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戦前の〈スクリューボール・コメディ〉のテイストが60年代でどう変わったか。

ハワード・ホークス 「男性の好きなスポーツ」.jpg男性の好きなスポーツ  00.jpg 男性の好きなスポーツwi.jpg ロック・ハドソン/ポーラ・プレンティス
「男性の好きなスポーツ」ポスター/「Man's Favorite Sport? [DVD] [1964] by Rock Hudson

男性の好きなスポーツ 00.jpg ロージャー・ウィルビー(ロック・ハドソン)は釣り具メーカーの敏腕セールスマンで、彼の著書『かんたん釣り教本(Fishing Made Simple)』はベストセラーになっている。ある日、ワカプーギー湖で催される競技会にゲストスターとして出場するよう主催者側のイージー(マリア・ペルシー)とアビー(ポーラ・プレンティス)に口説かれ、社長(ジョン・マクギバー、しょっちゅうカツラがずれる)の命令ということもあり渋男性の好きなスポーツ 01.jpg々承諾するが、実は彼には一度も釣りの実地経験が無く魚は嫌いなのだ。美人2人と湖に行くと聞男性の好きなスポーツ 02.jpgいた婚約者のテックス(シャーレン・ホルト)は嫉妬する。湖での3日間の競技会の始まる前夜、アビーが彼に言い寄ってくる。何男性の好きなスポーツ 03.jpgとか言い逃れてコテージに戻ると、彼女は彼のベッドで寝ている。翌朝、彼のコテージをテックスが不意に訪れ、状況を誤解男性の好きなスポーツ 23.jpgして怒る。競技会が始まり、初日の彼の成績はマグレで2位。その夜、彼はテックスに詫び、彼女の心も和らぐが、彼女が再び訪ねて来ると、皮肉にもロージャーのネクタイがイージーのドレスのジッパーに引っ掛かって背中がはだけている場面に遭遇する。2日目はマグレで1位となり、その3日目は熊の捕まえた魚を横取りして遂に優勝。だが、アビーに諭されてトロフィーは返上、自分は今まで釣りをしたことが無かったことを皆に告白する―。

男性の好きなスポーツ 24.jpeg ハワード・ホークス(1896-1977/享年81)監督の1964年公開のスラップスティック・コメディで、ハワード・ホークスはハンフリー・ボガート主演の「脱出」('44年)、「三つ数えろ」('46年)といったハードボイルドタッチの作品や、ジョン・ウェイン主演の「赤い河」('48年)、「リオ・ブラボー」('59年)といった西部劇など男臭い映画を撮る一方で、マリリン・モンローが出演している「モンキー・ビジネス」('52年)や「紳士は金髪がお好き」('53年)など男女のドタバタ・ロマンティック・コメディも撮っていて、この作品もその部類と言えます。1975年にアカデミー名誉賞を授与されていますが、現役時にはアカデミー賞の受賞どころかノミネートも一度しかなく、多くの傑作を残しながら、批評家からは通俗的な娯楽専門のB級映画監督としてしか見られなかったといいますが、器用過ぎて却って損をしたのかなという気もします。

男性の好きなスポーツes.jpg この作品は、戦前に〈スクリューボール・コメディ〉と言われたものへのオマージュが込められているらしいですが(〈スクリューボール・コメディ〉の第1号は「或る夜の出来事」('34年)であると言われているが、この作品のオマージュ対象はハワード・ホークス自身が監督した「赤ちゃん教育」('38年)らしい)、古き良き時代のおおらかな雰囲気のラブ・コメディという感じがします。主人公ロージャーが釣りの本を書いてベストセラーになっているのに自身は釣りをしたことがないという設定は面白いと思いましたが、そのために事実を知ったイージーら女性陣からは釣りの手ほどきを受けつつもペテン師扱いされているけれど、自分で情報を集めているわけだし、「自分はどこそこで大物を釣った」とか言わない限りはペテン師にはならないのではないかな。

男性の好きなスポーツ kuma.jpg ロージャーが美女に振りまわされる姿をギャグでつないでいくという流れで、ロージャーの乗ったバイクが熊とぶつかったと思ったら、熊がバイクを乗りこなしていたり、更にはロージャーが再び熊に遭遇して湖面を水しぶきを上げながら走って逃げるといった(「レモ/第1の挑戦」('85年)のラストみたい)、現実にはありえないようなシュールな場面もありますが、まあ概ねオーソドックスなドタバタ劇という感じでしょうか。

男性の好きなスポーツ 89.jpg 〈スクリューボール・コメディ〉のセオリーは、プロセスですっちゃかめっちゃかあってもラスト男女が結ばれること(但し露骨なセクシー表現は無し)。結局、ロージャーは女性たちから散々ひどい目に遭いながらもアビーと結ばれ、「男性の好きなスポーツ」(原題:Man's Favorite Sport?)の答は「女性」だったということになるでしょうか。後に、有名人で最初に同性愛をカミングアウトした人物となるロック・ハドソン(カミングアウトする頃には業界内では"公然の秘密"だったようだが)がこれを演じているのはやや皮肉な気もします。

男性の好きなスポーツ  97.jpg 「孔子曰く」と言って色々なものを売りつける先住民風の男(ノーマン・アルデン)が、最後、「じゃじゃ馬は押していけ」とロージャーを励ましますが、この言葉は孔子じゃなくて自分の言葉で、孔子は世間知らずだという。だったら、どうして今まで孔子の言葉を引いていたのか。この辺りが微妙に可笑しかったです。

男性の好きなスポーツV1_.jpg 全体としては、肩が凝らずに観られる作品だけれど、やや笑いのパンチ不足? 国内でソフト化されていない理由も分からなくもないといった感じでしょうか。ソフト化されていないことが付加価値になっている部分もあるし、〈スクリューボール・コメディ〉のテイストが戦前と60年代でどう変わったか知るにはいい作品かもしれません(ちょっとだけセクシーな表現がある点が変わった?)。

男性の好きなスポーツ 99.jpg「男性の好きなスポーツ」●原題:MAN'S FAVORITE SPORT?●制作年:1964年●制作国:アメリカ●監督・製作:ハワード・ホークス●脚本:スティーヴ・マックニール/ジョン・フェントン・マレイ●撮影:ラッセル・ハーラン●音楽:ヘンリー・マンシーニ●時間:120分●出演:ロック・ハドソン/ポーラ・プレンティス/マリア・ペルシー/ジョン・マクギバー/シャーレン・ホルト/ロスコー・カーンス/ノーマン・アルデン/フォレスト・ルイス●日本公開:1964/03●配給:ユニヴァーサル(評価★★★)

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海に対するリュック・ベッソン監督の思い入れが、美しい映像に結実。ラストが印象的。

グラン・ブルー オリジナル版.jpg  グレート・ブルー_01.jpg グラン・ブルー 完全版.jpg  グランブルー.jpg
オリジナル版/編集版/完全版 「グラン・ブルー オリジナル版 ―デジタル・レストア・バージョン― [DVD]」「グレート・ブルー」「グラン・ブルー 完全版 ―デジタル・レストア・バージョン― [DVD]」ジャン=マルク・バール

グラン・ブルーs.jpg ギリシャのキクラーデス諸島で1965年に8歳のジャック・マイヨールはエンゾと出会った。そこで二人は初めて素潜りを競うが、翌日にダイバーであるジャックの父の死を目撃し大きな衝撃を受ける。12年後グラン・ブルー 00.jpgの1987年、一流のダイバーとなったエンゾ(ジャン・レノ)は、稼いだ金をつぎ込んでジャック(ジャン=マルク・バール)の行方を探していた。ジャックと共にダイビング選手権に出場して勝利することがエンゾの夢だった。別なところでニューヨークで働く保険調査員ジョアンナ(ロザンナ・アークエット)は、自動車事故の調査でペルー・アンデス山脈の高地にいた。そこで彼女は、氷結した湖に酸素ボンベもなしに数十分も潜水するジャックに出会う。彼こそがエンゾが捜していた少年ジャックの成長した姿であり、彼は水族館のイルカだけを友として静かに暮らグラン・ブルーes2.jpgしていた。ジョアンナは彼の不思議な魅力に惹かれ、ペルーから故郷へ帰ったジャックの後を追いかグラン・ブルー  04.jpgけるようにヨーロッパへ旅に出る。やがてエンゾはジャックをシチリアの競技会に連れ出すが、そこでのダイビングでジャックに敗れてしまう。ジャックへの対抗心に燃えるエンゾは、無謀な記録に挑んだ挙げ句に命を落としてしまう。その魂に引かれるかのように、ジャックも深夜の海に一人潜って行こうとする。彼を愛し子供を宿したジョアンナはジャックを引き留めようとするも、彼の海への想いを止めることは叶わなかった。やがて人間の限界を超える深海に達したジャックの目の前に一匹のイルカが現われ、彼を底知れぬ深淵へと誘って行った―。

グラン・ブルー 01.jpg リュック・ベッソン監督(1959年生まれ)の1988年 公開作で、ベッソン監督の両親はともにスキューバダイビングのインストラクターであり、ベッソン自身もダイバーとして過ごしましたが、17歳のときに潜水事故に遭いスキューバダイビングが出来なくなったそうです。映画ではスキューバダイビンググラン・ブルーes.jpgグラン・ブルー08.jpgではなくフリーダイダイビングを扱っていますが、海に対するベッソン監督の思い入れが、美しい映像に結実した作品ではないかと思われ、特にラストの主人公がイルカに誘われるように深海に身を委ねるグラン・ブルー bl.jpgグラン・ブルー_3.jpgシーンは印象に残りました(ロケは主にギリシャのキクラデス諸島アモルゴス島やシチリア島のリゾート地タオルミーナで行われた)。

グラン・ブルー02.jpg 世界的なフリーダイバーのジャック・マイヨール(フランス人)とエンゾ・マイオルカ(イタリア人)がモデルグラン。ブルーs.jpgとなっていますが、ジャック・マイヨールは「ジャック・マイヨール」のままの役名でクレジットされているのに対し、ジャン・レノが演じたエンゾは「エンゾ・モリナーリ」の名でクレジットされています。因みに、この作品はジャック・マイヨール自身の自伝を基グラン・ブルー 06.jpgにしているとのことですが、ジャックとエンゾの相互の友情が描かれているものの、ジャックが温厚で素直だが孤独でイルカを友とする青年として描かれているのに対し、エンゾの方はプライドが高くかなり癖のある人物として描かれており、これをジャン・レノが演じて、結果として当時日本ではあまり知られていなかったジャン・レノが、主役のジャン=マルク・バールや、知名度抜群のロザンナ・アークエットよりも印象に残るものとなっています。

ジャック・マイヨール.jpg 因みに、ジャック・マイヨール(1927-2001)は、1976年、49歳で人類史上初めて素潜りで100メートルを超える記録を作り、55歳の時には105メートルを記録していますが、映画では時代を少し後にして、逆に年齢の方は30年分若くしている感じでしょうか(映画でのジャックは1965年時点で8歳という設定になっている)。テレビでジャック・マイヨールがプールに潜って座禅を組んでいる間に脈拍数など体がどのように変化するかをやっていたのを見たことがありますが、その頃は気骨はあるが気のいい老人といった感じだったでしょうか。まさか、その何年か後に74歳で首吊り自殺を遂げるとは思ってみませんでしたが、うつ病を患っていたようです。

エンゾ・マイオルカ.jpg 一方のエンゾ・マイオルカ(1931-2016)は、映画の「エンゾ・モリナーリ」ように無理なダイビングをグラン・ブルー ジャック・マイヨール&エンゾ・マイオルカ.jpgして亡くなったわけではなく、実際には一命を取り留め、医師から潜水を禁じられて一線を退き、昨年['16年]11月85歳で亡くなっています。この映画については生前、「監督と同じフランス人であるジャック・マイヨールを主役にしているため、マイヨールは本人より美化され、自分は悪く描かれている」との発言をしています。実際マイヨールは、饒舌で自己主張が強く、怒りっぽい人物だったと言われています。

Jacques Mayol & Enzo Maiorca

1992年版VHS
グレート・ブルー vhs_.jpg この映画は、'88年公開時は「グレート・ブルー」というタイトルの120分英語版でした。有楽町の日劇プラザで公開日の1週間後に観ましたが、公開後2週間で打ち切りとなっています(新宿プラザ劇場は1週間で打ち切り)。フランスでも公開時は惨憺たる興行成績だったのが、その後じわじわとカルト的な人気が出てきたとのことです。それを受けて日本でも'89年にセルビデオが発売されると同じように人気が出て、'92年に「グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版」がシネセゾン渋谷で独占グラン・ブルー 日本人.jpg公開されています(同時にビデオも発売)。「グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版」は、個人的には'94年にビデオで観ましたが、「グレート・ブルー」が英語版だったのに対して、こちらは48分の未公開シーン(変な日本人ダイビング・チームとかも出てくる)を加えて再編集した168分のフランス語版でした。最近、132分のオリジナル版「グラン・ブルー」を劇場で観ましたが、これはフランス国内で最初に公開された版で、この映画は元々国際マーケットグレート・ブルー ビデオ.jpg向けに製作されたものでセリフはすべて英語だったものを、俳優本人たちがフランス語に吹替えたものです(変な日本人ダイビング・チームはやはり出てくる)。要するに、最初に観た「グレート・ブルー」(変な日本人ダイビング・チームは出てこない)は、国際マーケット向けに製作された132分英語版を12分縮めたものだったのだということを初めて知りました(カットされた12分の中に変な日本人ダイビング・チームの話があったことになる。やはり、日本公開に向けて配給会社側が配慮したのか)。

1998年版VHS

ギリシア・アモルゴス島 海岸、町の風景と難破船
グランブルー ロケ地 アモルゴス1.jpg グランブルー  アモルゴス島s.jpg グランブルー ロケ地 アモルゴス2.jpg
イタリア・シチリア島タオルミーナとホテルのテラスレストラン
グランブルー ロケ地 タオルミーナ.jpg グランブルー ロケ地 シチリア.jpg

ロザンナ・アークエット in「グラン・ブルー」(1988)/in「アフター・アワーズ」(1985) with グリフィン・ダン
グラン・ブルー ロザンナ・アークエット1.jpg グラン・ブルー ロザンナ.jpg  『アフターアワーズ』.jpg

LE GRAND BLEU 1988.jpgグラン・ブルー 90.jpg「グラン・ブルー(グレート・ブルー)」●原題:LE GRAND BLEU(BIG BLUE)●制作年:1988年●制作国:フランス・イタリア●監督:リュック・ベッソン●製作:パトリス・ルドゥー●脚本:リュック・ベッソン/ロバート・ガーグラン・ブルー  03.jpgランド●撮グラン・ブルー44.JPG影:カルロ・ヴァリーニ●音楽:エリック・セラ●時間:132分(オリジナル版)/120分(編集版(「グレート・ブルー」))/168分(完全版)●出演:ロザンナ・アークエット/ジャン=マルク・バール/ジャン・レノ/日劇プラザ   .jpg有楽町マリオン 阪急.jpgポール・シェナー/セルジオ・カステリット/マルク・デュレ/ジャン・ブイーズ/グリフィン・ダン●日本公開:1988/08●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所(「グレート・ブルー」):有楽町・日劇プラザ(88-08-27)●2回目(「グラン・ブルー」):北千住・シネマブルースタジオ(17-06-12)(評価★★★★) 日劇プラザ 1984年10月6日「有楽町マリオン」有楽町阪急側9階にオープン、2002年~「日劇3」、2006年10月~「TOHOシネマズ日劇・スクリーン3」

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ニューシネマの中ではラストに救いがある「ゲッタウェイ」。メディアミックスの先駆「ある愛の詩」。

ゲッタウェイ 1972 .jpgゲッタウェイ dvd.jpg ゲッタウェイ05.jpg  ある愛の詩 1970.jpg
ゲッタウェイ デジタル・リマスター版 [DVD]」 「【映画パンフ】ある愛の詩 アーサー・ヒラー アリ・マッグロー リバイバル判 1976年

ゲッタウェイs.jpg 刑務所を裏取引で出所したドク・マッコイ(スティーブ・マックイーン)は、引き換えに、取引相手のテキサスの政界実力者ベニヨン(ベン・ジョンソン)の要求で、妻キャロル(アリ・マッグロー)と銀行強ゲッタウェイ01.jpg盗に手を染める。ベニヨンからはルディ(アル・レッティエリ)とジャクソン(ボー・ホプキンズ)が助手兼ドクの監視役として送り込まれ、綿密な計画の末に強盗は何とか成功するが、ジャクソンが銀行の守衛を射殺してしまう。ルディは目撃者に面が割れたジャクソンを車内で射殺し、今度はドクに銃を向けるが、ドクの銃が先に火を吹く。ドクは、銀行から奪った金を約束通りベニヨンの元に運び込ぶが、キャロルの様子がおかしく、実はベニヨンとキャロルは男女の関係にあり、当初はドクゲッタウェイ02.jpgを裏切って消す考えだったのだ。しかし、キャロルはドクではなくベニヨンを射殺する。ドクは逃走中に車を止め、嫉妬と怒りからキャロルを殴り倒す。一方のルディは、防弾チョッキゲッタウェイ03.jpgのお蔭で死んでおらず、獣医の家に押し入り、ドクに撃たれた肩の治療をしていたが、ベニヨンの死を知り、ドクの追跡を開始する。ドクは町で自分が指名手配になっているのを知ってショットガンをゲッタウェイ04.jpg買い求め、警察に追われながらも逃げて、エルパソのホテルに辿り着く。だが、そこへはルディが先回りしていて、ベニヨンの手下も向かっていた。ルディがホテルに現れ、ドグが彼を殴り倒した時に今度はベニヨンの手下が現れて大銃撃戦が始まるが、ドクのショットガンで全員が倒され、ルディも射殺される。ドクはホテルからメキシコ人の老人のトラックに乗り込み、国境を越えたところで老人からトラックを買取り、夫婦はメキシコ側へ消えていく―。

 サム・ペキンパー監督の1972年作品で、原作は『鬼警部アイアンサイド』などで知られるジム・トンプスン、脚本は、後に「48時間」「ストリート・オブ・ファイアー」を監督するウォルター・ヒルが手掛けています。追手からの逃避行を続けるうちに、主人公2人の間に夫婦愛が甦ってきて、激しく血生臭い銃撃戦を乗り越えて2人は新たな世界へ逃げ延びる―というニューシネマの中では珍しく(?)ラストに救いがあるタイプです。アーサー・ペン監督の「俺たちに明日はない」('67年)にしても、銀行強盗の末路は警官から一斉射撃を浴びての"蜂の巣状態"でしたから。

ゲッタウェイ  .jpgゲッタウェイ 淀川.jpg しかしながら故・淀川長治は、必ずしも2人の未来は明るいと示唆されているわけではないと言っており、これは、原作にこの続きがあって、バッドエンディンが待ち受けていることを指していたのでしょうか。但し、原作における主人公のキャラクターは極悪人に近く、取引上やむなく銀行強盗をする映画の主人公とはかなり異なるようです。個人的には、この映画のラストには、やはり何となくほっとさせられます。

 一方、この映画の方には、もう1つのエンディングがあったこともよく知られており、最後は2人が警官に撃たれて「俺たちに明日はない」のボニーとクライドのように"蜂の巣状態"になるものだったそうです(実際に撮影された?)。これは、サム・ペキンパー監督が「俺たちに明日はない」に非常に感化されていたということもあったようですが、スティーブ・マックイーンが反対したようです。

 元々この映画は、ピーター・ボグダノビッチ監督、シビル・シェパード主演、原作者のジム・トンプスン脚本で進められていたのが、スティーブ・マックイーンが監督も主演女優も脚本家も変えてしまったみたいで、マックイーンがこうも口を挟む背景には、彼が実質的な製作者になっていったことがあるようです。音楽は、ペキンパー作品の常連ジェリー・フィールディングが担当することになったのが、これまたマックィーンの主張でクインシー・ジョーンズのジャズ音楽に差し替えられています。

 このように、様々な場面でサム・ペキンパー監督とも意見が対立し、マックイーンが押し切った部分もあれば譲歩した部分もあるようです。ペキンパーは破滅的な結末を望んだのかと思いましたが、実はこの映画を風刺のきいたコメディにしたかったらしいとも言われています。そうしたこともあってか、ペキンパー本人はこの作品に不満を持っていたとされていますが、結果として彼の作品の中では最大のヒット作となりました。

ゲッタウェイ  マックグロー.jpgある愛の詩05.jpg 妻役のアリ・マックグローは銃を扱ったことがなく、マックイーンが銃の撃ち方を教えて銃に慣れさせたりもしたそうですアリ・マックグロー 2.jpgが、「ある愛の詩」('70年)の白血病で死んでいく女子大生よりは、こちらの方が"演技開眼"している印象です。でも、この作品での共演をきっかけにマックイーンと結婚し、この後2本だけ映画に出て実質的に映画界を引退してしまいました。6年後に離婚してしまったことを考えると惜しい気もしますが、2006年に68歳で Festen(映画「セレブレーション」の舞台化)でブロードウェイ・デビューを果たしています。

ファラ・フォーセット オニール.jpgある愛の詩02.jpg 一方、「ある愛の詩」で共演したライアン・オニールは、2001年に慢性白血病に冒されていることが判明し、また、パートナーであったファラ・フォーセットのガンによる死(2009年6月25日、マイケル・ジャクソンと同じ日に亡くなった)を看取るとともに、自身も前立腺がんであることが公表(2012年)されていて、こちらはかなりタイヘンそうだなあと。

love story eric.jpg 「ある愛の詩」は、エリック・シーガルによる同名の小説が原作ですが、未完の小説を原作として映画の製作が始まり、先に映画が完成し、映画の脚本を基に小説が執筆された部分もあるそうです。先に小説が刊行され、その数週間後に映画が公開されており、今で言う"メディアミックス"のはしりでした。ペーパーバックを読みましたが、初めて英語で読んだ小説の割には読み易かったのは、ある種ノベライゼーションに近かったせいもあるかもしれないし、ストーリーが古典的で結末が見えているせいもあったかもしれません。この映画のヒットの後、難病モノの映画が幾つか続いた記憶があります(アメリカ人は白血病モノが好き?)。

Love Story - Originally sung by Andy Williams

大林宣彦2.jpg この映画がアメリカでヒットしたことについて、映画監督の大林宣彦氏はアメリカで封切り時にこの作品を現地で観ていて、ベトナム戦争で疲弊したアメリカが、本音ではこのような純愛ドラマを求めている時代感覚を肌で感じていたとのこと。但し、この映画の作られた1970年と言えばまだベトナム戦争の最中ですが、映画内にその影は一切見えません(最初観た時は"ノンポリ"恋愛映画だと思ったが、今思えば意図的にそうしていたのか)。日本でもヒットしたのは、古典的なストーリーに加えて、フランシス・レイの甘い音楽の効果もあったかと思います。

love story Tommy Lee Jones.jpg 因みに、主人公のオリバー・バレット4世(ライアン・オニール)のルームメイト役で無名時代のトミー・リー・ジョーンズ(当時24歳)が出演していますが、その後3年間は映画の仕事がなく、彼の無名時代は長く続き、オリバー・ストーン監督の「JFK」('91年)出演でアカデミー助演男優賞にノミネートされてからようやっと注目されるようになり、ハリソン・フォード主演の「逃亡者」('93年)でアカデミー助演男優賞を獲得しています。オリバーやそのルームメイトが通うのは名門ハーバード大学ですが、トミー・リー・ジョーンズは実人生においてもハーバード大学の出身で、当時のルームメイトに後の副大統領となるアル・ゴアがいたとのことです。

The Getaway (1972) .jpgゲッタウェイ 09.jpg「ゲッタウェイ」●原題:THE GETAWAY●制作年:1972年●制作国:アメリカ●監督:サム・ペキンパー●製作:デヴィッド・フォスター/ミッチェル・ブロウアー●脚本:ウォルター・ヒル●撮影:ルシアン・バラード●音楽:デイヴ・グルーシン●原作:ジム・トンプスン●時間:122分●出演:スティーブ・マックィーン/アリ・マックグロー/ベン・ジョンソン/アル・レッティエリン/スリム・ピケンズ/リチャード・ブライト/ジャック・ダドスン/ボー・ホプキンス/ダブ・テイラー●日本公開:1973/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:高田馬場パール坐(77-12-10)●2回目:自由が丘・武蔵野推理(84-09-23)(評価★★★★)●併映(1回目):「パピヨン」(フランクリン・J・シャフナー)●併映(2回目):「48時間」(ウォルター・ヒル)

ある愛の詩 01.jpgある愛の詩01.jpg「ある愛の詩」●原題:LOVE STORY●制作年:1970年●制作国:アメリカ●監督:アーサー・ヒラー●製作:ハワード・ミンスキー●脚本:エリック・シーガル●撮影:リチャード・クラディナ●音楽:フランシス・レイ●原作:エリック・シーガル●時間:99分●出演:ライアン・オニール/アリ・マックグロー/ジョン・マーレー/レイ・ミランド/キャサリン・バルフォー/シドニー・ウォーカー/ロバート・モディカ/ラッセル・ナイプ/トミー・リー・ジョーンズ ●日本公開:1971/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:三鷹オスカー(80-11-03)(評価★★★)●併映:「おもいでの夏」(ロバート・マリガン)/「フォロー・ミー」(キャロル・リード)
ある愛の詩 [ラリアン・オニール/アリ・マッグロー] [レンタル落ち]

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細部に"?"はあるが、もっと注目されていい"隠れた傑作"。

コンドル 1975.jpgコンドル dvd.jpg コンドル 1974 bluray.jpg コンドル輸入盤 blu-ray.jpeg
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コンドル dvd2.jpgコンドル 01.jpg ニューヨークにあるアメリカ文学史協会は、CIAの外郭団体として世界各国の雑誌書籍の情報分析を行っている。協会職員は学者肌のCIA分析官で構成されていた。ある日の白昼、アメリカ文学史協会は短機関銃で武装した男3人により襲撃さコンドル 1975   .jpgれ、協会職員は次々と射殺される。たまたま裏口から外出していたために命拾いをしたコードネーム"コンドル"ことジョセフ・ターナー(ロバート・レッドフォード)は、CIA本部に緊急連絡し保護を求める。CIA次官コンドル 8.jpgのヒギンズ(クリフ・ロバートソン)からの指示で第17課長のウィクスという男に落ち合うことになったが、コンドル sido.jpgそのウィクスに銃撃を受ける。辛くも逃走したが、孤立状態となったコンドルは、偶然見かけた女性写真家キャサリン・ヘイル(フェイ・ダナウェイ)を拉致同然に巻き込み、独力で真相を暴こうとする。CIAの暗部に近づこうとするコンドルに謎の殺し屋ジュベール(マックス・フォン・シドー)が忍び寄る―。(「Wikipedia」より)

 1975年製作のシドニー・ポラック(1934-2008)監督作であり、同監督がロバート・レッドフォードを主役に据えて映画を撮ったのは「大いなる勇者」('72年)、「追憶」('73年)以来3度目で、この作品以降も、「出逢い」('79年)、「愛と哀しみの果て」('85年)と続くので、相性が良かったのでしょうか。レッドフォードの共演女優は「追憶」がバーブラ・ストライサンド、この「コンドル」がフェイ・ダナウェイ、「出逢い」がジェーン・フォンダ、「愛と哀しみの果て」がメリル・ストリープだから、錚々たる顔ぶれです。

Three Days of the Condor (1975).jpgコンドルの六日間.jpg この「コンドル」の原作はジェイムズ・グレイディの『コンドルの六日間(Six Days of the Condor)』('75年/新潮社)で、映画の原題は"Three Days of the Condor"(3日分圧縮した?)。原作は米国ではベストセラーとなったポリティカル・サスペンスノベルで、日本での映画公開とほぼ同時期に訳出されていますが、個人的には未読です。小説での各人物像と映画で描かれた人物像はかなり異なり、各人の結末も原作と映画で違うようですが、原作を読んでいないためか却ってすんなり楽しめました。
コンドルの六日間 (1975年)
Three Days of the Condor (1975)

コンドル 1975 s.jpg ニューヨークの地味なビルに入っている表向きは「アメリカ文学史協会」という地味な組織が実はCIAの下部組織で、職員は世界中の推理小説やコミックスを読み漁り、そこに隠された敵対勢力の謀略、暗号の意味を解読する仕事を日夜行っているというのが面白いです(今日であればそうした仕事はコンピュータやAIが肩代わりして、フィクションであっても成り立たないような職業のようにも思えるが、そのレトロ感がいい)。

コンドル 9.jpg ある日突然仕事仲間を全員を殺害された"コンドル"は、何が何だか分からないまま得体の知れない巨大な敵から逃れながら、孤独な闘いを強いられますが、その際に、CIA職員であるとは言え、凄腕の諜報部員でも何でもない単なる本の虫に過ぎない彼が、仕事で培った本から得た知識や戦略を駆使して自らを守り、逆襲に出るというわけです。

コンドル 03.jpgコンドルad.jpeg ネタバレにまりますが、結局CIAの中に中東に戦争を仕掛けたがっている派閥、いわば〈もう1つのCIA〉があって、その連中が黒幕です(湾岸戦争やイラク戦争のことを想うと、ある意味"先駆的"な設定とも言え、こうした映画を作るところがいい意味でアメリカ的でもある)。最後"コンドル"は絶体絶命の危機に陥りますが、そこには思わぬ展開が待っていました。

コンドル シド―.jpg 更にネタバレになりますが、マックス・フォン・シドー演じる殺し屋は、結局、〈もう1つのCIA〉と〈本来のCIA〉の両方から雇われたわけなのだなあと。そんなことあり得るかとも思ったりしましたが、敵の目を眩ますために理屈上はあり得るのかも。マックス・フォン・シドーが映画を通してずっと不気味だったのに、最後は急にいい人っぽい感じになって、このギャップが可笑しかったですが、殺し屋が今までターゲットとして狙っていた人間にいきなりスカウトの声掛けをするかなあ(これも原作通りなのか、それともこの辺りは映画でのある種"お遊び"なのか)。

コンドル 1975s.jpg もっと注目されていい"隠れた傑作"だとは思いますが、やや気になったのは、いくらダウンタウンの犯罪多発地域だとは言え、敵方が協会職員を全員殺害したのは、ちょっと乱暴と言うか、リスクがありすぎるように思いました(彼らにだって家族や友人はいるわけで、事件を完全に揉み消すのは何れの立場の側にとっても難しいのでは。強盗のせいにするにしても、押し入った先が「アメリカ文学史協会」では...)。

コンドル 02.jpg フェイ・ダナウェイは珍しく受身的な役回りで、マックス・フォン・シドーの方が記憶に残っていましたが、久しぶりに観直してみると演技達者であることには変わりありませんでした。但し、あくまでも主演はレッドフォードで、フェイ・ダナウェイはやはり一歩引いたポジショニングでした。先に挙げたシドニー・ポラック監督によるロバート・レッドフォードと女優たちの共演作で、主演女優の方がレッドフォードより前面に出ているのは、「追憶」のバーブラ・ストライサンドと「愛と哀しみの果て」のメリル・ストリープでしょうか。いかにもという感じもしますが、ジェーン・フォンダについてはシドニー・ポラック監督は別に彼女を主役に据えた「ひとりぼっちの青春」('69年/米)を撮っていて、これは傑作です。 

Sydney Pollack's 'Three Days of the Condor'
Sydney Pollack's 'Three Days of the Condor'.jpg「コンドル」●原題:THREE DAYS OF THE CONDOR●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●製作:スタンリー・シュナイダー●脚本:ロレンツォ・センプル・ジュニア/デヴィッド・レイフィール●撮影:オーウェン・ロイズマン●音楽:デイヴ・グルーシン●原作:ジェームズ・グラディ「コンドルの六日間」●時間:118分●出演:ロバート・レッドフォード/フェイ・ダナウェイ/クリフ・ロバートソン/マックス・フォン・シドー/マイケル・ケーン/アディソン・パウエル/ウォルター・マッギン/ジョン・ハウスマン/ティナ・チェン/ドン・マクヘンリー/ヘレン・ステンボーグ/ハンスフォード・ロウ/ジェス・オスナ/ハンク・ギャレット/カーリン・グリン●日本公開:1975/11●配給:東宝東和●最初に観た場所:池袋文芸坐(78-05-04)(評価★★★★)●併映「合衆国最後の日」(ロバート・アルドリッチ)

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やはりクライマックスは船の山越えか。文化人類学的な視点の入った映画だったかも。

フィツカラルド dvd.jpgフィツカラルド 山越え.jpg フィツカラルド 2.png
フィツカラルド [DVD]」 クラウス・キンスキー/クラウディア・カルディナーレ

フィツカラルド01.jpg 19世紀末のブラジル・マナウスのオペラハウス。オペラ歌手エンリコ・カルーソの公演を聴こうとペルー・イキトスからボートを漕いで来たフィツカラルド(クラウス・キンスキー)とモリー(クラウディア・カルディナーレ)。会場にもぐり込んだフィッカラルドは、カルーソのテノールに聞き入る。アイルランド出身の彼の本名はブラ『フィツカラルド』(1982).jpgイアン・スウィーニー・フィツジェラルドだが、インディオたちは彼をフィツカラルドと呼ぶ。今は製氷業だが、かつてアンデスに鉄道を敷設しようとして破産した経歴の持主で、白人らは彼を奇人とみなしていたが、娼家経営の愛人モリーは良き理解者であり、インディオの子らも彼を慕う。彼はイキトスにオペラ・ハウスを建てようと決意するが、それには莫大な資金が必要で、ゴム成金たちには相手にされない。そこで彼は、自らがジャングルを切り拓いてゴム園を作ることを計画、モリーが出してくれた金で成金の一人ドン・アキリノ(ホセ・レーゴイ)から中古の蒸気船フィツカラルド tikuonnki.jpgを買い、パウル船長(ポール・ヒッチャー)、料理人ウェレケケ(ウェレケケ・エンリケ・ボホルケス)、機関士チョロ(ミゲル・アンヘル・フェンテス)らを雇う。"モリー号"と命名された船は修理を終えてアマゾン川に船出、彼のゴム園用地は流れの激しい"ボンゴの瀬"のあるウカヤリ川上流にあったため、彼はフィツカラルド 02.png船をパテリア川に進める。途中、中断された鉄道駅に寄り、レールを外して船に積み込む。船が進んで首刈り族の土地に入ると、乗組員らの多くは逃亡してしまう。フィツカラルドは操舵室の屋根上に蓄音機を置いてレコードをかけ、密林にオペラが流れるとインディオたちが姿を現わす。彼らは続々と船に乗り込んで来フィツカラルド 01.jpgるが、フィツカラルド一行に手を出さない。フィツカラルドは、パテリア川とウカヤリ川が最も接近したところで、船を川から揚げて山越えしてウカヤリ川に降ろすという計画をインディオに伝えると、酋長(D・P・エスピノサ)は協力するという。目的地に着いてレールを降ろし、ジャングルを切り拓き、滑車で船を引っぱり揚げる。7ヵ月後、遂に船はウカヤリ川に浮かぶ。祝杯に酔ったフィツカラルドらが寝ている隙に、インディオたちは船を激流に放つ。彼らは激流の荒ぶる魂を静める儀式として協力したのだった。フィッカラルドらを乗せたモリー号は、木の葉の如く激流を流されていく―。

フィツカラルド 00.jpg ヴェルナー・ヘルツォーク監督による1982年作品で、完成まで4年半を要し、苛酷なロケのためスターが次々と降板していった末にフィツカラルドの役をクラウス・キンスキーが得たことは知られていますが、結果として、オペラハウス建設への情熱に憑かれたフィツカラルドを演じたクラウス・キンスキーはハマリ役でした(思えば彼は、同監督の「アギーレ/神の怒り」('72年)で既に、エル・ドラドへの夢に憑かれアマゾン川を遡行するピサロの分遣隊の副隊長を演じていたのだが)。

 結局フィツカラルドは何とかイキトス(1900年代始めにゴムブームが起き、街はゴム産業で知られていた)に帰り着くが、彼の計画自体は水泡に帰し、彼はモリー号をドン・アキリノに売り、その金でオペラ一座を雇って一度だけの船上オペラを上演する―。

フィツカラルド ラスト.jpg ラストの、数日後には自分の所有から離れるモリー号の船上で、オペラを聴きながらフィツカラルドが見せる陶酔と誇りと狂気が入り交ざった表情はなかなかですが(ヘルツォーク作品の中ではかなり爽やかなエンディング?)、この映画のクライマックスはやはり、この映画を観たことがない人でもビデオやCDのジャケットでその場面は知っていると思われる、例の蒸気船の山越えでしょう。

フィツカラルド yamage2.jpg ヘルツォーク監督、ホントに船を山越えさせてしまったなあという感じで、実写でここまでやるというのは当時でもスゴイと思いましたが(完璧主義者だったE.Ⅴ.シュトロンハイムの系譜か)、CG全盛の今ではもうこんな撮影はあり得ないか。"ボンゴの瀬"に船が突っ込むシーンはさすがにミニチュアを使っていますが、これまで本チャンでやったらそれこそ死者が出ていたかもしれません。「山越え」でスペクタクル的には充分満足でした(アマゾン支流をゆっくり遡上するシーンも含め、劇場で観たい作品ではある)。

フィツカラルド03.jpg アギーレと同様フィッツカラルドも実在の人物に改変を加えて描いてるようですが、最初観た時は肉食系人種の凄まじい執念のようなものを感じました。また、異文化の出会いの物語でもあったなあと。最初は、西洋人の自らの文化への自信のようなものを感じましたが(「オペラで未開の地を啓蒙してやる」みたいな)、最近観直してみて、ラストの方でフィツカラルドが、初めてナイヤガラ瀑布を見つけた西洋人の言葉をぼそっと語る場面があったことに気づき、ああ、自分のことをなぞらえていたのだなあと。つまり、人に語っても信じてもらえないような不思議な体験をしたということであり、そこに彼の異文化への畏敬のようなものを感じました。結構、文化人類学的な視点の入った映画だったかもしれません。

Fitsukararudo(1982)
Fitsukararudo(1982).jpg
フィツカラルド      .jpg「フィツカラルド」●原題:FITZCARRALDO●制作年:1982年●制作国:西ドイツ●監督・脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク●製作:ヴェルナー・ヘルツォーク/ルッキ・シュティペティック●撮影:トーマス・マウホ●音楽:ポポル・ヴー●時間:158分●出演:クラウス・キンスキー/クラウディア・カルディナーレ/ホセ・レーゴイ/ポール・ヒッチャー/フィツカラルド c.カルディナーレ.jpgウェレケケ・エンリケ・ボホルケス/ミゲル・アンヘル・フェンテス/グランデ・オセFITZCARRALDO Claudia Cardinale.jpgロ/ペーター・ベルリング/デイヴィッド・ペレス・エスピノサ/パウル・ヒットシェル●日本公開:1983/07●配給:大映インターナショナル●最初に観た場所:東急名画座(83-04-16)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(15-06-23)(評価:★★★★)
Claudia Cardinale in FITZCARRALDO
FITZCARRALDO Claudia Cardinale2.jpg

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当時としては新鮮だったハリソン・フォードの役作り。

フランティック ちらし.jpgフランティック dvd.jpgフランティック [DVD]「フランティック」1988年5.jpg
映画チラシ 「フランティック」監督 ロマン・ポランスキー 出演 ハリソン・フォード

フランティック05.jpg 米国人外科医リチャード・ウォーカー(ハリソン・フォード)は、学会で講演するために妻サンドラ(ベティ・バックリー)と共にパリを訪れていた。新婚旅行以来のパリに心を弾ませていた彼だったが、ホテルにチェックインした後、「フランティック」1988年 4.jpgスーツケースが空港で誰かのものと取り違えてしまったことに気づく。明日にでも取り替えてもらうよう妻に言ってシャワーを浴びるが、その間に妻はホテルの部屋から忽然と姿を消してしまう。幾つかの関係先に問い合わせるも本気で取り合ってもらえず、逆に妻の浮気を疑われるという不本意な状況の中、ある目撃情報から妻の装身具を路上で発見、彼は妻は誘拐されたと確信し単身で捜索に乗り出す―。

Frantic 1988.jpg ロマン・ポランスキー監督(左写真)の1988年作品で、タイトルの「フランティック」(frantic)とは、「気が狂ったような」という意味であり、妻の誘拐事件にパニックになる主人公の姿を指しています。ハリソン・フォードはプライベートで妊娠中の当時の妻メッリサ・マシスンとパリ旅行に行った際にポランスキー監督と出会い、その時にこの作品の企画を打ち明けられ、異郷のパリで主人公の心情に近い立場だったこともあって喜んで出演をOKしたという裏話があります。

「フランティック」1988年 ミシェル.jpg 主人公が誤って持ち帰ったスーツケースは、運び屋の女ミシェル(エマニュエル・セニエ)が米国から持ち込んだ核兵器の起爆装置が隠されたもので、彼女に行き着いた主人公は、その起爆装置の争奪に躍起になるアラブ人グループとそれを阻止せんとするイスラエル側の攻防の中、ミシェルを救ったりしながら自らも妻の捜索にあたる―。

フランティック07.jpg この映画は、公開時に結構評価が割れたような気がします。ロマン・ポランスキーにしてはクセが無いオーソドックスなサスペンスですが、ストレートにサスペンスとして見「フランティック」1988年 Hフォード.jpgるとやや盛り上がりに欠け、ヒッチコック作品ほどの完成度にも至っていないといのがマイナス評価の理由でしょうか。大掛かりな仕掛けが出てこないこともあって、TVのミステリードラマを見ているような印象もあります。しかしながら、パリの街の雰囲気を自らがエトランゼになった気分で味わえ、ハリソン・フォードの好演もあって、個人的評価としては「○」です。特にハリソン・フォードが、主人公の医師が不測の事態にキリキリ舞いさせられる様を見事に演じていたように思います。

Frantic 1988 06.jpg ハリソン・フォードは当時、「インディ・ジョーンズ」シリーズからのイメージ・チェンジを図っており、既に「刑事ジョン・ブック 目撃者」('85年)といったサスペンスに出演したりもしていましたが、やはり、この「フランティック」が1つエポックになったのではないかと思われます。後の主演作品で、愛人殺害容疑をかけられた地方検事補ラスティ・サビッチを演じたスコット・トゥロー原作の「推定無罪」('90年)や、妻殺害容疑をかけられた医師チャード・キンブルを演じた「推定無罪」「逃亡者」「目撃者」.jpg古典的TVシリーズのリメイク「逃亡者」('93年)といった作品におけるキャラクター造型は、この「フランティック」の時の役作りがベースになっているように思います。「推定無罪」や「逃亡者」におけるハリソン・フォードの演技を知った上でこの作品における彼の演技に接すると、そう目新しい感じではないかも知れないけれど、リアルタイムで初めてこの作品を観た時の彼の演技は新鮮に映ったものでした(役者が自身の新境地を開拓した作品というのはやはり注目に値する)。

「フランティック」1988年.jpg「フランティック」●原題:FRANTIC●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロマン・ポランスキー●製作:ティム・ハンプトン/トム・マウント●脚本:ロマン・ポランスキー/ジェラール・ブラッシュ/ロバート・タウン/ジェフ・グロスン●撮影:ヴィトルド・ソボチンスキ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:120分●出演:ハリソン・フォード/エマニュエル・セニエ/ベティ・バックリー/ジョン・マホーニー/ジミー・レイ・ウィークス/ジェラール・クライン/パトリス・メレネク/イヴ・レニエ/リシャール・デュー/ドミニク・ピノン/ジャック・シロン//パトリック・フラールシェン/新宿ミラノ座内2.jpg新宿ミラノ座 1959.jpgマルセル・ブリュワル/デヴィッド・ハドルストン/アレクサンドラ・スチュワート/トーマス・M・ポラード/アルトゥ・ドゥ・ペンゲルン●日本公開:1988/07●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場ミラノ座 1983年.jpg新宿ミラノ.jpg新宿ミラノ座 内部.jpg所:新宿ミラノ座(88-07-10)(評価:★★★★) [上写真:「新宿ミラノ座」オープン当初 (1959年)]
新宿ミラノ座 1956年12月、歌舞伎町「東急文化会館(後に「東急ミラノビル」)」1Fにオープン(1,288席)、2006年6月1日~「新宿ミラノ1」(1,064席)2014(平成26)年12月31日閉館。

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オリジナルに大きく及ばない。人間ドラマを期待すると肩すかしを喰う。

ポセイドン 2006 dvd.jpgポセイドン [DVD]」 ポセイドン (06年/米).jpg

ポセイドン 2006 090.png 大晦日、豪華客船ポセイドン号は北大西洋を航海していた。客室にいたクリスチャン(マイク・ヴォーゲル)と恋人ジェニファー(エミー・ロッサム)は、彼女の父ラムジー(カート・ラッセル)が来たため慌てて離れる。賭博師ディラン(ジョシュ・ルーカス)は、エレナ(ミア・マエストロ)という女性とぶつかるが、実はエレナは、ウエイターのヴァレンタイン(フレディ・ロドリゲス)の手引きでの密航だった。乗客はダンスホールに集まり、船長(アンドレ・ブラウアー)の挨拶でパーテポセイドン 2006        .jpgィーが始まる。歌手グロリア(ファーギー)がステージに登場し、バンドの演奏で歌い始めた。ラムジーやディラン、ラッキー・ラリー(ケヴィン・ディロン)といった面々は、カジノでカードに興じている。ジェニファーはクリスチャンとディスコに向かい、ディランは、シングルマザーのマギー(ジャシンダ・バレット)と息子のコナー(ジミー・ベネット)に出会う。建築家のネルソン(リチャード・ドレイファス)は仲間たちに、妻から別れ話を切り出されポセイドン 2006 81.pngたことを打ち明ける。新年が訪れ、ダンスホールで乗客たちが盛り上がる中、ブリッジでは一等航海士が異変を感じ取っていた。異常波浪に気付いた彼は慌ポセイドン 2006 a3.pngてて面舵を切らせるが、ポセイドン号は激しい揺れに見舞われ転覆、ディスコでは火災が発生して照明が消え、船は逆さまになり、大勢の犠牲者が出る。衝撃が収まると、船長は「ここに留まって助けを待っていれば安全だ」と告げるが、ディランは船長のポセイドン 2006 ac2d.png言葉に従わず、船底から外に出るつもりだと言い、ラムジーも娘を捜すため同行を決める。ネルソンは建築家の見地から、船長の安全宣言に懐疑的だった。ラムジーはディランに、共に協力し合おうと持ち掛けるが、彼は断わる。ラムジーはヴァレンティンに乗務員出口に案内してくれたら報酬を払うと持ちかけ、ディランにも改めて協力を持ちかけるとディランは承諾し、マギー母子、ネルソンも彼らに付いていくことに。一方、ディスコではクリスチャンが瓦礫に足を挟まれて動けなくなっており、ジェニファーとエレナが救出を試みていた―。

ポセイドン・アドベンチャー パンフr.jpgポセイドン・アドベンチャー01.jpg 「ポセイドン・アドベンチャー」('72年)のリメイクであり、監督は「アウトブレイク」('95年)などのウォルフガング・ペーターゼン。期待された見所は、スペクタクルシーンを最新のCGなどを使ってどのように撮るかという点と、オリジナルの人間ドラマの部分をどのように再構成するかという点だったと思われますが、アカデミー賞視覚効果賞にノミネートされたスペクタクルシーンの方はまあまあだったものの、人間ドラマの方は、批評家からは、「ポセイドン・アドベンチャーで描かれていた人間ドラマ的な面は大きく省かれたという評価を受け、ゴールデンラズベリー賞の最低リメイク賞にもノミネートされることになってしまいました。

ポセイドン 2006 08.png 話の枠組みだけは「ポセイドン・アドベンチャー」を踏襲しており、皆が留まっているダンスホールから独自に脱出を図るメンバーの数が「10名」であるのも同じです(早い段階でその内2人が犠牲ポセイドンY.jpgになるのも同様)。序盤で彼らの出自が簡単に紹介的に描かれているだけに、それらがどう人間ドラマとして反映されるのかと思いましたが、やはり、結局はあまり深く描かれてなかったという印象でした。期待して観ると肩すかしを喰います(但し、人間ドラマより純粋スペクタクルを好む人にはそう悪くないかも)。

 オリジナルではジーン・ハックマンとアーネスト・ボーグナインの2大キャラのぶつかり合いが大きな見所でしたが、この作品では、カート・ラッセルとジョシュ・ルーカスが、一旦はオリジナルのように反発し合うものの、すぐさま協力体制に入ってしまい、ジーン・ハックマンにおける、脱出行のメンバーの中に自分の考えに反発する者もいる中で(しかもメンバーの一部はそちらに靡きそうになる中で)、皆をどう導いていくかといったリーダーとしての難しい局面も出てきません。

ポセイドン 2006 07.jpg そもそも、カート・ラッセルはジーン・ハックマンのように他の乗客に一緒に脱出しようと強く働きかけることもしないし、脱出行に出たコアメンバ-もオリジナルに比べると何となく結束力が弱い感じ。潜水で犠牲者が出るのはオリジナルと同じですが、オリジナルではジーン・ハックマンを救うためにシェリー・ウィンタース演じる中年女性が犠牲ポセイドン 2006 01.pngになるのだけれど、この作品でエレナ(ミア・マエストロ)の死は殆ど事故のようなもの。カート・ラッセルは最後にヒロイックな犠牲的精神を発露しますが、ジーン・ハックマンのような牧師が"神"に向かって呼びかけるといった重い感じもありません。

エミー・ロッサム/カート・ラッセル

 オリジナルで淀川長治が「その背中に天使の羽根が見えた」と褒め讃えた、船底に"上がる"ために少年が巨大なクリスマスツリーをよじ登っていくシーンなども再現されていなかったなあ。折角、淀川長治がその象徴性を高く評価したほどの場面だったのに...。

ポセイドン 2006 04.jpgポセイドン エミー・ロッサム.jpg 一方で、オリジナルは、3人の女性がアクションシーンで何かと脚線美を披露するなど、B級映画的要素も兼ね備えていたのに、そうした部分はこのリメイクでは(慎み深く?)抑え気味で、歌手のファーギーやブエノスアイレス出身の女優ミア・マエスポセイドン リチャード・ドレイファス.jpgトロ、「オペラ座の怪人」('04年)のエミー・ロッサムなども、ビジュアル面でも演技面でもやや勿体ない使われ方をしていたように思います。リチャード・ドレイファスの役も、誰が演じてもいいようなものでした(まあ、客演のようなものか)。いろいろな見方できますが、総じてオリジナルに大きく及ばなかったと言っていいのではないでしょうか。
      
ファーギー(ステイシー・ファーガソン)/ミア・マエストロ/エミー・ロッサム in「オペラ座の怪人」
ファーギー.jpgミア・マエストロ.pngエミー・ロッサム オペラ座の怪人.png「ポセイドン」●原題:POSEIDON●制作年:2006年●制作国:アメリカ●監督:ウォルフガング・ペーターゼン●製作:ウォルフガング・ペーターゼン/アキヴァ・ゴールズマン/ダンカン・ヘンダーポセイドン 2006 メンバー.jpgソン/マイク・フレイス●脚本:マーク・プロトセヴィッチ●撮影:ジョン・シール●音楽:クラウス・バデルト●原作:ポール・ギャリコ●98分●出演:カート・ラッセル/ジョシュ・ルーカス/ジャシンダ・バレット/リチャード・ドレイファス/エミー・ロッサム/ミア・マエストロ/マイク・ヴォーゲル/ジミー・ベネット/アンドレ・ブラウアー/フレディ・ロドリゲス/ケヴィン・ディロン/カーク・B・R・ウォーラー/ファーギー(ステイシー・ファーガソン)/ケリー・マクネア●日本公開:2006/06●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:丸の内ピカデリー1(06-07-01)(評価:★★☆)

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ニューヨークという大都会を舞台にしたダスティン・ホフマン主演'69年作品2作。

ジョンとメリー [VHS].jpgジョンとメリー [DVD].jpg 真夜中のカーボーイ dvd.jpg 卒業 [DVD] L.jpg
ジョンとメリー [DVD]」「真夜中のカーボーイ [DVD]」「卒業 [DVD]

ジョンとメリー 1.jpg マンハッタンに住む建築技師ジョン(ダスティン・ホフマン)のマンションで目覚めたメリー(ミア・ファロー)は、自分がどこにいるのか暫くの間分からなかった。昨晩、独身男女が集まるバーで2人は出会い、互いの名前も聞かないまま一夜を共にしたのだった。メリーは、整頓されたジョンの家を見て女の影を感じる。ジョンはかつてファッションモデルと同棲していた過去があり、メリーはある有力政治家と愛人関係にあった。朝食を食べ、昼食まで共にした2人は、とりとめのない会話をしながらも、次第に惹かれ合っていくが、ちょっとした出来事のためメリーは帰ってしまう―。

 ピーター・イエーツ(1929-2011/享年81)監督の「ジョンとメリー」('69年)は、行きずりの一夜を共にした男女の翌朝からの1日を描いたもので、男女の出会いを描いた何とはない話であり、しかも基本的に密室劇なのですが、2人のそれぞれの回想と現在の気持ちを表す独白を挟みながらストーリーが巧みに展開していき、2人の関係はどうなるのだろうかと引き込まれて観てしまう作品でした。ピーター・イエーツは英国人で、映画監督になる前にプロのレーシング・ドライバーだったこともあり、この作品が監督第3作ですが、第1作が犯罪サスペンス映画「大列車強盗団」('67年/英)で、この作品でのアクション・シーンの手腕が買われ、ハリウッドで第2作、スティーブ・マックイーン主演のアクション映画「ブリット」('67年/米)を撮っていますが、今度はがらっと変って男女の出会いを描いた作品に。

ジョンとメリー 4.jpg 脚本は「シャレード」('63年)の原作者ジョン・モーティマーですが、構成の巧みさもさることながら、演じているダスティン・ホフマンとミア・ファローがそもそも演技達者、とりわけダスティン・ホフマン演じるジョンの、そのままメリーに居ついて欲しいような欲しくないようなその辺りの微妙に揺れる心情が可笑しく(ジョンの方に感情移入して観たというのもあるが)ホントにこの人上手いなあと思いました(でも、ミア・ファローも良かった)。

ジョンとメリー 2.jpg 最後に互いの気持ちを理解し合えた2人が、そこで初めて「ぼくはジョンだ」「私はメリーよ」という名乗り合う終わり方もお洒落(その時に大方の日本人の観客は初めて、そっか、2人はまだ名前も教え合っていなかったのかと気づいたのでは。アメリカ人だったら普通は最初に名乗るけれど、アメリカ人が見たらどう感じるのだろうか)。観た当時は、これが日本映画だったら、もっとウェットな感じになってしまうのだろうなあと思って、ニューヨークでの一人暮らしに憧れたりもしましたが、逆に、ニューヨークのような大都会で恋人も無く一人で暮らすということになると、(日本以上に)とことん"孤独"に陥るのかも知れないなあとも思ったりして。

真夜中のカーボーイ1.jpg そうした大都会での孤独をより端的に描いた作品が、ダスティン・ホフマンがこの作品の前に出演した同年公開のジョン・シュレシンジャー(1926-2003/享年77)監督の「真夜中のカーボーイ」('69年)であり、ジョン・ヴォイトが、"いい男ぶり"で名を挙げようとテキサスからニューヨークに出てきて娼婦に金を巻き上げられてしまう青年ジョーを演じ、一方のダスティン・ホフマンは、スラム街に住む怪しいホームレスのリコ(一旦は、こちらもジョーから金を巻き上げる)役という、その前のダスティン・ホフマンの卒業 ダスティン・ホフマン .jpg主演作であり、彼自身の主演第1作だったマイク・ニコルズ監督の「卒業」('67年)の優等生役とはうって変った役柄を演じました(「卒業」で主人公が通うコロンビア大学もニューヨーク・マンハッタンにある)。

卒業 ダスティン・ホフマン/キャサリン・ロス.jpg 映画デビューした年に「卒業」でアカデミー主演男優賞ノミネートを受け(この作品、今観ると「サウンド・オブ・サイレンス」をはじめ「スカボロ・フェアー」「ミセス・ロビンソン」等々、サイモン&ガー卒業(1967).jpgファンクルのヒット曲のオン・パレードで、そちらの懐かしさの方が先に立つ)、主演第2作・第3作が「真夜中のカーボーイ」(これもアカデミー主演男優賞ノミネート)と「ジョンとメリー」であるというのもスゴイですが、ゴールデングローブ卒業 1967 2.jpg賞新人賞を受賞した「卒業」の、その演技スタイルとは全く異なる演技をその後次々にみせているところがまたスゴイです(「卒業」で英国アカデミー賞新人賞を受賞し、「真夜中のカーボーイ」と「ジョンとメリー」で同賞主演男優賞を受賞している)。

真夜中のカーボーイQ.jpg 3作品共にアメリカン・ニュー・シネマと呼ばれる作品ですが、その代表作として最も挙げられるのは「真夜中のカーボーイ」でしょう。ニューヨークを逃れ南国のフロリダへ旅立つ乗り合いバスの中でリコが息を引き取るという終わり方も、その系譜を強く打ち出しているように思われます。「真夜中のカーボーイ」も「ジョンとメ真夜中のカーボーイs.jpgリー」も傑作であり、ダスティン・ホフマンはこの主演第2作と第3作で演技派としての名声を確立してしまったわけですが、個人的には「ジョンとメリー」の方が、ラストの明るさもあってかしっくりきました。一方の「真夜中のカーボーイ」の方は、ジョーとリコの奇妙な友情関係にホモセクシュアルの臭いが感じられ、当時としてはやや引いた印象を個人的には抱きましたが、2人の関係を精神的なホモセクシュアルと見る見方は今や当たり前のものとなっており、その分だけ、今観ると逆に抵抗は感じられないかも。

ミスター・グッドバーを探して [VHS].jpg 「ジョンとメリー」に出てくる"Singles Bar"(独身者専門バー)を舞台としたものでは、リチャード・ブルックス(1912-1992/享年72)監督・脚本、ダイアン・キートン主演の「ミスター・グッドバーを探して」('77年)があり、こちらはジュディス・ロスナーが1975年に発表したベストセラー小説の映画化作品です。
ミスター・グッドバーを探して [VHS]

ミスター・グッドバーを探して1.jpg ダイアン・キートン演じる主人公の教師はセックスでしか自己の存在を確認できない女性で、原作は1973年にニューヨーク聾唖学校の28歳の女性教師がバーで知り合った男に殺害された「ロズアン・クイン殺人事件」という、日本における「東電OL殺人事件」(1997年)と同じように、当時のアメリカ国内で、殺人事件そのものよりも被害者の二面的なライフスタイルが話題となった事件を基にしており、当然のことながら結末は「ジョンとメリー」とは裏腹に暗いものでした。主人公の女教師は最後バーで拾った男(トム・ベレンジャー)に殺害されますが、その前に女教師に絡むチンピラ役を、当時全く無名のリチャード・ギアが演じています(殺害犯役のトム・ベレンジャーも当時未だマイナーだった)。

恋におちて 1984.jpg 何れもニューヨークを舞台にそこに生きる人間の孤独を描いたものですが、ニューヨークを舞台に男女の出会いを描いた作品がその後は暗いものばかりなっているかと言えばそうでもなく、ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープの演技派2人が共演した「恋におちて」('84年)や、メグ・ライアンとトム・ハンクスによるマンハッタンのアッパーウエストを舞台にしたラブコメディ「ユー・ガット・メール」('98年)など、明るいラブストーリーの系譜は生きています(「ユー・ガット・メール」は1940年に製作されたエルンスト・ルビッチ監督の「街角/桃色(ピンク)の店」のリメイク)。
「恋におちて」('84年)

ユー・ガット・メール 01.jpg 「恋におちて」はグランド・セントラル駅の書店での出会いと通勤電車での再会、「ユー・ガット・メール」はインターネット上での出会いと、両作の間にも時の流れを感じますが、前者はクリスマス・プレゼントとして買った本を2人が取り違えてしまうという偶然に端を発し、後者は、メグ・ライアン演じる主人公は絵本書店主、トム・ハンクス演じる男は安売り書店チェーンの御曹司と、実は2人は商売敵だったという偶然のオマケ付き。そのことに起因するバッドエンドの原作を、ハッピーエンドに改変しています。
「ユー・ガット・メール」('98年)

めぐり逢えたら 映画 1.jpg トム・ハンクスとメグ・ライアンは「めぐり逢えたら」('93年)の時と同じ顔合わせで、こちらもレオ・マッケリー監督、ケーリー・グラント、デボラ・カー主演の「めぐり逢い」('57年)にヒントを得ている作品ですが(「めぐり逢い」そのものが同じくレオ・マッケリー監督、アイリーン・ダン、シャルル・ボワイエ主演の「邂逅」('39年)のリメイク作品)、エンパイア・ステート・ビルの展望台で再開を約するのは「めぐり逢い」と同じ。但し、「めぐり逢い」ではケーリー・グラント演じるテリーの事故のため2人の再会は果たせませんでしたが、「めぐり逢えたら」の2人は無事に再開出来るという、こちらもオリジナルをハッピーエンドに改変しています。
「めぐり逢えたら」('93年)

 最近のものになればなるほど、男女双方または何れかに家族や恋人がいたりして話がややこしくなったりもしていますが、それでもハッピーエンド系の方が主流かな。興業的に安定性が高いというのもあるのでしょう。「恋におちて」は、古典的ストーリーをデ・ニーロ、ストリープの演技力で引っぱっている感じですが、2人とも出演時点ですでに大物俳優であるだけに、逆にストーリーの凡庸さが目立ち、やや退屈?(もっと若い時に演じて欲しかった)。但し、「恋におちて」「めぐり逢えたら」「ユー・ガット・メール」の何れも役者の演技はしっかりしていて、ストーリーに多分に偶然の要素がありながらも、ディテールの演出や表現においてのリアリティはありました。しかしながら、物語の構成としては"定番の踏襲"と言うか、「ジョンとメリー」を観て感じた時のような新鮮味は感じられませんでした。

 こうして見ると、ニューヨークという街は、「真夜中のカーボーイ」や「ミスター・グッドバーを探して」に出てくる人間の孤独を浮き彫りにするような暗部は内包してはいるものの、映画における男女の出会いや再会の舞台として昔も今もサマになる街でもあるとも言えるのかもしれません(ダスティン・ホフマンは同じ年に全く異なるキャラクターで、ニューヨークを舞台に孤独な男性の「明・暗」両面を演じてみせたわけだ。これぞ名優の証!)。

ジョンとメリー [VHS]
JOHN AND MARY 1969.jpgジョンとメリーdvd3.jpg「ジョンとメリー」●原題:JOHN AND MARY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ピーター・イェーツ●製作:ベン・カディッシュ●脚本:ジョン・モーティマー●撮影:ゲイン・レシャー●音楽:クインシー・ジョーンズ●原作:マーヴィン・ジョーンズ「ジョンとメリー」●時間:92分●出演:ダスティン・ホフマン/ミア・ファロー/マイケル・トーラン/サニー・グリフィン/スタンリー・ベック/三鷹オスカー.jpgタイン・デイリー/アリックス・エリアス●日本ジョンとメリーe.jpg公開:1969/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-17)(評価:★★★★☆)●併映:「ひとりぼっちの青春」(シドニー・ポラック)/「草原の輝き」(エリア・カザン)三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

Dustin Hoffman and Mia Farrow/Photo from John and Mary (1969)

「真夜中のカーボーイ」●原題:MIDNIGHT COWBOY●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・シュレシンジャー●製作:ジェローム・ヘルマン●脚本:ウォルド・ソルト●撮影:アダム・ホレンダー●音楽:ジョン・バリー●原作:ジェームズ・レオ・ハーリヒー「真夜中のカーボーイ」●時間:113真夜中のカーボーイ2.jpg真夜中のカーボーイ 映画dvd.jpg分●出演:ジョン・ヴォイト/ダスティン・ホフマン/シルヴィア・マイルズ/ジョン・マクギヴァー/ブレンダ・ヴァッカロ/バーナード・ヒューズ/ルース・ホワイト/ジェニファー・ソルト/ボブ・バラバン●日本公開:1969/10●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:早稲田松竹(78-05-20)(評価:★★★★)●併映:「俺たちに明日はない」(アーサー・ペン)
真夜中のカーボーイ [DVD]

「卒業」●原題:THE GRADUATE●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督:マイク・ニコルズ●製作:ローレンス・ター卒業 1967 pster.jpgマン●脚本:バック・ヘンリー/カルダー・ウィリンガム●撮影:ロバート・サーティース●音楽:ポール・サイモン卒業 1967 1.jpg/デイヴ・グルーシン●原作:チャールズ・ウェッブ「卒業」●時間:92分●出演:ダスティン・ホフマン/アン・バンクロフト/キャサリン・ロス/マーレイ・ハミルトン/ウィリアム・ダリチャr-ド・ドレイファス 卒業.jpgニエルズ/エリザベス・ウィルソン/バック・ヘンリー/エドラ・ゲイル/リチャード・ドレイファス●日本公開:1968/06●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(83-02-05)(評価:★★★★)●併映:「帰郷」(ハル・アシュビー)
卒業 [DVD]

映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」.jpg「ミスター・グッドバーを探して」●原題:LOOKING FOR MR. GOODBAR●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督・脚本:リチャード・ブルックス●製作:フレディ・フィールズ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:アーティ・ケイン●原作:ジュディス・ロスナー「ミスター・グッドバーを探して」●時間:135分●出演:ダイアン・キートン/アラン・フェインスタイン/リチャード・カイリー/チューズデイ・ウェルド/トム・ベレンジャー/ウィリアム・アザートン/リチャード・ギア●日本公開:1978/03●配給:パラマウント=CIC●最初に観た場所:飯田橋・佳作座(79-02-04)(評価:★★☆)●併映:「流されて...」(リナ・ウェルトミューラー)
映画パンフレット 「ミスターグッドバーを探して」監督リチャード・ブルックス 出演ダイアン・キートン

FALLING IN LOVE 1984.jpg恋におちて 1984 dvd.jpg「恋におちて」●原題:FALLING IN LOVE●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ウール・グロスバード●製作:マーヴィン・ワース●脚本:マイケル・クリストファー●撮影:ピーター・サシツキー●音楽:デイヴ・グルーシン●時間:106分●出演:ロバート・デ・ニーロ/メリル・ストリープ/ハーヴェイ・カイテル/ジェーン・カツマレク/ジョージ・マーティン/デイヴィッド・クレノン/ダイアン・ウィースト/ヴィクター・アルゴ●日本公開:1985/03●配給:ユニヴァーサル映画配給●最初に観た場所:テアトル池袋(86-10-12)(評価:★★★)●併映:「愛と哀しみの果て」(シドニー・ポラック)
恋におちて [DVD]

YOU'VE GOT MAIL.jpgユー・ガット・メール dvd.jpg「ユー・ガット・メール」●原題:YOU'VE GOT MAIL●制作年:1998年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ノーラ・エフロン/ローレン・シュラー・ドナー●脚本:ノーラ・エフロン/デリア・エフロン●撮影:ジョン・リンドリー●音楽:ジョージ・フェントン●原作:ミクロス・ラズロ●時間:119分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/グレッグ・キニア/パーカー・ポージー/ジーン・ステイプルトン/スティーヴ・ザーン/ヘザー・バーンズ/ダブニー・コールマン/ジョン・ランドルフ/ハリー・ハーシュ●日本公開:1999/02●配給:ワーナー・ブラザース映画配給(評価:★★★)ユー・ガット・メール [DVD]

SLEEPLESS IN SEATTLE.jpgめぐり逢えたら 映画 dvd.jpg「めぐり逢えたら」●原題:SLEEPLESS IN SEATTLE●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:ノーラ・エフロン●製作:ゲイリー・フォスター●脚本:ノーラ・エフロン/デヴィッド・S・ウォード●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:マーク・シャイマン●原案:ジェフ・アーチ●時間:105分●出演:トム・ハンクス/メグ・ライアン/ビル・プルマン/ロス・マリンジャー/ルクランシェ・デュラン/ルクランシェ・デュラン/ギャビー・ホフマン/ヴィクター・ガーバー/リタ・ウィルソン/ロブ・ライナー●日本公開:1993/12●配給:コロンビア映画(評価:★★☆)めぐり逢えたら コレクターズ・エディション [DVD]

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ミス・マープルの人物像を変えたため、《改変》と言うよりも《パロディ》になっている。

ミス・マープル コレクション.jpgミス・マープル/夜行特急の殺人 dvd.jpg  夜行特急の殺人 00.jpg
ミス・マープル 夜行特急の殺人 -アガサクリスティの パディントン発4時50分 [DVD]
ミス・マープル ムービー・コレクション (初回限定生産) [DVD]」(寄宿舎の殺人/夜行特急の殺人/最も卑劣な殺人/船上の殺人)

夜行特急の殺人 タイトル.jpg ジョージ・ポロックが監督し、マーガレット・ラザフォード(Margaret Rutherford, 1892-1972)がミス・マープルを演じたこの「ミス・マープル/夜行特急の殺人」('61年/英、Murder She Said)は、『パディントン発4時50分』の初映画化作品であり、以降、「ミス・マープル/寄宿舎の殺人」('63年、Murder at the Gallop/原作『葬儀を終えて』(ポワロ物))、「ミス・マープル/船上の殺人」('64年、Murder Ahoy/「マープル」シリーズのキャラクター設定に基づくオリジナル)、「ミス・マープル/最も卑劣な殺人」('64年、Murder Most Foul/原作『マギンティ夫人は死んだ』(ポワロ物))と全4作作られていますが、日本では何れも劇場公開されておらず、2006年にDVDとしてリリースされました。

夜行特急の殺人 窓から.png 生前のクリスティ自身は、ラザフォードのミス・マープルを気に入ってはいなかったとのことですが、アメリカでは、英国BBC版のジョーン・ヒクソンよりも、このマーガレット・ラザフォードの方が"ミス・マープル"像としては定着しているとの話もあるようです(この「夜行特急の殺人」には、後にクリスティのお気に入りの"ミス・マープル"を演じたと言われるジョーン・ヒクソンもちょっとだけ出演している)。

 初映像化作品にしてはいきなりコメディタッチで、しかも、原作ではマクギリカディ夫人がミス・マープルに会いにいくため乗り込んだパディントン発4時50分の列車の窓から、たまたま並走する別の列車内で一人の男性が女性の首を絞めていた殺人現場を目撃するのに対し、この映画ではミス・マープル自身が列車から犯行を目撃、更に、原作では、怪しいと思われるクラッケンソープ家の邸に才能豊かな女性ルーシー・アイレスバロウを家政婦として送り込むのに対し、この映画ではラザフォードミス・マープル/夜行特急の殺人 ヒクソン1.jpgミス・マープル/夜行特急の殺人 ヒクソン.png演じるミス・マープル自身が家政婦として"アッケンソープ"家に乗り込んでいくという何でも彼女が一人でやってしまう作りになっています(ミス・マープルが雇われたのでこれ幸いとばかりに辞めていく無愛想な家政婦キッダー夫人を演じているのが、その後にTVドラマシリーズ「ミス・マープル」(1984~1992)でミス・マープルを演じることになるジョーン・ヒクソン)

夜行特急の殺人6.jpg夜行特急の殺人 01.jpg 1957年の原作発表から4年後に作られた作品で、そのためかパディントン駅をはじめその時代の雰囲気をよく伝えていて、(邸への潜入捜査をしたのが誰かは別として)邸に住まう長女エマ(ミュリエル・パヴロー)、次男ハロルド(コンラッド・フィリップス)、三男の画家セドリック(ソーリィ・ウォルターズ)、義弟アルバート(ジェラルド・クロス)、四男イーストリ(ロナルド・ハワード)といった兄弟構成も若干兄弟の順番を変えたりしているものの一応はほぼ原作に沿っていて(侍医クインパーを演じているのはアー『窓越しの殺人』.jpgサー・ケネディ)、謎解きの部分に関しても比較的原作に忠実、コメディ部分もそれなりに楽しめました。窓越しに殺人を目撃したミス・マープルが、その時たまたま『窓越しの殺人』という推理小説を読んでいたために、車掌からもクラドック警部補(チャールズ・ティングウェル)からも「殺人を見た」という証言を信じてもらえないというのはややベタなユーモアですが(因みに、『窓越しの殺人』という本はこのドラマのために作られた"架空の本"である)。

夜行特急の殺人 ポスター.jpg 但し、ミス・マープルの人物造型が、押し出しの強いオバサンという感じで、ラザフォードのどっしりした体型と相俟ってその存在が前面に出すぎていて、その分、原作の一見地味で目立たないミス・マープルのイメージとは乖離しているように思えました。潜入した邸の気難しい当主を口と態度でやり込めるなんて、マープルっぽくないし、容貌や動作は、動物に喩えれば、犀か雄牛のような感じです。

ミス・マープル/夜行特急の殺人 スクエア.jpg 最後、その邸の当主からプロポーズされるのも、原作でルーシー・アイレスバロウが当主の息子兄弟たちに言い寄られるのを捻ったのでしょうが、それまでの喧嘩腰だった二人の関係からするとやや唐突。ミス・マープルの人物像を変えてしまったことで、全てが《改変》と言うより《パロディ》に近いものになっていると言えるかも。原作者であるクリスティが気に入らなかったのが理解できる気がします。

「ミス・マープル/夜行特急の殺人」●原題:MURDER SHE SAID●制作年:1961年●制作国:イギリス●初放映(米国):1961/01/07●監督:ジョージ・ポロック●脚本:デービッド・オズボーン/デービッド・パーサル/ジャック・セドン●撮影:ジェフリー・フェイスフル●音楽:ロン・グッドウィン●時間:108分●出演:マーガレット・ラザフォード/アーサー・ケネディ/ミュリエル・パヴロウ/ジェームズ・ロバートソン・ジャスティス/チャールズ・ティングウェル/ロナルド・ハワード/ソーリー・ウォルターズ/ロニー・レイモンド/ストリンガー・デイヴィス/ジェラルド・クロス/マイケル・ゴールデン/ジョーン・ヒクソン/ゴードン・ハリス●DVD発売:2006/04●発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ(評価:★★★)

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ストーリーが巧みでテンポも良いい。敢えて通俗、通俗だから面白いのでは。

太陽は動かない 吉田修一.jpg吉田修一氏.jpg エントラップメント01.jpg ラストエンペラー02.jpg
 吉田 修一 氏  「エントラップメント [DVD]」 「ラストエンペラー ディレクターズ・カット (初回生産限定版) [DVD]

太陽は動かない』(2012/04 幻冬舎)

『太陽は動かない』5.JPG 表向きはアジア各地のファッションやリゾート情報などを扱う小さなニュース通信社だが、裏では「産業スパイ」としての顔を持つAN(アジアネット)通信情報部の鷹野一彦は、油田開発利権にまつわる機密情報を入手し高値で売り飛ばすというミッションのもと、部下の田岡と共にアジア各国企業の新油田開発利権争いの渦中で起きた射殺事件の背後関係を探っていた。鷹野は、企業間の提携交渉の妨害を意図したウイグル反政府組織による天津スタジアム爆破計画情報を入手、その詳細を突き止めるため、闇社会に通じている雑技団天津スタジアム.jpg団長・張豪(ジャンハオ)の紹介で、首謀者シャマルに会うが交渉は決裂、更に、商売敵デイビッド・キムや謎の女AYAKOが暗躍し、中国国営エネルギー巨大企業CNOX(中国海洋石油)が不穏な動きを見せる中、田岡が何者かに誘拐されたため、張豪の部下である張雨(ジャンユウ)と共に、彼が拉致されていると思われる天津へと飛ぶ―。

天津スタジアム

 スパイ小説ですが、その舞台が「ポスト原発」と呼べる状況にある国際的なエネルギー市場であるところが現代風で、油田開発の利権争いの一方で、日本の無名の技術者が、従来のものとは比較にならない高性能の太陽光発電のパネルを開発した―というのが、何となく夢があっていいなあと。

 お膳立てが揃ってしまえば、後は、政治家、日本企業、中国多国籍企業、CIAなどの様々な組織の利害関係が複雑に絡み合ってのノンストップ・アクション風―ということで、ストーリー・テイリングも巧みだし、実際にテンポも良くて428ページ一気に読めました。

 作者は文芸作家としてデビューし、芥川賞も受賞していますが、『パレード』にはミステリの要素もあったし、『悪人』もエンタテイメント要素はあったように思います。

 この作品に対しては、『悪人』など比べると人物の描き方に深みが無いとの批評も多くありますが、"純粋エンタテイメント"として読めば、それでいいのではないかと思いました。『悪人』とは根本的にテーマもモチーフも異なる作品。敢えて通俗、通俗だから面白いのではないかと。

 日本が"スパイ天国"であるとは、随分と以前から言われていることですが、「スパイ小説」となると、劇画に出てくるような怪しげな外国人が大勢登場して何となく胡散臭いものになりがちという気もし、この作品についてもそのことが言えなくもないけれど、筆の運びの上手さで(さすが芥川賞作家?)、あまりそうしたことに疑念を挟まずにどんどん読めてしまいました。

 最後まで日本人中心であるというのもよく、産業スパイという設定は、日本人を主人公とするのに適しているのかも―と思ったりもしました。

「エントラップメント」1.gifエントラップメント03.jpg アクション風ということで、「ミッション:インポッシブル」 ('96年/米)など想起させられる映画が幾つかありましたが、金だけのために敵になったり味方になったりし、それが鷹野とAYAKOという男女間で展開するところは、個人的にはジョン・アミエル監督の「エントラップメント」('99年/米)を想起しました(この系統は「泥棒成金」('55年/米)や「華麗なる賭け」('68年/米)以来、連綿とあるが)。

「エントラップメント」3.gif AYAKOのイメージは、「エントラップメント」で主人公の美術泥棒役のショーン・コネリーと共演し、主人公と様々な駆け引きを繰り広げる保険会社調査員役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズかな。ゼタ=ジョーンズの方がよりアクション系で、主人公の相方(弟子?)的立場になったりし、その間、ショーン・コネリーに若干惹かれ気味になったりするんだけど、ラストは...。

峰不二子.jpg キャサリン・ゼタ=ジョーンズはこの作品でゴールデン・ラズベリー賞の最低主演女優賞にノミネートされていますが(すごくいいと言うほどでもないが、そんなに悪くもなかったと思う)、この『太陽は動かない』も、仮に映画化されるとすると、鷹野やAYAKOを演じきれる役者はあまりいないように思います(巷ではAYAKOは「ルパン三世」の峰不二子が相応しいとの声を聞くが、いきなりアニメに行っちゃうのか)。

 「金だけのために」とか言いつつ、主要な登場人物たちがそれぞれに"貸し借り"に律義で(反政府組織の女性指導者までもが)、ラストのデイビッド・キムの登場などには友情めいたものさえ感じられるという、何だか綺麗に出来過ぎた話ですが、カタルシス効果はあったように思います("カタルシス効果"と言うより"読後感の爽やかさ"か)。

 それにしても、作者に関しては、芸域、広いなあという感じ。普段からエスピオナージをよく読み、その分野を読みつけている人から見れば突っ込みどころの多い作品かも知れないし、従来の作者の作品の世界に馴染んだ人から見れば、人物の描き方がステレオタイプだとかいった評価になるのかも知れないけれど、個人的には、とにかく面白く読めたため、そのことを素直に認めてのほぼ5つ星評価―ミステリ界でどういった評価になるのか気になります(「文芸作家は自分たちの領域に立ち入らんでくれ」と言うほど閉鎖的ではないとは思うが)。

 因みに、作者は映画「ラストエンペラー」('87年/イタリア・中国・イギリス)の大ファンということで、版元のサイトによれば本書執筆のため2011年5月に3泊4日という強行スケジュールで、北京→天津→内モンゴル自治区を行く取材旅行し(編集者同行)、北京では紫禁城を、この作品の前半の主要な舞台となる天津では溥儀が暮らしていた邸宅を訪問したそうですが、そうしたモチーフはこの作品には織り込まれてなかったなあ(純粋に溥儀の家を見たかったということか)。

ラストエンペラー01.jpg ベルナルド・ベルトリッチ(最近はベルトルッチと表記するみたい)監督の「ラストエンペラー」は、アカデミー賞の作品・監督・脚本・撮影・美術・作曲など9部門を獲得した作品で(ゴールデングローブ賞作品賞も)、紫禁城で世界初の完全ロケ撮影を行うなど前半のスペクタクルに比べ、ジョン・ローンが演じる庭師になった元・皇帝が、かつて自分が住んでいた城に入場料を払って入るラストが侘しかったです。

『ラストエンペラー』(1987).jpg 2時間43分という長尺でしたが、実はこれでも3時間39分の完全版を劇場公開用に短縮したものであり、そのため繋がりの良くないところもあって、個人的には星3つ半の評価でした(これ、有楽町マリオン別館内の「丸の内ルーブル」で観たけれど、たまたま天井の可動式シャンデリアの真下に座ったので、最初それが気になったのを憶えている)。その後、今世紀に入って完全版のDVDが発売されていますが未見。

 同監督作品では、「1900年」('76年)の方が質的に上のように感じましたが、こちらは、5時間16分の完全版を観ることが出来たというのも影響しているかもしれません(普段3本立の「三鷹オスカー」で1本のみ上映)。

エントラップメント dvd.jpg「エントラップメント」2.gif「エントラップメント」●原題:ENTRAPMENT●制作年:1999年●制作国:アメリカ●監督:ジョン・アミエル●製作:ショーン・コネリー/マイケル・ハーツバーグ/ロンダ・トーレフソン●脚本:ロン・バス/ウィリアム・ブロイルズ●撮影:フィル・メイヒュー●音楽:クリストファー・ヤング●原案:ロン・バス/マイケル・ハーツバーグ●時間:113分●出演:ショーン・コネリー/キャサリン・ゼタ=ジョーンズ/ヴィング・レイムス/ウィル・ パットン/モーリー・チェイキン/ケヴィン・マクナリー/テリー・オニール/マッドハヴ・ シャーマ/デヴィッド・イップ/ティム・ポッター/エリック・メイヤーズ/アーロン・スウォーツ●日本公開:1999/08●配給:20世紀フォックス(評価★★★)
The Last Emperor(1987)
The Last Emperor(1987).jpgラストエンペラーdvd.png「ラストエンペラー」●原題:THE LAST EMPEROR●制作年:1987年●制作国:イタリア・中国・イギリス●監督:ベルナルド・ベルトリッチ●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:ベルナルド・ベルトルッチ/マーク・ペプロー●撮影:ヴィットリオ・ストラーロ●音楽:坂本龍一●時間:163分(劇場公開版)/219分(オリジナル全長版)●出演:ジョン・ローン/ジョアン・チェン/ピーター・オトゥール/坂本龍一/ケイリー=ヒロユキ・タガワ/デイヴィッド・バーン/コン・スー/ヴィヴィアン・ウー/ヴィクター・ウォン/デニス・ダン/イェード・ゴー/マギー・ハン/リック・ヤング/ウー・ジュンメイ/英若誠/リサ・ルー/ファン・グァン/立花ハジメ/坂本龍一/高松英郎/池田史比古/陳凱歌(カメオ出演)●日本公開:1988/01●配給:松竹富士●最初に観た場所:丸の内ルーブル (88-04-23)(評価:★★★☆)
丸の内ルーブル.jpg丸の内ルーブル シャンデリア.jpg丸の内ピカデリー3の看板.jpg 丸の内ルーブル 1987年10月3日「有楽町サロンパスルーブル.jpgマリオン」新館7階に5階「丸の内松竹」とともにオープン(2005年12月~2008年11月「サロンパス ルーブル丸の内」) 2014年8月3日閉館(「丸の内松竹」は1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」) 

丸の内ピカデリー3.jpg 丸の内ルーブル 閉館最終日の巨大シャンデリアの点灯

【2014年文庫化[幻冬舎文庫]】

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ディズニー・アニメ中心で、作品の選抜基準がかなり恣意的。内容の割には値段が高すぎる。

世界アニメーション歴史事典.jpg(26.2 x 23.8 x 3.8 cm) ダンボ.JPG 
世界アニメーション歴史事典』 (2012/09 ゆまに書房)

 100年にわたるアニメーションの歴史を、図版と解説とで紹介したアニメの歴史事典で、アニメ映画だけでなく、テレビ番組、ゲーム、インディペンデント系映画、インターネットのアニメにいたるまでフォローした、定価8,500円の豪華本です(重い!)

 年代順に整理されていて分かりやすく、何よりも図版の配置が贅沢。その分、400頁余というページ数の割には、取り上げられている作品数に制約があり、観て楽しむ分にはいいですが、「事典」としてはどうかなという思いも。

ファンタジア.JPG 掲載されているアニメ数は700余点とのことですが、芸術アニメからディズニーの大ヒットアニメまでカバーしている分、それぞれの分野で抜け落ちを多いような気もして、作品の選抜にやや恣意性を感じました。

 日本のアニメは、「白蛇伝」('58年)が片面で小さく図版が入っているのみなのに対し、「AKIRA」('88年)が見開き両面に図版を入れての紹介、映画「ファイナルファンタジー」が片面図版入りなのに対し、「鉄腕アトム」('63年)や「千と千尋の神隠し」('01年)が、まるで邦訳版のために後から加えたかのように、図版無しの簡単な文章のみの紹介となっています(これらも、"700余点"にカウントされているのか)。

ネオ・ファンタジア.JPG 「ファンタジア」('41年、日本公開'55年)の見開き4ページにわたる紹介を筆頭に(これ、確かに名作ではある。本書にも紹介されている「ネオ・ファンタジア」('76年/伊)の方が大人向きの芸術アニメで、「ファンタジア」がレオポルド・ストコフスキーならば「ネオ・ファンタジア」の方はヘルベルト・フォン・カラヤンで迫るが、「ネオ・ファンタジア」は「ファンタジア」より35年も後に作られた作品にしては残念ながらはアニメーション部分がイマイチ)、本書全体としてかなりディズニー偏重ではないかと思われ、イギリス映画である「イエロー・サブマリン」('68年/英)なども制作の経緯が結構詳しく記されているけれども、それらも含めアメリカにおいてメジャーであるかどうかという視座が色濃いとも言えます。

イエローサブマリン.JPG 個人的には「イエロー・サブマリンン」は、「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」('64年/英)、「ヘルプ!4人はアイドル」('65年/英)などとの併映で名画座で観ましたが、いつごろのことか記憶にありません。劇場(ロードショー)公開当初はそれほど話題にならなかったといいますが、今思えば、日本の70年代ポップカルチャーに与えた影響は大きかったかも。イラストレーターの伊坂芳太良なんて、影響を受けた一人では?(この人、1970年には亡くなっているが)。

 もちろんディズニー・アニメは歴史的にも先駆的であり、「白雪姫」('37年、日本公開'50年)はディズニーの最初の「長編カラー」アニメーションですが、1937年の作品だと思うとやはりスゴイなあと思うし、個人的には自分の子供時代の弁当箱の図柄だった「ダンボ」('41年、日本公開'54年)にも思い入れはあるし、「ファンタジア」のDVDなどは大型書店に行けば児童書のコナーで簡単に購入できるなど、今も世界的にもメジャーであることは間違いないのですが...。自分の子供時代に関して言えば、「ダンボ」は劇場で観たけれど、「ファンタジア」は観なかったなあ(リヴァイバルされる機会が少なかったのかも)。今観ても、「ファンタジア」はどこよなく"情操教育"っぽい雰囲気が無きにしもあらずで、個人的に懐かしい「ダンボ」の方がやや好みか。

FANTASIA 1941.jpgファンタジア dvd.jpg「ファンタジア」●原題:FANTASIA●制作年:1940年●制作国:アメリカ●監督:ベン・シャープスティーン●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:ジョー・グラント/ディック・ヒューマー●音楽:チャイコフスキー/ムソルグスキー/ストラヴィンスキー/ベートーヴェン/ポンキェッリ/バッハ/デュカース/シューベルト(レオポルド・ストコフスキー指揮、フィラデルフィア管弦楽団演奏)●時間:オリジナル125分/1942年リバイバル版81分/1990年リリース版115分●出演:ディームス・テーラー/レオポルド・ストコフスキー●日本公開:1955/09●配給:RKO=大映(評価:★★★☆)ファンタジア [DVD]

ネオ・ファンタジア dvd.jpg「ネオ・ファンタジア」●原題:ALLEGRO NON TROPPO●制作年:1976年●制作国:イタリア●監督・製作:ブルーノ・ボツェット●脚本:ブルーノ・ボツェット/グイド・マヌリ/マウリツィオ・ニケッティ●アニメーション:アニメーション:ギゼップ・ラガナ/ウォルター・キャバゼッティ/ジョバンニ・フェラーリ/ジャンカルロ・セレダ/ジョルジョ・バレンティニ/グイド・マヌリ/パオロ・アルビコッコ/ジョルジョ・フォーランニ●実写撮影:マリオ・マシーニ●音楽:ドビュッシー/ドヴォルザーク/ラヴェル/シベリウス/ヴィヴァルディ/ストラヴィンスキー(ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮、フィラデルフィアベルリン・フィルハーモニー管弦楽団)●時間:85分●出演:マウリツィオ・ニケッティ/ネストール・ガレイ/マウリツィオ・ミケーリ/マリア・ルイーザ・ジョヴァンニーニ●日本公開:1980/01●配給:アート・フォーラム●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)(評価:★★★)●併映:「天井桟敷の人々」(マルセル・カルネ)ネオ・ファンタジア [DVD]

白雪姫 dvd.jpg「白雪姫」●原題:SNOW WHITE AND THE SEVEN DWARFS●制作年:1937年●制作国:アメリカ●監督:デイヴィッド・ハンド●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:テッド・シアーズ/オットー・イングランダー/ アール・ハード/ドロシー・アン・ブランク/ リチャード・クリードン/メリル・デ・マリス/ディック・リカード/ウェッブ・スミス●撮影:ボブ・ブロートン●音楽:フランク・チャーチル/レイ・ハーライン/ポール・J・スミス●原作:グリム兄弟●時間:83分●声の出演:アドリアナ・カセロッティハリー・ストックウェル/ルシール・ラ・バーン/ロイ・アトウェル/ピント・コルヴィグ/ビリー・ギルバート/スコッティ・マットロー/オーティス・ハーラン/エディ・コリンズ●日本公開:1950/09●配給:RKO(評価:★★★★)白雪姫 スペシャル・エディション [DVD]

ダンボ dvd.jpgダンボ 1941.jpg「ダンボ」●原題:DUMBO●制作年:1941年●制作国:アメリカ●監督:ベン・シャープスティーン●製作:ウォルト・ディズニー●脚本:ジョー・グラント/ディック・ヒューマー/ビル・ピート/オーリー・バタグリア/ジョー・リナルディ/ジョージ・スターリング/ウェッブ・スミス/オットー・イングランダー●音楽:オリバー・ウォレス/フランク・チャーチル●撮影:ボブ・ブロートン●原作:ヘレン・アバーソン/ハロルド・パール●時間:64分●声の出演:エド・ブロフィ/ハーマン・ビング●日本公開:1954/03●配給:RKO=大映(評価:★★★★)ダンボ スペシャル・エディション [DVD]

イエロー・サブマリン dvd.jpgイエロー・サブマリン.jpg「イエロー・サブマリン」●原題:YELLOW SUBMARINE●制作年:1968年●制作国:イギリス●監督:ジョージ・ダニング/ジャック・ストークス●製作:アル・ブロダックス●撮影:ジョン・ウィリアムズ●編集:ブライアン・J・ビショップ●時間:90分●出演:(アニメ画像として)ザ・ビートルズ(ジョン・レノン/ポール・マッカートニー/ジョージ・ハリスン/リンゴ・スター)●日本公開:1969/07●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★☆)
イエロー・サブマリン [DVD]


ロジャー・ラビット.JPG ロバート・ゼメキス監督の「ロジャー・ラビット」('88年)のような「実写+アニメーション合成作品」も取り上げられていますが、確かにアカデミー視覚効果賞などを受賞していて、合成技術はなかなかののものと当時は思われたものの、合成を見せるためだけの映画になっている印象もあり、キャラクターが飛び跳ねてばかりいて観ていて落ち着かない...まあ、アメリカのトゥーン(アニメーションキャラクター)の典型的な動きなのだろうけれど、これもまたディズニー作品。但し、この作品以降、「リジー・マグワイア・ムービー」('03年)まで15年間、ディズニーは実写+アニメーション合成作品を作らなかったことになります(最も最近の実写+アニメーション合成作は「魔法にかけられて」('07年))。まあ、実写とアニメの合成は、作品全体のごく一部分としてならば、ジーン・ケリーがアニメ合成でトム&ジェリーと踊る「錨を上げて」('45年/米)の頃からあるわけだけれど。

ロジャー・ラビット dvd.jpg「ロジャー・ラビット」●原題:WHO FRAMED ROGER RABBIT●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・ゼメキス●アニメーション監督:リチャード・ウィリアムス●製作:フランク・マーシャル/ロバート・ワッツ●脚本:ジェフリー・プライス/ピーター・シーマン●撮影:ディーン・カンディ●音楽:アラン・シルヴェストリ●原作:ゲイリー・K・ウルフ●時間:113分●出演:デボブ・ホスキンス/クリストファー・ロイド/ジョアンナ・キャシディ/スタッビー・ケイ/アラン・ティルバーン/リチャード・ルパーメンティア●日本公開:1988/12●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:渋谷スカラ座(88-12-04)(評価:★★)ロジャー・ラビット [DVD]

錨を上げて アニメ.jpg錨を上げて.jpg「錨を上げて」●原題:ANCHORS AWEIGH●制作年:1945年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・シドニー●製作:ジョー・パスターナク●脚本:イソベル・レナート●撮影:ロバート・プランク/チャールズ・P・ボイル●音楽監督:ジョージー・ストール●原作:ナタリー・マーシン●時間:140分●出演:フランク・シナトラ/キャスリン・グレイソン/ジーン・ケリー/ホセ・イタービ /ディーン・ストックウェル●日本公開:1953/07●配給:MGM日本支社●最初に観た場所:テアトル新宿(85-10-19)

 冒頭の地域別アニメ史の要約は「北米」「西欧」「ロシア・東欧」「アジア」という区分になっていますが、本文中ではアメリカがやはり圧倒的に多いです(著者のスティーヴン・キャヴァリアは、アニメ制作キャリア20年の英国人で、ディズニーの監督もしたことがあるとのことだが、何という作品を監督したのかよく分からない)。

雪の女王.jpg 芸術アニメに関して言えば、アレクサンドル・ペドロフの「老人と海」('99年/露・カナダ・日)は紹介されていますが、山村浩二監督の「頭山」('02年)は無く(加藤久仁生監督の「つみきのいえ」('08年)はある)、伝統的に芸術アニメの先進国であるチェコの作品などは、カレル・ゼーマンの「悪魔の発明」('58年)は入っていますが「水玉の幻想」('48年)などは入っておらず、ロシアの作品は、雪の女王 dvd.jpg「イワンと仔馬」('47年)は図版無しの文章のみの紹介で、「雪の女王」('57年)に至っては「イワンと仔馬」の解説文の中でその名が出てくるのみ、同じく、ユーリ・ノルシュテインの「霧の中のハリネズミ(霧につつまれたハリネズミ)」('75年)も、日本でも絵本にまでなっているくらい有名な作品ですが、「話の話」('79年)の解説文の中でその名が出てくるのみで、その「話の話」の図版さえもありません(「話の話」が「霧の中のハリネズミ」の"続編"として作られたと書いてあるが、それぞれ別作品ではないか)。これでは日本人だけでなく、東欧人やロシア人の自国のアニメを愛するファンも怒ってしまうのでは?

老人と海(99年公開).jpgアニメーション「The Old Man and the Sea(老人と海)」 by Alexandre Petrov(アレクサンドル・ペトロフ) 1999.jpg 「老人と海」●原題:THE OLD MAN AND THE SEA●制作年:1999年●制作国:ロシア/カナダ/日本●監督・脚本:アレクサンドル・ペドロフ/和田敏克●製作:ベルナード・ラジョア/島村達夫●撮影:セルゲイ・レシェトニコフ●音楽:ノーマンド・ロジャー●原作:アーネスト・ヘミングウェイ●時間:23分●日本公開:1999/06●配給:IMAGICA●最初に観た場所:東京アイマックス・シアター (99‐06‐16) (評価★★★☆)●併映:「ヘミングウェイ・ポートレイト」(アレクサンドル・ペトロフ)●アニメーション老人と海 [DVD]」('99年/ロシア/カナダ/日本)

雪の女王 dvd.jpg「雪の女王」●原題:Снежная королев(スニェージナヤ・カラリェバ)●制作年:1957年●制作国:ソ連●監督:レフ・アタマノフ●脚本:レフ・アタマノフ/G・グレブネル/N・エルドマン●音楽:A.アイヴァジャン●原作:ハンス・クリスチャン・アンデルセン●時間:63分●声の出演:Y.ジェイモー/A.カマローワ/M.ババノーワ/G.コナーヒナ/V.グリプコーフ●公開:1960/01/1993/08 ●配給:NHK/日本海映画●最初に観た場所:高田馬場ACTミニシアター(84-01-14)(評価:★★★★)●併映:「せむしの仔馬」(イワノフ・ワーノ)

雪の女王 [DVD]」('57年/ソ連)


霧の中のハリネズミ.jpg「霧の中のハリネズミ(霧につつまれた霧の中のハリネズミ 1.jpgユーリ・ノルシュテイン作品集.jpgハリネズミ)」●原題:Ёжик в тумане / Yozhik v tumane●制作年:1975年●制作国:ソ連●監督:ユーリイ・ノルシュテイン●脚本:セルゲイ・コズロフ●音楽:ミハイール・メイェローヴィチ●撮影:ナジェージダ・トレシュチョーヴァ●原作:セルゲイ・コズロフ●時間:10分29秒●声の出演:アレクセーイ・バターロフ/マリヤ・ヴィノグラドヴァ/ヴャチェスラーフ・ネヴィーヌィイ●公開:2004/07(1988/10 ジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメント【VHS】)●配給:ふゅーじょんぷろだくと=ラピュタ阿佐ヶ谷(評価:★★★★)

ユーリ・ノルシュテイン作品集 [DVD]

 結果的には、アメリカのアニメ史、特にディズニー・アニメに絞って追っていく分にはいい本かも(と思ったら、版元の口上にも、「ディズニー主要作品も網羅した本格的な初のアニメファン必備書」とあった)。個人的には、懐かしいアニメもありましたが、一つ一つの作品解説がそう詳しいわけでもなく(但し、制作の裏話などではトリビアなエピソードも多くあったりする)、むしろアメリカ・アニメ史の中でのそれら作品の位置づけを確認できる、といった程度でしょう。内容的に見て、事典と言うより個人の著書の色合いが濃く、買うには値段が高すぎる本でした。

渋谷東宝会館2.jpg渋谷スカラ座 渋谷東宝会館4階(1階は渋谷東宝劇場)。1989年2月26日閉館。1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーが開館。

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見てるだけで楽しい。圧倒的に多いフランケンシュタイン物。パロディ映画にも楽しいものが。

図説ホラー・シネマ.jpg  図説 ホラー・シネマ2.jpg      怪奇SF映画大全.jpg
図説 ホラー・シネマ―銀幕の怪奇と幻想 (ふくろうの本)』('01年/河出書房新社、123ページ(21.4x16.4x1.2cm)) 『怪奇SF映画大全』('97年/国書刊行会、239ぺージ(30x23x2.4cm))
フランケンシュタイン dvd.jpg フランケンシュタインの花嫁 dvd.jpg ヤング・フランケンシュタイン.gif ノスフェラトゥ dvd.jpg ドラキュラ都へ行く dvd.jpg 5時30分の目撃者 vhs 5.jpg
フランケンシュタイン[DVD]」「フランケンシュタインの花嫁[DVD]」「ヤング・フランケンシュタイン〈特別編〉 [DVD]」「ノスフェラトゥ [DVD]」「ドラキュラ都へ行く[VHS]」「特選 刑事コロンボ 完全版「5時30分の目撃者」

 同著者による『図説 モンスター―映画の空想生物たち』('01年/河出書房新社)に続くシリーズ第2段で、草創期(サイレント時代~1930年代)、繁栄と低迷(1940~1950年代)、復興と世代交代(1960年代以降)という流れで、各時代の名作を紹介、製作にまつわる裏話やエピソードなども交え解説しています。

 何よりもスターやスチール写真が豊富で、よくこれだけ揃えたなあと。見ているだけで楽しく、表紙には「狼男」がきていますが、圧倒的に多いのはフランケンシュタインもので、次にドラキュラものがきて、狼男は3番目といったところでしょうか。映画会社でみると、戦前はボリス・カーロフ、ベラ・ルゴンをホラー・スターに育てたユニヴァーサル、戦後はピーター・カッシングとクリストファー・リーをホラー・キングに育てたハマー・プロが中心なっています。

 それにしても、こんなにも多くのフランケンシュタイン映画、ドラキュラ映画が作られてきたのかと改めて驚かされ、そうした数多くの作品群の中でも、フランケンシュタイン映画に占めるボリス・カーロフと、ドラキュラ映画に占めるクリストファー・リーの重みは、それぞれの活躍した時代は異なるものの、圧倒的であるように思いました。

 イギリスの詩人シェリーの夫人メアリー・シェリー(1797-1851)原作の『フランケンシュタイン』は、文学史上でも最もよく知られた作品でありながら、原作は殆ど読まれていないということでも有名な作品ですが、「フランケンシュタイン」は怪物(クリーチャー)の名前ではなく、怪物を生み出したマッド・サイエンティストの名前です。

フランケンシュタイン 1931 ポスター.pngフランケンシュタイン 1931 01.jpg 現代のホラー映画をすっかり観慣れてしまうと、ジェームズ・ホエール(1889-1957)監督、ボリス・カーロフ主演の「フランケンシュタイン(FRANKENSTEIN)」('31年/米)に出てくる怪物も、漫画「怪物くん」のフランケンのようにどこか可愛いかったりもし、湖のほとりで少女と触れ合うシーンは、ビクトル・セリエ監督の「ミツバチのささやき」('73年/スペイン)でも、主人公の少年が観る映画の1シーンで使われました。

「フランケンシュタインの花嫁」.jpg   FRANKENSTEIN and old man.jpg フランケンシュタインの花嫁 1935 01.jpg
 本編で風車小屋に追い詰められて焼き殺された怪物を復活させて作った続編の「フランケンシュタインの花嫁(BRIDE OF FRANKENSTEIN)」('35年)は、本編以上に面白くてBride of Frankenstein _.jpg笑えますが、但し、ラストは異性(と言っても、かなりキツイ感じの女フランケンシュタインなのだが)に愛されない男の悲哀を表していて、しんみりさせられます(これ、傑作)。因みに、監督のジェームズ・ホエールは、自らが同性愛者であることを早くから公表していました(女性嫌いだった?)。Bride of Frankenstein (1935)

 フランケンシュタイン映画では、フランシス・フォード・コッポラが「ドラキュラ」('92年/米、ドラキュラ伯爵役はゲイリー・オールドマン。石岡瑛子がこの作品でアカデミー賞衣裳デザイン賞を受賞)に続きフランケンシュタイン (1994年).jpg製作した、ケネス・ブラナー監督の「フランケンシュタイン」('94年/英・日・米)などもありましたが、ロフランケンシュタイン (1994年) dvd.jpgバート・デ・ニーロが演じたクリーチャー(被造物)は、見かけは醜怪だけれど心性的には子どものようであるという設定でした(フランシス・フォード・コッポラは妖怪好きなのか? 一方のケネス・ブラナーの方は、この作品ではヴィクター・フランケンシュタイン博士役での主演も兼ねている)。クリーチャーが元々はセンシティブで知的な存在として描かれているなど、原作に忠実に作られているようですが、原作って結構混み入ったスト-リーだったのだなあと。2時間で収まりきらず、個人的には消化不良感あり。更にデ・ニーロのメイクに懲りすぎて、単なるホラー映画になってしまった印象も。「フランケンシュタイン Hi-Bit Edition [DVD]

YOUNG%20FRANKENSTEN2.jpgメル・ブルックス『ヤング・フランケンシュタイン』(1974).jpg フランケンシュタインのパロディ映画では、メル・ブルックス監督のヤング・フランケンシュタイン」('74年/米)が通好みのコメディで、ギョロ目の怪優マーティー・フェルドマン(せむし男)やピーター・ボイル(怪物)など、脇役がいいです。オリジナルの「フランケンシュタインの花嫁」にも出てくる山小屋に住む盲目の老人役はジーン・ハックマン、ラストに小さくクレジットされていました。    「ヤング・フランケンシュタイン」(マーティ・フェルドマン(上)/ピーター・ボイル/ジーン・ワイルダー/テリー・ガー)

ヘルツォーク「ノスフェラトゥ」1.jpgヘルツォーク「ノスフェラトゥ」2.jpg ドラキュラ映画の古典的作品で劇場で観たものは記憶にありませんが、70年代の作品でヴェルナー・ヘルツォーク監督の「ノスフェラトゥ」('79年/西独)は、フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ監督の吸血鬼映画の古典的作品「吸血鬼ノスフェラトゥ(不死人)」('22年/独、無声映画)のリメイク作品であり、「アギーレ/神の怒り」('72年/西独)などヘルツォーク作品でお馴染みの怪優クラウス・キンスキーが主人公のドラキュラ伯爵を演じていました。
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 ムルナウは、ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』を原作に映画化するつもりが映画化権を得られず、それで「ドラキュラ伯爵」を「オルロック伯爵」に変えて19世紀初頭のドイツの小都市に吸血鬼が出現するという設定にし、その容貌も禿頭の特異なものとしたわけですが、イザベル・アジャーニ.jpgヘルツォーク/キンスキー版は、「ドラキュラ伯爵」に戻しながらも設定はムルナウ版を踏襲。全体として透明感のある映像で、ペストで住民が死滅した村の描写などは絶妙でしたが、それら以上に、クラウス・キンスキーの怪演ぶり、「キモさ」が際立っていた印象です(彼に噛まれる女性役は美貌のイザベル・アジャーニ。トリュフォーの「アデルの恋の物語」('75年/仏)で知られるフランスの人気女優だが、この作品でドイツ語で話しているのは、父親がアルジェリア人であるのに対し、母親はドイツ人であるため。「ノスフェラトゥ」の前年作のウォルター・ヒル監督のアクション映画「ザ・ドライバー」('78年/米)でみせたように英語も堪能)。

ドラキュラ都へ行く  映画宝庫.jpgドラキュラ都へ行く02.jpg ドラキュラのパロディでは(クリストファー・リーが「エアポート'77/バミューダからの脱出」('77年/米)で土左衛門姿で出てきた際に見せていた苦悶の表情も、ドラキュラのパロディと言えばパロディだったけれど)、たまたま「ノスフェラトゥ」と同じ年に作られたもので、本書にも紹介されている「ドラキュラ都へ行く」('79年/米、原題:Love at First Bite)という5時30分の目撃者.jpgジョージ・ハミルトンが主演し製作総指揮もした作品もありました(ジョージ・ハミルトンは「刑事コロンボ」の第31話「5時30分の目撃者」('75年)で犯人の精神分析医役を演じていた二枚目俳優で、ハリウッド社交界でもプレイボーイで鳴らした彼らしく、愛人が絡むエピソードだが、計画殺人ではなく衝動殺人になっているのがややプロット的には弱点か。ハミルトンは、「刑事コロンボ」の新シリーズ(通算第57話)「犯罪警報」('91年)でも人気テレビ番組のホストである犯人役を演じた)。
 「ドラキュラ都へ行く」という邦題タイトルは、フランク・キャップラの「スミス都へ行く」をもじったものですが、内容は無関係。楽屋ネタのギャグ満載の身内で楽しみながら作った感じの映画で、一緒に観に行った外国人女性にはすごく受けていましたが、字幕頼りの自分にとっては残念ながらさほどでも(映画字幕はセリフが相当端折られていたように思うが、DVD化はされていないようだ)。

 SFホラーまで領域を拡げた「映画ポスター+解説集」では、ロナルド・V・ボーストの怪奇SF映画大全('97年/国書刊行会)という大型本があり、こちらは本書よりも更にポスター中心であるため、これも見て楽しめます。


FRANKENSTEIN 1931 poster.jpg「フランケンシュタイン」●原題:FRANKENSTEIN●制作年:1931年●制作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:アーサー・エジソン●音楽:バーンハルド・カウン●原作:メアリー・シェリーFRANKENSTEIN 1931.jpg●時間:71分●出演:コリン・クライヴ/ボリス・カーロフ/メイ・クラークメイ・クラーク.jpgエドワード・ヴァン・スローン/ドワイト・フライ/ジョン・ポールズ/フレデリック・カー/ライオネル・ベルモア●日本公開:1932/04●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★☆)●併映:「フランケンシュタインの花嫁」(ジェイムズ・ホエール)
メイ・クラーク

BRIDE OF FRANKENSTEIN2.jpg「フランケンシュタインの花嫁」●原題:BRIDE OF FRANKENSTEIN●制作年:1935年●制フランケンシュタインの花嫁 1935 poster.jpg作国:アメリカ●監督:ジェイムズ・ホエール●製作:カール・レームル・Jr●脚本:ギャレット・フォート/ロバート・フローリー/フランシス・エドワード・ファラゴー●撮影:ジョン・J・メスコール●音楽:フランツ・ワックスマン●時間:75分●出演:ボリス・カーロフ/エルザ・ランチェスター/コリン・クライヴ/アーネスト・セシガー●日本公開:1935/07●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:渋谷ユーロ・スペース (84-07-21)(評価:★★★★)●併映:「フランケンシュタイン」(ジェイムズ・ホエール)
「フランケンシュタインの花嫁」公開時ポスター。「カーロフ」の苗字が冠のように載っている。(本書より)

FRANKENSTEIN 1994 2.jpgFRANKENSTEIN 1994.jpg「フランケンシュタイン」●原題:FRANKENSTEIN●制作年:1994年●制作国:イギリス・日本・アメリカ●監督:ケネス・ブラナー●製作:フランシス・フォード・コッポラ/ジェームズ・V・ハート/ジョン・ヴィーチ/ケネス・ブラナー/デビッド・パーフィット●脚本:ステフ・レイディ/フランク・ダラボン●撮影:ロジャー・プラット●音楽パトリック・ドイル●原作:メアリー・シェリー●時間:123分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ケネス・ブラナー/トム・ハルス/ヘレナ・ボナム=カーター/エイダン・クイン/イアン・ホルム/ジョン・クリーズ/シェリー・ルンギ/リチャード・ブライアーズ/アレックス・ロー●日本公開:1995/01●配給:トライスター・ピクチャーズ(評価:★★★)

「ヤング・フランケンシュタイン」2.jpgヤング・フランケンシュタイン.gif「ヤング・フランケンシュタイン」●原題:YOUNG FRANKENSTEN●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:メル・ブルックス●製作:マイケル・グラスコフ●脚本:ジーン・ワイルダー/メル・ブルックス●撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド●音楽:ジョン・モリス●原作:メアリー・シェリイ●時間:108分●出演:ジーン・ワイルダー/ピーター・ボイル/マーティ・フェルドマン/テリー・ガー/ジーン・ハックマン●日本公開:1975/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール (78-12-14) (評価:★★★★)●併映:「サイレントムービー」(メル・ブルックス)

「ノスフェラトゥ」2.jpg「ノスフェラトゥ」01.jpg「ノスフェラトゥ」●原題:NOSTERTU. PHANTOM DER NACHT●制作年:1979年●制作国:西ドイツ●監督・脚本・製作:ヴェルナー・ヘルツォーク●撮影:イェルク・シュミット=ライトヴァノスフェラトゥ(1978)[A4判].jpgイン●音楽:ポポル・ヴー●時間:107分●出演:クラウス・キンスキー/イザベル・アジャーニ/ブルーノ・ガンツ/ロラント・トーポー/ワルター・ラーデンガスト/ダン・ヴァン・ハッセン/ヤン・グロート/カールステン・ボディヌス●日本公開:1984/10●配給:ドイツ文化センター●最初に観た場ドイツ文化センター 青山.jpgドイツ文化センター 2.jpg所:青山・ドイツ文化センター(84-10-07)(評価:★★★☆)●併映:「ヴォイツェック」「カスパーハウザーの謎」(ヴェルナー・ヘルツォーク) 「映画パンフレット ノスフェラトゥ(1978作品) 発行:㈱パルコ(A4) 監督:ヴェルナー・ヘルツォーク 出演:イザベル・アジャーニ

ドイツ文化センター 1962年、青山通り付近にオープン

ドラキュラ都へ行く01.jpg「ドラキュラ都へ行く」●原LOVE AT FIRST BITE.jpg題:LOVE AT FIRST BITE●制作年:1979年●制作国:アメリカ●監督:スタン・ドラゴッティ●製作・脚本:ロバート・カウフマン●撮影:エドワード・ロッソン●音楽チャールズ・バーンスタイン●時間:96分●出演:ジョージ・ハミルトン/スーザン・セント・ジェームズ/ディック・ショーン/アート・ジョンソン/リチャード・ベンジャミン/シャーマン・ヘムズリー●日本公開:1979/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:日比谷・みゆき座(79-12-15)(評価:★★★)

5時30分の目撃者 vhs.jpg刑事コロンボ(第31話)/5時30分の目撃者.jpg「刑事コロンボ(第31話)/5時30分の目撃者」●原題:A DEADLY STATE OF MIND●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:ハーベイ・ハート●製作:エヴァレット・チェンバース●脚本:ピーター・S・フィッシャー●ストーリー監修:ピーター・S・フィッシャー●音楽:バーナード・セイガル●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/ジョージ・ハミルトン/レスリー・ウォーレン/スティーブン・エリオット/カレン・マックホン/ブルース・カービー/ライアン・マクドナルド/ジャック・マニング/フレッド・ドレイパー/ウィリアム・ウィンターソウル/ヴァンス・デイヴィス/レッドモンド・グリーソン/グローリー・カウフマン●日本公開:1976/12●放送:NHK(評価:★★★☆)特選 刑事コロンボ 完全版「5時30分の目撃者」【日本語吹替版】 [VHS]

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アメリカン・ニューシネマ代表作2本。もし配役が当初の予定通りだったら違った作品に?。

俺たちに明日はない dvd.jpg 俺たちに明日はない1シーン.jpg    明日に向かって撃て dvd.jpg 明日に向かって撃て! チラシ 1975.jpg
俺たちに明日はない [DVD]」/「俺たちに明日はない」1シーン/「明日に向って撃て! (特別編) [DVD]」/チラシ

俺たちに明日はない パンフ 73年リバイバル版.gif俺たちに明日はない 3.jpg 60年代アメリカン・ニューシネマの代表的な作品と言えば、'67年の「俺たちに明日はない」「卒業」、'68年の「ワイルドバンチ」、'69年の「イージー・ライダー」「明日に向って撃て!」「真夜中のカーボーイ」あたりでしょうか。

「俺たちに明日はない」パンフレット(1973年リバイバル版)

アメリカン・ニューシネマ '60~70 別冊太陽.jpg アメリカン・ニューシネマを最も象徴する作品を1つ挙げるとすれば、メッセージ性という点から「イージー・ライダー」を挙げる人もいるかも知れませんが、やはり、"アメリカン・ニューシネマ第1号作品"とも言えるアーサー・ペン(Arthur Penn、1922 -2010)監督の「俺たちに明日はない」(Bonnie and Clyde)がそれに該当するとするのが大方の見方ではないかという気がします(何せ、当初の監督候補には、フランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールといったヌーヴェルヴァーグの担い手の名が挙がっていたぐらいだし)。

アメリカン・ニューシネマ '60~70 別冊太陽 (構成=川本三郎・小藤田千栄子)

「俺たちに明日はない」1.jpg「俺たちに明日はない」2.jpg 名画座で初めて観た時には、既に公開から10年を経ており、それまでにリヴァイバル上映もされていて、おおよその展開を知ってはいましたが、それでも「死のバレエ」と言われるラスト・シーンを観た際の衝撃は大きく、併映の「真夜中のカーボーイ」(これもいい作品)を観終わった後で、また最初から見直しました(その後も何度かリヴァイバル・ロードショーなどで観た)。
俺たちに明日はない1.gif
俺たちに明日はない     .jpg デヴィッド・ニューマンとロバート・ベントンの脚本に共感したウォーレン・ベイティが製作者として関わっていますが、当初は製作に専念する予定だったそうで、一方、彼の姉であるシャーリー・マクレーンが強くボニーの役を願っていたのが、ウォーレン・ベイティがクライド役に決定したためマクレーンは役から降り(脚本の原案では、クライドはバイセクシャルとして扱われていて、これが映画化が難航する原因となったが、映画化のために改変された脚本でもクライドの"不能"がモチーフとして使われているため、何れにせよ、実姉であるマクレーンは降りざるを得なかった)、その結果フェイ・ダナウェイに白羽の矢が立ったとのこと。フェイ・ダナウェイはこの作品で一躍知名度を上げました。

 冒頭の方にある、着替えをするフェイ・ダナウェイの背中を舐めるようなショットが印象的でしたが、ウォーレン・ベイティがクライドを演じなければ、あれも無かったか、または別の女優が演じていた?(この映画の雰囲気は殆どフェイ・ダナウェイが作っているとも言え、フェイ・ダナウェイとシャーリー・マクレーンとでは随分イメージが違うような気がする)

明日に向かって撃て/バート・バカラック 1969.bmp明日に向かって撃て パンフ 75年リバイバル版.jpg ジョージ・ロイ・ヒル(George Roy Hill、1922 -2002)監督の「明日に向って撃て!」(Butch Cassidy and the Sundance Kid)も思い出深い作品であり、「俺たちに明日はない」の約半年前に観たため、自分の中ではある意味、"ニューシネマ"というとこちらの作品になるという面もあります。

「明日に向かって撃て!」パンフレット(1975年リバイバル版)(左)/バート・バカラック・オリジナル・サウンドトラック版CD(右)

明日に向って撃て 1シーン.jpg 「俺たちに明日はない」と同様に実在の人物をベースとしたギャング・ストーリーであり、アメリカン・ニューシネマに特徴的な悲劇的結末を迎えますが、多分この作品で最も印象に残るのは、バート・バカラックの「雨にぬれても」が流れる中、ポール・ニューマン(Paul Newman、1925 - 2008)がキャサリン・ロスを自転車に乗せて走るシーンではないかと思われ、イメージとしては「俺たちに明日はない」より明るいというか、ソフィストケートされて和田 誠 氏.jpgいる印象を受けます。

 この「雨に濡れても」の自転車のシーンは、その後TVコマーシャルで随分マネものが作られましたが、和田誠氏は、このシーンを初めて観た時に「CMみたい」と思ったそうで(『お楽しみはこれからだ PART2―映画の名セリフ』('76年/文藝春秋))、その感覚は分かる気がします。

 当初予定されていた配役は、ポール・ニューマンと共同で脚本を買い取ったスティーブ・マックイーン(Steve McQueen、1930-1980)がブッチ役で、ポール・ニューマンがサンダンス役だったそうですが、マックイーンが都合により出演しなくなったため、ポール・ニューマンがブッチ役に回り、当時無名のロバート・レッドフォード(Robert Redford、1936-)がサンダンス役に抜擢されたとのこと。

明日に向かって撃て 01.jpg しかも、いきなりロバート・レッドフォードに白羽の矢が立ったわけではなく、最初はマーロン・ブランド(Marlon Brando、1924-2004)がポール・ニューマンの共演者としてサンダンス役をやることになっていたのが、キング牧師の暗殺事件にショックを受けた(本当に?)マーロン・ブランドが役を断った結果、ロバート・レッドフォードに初の大役が回ってきたというから、世の中わからないものです。

 もし、マックイーンとポール・ニューマンの組み合わせだったとすれば、或いはポール・ニューマンとマーロン・ブランドの組み合わせだったら、これも違った雰囲気の作品になっていたように思います。

 当初予定配役の変更により、結果として、「俺たちに明日はない」はフェイ・ダナウェイを、「明日に向って撃て!」はロバート・レッドフォードを、それぞれスターダムに押し上げた作品になったわけだなあと。
                        
俺たちに明日はない」.jpg「俺たちに明日はない」●原題:BONNIE AND CLYDE●制作年:1967年●制作国:アメリカ●監督:アーサー・ペン●製作:ウォーレン・ベイ俺たちに明日はない ジーン・ハックマン.jpgティ●脚本:デヴィッド・ニューマン/ロバート・ベントン/ロバート・タウン●撮影:バーネット・ガフィ●音楽:チャールズ・ストラウス●時間:122分●出演:ウォーレン・ベイティ/フェイ・ダナウェイ/ジーン・ハックマン/マイケル・J・ポラード銀座文化・シネスイッチ銀座.jpg/エステル・パーソンズ/デンヴァー・パイル/ダブ・テイラー/エヴァンス・エヴァンス/ジーン・ワイルダー●日本公開:1968/02●配給:ワーナー・ブラザーズ=セブン・アーツ●最初に観た場所:早稲田松竹(78-05-20)●2回目:早稲田松竹(78-05-20)●3回目:銀座文化(88-06-18)(評価:★★★★)●併映(1回目):「真夜中のカーボーイウォーレン・ベイティ フェイ・ダナウェイ.jpg」(ジョン・シュレジンジャー)
2017年第89回アカデミー賞作品賞プレゼンター/フェイ・ダナウェイ(76)・ウォーレン・ベイティ(79)
早稲田松竹.jpg高田馬場a.jpg早稲田松竹 1951年封切館としてオープン、1975年からいわゆる「名画座」に
①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス/③高田馬場パール座/④早稲田松竹
        
butch_cassidy_and_the_sundance_kid1.jpg「明日に向って撃て!」●原題:BUTCH CASSIDY AND THESUNDANCE KID●制作年:1969●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・ロイ・ヒル●製作:ジョン・フォアマン●脚本:ウィリアム・ゴールドマン●撮影:コンラッド・L・ホール●音楽:バート・バカラック●時間:110分●出演:ポール・ニューマン/ロバート・レッドフォード/キャサリン・ロス/ストローザー・マーティン渋谷文化劇場.png/ジェフ・コーリー/ジョージ・ファース/クロリス・リーチマン/ドネリー・ローズ/ケネス・マース/ヘンリー・ジョーンズ●日本公開:1970/02●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:渋谷文化劇場(77-10-23)(評価:★★★★)●併映:「追憶」(シドニー・ポラック)

渋谷文化劇場 1952年11月17日、渋谷東宝会館地下にオープン 1989年2月26日閉館(1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーがオープン)

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「穢れを知らない無垢な天使と肉感的な美の象徴であるヴィーナスが出会えばどうなるのか」

継母礼讃 (中公文庫).jpg継母礼讃 リョサ.jpg  Emmanuelle video.jpg 夜明けのマルジュ チラシ2.jpg 夜明けのマルジュ dvd.jpg
継母礼讃 (モダン・ノヴェラ)』「エマニエル夫人 [DVD]」「夜明けのマルジュ [DVD]
継母礼讃 (中公文庫)

Elogio de La Madrastra.jpg バルガス=リョサが1988年に発表した作品で(原題:Elogio de La Madrastra)、父親と息子、そして継母という3人家族が、息子であるアルフォンソ少年が継母のルクレシアに性愛の念を抱いたことで崩壊していく、ある種アブノーマル且つ"悲劇"的なストーリーの話。

candaules.jpg 当時からガルシア=マルケス、ホルヘ・ルイス・ボルヘス、フリオ・コルタサルと並んでラテンアメリカ文学の四天王とでもいうべき位置づけにあった作家が、こうしたタブーに満ちた一見ポルノチックともとれる作品を書いたことで、発表時は相当に物議を醸したそうですが、バルガス=リョサの描く官能の世界は、その高尚な文学的表現のため、どことなく宗教的な崇高ささえ漂っており、「神話の世界」の話のようでもあります。そのことは、現在の家族の物語と並行して、ヘロドトスの『史記』にある、自分の妻の裸を自慢したいがために家臣に覗き見をさせ、そのことが引き金となって家臣に殺され、妻を奪われた、リディア王カンダウレスの物語や、ギリシャ神話の「狩りの女神」の物語が挿入されていることでより強まっており、更に、物語の展開の最中に、関連する古典絵画を解説的に挿入していることによっても補強されているように思いました。

Candaules, rey de Lidia, muestra su mujer al primer ministro Giges, de Jacob Jordaens(「カンダウレス王室のギゲス」ヤコブ・ヨルダーエンス(1648)本書より)

Mario Vargas Llosa Julia Urquidi.jpg ただ、個人的には、バルガス=リョサの他の作品にもこうした熟女がしばしば登場し、また、彼自身、19歳の時に義理の叔母と結婚しているという経歴などから、この人の"熟女指向"が色濃く出た作品のようにも思いました。それがあまりにストレートだと辟易してしまうのでしょうが、「現代の物語」の方は、ルクレシアの視点を中心に、第三者の視点など幾つかに視点をばらして描いていて、少年自身の視点は無く、少年はあくまでも無垢の存在として描かれており、この手法が、「穢れを知らない無垢な天使と肉感的な美の象徴であるヴィーナスが出会えばどうなるのか」というモチーフを構成することに繋がっているように思いました。

Mario Vargas Llosa y Julia Urquid Illanes,París, 7 de junio de 1964

 しかし、帯には「無垢な天使か、好色な小悪魔か!?」ともあり、父親にとってこの息子は、好色な小悪魔であるに違いなく、また、継母が去った後、今度は召使を誘惑しようとするところなど、ますます悪魔的ではないかと...。「現代の物語」と、挿入されている「リディア王の話」(家臣に自分の眼の前で妻と交情するよう命じ、これを拒んだ家臣の首を刎ねた)とは、それぞれ異質の性愛を描いているように思えました。

 強いて言えば、「現代の物語」の方は、エディプス・コンプレックスの変型であり(バルガス=リョサ型コンプレックス?)、「リディア王の話」は、エマニュエル・アルサン(1932-2005)原作、ジュスト・ジャカン監督の「エマニエル夫人」('74年/仏)のアラン・キュニーが演じた老紳士マリオの"間接的性愛"のスタンスに近いと言えるでしょうか。性に対してある種の哲学(「セックスから文明社会の意味を取り除いた部分にしか、性の真理はない」という)を持つマリオにとって、エマニエルはそうした哲学を実践するにまたとない素材だった―。

エマニエル夫人 アラン・キュニ―.jpg エマニエル夫人 チラシ.jpg 華麗な関係.jpg 夜明けのマルジュ チラシ.jpg
「エマニエル夫人」の一場面(A・キュニー)/「エマニエル夫人」/「華麗な関係」/「夜明けのマルジュ」各チラシ

エマニエル夫人の一場面.jpg 「エマニエル夫人」はいかにもファッション写真家から転身した監督(ジュスト・ジャカン)の作品という感じで、モデル出身のシルヴィア・クリステルが、演技は素人であるにしても、もう少し上手ければなあと思われる凡作でしたが、フランシス・ジャコベッティが監督した「続エマニュエル夫人」('75年)になっても彼女の演技力は上がらず、結局は上手くならないまま、シリーズ2作目、3作目(「さよならエマニュエル夫人」('77年))と駄作化していきました。内容的にも、第1作にみられた性に対する哲学的な考察姿勢は第2作、第3作となるにつれて影を潜めていきます。その間に舞台はタイ → 香港・ジャワ → セイシェルと変わり「観光映画」としては楽しめるかも知れないけれども...。でもあのシリーズがある年代の(男女問わず)日本人の性意識にかなりの影響を及ぼした作品であることも事実なのでしょう。

華麗な関係 1976ド.jpg華麗な関係lt.jpg 同じくシルヴィア・クリステル主演の、ロジェ・ヴァディムが監督した「華麗な関係」('76年/仏)も、かつてジェラール・フィリップ、ジャンヌ・モロー、ジャン=ルイ・トランティニャンを配したロジェ・ヴァディム自身の「危険な関係」('59年/仏)のリメイクでしたが、原作者のラクロが墓の下で嘆きそうな出来でした。

「華麗な関係」('76年/仏)

夜明けのマルジュの一場面.jpg 同じ年にシルヴィア・クリステルは、ヴァレリアン・ボロヴズィック監督の「夜明けのマルジュ」('76年/仏)にも出演していて(実はこれを最初に観たのだが)、アンドレイ・ピエール・マンディアルグ(1909 -1991)のゴンクール賞受賞作「余白の街」が原作で、1人のセールスマンが、出張先のパリで娼婦と一夜を共にした翌朝、妻と息子の急死の知らせを受け自殺するというストーリー。メランコリックな脚本やしっとりしたカメラワーク自体は悪くないのですが、「世界一美しい娼婦」という触れ込みのシルヴィア・クリステルが、残念ながら演技し切れていない...。

「エマニエル夫人」●1.jpg「エマニエル夫人」●2.jpg 何故この女優が日本で受けたのかよく解らない...と言いつつ、自分自身もブームからやや遅れながらもシルヴィア・クリステルの作品を5本ぐらい観ているわけですが、個人的には公開から3年以上経って観た「エマニエル夫人」に関して言えば、シルヴィア・クリステルという女優そのものが受けたと言うより、ピエール・バシュレの甘い音楽とか(「続エマニュエル夫人」ではフランシス・レイ、さよならエマニュエル夫人」ではセルジュ・ゲンズブールが音楽を担当、セルジュ・ゲンズブールは主題歌歌唱も担当)、女性でも観ることが出来るポルノであるとか、商業映画として受ける付加価値的な要素が背景にあったように思います(合計320万人の観客のうち女性が8割を占めたという(『ビデオが大好き!365夜―映画カレンダー』('91年/文春文庫ビジュアル版)より))。
「続エマニュエル夫人」('75年/仏) 音楽:フランシス・レイ

A Man for Emmanuelle (1969) L.jpg バルガス=リョサの熟女指向から始まって、殆どシルヴィア・クリステル談義になってしまいましたが、シルヴィア・クリステルの「エマニュエル夫人」はエマニュエル・シリーズの初映像化ではなく、実際はこの作品の5年前にイタリアで作られたチェザーレ・カネバリ監督、エリカ・ブラン主演の「アマン・フォー・エマニュエル(A Man for Emmanuelle)」('69年/伊)が最初の映画化作品です(日本未公開)。
A Man for Emmanuelle(1969)

 因みに、「エマニュエル夫人」「続エマニュエル夫人」はエマニュエル・アルサンが原作者ですが、最後エマニュエルが男性依存から抜け出して自立することを示唆した終わり方になっている「さよならエマニュエル夫人」は、オリジナル脚本です。一方で、エマニュエル・アルサン原作の他の映画化作品では、女流監督ネリー・カプランの「シビルの部屋」('76年/仏)というのもありました。

シビルの部屋 旧.jpgシビルの部屋 pabnnhu.jpg 「シビルの部屋」のストーリーは、シビルという16歳の少女がポルノ小説を書こうと思い立って、憧れの中年男に性の手ほどきを受け、その体験を本にしたところベストセラーになってしまい、執筆に協力してくれた男を真剣に愛するようになった彼女は、今度は手を切ろうとする男に巧妙な罠をしかけて陥落させようとする...というもので、原作はエマニュエル・アルサンの半自伝的小説であり、アルサンは実際にこの作品に出てくる「ネア」という小説も書いている-と言うより、この映画の原作が「ネア」であるという、ちょっとした入れ子構造。映画化作品は、少女の情感がしっとりと描かれている反面、目的のために手段を選ばないやり方には共感しにくかったように思います。

エマニエル夫人00.jpg「エマニエル夫人」●原題:EMMANUELLE●制作年:1974年●制作国:フランス●監督:ジュスト・ジャカン●製作:イヴ・ルッセ=ルアール●脚本:ジャン=ルイ・リシャール●撮影:リシャール・スズキ●音楽:ピエール・バシュレ●原作:エマニュエル・アルサン「エマニュエル」●時間:91分●出演:シルヴィア・クリステル/アラン・キューリー/ダニエル・サーキー/クリスティーヌ・ボワッソン/マリカ・グリーン●日本公開:1974/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-17)(評価:★★)●併映:「続・エマニエル夫人」(フランシス・ジャコベッティ)/「さよならエマニエル夫人」(フランソワ・ルテリエ)

続エマニエル夫人 ド.jpg続エマニエル夫人 vhs.jpg「続エマニエル夫人」●原題:EMMANUELLE, L'ANTI VIERGE/EMMANUELLE: THE JOYS OF A WOMAN●制作年:1975年●制作国:フランス●監督:フランシス・ジャコベッティ●製作:イヴ・ルッセ=ルアール●脚本:フランシス・ジャコベッティ/ロベール・エリア/ジェラール・ブラッシュ●撮影:ロベール・フレース●音楽:フランシス・レイ●原作:エマニュエル・アルサン●時間:91分●出演:シルヴィア・クリステル/ウンベルト・オルシーニ/カトリーヌ・リヴェ/カロライン・ローレンス/フレデリック・ラガーシュ/ラウラ・ジェムサー●日本公開:1975/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-17)(評価:★☆)●併映:「エマニエル夫人」(ジュスト・ジャカン)/「さよならエマニエル夫人」(フランソワ・ルテリエ)
続エマニエル夫人 [DVD]

さよならエマニエル夫人1977.jpg「さよならエマニエル夫人」●原題:GOOD-BYE, EMMANUELLE●制作年:1977年●制作国:フランス●監督:フランソワ・ルテリエ●製作:イヴ・ルッセ=ルアール●脚本:さよならエマニエル夫人 dvd .jpgフランソワ・ルテリエ/モニク・ランジェ●撮影:ジャン・バダル●音楽:セルジュ・ゲンズブール●時間:98分●出演:シルヴィア・クリステル/ウンベルト・オルシーニ/アレクサンドラ・スチュワルト/ジャン=ピエール・ブーヴィエ/ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ/オルガ・ジョルジュ=ピコ/シャルロット・アレクサンドラ●日本公開:1977/12●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-17)(評価:★☆)●併映:「エマニエル夫人」(ジュスト・ジャカン)/「続エマニエル夫人」(フランシス・ジャコベッティ)
さよならエマニエル夫人 [DVD]

UNE FEMME FIDELE 1976.jpgUNE FEMME FIDELE.jpg華麗な関係 チラシ2.jpg「華麗な関係」●原題:UNE FEMME FIDELE●制作年:1976年●制作国:フランス●監督:ロジェ・ヴァディム●製作:フランシス・コーヌ/レイモン・エジェ●脚本:ロジェ・ヴァディム/ダニエル・ブーランジェル●撮影:クロード・ルノワ●音楽:モルト・シューマン/ピエール・ポルト●原作:ピエール・コデルロス・ド・ラクロ「危険な関係」●時間:91分●出演:シルヴィア・クリステル/ジョン・フィンチ/ナタリー・ドロン/ジゼール・カサドジュ/ジャック・ベルティエ/アンヌ・マリー・デスコット/セルジュ・マルカン●日本公開:1977/05●配給:東宝東和●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-16)(評価:★☆)●併映:「エーゲ海の旅情」(ミルトン・カトセラス)/「しのび逢い」(ケビン・ビリングトン)

夜明けのマルジュの一場面2.jpg「夜明けのマルジュ」●原題:LA MARGE●制作年:1976年●制作国:フランス●監督:ヴァレリアン・ボロヴズィック●製作:ロベール・アキム/レイモン・アキム●撮影:ベルナール・ダイレ夜明けのマルジュ 09.jpgンコー●音楽:ロベール・アキム●原作:アンドレイ・ピエール・ド・マンディアルグ「余白の町」●時間:93分●出演:シルヴィア・クリステル/ジョー・ダレッサンドロ/ミレーユ・オーディベル/アンドレ・ファルコン/ドニス・マニュエル/ノルマ・ピカデリー/ルィーズ・シュヴァリエ/ドミニク・マルカス/カミーユ・ラリヴィエール●日本公開:1976/10●配給:富士映画●最初に観た場所:中野武蔵野館(77-12-15)(評価:★★☆)●併映:「続 個人教授」(ジャン・バチスト・ロッシ)

NEA 1976_01.jpgシビルの部屋 新.jpg「シビルの部屋」●原題:NEA●制作年:1976年●制作国:フランス●監督:ネリー・カプラン ●製作:ギー・アッジ●脚本:ネリー・カプラン/ジャン・シャポー●撮影:アンドレアス・ヴァインディング●音楽:ミシェル・マーニュ●原作:エマニュエル・アルサン「少女ネア」●時間:106分●出演:アン・ザカリアス/サミー・フレイ/ミシュリーヌ・プレール/フランソワーズ・ブリオン/ハインツ・ベネント/マルタン・プロボスト●日本公開:1977/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:池袋・テアトルダイヤ(77-12-24)(評価:★★☆)●併映:「さすらいの航海」(スチュアート・ローゼンバーグ)シビルの部屋 [DVD]

【2012年文庫化[中公文庫]】

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「仮に地球人の姿をしている宇宙人」を演じるデヴィッド・ボウイが、かなり宇宙人っぽい。

地球に落ちてきた男.jpg 地球に落ちてきた男 dvd.jpg THE MAN WHO FELL TO EARTH.jpg Christiane F. - Wir Kinder vom Bahnhof Zoo (1981) .jpg Senjô no merî Kurisumasu (1983) .jpg
「地球に落ちて来た男」パンフレット「地球に落ちて来た男 [DVD]Christiane F. - Wir Kinder vom Bahnhof Zoo (1981)  Senjô no merî Kurisumasu (1983)

地球に1.JPG 砂漠化した故郷の星に妻子を残し、地球にやってきたニュートン(デヴィッド・ボウイ)は、発明家として巨万の富を築き、ロケットを建造して家族の待つ星に帰ろうとするが、地球で知り合い、愛し合うようになったメリー・ルー(キャンディ・クラーク)を残して宇宙に飛び立とうとする直前、政府組織に捕らえら、拷問じみた人体実験と軟禁生活の中で、数十年を過ごす―。

 「ブレードランナー」の原作者であるフィリップ・K・ディックらに影響を与えたSF映画ですが、特撮(と言えるほどのものでもない)部分は、ニュートンが回想する故郷の星の家族が"着ぐるみ"みいたいだったりして(しかも、お決まりの"キャット・アイ")、むしろ、地球人の姿を借りている主人公の宇宙人を演じているデヴィッド・ボウイ自身の方が、表情や立ち振る舞いがよほど宇宙人っぽく見えました(相当な集中力を要求される演技だと思う)。

地球に2.JPG 世間がニュートンを忘れた頃、彼は拘禁状態を解かれ(依然、軟禁状態にはある)外界に戻りますが、もはや誰も彼を覚えておらず、メリー・ルーとの再会も、お互いの心の中に無力感を刻むだけのものとなり、故郷の星に戻ることもできず、巨万の富を抱えたままでひっそりと生きて行くしかない―(ラストでは、軟禁状態をも解かれ、ニュートンにとっての次なる世界が展開されるかのような終わり方になっているが...)。

地球に3.JPG パンフレットの解説によれば、これはSFと言うよりも愛の物語であるとありましたが、メリー・ルーがニュートンとの数十年ぶりの再会で心を開くことが出来なかったのは、彼女が年齢を加えているのに、ニュートンの方は一向に年をとっていないという隔たりのためで、時を共有するというのは、一緒に年齢を重ねていくということなのだなあと。「時」というのも、この作品のテーマの1つであると言えるかもしれません。

地球に落ちて来た男 深夜の告白1.jpg地球に落ちて来た男 深夜の告白2.jpg 富を得れば得るほど孤独になり、何のために地球に来たのかもだんだんわからなくなり、酒に溺れていく(宇宙人もアル中になる!)ニュートン―。人間の疎外というものを描いた作品でもあるように思いました。

アメリカン・グラフィティAmericani.jpg デヴィッド・ボウイの日本初公演は1973年ですが、映画「地球に落ちて来た男」では、「アメリカン・グラフィティ」('73年/米)でデヴィッド・ボウイより先に日本に"映画お目見え"したキャンディ・クラークも、本作メリー・ルー役で、カントリー・ガール風にいい味出しています(2人でピンポンをするシーンなんか、良かったなあ)。

デヴィッド・ボウイs.jpg デヴィッド・ボウイは、本作が映画では日本初お目見えでしたが、この作品の前後に「ジギー・スターダスト」('73年/英、ボウイのステージと素顔を追ったドキュメンタリー。日本での公開は'84年)、「ジャスト・ア・ジゴロ」('81年/西独、未見)に出ていて、その後「クリスチーネ・F」('83年/西独、ドイツの麻薬中毒少女をドキュメンタリー風に扱った映画)、「ハンガー」('83年/英、カトリーヌ・ドヌーヴが吸血鬼女、デヴィッド・ボウイがその伴侶という設定)、大島渚監督の「戦場のメリー・クリスマス」('83年/日・英)と続きます。因みに、「ジギー・スターダスト」は1972年にデヴィッド・ボウイがリリースしたアルバム名であり、異星からやってきた架空のスーパースター「ジギー」の成功からその没落までを描いたというそのコンセプトは、3年後に作られた「地球に落ちて来た男」にほぼ反映されたとみていいのではないでしょうか。
ジギー・スターダスト dvd.bmp  ジギー・スターダスト パンフ.gif ジギー・スターダスト パンフ3.jpg ジギー・スターダスト パンフ2.jpg ジギー・スターダスト アルバム.jpgジギー・スターダスト [DVD]」/「ジギー・スターダスト」パンフレット/「ジギー・スターダスト発売30周年記念アニヴァーサリー・エディション

クリスチーネ・F [DVD]
クリスチーネ・F dvd.jpg映画「クリスチーネF」.jpg 「クリスチーネ・F」は、西ベルリンの実在のヘ麻薬中毒の少女(当時14歳)の手記『かなしみのクリスチアーネ』(原題: "Wir Kinder vom Bahnhof Zoo", 「われらツォー駅の子供たち」)をベースに作られ映画ですが、主人公のクリスチーネも、同じ14歳の女友達も、共に薬代を稼ぐために売春していて(この女友達はヘロインの過剰摂取で死んでしまう)、更に、男友達も男娼として身体を売っているという結構すごい話で、クリスチーネをはじめ、素人を役者として使っていますが、演技も真に迫っていて、衝撃的でした(因みに、手記を書いたクリスチアーネ・フェルシェリノヴ(1962年生まれ)は、2010年現在生きていて、一旦は更生したものの、最近また麻薬に手を出しているという)。

CHRISTINE F.jpg この頃の「西ドイツ」映画には、日本に入ってくるものが所謂"芸術作品"っぽかったり(「ノスフェラトゥ」('78年)、「ブリキの太鼓」('79年)、「メフィスト」('81年))、歴史・社会派の作品だったり(「リリー・マルレーン」('81年)、「マリア・ブラウンの結婚」('79年))、重厚でやや暗めのものが多く、また、娯楽映画の中にもアナーキーな部分があったりして(「ベルリン・ブルース」('86年)、「ベルリン忠臣蔵」('85年))、共通して独特の暗さがありましたが、この作品は、テーマの暗さがそれに輪をかけているような感もあります。

 デヴィッド・ボウイは、クリスチーネが訪れるベルリンのコンサートシーンOriginal Soundtrack.jpgに出てくるだけですが、元々デヴィッド・ボウイとドイツの縁は深く、70年代半ばに長年の薬物使用による中毒で精神面での疲労が頂点に達し、更にドイツでのライブがナチズムを強く意識したステージ構成になっていたため世間のバッシングを浴びたりもした彼でしたが、ツアー終了後、薬物からの更生という目的も兼ねてそのままベルリンに移住し創作活動を行っていた時期があります。映画ではデヴィッド・ボウイが音楽でクリスチーネを元気づけ、立ち直りに向かわせるような位置づけになっていて、当時(80年代初め)はまだデヴィッド・ボウイに対してどことなく反社会的なイメージがあったために、やや意外な印象を受けました(実はいい人なんだあ、みたいな)。
Christine」Original Soundtrack CD (2001年)
 
ハンガー 映画.bmp リドリー・スコット監督の弟トニー・スコットの初監督作品でもある「ハンガー」では、デヴィッド・ボウイは、「地球に落ちてきた男」で演じた「歳を取らない」宇宙人役とは真逆で、吸血鬼に若さを奪われ「急速に老いていく男」を演じています。

 この他にも、スーザン・サランドンとカトリーヌ・ドヌーヴとのラヴシーンといったのもありましたが、個人的には、全体的にイマイチ入り込めなかった...。日本でもそんなにヒットしなかったように思いますが、ガラッと作風を変えた次回作「トップガン」('86年/米)がヒットして、もう、トニー・スコットがこのような映画を撮らなくなったということもあってか、この作品自体はカルト的な人気はあるようですトニー・スコットは2012年に病気を苦に橋から飛び降り自殺した)

戦場のメリークリスマス ブルーレイ.jpg デヴィッド・ボウイが日本で再びブレイクすることになったのは、「ハンガー」より先に公開された大島渚監督作品「戦場のメリークリスマス」('83年/日・英)によってであって、音楽の方は、同じく役者として出演していた坂本龍一が担当していました。

 ヴァン・デル・ポストが日本軍俘虜収容所での体験を描いた小説がベースになっていて、日英の文化的相克のようなものが描かれている作品ですが(「戦場にかける橋」などとは違った意味で、それぞれの良いところ、悪いところが描かれているのには好感を持てた)、両者の溝を超えるものとしての人間と人間の繋がりが、ヒューマニズムと言うよりはホモ・セクシュアルを匂わせるようなものになっているところが大島監督らしいところ(役者名で言えば、トム・コンティとビートたけしの関係、デヴィッド・ボウイと坂本龍一との関係。ボウイが坂本龍一にキスするシーンが話題になったが、それは、映画の文脈の中でまた異なる意味を持つ)。但し、何か"日本的"と言うか"ウェット"な感じがするかなあと(大島渚監督は後の作品「御法度」(司馬遼太郎原作)でもホモ・セクシュアルを扱っている)。

 作家の小林信彦氏によれば、デヴィッド・ボウイの役は、はじめ大島監督は、ローバート・レッドフォードを考えていたのが、レッドフォードは「オーシマを尊敬している」が、脚本が自分向きでないとして断ったとこと、日本人側の俳優も、滝田栄と緒方拳でやるつもりだったが2人とも大河ドラマ出演のため出られず、勝新太郎、若山富三郎、菅原文太、三浦友和...と"口説いて"、結局、坂本龍一とビートたけしになったとのことです。坂本龍一は勿論、ビートたけしも当時は役者としてのキャリアは殆ど無く(監督としても、デビュー作「その男、凶暴につき」を撮るのは6年後)、大島渚監督の前で硬くなっている感さえあり、その点、デヴィッド・ボウイの演技面は貫禄充分でした(但し、個人的には、この作品にあまり合っているように思えない)。

 それにしてもデヴィッド・ボウイは、アメリカ、西ドイツ、イギリス、日本と、様々な国の監督のもとで映画に出演してるなあ。

ハンガー dvd.jpgハンガー パンフ.jpg    戦場のメリークリスマス dvd.jpg戦場のメリークリスマス パン.jpg 戦場のメリークリスマス 6.jpg 
ハンガー [DVD]」パンフレット 「戦場のメリークリスマス [DVD]」/パンフレット

「地球に落ちて来た男」●原題:THE MAN WHO FELL TO EARTH●制作年:1976年●制作国:アメリカ●監督:ニコラス・ローグ●製作:マイケル・ディーリー/バリー・スパイキングス●脚本:ポール・メイヤーズバーグ●撮影: アンソニー・B・リッチモンド●音楽:ジョン・フィリップス●原作:ウォルター・テヴィス●時中野武蔵野ホール.jpg間:119分●出演:デヴィッド・ボウイ/キャンディ・クラーク/リップ・トーン/バック・ヘンリー/バーニー・ケイシー●日本公開:1977/02●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:中野武蔵野館 (78-02-24)●2回目:中野武蔵野館 (78-02-24)●3回目:三鷹オスカー(86-07-06)(評価:★★★★)●併映(1回目):「魚が出てきた日」(ミカエル・カコヤニス)併映(2回目):「ハンガー」(トニー・スコット)/「ジギー・スターダスト」(D・A・ペネベイカー) 中野武蔵野館 (後に中野武蔵野ホール) 2004(平成16)年5月7日閉館 

david-bowie-1973.jpgZIGGY STARDUST movie.jpg「ジギー・スターダスト」●原題:ZIGGY STARDUST●制作年:1973年●制作国:イギリス●監督:ドン・アラン・ペネベイカー●撮影:ジェームズ・デズモンド/マイク・デイヴィス/ニック・ドーブ/ランディ・フランケン/ドン・アラン・ペネベーカー●音楽:デヴィッド・ボウイ●衣装デザイン:フレディ・パレッティ/山本寛斎●時間:90分●出演:デヴィッド・ボウイ/リンゴ・スター(ノンクレジット)●日本公開:1984/12●配給:ケイブルホーグ●最初に観た場所:三鷹オスカー(86-07-06)(評価:★★★)●併映:「地球に落ちて来た男」(ニコラス・ローグ)/「ハンガー」(トニー・スコット)

クリスチーネ・Fes.jpg「クリスチーネ・F」●原題:CHRISTINE F●制作年:1981年●制作国:西ドイツ●監督:ウルリッヒ・エーデル●製作:ベルント・アイヒンガー●脚本:ヘルマン・ヴァイゲル/カイ・ヘルマン/ホルスト・リーク●撮影:ユストゥス・パンカウ●音楽:ユルゲン・クニーパー/デヴィッド・ボウイ●原作:クリスチアーネ・ヴェラ・フェルシェリノヴ「かなしみのクリスチアーネ(われらツォー駅の子供たち)」●時間:138分●出演:ウルリッヒ・エーデル/ナーチャ・ブルンクホルスト/トーマス・ハウシュタイン/イェンス・クーパル/ヘルマン・ヴァイゲル/デヴィッド・ボウイ●日本公開:1982/06●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:荻窪オデヲン座(82-12-11)(評価:★★★☆)●併映:「グローイング・アップ ラスト・バージン荻窪オデオン座 - 2.jpg荻窪駅付近.jpg荻窪オデヲン.jpg荻窪東亜会館.jpg」(ボアズ・デビッドソン)
荻窪オデヲン座・荻窪劇場 1972年7月、荻窪駅西口北「荻窪東亜会館」B1にオープン。1991(平成3)年4月7日閉館。(パンフレット「世にも怪奇な物語
菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より

三鷹オスカー  復活.jpg三鷹オスカー2.jpg「ハンガー」●原題:THE HUNGER●制作年:1983年●制作国:イギリス●監督:トニー・スコット●製作:リチャード・シェファード●脚本:ジェームズ・コスティガン/アイヴァン・デイヴィス/マイケル・トーマス●撮影:スティーヴン・ゴールドブラット●音楽:デニー・ジャガー/デヴィッド・ローソン/ミシェル・ルビーニ●時間:119分●出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/デヴィッド・ボウイ/スーザン・サランドン/クリフ・デ・ヤング/ダン・ヘダヤ/ウィレム・デフォー●日本公開:1984/04●配給:MGM●最初に観た場所:三鷹オスカー (86-07-06)(評価:★★★)●併映:「地球に落ちて来た男」(ニコラス・ローグ)/「ジギー・スターダスト」(D・A・ペネベイカー)

「戦場のメリークリスマス」●制作年:1983年●制作国:日本・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド●監督:大島渚●製作:ジェレミー・トーマス●脚本:大島渚/ポール・メイヤーズバーグ●撮影:杉村博松竹セントラル123.jpg章●音楽:坂本龍一●原作:ローレンス・ヴァン・デル・ポスト「影さす牢格子」「種子と蒔く者」●時間:123分●出演:デヴィッド・ボウイ/坂本龍一/ビ松竹セントラル123.jpg松竹セントラル.jpgートたけし/トム・コンティ/ジャック・トンプソン/内田裕也/三上寛/ジョニー大倉/室田日出男/戸浦六宏/金田龍之介/内藤剛志/三上博史●日本公開:1983/05●配給:松竹松竹セントトラル 銀座ロキシー.jpg富士=日本ヘラルド●最初に観た場所:銀座・松竹セントラル(83-06-04)(評価:★★★)
松竹セントラル・銀座松竹・銀座ロキシ-(→松竹セントラル1・2・3) 1952年9月、築地・松竹会館にオープン。1999年2月11日閉館。

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「初体験/リッジモント・ハイ」 (82年/米)2.jpg 主役を食ったロバート・デ・ニーロ、映画を食ってしまったショーン・ペン。

ミーン・ストリート dvd.jpg Mean Streets.jpg 初体験リッジモント・ハイ dvd.jpg 初体験/リッジモント・ハイ dvd.jpg
ミーン・ストリート [DVD]」Harvey Keitel(ハーヴェイ・カイテル),Robert De Niro「初体験 リッジモント・ハイ [DVD]」/「初体験リッジモント・ハイ コレクターズ・エディション [DVD]」Phoebe Katz(フィービー・ケイツ)

「ミーン・ストリート」_1.jpgMEAN STREETS 2.jpg 「ミーン・ストリート」('73年/米)は、マーティン・スコセッシ 監督の初期の映画で、しがないヤクザ者のチャーリー(ハーヴェイ・カイテル)が、組織に対する忠誠心や自分の生き方に自信を持てないでいる一方、気分によって仕事をし、酒・博打・女による借金で首が回らなくなっている親友のジョニーボーイ(ロバート・デニーロ)をかばい続けるがばかりに、共に窮地に追い詰められていく―という話。

MEAN STREETS.jpg  本来の主役はハーヴェイ・カイテルであり、親友を巡って葛藤する青年を見事に演じているのですが、それを凌いでいるのが、ジョニーボーイという無頼のキャラクターを演じているロバート・デ・ニーロ(当時29歳)の演技で、そのハチャメチャぶりと破滅型人格の底に滲む哀感には、当時スゴい役者が現れたものだと思わせるものがあったのではないでしょうか。

 ロバート・デ・ニーロはその後、「ゴッドファーザーPARTII」('74年/米)に出演し、「タクシードライバー」('76年/米)では、ハーヴェイ・カイテルと主演・助演が入れ替わっていますが、「ミーン・ストリート」の時点で、すでに主役を食っていたなあと(「タクシードライバー」の3年前に作られたこの映画の日本での公開は、「タクシードライバー」公開の4年後だった)。

RIDGEMONT HIGH.jpgフィービー・ケイツ リッチモンドハイ.bmp 「初体験/リッジモント・ハイ」('82年/米)は(故・伊藤計劃の『虐殺器官』('07年/早川書房)を読んでいたら、この映画のことがちらっと出imagesI35HWSBZ.jpgてきた)、アメリカの高校生達の恋と青春を描いた作品で、当時人気のフィービー・ケイツ(Phoebe Cates、中学生のようなルックスと大学生のようなボディの彼女には、ロシア系、中国系などの血が混ざっている)を中心に据えたアイドル映画ですが(ストーリー上の主人公はジェニファー・ジェイソン・リーJennifer Jason Leigh)、学生になりすまして母校リッジモント・ハイに潜入し若者たちの生態を観察したキャメロン・クロウの同名原作が元になっており、高校生の実態を世の大人たちに知らしめる啓蒙的意図を持った作品でもあったようです。

グレムリン 00.jpgPhoebe Cates in Gremlins.jpgフィービー・ケイツ ロードショー.jpg フィービー・ケイツはこの作品の2年後、ジョー・ダンテ監督の「グレムリン」('84年/米)に主演し、日本でもその年(昭和59年)のクリスマス映画として公開されましたが大ヒットし(そもそも"モグワイ"という珍獣は、クリスマス・プレゼントだった。どうしてグレムリン  dvd.jpgアメリカでは6月公開だったのか)、彼女の日本での人気も一気に高まりました。あの中で、彼女演じる少女がクリスマスが嫌いだと言って、その理由が、自分の父親がクリスマスにいなくなって、1年後に煙突掃除したらサンタクロースの格好をした父親が出てきた、途中で詰まって死んじゃったんだという話を、可愛い顔してさらっとしてみせるのにはややビックリしました(ジョー・ダン監督特有のブラックユーモアだったのだろなあ)。

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RIDGEMONT HIGH 1.jpg フィービー・ケイツが日本でホントにブレイクしたのは、やはり「グレムリン」ではないでしょうか。個人的には、この「初体験/リッジモント・ハイ」を観て最も印象に残ったのは、教室内の不良少年の1人で、その悪ガキぶりは演技を超えて本物の不良に見え、しかも、本当に少しキレてしまっているような感じさえありました。この不良少年を演じたのがショーン・ペンで(Sean Penn、当時22歳と高校生役にしては結構老けていた)、ちょっと狂った若者を映画に出させたわけではなく、やはり類稀なる演技力の賜物だったのだと、後で思いました(前年の「タップス」('81年/米)にも出ていたらしいが、坊主頭のトム・クルーズ(当時19歳)の方が印象深い)。

 その後、ショーン・ペンの方は、デ・ニーロを超える2度のアカデミー主演男優賞を受賞するまでの俳優になっていますが、「リッジモント・ハイ」に関して言えば、こんなたわいもないアイドル映画(乃至は"啓蒙映画")の中に置くにはあまりに"規格外"な存在であり、作品そのものの予定調和を掻き乱し、結果として映画そのものを食ってしまったという印象があります。

FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH.jpg 映画公開時は準主役というより脇役に近かったと思いますが(ポスターの右上に小さく写真が出ているだけ)、最近のDVDカバーなどでは彼の写真が前面に使われていて、「無名時代のショーン・ペンを観ることが出来る作品」というのがウリになっているのかも(売り出し前のニコラス・ケイジフォレスト・ウィッテカー、後の「ER」のグリーン先生ことアンソニー・エドワーズなども高校生役で出ている)。

『ミーン・ストリート』(1973).jpg「ミーン・ストリート」●原題:MEAN STREETS●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:マーティン・スコセッシ●製作:マーティン・スコセッシ/ジョナサン・T・タプリン●脚本:マーティン・スコセッシ/マーディック・マーティン●撮影:ケント・ウェイクフォード●時三鷹オスカー.jpg間:115分●出演:ロバート・デ・ニーロ/ハーヴェイ・カイテル/デヴィッド・プローヴァル/エイミー・ロビンソン/ロバート・キャラダイン/デヴィッド・キャラダイン/リチャード・ロマナス●日本公開:1980/11●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(81-03-18)(評価:★★★★)●併映「アリスの恋」(マーティン・スコセッシ)

初体験/リッジモント・ハイ2.jpg「初体験/リッジモント・ハイ」●原題:FAST TIMES AT RIDGEMONT HIGH●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:エイミー・ヘッカーリング●製作:アート・リンソン/アーヴィング・エイゾフ●脚本:キャメロン・クロウ●撮影:マシュー・F・レオネッティ●音楽:アーヴィング・エイゾフ●原作:キャメロン・クロウ●時間:90分●出演:ジェニファー・ジェイソン・リー/フィービー・ケイツ/ショーン・ペン/ジャッジ・ラインホールド/ニコラス・コッポラ/ニコラス・ケイジ/フォレスト・ウィッテカー/ブライア初体験/リッジモント・ハイ ポスター.jpgン・ベッカー/ヴィンゼント・スキャベリ/アンソニー・エドワーズ/エリック・ストルツ●日本公開:1982/11●配給:ユニヴァーサル=CIC●最初に観た場所:中中野武蔵野ホール.jpg野武蔵野館(83-07-02)(評価:★★☆)●併映「マイ・ライバル」(ロバート・タウン) 
[上左]「初体験/リッジモント・ハイ」映画公開時ポスター(ショーン・ペンの写真は右上丸囲み内)

グレムリン00.jpg「グレムリン」●原題:GREMLINS●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督:ジョー・ダンテ●製作:マイケル・フィネル●脚本:クリス・コロンバス●撮影:ジョン・ホラ●音楽:ジェリー・ゴールドスミス●時間:106分●出演:ザック・ギャリガン/フィービー・ケイツ/ホイト・アクストン/フランシス・リー・マッケイン/ポリー・ホリデイ/コリー・フェルドマン●日本公開:1984/12●配給:ワーナー・ブラザース映画●最初に観た場所:新宿・名画座ミラノ(84-12-29)

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翻訳者によって解釈が変わってくる箇所が多々ある作品。それが、また"深さ"なのか。

The Glass Key by Dashiell Hammett (Digit Books, Jun 1957) Cover by De Seta.jpgガラスの鍵 ポケミス.jpg 『ガラスの鍵』.bmpガラスの鍵 創元推理.jpg ガラスの鍵 光文社古典新訳文庫.jpg
ガラスの鍵 (1954年) 』(砧一郎:訳)/『ガラスの鍵 (創元推理文庫 130-3)』(大久保康雄:訳)[白山宣之カバー絵版・新版]/『ガラスの鍵 (光文社古典新訳文庫)』(池田真紀子:訳)
The Glass Key by Dashiell Hammett (Digit Books, Jun 1957) Cover by De Seta

 実業家で市政の黒幕でもあるポール・マドヴィックは、上院議員の娘ジャネットに恋をしており、次回の選挙では、議員を後押しすることにするが、それを快く思わない地元暗黒街のボスは、ポールを失脚させようと妨害工作を始める。そんな折、議員の息子テイラーが、何者かに殺害され、遊び人テイラーと娘オパールの交際を嫌っていたポールに嫌疑がかかる。ポールの右腕である賭博師ネッド・ボーモントは、友人を窮地から救うべく奔走する―。

 1930年にパルプマガジン「ブラック・マスク」に連載され、1931年に刊行されたダシール・ハメットの4作目の長編で(原題:The Glass Key)、2年前に発表された『血の収穫』のような古典的ギャングのドンパチ騒ぎの連続ではなく、市政を巡る近代的ギャングの政治的抗争劇というか、主人公のボーモントも、時に腕力や胆力を見せるものの、スーパータフガイといった感じではなく、基本的には冷静な知力で事件の解決を図るタイプの人物造形になっています。

 また、従来のハメットの作品と異なり、3人称で書かれていて、主人公の心理描写が殆ど無いため、読者は、会話と客観描写から主人公の現在の心理状態を探ることになりますが、ストーリーがやや複雑なこともあって、かなり気合を入れて読み込むことが必要かも。同時にこのことは、翻訳者によって、センテンスの解釈が変わってくる可能性のある箇所が多々あることも示しているかと思います(その点が、この作品の深さなのかも知れないが、日本語の場合、日本語に翻訳された時点で、既に解釈が入り易いのではないか)。

 ハメット自身が自らの最高傑作とし、個人的にもほぼ異存はありませんが(『赤い収穫』とは異質の作品であり、優劣を論じにくいとも言える)、自分自身がこの作品を十全に理解し得たかどうかというと、まだまだよく分らなかった部分もあったような心許無さが残る面もありました(読む度に印象が変わるというのは、作品の"深さ"なのかも)。

 光文社古典新訳文庫からこの作品の翻訳が出たのも、この作品は、ハードボイルドらしい客観描写の裏に隠された、心理小説的要素が強い作品(文学作品的?)であるからではないかと思われ、ジェフリー・ディーヴァーの作品の翻訳家でもある池田真紀子氏の訳は、ディーヴァーの作品が状況証拠やプロファイリングから謎を解いていくタイプのものであるように、登場人物やその会話の周辺状況が読者に分り易いように訳しているように思います。

 比べるとすれば、大久保康雄 ('60年/創元推理文庫)、小鷹信光 ('93年/ハヤカワ・ミステリ文庫)あたりですが、これらの旧訳では、主人公の名前の表記が、大久保訳は「ボーマン」、小鷹訳は「ボーモン」となっていて(砧一郎訳は「ボウモン」)、個人的には末尾に「ト」が無い方に馴らされてしまっているので、やや違和感があったというのはありますが、池田訳はそれらに比べやや重厚感が落ちるものの、旧来のイメージをそう崩さずに旨く訳しているのではないでしょうか(池田訳を読んだ後で、大久保訳または小鷹訳を読み直すのがいいかも)。

The Glass Key (1942) 2.jpg この作品は、1935年と1942年に映画化されていますが、スチュアート・ヘイスラー監督の1942年作品は、(「シェーン」('53年)で人気を博す前の)二枚目俳優アラン・ラッドと美人女優ヴェロニカ・レイクの主演で(本当の主役はブライアン・ドンレヴィであるとも言えるが)、概ね原作に忠実に作られているものの、やはり随所で、この時ボーモンはこんな表情をしていたのかといった意外性があったりしました(因みに、映画で観ている限りは概ね「ボーマン」と聞こえるが、ヴェロニカ・レイクは最初の方では「ミスター・ボーマント」とはっきり"t"を発音している)。

ガラスの鍵 [DVD] .jpgTHE GLASS KEY 1942Z.jpg 映画では、ヴェロニカ・レイク演じるジャネットが早くからアラン・ラッド演じるボーモンに好意を寄せていることがわかり、この小説の場合、映画化作品もまた、演出によって様々な解釈が入り込み易いということでしょう(因みに1935年のフランク・タトル監督作品は観ていないが、そちらではボーモンがオパールを愛していたという解釈になっているらしい)。
ガラスの鍵 [DVD]」(2013年リリース)

 ハメット自身は、この作品を書いていた頃は、前作『マルタの鷹』(1930年発表)の映画化権収入があったりして急に懐具合が良くなった時期で、その後、『影なき男』(1934年発表)を書いてからは長編を発表しておらず、稼ぎ過ぎるとかえって創作意欲が減退するタイプだったのかなあ(後半生の伴侶リリアン・ヘルマンの彼女自身の自伝によると、執筆活動はずっと続けていたが、作品を完成させることがなかったとのこと)。

THE GLASS KEY 1942.jpgThe Glass Key (1942).jpg 「ガラスの鍵」●原題:THE GLASS KEY●制作年:1942年●制作国:アメリカ●監督:スチュアート・ヘイスラー●脚本:ジョナサン・ラティマー●撮影:セオドア・スパークル●音楽:ヴィクター・ヤング●原作:ダシール・ハメット●時間:85分●出演:アラン・ラッド/ヴェロニカ・レイク/ブライアン・ドンレヴィ/ボニータ・グランヴィル/リチャード・デニング/ジョセフ・カレイア/ウィリアム・ベンディックス/エディー・マー/フランシス・ギフォード●日本公開:(劇場未公開)VHS/2003/11ジュネス企画(評価★★★☆)

【1954年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(砧一郎:訳)/1960年文庫化[創元推理文庫(大久保康雄:訳)/1993年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(小鷹信光:訳)]/2010年再文庫化[光文社古典新訳文庫(池田真紀子:訳)]】

 《読書MEMO》
●ウィリアム・ノーラン(小鷹信光:訳)『ダシール・ハメット伝』(′88年/晶文社)より
「『ガラスの鍵』はハメットの作品中で最も難解なものとなった。動機は決して語られず、暗に示唆されるだけだ。全編を通じてボーモントの心には仮面がぴったりとかぶされ、行動は誤解されやすい。ボーモントが事件を解明しようと殺人の手がかりを追うのと同じ位慎重に、読者はネドのキャラクターについてハメットが与えてくれる分かりにくい手がかりを追って行かねばならない。」

「『ガラスの鍵』は『血の収穫』を新しくした小説である。『血の収穫』では、悪党どもは昔の西部流に荒っぽく、ポイズンヴィルを支配するために爆薬や機関銃を使った。『ガラスの鍵』では、それが体裁よく 洗練され、やり方もはるかに手のこんだものになっている。拳銃の代りに連中は政治的圧力や脅迫という手段に訴える。彼らは二十世紀の犯罪にふさわしい破壊的な進歩を見せ、 それがカポネの時代のあけっぴろげな街中での暴力にとって代わっている。」

「『ガラスの鍵』は、ハメットが「たまたま犯罪小説になったものの、シリアスな小説」を書こうとした、彼の最も意欲的な試みだった。出版以来十年の間に、この作品は「傑作」と持てはやされたり、「最悪の出来」とけなされたりしてきた。モームとレイモンド・チャンドラーは二人ともこの作品を絶賛し、特にチャンドラーは「人物像が少しずつ明らかにされてくる」ところを評価している。」

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自分が大人になる頃にはこうなっていると信じていた時期があった"懐かしい未来"。

昭和少年SF大図鑑 カバー.jpg 昭和少年SF大図鑑.jpg   「エア・カー時代」 小松崎 茂(雑誌「少年」昭和36年1月号.jpg
昭和少年SF大図鑑 (らんぷの本)』 ['09年] 「エア・カー時代」 小松崎 茂(雑誌「少年」昭和36年1月号口絵)

 昭和20年代から40年代の少年向け雑誌やプラモデルの箱を飾った空想未来絵図を集めたもので、本郷の弥生美術館で展覧会も行われましたが、その弥生美術館で学芸員をしている女性による編集及び本文解説。

 この方面での画家と言えば、個人的には小松崎茂(1915-2001/享年86)の印象がかなり強いのですが、本書を見ると、小松崎茂が第一人者であったことは間違いないようですが、中島章作、伊藤展安、梶田達二、高荷義之、中西立太、南村喬之と、多彩な人たちがいたのだなあと。

 今見ると、これらの概ね楽天的な、時には物理の法則を逸脱したようなイラストには微笑ましい印象も受けますが、子供時代の一時期においては、自分たちが大人になる頃にはほぼ間違いなくこういう時代が来るのだと、「予測図」より「予定図」みたいな感じで半ば信じていて、素敵な夢を見させて貰いました。

 本書は、そうした夢を描いていた頃の自分を思い出させる、"懐かしい"未来図とでも言えるでしょうか。

Fifth Element Cars.jpg 自動車に代わってエアカーが飛び交う様など、リドリー・スコット監督の「ブレードランナー」('82年/米)やリュック・ベッソン監督の「フィフス・エレメント」('97年/仏)など、映画の中ではお目にかかれていますが、実現はいつのことやら。

Fifth Element Cars (1997)

ゲイリー・オールドマン.jpg 「ブレードランナー」のデッカートが操るポリススピナーに比べて、15年後に作られた「フィフス・エレメント」のパトカーやコーベンが運転するタクシーの方がキッチュに描かれているのが興味深いです(映画自体も、変てこな悪役ゲイリー・オールドマンやラジオDJ役のクリス・タッカーの怪演が楽しめた、肩の凝らない娯楽作品。この作品でも「ディーバ」(歌姫)がモチーフになっているなあ、リュック・ベンソンは)。

 ただ、この本にある、当時描かれた未来図の全てが荒唐無稽だったとは言えず、臨海副都心構想に近いアイデアやリニアモーターカーの原型など、かなり"いい線"いっているものあります。

 "明るい未来図"ばかりでなく、昭和40年代に入ると、公害問題などの世相を反映して"恐ろしい未来図"も結構出てきて、小松崎茂などは、地球温暖化で極地の氷が溶けて関東地方の大部分が水没する想像図なんてのも描いていて先見性を感じますが、だからと言って人間がエラ呼吸器を手術で植え付け、水中生活に適した身体に変えていくというのは、ちょっと行き過ぎ?

Minority Report.jpgTom Cruise  in Minority Report.jpg 同じくネガティブな未来図として描かれている類で、コンピュータに人間の生が支配されたり、コンピュータによって人間の思考や行動が監視される社会などというのは、ウォシャウスキー兄弟の映画「マトリックス」('99年/米)やスティーヴン・スピルバーグ監督の「マイノリティ・リポート」('02年/米)など、近年のSF映画にも類似したモチーフを看て取れます。
 Minority Report (2002)

 但し、「マイノリティ・リポート」(原作は「ブレードランナー」と同じくフィリップ・K・ディック )は、プリコグと呼ばれるヒト個人に予知能力が備わっていることが前提となっていますが(この映画、今思うとあのタッチ・センサーのヴィジュアルには、Windows8の予告編的要素もあった?)。

マイノリティ・リポート06.jpg「マイノリティ・リポート」●原題:MINORITY REPORT●制作年:2002年●制作国:アメリカ●監督:スティーヴン・スピルバーグ●製作:ボニー・カーティス/ジェラルド・R・モーレン/ヤン・デ・ボン/ウォルター・F・パークス●脚本:ジョン・コーエン/スコット・フランク ●撮影:ヤヌス・カミンスキー●音楽:ジョン・ウィリアムズ●原作:フィリップ・K・ディック ●時間:145分●出演:トム・クルーズ/コリン・ファレル/サマンサ・モートン/マックス・フォン・シドー/ロイス・スミス/スティーヴン・スピルバーグ●日本公開:2002/12●配給:20世紀フォックス (評価:★★★)
 
 今、若者たちが映画で受身的に観ている様な仮想未来社会を、かつての子供たちは、少年雑誌のイラストで見て、自ら想像力を働かせイメージを膨らませていたのだろうなあ(彼らにとって、これらのイラストの乗り物などは、頭の中では映画のように動いていたに違いない)、そして、その中には、今、科学技術の最前線で研究開発に勤しんでいる科学者や技術者もいるのだろうなあと思いました。

「ブレードランナー」●原題:BLADE RUNNER●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:リドリー・スコット●製作:マイケル・ディーリー ●脚本:ハンプトン・フィンチャー/デイヴィッド・ピープルズ●撮影:ジョーダン・クローネンウェス●音楽:ヴァンゲリス●時間:117分●出演:ハリソン・フォード/ルトガー・ハウアー/ショーン・ヤング ●日本公開:1982/07●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:二子東急(83-06-05)(評価:★★★★☆)

フィフス・エレメント.jpgクリス・タッカー.jpg「フィフス・エレメント」●原題:THE FIFTH ELEMENT(Le Cinquie`me e'le'ment)●制作年:1997年●制作国:フランス●監渋谷パンテオン.jpg督・脚本:リュ渋谷パンテオン 2.jpgック・ベッソン●撮影:ティエリー・アルボガスト●音楽:エリック・セラ●時間:126分●出演:ブルース・ウィリス/ミラ・ジョヴォヴィッチ/ゲイリー・オールドマン/イアン・ホルム/クリス・タッカー/ルーク・ペリー●日本公開:1997/09●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:渋谷パンテオン(97-10-24) (評価:★★★★)フィフス・エレメント [DVD]
渋谷パンテオン 東急文化会館1F、1956年オープン。2003(平成15)年6月30日閉館。

【2014年新装版】

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とりあえず1回目の予測は外した感があるが、警戒は必要ということか。

小林 照幸 パンデミック.jpg       apocalypse-outbreak-431.jpg OUTBREAK3.bmp
パンデミック―感染爆発から生き残るために (新潮新書)』 ['09年]/映画「アウトブレイク」

インフルエンザ.jpg パンデミック(感染爆発)の脅威と、それに対し国や医療機関、個人はどう対応すべきかについて書かれた本で、「新型インフルエンザ」を主として扱ってはいますが、デング熱、マラリア、成人はしかなど、その他の感染症についても言及されています。
 但し、その分、「新型インフルエンザ」についての解説がやや浅くなった感じがします(帯には「『新型インフルエンザ』の恐怖」と書かれているのだが)。

 本書の刊行は'09年2月で、'03年12月に国内で発生したH5N1型の「鳥インフルエンザウイルス」をベースに、「新型インルエンザ」について、その恐ろしさ、社会に及ぼす影響が近未来小説風の描写を交えて書かれていて(著者はノンフィクションライター兼作家)、"新たな"「新型インフルエンザ」がいつ発生してもおかしくない、或いはパンデミックはすでに始まっているかも知れないとしています。

 そして、実際に本書刊行の2カ月後に「新型インフルエンザ」がメキシコに発生し、その後日本にも上陸、冬季に限らず夏場でも感染拡大する可能性があること、タミフルが一定の治療効果を持つであろうことなど、本書に書かれている幾つかの「予想」も外れていませんでしたが、そもそも、この2009年型の「新型インフルエンザ」はH1N1亜型に属するもので、感染力は強いが致死率はH5型のものよりずっと低いタイプのものでした。

 この点は、WHOも当初は読み違えていたし、また、国や厚労省もそうした弱毒性のインフルエンザを想定していなかったために、却って余計な混乱を招いたという面があり、本書も「新型インフルエンザがH5N1型で発生するかどうかはわからない」と一応は書かれているものの、新型インフルエンザが発生すると「日本で約64万人が死ぬ!」などと帯にも書かれていたりして、こうした混乱を結果として助長した側面も無きにしも非ずか。

 後半部の「対応」の部分は取材源が限定的で、役所やマスコミの発表文書を引き写したような記述も多いように思えましたが、前半部のインフルエンザの特性や、「アウトブレイク」と「パンデミック」の違いなどの解説は分かり易かったです。

OUTBREAK.jpg 映画「アウトブレイク」('95年/米)でモチーフとなった架空のウィルスは、「エイズ」をモデルにしたのかどうかは知りませんが、映画自体はスリリングな娯楽作品であると共に大変恐ろしかったし、結果として'02年にアフリカで発生した「エボラ出血熱」を予見するような内容になっていて、「予言的中度」はかなり高かったと言えるのでは。

 因みに、前世紀初頭(1918年)にアメリカ発で世界中に広まったスペイン風邪(H1N1型)で1年余りの間に4千万人が死亡し、これは中世(14世紀)ヨーロッパで大流行した黒死病(本書ではぺストとされているが腺ペストではなくエボラのような出血熱ウイルスだったという説もある)の死者3千5百万人をも上回るものだったとのことです。

 地球上の人口が増え、交通機関が発達し、日常的に人々が行き来する現代、人類にとってパンデミックが脅威であることは、著者の指摘の通りだと思います。

Rene Russo (レネ・ルッソ) in「アウトブレイク [DVD]
OUTBREAK.bmp「アウトブレイク.jpg 「アウトブレイク」●原題:OUTBREAK●制作年:1995年●制作国:アメリカ●監督:ウォルフガング・ペーターゼン●製作:ゲイル・カッツ/アーノルド・コペルソン●脚本:ローレンス・ドゥウォレットアウトブレイク01.jpg/ロバート・ロイ・プール●撮影:ミヒャエル・バルハウス●音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード●時間:127分●出演:ダスティン・ホフマン/レネ・ルッソ/モーガン・フリーマン/ケヴィン・スペイシー/キューバ・グッディング・ジュニア/ドナルド・サザーランド/パトリック・デンプシー●日本公開:1995/04●配給:ワーナー・ブラザース映画(評価:★★★★)

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イデオロギー至上主義が人間性を踏みにじる様が具体的に描かれている。

私の紅衛兵時代1.jpg私の紅衛兵時代―ある映画監督の青春.jpg          写真集さらば、わが愛/覇王別姫.jpg
私の紅衛兵時代 ある映画監督の青春 (講談社現代新書)』['90年/'06年復刻]写真集『さらば、わが愛覇王別姫』より

陳凱歌(チェン・カイコー).jpg 中国の著名な映画監督チェン・カイコー(陳凱歌、1952年生まれ)が、60年代半ばから70年代初頭の「文化大革命」の嵐の中で過ごした自らの少年時代から青年時代にかけてを記したもので、「文革」というイデオロギー至上主義、毛沢東崇拝が、人々の人間性をいかに踏みにじったか、その凄まじさが、少年だった著者の目を通して具体的に伝わってくる内容です。

紅衛兵.jpg 著者の父親も映画人でしたが、国民党入党歴があったために共産党に拘禁され、一方、当時の共産党員幹部、知識人の子弟の多くがそうしたように、著者自身も「紅衛兵」となり、「毛沢東の良い子」になろうとします(そうしないと身が危険だから)。

 無知な少年少女が続々加入して拡大を続けた紅衛兵は、毛沢東思想を権威として暴走し、かつて恩師や親友だった人達を糾弾する、一方、党は、反国家分子の粛清を続け、"危険思想"を持つ作家を謀殺し、中には自ら命を絶った「烈士」も。

 そしてある日、著者の父親が護送されて自宅に戻りますが、著者は自分の父親を公衆の面前で糾弾せざるを得ない場面を迎え、父を「裏切り」ます。

 共産党ですら統制不可能となった青少年たちは、農村から学ぶ必要があるとして「下放」政策がとられれ、著者自身も'69年から雲南省の山間で2年間農作業に従事しますが、ここも発狂者が出るくらい思想統制は過酷で、但し、著者自身は、様々の経験や自然の中での肉体労働を通して、逞しく生きることを学びます。

 語られる数多くのエピソードは、それらが抑制されたトーンであるだけに、却って1つ1つが物語性を帯びていて、「回想」ということで"物語化"されている面もあるのではないかとも思ったりしましたが、う〜ん、実際あったのだろなあ、この本に書かれているようなことが。

紅いコーリャン [DVD]」チャン・イーモウ(張藝謀)
紅いコーリャン .jpgチャン・イーモウ(張藝謀).jpg 結果的には「農民から学んだ」とも言える著者ですが、17年後に映画撮影のため同地を再訪し、その時撮られたのが監督デビュー作である「黄色い大地」('84年)で、撮影はチャン・イーモウ(張藝謀、1950年生まれ)だったとのこと。

 個人的には、チャン・イーモウは「紅いコーリャン」('87年/中国)を初めて観て('89年)、これは凄い映画であり監督だなあと思いました(この作品でデビューしたコン・リー(鞏俐)も良かった。その次の作品「菊豆<チュイトウ>」('90年/日本・中国)では、不倫の愛に燃える若妻をエロチックに演じているが、この作品も佳作)。 
               
童年往事 時の流れOX.jpg童年往事 時の流れ.png童年往時5.jpg その前月にシネヴィヴァン六本木で観た台湾映画「童年往時 時の流れ」('85年/台湾)は、中国で生まれ、一家とともに台湾へ移住した"アハ"少年の青春を描いたホウ・シャオシェン(侯孝賢、1947年生まれ)監督の自伝的作品でしたが(この後の作品「恋恋風塵」('87年/台湾)で日本でも有名に)、中国本土への望郷の念を抱いたまま亡くなった祖母との最期の別れの場面など、切ないノスタルジーと独特の虚無感が漂う佳作でした。
【映画チラシ】童年往時/「童年往事 時の流れ [DVD]」/侯孝賢 (パンフレット)

坊やの人形.jpg ホウ監督の作品を観たのは、一般公開前にパルコスペースPART3で観た「坊やの人形」('83年/台湾)に続いて2本目で、「坊やの人形」は、サンドイッチマンという顔に化粧をする商売柄(チンドン屋に近い?)、家に帰ってくるや自分の赤ん坊を抱こうとするも、赤ん坊に父親だと認識されず、却って怖がられてしまう若い男の悲喜侯孝賢.jpg劇を描いたもので、渋谷パルコスペース3で上映された台湾の3監督によるオムニバス映画の内の1小品。他の2本も台湾の庶民の日常を描いて、お金こそかかっていませんが、何れもハイレベルの出来でした。
坊やの人形 [DVD]」/侯孝賢

 両監督作とも実力派ならではのものだと思いましたが、同じ中国(または台湾)系でもチャン・イーモウ(張藝謀)とホウ・シャオシェン(侯孝賢)では、「黒澤」と「小津」の違いと言うか(侯孝賢は小津安二郎を尊敬している)、随分違うなあと。

さらば、わが愛~覇王別姫 [DVD]」 /レスリー・チャン
さらば、わが愛/覇王別姫.jpg覇王別姫.jpgレスリー・チャン.gif 一方、チェン・カイコーの名が日本でも広く知られるようになったのは、もっと後の「さらば、わが愛/覇王別姫」('93年/香港)の公開('94年)以降でしょう(これも良かった。妖しい魅力のレスリー・チャン、自殺してしまったなあ)。

 本書も刊行されたのは'90年ですが、その頃はチェン・カイコーの名があまり知られていなかったせいか、一旦絶版になり、「復刊ドットコム」などで復刊要望が集まっていたのが'06年に実際に復刻し、自分自身も復刻版(著者による「復刊のためのあとがき」と訳者によるフィルモグラフィー付)で読んだのが初めてでした。

 「さらば、わが愛/覇王別姫」にも「紅いコーリャン」にも「文革」の影響は色濃く滲んでいますが、前者を監督したチェン・カイコーは早々と米国に移住し(本書はニューヨークで書かれた)、ハリウッドにも進出、後者を監督したチャン・イーモウは、かつては中国本国ではその作品が度々上映禁止になっていたのが、'08年には北京五輪の開会式の演出を任されるなど、それぞれに華々しい活躍ぶりです(体制にとり込まれたとの見方もあるが...)。


「中国問題」の内幕.jpg中国、建国60周年記念式典.jpg 中国は今月('09年10月1日)建国60周年を迎え、しかし今も、共産党の内部では熾烈な権力抗争が続いて(このことは、清水美和氏の『「中国問題」の内幕』('08年/ちくま新書)に詳しい)、一方で、ここのところの世界的な経済危機にも関わらず、高い経済成長率を維持していますが(GDPは間もなく日本を抜いて世界第2位となる)、今や経済界のリーダーとなっている人達の中にも文革や下放を経験した人は多くいるでしょう。記念式典パレードで一際目立っていたのが毛沢東と鄧小平の肖像画で、「改革解放30年」というキャッチコピーは鄧小平への称賛ともとれます(因みに、このパレードの演出を担当したのもチャン・イーモウ)。

 中国人がイデオロギーやスローガンに殉じ易い気質であることを、著者が歴史的な宗教意識の希薄さの点から考察しているのが興味深かったです。
 
シネヴィヴァン六本木.jpg「童年往時/時の流れ」●原題:童年往来事 THE TIME TO LIVE AND THE TIME TO DIE●制作年:1985年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)●製作:徐国良(シュ・クオリヤン)●脚本:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)/朱天文(ジュー・ティエンウェン)●撮影:李屏賓(リー・ピンビン)●音楽:呉楚楚(ウー・チュチュ)●時間:138分●出演:游安順(ユーアンシュ)/辛樹芬(シン・シューフェン)/田豊(ティェン・フォン)/梅芳(メイ・フアン)●日本公開:1988/12●配給:シネセゾン●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(89-01-15)(評価:★★★★)
シネヴィヴァン六本木 1983(平成5)年11月19日オープン/1999(平成11)年12月25日閉館
坊やの人形 <HDデジタルリマスター版> [Blu-ray]
坊やの人形 00.jpg坊やの人形 00L.jpg「坊やの人形」(「シャオチの帽子」「りんごの味」)●原題:兒子的大玩具 THE SANDWICHMAN●制作年:1983年●制作国:台湾●監督:侯孝賢(ホウ・シャオシェン)/曹壮祥(ゾン・ジュアンシャン)/萬仁(ワン・レン)●製作:明驥(ミン・ジー)●脚本:呉念眞(ウー・ニェンジェン)●撮影:Chen Kun Hou●原作:ホワン・チュンミン●時間:138分●出演:陳博正(チェン・ボージョン)/楊麗音(ヤン・リーイン)/曽国峯(ゾン・グオフォン)/金鼎(ジン・ディン)/方定台(ファン・ディンタイ)/卓勝利(ジュオ・シャンリー)●日本パルコスペース Part3.jpg渋谷シネクイント劇場内.jpgCINE QUINTO tizu.jpg公開:1984/10●配給:ぶな企画●最初に観た場所:渋谷・PARCO SPACE PART3(84-06-16)(評価:★★★★)●併映:「少女・少女たち」(カレル・スミーチェク)
PARCO SPACE PART3 1981(昭和56)年9月22日、演劇、映画、ライヴパフォーマンスなどの多目的スペースとして、「パルコ・パート3」8階にオープン。1999年7月~映画館「CINE QUINTO(シネクイント)」。 2016(平成28)年8月7日閉館。


「さらば、わが愛/覇王別姫」(写真集より)/「さらば、わが愛/覇王別姫」中国版ビデオ
『さらば、わが愛/覇王別姫』(1993) 2.jpgさらばわが愛~覇王別姫.jpg「さらば、わが愛/覇王別姫」●原題:覇王別姫 FAREWELL TO MY CONCUBI●制作年:1993年●制作国:香港●監督:陳凱歌(チェン・カイコー)●製作:徐淋/徐杰/陳凱歌/孫慧婢●脚本:李碧華/盧葦●撮影:顧長衛●音楽:趙季平(ヂャオ・ジーピン)●原作:李碧華(リー・ビーファー)●時間:172分●出演:張國榮(レスリー・チャン)/張豊毅(チャン・フォンイー)/鞏俐(コン・リー)/呂齊(リゥ・ツァイ)/葛優(グォ・ヨウ)/黄斐(ファン・フェイ)/童弟(トン・ディー)/英達(イン・ダー)●日本公開:1994/02●配給:ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画(評価:★★★★☆)

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構成はシンプルだが(登場人物3人)、ポランスキーの最高傑作ではないか。

水の中のナイフ.jpg  NOZ W WODZIE poster.jpg  水の中のナイフ ビデオ.jpg   水の中のナイフ1.jpg 
ポランスキースペシャルDVDコレクション 「水の中のナイフ」 「反發」 「袋小路」」/「水の中のナイフ [DVD]

 ワルシャワでスポーツ記者をしている男が、美しい妻と週末をヨット・クルージングで過ごすため、妻の運転するクルマで湖に向かっていたが、森道でヒッチハイクの若者に出会い、妻に言われて渋々彼をクルマに乗せることに。若者の強気な態度が気に入らない夫は、挑発するかのように若者をヨットに誘い、ヨットの船上で3人は、一旦はうち解けてクルージングを楽しむかのようにみえたものの、次第に妻を間に挟んで張り合う2人の男の心の均衡が崩れていく―。

 夫は36歳という設定ですが、裕福な知識階層に属するとみていいでしょう。クルージングは、夫婦の恒例の週末の過ごし方になっているが、ある意味、惰性的に続いているもので、彼らの日常の延長に過ぎない―、そこに闖入してきた若者の方は、しがないヒッチハイカー。女性を巡っての男2人の心理的対峙が、貧富の差、世代の違いを背景に、ヨット上という密室の中で緊張感を持って展開されていきます。

映画「水の中のナイフ」.pngNOZ W WODZIE1.jpg 夫が敢えて若者をヨットに誘ったのは、自らが「持てる者」であることを見せつけるためであり、ヨットに乗り込んで「船長」となることで、彼の自我は一層肥大する―、しかし、夫との倦怠期にある妻は、自慢話をする夫より、むしろ心情的には若者の方へと気持ちが靡いていっているように見え(彼女は努めてそのことを表面には出さないようにしているが)、そうした妻にやけに優しい若者を見て、夫は雑用を言いつけるなどして彼を使役する―。

The Knife in the Water(1962).jpg 若者が持つ愛用のナイフは彼のアイデンティの象徴であるとも言えますが、それを夫が隠したことから2人の男は争いとなり、激昂した夫は若者をハズミで船外へ突き落としてしまい、"泳げない"彼は浮か上がってこない―、しかし、そこには若者の"芝居"があり、夫が妻との口論の末に助けを呼びにいくため湖に飛び込むのと入れ替わりで、彼はヨットに戻ってきて、その若者を妻はなじるが、やがて受け容れる―。
NOZ W WODZIE2.jpgThe Knife in the Water(1962)

 夫婦の日常の心理的な隔たりが、第三者の闖入という特殊な状況下で露呈するという展開であるとともに、この出来事が夫婦の破局ではなく、こんなこともあったりして、それでも夫婦生活は続いていくのだなあ、みたいな終わり方になっている点にリアリティがあり、見方によっては、将来の破局を暗示しているというより、両者の絆を強めるという結末に繋がっているように思われるところがこの作品のミソかも。

 ヨットに戻ってからの若者からそれまでの尖がっていた感じが消えて、母親に甘える子供のようになってしまう点も、結末に納得感を持たせることに寄与しているように思えました(要するに、妻の眼から見ればこの若者は"子供"のようなものであり、"伴侶"たり得ないと)。

 ロマン・ポランスキーの実質的な長編デビュー作で、ポーランドで撮った最後の作品ですが(以後「戦場のピアニスト」('02年)までの40年間、祖国で映画を撮ることはなかった)、彼NOZ W WODZIE3.jpgの名を世に知らしめたもので、脚本・演出が見事なだけでなく(妻役のヨランタ・ウメッカは女優ではなく美術学校の学生だった)、森の中や湖上を撮ったモノクロームの映像がどれをとっても美しくて絵になっており(カメラのイエジー・リップマンはアンジェイ・ワイダ監督の「地下水道」('56年/ポーランド)でも撮影を担当しており、あの映画もカメラワークが素晴らしかった)、構成はシンプルですが(登場人物3人だから...)トータル的に見てポランスキーの最高傑作と言ってもいいのではないでしょうか。

Jolanta Umecka

オリジナルポスター
水の中のナイフ オリジナル・ポスター.jpg水の中のナイフb.jpg「水の中のナNOZ W WODZIE.jpgイフ」●原題:NOZ W WODZIE(A KNIFE IN THE WATER)●制作年:1962年●制作国:ポーランド●監督:ロマン・ポランスキー●製作:ジュゼッペ・アマト/アンジェロ・リッツォーリ●脚本:ロマン・ポランスキー/イエジー・スコリモフスキー/ヤクブ・ゴールドベルク●撮影:イエジー・リップマン●音楽:クリシトフ・コメダ●時間:94分●出演:レオン・ニエムチック/ヨランタ・ウメッカ/ ジグムント・マラノウッツ/レオン・ニェムチク/ジグムント・マラノヴィチ飯田橋佳作座 (神楽坂下外堀通り沿い)624.jpg飯田橋佳作座.jpg●日本公開:1965/06●配給:東和●最初に観た場所:飯田橋佳作座(81-05-24)●2回目:飯田橋佳作座(81-05-24)(評価:★★★★☆)●併映:「大理石の男」(アンジェイ・ワイダ)


飯田橋佳作座 (神楽坂下外堀通り沿い) 1988(昭和63)年4月21日閉館

写真共有サイト「フォト蔵」より

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ボギーとバコールの会話が気持ちよく噛み合っている作品(脚本自体が良く出来ていた?)

脱出2.jpg 脱出.jpg 「脱出」 (1944).jpg 私一人.jpg
脱出 特別版 [DVD]」/ポスター/ハンフリー・ボガート、ローレン・バコール/『私一人』['87年/文藝春秋]

脱出3.jpg カリブ海にある仏領マルチニック群島のある島で観光用チャーター・ボートの船長をしているハリー(ハンフリー・ボガート)は、ホテル歌手のマリー(ローレン・バコール)に彼女がアメリカへ帰るための金を渡すため、レジスタンスのリーダーを逃がす仕事を請け負うが、ハリーが密航を幇助したと考えた島の警察が彼の仲間を拉致して拷問したことを知り、怒りを爆発させる―。

To Have and Have Not.jpg アーネスト・ヘミングウェイが1937年に発表した小説『持つことと持たざること(To Have & Have Not)』が原作で(脚本は、同じくノーベル賞作家のウィリアム・フォークナー)、ヘミングウェイは1926年発表の『日はまた昇る』以降、より正確には1927年刊行の『男だけの世界』から、その短編集のタイトル通りマチズムの傾向を強めていますが、この作品もその例に漏れるものではなく、一方で、この『持つことと持たざること』というタイトルは主に「貧富の差」のことを言っており、彼の作品に社会的傾向が最も見られた時期のものでもあります。

Hemingway, Ernest. To Have and Have Not (New York : Charles Scribner's Sons, 1937)

Tohaveandhavenot.jpg 原作の舞台はキーウエストやキューバになっており、それが仏領マルチニックに変えられたとしても、第2次世界大戦(ビシー政権下)の話なので仏領の島にドイツ傀儡政府の手先がいてもおかしくないのですが(この映画の制作年は1944年)、原作の社会的色合いは後退し、ハンフリー・ボガートの男気、乃至は、ローレン・バコールとのロマンスが前面に出ています。
 「持つと、持たざると」の目的語は「富・財産」から「勇気」に置き換えられている(?)感じで、これはフォークナーの意向というより、彼に脚本を依頼したハワード・ホークスの意向に違いないと、個人的には推測しています。

bacall.jpg この映画での共演を機に2人は結婚し、その結婚生活はボギーの死まで続きますが、考えてみれば、雑誌のカバーガールからスカウトされたローレン・バコールは、この作品がメジャー作品初出演だった(公開示のポスターでは下隅に小さく名前があるだけ)―それにしては、スクリーン上の彼女は貫禄充分と言うか、25歳年上のボギーと堂々と渡り合っているように見えました。
『脱出』(1944).jpg しかし、1979年に刊行された自伝『ローレン・バコール/私一人』('84年/文芸春秋)の中では、撮影の時にはいつもがちがちに緊張しまくっていていたことを告白しています。
 2人の会話が気持ちよく噛み合っている作品でしたが、やはり、フォークナーの脚本自体が良く出来ていたということでもあるのではないでしょうか(因みにヘミングウェイとフォークナーはライバル関係でもあった)。
 「三つ数えろ」('46年)「キー・ラーゴ」('48年)などと比べてどちらが上か迷う作品。「IMDb」の評価では、「脱出」8.0、「三つ数えろ」8.1、「キー・ラーゴ」7.9となっていました。

 『ローレン・バコール/私一人』によれば、ボギーが亡くなるその朝、出かける妻ローレン・バコールに声をかけた「バイバイ、キッド」が彼からの最後の"別れの言葉"になったそうですが、これは「脱出」でバコールが演じた歌手マリーの愛称だったとか。

「三つ数えろ」('46年)(ハワード・ホークス監督)/「キー・ラーゴ」('48年)(ジョン・ヒューストン監督)
『三つ数えろ』(1946) .jpg  key largo movie.jpgキー・ラーゴ2.jpg

脱出 輸入版ビデオジャケット.jpg脱出 輸入版ビデオジャケット2.jpgTo Have and Have Not.jpg「脱出」●原題:TO HAVE AND HAVE NOT●制作年:1944年●制作国:アメリカ●監督・製作:ハワード・ホークス●脚本:ウィリアム・フォークナー●撮影:シド・ヒコックス●音楽:フランツ・ワックスマン●原作:アーネスト・ヘミングウェイ●時間:101分●出演:ハンフリー・ボガート/ローレン・バコール/ウォルター・ブレナン/マルセル・ダリオ/ドロレス・モラン/ホーギー・カーマイケル/ダン・セイモア/シェルドン・レナード●日本公開:1947/11●配給:セントラル●最初に観た場所:三百人劇場 (89-03-14)●2回目:歌舞伎町ーア2 (89-04-08) (評価:★★★★)

三百人劇場2.jpg三百人劇場.jpg三百人劇場(文京区・千石駅付近) 2006(平成18)年12月31日閉館

新宿ト―ア.jpg歌舞伎町トーア2 歌舞伎町・第二東亜開館(歌舞伎町東映、1996年1月~新宿トーア)上の歌舞伎町日活を「歌舞伎町トーア1・2」に分割 1990年代半ばに閉館 (新宿トーアは2009(平成21)年4月17日閉館)

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ニュース映像を思わせるような画像。ドキュメンタリータッチで描くことで成功している。

アルジェの戦い1.jpgアルジェの戦い(トールケース仕様).jpgアルジェの戦い(パンフレット).jpg 「アルジェの戦い」.jpg 
アルジェの戦い(トールケース仕様) [DVD]」/パンフレット/ポスター(La battaglia di Algeri(1966)

 「アルジェの戦い」とは、フランスの支配に対するアルジェリアの独立戦争(「アルジェリア戦争」)を指しており、1954年11月、首都アルジェのカスバでアルジェリア民族解放戦線が蜂起したことから始まったアルジェリア人民の抵抗運動の火は、アルジェリア全土からヨーロッパの街頭にまで及んで至る所で爆弾闘争へと発展していき、1962年にアルジェリアは独立を果たします。

アルジェの戦い5.jpg この作品は、アルジェリア政府の協力を得てイタリア左翼映画人が作り出した映画であり(監督はイタリア人のジッロ・ポンテコルヴォ(Gillo Pontecorvo,1919‐2006)、音楽はエンニオ・モリコーネ)、8万人のアルジェ市民の協力を得て5年の歳月をかけて完成させており、ニュース映像を思わせるような粗い画像が、ドキュメンタリータッチを盛り上げて成功しているように思います。

 爆弾闘争のシーンが多く、最初観たときは戦時中のニュース映像ではないかとも思われ、その外にも記録フィルムなのか演出なのか判別がつかない部分が多くありましたが、後で知ったところによれば、実はニュース映像は一切使用しておらず、純粋な"劇映画"であり、建物の爆破シーンなどは、撮影用に家を新築し、それを1件1件爆破していったとのことです。

アルジェの戦い2.jpg 爆弾闘争は、支配側の国から見れば「テロ」ということになるのでしょうが、被支配側から見れば、支配国(搾取する側)の圧倒的な武力に対抗するには、こうしたやり方しかなかったともとれます。ヴェネチア映画祭では、反仏的内容に腹を立てたフランス代表団が、この作品がグランプリに選ばれると全員退場しましたが、フランソワ・トリュフォーだけが会場に残ったというエピソードも有名です。

アルジェの戦いtop.jpg 映画の中で指導者の1人を演じている人物は、現実にカスバで地下組織を指導した人で、この映画のプロデューサーでもあり、後に、「私は機関銃をカメラにとりかえたのです。当時を再現し、あの感動を再び呼びさますことによって、ある国家や国民を審判するのではなく戦争や暴力のおそろしさを伝える客観的な映画を作りたいと念願していたのです」と語っています。

 「テロとの戦い」を声高に叫ぶ国家指導者がいますが、その国にとって都合の良い解釈だったりもします。そうした意味では現在も別個の視座を提供してくれる作品であり、但し、爆弾闘争を英雄的に美化したりはせずに一定の客観性を保持しているのが、この作品の優れた点と言えるのでしょう。

「アルジェの戦い」公式サイト
2016年10/8(土)~11/4(金)新宿・K's cinema(ケイズシネマ)などでオリジナル言語版上映(配給:コピアポア・フィルム)。
2016年10/12国内初ブルーレイ化。


新宿アートビレッジ3.png「アルジェの戦い」●制作年:1983年●原題:LA BATTAGLIA DI ALGERI●制作年:1966年●制作国:イタリア・アリジェリア●監督:ジッロ・ポンテコルヴォ●撮影:マルチェロ・ガッティ●音楽:エンニオ・モリコーネ●時間:123分●出演:ブラヒム・ハギアグ/ジャン・マルタン/ヤセフ・サーディ/トマソ・ネリ/ファウジア・エル・カデル/マルチェロ・ガッティ●日本公開:1967/02●配給:松竹映配●最初に観た場所:新宿アート・ビレッジ(79-02-24) (評価:★★★★☆)●併映:「ジョニーは戦場へ行った」(ドルトン・トランボ)

新宿アートビレッジ (歌舞伎町ジャズ喫茶「タロー」3F、16ミリ専門の上映館・席数40) 1980(昭和55)年に活動停止

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邦題より原題が相応しいシビアな内容。ジェーン・フォンダの演技には鬼気迫るものがある。

ひとりぼっちの青春.jpg  彼らは廃馬を撃つ.jpg ホレス・マッコイ「彼らは廃馬を撃つ」.jpg    .映画「バーバレラ」(1968).jpg   追憶パンフ.jpg 
ひとりぼっちの青春 [DVD]」 「彼らは廃馬を撃つ」['70年/角川文庫]['88年/王国社]「バーバレラ」「追憶

『ひとりぼっちの青春』(1969)2.jpgひとりぼっちの青春1.png 1932年、不況下にハリウッドで行われた「マラソン・ダンス」の会場には、賞金を狙って多くの男女が集まっていた。ロバート(マイケル・サラザン)もその1人で、彼は、大会のプロモーター兼司会者(ギグ・ヤング)の手配により、グロリア(ジェーン・フォンダ)と組んで踊ることになるのだが―。

『ひとりぼっちの青春』(1969).jpg 不況時のアメリカの世相と、一攫千金を願ってコンテストに参加し、ぼろぼろになっていく男女を通して、世相の退廃と人生の孤独や狂気を描いた作品で、 甘ちょろい感じのする邦題タイトルですが、原題は"They Shoot Horses, Don't They?"(「廃馬は撃つべし」とでも訳すところか)というシビアなもの(オープニングで馬が撃たれるイメージ映像が流れる)。

By Jeffrey Ressner.jpg 余興で行われた二人三脚競走で足がつって踊れなくなったロバートを、今までの苦労が水の泡になるとして無理やり引きずって踊ろうとするグロリアを演じたジェーン・フォンダの演技には、鬼気迫るものがありました。

 グロリアは、もはや賞金のためではなく、自らの尊厳のために踊り続けようとする。しかし、このダンス・コンテスト自体がある種のヤラセ興行であることに気づいたとき、彼女はロバートに自殺幇助を頼み果てる―。"They Shoot Horses Don't They?"は、ロバートが子供の頃、父親から言い聞かされていた言葉だったというのが、強烈な皮肉として効いています。 

バーバレラ 1993.jpg 雑誌モデル出身のジェーン・フォンダは、この映画に出るまではセクシーさが売りの女優で、ピンク・コメディのようなものによく出演しており、この映画の前の出演作は、ロジェ・ヴァディム監督の「バーバレラ」('68年/伊・仏)というSFコミックの実写版でした。偶々テレビで観たという作品だったため、相対的に印象が薄かったのですが、この作品のオープニング、今観ると凄いね。 ジェーン・フォンダ「バーバレラ」1968年 オープニング

 そんな彼女が演技開眼したのが、この「ひとりぼっちの青春」であったことは本人も後に語っているところであり、その後2度もアカデミー主演女優賞を獲得しています。しかも、「黄昏」("On Golden Pond")の映画化権を買取り、父ヘンリー・フォンダに初のアカデミー主演男優賞をもたらす契機を作ってさえいます。一方、映画でアクの強いプロモーターを演じたギグ・ヤングは、この映画の8年後に、妻を射殺して自らも命を絶っています。シドニー・ポラック.jpg この作品は、今年('08年)5月に亡くなったシドニー・ポラック(1934‐2008/享年73)監督作で、この人の代表作には、「追憶」や「愛と哀しみの果て」などの大物俳優の組み合わせ作品や「トッツィー」('82年、アカデミー助演女優賞)などがあります。
 

『追憶』(1973) 3.jpg 「追憶」('73年)は、やはりあくまでもバーブラ・ストライサンドの映画という感じで、バーブラ・ストライサンドが政治活動に熱心な苦学生を、ロバート・レッドフォードがノンポリの学生を演じていますが、2人の20年後の再会から自分たちの歩んできた道を振り返る構成になっていて、よって「追憶(THE WAY WE WER)」というタイトルになるわけです。

『追憶』(1973) 1.jpg 何事にもひたむきにしか生きられない、不器用だが一途な女性をバーブラ・ストライサンドが好演、人間ってそう簡単には変われないのかもと...。

 テーマ曲もバーブラ・ストライザンドが歌っているわけで、これだけの歌唱力と演技力を兼ね備えているというのは考えてみれば凄い才能。コーヒーのCMソングが流れる度に思い出す映画ですが、この映画のお陰で暫くはロバート・レッドフォード自体にノンポリのイメージを抱いてしまった。

The way we were

愛と哀しみの果て  0.jpg そのロバート・レッドフォードがメリル・ストリープと共演したのが「愛と哀しみの果て」('85年)ですが、アカデミー監督賞を獲ったにしては中身はハーレクイン・ロマンスではないかと...(メリル・ストリープってコンプレックスを持った女性を演じるのが上手い。でも、映画自体は全く自分の好みに合わなかった)。

トッツィー1.jpg 「トッツィー」('82年)は、女装のダスティン・ホフマンがアカデミー主演男優賞(女優賞?)を獲るかと言われた映画ですが、むしろ共演のジェシカ・ラングの方が進境著しく、個人的には、ソープオペラって収録が間に合わなくなると"生撮り"するというのが興味深かった...(日本でも昔のNHKの「お笑い三人組」や民放の「てなもんや三度笠」などは公開録画だったようだが)。

 こうして見ると、男優よりもむしろ女優の方の魅力を引き出しているものが並び、「ひとりぼっちの青春」もその類ということになるのかも知れませんが、「ひとりぼっちの青春」に関しては、これらの作品の前に忘れてはならない作品だと個人的には思っています。

「ひとりぼっちの青春」米国版 ポスター&ビデオカバー
ひとりぼっちの青春09.jpgThey Shoot Horses Don't They? video.jpgThey Shoot Horses Don't They?.jpg「ひとりぼっちの青春」●原題:THEY SHOOT HOURSES,DON'T THEY?●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:ジョン・グリーン●原作:ホレース・マッコイ 「彼らは廃馬を撃つ」●時間:133分●出演:ジェーン・フォンダ/マイケル・サラザン/スザンナ・ヨーク/ギグ・ヤ三鷹オスカー.jpgング/ボニー・ベデリア/マイケル・コンラッド/ブルース・ダーン/アル・ルイス/セヴァン・ダーデン/ロバート・フィールズ/アリン・アン・マクレリー/マッジ・ケネディ/レッド・バトンズ●日本公開:1970/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-17) (評価★★★★☆)●併映:「草原の輝き」(エリア・カザン)/「ジョンとメリー」(ピーター・イェイツ) 三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。

バーバレラ [DVD].jpgBARBARELLA.jpg「バーバレラ」●原題:BARBARELLA●制作年:1968年●制作国:イタリア/フランス●監督:ロジェ・ヴァディム●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ジャン=クロード・フォレ/クロード・ブリュレ/クレメント・ウッド/テリー・サザーン/ロジェ・ヴァディム/ヴィットーリオ・ボニチェッリ/ブライアン・デガス/テューダー・ゲイツ●撮影:クロード・ルノワール●音楽:チャールズ・フォックス●原作:ジャン=クロード・フォレスト 「バーバレラ」●時間:98分●出演:ジェーン・フォンダ/ジョン・フィリップ・ロー/アニタ・パレンバーグ/ミロ・オーシャ●日本公開:1968/10●発売元:パラマウント(評価★★★) 「バーバレラ [DVD]


追憶 dvd.jpgThe way we were.gif「追憶」●原題:THE WAY WE WER●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:マービン・ハムリッシュ●原作:アーサー・ローレンツ●時間:118分●出演:バーブラ・ストライサンド/ロバート・レッドフォード渋谷文化劇場.png/ブラッドフォード・ディルマン/ロイス・チャイルズ/パトリック・オニール/ヴィヴェカ・リンドフォース●日本公開:1974/04●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:渋谷文化劇場(77-10-23) (評価★★★☆)●併映:「明日に向かって撃て!」(ジョージ・ロイ・ヒル)
 渋谷文化劇場 1952年11月17日、渋谷東宝会館地下にオープン 1989年2月26日閉館(1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーがオープン)

愛と哀しみの果てdvd.jpg愛と哀しみの果て パンフ.jpg愛と哀しみの果てs.jpg「愛と哀しみの果て」●原題:OUT OF AFRICA●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:ジョン・バリー●原作:アイザック・ディネーセン(カレン・ブリクセン) 「アフリカの日々」●時間:161分●出演:メリル・ストリープ/ロバート・レッドフォード/クラウス・マリア・ブランダウアーマイケル・キッチン/マリック・ボーウェンズ●日本公開:1986/03●配給:ユニヴァーサル映画●最初に観た場所:テアトル池袋(86-10-12) (評価★★)●併映:「恋におちて」(ウール・グロスバード)

トッツィー ジェシカ・ラング.jpgトッツィー.jpg「トッツィー」●原題:TOOTSIE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:デイブ・グルーシン●時間:113分●出演:ダスティン・ホフマン/ジェシカ・ラング/ビル・マーレイ/テリー・ガー/ダブニー・コールマン/チャールズ・ダーニング●日本公開:1983/04●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:自由が丘武蔵野推理 (85-07-14) (評価★★★)●併映:「プレイス・イン・ザ・ハート」(ロバート・ベントン) ダスティン・ホフマン/ジェシカ・ラング in「トッツィー」

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感動作。2度目のオスカーで「母親役のチャンピオン」への道を歩んだサリー・フィールド。

プレイス・イン・ザ・ハート パンフ.bmp PLACE IN THE HEART 1984.bmp プレイス・イン・ザ・ハート.jpg
「プレイス・イン・ザ・ハート」映画パンフレット  「プレイス・イン・ザ・ハート [VHS]」 

PLACE IN THE HEART 1984 1.jpgプレイス・イン・ザ・ハート2.jpg 1935年のアメリカ南部テキサスを舞台に、夫である保安官を酔っ払いの黒人によって誤って撃ち殺された妻が、貧困にもめげずに必死になって家族を守ろうとする姿を追った人間愛ドラマで、個人的にも感動しました。

 サリー・フィールド(Sally Field)が、2人の子供と多大な借金を抱えたまま未亡人になり、途方に暮れながらも、物乞いの黒人(ダニー・グローヴァー)に綿花の栽培方法などを教わって、竜巻の被害にあったりしながらも苦難を乗り切ろうとする母親の役を好演(と言うか力演)していトランザム7000 pos.jpgて、バート・レイノルズ主演の「トランザム7000」('77年)(アトランタで評判のトラック野郎が"28時間以内にテキサス州テクサカナまで行きビールを積んで帰ってくれば8万ドルの報酬を出す"という金持ちの申し出に挑むもので、面白かった。コメディ仕立てなので、面白くなければどうしようもないのだトランザム7000 2.jpgが。監督のハル・ニーダムはスタントマン出身)に出ていたころは、バート・レイノルズの愛人という印象が強かったのが(映画そのものが男性映画だが、プライベートではレイノルズとの"夫婦"喧嘩がよくゴシップになっていた)、いつの間にかこんなに上手くなったのかと...。

 彼女が演技開眼したのは、先に同じく父親のいない家庭の2児の母を演じた「ノーマ・レイ」('79年)であり、この作品でのアカデミー主演女優賞を受賞していますが、この「プレイス・イン・ザ・ハート」での2度目の受賞も順当だと思いました。

 個人的に「母子モノ」に弱かったりする面もあるのですが、あんまり暗い話は苦手です。この映画では、暗くなりがちな話を、彼女が明るく気丈に演じているのがいいです(舞台スケールの大きさもそうだが、日本の「母子モノ」と通じるところがあっても、やはりどこか違っている)。

Sally Field in FORREST GUMP(1994)/ER,Season 7(2000-2001)
Sally Field in FORREST GUMP.jpgER緊急救命室  サリー・フィールド.jpgサリー・フィールド.jpg ロバート・ゼメキス監督の「フォレスト・ガンプ/一期一会」 ('94年/米)でトム・ハンクス演じる主人公の母親ミセス・ガンプを演じていましたが、テレビシリーズ「ER緊急救命室」に医師を目指す看護師アビーの母親で躁うつ病を患っているマギー役でゲスbrothers-and-sisters.jpgブラザーズ&シスターズ   .jpgト出演していたのを久しぶりに見て、やはり上手いなあと思ったらエミー賞ゲスト出演賞受賞で、更には「ブラザーズ&シスターズ」で同賞ドラマ・シリーズ部門の主演女優賞を獲っています(この番組、完全に娘役の「アリーmyラブ」のキャリスタ・フロックハートとの演技合戦の様相を呈しており、ロブ・ロウなど他の役者の影が薄い)。

 まさに「母親役のチャンピオン」という感じで、映画からテレビに来て(映画の方も「アメイジング・スパイダーマン」('12年)、「リンカーン」('12年)、「アメイジング・スパイダーマン2」('14年)と出続けていて、「リンカーン」でアカデミー助演女優賞にノミネートされている)最も成功している女優の1人ではないかと思われますが(元々デビュー当時は「ギジェットは15才」などというTVドラマに出ていたが、この時すでに子役にして"主役"だった)、母親としての強さを持つ反面、非常に神経質そうな(神経衰弱気味な)役柄が多くなっているのは、時代を反映してのことなのでしょうか。

プレイス・イン・ザ・ハート  .jpg「プレイス・イン・ザ・ハート」●原題:PLACE IN THE HEART●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ロバート・ベントン●製作: アーレン・ドノヴァン●撮影:ネストール・アルメンドロス●音楽:ジョン・カンダー●時間:133分●出演:サリー・フィールド/リンゼイ・ クローズ/エド・ハリス/ダニー・グローヴァー/ジョン・マルコヴィッチ/エイミー・マディガン/ヤンクトン・ハットン /ジェニー・ジェームズ /テリー・オクイン/レイ・ベイカー自由が丘武蔵野推理 案内.jpg●日本公開:1985/03●配給自由が丘武蔵野推理2.jpg自由ガ丘武蔵野推理2.jpg:コロムビア映画●最初に観た場所:自由が丘武蔵野推理(85-07-14) (評価★★★★)●併映:「トッツィー」(シドニー・ポラック)
自由が丘武蔵野館6.jpg自由が丘武蔵野館.jpg自由が丘武蔵野推理 (後の自由が丘武蔵野館)1951年オープン、1985(昭和60)年11月いったん閉館し改築、「自由が丘武蔵野館」と改称して再オープン。 2004(平成16)年2月29日閉館 

トランザム7000 1.jpg「トランザム7000」●原題:SMOKEY AND THE BANDIT●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督:ハル・ニーダム●製作:モート・エンゲルバーグ●脚本:ジェームズ・リー・バレット/チャールズ・シャイア/アラン・マンデル●原案:ハル・ニーダム/ロバート・L・レヴィ●撮影:ボビー・バーン●音楽:ビル・ジャスティス/ジェリー・リード●時間:96分●出演:バート・レイノルズ/サリー・フィールド/ジェリー・リード/ジャッキー・グリーソン/マイク・ヘンリー/パット・マコーミック/ポール・ウィリアムズ●日本公開:1977/10●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-20) (評価★★★★)●併映:「ロンゲスト・ヤード」(ロバート・アルドリッチ)/「デキシー・ダンスキングス」(ジョージ・G・アビルドセン)
トランザム7000 [DVD]

ブラザーズ&シスターズ1.jpgブラザーズ&シスターズ2.jpgブラザーズ&シスターズs.jpg「ブラザーズ&シスターズ」Brothers & Sisters (ABC 2006/09~2011) ○日本での放映チャネル:AXN(2007~ )/テレビ東京

ブラザーズ&シスターズ シーズン2 COMPLETE BOX [DVD]

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男性原理、或いは"ハリウッド映画"に受け継がれるようなヒロイズム。

世界の文学 44 ヘミングウェイ.jpg老人と海/ヘミングウェイ 福田恆存・訳 新潮文庫.jpg   老人と海.jpg
世界の文学〈第44〉ヘミングウェイ (1964年)武器よさらば・老人と海・その他六編』['64年]/『老人と海 (1966年) (新潮文庫)』旧版/『老人と海 (新潮文庫)』 改版版

The Old Man And the Sea.jpg ヘミングウェイの代表作、且つ、生前に発表された最後の作品。最初に読んだのは中学生の時で、多少気負って読み始めたら、最初の老人と少年との会話の部分でいきなり野球の話などが出てきて、文学全集に収まるような作品にプロ野球(正確にはメジャーリーグだが)の話があるのがちょっと意外な印象を受け、結局今でもそのことが一番印象に残っていたりもします(川上弘美氏だったかな?小学5年生の時に読んだという作家は)。

 ヘミングウェイは1952年にこの作品を書き上げ、1954年にノーベル文学賞を受賞しており、ノーベル文学賞は個別の作品ではなく作家の功績および作品全体に与えられるものですが、一方で、この「老人と海」が受賞に寄与したとされていて、これを"受賞対象作"とすれば、書かれてから受賞まで僅か2年しかないことになります(まあ、それまでの実績が評価されたのだろうけれど)。ヘミングウェイはこの作品でピュ-リッツア-賞も受賞しています。

 新潮文庫版は、シェイクスピア作品の翻訳で知られる福田恒存の訳で(福田恒存・野崎孝以外で誰が訳している?)、作中人物の個性にも歴史が反映される(空間が時間に支配されている)ヨーロッパ文学に比べ、ただそこに空間があるだけのアメリカ文学は「食い足りない」とする福田恒存にとって、大海原での老人と魚の格闘というシチュエーションに的を絞ったこの作品は、そうしたアメリカ文学の弱点を逆手にとることで成功しているということになるようです。

アーネスト・ヘミングウェイ (Ernest Miller Hemingway).jpgGrace Hall Hemingway dressed Ernest like a girl for the first two years of his life.bmp 「ハードボイルド・リアリズム」と呼ぶに相応しい福田訳(経年疲労しない名訳)から、センチメンタリズムを排した男性原理、ギリシャ悲劇的なヒロイズム(或いはハリウッド映画に受け継がれるようなヒロイズム)が浮き彫りにされているように思えます(実際、このサンチャゴ老人のストイシズムはカッコいい)。ヘミングウェイは母グレイスに女の子のように育てられたとのこと、幼少の頃の女装させられた写真は有名で(後のハンティングなどに興じる数ある"逞しい"写真と対比すると興味深い)、彼のマッチョ願望をそうした幼児体験の反動であると見る心理学者もいます。
Grace Hemingway dressed Ernest like a girl for the first two years of his life. 女の子姿のヘミングウェイ(右上)
The Old Man and the Sea(老人と海)by Alexandre Petrov(アレクサンドル・ペトロフ) '99年/アニメーション(右下)
老人と海(99年公開).jpgアニメーション「The Old Man and the Sea(老人と海)」 by Alexandre Petrov(アレクサンドル・ペトロフ) 1999.jpg 「OK牧場の決斗」のジョン・スタージェスが監督しスペンサー・トレーシーが主演した映画('58年)もありますが、変わったところでは、ロシアのアレクサンドル・ペドロフ監督が約2万9千枚ものガラスの板に油絵具を使って指で描いて制作しアカデミー賞に輝いたアニメーション作品('99年)があります。

 日本では東京アイマックスシアターなどで上映されましたが、この手法(「手作り」で完結しているのではなく、最終的には膨大なコンピュータ制御により動画構成されている。これは最近のアニメ芸術に共通して見られる傾向)だと、海が本当に綺麗に描かれて、実際、この人の作品は水をモチーフにしたものが多いようですが、これはまさに「動く巨大絵本」だなあと感心させられました。ただ、時間が23分と短いため(この23分に4年もかけたそうだが)、アイマックスで観た時はスゴイと思ったけれど、後で振り返ると文学的なエッセンスはかなり抜け落ちた感じも拭えませんでした(星3つ半はやや辛目の評価か)。

Oceanic White‐tip Shark.jpg 余談ですが、サンチャゴ老人はまず、獲物であるカジキマグロと闘い、次にその獲物を狙う鮫たちと戦うわけで、最初に襲って来るのが「アオザメ」で、その次に、サンチャゴが「ガラノー」と呼ぶところの"シャベル鼻の鮫"が襲って来て、結局この鮫が獲物を食い尽くしてしまうのですが、この「ガラノー」というのは「シュモクザメ」(Hammerhead)のことだと思っていましたが、メジロザメ科の「ヨゴレ」(Oceanic White‐tip Shark)のことのようです(シャベルの"柄"と"先"を取り違えていたかも)。

東京アイマックスシアター2.jpgタイムズスクエア 東京アイマックスシアター.gif 「老人と海」●原題:THE OLD MAN AND THE SEA●制作年:1999年●制作国:ロシア/カナダ/日本●監督・脚本:アレクサンドル・ペドロフ/和田敏克●製作:ベルナード・ラジョア/島村達夫●撮影:セルゲイ・レシェトニコフ●音楽:ノーマンド・ロジャー●原作:アーネスト・ヘミングウェイ●時間:23分●日本公開:1999/06●配給:IMAGICA●最初に観た場所:東京アイマックス・シアター (99‐06‐16) (評価★★★☆)●併映:「ヘミングウェイ・ポートレイト」(アレクサンドル・ペトロフ)●アニメーション
東京アイマックスシアター (タカシマヤタイムズスクエア) 2002(平成14)年2月1日閉館

【1953年老人と海、チャールズ・イー・タトル商会版.jpg単行本[チャールズ・E・タトル商会(福田恒存:訳)]/1956年全集[三笠書房(福田恒存:訳)]/1964年「世界の文学44」[中央公論社(福田恒存:訳)]/1966年文庫化・1980年改版[新潮文庫(福田恒存:訳)]/1970年「新潮世界文学44」[新潮社(福田恒存:訳)]/2014年再文庫化[光文社古典新訳文庫(小川高義:訳)]】
老人と海 (1955年)』チャールズ・E・タトル商会

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敢えて曇天の下でロケをした、ポランスキーの映画化作品を思い出した。

マクベス.jpg 安西徹雄.jpg マクベス (新潮文庫).jpg    「マクベス」チラシ.jpg マクベス ポランスキー2.jpg
マクベス (光文社古典新訳文庫)』〔'08年〕安西徹雄(1933‐2008) 『マクベス (新潮文庫)』 映画「マクベス」チラシ/「マクベス[ビデオ]」 (下左)ロマン・ポランスキー監督「マクベス」ポスター
マクベス ポランスキー.jpgマクベス ポスター.jpg 1606年に成ったとされるシェイクスピア4大悲劇の1つであり、以前に、ロマン・ポランスキー監督の映画化作品('71年/米)を名画座で観ましたが、ローレンス・オリビエ監督の「ハムレット」('48年/英)とフランコ・ゼッフィレッリ監督の「ロミオとジュリエット」('68年/米)との3本立てでの上映で、この3本の中では一番時代劇風でありながらも、一番エキセントリックでした。

MACBETH 1971 3.jpg ホラー映画のような雰囲気もあり、ポランスキーだからと納得したいところですが、心理サスペンスが身上の彼にしては、マクベスの首から血がびゅうびゅう飛び出るようなシーンもあるスプラッター調。「マクベス」の映画化は、オーソン・ウェルズ他に続いて3度目でしたが、ポランスキー監督は、妻シャロン・テートを惨殺された事件の後の最初の作品で、血なまぐさいのはそのためなのか?(まさか)

リア王.jpg 安西徹雄の新訳も、『リア王』('06年/光文社古典新訳文庫)などよりはちょっと"重い"感じで、元来『マクベス』というのはそうしたトーンの作品だということでしょうか。『リア王』みたいに道化も出てこないし...。

MACBETH 1971 4.jpg ポランスキーの映画は屋内シーンがやけに暗く、セットの貧しさを隠すためにそうしたのだと言われていますが、野外シーンも同じように暗かったため、これは、敢えてどんよりとした曇天の下でロケをすることで、そうした中世スコットランドの政情不安からくる陰鬱なムードを象徴させていたということかも知れないと改めて思いました。

マクベス改版 角川文庫クラシックス.jpg マクベスが自らが殺したスコットランド王の幻影を見るシーンはちょっと滑稽さも感じるに対し、マクベス夫人が自分の手が血に塗られている幻覚を見る場面はストレートに怖いです(映画よりも原作の方が怖いかも)。
 「バーナムの森が動かない限り」はマクベスの王座は安泰で、「女から生まれた者には敗れることはない」という魔女の予言が、どういった形でそれぞれ破られるのかというのも、読者の興味を引くところです。

 因みに、訳者の安西徹雄氏は、本書翻訳後、訳稿の校正段階で病のため入院し、'08年5月に逝去しています。光文社古典新訳文庫でのこれからの新訳が楽しみだっただけに残念です。

マクベス―シェイクスピアコレクション (角川文庫クラシックス)』(カバーイラスト:金子國義)

MACBETH 1971 1.jpgMACBETH 1971 2.jpg「マクベス」●原題:MACBETH●制作年:1971年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ロマン・ポランスキー●音楽:ザ・サード・イアー・バンド●原作:ウィリアム・シェイクスピア●時間:146分●出演:ジョン・フィンチ/フランセスカ・アニス/マーティン・ショウ/ニコラス・ セルビー/ジョン・ストライド/ステファン・チェイス/ポール・シェリー/テレンス・ ベイラー/アンドリュー・ローレンス/フランク・ワイリー●日本公開:1973/07●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:三鷹オスカー(81-03-15) (評価★★★)●併映:「ハムレット」(ローレンス・オリビエ)/「ロミオとジュリエット」(フランコ・ゼッフィレッリ)

 【1958年・1997年文庫化[岩波文庫]/1968年・1996年再文庫化[角川文庫]/1969年再文庫化[新潮文庫]/1980年再文庫化[旺文社文庫]】

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名脇役たちを通して'60‐'70年代が一気に甦ってくる本。

傍役グラフィティ.jpg傍役グラフィティ2.gif  Roy Scheider.jpg Peter Boyle.jpg Marty Feldman.jpg John Cazale.jpg Ed Lauter.jpg Charles Martin Smith.jpg
傍役グラフィティ―現代アメリカ映画傍役事典 (1977年)』/Roy Scheider /Peter Boyle/Marty Feldman/John Cazale/Ed Lauter/Charles Martin Smith

 今年('08年)2月に「JAWS/ジョーズ」でお馴染みのロイ・シャイダーが亡くなりましたが、TVドラマ「サード・ウォッチ」にロシア・マフィア役で出ていて、何だか凄みが増した感じだったけれども、既にその時はガン闘病中だったのか。エルモア・レナード原作の「デス・ポイント/非情の罠」(『五万二千ドルの罠』)に主演していますが、「ジョーズ」とか「デス・ポイント」みたいに、ちょっとビクついている感じの役の方が似合っていた気もします。

 ロイ・シャイダーを思い出したついでに、「ニューシネマ以降10年のアメリカ映画に登場した愛すべきバイプレーヤー200人」をとりあげたという本書を取り出してパラパラめくっていると、旧知に再会したような感じで、結構ノスタルジックな気分になりました。 個人的に"好み"のところでは―、           

YOUNG FRANKENSTEN.jpg『ヤング・フランケンシュタイン』(1974) 2.jpg『ヤング・フランケンシュタイン』(1974).jpg ピーター・ボイルは、「タクシードライバー」('76年/米)でトラビス(デ・ニーロ)を気遣う先輩タクシー運ちゃんぶりが良かったけれど(この映画にはハーヴェイ・カイテルもポン引き役で出ていた)、その前のメル・ブルックジーン・ワイルダー1.jpgス監督、ジーン・ワイルダー主演(脚本も務めた)の「ヤング・フランケンシュタイン」でボイルが演じたのは、何とボリス・カーロフ顔負けのフランケンシュタイン(この映画の奇妙な執事、ギョロ目のマーティ・フェルドマンの怪演も印象的)。ボイルは、「X‐ファイル」にもゲスト出演していましたが、この人も最近亡くなった...。

「ヤング・フランケンシュタイン」2.jpg この映画はシェリイ夫人の原作及び古典的ホラー映画のパロディですが、アインシュタインに似た博士(ジーン・ワイルダー)やその助手(テリー・ガー)も快演(怪演)しているほか、オリジナルの「フランケンシュタイン」にも出てくる小屋に住む盲ヤング・フランケンシュタイン ジーン・ハックマン.jpg目の老人役は、ラストに小さくクレジットされているだけで大概の人は気づかないのですがジーン・ハックマンであるという遊びもありました。
ジーン・ハックマン(右)

ヤング・フランケンシュタイン.gif「ヤング・フランケンシュタイン」●原題:YOUNG FRANKENSTEN●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:メル・ブルックス●製作:マイケル・グラスコフ●脚本:ジーン・ワイルダー/メル・ブルックス●撮影:ジェラルド・ハーシュフェルド●音楽:ジョン・モリス●原作:メアリー・シェリイ●時間:108分●出演:ジーン・ワイルダー/ピーター・ボイル/マーティ・フェルドマン/テリー・ガー/マデリーン・カーン/クロリス・リーチマン/リチャード・ヘイドン/ジーン・ハックマン●日本公開:1975/10●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:飯田橋ギンレイホール (78-12-14) (評価:★★★★)●併映:「サイレントムービー」(メル・ブルックス)

狼たちの午後7.bmp狼たちの午後8.bmp狼たちの午後 ポスター.gifDog Day Afternoon.jpg狼たちの午後2.jpg "おでこのジョン"ことジョン・カザールは「狼たちの午後」での鬱々とした演技が良く(この映画でのチャールズ・ダーニングもいい)、「ディア・ハンター」に起用された際に、彼がガン宣告を受けたため出演させることを渋った製作側に対し、降板に反対するロバート・デ・ニーロらに口説かれ、治療を受けながら演じたという、その「ディア・ハンター」が彼の遺作となりました。

 この「狼たちの午後」は、実際にあった銀行強盗をモチーフに作られた作品ですが、撮影のかなりの部分はアドリブで撮られていて、アル・パチーノの演技の旨さもさることながら、その"妻"を演じたクリス・サランドンは、冒頭の僅か10分そこそこの登場で(銀行に押し入ったとたんに怖くなって逃げ出してしまう)アカデミー助演男優賞候補になったというオマケも付きました。

「狼たちの午後」.jpg狼たちの午後.jpg「狼たちの午後」●原題:DOG DAY AFTERNOON●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:マーティン・ブレグマンほか●脚本:フランク・ピアソン●撮影:ジヴィクター・J・ケンパー●時間:125分●出演:アル・パチーノ/ジョン・カザール/チャールズ・ダーニング/クリス・サランドン/キャロル・ケイン/ランス・ヘンリクセン/ジェームズ・ブロデリック●日本公開:1976/03●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:池袋文芸坐 (77-12-14) (評価:★★★★)●併映:「セルピコ」(シドニー・ルメット)

『ロンゲスト・ヤード』(1974).jpg『ロンゲスト・ヤード』(1974)2.jpgEd Lauter.jpg エド・ローターは「ロンゲスト・ヤード」の鬼看守役で、バート・レイノルズと拮抗した演技を見せていましたが(「X‐ファイル」にも出ていた)、この人や「十二人の怒れる男」のリー・J・コップなどは、"脇役"の域を超えているかも。ジャック・ウォーデンも、「十二人」の1人でしたが、「ジャスティス」で判事役をやったほか、「評決」でポール・ニューマンと組む弁護士役をやるなど、裁判絡みの役が結構あったなあと。

Burt Reynolds THE LONGEST YARD.jpgロンゲスト・ヤード.jpg 「ロンゲスト・ヤード」は看守対囚人のフットボールの試合を描いた男臭い映画でしたが(主演のバート・レイノルズはフットボール選手出身。三鷹オスカーで観たレイノルズ主演の3本立てでは、この作品の役が一番ハマっていた)、007の敵役ジョーズ役のリチャード・キールなんていうのも出ていました(この作品は'05年にリメイクされた)。

「ロンゲスト・ヤード」●原題:THE MEAN MACHINE (THE LONGEST YARD)●制作年:1974年●制作国:アメリカ●監督:ロバート・アルドリッチ●製作:ロバートエヴァンスほか●撮影:ジョセフ・F・バイロック●音楽:フランク・デ・ヴォル●原案:アルバート・S・ラディ ●時間:121分●出演:バート・レイノルズ/エディ・アルバート/マイケル・コンラッド/リチャード・キール/エド・ローター/ジム・ハンプトン/ハリー・シーザー/ジョン・スティードマン/アルバート・S・ラディ/トレイシー・キーナン・ウィン/バーナデット・ピーターズ●日本公開:1975/05●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:三鷹オスカー (78-07-20) (評価:★★★★)●併映:「トランザム7000」(ハル・ニーダム)/「デキシー・ダンスキングス」(ジョージ・G・アビルドセン)

アメリカン・グラフィティ.jpg  ボー・ホプキンスなどは、ジョージ・ルーカス監督の「アメリカン・グラフィティ」のファラオ団のリーダーでしたが、すでに「ワイルドバンチ」で、ペキンパー一家の1人だったわけか。

アメリカン・グラフィティ [DVD]

 「アメリカン・グラフィティ」では、少しひ弱な感じのチャールズ・マーティン・スミスも印象に残りました。
アメリカン・グラフィティAmerican Graffiti.jpgアメリカン・グラフィティ チラシ.jpgCharles Martin Smith.jpgCharles Martin Smith

 彼はラストで、ベトナムで戦死したことになっていたなあ。リチャード・ドレイファスら演じた4人組の内の1人、ロン・ハワードが演じたスティーヴは"事故死"になっていましたが、ロン・ハワード自身は後に監督となり「アポロ13」「ダビンチ・コード」を撮ります。この映画撮影当時、プロの役者として活動しいたのは実はロン・ハワードのみで、但し、当時は無名。リチャード・ドレイファス、ハリソン・フォード、チャールズ・マーティン・スミスらは、役者としての実績すら殆どありませんでした。チャールズ・マーティン・スミスは、「アンタッチャブル」でも死んでいく役で、どこまでも"脇"でした。

『ワイルドバンチ』(1969).jpgワイルドバンチ.jpg 因みに「ワイルドバンチ」は、本書が最も注目する脇役"宝庫"の映画であり、主役級のウィリアム・ホールデンのほかに、アーネスト・ボーグナイン、ローバート・ライアン、ウォーレン・オーツ、エドモンド・オブライエン、ベン・ジョンソン、ジェイミー・サンチェス、エミリオ・フェルナンデスらが、プロデューサーとの衝突でハリウッドを干されていたサム・ペキンパーのもとに集結して作った西部劇作品(これだけ出ていれば、ボー・ホプキンスが出ていたことをすぐに思い出せないのも無理ない)。無法者たちの織り成す殺戮劇はヤクザ映画に通じるところがありますが、ペキンパーは本来は「滅びの美学」というより「暴力の虚しさ」を説きたかったのではないかと思います(深作欣二の「仁義なき戦い」も一応はそういうことになっているのだが)。

アメリカン・グラフィティ図1.jpgチャーリー・マーチン・スミス2.jpg「アメリカン・グラフィティ」●原題:AMERICAN GRAFFITI●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・ルーカス●製作:フランシス・フォード・コッポラ/ゲイリー・カーツ●脚本:ジョージ・ルーカス/グロリア・カッツ/ウィラード・ハイク●撮影:ロン・イヴスレイジ/ジョン・ダルクイン ●時間:110分●出演:ハリソン・フォード アメリカン・グラフィティ.jpgリチャード・ドレイファス/ロン・ハワード/チャーリー・マーチン・スミス/キャンディ・クラーク/ポール・ル・マット/シンディ・ウィリアムズ/ ウルフマン・ジャック/ボー・ホプキンス/ハリソン・フォード/ケイ・レンツ/マッケンジー・フィリップス/キャスリーン・クインラン●日本公開:1974/12●配給:ユニバーサル●最初に観た場所:早稲田松竹 (77-11-05) (評価:★★★★)●併映:「タクシードライバー」(マーチン・スコセッシ)
Shop Around-The Miracles-original song 1960(American Graffiti 使用曲46曲メドレー)

THE WILD BUNCH_02.jpgTHE WILD BUNCH.jpg「ワイルドバンチ」●原題:THE WILD BUNCH●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:サム・ペキンパー●製作:フィル・フェルドマン●脚本:ウォロン・グリーン/サム・ペキンパー/ロイ・N・シックナー●撮影:ルシアン・バラード●音楽:ジェリー・フィールディング●時間:110分●出演:アーネスト・ボーグナイン/ローバート・ライアン/ウォーレン・オーツ/エドモンド・オブライエン/ベン・ジョンソン/ジェイミー・サンチェス/エミリオ・フェルナンデス/ストローザー・マーティン/L・Q・ジョーンズ/アルバート・デッカー/ボー・ホプキンス●日本公開:1969/08●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:池袋文芸坐 (88-03-13) (評価:★★★★)●併映:「リオ・ブラボー」(ハワード・ホークス)

William Shatner&Candice Bergen in Boston Legal.jpgボストン・リーガル1.jpgウィリアム・シャトナー.jpg 挙げていくとキリがありませんが、脇役から主役級になった人、TVドラマで活躍している人もいるし、映画からテレビに移って役柄のイメージが変わった人もいます。

ウィリアム・シャトナー2.jpgWilliam Shatner&Candice Bergen in Boston Legal

 何せ、「スター・トレック」(元々はテレビシリーズだったわけだが)のカーク船長、ウィリアム・シャトナーが「ボストン・リーガル」で法律事務所長をコメディタッチで演じているぐらいだから...(共演は、キャンディス・バーゲン!それと、ジェームズ・スペイダー演じるアラン・ショアが役どころとしてはいい。彼はこのシリーズで、プライムタイム・エミー賞の最優秀主演男優賞を2度獲っている)。

「ボストン・リーガル」 Boston Legal (ABC 2004~2008) ○日本での放映チャネル:FOX CRIME(2007~2011)

 亡くなった人もいれば、まだまだ頑張っている人もいるし、ロン・ハワードのように監督になった人も...。'60年-'70年代が一気に甦ってくる本です。

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27歳まで「言葉」というものの存在を知らなかった聾者に手話で言葉を教えた記録。

言葉のない世界に生きた男 シャラー.jpg 『言葉のない世界に生きた男』 (1993/07 晶文社)  A MAN WITHOUT WORDS〈Schaller, Susan〉.jpg "A MAN WITHOUT WORDS" 〈Schaller, Susan〉

 聾者のため手話通訳者だった本書の著者スーザン・シャラーが、27歳になるまで言葉を喋れないどころか「言葉」というものの存在を知らなかった聾者のメキシコ青年イルデフォンソと出会い、彼に手話で言葉を教えていった記録。

 イルデフォンソは、ものに名前があるということを知らず、のっけから彼女は大苦闘しますが、彼が最初の1語(それは「ネコ」という名詞だった)を理解する場面は、ヘレン・ケラーがサリバンの導きで「水」という言葉を獲得した場面のように感動的、但し、ヘレンが歓びにうち震えたのに対し、イルデフォンソは、今までの自らの無知を想ってさめざめと泣く―。

 同じ名詞でも抽象名詞を教えるのは難しく、名詞や形容詞は何とか理解できても、動詞、前置詞、構文、時制と学習が進むにつれ、大きな壁が立ちはだかり、彼女は、知恵遅れの男性を薬で天才にしたが最終的にまた元に戻ってしまうというダニエル・キースの『アルジャーノンに花束を』の話に、自らの行為を重ねてしまう―。

カスパー・ハウザーの謎.jpg野性の少年.jpg でも、努力家で且つ研究熱心な彼女は、「アヴェロンの野生児」や「カスパー・ハウザー」といった先駆的研究資料を調べ、状況打開の糸口を見出そうとしますが、これらは、フランソワ・トリュフォー監督の「野生の少年」('69年/仏)や、「小人の饗宴」('70年/西独)のヴェルナー・ヘルツォーク監督の「カスパー・ハウザーの謎」('77年/西独)でもよく知られているケースで、18・19世紀には"野生児"の発見が話題になり大いに研究されたものの、その後、こうした事例が少ないこともあって、米国などでも、こうした特殊環境で成人した聾者への対処方法を記したものが殆ど無かったことが窺えます。

カスパー・ハウザーの謎」.jpg 因みに「カスパー・ハウザーの謎」は、19世紀初頭のドイツで、親に捨てられ地下室に閉じ込められ、外界との接触を断たれていた若者が、十数年を経て発見され、周囲の努力で知性を回復していく様を、事実に基づき記録映画風に描いた作品ですが(知性を獲得することで世間の人々の自分に対する偏見を肌身に感じるようになる点が悲劇的)、但し、彼が本当に野生児であったのかどうかはこの映画でははっきりしないように思えました(実際には現代においても、親に虐待され、結果として言語教育を全く受ける機会が無かったというケースは、米国などでは珍しいことではないらしいが、そうした状態イコール"野生児"と言えるかどうか)。

カスパー・ハウザーの謎     .jpgカスパー・ハウザーの謎 poster.jpg 映画でカスパー・ハウザーを演じたブルーノ・S は、幼い頃から精神病院に入れられ、何度も脱走を繰り返し、26歳で退院して世間に出たという特異な人物で、実人生が若干カスパー・ハウザーの人生に被るところもあって、演技していうというより素のままぽくって、それでいてリアリティがありました。

「カスパー・ハウザーの謎」輸入版ポスター

lカスパー・ハウザーの謎b85bk3.jpg「カスパー・ハウザーの謎」●原題:JEDER FUR SICH UND COTT GEGEN ALLE●制作年:1974年●制作国:西ドイツ●監督・製作・脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク●撮影:: ヨルグ・シュミット・ライトワイン/クラウス・ウィボニー●音楽:パッヘベル/オルランド・ディ・ラッソ/アルビノーニ/ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト●時間:110分●出演:ブルーノ・S/ワルター・ラーデンガスト/ブリジット・ミラ/ハンス・ムゼウス●日本公開:1977/01●配給:欧日協会●最初に観た場所:青山・ドイツ文化センター (84-10-07)(評価:★★★☆)●併映:「ノスフェラトゥ」「ヴォイツェック」(ヴェルナー・ヘルツォーク)

 本書の後半において、スーザンの超人的な努力により手話をマスターしたイルデフォンソでしたが、彼女によるカリキュラムを終えた後、一旦は音信が絶えてしまいます。
 しかし、その後も研究を続ける彼女が、暫くしてイルデフォンソを探し出し、聾者のコミュニティにいる彼を訪ねてみると、そこには聾者同士マイム(身振り)でコミュニケーションをとり合う彼の姿があった―。

 その姿に、言葉を獲得する以前の人類社会のコミュニティをスーザンは重ね合わせてみるのですが、言語学研究という観点から見ると道半ばという印象もやや受けました。
 しかし、もともと学者では無くパートの手話通訳者であった彼女がイルデフォンソをここまで導いたということだけで既に感動的なヒューマン・ドキュメントであることは確かで、『レナードの朝』で知られるオリバー・サックス博士が、彼女の努力と成果に多大の関心を寄せ、本書に序文を寄せています。

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家族問題や醜聞に揺れる上流階級とモラルや薬物の問題を抱える社会の影を浮き彫りに。

大いなる眠り レイモンド・チャンドラー.jpg大いなる眠り.jpg 大いなる眠り レイモンド・チャンドラー.jpg  『三つ数えろ』(1946) .jpg
大いなる眠り』創元推理文庫/〔'56年・東京創元社(世界推理小説全集)〕/「三つ数えろ 特別版 [DVD]」(1946)

大いなる眠り(創元推理文庫).jpg 1939年発表の『大いなる眠り』(The Big Sleep/'56年・東京創元社)は、レイモンド・チャンドラー(1888‐1959)のハードボイルド小説の中では『さらば愛しき女よ』(Farewell, My Lovely '40年発表/56年・早川書房)、『長いお別れ』(The Long Goodbye '54年発表/'58年・早川書房)と並んで最も人気が高いのではないでしょうか。

 私立探偵フィリップ・マーロウは、石油財閥のスターンウッド将軍から、その年頃の2人の娘のうち末娘のカーメンが賭博ネタで強請られている件で、内密に脅迫者の正体を探るよう依頼を受け、脅迫者ガイガーの家に赴くが、銃声を聞いてマーロウが部屋に飛び込むと、そこは秘密写真の撮影現場であり、ガイガーの死体と、何も身に着けてずドラッグで虚ろな状態のカーメンを目にする―。

『大いなる眠り』(創元推理文庫・旧版)〔'59年〕

 この作品は作者の"フィリップ・マーロウもの"長編の第1作になりますが、会話の洗練され具合とかだと後の2作の方が上かもしれません。ただし、このシリーズを読み進むと、フィリップ・マーロウというのはカッコいい反面、結構"自己愛"型人間ではないかという気も少ししてきて...。

 事件のバックグランドにある、物質的に恵まれながらも精神的に満ちたりず、家族問題や醜聞に揺れる上流階級と、モラルの紊乱や薬物の問題などを抱えるアメリカ社会の、それぞれの影の部分が、ストーリーの展開に合わせてあぶり出しのように見えてくる、その分、ミステリとしての構築度は後退しているように思え、結末は衝撃的でかなり重いものですが、謎解きとしては漠たる部分も残ります。

『三つ数えろ』(1946) 2.jpg三つ数えろ2.jpgThe Big Sleep.jpg 『大いなる眠り』(The Big Sleep)は「三つ数えろ」のタイトル(邦題)で、ハンフリー・ボガート主演で映画化('46年/米)されていますが、これも短いセリフがボギーにマッチしていてなかなか良かったです。ノーベル文学賞作家のウィリアム・フォークナーが脚本に参加しているというし、大富豪の娘役のローレン・バコールもいい(この映画の公開の前年に2人は結婚していて、結婚後初の"夫婦共演"作だが、むしろ"夫婦競演"と言った感じ)。
 "The Big Sleep" ('46年/米)
The Big Sleep3.bmpThe Big Sleep1.bmp 原作『大いなる眠り』の中で、大富豪の娘がフィリップ・マーロウに言う「貴方って随分背が高いのね」が、映画のローレン・バコールのセリフでは「貴方って随分背が低いのね」にアレンジされていて、ハンフリー・ボガートの答えは原作のフィリップ・マーロウと同じく「それがどうした」となっています。

 「三つ数えろ」は好きな映画の1つですが、原作のほうがドロドロしている感じで、映画は原作よりかなり"マイルド"になっているような気がします。

 他にロバート・ミッチャム主演の「大いなる眠り」('78年/英、劇場未公開)もありますが、33歳のフィリップ・マーロウを当時60代のロバート・ミッチャムが演じるのは、ハンフリー・ボガートが演じた以上に年齢ギャップがありました。
 
三つ数えろ パンフ.jpg三つ数えろ.jpgシアターアプル・コマ東宝.jpg「三つ数えろ」●原題:THE BIG SLEEP●制作年:1946年●制作国:アメリカ●監督:ハワード・ホークス●脚本:ウィリアム・フォークナー他●音楽:マックス・スタイナー●原作:レイモンド・チャンドラー「大いなる眠り」●時間:114分●出演:ハンフリー・ボガート/ローレン・バコール/マーサ・ヴィッカーズ/ドロシー・マローン/ジョン・リッジリー/レジス・トゥーミイ/ペギー・クヌードセン●日本公開:1955/04●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:新宿シアターアプル(85-11-17) (評価★★★★)
歌舞伎町・新宿シアターアプル・コマ東宝  2008(平成20)年12月31日閉館
  
 【1956年単行本[東京創元社(『世界推理小説全集』第1回配本)〕/1959年文庫化[創元推理文庫〕】

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ラストは、トム・クルーズの映画より原作の方がスカッとした。

法律事務所 - THE FIRM.jpg    法律事務所 上下.jpg  法律事務所2.jpg  ザ・ファーム / 法律事務所 1993.jpg
法律事務所』 単行本〔'92年〕/『法律事務所〈上〉〈下〉』 新潮文庫〔'94年〕/『法律事務所 (小学館文庫)』全1冊〔'03年〕/「ザ・ファーム 法律事務所 [DVD]」ジーン・ハックマン/トム・クルーズ
"The Firm"ペーパーバック(1992)
the firm john grisham.jpg 1991年発表のジョン・グリシャム(John Grisham)『法律事務所』(The Firm)は、アメリカの法律事務所を舞台にしたリーガル・サスペンスですが、ロー・ファームについてあまり知らなかったこともあり、興味深く読めました。
 アソシエイトとパートナーの違いとか付与される非金銭的報酬の種類、弁護士費用の計算方法と多分にリアリティのある水増し請求の方法、タックス・ヘイブンに持株会社を作る節税方法(主人公は言わば節税部門に配属されている)まで、具体的に書かれています。そして事件の核心となる事務所の裏稼業の実態が―。

 名門大学を優等で卒業した野心家が、そんな無名の事務所に招かれて、報酬だけに釣られて行くかなという気もしましたが、主人公は充分に裕福であると言えるような家庭の出身ではなく、しかも結婚して扶養家族がいるという設定なので、そうした条件下での"イソ弁"暮らしはどこの国も同じように結構キツイものなのかなと思いました。
 
 小説の前半の、ファーム内の"なんだか不自然な"人や出来事、雰囲気というのに引き込まれますし、パートナーになって金銭的報酬、非金銭的報酬の両面で充足し生活を拡げてしまったら、もう悪事から身を引けないというのは、人間心理としてはリアリティがありました。後半の、不正を暴こうとする主人公と追っ手たちとの知恵比べでもいいです。

「ザ・ファーム/法律事務所」.jpg この作品は「ザ・ファーム/法律事務所」('93年/米)としてシドニー・ポラック監督、トム・クルーズ主演で映画化され、グリシャム作品は『ペリカン文書』(The Pelican Brief '92年発表)、『依頼人』(The Client '93年発表)、そして処女作の『評決のとき』(A Time to Kill '89年発表)も映画になりました。

 シドニー・ポラック監督の「ザ・ファーム/法律事務所」('93年/米)について言えば、"知恵比べ"の妙味が薄まりアクション映画みたいになってしまったのもさることながら、原作では主人公が法を犯してでも組織への〈リベンジ〉と〈実利獲得〉の両方を果たすのに、映画では法を守る兄思いのいい子になってしまっています(映画の方がより大衆向けなので、違法行為を肯定するような表現はマズイのか?)。原作の方がスカッとする結末でした。
      
ペリカン文書1.jpg アラン・J・パクラ監督の「ペリカン文書」('93年/米)は、のジュリア・ロバーツ演じる法学部の学生とデンゼル・ワシントン演じるワシントン・ヘラルド紙の敏腕記者という取り合わせでありながら、今一つ、印象が弱かったような感じもしました(この作品はデンゼル・ワシントンの出世作の1つとなるが、以来、デンゼル・ワシントンが出てくると、もう予定調和が見えてしまうような...)。

 複雑な原作の中核の部分だけ取り出して、テンポ良く描こうとするやり方は、「大統領の陰謀」('76年/米)からのアラン・J・パクラ監督のスタイルで、スコット・トゥロー原作の「推定無罪」('90年/米)でも同じことをやり、この作品でもそうなのですが、そのことによって、リーガル・サスペンスの「サスペンス」の部分は生きるけれども「リーガル」の部分が弱くなってしまっているような気がし、そのことが、印象の弱さに繋がっているのかも(原作をしっかり読んだ人にはかなり不満足な映画では?)。

「依頼人」'94年1.jpg ジョエル・シュマッカー監督の「依頼人」('94年/米)の方は、スーザン・サランドンが夫の裏切りにより家族を失うという傷を抱えた中年女性弁護士役で、自分が1ドルで依頼人を引き受けた子供を守るため、トミー・リー・ジョーンズ演じる野心家の検事ロイ・フォルトリッグと対決するもので、女性弁護士のアルコール中毒からの再起という点では、バリー・リード原作でポール・ニューマンが同じくアル中からの復活を遂げる弁護士を演じた「評決」('92年/米)とダブりました(アル中弁護士が男性から女性になっているところが時代の変化か)。

 これも、2時間に収めるために原作を相当改変していますが、芸達者スーザン・サランドンの演技が効いていて、ジョン・グリシャムもこの映画の出来に大いに満足したらしく、「評決のとき」('96年/米)もジョエル・シュマッカーに撮らせています。

 スーザン・サランドンはこの作品で、アカデミー主演女優賞にノミネートされ、但し、受賞は翌年の「デッドマン・ウォーキング」まで持ち越し。この作品でアカデミー賞を獲っていたら、「評決」のポール・ニューマンがなぜ獲れなかったのかという話になってしまうからではないかと思うのは穿ち過ぎた見方かなあ。


The Firm.jpgザ・ファーム/法律事務所.jpg「ザ・ファーム/法律事務所」4.jpg「ザ・ファーム/法律事務所」●原題:THE FIRM●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●製作:シドニー・ポラック/ジョン・デイヴィス/スコット・ルーディン●脚本:デヴィッド・レイフィール/ロバート・タウン●撮影:ジョン・シール●音楽:デーブ・グルーシン●原作: ジョン・グリシャム 「法律事務所」●時間:155分●出演:トム・クルーズ/ジーン・ハックマン/エド・ハリス/ジーン・トリプルホーン/ジョン・ビール/ウィルフォード・ブリム丸の内ピカデリー1・2.jpg丸の内ピカデリー     .jpgリー/ゲイリー・ビジー/ジェリー・ハーディン/エド・ハリス/ホル・ブルック/ホリー・ハンター/テリー・キニー/デイヴィッド・ストラザーン●日本公開:1993/07●配給:UIP(ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ)●最初に観た場所:丸の内ピカデリー1(93-09-12) (評価★★★)
丸の内ピカデリー1・2 1984年10月6日「有楽町マリオン」西武側9階にオープン(1957年オープン、1984年閉館の「丸の内ピカデリー」の後継館) 

ペリカン文書 dvd.jpg「ペリカン文書」●原題:THE PELICAN BRIEF●制作年:1993年●制作国:アメリカ●監督・脚本:アラン・J・パクラ●製作:ピーター・ヤン・ブルッジ/アラン・J・パクラ●撮影:スティーヴン・ゴールドブラット●音楽:ジェームズ・ホーナー●原作: ジョン・グリシャム●時間:141分●出演:ジュリア・ロバーツ,/デンゼル・ワシントン/サム・シェパード/ジョン・ハード/トニー・ゴールドウィン●日本公開:1994/04●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価★★☆)
ペリカン文書 [DVD]


「依頼人」'94年 dvd.jpg「依頼人」●原題:THE CLIENT●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:ジョエル・シュマッカー●製作:アーノン・ミルチャン/スティーヴン・ルーサー●脚本:アキヴァ・ゴールズマン/ロバート・ゲッチェル●撮影:トニー・ピアース・ロバーツ●音楽:ハワード・ショア●原作: ジョン・グリシャム●時間:119分●出演:スーザン・サランドン/トミー・リー・ジョーンズ/ブラッド・レンフロ/メアリー・ルイーズ・パーカー●日本公開:1994/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価★★★)
ザ・クライアント 依頼人 [DVD]

 【1994年文庫化[新潮文庫(上・下)]/2003年再文庫化[小学館文庫(全1巻)]】

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映画公開の5年後に出た翻訳。思弁的・実験的だが読みやすく、醸す雰囲気は好み。

存在の耐えられない軽さ(ポスター).jpg存在の耐えられない軽さ.jpg 存在の耐えられない軽さ2.jpg 存在の耐えられない軽さv.jpg Milan Kundera.jpg Milan Kundera
存在の耐えられない軽さ』/『存在の耐えられない軽さ (集英社文庫)』/「存在の耐えられない軽さ [DVD]
映画 「存在の耐えられない軽さ」 ポスター(渋谷パンテオン)

 1984年にフランスで出版された、まだノーベル文学賞を貰っていない最後の大物作家と言われているチェコ出身のミラン ・クンデラ(Milan Kundera)の作品で、発表時の政治的事情(フランスへの亡命状態だった)で、自身の母国語であるチェコ語ではなくフランス語で書かれました。

The Unbearable Lightness of Being1.jpg 冷戦下のチェコスロバキア、1968年のソ連軍侵攻・「プラハの春」前後の話で、運命に弄ばれ苦悩する男女を描いた小説ですが、政治的な問題(チェコスロバキアという国名が使われていないことからみてもその複雑さが窺える)のほかに哲学的問題(ニーチェの永劫回帰論を引いてのタイトルの「存在の耐えられない軽さ」ということの解題からこの小説は始まる)、母と娘の関係といった精神分析的問題、言葉とコミュニケーションの問題、心と身体(性)の疎外問題などの様々なテーマを作中で扱っています。
The Unbearable Lightness of Being (1988)
The Unbearable Lightness of Being (1988).jpgThe Unbearable Lightness of Being2.jpg 先にフィリップ・カウフマン監督の映画('87年/米)の方を観てそれほど悪くないと思ったのですが(原作の翻訳が出たのは映画公開より5年後)、映画ではダニエル・デイ=ルイスが、天才脳外科医でありながらプラハ抵抗運動のシンパでもあり、女たらしのプレイボーイだけれども妻をもきっちり愛しているという、なかなか魅力的な主人公トマーシュをうまく演じていてました。ダニエル・デイ=ルイスは翌年、「マイ・レフトフット」('89年/アイルランド・英)、でアカデミー賞主演男優賞を「存在の耐えられない軽さ」.jpg受賞します(その後、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」('07年/米)、「リンカーン」('07年/米)でもアカデミー賞主演男優賞を受賞し、アカデミー主演男優賞を3回受賞している唯一の俳優となった)。やりたいことはすべてやりながら、最後にあっさり事故死してしまった男トマーシュ―人間に備わった人格の複雑さと多面性、運命の前での人間の生の脆さなどを感じさせる佳作でした。
   
わが青春のフロレンス チラシ.jpg122_metelloわが青春のフロレン.jpg この映画を観たときにマウロ・ボロニーニ監督の「わが青春のフロレンス」('70年/伊)という古い映画を思い出しました。

METELLO 1970 2.jpgMETELLO 1970 1.jpg 無政府主義者の父親に育てられた主人公メテッロ(マッシモ・ラニエリ)は、水難事故で父を失ってから孤児として苦労する。ベルギーへの移住を拒否し、両親の故郷フィレンツェでレンガ職人として働き始めるが、次第に労働者の権利に目覚め、ストライキの中心人物となっていく。その間、メテッロとMetello 1970.jpg 未亡人ヴィオラ(ルチア・ボゼー)との恋、事故死した仲間の娘エルシリア(オッタヴィア・ピッコロ)との恋と結婚、隣家の婦人イディーナ(ティナ・オーモン)との浮気なども―。

マッシモ・ラニエリ/オッタビア・ピッコロ

わが青春のフロレンス 01.jpg 原作はヴァスコ・プラトリーニ。ルキノ・ヴァレリオ・ズルリーニ監督の「家族日誌」の脚本家、ヴィスコンティ監督の「若者のすべての」の共同原案者でもあり、20世紀初めのフィレンツェを舞台に、階級意識に目覚め労働運動のリーダーとなっていく男を描いたものですが、この主人公は、闘争のかたわら人妻と過ちを犯してしまうというもので、同じように人間の多面性をよく描いている映画でした。この作品でエルシリアを演じたオッタヴィア・ピッコロが、1970年のカンヌ国際映画祭女優賞を受賞しています。
  
 ミラン・クンデラの原作『存在の耐えられない軽さ』の方は、当時の政治状況やプラハ抵抗運動で起きた出来事が色濃く影を落とす一方で、トマーシュと彼のドン・ファンぶりに悩みながらも愛を貫こうとするテレザの複雑な愛の物語になっていて、トマーシュは画家のサビナを愛人とするなど一夫多妻生活を送っていて、サビナも大学教授フランツとも付き合い、さらにテレザも他の男と交わったり、サビナとも女同士の妖しい関係になるなど、登場人物は少ないが(みな知識人)、彼らはそれぞれに、心と身体の疎外やある種のコミュニケーション不全に悩んでいます(サビナとフランツの言葉の行き違いなどはディスコミュニケーションの問題を、テレザが男と寝る場面では身体の心に対する裏切りを、それぞれ深く抉っている)。
 
旅芸人の記録パンフ.gif そうした登場人物の会話や思惟が、時に作者の哲学的考察も交えて思弁的に展開されていて、更にそれを作者はカットバックを用いた実験的な方法で描いており、例えば、映画のラストで主人公が見舞われるアクシデントも、原作では中ほどで、しかも伝聞スタイルで出てきます(ミラン・クンデラに原作の感想を聞かれたダニエル・デイ=ルイスが「映画化は無理だと思った」と答えたところ、映画学校で教えたこともあるクンデラは「私もだよ」と笑いながら言ったという)。
 
 人物の置かれた状況や意識をコラージュのように貼り合わせ、歴史とそれに巻き込まれる男女の関係を描くという意味で、平面的なカウフマン監督の映画よりも、むしろ構成的にはテオ・アンゲロプロス監督の旅芸人の記録」('75年)を連想しました(クンデラの映画学校講師時代の生徒にはミロシュ・フォルマン(「カッコーの巣の上で」('75年)の監督)がいる)。 

 何れにせよかなりの力量が感じられ、部分的には修辞的に凝った記述もあり、またチェコの歴史についてもある程度の知識が求められるのかも。但し、全体的には決して読むこと自体に難儀する小説ではなく、むしろスラスラ読めてしまい、しかもこの小説が醸す雰囲気は何となく自分の好みなのですが、どこまで作者の意図を理解できたかは心もとないといったところです。
 
 政治的理由で人々が職場や祖国を追われるといったことが身近な体験としてないと、なかなかわからない面もあるのかも知れませんが、人生の偶然の出来事も個人の意思による選択も、すべて大きな歴史の流れの中でのそれに重なる個人史として位置づけてみるところに(この物語が作者の述懐の如く書かれているのが1つのミソではないか)、日本人の人生と歴史の関わりについての考え方との大きな違いを感じました。

「存在の耐えられない軽さ」渋谷パンテオン.jpg原題:THE UNBEARABLE LIGHTNESS OF BEING●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:フィリップ・カウフマン●音楽:アラン・スプレット●原作:渋谷パンテオン 2.jpgミラン ・クンデラ●時間:171分●出演:ダニエル・デイ・ルイスジュリエット・ビノシュ/レナ・オリン/ダニエル・オルブリフスキー/デレク・デ・リント/エルランド・ヨゼフソン●日本公開:1988/10●配給:松竹富士●最初に観た場所:渋谷パンテオン (88-11-13) (評価★★★★)
渋谷パンテオン 東急文化会館1F、1956年オープン。2003(平成15)年6月30日閉館。

「わが青春のフロレンス」●原題:METELLO●制作年:1970年●制作国:イタリア●監督:マウロ・ポロニーニ●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:ヴァスコ・プラトリーニ 「メテッロ」●時間:111分●出演:マッシモ・ラニエリ/オッタビア・ピッコロ/ティナ・オーモン/ルチア・ボゼー/フランク・ウォルフ/アドルフォ・チェリ●日本公開:1971年●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所:高田馬場パール座 (77-12-16) (評価★★★☆)●併映「リップスティック」(ラモンド・ジョンソン)

              未亡人ヴィオラ(ルチア・ボゼー)/妻エルシリア(オッタビア・ピッコロ)
              隣家の婦人イディーナ(ティナ・オーモン) 
Tina Aumont.jpgわが青春のフロレンス6.jpg わが青春のフロレンス7.jpg わが青春のフロレンス8.png

ティナ・オーモン(Tina Aumont) in「青い体験」('73年/伊)

【1998年文庫化[集英社文庫]】

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「家族」の持つ宗教性? と言うより、ただタチが悪いだけの宗教団体ではないか、これでは。

暗鬼.jpg       暗鬼 角川文庫.jpg           ローズマリーの赤ちゃん』(1968).jpg
暗鬼 (文春文庫)』〔'01年〕 『暗鬼 (角川文庫)』〔'93年〕  「ローズマリーの赤ちゃん [DVD]

 主人公の法子が結婚し、新たに住まうことになった夫の実家は、夫の両親、弟妹、祖父母、曾祖母の住む大家族だったが、皆いい人ばかりのように思えた。しかし法子はある日、近所で起きた心中事件に、夫の家族たちが関与しているらしいという疑いを抱かざるを得なくなる―。

 著者の得意分野であるサイコ・ミステリーで、「家族」というものがかつて持っていた宗教性のようなものがテーマになっているらしいと。...でも、読んでみてかなりガックリ。これでは、かなり低レベルでタチの悪い宗教団体ではないか。折伏といい、何といい...。主人公がなんでこんな家族を捨てて、さっさと逃げ出さないのか不思議。ミステリーで主人公が鈍いというのは脱力します。それでも、結末はどうなるのかという残された唯一の関心だけで最後まで読みましたが、いきなり漫画チックで俗っぽい展開になったりして。

ローズマリーの赤ちゃん』(1968)2.jpgRosemary's Baby.jpg 主人公が夫の家族から薬草を飲ませられるところは、ロマン・ポランスキー監督の「ローズマリーの赤ちゃん」('68年/米)を思い出しましたが、終わり方もちょっと似ているかも。
        
ローズマリーの赤ちゃん5.jpg 「ローズマリーの赤ちゃん」はアイラ・レヴィン(1929-2007.11.12)ローズマリーの赤ちゃん1jpg.jpg同名小説の映画化で、主人公の若妻ローズマリー(ミア・ファーロー)が役者志望の夫・ガイ(ジョン・カサヴェテス)と共に越してきたニューヨークのアパート(ジョン・レノン夫妻のいた"ダコタハウス"が撮影に使われている)で、隣人の老夫婦(シドニー・ブラックマー/ルース・ゴードン)にお節介なほど世話をやかれ、彼女が妊娠すると身体にいいからと薬草エキスのようなものを飲まされるという―。

 『暗鬼』も「ローズマリーの赤ちゃん」も共に個人的にはあまり後味が良くなかったけれども、「ローズマリーの赤ちゃん」のラスト(ミア・ファーローの"母性に目覚めた"表情)の方が怖いかも(ミア・ファーローは、自分が出演した映画のうちこの作品だけは、自分で観直すことはないと言っていたそうだ)。

「ローズマリーの赤ちゃん」(ポスター)
ローズマリーの赤ちゃん(ポスター).jpgローズマリーの赤ちゃん.jpg あの映画のミア・ファーローの疑心暗鬼ぶりには、ポランスキーならではの説得力があったように思え、映画として好きではないのですが(カルト教団に取り込まれた人間の話になっている?)、ホラームービー通の間でクラシックとしての評価が高いのはそれなりに理解でき、それに比べると、『暗鬼』の主人公はタルい...。

Mia Farrow in ROSEMARY'S BABY
ローズマリーの赤ちゃんMia Farrow.jpg「ローズマリーの赤ちゃん」●原題:ROSEMARY'S BABY●制作年:1968年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ロマン・ポランスキー●製作:ウィリアム・キャッスル●撮影:ウィリアム・フレイカー●音楽:クリストファー(クシシュトフ)・コメダ●原作:アイラ・レヴィン「ローズマリーの赤ちゃん」●時間:136分●出演:ミア・ファロー/ジョン・カサヴェテス/ルース・ゴードン/シドニー・ブラックマー/モーリス・ローズマリーの赤ちゃんルース・ゴードン.jpgエバンス●日本公開:1969/01●配給:パラマウント●最初に観た場所:新宿シアターアプル(86-04-06)(評価:★★★)

ルース・ゴードン(アカデミー助演女優賞)
 
 【2001年文庫化[文春文庫]】 

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"感動ストーリー"だが、色々考えさせられるという意味で面白かった。

秘密.jpg 映画 秘密.jpg 秘密DVD.jpg秘密 [DVD]
秘密』(1998/09 文藝春秋) 1999年映画化(監督:滝田洋二郎、主演:広末涼子/小林薫)

 1999(平成11)年度・第52回「日本推理作家協会賞」受賞作。 

 愛する妻と11歳の娘に囲まれ満ち足りた生活を送る杉田平介。だがある日、 妻・直子と娘・藻奈美が乗ったスキーバスが崖から転落する。妻は亡くなってしまうが、意識を取り戻した娘の方に妻の意識が宿ってしまい、残された平介は「娘の姿をした妻」と生活することになる―。

 某編集者の結婚披露宴の挨拶で、自らのことを「キャリアは20年だが、14年間売れなかった」と言ったという作者の、そうした状況を脱する契機となったとされる出世作。主人公は、世間に対しては「娘が実は妻であること」は伏せていて、そのことがまずこの物語の第一の「秘密」。そして、第二の「秘密」は―。

天国から来たチャンピオン.jpgゴースト ニューヨークの幻.jpg これ以上は何を書いてもネタバレになってしまいますが、アメリカ映画の「天国から来たチャンピオン」('79年)や「ゴースト/ニューヨークの幻」('90年)などのスピリチュアル・ファンタジーの系譜と同種のプロットかと思って読んでいました。
天国から来たチャンピオン [DVD]」/「ゴースト ニューヨークの幻 [DVD]

 そうしたら「憑依」という言葉が出てきて、この作品では心霊学的な「憑依」ではなく、超心理学的な「憑依現象」(心理学的には「多重人格」)としてのそれが扱われているので、「娘の姿をした妻」は実は「妻の意識を持った娘」であることがはっきりします。

 それでも読者を、「妻の人格」に感情移入させて読ませるところが、著者の力量でしょうか。夫の妻に対する想いを描き、「妻」の夫に対する想いを描きますが、後者は「娘の人格により投射された妻の像」であるはず。娘と妻の関係を直接的には描写せず、更に夫をセンチメンタリズムの中に埋没させ事実を直視させないことで、"科学的"ファンタージーとして成立しているように思えました。

 作者はそれでも不充分だと思ったのか、最後に"指輪"を巡る第二の「秘密」を用意していましたが、それさえも、「霊」を持ち出さなくとも超心理学的には説明できてしまうことだと思います(ただしこの辺りにくると、真実はもうどうでもよくなっているような感じ)。

 亡くなった人の自我や個性が別の人の脳にコピーされた場合、その「別の人」が「亡くなった人」になり、状況的には「亡くなった人」が生きているというのと同じことになるのでしょうか。妻が娘にかけた、自分が死んだときに自動起動する「後催眠暗示」というふうにとれなくもないし、娘がそれを逆手にとって、夫の心の中での妻の座を占めようとしているようにとれなくもないない場面もあるからややこしい。

 "感動ストーリー"仕立てですが、著映画「秘密」.jpg者は当初、コメディ仕立てでいこうかと考えたとのこと、自分にとっては、色々な見方ができて考えさせられるという意味での"面白さ"がありました。

滝田洋二郎 秘密.jpg 映画化もされましたが、話が途中から始まっているし、設定も細部において異なっているものの(娘の事故当時の年齢設定が11歳から17歳に引き上げられている)、物語の本筋の部分は生かされていたように思います。 映画「秘密」(1999年・東宝)

 ベテランの役者陣が周りをしっかり固めているということもありましたが、広末涼子の演技も悪くなかったです(う~ん、この演技力でワセダにAO入学したわけか。中退しちゃったけれど)。

幽霊紐育を歩く.jpg 因みに、先にあげた「天国か天国から来たチャンピオン23.jpgら来たチャンピオン(Heaven Can Wait)」は、「幽霊紐育を歩く(Here Comes Mr. Jordan)」('41年)のリメイク作品で、前途有望なプロ・フットボール選手(ウォーレン・ベイティ)が交通事故で即死するが、それは天使のミスによるものだったため、困った天界は彼の魂を殺されたばかりの若き実業家の中に送り込み、その結果全く新しい人物となった彼は、再びフットボールの世界に乗り出す―というもの。

 ボクシングのチャンピオンだった男を主人公としたオリジナルのリメイク作品だと分かるように、わざわざ邦題に"チャンピオン"と入れたのでしょうか(アメフトで個人を指してチャンピオンとはあまり言わないのでは)。今観ると、天国へ行く人々が乗るジェット機が〈コンコルド〉風だったりして時代を感じさせますが、「感動作」であることには違いなく、"自分とは何か"を考えさせら天国から来たチャンピオン  ジェット機.jpgれる部分もありました。一方で個人的に今ひとつノリ切れなかったのは、映像上のウソ天国から来たチャンピオン2.jpgがあるためで、つまり、死んだウォーレン・ベイティの魂が身体を借りた実業家兼フットボール選手を、やはりウォーレン・ベイティが演じているという点。これは致し方ないことであり、あまりこだわる人もいないのかも知れませんが、このウソを克服しないと映画が楽しめないような気もしました(オリジナル作品では、ボクシング選手の魂が実業家にのり移るのだがそれなりに実業家に見える。その点、ウォーレン・ベイティはどこから見てもウォーレン・ベイティ)。                                 

映画 秘密3.jpg これに比べると、映画「秘密」は、こうした「お約束」を観る者に強いるほどではない分、その点に関して言えば旨く出来ているようにも思いました(原作がいいということか)。 

「秘密」●制作年:1999年●監督:滝田洋二郎●製作:児玉守弘/田上節郎/進藤淳一●脚本:斉藤ひろし●撮影:栢野直樹●音楽:宇崎竜童●原作:東野圭吾●時間:119分●出演:広末涼子/小林薫/岸本加世子/金子賢/石田ゆり子/伊藤英明/大杉漣/山谷初男/篠原ともえ/柴田理恵/斉藤暁/螢雪次朗/國村隼/徳井優/並樹史朗/浅見れいな/柴田秀一●劇場公開:1999/09●配給:東宝 (評価★★★☆)

天国から来たチャンピオン チラシ.jpg「天国から来たチャンピオン」●原題:HEAVEN CAN WAIT●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:ウォーレン・ベイティ/バック・ヘンリー●製作:ウォ天国から来たチャンピオン  .jpgーレン・ベイティ●脚本:エレイン・メイ/ウォーレン・ベイティ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:デーヴ・グルーシン●原作:ハリー・シーガル●時間:101分●出演:ウォーレン・ベイティ/ジュリー・クリスティ/ジェームズ・メイソン/ジャック・ウォーデン●日本公開:1979/01●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:新宿パレス(83-02-04)(評価:★★★☆)

 【2001年文庫化[文春文庫]】

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イスラーム原理主義とグローバル化する資本主義の共通項を指摘。

文明の内なる衝突.bmp                      サミュエル・ハンチントン 文明の衝突.jpg
文明の内なる衝突―テロ後の世界を考える (NHKブックス)』['02年] /サミュエル・ハンチントン『文明の衝突

9-11_Statue_of_Liberty_and_WTC_fire.jpg 社会学者である著者が、「イスラーム原理主義者」による9・11テロ後に、テロを前にしたときの社会哲学の無力を悟り、またこれが社会哲学の試金石となるであろうという思いで書き下ろした本で、テロとそれに対するアメリカの反攻に内在する思想的な問題を、「文明の衝突」というサミュエル・ハンチントンの概念を援用して読み説くとともに(ハンチントンは冷戦時代にこの概念を提唱したのだが)、テロがもたらした社会環境の閉塞状況に対しての「解決」の道(可能性)を著者なりに考察したもの。
September 11, 2001 attacks

 イスラーム原理主義とグローバル化する資本主義の対立を、その背後にある共通項で捉えているのが大きな特徴ですが、9・11テロ後のアメリカのナショナリズムの高揚を見ると、それほど突飛な着眼点とは思えず、むしろ受け入れられやすいのでは。
 世界貿易センタービルで亡くなった消防士でも国家のために「殉死」した英雄ということになっているけれど、彼らはまさか直後にビルごと倒壊するとは思ってなくて救出活動に向かったわけです。

 '04年に亡くなったスーザン・ソンタグの、「アメリカ人は臆病である。テロリストは身体ごとビルにぶつかっていったのに、アメリカ軍は遠くからミサイルを撃つだけだ」というコメントが多くのアメリカ人の怒りを買った背景に、アメリカ人のテロリストに対する憧憬とコンプレックスがあるというのはなかなか穿った見方のように思えました。

 映画「インデペンデンス・デイ」が引き合いに出されていますが、「アルマゲドン」なんかもそうかも(それぞれ、'96年、'98年の作品で、共に9・11テロ以前に作られたものだが)。

アルマゲドン1.jpgインデペンデンス・デイ1.jpg 「インデペンデンス・デイ」は、本国では独立記念日の週に公開されたそうですが、昔(ベトナム戦争)の飛行機乗りが最新鋭のジェット戦闘機を操縦できるものかなあと疑念を抱かざるを得ず、大統領(湾岸戦争の戦闘パイロットだったという設定)が飛行編隊の先頭を切って巨大UFOに戦いを臨むと言うあり得ない設定(9・11の時は、ブッシュ大統領は緊急避難して、暫く居所を明らかにしていなかったではないか)。

 一方、「アルマゲドン」で石油掘削員が立向かう相手は巨大UFOではなく巨大隕石(小惑星)ですが、新型スペースシャトルの名前が「インディペンデンス号 」と「フリーダム号」で、この映画も独立記念日の週に公開されています(個人的には、ブルース・ウィリス演じる"部下想いのリーダー"が、出立する前に政府にいろいろ要求を突きつけるシーンが、やたら臭いこともあって好きになれなかった。実際、ブルース・ウィリスはこの作品で、「ゴールデンラズベリー賞」の"最低男優賞"と「スティンカーズ最悪映画賞」の"最悪の主演男優賞"をダブル受賞している)。
 

1dollar_C.jpg 著者は、イスラームやキリスト教の中にある資本主義原理を指摘する一方、「資本主義は徹底的に宗教的な現象である」と見ており、そう捉えると、確かにいろいろなものが見えてくるなあという感じがしました(確かに1ドル札の裏にピラミッドの絵がある なあ、と改めてビックリ)。
 
 "赦し"を前提とした「無償の贈与」という著者の「解決」案は甘っちょろいととられるかも知れませんが、レヴィ=ストロースの贈与論などに準拠しての考察であり、最後にある「羞恥」というものついての考察も(著者はこれを「無償の贈与」の前提条件として定位しようとしているようだが)、イランの映画監督マフマルバフの、「アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない。恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」という言葉の意味がこのことでわかり、個人的には興味深いものでした。

「インデペンデンス・デイ」2.jpgインデペンデンス・デイ.jpg「インデペンデンス・デイ」●原題:INDEPENDENCE DAY●制作年:1996年●制作国:アメリカ●監督:ローランド・エメリッヒ●脚本:ディーン・デヴリン/ローランド・エメリッヒ●撮影:カール・ウォルター・リンデンローブ●音楽:デヴィッド・アーノルド●時間:145分●出演:者 ジェフ・ゴールドブラム/ビル・プルマン/ウィル・スミス/ランディ・クエイド●日本公開:1996/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:有楽町・日本劇場(96-12-27) (評価:★★☆)

アルマゲドン09.jpgアルマゲドン.jpg「アルマゲドン」●原題:ARMAGEDDON●制作年:1998年●制作国:アメリカ●監督:マイケル・ベイ●製作:ジェリー・ブラッカイマー/ゲイル・アン・ハード/マイケル・ベイ●脚本:ジョナサン・ヘンズリー/J・J・エイブラムス●撮影:ジョン・シュワルツマン●音楽:トレヴァー・ラビン●時間:150分●出演:ブルース・ウィリス/ベン・アフレック/リヴ・タイラー●日本公開:1998/12●配給:ブエナ・ビスタ・インターナショナル・ジャパン(評価:★★)

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