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ポワロが犯人に対して仕掛けたトラップにこちらも騙されてしまう。

「名探偵ポワロ[完全版]Vol.21 [DVD]」(「黄色いアイリス」「なぞの遺言書」所収)「名探偵ポワロDVDコレクション 60号 (黄色いアイリス) [分冊百科] (DVD付)
」
2年前、アルゼンチンに滞在しているヘイスティングスに会いに行ったポアロは、ブエノスアイレスのホテルで偶然事件に遭遇する。それから月日は流れ、ある朝、ポアロはヘイスティングスから「ル・ジャルダン・デ・シーニュ」が付近にオープンすることを聞き、ミス・レモンからは「事務所のポストに挿されていた」と"黄色いアイリス"を手渡される。ポアロにとって思い出したくない2年前の
事件―同じ名のレストランの黄色いアイリスが飾られたテーブルにいたアイリスという女性の殺害事件が再び脳裏に蘇る。ポワロが過去に遭遇し未解決に終わっていたその事件が、2年後の今、ロンドンで再び動き出す―。
「名探偵ポワロ」の第36話(第5シーズン第3話)でショート・バージョン。本国放映は1993年1月31日、本邦初放映は1994年2月5日(NHK)。原作は短編で、クリスティー文庫『黄色いアイリス』(「黄色いアイリス」)、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』(「黄色いアイリス」)などに所収。
『黄色いアイリス (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
「ル・ジャルダン・デ・シーニュ」は、2年前の事件の現場
となった有名なフランス料理店で、この度ロンドンに進出しオープンしたわけですが、そのオープンの日は、図らずも2年前その事件が起きた―アイリスが突然うっ伏して亡くなった―その日であり、当時、ポアロはまさにその時その場所にいたにも関わらず、クーデターを起こした軍によりスパイ容疑で逮捕されて強制送還され、事件を解決するに至らず、事件はアイリスのポーチにあった青酸カリによる自殺として処理されたというもの。
今回
は、当時アイリスが青酸カリによって殺害されたテーブルにいた当事者全員が招待されて店に集います。店のテーブルは、米国人実業家のバートン・ラッセルが予約したもので、ラッセルは4年前と同じ状況を作った上でアイリスは他殺であるとの考えを述べ、この中に犯人がいるとしますが、今度はその場でアイリスの妹ポーリンが突然うっ伏してしまう―。

原作の短編は長編『忘られぬ死』の原型とされる作品で、但し『忘られぬ死』ではポワロは登場せず、姉妹の名前は、姉がローズマリーで妹がアイリスでした。2003年にはグラナダTVによってTVドラマ版が作られています。
『忘られぬ死』は文芸小説風ミステリでもありましたが(映像化作品は時代を現代に置き換え、原作と若干違って、トミーとタペンスの「おしどり探偵」シリーズの"初老版"みたいな作りになっている)、こちらの映像化作品の「黄色いアイリス」は短編がベースであるためか、純粋にトリックが楽しめます。ポワロが犯人に対して仕掛けたトラップにこちらも騙されてしまいますが、それにしてもポーリン、演技が上手すぎ? いや、それ以前に、犯人の手先が器用すぎ?
因みに、ヘイスティングスは今はアルゼンチンからロンドンに戻ってきているわけで、これは、ドラマでは鉄道への投資に失敗したため破産し、イギリスに帰国して再びポアロの助手を務めているという設定になっているためです。原作では、アルゼンチンで牧場を経営し成功を収めたため、イギリスに一時帰国することあっても、途中から彼の本拠地はあちらになっています(そのため、ポワロはミス・レモンを雇うことになった)。
この作品は、AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編(ショート・バージョン))ベスト10」の第2位に選ばれています(第1位は「チョコレートの箱」)。
「名探偵ポワロ(第36話)/黄色いアイリス」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅤ: THE YELLOW IRIS●
制作国:イギリス●本国放映:1993/01/31●監督:ピーター・バーバー・フレミング●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●時間:52分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ロビン・マキャフリー(アイリス・ラッセル)/ジェラルディン・サマーヴィル(ポーリーン・ウェザビー)●日本放映:1994/02/05●放映局:NHK(評価:★★★☆)
《読書MEMO》
●AXNミステリー「あなたが選ぶ名探偵ポワロ(短編(ショート・バージョン))ベスト10」(2010年)(話数は放映順。()内数字はオリジナルの放送順)
1位 第34話 「チョコレートの箱」 (39)
2位 第31話 「黄色いアイリス」 (36)
3位 第4話 「24羽の黒つぐみ」 (4)
4位 第19話 「あなたの庭はどんな庭?」 (21)
5位 第1話 「コックを捜せ」 (1)
6位 第6話 「砂に書かれた三角形」 (6)
7位 第29話 「エジプト墳墓のなぞ」 (34)
8位 第22話 「スズメバチの巣」 (24)
9位 第26話 「盗まれたロイヤル・ルビー」 (28)
10位 第27話 「戦勝舞踏会事件」 (29)




エジプトで行われている大掛かりな発掘調査で、遂にメンハーラ王の墳墓が開封される時が訪れるが、封印の扉を開けた直後、発掘隊の考古学者ウィラード卿が倒れ、そのまま亡くなってしまう。死因は心臓発作で自然死と判断されたが、それから次々と調査に関わった人間が不審な死を遂げて行く。そんな折、卿夫人の依頼を受けたポワロは、ヘイスティングスとともにエジプトへ向かう。 人々は「王の墓を暴くものには制裁が下される」と王の呪いを噂するが―。
「名探偵ポワロ」の第34話(第5シーズン第1話)でショート・バージョン。本国放映は1993年1月17日、本邦初放映は1993年7月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「エジプト墳墓の謎」)、創元推理文庫『クリスティ短編集1』(「エジプト墓地の冒険」)などに所収。
犯人はやっぱりという感じでした。あとは動機だけでしたが、動機は謎解きされてみないと分からないものでした。シーズンの第1話ということでロケをした割には("王家の谷"のロケ地はエジプトではなくスペインのようだが、大英博物館のラムセス二世の胸像なども出てきて雰囲気を盛り上げている)、プロットは大したことなかったかも。まあ、今回は、砂漠での王家の墓の発掘作業というエキゾチックかつミステリアスな舞台設定に、ポワロがいつも通りのスタイルで(砂漠にもかかわらず皮手袋にエナメル靴で)乗り込んでいくところが見所だったのかもしれません(ポワロは飛行機がダメだから海路で行ったのか)。テレビドラマにしては舞台背景はしっかり撮ってると思われ、その分評価として星半個プラスしました(プロットだけ見ると星3つ。因みに、メンハーラ王はクリスティによる架空の王らしい)。
(ミス・レモンは原作より親しみやすい人柄として描かれている。原作で彼女が登場するのはヘイスティングスと入れ違いであるため、基本的に2人同時には登場しない)。ミス・レモンは、続く第35話「負け犬」(The Underdog)で
は、今度はポワロに、きっと仕事に役に立つからと催眠術をかけようとしますが、ポワロは意地っ張りなせいもあってか術にかかりません。しかし、ポワロに言われて殺人事件の関係者に催眠術をかけ、事件解決の大きなヒントを引き出します(本当に仕事に役に立った)。
また、この「エジプト墳墓のなぞ」の時、ミス・レモンは愛猫を亡くして寂しい気持ちになていますが、そうした彼女を気遣って、ポワロが事件解決の後、ミス・レモンにエジプト王の墓に描かれている猫に模した置物のお土産を渡すと、彼女はかなり癒された風でした。こんなミス・レモンに、第38話「イタリア貴族殺害事件」(The Adventure of the Italian Nobleman)ではボーイフレンドができますが、実はこれがとんでもない男で、そのことを
突き止めたポワロは、彼女に真実を告げなければというヘイスティングスに対し、それは自分の役目だと言ってミス・レモンに対峙しますが、彼女はすでに男とは別れたとのことで拍子抜けしてしまいます。そして、別れた理由は男が飼い猫が邪魔になって処分しようとしたことに彼女が憤慨したためで、ポワロがふと気づくと、オフィスの中に当の猫が...(ポワロはやや渋い顔に)。



1925年インド。英国皇太子巡行の際に、女優のメイベル・セインズベリー・シールは同僚のガーダが銀行員アリステア・ブラントと結婚すると知り、その12年後、英国行きの船で一緒だったアンベリオティスに歯科医を紹介したついでにその昔話をする。英国に戻ったセインズベリー・シールは歯科医院の前で偶然ブラントと再会、彼は銀行頭取にまで出世していて、伝道師でもある彼女は寄付を頼む。ポワロは偶々その歯科医モーリィの所に通う。するとモーリィはこれから経済界を牛耳るブラントが来ると。待合室でブラントと擦れ違い歯医者を出るとセインズベリー・シールとぶつかる。待合室にいた彼女は待ち時間が長過ぎると怒って帰ってしまい、ボーイが診察室を覗くとモーリィ医師の拳銃自殺死体が。ジャップ警部からの要請でポワロは捜査に協力することになり、医師の予約簿にはポワロ、ブラント、セインズベリー・シール、アンベリオテ
ィスの順に名が。最後に治療を受けたのがアンベリオティスだと本人からも確認したが、直後にアンベリティオスは麻酔の過剰投与の後作用で死亡する。死ぬ気配がなかったモーリィが自殺したのは投薬ミスに気づいたからだと警察は納得するが、ポワロは納得できず捜査を続行。メイドが証言では、モーリィは秘書ネビルが最近勤怠不良になっているのは失業中の恋人カーターのせいだとして2人の交際に反対していて、事件当時待合室にいた青年はそのカーターだと。話を聞こうと思ったセインズベリー・シールは失踪し、後日、チャップマン夫人の部屋に顔を潰された彼女と思しき遺体が。モーリィ医師が自殺した日に訪れた患者が二人も死んだことを訝しんだポワロは、ブラントにも話を聞くが、アーンホルト財閥の令嬢レベッカの入り婿となって一介の銀行員から経済界の実権を握った彼は、病死したレベッカの知り合いだと言われてもそんな女性に覚えはないと。そんな時、庭師として入り込んでいたカーターが発砲事件を起こし、ブラントの秘書モントレソーに現場を取り押さえられ、濡れ衣を主張するが逮捕される。歯の治療跡から顔の潰されたセインズベリー・シールだと思われた遺体はチャップマン夫人の遺体だったらしい。ではセインズベリー・シールは何処へ行ったのか。ポワロは留置場のカーターから、事件当時モーリィに文句を言いに行ったら死んでいたという証言を得、それによって当初の犯行推定時刻の1時間前、セインズベリー・シールが帰る前に殺人は行われていたと確信する。ポワロが銀行の会議室に関係者を集め、事件の種明かしが行われる―。
原作では殆ど前面に出てこないこの共犯者が、この映像化作品では多分に映像化されており、但し、最初は"セインズベリー・シール"に変装して出ている訳で、では冒頭の本物のメイベル・セインズベリー・シールはまた別の女優が演じたのでしょうか(プロローグのインドでメイベル・セインズベリー・シールとガーダが一緒に出てくることからするとそうなるが、舞台メイクをしているのでよく分からない)。何れにせよ、映像面、演技面で観る側をも引っ掛かけているというのは興味深いです。
「名探偵ポワロ(第33話)/愛国殺人(愛国殺人事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅣ:ONE, TWO, BUCKLE MY SHOE●制作国:イギリス●本国放映:1992/01/19●監督:ロス・デベニッシュ●脚本:クライブ・エクストン●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポアロ)、フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)、キャロリン・コルキュホーン(メーベル)、ジョアンナ・フィリップ=レーン(ガーダ)、ピーター・ブライス(ブラント)、ジョー・グレコ(アルフレッド・ビッグス)、クリストファー・エクルストン(フランク・カーター)、カレン・グレッドヒル(グラディス・ネビル)、ローレンス・ハリントン(ヘンリー・モーリィ)、セーラ・スチュワート(ジェーン・オリベラ)、ヘレン・ホートン(ジュリア・オリベラ)、ケボーク・マリキャン(アンベリオティス)、トリルビー・ジェームズ(アグネス・フレッチャー)●日本放映:1992/10/03●放映局:NHK-BS2(評価:★★★☆)


ポワロは、ヘイスティングスに誘われて戦勝記念舞踏会に出かける。 晩餐の後、女優のココ・コートニーと骨董陶磁器の収集家クロンショー卿が争いながら食堂から出てくる。一方、アメリカ人のマラビー夫人は、ダンスの約束をしたクロンショーを捜していると、食堂でひとつの死体を発見する。それはクロンショーの死体だった。彼のポケットにはCの頭文字のついた小さなケースが入っており、死体発見の直前に彼がメモしていた手帳も見つかる―(第29話「戦勝舞踏会事件」)。
戦勝記念舞踏会って仮装舞踏会であるわけで、そこへ、自分は自身が有名人であるから仮装はしないと乗り込んでいくポワロの自信家ぶりはスゴイね。そのポワロの居合わせた舞踏会で殺人が起きてしまい、犯人を見逃したとマスコミに叩かれて、名誉回復のため事件解決に躍起になるというのがいかにも彼らしいです。
事件の当事者は、骨董陶磁器のコメディア・デラルテ(仮面即興劇)の6体の人物にそれぞれ扮した、クロンショー卿、女優のミス・ココ・コートニー、男優のクリス・デビッドソンとその夫人、ペルテイン子爵、未亡人ミス・マラビーの6人で、その中でクロンショー卿が殺され、普通でいけばクロンショー卿の伯父であり、相続人であるペルテイン子爵が一番怪しいということになりますが、このシリーズの場合、一番怪しい人は真犯人で
はないというのはほぼ定番となっています。
冬、ヘイスティングスの友人ロジャー・ヘイバリングの伯父ハリントン・ペースに招待されたポワロとヘイスティングスは、ライ鳥猟に出かける。猟に興味はなく、ライチョウ料理が楽しみだったポワロは風邪をひき、ホテルで寝込んでしまう。その夜、ロッジでは訪ねてきたひげの男にハリントン・ペースが殺される―(第30話「猟人荘の怪事件」)。
「名探偵ポワロ」の第30話(第3シーズン第11話)で本国放映は1991年3月10日、本邦初放映は1992年7月30日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「狩人荘の怪事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「ハンター荘の謎」)などに所収。
ライチョウ猟をするための別荘というのは贅沢だなあ。しかし、ライチョウ料理ってそんなに美味なのでしょうか。それを楽しみにしていたポワロは風邪で寝込んでしまい、殆ど「安楽椅子探偵」ならぬ「ベッド・ディテクティブ」状態でした。
殺害されたハリントン・ペースは身内の皆から嫌われていて、ロジャーの従弟のアーチー・ヘイバリングは、ハリントンから教師としての安月給をバカにされている上に、狩場での失態を厳しく咎められ、ペースの腹違いの弟ジャック・スタッダードも、猟場の番人をさせられれている上に、恋仲のメイドとの結婚資金の融通もして貰えない、更に、ロジャー・ヘイヴァリング夫妻も...といった具合。
「名探偵ポワロ(第29話)/戦勝舞踏会事件(戦勝記念舞踏会事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE AFFAIR AT THE VICTORY BALL●制作国:イギリス●本国放映:1991/03/03●監督:レニー・ライ●脚本:アンドリュー・マーシャル●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/マーク・クラウディ(クロンショー卿)/ヘイドン・グウィン(ココ・コートニー)●日本放映:1992/07/29●放映局:NHK(評価:★★★★)
「名探偵ポワロ(第30話)/猟人荘の怪事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MYSTERY OF HUNTER'S LODGE●制作国:イギリス●本国放映:1991/03/10●監督:レニー・ライ●脚本:T・R・ボウエン/クライブ![名探偵ポワロ[完全版]Vol.16.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DVol.16.jpg)
![名探偵ポワロ[完全版]Vol.14 [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DVol.14%20%5BDVD%5D.jpg)


ジャップ警部が浮かない顔でポワロのもとを訪れ、イギリス各地の貴族の邸で発生した3件の宝石強盗事件の解決の糸口が掴めず、自らのクビさえ危ないと言う。待つしかないというポワロの言葉通り、第4の事件が発生。宝石コレクターとしても有名なマーカス・ハードマン氏の邸での野外コンサートに客たちが招かれた際に、邸内の金庫が壊され、カトリーヌ・ド・メディシスのエメラルドのネックレスが盗まれたのだった―(第26話「二重の手がかり」)。
"二重の手がかり"とは、破られた金庫の中に白い手袋が、その近くに"B.P."のイニシャル入りのシガレットケーがあったことを指し、容疑者はネックレスが盗まれた晩に屋敷に出入りした4人の客ということになりますが、ポワロはその容疑者の一人、ロシア人亡命貴族を称するヴェラ・ロサコフ伯爵夫人に一目惚れしたようで、3日以内に事件を解決しないとクビになると総監から言い渡されているジャップ刑事を尻目にロサコフ夫人とデートばかりしていて、事件を投げ出した印象さえあります。そこで、ヘイスティングスとミス・レモンが、それぞれに怪しいところがある他の3人の調査に当たります。
このポワロのシリーズにおけるロサコフ夫人は、シャーロック・ホームズの「ボヘミアの醜聞」における、ホームズが恋した唯一の女性アイリーン・アドラーに相当するわけです。ということで宝石盗難犯の見当はおおよそつくわけですが、ポワロは犯人を捕まえる気がないわけで(クライアントの了解済み)、となるとこの事件にどう決着をつ
けるのかが見所になるわけです。そうした意味では、なかなかユニークな展開でした。
オペラ劇場で旧知のレディ・チャタートンに、友人のクレイトン夫人が夫に命を狙われているらしいと言われたポワロは、様子を探りにクレイトン夫妻が出席するパーティに出掛ける。クレイトン夫人と親しくしているリッチ少佐、クレイトン夫人を巡って決闘して敗れたこともあり、今もまお夫人を執拗に追いかけるカーティス大佐らがパーティに出席していたが、クレイトン氏は急な仕事で欠席。翌日、パーティ会場にあったスペイン櫃の底から、大量の血が流れ出してるのをメイドが発見し、蓋を開けると中にクレイトン氏の刺殺体があった―(第27話「スペイン櫃(ひつ)の秘密」)。
「名探偵ポワロ」の第27話(第3シーズン第8話)で本国放映は1991年2月17日、本邦初放映は1992年4月2日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、などに所収。
先ず逮捕されたのは、屋敷のオーナーであるリッチ少佐で、スペイン櫃(エリザベス朝の家具で大きくて蓋がある)の持ち主でもない限り、クレイトンの死体を持ち込むなど不可能と思われたわけですが、クレイトン夫人がポワロのマンションを訪ねて来て、リッチ少佐の無実を証明することを依頼したため、ポワロは動き出します。
リッチは逮捕されましたが、第一容疑者は真犯人ではないというのはもうお約束事のようになっており、そうなると、リッチとは別に最初から怪しい人物はいるなあと思われ、それがそのまま結末までいってしまい、 "犯人当て"という面ではヒネリはさほどなかったように思います。



夏祭りの席上でポワロは旧友の息子ジョン・ハリスンに出会った。彼は自分の婚約者モリーをポワロに紹介、ポワロは戯れに紅茶占いをするが、彼女のカップには彼女自身の口紅と一緒に別の口紅がついていた。会場にはモリーの元婚約者で今は良き友人というクロードも参加していたが、三人の関係にポワロは暗雲を予測する―(第24話「スズメバチの巣」)。
ポワロが、まだ起きていない犯罪を防ぐべく捜査を始めるというユニークな展開です。モリーのカップに彼女自身の口紅と一緒に付着していた紅は元婚約者クロードのものであり(彼は夏祭りでピエロに扮していた)、それでポワロは悪い予感に駆られたという訳です。クロードは未だにモリーへの気持ちを捨てられず、またモリーも故意にクルマ事故を起こしてクロードとの時間を過ごすなどしていました。
殺人未遂罪は成立していると思われますが、最後、ポワロが犯人に優しいのは、犯人の置かれた境遇に対する思い遣りからでしょうか。まあ、死ぬつもりの人間をわざわざ訴えても仕方がないし、どうせ公判の途中で死んでしまうのならば意味がないという理屈とも呼応している訳ですが(プラグマティックに考えればであるが)。
ポワロ、いつから占い魔になった?とか、ハチの巣駆除のガソリンと単なる水との色や臭いの違いが分からないものかとかいった突っ込み所はありますが(洗濯ソーダと青酸カリの味の違いが分からないのは、今まで生きている間に青酸カリを飲んだことがないのだから仕方がないが)、ポワロの友への友情が感じられる終わり方は良かったです。
絶望している相手には"要らぬ同情"として拒絶される可能性もあったのではないかという見方もありますが、犯行を実行していれば、ポワロがいる限り、死後に殺人犯として糾弾されるのは自分であることは避けられなかったため(死後の復讐を考える者は、死後の名誉も考える)、やはり自ずとポワロに感謝することになるのでしょう。
自分に高額保険をかけたばかりのマルトラバースが、庭の大木の下で死んでるのを発見される。死因は内出血だが、庭には死者が引きずられたような痕跡が残されていた。美しい未亡人スーザンは、大木にまつわる少女の霊を見た夫がショック死したのではないかと言う。彼女は医師から夫が、ショックで潰瘍が再発した場合に死ぬ可能性もあると聞いていたのだ。本当に幽霊がいるのか?ポワロは灰色の脳細胞を駆使し、事件解決に挑む―(第25話「マースドン荘の惨劇」)。
「名探偵ポワロ」の第25話(第3シーズン第6話)で本国放映は1991年2月3日、本邦初放映は1992年3月31日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(マースドン荘園の悲」)などに所収。
第24話では、事件が無いことに対してポワロが苛立ち、ヘイスティングスが気晴らしと連れて行った夏祭りで、祭り会場で死体でも出れば満足するのかとジャップ警部に陰口を叩かれ、第25話では、ある殺人事件を解決できるのはポワロだけだという手紙を受け、ロンドンから200キロ離れた町に来てみれば、事件は手紙を出した宿の主人の小説の中の話だったという―でも、ポワロの行く処に事件は必ずあります。
今回は、犯人は途中で大体判りました。犯行のヒントをどこから得たのか(瞬時に英字新聞を読みとらないと分からない)など細かいことまではともかく、誰が犯人かは何となく目星がついて、何か予想を覆すような展開があるかなと思ったけれど、意外とそれがありませんでした。
このラスト、犯人が、自分の手についた血を被害者のものだと思って自白してしまうくだりは、心霊現象を怖れていた態度がすべて芝居だったという事実と矛盾しているという批判もあるようです。でも、嘘だと知っていてやってたら本当に幽霊が出てきたら、やはり怖いだろうね。自分が殺しているだけに。

「名探偵ポワロ(第24話)/スズメバチの巣(スズメ蜂の巣)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:WASPS' NEST●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/20●監督:ブライアン・ファーナム●脚本:デビッド・レンウィック●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/マーティン・ターナー(ジョン・ハリスン)/メラニー・ジェサップ(モリー・ディーン)●日本放映:1992/03/30●放映局:NHK(評価:★★★★)
「名探偵ポワロ(第25話)/マースドン荘の惨劇」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE TRAGEDY AT MARSDON MANOR●制作国:イギリス●本国放映:1991/02/03●監督:レニー・ライ●脚本:デビッド・レンウィック●時間:56分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/イアン・マカロック(ジョナサン・マルトラバース)/ジェラルディン・アレグザンダー(スーザン・マルトラバース)/ニール・ダンカン(ブラック大尉)●日本放映:1992/03/31●放映局:NHK(評価:★★★)



自分の名がついた新種のバラが発表される園芸展でポワロは、アメリアという車椅子の老婦人に声をかけられ、種袋を差し出される。しかし、何故か中身は空だった。帰宅後に老婦人から助けを求める手紙を受け取ったポワロは、ミス・レモンを連れて彼女の家を訪ねるが、すでに彼女は前夜に猛毒ストリキニーネで殺されていた。いつ、どうやって毒は盛られたのか?(第22話「あなたの庭はどんな庭?」)。
老婦人のアメリアは姪のメアリー、その夫ヘンリーの夫婦と暮らし、カトリーナという付添いがいて、彼女はカトリーナを相続人にしていましたが、カトリーナの部屋にストリキニーネの小瓶があり、警察は先ず彼女の身柄を拘束します。彼女はロシア人で、スターリンのせいで財産をなくした貴族階級の出身(メアリー夫婦は彼女を共産主義者と決めつけていたが実際の出自はむしろ逆)。カトリーナがロシア大使館員と密かに会う場面などもあって、ちよっと怪しげではあるものの、このシリーズ、「第一容疑者は真犯人ではない」ということがほぼセオリー化しているため、そのつもりで観ていると、もう、そんなに犯人候補者は残っていないんじゃないかという感じ(カトリーナの出自やキャラクターは原作からかなり改変されているようだ)。
ラストはカトリーナは容疑が晴れて恋人とも結ばれ、これで無事に遺産も入るからメデタシ、メデタシ。一方の犯人は、ええいっ、これまでと毒を飲み干そうとしたら、アル中の夫が妻に内緒で毒をウィスキーに入れ替えていて...。このラストが一番印象に残るくらいだから、プロセスはさほどインパクト無かったかなあ。
ロンドン・スコティッシュ銀行は100万ドル相当の自由公債をアメリカに移送する計画を立てた。ところが、移送前にショー部長が狙われるなど不穏な雰囲気があり、別の担当者リッジウェイが移送の任を負うことに。また、銀行側はポワロに相談を持ちかけ、ポワロもクイーン・メリー号に乗り込んで移送に同行することに―(第22話「100万ドル債券盗難事件」)。
案の定、100万ドルの債権はポワロたちの船旅の途上で消え、案の定、ギャンブルで負債を抱えているリッジウェイに疑いがかかります。まあ、彼が真犯人でないことは大方予想がつきますが、後の展開は意外性があって面白かったです。最後、リッジウェイの容疑は晴れ、婚約者の部長秘書とポワロのところへ挨拶に。リッジウェイ、大丈夫かな(しっかり者の女性はダメ男にくっつきがちというパターンだなあ)。
豪華客船での船旅を楽しみにしていたヘイスティングスの方が船酔いでダウンし、亡命時の船酔いがトラウマとしてあり、船旅を嫌っていたはずのポワロの方が乗船してからは絶好調で、好物の「牛の脳ミソのソテー」などこってりしたものを食しているのが可笑しいです。ヘイスティングスは船上で美女と知り合い、アタックしようにも体調が...。実はこれ、事件の鍵を握る女性だったのですが、もしヘイスティングスの体調が良ければ、どういう展開になっていたのだろう(まあ、振られてお終いで、結果、あんまり変わらないか)。
「名探偵ポワロ(第21話)/あなたの庭はどんな庭?」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:HOW DOES YOUR GARDEN GROW?●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/06●監督:ブライアン・ファーナム●脚本:アンドリュー・マーシャル/クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/マージェリー・メイソン(アミリア・バロビー)/アン・ストーリーブラス(メアリ・デラフォンテン)●日本放映:1991/09/14●放映局:NHK(評価:★★★)
「名探偵ポワロ(第22話)/100万ドル債権盗難事件(百万ドル債券盗難事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROTⅢ:THE MILLION DOLLAR BOND ROBBERY●制作国:イギリス●本国放映:1991/01/13●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/ポーリン・モラン(ミス・レモン)/オリヴァー・パーカー(フィリップ・リッジウェイ)/ナタリー・オーグル(エズミー・ダルリーシュ)●日本放映:1991/09/15●放映局:NHK(評価:★★★☆)![名探偵ポワロ[完全版]Vol.10.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DVol.10.jpg)


何者かによる英国首相の襲撃事件があったが、首相は顔にかすり傷を負ったのみで難を逃れ、国際連盟の会議に出席するべく渡仏する。関係者がほっと安堵した矢先に今度は首相誘拐の報が入り、国家機密問題として外務省のサー・バーナードからジャップ警部の推薦を介してポワロに捜査要請が下る。会議までに残された時間は32時間と15分。差し迫った状況にも関わらず、ポワロは渡仏前の首相の英国での襲撃事件ばかりを調べて、一向にフランスへ渡る気配を見せない―(第18話「誘拐された総理大臣」)。
「名探偵ポワロ」の第18話(第2シーズン第8話)で本国放映は1990年2月25日、本邦初放映は1991年2月26日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「首相誘拐事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「誘拐された総理大臣」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「首相誘拐事件」)などに所収などに所収。
ポワロはフランスで首相と共に襲撃されたというダニエルズ中佐が英国に帰って来ているというので会いに行きます(事件当時の運転手にも会いに行くがこちらは行方不明に)。なかなか渡仏しないポワロに対しサー・バーナードは苛立ちを露わにし(原作と異なり最後まで渡仏しない)、「(ポワロを推薦した)私の年金もパアかも」と嘆くジャップ警部に、ポワロは以前に中佐と派手に離婚争議をやったという元妻イモジャン(ミス・レモン、ここでもゴシップ通を発揮)のことを調べるよう依頼します。
この辺りから何となく読めてしまう感じもします。ポワロ・シリーズで政治や外交を扱ったものは大味になりがちだという典型例かも(警察だけでなく軍隊まで登場)。分かり易く映像化されていますが、その分、替え玉工作の"無理さ加減"などが露呈した印象も。

ベルギー出身の国際的映画スター、マリー・マーベルのもとに、満月の晩にダイヤ"西洋の星"を盗むという脅迫状が届いた。西洋の星には対になる宝石があり、それはレディー・ヤードリーの持つ"東洋の星"と呼ばれるダイヤだという。そして、ヤードリー家にも脅迫状が届いているらしい。レディー・ヤードリーがポワロとヘイスティングスにその宝石を披露した直後、"東洋の星"は盗まれてしまい、やがて"西洋の星"もマリー・マーベルも元から消えてしまう―(第19話「西洋の星の盗難事件」)。
「名探偵ポワロ」の第19話(第2シーズン第9話)で本国放映は1990年3月4日、本邦初放映は1991年6月29日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「〈西洋の星〉盗難事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「西洋の星の事件」)などに所収などに所収。
いかにも悪そうな奴らの間に更に仲介人がいて話がややこしくなる一方で、「辮髪の男が...」といったところからして嘘臭く、何となく話が見えにくい一方で、何となくミエミエな面もあるという、観ていて落ち着かない印象でしょうか。
レディー・ヤードリーは最後良かったね、という感じ。もとは言えば、海外で"色男"に靡いてしまったという身から出た錆でもあっただけに、ポワロにどれだけ感謝しても感謝し切れないだろうなあ。一方のマリー・マーベルの方は、ポワロは彼女に悲しい知らせを伝えなければならないと言っていましたが、へイスティングスに対しては、悪党男と切れて良かったと言っています。無理にそう思い込もうとしているのではなく、ポワロ自身の本音でしょうね。全然"いい男"そうでもないし、こんなのが、彼女だけでなく、レディー・ヤードリーまで巻き込んだのが不思議ですが、この部分にケチをつけても仕方がないのでしょう。事件が解決しているのに、"消えたもう一つのダイヤ"はどこにいったのかと案じるへイスティングスは、視聴者に優越感を与えるための存在か?




暫く面白い事件もなく、ポワロは落ち込んで引退を口走り、へイスティングスを連れて北部の海辺の町ウィットコムに観光に赴く。町にはジャップ警部の講演ポスターが貼られ、本人も姿を見せるが何故かポワロは素っ気無い。ヘイスティングスはポワロ
を、湖の町ウインダミアへのバス旅行に誘う。二人はバスの中でメアリーという娘と知り合った。彼女は、骨董屋を営む叔母から、掘り出し物の画集を得意先に届けるように頼まれていた。ポワロが気に留めたもう一人のバス客は、貧弱な口髭の青年で、これは態度が失礼だったため。観光地でヘイスティングスがメアリーとランチをしている時、メアリーは突然走り出し、自分のスーツケースをその青年が盗ろうとしていると...。しかし、これは間違いで、よく似たスーツケースだったようだ。その夜、ヘイスティングスらと同宿のホテルでメアリーは、画集が盗まれたと言って騒ぎ出す。盗難届を出し、得意先にも行くと、既に絵は何者かによって得意先に売却されていた―(第16話「二重の罪」)。
「名探偵ポワロ」の第16話(第2シーズン第6話)で本国放映は1990年2月11日、本邦初放映は1991年1月22日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。
このプロットには誰でもまんまと引っ掛かるのではないでしょうか。前半部分が映像上の"叙述トリック"になっていないか、もう一度観直してみる必要はある気がしますが、プロット自体は原作にほぼ忠実に作られているようです。ポワロの謎解きが終わった後、共犯者がポワロに毒づき、そのことによって、ああ、共犯者もいたのかと思い出したくらいですから、自分もヘイスティングスと似たようなものか。
ポアロは、あるパーティーで、若夫婦のロビンソン夫妻から自分たちが分不相応な高級マンションを格安で借りることが出来たという話を耳にし、この話の背後に何か事件が拘わっていると考え捜査に乗り出す。一方、スコットランドヤードでは、ジャップ警部が、アメリカからやって来たFBI捜査官たちと、国際的なスパイ事件に関する合同捜査を行っていた―(第17話「安いマンションの事件」)。
「名探偵ポワロ」の第17話(第2シーズン第7話)で本国放映は1990年2月18日、本邦初放映は1991年2月5日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』(「安アパート事件」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿1』(「(「安アパート事件」)、新潮文庫『クリスティ短編集2』(「「安アパートの冒険」)などに所収。
冒頭でポワロ達が観ている映画はジェームス・キャグニー主演の「Gメン」('35年)という作品だそうで、当エピソードも、雰囲気的にはアメリカの犯罪サスペンス映画の雰囲気を取り入れたものと言えるでしょうか。プロット的には面白かったです(アーサー・コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズの冒険』所収の「赤毛組合」に着想がやや似た印象も)。
ただ、アメリカで起きた事件の屋外シーンが、見るからにバックが"書割り"風で(高層ビル街などは垂れ布に描いた風)、パリのナイトクラブのシーンが雰囲気があっただけに、ギャップが大きかったように思います(好意的に解釈すれば、パリのナイトクラブは今ポワロ達が見ている光景であるのに対し、アメリカでの事件は、ポワロが謎解きに際して想像したものを映像化したものであるから、わざと作り物風にしているのだと?)。
FBIの態度のデカい捜査官が、最初はポワロのことを小馬鹿にしていたのが、最後は素直にその能力を認め、感謝と脱帽の意を表しているのが快く、ポワロもさることながら、ジャップ警部も溜飲を下げたのでは。
「名探偵ポワロ(第17話)/安いマンションの事件(安アパート事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE ADVENTURE OF THE CHEAP FLAT●制作国:イギリス●本国放映:1990/02/18●監督:リチャード・スペンス●脚本:クライブ・エクストン/ラッセル・


ポワロは残高の確認のため銀行へ行くが、引き出しオーバーで赤字と言われ激昂する。その深夜、ポワロの元にピアソン頭取が訪ねてきた。謝罪に来たのかと思ったポワロだが、事件の依頼である。銀行はウー・リンという中国人から、鉱山の場所を示す高価な地図を買う事になっていたのだが、約束の重役会にウー・リンは現れず、行方が分からないという。その翌日、ウー・リンの死体が発見されるが、地図は消えていた―(第13話「消えた廃坑」)。
「名探偵ポワロ」の第13話(第2シーズン第3話)で本国放映は1990年1月21日、本邦初放映は1990年7月25日(NHK)。原作はクリスティー文庫『ポアロ登場』、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「消えた鉱山」)などに所収。
中華街のカジノ(アヘン窟でもある)での捜査など、ギャング映画っぽい雰囲気もあったし、一方で、ロンドン警察の最新システムという、無線連絡に沿って3人の婦警が地図上でミニチュアのパトカーを動かす奇妙な捜査方法などが出てきて、"ハードボイルド風"と"ホントウかいな風"が混在し、最後は、ポワロがウー・リンのパスポートと見せかけて...と、色々楽しめました。
冒頭のポワロが銀行のピアソン頭取が来たのを、謝罪しに来たのと勘違いする場面も可笑しく(原作のピアソンはビルマ鉱業の重役)、さらに可笑しいのが、モノポリーに真剣にハマっているポワロとへースティングス。ポワロは最初劣勢で、「駅にはホテルは建てられないよ」と指摘され、「実際にはあるじゃないか」「でもルールだし...」「じゃあルールが間違ってるんですよ!」とここでも激昂。「スキルなんかは全然関係のないゲームだね」と言っていたのが、ジャップ警部が訪ねてきてもゲームに熱中。事件が解決する頃にはへースティングスに圧勝し、全く逆の発言に...。因みに、残高不足はポワロの入金し忘れが原因でした。
雨の降る寒い日、ポワロの元に中年の女性が訪ねて来る。コーンワルのポルガーウイズに住む歯科医の妻ペンゲリー夫人である。夫人は胃の痛みを訴え、夫が助手のエドウィナといい仲になり、自分を殺すために毒を盛っているのではないかと話す。翌日、ポワロとヘイスティングスは夫人の住むコーンワルへ赴く。しかし、既に夫人は毒殺されていた―(第14話「コーンワルの毒殺事件」)。
ペンゲリー夫人への訪問を、彼女の方から訪ねて来た日の翌日ではなくその日にしていれば、夫人は殺害されずに済んだのではないかとの自責の念から、ポワロの事件捜査は夫人の弔い合戦の様相を呈し、また、おそらく裁判にかけられるであろう夫のペンゲリーを絞首台送りにしないためにも―と、結構最初から力が入っています。そして、ペンゲリーは実際に捕まり、裁判にかけられます(推理ドラマの"逆転のセオリー"からすれば、まず間違いなく無実だろうとの予測はつくが、その割には、当のペンゲリーは法廷でも無力化していたなあ。妻が亡くなったショックからか。毒殺事件において自らの無実を実証することの困難さというのもあるかも)。
最後、公判中のペンゲリーが犯人だと信じきって、のんびり立ち食いなんぞをしているジャップ警部に、ポワロが「勝算のない戦を続けるより、負けを認めるほうが利口です」と言って去っていったところへ、部下からの真犯人は別にいたとの報。ジャップ警部は「ポアロめぇっ!」と怒鳴りますが、ポワロが犯人を逃がす際に「2日以内に捕まる」と予言していることからすると、ジャップ警部に手柄を立てさせるための所為だったともとれます。因みに、それより前の事件直後に、ポワロはヘイスティングスに対し、警察はペンゲリーを逮捕し、彼が裁判にかけられることも予言しており、"ポワロの予言は的中する"ことの伏線になっているという構図が上手いと思いました。
「名探偵ポワロ(第13話)/消えた廃坑」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE LOST MINE●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/14●監督:エドワード・ベネット●![名探偵ポワロ[完全版]Vol.7.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DVol.7.jpg)
「名探偵ポワロ(第14話)/コーンワルの毒殺事件(コーンウォールの毒殺事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT Ⅱ:THE CORNISH MYSTERY●制作国:イギリス●本国放映:1990/01/28●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エク![名探偵ポワロ[完全版]Vol.8.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DVol.%EF%BC%98.jpg)



創立50周年の式典を行っているパイ工場。そのパイ工場の経営者ファーリーから一通の手紙を受け取ったポワロは、工場内にある彼の家を訪ねる。毎晩繰り返し、自分が自殺する不可解な夢を見ると彼は言い、誰かが催眠術で自分を殺そうとしているのではと疑っているのだった。ポワロは、その態度や依頼ともつかない彼の話に釈然としないまま工場を後にした。後日ファーリーが、ポワロに話した夢と同じような方法で自殺をする。しかしポワロは、その死に疑問を持ち調査を始める―(第10話「夢」)。
「名探偵ポワロ」の第10話(第1シーズン第10話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年7月11日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、創元推理文庫『砂に書かれた三角形』などに所収。
サイコ・ミステリと思わせておいて...というのは、クリスティ作品に結構あるパターンではないでしょうか。今回はポワロはかなり行き詰った様子を見せ、「若い頃の放蕩」が今になって祟ったのではないかと彼らしからぬことまで口にしますが(ヘイスティングスもこのポワロには似つかわしくない言葉にはさすがに唖然とする)、偶々ポワロに時刻を聞かれたミス・レモンが窓を開けて時計台を見て答えた、その何でもないような彼女の行動を見て一気に閃きます。
では、その前までは、どこまで判っていたのか。ファーリーに例の手紙を返してくれと言われて最初別の手紙を返したのは単純ミスだったのか。でも、何となくおかしい雰囲気は感じていたようでした(自分も感じたけれど、どこがおかしいかは全然分からなかった)。結局、ポワロは犯人が○○していたのを見破ったわけですが、それは、ミス・レモンの啓示より前か同時か、気になるところです。
ポワロたちが、最近起きた宝石泥棒の話をしていると、伯爵令嬢のミリセントがある捜査の依頼をしにやってくる。公爵と結婚することになっている彼女は、ラビントンという男に、昔の恋人に出した手紙をネタにゆすられており、その手紙を取り返してほしいというのだ。ポワロはラビントンと交渉するが、話は
決裂する。やむなく、ポワロはヘイスティングスと共にラビントン家に押し入るが―(第12話「ベールをかけた女」)。
第10話「夢」では犯人が○○していましたが、今回はポワロが錠前屋を装ってラビントン家に単独入り込んで細工を施し、夜にまた、今度はヘイスティングスを伴って侵入、例の手紙は見つかりますが、通いだったはずの家政婦がいて警官に通報され、逃げ遅れたポワロのみ留置場に入れられてしまうという展開(但し、留置場に入れられるのはドラマのオリジナル)。
家政婦は最初から怪しいと思っていたということで(ということは「通い」というのがウソだったのか)、変装やアクションがイマイチなのがポワロらしいというか、先ずそれ以前に、スーパーマリオ・ブラザーズみたいな格好の"スイス人"錠前屋に扮したり、黒のニット帽を被って上下黒ずくめの出で立ちで不法侵入の危険を冒すところはポワロらしくないというか。やっぱり、結構ユニークなエピソードと言えるかも。
「名探偵ポワロ(第10話)/夢」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE DREAM●制作国:イギリス●本国放映:1989/03/12●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/アラン・ハワード(ベネディクト・ファーリー)、ジョエリー・リチャードソン(ジョアンナ・ファーリー)●日本放映:1990/07/11●放映局:NHK(評価:★★★☆)
●脚本:クライブ・エクストン●時間:54分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/フランシス・バーバー(レディー・ミリセント)/キャロル・ヘイマン(ゴッドバー夫人)●日本放映:1990/07/18●放映局:NHK(評価:★★★☆)




新型戦闘機の開発設計を手がける夫メイフィールドがドイツのスパイとの噂のあるバンダリン夫人を屋敷に招待していると知ったメイフィールド夫人。悩んだすえ国家の一大事とポワロに依頼し、屋敷に招くことに。その夜、まんまと設計図が紛失し、バンダリン夫人が盗んだと思われたが―(第8話「なぞの盗難事件」)。
「名探偵ポワロ」の第8話(第1シーズン第8話)で本国放映は1989年2月26日、本邦初放映は1990年3月10日(NHK)。原作はクリスティー文庫『死人の鏡』(「謎の盗難事件」)、創元推理文庫『死人の鏡』(「謎の盗難事件」)などに所収。
意外と凝っていたなあと。ポワロは、バンダリン夫人は犯人ではないと早々と宣言していましたが、ではシロかと言うとそうとも言えないのではないでしょうか。しかし、ドイツのスパイ組織と交渉したにしても、こんな面倒なトリックを使うかなあという気もしました(ポワロに見破られるための契機をわざわざ作ったことになる)。ちょっと凝り過ぎ?
最後、夫婦間の信頼が回復できて「めでたし、めでたし」、ポワロも表向き笑みを隠しながら、実は目を細めニッコリという感じですが、夫がかつて軍事秘密を敵国(日本)に売ったというのは、恐喝ネタになっていたということからすると本当だったということか。まあ、過去のことより、今のことの方が大事?
ポワロは、ヘイスティングスの友人が監督をしている撮影現場を見に行く。主演は人気絶頂の美人女優ヴァレリー、夫役はサイレント時代の大スター・ウォルトンだが、彼は酔っており台詞も満足に言えない。そして、現場で我もの顔にふるまっているプロデューサーのリードバーンがいた。ヴァレリーはある国の皇太子ポールと婚約しているが、リードバーンに何やら弱みを握られているらしい。その夜、ポワロの元に一本の電話がかかる。自宅にてリードバーンが殺され、第一発見者ヴァレリーの潔白を証明してほしいという依頼だった―(第9話「クラブのキング」)
「名探偵ポワロ」の第9話(第1シーズン第9話)で本国放映は1989年3月12日、本邦初放映は1990年3月17日(NHK)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「クラブのキング」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「クラブのキング」)などに所収。
これも結構凝っていました。原作の興行主とダンサーの関係がプロデューサーと女優に置き換わっていますが、事件当夜ボスの自宅玄関前に三人の男女が次々と現れ慌てて立ち去る姿が見られたというのは原作と同じ。最初、オグランダー家(ここへヴァレリーが逃げ込み匿われる)でその家の家族たちポーカーをしていたその痕跡にポワロがこだわっている意味が不明でしたが、後でナルホドねと。但し、家族として義絶しているのに、隣りなり(プロデューサーの家の隣りだが)近所なりに住んでいるというのはご都合主義的な印象も受けます。
それと、やはり最後は「めでたし、めでたし」ですが(丁度嫌な奴もいなくなったことだし?―コレ、制作に口出しするプロデューサーを揶揄してる?)、事件そのものは「傷害致死」が成立しているとも言える状況でありながら、ポワロが意図的に迷宮入りにしてしまったとも言える結末で(これはドラマのオリジナルで、原作ではこの「傷害致死」に該当する部分が無かったのではないか)、この辺りが何となく素直に「めでたし、めでたし」とは言えない印象も。原作では、オグランダー家が家族を一徹なまでに守り切り、ポワロはそれに押されたという感じだったでしょうか(正確には未確認)。少なくともドラマでは、ポワロは積極的にオグランダー家に加担した印象を受けます(ポワロの台詞「家族万歳」!)。
ただ、死んだリードバーンから排斥され関係が険悪だったジプシー(ロマ)の中に犯人はいるのではないかとハナから疑ってかかって、真相からほど遠いところを漁っているジャップ警部からすれば、"ポワロにも解けない事件がある"というのは安心材料なのかも。
「名探偵ポワロ(第8話)/なぞの盗難事件(謎の盗難事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE INCREDIBLE THEFT●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/26●監督:エドワード・ベネット●脚本:デビッド・リード●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン)/ジョン・ストライド(トミー・メイフィールド)/シアラン・マッデン(レディー・メイフィールド)●日本放映:1990/03/10●放映局:NHK(評価:★★★)
「名探偵ポワロ(第9話)/クラブのキング」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: THE KING OF CLUBS●制作国:イギリス●本国放映:1989/03/12●監督:レニー・ライ●脚本:マイケル・ベイカー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ニーヴ・キューザック(バレリー・サンクレア)/ジャック・クラフ(ポール皇太子)/Jonathan Coy(バニー・ソーンダース監督)/David Swift(リードバーン)●日本放映:1990/03/10●放映局:NHK(評価:★★★)


ポアロが住むホワイトヘイブンマンションの自宅56Bの二階下36B号室に、裕福なグラント夫人が引っ越してくる。 ポアロはこのところ風邪をこじらせて自室に閉じこもったまま元気が無く、見かねたヘイスティングスがポアロを推理劇に誘う。観劇で二人は、ポアロの直ぐ階下46B号室の住人で 若い女性パトリシア・マシューズを見かける。劇が終わり、アパートに戻ったマシューズと友人達は部屋の鍵が無い事に気付き、友人のドノバンとジミーがゴミ用エレベーターから入ろうとするが、間違えて1つ下の36B号室に入ってしまう。そこで二人はグラントの夫人の死体を発見する―(第5話「4階の部屋」)。
「名探偵ポワロ」の第5話(第1シーズン第5話)で本国放映は1989年2月5日、本邦初放映は1990年2月17日(NHK)。原作はクリスティー文庫『愛の探偵たち』(「四階のフラット」)、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』(「四階の部屋」)などに所収。
原作を多少変えているようですが、引っ越して来たグラント夫人が、1つ上の階のパトリシア・マシューズが友人と音楽とダンスに興じ、下の自分の階に響いてウルサイため、手紙で苦情を伝えようとした―と思わせる所は上手いと思いました。ただ、お手伝いが、部屋に入って来て死体に気づかないまま寝てしまったというのはどうか。何れにせよ、犯人を推理するのは無理な"知られざる背後関係"設定であり、それでもポワロは推理してしまうわけですが(しかも"速攻"で解決!)、意外性は楽しめる作品ではないでしょうか。
ポワロとヘイスティングスが船で乗り合わせたクラパトン大佐夫妻。夫人は傍若無人な言動をくり返すが、大佐はそんな妻にも献身的だった。それには夫人の古い友人の将軍も憤ったり呆れたりしている。ところが、船がアレクサンドリア港に停泊中、大佐が船に戻ると、鍵のかかった船室で夫人は殺されていた。アレキサンドリアの警察に介入されたくないというと船長の意向でポワロは捜査に乗り出す―(第7話「海上の悲劇」)。
「名探偵ポワロ」の第7話(第1シーズン第7話)で本国放映は1989年2月19日、本邦初放映は1990年3月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『黄色いアイリス』(「船上の怪事件」)、創元推理文庫『砂に書かれた三角』(「海上の悲劇」)などに所収。
優雅の地中海クルーズとそれに参加している貴族趣味っぽい乗客たち。どういう訳か、その中におそらく休暇中と思われるポワロとヘイスティングも混ざっています(ジャップ警部とミス・レモンは"お休み")。乗客の中でもとりわけ皆から嫌われているのがクラパトン夫人で、大佐はよくあんな女性の夫でいるものだと陰口を叩かれる始末。殺され
るならこの夫人だろうと思って観ていましたが(そうすれば皆が容疑者になるから)、肝腎の事件はなかなか事件は起こらず、船はアレクサンドリア港に寄港。「地中海殺人事件」ではないですが、観光情緒はそこそこ味わえます。TV版としては結構贅沢な方かも。
「名探偵ポワロ(第5話)/4階の部屋」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE THIRD FLOOR FLAT●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/05●監督:エドワード・ベネット●脚本:マイケル・ベイカー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /スザンヌ・バーデン(パトリシア・マシューズ)/ジョシィ・ローレンス(グラント夫人)●日本放映:1990/02/17●放映局:NHK(評価:★★★☆)

「名探偵ポワロ(第7話)/海上の悲劇(船上の怪事件)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I: PROBLEM AT SEA●制作国:イギリス●本国放映:1989/02/19●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /ジョン・ノーミントン(クラパトン大佐)/シェリア・アレン(クラパトン夫人)/ベン・アリス(ファウラー船長)●日本放映:1990/03/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)![名探偵ポワロ[完全版]Vol.2.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%5B%E5%AE%8C%E5%85%A8%E7%89%88%5DVol.2.jpg)


地方の大地主マーカス・ウェイバリーが、ポワロのところへ相談に訪れる。5万ポンドを支払わないと、翌日息子ジョニーを誘拐するという脅迫状を受け取ったと言うのだ。ヘイスティングスは、ウェイバリーの話を半信半疑で聞いていた。ポワロは、ウェイバリーを連れてジャップ警部を訪ねるが、ジャップ警部もまた事件としては扱ってくれない。事件を未然に防ぐことが重要だと考えるポワロは、ウェイバリー邸に赴き、やがてジャップ警部も部下を引き連れ警戒にあたるが、2人はジョニーを目の前で誘拐されてしまう―(第3話「ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」)。
デヴィッド・スーシェ主演の英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第3話(第1シーズン第3話)で本国放映は1989年1月22日、本邦初放映は1990年1月27日(NHK)。原作はクリスティー文庫『愛の探偵たち』、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』などに所収。
振り返ってみれば、この回のポワロは結構犯人に翻弄されて、現場を離れた隙に子供を誘拐されてしまうなど複数のミスしている感じがするのですが(時計が10分進められていたことにポワロもジャップ警部も気
づかなかったというのはちょとねえ)、その割には「足行水」などして若干のんびりした雰囲気がするのは、事件が誘拐であって殺人事件ではないためか、それとも翻弄されているように見えて実は早い段階でポワロには犯人の目星がついていたためか。
友人の歯科医ボニントンとレストランで食事をしたポワロは、そこの常連客であるという老人が最近長年の習慣にないメニューを口にしたという話に興味を惹かれる。数日後、その老人は遺体で発見され、警察は階段からの転落事故死と判断したが、ポワロは老人が死の直前にレトランでとった行動の不自然さから不審を抱き、独自に調査に乗り出す―(第4話「24羽の黒つぐみ」)。
英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第4話(第1シーズン第4話)で本国放映は1989年1月29日、本邦初放映は1990年2月3日(NHK)。原作はクリスティー文庫『クリスマス・プディングの冒険』、創元推理文庫『二十四羽の黒ツグミ』などに所収。
ミス・マープル物の長編『ポケットにライ麦を』と同じくマザーグースの"6ペンスの歌"がモチーフとして使われていますが、『ポケットにライ麦を』ほどには歌詞がプロットに絡んでいないように思いました。
ポワロが歯の治療中で肉料理が食べられず、自分で肉料理を作ってヘイスティングスに食べさせ、その味はどうかしきりに気にするという場面が可笑しかったし、抽象絵画を観てそのタイトルが「鳥に石を投げる男」だと聞いてヘイスティングスが「ほぅ。で、どっちが男?」と言ったり、ポワロがクリケットの試合に夢中で気も漫(そぞ)ろのヘイスティングスにイラついたり皮肉を言ったりしつつ、ラストで自ら試合結果を分析してみせヘイスティングスを唖然とさせる場面なども楽しいです。ただ、こうした場面ばかり印象に残って、ポワロの鋭さというのは意外と感じられなかったような気も。
「名探偵ポワロ(第3話)/ジョニー・ウェイバリー誘拐事件」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE ADVENTURE OF JOHNNIE WAVERLY●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/22●監督:レニー・ライ●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ジェフリー・ベイトマン(マーカス・ウェイバリー)/ジュリア・チャンバース/DOMINIC ROUGIER●日本放映:1990/01/27●放映局:NHK(評価:★★★☆)
「名探偵ポワロ(第4話)/24羽の黒つぐみ」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:FOUR AND TWENTY BLACKBIRDS●制作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/29●監督:レニー・ライ●脚本:ラッセル・マレー●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部)/ポーリン・モラン(ミス・レモン) /リチャード・ハワード(ジョージ・ロリマー)/トニー・エイトキン(トミー・ピナー)/CHARLES PEMBERTON/GEOFFREY LARDER/DENYS HAWTHORNE/HOLLY DE JONG●日本放映:1990/02/03●放映局:NHK(評価:★★★☆)

ヘイスティングスが新聞に載っている面白そうな事件を読み上げてみても、国家的重大事件でなければ引き受けないと言うポワロ。そんな彼のもとへコックが失踪したから探してくれという夫人が現れる。依頼を拒否しようとするポワロだったが、夫人から、熟練したコックがいなくなるのは家宝の宝石を失うに等しい国家的事件だと言われて、これは失礼だったと依頼を受けることに。ポワロが話を聞いた下働きの女性は、彼女は奴隷商人に誘拐されたに違いないと言うが、荷造りしていたために、誘拐ではなく、自分から姿を消したのだとポワロは考える。家に下宿している銀行員にも事情を聞くが、何も知らないと言う。彼の勤める銀行では証券紛失事件があり、不審に思ったポワロだが、そうこうするうちに依頼主の夫人から、コックが勝手に出て行ったなら依頼は取り消しだと1ギニーが送られてきてまう―(第1話「コックを捜せ」)。
デヴィッド・スーシェの主演英国LWT(London Weekend Television)制作「名探偵ポワロ」(ポワロの声の吹き替えは、昨年['15年]10月に88歳で亡くなった熊倉一雄が最終シリーズまで務めた)の第1シーズン第1話で本国放映は1989年1月8日、本邦初放映は1990年1月20日(NHK)(記念すべき第1話だが、日本での放送は第2話の方が1週先だった)。原作はクリスティー文庫『教会で死んだ男』(「料理人の失踪」)、創元推理文庫『ポワロの事件簿2』(「料理女を捜せ」)などに所収。
結局、コック失踪事件は銀行の横領事件から殺人事件へと発展していき、プロットの密度は濃いですが、これでほぼ原作通りのようです。失踪したのはコックと言うより家付きの料理女といった感じでしたが、完全に犯人い騙されていたのだなあ。しかし、
殺人の犯行において死体を隠すというのは結構たいへんであるにしても、それ用のトランク1つのために、弁護士になりすますなどしてここまでやるかなあというのはあります(それで話が面白くなっているも確かだが)。ただ、同居人ということで、彼女がそういう話に乗ってくるタイプだということは読んでいたのでしょう(高齢者を狙った詐欺だね。金を奪うわけではないけれど)。
ガイ・フォークス・デイの夜、こんな晩なら銃声が花火の音にまぎれてしまうので殺人にはもってこいだとヘイスティングスは言うが、その翌日、女性が自宅で射殺体で発見される。被害者は、若き美貌の未亡人バーバラ・アレンで、当初自殺と思われたが、状況に不審な点があり、警察は
他殺と断定する。第一発見者は、ルームシェアをしていた女性写真家のジェーン・ブレンダーリースで、彼女にはアリバイがあり、他に容疑者として、被害者のバーバラと婚約していた下院議員
チャールズ・レイバトン・ウェスと、ジェーンとバーバラの部屋をしばしば訪れていたユースタス少佐が浮上する。さらに、少佐は被害者との過去の愛人関係を理由にして、恐喝していたようだった―(第2話「ミューズ街の殺人」)。
英国LWT制作「名探偵ポワロ」の第2話(第1シーズン第2話)で本国放映は1989年1月15日、本邦初放映は1990年1月13日(NHK)。原作はクリスティー文庫『死人の鏡』(「厩舎街の殺人」)、創元推理文庫『死人の鏡』(「厩舎街の殺人」)などに所収。"ミューズ"は"Muse"ではなく"Mews(厩舎)"で、転じて厩から通りまでの「路地」を言います。
ガイ・フォークス・デイ(11月5日)は、1605年の「火薬陰謀事件」で国会爆破をもくろんだ実行犯のガイ・フォークスが捕らえられた
記念日で、祭りでは篝火で人形を燃やします(但し、ガイ・フォークスは火刑ではなく絞首刑に処せられた)。英語で「男、奴」を意味する"Guy"は彼の名に由来し、また、ガイ・フォークス・デイに人々が着けるお面は、アノニマス、ウィキリークスのジュリア・アサンジが"抵抗と匿名"のシンボルとして用いています。
話の方は、自殺だと思ったら他殺...と思ったら...と二転三転する展開に引き込まれますが、"犯人"はちゃんといましたね。"犯人"と言っていいのかどうか分かりませんが、ポワ
ロははっきり「殺人未遂」と言ってます。この辺りの厳格さはポワロらしいという気がします。それでも"犯人"の気持ちが分からないでもないですが。


![名探偵ポワロ [レンタル落ち] 全52巻.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E5%90%8D%E6%8E%A2%E5%81%B5%E3%83%9D%E3%83%AF%E3%83%AD%20%5B%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AB%E8%90%BD%E3%81%A1%5D%20%E5%85%A852%E5%B7%BB.jpg)
「名探偵ポワロ(第1話)/コックを捜せ(炊事婦の失踪)」●原題:AGATHA CHRISTIE'S POIROT I:THE ADVENTURE OF THE CLAPHAM COOK●制
作年:1988年●制作国:イギリス●本国放映:1989/01/08●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・レモン) /ブリジット・フォーサイス
国:イギリス●本国放映:1989/01/15●監督:エドワード・ベネット●脚本:クライブ・エクストン●時間:55分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/ヒュー・フレイザー(ヘイスティングス) /フィリップ・ジャクソン(ジャップ警部) /ポーリン・モラン(ミス・




ポアロが歯科検診のため歯科医ヘンリイ・モーリイの所に行って自宅に帰ると、ジャップ警部からモーリイが死んでいるのが見つかったとの連絡がある。ポアロがさっきまでいた歯科医院に駆けつけると、診療室の床にモーリイの死体があり、こめかみをピストルで撃ち、足元のピストルからはモーリイの指紋のみが検出される。ポアロの診察は11時で、診察名簿によればポアロの後に治療を受けたのは、11時半に英国の経済を一人で動かしているともいわれる銀行家のアリステア・ブラント、その後に元女優ミス・セインズバリイ・シールが続いた。セインズバリイ・シールは痛みが我慢できないとの電話をかけてきてこの時間にモーリイが割り込ませた急患だった。そして12時にはサヴォイ・ホテル滞在の新患アムバライオティス氏、12時半にミス・ガービイの順だった。ジャップ警部がサヴォイ・ホテルに電話したところ、アムバライオティス氏は12時25分に診療を終え、その時には歯科医は元気だったという。アムバライオティス氏の診療が終わったが、モーリイが次の患者を診療室に入れるように合図するブザーがいつまでも鳴らず、ミス・ガービイは待ちくたびれて怒って帰ってしまっていた。その後で、患者を案内するボーイが診療室を覗いてみてモーリイの死体を発見したのだった。 検死の結果、死亡推定時刻は1時より前であることは間違いなく、歯科医の死はアムバライオティス氏の診療が終わった12時25分から1時の間に起きたと考えられた。ジャップは自殺を主張したが、ポアロは納得しない。自殺か殺人か決めかねるポアロとジャップは、最後の患者アムバライオティス氏をサヴォイ・ホテルに訪ねると、氏は30分ほど前に死亡していた。死因は歯科医が局部麻酔として歯肉に注射するアドレナリンとプロカインの過
剰投与で、氏の診療の際に薬の分量を間違え、後でそれに気づいたモーレイが過失を苦に自殺したとジャップは自説を述べる。ポアロはあくまで殺人を主張し捜査を始めるが、今度はミス・セインズバリイ・シールがホテルを出たままどこかに消えてしまう。セインズバリー・シールの行方不明から1カ月経過し、捜査が完全に停滞してしまった頃に、彼女の死体が発見される。チャップマン夫人と名乗る女性のマンションの部屋のなかの、毛皮保管用の衣装箱に死体は詰め込まれていた。死後約1カ月で顔は故意に潰されていた。腐敗も激しく死体の身元の確認はできなかったが、服装や管理人の証言からセインズバリイ・シールと思われた。ところが、モーリイの診療所にあったカルテで歯型を確認すると、死体はセインズバリー・シールではなくチャップマン夫人であることが判明、夫人もモーリイの患者だった。では、ミス・セインズバリー・シールはどこに消えたのか? モーリイ、アムバライオティスの死は他殺なのか?
1940年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品(『杉の柩』の次)で、原題はマザーグースに由来する"One, Two, Buckle My Shoe"ですが(各章ごと、マザーグースの歌詞に沿って話が展開する)、邦
訳タイトルは、米国版タイトルの"The Patriotic Murders" に拠っています(その後、米国版は"An Overdose of Death"に改題)。「愛国殺人」の方が、内容にしっくりくるタイトルでしょうか(何故「愛国殺人」というタイトルなのかを詳しく言ってしまうと、イコール犯人は誰かを言ってしまうことになってしまうとも言えるのだが)。





米国とメキシコの国境で、町の有力者が車に仕掛けられた爆弾によって爆死する。新婚旅行で町に来ていたメキシコ人麻薬捜査官のバルガス(チャールトン・ヘストン)は米国側の刑事クインラン(オーソン・ウェルズ)やその相棒のメンジス(ジョゼフ・キャレイア)らと協力して捜査にあたる。クインランはメキシコ人の容疑者
を逮捕するが、証拠の品はクインランが捏造したものだった。それに気付いたバルガスはクインランの扱った過去の事件を調査すると、過去にも同様にクインラン
によって証拠が捏造されたと思われる事件があった。バルガスは警察上層部にクインランを告発するが逆に反論され、警察もク
インランに味方する。バルガスの告発に危機を抱いたクインランは、バルガスに敵対するギャングのグランディ(エイキム・タミロフ)にバルガスの妻スーザン(ジャネット・リー)を誘拐させ、ホテルの一室に連れ込ませる。クインランはその部屋
でグランディを絞殺し、スーザンに殺人の罪を着せようとす
る。しかしクインランが現場に置き忘れた杖をメンジスが発見し、彼はバルガスに協力することを決意する。メンジスは無線機を身に付けてクインランとの会話を録音し、証拠をつかもうとする。しかしそれを見破ったクインランはメンジスを射殺、後を付
けていたバルガスをも撃とうとする。が、メンジスが最期にクインランを撃ち、録音された証拠のテープを聞きながらクインランは息絶える。しかしその頃、クインランが捏造した証拠で逮捕されたメキシコ人は、爆弾事件の犯人であることを自白していた―。
1958年に作られたこの映画は、当初オーソン・ウェルズは俳優としてのみの起用で、監督は別人に依頼する予定だったのが、ユニヴァーサルがチャールトン・ヘストンと出演交渉を行った際に、ウェルズの出演を知ったチャールトン・ヘストンが、ウェルズが監督も兼ねることを会社に強く要望したためにウェルズの監督が実現したとのことです。
映画は2本立ての添え物の方の一本として公開され、興行的には惨憺たる失敗で、米国内の批評家からも黙殺され、結果的にウェルズにとって本作品がアメリカにおける最後の監督作品となりますが、同年のブリュッセル万国博覧会で上映された際には審査員のジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーたちから絶賛され、万博での最高賞を与えられています。

更に、オーソン・ウェルズが監督することになった段階で、原作ではメキシコ人の妻を持つアメリカ人地方検事補佐が主人公だったのを、夫婦の国籍を逆にし(つまり、チャールトン・ヘストンがメキシコ人で、ジャネット・リーがアメリカ人の妻ということにした)、物語の舞台をカリフォルニア州からアメリカとメキシコの国境地帯にするなどの様々な設定の変更をウェルズは行っています。
また更にウェルズは、実際の映画化(撮影)段階で、映画が始まってすぐの爆弾のクローズアップから爆発までの3分18秒をワンショットで見せることにし、その他にもこの作品には5分を超える長回しが複数回ありますが、とりわけ冒頭のこの長回しシーンは、作品自体の再評価を経て、今や映画史に残ると言ってもいいシークエンスとされています。
それらに加えてウェルズは、当初予定していなかった2人の俳優、モーテルの夜勤係のデニス・ウィーバー(スティーヴン・スピルバーグ監督のTV映画「
但し、作品として成功していなければ、どうにも評価のしようがないでしょう。この作品は、細部を見れば、足の悪いクインランが現場に杖を置き忘れるか?といった穴が無くもないし、作品そのものが部分的にカットされてしまったことで、ラストでの、メンジスに撃たれたクインランの死の間際の「これはおまえのために受けた2発目の銃弾だ」という言葉の意味が分かりにくくなっているということもあるかと思いますが、それでもやはり、ウェルズの万能ぶりが発揮されたフィルム・ノワール史上に残る傑作であると思います(逸失部分があるのが残念)。
マレーネ・ディートリッヒは、ウェルズとの友情からノークレジット、ノーギャラでOKという事で出演を快諾したそうですが、2日間だけの撮影参加ながら、自前の衣装を着てウェルズが彼女を想定して書き加えたジプシー女ターニャを魅力たっぷりに好演(ラッシュ・フィルムを観て大物
女優の出演を初めて知った
スタジオの重役たちは、ディートリッヒの名前をクレジットに出すために彼女に出演料を支払った)、最後の方のセリフで、クインラインを愛していたのは私ではなく、彼を殺した部下の男メンジスだったと言うのは、この作品のテーマの1つ(クインラインとそれを支えた部下との愛憎)を端的に言い当てているように思いました。ディートリッヒ自身は後にこの場面を、自身の女優としてのキャリアの中で最高の演技だったと述べています。
「黒い罠」●原題:TOUCH OF EVIL●制作年:1958年●制作国:アメリカ●監督・脚本:オーソン・ウェルズ●製作:アル
バート・ザグスミス/リック・シュミドリン(修復版)●撮影:ラッセル・メティ●音楽:ヘンリー・マンシーニ●原作:ホイット・マスターソン「黒い罠」●96分(劇場公開版)/109分(試写会版)/111分(修復版)●出演:オーソン・ウェルズ/チャールトン・ヘストン/ジャネット・リー/ジョセフ・カレイア/エイキム・タミロフ/マレーネ・ディートリッヒ/デニス・ウィーヴァー/ヴァレンティン・デ・ヴァルガス/モート・ミルズ/ヴィクター・ミリアン/ジョアンナ・ムーア/ザ・ザ・ガボール/ジョセフ・コットン(ノンクレジット)●日本公開:1958/07●配給:ユニヴァーサル・ピクチャーズ(評価:★★★★)



大晦日、豪華客船ポセイドン号は北大西洋を航海していた。客室にいたクリスチャン(マイク・ヴォーゲル)と恋人ジェニファー(エミー・ロッサム)は、彼女の父ラムジー(カート・ラッセル)が来たため慌てて離れる。賭博師ディラン(ジョシュ・ルーカス)は、エレナ(ミア・マエストロ)という女性とぶつかるが、実はエレナは、ウエイターのヴァレンタイン(フレディ・ロドリゲス)の手引きでの密航だった。乗客はダンスホールに集まり、船長(アンドレ・ブラウアー)の挨拶でパーテ
ィーが始まる。歌手グロリア(ファーギー)がステージに登場し、バンドの演奏で歌い始めた。ラムジーやディラン、ラッキー・ラリー(ケヴィン・ディロン)といった面々は、カジノでカードに興じている。ジェニファーはクリスチャンとディスコに向かい、ディランは、シングルマザーのマギー(ジャシンダ・バレット)と息子のコナー(ジミー・ベネット)に出会う。建築家のネルソン(リチャード・ドレイファス)は仲間たちに、妻から別れ話を切り出され
たことを打ち明ける。新年が訪れ、ダンスホールで乗客たちが盛り上がる中、ブリッジでは一等航海士が異変を感じ取っていた。異常波浪に気付いた彼は慌
てて面舵を切らせるが、ポセイドン号は激しい揺れに見舞われ転覆、ディスコでは火災が発生して照明が消え、船は逆さまになり、大勢の犠牲者が出る。衝撃が収まると、船長は「ここに留まって助けを待っていれば安全だ」と告げるが、ディランは船長の
言葉に従わず、船底から外に出るつもりだと言い、ラムジーも娘を捜すため同行を決める。ネルソンは建築家の見地から、船長の安全宣言に懐疑的だった。ラムジーはディランに、共に協力し合おうと持ち掛けるが、彼は断わる。ラムジーはヴァレンティンに乗務員出口に案内してくれたら報酬を払うと持ちかけ、ディランにも改めて協力を持ちかけるとディランは承諾し、マギー母子、ネルソンも彼らに付いていくことに。一方、ディスコではクリスチャンが瓦礫に足を挟まれて動けなくなっており、ジェニファーとエレナが救出を試みていた―。

話の枠組みだけは「ポセイドン・アドベンチャー」を踏襲しており、皆が留まっているダンスホールから独自に脱出を図るメンバーの数が「10名」であるのも同じです(早い段階でその内2人が犠牲
になるのも同様)。序盤で彼らの出自が簡単に紹介的に描かれているだけに、それらがどう人間ドラマとして反映されるのかと思いましたが、やはり、結局はあまり深く描かれてなかったという印象でした。期待して観ると肩すかしを喰います(但し、人間ドラマより純粋スペクタクルを好む人にはそう悪くないかも)。
そもそも、カート・ラッセルはジーン・ハックマンのように他の乗客に一緒に脱出しようと強く働きかけることもしないし、脱出行に出たコアメンバ-もオリジナルに比べると何となく結束力が弱い感じ。潜水で犠牲者が出るのはオリジナルと同じですが、オリジナルではジーン・ハックマンを救うためにシェリー・ウィンタース演じる中年女性が犠牲
になるのだけれど、この作品でエレナ(ミア・マエストロ)の死は殆ど事故のようなもの。カート・ラッセルは最後にヒロイックな犠牲的精神を発露しますが、ジーン・ハックマンのような牧師が"神"に向かって呼びかけるといった重い感じもありません。
一方で、オリジナルは、3人の女性がアクションシーンで何かと脚線美を披露するなど、B級映画的要素も兼ね備えていたのに、そうした部分はこのリメイクでは(慎み深く?)抑え気味で、歌手のファーギーやブエノスアイレス出身の女優ミア・マエス
トロ、「

「ポセイドン」●原題:POSEIDON●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督:ウォルフガング・ペーターゼン●製作:ウォルフガング・ペーターゼン/アキヴァ・ゴールズマン/ダンカン・ヘンダー
ソン/マイク・フレイス●脚本:マーク・プロトセヴィッチ●撮影:ジョン・シール●音楽:クラウス・バデルト●原作:ポール・ギャリコ●98分●出演:カート・ラッセル/ジョシュ・ルーカス/ジャシンダ・バレット/リチャード・ドレイファス/エミー・ロッサム/ミア・マエストロ/マイク・ヴォーゲル/ジミー・ベネット/アンドレ・ブラウアー/フレディ・ロドリゲス/ケヴィン・ディロン/カーク・B・R・ウォーラー/ファーギー(ステイシー・ファーガソン)/ケリー・マクネア●日本公開:2006/06●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:丸の内ピカデリー1(06-07-01)(評価:★★☆)


「ポセイドン・アドベンチャー」●原題:THE POSEIDON ADVENTURE●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:ロナルド・ニーム●製作:アーウィン・アレン●脚本:スターリング・シリファント/ウェンデル・メイズ●撮影:ハロルド・E・スタイン●音楽:ジョン・ウ
ィリアムズ/アル・カシャ/ジョエル・ハーシュホーン●原作:ポール・ギャリコ「ポセイドン・アドベンチャー」●時間:117分●出演:ジーン・ハックマン/アーネスト・ボーグナイン/レッド・バトンズ/キャロル・リンレー/ロディ・マクドウォール/ステラ・スティーヴンス/シェリー・ウィンタース/ジャック・アルバートソン/パメラ・スー・マーティン/エリック・シーア/レスリー・ニールセン/アーサー・オコンネル●日本公開:1973/03●配給:20世紀フォックス(評価:★★★☆)
81,000トンの豪華客船「ポセイドン号」は1,400名の乗客を乗せてニューヨークを出港、ギリシャ行の航海に出たが、船長(レスリー・ニールセン)は、船の重心が高くバラスト(底荷)をしていないため、大波に襲われて転覆することを恐れていた。
船内ホールでは大晦日の年越しパーティーが開かれていたが、折しもクレタ島沖で海底地震が発生して高さ32mの巨大津波が船を襲い、船体に問題があった船はあっという間に転覆、ホールの船客らは、それまでの
上部が足下に、足下が上部にひっくり返って、躰ごと投げ出されて落下、壁に叩き落されるなどし、船内は阿鼻叫喚の地獄図となる。180度横転したホールには、この時点ではまだ相当数が生存しており、その内の1人のパーサーは、この場に留まることが最善で、救援隊が来るまでここで待機しようと訴える。しかし牧師のフランク・スコット(ジーン・ハック
マン)は、留まっていれば海面下に置かれているホールはやがて浸水して全員死ぬので、ひとまず上に上がって「船底」の竜骨付近に行ってそこで救援隊を待つ方がよいと主張、ホールに居た船客も意見が分かれるが、牧師に従って上に登る決意をしたのは僅か8名だった。スコット牧師らは、大きなクリスマスツリーをよじ登って、上にいたボーイのエイカーズ(ロディ・マクドウォール)と合流、その時、大爆発がし鉄砲水が残りの大勢の船客を押し流すが、牧師にはどうすることも出来ない。牧師に
1969年に発表されたポール・ギャリコの小説を原作として1972年に映画化された作品で監督はロナルド・ニーム(1911-2010/享年99)、製作は後に同じパニック映画「タワーリングインフェルノ」('74年)を製作するアーウィン・アレンです。'72年公開作では「ゴッドファーザー」('72年)に次ぐ全米興行収入を上げ、日本でも、'73年の興行収入第1位となり、パニック映画ブームの先駆けとなった作品とされていますが、個人的にはテレビで観たと思います(記録を調べると、1976年10月11日TBS「月曜ロードショー」で放送され、その後、2006年6月15日にテレビ東京「午後のロードショー」で放送されたりしている)。
まず、豪華客船が転覆して、全てが上下ひっくり返るというのが、原作通りではあるものの、映像にしてみるとなかなか面白く、「パニック映画、こうあるべし」みたいな感じで、それでいて、1回使ったらもうよそでは使えないみたいなユニークさがあったのではないでしょうか(結局、続編を含め「ポセイドン」というタイトルをそのまま使用して、この後3度映画化された(ウォルフガング・ペーターゼン監督「
パニック映画ではありますが、ヒューマンドラマ的な部分もしっかりしていました。とりあえず、船内ホールにいた100人ぐらいの船客以
外は"絶望"として生存者を絞り込んで、更に「船底」に退避するかその場に留まるかで、結局、留まった人々は全滅、退避した10名だけに早々に絞り込まれます。そのことによって、以降、演劇的な、丹念な人物像の描き方となっていたように思います。そして、その10人の中から更に犠牲者が1人、2人と出続ける―。
序盤の船内ホールには、居残り組にも牧師がいて、こちらはただ祈るのみ。一方のジーン・ハックマン演じる牧師は、とにかく生きるために前へ進もうとする、この対比のさせ方はかなり明確です。そして、その牧師が最後にとった自己犠牲的な行動―。やや典型的なヒロイズムになってしまった印象もあるし、その際に、牧師が"神"に向かって「邪魔しないでくれ」と言いますが、牧師がそんなこと言うかなあというものちょっと引っ掛かったけれど、穿った見方をすれば、この映画ではこの牧師が「モーゼ」のような神により近い存在ということなのかもしれません。
ジーン・ハックマンは好演でした。他の俳優陣では、牧師と意見の衝突を繰り返す刑事役のアーネスト・ボーグナイン(1917-2012/享年95)
の、ジーン・ハックマンとの演技合戦が見所でしょうか。ジーン・ハックマンは英国アカデミー賞の主演男優賞を受賞しましたが、アーネスト・ボーグナインの濃い演技もパニック映画向きで良かったように思います(元水泳選手
「ポセイドン・アドベンチャー」●原題:THE POSEIDON ADVENTURE●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:ロナルド・ニーム●製作:アーウィン・アレン●脚本:スターリング・シリファント/ウェンデル・メイズ●撮影:ハロルド・E・スタイン●音楽:ジョン・ウィリアムズ/アル・カシャ/ジョエル・ハーシュホーン●原作:ポール・ギャリコ「ポセイドン・アドベンチャー」●時間:117分●出演:ジーン・ハックマン/アーネスト・ボーグナイン/レッド・バトンズ/キャロル・リンレー/ロディ・マクドウォール/ステラ・スティーヴンス/シェリー・ウィンタース/ジャック・アルバートソン/パメラ・スー・マーティン/エリック・シーア/レスリー・ニールセン/アーサー・オコンネル●日本公開:1973/03●配給:20世紀フォックス(評価:★★★☆)

ジーン・ハックマン(俳優)

昨年['15年]11月に満93歳で亡くなった水木しげる(1922-2015)が、「月刊漫画ガロ」(青林堂)の1970年10月号から1972年10月号に連載した作者初の伝記漫画で、'13年6月より順次刊行中の『水木しげる漫画大全集』(全108巻(103巻+別巻5巻)の予定)の第2期配本の1つ(№065)。作者あとがきによれば、近藤勇の一生を描くことになったのは、1968(昭和43)年頃から京王線の調布に住むことになり、付近を散歩していて偶然近藤勇の墓に"面会"したのがきっかけだそうです。
巻末資料にもある通り、もともと「星をつかみそこねる男」というタイトルで連載されたにも関わらず、最初に1972年に虫プロ商事の「COMコミックス」別冊として1冊にまとめられ(「なぜか(「ガロ」の青林堂ではなく)虫プロから刊行(された)」と文中にあるが、連載中、作者に原稿料すら払えなかったほど当時の青林堂の経営が悪化していたことが原因と思われる)、その際のタイトルは「巷説 近藤勇」(左)で「星をつかみそこねる男」はサブタイトル












「今現在」を「1970年11月25日」に置いて、三島(緒形拳)が自決した当日の起床からの経過を現在進行形でカラー・ドキュメンタリー風に描き、その「今現在」の時の流れをベースに、三島の幼少期から「楯の会」結成までの半生をモノクロームで描いた「フラッシュバック(回想)」シーンを交える一方、第1章「美(beauty)」で『金閣寺』、第2章「芸術(art)」で『鏡子の家(Kyoko's House)』、第3章「行動(action)」で『奔馬(Runaway Horses)』(『豊饒の海』第2部)の各作品をダ
イジェストで映像化しており、最後の第4章「文武両道(harmony of pen and sword)」で、三
島が市ヶ谷駐屯地に到着した場面から自決に至るまでを描いています。こうなるとかなり複雑な印象を与
えますが、回想部分はモノクロで、作品部分は「劇中劇」として極めて演劇的に作られているため(石岡瑛子(1938-2012/73歳没)が美術担当)、観ていてたいへん分かり易いものとなっています。
冒頭で、三島が母(大谷直子)や祖母(加藤治子)との特異な幼少期を経て、思春期から同性愛的指向を自覚したことなどを紹介、第1章では簡略化された『金閣寺』が劇中劇として描かれ、ドモリでコンプレックスの
塊のような学生(ある意味、三島のペルソナである)で金閣寺の住職になることを目指して修行する溝口(五代目 坂東八十助=十代目 坂東三津五郎)が、障害者でありながらをそれを逆手にとって高い階級の女を籠絡している柏木(佐藤浩市)と出会い、その

手ほどきで女性に接するも臆して何もできなかった後(ここでフラッシュバックで青年期の三島(利重剛)が病弱だったために戦争の徴兵を逃れ得たことなどが描かれる)、今度は老師(笠智衆)から施された
金で遊郭で遊女(萬田久子)を抱き、女に「どでかいことをする」と言うが、それは金閣寺を燃やすことだった―とい
うもの(ここで三島が自邸を出て「盾の会」のメンバーと市ヶ谷駐屯地へ向かうため車に乗り込む"現在"のシーンに切り替わり、更に今度は、モノクロで『潮騒』などの作品で作家として高い評価を得た頃の三島を描く)。 
第2章では『鏡子の家』を演劇化しており、原作では鏡子というある種"巫女"的な女性を軸に、恵まれた結婚をし将来が嘱望されるエリート会社員「清一郎」、拳闘家でボクシングで王座を獲る「俊
吉」、美貌の無名俳優でボディビルで鋼の肉体を得る「収」、天分豊かな童貞の日本画家で画壇での名声を博す「夏雄」の4人が登場しますが(それぞれが三島のペルソナと言える)、ここでは俳優の「収」(沢田研二)にフォーカスして、母親(左幸子)や恋人(烏丸せつこ)との関係を描いています(ここでまたモノクロのフラッシュバックになり、男とダ
ンスし―ダンス相手のモデルは美輪明宏か―同性愛者として美醜にこだわり、ボディビル
によって肉体改造に励む三島の姿が描かれる)。次に、ラーメン屋台のような所に収、俊吉(倉田保昭)、夏雄(
を結ばされ(その間、三島のセミヌード写真の撮影模様や出演した映画のポスターなどがフラッシュバックで入る)、母親にはいい役がついたと報告し、最後はピンク色の部屋でその清美に自分の肉体をマゾヒスティックに傷つけられている―(ここで市ヶ谷に向かう車中の三島と「盾の会」のメンバーのシーンに切り替わる)。
第3章は、『奔馬』の主人公・飯沼勲(永島敏行)を描いた劇中劇で、剣道3段の飯島青年が政界
の黒幕を倒すべく陸軍中尉(勝野洋)や同志らとクーデターを謀るという二・二六事件をモチーフにした原作通り
の展開で(フラッシュバックで日本刀を振るって剣術に精進する三島が描かれる)、彼が首謀者となって同じ学生仲間らと決行を誓い合いますが(そこでまた緒形拳演じる三島の歩んできた道のフラッシュバックで、「盾の会」の結成やその閲兵式の模様が描かれ、更に、'69年の東大全共闘との討論会の様子が描かれる)、事を起こす前に飯島らは逮捕され、飯島は聴取にあたった尋問官(池部良)に拷問してくれと
頼むが叶わない。その後、飯島は脱獄に成功し、政界の黒幕・蔵原(根上淳)を暗殺
すると、海を見渡す断崖へと直行し、暁の太陽を背に割腹自殺を図る―(ここでいきなり、映画「憂国」の切腹シーンを撮影中の三島のモノクロ・フラッシュバックになる。そして、映画「憂国」の完成記者会見の模様が入る)。
第4章は、これまで「今現在」として描かれてきた「1970年11月25日」の部分の続きで、三島らが市ヶ谷駐屯地に到着してから自決に至るまでが描かれており(間にフラッシュバックで「盾の会」の自衛隊体験入隊の模様が描かれる)、自決前のバルコニーでの演説をはじめ、「三
島事件」を克明に描いています(更に間に、ロッキードF104戦闘機に試乗した際の模様が描かれる)。最後に三島が切腹して雄叫びする場面に続いて、第1部から第3部の小説のラスト
シーンがワンカットずつ描かれ、『奔馬』の最後の一行のナレーションと共に、冒頭のタイトルバックにあった太陽が正面に昇っている風景でエンドロールとなります。なお、「フラッシュバック」で描かれる半生の挿話やナレーションには、自伝的小説『仮面の告白』や随筆『太陽と鉄』などからの引用が使用されています。
優として知られ、2013年のゴールデングローブ賞授賞式において、自身が同性愛者であることをほぼ公表したジョディ・フォスターが絶賛している)。主人公の三島の役は、最初は高倉健にオファー
されていたらしいのですが(高倉健はポール・シュレイダー脚本、シドニー・ポラック監督の「
ものの、ここまで三島の作品と人生を再現していれば立派なものだと思います(それが理解できるかどうかはまた別の問題として)。細かい点で事実と異なるとの指摘もあるようですが(第2章のフラッシュバックに写真集『薔薇刑』の撮影模様があるが、三島はこの映画のように撮影の際に自らカメラのアングルを指示するようなことはなく、完全に「被写体」に徹していたという当のカメラマン
結局、上映自体が遺族側の了解が得られず、作品は日本では劇場公開されなかったわけで、惜しいことです(同性愛を示唆する場面は結構あったが、それ以外に政治的な理由があったともされている)。長年ビデオ・DVD化されない「幻の作品」であっため、自分自身も、中身がよく分からないのでやや"色物"的な作品ではないかとの先入観が以前はありましたが、『三島由紀夫と一九七〇年』('10年/鹿砦社)付録として"ゲリラ・リリース"された米国版DVD(区の図書館で借りられた)で観てみると、映像も綺麗だし、演技陣も錚々たるメンバーであり、また、よく演出したものだと思いました。作家とその作品の関係性を描くという意味でも非常に大胆な試みであり、それは100%成功しているわけではないですが、分かり易いというだけでも評価できるのではないでしょうか。

稔 [第1章・金閣寺]坂東八十助/佐藤浩市/萬田久子/沖直美/高倉美貴/辻伊万里/笠智衆(米国版のみ) [第2章・鏡子の家]沢田研二/左幸子/烏丸せつこ/倉田保昭/横尾忠則/李麗仙/平田満 [第3章・奔馬]永島敏行/池部良/誠直也/勝野洋/根上淳/井田弘樹●米国公開:1985/10●DVD発売:2010/11●発売元:鹿砦社(『三島由紀夫と一九七〇年』附録)(評価:★★★★)





榎津巌(緒形拳)は、専売公社の集金係2名(殿山泰司ほか)を殺害し、詐欺を繰り返しながら逃走を続ける。実家は病身の母・かよ(ミヤコ蝶々)と敬虔なクリスチャンの父・鎮雄(三國連太郎)が経営する旅館で、榎津の妻・加津子(倍賞美津子)や子も一緒に暮らしているが、榎津は妻・加津子と父・鎮雄の関係を疑っている。警察が榎津を全国指名手配にする中、榎津は裁判
所で被告人の母親(菅井きん)に近づき、弁護士を装って保釈金詐欺を働き、更に、仕事の依頼と称して老弁護士(加藤嘉)に近づいて殺害し、金品を奪って逃げ続ける。浜松の旅館「貸席あさの」に京都帝大教授を装っ
て投宿し、宿の女将ハル(小川真由美)と懇ろになる。ある日、ハルは映画館のニュースで榎津の正体を知るが、榎津を匿い続ける。しかし、榎津はハルとハルの母親・ひさ乃(清川虹子)を殺害し、質屋(河原崎長一郎)を旅館に呼んで2人の所持品を売り払う。榎津を以前客に取ったことのあるステッキガール(根岸とし江)が、榎津が指名手配の犯人であることに気づき、警察に通報する。榎津は逮捕され、死刑を宣告される。面会に来た父親の鎮雄は、榎津が教会から破門されたこと、自らも責任を取って脱会したことを伝える。処刑後、榎津の遺骨を抱いた妻の加津子と鎮雄は、山頂から空に向かって散骨する―。
昨年['15年]10月に78歳で亡くなった佐木隆三(1937-2015)の直木賞受賞作を今村昌平(1926-2006)監督が映画化した1979年公開作で、
その年のキネマ旬報ベスト・テン第1位作品。「第22回ブルーリボン賞」の作品賞、「第3回日本アカデミー賞」の最優秀作品賞も受賞し、演技面では、体当たり演技の小川真由美が日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を受賞。小川真由美は「第4回報知映画賞」やキネマ旬報の賞も受賞し、三國連太郎も報知映画賞や「第22回ブルーリボン賞」など3つの賞を受賞。同じく体当たり演技の倍賞美津子も
ブルーリボン賞を受賞しているのに、主役の緒形拳(1937-2008)が何も受賞していないというのがやや不思議な気がします。主人公の多面的なキャラクターを巧みに演じ分けていたのは流石だと思ったのですが、緒形拳は前年の「
画では、敬虔なクリスチャンで通っている父親との確執を、榎津との幼少期のエピソードなども交えながら描き、更には、榎津の妻・加津子と父・鎮雄の関係を前面に押し出すことで、犯行の背後に父親との関係に起因する何かを示唆しているように思われました。それは、終盤の榎津と父親との拘置所
での対面シーンにも表れており、ここでも両者は和解し切れず、結局、父親が息子と内面的に和解したのは、ラストの散骨のシーンであったように思います。榎津の父親への感情は、ファーザー・コンプレックスと言えなくもないですが、加津子の方がむしろ義父・鎮雄をファザコンに近い感情で崇めていて、一方の榎津の父親に対する反発は、父親のその偽善性に対するものではなかったかと思われます(幼児期のエピソードに父親に裏切られたと取れるものがある)。何れにせよ、父・鎮雄と妻・加津子の関係も含め、この辺りは全て"今村昌平オリジナル"です。
同じくこの作品で原作以上に大きなウェイトを占めるハルの家族の描き方も、ハルの情夫で旅館のオーナーでもある男(北村和夫)とのどろどろした関係が前面に出ていて、それを苦々しく思う母親と、そこに榎津も絡んできて、もうぐちゃぐちゃという感じ。この辺りも全て映画のオリジナルで、ハルの母親が殺人事件で15年服役し、出所してそう年月も経っておらず、今は競艇に明け暮れる日々を送っているという設定もオリジナルです。更に原作との大きな違いは、榎津とハル
が映画を観に映画館へ入ったところ(映画は「ヨーロッパの解放」第三部「大包囲撃滅作戦」('71年/松竹配給))、その前に映像ニュースで榎津の指名手配が流れてハルが榎津の正体を知ってしまうことで、榎津に惚れていたハルは榎津を匿い続けますが、原作では母娘は榎津の正体を知らないまま殺害されてしまい、従って、ハルの母親が榎津を競艇に誘って、当てた金を榎津に渡して自分たちの前から消えてくれるよう頼むといった場面も、榎津が人気の無い畦道かどこかを歩きながらハルの背後からマフラーで絞殺しようして彼女に気づかれ、いったんは諌められてしまうのも映画のオリジナルです。
原作者の佐木隆三が、ハルの宿でクレームをつけて帰ってしまう泊り客としてカメオ出演しています。佐木隆三はこの映画公開の前年['78年]、銀座の路上で交差点に赤信号停止しているタクシーに乗ろうとしたところ、タクシー乗り場から乗るように言われたことに逆上し、タクシーのボンネットに乗り上げて暴れてフロントガラスを破壊して警察に逮捕されていますが、クレーマーっぽい役柄はその事件の自虐パロディだったのかも。
「復讐するは我にあり」●制作年:1979年●監督:今村昌平●製作:井上和男●脚本:馬場当/池端俊策●撮影:姫田真佐久●音楽:池辺晋一郎●原作:佐木隆三●時間:140分●出演:緒形拳/三國連太郎/ミヤコ蝶々/倍賞美津子/小川真由美/
清川虹子/殿山泰司/垂水悟郎/絵沢萠子/白川和子/フランキー堺/北村和夫/火野正平/根岸とし江(根岸李江)/河原崎長一郎/菅井きん/石堂淑郎/加藤嘉/佐木隆三●公開:
1979/04●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-23)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-17)(評価:★★★★☆)




昨年['15年]10月に78歳で亡くなった佐木隆三(1937-2015)の代表作ですが、作者がこの作品を書いた時には、本書の素材となった「西口彰事件」から既に12年が経っており、よく調べ上げたものだなあと思いました。でも、こんなスゴイ犯罪者が実際にいたとは驚きです。小説での犯人・榎津は、天才的な詐欺の能力を発揮する神出鬼没の詐欺師であり、それでも詐欺よりも殺人の方が効率が良いと考え、またそれを実行する凶悪犯でもあります。
犯人が熊本では弁護士を装って教戒師の家に押し入ったものの、当時10歳(小学5年生)の娘が見抜き、通報することにより逮捕につながったというのは「西口事件」における事実であり、警察の要職を歴任した高松敬治は「全国の警察は、西口逮捕のために懸命な捜査を続けたが、結果的には全国12万人余の警察官の目は幼い一人の少女の目に及ばなかった」と語ったと言います(犯人が自分で自らの逮捕の経緯を「裸の王様」みたいな話だと言ったのも本当らしい)。







川越市で印刷屋を営む竹下宗吉(緒形拳)は、妻・お梅(岩下志麻)に隠れ、鳥料理屋の女中・菊代(小川真由美)を妾として囲い、7年間に3人の隠し子を作
った。やがて火事と大印刷店攻勢で宗吉の商売は凋落し、手当を貰えなくなった菊代が、利一(6歳)、良子(4歳)庄二(1歳半)を連れて宗吉の家に怒鳴り込む。菊代はお梅と口論した挙句、3人を宗吉に押しつけて蒸発し、お梅が子供達と宗吉に当り散らす
地獄の日々が始まる。末の庄二が栄養失調で衰弱し、医者に行ったある日、寝ている庄二の顔の上にシートが故意か偶然か被さって庄二は死ぬ。宗吉はお梅の仕業と思いながらも口に出せず、逆に、「あんたも一つ気が楽になったね」と言われる。その夜、夫婦は久しぶりに燃え、共通の罪悪感に昂ぶる。お梅
は残りの子供も〈処分〉することを宗吉に迫り、宗吉は良子を東京タワーに連れて行って置き去り
にし、一人エレベーターを降りる。更に長男・利一を毒殺しようとするものの果たせず、何日か後、新幹線こだま号に利一を乗せ、北陸海岸に連れて行く。能登半島に辿り着き、日本海を臨む岸壁で、宗吉は利一を海に落す。翌朝、沖の船が絶壁の途中に引掛っている利一を発見し、かすり傷程度で
助け出す。警察の調べに利一は父親と遊びに来て眠っているうちに落ちたと言い張り、名前、住所、親のことや身許の手掛かりになることは一切言わない。しかし警察は、事故ではなく利一は突き落とした誰かを庇っていると判断し、利一の持っていた石版印刷に使用する石材のかけら(利一はこれを石蹴り遊びに使っていた)から宗吉が殺人未遂容疑で警察に拘束される。そして、移送されてきた宗吉が警察で利一と対面する―。
まず、前半部分しか出てきませんが、小川真由美の3人の子供を連れての
押しかけぶりが良く、岩下志麻との競演は見所であり、更に中盤の見せ場は、岩下志麻演じるお梅の児童虐待ぶりの凄まじさでしょうか(子役たちは撮影の休憩時間中も岩下志麻に寄りつかなかったという)。
それらに比べると、2人の女の間でおろおろしている宗吉を演じた緒形拳はやや影が薄いようにも見えましたが、これはこれで、あまりやりすぎると喜
劇になってしまうし、あまり抑え過ぎると面白くないし、意外と加減の難しい役どころだったのではないでしょうか(緒形拳はこの演技で、「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞を"3冠"受賞した)。
その他にも、印刷所の工員(原作でもいることになっているが人物造型は描かれていない)を蟹江敬三(1944-2014)が好演していたし(お梅が赤ん坊の口に米を突っ込んで虐待するのを「よせよ」と遠巻きに言うだけで何もできない夫・宗吉に代わって毅然と赤ん坊を取り上げ、「しっかりしろよ!旦那の子だろ!」と言うという、いい人のキャラだった)、子役の演技も、賛否ありますが、個人的には悪くなかったと思います(子役の演技力というより監督の演出力の成果だろう)。
要する地方にあるS市という原作の設定から埼玉県の川越市に改変され、宗吉が菊代を囲った家は、原作ではS市から1時間ばかり汽車で行く町ということで、映画では同じ埼玉県の男衾(おぶすま)駅付近となっています。
宗吉が良子を置き去りにするのは原作では東京タワーではなく銀座のデパートの屋上のミニ動物園、利一を毒殺しようとして上野動物園で食
べさせるのはアンパンではなく最中(もなか)、利一を旅に連れて行ったのは北陸ではなく原作では西伊豆です。映画では西伊豆を北陸に変え(米原まで新幹線で行く)、能登金剛までやって来て、そこで利一を崖から放ってしまう―。能登金剛は「ゼロの焦点」('61年/松竹)のラストシーンの舞台でもあります(こちらは原作通り)。これら細かい改変点はありますが、概ね原作に忠実に作られているように思われ、こうした作り方は個人的には割合と好きな方です。
原作と一番異なる点はラストで、原作が、利一が頑なに黙秘を続けるも、持っていた石材で宗吉の犯行の足が付くことを示唆して終わるのに対し、映画では、宗吉が殺人未遂容疑で逮捕され、利一と面会を果たす場面が加えられていることです。そこでも利一は、「坊やのお父さんだね?」 との警官の問いに、「知らないおじさんだよ!」と否定し、宗吉はそんな利一にすがりつき、後悔と罪悪感で号泣する―。利一は何故黙秘を続けたのかという疑問を更に発展させて、利一は宗吉を庇ったのか見捨てたのかという究極の問いを観る者に投げかけている訳で、この持って行き方は悪くないように思いました。答えはそう難しくないと思いますが(脚本の井手雅人は「父親を拒否した」を意図したが、野村芳太郎監督が「父親を庇った」ととれる演出に変えたと言われている)、観る者にちょっとだけ考えさせるこの終わり方が余韻となっており、「砂の器」の加藤剛が延々とピアノ曲「宿命」を奏でる(やや大仰な)エンディングより上だったかもしれません。一面において原作を超えていると思うのも、この分かりやすい問題提起とでも言うか、まさにこの点にあります(因みに、原作にはモデルとなった実際の事件があって、犯人の男は在獄中に発狂死したという凄まじいエピソードがある)。
(●2025年に池袋・新文芸坐で15年ぶりに再見(映画館で観るのは4回目)。父・宗吉は息子・利一を連れて東尋坊に行き、ただしそこでは決心がつかず、能登半島まで行って「福浦」の旅館に泊まり、今度はバスでその先の「関野鼻」のバス停で降り、ヤセの断崖に辿り着いたのだったことを思い出した。ラストで利一少年は父親を「拒否した」のか、或いは「庇った」のかという議論が、映画を何度か観直した人の間でもあるようだが、やはり「庇った」説をとりたい。
因みに、竹中宗吉が3人の子供と訪れる「川越ピープルランド」という遊園地は、川越の蓮馨寺境内にあった遊園地であることを、'25年3月刊の『砂の器 映画の魔性―監督野村芳太郎と松本清張映
画』刊行記念トークショーで登壇した著者の映画評論家の樋口尚文氏が、現地を取材し自ら撮った写真で説明してくれた。ただし、今は、更地になっていて、その痕跡も無い。また、冒頭シーンで小川真由美が子ども3人らと入ったラーメンを食べるシーンは、川越のラーメン屋「勝山」がロケ地だが、こちらは「
過去に1度だけテレビドラマ化されていて、'02年10月15日に日本テレビ系列で「火曜サスペンス劇場('81年~'95年)1000回突破記念作品」として「松本清張スペシャル・鬼畜」のタイトルで放送されています(監督は「
ぎて、映画の岩下志麻ほどの凄味もやつれ感も無かったように思います。映画では岩下志麻演じるお梅が赤ん坊の口に米を突っ込んで虐待するところが、ドラマでは食事が美味しくないと言う子どもに腹を立てた黒木瞳演じる春江が玉子焼きを取り上げて捨てるぐらいで(テレビコードのせいもあるか)、後の方で保夫が長男を連れて行った上野動物園そばの不忍池で、長男に妻が毒を入れたおにぎりを無理やり食べさせようとするシーンなどがあり(前述の通り原作は最中(もなか)、映画はアンパン)、黒木瞳がやるはずの汚れ役の一部をビートたけしが肩代わりしている印象もありました。全体として、夫婦を突き放すのではなく、寄り添うような感じだったでしょうか。

「鬼畜」●制作年:1978年●監督:野村芳太郎●製作:野村芳太郎/野村芳樹●脚本:井手雅人●撮影:川又昂●音楽:





「松本清張スペシャル・鬼畜」●監督:田中登●企画:酒井浩至●脚本:佐伯俊道●音楽:大谷和夫(エンディング:安全地帯「出逢い」)●原作:松本清張●時間:141分(放送分)●出演:ビートたけし/黒木瞳/室井滋/片岡涼/佐藤愛美/諸岡真尋/小野武彦/奥村公延/石倉三郎/日野陽仁/渡辺哲/波乃久里子/斉藤暁/大林丈史/津田三七子/井田國彦/斎藤歩/酒井敏也/水田啓太郎/斉藤実紀●放映:2002/10/15(全1回)●放送局:日本テレビ

【感想】脚本・竹山洋(「
を超えるのは難しいと思って観ているが、演出はまずまず手堅かったように思う。映画では、終盤で子どもが父親を庇ったのか拒絶したのか解釈が分かれるような作りだが、このドラマでは婦警が「この子は親を庇っている」と言ってしまっている。ラストは原作と異なり、妻に贖罪させたような感じで、男の方は刑務所に入り、刑期を終えて出てきて墓参り。モデルとなった人物は獄中で狂死したことを思うと、やや甘い。妻に贖罪させたことも含め、テレビ的な改変であったように思う。しかし、ネットでいちばん話題になっていたのは、なぜこれをクリスマスイブに放映するのか謎であるということだった(笑)。
「ドラマスペシャル 松本清張 鬼畜」●監督:和泉聖治●プロデューサー:五十嵐文郎●脚本:竹山洋●音楽:吉川清之●原作:松本清張●時間:138分(放送分)●出演:玉木宏/常盤貴子/木村多江/余貴美子/南岐佐(菊代の長男で7歳)/稲谷実恩(菊代の長女で4歳)/今中陸人(菊代の次男で2歳)/前田亜季/近藤芳正/羽場裕一/片桐竜次/河西健司/萩原悠/嘉門洋子/平泉成/柳葉敏郎/橋爪功●放映:2017/12/24(全1回)●放送局:テレビ朝日
















警視庁捜査第一課の刑事・下岡(宮口精二)と柚木(大木実)は、質屋殺しの共犯者・石井(田村高廣)を追って佐賀へ発った。主犯の自供によると、石井は兇行に使った拳銃を持ってい、三年前上京の時別れた女・さだ子(高峰秀子)に
会いたがっていた。さだ子は今は佐賀の銀行員横川(清水将夫)の後妻になっていた。石井の立寄った形跡はまだなかった。両刑事はその家の前の木賃宿然とした旅館で張込みを開始した。さだ子はもの静かな女で、熱烈な恋愛の経験があるとは見えなかった。ただ、二十以上も年の違う夫を持ち、不幸そうだった。猛暑の中で昼夜の別なく張込みが続けられた。三日目。四日目。だが石井は現れなかった―。
原作は松本清張が「小説新潮」1955年12月号に発表した短編小説。橋本忍脚本、野村芳太郎監督によるこの映画化作品では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が原作の1人に対して2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1人にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写せねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノローグ過剰とならざるを得ず、しかも、見張る側の私的な状況など原作には無い描写を多々盛り込んでおり、もともと短篇であるものを2時間にするとなると、こうならざるを得ないのでしょうか。しかしながら、この作品の世評は高く、野村芳太郎はこの作品で一気にメジャー監督への仲間入りを果たすことになります。
因みに、松本清張本人が評価していた自作の映画化作品は、この「張込み」と、「
•1970年「張込み(NTV)」加藤剛・八千草薫・浜田寅彦
女主人公の方は、映画では高峰秀子が演じ、テレビドラマでは八千草薫や吉永小百合などが演じているとなると、女優にとっては演じてみたい役柄なのでしょう。でも、相応かつ相当の演技力が要求される役どころだと思います。
そして2011年にまた、TX系の「水曜ミステリー9」で、「松本清張特別企画」として、若村麻由美・小泉孝太郎主演で放送されました(若村麻由美は「無名塾」種出身。90年代にも清張ドラマに何度か出演しており、女優業復帰でこの人も結構長いキャリアになる)。
張り込む刑事は小泉孝太郎1人で、先輩刑事のムダだという意見に抗して張り込むことを主張する熱血漢である一方で、色男でもあり、かつて関与したDV事件の女性被害者に対して、今はストーカーまがいのことをしているという変なヤツ。原作ではラストに1回あるだけの、主人公の女(若村麻由美)との接触場面が矢鱈と多く、逃亡中の犯人(元恋人)と女を引きあわせるお膳立てまでして、結果として女の目の前で犯人は取り押さえられることになり、これって却って残酷ではなかったかと思ってしまいます。
原作にはあまり記述の無い女の家庭での妻としての暮らしぶりが描かれることは、これまでのドラマ化作品でもあったかと思いますが、これはやや"描き過ぎ"。しかも、「幸せそうではない」夫婦生活のはずが、一見「幸せそうな」家庭になっていて、夫婦の結婚の経緯から始まって、女の夫が携帯の着信記録から妻の行動に不審を抱き妻を問い詰めると、ストーカーに狙われていると言うので警察に通報するとか、事件解決後に女は家から出奔してしまうとか―何だか余計なものを付け加え過ぎて、原作とはテーマからして別物になった感じでした(ベクトル的には原作と真逆。特にラストは)。
ドラマ化されるごとに原作から離れていく感じがしますが、最近のドラマ化作品が原作と別物に見えるのは、野村芳太郎のモノクロ映画の冒頭で10数分間続く夜行列車のシーンに見られるような(その外にも移動シーンで蒸気機関車がふんだんに見られ、S
Lファン必見作?)、高度成長期初期の熱に浮かされたような活気や雑然とした時代の雰囲気みたいなものが、最近のテレビドラマでは再現されにくいということもあるのかもしれません。まあ、半世紀以上経っているのだから仕方が無いか。 [上写真]「張込み」撮影風景(高峰秀子)
野村芳太郎監督の映画化作品を最初に観た時の個人的評価は星3つでしたが(多分、原作との違いが気にかかったというのもあったと思う)、今観直すと、時代の雰囲気をよく伝えているような印象も。後にこれを超えるものが出てこないため、相対的にこちらの評価が高くなって星半分プラスしたという感じでしょうか。
「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張込み」●時間:116分●出演:大
木実/宮口精二/高峰秀子/田村
高廣/高千穂ひづる/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦
田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)



