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社会派の本領が最も発揮された作品。企業小説としても読める。
『レディ・ジョーカー〈上〉・〈下〉』(1997/12 毎日新聞社)/映画「レディ・ジョーカー」['04年/東映]主演:渡哲也/『レディ・ジョーカー〈上・中・下〉全3冊完結セット (新潮文庫)』['10年]
1998(平成10)年度・第52回「毎日出版文化賞」受賞作。1999(平成11)年「このミステリーがすごい!」(国内編)第1位(1998(平成10) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第2位)。
グリコ森永事件に想を得ているということははっきりしていますが、それでも一気に読ませます(と言いいつつ、読み通すのに20数時間かかったのだが)。
現実の未解決事件をモチーフにしたリアリティがあるだけに、フィクションとしての結末をどこへ導いてこの物語を終わらせようとしているのか読んでいて心配になりましたが、後味の悪くない結末にも充分満足させられました。
同じく大作で、スパイ小説とも言える『リヴィエラを撃て』('92年/新潮社)が好きな人もいますが、自分としては本作の方が良かったし、刑事物である『マークスの山』('93年/早川書房)、『照柿』('94年/講談社)の流れで新作が出たのは良かったと思いました。
ミステリーとしての『マークスの山』、ヒューマン・ドラマとしての『照柿』に対して、この作品は企業小説としても読めて、社会派としての著者の本領が最も発揮されていると思います。
ミステリーとしては、半田と合田の接点のセッティングがやや偶然すぎる感じがもしますが、犯人グループの動機ややり口には今回はさほど違和感はありませんでした(『マークスの山』は動機の割には手段が凝っているし、『照柿』は、動機無き殺人という観もある)。
警察内部の描写に加えて、新聞社内の記者の動きがリアルに描けていて(毎日新聞社とのジョイント効果?「毎日出版文化賞」を受賞している)、そして何よりも、混乱する恐喝されたメーカー企業側の社内で、会社のことよりも自分時自身の利害を真っ先に考える企業幹部らがよく描けています。
そうした意味では、組織心理学、組織行動学的観点から読んでも、そのリアリティに感服させられますが、一方で、事件とは何か、犯人とは何か、何をもって事件が解決したとするのかを考えさせられる小説でもあります。
映画「レディ・ジョーカー」('04年/東宝)チラシ・ポスター
出演:渡哲也/徳重聡/吉川晃司/國村隼/大杉漣/吹越満/平山秀幸
【2010年文庫化[新潮文庫(上・中・下)]】
《読書MEMO》
2013年TVドラマ化(WOWOW「連続ドラマW」全7話)
出演:上川隆也/柴田恭兵/豊原功補/山本耕史/矢田亜希子/本仮屋ユイカ