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「赤線地帯」の男と女を描いた短編集。映画「赤線地帯」にも反映されている。


『洲崎パラダイス (ちくま文庫 し-57-1) 』['23年] 『洲崎パラダイス (集英社文庫)』['94年]「赤線地帯 4K デジタル修復版 Blu-ray」京マチ子
芝木好子(1914-1991/77歳没)が戦後江東区の水の町〈洲崎〉(現・木場駅付近)にあった「洲崎パラダイス」、所謂"赤線地帯"の男と女を描いた短編集(1955年12月講談社刊)。表題作「洲崎パラダイス」は1953(昭和28)年発表作で、川島雄三監督の「洲崎パラダイス 赤信号」('56年/日活)の原作として知られていますが、売春防止法の公布が1956年、施行が1957(昭和32)年4月ですから、原作も映画もほぼリアルタイムということになります。原作が書かれた翌年1954(昭和29)年に〈洲崎〉は、カフェ220軒が従業婦800人を擁し、合法的に営業をしていたとのことで、〈吉原〉を上回る規模だったとのことです。

「洲崎パラダイス」... 深川・木場の洲崎遊郭入口前に流れ着いた義治と蔦枝。二人は仕事も金もない。ほどなく蔦枝は遊郭入口前の吞み屋に雇われ、義治は蕎麦屋の出前になる。義治の生活力の無さを嘆きながら離れられない蔦枝。酔客と戯れる蔦枝を疑い、狂ったように行方を捜す義治。蔦枝はパトロンを見つけるが、義治はそれに自棄を起こし洲崎から消えてしまう。蔦枝はせいせいした風を装うが、男にきちんと別れを告げると文句を言いながら、男の許へ行く―。
先に川島雄三監督の「洲崎パラダイス 赤信号」('56年/日活)を観ていました。芦川いづみが演じた、義治が勤めたそば屋の同僚店員・玉子は、映画のオリジナルだったのかあ。原作では、蔦枝が勤めた飲み屋の"女将さん"は行きかう男女をすべてを見通した上で見送るだけの位置づけですが、映画では呑み屋「千草」の女将(轟夕起子が演じた役名は"お徳")は蔦枝を義治と別れさせようとし(義治は玉子とくっつけさせようとする)、さらには、何年も前に女と出奔した彼女の夫が戻ってきて、それで元の鞘に収まったと思いきや...。原作を改変してダメにしてしまう映画監督は多いですが、付け足して原作の雰囲気を損なわず、起承転結の話が出来たのはさすが川島監督。原作の雰囲気は、豊田四郎監督 (原作:織田作之助)の「夫婦善哉」('55年/東宝)にも通じるような気がしました。
「黒い炎」... かつて特飲街傍の呑み屋「千草」(この作品以降、店の名前が「千草」、女将の名が「徳子」と特定されている。前述のとおり映画「洲崎パラダイス 赤信号」の舞台となる店の名は「千草」、女将の名は「お徳」である)に勤め、店の客だった正造が今の夫である京子。彼女の許へ、婚家で虐待された挙げ句、放火した京子の姉・久子が3年ぶりに出所し、自分(京子)を頼りに上京して来て、逃げた夫・千尋の消息を求め東京の下町を探し回る―。
探し回る先が、蒲田、板橋、十条、千住、上野...とスゴイね、ほとんど刑事ドラマの聞き込み捜査みたいだと思ったら、最後は亀有の占い師の所へ(笑)。過去を捨てきれない姉と、姉のために附近の火事で出た焼材木を使ってでも普請をしようとする現実に前向きな妹が対照的でした。
「洲崎界隈」... 特飲街の建物を手に入れようと金策に思いを巡らす菊代。頼りない亭主をよそに、場末の役者に色目を使い、金満家に金を出させようと接触を図る。呑み屋の女将・徳子はそんな彼女を「なんでも二つ欲しい人だからね」と―。
「橋を渡ったら、お終いよ。あそこは女の人生のおしまいなんだから」。デスパレイトな雰囲気の漂う特飲街で、生命力溢れる生き様の女主人公・菊代。彼女は26,7歳とまだ若いですが、それまでにたいへんな苦労をしているということか。雰囲気的には、成瀬巳喜男監督(原作:林芙美子)の「晩菊」('54年/東宝)で杉村春子が演じた、元芸妓で今は金貸しに精を出す主人公を想起しました。
「歓楽の町」... 夫とこじれて離れ、実家へも戻れない恵子は、特飲街傍の店にいる女学校時代の親友・徳子に厄介になるが―。これって、カルチャーショックというのでしょうか。堕ちるのは簡単。堅気でいられるならば、夫との関係修復に力を注いだ方が良い。
「蝶になるまで」... 北陸から出てきた16歳の鈴子を、女中を求めた「千草」のおかみさん・徳子は気に入り、「身をひさぐ」という言葉の意味も分からない彼女を娼婦から遠ざけようと気配りするが―。「娼婦に負けるものか」と叫ぶ彼女の行く末はどうなるのでしょう。おかみさんの意と逆になる可能性大です。
「洲崎の女」... 本書の中で唯一特飲街の内側の様子を描いたこの物語は、子どもの凄惨な溺死から始まる。満洲帰りの登代は、一人息子の満夫を満州で行方不明になった夫の実家に預けて働く「中年の娼婦」だが、年増女である上に精神を病んでいるため、思うように客が付かない。登代は、上京した満夫に冷たくされた後、かつて満夫を連れて空襲の中を逃げ回った記憶に囚われながら入水する―。
ちくま文庫解説の水留真由美氏は、「洲崎の女」はいささか湿っぽく、同じく戦争の被害を受けながらも登代とは対照的な生き方をする「洲崎界隈」の菊代の方が「本書の真骨頂だという気がする」としていますが、フェニミズム的にはそうなるのかなあ。個人的には、「洲崎の女」の方が好みです。
川島雄三監督の「洲崎パラダイス」より4か月早く公開された溝口健二監督の「赤線地帯」('56年/大映)に登場するゆめ子(三益愛子)は、映画のクレジットに「洲崎の女」よりとあるように、登代をモデルにしています(舞台は〈洲崎〉から〈吉原〉に置き換えられ、ロケを多用している「洲崎パラダイス」に対し、こちらはオールセット撮影となっている)。ゆめ子は、愛する息子に自分の仕事(売春であるわけだが)を完全否定されて発狂します。
因みに、「洲崎界隈」の菊代は、頼る者は自分しかないと、職を転々とした上で特飲街に入り、その後、自力で家を建て、夫を得て特飲街から足を洗い、男性を手段とみなし、近代的な物件に触手を動かしますが、これは「赤線地帯」におけるやすみ(若尾文子)には反映されているようにも見えます。仲間の娼婦に金貸しを行って更に貯金を増やしていたやすみは、馴染みの客の貸布団屋の主人から金をむしり取りって夜逃げに追い込み、最後は貸布団屋の女主人に収まります。ただし、自分に貢ぐために横領した客に殺されかけるなど危ない目にも遭います。
このほかに、ミッキー(京マチ子)のような、享楽のために(?)特飲街に居続ける女性もいて、自分を連れ戻しに来た父親を、その女癖の悪さを責めて追い返しています。一方で、ハナエ(木暮実千代)のように、病気の夫と幼子を抱えて一家の家計を支えるために特飲街で働く女性もいて、四者四様で、群像劇でありながら、この描き分けにおいて新旧の女性像が浮き彫りにされてた、優れた映画でした(やすみ・ミッキーが「新」、ゆめ子・ハナエが「旧」ということになるか)。

「洲崎パラダイス 赤信号」●制作年:1956年●監督:川
島雄三●製作:坂上静翁●脚本:井手俊郎/寺田信義●撮影:高村倉太郎●音楽:眞鍋理一郎●原作:芝木好子●時間:81分●出演:新珠三千代/三橋達也/轟夕起子/植村謙二郎/平沼徹/松本薫/芦川いづみ/牧真介/津田朝子/河津清三郎●公開:1956/07●配給:日活●最初に観た場所:神保町シアター(24-02-01)(評価:★★★★☆)

「赤線地帯」●制作年:1956年●監督:溝口健二●製作:永田雅一●脚本:成澤昌茂●撮影:宮川一夫●音楽:黛敏郎●原作:芝木好子(一部)●時間:86分●出演:若尾文子/三益愛子/町田博子/京マチ子/木暮実千代/川上康子/進藤英太郎/沢村貞子/浦辺粂子/十朱久雄/加東大介/多々良純/田中春男●公開:1956/03●配給:大映●最初に観た場所:国立映画アーカイブ(24-05-26(評価:★★★★☆)
前列左より京マチ子、溝口健二監督、後列左より町田博子、宮川一夫、若尾文子、木暮実千代、三益愛子


京マチ子

【1994年再文庫化[集英社文庫]/2023年再文庫化[ちくま文庫]】




ミホ(松坂慶子)とトシオ(島尾敏雄)は結婚後10年の夫婦。第二次大戦末期の1944年、二人は奄美大島・加計呂麻島で出会った。トシオは海軍震洋特別攻撃隊の隊長として駐屯し、島の娘ミホと恋におちた。死を予告されている青年と出撃の時には自決して
共に死のうと決意していた娘との、それは神話のような恋だった。しかし、発動命令がおりたまま敗戦を迎え、死への出発は訪れなかったのだ。そして現在、二人の子供の両親となったミホとトシオの間に破綻がくる。トシオの浮気が発覚したのだった。ミホは次第に精神の激しい発作に見舞われる。トシオはその狂態の中に、かつてのあの死の危機を垣間見る。それは、あら
ゆる意味での人間の危機だった。トシオはすべてを投げ出してミホに奉仕する。心を病むミホと二人の子を抱え、ある時は居を転じ、ある時は故郷の田舎に帰ろうと試み、様々な回復の手段を講じるトシオだったが、事態は好転せず、さらに浮気の相手・
邦子(木内みどり)の出現によって、心の病がくっきりし始めるのだった。トシオは二人の子をミホの故郷である南の島に送ってミホと共に精神科の病院に入り、付き添って共に同じ日々を送る。社会と隔絶した病院を住み家とすることで、やがて二人に緩やかな蘇りが訪れる―(「死の棘」)。
第43 回カンヌ国際映画祭で「死の棘」が審査員特別賞を受賞した小栗康平監督(1990年05月21日) 【AFP時事】
「死の棘」は小栗康平監督の'90年作で、1990年カンヌ国際映画祭「審査員グランプリ」受賞作。主演の松坂慶子、岸部一徳はそれぞれ、1990年度「キネマ旬報ベスト・テン」の主演女優賞・主演男優賞など多くの賞を受賞した作品です。島尾敏雄の原作は、'60(昭和35)年から'76(昭和51)年まで、「群像」「文学界」「新潮」などに短編の形で断続的に連載され、'77(昭和52)年に新潮社より全12章の長編小説として刊行(第1章「離脱」、第2章「死の棘」までを収録した'60年(昭和36)年刊の講談社版、 第3章「崖のふち」、第4章「日は日に」までを収録した'63(昭和38)年刊の角川文庫版も存在する)、1961年・第11回「芸術選奨」、1977年・第29回「読売文学賞」、1978年・第10回「日本文学大賞」を受賞しています。
原作はスゴかったです。初めて読んだときは多分にドキュメントとして読んだため、ミホの狂気に圧倒されてしまいました。しかし、後に刊行された、ノンフィクション作家の梯久美子氏が膨大な資料・証言から真実を探った『狂うひと―死の棘の妻・島尾ミ
ホ』('16年/新潮社)によると、原作には虚実がないまぜの部分があるようです(作者が妻にわざと自分の日記を読ませたとかは早くから言われていたが、妻が一部書き直したりして、夫婦合作的要素もあるらしい)。三島由紀夫が作者の作品について、「われわれはこれらの世にも怖ろしい作品群から、人間性を救ひ出したらよいのか、それとも芸術を救ひ出したらよいのか。私小説とはこのやうな絶望的な問ひかけを誘ひ出す厄介な存在であることを、これほど明らかに証明した作品はあるまい」と言っていますが、ある意味、こうした問題を予見していたようにもとれます(個人的にも評価し難い)。
かったです。トシオを演じた岸部一徳はこの作品で一皮むけたのではないかと思われます。松坂慶子も、突然「肺炎になってやる!」と叫び、胸をさらけ出しなど、体当たりの演技に挑戦していま
す。トシオの浮気相手を演じた木内みどり(1950-2019)(「
山あいの温泉町・一筋町。キヨジ(今福将雄)とフミ(野村昭子)の老夫婦の家には、山で事故に遭って以来、意識を失ったまま眠り続けている拓次(アン・ソンギ)という男がいた。フミは拓次を病院から引き取り、献身的な介護を続けている。拓次を毎日のように見舞うのは、知的障害を持つ青年・ワタル(小日向文世)だった。感受性豊かな彼は、事故に遭った拓次の第一発見者でもあり、人一倍彼のことを心配していた。水車小屋には傳次平(田村高廣)という老人がおり、自転車置き場と小さな食堂を経営するオモニ(八木昌子)に育てられている少年リュウ(太刀川寛明)は、傳次平から色々な話を聞くのを楽しみにしている。町では、南アジアの国からやってきた女たちがスナック「メナム」で働いていた。その一人であるティア(クリスティン・ハキム)は、故国の河でわが子を亡くした過去を持つ。ティアは町の人たちと接するうちに、次第に町の暮らしに馴染んでいった。拓次の幼友達である電気屋の上村は、最近になって、小さい頃、拓次とよく遊びに行った山の奥にある山家のことを思い出すようになった。そこに誰が住んでいて、それが本当にあったのかどうかも定かではなかったが、独り暮らしの老婆たけ(風見章子)から山家が本当にあったこと
を聞いた上村(役所広司)は、もう一度そこへ行ってみたくなった。冬が過ぎ、春が訪れ、やがて夏になり季節が巡ると、人々の生活にも少しずつ変化が見えた。寝たきりだった拓次はついに息を引きり、いんごう爺さん(瀬川哲也)の提案で"魂呼び"が試みられたが、それも空しい結果に終わった。しかしその後、神社で催された能芝居を観ていたティアが、森の中で死んだはずの拓次と再会する。不思議な体験をした彼女は、何かに導かれるように上村が探す山家へたどり着き、翌日、そこで上村と出会う。二人は、涸れていると言われていた井戸に水が涌きでていることを知る。上村はブロッケン現象の起こる山頂で、拓次に人間の命について問いかけるのだった―(「眠る男」)。
小栗康平監督の'96年作「眠る男」は、群馬県が人口200万人到達を記念して、地方自治体としては初めて製作した劇映画です。第20回モントリオール世界映画祭「審査員特別大賞」、第47回ベルリン映画祭「国際芸術映画連盟賞」を受賞。'96年度キネマ旬報ベストテン第3位で、小栗康平監督は2度目の監督賞を受賞しています。役所広司を主演に据え、韓国人、インドネシア人俳優の出演で国際色豊かな作品です(韓国の安聖基が演じる〈眠る男〉は主役ではなく映画のシンボルとして存在している)。ただ、こちらもいよいよもって説明不足で、登場人物の個の感情が前面に押し出されてはいますが、結局、実際のところは本人にしかわからないという印象を受けました。したがって、正直〈眠る男〉が何の象徴なのかもよく分かりませんでした。
山に近い小さな町。まち(夏蓮)ら三人の女子高生たちは、短い物語を作り、それをリレーして遊ぶことを思いつく。さっそく、町のペット屋がらくだを仕入れた、というエピソードをはじまりに、無邪気な夢物語が紡がれていく。次々と紡がれる物語は未来へと向かう夢なのか。一方、大人たちも慎ましやかにそれぞれの日々をいき続けている。そんなある日、大雨の影響で地中から"埋もれ木"と呼ばれる古代の樹木林が姿を現した。やがて町の人々は、そこでカーニバルを開催することを思いつく―(「埋もれ木」)。
「埋もれ木」は小栗康平監督の'05年作品で、撮影は'04年の梅雨から夏の三重県で行われ、前作「眠る男」と同じく地元タイアップ的な作品。第58回「カンヌ国際映画祭」で特別上映され、国内外で注目されたのよ、主演の女子高生三人(夏蓮、松川リン、榎木麻衣)を7000人の一般公募者の中から選出したことでも話題になった作品でした(そう言えば前作「眠る男」にも、ごく普通の女子高生たちが登場した)。物語は、起承転結がないような思わせぶりな小さいエピソードの積み重ねであり、それはそれでいいのですが、これもまた説明不足であるため、落としどころが何なのかよく分かりませんでした(したがって話題が先行した割にはヒットしなかった)。
「死の棘」●制作年:1990年●監督・脚本:小栗康平●撮影:安藤庄平●音楽:細川俊夫●原作:島尾敏雄●時間:115分●出演:松
坂慶子/岸部一徳/木内みどり/松村武典/近森有莉/山内明/中村美代子/平田満/浜村純/小林トシ江/嵐圭史/白川和子/安藤一夫/吉宮君子/野村昭子●公開:1990/04●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(23-09-12)(評価:★★★☆)
「眠る男」●制作年:1996年●監督:小栗康
平●製作:小寺弘之●脚本:小栗康平/剣持潔●撮影:丸池納●音楽:細川俊夫●時間:103分●出演:役所広司/クリスティン・ハキム/安聖基 (アン・ソンギ)/左時枝/野村昭子/田村高廣/今福将雄/八木昌子/小日向文世/瀬川哲也/渡辺哲/岸部一徳/蟹江敬三/平田満/真田麻垂美/太刀川寛明/小林トシ江/中島ひろ子/藤真利子/高田敏江/浜村純/風見章子●公開:1996/02●配給:SPACE●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(23-10-03)(評価:★★★)
「埋もれ木」●制作年:2005年●監督:小栗康平●製作:小栗康平/佐藤イサク/砂岡不二夫●脚本:小栗康平/佐々木伯●撮影:寺沼範雄●時間:93分●出演:夏蓮/松川リン/榎木麻衣/浅野忠信/坂田明/岸部一徳/坂本スミ子/田中裕子/平田満/左時枝/塩見三省/小林トシ江/草薙幸二郎/久保酎吉/湯川篤毅/代田勝久/松坂慶子(油状出演)●公開:2005/06●配給:ファントム・フィルム●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(23-10-17)(評価:★★★)
『死の棘』...【1981年文庫化[新潮文庫]】

佐藤厚志氏/井戸川射子氏
厄災から12年が経った阿武隈川下流域の町・亘理町。一人親方として造園業を営む坂井祐治は、厄災の2年後に妻・晴美を病気で亡くし、再婚した妻・知加子は流産を経て自分から離れていき、今は自分と会うことを頑なに拒絶している。現在は母・和子と最初の妻との間の息子・啓太との3人暮らし。その息子は12歳、小学校6年生になった。時折甦る生々しい震災の記憶、いつまた暴れるかもしれない海と巨大な防潮堤、建物がなくなった広大な荒地。そして、亡くなった妻の幻影―「(荒地の家族」)。



石原慎太郎にとっての生き方の理想となっているのは、レニ・リーフェンシュタールのような人のようです。彼女は1962年、旅行先のスーダンでヌバ族に出会い、10年間の取材を続け1973年に10カ国でその写真集『
因みに、石原慎太郎が話す、特攻隊の基地があった鹿児島・知覧の町で食堂をやっていた鳥濱トメさんから直接聞いた「自分の好きな蛍になって、きっと帰ってきます」といった隊員の話は、降旗康男監督、高倉健主演の映画「
曽野 綾子 作家


綿密な取材に基づいたディテールの正確な描写が効いていて、それでいて、書下ろしということもあってか、スイスイ読めました。地方競馬業界の実態や、そこでどういったことが行われているかが分かり、興味深かったです(そう言えば、大井競馬場で、指定された3つのレースの1、2着馬を順番通りに当てる3重勝2連勝単式馬券、『トリプル馬単』で今日['21年6月10日]地方競馬史上最高となる(購入金額50円が)2億2813万165円(1口当たり4562万6033円)となる配当が出たというニュースがあった。因みに、今年['21年]の3月14日の中央競馬では、(購入金額100円が)5億5444万6060円になる史上最高配当が出ている)。


「倉庫作業員」...... 大学を中退した浅野は、まとまった金を作るために日雇い労働をしていたが、より安定した仕事を求めて「紅谷金属」という伸銅品問屋に臨時社員として就職する。そこには、倉庫長の20代後半位の成田、16歳の若さのアキ、おっさんこと辻村、浅野と同い年位の三沢などの面々がいた。ある日浅野は、運送会社の運転手タキさんと取引先の「新光プラス」へ納品に行った際に、その会社の事務員の美しさに惹かれ、誘うが笑うだけで返事がない。そこで、彼女に手紙を書いて渡す。後で分かったことだが、彼女の名前は川島征子、彼女は話したり聴いたり出来ない聾唖者だった―。すっきりとして気持ちのいい短編(評価:★★★★)。山田洋次監督がこの作品をもとに永瀬正敏、和久井映主演で映画「










読書案内としても、二人ともスゴイ読書家であることは読む前から分かっているわけですが、やや中途半端な印象でしょうか。松岡正剛氏のまえがきによれば、編集部から事前に「150冊選んでください」と言われたそうですが、この二人、他にもいっぱい"読書案内"的な本を出しているので、本書はそれぞれのそうした"読書案内"本の<体系>の一部にすぎず、そちらの方も併せて読みましょうということなのかもしれません。


2017(平成29)年上半期・第156回「直木賞」受賞作。
『小説の読み書き』でも川端康成の『雪国』、志賀直哉の『暗夜行路』、森鴎外の『雁』といった文学作品を取り上げていて、ミステリっぽい作品がありながらもどちらかと言うと文芸作家というイメージもあったのですが、本作も、岩波書店から出されているせいもあるかもしれませんが、文芸小説っぽい雰囲気もあります。因みに本作は、岩波書店から刊行された本としては、芥川賞・直木賞を通じて初の受賞作となります(岩波書店としてもかなり嬉しかったのか、2019年の文庫化に際して、岩波文庫を模したカバー装填を施す"遊び"を行ったりしている)。
「3人の男」の小山内堅以外のあとの2人は三角哲彦と正木竜之介という男ですが、三角哲彦の若い頃の物語で、高田馬場の東映パラスと早稲田松竹が出て来るのが懐かしかったです。"懐かしかった"と言っても早稲田松竹はまだありますが、稲門ビル4階にあった東映パラスは1999(平成11)年頃閉館し、今は居酒屋「土風炉」になっています。

仕事も家庭も順調だった小山内堅(大泉洋)の日常は、愛する妻・梢(柴咲コウ)と娘・瑠璃(菊池日菜子)のふたりを不慮の事故で失ったことで一変する。深い悲しみに沈む小山内のもとに三角哲彦(目黒蓮)と名乗る男が訪ねてくる。事故に遭った日、小山内の娘が面識のないはずの自分に会いに来ようとしていたこと、そして彼女は、かつて自分が狂おしいほどに愛していた「瑠璃」(有村架純)という女性の生まれ変わりなのではないか、と告げる―。
山内堅役に2022年NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で源頼朝を演じた大泉洋、妻・梢役に2017年の「おんな城主 直虎」で井伊直虎を円演じた柴咲コウ。そう言えば、有村架純(2017年前期のNHK連続テレビ小説「ひよっこ」でヒロイン役を演じた)もまた、2023年の「どうする家康」の築山殿(瀬名)役でNHK大河ドラマに初出演する。有村架純と目黒蓮のストーリーをもっと見たかったという人もいたようだが、そもそも転生物語における3代分を1つの映画の間尺に収めるのに苦心している印象を受けた。そのくせラストで、亡くなった妻・梢も女の子に転生していることを仄めかしたのは、ちょっとやりすぎの印象も。原作の、ファンタジーでありながらも醸されていた文学的雰囲気も薄まった。評価は原作より星1つ減の★★★☆。) 


「月の満ち欠け」●制作年:2022年●監督:廣木隆一●製作:新垣弘隆/遠藤日登思/矢島孝/宇高武志●脚本:橋本裕志●撮影:水口智之●音楽:FUKUSHIGE MARI●原作:佐藤正午●時間:128分●出演:大泉洋/有村架純/目黒蓮(Snow Man)/伊藤沙莉/田中圭/菊池日菜子/寛一郎/波岡一喜/丘みつ子/柴咲コウ●公開:2022/12●配給:松竹●最初に観た場所:有楽町・丸の内ピカデリー2(2階席)(22-12-20)(評価:★★★☆)












2016 (平成28)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2016年・第7回「山田風太郎賞」受賞作。2017年・第14回「本屋大賞」第3位。2016年「『本の雑誌』編集部が選ぶノンジャンル・ベスト10」第2位。









昨年['15年]10月に78歳で亡くなった佐木隆三(1937-2015)の代表作ですが、作者がこの作品を書いた時には、本書の素材となった「西口彰事件」から既に12年が経っており、よく調べ上げたものだなあと思いました。でも、こんなスゴイ犯罪者が実際にいたとは驚きです。小説での犯人・榎津は、天才的な詐欺の能力を発揮する神出鬼没の詐欺師であり、それでも詐欺よりも殺人の方が効率が良いと考え、またそれを実行する凶悪犯でもあります。
犯人が熊本では弁護士を装って教戒師の家に押し入ったものの、当時10歳(小学5年生)の娘が見抜き、通報することにより逮捕につながったというのは「西口事件」における事実であり、警察の要職を歴任した高松敬治は「全国の警察は、西口逮捕のために懸命な捜査を続けたが、結果的には全国12万人余の警察官の目は幼い一人の少女の目に及ばなかった」と語ったと言います(犯人が自分で自らの逮捕の経緯を「裸の王様」みたいな話だと言ったのも本当らしい)。







終わりの方に出てくる菊池が谷口公道と会う「ジョイフル三の輪商店街」も個人的に馴染みがあったりして...(件の蕎麦屋は「砂場総本家」だなあ。以前は店の前に鉄道模型が走っていたなあとか)。
白石一文氏:『神秘』の刊行記念しサイン会(2014年5月25日 神戸・三宮センター街「ジュンク堂書店」)[毎日新聞]




(2020年映画タイアップカバー)『
本書を読む前は、直木賞を受賞した作者が地元・釧路でサイン会やトークセッションを行っているのをニュース報道などで見て、何となく違和感がありましたが、読んでみると釧路町の各場所の地名が実名で出ているようだし(「ホテルローヤル」自体も作者の父親が開業したホテルの名前をそのまま使っていて、但し、作者の実家は看板屋ではなく理容室であったとのこと)、モチーフがラブホテルであっても、地元の人は何か郷土愛的な親しみやすさを感じるのかもしれません。更には、失われた建物や空間に対するノスタルジーなどもあるのではないでしょうか(実際には、この連作が纏まった頃に作者の父が当ホテルを廃業したそうで、実際のホテルローヤルが無くなって小説の「ホテルローヤル」の方が残る形となった)。
映画「ホテルローヤル」('00年)

労働基準監督官を主人公としたドラマは、連続ドラマとして1クール放映されたものはないみたいですが、'05年7月にフジテレビで「労働基準監督官 和倉真幸」というのが単発ドラマとして放映されています。東ちづるが女性監督官を演じたらしく、新聞のテレビ欄の見出しによれば「労災隠し」をモチーフにしたものだったようです。 (その後、日本テレビ系列で「ダンダリン 労働基準監督官」が、竹内結子主演で2013年10月から1クール(全11回)放映された。)





新潮社が2000年に、20世紀を代表する作品を各年1冊ずつ合計100冊選んだキャンペーンで、著者がそれに「解説」をしたものとのことですが、著者の前書きによれば、「100冊の選択におおむね異論はなかった。しかし素直にはうなずきにくいものもないではなかったし、読むにあたって苦労した作品もあった」とのこと。









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夫婦善哉 織田作之助





















異色のライトノベルとして評判になった『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』('04年/富士見ミステリー文庫)を読みましたが、皆が言うほどの"傑作"なのかよく分からず、大体ライトノベルというのが自分の肌に合わないのかなと思っていたら、今や直木賞作家だからなあ、この人。ライトノベルといっても終盤で露わになる近親相姦的モチーフはへヴィで、これがまあ"異色"と言われる所以ですが、このモチーフ、『私の男』へと連なっていったわけかあ。









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芹沢光治良(1896-1993/享年96)








ただ、アクション・サスペンス的である分、人物描写や人間関係の描き方が浅かったり類型的だったりで、映画にするならば、役者は大根っぽい人の方がむしろ合っているかも、と思いながら読んでました。結局のところ映画は織田祐二主演で、体を張った(原作にマッチした)アクションでしたが、演技の随所に「ダイハード」('88年/米)のブルース・ウィリスの"嘆き節"を模した部分があったように思ったのは自分だけでしょうか。
織田祐二はまあまあ頑張っているにしても、テロリスト役の佐藤浩市の演出が「
奥只見ダム(重力式ダム)
黒部ダム(アーチ式ダム)





白洲正子(1910-1998/享年88)

子母澤 寛 (1892-1968/享年76)
一方この『新選組始末記』は、1928(昭和3)年刊行の子母澤寛の初出版作品で、子母澤寛が東京日日新聞(毎日新聞)の社会部記者時代に特集記事のために新選組について調べたものがベースになっており、子母澤寛自身も"巷説漫談或いは史実"を書いたと述べているように、〈小説〉というより〈記録〉に近いスタイルです。とりわけ、そのころまだ存命していた新選組関係者を丹念に取材しており、その抑制された聞き書きの文体には、かえって生々しさがあったりもします。
子母澤寛はその後、『新選組遺聞』、『新選組物語』を書き、いわゆる「新選組三部作」といわれるこれらの作品は、司馬遼太郎など多くの作家の参考文献となります(司馬遼太郎は、子母澤寛本人に予め断った上で「新選組三部作」からネタを抽出し、独自の創作を加えて『










酒井順子 氏(略歴下記)