【461】 ○ 手塚 治虫 『鉄腕アトム (全21巻+別巻)』 (1975/06 朝日ソノラマ・サンコミックス) 《『鉄腕アトム (1)』 (1956/06 光文社)》 ★★★★ (○ 手塚 治虫 『アトム今昔物語 復刻版』 (2004/12 メディアファクトリー) ★★★★)

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「死と再生」のループ構造と、ロボットへの"人間"の投射の旨さ。

鉄腕アトム アトム誕生.JPG『鉄腕アトム』 朝日ソノラマ.jpg     鉄腕アトム 1956.jpg     osamu_tezuka.jpg
『鉄腕アトム』 朝日ソノラマ〔'75年〕/光文社['56年]手塚治虫 (1928‐1989)

鉄人アトム.jpg鉄腕アトム 少年付録.jpg '51(昭和26)年4月から1年間にわたり雑誌「少年」(光文社)に掲載された「アトム大使」(第15巻)が"アトム"の初出とされていますが、ただしこれはアトムが脇役の話で、アトムを主人公とした連載は、それに続く「気体人間」からスタートしています(因みに、「アトム誕生」(第1巻)は、このサンコミックス版刊行('75(昭和50)年)に合わせた書き下ろしで、アトムの初出から24年を経ている)。

 「ロボットを主人公にした漫画を」というのは、手塚治虫自身の発想ではなく、編集者側からの要請だったとのことで(予告段階でのタイトルは「鉄腕アトム」ではなく「鉄人アトム」だった)、そうしたものが読者に受け入れられるかどうか、作者自身も疑心暗鬼だったようですが、読者の方はわっとこれに飛びついたというのが'52(昭和27)年のこと、以来、「鉄腕アトム」は作者自身も予期していなかった長期連載となります。

「鉄人アトム」予告 S.27 S.34.10「少年」付録

 雑誌連載で人気を博したアトムは、'63(昭和38)年にTVアニメになり、世界各国でも放映されるようになりますが、主たる"買付け国"であった米国のTV局からカラーの新アニメの要求があったため、アトムは核融合阻止装置を抱えて太陽に突っ込むという終わり方で放映を終えてしまいます。
 後番組は「悟空の大冒険」で、その1年前に米国のTV局のカラー版アニメの要求に応えるかたちで「ジャングル大帝」がスタートしています(この作品は、漫画としてのオリジナル版はアトムより古い)。

鉄腕アトム 1963.jpg「鉄腕アトム」●演出(総監督):手塚治虫●制作:岡田晋吉/中根敏雄/酒井知信●脚本:豊田有恒/本間文幸/柴山達雄/鈴木良武/辻真先/能加平/石津嵐/平見修二/鳥海尽三●音楽(主題歌):作詞・谷川俊太郎/作曲・高井達雄/歌・上高田少年合唱団●原作:手塚治虫●出演(声):清水マリ/勝田久/井上真樹夫/矢島正明/田口計/水垣洋子/坂本新兵/田上和枝/武藤礼子/芳川和子/小宮山清/和田文雄/千葉耕市/横森久/長門勇/渡辺篤史●放映:1963/01~1966/12(全210回)●放送局:フジテレビ

アトム今昔物語.jpg 一方、連載漫画の方は'67(昭和42)年1月から「サンケイ新聞」でもスタートしますが(この間に雑誌「少年」は突然の廃刊に)、アニメの続きを受け、太陽に突入し溶けたアトムがイナゴ星人に拾われ修理されて、ワープして20世紀半ば過ぎの地球に戻ってくるというものです。
 ただし、朝日ソノラマのコミックス版は、オリジナルである雑誌漫画に太陽突入シーンが無いので、不時着したイナゴ星人のロケットの爆発に巻き込まれてタイムスリップし、20世紀の東京に現れるという話になっています(第6〜8巻「アトム今昔物語」)。
 そうした部分的な改変はあるものの、後に刊行される講談社のコミック全集の「アトム今昔物語」(全3巻)よりは、「サンケイ新聞」で連載された方の「鉄腕アトム」のストーリー(これが後に「アトム今昔物語」に改題された)に比較的近いと言えるかと思われます。
 サンケイ新聞版は、朝日ソノラマのコミックス版や全集版とは別に『アトム今昔物語』('04年/メディアファクトリー)として復刻されており、「アトム今昔物語」は少なくとも3つあることになります。

鉄腕アトム.JPG 別巻は、「少年」「サンケイ新聞」連載以外の作品を集めていますが、そこには「アトム還る」('72(昭和47)年)などの太陽突入後のアトムの事後譚があったり、アトムが他の手塚漫画のキャラクターと共演する珍品があったりします(本編でも「アトム対ガロン」(第10巻)などがありますが)。

鉄腕アトム DVD.jpg 注目は「アトムの最後」('70(昭和45)年)で、傑作と評するファンも多いのですが、作者自身は、読み直して嫌な気分がするし、これがアトム作品の最後とは思っていないと言っています。
 「アトム今昔物語」でもアトムは途中で死にますが、それは物語が2003年のアトム誕生の年を迎え、アトムが生きていてはアトムが誕生しないというタイムパラドックスのためであり、「死と再生」のループ構造になっているわけです。

『鉄腕アトム (全21巻+別巻)』 (1975-76 朝日ソノラマ・サンコミックス)

 アニメのアトムは、今ではDVDやCS放送などでかなりを見ることができます。また、'80(昭和55)年と'03(平成5)年にカラー版で復活しましたが、"リアルロボット"にハマったガンダム世代には、あまりに"人間的"なロボットたちは子供心にも非現実的で、今ひとつ受けなかった?

鉄腕アトム 史上最大のロボット.JPG地上最大のロボット.bmp 漫画を読んで感じるのは、むしろある程度大人の方が、その辺りを割り切って見ることができる分、ロボットへの"人間的"なものの投射の仕方の旨さを味わえるのかも知れないと...(漫画自体や背後の世相に対する郷愁も大きいと思いますが)。
 手塚賞漫画家の浦沢直樹が「地上最大のロボット」('64(昭和39)年・第3巻)を翻案してみせたのも(『PLUTO』)、その表れの1つではと思います。・

『鉄腕アトム』 手塚治虫 光文社カッパ・コミックス .jpg【1956年単行本(全3巻)・1958年全集(全8巻)・1964年コミックス版(全32巻)〔光文社〕/1968年全集〔小学館(全20巻)〕/1975年コミックス版(全21巻+別巻)・1978年愛蔵版(全3巻)・1980年カラー版(全12巻)〔朝日ソノラマ〕/1979年全集(全18巻+別巻2)・1987年B6版(全7巻)・1992年コミックス版(全15巻)[講談社]/1995年文庫化〔光文社文庫コミックシリーズ(全15巻)〕/1999年コミックス版(全21巻+別巻2)[秋田書店]/2002年文庫化〔講談社漫画文庫(全13巻)〕/2009年再文庫化[講談社(手塚治虫文庫全集BT)]】
『鉄腕アトム』第1卷第1号 「アトム大使の巻・アトラスの巻」光文社カッパ・コミックス 1964(昭和39)年1月1日発行

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This page contains a single entry by wada published on 2006年9月10日 08:00.

【460】 ◎ 手塚 治虫 『きりひと讃歌 (上・下)』 (1972/03 虫プロ商事・COMコミックス増刊) ★★★★☆ was the previous entry in this blog.

【462】 ◎ 手塚 治虫 『ブッダ (全14巻)』 (1974/09 潮出版社) ★★★★☆ is the next entry in this blog.

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