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「●「直木賞」受賞作」の インデックッスへ
"休職刑事"の私立探偵風の捜査を描くが、プロット的にも心理描写的にも物足りない。
『廃墟に乞う』['09年]
2009(平成21)年下半期・第142回「直木賞」受賞作。
ある事件で心に傷を負い休職中の刑事・仙道は、千葉・船橋のラブホテルで40代の女性が殺害された事件について、13年前に自分が担当した娼婦殺害事件に犯行の手口が似ていることを知り、すでに刑務所を出所しているその時の犯人・古川幸男の故郷である旧炭鉱町を訪ねる―。
表題作「廃墟に乞う」の他、「オージー好みの村」「兄の想い」「消えた娘」「博労沢の殺人」「復帰する朝」の全6編を収録。
主人公が休職中の刑事ということで、依頼人の要請で事件の裏を探ることになる経緯などは、私立探偵に近い感じでしょうか。
事件そのものが何れも小粒で、トリックと言えるようなものが施されているわけでもなく、プロット自体もさほど目新しさは感じられませんでした。
仙道の事件解決(真相究明)の手口は、所謂"刑事の勘"と言うことなのでしょうが、かなり蓋然性に依拠したようなアプローチが目立ち、むしろ、事件に関係する人物の人生の陰影や心の機微を描くことをメインとした連作と言えるのではないでしょうか。
そうした意味では、表題作よりも、「兄の想い」「消えた娘」の方がまだよく出来ているように思われましたが、6編とも、短編という枠組みの中で、過去の事件の衝撃でPTSD気味になっている仙道の心理や、その彼と北海道警の刑事らとの関係も描かなければならなかったためか、その分、事件の当事者達の心理への踏み込みがやや浅い気がしました。
作者は、'88(昭和63)年に『ベルリン飛行指令』で直木賞候補になっていますが(20年以上も前かあ)、近年は、「警察小説」というジャンルで独自のスタイルを固めた作家。
今回の直木賞受賞は、選考委員である五木寛之氏や宮城谷昌光氏の選評をみると、31年間の作家生活に対する"功労賞"、乃至は、『警官の血』(2007(平成19)年下半期・第138回「直木賞」候補作)との"合わせ技で一本"という印象を受けます。
【2012年文庫化[文春文庫]】