攻撃をかけてくるというもので、X星人の統制官(土屋嘉男)がキングギドラを撃退するためゴジラとラドンを貸して欲しいと地球人に依頼してきて(土屋嘉男は「地球防衛軍」('57年)のミステリアン統領以来の宇宙人役か)、その礼としてガン特効薬を提供すると申し出るが実はそれは偽りで...という、まるで人間界のようなパターンの詐欺行為。「シェー」をするゴジラなど、怪獣のショーアップ化が目立ち、"破壊王"ゴジラはここに至って、遂に自らのイメージをも完全粉砕してしまった...。

怪獣大戦争011.jpg 本書にはない裏話になりますが、この作品に準主役で出演した米俳優のニック・アダムスは、ラス・タンブリンなど同列のSF映画で日本に招かれたハリウッド俳優達が日本人スタッフと交わろうとせずに反発を受けたのに対し、積極的に打ち解け馴染もうとし、共演者らにも人気があったそうで、土屋嘉男とは特に息が合い、土屋にからかわれて女性への挨拶に「もうかりまっか?」と言っていたそうで、仕舞には、自らが妻帯者であるのに、水野久美に映画の役柄そのままに「妻とは離婚するから結婚しよう」と迫っていたそうです(ニック・アダムスは当時、私生活では離婚協議中だったため、冗談ではなく本気だった可能性がある。但し、彼自身は、'68年に錠剤の過量摂取によって死亡している(36歳))。

怪獣大戦争ges.jpgニック・アダムス2.jpg「怪獣大戦争」●制作年:1965年●監督:本多猪四郎●製作:田中友幸●脚本: 関沢新一●撮影:小泉一●音楽:伊福部昭●特殊技術:円谷英二●時間:94分●出演:宝田明/ニック・アダムス/久保明/水野久美/沢井桂子/土屋嘉男/田崎潤/田島義文/田武謙三/、村上冬樹/清水元/千石規子/佐々怪獣大戦争 土屋嘉男.jpg怪獣大戦争2.jpg木孝丸●公開:1965/12●配給:東宝●最初に観た場所(再見):新宿名画座ミラノ (83-08-06)(評価:★★☆)●併映:「ゴジラ」(本多猪四郎)
中央:X星人統制官(土屋嘉男)

水野久美.jpg 怪獣の複数登場が常となったのか、「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」('66年)などというのもあって、監督は本多猪四郎ではなく福田純ですが、これはなかなかの迫力だった印象があります(後に観直してみると、人間ドラマの方はかなりいい加減と言うか、ヒドいのだが)。

ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘ps.jpg水野久美 in「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」('66年)

ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘2.jpg 水野久美が"原住民"の娘役で出ていて、キャスティングの変更による急遽の出演で、当時29歳にして19歳の役をやることになったのですが、今スチール等で見ても、妖艶過ぎる"19歳"、映画「南太平洋」('58年/米)みたいなエキゾチックな雰囲気もありましたが、何せ観たのは子供の時ですから、南の島の島民たちが大壷で練っている黄色いスープのような液体の印象がなぜか強く残っています(何のための液体だったのか思い出せなかったのだが、後に観直して"エビラ除け"のためのものだったと判り、スッキリした)。

「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」.jpg「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」●制作年:1966年●監督:福田純●製作:田中友幸●脚本:関沢新一●撮影:山田一夫●音楽:佐藤勝●特殊技術:円谷英二●出演:宝田明/渡辺徹/伊吹徹/当銀長太郎/砂塚秀夫/水野久美/田崎潤/平田昭彦/天本英世/佐田豊/沢村いき雄/伊藤久哉/石田茂樹/広瀬正一/鈴木和夫/本間文子/中北千枝子/池田生二/岡部正/大前亘/丸山謙一郎/緒方燐作/勝部義夫/渋谷英男●時間:87分●公開:1966/12●配給:東宝(評価:★★★☆)●併映:「これが青春だ!」(松森 健)

大怪獣ガメラgamera_1.jpg この辺りまで怪獣映画は東映の独壇場ともいえる状況でしたが、'65年に大映が「大怪獣ガメラ」、'67年に日活が「大巨獣ガッパ」でこの市場に参入します(本書には出てこないが)。このうち、「大怪獣ガメラ」('65年/大映)は、社長の永田雅一の声がかりで製作されることとなり(永田雅一の「カメ」で行けという"鶴の一声"で決まったようで、湯浅憲明(1933-2004)監督はじめスタッフは苦労したのではないか)、これがヒットして、ガメラ・シリーズは'71年に大映が倒産するまでに7作撮影されましたが、本作はシリーズ唯一のモノクロ作品です(「ゴジラ」の第1作を意識したのかと思ったが、予算と技術面の都合だったらしい)。大怪獣ガメラ 船越英二.jpgあらすじは、砕氷調査船・ちどり丸で北極にやってきた日高教授(船越英二)らの研究チームが、、国籍不明機を目撃、その国籍不明機には核爆弾が搭載大解呪ガメラ 1965es.jpgされており、その機体爆発の影響で、アトランティスの伝説の怪獣ガメラが甦るというもの。「ガメラ」の命名者でもある永田雅一の「子供たちが観て『怪獣がかわいそうだ』とか哀愁を感じないといけない」という考えのもと、子供たちの共感を得ないとヒットしない」との考えの大怪獣ガメラ _.jpg大怪獣ガメラ 1965_.jpgもと、ガメラは子供には優しく、特にカメを大事に飼っている主人公の少年には優しいのですが、いくら何でも擬人化し過ぎたでしょうか(永田雅一は「ガメラを泣かせろ」と指示したそうな)。特撮自体は悪くなく、逃げ惑う人々のシーンの人海戦術も効いているだけに、お子様仕様になってしまったのが惜しまれます(出来上がった作品を観て永田雅一は「面白い」と言ったそうだが、映画はヒットしたわけだから、商売人としての感性はあった?)。
大怪獣ガメラ [Blu-ray]」「大怪獣ガメラ デジタル・リマスター版 [DVD]
「大怪獣ガメラ」●制作年:1965年●監督:湯浅憲明●製作:永田秀雅(製作総指揮:永田雅一)●脚本:高橋二三●撮影:宗川信夫●音楽:山内正●時間:78分●出演:船越英二/山下洵一郎/姿美千子/霧立はるみ/北原義郎/左卜全/浜村純/北城寿太郎/吉田義夫/大山健二/小山内淳/藤山浩二/大橋一元/高田宗大怪獣ガメラ 船越英二  2.jpg彦/谷謙一/中田勉/森矢雄二/丸山修/内田喜郎/槙俊夫/隅田一男/杉森麟/村田扶美子/竹内哲郎/志保京助/中原健/森一夫/佐山真次/喜多大八/大庭健二/荒木康夫/井上大吾/三夏伸/清水昭/松山新一/岡郁二/藤井竜史/山根圭一郎/村松若代/沖良子/加川東一郎/伊勢一郎/佐原新治/宗近一/青木英行/萩原茂雄/古谷徹/中条静夫(ナレーション)●時間:87分●公開:1965/11●配給:大映(評価:★★★)
船越英二・霧立はるみ

ゴジラvsキングギドラ.jpgゴジラvsビオランテ.gif 一方、'75年で一旦終了した「ゴジラ」シリーズは9年ぶりに再開し、久々に作られた第16作「ゴジラ」('84年)で、ゴジラを原点の"凶悪怪獣"に戻したようですが、第17作あたりから、また少しおかしくなってくる...。

「ゴジラ vs ビオランテ」vhs.jpg 第17作「ゴジラ vs ビオランテ」('89年)は、バイオテクノロジーによってゴジラとバラの細胞を掛け合わせて造られた超獣ビオランテが登場し、一般公募ストーリー5千本から選ばれたものだそうですが(選ばれたのは「帰ってきたウルトラマン」第34話「許されざるいのち」の原案者である小林晋一郎の作品。一般公募と言ってもプロではないか)、確かに植物組織を持った怪獣は、「遊星よりの物体x」('51年/米)(「遊星からの物体x」('82年/米)のオリジナル)の頃からあるとは言え、随分と荒唐無稽なストーリーを選んだものだと...。

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ゴジラ vs キングギドラ 1991.jpg 第18作「ゴジラ vs キングギドラ」('91年)は、南洋の孤島に生息していた恐竜が核実験でゴジラに変身したという新解釈まで採り入れており(ここに来てゴジラの出自を変えるなんて)、ゴジラが涙ぐんでいるような場面もあって、また同じ道を辿っているなあと(この映画、敵役の未来人のUFOが日本だけを攻撃対象とするのも腑に落ちないし、タイム・パラドックスも破綻気味)。

ゴジラvsキングギドラ tutiya2.jpg 第17、第18作は大森一樹監督で、いくらか期待したのですが、かなり脱力させられました(第18作「ゴジラ vs キングギドラ」で怪獣映画の中で土屋嘉男を見たのがちょっと懐かしかったくらいか)。この監督は商業映画色の強い作品を撮るようになって、はっきり言ってダメになった気がします。大森一樹監督の最高傑作は自主映画作品「暗くなるまで待てない!」('75年/大森プロ)ではないでしょうか。神戸を舞台に大学生の若者たちが「暗くなるのを待てないで昼間から出てくるドラキュラの話」の映画を撮る話で、モノクロで制作費の全くかかっていない作品ですが、むしろ新鮮味がありました(今年['08年]3月に、大森監督によってリメイクされた)。

 結局、ゴジラ・シリーズは'04年の第28作をもって終了しますが、「ゴジラ」シリーズ全体での観客動員数は9,925万人で、「男はつらいよ」シリーズ全48作の合計観客動員数7,957万人を上回り、歴代で最も観客動員数多い劇場映画シリーズとされています。

ゴジラ vs ビオランテ  .jpg「ゴジラ vs ビオランテ」●制作年:1989年●監督・脚本:大森一樹●製作:田中友幸●音楽:すぎやまこういち(ゴジラテーマ曲:伊福部昭)●時間:97分●出演:三田村邦彦/田中好子/小高恵美/峰岸徹/高嶋政伸/沢口靖子/高橋幸治●公開:1989/12●配給:東宝 (評価:★☆)

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「ゴジラ vs キングギドラ」●制作年:1991年●監督・脚本:大森一樹●製作:田中友幸●音楽:伊福部昭●特技監督:川北紘一●原作:香山滋●時間:103分●出演:中川安奈/豊原功補/小高恵美/西岡徳馬/土屋嘉男/原田貴和子/小林昭二/佐々木勝彦/チャック・ウィルソン/ロバート・スコットフィールド●公開:1991/12●配給:東宝 (評価:★☆)
  
暗くなるまで待てない!47.jpg「暗くなるまで待てない」のサウンドトラックm.jpg「暗くなるまで待てない!」●制作年:1975年●監督:大森一樹●脚本:大森一樹/村上知彦●音楽:吉田健志/岡田勉/吉田峰子●時間:30分●出演:稲田夏子/栃岡章/南浮泰造/村上知彦/森岡富子/磯本治昭/塚脇小由美/大森一樹/鈴木清順●公開:1975/04●配給:大森プロ●最初に観た場所:高田馬場パール座 (80-12-25) (評価:★★★★)●併映:「星空のマリオネット」(橋浦方人)/「青春散歌 置けない日々」(橋浦方人)

「暗くなるまで待てない」サウンドトラック(吉田健志)

日本誕生.jpg ゴジラ・シリーズ以外で、役者だけで見れば何と言っても凄いのが「日本誕生」('59年)で、ヤマタノオロチが出てくるため確かに"怪獣映画"でもあるのですが、三船敏郎、乙羽信子、司葉子、鶴田浩二、東野英治郎、杉村春子、田中絹代、原節子など錚々たる面々、果ては、柳家金語楼から朝汐太郎(当時の現役横綱)まで出てくるけれど、「大作」転じて「カルト・ムービー」となるといった感じでしょうか(観ていないけれど、間違いなくズッコケそうで観るのが怖いといった感じ)。 

「日本誕生」 アメノウズメノミコ (乙羽信子)

マタンゴ.jpg 初期の「透明人間」('54年)やガス人間第1号」('60年)など"○○人間"モノや天本英夫の「マタンゴ」('63年)といった怪奇モノ、地球防衛軍」('57年)宇宙大戦争」('59年)などの宇宙モノから中国妖怪モノ、"フランケンシュタイン"モノまで、シリーズごとのほぼ全作品を追っていて、作品当りのスチール数も豊富な上に、一部については、デザイン画や絵コンテなども収められています。

 この頃東宝はゴジラ映画だけを作っていたわけではなく、クラゲの化け物のような怪獣が登場する宇宙大怪獣ドゴラ」('66年)といった作品もありました。個人的には、"フランケンシュタイン"モノでは、フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」('66年)などが印象に残っています。
 
水野久美 in 「フランケンシュタイン対地底怪獣」('65年)/根岸明美 in「キングコング対ゴジラ」('62年)
東宝特撮怪獣映画大鑑1.jpg 東宝特撮怪獣映画大鑑2.jpg

根岸明美 アナタハン.jpg根岸明美 マタンゴ.jpg赤ひげ 根岸明美 .jpg
根岸明美(1934.3.26-2008.3.11/享年73) in 「アナタハン」('53年)、「キングコング対ゴジラ」('62年)、「赤ひげ」('65年)

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シリーズ中では充実した内容。回答者のコメントが楽しい。中上級編の注目は「十三人の刺客」。

大アンケートによる日本映画ベスト150 0_.jpg 七人の侍 志村喬.jpg  洋・邦名画ベスト1501.JPG
大アンケートによる日本映画ベスト150 (文春文庫―ビジュアル版)』/「七人の侍」/『洋・邦名画ベスト150〈中・上級篇〉』 (表紙イラスト:共に安西水丸

 『大アンケートによる日本映画ベスト150』は、同じ「文春文庫ビジュアル版」の『大アンケートによる洋画ベスト150』('88年)の続編で、この映画シリーズはこの後、

大アンケートによるわが青春のアイドル女優ベスト150  .jpg ◆『大アンケートによるわが青春のアイドル女優ベスト150』 〔'90年〕
 ◆『洋画・邦画ラブシーンベスト150』 〔'90年〕
 ◆『大アンケートによるミステリー・サスペンス洋画ベスト150』 〔'91年〕
 ◆『ビデオが大好き!365夜―映画カレンダー』 〔'91年〕
 ◆『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』 〔'92年〕
 ◆『大アンケートによる男優ベスト150』 〔'93年〕
 ◆『戦後生まれが選ぶ洋画ベスト100』 〔'95年〕

映画イヤーブック1994.jpgと続いています。これらの内の何冊かは、'90年代に毎年刊行されていた現代教養文庫(版元の社会思想社は倒産)の『映画イヤーブック』と共に愛読・活用させてもらいました。角川文庫にも『日本映画ベスト200』('90年)などのアンケート・シリーズがありますが、「ビジュアル版」と謳っている文春文庫のシリーズの方が、掲載されているスチール、ポートレート、ポスターの量と質で、角川文庫のものを上回っています。

Shichinin no samurai(1954).jpg七人の侍 パンフ.jpg7samurai.jpg 本書『邦画ベスト150』には、赤瀬川順・長部日出雄・藤子不二雄A氏らの座談会や、映画通が選んだジャンル別のマイベスト、井上ひさしの「たったひとりでベスト100選出に挑戦する!」といった興味深い企画もありますが、メインの「ベスト150」は、1位が「七人の侍」で、以井上ひさしs.jpg下「東京物語」「生きる」「羅生門」「浮雲」と続く"まともな"ラインアップとなっています(因みに、井上ひさしの「たったひとりでベスト100選出に挑戦する!」も、第1位が「七人の侍」で、あと「天国と地獄」「生きる」と黒澤作品が続く)。
Shichinin no samurai(1954)  「七人の侍」('63年/東宝)

七人の侍 1954.jpg「七人の侍」.jpg 「七人の侍」の「1位」には、個人的にもほぼ異論を挟む余地が無いという気がします。先にジョン・スタージェス監督の「荒野の七人」('60年/米)を観てオリジナルであるこの作品も早く観たいと思っていたですが、観るのなら絶対に劇場でと思い、リヴァイバル上映を待ちに待って、結局'90年代にニュープリント、リニューアル・サウンドの完全オリジナル版が15年ぶりに公開されたのを機にやっと観ました。渋谷のロードショーシアターへ、休日の昼間ではおそらく行列に並ぶことになるだろうと思い、冬の日の朝一番なら多少すいているかもしれないと思って観にいったら、観客多数のため上映館が急遽変更されていて、渋谷の街中(まちなか)を走った思い出があります。

『七人の侍』(1954) .jpg 「荒野の七人」もいい映画ではあるものの、やはりオリジナルは遥かにそれを七人の侍n.jpg凌ぐレベルの作品だったことを実感しました。アクション映画としても傑作ですが、脚本面でも思想性という面でも優れた作品だと思います。

三船敏郎(菊千代)/土屋嘉男(利吉)

 『洋画ベスト150』もそうですが、映画通と言われる特定の映画にこだわりを持った人々からアンケートをとっても、それらを全部を集計してしまうと、一般の映画ファンのアンケート結果とそう変わらないものになるということ、「人目にふれにくい傑作」にテーマを絞った『洋・邦名画ベスト150 中・上級篇』が企画されたのは「むべなるかな」という感じがします。

Jûsan-nin no shikaku (1963).jpg十三人の刺客.jpg 『中・上級篇』の方では、「日本映画ベスト44」の1位が工藤栄一(1929‐2000)監督の「十三人の刺客」、「外国映画ベスト109」の1位は「マダムと泥棒」となっていて、「七人の侍」が(前述の通り、個人的にも大傑作だと思うが)これほど賞賛されるならば「十三人の刺客」はもっと注目されるべきであるし、ヒッチコック(個人的は好きな監督だが)の作品に人気が集まるならば、「マダムと泥棒」も見て!という感じは確かにします。
「十三人の刺客」
Jûsan-nin no shikaku (1963)

 「十三人の刺客」は、将軍の弟である明石藩主というのが実は異常性格気味の暴君で、事情を知らない将軍が彼を老中に抜擢する話が持ち上がったために、筆頭老中が暴君排除を決意し、暗殺の密命を旗本島田新左衛門に下すというもの。

「十三人の刺客」 ('63年/東映)
十三人の刺客s.jpg十三人の刺客dvd.jpg 片岡千恵蔵演ずる島田新左衛門が集めた刺客は12人で、参勤交代の道中の藩主を襲うが、対する明石藩士は53名。この、2勢力の武士が、何か2匹の生き物のように画面狭しと動き回って、時代劇というよりまさにアクション映画。そうした点では「七人の侍」と見比べると、また違った味があります(脚本の「池上金男」は今年['07年]5月に亡くなった、後に『四十七人の刺客』で新田次郎文学賞を受賞する池宮彰一郎(1923-2007/享年83)。音楽は「ゴジラ」の伊福部昭!)。

十三人の刺客 工藤栄一.jpg 本書にもあるように、アクション映画は、シチュエーションを単純にしてディテールに凝ったほうが面白いと言うその典型で、ラストの30分にわたるリアルな決戦シーンとそこに至るまでの作戦の積み重ねは、「早すぎた傑作」と呼ばれるにふさわしく、公開当時はあまり評価されなかったとのこと。大体、時代物に疎く、かなり後になってビデオで観たのですが、劇場でみたら星5つだったかも(オールド・プリントで、ちょっと画面が暗い。DVDの方はどうなのだろうか)。

木村功・土屋嘉男・志村喬       志村喬・加東大介 in「七人の侍」
「七人の侍」 志村喬 土屋嘉男 木村功.jpg七人の侍 加東大介.jpg「七人の侍」●制作年:1963年●監督:黒澤明●製作:本木莊二郎 ●脚本:黒澤明/橋本忍/小国英雄●撮影:中井朝一●音楽:早坂文雄 ●時間:207分●出演: 志村喬/三船敏郎/木村七人の侍 仲代達矢.jpg功/稲葉義男/加東大介/千秋実/宮口精二/藤原釜足/津島恵子/土屋嘉男/小杉義男/左卜全/高堂国典/東野英治郎/島崎雪子/山形勲/渡辺篤/千石規子/堺左千夫/千葉一郎/本間文子/安芸津広/多々良Shibutoh_Cine_Tower.JPG純/小川虎之/熊谷二良/上田吉二郎/谷晃/中島春雄/(以下、エキストラ出演)仲代達矢(右写真)/宇津井健/加藤武●公開:1954/04●配給:東宝 ●最初に観た場所:渋谷東宝(渋東シネタワー4)(91-12-01)(評価:★★★★★

渋東シネタワービル(シネタワー1・2・3・4)

渋東シネタワー 1991(平成3)年7月6日、「渋谷東宝会館」を「渋東シネタワー」と改称し、4スTOHOCINEMAS_Shibuya.JPGクリーンに増設して再オープン。シネタワー1(606席)、シネタワー2(790席)、シネタワー3(342席)、シネタワー4(248席)。2011(平成23)年、上層TOHOシネマズ渋谷 .jpg階にあったシネタワー1と2を閉鎖・改装し、同年7月15日、TOHOシネマズ渋谷スクリーン1・2・3・4がオープン。次いで下層階のシネタワー3・4を改装し、同年11月30日にTOHOシネマズ渋谷スクリーン5・6がオープン。

十三人の刺客 片岡.jpg十三人の刺客 嵐.jpg「十三人の刺客」●制作年:1963年●監督:工藤栄一●製作:東映京都撮影所●脚本:池上金男●撮影:鈴木重平●音楽:伊福部昭●時間:125分●出演:片岡千恵蔵/里見浩太朗/嵐寛寿郎/阿部九州男/加賀邦男/汐路章/春日俊二/片岡栄二郎/和崎俊哉/西村晃/内田良平/山城新伍/丹波哲郎/月形龍之介/菅貫太郎/水島道太郎/沢村精四郎丘さとみ/藤純子/河原崎長一郎/三島ゆり子/高松錦之助/神木真寿雄●公開:1963/12●配給:東映 (評価:★★★★)
片岡千恵蔵 in「十三人の刺客」

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迷宮「玉の井」を三重構造で描くことで、作品自体を迷宮化している。

ぼく東綺譚.jpg 濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)_.jpg 東綺譚.jpg 「墨東綺譚」の挿画(木村荘八).jpg
ぼく東綺譚 (新潮文庫)』『濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)』『墨東綺譚 (角川文庫)』朝日新聞連載の『濹東綺譚』の挿画(木村荘八)

『濹東綺譚』1937 2.jpg濹東綺譚(ぼくとうきだん) 永井荷風.jpg 1937(昭和12)年に発表された永井荷風(1879‐1959)58歳の頃の作品で(朝日新聞連載)、向島玉の井の私娼街に取材に行った58歳の作家〈わたくし〉大江匡と、26歳の娼婦・お雪の出会いから別れまでの短い期間の出来事を描いています(誰かが「新藤ポンコツ版」と呼んでいたが...)。

永井荷風『濹東綺譚』昭和12年初版(装幀:永井荷風/挿画:木村荘八)

永井 荷風.gif 昭和初期の下町情緒たっぷりで、浅草から向島まで散策する主人公を(よく歩く!)、地図で追いながら読むのもいいですが(「吉原」ではなく「玉の井」だから「濹東」)、「玉の井」と名のつくものが地図上から殆ど抹消されているためわかりにくいかも知れません。でも、土地勘が無くとも、流麗な筆致の描写を通して、梅雨から秋にかけての江戸名残りの季節風物が堪能できます。

永井荷風

 〈わたくし〉は、種田という男を主人公に玉の井を舞台にした小説を書いているところという設定なっていて、その小説が劇中劇のような形で進行していき、では〈わたくし〉=〈作者(荷風)〉かと言うと必ずしもそうではなく、時に〈わたくし〉が小説論を述べたかと思うと、今度は〈作者〉が小説論的注釈をしたりと、〈作者(荷風)〉―〈わたくし(大江)〉―〈書きかけ小説の主人公(種田)〉という凝った三重構造になっており、加えて、文末に「作者贅言(ぜいげん)」というエッセイ風の文章(「贅言」の「贅」は贅肉の贅であり、要するに作者の無駄口という意味なのだが、辛辣な社会批評となっている)が付いているからややこしいと言えばややこしいかもしれません(「〈わたくし(大江)」としたが、大江が驟雨がきっかけで偶然お雪と知り合ったという設定にコメントしている「わたくし」は明らかに永井荷風自身ではないか)。

「濹東綺譚」.jpg濹東綺譚 映画49.jpg 1960年に豊田四郎監督、山本富士子、芥川比呂志主演で映画化されていますが、「濹東綺譚」を軸に「失踪」と「荷風日記」を組合せて八住利雄が脚色しています。〈大江〉濹東綺譚 豊田四郎監督.jpgが〈種田〉と同一化されていて(主人公は種田)、種田はお雪の求婚に対して返事を曖昧にし、やがてそうこうしているうちにお雪は病気になって死を待つばかりとなります。お雪のキャラクターが明るいものになっているため、結末が却って切ないものとなっています。白黒映画で玉の井のセットがよくできていて、途中に芥川比呂志による原作の朗読が入り、ラストでは〈荷風〉と思しき人物が玉の井を散策(徘徊?)しています。
豊田四郎監督「濹東綺譚」(1960)主演:山本富士子・芥川比呂志
新藤兼人監督「濹東綺譚」(1992)オープニング/主演:墨田ユキ・津川雅彦
映画濹東綺譚.jpg映画濹東綺譚 (2).jpg 更に1992年に新藤兼人監督、墨田ユキ、津川雅彦出演で映画化されていますが、こちらは未見。やはり、〈作者〉-〈大江〉-〈種田〉のややこしい三重構造を映像化するのは無理と考えたのか、津川雅彦演じる主人公が〈荷風〉そのものになっているようで、〈荷風〉はお雪と結婚の約束をするが、東京大空襲で生き別れになる―といった結末のようです。

 荷風は外国語学校除籍という学歴しか無かったものの慶應義塾大学の教授を務めたりして、素養的にはインテリですが、この小説では衒学的記述は少なく、むしろ「玉の井」をラビラント(迷宮)として描くと同時に小説の構成も迷宮的にしているというアナロジイに、独特のインテリジェンスを感じます。

 高級官僚の子に生まれながらドロップアウトし、外遊先でも娼館に通ったというのも面白いですが、この"色街小説"は日華事変の年に新聞連載しているわけで、私小説批判で知られた中村光夫も、一見単なる私小説にも見えるこの作品を、「時勢の勢いに対する痛烈な批判者の立場を終始くずさぬ作者の姿勢が、圧政のなかで口を封じられた知識階級の読者に、一脈の清涼感を与えた」と評価しています。「作者贅言」では、そうした全体主義的ムードを批判する反骨精神とともに、「玉の井」への〈江戸風情〉的愛着と急変する「銀座」界隈への文化的失望が直接的に表わされています。

偏奇館.jpg 作品中に、前年廃止された京成白髭線の玉ノ井駅の記述がありますが、「玉の井」も今はほとんどその痕跡がありません。また、荷風が中年期を過ごした麻布の家(『断腸亭日乗』に出てくる偏奇館)も、現在の地下鉄「六本木一丁目」駅前の「泉ガーデンタワー」裏手に当たり、当然のことながら家跡どころか当時の街の面影もまったくありません(一応、こじんまりとした石碑はある)。

濹東綺譚 岩波文庫 挿画16.jpg濹東綺譚 岩波文庫 挿画6.jpg 因みに、この作品は個人的には今回「新潮文庫」版で読み返しましたが、木村荘八の挿画が50葉以上掲載されている「岩波文庫」版が改版されて読み易くなったので、そちらがお奨めです。

挿画:木村荘八


濹東綺譚on.jpg濹東綺譚 映画49.jpg濹東綺譚 映画 1960 00.jpg濹東綺譚 00.jpg濹東綺譚 映画 1960ド.jpg「濹東綺譚」●制作年:1960年●監督:豊田四郎●製作:佐藤一郎●脚本:八住利雄●撮影:玉井正夫●音楽:團伊玖磨●原作:永井荷風「濹東綺譚」「失踪」「荷風日記」●時間:120分●出演:山本富士子/芥川比呂志/新珠三千代/織田新太郎/東野英治郎/乙羽信子/織田政雄/若宮忠三郎/三戸部スエ/戸川暁子/宮口精二/賀原夏子/松村達雄/淡路恵子/高友子/日高澄子/原知佐子/岸田今日子/塩沢くるみ/長岡輝子/北城真記子/中村伸郎/須永康夫/田辺元/田中志幸/中原成男/名古屋章/守田比呂也/加藤寿八/黒岩竜彦/瀬良明/中村芝鶴●公開:1960/08●配給:東宝(評価:★★★★)

(下) 新珠三千代/芥川比呂志 
『墨東綺譚』スチル02.jpg『墨東綺譚』スチル01.jpg

『墨東綺譚』スチル03.jpg

  

山本富士子:渡辺邦男監督「忠臣蔵」(1958)/小津安二郎監督「彼岸花」(1958)/豊田四郎監督「濹東綺譚」(1960)/市川昆監督「黒い十人の女」(1961)/市川昆監督「私は二歳」(1962)
山本富士子『忠臣蔵(1958).jpg 彼岸花 映画 浪花.jpg 濹東綺譚 映画 1960 01.jpg 黒い十人の女 山本富士子.jpg 私は二歳 映画 .jpg

濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫) 200_.jpg墨東綺譚 (角川文庫)0_.jpgぼく東綺譚 新潮文庫.jpg 【1947年文庫化・1991年改版[岩波文庫]/1951年再文庫化・1978年改版[新潮文庫]/1959年再文庫化・1992年改版[角川文庫]/1977年再文庫化[旺文社文庫(『濹東綺譚・ひかげの花』)]/1991年・2001年復刻版[岩波書店]/2009年再文庫化年改版[角川文庫]】
ぼく東綺譚 (新潮文庫)』(新カバー版)
墨東綺譚 (角川文庫)』(新解説・新装版)
濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)』(木村荘八挿画入り)

《読書MEMO》
●「濹東綺譚」...1937(昭和12)年発表

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"映画化率""ドラマ化率"の高い短編集。映像と比べるのも面白い。

黒い画集 松本 清張.jpg  松本 清張 『黒い画集』.JPG 黒い画集 新潮文庫.jpg 黒い画集.jpg   黒い画集 あるサラリーマンの証言 dvd.jpg
黒い画集―全一冊決定版 (1960年) (カッパ・ノベルス)』 『黒い画集 (新潮文庫)』 「黒い画集 あるサラリーマンの証言 [DVD]
黒い画集 全三集』(2005年12月刊行(1959年刊行の復刻版))
黒い画集 00_.jpg黒い画集2.png黒い画集3.png カッパ・ノベルズの「全一冊決定版」は、'59(昭和34)年4月から翌年7月にかけて光文社から刊行された『黒い画集』第1巻〜第3巻の抜粋で、珠玉の名編集ですが(新潮文庫『黒い画集』に同じラインアップで移植されている)、知る限りでは「遭黒い画集 あるサラリーマンの証言.gif難」「証言」「天城越え」「寒流」「凶器」「紐」「坂道の家」の所収7作中、「証言」などの4作が映画化されており、"映画化率"の高い短編集ではないでしょうか(因みに、「証言」の映画化タイトルは「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東黒い画集 あるサラリーマンの証言.jpg宝)、「遭難」は「黒い画集 ある遭難」('61年/東宝)、「寒流」は「黒い画集 第二話 寒流」('61年/東宝)となっている)。また、この短編集の中には何度もテレビドラマ化されているものもいくつもあります。
[右]映画黒い画集 あるサラリーマンの証言('60年/東宝)主演:小林桂樹 /[下]映画黒い画集 ある遭難('61年/東宝)出演:伊藤久哉/児玉清/香川京子/土屋嘉男
黒い画集%20ある遭難3_033.jpg黒い画集%20ある遭難.jpg黒い画集 ある遭難0_.jpg 「遭難」('61年映画化「黒い画集 ある遭難」)は児玉清が被害者役でした。「証言」('60年映画化「黒い画集 あるサラリーマンの証言」)は小林桂樹が好演、「寒流」('61年映画化「黒い画集 第二話 寒流」)は池部良と新珠三千代の共演、「天城越え」('83年)は田中裕子の演技が高く評価された作品です(「天城越え」は'78年にNHKで大谷直子主演で、'98年にTBSで田中美佐子主演でテレビドラマ化もされている)。

 「天城越え」は、川端康成の『伊豆の踊子』に対する清張流の挑戦だという説もありますが(「踊り子を自分より下の弱い存在と見る東大生」vs.「旅の女性を憧憬のまなざしで見上げる少年」という対照的構図)、個人的にはこの説がある程度の説得力を持って感じられました。

天城越え05.jpgamagigoe.jpg 映画化作品は、テレビで途中から観ることになってしまったため評価を避けますが、田中裕子演じる件(くだん)の酌婦・大塚ハナが派出所で少年の弁明をするという、小説には無い場面があったのではなかったかと(これが先駆けとなってか、以降の映像化作品ではこうしたハナが尋問を受ける場面が必ずあるように思う)。'78年のテレビ版(大谷直子主演)ともしかしたら記憶がごっちゃになっているかもしれませんが(映画をテレビで観て、しかも別にあるテレビ版作品も観てしまうとこういうことになりがち)、警官の尋問中にハナがこらえ切れず失禁するシーンを、田中裕子が自らの申し出により仕掛け無しの体当たり演技でやったという逸話が知られているから、やっぱり映画の方をテレビで観たのでしょう。田中裕子はこの作品でモントリオール世界映画祭主演女優賞を受賞しています。
天城越え [DVD]」 ('83年/松竹)

天城越え 田中美佐子版 01.jpg「天城越え」●.jpg  更に、'98 年の田中美佐子主演のテレビ版では、少年(二宮和也)が大人(長塚京三)になってから大塚ハナと再会天城越え 田中美佐子版 dvd.jpgするという、原作にも他の映像化作品にはない独自の創作部分がありましたが、全体の出来としては悪くなく、ギャラクシー賞優秀賞などを受賞していることから一般の評価も高かったようです。この作品の翌年に「嵐」としてデビューした二宮和也のドラマ初出演作であり(当時、作中の「少年」と同じ14歳だった)、その演技が後々も話題になりますが、個人的には、田島刑事役を演じた蟹江敬三が(彼だけが同一人物の過去と現在の両方を演じているわけだが)渋みがあって良かったと思いました。 「天城越え [DVD]」('98年/TBS)

黒い画集・紐1.jpg紐.jpg '05年にテレビ東京で「紐」を放映しました。絞殺死体を巡って保険金殺人の疑いがあるものの、容疑者には完璧なアリバイがあるという話で、「サスペンス劇場」とか「愛と女のミステリー」で今も清張作品をとりあげているというのは、「清張」というネームバリューだけでなく、面白さに普遍性があるということだと思います。

松本清張スペシャル「黒い画集・紐」 ('05年/BSジャパン・テレビ東京)

 「紐」の過去のテレビドラマ化
 •1960年「紐(KR)」芦田伸介・北村和夫・千石規子
 •1979年「紐(ANB)」酒井和歌子・宇津宮雅代(宇都宮雅代)・中山仁
 •1985年「松本清張の黒い画集 紐(CX)」浅丘ルリ子・近藤正臣・佐藤允
 •1996年「紐(TBS)」名取裕子・内藤剛志・風間杜夫
 •2005年「黒い画集~紐(BSジャパン)」余貴美子・大地康雄・内藤剛志

 原作が短編なので、それをどう脚色して映画や2時間ドラマにしているのか見比べるのも面白いです。

 映画化されていませんが、「凶器」という刑事が"餅をご馳走になる"話も味があって好きです(この作品は、ロアルド・ダールの「おとなしい凶器」(『あなたに似た人』('76年/ハヤカワ・ミステリ文庫)に所収)を日本風にアレンジしたものである)。

 先に述べたように、 「証言」の映画化タイトルは「黒い画集 あるサラリーマンの証言」、「遭難」の映画化タイトルは「黒い画集 ある遭難」、「寒流」は「黒い画集 第二話 寒流」で、この中では、最初に映画化された堀川弘通監督の「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝)が地味ながらも面白くて印象に残っていて(脚本は橋本忍)、杉江敏男監督の「黒い画集 ある遭難」('61年/東宝)も悪くなかったです(脚本は石輝男)。

 「証言」は'84年には柳生博主演でテレビ朝日の「土曜ワイド劇場」で、'94年には渡瀬恒彦主演でTBSでテレビドラマ化もされていますが、'94年版の方を観ました。渡瀬恒彦は刑事ドラマにおける犯人を追いつめる「刑事」役のイメージが強いですが、こうしたドラマの追いつめられる側の「犯人」役をやらせてもうまいと思いました。

 原作と、映画やテレビドラマなどで映像化されたものとを比べてみるのも面白いかと思います。

証言0.bmp証言1.bmp「黒い画集 あるサラリーマンの証言」 (1960/03 東宝) ★★★☆

 
 
 
  
黒い画集 ある遭難 title.jpg黒い画集 ある遭難40.jpg「黒い画集 ある遭難」 (1961/06 東宝) ★★★☆
       
 

証言2.jpg「黒い画集 あるサラリーマンの証言」●制作年:1960年●監督:堀川弘通●製作:大塚和/高島幸夫●脚黒い画集 あるサラリーマンの証言      .jpg本:橋本忍●撮影:中井朝一●原作:松本清張「証言」●時間:95分●出演:小林桂樹/中北千枝子/平山瑛子/依田宣/原佐和子/江原達治/中丸忠雄/西村晃/平田昭彦/小池朝雄/織田政雄/菅井きん/小西瑠美/児玉清/中村伸郎/小栗一也/佐田豊/三津田健/西村晃/、平田昭彦●公開:1960/03●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸地下 (88-01-23)(評価★★★☆)
小林桂樹/原佐和子

黒い画集 ある遭難55.jpg黒い画集 ある遭難15.jpg「黒い画集 ある遭黒い画集 ある遭難m.jpg難」●制作年:1961年●監督:杉江敏男●製作:永島一朗●脚本:石井輝男●撮影:黒田徳三●音楽:神津善行●原作:松本清志「遭難」●時間:87分●出黒い画集 ある遭難43.jpg演:伊藤久哉/和田孝/児玉清/香川京子/土屋嘉男/松下砂稚子/天津敏/那智恵美子●公開:1961/06●配給:東宝(評価:★★★☆)
香川京子/伊藤久哉/土屋嘉男

   
松本清張サスペンス「黒い画集・証言」.jpg「黒い画集・証言」●演出:松原信吾●制作:斎藤守恒/浜井誠/林悦子●脚本:大藪郁子●音楽:茶畑三男●原作:松本清張「証言―黒い画集」●出演:渡瀬恒彦/岡江久美子/有森也実/佐藤B作/段田安則/高樹 澪/山口健次/高松いく/志水季里子/渡辺いっけい/須藤雅宏/高山千草/住若博之/宮崎達也/小林勝彦/布施木昌之/梶周平/太田敦之/中江沙樹/児玉頼信/森富士夫/三上剛仙/安威宗治/桝田徳寿/武田俊彦/岩永茂/小林賢二/下川真理子/黒田国彦●放映:1992/10(全1回)●放送局:TBS

008005001360.jpg天城越え03.png「天城越え」●演出:大岡進●脚本:金子成人●原作:松本清張「天城越え―黒い画集」●出演: 田中美佐子/蟹江敬三/二宮和也/風間杜夫/室天城越え ドラマ 田中美佐子5.jpg田日出男/柳沢慎吾/余貴美子/斉藤洋介/寺島しのぶ/長塚京三/松金よね子/六平直政/遠藤憲一/不破万作/松蔭晴香/中丸新将/佐戸井けん太/温水洋一/河原さぶ/佐久間哲/都家歌六●放映:1998/1(全1回)●放送局:TBS

黒い画集・紐2.png黒い画集 紐.jpg「黒い画集~紐」●演出:松原信吾●制作:小川治彦●脚本:田中晶子●音楽:川崎真弘●出演:余貴美子/大地康雄/内藤剛志/真野響子/石橋蓮司/萩原流行/山田純大/小沢真珠/田中隆三/根岸季衣●放映:2005/01(全1回)●放送局:BSジャパン/テレビ東京

 【1959年単行本・2005年新装版[光文社]/1960年ノベルズ版[光文社]/1971年文庫化・2003年改版[新潮文庫]】

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