【460】 ◎ 手塚 治虫 『きりひと讃歌 (上・下)』 (1972/03 虫プロ商事・COMコミックス増刊) ★★★★☆

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ドストエフスキー小説のような深み。科学的な仮説同士の対決というヤマ場が作者らしい。

きりひと讃歌 COM 上巻.jpg きりひと讃歌 COM 下.jpg きりひと讃歌 大都社ハードコミックス 全3巻.jpg きりひと讃歌 上巻.jpg きりひと讃歌下巻.jpg
きりひと讃歌 上下巻セット (COMコミックス増刊)』['72年/虫プロ商事]/『きりひと讃歌 1~最新巻 [マーケットプレイス コミックセット]』['74年/大都社ハードコミックス(上・中・下)]/『きりひと讃歌 (上)』『きりひと讃歌 (下)』['86年/大都社ハードコミックス改訂(上・下)]   "Ode to Kirihito" ペーパーバック版(下右)

ode-to-kirihito1.bmp1きりひと讃歌.jpgきりひと讃歌 54.JPG '70(昭和45)年4月から翌年末にかけて「ビックコミック」('70年4月10日号〜'71年12月25日号)に連載されたかなりシリアスな作品で、白い巨塔、よろめき、万博、レオポンなどの作中の言葉に時代を感じますが、当時としての"現代モノ"です。

 主人公の「桐人(きりひと)」が"モンモウ病"で「犬男」になってしまうところから、当初は「バンパイヤ」の二番煎じではと言われたそうですが、彼が社会から抹殺されかけても「医師」であり続ける点では、2年後に連載開始した「ブラック・ジャック」に近いような気がします(「ブラック・ジャック」よりこちらの方が3年初出が早いが)。

2きりひと讃歌.jpg 医局を追われた桐人の逃避行を助ける「たづ」「麗花」など女性たちが犠牲的存在としてばかり描かれている点や、「万大人」「竜ケ浦」らが同じ病に罹るというややご都合主義的なストーリー展開などが気にならなくもありませんが、桐人の同僚「占部」の原罪的苦悩と贖罪や修道女「ヘレン・フリーズ」の献身などには、ドストエフスキー小説のような深みがあります。

3きりひと讃歌.jpg 波乱万丈の物語の背景に一貫して、医師会の会長選挙を巡る権力抗争の話があり、物語全体の骨格を成していますが、教授会と医師会の違いこそあれ、'66年映画「白い巨塔」の影響を感じます(映画では原作以上に教授選挙に焦点を当てていた)。

 しかし、復讐のため最後の対決が、「正義vs.悪」というパターンを超えて、「ビールス説vs.風土病説」という科学的な「仮説」の真偽を決する対決として表されているところが、科学者らしい発想で作者らしいという気がしました。

 連続した1ストーリーで読み返すのにほどよい長さでありながら、充分な読了感が得られる作品だと思います。
                              
『きりひと讃歌』['74年/大都社ハードコミックス(上・中・下)]
1きりひと讃歌3.jpg 【1972年コミック版[COMコミックス増刊(上・下)]/1974年コミックス版[大都社ハードコミックス(上・中・下)](1986年ハードコミックス改訂[大都社(上・下))]/1977年全集[講談社(全3巻)]/1989年叢書版(上・下)・2000年単行本(全5巻)・2003年単行本(上・中・下)[小学館]/1994年文庫化[小学館文庫(全3巻)]/2008年ビックコミックスペシャル改装版(全2巻)[小学館]/2010年再文庫化[講談社(手塚治虫文庫全集BT)]】

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