【3252】 ○ 市川 昆 「満員電車 (1957/03 大映) ★★★☆

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脚本は?だが、昭和30年代前半のサラリーマン世相を描いたものとして貴重。

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満員電車 [DVD]」川口浩
「満員電車」2.jpg「満員電車」h4.jpg 茂呂井民雄(もろいたみお)(川口浩)は平和大学を卒業し、駱駝麦酒株式会社に就職した。日本には我々が希望をもって坐れる席は空いてない。訳もなく張り切らなくては、というのが彼の持論。新人研修の日、東北・一関の高校教師となって行く同窓で恋人の壱岐留奈(小野道子)に逢い、二人は軽くキスして別れた(茂呂井はほかに、百貨店の女店員と映画館のもぎりの二人の恋人たちにも別れを告げる)。研修が終わる「満員電車」3.jpgと、民雄は関西・尼崎へ赴任した。そこで彼は先輩の更利満(船越英二)から、「健康が第一、怠けず休まず働かず」というサラリーマンの原則を聞かされる。ある日、故郷の父・権六(笠智衆)から母・乙女(杉村春子)が発狂したと知らせてきた。民雄は平和大学生課に月二千円で母の発狂の原因、治療を研究する学生を依頼した。応募したのは和紙破太郎(わしわたろう)(川崎敬三)という精神科医の卵。彼は民雄の父・権六に会い、時計屋の権六が市会議員でもあり、市の有力者で「満員電車」1.jpgあることを利用して、精神病院の設立を約束させる。ある日民雄の許に、県の財政縮小で教職リストラされた留奈が訪ね、生きるために結婚を迫る。しかし、気持はあっても毎月の出費に追われる彼としては断るしかなく、彼女は帰って行く。その後、民雄は膝の痛み止め注射に苦しみ、高熱のため髪が真白になる。そこへ気狂いになったはずの母が訪ねてきて、狂ったのは父だと聞かされる。民雄「満員電車」4.jpgは病院で和紙に会い、父を利用した彼を難詰する。チャンスは利用すべきと「満員電車」d.jpgの「三段跳び」論を振り回す和紙は、三段跳びの勢いが余ってバスにはねられ、止めようとした民雄は電柱に頭をぶつけて昏倒。目覚めると髪は元の黒。看護婦は精神に休養を与えたからだと。しかし尼崎に帰った彼は、1カ月の無断欠勤でクビになっていた。安定所で職を求める彼に小学校の小使いの口。そして、職安の人だかりの中で偶然留奈に逢った彼は、嬉しさの余り結婚を申込むが、既に彼女は別の小使いと結婚していた。ある小学校での入学式に、万国旗をあげる民雄の小使姿があった。が、すぐに彼は、帝大卒を隠していたことがばれてクビになる。彼は母親とバラック小屋に住むことになるも、一念発起してそこで学習塾を開くことを思いつく―。

 1957(昭和32)年公開の市川崑監督の、公開当時は「映画漫画」と呼ばれた風刺コメディ。Amazonのレビューでは、アナーキーでクレージーで「市川崑最高傑作」の一本とする人もいれば、小谷野敦氏にように「見事なまでの失敗作」、「父親から、お母さんが気が〇ったと連絡があり、実は気が〇っているのはお父さんだとか、一夜で白髪になったとか、ホップ、ステップ、ジャンプしたらバスにはねられたとか、くだらなすぎ「満員電車」04.jpgて面白くも何ともない」とする人もいて、個人的には自分も小谷野敦氏の感想に近いです。実は、市川崑と増村保造(助監督)もこの作品を口を揃えて「失敗」と切り捨てていますが、監督からも見捨てられた分、今になってカルト的価値が出てきたのかもしれません。

 明治9年→大正2年→昭和元年→現代と"日本國最高学府"東京帝大に於ける年代別の卒業式の描写から始まって、帝大卒が「超エリート」から「大勢いの中の一人」へと変遷したことを示唆した上で、当時の就職事情やサラリーマン世相、工業化社会・競争社会などを描いたものとしては、映像記録的に貴重かもしれません。当時の社員寮の一部屋の広さってこんなものだったのかとか(テレビや冷蔵庫などの家電はまったくない)、新人研修やホワイトカラーの仕事ってこんな感じだったのかとか、職安はずいぶん混んでるなあ、大病院の混み具合は昔からそうだったのだなあとか、いろいろ気づきがありました。

 映画が公開されたのは1957(昭和32)年3月の高度成長期初期ですが、物語の時代設定は2年後の1959年(昭和34)とされており、この間の世相は、'57年6月まで31か月続いたとされている「神武景気」が終わり、'57年7月から'58年6月にかけて「なべ底不況」が起きているので、この映画で描かれている就職難やリストラは、不況を予感した上でのことだったのかもしれません。

「満員電車」kirin.jpg また、民雄は「駱駝麦酒」株式会社入社後に尼崎工場に赴任しますが、かつて尼崎駅北側には2万7千平方メートル以上の敷地を持つキリンビールの大工場があり、'96年に今の神戸工場(神戸市北区)に移転するまで、映画にも見えるように、煙突が林立する工場と社員寮や社宅が立ち並ぶ企業城下町でした(跡地は今は大型商業施設で、ある調査では「住みやすい街」関西1位となり、若い家族やカップルが住む街となっている)。

 小谷野敦氏が言うように脚本はハチャメチャですが、話はテンポよく進み、ラスト、学歴詐称で用務員をクビになっても、それじゃあ自分で学習塾を起業しようという(東大卒の自分の強みにも合っているし、ボロ屋から出発したとしても、その先に来る受験戦争社会において成功するのでは)、主人公のポジティブな姿勢がコメディの結末としてマッチしており、評価は一応○としました(昭和サラリーマンのドキュメンタリーっぽい要素の"現在価値"も勘案して)。

「満員電車」bs.jpg「満員電車」sugimura.jpg「満員電車」●制作年:1957年●監督:市川崑●脚本:和田夏十/市川崑●撮影:村井博●音楽:宅孝二●時間:99分●出演:川口浩(茂呂井民雄)/笠智衆(その父・権六)/杉村春子(その母・乙女)/小野道子(茂呂井の彼女で教師になった壱岐留「満員電車」[.jpg奈)/川崎敬三(精神科医の卵・和紙破太郎)/船越英二(茂呂井の先輩社員・更利満)/潮万太郎(山居直)/山茶花究(駱駝麦酒社長)/見明凡太郎(本社総務部長)/伊東光一(場場博士)/浜村純(平和大学総長)/入江洋佑(若竹)/袋野元臣(曾根武名夫)/杉森麟(町の歯医者)/響令子(その奥さん)/新宮信子(女歯科医)/葉山たか子(看護婦)/半谷光子(看護婦)/佐々木正時(茂呂井のYシャツを修理する洋服屋)/酒井三郎(既卒者・茂呂井の就職あっせんを断わる学生課長)/葛木香一(小学校校長)/泉静治(教頭)/杉田康(教師)/花布辰男(新人教育講師の工場長)/高村栄一(新人教育講師の営業部長)/春本富士夫(尼崎工場の給与課長)/南方伸夫(人事課長)/宮代恵子(茂呂井の彼女で百貨店の女店員)/久保田紀子(茂呂井の彼女で映画館の女)/直木明(体格の良い男)/志保京助(青白い顔の男)/此木透(無精たらしい男)/志賀暁子(社長秘書)/吉井莞象(大学総長(明治時代))/河原侃二(大学総長(大正時代))/宮島城之(大学総長(昭和時代)/(ノンクレジット)田宮二郎(大学卒業式の場に茂呂井といる同期生)●公開:1957/03●配給:東宝●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(23-04-29)(評価:★★★☆)

《読書MEMO》
田中小実昌(作家・翻訳家,1925-2000)の推す喜劇映画ベスト10(『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版))
○丹下左膳餘話 百萬兩の壺('35年、山中貞雄)
○赤西蠣太('36年、伊丹万作)
○エノケンのちゃっきり金太('37年、山本嘉次郎)
○暢気眼鏡('40年、島耕二)
○カルメン故郷に帰る('51年、木下恵介)
○満員電車('57年、市川昆)
○幕末太陽傳('57年、川島雄三)
○転校生('82年、大林宣彦)
○お葬式('84年、伊丹十三)
○怪盗ルビイ('88年、和田誠)

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This page contains a single entry by wada published on 2023年5月 2日 03:03.

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