「●小栗 康平 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2358】 小栗 康平 「FOUJITA」
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凄まじい話ではあるが、どこまでが小説でどこまでが創作なのか気になった「死の棘」。


「死の棘」[Prime Video](1990年)松坂慶子/岸部一徳 「カンヌ国際映画祭 審査員特別グランプリ」受賞作

「眠る男」[Prime Video](1996年)役所広司/クリスティン・ハキム/アン・ソンギ

「埋もれ木」[Prime Video](2005年)夏蓮/松川リン/榎木麻衣
ミホ(松坂慶子)とトシオ(島尾敏雄)は結婚後10年の夫婦。第二次大戦末期の1944年、二人は奄美大島・加計呂麻島で出会った。トシオは海軍震洋特別攻撃隊の隊長として駐屯し、島の娘ミホと恋におちた。死を予告されている青年と出撃の時には自決して
共に死のうと決意していた娘との、それは神話のような恋だった。しかし、発動命令がおりたまま敗戦を迎え、死への出発は訪れなかったのだ。そして現在、二人の子供の両親となったミホとトシオの間に破綻がくる。トシオの浮気が発覚したのだった。ミホは次第に精神の激しい発作に見舞われる。トシオはその狂態の中に、かつてのあの死の危機を垣間見る。それは、あら
ゆる意味での人間の危機だった。トシオはすべてを投げ出してミホに奉仕する。心を病むミホと二人の子を抱え、ある時は居を転じ、ある時は故郷の田舎に帰ろうと試み、様々な回復の手段を講じるトシオだったが、事態は好転せず、さらに浮気の相手・
邦子(木内みどり)の出現によって、心の病がくっきりし始めるのだった。トシオは二人の子をミホの故郷である南の島に送ってミホと共に精神科の病院に入り、付き添って共に同じ日々を送る。社会と隔絶した病院を住み家とすることで、やがて二人に緩やかな蘇りが訪れる―(「死の棘」)。
第43 回カンヌ国際映画祭で「死の棘」が審査員特別賞を受賞した小栗康平監督(1990年05月21日) 【AFP時事】
『『死の棘』 島尾敏雄 1960年10月初版』(芸術選奨)/『死の棘(1977年)』(読売文学賞・日本文学大賞)

「死の棘」は小栗康平監督の'90年作で、1990年カンヌ国際映画祭「審査員グランプリ」受賞作。主演の松坂慶子、岸部一徳はそれぞれ、1990年度「キネマ旬報ベスト・テン」の主演女優賞・主演男優賞など多くの賞を受賞した作品です。島尾敏雄の原作は、'60(昭和35)年から'76(昭和51)年まで、「群像」「文学界」「新潮」などに短編の形で断続的に連載され、'77(昭和52)年に新潮社より全12章の長編小説として刊行(第1章「離脱」、第2章「死の棘」までを収録した'60年(昭和36)年刊の講談社版、 第3章「崖のふち」、第4章「日は日に」までを収録した'63(昭和38)年刊の角川文庫版も存在する)、1961年・第11回「芸術選奨」、1977年・第29回「読売文学賞」、1978年・第10回「日本文学大賞」を受賞しています。
原作はスゴかったです。初めて読んだときは多分にドキュメントとして読んだため、ミホの狂気に圧倒されてしまいました。しかし、後に刊行された、ノンフィクション作家の梯久美子氏が膨大な資料・証言から真実を探った『狂うひと―死の棘の妻・島尾ミ
ホ』('16年/新潮社)によると、原作には虚実がないまぜの部分があるようです(作者が妻にわざと自分の日記を読ませたとかは早くから言われていたが、妻が一部書き直したりして、夫婦合作的要素もあるらしい)。三島由紀夫が作者の作品について、「われわれはこれらの世にも怖ろしい作品群から、人間性を救ひ出したらよいのか、それとも芸術を救ひ出したらよいのか。私小説とはこのやうな絶望的な問ひかけを誘ひ出す厄介な存在であることを、これほど明らかに証明した作品はあるまい」と言っていますが、ある意味、こうした問題を予見していたようにもとれます(個人的にも評価し難い)。
そうした「原作の問題」を置いておいて、映画だけで観ると、面白かったし、やはりスゴ
かったです。トシオを演じた岸部一徳はこの作品で一皮むけたのではないかと思われます。松坂慶子も、突然「肺炎になってやる!」と叫び、胸をさらけ出しなど、体当たりの演技に挑戦していま
す。トシオの浮気相手を演じた木内みどり(1950-2019)(「ゴンドラ」('97年)など)も、この作品が代表作ではないでしょうか。子役も上手く使っていて、その辺りはさすが「泥の河」('81年)の監督という感じです。ただ、ミホとトシオが今どういった状況に置かれているのか説明がやや足りず、この辺りの"説明不足"は「伽倻子のために」('84年)からすでに見られるこの監督の特徴でしょうか。
山あいの温泉町・一筋町。キヨジ(今福将雄)とフミ(野村昭子)の老夫婦の家には、山で事故に遭って以来、意識を失ったまま眠り続けている拓次(アン・ソンギ)という男がいた。フミは拓次を病院から引き取り、献身的な介護を続けている。拓次を毎日のように見舞うのは、知的障害を持つ青年・ワタル(小日向文世)だった。感受性豊かな彼は、事故に遭った拓次の第一発見者でもあり、人一倍彼のことを心配していた。水車小屋には傳次平(田村高廣)という老人がおり、自転車置き場と小さな食堂を経営するオモニ(八木昌子)に育てられている少年リュウ(太刀川寛明)は、傳次平から色々な話を聞くのを楽しみにしている。町では、南アジアの国からやってきた女たちがスナック「メナム」で働いていた。その一人であるティア(クリスティン・ハキム)は、故国の河でわが子を亡くした過去を持つ。ティアは町の人たちと接するうちに、次第に町の暮らしに馴染んでいった。拓次の幼友達である電気屋の上村は、最近になって、小さい頃、拓次とよく遊びに行った山の奥にある山家のことを思い出すようになった。そこに誰が住んでいて、それが本当にあったのかどうかも定かではなかったが、独り暮らしの老婆たけ(風見章子)から山家が本当にあったこと
を聞いた上村(役所広司)は、もう一度そこへ行ってみたくなった。冬が過ぎ、春が訪れ、やがて夏になり季節が巡ると、人々の生活にも少しずつ変化が見えた。寝たきりだった拓次はついに息を引きり、いんごう爺さん(瀬川哲也)の提案で"魂呼び"が試みられたが、それも空しい結果に終わった。しかしその後、神社で催された能芝居を観ていたティアが、森の中で死んだはずの拓次と再会する。不思議な体験をした彼女は、何かに導かれるように上村が探す山家へたどり着き、翌日、そこで上村と出会う。二人は、涸れていると言われていた井戸に水が涌きでていることを知る。上村はブロッケン現象の起こる山頂で、拓次に人間の命について問いかけるのだった―(「眠る男」)。
小栗康平監督の'96年作「眠る男」は、群馬県が人口200万人到達を記念して、地方自治体としては初めて製作した劇映画です。第20回モントリオール世界映画祭「審査員特別大賞」、第47回ベルリン映画祭「国際芸術映画連盟賞」を受賞。'96年度キネマ旬報ベストテン第3位で、小栗康平監督は2度目の監督賞を受賞しています。役所広司を主演に据え、韓国人、インドネシア人俳優の出演で国際色豊かな作品です(韓国の安聖基が演じる〈眠る男〉は主役ではなく映画のシンボルとして存在している)。ただ、こちらもいよいよもって説明不足で、登場人物の個の感情が前面に押し出されてはいますが、結局、実際のところは本人にしかわからないという印象を受けました。したがって、正直〈眠る男〉が何の象徴なのかもよく分かりませんでした。
山に近い小さな町。まち(夏蓮)ら三人の女子高生たちは、短い物語を作り、それをリレーして遊ぶことを思いつく。さっそく、町のペット屋がらくだを仕入れた、というエピソードをはじまりに、無邪気な夢物語が紡がれていく。次々と紡がれる物語は未来へと向かう夢なのか。一方、大人たちも慎ましやかにそれぞれの日々をいき続けている。そんなある日、大雨の影響で地中から"埋もれ木"と呼ばれる古代の樹木林が姿を現した。やがて町の人々は、そこでカーニバルを開催することを思いつく―(「埋もれ木」)。
「埋もれ木」は小栗康平監督の'05年作品で、撮影は'04年の梅雨から夏の三重県で行われ、前作「眠る男」と同じく地元タイアップ的な作品。第58回「カンヌ国際映画祭」で特別上映され、国内外で注目されたのよ、主演の女子高生三人(夏蓮、松川リン、榎木麻衣)を7000人の一般公募者の中から選出したことでも話題になった作品でした(そう言えば前作「眠る男」にも、ごく普通の女子高生たちが登場した)。物語は、起承転結がないような思わせぶりな小さいエピソードの積み重ねであり、それはそれでいいのですが、これもまた説明不足であるため、落としどころが何なのかよく分かりませんでした(したがって話題が先行した割にはヒットしなかった)。
この監督は、真摯に自分の撮りたい作品を撮り続けているように見える一方で、独りよがりとの批判を受けても仕方がない面もあるように思えます(コアなファンには受けるのだろうが)。また、「賞狙い」的な要素も感じられ、その極みが「FOUJITA」('15年)だったのではないかと思います(個人的評価★★☆)。「泥の河」(個人的評価★★★★☆)みたいな作品はもう撮らないのかなあ。
「死の棘」●制作年:1990年●監督・脚本:小栗康平●撮影:安藤庄平●音楽:細川俊夫●原作:島尾敏雄●時間:115分●出演:松
坂慶子/岸部一徳/木内みどり/松村武典/近森有莉/山内明/中村美代子/平田満/浜村純/小林トシ江/嵐圭史/白川和子/安藤一夫/吉宮君子/野村昭子●公開:1990/04●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(23-09-12)(評価:★★★☆)
松坂慶子(ミホ) 日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、キネマ旬報主演女優賞、毎日映画コンクール主演女優賞、ブルーリボン賞主演女優賞、報知映画賞最優秀主演女優賞、日刊スポーツ映画大賞主演女優賞、山路ふみ子女優賞
岸部一徳(トシオ)日本アカデミー賞最優秀主演男優賞、キネマ旬報賞主演男優賞、全国映連主演男優賞
「眠る男」●制作年:1996年●監督:小栗康
平●製作:小寺弘之●脚本:小栗康平/剣持潔●撮影:丸池納●音楽:細川俊夫●時間:103分●出演:役所広司/クリスティン・ハキム/安聖基 (アン・ソンギ)/左時枝/野村昭子/田村高廣/今福将雄/八木昌子/小日向文世/瀬川哲也/渡辺哲/岸部一徳/蟹江敬三/平田満/真田麻垂美/太刀川寛明/小林トシ江/中島ひろ子/藤真利子/高田敏江/浜村純/風見章子●公開:1996/02●配給:SPACE●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(23-10-03)(評価:★★★)

「埋もれ木」●制作年:2005年●監督:小栗康平●製作:小栗康平/佐藤イサク/砂岡不二夫●脚本:小栗康平/佐々木伯●撮影:寺沼範雄●時間:93分●出演:夏蓮/松川リン/榎木麻衣/浅野忠信/坂田明/岸部一徳/坂本スミ子/田中裕子/平田満/左時枝/塩見三省/小林トシ江/草薙幸二郎/久保酎吉/湯川篤毅/代田勝久/松坂慶子(油状出演)●公開:2005/06●配給:ファントム・フィルム●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(23-10-17)(評価:★★★)
『死の棘』...【1981年文庫化[新潮文庫]】
《読書MEMO》
「死の棘」より(抜粋)
●『あなたの気持ちはどこにあるのかしら。どうなさるおつもり?あたしはあなたに不必要なんでしょ。
だってそうじゃないの。10年ものあいだ、そのように扱ってきたんじゃないの。
あたしはもうがまんはしませんよ。もうなんと言われてもできません。爆発しちゃったの。
もうからだがもちません。見てごらんなさい、こんなに骸骨のように痩せてしまって』
●『あなた、あたしがすきだったの、どうだったの、はっきり教えてちょうだい・・・・じゃ、
どうしてあなたはあんなことをしたんでしょう。ほんとにすきならあんなことするはずがない。
あなた、ごまかさなくていいのよ。きらいなんでしょ。きらいならきらいだと言ってくださいな。
きらいだっていいんですよ。それはあなたの自由ですもの。きらいにきまってるわ。
あなたはほんとのことを、あたしに言ってちょうだいな。このことだけじゃないんでしょう。
もっとあるんでしょ。いったいなんにんの女と交渉があったの?』
●「妻は私の肝をつつき、その非をついばむことに容赦しないが、私からもぎ取られてしまえば彼女は
生きて行くことができないことに気づいた私は、彼女を手放すことはできない。
はっきりどれか一つをえらび、そして家の中に閉じこもったとき、私は家の外をみきわめないままに放棄された。
だから外の方はがらんどうの暗黒となって残り、そちらからいざないと審きがかさねてやってきて
いつ襲いかかられるかわからない。」
●「自分の身のまわりに起こる事件が、最悪の状態にころがって行くことは、むしろ、ひりひりした正確さがあっていい、
とほんのしばらくそう思った。」
●「妻がふとんをかぶって紐で首を絞めると、私はそうさせまいとしたあげく、ふたりはくんづほぐれつ取っ組み合いになった。
一方が出て行けとどなっても、相手が出て行こうとするとそれを止めにかかり、どこまで落ちて行くのが見当がつかない。
・・・・・『オトウシャン、ジサツ、シュルノ?』・・・すさまじい荒れた気配が家のなかいっぱいで、
障子もふすまもぶつかって手を突っ込むからさんばらに破れ、ちゃぶ台に使っていた応接台も私がからだごとぶつけたとき、
台が抜けてこわれた。二時ごろだったろうか。どちらからともなく疲れて中休みのかたちになった。」
●「頬の肉こそ落ちたが、丸顔で広い顔の造作のせいか、眠りのなかのその顔のときの疑いを知らぬひたむきなそれが
あらわれてきて、今にもかたりかけてきそうな錯覚を覚えた。
・・・・・眠りのため妻の意識は潜んでいるから、反応を受けずに娘のときそうしたように唇をそっとかさねることもできた。
すると深夜に部隊を抜け出し、岬の峠を越えてたどりついた部落奥の、家の縁側で眠っていた彼女に唇を合わせたときの
感触がよみがえった。
なんだか犬ころに近づくときめきのなかで、小鳥のやわらかな頭を両手で抱き取っている感じがし、
彼女のにおいは、すべて起らぬ前のやさしい状態につれもどしてくれたかと思えた。」
●「『力が弱い。もういっぺん』
と妻がいえば、さからえず、おおげさな身ぶりで、もう一度平手打ちをした。女はさげすんだ目つきで私を見ていた。
『そんなことぐらいじゃ。あたしのキチガイがなおるものか』」

1958年の夏の終わり、大学生だった林相俊(イム・サンジュン)(呉昇一(オ・スンイル))は、北海道の森駅に降り立った。父の親友のジョン・スンチュン(通名・松本秋男)(浜村純)を訪ねるためである。樺太(サハリン)から引き揚げて十年ぶりの再会であった。松本はトシ(園佳也子)という日本人の女性を妻にして、縁日で玩具を売って生計を立てる貧しい暮らしをしていた。そこには、伽倻子(かやこ)(南果歩)という高校生の少女がいた。相俊は樺太での記憶をたどるが、その少女は知らなかった。伽倻子は本名を美和子といい、敗戦の混乱期に日本人の両親に棄てられた少女だ。日本人が棄て、朝鮮人の秋男が拾った少女は、伽倻琴(カヤグム)という朝鮮の琴の名をとって伽倻子と名づけられていた。相俊は解放(日本の敗戦)後、父の林奎洙(イム・キュス)(加藤武)、母の呉辛春(ク・シンチュン)(左時枝)、兄の林日俊(イム・イルジュン)(川谷拓三)らと日本に留まったが、渡日した一世世代と違い、自分が朝鮮人であることを自負するためには、さまざまな屈折を重ねなければならなかった。奎洙はそんな子供たちに絶えず苛立ち、怒鳴り散らすのだった。貧しい東京の下宿生活の中で相俊は、在日朝鮮人二世の存在矛盾と格闘しながら、伽倻子を思い出していた。翌年、早春の北海道で二人は互いに心を通わせた。その秋、突然伽倻子は家を出た。貧しさを嘆く義父、朝鮮人と一緒になったことを悔いる義母、そんな人工的な家庭の中で、伽倻子の混乱は深まる一方だった。ようやく探し当てた道東の小さな町で、相俊は伽倻子に言う。「戦争があちこち引きずりまわしてくれたおかげで、僕たちは出会えた」。そしてその夜、二人は結ばれる。東京での二人の夢のような生活が始まった―。

打ちひしがれて帰ろうとする相俊は偶然、伽倻子の実家の近くで遊ぶ「伽耶子」という名前の少女に出会いますが、少女の名前が原作では「美和子」でした(映画のラストにあたるこの部分は、原作ではこの少女との出会いがプロローグとエピローグに分かれて出てきて、プロローグの後、1956年に相俊が北海道S市の実家に帰省した際に、父の用事で函館に近いR町を訪ね、そこでクナボジ(おじさん=松本)とその家族、つまり伽耶子と初めて会うところから第一章が始まる)。原作及び映画のラストに出てくる少女が伽倻子の娘であるとして、自分の娘につけた名前が「伽倻子」か「美和子」かで若干メッセージが変わってくると思いますが、自分の娘に自分の名前をつけたという映画の解釈もありかもしれません(「かつての自分の名前」ということか。でも、「伽倻子」の幼名は「美和子」なのでややこしい。最後に出てくる少女が伽倻子の娘であることをわかりやすくするために「伽倻子」という名にしたとも考えられる)。
映画の方は、原作が文芸作品ということを意識して抒情性を重視し、説明的になることを敢えて避けたのでしょうか。確かに、北海道の美しくも冷え切った、そして寂しげな風景は、登場事物の心象風景にも重なるようで、印象に残りました。ただ、原作者もこの作品を観て、これはあくまでも「小栗康平監督の『伽倻子のために』」だとの感想を述べたようですし、個人的にも、原作とは違い世界を見せられているうような印象を受けなくもありませんでした。
伽倻子役の南果歩(1964年生まれ)は、桐朋学園短大演劇科在学中に「伽倻子のために」のヒロイン役オーディションに応募して2,200人の中から選ばれ、この作品が彼女のデビュー作となりましたが、小栗康平監督はオーディションで彼女を見て
「まだ高校生で素人だったが、在日朝鮮人夫婦に育てられる日本人少女伽椰子の設定にふさわしい雰囲気をもっていた。多分在日コリアンだろうと直感した」と後に語っています。
告白、2012年NHKの「ファミリーヒストリー」に彼女が出演した際の話では、撮影当時、彼女は韓国籍から帰化した直後で、自分の出自について大きな過渡期に立っていたといい、「伽椰子のために」への出演はそれからの生き方を決定した瞬間だったといいます。この番組では、彼女のルーツは中国に1300年の歴史を持つ一族であったことが明かされています(前述のように、物語の設定では「伽倻子」は本名「美和子」という日本人なのだが)。南果歩はその後、乳がんの発見、夫・渡辺謙の不倫によるうつ病、二度目の離婚(最初は辻仁成と)といろいろありましたが、今は「乙女オバさん」をキャッチフレーズ(?)にして元気そうで何よりです。
主人公・相俊を演じた呉昇一(オ・スンイル)は俳優ではなく在日韓国人の彫刻家で、現在はニューヨークで活動中。冒頭の列車内で主人公に語りかける男を演じる
「伽倻子のために」●制作年:1984年●監督:小栗康平●製作:砂岡不二夫●脚本:太田省吾/小栗康平●撮影:安藤庄平●音楽:毛利蔵人●原作:李恢成●時間:117分●出演:呉昇一(オ・スンイル)/南果歩/浜村純/園佳也子/加藤武/左時枝/川
谷拓三/金福順/趙命善/白川和子/洪多美/ペイ平舜/姜優子/小林トシ江/吉宮君子/呉恵美子/殿山泰司/古尾谷雅人/蟹江敬三/田村高廣●公開:1984 /11●配給:劇団ひまわり.●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(23-08-29)(評価:★★★☆)
李恢成(り・かいせい、本名=イ・フェソン)







1977年、角川春樹事務所製作の第2弾として映画化され、八杉恭子を演じた岡田茉莉子は、角川春樹と作者で直接を出演依頼し、松田優作、ジョージ・ケネディらが日本映画で初めて本格的なニューヨークロケをしたとのこと。映画は途中までは原作に比較的近いですが、原作では棟居とケン・シュフタンの刑事同士接触はなく、棟居(松田優作)がアメリカに行ってケン・シュフタン刑事(ジョージ・ケネディ)に会う辺りから急激に原作を外れてしまいます。作者自身は「映像化にOKを出した時点で、嫁に出すようなもの。好きに料理してくれ、という考えです」と言い、原作にはない米国ロケでアクションを繰り広げた松田優作にも感謝していたそうですが...。
それにしても原作から外れすぎ、と言うか、いろいろ付け加えすぎて、ますます浅くなった感じ。八杉恭子の息子・恭平(岩城滉一)は 、ヘイワード殺しの犯人を追っていたはずのニューヨーク市警ケン・シュフタン刑事(ジョージ・ケネディ)に射殺されるし、息子の死の知らせを受けた八杉恭子は、授賞式の舞台で「あの子は私の生きがいです。 あの子は私の麦わら帽子だったんです。 私はすでに一つの麦わら帽子を失っています。 だからもう一つの麦わら帽子を失いたくなかったんです」という、黒人の息子より恭平の方が大事だったみたいな演説をぶって、最後は霧積まで行って『ゼロの焦点』よろしく自殺するし―。
莫大な宣伝費をかけたメディアミックス戦略の効果で映画はヒットし、実際、観た人の中には感動したという人も少なくなかったようですが、映画評論家からは酷評されました(第51回「キネマ旬報ベスト・テン」では第50位、読者選出では第8位)。「山本寛斎のファッションショーが延々と長すぎる」「松田優作が、テレビドラマのジーパン刑事そのままで何とも異様」等々。小森和子は雑誌の映画評で「日米合作としては違和感のない出来上がり。ただすべてが唐突な筋立て」と述べたように、滅多に悪く批判しない映画評論家までが映画作品としての密度の希薄さを指摘し、特に大黒東洋士と白井佳夫の批判がキツ過ぎ、この二人は角川関連の試写会をボイコットされたそうです。出演した鶴田浩二も映画誌で、「製作に12億かけて宣伝に14億かけるなんて武士の商法じゃない。本来、宣伝費は製作費の1割5分か2割でしょう。これは外道の商法です」と角川商法を批判しました。
批判の多さに原作者の森村誠一自身が激怒し、「作品中のリアリティと現実を混同したり、輪舞形式をとった設定をご都合主義と評したりするのは筋違いの批評...映画評論家は悪口書いて、金をもらっている気楽な稼業。マスコミ寄生人間の失業対策事業で、マスコミのダニ」などと映画評論家を猛烈に批判したとのことです。


作者は、『人間の証明』の発表翌年に『野性の証明』を発表、東北の寒村で大量虐殺事件が起き、その生き残りの少女と、訓練中、偶然虐殺現場に遭遇した自衛の二人を主人公に、東北地方のある都市を舞台にした巨大な陰謀を描いた作品でした。こちらも発表翌年に高倉健、薬師丸ひろ子主演で映画化されましたが、大掛かりな分、多分に大味な映画になっていました。結局、高倉健演じる自衛隊の特殊部隊の隊員(味沢岳史)がある集落でたまたま正当防衛的に住民を殺してしまい、いろいろな経緯があって、薬師丸ひろ子演じる集落の生き残りの少女を守りながら、三國連太郎演じる日本のある地方を牛耳ってるボスと戦うというわけのわからない話である上に、映画では誰もが簡単に人を殺し、味沢もまたその例外ではなく、ラストも原作の味沢が細菌に侵されて狂人になってしまうというものではなく、異なる結末になっていました。まあ、とことん駄作にしてしまった感じ。結局は高倉健のカッコ良さも空回りしていて、お金をかけてこうした映画を撮る監督(どちらかと言うと製作者?)の気が知れないです。
「人間の証明」●英題:PROOF OF THE MAN●制作年:1977年●監督:佐藤純彌●製作:角川春樹/吉田達/サイモン・ツェー●脚本:松山善三●撮影:姫田真佐久●音楽:大野雄二(主題歌:ジョー山中「人間の証明のテーマ」)●原作:森村誠一●時間:133分●出演:岡田茉莉子/松田優作/ジョージ・ケネディ/ハナ肇/鶴田浩二/三船敏郎/ジョー山中/岩城滉一
/高沢順子/夏八木勲/范文雀/長門裕之/地井武男/鈴木瑞穂/峰岸徹/ブロデリック・クロフォード/和田浩治/田村順子/鈴木ヒロミツ/シェリー/竹下景子/北林谷栄/大滝秀治/佐藤蛾次郎/伴淳
三郎/近藤宏/室田日出男/小林稔侍(ノンクレジット)/西川峰子(仁支川峰子)/小川宏/露木茂/坂口良子/リック・ジェイソン/ジャネット八田/小川宏/露木茂/三上彩子/姫田真佐久/今野雄二/E・H・エリック/深作欣二/角川春樹/森村誠一●公開:1977/12●配給:東映(評価:★★★)



義人「戦士の休息」)●原作:森村誠一●時間:143分●出演:高倉健/薬師丸ひろ子/中野良子/夏木勲 /三國連太郎(特別出演)/成田三樹夫/舘ひろし/田
村高廣/松方弘樹/リチャード・アンダーソン/鈴木瑞穂/丹波哲郎/大滝秀治/角川春樹/ジョー山中/ハナ肇/中丸忠雄/渡辺文雄/北村和夫/山本圭/梅宮辰夫/成田三樹夫/寺田農/金子信雄/北林谷栄/絵沢萠子/田中邦衛/殿山泰司/寺田
農/芦田伸介(特別出演)/角川春樹
/ジョー山中●公開:1978/10●配給:日本へラルド映画=東映(評価:★★)











なした。楽しみにしていた天神祭りがきた。初めてお金を持って祭りに出た信雄は人込みでそれを落としてしまう。しょげた信雄を楽しませようと喜一は強引に船の家に誘った。泥の河に突きさした竹箒に、宝物の蟹の巣があった。喜一はランプの油に蟹をつけ、火をつけた。蟹は舟べりを逃げた。蟹を追った信雄は窓から喜一の母(加賀まりこ)の姿を見た。裸の男の背が暗がりに動いていた。次の日、喜一の舟は岸を離れた。信雄は「きっちゃーん!」と呼びながら追い続けた-。
宮本輝の

果的な技巧が窺え、出演者の演技もベテラン、子役ともになかなか良かったです。特にラストはグッときます。登場場面が数カットしかなかった加賀まりこ(当時の加賀まりこは多忙を極め、スケジュールの合間をぬって僅か6時間で彼女の出る全シーンを撮
った)が「キネマ旬報助演女優賞」を受賞しましたが、確かに情感たっぷりの堂々たる演技ぶりでした。
但し、個人的に思うに、一番上手かったのは子役達ではなかったかと(特に、姉弟の姉の方を演じた柴田真生子がいい)。この映画の子役の演技にはスティーブン・スピルバーグも感嘆し、演出の秘密を知ろうとして来日時に小栗康平に面会を求めたそうです。

「泥の河」●制作年:1981年●監督:小栗康平●脚本:重森孝子●撮影:安藤庄平●音楽:毛利蔵人●原作:宮本
輝●時間:105分●出演:田村高廣/藤田弓子/朝原靖貴/桜井稔/柴田真生子/加賀まりこ/殿山泰司/芦屋雁之助/西山嘉孝/蟹江敬三/八木昌子/初音礼子●劇場公開:1981/01●配給:東映セントラル●最初に観た場所:日比谷・第一生命ホール(81-05-22)●2回目:池袋・テアトル池袋(82-07-24)(併映:「駅 STATION」(降旗康雄))●3回目:キネカ
大森(85-02-02) (評価★★★★☆)




矢切の渡しの舟客・斎藤政夫翁(笠智衆)は老船頭(松本克平)に、遠い過去の想い出を語る...。この渡し場に程近い村の旧家の次男として育った政夫(田中晋二)が15歳の秋のこと、母(杉村春子)が病弱のため、近くの町家の娘で母の姪に当る民子(有田紀子)が政夫の家を手伝いに来ている。政夫は二つ年上の民子とは幼い頃から仲が良い。それが嫂のさだ(山本和子)や作女お増(小林トシ子)の口の端にのって、本人同志もいつか稚いながら恋といったものを意識するようになる。祭を明日に控えた日、母の吩咐で山の畑に綿を採りに出かけ二人は、このとき初めて相手の心に恋を感じ合ったが、同時にそれ以来、仲を裂かれなければならなかった。母の言葉で追われるように中学校の寮に入れられた政
夫が、冬の休みに帰省すると、渡し場に迎えてくれるはずの民子の姿はなかった。お増の口から、民子がさだの中傷で実家へ追い帰されたと聞かされ、政夫は早々に学校へ戻る。二人の仲を心配した母や民子の両親の勧めで、民子は政夫への心を抑えて他家へ嫁ぐ。ただ祖母(浦辺粂子)だけが民子を不愍に思った。やがて授業中に電報で呼び戻された政夫は、民子の死を知る。民子の最期を看取った母によると、民子は政夫の手紙を抱きしめながら息を引きとったという。政夫の名は一言もいわずに...。渡し船を降りた翁は民子が好きだった野菊の花を摘んで、墓前に供えるのであった―。
木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1955(昭和30)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第3位。原作「野菊の墓」は、歌人であった伊藤左千夫が43歳で初めて発表した小説で、1906(明治39)年1月、雑誌「ホトトギス」に掲載、その年の4月に俳書堂から単行本として刊行されています。15歳の少年・斎藤政夫と2歳年上の従姉・民子との淡い恋を描き、夏目漱石が絶賛したというこの作品は、過去に3度映画化されており、その第1作は木下惠介が監督した本作です(2作目('66年)の主演は太田博之と安田道代(大楠道代)、3作目('81年)は澤井信一郎監督、の
物語の設定では民子の方が2歳年上ですが、主演の田中晋二と有田紀子は共に1940年生まれの当時15歳。有田紀子は女優に憧れ学習院女子中等科に在学中に木下惠介監督に手紙を書いたことが契機となり、民子役に抜擢されましたが、学習院は生徒の映画出演を認めておらず、転校して映画に出演しています。この映画は、旧弊な気風が根強い田舎を舞台にしている分、有田紀子の清楚で現代的なリリシズムが光っていたように思います。ただし、彼女が出演した木下作品は田中晋二と共演した3作品だけです。その後は学業に専念し、1958年早稲田の文学部演劇科に進みますが、それを知った多くがの若者が早稲田を受験したという逸話があります。伊藤左千夫は「野菊の墓」という作品があってこその作家という印象がありますが、有田紀子も、結婚で女優業を引退したということもあって、代表作はこの「野菊の如き君なりき」ということになるのでしょう。
ところで、映画は矢切の渡しの舟客・斎藤政夫老人(笠智衆)が60年前の自らが数え年で15(「月で数えると13歳と何月」と原作にある)の時のことを回想する(船頭に語る)形式で進み、政夫老人は現在73歳ということになりますが(演じる笠智衆は当時51歳)、原作では、「十余年も過去った昔のこと」とあり、語り手の年齢はもしかしたら30歳前後くらいかもしれず、この年齢の差は、「政夫の今」を映画が作られた1955年を現在に設定したためではないかと思われます(小説が発表された年とも約40年の開きがある)。世間一般にも原作の語り手がかなり年齢が高いように思われている気がしますが(コミック版などもそうなっている)、思えば、伊藤左千夫がこの小説を書いたときでさえまだ43歳だったわけで、作者はそこからさらに10歳以上若い"語り手"を設定しているように思います(物語は伊藤左千夫自身の幼い頃の淡い恋が基になっているというから、概算すると原作の時代設定の方が映画より少し古いということになるのかも)。
因みにこの作品、作品の大部分を占める過去の回想部分は全体を楕円にしてまわりをボカした手法にをとっていますが、先に読んだ『
有田紀子、田中晋二の演技は「![まぼろし探偵 第4巻 [DVD]5_.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%81%BE%E3%81%BC%E3%82%8D%E3%81%97%E6%8E%A2%E5%81%B5%20%E7%AC%AC4%E5%B7%BB%20%5BDVD%5D5_.jpg)




日の丸新聞社の記者・黒星十郎(花咲一平)はある日自分のことを「兄貴」と呼ぶやくざ風の青年と出会う。その事を聞いた当の"兄貴"である黒猫五郎(花咲一平、二役)は
黒星本人に成り済まして彼の給料を前借りしたりする。図に乗った"偽黒星"は、吉野博士(カワベキミオ)からロケットの書類を奪って外国に売るという計画を立てる。しかし、その頃には、少年記者・富士進(加藤弘)に偽物の存在が見抜かれていた。ま

ぼろし探偵(加藤弘、二役)は本物の黒星に確実なアリバイを作ってやるため、富士警部(大平透)に黒星を明日まで警視庁で預かって欲しいと要請する。富士警部は、大塚刑事(鈴木志郎)に命じて、黒星に逮捕状を出す。ロケットの書類を奪い取った偽黒星は、吉野博士を殴って気絶させ、一緒にいた娘の吉野さくら(吉永小百合)を誘拐するが―。
「まぼろし探偵」は1959(昭和34)年4月1日から1960(昭和35)年3月27日にかけて、全52回にわたり水曜18:15-18:45に放送されたもので(第28回から日曜の朝に変更)、原作は、1957年に『少年画報』に連載された桑田次郎(桑田二郎、1935-2020/85歳没)の漫画です(原作では「日の丸新聞社」は「少画新聞」)。また、当時14歳(中学2年生)だった吉永小百合の「赤胴鈴之助」に続くテレビ出演番組として
この第17話「犯人黒星十郎?」は、第1話「謎の怪電波」(武田信玄の子孫の復讐劇?)、第8話「れい迷教?」(当時流行りの新興宗教批判?)などと並んで面白いとされているエピソードですが、この回に限らず、同じKRT(現TBS)で前年スタートの「月光仮面」よりは全体的に洗練されてきているのではないでしょうか。この回で言えば、黒星記者に成りすましたチンピラのやることが、給料を前借り、かつ丼の注文、紳士服や靴、テレビの購入といったやたら生活染みたものであったりとか、依然、突っ込みどころは多いのですが、それはそれでまた別に意味での愉しみと言えるでしょう。
まぼろし探偵は第1話の時から世間に周知の存在であるという設定であり、富士登警部(第1話から途中まで天草四郎、途中から大平透に交代)もまぼろし探偵に全幅の信頼を置いていますが(まぼろ探偵に言われて黒星記者をほとんど人権蹂躙的に逮捕してしまうくらい(笑))、そのくせ"まぼろし探偵"の正体が今さっきまで目の前にいた自分の息子・進少年であることにはいつまでも気がつきません(主題歌の2番に「親に心配かけまいと、あっという間の早変わり」とある)。
因みに、漫画で描かれるまぼろし探偵はバイクを操りますが、テレビ版は〈まぼろし号〉というフェアレディをベースにしたクルマが愛車で、これは探偵役の加藤弘がバイクに乗れなかったために用意されたとする説がありますが、加藤弘はまぼろし号の運転も無免許で行っていたと証言しています(バイクに乗ったスチール写真もあり、DVDカバーなどに使われ
ている)。結構、撮影現場って道交法の遵守とかに関してはいい加減だったのかも(私有地内ならいいのか?)。この他、飛行シーンはジェット機で、これはミニチュア特撮を駆使しています。特撮は、「
吉野博士の娘、進のガールフレンドのさくら役という設定の吉永小百合は、テレビ番組放映中に人気が出て忙しくなったのか、最初の頃は進と一緒に事件について考えたりしていたのに、この頃にはスタート時ほど出ずっぱりではなく、この回にしても、中盤以降で父親の吉野博士と一緒に出てきて、あっという間に誘拐されてしまいます。誘拐グループが彼女を担ぎ上げて「わっしょい、わっしょい」と大声を出して運び(祭かいな)、すぐさま、まぼろし探偵に見つかってしまう。しかし、最後、まぼろし探偵も(博士から授かった電波ピストルを持っているのだが)徒手空拳の取っ組み合い。まあ、これは「月光仮面」も、宇宙人である「ナショナルキッド」でさえ最後はそうでしたが。それにしても少年の割には強い!
花咲一平のシーリーズ唯一の一人二役の作品で、この人の演技、観ていて楽しいです。黒星十郎のキャラクターは、後の「
どの回も楽しく突っ込めますが、この回の最大の突っ込みどころは、花咲一平が演じる黒星十郎が、"偽黒星"の時は右頬にマジックでつけたような大きな黒子(ホクロ)がある点ではないでしょうか。観ていて今本物が出ているのか偽物が出ているのか分かりやすくしたのでしょうが、この黒子のことを誰も気づかないというのが、進行上の"お約束"ということなのでしょう。普通だったら「黒星さん、顔にマジックがついてますよ」って誰か言うだろうけれどね(笑)。
因みに、吉永小百合はラジオのデビュー作がラジオ東京(現・TBSラジオ)の「赤胴鈴之助」('57年1月-'59年2月)であるのに対し、テレビのデビュー作がこの「まぼろし探偵」('59年4月-'60年3月)だと思っていたという人がいましたが、テレビのデビュー作もKRテレビ版の「赤胴鈴之助」('57年10月-'59年3月)です。一方、映画デビューは、「まぼろし探偵」の放映が始まる前月の'59年3月に公開の松竹映画「朝を呼ぶ口笛」でした。これは新聞配達を続けながら、夜間高校へ進学することを目指している中学生の少年が、母親が病気入院したところに父親の手術が重なって、両親と幼
い弟妹がいる家計を支えるために、学校も新聞配達も辞めて町工場で働くことにし、夢が消え落ち込んではいたところ、新聞販売店の仲間たちの力添えや配達先の少女の励ましに支えられ、再び以前の生活に戻ることができたというもの。その主人公の少年を励ます少女役が吉永小百合で、少年は少女に淡い想いを抱くも、最後、少女は父親の転勤で大阪に行くことになるという、言わば"ボーイ・ミーツ・ガール"&"別れ"というストーリーですが、この少年を演じていたのが「まぼろし探偵」こと富士進役の加藤弘でした。映画の方では、当時14歳の吉永小百合の方が加藤弘より大人びて見え、加藤弘の方は吉永小百合に励まされる役どころということもあってか、子供っぽく見えるので、加藤弘は「まぼろし探偵」で大変身を遂げたように思いました。
「まぼろし探偵(第17話)/犯人黒星十郎?」●制作年:1959年●監督:近藤竜太郎●企画:神山雄二●脚本:柳川創造●原作:桑田次郎(桑田二郎)●音楽:大塚一男●出演:加藤弘/吉永小百合/大平透/利根はる恵/花咲一平/カワベキミオ/藤田弓子●放送局:KRT(現TBS)●放送日:1959/07/22(評価:★★★☆)
1959- 4- 1 水 18:15-18:45 謎の怪電
1959- 5- 20 水 18:15-18:45 れい迷教?
1959- 8- 5 水 18:15-18:45 ゆうれい島
1959-11- 8 日 9:00- 9:30 クラーク東郷・後篇
43 1960- 1- 24 日 9:00- 9:30 謎のジョーカー・前篇 

「朝を呼ぶ口笛」●制作年:1959年●監督:生駒千里●製作:桑田良太郎●脚本:光畑碩郎●撮影:篠村荘三郎●音楽:鏑木創●原作:吉田稔「新聞配達」(全国中小学生綴り方コンクール文部大臣賞受賞)●時間:62分●出演:加藤弘/織田政雄/井川邦子/鳥居博也/羽江マリ/田村高廣/瞳麗子/山内明/殿山泰司/沢村貞子/吉永小百合/田村保/吉野憲司/田中晋二/真塩洋一/土紀洋兒/井上正彦/人見修/後藤泰子/村上記代/秩父晴子●公開:1959/03●配給:松竹(評価:★★★☆)



東陽銀行の支店長・沖野一郎(
平幹二朗)は融資先の料亭の女将・前川奈美(香山美子)と深い仲になっていた。だが学生時代からの友人で常務の桑山英己(中谷一郎)は、二人の関係を訝って探
偵の伊牟田(殿山泰司)を使って二人の仲を突き止める。そして、自分の権限を使って沖野から出されていた奈美の店の支店出店のための資金融資の稟議を却下してしまう。その上で、自分と沖野と奈美の三人での温泉旅行を設定し、途中で沖野に帰るよう命じて、自分は奈美を奪ってしまう。失意の沖野は銀行を辞めようとするが、そんなある日、探偵の伊牟田から桑山常務と奈美の密会写真を提供される―。



'75(昭和50)年放送された、NHK「土曜ドラマ」松本清張シリーズ版('75年-'78年)の第3作で、

一方、鈴木英夫監督の映画の方は、原作同様、主人公(池部良)が仕事上のきっかけで美人女将(新珠三千代)と知り合い、いい関係になったまではともかく、そこに主人公の上司である好色の常務(平田昭彦)が割り込んできて、主人公の仕事人生をも狂わせてしまうというものですが、主人公は原作と異なり、踏んだり蹴ったりの散々な目に遭うだけ遭って、反撃策を講じても相手に裏をかかれ、ただ敗北者で終わってしまう結末になっています(鈴木英夫監督は、欲に駆られて自滅する人間や犯罪者を描いた和製フィルム・ノワール的作品を得意とした)。
そして、このNHKの中島丈博(「
沖野が銀行を辞めるというのもドラマのオリジナルですが、原作とも映画とも決定的に異なるのは、沖野が奈美のところへ出向いて写真もネガも燃やして欲しいと頼むところで、奈美はそれを拒絶し、副頭取に送ると言い放ったために二人は揉み合いに。最後は転落事故でしたが、「無理心中」にされているということは、事故&自殺というこ
となのでしょう。それはともかく、どうして最後に沖野が桑山を守るような行動をとったのが謎で、ラストシーンで、むっつり顔の沖野の遺影が桑山にニヤッと微笑みかけるといったシュールなオチから逆算すると、沖野と桑山は最後まで友情で結ばれていたことになります。
しかしながら、最初に三人で旅館に行った際に、桑山が沖野に自分の背中を流せと言ってマウントしたのに対し、後に沖野が桑山を旅館に呼び出したときは沖野が桑山に自分の肩を揉めと言って(どちらもドラマのオリジナル)、権力の見せつけ行為とその仕返しという関係になっていただけに、その底流に「友情」があったとはちょっと理解しがたい気もします(友情と言うよりホモセクシャルな関係ととる人もいるようだ)。
一方、奈美の自殺は沖野が死んだショックからのものと考えられ、結局、奈美は沖野を好きだったのだろなあ。原作でも映画でも、奈美は最後は沖野に「はっきり言って、自分より惨めに見える人、好きになれないわ」と絶縁宣言し、そのファム・ファタールぶりを露わにするのですが(新珠三千代が役に嵌っていた)、ドラマの香山美子演じる奈美は、桑山に抱かれた時こそ騙し討ちに遭った気持ちだったけれども、ホントは最後まで沖野のことを好きだったのではないかと考えます。
タイトルからしてそうですが、主人公の男女の恋愛心理に重点を置いている印象。原作から改変された結末は個人的にはイマイチでしたが、平幹二朗、中谷一郎、殿山泰司といった俳優たちの手堅い演技と、奈美を演じた香山美子(当時31歳)の美貌が堪能できるドラマでした。香山美子はこの2年後に「江戸川乱歩の陰獣」('77年/松竹)で
初ヌードを披露することになりますが(本作にでも情事の場面がある)、一方で、時代劇「銭形平次」('70年‐'84年/フジテレビ)で平次の妻・お静役を長く務めました。因みに、この「松本清張シリーズ」の第1次シリーズ12作のすべてに原作者・松本清張がカメオ出演しています。
「松本清張シリーズ・愛の断層」●演出:岡田勝●脚本:中島丈博●音楽:眞鍋理一郎●原作:松本清張「寒流」●出演:平幹二朗/香山美子/中谷一郎/殿山泰司/高田敏江/森幹太/鈴木ヒロミツ/山崎亮一/松村彦次郎/鶴賀二郎/望月太郎/




「黒い画集 第二話 寒流(黒い画集 寒流)」(映画)●制作年:1961年●監督:鈴木英夫●製作:三輪礼二●脚本:若尾徳平●撮影:逢沢譲●音楽:斎藤一郎●原作:松本清志「寒流」●時間:96分●出演:池部良(沖野一郎)/荒木道子(沖野淳子)/吉岡恵子(沖野美佐子)/多田道男(沖野明
)/新珠三千代(前川奈美)/平田昭彦(桑山英己常務)/小川虎之助(安井銀行頭取)/中村伸郎(小西副頭取)/小栗一也(田島宇都宮支店長)/松本染升(渡辺重役)/宮口精二(伊牟田博助・探偵)/志村喬(福光喜太郎・総会屋)/北川町子(喜太郎の情婦)/丹波哲
郎(山本甚造)/田島義文(久保田謙治)/中山豊(榎本正吉)/広瀬正一(鍛冶久一)/梅野公子(女中頭・お時)/池田正二(宇都宮支店次長)/宇野晃司(山崎池袋支店長代理)/西条康彦(探偵社事務員)/堤康久(比良野の板前)/加代キミ子(桑山の情婦A)/飛鳥みさ子(桑山の情婦B)/上村幸之(本店行員A)/浜村純(医師)/西條竜介(組幹部A)/坂本晴哉(桜井忠助)/岡部正(パトカーの警官)/草川直也(本店行員B)/大前亘(宇都宮支店行員A)/由起卓也(比良野の従業員)/山田圭介(銀行重役A)/吉頂寺晃(銀行重役B)/伊藤実(比良野の得意先)/勝本圭一郎/松本光男/加藤茂雄(宇都宮支店行員B)/細川隆一/大川秀子/山本青位●公開:1961/11●配給:東宝(評価:★★★☆)


ある晩、民家の玄関先にトラックが突っ込む事故が起きる。事故を起こしたのは運送会社のトラック運転手の山宮健次(二瓶康一(火野正平))。突っ込んだ先は会社重役宅で、夫人の山西三千代(山本陽子)が寝間着姿で出てきた。後日、運送会社の事故担当の高田(佐野浅夫)は山西宅に謝罪に行くが、三千代夫人が出てきて、夫は「出社」していると言う。その頃、興信所の調査員・浜口久子(野際陽子)は、所長の加納(田村高廣)に辞職を申し出てい
た。有能な部下の突然の辞意を訝しがる加納。久子は、山西三千代の浮気調査を担当していた。実はトラック事故は、久子が三千代夫人の情事の確証を得るため、自分の年下の愛人である山宮に頼んで、夫の留守に山西邸の玄関に突っ込ませたという人為的なものだった。一方、それ以前に加納は、三千代夫人から夫の山西省三(渡辺文雄)の浮気調査の依頼を受けていた。そして、山西の浮気の確証が
を得るも、三千代夫人は現場を押さえることなく加納の胸に飛び込んできたのだった。そして今度は、妻の浮気を疑った山西が加納の興信所へ調査依頼にきて、それを担当していたのが調
査員の浜口久子だった。山宮に事故を起こさせた際に現場に待機していた久子は、慌てて二階から下りてきた三千代夫人とその愛人を見て、三千代夫人の密会相手が自分が勤める興信所の所長の高田だったとわかり衝撃を受けたのだった。彼女がそのことを吹き込んだテープを聴いた加納は、同じものを彼女が山西に送れば身の破滅であると悟り、久子と山宮の殺害を決心する
―。山梨県内で同じ日に久子と山宮の死体があがる。遺体安置所には山宮の遺体と久子の遺体が並べられ、運送会社の高田が山宮の遺体確認のためそこを訪れた際には、加納も久子の遺体確認に来ていた。高田にすれば、片や自分の会社の社員で、片やその社員がトラックで突っ込んだ家の夫人である。高田はふと山宮が起こした事故に不自然なものを感じ、山宮の死と久子の死は関連があるのではないかとの疑念を抱く。山宮の事故当時の相方の運転手だった佐々(千昌夫)に事情を訊くなどするうちにその疑念は確証に代わり、加納と久子が公園で逢っているところを直撃して牽制する。しかし、山宮の死体と久子の死体は同じ県内とは言え50キロ離れた場所で見つかっており、その謎が高田にはまだ解けなかった―。
ただ、泥臭い犯行場面は割愛して佐野浅夫が演じる運送会社の高田の推理に任せることとし、田村高廣と山本陽子が不倫関係に陥ってしまった男女を情感豊かに演じることに注力した、メロドラマ的色合いが濃い作りになっていますが、これはこれでいいのでは。その流れで、ラストは"道行き"のような感じで、報道上はこれも「事故」の1つに過ぎないという、冒頭のトラックの「事故」が実は人為的なものだったということに絡めたオチでもありました。
ミステリとしてもサスペンスとしても楽しめ、「寒流」が原作の前作「
も悪くなかったです。火野正平(本名と同じ「二瓶康一」名義で出演)や渡辺文雄といった脇役陣の演技まで愉しめるし、なぜか千昌夫が火野正平の同僚のトラック運転手役で出ていた
り、公園の遊具の整備係の役で原作の松本清張がカメオ出演していたりもします。ドラマ化作品の中ではよく出来ている方だと思います。
山本陽子
火野 正平(本名:二瓶 康一)(俳優)

潮田芳子(安奈淳)は複雑な家庭環境で育った故郷をから都会へ出て、庄田咲次(室田日出男)と出会ったが、実は咲次は妻子持ちで、芳子を働かせては金をむしり取るヒモだった。地獄のような生活が続き、ついに芳子は咲次の留守中に家を出る。その後、信州伊那で働いている時、会社の研修旅行で来ていた潮田早雄(新克利)と出会い、二人は結婚する。やっとまともな生活に落ちつけた芳子だが、技術者として腕の立つ潮田は、部長(永井智雄)からブラジルへの単身赴任を言い渡される。咲次は過去の出来事を国際電話で夫に知らせると脅してくる。芳子は咲次に、夫への気持ちがなくなったといい、梅子と一緒にピクニックに誘う。昇仙峡に着き、芳子は用意していた弁当を広げると二人にすすめ、毒物入りのにぎりを食べさせて殺し、その場から逃げ去る。東京へ戻った芳子は、二人が無理心中として片付けられたか気になっていたが、地方紙ならば事件の報道がされるのではないかと思いつく。ふと定食屋で見た「野盗伝奇」のことを思い出し、甲信新聞に、この連載が面白そうだから定期購読をしたい、19日付から送ってほしいと手紙を出す。一か月経った頃、ようやく二人の死体が発見され、妻子持ちの咲次に結婚を迫っていた梅子が無理心中を図ったのではないかとの記事が載る。その後暫く購読を続けたが、二人の事件に関する記事はなく、無理心中で終わったと考えて、芳子は「野盗伝奇」がつまらなくなったので購読をやめたいとの手紙を新聞社に送る。あとは、怪しまれないよう暫く店を続け、適当な頃に辞めて夫の帰りを待つだけだ。「野盗伝
奇」の作者・杉本隆治(田村高広)は売れない作家で、担当の宮口(森本レオ)からも、作風が堅いので、もっと大衆が好む作品を書いてくれと苦言を呈されている。家でも妻(中原早苗)から犬の散歩係と見られいるありさまのパッとしない男だ。そんな杉本は、「野盗伝奇」を読むために購読を申し出た女性読者がいると知り、いい気分になって芳子に礼状を送っていた。しかし、やがて「野盗伝奇」がつまらなくなったので購読を辞めたいと女性が言ってきたことを知り落胆する。だが、「野盗伝奇」は前よりも面白くなっている自信があり、納得がいかない。杉本はふと、芳子が連載に興味を持ったというのは口実ではないだろうか、19日以降掲載される可能性のある何かを見たくて申し込んだのかもと思い、新聞を読んで1か月前の心中事件を見つけ、時間の符号をみる。杉本は興信所へ行き、潮田芳子の調査を依頼し報告を受ける。彼女は夫が海外赴任中に交通事故に遭ったと嘘をつき、新宿の「ニュー愛」でホステスをしていて、その前に勤めていた「ブラックワン」で、芳子のツケで飲んでいた男が死んだ咲次と風貌が似ていることを知る
。杉本がニュー愛へ行ってみると、芳子はヨシエと名乗っていて店に出ていた。芳子は、礼状まで送ってきた杉本を売れない小説家だと軽く考えていたが、杉本が店へ甲信新聞を忘れていき、しかも咲次と梅子の心中事件の記事の切り抜きが入っていたことから、彼がただ会いに来たのではないと気づく。杉本は、宮口と集文社のふじ子(奈美悦子)に頼み、咲次と梅子が死んだ時と同じ格好をさせて林の中でその後姿をカメラに撮ると、ニュー愛へ行って、写真を店で広げて見せた。芳子はそれが咲次と梅子の後姿にソックリで驚き思わず気分が悪くなるが、その姿を杉本が見ていた。そんな折、芳子に夫から電話があり、来月ブラジルから帰国するという。その前に、心中事件に探りを入れてきている杉本を始末しなければならない。杉本は芳子を"よしべえ"と呼ぶようになり、それぞれの肚の内を探りながらも打ち解けているというような奇妙な間柄になっていた。芳子は杉本に女性の友人を交えて三人でピクニックへ行こうと誘う。杉本は承諾し、ふじ子を誘ってピクニックへ行くこととなる。当日早起
きして弁当を用意した芳子は、杉本に電話し、先にひとりで行くので後で天城峠で待ち合わせようと言う。あの時と同じように現地で落ち合い、三人で歩き出し目的地へ着くと、杉本は芳子とふじ子の二人の写真を撮る。お腹が空いたからと芳子は持ってきたサンドイッチをフジコにすすめる。ふじ子がそれを口にしようとしたとき、杉本はそれに毒が入っていると言って食べるのをやめさせる。杉本は、咲次と梅子にも毒の入った食べ物を食べさせて心中に見せかけて殺したのだろうと問い詰めるが、そんな杉本の推理を芳子は笑い飛ばし、死ぬかどうか見てと言って自分でサンドイッチを食べる。しかし、芳子は死なない。芳子は先生とはこれっきりサヨナラと吐き捨て去っていく。その後、杉本は苦心してニュー愛のママ(ひろみどり)の家を突き止めて行ってみると、ママは芳子から杉本宛への手紙を預かっていた。そこには、すべては杉本のいう通りで、自分が二人を殺そうとしたことを認めていた。毒はジュースの中に入れていたと言い、潮田と会った場所でそのジュースを飲むのだという。杉本がその場所を探し出し到着した時には、ジュースを飲みほした芳子が死んでいた―。


'16年のテレビ朝日の田村正和・広末涼子版もちらっと観ましたが、田村正和(1943-2021/77歳没)は兄・田村高廣と同じ役を35年後に演じたことになりますが、演技が半ば"老後の古畑任三郎"になっていました(笑)。こちらも最後、主人公は死なず、自首することが仄めかされていますが、そうしたテレビ的な結末になっている分だけやや凡庸な印象でしょうか。
'73年の夏圭子版は、これは比較的原作に近い形で作られていて、芳子役の夏圭子の演技も良かったし、小説家・杉本を演じた井川比佐志の演技も良かったですが、原作にはない山本圭が演じるトップ屋が出てきたりして、2時間ドラマではなく1時間枠(正味45分)なので、やるならもっと別な部分を肉付けした方が良かったような気もします。
安奈淳は、「ベルサイユのばら」でオスカル役を演じ、第1期ベルばらブームを築いた元宝塚の花組男役のトップスターですが(月組の榛名由梨・星組の鳳蘭・雪組の汀夏子とともに「ベルばら四強」と呼ばれた)、1978年7月31日、花組・東京宝塚劇場公演「風と共に去りぬ」(スカーレット・オハラ役)を最後に退団しており、ドラマ初出演は、その年['78年]のNHKの大河ドラマ「黄金の日日」(原作:堺屋太一)の 第47、48話でのフィリピン人娘ツルの役でした。この松本清張原作のドラマへの出演は宝塚退団の3年後になります。テレビドラマへの出演はそう多いわけではないですが(2000年に膠原病の一種であるSLEで倒れ、そこから奇跡の復帰を遂げている)、演技は上手いと思いました。


宝石窃盗犯・西岡三郎(睦五郎)が脱獄し、逃走中に仲間(沖秀一)を射殺して行方をくらます。撃たれた男の最期の言葉から、西岡は白髪の鬘を被って変装しているらしい。明智も事務所で文代(五十嵐めぐみ)、小林(柏原貴)とこのニュースを見ていた。西岡は10年前に盗んだ宝石の隠し場所である、富豪・大牟田の別荘にある墓所に行くが、盗品は全て無くなっていた。西岡の行方を追う波越警部(荒井注)に、大牟田家に痴漢が入
ったという通報が入る。痴漢は白髪にサングラスの男とのことで、一同は大牟田家へ向かう。大牟田邸では、未亡人のルリ子(金沢碧)が、妹の豊子(田島はるか)と画家の川村(小坂一也)と3人で住んでいた。ルリ子は夫の財産が思ったより少なかったため、近くの別荘を売却するという。別荘には
川村が住んでいたが、ルリ子と川村は結婚することとなり一緒に住み始めたのだった。ルリ子は前夜、入浴中に白髪とサングラスの男に覗かれたという。すると、別荘の買い手と
して現れた、顔にアザがある白髪にサングラスの里見(田村高廣)という
人物が、それは自分だと告白する。別荘の持ち主の家を捜しているうちに近くまで来て、庭から浴室を覗いてしまったのだという。西岡に関する情報もなく一同は大牟田邸を去る。里見が夫に似ているのを気味悪がるルリ子たち。実は大牟田(田村高廣、二役)はルリ子に唆された川村が断崖から突き落として殺害し、妹の豊子もこのことを知っていて、さらに、主治医の住田洋子(奈美悦子)を使って他殺と判らないように死亡診断書を書かせていた。里見は近くのホテル
に宿泊していた。明智が大牟田家の墓へ来ると、散歩中の里見と会い、彼はルリ子を気に入って、彼女にプロポーズをするという。里見から宝石をプレゼントされ、欲深いルリ子の心は動く。ただ、里見のタバコを取り出す際の仕草やペンダントを振り回す癖が大牟田に似ているのが、夫の殺害に関与していたルリ子は気味が悪い。それでも、金に余裕がある里見へと関心がいくのだった―。
改変のポイントは、窃盗犯・西岡(原作では「紅髑髏」ことシナ海の海賊王・朱凌谿)を里見こと大牟田が利用して、犯行時のアリバイ工作をすることで(最初は西岡の方が利用していたのだが、途中で立場が逆転する)、原作にはこうした話はありません(ドラマでは、犯人が誰か(WHO)ということより、犯人がどうやったか(HOW)がポイントになっている)。原作は、瑠璃子(ルリ子)、川村、里見の3人以外に主だった登場人物はいないシンプルな作りで、プロットよりも「怪奇・復讐譚」であることにウェイトが置かれていますが、ドラマでは、原作には無いルリ子の妹や主治医まで共謀者として登場させ、何れもが大牟田の復讐対象となっています。
恒例の「浴室」要員は、風呂場で覗き被害に遭う「宝石の美女」ことルリ子を演じた金沢碧(1953年生まれ)で、本人と吹き替えを巧みに織り交ぜて(笑)、自然な感じで撮られていました。この「江戸川乱歩の美女シリーズ」は、1977年から1994年までテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」で17年間放送されたテレビドラマシリーズですが、金沢碧はこの「土曜ワイド劇場」に1979年から2012年までの間、全部で27回出演していて、その中でこの「宝石の美女」が初登場でした。この「美女シリーズ」でも第15話「鏡地獄の美女」('81年)で再登場しますが、"天知茂版"の「美女シリーズ」で「美女」として2度出演したは叶和貴子(第17話「天国と地獄の美女」、第21話「白い素肌の美女」)と金沢碧だけで、この回が好評であったことを示すものかもしれません。
ドラマで付け加えられたキャラクターのうち、田島はるか(1957年生まれ)演じる妹の豊子は、裸にされて逆さ吊りされた遺体で発見されますが、田島はるかはもともとロマンポルノの女優なので、これは吹き替え無しでしょうか(1976年の日活時代から1978年の「にっかつ」初年まで活動)。奈美悦子(1950年生まれ)が演じる死亡診断書において私利のために共謀する主治医の住田洋子も、半裸の状態で遺体で発見されますが、これは"全裸"ではなく"半裸"なので、岩場に逆さに
突っ立った脚はともかく、あとは奈美悦子本人でしょう(何だか、こんなことばかりにこだわっている(笑))。奈美悦子は第13話「
先にも述べた通り、原作が犯人の手記による叙述スタイルであるところに無理やり明智を絡ませているため、プロセスにおいて明智が事件に関与する部分は少な目で、文代や小林に至っては殆ど事務所内にいるだけという感じでした。そうした
物足りない面もありますが、探偵ものではない原作を大幅アレンジしているわりには、原作のテイストはよく残しているように思いました(田村高廣の演技が光り、天知茂と競演する形になっている)。
を知った里見こと大牟田は、別の嬰児の屍体を入手し、川村や瑠璃子の恐怖を増すための演出に使ったのですが、この話はドラマでは割愛されています(気持ち悪すぎる?)。そして、語り手である人物は、今、十何年になる獄中生活にあるというオチです(終身刑に服していることを示唆)。原作で、閉じ込められたはずの瑠璃子が犯人の前に(おそらく幻影として)現れた時、彼女は、手に宝石をつかんで、それをサラサラと赤ん坊の上に砂遊びのようにこぼす仕草をし、この部分が原作の恐怖の最後のクライマックスになっていますが、ドラマでも、赤ん坊は出てこないものの、エンディングでその部分は活かしています。この辺りは、まずまず工夫されていたと思います。
江戸川乱歩には、アラン・ポーの「早すぎた埋葬」をモチーフにした作品が幾つかあり、この作品も、原作にも出てきたし、ドラマの方も明智がペーパーバック(英語版)を手にしています。しかし、この作品に関しては、埋葬された人物が墓所で甦るというのは、黒岩涙香版も、その元となったマリー・コレリの『ヴェンデッタ』も同じです。ウィキペディアによれば、江戸川乱歩版の原作・涙香版との主な相違点は、原作・涙香版ではあくまで妻と友人がしていたのは浮気のみで、主人公の死因は不測の事態であったのに対し、乱歩版は明らかの殺意が友人にある事。また、復讐方法も原作・涙香版では友人は衆人環視の拳銃による決闘で堂々と行っているのに対し、乱歩版は別荘におびき寄せてのからくり仕掛けによるじわじわした殺し方になっているなどより凄絶になっている点とのことです。また、法を無視しても復讐を肯定するか、それを犯罪者とするかは大きな違いで、乱歩版では終身刑になっている主人公が、原作・涙香版では復讐を果たした英雄のようになっているのは、マリー・コレリのオリジナルが、『モンテ・クリスト伯』や『巌窟王』など系譜の物語であることによるのでしょう。ドラマ版で明智などに出てこられると、復讐すら完遂できないというのは、まあ仕方がないのかもしれません。


1928(昭和3)年、大石久子(高峰秀子)は新任教師として、瀬戸内海小豆島の分校へ赴任する。1年生の磯吉、吉次、竹一、ミサ子、松江、早苗、小ツル、コトエなど12人が初めて教壇に立つ久子には愛らしく思え、田舎の古い慣習に苦労しながらも、良い先生になろうとする。ある日、久子は子供
のいたずらで落とし穴に落ちて負傷し、長期間学校を休んでしまうが、先生に会いたい一心の子供たちは2里の道程を歩いて見舞いに来てくれ、皆で海辺で記念写真を撮る。しかし、自転車に乗れない久子は、住まい近くの本校へ転任することに。1933(昭和8)年、5年生になって子供たちは本校へ通うようになり、久子は結婚していた。子供たちにも人生の荒波が押しよせ、大工の娘・松江は母親が急死し、奉公に出される。久子は修学旅行先の金比羅で偶然に松江を
見かけることになる。軍国主義の影が教室を覆い始めたことに嫌気さした久子は、子供たちの卒業とともに教壇を去る。8年後の1941(昭和16)年、戦争が本格化し、教え子の男子5人と久子の夫は戦争に出征、漁師の娘コトエは大阪へ奉公に出るが、肺病になり物置で寝たきりになる。1945(昭和20)年、久子の夫は戦死し、かつての教え子も、竹一ら3人が戦死、ミサ子は結婚し、早苗は教師に、小ツルは産婆に、
そしてコトエは肺病でひっそりと死んだ。久子には既に子が3人あったが、2歳の末っ娘は空腹に耐えかねた末に木になる柿の実を採ろうとして転落死する。翌1946(昭和21)年、久子は再び岬の分教場に教師として就任する。児童の中には、松江やミサ子の子供もいた。一夜、ミサ子、早苗、松江、マスノ、磯吉、吉次が久子を囲んで歓迎会を開いてくれ、磯吉は両目の視力を失っていた。かつての教え子たちは久子に自転車をプレゼントする。数日後、岬の道には元気に自転車のペダルを踏む久子の姿があった―。
木下惠介(1912-1998/享年86)監督の1954(昭和29)年公開作で、同年「キネマ旬報 ベスト・テン」で第1位(2位も同監督の「女の園」('54年/松竹))、「毎日映画コンクール」日本映画大賞、「ブルーリボン賞」作品賞、1954年度「ゴールデングローブ賞」外国語映画賞受賞作。文藝春秋刊『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版)第7位。壺井栄(1899-1967/享年67)の原作『二十四の瞳』は第二次世界大戦の終結から7年後の1952(昭和27)年に発表されていて(原作は瀬戸内海に浮かぶ島を舞台としているが、その島の名前は一度も出てこない。但し、小豆島は作者の出身地である)、映画は原作発表の翌年春から撮影が始まり、翌々年に公開されたということになります。
あの三島由紀夫は、最も好きな日本の映画監督に木下惠介監督を挙げていますが、「二十四の瞳」に関しては、「間がどうも古いね。泣かせる間がちゃんとできている。(中略)絶対、泣かなくなっちゃう、腹が立ってきてね」と雑誌の読者座談会で発言しており(同じ理由でビットリオ・デ・シーカの「自転車泥棒」('48年/伊)なども嫌いだったらしい)、「泣かせる」演出に嫌悪感があったようです(川内由紀人『三島由紀夫、左手に映画』('12年/河出書房新社))。自分も40代くらいまではあまり好きでなかったし、テレビなどでやっているとチャンネルを変えたりしていたように思いますが、今は年齢と共に素直に(?)"泣ける"ようになったのかも(やっぱり劇場で観る方がいい)。
リメイクされたりもしていますが(映画では田中裕子版('87年)が、テレビドラマでは黒木瞳版('05年)、松下奈緒版('13年)などがある)、戦後10年以内に作られたこの作品が持つ独特の時代的、地方的な雰囲気があり(風光明媚な瀬戸内の風景や、素朴な人々の暮らしぶりといった背景)、それより後の映像化作品でこの作品を超えるのは難しいように思います(同じことが同監督の3年後のカラー作品「喜びも悲しみも幾歳月」('57年/松竹)についても言える。両作品とも季節の違いはあるが波止場で人々が出征兵士を見送るシーンがあり、それがまるで記録映像を観ているように見える)。勿論、「時代色」「地方色」だけでなく、木下惠介監督の演出のきめ細かさも光っているように思います。
先に書いたように、物語には1928(昭和3)年、1933(昭和8)年、1941(昭和16)年、そして1945(昭和20)年から1946(昭和21)年という、大まかに言って4つのシークエンスがあり(こうした構成も「喜びも悲しみも幾歳月」に似ている)、この間に子供たちはそれぞれ6歳(小学校1年生)、10歳(小学校5年生)、18歳、22歳と成長し、大石先生も20代から40代になるわけですが、20代から40代の大石先生を巧みに演じ分けている高峰秀子もさることながら、子役たちも子供から大人になるまでが自然に繋がっているという感じです。
特に、6歳(小学校1年生)と10歳(小学校5年生)の配役は、全国からよく似た兄弟、姉妹を募集し、3600組7200人の子供たちの中から、12組24人が選ばれたとのことで(大人になってからの役者も、その子供たちとよく似た役者を選んだ)、観ていて「あの子が成長してこうなったのだな」などとと分かり、顔立ちや目元まで似ていたりすると結
構はっとさせられます。でも、兄弟、姉妹を顔が似てるかどうかを基準に選んだということは、それをどう演出するかは、木下惠介監督には相当な自信があったのではないでしょうか。実際、子役たちから巧まざる上手さを引き出しているように思いました。「泣ける」背景には、こうした戦略的かつ細やかな技巧の積み重ねがあり、それが、声高ではないのに反戦映画としての訴求力があることに繋がっているのだと改めて思われ、評価「◎」としました。
音楽の木下忠司(きのした・ちゅうじ、1916-2018)は木下惠介監督の弟で、この「二十四の瞳」をはじめ、「女の園」('54年/松竹)、「
には、「大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン」('66年/大映)や「トラック野郎シリーズ」(東映、全10作中、8作を担当)なども手掛けています。NHKのテレビドラマ「
黄門様(東野英治郎)が悠々自適の生活を送っている常陸の国・西山荘。そこに程近い山道を必死に急ぐ二人の武士がいた。その二人を追う黒覆面の武士の一団が突如二人に襲いかかる。必死に応戦する二人は炭焼小屋へ逃げ込むが、火を放たれ、一人は倒れ、残る侍も危機に陥った。だが、間一髪、危ういところを風車の弥七(中谷一郎)が救う。西山荘にかつぎこまれた若侍は、実は加賀百万石前田家の城代家老・奥村作左衛門(三船敏郎)の息女・由美(栗原小巻)であった。由美の話では、加賀百万石は次席家老・村井主水(安部徹)の悪企みでお家騒動の渦中にあるという。話を聞いた黄門一行は加賀藩とその領民を救うべく加賀へと向った。越後へさしかかった一行は、とある旅籠に"水戸御老公様御宿"と大書した看板を見つける。何とニセ黄門の逗留だ。敵の目をくらますため、この連中を江戸へ立たせた黄門一行は加賀へと向かう―。
TV放送当時の第9部のキャスト陣が中心だそうで、88分という小品の尺に4話分くらいの話を詰め込みコンパクトに纏めている。当時のレギュラーメンバー(東野英治郎・里見浩太朗・大和田伸也・中谷一郎・高橋元太郎)に大物ゲスト(三船敏郎・栗原小巻・竹脇無我・ハナ肇・植木等・谷啓)そしてお馴染みの悪役俳優(安倍徹・川合伸旺・遠藤太津朗・富田仲次郎・汐路章・牧冬吉・深江正喜)と総出演。加賀藩次席家老・村井主水(安部徹)や悪代官・黒部八太夫(遠藤太津朗)が暗躍、彼らの悪事を挫くため黄門一行が動くも、ニセ黄門一行(ハナ肇・植木等・谷啓)が現れるなど、一筋縄にいかない展開。ただ、大筋としては黄門様が、三船敏郎が演じる城代家老を次席家老の陰謀から救う話なのだが、三船敏郎と東野英治郎の関係が「
「二十四の瞳」●制作年:1954年●監督・脚本:木下惠介●製作:桑田良太郎●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:壺井栄●時間:156分●出演:高峰秀子(大石久子)/天本英世(大石久子の夫)/夏川静江(久子の母)/笠智衆(分教場の男先生)/浦辺粂子(男先生の妻)/明石潮(校長先生)/高橋豊子(小林先生)/小林十九二(松江の父)/草香田鶴子(松江の母)/清川虹子(よろずやのおかみ)/高原駿雄(加部小ツルの父)/浪花千栄子(飯屋のかみさん)/田村高廣(岡田磯吉)/三浦礼(竹下竹一)/渡辺四郎(竹下竹一(本校時代))/戸井田康国(徳田吉次)/大槻義一(森岡正)清水龍雄(相沢仁太)/月丘夢路(香川マスノ)/篠原都代子(西口ミサ子)/井川邦子(川本松江)/小林トシ子(山石早苗)/永井美子(片桐コトエ)●公開:1954/09●配給:松竹●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(18-05-08)(評価:★★★★☆)










「水戸黄門」(劇場版)●制作年:1978年●監督:山内(やまのうち)鉄也●製作(プロデューサー)西村俊一/郡進剛/森誠一/神先頌尚/杉本直幸●原案・脚本:葉村彰子●撮影:増田敏雄●音楽:木下忠司●時間:88分●出演:東野英治郎/里見浩太朗/大和田伸也/高橋元太郎/中谷一郎/和田浩治/山口いづみ/鮎川いづみ/谷幹一/遠藤太津朗/富田仲次郎/稲葉義男/浜田寅彦/川合伸旺/東野英心/深江章喜/汐路章/牧冬吉/正司歌江/正司照江/正司花江/伊藤洋一/ハナ肇/植木等/谷啓/加藤嘉/安部徹/岩尾正隆/栗原小巻/竹脇無我/三船敏郎●公開:1978/12●配給:東映)(評価:★★★)
「水戸黄門(14-21)(西村晃版)」)●監督:山内鉄也/荒井岱志/居川靖彦/倉田準二/居川靖彦/倉田準二ほか●脚本:葉村彰子/櫻井康裕/大西信行/芦沢俊郎/大久保昌一良/廣澤榮/伊上勝ほか●音楽:木下忠司●出演:西村晃/里見浩太朗/伊吹吾朗/高橋元太郎/山口いづみ/片平なぎさ/鳥越マリ/せんだみつお/由美かおる/野村将希/中谷一郎/あおい輝彦●放映:1983/10~1992/11(全283回)●放送局:TBS


江戸築地明石町の伊三郎(高山徳右衛門)一家は、真の任侠道に生きることを信条としていた。一方、任侠道の裏を行く新興の但馬屋の仁右衛門(荒木忍)は、悪徳商人の丸谷惣平(大国一広)と組んで明石町の長屋を立ち退かせ、そこに歓楽街を作って、伊三郎一家を蹴落そうとしていた。伊三郎一家の三ン下の政吉(片岡千恵蔵)は、長屋で母おかね(二葉かほる)と二人暮しで、隣家の浪人小磯文之進(長浜藤夫)の娘お雪(琴糸路)とは相思の仲だった。政吉の兄貴分の弥吉(原聖三郎)が但馬屋一家の企みを知り、密かに但馬屋一家へ掛け合いに行くが、やがて水死体となって大川に浮かぶ。憤怒した政吉は単身但馬屋に乗り込むが、子供扱いされ追い返される。悔しさを伊三郎に訴える政吉を、親分は「何も恥じるこたねえ。おめいにはまだ貫禄が足りねいのだ」と諭し、「修行して立派な男になって帰って来い」と励まし旅に出す。そして3年、世は明治となり、但馬屋一家は官権溜池の御前(大井正夫)を黒幕に勢力を広げていた。御前は芸妓雪松に懸想し、仁右衛門が口説き役に廻ったが雪松はうんと言わない。雪松こそ病に伏す父のため芸妓になったお雪だった。そんな折政吉が旅から帰って来て、強引に立ち退き工作を進める但馬屋一家の横暴を知った政吉は但馬屋一家に乗り込むが、そこに大親分鮫洲の卯之助(小川隆)の仲裁が入り、事は納ったかにみえた。しかし、但馬屋一家は卯之助を謀って仲裁を無効にし、大挙して伊三郎一家を襲撃、親分にもケガを負わせる。今まさにお雪と祝儀を挙げたばかりの政吉は、これを知って単身但馬屋一家へ乗り込み、遂に仁右衛門を叩き斬る。そんな政吉に旅に出ることを勧める親分に対し、政吉は新時代に生きる人間になりたいと言い自首しに行く―。
太平洋戦争が始まってちょうど丸1年経った頃の1942(昭和17)年12月11日公開の八尋不二のオリジナル脚本、森一生監督作で、1962(昭和37)年に同じく八尋不二のオリジナル脚本、森一生監督により勝新太郎、小山明子主演でリメイクされています。
例えば、上記シリーズの中で最も早く作られたマキノ雅弘監督の「日本侠客伝」('64年/東映)も、深川木場の材木を運び出す運送業者の木場政組と親興の沖山運送の対立が背景にあって、新興やくざの非道に対して、昔気質の一家がじっと忍耐した末に斬り込みに行くというストーリーはよく似ているし、旅に出ていた片岡千恵蔵・政吉が戻って来て一家の危機を救うという構図は、出征先から戻って来た高倉健・長吉が一家を救うのと同じです(この映画でも高倉健は最後着物をはだけて上半身裸になるが、長吉は軍人上がりで躰に入れ墨はない)。
一方、「日本侠客伝」における狭い意味での"侠客"は、中村錦之助演じる一家の"客人"清治でしょう(当初は中村錦之助が主演予定だったが、中村錦之助のスケジュールがつかず、高倉健を主演にした脚本に変更された)。清治は、世話になった親分への義理のために覚悟して死地へ向かいますが、その女・三
田佳子演じるお咲には彼が何を考えているか分かっていて、こちらもそれを制止することなく最後の杯を交わして男を送り出します。一方の高倉健・長吉は、清治の遺体を見て意を決し、まさかそんなことになるとは思ってもいない恋仲の富司純子・お文には黙って何も告げず、敵方へ斬り込みに向かいます。ここでの富司純子は、「緋牡丹博徒」(シリーズ1968-1972、全8作)が始まる前の"お穣さん"的な役柄ですから、「三代の盃」で琴糸路・お雪に対応する役は(お雪も武家の娘でお嬢さんではあるが)、その精神性においては富司純子のお文よりむしろ三田佳子のお咲であるとも言えます。
「三代の盃」の片岡千恵蔵は、三ン下の頃は江戸時代で髷であるのが、旅から戻って来た時は明治で散切りですが、三ン下の頃からすでに貫禄が隠し切れず、やや窮屈そうな演技でしょうか(「
尚、片岡千恵蔵版で政吉が旅に出てからの年月の経過を表すために、旅芸人一座が街道を行くシーンとその一座の久保幸江(1924-2010/享年86)の歌が流れますが、久保幸江のデビューは1948年であり、これは戦後に久保幸江を特別出演させてフィルムを改修したものだそうです。やはり、そうしたシーンで入れて時間的経過を表す間を持たせないと、場面が切り替わって髷から散切りになっただけでいきなりすぐに迫力が増すというのは、当時としても観ていてやや唐突な印象があったのではないかという気がします。
「三代の盃(花嫁一本刀)」●制作年:1942年●監督:森一生●脚本:八尋不二●撮影:松村禎三●音楽:西梧郎●時間:67分●出演:片岡千恵蔵/琴糸路/高山徳右衛門/林寛/荒木忍/近松里子/長浜藤夫/原聖四郎/小川隆/大井正夫/香
住佐代子/二葉かほる/梅村蓉子/ 仁札功太郎/岬弦太郎/川崎猛夫/石川秀道/大国一公/水野浩/横山文彦 /久保幸江●公開:1942/12●配給:大映(京都撮影所)(評価:★★★☆)
「日本侠客伝」●制作年:1964年●監督:マキノ雅弘●脚本:笠原和夫/
野上龍雄/村尾昭●撮影:三木滋人●音楽:斎藤一郎●時間:98分●出演:中村錦之助(萬屋錦之介)/高倉健/大木実/松方弘樹/田村高廣/長門裕之/藤間紫/富司純子/南田洋子/三田佳子/伊井友三郎/ミヤコ蝶々/津川雅彦/島田
景一郎/五十嵐義弘/南都雄二/徳大寺伸/加藤浩/佐々木松之丞/島田秀雄/堀広太郎/那須伸太朗/大城泰/安部徹/天津敏/品川隆二/国一太郎/佐藤晟也/大井潤/月形哲之介/大前均/楠本健二/有馬宏治/内田朝雄●公開:1964/08●配給:東映(評価:★★★☆) 






警視庁捜査第一課の刑事・下岡(宮口精二)と柚木(大木実)は、質屋殺しの共犯者・石井(田村高廣)を追って佐賀へ発った。主犯の自供によると、石井は兇行に使った拳銃を持ってい、三年前上京の時別れた女・さだ子(高峰秀子)に
会いたがっていた。さだ子は今は佐賀の銀行員横川(清水将夫)の後妻になっていた。石井の立寄った形跡はまだなかった。両刑事はその家の前の木賃宿然とした旅館で張込みを開始した。さだ子はもの静かな女で、熱烈な恋愛の経験があるとは見えなかった。ただ、二十以上も年の違う夫を持ち、不幸そうだった。猛暑の中で昼夜の別なく張込みが続けられた。三日目。四日目。だが石井は現れなかった―。
原作は松本清張が「小説新潮」1955年12月号に発表した短編小説。橋本忍脚本、野村芳太郎監督によるこの映画化作品では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が原作の1人に対して2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1人にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写せねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノローグ過剰とならざるを得ず、しかも、見張る側の私的な状況など原作には無い描写を多々盛り込んでおり、もともと短篇であるものを2時間にするとなると、こうならざるを得ないのでしょうか。しかしながら、この作品の世評は高く、野村芳太郎はこの作品で一気にメジャー監督への仲間入りを果たすことになります。
因みに、松本清張本人が評価していた自作の映画化作品は、この「張込み」と、「
•1970年「張込み(NTV)」加藤剛・八千草薫・浜田寅彦
女主人公の方は、映画では高峰秀子が演じ、テレビドラマでは八千草薫や吉永小百合などが演じているとなると、女優にとっては演じてみたい役柄なのでしょう。でも、相応かつ相当の演技力が要求される役どころだと思います。
そして2011年にまた、TX系の「水曜ミステリー9」で、「松本清張特別企画」として、若村麻由美・小泉孝太郎主演で放送されました(若村麻由美は「無名塾」種出身。90年代にも清張ドラマに何度か出演しており、女優業復帰でこの人も結構長いキャリアになる)。
張り込む刑事は小泉孝太郎1人で、先輩刑事のムダだという意見に抗して張り込むことを主張する熱血漢である一方で、色男でもあり、かつて関与したDV事件の女性被害者に対して、今はストーカーまがいのことをしているという変なヤツ。原作ではラストに1回あるだけの、主人公の女(若村麻由美)との接触場面が矢鱈と多く、逃亡中の犯人(元恋人)と女を引きあわせるお膳立てまでして、結果として女の目の前で犯人は取り押さえられることになり、これって却って残酷ではなかったかと思ってしまいます。
原作にはあまり記述の無い女の家庭での妻としての暮らしぶりが描かれることは、これまでのドラマ化作品でもあったかと思いますが、これはやや"描き過ぎ"。しかも、「幸せそうではない」夫婦生活のはずが、一見「幸せそうな」家庭になっていて、夫婦の結婚の経緯から始まって、女の夫が携帯の着信記録から妻の行動に不審を抱き妻を問い詰めると、ストーカーに狙われていると言うので警察に通報するとか、事件解決後に女は家から出奔してしまうとか―何だか余計なものを付け加え過ぎて、原作とはテーマからして別物になった感じでした(ベクトル的には原作と真逆。特にラストは)。
ドラマ化されるごとに原作から離れていく感じがしますが、最近のドラマ化作品が原作と別物に見えるのは、野村芳太郎のモノクロ映画の冒頭で10数分間続く夜行列車のシーンに見られるような(その外にも移動シーンで蒸気機関車がふんだんに見られ、S
Lファン必見作?)、高度成長期初期の熱に浮かされたような活気や雑然とした時代の雰囲気みたいなものが、最近のテレビドラマでは再現されにくいということもあるのかもしれません。まあ、半世紀以上経っているのだから仕方が無いか。 [上写真]「張込み」撮影風景(高峰秀子)
野村芳太郎監督の映画化作品を最初に観た時の個人的評価は星3つでしたが(多分、原作との違いが気にかかったというのもあったと思う)、今観直すと、時代の雰囲気をよく伝えているような印象も。後にこれを超えるものが出てこないため、相対的にこちらの評価が高くなって星半分プラスしたという感じでしょうか。
「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張込み」●時間:116分●出演:大
木実/宮口精二/高峰秀子/田村
高廣/高千穂ひづる/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦
田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)








この作品は何度かテレビドラマ化ざれ、佐藤慶('67年/テレビ朝日系/全26回)、田宮二郎('78年/フジテレビ系/全31回)、村上弘明(90年/テレビ朝日系/全2回)などが主役の財前五郎を演じています。更に最近では、'03年にフジテレビ系で唐沢寿明主演のもの(全21回)がありましたが、断トツの視聴率だったのは記憶に新しいところ(唐沢寿明版の最終回の視聴率32.1%で、'78年の田宮二郎版の最終回31.4%を上回る数字だった)。
しかしながら個人的には、やっぱりテレビ版よりは、原作を読む前に観た山本薩夫(1910-1983)監督による映画化作品(田宮二郎主演)が鮮烈な印象として残っており、また観たいと思っていたら、'04年にニュープリント版が銀座シネパトス(東銀座・三原橋の地下にあるこの映画館は、しばしば昔の貴重な作品を上映する。2013年3月31日閉館)で公開されたため、約20年ぶりに劇場で観ることができました。これも全て今回の唐沢寿明版のヒットのお蔭でしょうか。

田宮二郎(1935-1978/享年43)は、31歳の時にこの小説と巡り会って主人公・財前五郎に惚れ込み、作者の山崎豊子氏に懇願してその役を得たとのこと。その演技が原作者に認められ、それがテレビでも財前医師を演じることに繋がっていますが、テレビドラマの方も好評を博し、撮影終盤の頃、ドラマでの愛人役の太地喜和子(1943‐1992/享年48)との対談が週刊誌に掲載されていた記憶があります。それがまさか、ヘミングウェイと同じ方法でライフル自殺するとは思わなかった...。クイズ番組「タイム・ショック」の司会とかもやっていたのに(司会者は自殺しないなどという法則はないのだが)。
していたそうです。それが終盤に入ってうつ状態になり、リハーサル中に泣き出すこともあったりしたのを、周囲が励ましながら撮影を進めたそうで、彼が自殺したのはテレビドラマの全収録が終わった日でした(実現が困難な事業に多額の投資をし、借金に追われて「俺はマフィアに命を狙われている」とか、あり得ない妄想を抱くようになっていた)。当時週刊誌で見た大地喜和子とのにこやかな対談は、実際に行われたものなのだろうか。


文庫の方は、当初は正(上下2巻)・続に分かれていましたが、'93年の改定で「続」も含め『白い巨塔』として全3巻になり、更に'02年の改定で全5巻になっています(「続」という概念がある時期から消されているともとれる)。最近のテレビドラマもそれに準拠し、財前が亡くなるところまで撮り切っていますが、文庫で読むときは、もともとは今ある全5巻のうち、第3巻までで終わる話だったことを意識してみるのも良いのではないでしょうか。

は、権力に憧れる気持ちと真実を追究し正義を全うしようという気持ちが入り混じっているような"普通の人"も多く出てきて、この辺りがこの小説の充実したリアリティに繋がっていると思います。 

「白い巨塔」(映画)●制作年:1966年●製作:永田雅一(大映)●監督:山本薩夫●脚本:橋本忍●音楽:池野成●原作:山崎豊子●時間:150分●出演:田宮二郎
/東野英治郎/小沢栄太郎/小川真由美/岸輝子/加藤嘉/田村高廣/船越英ニ/滝沢修/藤村志保/下条正巳/石山健二郎/加藤武/里見明凡太朗/鈴木瑞穂/清水将夫/下條正巳/須賀不二男/早川雄三/高原駿雄/杉田康/夏木章/潮万太郎/北原義郎/長谷川待子/瀧
花久子/平井岐代子/村田扶実子/竹村洋介/小山内淳/伊東光一/南方伸夫/河原侃二/山根圭一郎/浜世津子/白井玲子/天池仁美/岡崎夏子/赤沢未知子/福原真理子●劇場公開:1966/10●配給:大映●最初に観た場所:渋谷・東急名画座(山本薩夫監督追悼特集) (83-12-05)●2回目:銀座シネパトス (04-05-02) (評価★★★★)





月1日「銀座東映」跡地に「銀座名画座」開館、1988(昭和63)年7月1日「銀座地球座」→「銀座シネパトス1」、「銀座名画座」→「銀座シネパトス2」「銀座シネパトス3」に改装。2013(平成25)年3月31日閉館













●2019年再ドラマ化【感想】'78年の田宮二郎版の全31回、'03年の唐沢寿明版の全21回に対して今回の岡田准一版は全5回とドラマ版としては短く、盛り上がる間もなくあっという間に終わってしまった感じで、岡田准一は大役を演じ切れてない印象を持った。最終回の視聴率が15.2%というのはそう悪い数字ではないが、この原作ならば本来はもっと高い数字になって然るべきで、やはり内容的に...。田宮二郎版の31.4%、唐沢寿明版の32.1%と比べると平凡な数字に終わったのもむべなるかなと。
哉/小円真●音楽/兼松衆●原作:山崎豊子「白い巨塔」「続・白い巨塔」●出演:岡田准一/松山ケンイチ/寺尾聰/小林薫/松重豊/岸部一徳/沢尻エリカ/椎名桔平/夏帆/飯豊まりえ/斎藤工/向井康

二/岸本加世子/柳葉敏郎/満島真之介/八嶋智人/山崎育三郎/高島礼子/市川実日子/美村里江/市毛良枝/小林稔侍●放映:2019/05/22-26(全5回)●放送局:テレビ朝日
