【1556】 ○ 渡辺 仙州(編著)/石原 依門(絵) 『白蛇伝 (2005/03 偕成社) ★★★★

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ゲームのノベライゼーションみたいで面白かった。巻末の「白蛇伝」の変遷史が参考になる。

渡辺 仙州/石原 依門 『白蛇伝』.jpg白蛇伝 渡辺2.jpg 白蛇伝 渡辺.jpg
白蛇伝』(2005/03 偕成社)

 白娘(パイニャン)こと白素貞は、千年前に白蛇であったころ親切にされた若い薬売りに恩返ししたいとの一心で、かつて白娘と戦って完敗し、以降は白娘に尽くすようなった小青(シャオチン)を引き連れ、仙界から人間界に舞い戻る。そして、恩人の子孫で薬売りの許仙(きょせん)に巡り会うが、白娘の周りを、妖魔打倒を使命とする僧・法海(ほうかい)や、仙界及び人間界に対し反乱を企む妖魔・胡媚娘(フーメイニャン)一派らがつけ狙う。そうした中、白娘と許仙の恋の行方は―。

白蛇伝 movie.jpg 2005(平成17)年3月の偕成社刊。「小学上級から一般向け」とのことです辺 仙州/石原 依門 『白蛇伝』_4.jpgが、これがなかなか面白かったです。映画「白蛇伝」('58年/東映)と比べると、登場人物の数が圧倒的に多く、映画ではそのほとんどが割愛されていたことになります。
「白蛇伝」('58年/東映)

 巻末に「人物事典」が付されていますが、主要登場人物だけで50人ぐらいいて(その半分近くは妖魔なのだが)、ゲーム絵師の石原依門氏がデザインしたそれぞれのキャラクターのイラストがページごとに挿入されています。話そのものが、まるでRPGのようで(戦闘場面はバトルゲームのよう)、あたかもゲームのノベライゼーションを読んでいるようであり、そうしたこともあってか、ストーリーとそれらのイラストもよくマッチしているように思えました。

 「白蛇伝」は中国古代の四大民間伝説の一つとされ、またその中で「牛郎織女」(七夕伝説)と並んで最もよく知られているものですが、巻末の解説で、「白蛇伝」という話の成り立ちが詳しく解説されており、参考になりました。

 「白蛇伝」の書物としての起源は、唐代の伝奇小説「李黄」(現存する最古のものは『太平広記』(北宋)の中にある)、『清平山堂話本』(明代)にある「西湖三塔記」、明末に馮夢竜(ふうぼうりゅう)が編纂した『警世通言』の中にある「白娘子永鎮雷峰塔」などだそうです。

 この3つはどれも、白蛇の精が主人公の青年に害をなす妖魔として描かれており、「李黄」では、青年は白蛇の妖魔に誘惑された末に殺されてしまうとのこと、「西湖三塔記」では道士が白蛇を捕えて塔に閉じ込めたために青年は死なずにすみ、「白娘子永鎮雷峰塔」では僧・法海が白娘を雷峰塔に封印して終わるとのことです。

 これらをもとに民間で口承されていく中で、白娘が青年に恩返しするという話に変遷していったとのこと。僧・法海は、「白娘子永鎮雷峰塔」では、許宣(許仙)の命を救った正義の味方だったのが、民間で伝承されるうちに、「白娘と許仙の恋を邪魔するおせっかい坊主」にされてしまったとのことです。

 「正義の白蛇」となった民間伝承の「白蛇伝」は、劇の台本としては清代の黄図珌(こうとひつ)による『雷峰塔伝奇』(1738年)、方成培(ほうせいばい)による『雷峰塔伝奇』(1771年)、小説としては、陳遇乾(ちんぐうけん)の『義妖伝』(1809年)があり、これらが現在、児童文学も含め、中国で売られている「白蛇伝」の元になっているということです。

 ですから、中国人の持つ「白蛇伝」のイメージには「李黄」や「西湖三塔記」は含まれず、「白娘、小青、許仙、法海の4人が出てくる物語」としてあるとのこと、白蛇が薬売りに助けられ、恩返しをしに人の姿となって人間界に舞い戻るが、法海によって雷峰塔に閉じ込められるという基本パターンは共通しているものの、その中でさらに無数のパターンがあるようです。

 これまで何千年も生きてきた白蛇の精が、永遠の生命とすべての魔力を放棄し、愛する人と共に生きる数十年の生を選択するという本書のエンディングは、やはりいいなあと思わせるものがあります(白娘って、そうした一途に愛を貫く"ひたむきさ"の一方で、意外と"天然ボケ"なところも併せ持っていて面白い。まあ、"天然ボケ"は、お嬢様キャラとしての編者の脚色だとは思うが)。

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