「●ま 松本 清張」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【3012】松本 清張 『証明』
「●岩下 志麻 出演作品」の インデックッスへ 「●三國 連太郎 出演作品」の インデックッスへ 「●滝沢 修 出演作品」の インデックッスへ 「●加藤 嘉 出演作品」の インデックッスへ 「●夏八木 勲 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「松本清張スペシャル 内海の輪」)
松本清張の真骨頂という感じの作品。映画よりドラマの方が原作に忠実。

『内海の輪 (カッパ・ノベルス)』['69年]『内海の輪 (角川文庫)』['74年]『内海の輪 新装版 (角川文庫) 』['23年]「<あの頃映画> 内海の輪 [DVD]」岩下志麻「火曜サスペンス劇場 松本清張スペシャル 内海の輪 [DVD]」中村雅俊
2025.3.30 蓼科親湯温泉にて
東京のZ大学に勤務する考古学者・江村宗三は、愛媛県松山の洋品店主の妻である西田美奈子と不倫関係になっていた。14年前、美奈子は宗三の兄嫁であった。美奈子の現在の夫・慶太郎は不能な老人となって久しい。落ち合った宗三と美奈子は、広島県の尾道で宿泊したが、火の点いた美奈子は、自分が松山の家を出ることを主張し始める。スキャンダルで考古学会から葬られることを恐れる宗三。有馬温泉に移ると、美奈子は宗三に妊娠を告げる。「もう松山には戻れないわ。あなたなしには生きてゆかれなくなったわ」と、宗三の子を産むと宣言、それは宗三の学界からの追放を意味し、絶望に落ちた宗三は美奈子の殺害を計画するが―。(「内海の輪」)
「内海の輪」は、松本清張が「黒の様式」第6話として「週刊朝日」'68(昭和43)年2月16日号~10月25日号に連載し(連載時のタイトルは「霧笛の町」)、'69(昭和44)年5月に中編集『内海の輪』収録の表題作として、光文社(カッパ・ノベルス)から刊行された作品(併録「死んだ馬」)。
ミステリ要素よりは女性の欲望と情念が前面に出た作品で、松本清張の真骨頂という感じの作品。やはり恋愛では、女性の方が一途なのか、老舗洋品店の妻としての安定した生活を捨てても恋を貫こうとする美奈子に対し、宗三は、美奈子を愛しているものの、考古学者としての野心もあり、女の一途さ、情の深さにそれに翻弄され、追い詰められて犯行に至ります。
「ボタンが決め手」というのがプロット的に弱いとみたのか、宗三が東京で乗ったタクシーの運転手が旅先で乗ったタクシーの運転手と偶然同じだったことから証言が得られるという展開が最後にあり、偶然に依拠し過ぎとの批判もあるようですが、このパターンは清張の作品にもあり、「本格推理」でもないので、これはこれで「ボタン」を補うという点でいいのではないでしょうか。

'71年に斎藤耕一監督により映画化されており、主演の岩下志麻は、「お話があって早速読みましたが推理小説というより愛のドラマのように感じました。女のサガとでもいいましょうか、女の愛の一つのタイプのもので一生懸命演じてみたいと思います」と話したというから、自分と同じ印象を持ったということか。
映画の出来について淀川長治は、「岩下志麻はもはやカトリーヌ・ドヌーブ級のうまさ。問題は青年のエゴと弱さをさらけだす宗三役の中尾彬。これが弱さのかげをもっと深く見せねばならなかった。難役ゆえに惜しい」「しかし日本映画もこれほど上等になってきた」などと評しましたが、前半は個人的にも同意見です。
原作では場面的には登場しない、美奈子の不能夫を三國連太郎が演じており、冒頭から岩下志麻との濡れ場シーンがあったり(しかもその夫と女中の関係も描かれる)、倒叙型で先に女性の死体が見つかった場面があったりと(しかも原作のように白骨死体で見つかるのは別の事件の話になっている)、ところどころ部分的に原作を変えていますが、岩下志麻の演技力でぐいぐい引っ張っていく感じでした(そっか、物語の主人公役は中尾彬だが、主演は完全に岩下志麻だった)。
ところが、女が男の自分への殺意に気づき、最後は誤って自ら断崖から足を滑らせ...と、ここで原作と大きく異なってしまい、これって事故であり、原作の殺人事件にならないじゃないかと。男の殺意も実行に移さなければ女の思い込みともとれるし、逃げるのが得策ではなかったのにその場から逃げてしまった男は、「殺人」の嫌疑はかけられても仕方がないですが、実情は「死体遺棄」といったところでしょうか。男の出世にも関係する、原作の石器の発見の話も端折られていて、原作者は何も言わなかったのかなあ(脚本家はクレームをつけたらしい)。

これまで、'82年のTBS「ザ・サスペンス」の〈滝田栄・宇津宮雅代版〉と、2001年の日本テレビ「火曜サスペンス劇場」の〈中村雅俊・十朱幸代版〉の2度テレビドラマ化されていて、〈中村雅俊・十朱幸代版〉を観ましたが、こちらの方が映画よりずっと原作に忠実でした。女は不倫旅行のるんるん気分の内に殺害されるし、男には明確な殺意がありました(あくまで中村雅俊が主演)。死体は白骨死体で見つかり、その付近での石器の発見の話も活かされていました。ラストの犯行の決め手になる小道具だけが、ボタンからメガネに変更されていましたが、これなら、タクシー運転手の証言を借りずとも男が犯人であることが立証でき、完璧と言えるかと思います。
火曜サスペンス劇場「松本清張スペシャル 内海の輪」(2001年/日本テレビ)中村雅俊/十朱幸代/紺野美沙子/石橋蓮司
銀座裏のバーのマダム・石上三沙子は、店を開いて3年後、和風建築家の池野典也と出会う。池野が当代一流の建築設計家で、相当の財産を持っているらしいことを聞いた三沙子は、再度の来店時に池野を誘い出した。病妻を失った63歳の池野は、33歳の三沙子と再婚した。三沙子は夫の設計事務所の経理主任・樋渡忠造を味方に付け、夫の収入の実体を把握したが、二年ほど経つと、池野の肉体的能力の衰退とともに、設計の才能が枯渇してきたことに気づく。夫が死んだ後も設計事務所を維持し、自分の名声を高めたい三沙子は、事務所員のなかでも飛び抜けて優秀な秋岡辰夫に近づく。三沙子はバーで培った技巧を駆使し、女性経験のなかった秋岡は三沙子の術中にはまる―(「死んだ馬」)。
併録の「死んだ馬」は、「小説宝石」'69(昭和44)年3月号に掲載された文庫で70ページほどの中編で、今度は三沙子という女性に翻弄される男の話。愛人の愛情と仕事上の名声の両方を手に入れようとしてしている点で「内海の輪」の主人公と似ていますが、女のために(自分自身のためでもあるが)殺人まで犯してしまい、しかし、女が自分を愛してはおらず利用しただけだったと後から気づき、女に殺意を抱くという、この辺りの流れが、これまた松本清張ならではの旨さでした。
松本清張の作品が長編に限らず中短編も数多く映像化されているのは(その点ではアガサ・クリスティやコナン・ドイルに匹敵するのでは)、こうした長編にもなりそうな素材を中短編にうまく凝縮しているというのもあるのではないでしょうか。実際、この作品も2度ドラマ化されており、'81年のテレビ朝日「土曜ワイド劇場」の〈小川真由美・山本亘版〉と、2002年のTBSの〈かたせ梨・萩原聖人版〉がありますが、どちらも未見。機会があれば観てみたいと思います。
「松本清張の死んだ馬 殺人設計図」(1981年/テレビ朝日)小川真由美・山本亘・山形勲・山田吾一

「松本清張没後10年特別企画 死んだ馬・殺意の接点」(2002年/TBS)かたせ梨・萩原聖人・神山繁・蟹江敬三


「内海の輪」●制作年:1971年●監督:斎藤耕一●製作:三嶋与四治●脚本:山田信夫/宮内婦貴子●撮影:竹村博●音楽:服部克久●原作:松本清張「内海の輪」●時間:103分●出演:岩下志麻/中尾彬/三國連太郎/滝沢修/富永美沙子/入川保則/水上竜子/加藤嘉/北城真記子/赤座美代子/夏八木勲/高木信夫/高原駿雄●公開:1971/02●配給:松竹●最初に観た場所:池袋・新文芸坐(24-07-23)(評価:★★☆)<.font>


「松本清張スペシャル 内海の輪」●監督:三村晴彦●脚本:那須真知子●音楽:佐藤允彦●原作:松本清張「内海の輪」●出演:中村雅俊/十朱幸代/紺野美沙
子/石橋蓮司/西田健/塩見三省/丸岡奨詞/野村昇史/柳川慶子/廣田行生/勝部演之/伊藤昌一/小久保丈二●放映:2001/03/27(全1回)●放送局:日本テレビ(火曜サスペンス劇場)
石橋蓮司(西田美奈子(十朱幸代)の夫・西田啓太郎)
【1969年ノベルズ版[カッパ・ノベルス]/1974年文庫化・2023年新装版[角川文庫]】



花田秀次郎(高倉健)は東京深川の老舗料亭「喜楽」に生まれたが、父・清吉(加藤嘉)が後妻を迎えたときに家を出て、そのまま裏街道を歩き始めた。賭場で袋だたきにあった秀次郎は、銀杏の木の下でうずくまっているところを、芸者になったばかりの幾江(藤純子)に救われた。3年後、いかさま師を怪我させた秀次郎は逮捕され、刑に服することに。だが服役中に父が死去、関東大震災が起こり義理の妹も死亡、継母のお秀(荒木道子)は盲目となってしまう。窮地に立たされた「喜楽」を救ったのは、板前の風間重吉(池部良)と小父の寺田(中村
竹弥)だった。昭和2年、出所した秀次郎は偽名で板前として働くこととなり、その姿を寺田は涙の出る思いで見守っていた。一方幾江は売れっ妓芸者となって秀次郎の帰りを待っていて、重吉と寺田の計いで二人は7年ぶりに再会する。そんな頃、寺田一家のシマを横取りしようとことあるごとに目を光らせていた新興博徒の駒井(諸角啓二郎)が、「喜楽」を乗っとろうとしていた。秀次郎の義弟・武史(松原光二)は相場に手を染め、むざむざと「喜楽」の権利書を取り上げられてしまう。それを買い戻す交渉に出かけた寺田が、帰り道で襲撃され殺される―。
1970(昭和45)年9月公開のマキノ雅弘監督の「昭和残侠伝」シリーズの第7作品主演は高倉健、共演は池部良、藤純子。高倉健が演じるのは唐獅子牡丹の刺青を背中に仁侠道に生きる昭和初期の渡世人・花田秀次郎で、1965(昭和40)年から1972(昭和47)年までのシリーズ9作のうち7作がこの役名であり、東映やくざ映画全盛時代の最大のヒーローといってもいいかと思います。
義理と人情のしがらみに苦悩し、堪えに堪えた新興やくざへの怒りをついには爆発させる―というのがほぼすべてに共通のパターン。ここでも最後、それまで駒井の執拗な挑発に耐えてきた秀次郎でしたが、かけがえのない恩人の死に遂に怒りを爆発させ、重吉と共に駒井の元に殴りこみます(幾江は行かないでとは言わず、死なないでと言う)。
ホントは、秀次郎は重吉に、堅気のあんたが行ってはいけない、俺一人で行くと言っていたのですが、結局、死地へ向かおうとする秀次郎の前に重吉が現れ、その流れで「道行」の図となります。この「道行き」を二人が共にするのもシリーズのパターンですが、シリーズ作でいちばん出会いのシチュエーションが凝っているのがこの第7作の「昭和残侠伝 死んで貰います」であるとも言われています。
れるのを見て、繰り返し量産されるワンパターンの作品でも観客が求めるならばと自らに言い聞かせて、同じような役どころを演じ続けたのだそうです(体力維持のため、ジムに通って筋力トレーニングに励み始めたのも各シリーズが始まったこの頃から)。因みに、あの三島由紀夫は、高倉や鶴田浩二主演の任侠映画を好み、特にこの「昭和残侠伝 死んで貰います」を高く評価していたとのことです。
編集部「あそこは質屋から間に合わせにもってきたドスと対照的だったけれど、なんか健さんのほうが良かった」


真田広之
「昭和残侠伝 死んで貰います」●制作年:1970年●監督:マキノ雅弘●脚本:大和久守正●撮影:林七郎●音楽:菊池俊輔●時間:92 分●出演:高倉健/藤純子/加藤嘉/池部良/永原和子/荒木道子/山本麟一/津川雅彦/三島ゆり子/松原光二/永原和子/八代万智子/石井富子/高野真二/諸角啓二郎/赤木春恵/小倉康子/日尾孝司/下沢広之(真田広之)/永山一夫/南風夕子/
小林稔侍/久地明/久保一/伊達弘/田甲一/土山登士幸/花田達/木川哲也/佐川二郎/山浦栄/畑中猛重/青木卓司/五野上力/高月忠/長門裕之●公開:1970/09●配給:東映●最初に観た場所:新宿昭和館(01-03-22)(評価:★★★★)●併映:「日本女侠伝 血斗乱れ花」(山下耕作)/「博徒対テキ屋」(小沢茂弘)


松本清張ほか著/日本推理作家協会編『種族同盟―現代ミステリー傑作選1〈策謀・黒いユーモア編〉』(カッパ・ノベルス 1969.01)

この1979年版の小川真由美演じる被告は、映画版と同じく旅館の女中(渡り仲居)で(千鶴子、つまり原作で殺害される女性と同じ名前になっている)、彼女の色香に目をつけた客の議員秘書に犯され、彼を崖から渓流に突き落として死なせてしまいます。警察に捕まって尋問されますが、本人に殺意がなかったこともあってか無実を訴え、資力がないので国選弁護人をつけることになりますが、その案件引き受けた弁護士が、高橋幸治演じる矢野弁護士で(原作は一人称で語られるため、弁護士の名は出てこず、この「矢野」という名は映画と同じ名前)、その助手の金沢碧が演じる由基子は(これは原作でもそのことが示唆されているが)彼の愛人ということになっています(男女の入れ替えをはじめ、全体の設定としては原作より映画「黒い奔流」にずっと近い)。
小説家の阿刀田高はその著書『松本清張あらかると』(1997年/中央公論社)で「種族同盟」のドラマの脚色を賞賛していて、少し長くなりますが引用します。
「〈種族同盟〉のテレビ化は、実にみごとなものであった。もちろん小説を映像化して絶讃を受けた映画やテレビ・ドラマは他にもたくさんあるだろう。どちらかと言えば、テレビより映画のほうによい作品が多いような気がするけれど、テレビ化だって捨てたものじゃない。名品を次々に思い出すことができる。だが、私がここでことさらに〈種族同盟〉を挙げるのは、作品の筋が原作から大きく変更されたにもかかわらず、見どころのある物語をあらたに創っていたからである。しかもその変更の理由が(これはあくまで私の推測ではあるけれど)―テレビ的だなあ―と思いたくなるような、けっして本質的ではないものなのに、ドラマ化された結果は本質的な条件をクリアーしていた。ありていに
言えば「小説をテレビ化するとき、テレビ局の側にもいろいろ事情はあるでしょう。しかし変更するなら、このくらい、熟慮して変えてください」と、あらまほしき例として挙げたくなるのが、この〈種族同盟〉のテレビ・ドラマ化であった。(中略)〈種族同盟〉のドラマ化は、原作のエンドマークの先にたっぷりと新しいものをつけたして違和感のないものとした。付加するならば、このくらいうまく繋げてほしい。主人公を男から女へ変えるなら、ここまで工夫してほしい。小説〈種族同盟〉と、テレビ・ドラマ化された映像と、どちらがよいかは、むつかしい問題ではあるけれど、私としては、「小説のほうは凄味があるけれど、陰鬱だからなあ。テレビのほうがある種の女のあわれさがよく出ていて、ここちはいいね」と言いたくなってしまう。いずれにせよテレビドラマ〈種族同盟〉は、原作を大きく変えて、しかも充分に成功した珍しい例、と、私は特筆大書したいのである。」
ただ、この"イノセント"を実際に演じるのは相当に難しいはずであり、それをリアリティをもって演じ切った小川真由美ってすごいなあと思いました。同じ「土曜ワイド劇場」枠で同年4月放映の「
最初の方で小川真由美演じる千鶴子と議員秘書の絡みがあって、しかも千鶴子がたまたまゆっくり走っていたトラックに飛び乗るシーンがあるので(これが意図せず時間トリックとなって彼女の無罪につながるのだが)、原作と違って言わば倒叙ミステリーになっています。その分、ミステリとしての意外性は削がれていることになりますが、ドラマはあくまでも千鶴子が主人公である作りなので、あまり気になりませんでした。
高橋幸治(1935年生まれ)も悪くなかったです(映画で弁護士を演じた山崎努(1936年生まれ)と似た感じか)。NHKの大河ドラマ「
金沢碧は、事務所の助手・岡橋由基子役でしたが、原作や映画において弁護士を追いつめる元被告に代わって、由基子が弁護士を恐喝する役回りでした。ダーティな部分を全部引き受けた感じで、最後にドジを踏ん

「松本清張の種族同盟・湖上の偽装殺人事件」(土曜ワイド劇場)●演出:井上昭●脚本:吉田剛●音楽:津島利章●原作:松本清張●出演:小川真由美/高橋幸治/金沢碧/下条アトム(下條アトム)/加藤嘉/朝加真由美/中村竹弥/川合伸旺/進藤準/小島三児●放映:1979/05/26(全1回)●放送局:テレビ朝日(評価:★★★★☆)

◇第一章 昭和7年、上海事変の頃、阿蘇谷の大地主・小清水平左衛門(永田靖)の小作人・草二郎(加藤嘉)の娘・さだ子(高峰秀子)には川南隆(佐田啓二)という親兄弟も許した恋人がいた。隆と、平左衛門の息子・平兵衛(仲代達矢)は共に戦争に行っていたが、平兵衛は足に負傷、除隊となって帰郷する。平兵衛の歓迎会の数日後、平兵衛はさだ子を犯す。さだ子は川に身を投げるが、隆の兄・力造(野々村潔)に助けられる。やがて隆が凱旋、事情を知った彼は、さだ子と村を出奔しようと決心するが、当日になって幸せになってくれと置手紙を残し行方をくらます。
◇第二章 昭和19年。さだ子は平兵衛と結婚、栄一、守人、直子の三人の子をもうけていた。太平洋戦争も末期、隆も力造も応召していた。隆はすでに結婚、妻の友子(乙羽信子)は幼い息子・豊と力造の家にいたが、平兵衛の申し出で小清水家に手伝いにいくことになる。隆を忘れないさだ子に苦しめられる平兵衛と、さだ子の面影を追う隆に傷つけられた友子。ある日、平兵衛は友子に挑み、さだ子は"ケダモノ"と面罵する。騒ぎの中、長い間病床に伏していた平左衛門が死去、翌日、友子は暇をとり郷里へ帰る。
◇第三章 昭和24年。隆は胸を冒されて帰郷。一方、さだ子が平兵衛に犯された時に姙った栄一(田村正和)は高校生になっていたが、ある日、自分の出生の秘密を知り、阿蘇火口に投身自殺する。さだ子と平兵衛は一層憎み合うようになる。
木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1961(昭和36)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第3位。1962年に米国の第34回アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた作品でもあります。前年「旗本愚連隊」にて顔見せ出演した田村正和は、この作品が本格的デビューとなりました。
ラスト、平兵衛はさだ子の頼みを最初はきかなかったけれども、やがて頑なだった彼の心も砕けます。ただ、これで30年間も憎み、苦しんできた二人にようやく平和が訪れたという、所謂メロドラマ的筋書きなのでしようが、高峰秀子と仲代達矢のそれまでの憎しみ合う演技がスゴ過ぎて、結末がやや安易に思えてしまうほどでした。
「永遠の人」●制作年:1961年●監督・脚本:木下惠介●製作:月森仙之助/木下惠介●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●時間:107分●出演:高峰秀子/佐田啓二/仲代達矢/加藤嘉/野々村潔/永田靖/浜田寅彦/乙羽信子/田村正和/戸塚雅哉/藤由紀子/石濱朗/東野英治郎●公開:1961/09●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-08-20)(評価:★★★★)




長距離タンクローリーの運転手ゴロー(山﨑努)とガン(渡辺謙)がとある寂れたラーメン屋に入ると、店主のタンポポ(宮本信子)が
幼馴染の土建屋ビスケン(安岡力也)にしつこく交際を迫られていたところだった。それを助けようとしたゴローだが逆にやられてしまう。翌朝、タンポポに介抱されたゴローはラーメン屋の基本を手解きしタンポポに指導を求められる。そして次の日から「行列のできるラーメン屋」を目指し、厳しい修行が始まる―。
1985(昭和60)年公開の伊丹十三(1933-1997/64没)脚本・監督による「ラーメンウエスタン」と称したコメディ映画で、伊丹十三監督作としては、長
編第1作「
ーの運転手役で出演しており、この作品へのオマージュととれるし、三谷幸喜監督がこの作品を高く評価していることが窺える)。
伊丹十三作品の人気ランキングなどを見ると、「お葬式」「マルサの女」と並んでこの「タンポポ」はベスト3に入っていることが多いですし、個人的には、「マルサの女」に匹敵する面白さだとは思っていましたが、今回観直して、これは「マルサの女」よる上ではないかと(評価○から◎に変更!)。
米国で受け入れられたのは、〈ラーメン・ウエスタン〉のスタイルで「
を作り上げたことが大きいと思います。ラーメン店を一人で営む宮本信子の下にふらりと店に入ってきたトラック運転手の山崎努にしても常にカウボーイハットだし、自分たちの店のラーメンの味を貶された男たりがタンポポの店に押し掛ける時も、4人の男の内1人はさりげなくカウボーイハットで
した(ここは「
また、この作品の中には、13の食べ物にまつわるエピソードが織り交ぜられているということで、それらも愉しめたし、今思うと、錚々たる面子(メンツ)の俳優がそれらサブストーリーに出ていたことが思い起こされ、暫く観ていない人は観直してみるのもいいのではないでしょうか。メインストーリーに関わる登場人物が主役の宮本信子、山崎努らを含め23名なのに対し、サブストーリーの登場人物が冒頭の役所広司、黒田福美(ヴィスコンティ監督の「ベニスに死す」のパロディか。黒田福美はこの作品以降、伊丹作品の常連に)を筆頭に46名と倍以上いるといいいます。
また、渡辺謙演じるガンが本を読みながら頭の中で描き出しているラーメンの先生を演じた大友柳太朗(1912‐1985/73歳没)は、この映画が公開される前の1985年9月27日、東京都港区の自宅マンション屋上から飛び降り自殺しています。したがって、この「タンポポ」が遺作となったわけですが、死の前日には自ら監督の伊丹十三(この人も'97年に自殺することになるのだが)に電話をかけ、自分の出番がすべて撮影済みであることを確認していたそうです。


岡千恵蔵)ら赤穂浪士の動向を探る浪人「堀田隼人」という重要な役どころでした。80年代には現代劇において老人役として人気を博しましたが、次第に台詞覚えに苦労するようになり「老人性痴呆にかかった」と悲観しはじめ、不眠症にも悩まされるようになり、特に後輩の杉良太郎からの執拗なダメ出し・批判に悩まされ、自信を喪失していったとのことです。
因みに、西洋レストランで行われていた岡田茉莉子が講師を務めるマナー講座の近くの席で、パスタをすすったりげっぷを放つなどの騒音を出し、生徒たちが全員真似てパスタをすすって食べる元凶となった太った外人は、フランス出身のパティシエで日本で初となるフランス菓子専門店を開店させたアンドレ・ルコント(1932-1999)という人です。東京オリンピックを翌年に控えた1963年、ホテルオークラのシェフ・パティシエとして初めて日本を訪れ、本格的な砂糖菓子の彫刻を日本で最初に広めた人物です。
「タンポポ」●制作年:1985年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:田村正毅●音楽:村井邦彦●時間:115分●出演:山﨑努/宮本信子/渡辺謙/役所広司/安岡力也/加藤嘉/桜金造/大滝秀治/黒田福美/岡田茉莉子/高橋長英/橋爪功/大犮柳太朗/津川雅
彦/原泉/藤田敏八/高見映(高見のっぽ)/ギリヤーク尼ヶ崎/洞口依子/アンドレ・ルコント/中村伸郎/林成年/田武謙三/井川比佐志/三田和代/大月ウルフ/上田耕一●公開:1985/11●配給:東宝(評価:★★★★☆)
➀ 白服の男(役所広司)とその情婦(黒田福美)が冒頭に登場し、映画館の最前列を陣取って食事をしようとする。



1928(昭和3)年、大石久子(高峰秀子)は新任教師として、瀬戸内海小豆島の分校へ赴任する。1年生の磯吉、吉次、竹一、ミサ子、松江、早苗、小ツル、コトエなど12人が初めて教壇に立つ久子には愛らしく思え、田舎の古い慣習に苦労しながらも、良い先生になろうとする。ある日、久子は子供
のいたずらで落とし穴に落ちて負傷し、長期間学校を休んでしまうが、先生に会いたい一心の子供たちは2里の道程を歩いて見舞いに来てくれ、皆で海辺で記念写真を撮る。しかし、自転車に乗れない久子は、住まい近くの本校へ転任することに。1933(昭和8)年、5年生になって子供たちは本校へ通うようになり、久子は結婚していた。子供たちにも人生の荒波が押しよせ、大工の娘・松江は母親が急死し、奉公に出される。久子は修学旅行先の金比羅で偶然に松江を
見かけることになる。軍国主義の影が教室を覆い始めたことに嫌気さした久子は、子供たちの卒業とともに教壇を去る。8年後の1941(昭和16)年、戦争が本格化し、教え子の男子5人と久子の夫は戦争に出征、漁師の娘コトエは大阪へ奉公に出るが、肺病になり物置で寝たきりになる。1945(昭和20)年、久子の夫は戦死し、かつての教え子も、竹一ら3人が戦死、ミサ子は結婚し、早苗は教師に、小ツルは産婆に、
そしてコトエは肺病でひっそりと死んだ。久子には既に子が3人あったが、2歳の末っ娘は空腹に耐えかねた末に木になる柿の実を採ろうとして転落死する。翌1946(昭和21)年、久子は再び岬の分教場に教師として就任する。児童の中には、松江やミサ子の子供もいた。一夜、ミサ子、早苗、松江、マスノ、磯吉、吉次が久子を囲んで歓迎会を開いてくれ、磯吉は両目の視力を失っていた。かつての教え子たちは久子に自転車をプレゼントする。数日後、岬の道には元気に自転車のペダルを踏む久子の姿があった―。
木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1954(昭和29)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第1位(2位も同監督の「女の園」('54年/松竹))、「毎日映画コンクール」日本映画大賞、「ブルーリボン賞」作品賞、1954年度「ゴールデングローブ賞」外国語映画賞受賞作。文藝春秋刊『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版)第7位。壺井栄(1899-1967/享年67)の原作『二十四の瞳』は第二次世界大戦の終結から7年後の1952(昭和27)年に発表されていて(原作は瀬戸内海に浮かぶ島を舞台としているが、その島の名前は一度も出てこない。但し、小豆島は作者の出身地である)、映画は原作発表の翌年春から撮影が始まり、翌々年に公開されたということになります。
あの三島由紀夫は、最も好きな日本の映画監督に木下惠介監督を挙げていますが、「二十四の瞳」に関しては、「間がどうも古いね。泣かせる間がちゃんとできている。(中略)絶対、泣かなくなっちゃう、腹が立ってきてね」と雑誌の読者座談会で発言しており(同じ理由でビットリオ・デ・シーカの「自転車泥棒」('48年/伊)なども嫌いだったらしい)、「泣かせる」演出に嫌悪感があったようです(川内由紀人『三島由紀夫、左手に映画』('12年/河出書房新社))。自分も40代くらいまではあまり好きでなかったし、テレビなどでやっているとチャンネルを変えたりしていたように思いますが、今は年齢と共に素直に(?)"泣ける"ようになったのかも(やっぱり劇場で観る方がいい)。
リメイクされたりもしていますが(映画では田中裕子版('87年)が、テレビドラマでは黒木瞳版('05年)、松下奈緒版('13年)などがある)、戦後10年以内に作られたこの作品が持つ独特の時代的、地方的な雰囲気があり(風光明媚な瀬戸内の風景や、素朴な人々の暮らしぶりといった背景)、それより後の映像化作品でこの作品を超えるのは難しいように思います(同じことが同監督の3年後のカラー作品「喜びも悲しみも幾歳月」('57年/松竹)についても言える。両作品とも季節の違いはあるが波止場で人々が出征兵士を見送るシーンがあり、それがまるで記録映像を観ているように見える)。勿論、「時代色」「地方色」だけでなく、木下惠介監督の演出のきめ細かさも光っているように思います。
先に書いたように、物語には1928(昭和3)年、1933(昭和8)年、1941(昭和16)年、そして1945(昭和20)年から1946(昭和21)年という、大まかに言って4つのシークエンスがあり(こうした構成も「喜びも悲しみも幾歳月」に似ている)、この間に子供たちはそれぞれ6歳(小学校1年生)、10歳(小学校5年生)、18歳、22歳と成長し、大石先生も20代から40代になるわけですが、20代から40代の大石先生を巧みに演じ分けている高峰秀子もさることながら、子役たちも子供から大人になるまでが自然に繋がっているという感じです。
特に、6歳(小学校1年生)と10歳(小学校5年生)の配役は、全国からよく似た兄弟、姉妹を募集し、3600組7200人の子供たちの中から、12組24人が選ばれたとのことで(大人になってからの役者も、その子供たちとよく似た役者を選んだ)、観ていて「あの子が成長してこうなったのだな」などとと分かり、顔立ちや目元まで似ていたりすると結
構はっとさせられます。でも、兄弟、姉妹を顔が似てるかどうかを基準に選んだということは、それをどう演出するかは、木下惠介監督には相当な自信があったのではないでしょうか。実際、子役たちから巧まざる上手さを引き出しているように思いました。「泣ける」背景には、こうした戦略的かつ細やかな技巧の積み重ねがあり、それが、声高ではないのに反戦映画としての訴求力があることに繋がっているのだと改めて思われ、評価「◎」としました。
音楽の木下忠司(きのした・ちゅうじ、1916-2018)は木下惠介監督の弟で、この「二十四の瞳」をはじめ、「女の園」('54年/松竹)、「
には、「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」('66年/大映)や「トラック野郎シリーズ」(東映、全10作中、8作を担当)なども手掛けています。NHKのテレビドラマ「
黄門様(東野英治郎)が悠々自適の生活を送っている常陸の国・西山荘。そこに程近い山道を必死に急ぐ二人の武士がいた。その二人を追う黒覆面の武士の一団が突如二人に襲いかかる。必死に応戦する二人は炭焼小屋へ逃げ込むが、火を放たれ、一人は倒れ、残る侍も危機に陥った。だが、間一髪、危ういところを風車の弥七(中谷一郎)が救う。西山荘にかつぎこまれた若侍は、実は加賀百万石前田家の城代家老・奥村作左衛門(三船敏郎)の息女・由美(栗原小巻)であった。由美の話では、加賀百万石は次席家老・村井主水(安部徹)の悪企みでお家騒動の渦中にあるという。話を聞いた黄門一行は加賀藩とその領民を救うべく加賀へと向った。越後へさしかかった一行は、とある旅籠に"水戸御老公様御宿"と大書した看板を見つける。何とニセ黄門の逗留だ。敵の目をくらますため、この連中を江戸へ立たせた黄門一行は加賀へと向かう―。
TV放送当時の第9部のキャスト陣が中心だそうで、88分という小品の尺に4話分くらいの話を詰め込みコンパクトに纏めている。当時のレギュラーメンバー(東野英治郎・里見浩太朗・大和田伸也・中谷一郎・高橋元太郎)に大物ゲスト(三船敏郎・栗原小巻・竹脇無我・ハナ肇・植木等・谷啓)そしてお馴染みの悪役俳優(安倍徹・川合伸旺・遠藤太津朗・富田仲次郎・汐路章・牧冬吉・深江正喜)と総出演。加賀藩次席家老・村井主水(安部徹)や悪代官・黒部八太夫(遠藤太津朗)が暗躍、彼らの悪事を挫くため黄門一行が動くも、ニセ黄門一行(ハナ肇・植木等・谷啓)が現れるなど、一筋縄にいかない展開。ただ、大筋としては黄門様が、三船敏郎が演じる城代家老を次席家老の陰謀から救う話なのだが、三船敏郎と東野英治郎の関係が「
「二十四の瞳」●制作年:1954年●監督・脚本:木下惠介●製作:桑田良太郎●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:壺井栄●時間:156分●出演:高峰秀子(大石久子)/天本英世(大石久子の夫)/夏川静江(久子の母)/笠智衆(分教場の男先生)/浦辺粂子(男先生の妻)/明石潮(校長先生)/高橋豊子(小林先生)/小林十九二(松江の父)/草香田鶴子(松江の母)/清川虹子(よろずやのおかみ)/高原駿雄(加部小ツルの父)/浪花千栄子(飯屋のかみさん)/田村高廣(岡田磯吉)/三浦礼(竹下竹一)/渡辺四郎(竹下竹一(本校時代))/戸井田康国(徳田吉次)/大槻義一(森岡正)清水龍雄(相沢仁太)/月丘夢路(香川マスノ)/篠原都代子(西口ミサ子)/井川邦子(川本松江)/小林トシ子(山石早苗)/永井美子(片桐コトエ)●公開:1954/09●配給:松竹●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(18-05-08)(評価:★★★★☆)










「水戸黄門」(劇場版)●制作年:1978年●監督:山内(やまのうち)鉄也●製作(プロデューサー)西村俊一/郡進剛/森誠一/神先頌尚/杉本直幸●原案・脚本:葉村彰子●撮影:増田敏雄●音楽:木下忠司●時間:88分●出演:東野英治郎/里見浩太朗/大和田伸也/高橋元太郎/中谷一郎/和田浩治/山口いづみ/鮎川いづみ/谷幹一/遠藤太津朗/富田仲次郎/稲葉義男/浜田寅彦/川合伸旺/東野英心/深江章喜/汐路章/牧冬吉/正司歌江/正司照江/正司花江/伊藤洋一/ハナ肇/植木等/谷啓/加藤嘉/安部徹/岩尾正隆/栗原小巻/竹脇無我/三船敏郎●公開:1978/12●配給:東映)(評価:★★★)
「水戸黄門(14-21)(西村晃版)」)●監督:山内鉄也/荒井岱志/居川靖彦/倉田準二/居川靖彦/倉田準二ほか●脚本:葉村彰子/櫻井康裕/大西信行/芦沢俊郎/大久保昌一良/廣澤榮/伊上勝ほか●音楽:木下忠司●出演:西村晃/里見浩太朗/伊吹吾朗/高橋元太郎/山口いづみ/片平なぎさ/鳥越マリ/せんだみつお/由美かおる/野村将希/中谷一郎/あおい輝彦●放映:1983/10~1992/11(全283回)●放送局:TBS



日露戦争開戦目前の1901(明治34)年10月、軍部はロシア軍と戦うためには雪と寒さに慣れておく必要があると判断、弘前の第4旅団司令部で行われた「日露戦争に備えての雪中行軍作戦会議」に、弘前第8師団より第4旅団長・友田少将(島田正吾)、参謀長・中林大佐(大滝秀治)、「弘前第31連隊」より連隊長・児島大佐(丹波哲郎)、第1大隊長・門間少佐(藤岡琢也)、徳島大尉(高倉健)、「青森第5連隊」よ
り津村中佐(小林桂樹)、木宮少佐(神山繁)、神田大尉(北大路欣也)、第2大隊長・山田少佐(三國連太郎)らがそれぞれ出席して、耐寒訓練として冬の八甲田山を軍行する計画を立て、神田大尉率いる「青森第5連隊」と徳島大尉率いる「弘前第31連隊」の参加が決まる。双方は青森と弘前から出発、八甲田山ですれ違うという進行が大筋だった。翌年1月20日、徳島率いる弘前
第31連隊は、雪に馴れている27名の編成部隊で弘前を出発し、一方の神田大尉も小数精鋭部隊の編成を申し出たが、大隊長・山田少佐に拒否され210名という大部隊で青森を出発した。神田の青森第5連隊の実権は大隊長・山田少佐に移っており、神田の用意した案内人を山田が断ってしまう。神田の部隊は低気圧に襲われ、磁石が用をなさなくなり、ホワイトアウトの中に方向を失い、次第に隊列は乱れ、狂死する者
さえ出始める。一方徳島の部隊は、案内人(秋吉久美子)を先頭に風のリズムに合わせ、八甲田山に向って快調に進む。出発してから1週間後、徳島隊は八甲田に入って神田大尉の従卒の遺体を発見、神田の青森第5連隊の遭難は疑う余地はなかった。そして徳島は、吹雪の中で永遠の眠りにつく神田と再会。青森第5連隊の生存者は山田少佐以下12名。徳島の弘前第31連隊は全員生還。山田少佐はその後に拳銃自殺する―。
1977年公開の森谷司郎監督、橋本忍脚本、高倉健・北大路欣也主演作品で、原作は新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』('71年/新潮社)。原作は、1902(明治35)年)1月、陸軍第8師団の「青森歩兵第5連隊」が青森市街から八甲田山の田代新湯に向かう雪中行軍訓練で参加者210名中199名が死亡した事件に材を得ていますが、「弘前歩兵第31連隊」の雪中行軍訓練と時期は重なるものの、お互いに相手の計画を知らなかったということで、これを徳島・神田両大尉が同時に行軍指揮の命令を受け、事前に両隊が八甲田山で出会うことを示し合わてスタートしたように描き、更に、強行スケジュールを立てて先を急いだ神田・青森隊と、自然の驚異への畏怖からそれに逆らわず慎重に行動した徳島・弘前隊を対比的に描くことで、ちょうど南極点一番乗りを目指して片や偉業達成、片や全滅したアムンゼン隊とスコット隊の物語のようにドラマチックにしたのは、新田次郎の作家としての力量の為せる技でしょう。
従って、事実としては、映画のように高倉健が演じた徳島大尉(モデルは福島泰蔵大尉)と北大路欣也が演じた神田大尉(モデルは神成文吉大尉)が出発前に出会って語らったこともなく、また、映画では三國連太郎演じる山田少佐(モデルは山口鋠少佐)の我田引水の判断や行動が遭難事故の誘因となったように描かれていますが、実際には山口少佐の遭難事故に与えた影響は判明していないそうです(部下の犠牲で生き残ったことへの自責の念から病院で拳銃自殺するというのも新田次郎の創作)。
一方の、徳島大尉は理想のリーダーのように描かれていますが、実際には福島隊も地元の案内人との関係は良くなかったらしく、高倉健の徳島大尉が秋吉久美子演じる(軽々と雪山を登って行く部分はスタント?)案内人に感謝の意を表して部下らに捧げ銃を命じるのは完全に映画のオリジナルで、新田次郎原作においてすら、小銭を渡して冷たくあしらったことになっています(映画では、三國連太郎演じる山田少佐が「金目当てか?」と案内人を追い返したのと対照的な行動として描かれている。感動的な場面ではある)。
しかしながら、事実がどうだったかはともかく、映画は映画としてみれば面白く、少なくとも長尺の割には、途中飽きることはありませんでした。原作の方は企業研修や大学において、リスクマネジメントやリーダー論などの経営学のケーススタディに用いられることがあるようですが、当然事前に読ませておくということでしょう。映画も(その後の討論を含め1日がかりの研修ならともかく)勤務時間中に見せるのは約2時間40分の長さはきついかもしれません。
そもそも、原作にしても映画にしても、明治陸軍という特殊な組織の中での話であって、これを現代のビジネス社会に当て嵌めて考えたり応用したりするには無理があるという見方もあるようですが、確かにそうした面もあるかもしれないし(「北大路欣也演じる神田大尉が上官の無茶な命令に逆らえないのはフォロワーシップの欠如だ」と言うのは簡単だが、当時の陸軍においては上官命令には絶対服従だっただろう)、一方、高倉健演じる徳島大尉はあまりに理想的に描かれ過ぎている感じもします。しかしながら、個々のリーダーシップと言うより組織論的な観点から見ると、命令系統の混乱が青森隊を混迷状況に陥れたわけで、マネジメントにおける「命令統一の原則」が守られなかった場合どうなるかということと呼応しており、参考になる部分はあるかもしれません。
今日まで続く"山岳映画"の流れの嚆矢にもなったとされる作品ですが(一応これ以前にも「



「八甲田山」●制作年:1977年●監督:森谷司郎●製作:
山谷初男/丹古母鬼馬二/菅井きん/加藤嘉/田崎潤/栗原小巻/金尾哲夫/玉川伊佐男/江角英明/樋浦勉/浜田晃/加藤健一/江幡連/高山浩平/安永憲司/佐久間宏則/大竹まこと/新克利/山西道宏/船橋三郎●公開:1977/06●配給:東宝(評価:★★★☆)



チェロ奏者の小林大悟(本木雅弘)は、所属していた楽団の突然の解散を機にチェロで食べていく道を諦め、妻・美香(広末涼子)を伴い、故郷の山形へ帰ることに。さっそく職探しを始めた大悟は、"旅のお手伝い"という求人広告を見て面接へと向かう。しかし旅行代理店だと思ったその会社の仕事は、"旅立ち"をお手伝いする"納棺師"というものだった。社長の佐々木生栄(山崎努)に半ば強引に採用されてしまった大悟。世間の目も気になり、妻にも言い出せないまま、納棺師の見習いとして働き始める大悟だったが―。
2008年公開の滝田洋二郎監督作で、脚本は映画脚本初挑戦だった放送作家の小山薫堂。第32回「日本アカデミー賞」の作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞(本木雅弘)・助演男優賞(山崎努)・助演女優賞(余貴美子)・撮影賞・照明賞・録音賞・編集賞の10部門をを独占するなど多くの賞を受賞しましたが(第63回「毎日映画コンクール 日本映画大賞」、第33回「報知映画賞 作品賞」、第21回「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」も受賞)、その前に第32回モントリオール国際映画祭でグランプリを受賞しており、更に日本アカデミー賞発表後に第81回米アカデミー賞外国語映画賞の受賞が決まり、ロードショーが一旦終わっていたのが再ロードにかかったのを観に行きました(2009年(2008年度)「芸術選奨」受賞作。脚本の小山薫堂は第60回(2008年)「読売文学賞」(戯曲・シナリオ賞)、本木雅弘と映画製作スタッフは第57回(2009年)「菊池寛賞」を受賞している)。
主演の本木雅弘のこの映画にかけた執念はよく知られていますが、"原作者"に直接掛け合ったものの、原作者から自分の宗教観が反映されていないとして「やるなら、全く別の作品としてやってほしい」と言われたようです。もともとは、本木雅弘が20歳代後半に藤原新也の『メメント・モリ―死を想え』('83年/情報センター出版局)を読み、インドを旅して、いつか死をテーマにしたいと考えていたとのことで、まさに「メメント・モリ」映画と言うか、いい作品に仕上がったように思います(結局、原作者も一定の評価をしているという)。
特に、前半部分で主人公が"納棺師"の仕事の求人広告を旅行代理店の求人と勘違いして面接に行くなどコメディタッチになっているのが、重いテーマでありながら却って良かったです(逆に後半はややベタか)。技術的な面や宗教性の部分で原作者に限らず他の同業者からも批判があったようですが、それら全部に応えていたら映画にならないのではないかと思います。こうした仕事に注目したことだけでも意義があるのではないかと思いますが(ジャンル的には"お仕事映画"とも言える)、米アカデミー賞の選考などでは、同時にそれが作品としてのニッチ効果にも繋がったのではないでしょうか(アカデミーの外国語映画賞が、前3年ほど政治的なテーマや背景の映画の受賞が続いていたことなどラッキーな要素もあったかも)。
Wikipediaに「地上波での初放送は2009年9月21日で21.7%の高視聴率を記録したが、2012年1月4日の2回目の放送は3.4%の低視聴率」とありましたが、2回目の放送は日時が良くなかったのかなあ。こうした映画って、ブームの時は皆こぞって観に行くけれど、時間が経つとあまり観られなくなるというか、《無意識的に忌避される》ことがあるような気がしなくもありません。そうした傾向に反発するわけではないですが、個人的には、最初観た時は星4つ評価(○評価)であったものを、最近観直して星4つ半評価(◎評価)に修正しました(ブームの最中には◎つけにくいというのが何となくある?)。「メメント・モリ」映画の"傑作"と言うか、むしろ"快作"と言った方が合っているかもしれません。
滝田洋二郎監督は元々は新東宝で成人映画を撮っていた監督で、初めて一般映画の監督を務めた「コミック雑誌なんかいらない!」('86年/ニュー・センチュリー・プロデューサーズ)でメジャーになった人です。個人的には、鹿賀丈史、桃井かおり主演の夫婦で金儲けに精を出す家族を描いた「木村家の人びと」('88年/ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画)を最初
に観て、部分部分は面白いものの、全体として何が言いたいのかよく分からなかったという感じでした(ぶっ飛び度で言えば、石井聰互監督の「
また、滝田洋二郎(1955年生まれ)監督は、'81(昭和56)年、「痴漢女教師」で監督デビュー後、'82(昭和57)年2本、'83(昭和58)年4本、'84(昭和59)年8本と倍のペースでメガホンを取り、"邦ピン・ニューエンタテイメントの旗手"などと称され(「ニューエンタテイメントの旗手としてピンクの枠を超える29歳」「シティロード」1985年4月号)、成人映画の監督として話題作を連発し耳目を集めましたが(森崎東監督はピンク映画の撮影現場を舞台にした「
寂れたポルノ映画館で自身が犯した強姦殺人事件の時効を待ちつつ映写技師として働く勝三(大杉漣)は、都会の人混みに紛れることで気付かれないようにしていた。ある日、上映中の映画「密写 連続暴姦」の中に、過去自分が起こした強姦殺人事件とそっくりな場面が写っていた。何故だ! 一方、自分が7歳の時に目の前で殺された姉(織本かおる)の復讐をするために犯人の男を必死に捜す妹・冬子(織本かおる、二役)。犯人の手掛かりは現場に落ちていた映画のフィルムを繋げる特殊なテープであり、きっと映画関係者に違いないと思い、シナリオを勉強して姉の殺害シーンを盛り込んだシナリオを書き、同僚の山崎千代子(竹村祐佳)の名で発表、それが映画化されたらきっと犯人の目に止まると考えていた。そして、その目論見は当たり―。
個人的には、自由が丘の「自由ヶ丘劇場」で観ましたが、仄聞していた通りピンク映画と言うよりサスペンス映画でした(勿論ピンク映画でもあるが)。凝った構成と人物描写、脚本に緻密に伏線を張り巡らせていて(ただし、張り巡らせている割には長さが60分しかないため説明不足の箇所があり、評価は△。今や"滝田洋二郎研究"ための作品か)、本作は第5回「ズームアップ映画祭」作品賞と監督賞、第5回「ピンクリボン賞主演」男優賞(大杉漣)を受賞しています(もちろん、当時は大杉漣(1951-2018/66歳没)はまだ一部の人しか知らない無名俳優)。滝田洋二郎監督に限らず、
「おくりびと」●制作年:2009年●監督:滝田洋二郎●製作:中沢敏明/渡井敏久●脚本:小山薫堂●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:130分●出演:本木雅弘/広末涼子/山崎努/杉本哲太/峰岸徹/余貴美子/吉行和子/笹野高史/山田辰夫/橘ユキコ/飯森範親/橘ゆかり/石田太郎/岸博之/大谷亮介/諏訪太郎/星野光代/小柳友貴美/飯塚百花/宮田早苗/白井小百合●公開:2008/09●配給:松竹●最初に観た場所:丸の内ピカデリー3(09-03-12)(評価:★★★★☆)




丸の内松竹(丸の内ピカデリー3) 1987年10月3日「有楽町マリオン」新館5階に「丸の内松竹」として、同館7階「
ン、1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」) (「丸の内ルーブル」は2014年8月3日閉館)
「木村家の人びと」●制作年:1988年●監督:滝田洋二郎●脚本:一色伸幸●撮影:志賀葉一●音楽:大野克夫●原作:
谷俊彦●時間:113分●出演:鹿賀丈史/桃井かおり/岩崎ひろみ/伊崎充則/柄本明/木内みどり/風見章子/小西博之/清水ミチコ/中野慎/加藤嘉/木田三千雄/奥村公延/多々良純/露
原千草/辻伊万里/今井和子/酒井敏也/鳥越マリ/池島ゆたか/上田耕一/江森陽弘/津村鷹志/竹中
直人/螢雪次朗/ルパン鈴木/山口晃史/三輝みきこ/小林憲二/野坂きいち/江崎和代/橘雪子/ベンガル●劇場公開:1988/05●配給:東宝 (評価★★★)
「秘密」●制作年:1999年●監督:滝田洋二郎●製作:児玉守弘/田上節郎/進藤淳一●脚本:斉藤ひろし●撮影:栢野直樹●音楽:宇崎竜童●原作:東野圭吾●時間:119分●出演:広末涼子/小林薫/岸本加世子/金子賢/石田ゆり子/伊藤英明/大杉漣/山谷初男/篠原ともえ/柴田理恵/斉藤暁/螢雪次朗/國村隼/徳井優/並樹史朗/浅見れいな/柴田秀一●劇場公開:1999/09●配給:東宝 (評価★★★☆).jpg)
「壬生義士伝」●制作年:2003年●監督:滝田洋二郎●製作:松竹/テレビ東京/テレビ大阪/電通/衛星劇場●脚本:中島丈博●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:137分●出演:中井貴一/佐藤浩市/夏川結衣/中谷美紀/山田辰夫/三宅裕司/塩見三省/野村祐人/堺雅人/斎藤歩/比留間由哲/神田山陽/堀部圭亮/津田寛治/加瀬亮/木下ほうか/村田雄浩/伊藤淳史/藤間宇宙/大平奈津美●公開:2003/01●配給:東宝 (評価:★★☆)
「連続暴姦」●制作年:1983年●監督:滝田洋二郎●脚本:高木功●撮影:佐々木原保志●時間:60分●出演:織本かおる/大杉漣/麻生うさぎ/螢雪次朗/佐々木裕美/伊藤正彦/末次真三郎/竹村祐佳/早川祥一●公開:1983/10●配給:新東宝●最初に観た場所:自由ヶ丘劇場(84-04-15)(評価:★★★)●併映:「神田川淫乱戦争」(黒沢清)/「女子大生・教師の目の前で」(水谷俊之)




榎津巌(緒形拳)は、専売公社の集金係2名(殿山泰司ほか)を殺害し、詐欺を繰り返しながら逃走を続ける。実家は病身の母・かよ(ミヤコ蝶々)と敬虔なクリスチャンの父・鎮雄(三國連太郎)が経営する旅館で、榎津の妻・加津子(倍賞美津子)や子も一緒に暮らしているが、榎津は妻・加津子と父・鎮雄の関係を疑っている。警察が榎津を全国指名手配にする中、榎津は裁判
所で被告人の母親(菅井きん)に近づき、弁護士を装って保釈金詐欺を働き、更に、仕事の依頼と称して老弁護士(加藤嘉)に近づいて殺害し、金品を奪って逃げ続ける。浜松の旅館「貸席あさの」に京都帝大教授を装っ
て投宿し、宿の女将ハル(小川真由美)と懇ろになる。ある日、ハルは映画館のニュースで榎津の正体を知るが、榎津を匿い続ける。しかし、榎津はハルとハルの母親・ひさ乃(清川虹子)を殺害し、質屋(河原崎長一郎)を旅館に呼んで2人の所持品を売り払う。榎津を以前客に取ったことのあるステッキガール(根岸とし江)が、榎津が指名手配の犯人であることに気づき、警察に通報する。榎津は逮捕され、死刑を宣告される。面会に来た父親の鎮雄は、榎津が教会から破門されたこと、自らも責任を取って脱会したことを伝える。処刑後、榎津の遺骨を抱いた妻の加津子と鎮雄は、山頂から空に向かって散骨する―。
昨年['15年]10月に78歳で亡くなった佐木隆三(1937-2015)の直木賞受賞作を今村昌平(1926-2006)監督が映画化した1979年公開作で、
その年のキネマ旬報ベスト・テン第1位作品。「第22回ブルーリボン賞」の作品賞、「第3回日本アカデミー賞」の最優秀作品賞も受賞し、演技面では、体当たり演技の小川真由美が日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を受賞。小川真由美は「第4回報知映画賞」やキネマ旬報の賞も受賞し、三國連太郎も報知映画賞や「第22回ブルーリボン賞」など3つの賞を受賞。同じく体当たり演技の倍賞美津子も
ブルーリボン賞を受賞しているのに、主役の緒形拳(1937-2008)が何も受賞していないというのがやや不思議な気がします。主人公の多面的なキャラクターを巧みに演じ分けていたのは流石だと思ったのですが、緒形拳は前年の「
画では、敬虔なクリスチャンで通っている父親との確執を、榎津との幼少期のエピソードなども交えながら描き、更には、榎津の妻・加津子と父・鎮雄の関係を前面に押し出すことで、犯行の背後に父親との関係に起因する何かを示唆しているように思われました。それは、終盤の榎津と父親との拘置所
での対面シーンにも表れており、ここでも両者は和解し切れず、結局、父親が息子と内面的に和解したのは、ラストの散骨のシーンであったように思います。榎津の父親への感情は、ファーザー・コンプレックスと言えなくもないですが、加津子の方がむしろ義父・鎮雄をファザコンに近い感情で崇めていて、一方の榎津の父親に対する反発は、父親のその偽善性に対するものではなかったかと思われます(幼児期のエピソードに父親に裏切られたと取れるものがある)。何れにせよ、父・鎮雄と妻・加津子の関係も含め、この辺りは全て"今村昌平オリジナル"です。
同じくこの作品で原作以上に大きなウェイトを占めるハルの家族の描き方も、ハルの情夫で旅館のオーナーでもある男(北村和夫)とのどろどろした関係が前面に出ていて、それを苦々しく思う母親と、そこに榎津も絡んできて、もうぐちゃぐちゃという感じ。この辺りも全て映画のオリジナルで、ハルの母親が殺人事件で15年服役し、出所してそう年月も経っておらず、今は競艇に明け暮れる日々を送っているという設定もオリジナルです。更に原作との大きな違いは、榎津とハル
が映画を観に映画館へ入ったところ(映画は「ヨーロッパの解放」第三部「大包囲撃滅作戦」('71年/松竹配給))、その前に映像ニュースで榎津の指名手配が流れてハルが榎津の正体を知ってしまうことで、榎津に惚れていたハルは榎津を匿い続けますが、原作では母娘は榎津の正体を知らないまま殺害されてしまい、従って、ハルの母親が榎津を競艇に誘って、当てた金を榎津に渡して自分たちの前から消えてくれるよう頼むといった場面も、榎津が人気の無い畦道かどこかを歩きながらハルの背後からマフラーで絞殺しようして彼女に気づかれ、いったんは諌められてしまうのも映画のオリジナルです。
原作者の佐木隆三が、ハルの宿でクレームをつけて帰ってしまう泊り客としてカメオ出演しています。佐木隆三はこの映画公開の前年['78年]、銀座の路上で交差点に赤信号停止しているタクシーに乗ろうとしたところ、タクシー乗り場から乗るように言われたことに逆上し、タクシーのボンネットに乗り上げて暴れてフロントガラスを破壊して警察に逮捕されていますが、クレーマーっぽい役柄はその事件の自虐パロディだったのかも。
「復讐するは我にあり」●制作年:1979年●監督:今村昌平●製作:井上和男●脚本:馬場当/池端俊策●撮影:姫田真佐久●音楽:池辺晋一郎●原作:佐木隆三●時間:140分●出演:緒形拳/三國連太郎/ミヤコ蝶々/倍賞美津子/小川真由美/
清川虹子/殿山泰司/垂水悟郎/絵沢萠子/白川和子/フランキー堺/北村和夫/火野正平/根岸とし江(根岸李江)/河原崎長一郎/菅井きん/石堂淑郎/加藤嘉/佐木隆三●公開:
1979/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-17)(評価:★★★★☆)





川越市で印刷屋を営む竹下宗吉(緒形拳)は、妻・お梅(岩下志麻)に隠れ、鳥料理屋の女中・菊代(小川真由美)を妾として囲い、7年間に3人の隠し子を作
った。やがて火事と大印刷店攻勢で宗吉の商売は凋落し、手当を貰えなくなった菊代が、利一(6歳)、良子(4歳)庄二(1歳半)を連れて宗吉の家に怒鳴り込む。菊代はお梅と口論した挙句、3人を宗吉に押しつけて蒸発し、お梅が子供達と宗吉に当り散らす
地獄の日々が始まる。末の庄二が栄養失調で衰弱し、医者に行ったある日、寝ている庄二の顔の上にシートが故意か偶然か被さって庄二は死ぬ。宗吉はお梅の仕業と思いながらも口に出せず、逆に、「あんたも一つ気が楽になったね」と言われる。その夜、夫婦は久しぶりに燃え、共通の罪悪感に昂ぶる。お梅
は残りの子供も〈処分〉することを宗吉に迫り、宗吉は良子を東京タワーに連れて行って置き去り
にし、一人エレベーターを降りる。更に長男・利一を毒殺しようとするものの果たせず、何日か後、新幹線こだま号に利一を乗せ、北陸海岸に連れて行く。能登半島に辿り着き、日本海を臨む岸壁で、宗吉は利一を海に落す。翌朝、沖の船が絶壁の途中に引掛っている利一を発見し、かすり傷程度で
助け出す。警察の調べに利一は父親と遊びに来て眠っているうちに落ちたと言い張り、名前、住所、親のことや身許の手掛かりになることは一切言わない。しかし警察は、事故ではなく利一は突き落とした誰かを庇っていると判断し、利一の持っていた石版印刷に使用する石材のかけら(利一はこれを石蹴り遊びに使っていた)から宗吉が殺人未遂容疑で警察に拘束される。そして、移送されてきた宗吉が警察で利一と対面する―。
まず、前半部分しか出てきませんが、小川真由美の3人の子供を連れての
押しかけぶりが良く、岩下志麻との競演は見所であり、更に中盤の見せ場は、岩下志麻演じるお梅の児童虐待ぶりの凄まじさでしょうか(子役たちは撮影の休憩時間中も岩下志麻に寄りつかなかったという)。
それらに比べると、2人の女の間でおろおろしている宗吉を演じた緒形拳はやや影が薄いようにも見えましたが、これはこれで、あまりやりすぎると喜
劇になってしまうし、あまり抑え過ぎると面白くないし、意外と加減の難しい役どころだったのではないでしょうか(緒形拳はこの演技で、「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞を"3冠"受賞した)。
その他にも、印刷所の工員(原作でもいることになっているが人物造型は描かれていない)を蟹江敬三(1944-2014)が好演していたし(お梅が赤ん坊の口に米を突っ込んで虐待するのを「よせよ」と遠巻きに言うだけで何もできない夫・宗吉に代わって毅然と赤ん坊を取り上げ、「しっかりしろよ!旦那の子だろ!」と言うという、いい人のキャラだった)、子役の演技も、賛否ありますが、個人的には悪くなかったと思います(子役の演技力というより監督の演出力の成果だろう)。
要する地方にあるS市という原作の設定から埼玉県の川越市に改変され、宗吉が菊代を囲った家は、原作ではS市から1時間ばかり汽車で行く町ということで、映画では同じ埼玉県の男衾(おぶすま)駅付近となっています。
宗吉が良子を置き去りにするのは原作では東京タワーではなく銀座のデパートの屋上のミニ動物園、利一を毒殺しようとして上野動物園で食
べさせるのはアンパンではなく最中(もなか)、利一を旅に連れて行ったのは北陸ではなく原作では西伊豆です。映画では西伊豆を北陸に変え(米原まで新幹線で行く)、能登金剛までやって来て、そこで利一を崖から放ってしまう―。能登金剛は「ゼロの焦点」('61年/松竹)のラストシーンの舞台でもあります(こちらは原作通り)。これら細かい改変点はありますが、概ね原作に忠実に作られているように思われ、こうした作り方は個人的には割合と好きな方です。
原作と一番異なる点はラストで、原作が、利一が頑なに黙秘を続けるも、持っていた石材で宗吉の犯行の足が付くことを示唆して終わるのに対し、映画では、宗吉が殺人未遂容疑で逮捕され、利一と面会を果たす場面が加えられていることです。そこでも利一は、「坊やのお父さんだね?」 との警官の問いに、「知らないおじさんだよ!」と否定し、宗吉はそんな利一にすがりつき、後悔と罪悪感で号泣する―。利一は何故黙秘を続けたのかという疑問を更に発展させて、利一は宗吉を庇ったのか見捨てたのかという究極の問いを観る者に投げかけている訳で、この持って行き方は悪くないように思いました。答えはそう難しくないと思いますが(脚本の井手雅人は「父親を拒否した」を意図したが、野村芳太郎監督が「父親を庇った」ととれる演出に変えたと言われている)、観る者にちょっとだけ考えさせるこの終わり方が余韻となっており、「砂の器」の加藤剛が延々とピアノ曲「宿命」を奏でる(やや大仰な)エンディングより上だったかもしれません。一面において原作を超えていると思うのも、この分かりやすい問題提起とでも言うか、まさにこの点にあります(因みに、原作にはモデルとなった実際の事件があって、犯人の男は在獄中に発狂死したという凄まじいエピソードがある)。
(●2025年に池袋・新文芸坐で15年ぶりに再見(映画館で観るのは4回目)。父・宗吉は息子・利一を連れて東尋坊に行き、ただしそこでは決心がつかず、能登半島まで行って「福浦」の旅館に泊まり、今度はバスでその先の「関野鼻」のバス停で降り、ヤセの断崖に辿り着いたのだったことを思い出した。ラストで利一少年は父親を「拒否した」のか、或いは「庇った」のかという議論が、映画を何度か観直した人の間でもあるようだが、やはり「庇った」説をとりたい。
因みに、竹中宗吉が3人の子供と訪れる「川越ピープルランド」という遊園地は、川越の蓮馨寺境内にあった遊園地であることを、'25年3月刊の『砂の器 映画の魔性―監督野村芳太郎と松本清張映
画』刊行記念トークショーで登壇した著者の映画評論家の樋口尚文氏が、現地を取材し自ら撮った写真で説明してくれた。ただし、今は、更地になっていて、その痕跡も無い。また、冒頭シーンで小川真由美が子ども3人らと入ったラーメンを食べるシーンは、川越のラーメン屋「勝山」がロケ地だが、こちらは「
過去に1度だけテレビドラマ化されていて、'02年10月15日に日本テレビ系列で「火曜サスペンス劇場('81年~'95年)1000回突破記念作品」として「松本清張スペシャル・鬼畜」のタイトルで放送されています(監督は「
ぎて、映画の岩下志麻ほどの凄味もやつれ感も無かったように思います。映画では岩下志麻演じるお梅が赤ん坊の口に米を突っ込んで虐待するところが、ドラマでは食事が美味しくないと言う子どもに腹を立てた黒木瞳演じる春江が玉子焼きを取り上げて捨てるぐらいで(テレビコードのせいもあるか)、後の方で保夫が長男を連れて行った上野動物園そばの不忍池で、長男に妻が毒を入れたおにぎりを無理やり食べさせようとするシーンなどがあり(前述の通り原作は最中(もなか)、映画はアンパン)、黒木瞳がやるはずの汚れ役の一部をビートたけしが肩代わりしている印象もありました。全体として、夫婦を突き放すのではなく、寄り添うような感じだったでしょうか。

「鬼畜」●制作年:1978年●監督:野村芳太郎●製作:野村芳太郎/野村芳樹●脚本:井手雅人●撮影:川又昂●音楽:




「松本清張スペシャル・鬼畜」●監督:田中登●企画:酒井浩至●脚本:佐伯俊道●音楽:大谷和夫(エンディング:安全地帯「出逢い」)●原作:松本清張●時間:141分(放送分)●出演:ビートたけし/黒木瞳/室井滋/片岡涼/佐藤愛美/諸岡真尋/小野武彦/奥村公延/石倉三郎/日野陽仁/渡辺哲/波乃久里子/斉藤暁/大林丈史/津田三七子/井田國彦/斎藤歩/酒井敏也/水田啓太郎/斉藤実紀●放映:2002/10/15(全1回)●放送局:日本テレビ

【感想】脚本・竹山洋(「
を超えるのは難しいと思って観ているが、演出はまずまず手堅かったように思う。映画では、終盤で子どもが父親を庇ったのか拒絶したのか解釈が分かれるような作りだが、このドラマでは婦警が「この子は親を庇っている」と言ってしまっている。ラストは原作と異なり、妻に贖罪させたような感じで、男の方は刑務所に入り、刑期を終えて出てきて墓参り。モデルとなった人物は獄中で狂死したことを思うと、やや甘い。妻に贖罪させたことも含め、テレビ的な改変であったように思う。しかし、ネットでいちばん話題になっていたのは、なぜこれをクリスマスイブに放映するのか謎であるということだった(笑)。
「ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」●監督:和泉聖治●プロデューサー:五十嵐文郎●脚本:竹山洋●音楽:吉川清之●原作:松本清張●時間:138分(放送分)●出演:玉木宏/常盤貴子/木村多江/余貴美子/南岐佐(菊代の長男で7歳)/稲谷実恩(菊代の長女で4歳)/今中陸人(菊代の次男で2歳)/前田亜季/近藤芳正/羽場裕一/片桐竜次/河西健司/萩原悠/嘉門洋子/平泉成/柳葉敏郎/橋爪功●放映:2017/12/24(全1回)●放送局:テレビ朝日


『

が仕事で北海道の小樽に行き、そこで取引先の業者と会っていた。東京から青森へ向かう特急列車や、北海道へ渡る青函連絡船でも、安田がいたことの証言や、乗車記録が残っている。2人が青酸カリを飲んだ夜に安田が九州にいることは物理的に不可能に思えたが、航空機を利用すれば、安田が業者に会う前に九州から北海道に着くことが可能なことに三原は気付く。しかし、安田は該当する便に乗っておらず、乗客全員を当たって偽名などがないか裏付けを取るが、全員がその便に乗っていたことが判明し、捜査は難航する―。
松本清張(1909‐1992)のあまりに有名な長編推理小説で、雑誌「旅」の1957(昭和32)年2月号から1958(昭和33)年1月号に連載され(挿絵は佐藤泰治)、加筆訂正の上、1958年2月に光文社から単行本刊行されていますが、連載当時は、同時期に「週刊読売」に連載されていた『眼の壁』に比べて反響は少なく、作者自身から「病気のため休載にしてほしい」との申し出が「旅」の編集者にあったのを、編集者が「休載するなら『眼の壁』など、他の全ての連載を休載にしてもらう」と迫ったため、結局休載することなく連載が続けられたとのことです。
東京から博多まで夜行列車で20時間ほどかかった時代の話であることを念頭に読む必要はありますが、安田が、自分が東京駅の13番線プラットフォームで料亭「小雪」の女中2人に見送られる際に、向かいの15番線プラットフォームにお時が男性と夜行特急列車
また、巻末には、昭和44年に行われた、この作品を巡る荒正人・尾崎秀樹の2人の対談があり、その中で、作家の五木寛之氏が、「松本清張氏はプロレタリアート・インテリゲンチャとして成熟した稀有な例」だとし、「その文学はプロレタリアートの怨念とインテレクチュアルな好奇心をバネとしている」と言っていることを取り上げています(五木寛之氏の"プロレタリアート・インテリゲンチャ"という表現に対して荒正人・尾崎秀樹両氏の間で距離感の違いはあるようだが)。それにしても、当時発行部数7000万部だったカッパ・ノベルズの内1000万部が松本清張作品だったというのはスゴイことだと思いました(荒正人は、夏目漱石の本が明治・大正・昭和の時代をかけて1000万部読まれてきたのに対し、松本清張はこの数字に僅か10年で到達してしまったことを取り上げ、大衆社会の中で"米の飯"のような必需品のような読まれ方をしてきたと指摘している)。
この作品は、『ゼロの焦点』や『砂の器』などの作者の他の代表作に比べると、「インテレクチュアルな好奇心」を満たすウェイトの方が高いように思われ、その点では無駄が少なく、一方、作者が昭和30年代に初めて「社会派推理というジャンルを築いた」という説明の流れの中で紹介される作品としては、"社会派"の部分はやや希薄な印象も受けます。但し、作中で殆ど姿を見せない安田の妻・亮子(最終的には自らの死も心中に見せかけたと推察され、自らも含む2度の"心中偽装"を行ったことになる)の人物造型は、抑圧された女性の怨念を描いて巧みな後の清張作品の、ある種「原点」的な位置づけにあると言えるかもしれません。
この作品は、「テレビ朝日」開局50周年記念ドラマスペシャルとして2007年11月24日と25日2夜連続で放送されていますが(2009年には「点と線~松本清張生誕100年記念特別バージョン」として再放映された)、ビートたけしが鳥飼重太郎を演じることで、高橋克典が演じる三原より鳥飼の方が事件解明の中心になっていて、原作では三原は鳥飼から幾つかの示唆を得ながらも自分で事件を解明するのに対し、ドラマでは鳥飼が独断で東京に行き三原と共に、あるいは単独で捜査するよう改変されており、かな
り原作とは異なった印象を受けました。これまで何度も映像化されているのであればこうした改変もあっていいのかもしれませんが、テレビドラマとしては初の映像化だったので、ストレートに原作をなぞって欲しかった気もします。上司からの捜査中止命令にその場では抵抗しない三原(高橋克典)に対して鳥飼(ビートたけし)が怒りをぶちまけ、両者が殴り合いになるのはやりすぎで(あまりに"ビートたけし"風)、終盤の鳥飼と安田の妻・亮子(夏川結衣)の"直接対決"もドラマのオリジナル。原作を読んでいない人は松本清張がそんな話を書いたのかと思ってしまうのではないかなあ(原作では、鳥飼が三原に捜査を諦めないよう手紙で激励するとともに捜査のヒントを与えるにとどまっているし、安田宅に出向いて安田の妻と直競対峙するといったこともない。完全に、ビートたけしを主役にするための改変である)。
小林恒夫監督による映画化作品('58年/東映)は、高峰三枝子、山形勲、志村喬といったベテランはともかく、三原刑事役の南廣が映画初出演ということもあり(元々はジャズドラマーだった)、演技がややパターン化したものであったのが、最初に観たときにイマイチだった印象に繋がっています(当
時40歳の高峰三枝子に28歳の役をやらせたのもきつかったか)。また、映像でトリックを解明するとやや複雑に感じられてしまい、原作が『ゼロの焦点』以上にトリックの占めるウェイトが高いものであったことを改めて認識させられるものでした。




2025年5月27日 神保町シアター
「点と線」●制作年:1958年●監督:小林恒夫●企画:根津昇 ●脚本:井手雅人●撮影:藤井静●音楽:木下忠司●原作:松本清張「点と線」●時間:85分●出演:南廣/高峰三枝子/山形勲/加藤嘉/志村喬/



/小宮光江/月丘千秋/光岡早苗/楠トシエ/風見章子/織田政雄/曽根秀介/永田靖/成瀬昌彦/神田隆/小宮光江/増田順二/奈良あけみ/花沢徳衛●劇場公開:1958/11●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸地下(88-01-23) (評価★★★☆)●併映:「黄色い風土」(石井輝男)/「










広能昌三(菅原文太)は復員後、遊び人の群れに身を投じていたが、山守組々長・山守義雄(金子信雄)はその度胸と気風の良さに感心し、広能を身内にする。まだ小勢力だった山守組は、土居組との抗争に全力を注ぐ。その土居組を破門された若頭・若杉(梅宮辰夫)が山守組に加入し、若杉による土居(名和宏)殺害計画が進む―。 

「仁義なき戦い 広島死闘篇「('73年)、「仁義なき戦い 代理戦争」('73年) 、「仁義なき戦い 頂上作戦('74年)、「仁義なき戦い 完結篇」('74年)も続けて観ましたが、広能の他にも、松方弘樹演じる板井や梅宮辰夫演じる若杉などサブヒーロー的な登場人物がいることはいますが、彼らは皆、この第1作の中で死んでしまいます。
シリーズの後の方になると、死んだ人物の役を演じた俳優がまた別の役で出てくるので、観ていて妙な感じがします。第1作における梅宮辰夫の「若杉」などは結構キーパーソンだったのですが、第3作「仁義なき戦い 代理戦争」と第4作と「仁義なき戦い 頂上
作戦」には「明石組幹部 岩井信一」の役で出演しています。この役を演じるのに際して眉毛を剃り落としましたが、これは、岩井のモデルで
ある三代目山口組若頭の山本健一に眉毛がなかったためで、眉のない父の顔を見た娘の梅宮アンナ(1972年生まれ)は、怖くて泣いたそうです。でも、このシリーズの演技で最も飛躍した俳優の一人が彼、梅宮辰夫であり、異なった役を演じ切ったこともその要因としてあったのでは。違った役と言えば、第3作に第1作と別の役で出てくるのは渡瀬恒彦も然り。しかも、ストーリー的には、この第3作が第1作の続編となっているのでややこしいです。松方弘樹は第4作「頂上作作戦」で別の役で登場、第5作「完結篇」でさらに別の役で出てきます。
松方弘樹 in「仁義なき戦い」(坂井鉄也・射殺される)/「仁義なき戦い頂上作戦」(藤田正一(射殺される)/「仁義なき戦い完結編」(市岡輝吉・射殺される)
準主役級でさえそうですから、主に殺され役である川谷拓三などは第1作から第5作まで全部異なる役で登場しており、一方で、小林旭は第3作から第5作まで、山城新伍は第2作から第5作まで同じ役で出ていたりもします。流れとしては、誰か特定の個人の生き様を追うというよりは、次第に"群像活劇"の色合いを濃くしていくという感じでしょうか(広能が結構長く刑務所に入っている期間があって、必ずしも毎回は表舞台に出てはこないということもある)。

菅原文太は、'60(昭和35)年の正月映画「女奴隷船」(新東宝)に26歳で主演しています。この作品は舟崎淳の「お唐さん」を基にした和風海洋アドベンチャー(?)で、これ、昭和20年初頭の時代設定なのですが(「仁義なき戦い」と大差ない)、日本女性を上海まで運んでセリにかけて売り飛ばす「お唐さん船」というものがストーリー背景となっています。
善玉主人公が菅原文太で(この頃は何となく的場浩司と似ている)、悪役は丹波哲郎(この人は昔からこんな感じだったんだなあと)、女優陣は新東宝のセクシー看板女優・三原葉子に、この映画を撮った小野田嘉幹監督と結婚することになる三ツ矢歌子など。
菅原文太は丹波哲郎とのアクション対決を演じたりしましたが、う~ん、スゴイ「B級」の冒険アクション&お色気映画。ダサいセットが微笑ましく、但し、東映風のミニチュア特撮を駆使したりしている努力は買えます。音楽は、東大文学部卒心理学科卒で作曲家になった渡辺宙明(1925-font color=red>2022/96歳没)です。
丹波哲郎の海賊の統領役はあまりに漫画チックで笑
えますが(洋画の影響?)、これでも作品全体としては新東宝作品群の中では相対的にみてゴージャスな方
と言ってよく(この作品は'60年の新東宝のお正月映画であり、新東宝は翌'61年に倒産する)、三原葉子の
ベリーダンスもどきの踊り(これも洋画の影響?)が見ることができるなど、「珍品」的意味合いで星1個オマケという感じ

(●映画評論家の春日太一氏が「週刊文春」2023年6月22日号「春日太一の木曜邦画劇場」で「女奴隷船」を取り上げ、「まるで漫画『ワンピース』からそのまま飛び出してきたような個性的
なキャラクターたちが、所狭しと暴れまくる。」と評していた。そう言えば、その「ONE PIECE」の劇場版の「FILMシリーズ」の第4作「ONE PIECE FILM RED(フィルム・レッド)」('22年/東映)を昨年['22年]観たが、メインヒロインは"世界の歌姫"ウタで、歌唱部分はAdoが担当。歌唱力はあると思ったが、ウタのキャラクターが「世界中の苦しんでいる人々を自分の歌で幸せにしよう」と考えるのは結構だけど、"独善"が目立つように思え、子どもと観に行ったということもあり、少し気になった。東映が配給した映画で初の興収200億円突破の映画となったそうで、興行的には成功を収めたが、個人的には△評価。)

「仁義なき戦い 〈シリーズ第1作〉」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干
晃一●時間:99分●出演:菅原文太/松方弘樹/田中邦衛/金子信雄/梅宮辰夫/成田三樹夫/渡瀬恒彦/曽根晴美/川地民夫/田中邦衛/名和宏/内田朝雄/伊吹吾郎/川谷拓三/中村英子/木村俊恵/渚まゆみ/内田朝雄/三上真一郎/高野真二/高宮敬二/林彰太郎/中村錦司/野口貴史/大前均/志賀勝/岩尾正隆●公開:1973/01●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)●併映:「仁義なき戦い 広島死闘篇」/「仁義なき戦い 代理戦争」/「仁義なき戦い 頂上作戦」/「仁義なき戦い 完結篇」(何れも深作欣二) 


「仁義なき戦い 広島死闘篇」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:100分●出演:菅原文太/前田吟/松本泰郎/司裕介/金子信雄/木村俊恵/名和宏/成田三樹夫/北大路欣也/山城新伍/宇崎尚韶/笹木俊志/木谷

邦臣/小池朝雄/堀正夫/遠藤辰雄/国一太郎/川谷拓三/藤沢徹夫/白川浩二郎/千葉真一/大木晤郎/室田日出男/八名信夫/志賀勝/広瀬義宣/北川俊夫/加藤嘉/中村錦司/梶芽衣子●公開:1973/04●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)
前田吟(広能組若衆・島田幸一)/千葉真一(大友組組長・大友勝利)/加藤嘉(大友連合会々長・大友長次)


戦争」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:102分●出演:菅原文太
/小林旭/渡瀬恒彦/山城新伍/池玲子/金子信雄/木村俊恵/成田三樹夫/加藤武/山本麟一/川谷拓三/北村英三/汐路章/内田朝雄/遠藤辰雄/室田
日出男/大前均/野口貴史/曽根晴美
/名和宏/丹波哲郎/梅
宮辰夫/田中邦衛●公開:1973/09●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)

「仁義なき戦い 頂上作戦」●制作年:1974年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:101分●出演:菅原文太/梅宮辰夫/黒沢年男/田中邦
衛/小林旭/松方弘樹/堀越光恵/木村俊恵/中原早苗/渚まゆみ
/金子信雄/小池朝雄/山城新伍/加藤武/夏八
木勲/遠藤太津朗/内田朝雄/長谷川明男/小倉一郎/葵三津子/城恵美/八名信夫/汐路章/室田日出男/鈴木瑞穂/野口貴史/小林稔侍/岡部正純/高月忠/白川浩二郎/有川正治●公開:1974/01●配給:東映
●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★
★☆)

「仁義なき戦い 完結篇」●制作年:1974年●監督:深作欣二●脚本:高田宏治●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:98分●出演:菅原文太/伊吹吾郎/野口貴史/寺田誠/桜木健一/松方弘樹/唐沢民賢/白川浩三郎/小林旭/北大路欣也/西田良/曽根晴美/成瀬正孝/宍戸錠/山田吾一/誠直也/織本順吉/高並功/八名信夫/山城新伍/木谷邦臣/田中邦衛/国一太郎/川谷拓三/金子
信雄/岩尾正隆/鈴木康弘/天津敏/内田朝雄/野川由美子/藤浩子/中原早苗/橘麻紀/賀川雪絵●公開:1974/06●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)

「女奴隷船」●制作年:1960年●監督:小野田嘉幹●製作:大蔵貢●脚本:田辺虎男●撮影:山中晋●音楽:渡辺宙明●原作:舟崎淳「お唐さん」●時間:83分●出演:菅原文太/三原葉子/三ツ矢歌子/丹波


「ONE PIECE FILM RED」●制作年:2022年●監督:谷口悟朗●脚本:黒岩勉●音楽:中田ヤスタカ(主題歌:Ado「新時代」(オープニングテーマ・劇中歌)/Ado「風のゆくえ」(エンディングテーマ・劇中歌)●原作:尾田栄一郎●時間:115分●出演(声):田中真弓/中井和哉/岡村明美/山口勝平/平田広明/大谷育江/山口由里子/矢尾一樹/チョー/宝亀克寿/名塚佳織/Ado/津田健次郎/池田秀一●公開:2022/08●配給:東映●最初に観た場所:OSシネマズ ミント神戸(22-08-15)(評価:★★☆)


![犬神家の一族 角川映画 THE BEST [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E7%8A%AC%E7%A5%9E%E5%AE%B6%E3%81%AE%E4%B8%80%E6%97%8F%20%E8%A7%92%E5%B7%9D%E6%98%A0%E7%94%BB%20THE%20BEST%20%5BDVD%5D.jpg)

'59(昭和34)年に雑誌「文藝春秋」に発表された松本清張の「昭和史発掘シリーズ」に先立つ昭和の事件モノで、「昭和史発掘シリーズ」の中でも'48(昭和23)年という占領時代に起きたこの「帝銀事件」は取り上げられていますが、「小説」と頭に付くのは、捜査に疑念を抱いた新聞社の論説委員の視点からこれを描いているのと、事件の部分がセミドキュメンタリータッチで再現されているためでしょうか。
平沢が疑われることになった原因の1つに、所持金の出処の曖昧さの問題がありましたが、「春画を描いたと自分の口から白状すれば、彼の画家的な生命は消滅するのである」とし、「肉体的な死刑よりも、芸術的生命の処刑を重しとした」と、その精神的内面まで踏み込んで"推理"している点も作家らしく、またこれも、タイトルに「小説」と付くことの所以の1つであると思います。 

松本清張のこの作品は1980(昭和55)年に1度だけドラマ化されていて、ドラママタイトルは「帝銀事件 大量殺人 獄中三十二年の死刑囚」、監督は森崎東、脚本は新藤兼人、主演は仲谷昇、共演は田中邦衛・橋本功などです。テレビ朝日の「土曜ワイド劇場」枠で放映されました。平沢(仲谷昇)を犯人と決めつけてしまった古志田警部補(田中邦衛)に焦点を当て、平沢に対する拷問に近い取り調べなどが描かれており、第17回ギャラクシー賞(月間賞)を受賞するなどしています。結局、「GHQのことなど何も知らなかっ
た」と後に嘯く警部補も、利用された人間だったということでしょう。誰による犯行かについては、冒頭に犯人が犯行に及ぶ場面がかなりの間尺であり、その間常に犯人の背中や手元・足元だけを映し顔を殆ど映していませんが、犯人が犯行後に現場付近で待機していたと思われる軍用ジープで現場を立ち去る場面などがあ
り、最初からGHQ関係者の犯行であることを強く匂わせる作りとなっています。
原作は読んでいませんが、西田敏行が金田一耕助を演じた映画「悪魔が来りて笛を吹く」('79年/東映)を観ました(角川春樹製作、監督は「太陽にほえろ」「俺たちの旅」などのTVシリーズを手掛けた斎藤光正)。青酸カリも事件に絡んで出てきますが、メインのモチーフは近親相姦と言えるでしょうか。謎解きの部分で複雑な家系図が出てきますが、映画ではそれが分かりにくいのが難でした(「読んでから観る」タイプの映画だったかも)。歴
代の横溝正史原作の映画化作品の中ではまあまあの評価のようですが、そのわりには西田敏行が金田一耕助を演じたのはこの1回きりでした。まあ、映画で金田一耕助を1度演じただけという俳優は、西田敏行以前には池部良、高倉健、中尾彬、渥美清などがいて、西田敏行以降も古谷一行、鹿賀丈史、豊川悦司などがいるわけですが...(石坂浩二と並んで金田一耕助役のイメージが強い古谷一行は映画では1度きりだが、MBSテレビの「横溝正史シリーズ」('77-'78年)、TBSの「名探偵・金田一耕助シリーズ」('83-'05年)でそれぞれ金田一耕助役を演じている)。
金田一耕助ものの映画化作品でやはりまず最初に思い浮かぶのは、東宝の市川崑監督・石坂浩二主演の金田一耕助シリーズ(「犬神家の一族」('76年)、「悪魔の手毬唄」('77年)、「獄門島」('77年)、「女王蜂」('78年)、「病院坂の首縊りの家」('79年))ではないでしょうか。特に、角川映画第1作として作られた「犬神家の一族」('76年)(配給会社は東宝、共演は島田陽子、坂口良子など)は、かつて片岡千恵蔵の金田一耕助シリーズ(「獄門島」('49年)など)で千恵蔵がスーツ姿だったりしたのが、金田一耕助を初めて原作通りの着物姿で登場させた映画であり(結局、西田敏行版「悪魔が来りて笛を吹く」などもその路線をなぞっていることになる)、原作の複雑な人物関係も分かりやすく表されていて、細部では原作と改変されている部分も少なからずあるものの、エンタテインメントとしてよく出来ていたように思います。30年後の2006年に同じ監督・主演コンビでリメイクされ(原作からの改変部分まで旧作を踏襲している)、石坂浩二(金田一)のほかに、大滝秀治(神官)、加藤武(署長)が旧作と同じ役で出演していますが、00年代としては

豪華キャストであるものの、それでも旧作と比べると役者の豪華さ・熟達度で及ばないように思いました。犬神家の三姉妹は旧作の高峰三枝子、三條美紀、草笛光子に対して、新作が富司純子、松坂慶子、 萬田久子でそれなりに錚々たるものでしたが、何となく違うなあと思いました。富司純子も大女優ですが、高峰三枝子が長年役柄を通して培ってきた"毒気"のようなものが無いように思われました。ヒロイン役の島田陽子と松嶋菜々子を比べても、松嶋菜々子って何か運命的なものを負っている
という印象が島田陽子に比べ弱いなあと(ただ、島田陽子も米テレビドラマ「将軍 SHŌGUN」('80年)に出てダメになった。ジェームズ・クラベルのベストセラー小説を原作に、アメリカで12時間ドラマとしてTV放映したものを劇場用にまとめたものを観たが、日本人の描き方がかなりヘンだ。どうしてこんな作品に三船敏郎はじめ日本の俳優は臆面もなく出るのか。ただし、島田陽子はこの作品で日本人女性初のゴールデングローブ賞を受賞している)。



「悪魔が来りて笛を吹く」●制作年:1979年●監督:斎藤光正●製作:角川春樹●脚本:野上龍雄 ●撮影:伊佐山巌●音楽:山本邦山/今井裕●原作:横溝正史●時間:136分●出演:西田敏行/夏木勲(夏八木勲)/仲谷昇/鰐淵晴子/斎藤とも子/村松英子/石浜朗/小沢栄太郎/池波志乃/原知佐子/山本麟一/宮内淳/二木てるみ
/梅宮辰夫/浜木綿子/北林早苗/中村玉緒/加藤嘉/京
唄子/村田知栄子/藤巻潤/三谷昇/熱田一久/住吉道博/村田知栄子/藤巻潤/三谷昇/金子信雄/中村雅俊/秋野太作/横溝正史(特別出演)/角川春樹(特別出演)●公開:1979/01●配給:東映(評価:★★☆)

夏木勲(夏八木勲)(39歳)等々力警部


1982年8月 舛田利雄監督・丹波哲郎主演「大日本帝国」公開時
「犬神家の一族」●制作年:1976年●監督:市川崑●製作:市川
坂浩
喜一●脚本:市川崑/日高真也/長田紀生●撮影:長谷川清●音楽:大野雄二●原作:横溝正史●時間:146分●出演:石坂浩二/島田陽子/あおい輝彦/川口恒/川口晶/坂口良子/地井武男/三条美紀/原泉/草笛光
子/大滝秀治/岸田今日子/加藤武/小林昭二/三谷昇/三木のり平/高峰三枝子/小沢栄太郎/三國連太郎/横溝正史(特別出演)●公開:1976/11●配給:東宝(評価:★★★☆)
「犬神家の一族」●制作年:2006年●監督:市川崑●製作:市川喜一●脚本:市川崑/日高真也/長田紀生●撮影:五十畑幸勇●音楽:谷川賢作/大野雄二(テーマ曲)●原作:横溝正史●時間:134分●出演:石坂浩二/松嶋菜々子/尾上菊之助/富司純子/松坂慶子/萬田久子/池内万作/奥菜恵/岸部一徳/深田恭子/三條美紀/草笛光子/大滝秀治/加藤武/中村敦夫/仲代達矢●公開:200

6/12●配給:東宝(評価:★★★)

「将軍 SHŌGUN」●原題:SHŌGUN●制作年:1980年●制作国:アメリカ●監督:ジェリー・ロンドン●製作プロデューサーベル/ケリー・フェルザーン●脚本:エリック・バーコビッチ●撮影:アンドリュー・ラズロ●音楽:モーリス・ジャール●原作:ジェームズ・クラベル●時間:125分(映画版)(TV版全5話・547分)●出演:リチャード・チェンバレ
/ベン・チャップマン/ジェームズ・クラ
ン/三船敏郎/島田陽子/フランキー堺/目黒祐樹/金子信雄/ダミアン・トーマス/ジョン・リス=デイビス/安部徹/高松英郎/宮口精二/夏木陽介/岡田真澄/宅麻伸/山本麟一/(ナレーション)オーソン・ウェルズ●日本公開:1980/11●配給:東宝●最初に観た場所:飯田橋・佳作座 (81-01-24)(評価:★☆)●併映:「二百三高地」(舛田利雄)
1.『三つ首塔』 昭和31年 白黒 監督:小林恒夫、小沢茂弘 出演:片岡千恵蔵、高千穂ひづる、三条雅也、中原ひとみ、南原伸二




昭和22年秋、台風のため青函連絡船・層雲丸の転覆事故が起き、必死の救助活動が行われる中、3人の復員服姿の男が台風で不通になった列車から飛び降り、転覆事故の混乱に紛れ、本土へ向けて夜の海峡を船を漕いでいた。台風が去った後、転覆した層雲丸の乗客の遺体が次々と収容されるが、引取り人のいない遺体があり、収容遺体は実際の乗客数より2体多かった。一方、同じ台風の中、函館市内て質屋が全焼する火事があり、焼け跡から質屋一家の他殺体が発見され、質屋一家強盗殺人事件と、転覆事故の乗船者数より多い2体の遺体が結びついた―。
[映画]函館署のベテラン刑事の弓坂(伴淳三郎)は、亡くなった男2人と行動を共にしていた犬飼太吉なる大男の行方を粘りつよく捜索を続け、その男・犬飼太吉(三國連太郎)と思われる男と一夜を共にした女郎・杉戸八重(左幸子)の存在を突き止める―。

主人公・犬飼役の三國連太郎の生涯最高の演技に加えて、刑事役の高倉健の演技もいいですが、高倉健と共に捜査にあたる元
刑事役の伴淳三郎と、堅気になろうとしてなれない薄幸の女性・八重(ひたすら犬飼を思いながら生き続ける哀しさ)を演じた左幸子の演技が、この二人もまた生涯最高の演技と言っていいくらいに、とてもいいです。
とりわけ伴淳三郎については、内田吐夢監督がロケで、大勢の見物人の前で彼を罵倒して何十回もNGを出し、喜劇王伴淳のプライドをズタズタに傷つけ、すっかり意気消沈させたとのことで、実はそれこそが内田吐夢の狙いであり、伴淳がいつもの喜劇と場が違って巨匠の撮る大作にシリアスな大役ということで、いいところを見せようと肩に力が入り過ぎるのを、監督が伴淳を怒鳴りつける事で意図的に元気をなくさせ、それが作品が求めるところの人生に疲弊している老刑事像に繋がったというから、恐ろしいまでの演出です。



「飢餓海峡」●制作年:1965年●制作:東映●監督:内田吐夢●脚本:鈴木尚之●撮影:仲沢半次郎●音楽:冨田勲●時間:183分●出演:三國連太郎(樽見京一郎/犬飼多吉)、左幸子(杉戸八重/千鶴)/伴淳三郎(弓坂吉太郎刑事、函館)/高倉健(味
村時雄刑事、東舞鶴)/加藤嘉(杉戸長左衛門、八重の父)/三井弘次(本島進市、亀戸の女郎屋「梨花」の主人)/沢村貞子(本島妙子)/藤田進(東舞鶴警察署長、味村の上司)/風見章子(樽見敏子、樽見の妻)/山本麟一(和尚、弓坂
の読経を褒める)/最上逸馬(沼田八郎、岩内の強盗犯)/安藤三男(木島忠吉、岩内の強盗犯)/沢彰謙(来間末吉)/関山耕司(堀口刑事、東舞鶴)/亀石征一郎(小川、チンピラ)/八名信夫(町田、チンピラ)/菅沼正(佐藤刑事、函館)/曽根秀介(八重が大湊で働いていた娼館、"花や"の主人)/牧野内とみ子(朝日館女中)/志摩栄(岩内署長)/岡野耕作(戸波刑事、函館)/鈴木昭生(唐木刑事、東舞鶴)/八木貞男(岩田刑事、東舞鶴)/外山高士(田島清之助、岩内署巡査部長)/安城百合子(葛城時子、八重が東京で訪ねる)/河村久子(煙草屋のおかみ)/高須準之助(竹中誠一、樽見家の書生)/河合絃司(巣本虎次郎、網走刑務所所長)/加藤忠(刈田>治助)/須賀良(鉄、チンピラ)/大久保正信(漁師の辰次)/西村淳二(下北の巡査)/田村錦人(大湊の




表題作である「岬」のほか、「黄金比の朝」「浄徳寺ツアー」など3篇を収めていますが、作者の小説は郷里の紀州を舞台にしたものが多い中、表題作はまさに出身都市である新宮市を舞台に、家族と共に土方仕事をしながら、逃れられない血のしがらみに喘ぐ青年を描いたものです。作者は本作により、戦後生まれとしては初めての芥川賞作家となりましたが、近年の芥川賞作品に比べると、ずっと「骨太」感があると思いました。






しき大地」('82年/群狼プロ)
愛しき大地」にも出演している。そして、「さらば愛しき大地」でもいい演技をしている)が扮していて、この蟹江
敬三と、自殺未遂で片脚が不自由になった娼婦を演じた沖山秀子(1945-2011)(ジャズ・ヴォーカリストでもあり、中上健次は彼女の大ファンだった)の濡れ場シーンの何と暗いこと! とにかく暗い暗い作品でしたが、その暗さを通して、青年の意志のようなものがじわーっと伝わってくる(ある意味「前向き」な)不思議な仕上がりになっていました。

)を島の区長(加藤嘉)が引き取って愛人にし、区長が亡くなった後、兄は妹を取り戻して逃避行を図るものの、息子(河原崎長一郎)を含む村人達に殴殺されてしまうというストーリーにみられるように、また、語り部によって語られる説話的な構成という点から
も、個と家族、共同体の関係性に重きを置いた作品という印象を受けました。沖山秀子の演じたのは、息子の妹で、開発業者の社員(北村和夫)に政略的に与えられる白痴の娘の役でした。
彼女が北村和夫演じる開発会社の社員を好きになったことが悲恋の結末に繋がり、最後は「岩」になってしまったという、説話または神話と呼ぶにはあまりにドロドロした話で、キネマ旬報ベストテンの'68年の第1位作品ですが、観た当時はあまり好きになれなかった作品でした(沖山秀子は良かった。と言うより、スゴかったが)。しかしながら、後に観直すうちに、だんだん良く思えるようになってきた...(抵抗力がついた?)。
因みに、沖山秀子は関西学院の女子大生時に今村昌平監督に見い出されてこの映画に出演し、これを機に今村昌平監督の愛人となり、その関係が破局した後は、カメラマン恐喝のかどで逮捕され(留置場では全裸になって男性受刑者を歓喜させ、「みんな何日も女の体を見てないからね。私はブタ箱をパラダイスにしてやったんだよ」と言ったという逸話がある)、出所後は精神病院に入院、退院後マンションの7階から投身自殺をするも未遂に終わり、「十九歳の地図」出演時の「自殺未遂で片脚が不自由になった娼婦」役をほぼそのまま地で演っているというスゴさでした。(2011年3月21日死去)
「十九歳の地図」●制作年:1979年●監督・脚本:柳町光
男●製作:柳町光男/中村賢一●撮影:榊原勝己●音楽:板橋文夫●原作:中上健次「十九歳の地図」●時
間:109分●出演:本間優二/蟹江敬三/沖山秀子/山谷初男/原知佐子/西塚肇/うすみ竜/鈴木弘一/白川和子/豊川潤/友部正人/津山登志子/中島葵/川島めぐ /竹田かほり/中丸忠雄/清川虹子/柳家小三治/楠侑子●公開:1979/12●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ(81-1-31)(評価:★★★★)●併映:「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」(柳町光男) 
「ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR」●制作年:1976年●製作・監督:柳町光男●撮影:岩永勝敏/横山吉文/塚本公雄/杉浦誠●時間:91分●出演:ブラックエンペラー新宿支部の少年たち/本間優二●公開:1976/07●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:文芸坐ル・ピリエ(81-1-31)●2回目:自由が丘・自由劇場(85-06-08)(評価:★★★)●併映(1回目):「十九歳の地図」(柳町光男)●併映(1回目):「さらば愛しき大地」(柳町光男)
「神々の深き欲望」●制作年:1968年●監督:今村昌平●製作:山野井正則●脚本:今村昌平/長谷部慶司●撮影:栃沢正夫●音楽:黛敏郎●時間:175分●出演:三國連太郎/河原崎長一郎/沖山秀子/嵐寛寿郎/松井康子/原泉/浜村純/中村たつ/水島晋/北村和夫/小松方正
/殿山泰司/徳川清/石津康彦/細川ちか子/扇千景/加藤嘉/長谷川和彦●公開:1968/11●配給:日活●最初に観た場所:池袋・文芸地下(83-07-30)●2回目:池袋・新文芸坐(24-06-23)(評価:★★★★→★★★★☆)
沖山秀子 in「喜劇・女は度胸」('69年/松竹)with 渥美清
竹中労著『鞍馬天狗のおじさんは』(ちくま文庫)において、嵐寛寿郎がこの作品の撮影の過酷さを吐露している。今村が本作とは別に撮っていた映画『東シナ海』のロケで沖縄にいた嵐寛寿郎は「たったの1時間で石垣島までいける、もう1本撮りましょうや」と監督の今村に口説かれて首を縦に振ったところ、「1時間やったら、ギャラかせいでもええなあ。これが間ちがいのもとや、何が1時間ですか、南大東島まで持っていかれた。誘拐ですわゆうたら、1時間のはずが3カ月、半年、1年ちかく撮影かかりました。もうむちゃくちゃダ、暑いの何のムシ風呂でおます南大東島。」と語り、撮影に入る経緯
を語っている。また、「おまけに今村昌平、自分ばかり女抱いとる。あの沖山秀子。これが頭おかしゅうなった、ビルから跳びましたやろ。7階も上から。ほてから生命たすかった、バケモノや。」「男優かて三国連太郎、破傷風にかかって、足1本なくすところでおましたんやで。それでも、まだこりずに、ゼニもらわんと、自費でやってきよりますのや。変なのばっかり。沖山秀子、監督と毎日オメコしとる、かくし立てしまへん。」等といった告白もしており、嵐自身も何度か撮影が嫌になって逃げ出したことがあったという。この映画の出来自体は「これほど印象深い作品はおまへんな。ブルーリボンの助演男優賞とった。本番18回のおかげや。ゆうたらまあ芸術映画ダ、キネマ旬報のベストワン。娯楽作品としても立派な出来やった」と述懐している。




『白い巨塔』('65年/新潮社)、『華麗なる一族』(73年/新潮社)が、それぞれ映画も含め力作だったのに対し、この『不毛地帯』の仲代達矢主演の"映画"の方は、配役は豪華だけれど個人的には今ひとつでした(テレビで観たため、平幹二朗主演のテレビ版と記憶がごっちゃになっている)。そもそも、181分という長尺でありながらも、原作の4分の1程度しか扱っておらず、原作が連載中であった事もありますが次期戦闘機決定をめぐる攻防部分だけを映像化したと言ってもよく、結果として壱岐正という主人公の生き方に深みが出てこない...。
ただし"原作"だけでみると、自分が最初に読んだ当時の読後の感動はこれが一番で、もともと映画に納まり切らない部分が多すぎたか? それと、こうした複雑な話が映画化された時によくありがちな傾向で、愛憎劇中心になってしまった感じもしました。
伊藤忠商事元会長。富山県松沢村(現小矢部市)出身。1938年12月陸軍大学校卒、大本営陸軍参謀として太平洋戦争を中枢部で指揮をとる。満州で終戦を迎えたが、旧ソ連軍の捕虜となり、11年間シベリアに抑留され、1956年に帰国。1958年、伊藤忠に入社し、主に航空機畑を歩いた。1968年専務に就き、いすゞ自動車と米ゼネラル・モーターズ(GM)との提携を仲介。戦前、戦中、戦後を通じて政、財界の参謀としての道を歩んだ。(2007年9月4日死去/享年95)



雄/嵯峨善兵/伊沢一郎/青木義朗/アンドリュー・ヒューズ/デヴィット・シャピロ/●劇場公開:1976/08●配給:東宝(評価★★★)
丹波哲郎(防衛庁・川又空将補)/加藤嘉(防衛庁・原田空幕長)/大滝秀治(経済企画庁長官・久松清蔵)




古さを感じさせない。政財界にわたっての丹念な取材の跡が窺える。




万俵財閥の当主で阪神銀行頭取の万俵大介の野望を軸に、それに翻弄される一族の姿を金融業界の内幕に絡めて描いた作品で、'73(昭和48)年の発表ですが、「金融再編」に伴う「銀行の合併問題」がモチーフになっているため、あまり古さを感じさせません。

同じ山崎豊子原作の映画化作品「
佐分利信であり、その佐分利信が演じる万俵大介と仲代達矢が演じる鉄平の"暗い血"にまつわる確執に重きが置かれていたような感じもしました。また、鉄平の最期が、大介の女婿を演じた田宮二郎の実人生での自殺方法と同じだったことに思い当たりますが、鉄平役は実は田宮二郎がやりたかった役だったそうです。
どうしても、こういう複雑なストーリーの話が映画化されると、情緒的な方向に重きがいってしまったりセンセーショナルな部分が強調されるのは仕方がありませんが(大介の「妻妾同衾」シーンなども当時話題になった)、それなりの力作でした。"いい人"がとにかく苛められる(相手方銀行の頭取の二谷英明とか)点で「白い巨塔」に共通するものを改めて感じたのと、農家の預金獲得のために、ワイシャツ姿で終日稲刈りまでする銀行員なども描いていて「銀行員って意外と泥臭いなあ」と思わされたりもしました。

も担当)/嵯峨善兵/荒木道子/小夜福子/中村哲/武内亨/梅野泰靖/浜田寅彦/花布辰男/下川辰平/伊東光一/田武謙三/若宮大祐/青木富夫/五藤雅博/生井健夫/白井鋭/夏木章/笠井一彦/守田比呂也/
鳥居功靖/堺美紀子/横田楊子/川口節子/森三平太/千田隼生/金親保雄/南治/麻里とも恵/木島一郎/坂巻祥子/隅田一男/久遠利三/鈴木昭生/記平佳枝/東静子/加納桂●劇場公開:1974/01●配給:東宝●最初に観た場所:渋谷・東急名画座(山本薩夫監督追悼特集) (84-01-08) (評価★★★☆) 京マチ子(万俵大介の愛人・高須相子)


阪重工社長・安田太左衛門)/小沢栄太郎(永田大蔵大臣)/仲代達矢(阪神特殊鋼専務・万俵鉄平)/加藤嘉(阪神特殊鋼常務・銭高)

[左奥から時計回りに]月丘夢路(万俵大介の妻・万俵寧子)/香川京子(長女・美馬一子)/京マチ子(家庭教師・高須相子)/山本陽子(長男鉄平の妻・万俵早苗)/中山麻理(次男銀平の妻)/酒井和歌子(次女・万俵二子)




この作品は何度かテレビドラマ化ざれ、佐藤慶('67年/テレビ朝日系/全26回)、田宮二郎('78年/フジテレビ系/全31回)、村上弘明(90年/テレビ朝日系/全2回)などが主役の財前五郎を演じています。更に最近では、'03年にフジテレビ系で唐沢寿明主演のもの(全21回)がありましたが、断トツの視聴率だったのは記憶に新しいところ(唐沢寿明版の最終回の視聴率32.1%で、'78年の田宮二郎版の最終回31.4%を上回る数字だった)。
しかしながら個人的には、やっぱりテレビ版よりは、原作を読む前に観た山本薩夫(1910-1983)監督による映画化作品(田宮二郎主演)が鮮烈な印象として残っており、また観たいと思っていたら、'04年にニュープリント版が銀座シネパトス(東銀座・三原橋の地下にあるこの映画館は、しばしば昔の貴重な作品を上映する。2013年3月31日閉館)で公開されたため、約20年ぶりに劇場で観ることができました。これも全て今回の唐沢寿明版のヒットのお蔭でしょうか。

田宮二郎(1935-1978/享年43)は、31歳の時にこの小説と巡り会って主人公・財前五郎に惚れ込み、作者の山崎豊子氏に懇願してその役を得たとのこと。その演技が原作者に認められ、それがテレビでも財前医師を演じることに繋がっていますが、テレビドラマの方も好評を博し、撮影終盤の頃、ドラマでの愛人役の太地喜和子(1943‐1992/享年48)との対談が週刊誌に掲載されていた記憶があります。それがまさか、ヘミングウェイと同じ方法でライフル自殺するとは思わなかった...。クイズ番組「タイム・ショック」の司会とかもやっていたのに(司会者は自殺しないなどという法則はないのだが)。
していたそうです。それが終盤に入ってうつ状態になり、リハーサル中に泣き出すこともあったりしたのを、周囲が励ましながら撮影を進めたそうで、彼が自殺したのはテレビドラマの全収録が終わった日でした(実現が困難な事業に多額の投資をし、借金に追われて「俺はマフィアに命を狙われている」とか、あり得ない妄想を抱くようになっていた)。当時週刊誌で見た大地喜和子とのにこやかな対談は、実際に行われたものなのだろうか。


文庫の方は、当初は正(上下2巻)・続に分かれていましたが、'93年の改定で「続」も含め『白い巨塔』として全3巻になり、更に'02年の改定で全5巻になっています(「続」という概念がある時期から消されているともとれる)。最近のテレビドラマもそれに準拠し、財前が亡くなるところまで撮り切っていますが、文庫で読むときは、もともとは今ある全5巻のうち、第3巻までで終わる話だったことを意識してみるのも良いのではないでしょうか。

は、権力に憧れる気持ちと真実を追究し正義を全うしようという気持ちが入り混じっているような"普通の人"も多く出てきて、この辺りがこの小説の充実したリアリティに繋がっていると思います。 

「白い巨塔」(映画)●制作年:1966年●製作:永田雅一(大映)●監督:山本薩夫●脚本:橋本忍●音楽:池野成●原作:山崎豊子●時間:150分●出演:田宮二郎
/東野英治郎/小沢栄太郎/小川真由美/岸輝子/加藤嘉/田村高廣/船越英ニ/滝沢修/藤村志保/下条正巳/石山健二郎/加藤武/里見明凡太朗/鈴木瑞穂/清水将夫/下條正巳/須賀不二男/早川雄三/高原駿雄/杉田康/夏木章/潮万太郎/北原義郎/長谷川待子/瀧
花久子/平井岐代子/村田扶実子/竹村洋介/小山内淳/伊東光一/南方伸夫/河原侃二/山根圭一郎/浜世津子/白井玲子/天池仁美/岡崎夏子/赤沢未知子/福原真理子●劇場公開:1966/10●配給:大映●最初に観た場所:渋谷・東急名画座(山本薩夫監督追悼特集) (83-12-05)●2回目:銀座シネパトス (04-05-02) (評価★★★★)





月1日「銀座東映」跡地に「銀座名画座」開館、1988(昭和63)年7月1日「銀座地球座」→「銀座シネパトス1」、「銀座名画座」→「銀座シネパトス2」「銀座シネパトス3」に改装。2013(平成25)年3月31日閉館













●2019年再ドラマ化【感想】'78年の田宮二郎版の全31回、'03年の唐沢寿明版の全21回に対して今回の岡田准一版は全5回とドラマ版としては短く、盛り上がる間もなくあっという間に終わってしまった感じで、岡田准一は大役を演じ切れてない印象を持った。最終回の視聴率が15.2%というのはそう悪い数字ではないが、この原作ならば本来はもっと高い数字になって然るべきで、やはり内容的に...。田宮二郎版の31.4%、唐沢寿明版の32.1%と比べると平凡な数字に終わったのもむべなるかなと。
哉/小円真●音楽/兼松衆●原作:山崎豊子「白い巨塔」「続・白い巨塔」●出演:岡田准一/松山ケンイチ/寺尾聰/小林薫/松重豊/岸部一徳/沢尻エリカ/椎名桔平/夏帆/飯豊まりえ/斎藤工/向井康

二/岸本加世子/柳葉敏郎/満島真之介/八嶋智人/山崎育三郎/高島礼子/市川実日子/美村里江/市毛良枝/小林稔侍●放映:2019/05/22-26(全5回)●放送局:テレビ朝日


.jpg)




野村芳太郎(1919‐2005)監督、橋本忍・山田洋次脚本による映画化作品('74年/松竹)は、他の野村監督作品と比較しても、また同じ時期に映画化された他の松本清張原作のものと比べても比較的良い出来だったと思います(個人的には同監督の
加藤剛が演じた〈和賀英良〉は、
ただし、幼児期の暗い記憶や、自分をいじめた社会に対しての見返してやるという登場人物のリベンジ・ファクターが清張作品ならではのものだと思うのですが、どこまで映像で表現されていただろうかという気もします。テレビ版では「ハンセン病」というファクターを抜いてしまっているので、なおさらに原作とのギャップを感じざるを得ませんでした。
個人的には、この小説が今まで読んだ清張作品の中で一番だとは思わないし、「ハンセン病」に対する偏見を助長したという批判までありますが、作者の代表的な傑作作品であることに異存はなく、結末を知ったうえでも原作を読む価値はあると思います。
「砂の器」●制作年:1974年●製作:橋本忍/佐藤正之/三嶋与四治●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍/山田洋次●音楽:芥川也寸志●原作:松本清張●時間:143分●出演:丹波哲郎/森田健作/加藤剛/加藤嘉/緒形拳/山口果林/島田陽子/佐分利信/渥美清/笠智衆/夏純子/松山省二/内藤武敏/春川ますみ/花沢徳衛/浜村純/穂積隆信/山谷初男/菅井
きん/殿山泰司/加藤健一/春田和秀/稲葉義男/信欣三/松本克平/ふじたあさや/野村昭子/今井和子/猪俣光世/高瀬ゆり/後藤陽吉/森三平太/今橋恒/櫻片達雄/瀬良明/久保
晶/中本維年/松田明/西島悌四郎/土田桂司/丹古母鬼馬二●劇場公開:1974/10●配給:松竹●最
初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-19) (評価★★★★)●併映:「球形の荒野」(貞永方久)







京野ことみ/永井大/



.jpg)

カッパ・ノベルス『ゼロの焦点』昭和34年初版
板根禎子は、広告代理店に勤める鵜原憲一と見合い結婚、信州から木曾を巡る新婚旅行を終えた。その7日後、東京へ転勤になったばかりだった憲一は、仕事の引継ぎをしてくると言い前勤務地の金沢へ出張へ旅立つが、予定を過ぎても帰京しない―。やがて禎子のもとに、憲一が北陸で行方不明になったという勤務先からの知らせがある。禎子は単身捜査に乗り出すが、その過程で夫の知られざる過去が浮かび上がる―。
この『ゼロの焦点』が書かれた'58年時点では、まだ"社会派"推理小説というジャンル分けは確立していなかったと思いますが、この『ゼロの焦点』辺りがその始まりではないでしょうか(ただし、『ゼロの焦点』のカッパ・ノベルズ版の裏表紙の作者経歴紹介では、前年発表の『点と線』と『目の壁』の2作を、その嚆矢として挙げている)。この『ゼロの焦点』はミステリーとしては瑕疵が多いとの指摘もありますが、社会ドラマとしての人間がしっかり描かれて、これが松本清張というの作家の作品の大きな魅力でしょう。また、松本清張の推理小説作品の中でも、この『ゼロの焦点』は風景の描写などに文学的な細やかさがあり、『点と線』と並んで"旅情ミステリー"のハシリとも言えるのではないでしょうか。冒頭部分だったかが国語の試験問題に出されたのを覚えています。



多くのサスペンスドラマの典型モデルとなった、日本海の荒波を背に崖っぷちで犯人が告白するというラストシーンなど、橋本忍の脚本の運びを原作と比べてみるもの面白いかと思います。橋本忍脚本の犯人の長台詞は、込み入った原作の背景を1時
間半の映画に収めようとした結果の「苦肉の策」とだったともとれるのですが...(因みに、山田洋次監督も共同脚本として名を連ねている)。
この映画作品が発表された後、作品の舞台周辺への観光客が増加し、一方、能登金剛・ヤセの断崖(映画の舞台)での投身自殺が急増したとのことです。自分も行ったことがありますが、「早まるな」と書いた立て札があったように思います。金沢ロケで雪がかなり積もっているのは、昭和35年末から36年初めの北陸地方の豪雪によるもの。「昭和38年1月豪雪」はよく知られていますが、この時も結構積もったようです。
(●2020年にシネマブルースタジオの「戦争の傷跡」特集で再見した。原作の鵜原憲一が勤める「A広告社」は「博報社」になっていたのだなあ。ラストの謎解きは、主人公の推理と犯人の告白が交互に映像化されるスタイルになっていたことを改めて確認した。'91年にビデオで観たのが初
めてで、その時点で映画が作られてから30年で、今またそこから30年経とうとしているのかと思うと何か感慨深い。1931年生まれの久我美子も1932年生まれの有馬稲子も2020年時点で健在である。)

)、芦川よしみ(田沼久子)、増田恵子(室田佐知子)といった布陣ですが、原作者・松本清張の指名を受けた
の撮影に関しては新藤兼人の発案ではなく、原作者である松本清張の希望により脚本に導入され、むしろ新藤兼人は難色を示したものの、その方向で撮影が行われたとのこと(原作も一応そうなっているのだが)。おそらく松本清張は、このTV版のロケの時期が初夏になったことで、部分的に趣向を変えてみてもいいかなと考えたのではないでしょうか。すでに5回目のTVドラマ化であったというのもあるかと思います(和倉温泉「銀水閣」[左下写真]2007年の能登半島地震の風評被害、東日本大震災による予約キャンセルなどで経営が行き詰まり、2011年4月25日閉館)。
有馬稲子/南原宏治/西村晃/加藤嘉/穂積隆信/
野々浩介/十朱久雄/高橋とよ/沢村貞子/磯野秋雄/織田政雄/永井達郎/桜むつ
子/北龍二(本編では佐々木孝丸がキャストされている)/稲川善一/山田修吾/山本幸栄/高木信夫/今井健太郎/遠山文雄●劇場公開:1961/03●配給:松竹●最初に観た場所:銀座・東劇(野村芳太郎特集)(05-08-13)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(20-08-24)(評価★★★★)![[ゼロの焦点].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%5B%E3%82%BC%E3%83%AD%E3%81%AE%E7%84%A6%E7%82%B9%5D.jpg)





「ゼロの焦点―松本清張作家活動40年記念スペシャル(松本清張スペシャル・ゼロの焦点)」●監督:鷹森立一● プロデュー
サー:嶋村正敏(日本テレビ)/赤司学文(近代映画協会)/坂梨港●脚本:新藤兼人●音楽:大谷和夫●原作:松本清張●出演:眞野あずさ/林隆三/増田恵子(元ピンク・レディー)/芦川よしみ/藤堂新二/並木史朗/







