【1492】 △ 小津 安二郎 (原作:北村小松) 「東京の合唱(コーラス) (1931/08 松竹蒲田) ★★★

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世界恐慌さなかの失業サラリーマンを小市民的に描く。当時の会社の社内風景が珍しかった。

東京の合唱(吹替・活弁版) [VHS].jpg 小津 安二郎 東京の合唱.jpg 東京の合唱(コーラス .jpg
東京の合唱(吹替・活弁版) [VHS]」1931(昭和6)年  岡田時彦/菅原秀雄(子役)/高峰秀子(子役)

東京の合唱DP.jpg東京の合唱(コーラス) 2.bmp 冒頭は大学の体育の授業のシーンで、体育教師(斎藤達雄)が学生を厳しく指導する様がユーモラスに描かれる。時は流れ、その学生の1人だった岡島(岡田時彦)は、今は保険会社に勤める身であり、3人の子を持つ親でもある。今日は賞与支給日。子供に自転車を買ってやる約束をしていた彼東京の合唱(コーラス)72.jpgは、クビになったベテランの先輩に同情して会社東京の合唱(コーラス)図1.jpgに抗議した末に自分もクビになってしまう。再就職事情の厳しい折、職安の前で母校恩師の元体育教師に偶然出会い、勤め口を探してもらう間、恩師が退職後に始めた洋食屋を手伝うことになるのだが―。

 原作(原案)は北村小松。1931(昭和6)年の作品ということで、世界恐慌による不景気がリアルタイムで物語のバックグラウンドにあり、「フーヴァー案」という言葉が出てきたり(「フーバー・モラトリアム」(1931)のことだろう)、不況だからボーナスは1ヵ月分(120円)くらいかなあという台東京の合唱(コーラス)1.jpg詞があったりもします。 先輩社員の不当谷麗光『東京の合唱』(1931年).png解雇(勧誘したお客が保険に入った翌日に事故死し、会社が損失を被ったというのが解雇理由)に敢然と立ちあがる主人公はなかなかの正義漢。社長(谷麗光)との遣り取りはユーモラスに描かれていますが、クビになった後がたいへん。子供に約束の自転車を買ってやれず詰(なじ)られ、かっときて子供を叱ってしまうし、娘が疫痢に罹って医者代も発生し、妻の着物を売り払ったことにより妻ともぎくしゃくする―。

東京の合唱 1.jpg 同日に解雇された同僚がビラ配りの仕事をしているのを見て、自分は下手に大学を出ているからそんなことは出来ないと言っているのは「大学は出たけれど」の主人公の前半部分と同じスタンス。それが、恩師の洋食屋の仕事で先ずやらされたのが店の宣伝ビラ配りで、自分でも気乗りがしなかったのに、それを奥さん(八雲恵美子(1903-1979/享年75))に見られ、肩身の狭いことはしないでと言われてプライドはずたずたに。

Ozu - Tokyo Chorus(1931).jpg しかし、その奥さんも現実の厳しさを感じて店へ手伝いに。その食堂で、元教師を囲んで昔の教え子たちが集まり同窓会が行われることになり、久々に出会った同級生たちは盛り上がる。そこに元教師宛に手紙が来て、文部省から就職の斡旋があったが、仕事は栃木の女学校の英語教師であるとのこと、主人公は複雑な気持ちで同級生らと校歌を歌うが、歌っているうちに次第にその表情は晴れてくる―(これが、タイトル「合唱(コーラス)」の由縁)。

「東京の合唱(コーラス)」.bmp 東京を離れたことのない夫婦には必ずしも満足とは言えない結末ですが、そこが小津作品らしいところ。結構、自分の都合で教え子をいい加減にこき使っていたかのように見えた元教師も、ちゃんと就職の世話をしてくれていて、師弟関係が就職が絡むのも小津作品のパターン。

高峰秀子(子役)/八雲恵美子/菅原秀雄(子役)/岡田時彦

小津 安二郎 東京の合唱2.gif 総じて、小市民(サラリーマン)を小市民のまま描いた典型的作品と言えますが、主人公が東京に住むことにこだわるのには、やや違和感を覚えました(社命による転勤などは当時でもあったのでは)。東京への執着が、「東京の合唱」というタイトルにまで表れているとなると、これは小津自身のこだわりでもあるのか。

 個人的は、当時の会社の社内風景が一番珍しかったです(冒頭の体育の授業のシーンにも言えるが、冗長感はあるが、記録的な価値あり?)。賞与支給日に社員が出納窓口に列を成し、賞与袋を受け取るとトイレで中身の金額を確認して一喜一憂するという、今こんなことやっている会社は、零細企業でももう殆どないだろうなあ。
    
東京の合唱(吹替・活弁版) [VHS].jpg 主人公の失業サラリーマンを演じた岡田時彦(1903-1934/享年30)は岡田茉莉子7.jpg女優・岡田茉莉子の父。但し、茉莉子1歳の時、30歳の若さで亡くなっているため、娘は父を映画の中でしか知らないとのことです。

「東京の合唱(コーラス)」●制作年:1931年●監督:小津安二郎●脚本:野田高梧●撮影:茂原英朗●原作(原案):北村小松●活弁:松田春翠●時間:90分●出演:岡田時彦/八雲恵美子/菅原秀雄/高峰秀子/斉藤達雄/飯田蝶子/坂本武/谷麗光●公開:1931/08●配給:松竹鎌田●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(90-08-19)(評価:★★★)併映:「お茶漬けの味」(小津安二郎)

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