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翻訳者によって解釈が変わってくる箇所が多々ある作品。それが、また"深さ"なのか。



『ガラスの鍵 (1954年) 』(砧一郎:訳)/『ガラスの鍵 (創元推理文庫 130-3)
』(大久保康雄:訳)[白山宣之カバー絵版・新版]/『ガラスの鍵 (光文社古典新訳文庫)
』(池田真紀子:訳)
『ガラスの鍵』創元推理文庫旧装丁(カバー:広橋桂子)
The Glass Key by Dashiell Hammett (Digit Books, Jun 1957) Cover by De Seta
実業家で市政の黒幕でもあるポール・マドヴィックは、上院議員の娘ジャネットに恋をしており、次回の選挙では、議員を後押しすることにするが、それを快く思わない地元暗黒街のボスは、ポールを失脚させようと妨害工作を始める。そんな折、議員の息子テイラーが、何者かに殺害され、遊び人テイラーと娘オパールの交際を嫌っていたポールに嫌疑がかかる。ポールの右腕である賭博師ネッド・ボーモントは、友人を窮地から救うべく奔走する―。
1930年にパルプマガジン「ブラック・マスク」に連載され、1931年に刊行されたダシール・ハメットの4作目の長編で(原題:The Glass Key)、2年前に発表された『血の収穫』のような古典的ギャングのドンパチ騒ぎの連続ではなく、市政を巡る近代的ギャングの政治的抗争劇というか、主人公のボーモントも、時に腕力や胆力を見せるものの、スーパータフガイといった感じではなく、基本的には冷静な知力で事件の解決を図るタイプの人物造形になっています。
また、従来のハメットの作品と異なり、3人称で書かれていて、主人公の心理描写が殆ど無いため、読者は、会話と客観描写から主人公の現在の心理状態を探ることになりますが、ストーリーがやや複雑なこともあって、かなり気合を入れて読み込むことが必要かも。同時にこのことは、翻訳者によって、センテンスの解釈が変わってくる可能性のある箇所が多々あることも示しているかと思います(その点が、この作品の深さなのかも知れないが、日本語の場合、日本語に翻訳された時点で、既に解釈が入り易いのではないか)。
ハメット自身が自らの最高傑作とし、個人的にもほぼ異存はありませんが(『赤い収穫』とは異質の作品であり、優劣を論じにくいとも言える)、自分自身がこの作品を十全に理解し得たかどうかというと、まだまだよく分らなかった部分もあったような心許無さが残る面もありました(読む度に印象が変わるというのは、作品の"深さ"なのかも)。
光文社古典新訳文庫からこの作品の翻訳が出たのも、この作品は、ハードボイルドらしい客観描写の裏に隠された、心理小説的要素が強い作品(文学作品的?)であるからではないかと思われ、ジェフリー・ディーヴァーの作品の翻訳家でもある池田真紀子氏の訳は、ディーヴァーの作品が状況証拠やプロファイリングから謎を解いていくタイプのものであるように、登場人物やその会話の周辺状況が読者に分り易いように訳しているように思います。
比べるとすれば、大久保康雄 ('60年/創元推理文庫)、小鷹信光 ('93年/ハヤカワ・ミステリ文庫)あたりですが、これらの旧訳では、主人公の名前の表記が、大久保訳は「ボーマン」、小鷹訳は「ボーモン」となっていて(砧一郎訳は「ボウモン」)、個人的には末尾に「ト」が無い方に馴らされてしまっているので、やや違和感があったというのはありますが、池田訳はそれらに比べやや重厚感が落ちるものの、旧来のイメージをそう崩さずに旨く訳しているのではないでしょうか(池田訳を読んだ後で、大久保訳または小鷹訳を読み直すのがいいかも)。
この作品は、1935年と1942年に映画化されていますが、スチュアート・ヘイスラー監督の1942年作品は、(「シェーン」('53年)で人気を博す前の)二枚目俳優アラン・ラッドと超絶美人女優と言われたヴェロニカ・レイクの主演で(本当の主役はブライアン・ドンレヴィであるとも言えるが)、概ね原作に忠実に作られているものの、やはり随所で、この時ボーモンはこんな表情をしていたのかといった意外性があったりしました(因みに、映画で観ている限りは概ね「ボーマン」と聞こえるが、ヴェロニカ・レイクは最初の方では「ミスター・ボーマント」とはっきり"t"を発音している)。
![ガラスの鍵 [DVD] .jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%82%AC%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%8D%B5%20%5BDVD%5D%20.jpg)
映画では、ヴェロニカ・レイク演じるジャネットが早くからアラン・ラッド演じるボーモンに好意を寄せていることがわかり、この小説の場合、映画化作品もまた、演出によって様々な解釈が入り込み易いということでしょう(因みに1935年のフランク・タトル監督作品は観ていないが、そちらではボーモンがオパールを愛していたという解釈になっているらしい)。
「ガラスの鍵 [DVD]」(2013年リリース)
ハメット自身は、この作品を書いていた頃は、前作『マルタの鷹』(1930年発表)の映画化(ジョン・ヒューストン監督、ハンフリーボガード主演「マルタの鷹」('41年))により、映画化権収入があったりして急に懐具合が良くなった時期で、その後、『影なき男』(1934年発表)を書いてからは長編を発表しておらず、稼ぎ過ぎるとかえって創作意欲が減退するタイプだったのかなあ(後半生の伴侶リリアン・ヘルマンの彼女自身の自伝によると、執筆活動はずっと続けていたが、作品を完成させることがなかったとのこと)。

「ガラスの鍵」●原題:THE GLASS KEY●制作年:1942年●制作国:アメリカ●監督:スチュアート・ヘイスラー●脚本:ジョナサン・ラティマー●撮影:セオドア・スパークル●音楽:ヴィクター・ヤング●原作:ダシール・ハメット●時間:85分●出演:アラン・ラッド/ヴェロニカ・レイク/ブライアン・ドンレヴィ/ボニータ・グランヴィル/リチャード・デニング/ジョセフ・カレイア/ウィリアム・ベンディックス/エディー・マー/フランシス・ギフォード●日本公開:VHS/2003/11ビデオメーカー(評価★★★☆)
【1954年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(砧一郎:訳)/1960年文庫化[創元推理文庫(大久保康雄:訳)/1993年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(小鷹信光:訳)]/2010年再文庫化[光文社古典新訳文庫(池田真紀子:訳)]】
《読書MEMO》
●ウィリアム・ノーラン(小鷹信光:訳)『ダシール・ハメット伝』(′88年/晶文社)より
「『ガラスの鍵』はハメットの作品中で最も難解なものとなった。動機は決して語られず、暗に示唆されるだけだ。全編を通じてボーモントの心には仮面がぴったりとかぶされ、行動は誤解されやすい。ボーモントが事件を解明しようと殺人の手がかりを追うのと同じ位慎重に、読者はネドのキャラクターについてハメットが与えてくれる分かりにくい手がかりを追って行かねばならない。」
「『ガラスの鍵』は『血の収穫』を新しくした小説である。『血の収穫』では、悪党どもは昔の西部流に荒っぽく、ポイズンヴィルを支配するために爆薬や機関銃を使った。『ガラスの鍵』では、それが体裁よく 洗練され、やり方もはるかに手のこんだものになっている。拳銃の代りに連中は政治的圧力や脅迫という手段に訴える。彼らは二十世紀の犯罪にふさわしい破壊的な進歩を見せ、 それがカポネの時代のあけっぴろげな街中での暴力にとって代わっている。」
「『ガラスの鍵』は、ハメットが「たまたま犯罪小説になったものの、シリアスな小説」を書こうとした、彼の最も意欲的な試みだった。出版以来十年の間に、この作品は「傑作」と持てはやされたり、「最悪の出来」とけなされたりしてきた。モームとレイモンド・チャンドラーは二人ともこの作品を絶賛し、特にチャンドラーは「人物像が少しずつ明らかにされてくる」ところを評価している。」






コンティネンタル探偵社支局員の私は、小切手を同封した事件依頼の手紙を受けとってある鉱山町に出かけるが、入れちがいに依頼人が銃殺され、利権と汚職とギャングの縄張り抗争で殺人の修羅場と化した町を、1人奔走することになる―。

で、『赤い収穫』から多くのヒントを得たことを自ら認めています(黒澤本人が「用心棒は『血の収穫』(赤い収穫)ですよね?」という問いに「血の収穫だけじゃなくて、本当はクレジットにきちんと名前を出さないといけないぐらいハメット(のアイデア)を使っている」と述べている)。洋画では、強いて言えば、その「用心棒」を、禁酒法時代の西部の町に舞台を置き換えて忠実に翻案した「ラストマン・スタンディング」('96年/米)が、雰囲気的にはやや近いのかも知れません(主人公の桑畑三十郎に相当するジョン・スミスを演じているのは、ブルース・ウィリス)。
まあ、「用心棒」に限らずこの作品のプロットは多くの作品に使われていて、筒井康隆氏の『
斎藤美奈子女史が『
【1953年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(砧一郎:訳『赤い収穫』)/1959年文庫化[創元推理文庫(田中西二郎:訳『血の収穫』)/1960年再文庫化[新潮文庫(能島武文:訳『血の収穫』)]/1977年再文庫化[中公文庫(河野一郎:訳『血の収穫』)]/1978年再文庫化[講談社文庫(田中小実昌:訳『血の収穫』)]/1989年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(小鷹信光:訳『赤い収穫』)]/2005年再文庫化[嶋中文庫(河野一郎・田中西二郎:訳『血の収穫』)]】


2005年に発表されたドン・ウィンズロウの長編で(原題: "The Power of the Dog" )、1999年以降筆が途絶えていたと思いきや6年ぶりのこの大作、まさに満を持してという感じの作品であり、また、あのジェイムズ・エルロイが「ここ30年で最高の犯罪小説だ」と評するだけのことはありました。





1984(昭和59)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第1位。
1986年にBBCでテレビ映画化されていて、ピアース・ブロスナンがKGBのスパイを演じていますが、これがなかなか渋い。後の「007シリーズ」を思わせるような女性との絡みやアクション・シーンもありますが(ピアース・ブロスナンがジェームズ・ボンド役を射止めるのは、この作品の8年後)、アクションに関して言えば、いかにもテレビサイズのそれという感じで、むしろ敵役マイケル・ケインとの演技合戦の方が見どころかも。
この小説にある小型原子爆弾の起爆剤となる物質はポロニウムで、2006年に英国で発生した、元ロシア連邦保安庁情報部員アレクサンドル・リトビネンコの不審死事件は(事件そのものが、この小
説とかなり似ている部面があるようにも思えるが)、リトビネンコの死因はポロニウムによる毒殺だとされています(公開された病床のリトビネンコの、それまでとは変わり果てた写真は衝撃的だった)。
ピアーズ・ブロズナンの映画初出演作は、 アガサ・クリスティの『鏡は横にひび割れて』を原作とする「
中国返還を10年後に控えた香港を舞台とするビジネスドラマで、原作は、あの「将軍」を書いたジェームズ・クラヴェル。「将軍」がイマイチだったのでこれもどうかと思ったのですが、ビデオ全3巻、6時間の
長尺でありながら、比較的飽きずに最後まで観ることが出来、ということは、それなりに面白かったということになるのでしょう。「タイパン(大班)」とは香港にある外資系企業のトップを指し、原題の「ノーブル・ハウス」はかつて東アジアで勢いを誇った実在の商社。ピアーズ・ブロズナンはそこの後継者として生まれた青年実業家役で、敵対的M&Aに対する攻防を繰り返していく様をミステリーを絡めて描いたものです。日本でもM&Aが珍しくなくなった今日、比較的馴染みやすい内容となっており、DVD化されるかなと思いましたが、現在のところ['10年]まだのようです。
「第四の核」●原題:THE FOURTH PROTOCOL●制作年:1986年●制作国:イギリス●監督:ジョン・マッケンジー●撮影:フィル・メヒュー●音楽:ラロ・シフリン●原作・脚本:フレデリック・フォーサイス●時間:116分●出演:ピアース・ブロスナン/マイケル・ケイン/ジョアンナ・キャシディ/ネッド・ビーティ/ジュリアン・グローヴァー/マイケル・ガフ/レイ・マカナリー/イアン・リチャードソン/アントン・ロジャース/キャロライン・ブラキストン/ジョセフ・ブラディ/ベッツィ・ブラントリー/ショーン・チャップマン/マット・フルーワー●日本公開:(劇場未公開)VHS/1997/10 東北新社(評価★★★)
「M&A/タイパンと呼ばれた男」●原題:NOBLE HOUSE●制作年:1988年●制作国:イギリス●監督:ゲイリー・ネルソン●原作:ジェームズ・クラヴェル●時間:361分●出演:ピアース・ブロスナン/ジョン・リスデイヴィーズ/ジュリア・ニクソン/デンホルム・エリオット/デボラ・ラフィン●日本公開:(劇場未公開)VHS(全3巻)/1989/10 アスミック・エース(評価★★★☆)
"The Death and Life of Bobby Z" 輸入版DVD
元海兵隊員のティムの人生はトラブルだらけで、コソ泥で服役中に人を殺してしまって終身刑が確実となった上に、殺した男の仲間に命を狙われる―そんな彼に麻薬取締捜査官が差し伸べた救いの手は、ティムの容姿がカリフォルニアの麻薬組織の帝王ボビーZに瓜二つであることから、その替え玉になることだった。協力することで自由の身になった彼だったが、彼の前にメキシカンマフィアの顔役、メキシコの麻薬王ら悪党の面々、そして謎の美女とその連れている男の子が現れ、彼自身は、麻薬王や捜査官に追われる立場に―。
語り部のワンウェイの口から伝わるのかどうかは別として、やがて、どこかでティム(乃至ボビーZ)は生きているということで、また新たな伝説が広まるのではないでしょうか。




1926年に発表されたアガサ・クリスティの長編推理小説で(原題" The Murder of Roger Ackroyd")、クリスティの6作目の長編で、エルキュール・ポアロ・シリーズでは3作目ですが、シリーズの中でも傑作とされており、個人的にもそう思います。
これ、映像化に際しては、原作がある種の叙述トリックであるため、工夫が必要にあります。デビッド・スーシェ版「名探偵ポワロ」の第46話(第6シーズン第5話)で2000年にテレビドラマ化されており(製作は1999年。99分の長尺版)、その時もやはり少しアレンジされていました、ただし、トリックそのものは概ね生かされており、まずまずの出来ではなかったかと思います。
因みに、ドラマでは、ポワロが廃業後、隠居したキングス・アボットの村で野菜園作りなどしていた折に遭遇する事件という設定になっており(ただし、ロンドンのホワイトヘヴン・マンションはまだキープし続けて
いる)、本ドラマシリーズ中期の後半といったことでそうした設定になっているのでしょう(原作は、ポワロの長編としては『ゴルフ場殺人事件』の次に書かれた3作目に当たるのだが)。したがって、ジャップ警部が引退したポワロと偶然にも再会を果たし、快哉を叫ぶというシーンもあったりします(因みに、ジャップ警部の本ドラマシリーズ登場回数は、全70話中40回と、ヘイスティングスの43回と僅か3回しか差がない。最初はポワロのことを煙たがっていたジャップ警部だが、これだけポワロに事件を解決してもらえれば、確かに再会を喜び合う関係になってもおかしくない)。
「名探偵ポワロ(第46話)/アクロイド殺人事件」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:THE MURDER OF ROGER ACKROYD●制作年:1999年●制作国:イギリス●本国放映:2000/01●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:クライブ・エクストン●時間:99分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ主任警部)/オリヴァー・フォード・デヴィース(シェパード医師)/マルコム・テリス(ロジャー・アクロイド)/セリーナ・キャデル(キャロライン・シェパード)/デイジー・ボウモント(アーシュラ・ボーン)/フローラ・モントゴメリー(フローラ・アクロイド)/ナイジェル・クック(ジェフリー・レイモンド)/ ジェイミー・バンバー(ラルフ・ペイトン)/ロジャー・フロスト(パーカー)/ヴィヴィアン・ハイルブロン(ヴェラ・アクロイド)/グレガー・トラター(デイビス警部)●日本放映:2000/12/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)
【1955年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(松本恵子:訳『アクロイド殺し』)]/1957年文庫化[角川文庫(松本恵子:訳『アクロイド殺人事件』)/1958年再文庫化・1987年改版[新潮文庫(中村能三:訳『アクロイド殺人事件』)/1959年再文庫化・1975年・2004年改版[創元推理文庫(大久保康雄:訳『アクロイド殺害事件』)/1979年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳『アクロイド殺し』)]/1998年再文庫化[偕成社文庫(茅野美ど里:訳『アクロイド殺人事件』)]/1998年再文庫化[集英社文庫(雨沢泰:訳『アクロイド殺人事件―乱歩が選ぶ黄金時代ミステリーBEST10(6)』)]/2003年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(羽田詩津子:訳『アクロイド殺し』)]/2004年再文庫化[嶋中文庫(河野一郎:訳『アクロイド殺害事件』)]/2005年再文庫化[講談社青い鳥文庫(花上かつみ:訳『アクロイド氏殺害事件』)]】





Don Winslow




元英国情報部員のルイス・ケインは、マガンハルトという実業家を、ブルターニュからリヒテンシュタインまで定刻に間に合うよう送り届ける仕事を請け負うが、この男は、彼の到着を快く思わない者から狙われ、フランス警察からも追われていた。ケインは護衛役のハーヴェイ・ロヴェルというガンマンを引き連れ、シトロエンDSを駆って出発する―。
1965年に英国の作家ギャビン・ライアル(Gavin Lyall、1932-2003/享年70)が発表した冒険アクション小説(原題"Midnight Plus One")で、CWA(英国推理作家協会)最優秀英国作品賞(CWA. Best. British. Novel. 1965)受賞作。作者の最高傑作とも言われており、ハヤカワ・ミステリ文庫の創刊ラインアップの一冊で、「ハヤカワ文庫海外ミステリ・ベスト100」の5位にランクインしたりもしていますが、再読してみて以前読んだよりも面白く感じられ、確かに傑作だなあと。
物語はケインの一人称で語られており、ロヴェルは欧州で3本の指に入る名うてのガンマンであるものの実はアル中で(何だかドグ・ホリディみたい)いざという時に心許なく、一方、敵方は欧州で№1と№2のガンマンを雇っているという、最初から形勢不利な状況設定がハラハラさせられますが、レジスタンスの闘士でもあったケインの落ち着きある判断で、立ちはだかる数々の難局を何とか潜り抜けていきます。
こうした護送劇は、ハードボイルド・アクションなどで結構ありますが、護送の対象となるのは大体、独裁政権を倒そうする政治家であったり、裁判で重要な証言が期待されている参考人であったりすることが多く、但し、このマンガハルトについては、自分の会社の株主としての利益を守ることがリヒテンシュタイン行きの目的であり、それに対しケインは、この仕事の請け負う上での道義性を常に検証していて、ああ、何となくレジスタンスっぽいなあと。




ミス・マープルの住むセント・メアリ・ミード村にある邸宅ゴシントン・ホールに、往年の大女優マリーナ・グレッグが夫ジェースン・ラッドと共に引っ越して来て、その邸宅で盛大なパーティが開かれるが、その最中に招待客の1人で地元の女性ヘザー・パドコックが変死し、死因はカクテルに入っていた薬物によるものだったことが判明する―。
やがて、何らかの秘密を握るジェースンの秘書エラ・ジーリンスキーが毒殺され、第3の殺人事件も起きますが、ストーリーそのものはシンプル(作品が永く印象に残る1つの要因だと思う)、但し、妊娠中の女性が水疱瘡に感染すると胎児に危険を及ぼすという知識はあった方がいいかも。
ガイ・ハミルトン監督によって映画化された「クリスタル殺人事件」('80年/英)は、ミス・マープル役がアンジェラ・ランズベリー(これが契機となったのか、後にテレビドラマ「ジェシカおばさんの事件簿」('84年~'96年)で"ジェシカおばさん"ことミステリー作家ジェシカ・フレッチャーを演じることに)。マリーナがエリザベス・テーラー(1932年生まれ)、秘書のエラがジェラルディン・チャップリン、夫ジェースンがロック・ハドソンと豪華顔ぶれですが、やや原作とは違っているという
感じも。原作ではそれほど重きを置かれていない映画女優ローラ・ブルースターをキム・ノヴァク(1933年生まれ)が演じることで、マリーナとローラの確執を前面に出しています。ロンドン警視庁のクラドック警部役がエドワード・フォックスだったり、マリーナが出ている映画の中でちらっと出てくる相手役がピアース・ブロスナン(ノンクレジット)だったりと、役者を観る楽しみはありますが、出演料に費用がかかり過ぎたのか舞台はやや地味で(『
・ハミルトン監督の次回作「
導入部では、例のミス・マープルと近所のおばさんや小間使いとの間の世間話なども織り込まれていて、最初はいつもフツーのおばあさんにしか見えないミス・マープルですが、事件が進展していくと一転して鋭い洞察をみせ、相当早くに犯人の目星をつけてしまったみたいで、後は、残った疑問点を整理していくという感じでしょうか(最大の疑問点は犯行動機、これが事件の謎を解くカギになる)。原作と同じようにエンディングで余韻を残していて、この点でも原作に忠実でした。
テレビ版でもこれまで何人かの女優がミス・マープルを演じていますが、BBCが最初にシリーズ化した際にマ―プルを演じたジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)は好きなタイプで、生前のクリスティ本人から「年を経た暁には、ミス・マープルを演じて欲しい」と言われたという逸話があるそうです(この「鏡は横にひび割れて」は、シリーズ全12話の最後の作品で、ジョーン・ヒクソンはこの時85歳くらいかと思われるが、非常にしっかりしている)。
この「鏡は横にひび割れて」には、同じテレビシリーズの「


「クリスタル殺人事件」●原題:The Mirror Crack'd●制作年:1980年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:ジョナサン・ヘイルズ/バリー・サンドラー●撮影:クリストファー・チャリス●音楽:ジョン・キャメロン●原作:アガサ・クリスティ「鏡は横にひび割れて」●時間:105分●出演:アンジェラ・ランズベリー/エリザベス・テイラー/ロック・ハドソン/ジェラルディン・チャップリン/トニー・カーティス/エドワード・フォックス/キム・ノヴァク/チャールズ・グレイ/ピーター・ウッドソープ/ナイジェル・ストック/ピアース・ブロスナン(ノンクレジット)●日本公開:1981/07●配給:東宝東和●(評価★★★)
「ミス・マープル(第12話)/鏡は横にひび割れて」●原題:The Mirror Crac'd from Side to Side●制作年:1992年●制作国:イギリス●監督:ノーマン・ストーン●製作:ジョージ・ガラッシオ●脚本:T・R・ボーウェン●撮影:ジョン・ウォーカー●原作:アガサ・クリスティ●時間:日本放映版93分(完全版204分)●出演:ジョーン・ヒクソン(マープル)/クレア・ブルーム(マリーナ・グレッグ)/バリー・ニューマン(ジェイソン・ラッド)/グエン・ワトフォード(ドリー・バントリー)/ジョン・キャッスル(ダーモット・クラドック警部)/コンスタンチン・グレゴリー(アードウィック・フェン)/グリニス・バーバー(ローラ・ブルースター)/エリザベス・ガーヴィー(エラ・ザイリンスキー) /デヴィッド・ホロヴィッチ(スラック警視)/イアン・ブリンブル(レイク巡査部長) ●日本公開:1997/03/19 (テレビ東京)(評価:★★★★) 








2003年発表のジェフリー・ディーヴァーの"リンカーン・ライム"シリーズの第5作で(原題は"The Vanished Man")、その前に第3作『エンプティー・チェア』で南部の田舎町に行ったり、第4作『石の猿』でプロットに中国思想を織り込んだりと変化球ぽかったのが、この作品で、"安楽椅子探偵"が猟奇殺人犯を追うという、このシリーズの原初スタイルに戻った感じ。但し、個人的には、文庫化されてから読んだこともあって、ややマンネリ感も。
『
エルケ・ハイデンライヒ&トミー・ウンゲラー


Jeffery Deaver









ハネムーンをエジプトに決めた大富豪の娘リンネットは、ナイル河で遊覧船の旅を楽しんでいたが、そこには夫のかつての婚約者ジャクリーンの不気味な影が...果たして、乗り合わせたポワロの目の前でリンネットは殺され、さらに続く殺人の連鎖反応が起きるが、ジャクリーンには文句無しのアリバイが―。
"Death on the Nile" ハ―パーコリンズ版
「
'78年の公開時に、今は無きマンモス映画館「日比谷映画劇場」で観て、90年代初めにビデオでも観ましたが、映画は、原作をやや端折ったような部分もあり、最後はちょっとドタバタのうちにポアロの謎解きが始まって、原作との間に多少距離を感じました。
また、この映画に関して言えば、本場エジプトでのオールロケで撮影されているため(同じナイル川でも原作の場所とはやや違っているようだが)、ある種"観光映画"(?)としても楽しめたというのがメリットでしょうか。行ってみたいね、ナイル川クルーズ。雪中で止まってしまった「オリエント急行」と違って、ナイルの川面を船が「動いている」という実感もあるし、途中で下船していろいろ観光もするし...。
ベティ・デイヴィスなんて往年の名女優も出ていたりして名優揃いの作品ですが、やはり何と言ってもオリジナルがいいんだろうなあ。この意外性のあるパターン、男女の関係なんて、傍目ではワカラナイ...。クリスティが最初の考案者かどうかは別として、この手の「人間関係トリック」は、その後も英国ミステリで何度か使われているみたいです。
「ナイル殺人事件」●原題:DEATH ON THE NILE●制作
年:1978年●制作国:イギリス●監督:ジョン・ギラーミン●製作:ジョン・ブラボーン/リチャード・グッドウィン●脚本:アンソニー・シェーファー●撮影:ジャック・カーディフ●音楽:
サ・クリスティ「ナイルに死す」●時間:140分●出演:ピーター・ユスティノフ/ミア・ファロー/ベティ・デイヴィス/アンジェラ・ランズベリー/ジョージ・ケネディ/オリヴィア・ハッセー/ジ
ョン・フィンチ/マギー・スミス/デヴィッド・ニーヴン/ジャック・ウォーデン/ロイス・チャイルズ/サイモン・マッコーキンデール/ジェーン・バーキン/サム・ワナメイカー/ハリー・アンドリュース●日本公開:1978/12●配給:東宝東和●最初に観た場所:日比谷映画劇場(78-12-17)(評価:★★★☆)











'99年にフィリップ・ノイス監督により映画化されましたが、リンカーン・ライム役がデンゼル・ワシントンということで、白人から黒人になったということはともかく、原作のライムの苦悩や気難しさなどが、優等生的なデンゼル・ワシントンが演じることで薄まっている感じがし、アメリア・ドナヒュー(原作ではアメリア・サックス)役の アンジェリーナ・ジョリーも、この映画に関しては演技の評価は高かったようですが、個人的には、ちょっと原作のイメージと違うなあという感じ。
このアンジェリーナ・ジョリーという女優は、演技派と言うより肉体派では?と、実父ジョン・ヴォイトと共演し、役柄の上でも父と娘の関係の役だった「トゥームレイダー」('01年)などでも思ったのですが、「トゥームレイダー」は、世界中で大ヒットしたTVアクション・ゲームの映画版で、タフで女性トレジャー・ハンターが、惑星直列によって強大な力を発揮するという秘宝を巡って、その秘宝を狙う秘密結社と争奪戦を繰り広げるもの(インディ・ジョーンズの女性版?)。ストーリー
も役者の演技もしょぼく、アンジェリーナ・ジョリーのアクロバティックなアクションだけが印象に残った作品(アンジェリーナ・ジョリー自身が、脚本を最初に読んだ時、主人公を「超ミニのホット・パンツをはいたバカ女」と評して脚本家と口論となった)。この作品で彼女は、ゴールデンラズベリー賞の「最低主演女優賞」にノミネートされたりもしていますが、最近では、クリント・イーストウッド監督の「チェンジリング」('08年)でアカデミー主演女優賞にノミネートされたりもしています。
「ボーン・コレクター」●原題:THE BONE COLLECTOR●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:フィリップ・ノイス●製作:マーティン・ブレグマン/マイケル・ブレグマン/ルイス・A・ストローラー●脚本:ジェレミー・アイアコーン/ジェフリー・ディーヴァー●音楽:クレイグ・アームストロング●原作:ジェフリー・ディーヴァー●時間:118分●出演:デンゼル・ワシントン/アンジェリーナ・ジョリー/クィーン・ラティファ/エド・オニール/マイク・マッグローン/リーランド・オーサー/ルイス・ガスマン●日本公開:2000/04●配給:ソニー・ピクチャーズ(評価:★★☆)
「トゥームレイダー」●原題:TOMB RAIDER●制作年:2001年●制作国:アメリカ●監督:サイモン・ウェスト●製作:ローレンス・ゴードン/ロイド・レヴィン/コリン・ウィルソン●脚本:パトリック・マセット/ジョン・ジンマン●撮影:ピーター・メンジース・Jr●音楽:BT●時間:100
ア分●出演:アンジェリーナ・ジョリー/ジョン・ヴォイト/イン・グレン/ダニエル・クレイグ/レスリー・フィリップス/ノア・テイラー/レイチェル・アップルトン/クリス・バリー/ジュリアン・リンド=タット/リチャード・ジョンソン●日本公開:2001/06●配給/東宝東和(評価★★)



