【1487】 ○ グラント・ジャーキンス (二宮 馨:訳) 『いたって明解な殺人 (2011/03 新潮文庫) ★★★☆

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妻殺害容疑の弟を兄が弁護。テンポよく読める。面白かったが、読後は何となくスッキリしない。

A Very Simple Crime.jpgいたって明解な殺人.jpgいたって明解な殺人 (新潮文庫)』(2011/03 新潮文庫)

"A Very Simple Crime"

 頭を割られた妻の無惨な遺体と、その傍らには暴力癖のある知的障害の息子、クリスタルの灰皿。現場を発見した夫アダムの茫然自失ぶりを見れば犯人は明らかなはずだったこの事件を担当するのは、かつて検事補を辞職し、今は屈辱的な立場で検察に身を置くレオ。捜査が進むにつれ、ねじれた家族愛と封印された過去のタブーが明らかになる―。

 2010年に発表されたグラント・ジャーキンス(Grant Jerkins)のデビュー作(原題:A Very Simple Crime)ですが、文庫で400ページ足らずと長くも短くもなく、むしろ、すいすいとテンポ良く読めて短く感じます。

 3部構成で、訳者あとがきにもあるように、アダムと被害者である妻との異常な夫婦関係を中心に描いた心理サスペンス風の第1部、下級検事補レオ・ヒューイットが、事故死として処理されようとしたこの事件に疑問を感じて動くリーガル・サスペンス風の第2部、妻殺害の容疑で訴追されたアダムと彼の弁護をすることになった兄モンティに、検事局側の屈折した政治力学が絡んで、これまで張られてきた伏線の意味が明らかとなる第3部―と盛沢山ですが、田舎町で起きた一事件だけを追って、その後連続殺人事件が起こるわけでもなく、話がやたら拡散していかないのが却っていいです(その意味ではタイトル通り)。

 更に、これらの話の中に重要な挿話が2つあり、1つはモンティとアダムの兄弟の過去に纏わる歪な兄弟関係の源となった話、もう1つは、レオ・ヒューイットが下級検事補に留まる原因となった、一旦は追い詰めた幼児性愛者を再び野に放つことになったという過去に犯した失態の経緯。

 心理サスペンスとしてはやや浅いかなと思ったら、法廷劇としての面白さにウェイトを置いた作品だったのかと―でも、最後にももう一捻りありました。心理サスペンスとして深まらない理由もここにあったのだなあ(ある意味、"叙述トリック")。

 読者にあるパターンの法廷劇を予感させておいた上での、最後の劇的な展開は旨いと思ったし、一見まともに見える人間が持っている異常性というものを描き切っているという意味では、サイコ・サスペンスとして一貫しているとも言えます("深さ"というより"構造"の妙)。

 ただ、周囲の皆がこの「逆転劇」の従順な観客になってしまっているのは不自然だし(当事者"M"がその通りに演じてしまっているのも不自然)、「一時不再理」と言っても、後でバレるのは間違いないと言うか、これ、完全犯罪とは言えないように思います。

 その辺りを"救い"と見る見方もあるかも知れないけれど、倫理的なことは抜きにして、プロットとして、個人的には何となくスッキリしませんでした(結局、"L"は前回と同じような運命を辿るのだろなあ)。

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