2013年10月 Archives

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「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ

幽霊譚風の味付け。雰囲気が出ていたが、話の複雑さが面白さに繋がっていないような気もした。

裂かれた肖像画 dvd.png 裂かれた肖像画 輸入盤1.jpg 裂かれた肖像画 霊媒師.jpg Eleanor and Troy
バーナビー警部 ~裂かれた肖像画~ [DVD]」"Midsomer Murders" Beyond the Grave(裂かれた肖像画)

裂かれた肖像画 1.jpg アスペンホール博物館の館長のアラン(マルコム・シンクレア)が、旅行者を連れて、土地の伝説的人物、ジョナサン・ローリーの生涯を案内していたところ、ローリーの肖像画が無残にも切り裂かれているのを見つけた。器物破損事件として、バーナビー警部(ジョン・ネトルズ)とトロイ巡査部長(ダニエル・ケーシー)がやってくる。アランは旧知の修復画家サンドラ(シェリル・キャンベル)に修理を依頼するが、夫を亡くして精神的に不安定な彼女を、不可解な心霊現象が襲い、遂に、ローリーの子孫を名乗るマーカス(チャールズ・サイモン)が真夜中の博物館で撲殺される事件が起きる―。

 トム・バーナビー警部のシリーズの第13話「裂かれた肖像画」(原題:Beyond the Grave)の本国放映は2000年2月5日、日本では2002年7月にNHK‐BS2にて前後編に分けて初放映され、その時のタイトルは「古城の鐘が亡霊を呼ぶ」でした。

 コナン・ドイルやクリスティを持ち出すまでもなく、英国人ってミステリにゴースト・ホラー(幽霊譚)風の味付けをしたものが好きそうだなあと。博物館に調査に赴いたバーナビーは付近の墓地でサバの燻製が落ちているのを見つけ、不審に思う―。う~ん、わけありの人物は、サバの燻製ばかり食べていたのか?

裂かれた肖像画  vs1.jpg裂かれた肖像画 vs2.jpg ロケに使われた古城に雰囲気があり、田舎町の風景も美しく、いつもながらに楽しめましたが、話が複雑な割には、その複雑さが面白さに繋がっていないような気もしました。真犯人はいかにも最初から怪しげだし、連続殺人に至る動機がやや弱い感じも。
Barnaby talks to Sandra by the lake in 'Beyond the Grave'

裂かれた肖像画 湖.jpg 個人的にはよく分からない部分もありました。いかにも田舎町にいそうな胡散臭い霊媒師エレノア(プルネラ・スケイルズ)のキャラが面白かったけれど、彼女がこれから新たに埋葬をしようとしている墓穴の底に、行方不明になっている人物の死体が埋まっていることを言い当てることが出来たのは何故?(バーナビーは、意外と彼女の言っていることは正しいと前から言っていたが、2人で仕組んだ? この霊媒師、サンドラが何かを盛られていることにも気づいていたみたいだが)
The views seen during 'Beyond the Grave'

 怪奇現象も、胸像が倒れるトリックはあっさりバーナビーに見抜かれてしまうし、「3つのDから始まるフレーズ」を映し出したところで、主犯格の顔は見えなくとも共犯者はほぼ判ってしまう。ミステリとしてはちょっと弱かったのではないかなあ。

裂かれた肖像画 3.jpg ユーモアという面では、バーナビーの娘カリー(ローラ・ハワード)のボーイフレンド(エド・ウォーターズ)が役者志望で、今度「警部」役をやるからといって、バーナビーに実地で刑事の仕事を見せてもらうという設定が、こんなのありかなと思わせなくもないですが、バーナビーが「刑事の心得」を言って聞かせるところなどは、わざとトロイに聞こえるように言っていたりして面白かったです。彼は社会人なんだなあ、見るからに青二才だけど、トロイがあれで自分より年収が高いとぼやいていたのが可笑しかったです(基本的にトロイの使い走りに終始したが、変に博識だったり鋭いところがあったりもした)。

 このシリーズは、この第13話までが第1~第3シーズンで(パイロット版1話を含む)、2002年4月から10月にかけてNHK-BS2でそれぞれ前後編に分けて26回一挙放映されたわけですが(本国と放送順が若干異なる)、その際にNHKが付けた(?)各エピソードのタイトルが、下の一覧のカッコ内です。全体的にやや長たらしいけれど、内容を想起させる上では分かり易いように思います。

【放映年月日(英/NHK‐BS】
第1話/謎のアナベラ(森の蘭は死の香り)1 Pilot ・The Killings at Badger's Drift (英)1997/03/23/(NHK‐BS2)2002/04/02、04/09
第2話/血ぬられた秀作(小説は血のささやき)2 1-1 ・Written in Blood(英)1998/03/22/(NHK‐BS2)2002/04/16、04/23
第3話/劇的なる死(開演ベルは死の予告)3 1-2 ・Death of a Hollow Man (英)1998/03/29/(NHK‐BS2)2002/05/14、05/21
第4話/誠実すぎた殺人(愛する人のためならば)4 1-3 ・Faithful Unto Death (英)1998/04/22/(NHK‐BS2)2002/05/28、06/04
第5話/沈黙の少年(祈りの館に死が宿る)5 1-4 ・Death in Disguise (英)1998/05/06 2/(NHK‐BS2)2002/04/30、05/07
第6話/秘めたる誓い(少年時代は秘密のベール)6 2-1 ・Death's Shadow (英)1999/01/20/(NHK‐BS2)2002/06/25、07/02
第7話/首締めの森(カラスの森が死を招く)7 2-2 ・Stranger's Wood(英)1999/02/03/(NHK‐BS2)2002/06/11、06/18
第8話/不実の王(採石場にのろいの叫び)8 2-3 ・Dead Man's Eleven (英)1999/09/12/(NHK‐BS2)2002/08/06、08/20
第9話/報いの一撃(流浪の馬車がやって来る)9 2-4 ・Blood Will Out (英)1999/09/19/(NHK‐BS2)2002/07/23、07/30
第10話/絶望の最果て(狩りの角笛が死を誘う)10 3-1 ・Death of a Stranger (英)1999/12/31/(NHK‐BS2)2002/10/01、10/08
第11話/美しすぎる動機(ラストダンスは天国で)11 3-2 ・Blue Herrings (英)2000/01/22 /(NHK‐BS2)2002/08/27、09/03
第12話/審判の日(人形の手に血のナイフ)12 3-3 ・Judgement Day (英)2000/01/29 /(NHK‐BS2)2002/09/17、09/24
第13話/裂かれた肖像画(古城の鐘が亡霊を呼ぶ)13 3-4 ・Beyond the Grave (英)2000/02/05 /(NHK‐BS2)2002/07/09、07/16

裂かれた肖像画 全体.jpg裂かれた肖像画 輸入盤2.jpg「バーナビー警部(第13話)/裂かれた肖像画(古城の鐘が亡霊を呼ぶ))」●原題:MIDSOMER MURDERS:BEYOND THE GRAVE●制作年:2000年●制作国:イギリス●本国上映:2000/02/05●監督:モイラ・アームストロング●脚本:ダグラス・ワトキンソン●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/シェリル・キャンベル/デビッド・ロブ/シルヴェストラ・トウゼル/パトリシア・ブレイク/ジェームズ・ローレンソン/プルネラ・スケイルズ/チャールズ・サイモン/マルコム・シンクレア/エド・ウォーターズ/オルウェン・テイラー/クリス・スタントン●日本放映:2002/07●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★)

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推理ドラマとして純粋に楽しめ、ロケーションも美しい。シリーズの中でも上位にくる佳作。

バーナビー警部(第12話)/審判の日 DVD 輸入盤.jpgバーナビー警部(第12話)/審判の日 dvd.jpg JUDGEMENT DAY3.jpg オーランド・ブルーム2.jpg
バーナビー警部~審判の日~ [DVD]」 Barnaby and Troy/Peter (Orlando Bloom) 

Judgement Day 6.jpg 「理想の村コンテスト」の最終候補になったミッドサマーマロウの村の周辺では、しばしば窃盗事件が起こっていた。犯人は村の不良青年ピーター(オーランド・ブルーム)と肉屋の息子ジャック(トビアス・メンジス)だった。バーナビー(ジョン・ネトルズ)の捜査の手がもう少しで届くところで、ピーターは干し草鋤で串刺しにされ殺される。ピーターはデビア夫妻(ティモシー・ウェスト、ハンナ・ゴードン)の娘キャロライン(クロエ・タッカー)と付き合いながら、獣医ゴードン(リチャード・ホープ)の妻ローラ(マーシャ・フィッツェラン)とも不倫していた。更に、息子を悪の道に引き込まれた肉屋のレイ(ビル・トーマス)や、ピーターの素行の悪さに頭を悩ませていた叔母のバーバラ(バーバラ・ジェフォード)、、ピーターに空き巣に入られ、大切な肖像画を傷つけられた元俳優エドワード・アラダイス(マーレイ・ワトソン)にも殺人の動機があった。 そんな中、今度は「理想の村コンテスト」開催中に、ロンドンからきた審査員がワインに入れられた青酸カリによって毒殺される―。

審判の日 01.jpg トム・バーナビー警部のシリーズの第12話「審判の日」(原題:Judgement Day)の本国放映は2000年1月29日、日本では2002年9月にNHK‐BS2にて前後編に分けて初放映され、その時のタイトルは「人形の手に血のナイフ」でした。

 第1話「謎のアナベラ」と並んでシリーズのベストに推す人もいるエピソードで、実際面白かったです。真犯人は誰なのか、何となくヒントを与えながらも、その殆どがブラフでした。但し、最後まで何も明かさないというわけではなく、ちゃんと真犯人を示唆するような伏線はあった...(これだけじゃ判らないけれどね)。プロローグにある「過去」の事件がカギなのでしょうが、これも第2話「血ぬられた秀作」と同じく、一筋縄では「現在」とは繋がりません。

JUDGEMENT DAY Midsomer Murders 2.jpg審判の日 O・ブルーム.jpg 推理ドラマとして純粋に楽しめるし、「理想の村コンテスト」の3人の審査員の変なキャラクターの描き分けなどもしっかりしているし(4人目の審査員であるバーナビーの妻ジョイス(ジェーン・ワイマール)が戸惑うのも無理ない)、謎解きからラストにかけては人間ドラマとしてもOrlando Bloom peter drinkwater.jpg重厚。「理想の村コンテスト」が背景になっているだけに、ロケーションもまた一段と美しく、また、「ロード・オブ・ザ・リング」('01年~'03年)シリーズのオーランド・ブルーム(Orlando Bloom)が人妻と不倫している不良青年役で出ているという見所もあります(バーナビーとトロイ(ダニエル・ケーシー)が「指輪物語」の話をする場面があるのは、撮影の時点でオーランド・ブルームの「ロード・オブ・ザ・リング」への出演が内定していたため? それとも偶然の一致?)。

審判の日 俳優の家.jpgChenies Manor, Used as the actor Edward Aladice's house

 療養所名か療養所があった場所の地名と「帽子」という言葉との聞き間違えというのは、ちょっと判らなかったなあ(従って、バーナビーが何か閃いた表情をした時も、何に閃いたのかよく判らなかった)。元俳優エドワードが、訪ねて来たバーナビーの娘カリー(ローラ・ハワード)を送っていく際に帽子を持っていたため、この部分は視聴者に対するブラフになっていて、凝っていたなあと思いました。
 「理想の村コンテスト」で演奏するために村の子供達が練習していた曲というのが、本番になって"バーナビーのテーマ"であることが分かり、これがあまり上手な演奏でないのが可笑しかったです。

MIDSOMER MURDERS:JUDGEMENT DAY.jpgブルーム.jpg「バーナビー警部(第12話)/審判の日(人形の手に血のナイフ)」●原題:MIDSOMER MURDERS:JUDGEMENT DAY●制作年:2000年●制作国:イギリス●本国上映:2000/01/29●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/オーランド・ブルーム/バーバラ・ジェフォード/ティモシー・ウェスト/ハンナ・ゴードン/クロエ・タッカー/リチャード・ホープ/マーシャ・フィッツェラン/ビル・トーマス/トビアス・メンジス/マーレイ・ワトソン/シェラ・フラスター/マギー・スティード/ニコラス・グレース/ジョゼフィーン・トゥーソン●日本放映:2002/09●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★)

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有名MBA出身でありながら反商業主義を貫き、高い国際的評価を得ているのが興味深い。

タヒミック 悪夢の香り.jpg The Perfumed Nightmare 3.jpg  トゥルンバ祭り dvd.png  Kidlat Tahimik.jpg
"Perfumed Nightmare"(悪夢の香り,1977)    "Turumba"(トゥルンバ祭り,1983)  Kidlat Tahimik

The Perfumed Nightmare 橋.jpg 貧しいフィリピン青年の「僕」キドラット(キドラット・タヒミック)はジムニー(小型乗合バス)の運転手であるが、将来は宇宙飛行士を夢みている。僕のジプThe Perfumed Nightmare ジムニー.jpgニーがアメリカ人のビジネスマン(ハルムート・レルヒ、この作品の共同撮影カメラマン)の気に入り、ひとまずパリに赴くことになって、村をあげての大騒ぎの中、憧れの地へ発つが、日夜チューインガム自販機を詰め替える単純作業に追われ、夢は遠のく。巨大なスーパーの煙突の中に身を隠し、故郷を想う僕は、進歩という観念そのものに疑問を抱くようになる―。

キドラット・タヒミック2.jpg 1977年にフィリピンの映像作家キドラット・タヒミック監督(Kidlat Tahimik 、1942年生まれ)が発表した彼のデビュー作で、スペイン人が造った橋、アメリカの軍用車を改造したジプニー、月ロケットなどをモチーフに、フィリピン社会に染みついた植民地主義を、とぼけたユーモアや温かい詩情、ファンタジックで時にナンセンスな展開、ドキュメンタリー風の映像などを通して炙り出した作品です。

 '82年にヤクルトホールで行われた「国際交流基金映画祭~南アジアの名作をもとめて」(南アジア映画祭)にて上映され、監督本人も会場に来ていましたが、紹介されると突然一般観客席から立ち上がって挨拶するなど、実に剽軽な人でした(当時40歳くらいか。この作品を撮ったのはその5年前)。

 この作品は、'77年のベルリン国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞し、'81年にはフランシス・フォード・コッポラの配給によってアメリカでも公開されていますが、日本では、その後'96年にシネマトリックスの配給で、「BOX東中野」にて、特集上映「キドラット・タヒミックの世界」の1作として上映されています(昨年(2012年)には、アテネフランセ文化センターの特集「アジア映画の森」でも上映)。

 監督自身はその後もインディペンデント映画作家としての立場を貫いており、最近日本でも若手のインディペンデント系映像作家が海外の映画祭で賞を獲るなどしていますが、彼は、アジアにおける先駆的な個人映画作家として、2012年に「福岡アジア文化賞」を受賞しています。

 同監督による第2作は「月でヨーヨー」(1979)という、これもファンタジー的要素のある作品(フィリピンはヨーヨー発祥の地らしい)、第3作「トゥルンバ祭り」(1983)で、トゥルンバ祭り 02.jpgフィリピンの田舎町で行われる熱狂的な大祭を背景とした物語を描いて国際映画賞を受賞しています(マンハイム・ハイデルベルグ国際映画祭映画「新興国のための審査員賞」)。'87年に第2回東京国際映画祭(アジア秀作映画週間部門)にて上映されたのを観ましたが、馬や犬のマスコトゥルンバ祭り 01.jpgットを家族で作って祭りで売っていた祖母と少年が、ある日ドイツのデパートの女性バイヤー(カタリーナ・ミューラー)がたまたま通りかかって、大量注文をしたために家族は大騒動となるという、ちょっと「悪夢の香り」と似た展開。但し、"日記映画作家"と呼ばれるだけあって、祭りの準備をする人々や本番の祭りの模様を記録映画風に描いていて、ドキュメンタリータッチがより色濃く出ています。また、単に反商業主義・反植民地主義というだけでなく、土着的、アジア文化的なものへの回帰指向もより鮮明になっています。この辺りは、「悪夢の香り」の主人公である「僕」が、最後に文明批判に目覚め、先住民の友達の教えを思い出して帰国するという結末からの流れを汲んでるともとれます。

キドラット・タヒミック4.jpg 今やその風貌や語り口から仙人のような趣を醸す同監督ですが(50代になってからマニラを離れ、山間部に移り住んでいる)、元々は富裕知識階層の出身で、ペンシルバニア大学ウォ―トンスクール(米国でもトップクラスとされるMBA)で経営学の修士号を取得し、パリで経済協力開発機構(OECD)の研究員をしていたという、かつては自他共に認めるバリバリのエコノミストでした。その彼が、帰国してから経済人への道をではなく、自主制作映画作家としての道を歩み(MBAの卒業証書を破り捨たというから相当の覚悟だったのか)、反商業主義を貫いて、国際的に高く評価される映像作家になったというのが興味深いです(相変わらず祭り好きの、剽軽なオッサンである点は変わらないみたいだけど)。

2012tahimik.jpgキドラット・タヒミック3.jpg福岡アジア文化賞受賞スピーチ(2012)
 
 
 
  
 
 

タヒミック氏とカタリーナ・ミューラー夫人(美術担当、「悪夢の香り」「トゥルンバ祭り」両作品に出演)
   

The Perfumed Nightmare2.jpg悪夢の香り 1シーン.jpg「悪夢の香り」●原題:KIDLAT WORLD MABABANGONG BANGUNGOT(Perfumed Nightmare)●制作年:1977年●制作国:フィリピン●監督・製作・脚本・撮影:キドラット・タヒミック●共同撮影:ハルトムート・レルヒ●音楽:エフゲニー・グレボフ●時間:95分●出演:キドラット・タヒミック/ジェジェット・ボードリィ/マン・フェリィ/ハルムート・レルヒ/カタリーナ・ミューラー/ドロレヤクルトホール.jpgス・サンタマリア●日本公開:1982/10(劇場公開:1996/11)●配給:国際交流基金(劇場公開:シネマトリックス)●最初に観た場所:新橋・ヤクルトホール(82-10-16)(評価:★★★★)●併映:「田舎の教師」(スラスィー・パータム)/「ミュージカル女優」(シャーム・ベネガル)/「ふたりは18歳」(トグゥ・カルヤ) Mababangong bangungot (1977)

ヤクルトホール 1972年、東新橋・ヤクルト本社ビル内にオープン

「トゥルンバ祭り」●原題:TURUMBA●制作年:1983年●制作国:フィリピン●監督・脚本:キドラット・タヒミック●撮影:ロベルト・イニゲス●音楽:マンディ・アファング●時間:87分●出演:ホーマー・アビアド/イニゴ・ヴィト/マリア・ペヒポシネセゾン渋谷.jpgル/パティ・アバリ/カタリーナ・ミューラー●日本公開:1987/09●配給:シシネセゾン渋谷 チケット.jpgネセゾン●最初に観た場所:シネセゾン渋谷(87-09-26)(評価:★★★☆) シネセゾン渋谷 1985年11月6日、渋谷道玄坂「ザ・プライム渋谷」6Fにオープン。2011年2月27日閉館。

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ロシアン・ゴチック・ミステリー。プロットはともかく、独特の雰囲気を持った作品。
Savage Hunt of King Stakh (1979).jpg
スタフ王の野蛮な狩り ポスター.jpgスタフ王の野蛮な狩り スタフ王.jpg スタフ王の野蛮な狩り4.jpg
"ДИКАЯ ОХОТА КОРОЛЯ СТАХА"「The Savage Hunt of King Stakh / Dikaya Okhota Korolya Stakha [Import] [DVD]

スタフ王 主人公.jpgスタフ王2.jpg 1899年、ベロルシアのポレーシエ村に、ペテルスブルグートニコフの大学生アンドレイ・ベロレツキー(ボリス・プロ)が、民俗学研究として民話の取材にやって来た。彼が雨やどりをした古い館には、美しい女性ナジェージタ(エレン・ディミートロワ)が住んでいた。17世紀始めのポレーシエには、「スタフ王」と呼ばれる農奴制の改革を訴えて決起した農民らにとっての英雄がいたが、反目する金持の貴族ロマン・ヤノフスキーによってスタフは狩猟中に殺害され、今際の際(いまわのきわ)に、ヤノフスキー家の一族を呪い殺すことを誓ったという。その最初の儀牲者となったのがロマン・ヤノフスキーで、ナジェージタはヤノフスキーの最後の血縁者だった―。

スタフ王 儀式.jpgスタフ王の野蛮な狩り 小人.jpg アンドレイはこの家で、ナジェージダが全裸で羽毛に包まれ召使いの老婆が呪文を唱えていたり、執事が怪しげな行動をとったりするなど、不思議なことを目撃する。ナジェージタの誕生パーティが開かれ、彼女の伯父ドゥボトフク(ロマン・フィリッポフ)が、高価な贈り物をする。やがて執事が殺され、彼の弟の小人の存在が明らかになる。そのころ村では、スタフ王の亡霊が出没し、人々を恐怖の底に陥れていた。アンドレイは村人たちを励ましてスタフ王と騎士たちに挑み、その正体を明らかにする―。

King Stakhs Wild Hunt.jpgスタフ王9.jpg ロシアン・ゴチック・ミステリーいう感じでしょうか。「ベロルシア」は「ベラルーシ」のことで(従って今のロシアには含れない)、ポレーシエは湿地帯の多い地方のようです(コナン・ドイルの『バスカヴィル家の犬』の舞台になった英国のダートムアみたいな感じか)。ベラルーシの作家ウラジミール・コロトケヴィチの作品を基に映画化されたそうで、この作家がどういう作品を書いているのかよく分からないのですが、スタフ王伝説というのは実際にあるそうです。

King Stakh's Wild Hunt [NOOK Book(USA)]
スタフ王1.jpg
 冒頭からおどろおどろしい雰囲気に満ちていて、古城や貴族の邸などもホンモノらしいスケールを感じさせましたが、観終わってみれば「な~んだ」という感じがしなくもないプロットでした。でも、それは観終わってから思うことであって、民話的・幻想的な雰囲気は、観る側を引き込むものがあったと思います。「ソ連」のミステリ映画ってそれまで観たことが無かったし、そもそも最初に観た時はミステリ映画だとは知らないで観たので、展開の予測がつかなかったというのもあったと思います。

 ラストが、"スタフ王"をやっつけて目出度し目出度しではなく、アンチカタルシス気味の作りになっているため、この辺りで作品への"評価"と言うより"好み"が分かれるかも。個人的には、冒頭勢いがあっただけに、その分、中盤がやや緩慢に感じられました。まあ、他にあまり類の無い、独特の雰囲気を持った作品であることは間違いないです。

スタフ王の野蛮な狩り 5.jpg「スタフ王の野蛮な狩り」●原題:ДИКАЯ ОХОТА КОРОЛЯ СТАХА(THE SAVAGE HUNT OF KING STACH)●制作年:1979年●制作国:ベロルシア共和国(ベラルーシ共和国)●監督:ワレーリー・ルビンチク●脚本:ウラジミール・コロトケヴィチスタフ王の野蛮な狩り 娘.png/ワレーリー・ルビンチク●撮影:タチャーナ・ロギーノワ●音楽:エフゲニー・グレボフ●原作:ウラジミール・コロトケヴィチ"King Stakh's Wild Hunt"(Belarusian: Дзікае паляванне караля Стаха)●時間:109分●出演:草月ホール.jpgボリス・プロートニコフ/エレン・ディミートロワ/ワレンチナ・シェンドリコワ/アルベルト・フィローゾフ/ロマン・フィリッポフ●日本公開:1983/05●配給:日本海映画●最初に観た場所:赤坂・草月ホール(83-06-11)(評価:★★★☆)●併映:「戦火を越えて」(レーゾ・テヘイゼ)/「七発目の銃弾」(アリ・ハムラーエフ)/「ジプシーは空に消える」(エミーリ・ロチャヌー)/「狩場の悲劇」(エミーリ・ロチャヌー)
草月ホール 赤坂・草月会館(1958年竣工・1977(昭和52)年建て替え)内

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ミステリ風コメディ映画。ヴェネチア・カーニヴァルの幻想的雰囲気がストーリーによくマッチ。

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Nudo di donna [VHS] [Import]」 Eleonora Giorgi(エレオノーラ・ジョルジ)/Nino Manfredi(ニーノ・マンフレディ)
ヌードの女.jpg 1971年・第24回カンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞したニーノ・マンフレディ(1921‐2004)が監督・主演した、ヴェネチアのカーニヴァルを背景としたミステリ風コメディ映画で、日本では'84年の「イタリア映画祭」で上映された作品であり、その後、一般ロードでも公開されました。ニーノ・マンフレディは元々俳優であり、この作品の当初の監督アルベルト・ラットゥアーダ(「スキャンドール」('80年/伊)の監督)と意見が合わず、とうとう主演男優である彼自身が自分で監督してしまったというものです。

ヌードの女2.bmpヌードの女1.bmp 老舗の古書店の娘と結婚して十数年経つ夫(マンフレディ)は、自らもローマからヴェネチアに移り住んで古書店を営もうとするがうまくいかず、芸術家の間で顔が広い妻(エレオノーラ・ジョルジ)に対するコンプレックもあって2人の関係はやや冷え切り気味だが、そんなある日、芸術家達の集いの場となっている知人の屋敷で、妻にそっくりの女の大判ヌード写真を見つける―。

 やがてカフェで、派手なカラフルな娼婦の衣装を身につけたその写真のモデル、妻そっくりの女リリー(エレオノーラ・ジョルジが二役を演じている)を見つけ、男は彼女のところへ通いつめるようになるが、彼女がケガをした日に家に帰ると妻も同じところをケガしたりしていて、更に、カーニヴァルの夜、自宅からリリーの家まで屋根伝いで行ける近道を偶然に発見する―。

ヌードの女4.bmpヌードの女3.bmp カーニヴァルの翌朝、男はリリーと並んで焼きカボチャか何かを食べていますが、もう男にとってリリーが妻と同一人物であろうとなかろうとどうでもよく、目の前に愛する人がいるだけで満ち足りた気分になっているという、ミステリ的要素がありながら謎は最後まで明かされないという終わり方ですが(その方が却って洒落ていていい)、ある意味、女性に妻と娼婦の2役を求める男の願望を表した作品であるともいえます。

 夫婦は互いの全てを知ろうとはしない方がいいという教訓譚と解すことも出来て、大らかな艶笑コメディの伝統を有するイタリア映画ならではの作品ですが、ヴェネチア・カーニヴァルの幻想的な雰囲気が映画のストーリーによくマッチしていたように思います。

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NUDO DI DONNA.jpg「ヌードの女」●原題:NUDO DI DONNA(NU DE FEMME [仏])●制作年:1981年●制作国:イタリア・フランス●監督:ニーノ・マンフレディエレオノラ・ジョルジ.jpg●脚本:ニーノ・マンフレデ/アージェ・スカルペッリ/ルッジェロ・マッカリ●撮影:ダニロ・デシデリ●音楽:ロベルト・ガットー/マウリッツィオ・ジアマルコ●時間:103分●出演:ニーノ・マンフレディ/エレオノーラ・ジョルジ/ジョルジュ・ウィルソン/ジャン=ピエール・カッセル/カルロ・バーノ●日本公開:1984/10●配給:イタリア会館●最初に観た場所:銀座文化1(84-10-04)(評価★★★☆)Nudo di donna [VHS] [Import]」 
Eleonora Giorgi
Eleonora Giorgi 2.jpg
                              

「銀座文化1・銀座文化2」「銀座文化/シネスイッチ銀座」
銀座文化1・2.png銀座文化・シネスイッチ銀座.jpg シネスイッチ銀座.jpg銀座文化1 1955年11月21日オープン「銀座文化劇場(地階466席)・銀座ニュー文化(3階411席)」、1978年11月2日~「銀座文化1(地階353席)・銀座文化2(3階210席)」、1987年12月19日〜「シネスイッチ銀座(前・銀座文化1)・銀座文化劇場(前・銀座文化2)」、1997年2月12日〜休館してリニューアル「シネスイッチ銀座1(前・シネスイッチ銀座)・シネスイッチ銀座2(前・銀座文化劇場)」

《読書MEMO》
●ヴェニス(ヴェネツィア)を舞台にした映画
ジョゼフ・ロージー監督「エヴァの匂い」('62年/仏)/ルキノ・ヴィスコンティ監督「ベニスに死す」('71年/伊・仏)/ニーノ・マンフレディ監督「ヌードの女」('81年/伊・仏)
イタリア・ベネチア●エヴァの匂いes.jpgイタリア・ベネチア ●ベニスに死すges.jpgイタリア。ヴェネチア●ヌードの女.jpg

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プロット的には星3つだが、バーナビーの個人的秘話、ジョン・ネトルズの演技を加味して星4つ。

バーナビー警部/美しすぎる動機 輸入.jpgバーナビー警部~美しすぎる動機.jpg   Blue Herring 2000.jpg
バーナビー警部~美しすぎる動機~ [DVD]」"Midsomer Murders" Blue Herrings

バーナビー警部/美しすぎる動機 全体.jpgバーナビー警部/美しすぎる動機 12.gif トム・バーナビー警部(ジョン・ネトルズ)の叔母アリス・ブライ(フィリス・カルバート)は一時的にローンサイド老人ホームに入所することになるが、そこでは入バーナビー警部/美しすぎる動機11.jpg所者の死が相次ぎ、入所者のひとりマージョリーは老人達の遺産を目当てに殺人が行われていると疑っていた。それを聞いたアリスは、甥のバーナビーに相談を持ちかける。しかし、聞き込みを始めると、マージョリーは認知症が進行していて、言動があまり信用できないらしいとのこと。それでも、看護師を脅す元入所者の息子や、何かを隠していそうな理事、警官を見て動揺する入所者と、ホームには不審な人物ばかり。だが、殺人に繋がる明確な手がかりは無いまま、入所している老人達は次々亡くなっていく―。

 トム・バーナビー警部のシリーズの第11話「美しすぎる動機」(原題:Blue Herrings)の本国放映は2000年1月22日、日本では2002年8月から9月にかけてNHK‐BS2にて前後編に分けて初放映され、その時のタイトルは「ラストダンスは天国で」でした。

美しすぎる動機.jpg 不審な人物は多いですが、圧倒的に怪しいのはホームの嘱託医と女性看護師。マージョリーも言うように、親族と共謀して認知症の進んだ入所者の遺書を書き換えさせたうえで殺害しているのではないかと思いました。

 ただ、彼らが犯人であるとすれば、殆ど倒叙法の推理ドラマとなり、このシリーズらしくないと思っていたら、やっぱり...。この二人、別の意味で"怪しい関係"ではありましたが。

Lawnside Nursing home.jpg 振り返ってみれば事件の部分は意外と少なく、あとは事故のようなものだったり自然死だったりで、プロット的にはやや拍子抜けの感もありました(英国の老人ホームって、インテリアも格調高いね。登場人物のセリフにもあるが、入所料も高いようだけれど)。

Blue Herrings.gifInterior shots of the Lawnside Nursing home were filmed here in Blue Herrings

 但し、末期がんの患者を巡る話は重く、バーナビーが犯人に、自分の母親が亡くなる際に、親子の濃密な時間を持ったことを語る場面は、演劇の舞台を見ているようで印象に残りました。シリーズの中では人気の高い作品で、主演のジョン・ネトルズも気に入っているエピソードであるというのは分かる気がします。

バーナビー警部/美しすぎる動機 2.jpg その他にも、「老い」というものについて考えさせられる場面が幾つかあり、推理プロット重視で見れば星3つですが、ドラマ的な要素(初めて明かされたバーナビーの個人的な思い出)、ジョン・ネトルズの演技の幅を見せてくれたエピソードであることを加味して星4つ―といったところでしょうか(老優たちの演技も良かった)。
 若いトロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)が老人ホームでの聞き込みで苦労する場面が面白かった。原題の"Blue Herring"は「青鷺(アオサギ)」の意。古代エジプトでは、「蘇る命」「再生」の象徴とされていた鳥です。

Blue Herring 2000 3.jpg「バーナビー警部(第11話)/美しすぎる動機(ラストダンスは天国で)」●原題:MIDSOMER MURDERS:BLUE HERRINGS●制作年:2000年●制作国:イギリス●本国上映:2000/01/22●監督:ピーター・クレギーン●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケイシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/フィリス・カルバート/Mary Wimbush/Geoffrey Bayldon/Nigel Davenport/Gudrun Ure/Angela Down/Georgine Anderson/Matyelok Gibbs/Sam Beazley/Colin Tierney/Deborah Findlay/Clive Wood●日本放映:2002/08●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★)

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錯綜した人物関係はこのシリーズならでは。複雑だったが、それぞれに動機はあったか。

バーナビー警部 絶望の最果てDVD.jpg  バーナビー警部 絶望の最果て 01.jpg バーナビー警部 絶望の最果て 02.jpg
バーナビー警部~絶望の最果て~ [DVD]」/On the set of Death of a Stranger /プリングル警部(James Balam)

バーナビー警部 絶望の最果て p.jpg マーシュウッドの上流階級の面々が、キツネ狩りをしている最中に、一人の浮浪者が撲殺された。休暇中のバーナビー警部(ジョン・ネトルズ)に代わって捜査の指揮をとったのはロン・プリングル警部(ジェームズ・ボーラム)。上流階級に憧れるプリングルは、すぐに地元の不良、ビリー・ガーディ(トム・スミス)を逮捕する。その後、帰ってきたバーナビー警部は、プリングルの狭量な捜査が間違いでなければと危惧するが、またしても事件が起こる。息子の無実を信じ、森を調べていた父親のベン・ガーディー(フレッド・リッジウェイ)が、射殺体で発見されたのだった。そして、上流階級のトランター家やフィッツロイ家の主人にとりいり、キツネ狩りに参加したプリングルにも、パーティの夜に庭の東屋であるものを見てしまったがために―。

 トム・バーナビー警部のシリーズの第10話「絶望の最果て」(原題:Death of a Stranger)の本国放映は1999年12月31日、日本では2002年10月にNHK‐BS2にて前後編に分けて初放映され、その時のタイトルは「狩りの角笛が死を誘う」でした(昔のタイトルの方が内容を想起し易いね)。

バーナビー警部 絶望の最果て 04.jpg 森で殺害された浮浪者と上流階級の一族との間にどのような繋がりがあるのか―というのがミソですが、いやあ、大ありでした。フィッツロイ家当主ジェームズ・フィッツロイ(リチャード・ジョンソン)、その妻サラ・フィッツロイ(ジェニファー・ヒラリー)、トランター家の若き当主グレアム・トランター(ドミニク・マッファン)、その母マーシア・トランター(ダイアン・フレッチャー)、グレアムの妻ケイト・トランター(サラ・ウィンマン)らの関係が錯綜していて、それに森に住む女リンダ・ワグスタッフ(ジャンヌ・ヘップル)や剥製屋のヘンリー・カーステアズ(サイモン・マクバーニー)のような全く上流階級に関係ないような人たちもが実は何らかの関係があって事件に関与しているらしく、更に最後に、浮浪者と上流階級一族や森に住む女との関係が明らかになる―。

 やがて、トランター家の先代が30年前に失踪した事件が浮上してきますが、人物関係が錯綜しています。犯人が判った後でも頭の中ですぐには整理し切れない状況でしたが、要するに相続権が絡んでいたわけだなあと(徒らに複雑にしているのではなく、全て事件の本筋に絡んでいる構成は立派)。失踪宣告は、「亡くなったとみなす」(=死亡、反証は不可)ものではなく、「亡くなったと推定する」(≠死亡、反証は可能)ものであって、その人物が実は生きていたという事実(反証)が明らかになると覆ってしまうということです。

絶望の最果て 東屋.jpg 複雑な人物関係はこのシリーズの特色であり、このエピソードもバーナビー警部ならでは謎解きですが、視聴者目線では推理不可能な要素も。暗い結末の中(この暗さもこのシリーズの持ち味だが)、バーナビーが休暇先で奮発してフレンチのコース料理を食べて腹具合が悪くなったり、トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)がグレアムの母ケイト・トランターを指して、「100万ポンドもらってもお断りな女」と言ったりと、ユーモラスな場面やセリフもちゃんと用意されていました。

The Summer house used for an illicit affair in 'Death of a Stranger'

MIDSOMER MURDERS:DEATH OF A STRANGER2.jpg しかし、今でも貴族って、毎週キツネ狩りばかりやっているのだろうか。英国の田舎町を舞台にしたこのシリーズの視聴者への訴求要素の1つとして「郷愁」のようなものがあって、キツネ狩りというのも、イギリス人にとっては、自分がやったことがある・無しに関わらず、ある種の懐かしさを呼び起こす慣行なのかもしれません。

DEATH OF A STRANGER.jpg「バーナビー警部(第10話)/絶望の最果て(狩りの角笛が死を誘う)」●原題:MIDSOMER MURDERS:DEATH OF A STRANGER●制作年:1999年●制作国:イギリス●本国上映:1999/12/31●監督:ピーター・クレギーン●脚本:ダグラス・リビングストン●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●原作:キャロライン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケイシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/リチャード・ジョンソン/ジェニファー・ヒラリー/ドミニク・マッファン/ダイアン・フレッチャー/サラ・ウィンマン/ジェームズ・ボーラム/ジャネット・デイル/ジャンヌ・ヘップル/ピーター・ベイリス/トビー・ジョーンズ/サイモン・マクバーニー/フレッド・リッジウェイ/ジェーン・ウッド/トム・スミス/ジョニー・ブルーム●日本放映:2002/10●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

絶望の最果て フレンチレストラン.jpgThe French restaurant where the Barnaby family eat a meal whilst on holiday in France

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脚本家に「ご苦労様」と言いたいぐらいの改変。オリジナル作品として楽しんだ方が良さそう。

復讐の女神 dvd.jpg 「復讐の女神」.jpg 第12話/復讐の女神 00.jpg

第12話/復讐の女神00.jpg 1940年、独軍戦闘機が英国で墜落し、操縦士は英国女性ベリティ(ローラ・ミシェル・ケリー)に助けられた。11年後の1951年、大富豪ラフィールの訃報を新聞で知ったミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)のもとへ彼の秘書が現れ、ミス・マープルを「ネメシス(復讐の女神)」と呼んでいたラフィールの、事件の解決を依頼する遺言と、「ミステリー・ツァー」のチケットが2枚届き、ミス・マープルは甥で作家レイモンド・ウェスト(リチャード・E・グラント)とツアーに参加す第12話/復讐の女神 04.jpgることに。ツァーのコンダクター兼バス運転手はジョージア(ルース・ウィルソン)で、ツアー参加者はマーガレット(ローラ・ミシェル・ケリー、ベリティと二役)とシドニー(ジョニー・ブリッグズ)の夫婦、元執事レイバン(ジョージ・コール)、派手な赤コートの女アマンダ第12話/復讐の女神 01.jpg(ロニー・アンコーナ)とその弁護士ターンブル(エイドリアン・ローリンズ)、足が不自由で顔中に縫い傷の痕があるワッディ(ウィル・メラー)とその妻ロウィーナ(エミリィ・ウーフ)、アグネス修道院長(アン・リード)とクロチルド修道女(アマンダ・バートン)、ドイツ人のマイケル(ダン・スティーブンズ)らで、全員ラフィール氏に招待されていた―。

第12話/復讐の女神 09.jpg ツアーで訪れたフォレスター卿の邸で、邸の相続続人であるアマンダが癇癪を起こし、そこにあったベリティの写真を踏みつける。宿泊先でコリン・ハーズ(リー・イングルビー)という若者が作家志望だとレイモンドに話しかけてくる。ミス・マープルは孤立しているマイケルに話し掛け、彼がラフィールの息子であることを掴む。夜中に宿の階段から落ちたレイバンは、マーガレットに「ベリティ?」と問いかけるが、彼女は否定する。翌朝、レイバンはベッドで亡くなっており、実は警官だったコリンに、ミス・マープルは毒殺の可能性を示唆する。朝食の席で修道尼らは、ベリティは第12話/復讐の女神 05.jpg男に追われて修道院に逃げ込んできたと言い、その男とはシドニーのようだ。また、ベリティはフォレスター卿の隠し子だったようで、アマンダがメイドをしていた彼女を邸から追い出し、行方不明のまま死亡宣告されため、相続権は無いと彼女は言う。ボナヴェンチュア・ロックッス見物で、ミス・マープルと同じ川縁コースを選んだ修道女らは、マイケル(=ラフィールの息子)がベリティを殺したに違いないと話す。一方、山道コースを選んだロウィーナが何者かに突き落とされ、翌日死体で発見される。コリンとレイモンド、マープルの3人はツアー客らから聞き込みを行う―。

復讐の女神 クリスティ文庫.jpg 2009年1月1日に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、2007年に放映されたシーズン3の「バートラム・ホテルにて」「無実はさいなむ」「ゼロ時間へ」に続く第4話(通算第12話)。このシーズン3の4作は、全て英国に先行してカナダで2007年中に放映されています。ジェラルディン・マクイーワンはこの「復讐の女神」を以ってミス・マープル役を降板、同名シリーズのまま、マープル役はジュリア・マッケンジーに交代します。日本ではNHK‐BS2で2010年3月26日に初放映。原作は1971年に刊行されたアガサ・クリスティのミス・マープルシリーズの長編第11作(原題:Nemesis)で、1964年発表の『カリブ海の秘密』の続編乃至は後日談ですが、ジョーン・ヒクソン主演のBBC版と同じく、「カリブ海の秘密」より先に放映されています。

「復讐の女神」レイモンド.jpg 原作ではミス・マープルが単独で「ミステリー・ツァー」に参加するのに対し、BBC版もこのグラナダ版も、甥で作家のレイモンド・ウェストを伴っての参加となっていますが、このグラナダ版の方がBBC版よりもレイモンドの事件解決へ向けてへの関与度はすっと大きくなっています(でも、事件を実質的に解決するのはやはりミス・マープルなのだが)。

第12話/復讐の女神 02.jpg 真犯人は、原作では「魔女の館」っぽい邸にいた3姉妹の1人であり、BBC版ではこれを踏襲していましたが、この映像化作品では、ツアー客の中の独自のキャラクターに置き換えています(犯行動機などから見て、犯人まで変えているとは必ずしも言えないが)。また、原作では、ラフィールの息子マイケルは事件が解決するまで収監されていたのを、BBC版では貧民屈でボランティア活動をしている(自らも浮浪者?)風に置き換えていましたが、この映像化作品では、これもまたツアー客の1人になっています。

 彼らばかりでなく、この映像化作品では、マープル、レイモンド以外の10名の参加者が全員何らかの形でベリティに纏わる過去の出来事に関与しているという(原作ではミス・マープルの外に14名いたツアー参加者の大半が事件には直接絡んでこなかった)―その絡み方につてはオリジナルの脚本になっているわけで、加えて、犯人の案山子を使ったトリックや、死体入れ替えトリック、そのための記憶喪失者への別人の記憶注入と、独自のプロット&トリック満載、もうこれは、半ばオリジナル作品として楽しんだ方が良さそう...。まあ、これはこれで面白かったと見るべきでしょうか。

 コアなクリスティの原作ファンからは大いに叩かれそうな改変ぶりですが、個人的には、原作でツアー客の殆どが事件に絡んでこないことにやや拍子抜けの感があっただけに、10人全員を事件に関与させたことに対して、脚本家に「ご苦労様」といいたいくらいです。結果的に、原作に全く無い話の部分でかなりごちゃごちゃしてしまった面もありますが、一応これでも、クリスティ協会だかクリスティ財団だかのお墨付きは得ているのだろうなあ。

NEMESIS  MARPLE SEASON 2007.jpgローラ・ミシェル・ケリー.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第12話)/復讐の女神」●原題:NEMESIS, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 3●制作年:2007年●制作国:イギリス●演出:ニコラス・ウィンディング・レフン●脚本:スティーヴン・チャーチェット●原作:アガサ・クリスティ「バートラム・ホテルにて」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ローラ・ミッシェルローラ・ミシェル・ケリー .jpgLaura Michelle Kelly2.jpg・ケリー/ダン・スティーブンズ/グレイム・ガーデン/リチャード・E・グラント/ルース・ウィルソン/ジョニー・ブリッグズ/ジョージ・コール/ロニ・アンコーナ/エイドリアン・ローリンズ/ エミリー・ウーフ/ウィル・メラー/アン・リード/アマンダ・バートン/リー・イングルビー●日本放送:2010/03/26●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

Laura Michelle Kelly

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ミス・マープルの「割り込み感」が気になったが、基本的なプロット改変は思ったほどもない。

ゼロ時間へ dvd.jpg 第11話/ゼロ時間へ 00.png 第11話/ゼロ時間へ 01.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX3

第11話/ゼロ時間へ 00.jpg 物語のプロローグで、ホームパーティの席上、犯罪学に関心を持つ高名な弁護士(元判事)トリーブス(トム・ベイカー)がミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)に、殺人が起きたところから始まるというのは誤りであって、殺人は結果であり、物語はそのはるか以前から始まっていると語る。スケッチ旅行でソルトクリークを訪れ、当地のバル 第11話/ゼロ時間へ 04.jpgモラルコート・ホテルに滞在していたミス・マープルは、古い学友でソルトクリークにある大邸宅の女主人カミーラ(アイリーン・アトキンス)に、邸でのパーティに招待されていた。パーティには、カミーラの甥で有名プロZoe Tapper marple.jpgテニスプレーヤーのネヴィル・ストレンジ(グレッグ・ワイズ)とその現在の妻ケイ(ゾーイ・タッパー、ケイの男友達でマープルと同じホテルに泊まっているテディ・ラティマー(ポール・ニコルズ)、ネヴィルの元妻Saffron Burrows marple.jpgオードリー(サフラン・バローズと彼女が誘ったマラヤ帰りの従兄トーマス・ロイド(ジュリアン・サン第11話/ゼロ時間へ 02.jpgズ)、カミーラの亡夫の友人だったトリーブス元判事らが招待されていた。ケイは、パーティの招待客の中に夫の元妻オードリーがいるのが不満で、わざとテディと親密げに振る舞い、そのオードリーに好意を寄せるトーマス・ロイドはオードリーを気遣っていた。ホームパーティの場で、トリーブス元判事は、かつて子供が成した事故を装った計画殺人の話をし、形質学的な特徴は一生変わらないので、大人になったその人物にゼロ時間へ 3.jpg会えば今でも分かると話すが、その晩彼は、宿のエレベータが故障して階段を使おうとして心臓発作で亡くなる。ミス・マープルは彼の死が、事故ではなく計画殺人であると確信し、地元警察のバレットSaffron Burrows marple 2.jpg警視(アメルダ・ブラウン)に元判事が話した昔の犯罪話の人物を探すよう依頼するが、警視はミス・マープルの話にまともに取り合わない。そんな中、女主人カミーラが寝室で、ゴルフクラブで頭を強打された死体姿で発見され、明白な状況証拠から、テニス選手の甥ネヴィルが第一容疑者として浮かび上がる―。

ゼロ時間へ クリスティー文庫.jpg 2007年1月に本国イギリスに先行してカナダで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で(本国放映は2008年8月)、シーズン3の第3話(通算第11話)。日本ではNHK‐BS2で2010年3月25日に初放映。原作はアガサ・クリスティが1944年に発表した長編ミステリで(原題:Towards Zero)、作者自身がマイベスト10に選んでいて、日本の「クリスティー・ファンクラブ」の会員アンケートでもベスト10に入っている作品です。

 原作は、『チムニーズ館の秘密』や『殺人は容易だ』など全5作ある「バトル警視」物の中でもバトル警視が最も本領を発揮する作品ですが、この映像化作品としての「ゼロ時間へ」では、非マープル物にミス・マープルを登場させたこともあってか、バレット警視に置き代わっています(このシリーズの「チムニーズ館の秘密」もフィンチ警視に置き代わっているが、やはり「警部」ではなく、その上の「警視」をもってきていている)。

ゼロ時間へ 9.jpg プロテニス選手の甥とその新妻及び前妻、更にその2人の女性にそれぞれ恋心を抱く2人の男たちという嫉妬や恨みが渦巻く一触即発の雰囲気の中で事件は起きますが、原作の犯人は、意外だったと言うか、秘められた異常性を持つある種サイコパスでした。それに比べると、原作を読んで犯人の見当がついてしまっているのもありますが、やや最初から当該人物は怪しげだったかな。

「ゼロ時間へ」.jpg 実は原作で本当に事件解明に繋がる鋭い閃きを見せたのは、冒頭と最後の方にしか登場しない、たまたま当地に滞在していた自殺未遂の心の傷を克服しつつある男だったのですが、この人物はこの映像化作品には登場しません。代わりに、マープルと同じホテルに泊まっている犬を連れた少女が登場して、彼女の「ビリヤード場で腐った魚の匂いがした」との証言からマープルは犯人の確証を得ます。

 しかし、あくまでも状況証拠なので、最後は犯人にカマをかけて、犯人の自分は完全犯罪を成し得る人物だという自尊心を逆手にとって自白を導き出しますが、この辺りは原作と同じか。但し、そこに至るまでに、バレット警視の協力のもと、関係者全員を船に乗せて、船上でポワロ風に謎解きをやるのは、元々非マープル物とは言え、原作とかなり趣きが違います。

 このシリーズ、結構、原作には無いポワロ風の「一同集めての」謎解きが見られますが、まあ、この方が映像的に見栄えがするのでしょうか。ただ、船縁に乗っかって脚をぶらぶらさせているテディ・ラティマーをいきなり海に突き落としたのは、ちょっとやり過ぎの印象も受けました。全体を通してミス・マープルの「割り込み感」が気になる映像化作品でしたが、原作がよく出来ていて、基本的なプロット改変は思ったほど多くなかったこともあり、楽しめました。

ゼロ時間へ 4jpg.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第11話)/ゼロ時間へ」●原題:TOWARDS ZERO, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 3●制作年:2007年●制作国:イギリス●演出:デヴィッド・グリンドリー●脚本:ケヴィン・エリオット●原作:アガサ・クリスティ「ゼロ時間へ」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ジュリアン・サンズ/ゾーイ・タッパー/ポール・ニコルズ/グレッグ・ワイズ/サフラン・バローズ/ジュリー・グレアム/トム・ベイカー/アイリーン・アトキンス/アラン・デービス●日本放送:2010/03/25●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)

Saffron Burrows(元妻オードリー)         Zoe Tapper(現妻ケイ)
Saffron Burrows.jpgゾーイ・タッパー.jpg

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ノン・シリーズものの原作を改変して原作より面白くなるならばともかく、そうもなっていない。

007 死ぬのは奴らだps.jpgミス・マープル3 無実はさいなむ dvd.jpg ミス・マープル3 無実はさいなむ 4人兄弟.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープルDVD-BOX3」「007 死ぬのは奴らだ アルティメット・エディション [DVD]

ミス・マープル3 無実はさいなむ グェンダ.jpg ミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)は、昔マープル家で奉公していたグェンダ(ジュリエット・スティーヴンソンが、自分が秘書を勤める歴史家リオ・アーガイル(デニス・ローソン)と婚約したため、その結婚祝に招待される。リオの妻レイミス・マープル3 無実はさいなむ シーモア.jpgチェル(ジェーン・シーモアは2年前に書斎で殺害されていて、犯人とされた養子のジャッコ(バーン・ゴーマン)は日頃から問題児で、その日もグェンダに金の無心をしに来てと口論になり、彼女に掴 ミス・マープル3 無実はさいなむ キャルガリ.jpgみかかっていた。彼は殺害時刻には他人の車に乗っていたとアリバイを主張するも、証人が現れず死刑になっていた。ケンブリッジ大学の動物学者アーサー・キャルガリ(ジュリアン・リンド・タットは、南極探検で英国を離れていて帰国してから古い新聞記事で、自分が処刑されたジャッコの証言にある人物であることに思い当り、ジャッコの無実を告げにアーガイルの邸サニー・ポイントに駆けつける―。

ミス・マープル3 無実はさいなむ キャルガリの訪問.jpg 邸にはリオ家族である、長女メアリ(リサ・スタンスフィールド)、長男ミッキー(ブライアン・ディック)、次女ヘスター(ステファニー・レオニダス)、ジャッコの双生児ボビー(トム・ライリー)、末女で混血児のティナ(グーグー・ムバサ・ロー)がいて、ジャッコと同様、皆レイチミス・マープル3 無実はさいなむ フィリップ.jpgェルの養子だった。リオ、グェンダ、養子の兄弟姉妹の外には、メアリの夫で車椅子生活のフィリップ・デュラント(リチャード・アーミテージと、家政婦のカーステン・リカーステン・リンツトロム(<font color=deeppink>アリソン・ステッドマン</font>).jpgンツトロム(アリソン・ステッドマンがいた。キャルガリがもたらしたジャッコ冤罪の知らせは皆を喜ばせることはなく、むしろ家族の間で疑心暗鬼が深まる。ミス・マープルが家政婦カーステンから家族の事情を聞くと、レイチェルの葬儀の日に、ジャッコが密かに結婚していた妻モーリーン(アンドリア・ロウ)が家を訪ねて来たと言う。翌日、ヒュイッシ警部補(リース・シェアスミス)が到着して捜査を始めると、家族間の疑心暗鬼は更に深まり、カーステンは、リオの妻の座を狙った秘書のグェンダが犯人だと糾弾する。そのグェンダが、何者かによってレター・オープナーで刺殺される―。

無実はさいなむ ハヤカワ・ミステリ文庫 .bmpMiss Marple & Lisa Stansfield as Mary Durrant.jpg 2007年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年から翌年にかけて作られたシーズン3全4話の内の第2話(通算第10話)であり、日本ではNHK‐BS2で2010年3月24日に初放映。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1958年に発表された作品で(原題:Ordeal by Innocence)、で、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズものでで、クリスティはマイベスト10に選んでいますが、巷では評価が割れている作品です。

Miss Marple & Lisa Stansfield as Mary Durrant

 原作はミス・マープルものではないため、グェンダがミス・マープルの元奉公人という話は当然のことながら無く、ジャッコは刑死ではなく無期懲役で獄中で病死しており、キャルガリの専門は動物学ではなく地理学、彼を除く養子の兄弟姉妹は、長女メアリ・デュラント、長男ミッキー、次女ヘスター、末娘ティナの4人で、ジャッコの双子の兄弟ボビーというのは登場しません(グェンダがミス・マープルの元奉公人ということで視聴者目線では容疑者から外れるため、容疑者の人数合わせで一人足した?)。

ヒュイッシ警部補.jpgMiss Marple and Gwenda Vaughan.jpg 前半部分は、ほぼそれ以外は原作通りに進行しますが、原作では、キャルガリが真相究明に燃えるほか、フィリップも真実の解明に乗り出しますが、この映像化作品では、キャルガリの推理は冴えず、フィリップは推理することすらしないし、原作のヒュイッシ警視は、原作より年齢が下の"警部補"になっていて、あまり冴えないメガネ男に変えられている―要するに、オイシイ箇所は全てミス・マープルが持って行ってしまった感じです。
Miss Marple and Juliet Stevenson as Gwenda Vaughan

 後半部分になると急に改変が目立つようになり、グェンダは刺殺されるわ、ボビーは溺死するわで、これみんな原作には無い話です(原作では、真相に近づき過ぎたフィリップが殺害され、事件当日の不審な出来事を思い出したティナも刺される)。特に、グェンダを殺してしまったのは、ちょっとねえという感じ。「ポケットにライ麦を」でも、ミス・マープルの元奉公人が殺害されますが、あれは原作通りだからいいとして、わざわざ改変してまで殺さなければならなかったのかなあ。容疑を掛けられたまま殺されたグェンダが気の毒過ぎました。

キャルガリ.jpg 原作では、事件解決後に、キャルガリとヘスターとの間に恋が芽生えるのですが、これも無し(それ以前に、ヘスターの恋人で医師のドナルドというのが登場するが、これも出てこない)。まあ、ラストのヘスターの新たな恋の目覚めは、原作においても唐突感があるため端折ってもいいかなという気はするし、さすがに真犯人までは変えていなかったけれど、様々な改変によって原作より面白くなるならばともかく、そうもなっていないため、自分としてはイマイチでした。
Julian Rhind-Tutt as Dr Arthur Calgary

Jane Seymour
Jane Seymour 007.pngJane Seymour 3.jpg  グェンダ役のジェーン・シーモアは、"007シリーズ"第8作、ガイ・ハミルトン監督、ロジャー・ムーア主演「007死ぬのは奴らだ」('73年/英)のボンドガールであり、自分が初めて映画館で見た007作品であるため懐かしかったです。この作品も、"007シリーズ"の中で評価が割れている作品ですが、個人的なそう嫌いではないです(懐かしさもあって)。

ジョアンナ・ラムレイ .jpgティモシー・ダルトン.jpg この"ミス・マープル"シリーズの第8話「シタフォードの謎」('06年)では、ロジャー・ムーアの次にボンド役を演じたティモシー・ダルトンが登場し、また、第1話「書斎の死体」('04年)第20話「鏡は横にひび割れて」('10年)には、「女王陛下の007」('69年/英)のボンドガール、ジョアンナ・ラムレイが登場しています。

ミス・マープル3 無実はさいなむ title.pngミス・マープル3 無実はさいなむ 食卓.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第10話)/無実はさいなむ」●原題:ORDEAL BY INNOCENCE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 3●制作年:2007年●制作国:イギリス●演出:モイラ・アームストロング●脚本:スチュアート・ハーコート●原作:アガサ・クリスティ「バートラム・ホテルにて」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ジュリエット・スティーヴンソン/デニス・ローソン/アリソン・ステッドマン/リチャード・アーミテージ/ステファニー・レオニダス/リサ・スタンスフィールド/バーン・ゴーマン/ジェーン・シーモア/トム・ライリー/リース・シェアスミス/ジュリアン・リンド・タット/ブライアン・ディック/グーグー・ムバサ・ロー/マイケル・フィースト/ピッパ・ヘイウッド/カミーユ・コドゥリ●日本放送:2010/03/23●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★)
「007 死ぬのは奴らだ」0.jpg
クレオパトラ=ジェーン・シーモア.jpgJane Seymour2.jpg「007 死ぬのは奴らだ」●原題:LIVE AND LET DIE●制007 死ぬのは奴らだ dvd.jpg作年:1973年●制作国:イギリス●監督:ガイ・ハミルトン●製作:ハリー・サルツマン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:トム・マンキーウィッツ●撮影:テッド・ムーア●音楽:ジョージ・マーティン● 原作:イアン・フレミング●時間:121分●出演:ロジャー・ムーア/ヤフェット・コットー/ジェーン・シーモア/クリフトン・ジェームズ/ジュリアス・W・ハリス/ジェフリー・ホールダー/デイヴィッド・ヘディソン/グロリア・ヘンドリー/バーナード・リー/ロイス・マクスウェル●日本公開:1973/07●配給:ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★☆) 
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完全に原作とは別の「推理ドラマ」として、立派に成り立ってしまっている。

バートラム・ホテルにて dvd.jpg 第9話/バートラム・ホテルにて 02.jpg 第9話/バートラム・ホテルにて 01.jpg
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第9話/バートラム・ホテルにて title.jpg第9話/バートラム・ホテルにて 04.jpg 少女時代の訪れたことがある憧れのバートラム・ホテルを60年ぶりに訪れ宿泊することになったミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)は、伯父リチャード卿の遺言状読み上げに来た友人セリーナ・ヘイジー(フランチェスカ・アニス、"トミーとタペンスシリーズ"でタペンス役を演じていた女優)と出会う。ホテルには女性冒険家のベス・セジウィック(ポリー・ウォーカー)が訪れ、彼女が育児放棄した娘第9話/バートラム・ホテルにて 05.jpgエルヴィラ(エミリー・ビーチャム)とその友人ブリジット(メアリー・ナイ)も泊りに来ていた。その他にも、ペニフェザー神父(チャールズ・ケイ)、ドイツの帽子屋ムッティ(ダニー・ウェッブ)、双子のジャックとジュール(ニコラス・バーンズ)、レーサーのマリノフスキー(エド・ストッパード)らが客としていた。そんな中、ホテル屋上でメイドのティリー(ハンナ・スペアリット)が絞殺され、バード警部補(スティーブン・マンガ第9話/バートラム・ホテルにて メイド.jpg)が捜査に乗り出す。ティリーの同僚メイド、ジェーン・クーパー(マルティン・マッカッチャオン)とミス・マープルは、同じファーストネームということで意気投合し、バード警部補も頭が良くて行動力のあるジェーンに惹かれるとともに、鋭い観察眼を持ったミス・マープルも頼りにするようになる―。

第9話/バートラム・ホテルにて 03.gif メイド絞殺事件の翌日、ホテルの123号室で湯船から溢れた湯が下の階に洩れてレストランが停電し、客がラウンジに移動すると外で銃声がして、ベスを庇ったとみられるドアマンのミッキー・ゴーマン(ヴィンセント・リーガン)が撃たれて死ぬ。ミッキー・ゴーマンはベスの前の夫であり、彼が庇ったと思われたのはベスではなくエルヴィラだった。彼女はすぐにピストルを狙撃犯がいる2階の部屋に向けて撃つが、バード警部補が部屋に駆けつけると、部屋は無人でライフルが窓辺に置かれ、しかも内側から鍵が掛かっていた。ミス・マープルは、ベスが血の色で書かれた脅迫状を受け取っていたことを、偶然掴んでいた―。

バートラム・ホテルにて クリスティー文庫.jpg 2007年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年に作られたシーズン3全4話の内の第1話(通算第9話)であり(他3話は「無実はさいなむ」「ゼロ時間へ」「復讐の女神」)、日本ではNHK‐BS2で2010年3月23日に初放映。原作はアガサ・クリスティ(1890‐1976)の、1964年に発表された作品(原題:At Bertram's Hotel)。

 BBC版ジョーン・ヒクソン(Joan Hickson、1906‐1998)主演のミス・マープルシリーズの「バートラム・ホテルにて」(1987)が、古色蒼然としたホテルの重厚感をかなり高いレベルで映像化していたのに対し、こちらは、ホールでルイ・アームストロング(1901-1971、シェントン・ディクソンン)が演奏し、アメリア・ウォーカー(架空の人物? 演じているのはソウル・シンガーのミーシャ・パリス)がジャズを歌う設定で盛り上げています。

ミス・マープル(第9話)バートラム・ホテルにて.jpg ストーリーの方は、BBC版がほぼ原作に忠実であったのに対し、こちらは、原型をとどめないほどに改変されていて、もうここまで変えてしまうとこれはこれで楽しむしかないかと思いつつ(「えーっ」と何度も声を上げながら)観てましたが、観終えてみれば、十分楽しめてしまったようにも思います。逆に感心してしまいました。

Mica Paris,Geraldine McEwan & Francesca Annis

 原作のストーリーは周知のことという前提のもとに、改変の妙を愉しんで下さいという趣旨なのでしょうが、原作を中途半端に改変して、或いは大幅に改変してがっかりさせられるものが多い中、この映像化作品の脚本家は、なかなかの才人ではないかと思わせるものがあり、これはこれで完全に原作とは別の「推理ドラマ」として、立派に成り立ってしまっているように思えました。これしか観たことが無い人には、是非とも原作と読み比べるか(これを観て原作を読んだ気にならないように)、BBC版と観比べて欲しいです(そこでまた、改変の妙が愉しめる。但し、"改変"しているのは、当然のことながら、原作ではなくこっちの方だが)。

 まず、原作ではなかなか殺人事件が起きないのに、こちらはいきなり原作に出てこないメイドが殺され、次にペニフェザー神父がいつ誘拐されるのかと思って観てたら結局誘拐されず、しかも最後に明かされた彼の正体は―。それにレーサーのマリノフスキーや帽子屋が絡んで、ナチス狩りの話だったのかあと驚かされました。

 ホテル全体が犯罪装置のような役割を果たしている点は原作を踏襲しているのかな。犯行のアリバイ作りに利用するというより、盗品の保管場所みたいになっています。ホテルに飾ってあったレンブラントやフェルメールの絵が本物だったというアイデアは秀逸。リチャード卿の遺言で相続の恩恵に与れなかったマープルの友人セリーナの、最後の頼みの綱である宝石が消えた話は、組織的犯行ではなく、双子の"単独"犯行だった? 元々こんな話は原作には無かったわけですが。

 ドアマンのマイケル・ゴーマンも、随分と早めに殺害されたけれど、改変の決定打は、真犯人が原作と異なること! 従って、犯行の手口もぜぇ~んぶ原作と違ってくるのですが、これはこれで全く予想がつかないものであり、なかなか凝っていました。因みに、「原作での真犯人」であるべスは、原作でも娘のエルヴィラを庇いますが、このエルヴィラという小娘、あまりにエゴイスティックで、母親の愛情に応えていない印象を、原作からも受けました。

AT BERTRAM'S HOTEL 2007.jpg第9話/バートラム・ホテルにて 10.jpg 原作で捜査に当たるのはベテランのフレッド・デイビー主任警部でしたが、この映像化作品では、若いバード警部補が、ミス・マープル、メイドのジェーン・クーパーの協力を得て3人で事件の謎を解こうとし、結局、マープル以外の2人は自力では真犯人に辿り着かないのですが、その間、バードとジェーンの距離がぐんぐん狭まってきて(これも原作には無い話なので「えーっ」だったが)、ラストはハッピーエンドに(「あなたが私に何を頼もうとも私の答えはイエスよ」なんてセリフは上手い)。これはこれで爽やかな終わり方だったのではないでしょうか。ミス・マープルは"復讐の女神"ならぬ"縁結びの女神"か。

第9話/バートラム・ホテルにて ホテル.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第9話)/バートラム・ホテルにて」●原題:AT BERTRAM`S HOTEL, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 3●制作年:2007年●制作国:イギリス●演出:ダン・ゼフ●脚本:トム・マクレイ●原作:アガサ・クリスティ「バートラム・ホテルにて」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ビンセント・レーガン/マーク・ヒープ/ エミリー・ビーチャム/メアリー・ナイ/マルティーヌ・マカッチャン/チャールズ・ケイ/エド・ストッパード/ニコラス・バーンズ/ミーシャ・パリス/フランチェスカ・アニス/ピーター・デーヴィソン/スティーブン・マンガン/ハンナ・スピアリット/ポリー・ウォーカー/●日本放送:2010/03/23●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★★)

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ノン・シリーズものを「面白く」と言うより「複雑に」改変した、「スリークラウンの謎」と呼ぶべき別物の話。

シタフォードの謎 dvd.jpg第8話シタフォードの謎 01.jpg 第8話シタフォードの謎 title.jpg
アガサ・クリスティーのミス・マープル DVD-BOX 2

第8話シタフォードの謎 00.jpg プロローグで、エジプトの秘宝発掘現場で2人の男が王の墓から財宝を見つける。その25年後、「シタフォード荘」に住むトレヴェリアン大佐(ティモシー・ダルトンは、現首相チャーチルの後継と目されている。彼が後見人となっているジム・ピアソン(ローレンス・フォックス)は、素Zoe Telford.jpg行不良のため遺産相続人から外す旨の手紙を大佐から受け取ったとして怒っているが、大佐は、自分がその手紙を書いたことを否定する。酔い潰れたジムを、その婚約者エミリー(ゾーイ・テルフォードは、パーティーで偶然知り合った新聞記者チャールズ・バーナビー(ジェームズ・マリー)とともに家に送り届けるが、翌日ジムは大佐に会うと言って、降りしきる雪の中、シタフォード荘に向かう。ミス・マープル(第8話シタフォードの謎 07.pngジェラルディン・マクイーワン)は甥で作家のレイモンドの別荘を訪ねてシタフォードに来たが、レイモンドは戻れず、彼女は、近くの「シタフォード荘」に泊めてもらうことになる。大佐の親友エンダービー(メル・スミスは、大佐の政務官であり「シタフォード荘」を管理している。大佐は、そのエンダービーにも行先を告げずに山荘を出るが、ミス・マープルは彼が、ホテル「スリークラウン館」に偽名で予約を入れるのを聞いていた。エンダービーは、山荘に送り届けられたゼリーを食べた飼い鷹が死んだのを見て、大佐の身を案じて吹雪の中「スリークラウン館」に向第8話シタフォードの謎 o6.jpgかうが、歩いて2時間はかかる。更にそれを案じたチャールズが後を追う。「スリークラウン館」は、カークウッド(ジェームズ・ウィルビー)が昨年ここを買い取ったもの第8話シタフォードの謎 04.jpgで、ミセス・ウィレット(パトリシア・ホッジ)と娘のヴァイオレット(キャリー・マリガン、ミス・パークハウス(リタ・トゥシンハム)ら何人かの客がいて、ウィレット夫人の提案で、ホテルの客たちを集めての心霊占いが始まるが、占いの結果「今夜トレヴェリアン大佐が死ぬ」という言葉が現れる。エンダービーが到着し、途中で彼に追いついたチャールズと共に大佐の部屋に行くと、彼は胸を刺されて死んでいた。大雪で警察が来られないため、エンダービーが捜査に当たる―。

シタフォードの秘密  ハヤカワ・ミステリ文庫.jpg第8話シタフォードの謎 06.jpg 2006年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演のグラナダ版で、シーズン2の第4話(通算第8話)。日本ではNHK‐BS2で2008年6月26日に初放映。原作は、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が1931年に発表し作品で(原題:The Sittaford Mystery (米 Murder at Hazelmoor))で、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズものです。
エミリー(ゾーイ・テルフォード)/チャールズ・バーナビー(ジェームズ・マリー

 原作は、結構、登場人物が多くて人物相関が複雑な割には、犯行に直結するプロットも動機も単純で、個人的にはクリスティ作品としては物足りなかった印象があり、「面白い方向」に改変してくれるならばいいかなと思いましたが、「面白い方向」と言うより「複雑な方向」に改変しただけの映像化作品でした。

第8話シタフォードの謎 シタンフォード荘.jpg 降霊会の行われるのが原作の「シタフォード荘」でではなく、「スリークラウン館」に改変されていて、「シタフォード荘」の降霊会で「大佐が死ぬ」というお告げがあったちょうどその頃、「スリークラウン館」で大佐は殺害されたらしい、というのが原作のミソであるのに対し、「スリークラウン館」で行われた降霊会に大佐自身が加わっていて、その後で殺害されるので、その分、ミステリアスな雰囲気は削がれてしまっています。

 ジム・ピアソンが第一容疑者として拘束されるのは原作と同じ。原作では、「シタフォード荘」のコテージに住む隣人たちが次に疑わしい容疑者になるわけですが、ここでは「スリークラウン館」の客らがそれに該当します(彼らの人物像は、ウィレット夫人と娘のヴァイオレット以外は全面改変されている)。原作での真犯人バーナビー少佐に該当するエンダービーが、なんと、いきなり刑事役を買って出ます(原作での素人探偵役は、ジム・ピアソンの婚約者エミリーと新聞記者のチャールズ・"エンダービー")。

Zoe Telford2.jpg 原作では、事件を解決したエミリーが、頼りない男である婚約者ジムと、事件を通して距離の狭まった新聞記者チャールズのどちらを選ぶかが1つの見所で、最終的にはやはり婚約者の方を選んで、出来る女性というのは意外と頼りない男の方を選んだりするものだなあと思わせる面がありましたが、この映像化作品に登場するジム・ピアソンは最初からどうしようもない男で、そもそもなぜエミリーはこんな男と婚約したのかと思わざるをえません(そのエミリーも、やや高慢ちきで、原作ほど魅力的な女性にはなっていないのだが)。 エミリー(ゾーイ・テルフォード

第8話シタフォードの謎 09.jpg 「この線でいくと、こっちは最後、チャールズの方を選ぶだろうなあ」と思わせるのが1つの引っ掛けだったわけかと。原作の真犯人バーナビー少佐がエンダービーに改名され、新聞記者のチャールズ・"エンダビー"の名前がチャールズ・"バーナビー" に改名されていることが「伏線」だったわけですが、凝り過ぎていて分かんないよ、そんな細かいところは...(因みに、ミセス・ウィレットの娘で原作のヴァイリットも"ヴァイオレット"に改変され、トレヴェリアン大佐がエジプト時代に愛した娘と同名という設定になっているが、こんな話は原作には元々は無い)。 トレヴェリアン(ティモシー・ダルトン)/ヴァイオレット(キャリー・マリガン

 第2の殺人となるドクターの殺害や、エジプトでの過去の殺人(大佐も殺人犯だったのか)、そして最後は、エメリーによるチャールズの○○(どうして、その後の女2人の南米行きに繋げることができるのだろうか。取り敢えず、身柄拘束されて警察の尋問を受けるのでは?)等々、原作に無い話がてんこ盛りで、脚本家がもう好き放題に造っている感じ。 「シタフォードの謎」ではなく、「スリークラウンの謎」とでも呼ぶべき、原作とは別物の話でした。

007 リビング・デイライツ ポスター.jpg007 リビング・デイライツ 洋物.jpg ティモシー・ダルトンは007シリーズの4代目ジェームズ・ボンド役で、シリーズ第15作、第16作に主演(原作は共にイアン・フレミングの短編、監督は共にジョン・グレン)。第15作「007 リビング・デイライツ」('87年)は、高齢ロジャー・ムーアからの大幅若返りということで、ハードアクションが多く、アンケートによっては、シリーズの中、ショーン・コネリーの「ロシアより愛をこめて」に次いで人気が高いという結果が出ているものもありましたが、ロケや仕掛けにお金がかかっている割には個人的にはイマイチでした。アクションも、最初の、久しぶりにシリーズで復活したアストン・マーチンで山から下っていくカーチェイスは迫力がありましたが、それ以外は...。

007 消されたライセンス チラシ.jpg007 消されたライセンス 1シーン.jpg 続く第16作「007 消されたライセンス」('89年)は、'89年11月にベルリンの壁が崩壊したこともあり、冷戦下で作られた最後の007シリーズ作品です。ストーリー的も冷戦の要素が組み込まれた最後の作品とされていますが、ボンドの実質的な敵役は既に、前作のKGBから麻薬王へと変わっています。「古い時代の名残を感じられる最後のボンド映画」との見方もありますが、個人的には、ティモシー・ダルトンになってアメリカのアクション映画とあまり変わらなくなってきた印象を受けました。麻薬王の役は前年に「ダイ・ハード」('88年)でFBI特別捜査官を演007 消されたライセンスes.jpgじたロバート・デヴィ、ボンド・ガールはキャリー・ローウェル(味方側)とタリサ・ソト(敵側)でこちらも共に米国出身、ティモシー・ダルトン"ボンド"は、この敵味方二人の女性に助けられてばかりだったなあ。

ティモシー・ダルトン2.jpg ティモシー・ダルトンは、'71年にショーン・コネリーの後任としてボンド役を依頼されていますが、ボンドを演じるには若すぎるという理由で辞退し、'79年にロジャー・ムーアが降板を考えていたために来た依頼も断っており、3度目の依頼でようやく引き受けたとのことです。但し、この2作でボンド役を降ろされてしまい、次回作からボンド役はピアース・ブロスナンになっています。もう何本かボンド役を演じていればまた違ったかもしれませんが、結果的には、ちょうどシリーズの転換期にボンドを演じた俳優であり、方向性試行錯誤の犠牲になったというイメージがあります。


Carey Mulligan.jpg第8話シタフォードの謎 2.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第8話)/シタフォードの謎」●原題:THE SITTAFORD MYSTERY, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 2●制作年:2006年●制作国:イギリス●演出:ポール・アンウィン●脚本:スティーヴン・チャーチェット●原作:アガサ・クリスティ●時間:93ティモシー・ダルトン 007.jpg分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/ティモシー・ダルトン/マイケル・ブランドン/ローレンス・フォックス/ロバート・ハーディ/パトリシア・ホッジ/ポール・ケイ/マシュー・ケリー/ジェフリー・キッスーン/キャリー・マリガン/ジェームズ・マリー/メル・スミス/ゾーイ・テルフォード/リタ・トゥシンハム/ジェームズ・ウィルビー●日本放送:2008/06/26●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★)
Carey Mulligan 

007 リビング・デイライツ  dvd2.jpg「007 リビング・デイライツ」●原題:JAMES BOND 007 THE LIVING DAYLIGHT●制作年:1987年●制作国:イギリス・アメリカ007 リビング・デイライツ  dvd1.jpg●監督:ジョン・グレン●製作:マイケル・G・ウィルソン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:リチャード・メイボーム/マイケル・G・ウィルソン●撮影:アレック・ミルズ●音楽:ジョン・バリー●原作:イアン・フレミング●時間:130分●出演:ティモシー・ダルトン/マリアム・ダボ/ジェローン・クラッベ/ジョー・ドン・ベイカー/ジョン・リス=デイヴィス/アート・マリック/ジョン・テリー/アンドレアス・ウィズニュースキー/デスモンド・リュウェリン/ロバート・ブラウン/キャロライン・ブリス●日本公開:1987/12●配給:MGM=ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★) 「007 リビング・デイライツ アルティメット・エディション [DVD]

007 消されたライセンス dvd.jpg「007007 消されたライセンス dvd2.jpg 消されたライセンス」●原題:JAMES BOND 007 LICENCE TO KILL●制作年:1989年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:ジョン・グレン●製作:マイケル・G・ウィルソン/アルバート・R・ブロッコリ●脚本:リチャード・メイボーム/マイケル・G・ウィルソン●撮影:アレック・マイルズ●音楽:マイケル・ケイメン●原作:イアン・フレミング●時間:133分●出演:ティモシー・ダルトン/キャリー・ローウェル/ロバート・ダヴィ/タリサ・ソトアンソニー・ザーブ/フランク・マクレイ/エヴェレット・マッギル/ウェイン・ニュートン/デスモンド・リュウェリン●日本公開:1989/09●配給:MGM=ユナイテッド・アーティスツ(評価:★★★) 「消されたライセンス (デジタルリマスター・バージョン) [DVD]

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クリスティの作品への愛着と、一般の人気度の間にギャップがある作品か。

無実はさいなむ ハヤカワ・ミステリ文庫 .bmp 無実はさいなむ クリスティー文庫.jpg 無実はさいなむ fontana.jpg 無実はさいなむ 洋書2.jpg 無実はさいなむ 洋書1.jpg
無実はさいなむ (1978年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『無実はさいなむ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』  Fontana版(1961)/Hamlyn AC crime Collection, published in 1970/ "Ordeal by Innocence (Signature Editions)"

 慈善家の老婦人レイチェル・アージルが邸の自室で撲殺され、生前彼女が養子として育てていたジャッコが逮捕された。レイチェルには、メアリ、マイケル、ジャッコ、ヘスター、ティナの5人の養子がいたが、その中でもジャッコの評判は前から良くなかった。ジャッコはアリバイを主張したものの有罪となり、獄中で亡くなっていた。それから2年後、外国から帰ってきた地質学者キャルガリは、出発前のある日、ある男を車に乗せたことを思い出し、それがジャッコのアリバイ証明になることを告げに遺族の住む邸サニー・ポイントを訪れる。しかし、ジャッコの冤罪を告げられた遺族らにとって、彼の来訪は、落着したはずの事件を蒸し返すこと繋がり、むしろ彼らは迷惑そうにする―。

 1958年にアガサ・クリスティ(1890‐1976)が発表した作品で(原題:Ordeal by Innocence)で、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズものです。

 キャルガリは何とか事件の真相を明かしたいと考えます。外部の犯人の可能性は無く、レイチェルの夫リオ・アージルと、養子であるメアリ、マイケル、ヘスター、ティナの兄弟姉妹たち、 リオの秘書のグェンダ、家政婦のカースティンらの何れもが容疑者たり得ます。彼らは互いに疑心暗鬼となり、そのうち、メアリの夫で身体が不自由なフィリップ・デュラントが探偵役のようなことを始め、更には、養子の一番下の娘ティナも、事件当日の不審な出来事に気づきます。警察は警察で、ヒュイッシという優秀な警視が捜査に当たります。

 刑事に加えて探偵が3人? と思ったら、終盤にきて、この内の2人は(真実に近づき過ぎたがために)殺害され、そこで一旦は犯人が明らかになったかに見えますが、最後でまたドンデン返し―と、終盤の展開は畳み掛けるものがあります。但し、そこに至るまでが、ちょっとまどろっこしいかな。

 この作品は作者自身がマイベスト10に選んでいますが、一般の人気はそれほどでもないようです。ハヤカワ・クリスティー文庫の解説で、ミステリ書評家の濱中利信氏が、ミステリとしての欠点(視点が一定していない、探偵役が不在である、犯人がアリバイ不在の状況の中で犯行を犯すとは考えにくい、等々)を幾つか挙げています。

 特に、最後、事件の解決と同時に、キャルガリが新たな恋を掴むというのはややご都合主義的で、濱中氏もその唐突さを指摘しています。それにも拘わらず氏がこの作品に惹かれる理由は、それぞれの人物像を通して、人間の弱さというものが見事に描かれていることによるものです。

 そうした意味ではクリスティらしい作品で、とりわけ殺害されたレイチェル・アージルの、不幸な子供たちを養子に引き取りながらも、その"慈愛"が彼女自身のエゴイズムからくるものであって、子供たちには全く受け容れられていなかったという人生には、やりきれないものがあります。

ORDEAL BY INNOCENCE.jpg 登場人物のお互いの腹の探り合いは、『そして誰もいなくなった』にも通じる面白さがありますが、それでもやはりミステリとして読むと、全般を通してその部分がやや弱いのと、キャルガリの「冤罪を晴らす」という当初の意気込みからするとある種アンチ・カタルシスの結末ため、読後感がイマイチすっきりしなかったというのもあります。

 クリスティの作品への愛着と、一般の人気度の間にギャップがある作品と言う意味で(勿論、この作品が好きだと言う人も多くいると思うが)、興味深い作品ではあります。

 本作は、1984年に映画化され(邦題「ドーバー海峡殺人事件」)、レイチェルをフェイ・ダナウェイ、キャルガリをドナルド・サザーランドが演じていますが、公開時にさほど話題にならなかったこともあってか、個人的には未見。改変が激しく、評価も「ナイル殺人事件」('78年)や「地中海殺人事件」('82年)、「死海殺人事件」('88年)など他の映画化作品より低いようです。

ORDEAL BY INNOCENCE Fontana.1985

ミス・マープル3 無実はさいなむ dvd.jpgミス・マープル3 無実はさいなむ 4人兄弟.jpg 2007年に英国グラナダ版「ミス・マープル」シリーズでミス・マープル物に翻案されて放映されていますが、原作をかなり改変していて、それで原作より面白くなるならばともかく、そうもなっていないため、個人的にはイマイチでした。
「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第10話)/無実はさいなむ」 (07年/英) ★★★

【1960年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(小笠原豊樹:訳)]/1978年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(小笠原豊樹:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(小笠原豊樹:訳)]】

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クリスティ作品の中では比較的軽めの方か。その分、ややもの足りない。
シタフォードの謎  訳:鮎川信夫.jpg
シタフォードの秘密  ハヤカワ・ミステリ文庫.jpgシタフォードの謎  創元推理文庫2.jpg シタフォードの秘密  クリスティー文庫.jpg シタフォードの秘密  ハヤカワ・ポケット・ミステリ.jpg
シタフォードの秘密 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 1‐81))』『シタフォードの謎 (創元推理文庫 105-22)』『シタフォードの秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』『シタフォードの秘密 (1956年) (世界探偵小説全集)』『シタフォードの謎 (1956年) (世界推理小説全集〈第21〉)

シタフォードの謎  創元推理文庫.jpg ダートムア外れの小村シタフォードにある「シタフォード荘」には客たちが集まっていた。迎えたのは、冬の間この邸を持主である退役軍人トリヴィリアン大佐から借りていたウィリット夫人とその美しい娘ヴァイリットで、客たちは主に邸のコテージに住む隣人たち。降りしきる雪に閉ざされ、下界との行き来不能な状況に置かれた彼らは、退屈しのぎに降霊会に興じるが、その場に現れた霊が、トリヴィリアン大佐が殺害されたという宣告を下す。その時、時刻は5時25分。大佐の友人バーナビー少佐は、6マイル離れた隣町に居る大佐を徒歩で訪ねると言う。2時間半後、少佐は警官と共に大佐が借りている邸の書斎で、後頭部を殴打された彼の死体を見つける。検視官の話では、死亡時刻はあの宣告があった5時半ごろであるという―。
シタフォードの謎 (1965年) (創元推理文庫)』(鮎川信夫:訳)

シタフォードの謎  UK.jpgシタフォードの謎 us.jpg 1931年、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が41歳の時に刊行された作品で(原題:The Sittaford Mystery (米 Murder at Hazelmoor))で、ポアロもミス・マープルも登場しないノン・シリーズもの。オカルトっぽい雰囲気は、後の同じくノン・シリーズ物の『蒼ざめた馬』(1961)などに通じるものがあり、また「降霊会」そのものは、この作品の翌年に発表された『邪悪の家』(1932)にも(この場合はポアロが仕組んだものとして)出てきます。

"Murder at Hazelmoor" Dustjacket illustration of the USA First Edition (Dodd, Mead and Company,1931)

"The Sittaford Mystery" (Christie's original title) Dustjacket illustration of the UK First Edition (Collins Crime Club,1931)

 THE SITTAFORD MYSTERY .Pan rpt.1981.jpg 捜査責任者のナラコット警部は、事件当日近くの旅館に現れて金の無心をしに大佐を訪ねた後、翌朝の列車で去った大佐の甥ジェイムズ・ピアソンを逮捕しますが、この逮捕を不服としたジェイムズの婚約者エミリー・トレファシスが、記者のチャールズ・エンダビーとともに独自の捜査を開始するとともに、ナラコット警部もジェイムズの犯行であるとの見方に疑念を抱き、捜査を続ける―。

THE SITTAFORD MYSTERY .Pan.1981

 個人的には、最初に降霊会をやろうと切り出した人物が怪しく感じられて、誰かとの共犯で犯行を成したのだと思ったりもしましたが、考えてみれば、それ以前にもっと怪しい人物がいた訳か。犯人が○○○を使ったというのはちょっと思いつかないし(松本清張の『点と線』みたいだね)、やや叙述トリック的な要素もありましたが。
 複雑な人物相関が徐々に明らかになり、この中から共犯者と動機を見出そうとしたのですが、蓋を開けてみれば、犯行トリックも単純ならば(実際に大佐が殺害されたのは「5時25分」ではなく、「5時40分」よりちょっと後ぐらいだったことになる)、動機も単純で、しかも、ちょっとミミッチい。ウィリット夫人が邸を借りた本当に理由にはややビックリですが、こうした複雑な人物相関も全てブラフだったということになり、やや拍子抜けの印象も受けました。

 頭の切れるエミリーが、愚かな行動によって自身への容疑を深めてしまう頼りない婚約者ジェイムズと、事件解決に向けて(まるでトミーとタペンスの如く)行動を共にしたしっかり者のエンダビー記者のどちらを最後に選ぶのか、周囲も関心を寄せる中での、大方の予想に反しての彼女の選択が興味深く、まあ、「出来る女性」って意外とこうした選択をするのかも、と思わせるものがありました。

 ポアロやミス・マープルが登場して、実は早くから相当のところまで"お見通し"でしたといった作品ばかりではなく、こうした素人探偵が試行錯誤し解決に向けて壁にぶつかりながら歩みを進めていく作品も悪くないし、一応は、フーダニット(誰が犯人か)、ハウダニット(どうやって犯行を成したか)、ホワイダニット(動機は何か)の全てへの関心を満たした作品でもありまシタフォードの秘密 表紙イラスト.jpgコテージ.jpgすが(「江戸川乱歩が選んだクリスティ作品ベスト8」 に入っている)、動機がやや弱いし、連続殺人事件でもないし、クリスティ作品の中では比較的軽めの方でしょうか。その分、ややもの足りなさの残るものでした。

 「シタフォード荘」のような居住用ではなく、観光用として、日本でもホテルとコテージを組み合わせたリゾート開発がバブル期には盛んに行われ、瀟洒なリゾートホテルよりも丸太造りのコテージの方に泊まった方が楽しかった思い出がありますが、ああいうスタイルも起源は全て英国にあるのだなあと改めて思いました。

ハヤカワ・ミステリ文庫(表紙イラスト・真鍋博)


シタフォードの謎 dvd.jpg第8話シタフォードの謎 01.jpg この作品は、英国ITVで「ミス・マープル」物として翻案され映像化されていますが(2006年、ジェラルディン・マクイーワン、ティモシー・ダルトン主演)、事件関係者はコテージの居住者ではなく、ホテルの客に改変されています。

「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第8話)/シタフォードの謎」 (06年/英) ★★★
 
 【1939年単行本[(膳所信太郎:訳『吹雪の山荘』)]/1952年単行本[(田村隆一:訳『山荘の秘密』)]/1956年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(田村隆一:訳『シタフォードの秘密』)]/1939年単行本[(鮎川信夫:訳『シタフォードの謎』)]/1965年文庫化[創元推理文庫((鮎川信夫:訳『シタフォードの謎』)]/1966年文庫化[角川文庫((能島武文:訳『ハーゼルムアの殺人』)]/1985年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(田村隆一:訳『シタフォードの秘密』)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(田村隆一:訳『シタフォードの秘密』)]】

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作者が1度しか書けないようなモチーフを扱って、巧く作品に昇華しているように思った。

その日東京駅五時二十五分発 kaba.jpgその日東京駅五時二十五分発 1.jpg 西川美和.jpg 西川美和 氏(映画監督、脚本家)
その日東京駅五時二十五分発

 主人公の「ぼく」の祖父の回想から始まり、暴君であった祖父の顔を眺めているうちにされこうべが見えるようになって、他の人のも見えるようになったと―。19歳の「ぼく」は、同期の益岡と東京駅から汽車に乗り、それぞれの故郷を目指ことになっていたが、憲兵に脱走兵と間違えられ詰問される。身体が小さく徴兵検査で第二乙種と判定され工場で働いていた「ぼく」だったが、5月半ばに召集令状がきて陸軍通信隊に入ることになった。大阪での訓練の後、東京の通信隊本部に転属、モールス信号の練習に明け暮れていたが、7/27に米国の短波放送でポツダム宣言の発表を受信、その後広島と長崎に新型爆弾が落とされたことが伝えられる中、8/11から機密書類や通信機材の処分が始まり、8/14の夕刻に陸軍通信隊初年兵25名は解散となったのだった。「ぼく」と益岡はまだ殆どの日本人が終戦を知らない中、ひと足早く故郷へ向かう東京駅五時二十五分発の東海道線に乗る―。

 若手映画監督であるとともに、前作『きのうの神さま』が直木賞候補になった著者の作品で、120ぺージほどとそう長くない作品ですが、面白く読めました。

 読み進むうちに「ぼく」の置かれている特異な状況が浮き彫りになってきます。つまり、通信部隊という特殊な部隊の所属であったことから、周囲より早く終戦を知り得て、事前に機密文書の処分や通信機材の破壊など後処理に入り、隊も解散して故郷への帰還命令が出たということで、自分たちはすでに兵隊ではないという意識でいるが、敢えてそれを人には言わない(言ってはならない)という状況です。

 作品のモチーフは、作者の伯父の手記だそうで、実際に1945年の春に召集されて終戦までの3カ月、陸軍の特殊情報部の傘下で通信兵としての訓練を受けていて、8月15日正午の玉音放送の前に終戦を知らされ、前日には故郷に向かった―作者はこうした状況にある種ファンタジー性を感じたようですが、この作者にして人生で1度しか書けないようなモチーフを扱って、巧く作品に昇華しているように思いました(伯父の手記に出会わなければ、この作品も無かったわけだ)。

 「ぼく」は、汽車の中で神風号を見に行ったことを思い出します。飛行機乗りに憧れながらも、徴兵検査第二乙種となり、航空機用のエンジン製造工場で働いていた「ぼく」は、やっと召集されたかと思ったらモールス信号の練習に明け暮れることになって、と思ったら終戦、しかも、初年兵の立場ながら世間一般より早く終戦を知ったという―、こんな「終戦」もあったのかと。

その日東京駅五時二十五分発 omote.jpg 物語は、「ぼく」が故郷・広島に辿りついて、玉音放送の日、原爆で破壊され焼き尽くされた街を目の前に立ちつくす場面へと続いていきます(この少し前に初めて「ぼく」の故郷が広島であることが読者に明かされる。但し、本の帯に「終戦当日、ぼくは故郷広島に向かった。この国が負けたことなんて、とっくに知っていた」と書かれてしまっていたがその日東京駅五時二十五分発 ura.jpg)。変わり果てた故郷の街で「ぼく」は一体何を見てどう感じたか―。

 作者がこの物語を、「夢売るふたり」の撮影が始まる前に書いていたら、その間に東日本大震災が発生したとのことです。何でもかんでも「3.11」に結びつけてしまう風潮はどうかと思う面もありますが、この作品に関しては、作者があとがきで、「2011年の早春という時期に筆を取っていなければ、全く別のものに仕上がっていた」と書いているのがよく分かる気がします。

【2014年文庫化[文春文庫]】

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「●日本のTVドラマ (90年代~)」の インデックッスへ(「七つの会議」)

「原島」から始まって「原島」で終わるドラマ。「原島」から始まって「八角」で終わる原作。

七つの会議 単行本.jpg七つの会議 10.jpg 七つの会議 タイトル.jpg
七つの会議』(2010/11 日本経済新聞出版社) NHKドラマ「七つの会議」出演:東山紀之/吉田鋼太郎(2013)

七つの会議ges.jpg 大手総合電機会社ソニックの子会社である中堅電機メーカー東京建電で住宅関連商品を扱う営業4課の課長・原島万二(45)は、名前通りの万年二番手でたいした実績がない平凡なサラリーマンだったが、一方、原島と対照的に花形部署の営業1課に38歳という最年少で昇進しメキメキと業績を上げていた坂戸宣彦が、万年係長と揶揄される八角民夫(50)(通称ハカック)からパワハラを訴えられて突然更迭される。やる気のない八角に対し、10歳以上年下である坂戸は課員の面前で罵倒し続けたのだった。営業部のエースは失脚で、代わりに一課長に就任したのが原島だったが、坂戸がパワハラで訴えられたことには"裏"があったのだ。それは、東京建電にとって会社存続をかけた死活問題であり、親会社のソニックにしても子会社の不祥事と連結決算で受けるダメージは底知れない重大事件だった―。

【2016年文庫化[集英社文庫]】

 どれが7つの会議に該当するのかよく分からなかったけれど(7つ以上あったのでは)、面白かったので気にせずスラスラ読み進めました。企業の不祥事の隠蔽体質が分かり易く描かれていて面白かったし、また、やるせなかった。でも、最後はホッとした感じも。

 読後それほど間を置かず、NHK土曜ドラマで4回に分けて放映されたものも観ました(演出は「ハゲタカ」('07年)と同じ堀切園健太ディレクター)。同じ土曜ドラマで2010年に放映された同原作者の「鉄の骨」が原作に無い自殺者が出たりする、NHKにしてここまでやるかといった改変ぶりだったのに比べれば、概ね原作通りだったのではないでしょうか。退職前に社内でのドーナッツ販売を企画する浜本優衣の前の不倫相手が、社内政治家的な動きをして営業部長の北川に潰されるという話が完全に抜けていたけれど、俗な話は端折ったのかな(北川の遣り口を象徴する出来事でもあるのだが)。坂戸の八角に対するパワハラも、恒常的なものとしてではなく、会議の場で掴みかかった出来事の一点に集約されていて、この辺りは効率化を図った?

七つの会議1.jpg ドラマでは、原作の最後にある調査委員会の聴取を冒頭に持ってきて、常にそこからの振り返りという形でストーリー展開しているせいもあって、このこと七つの会議2.jpgがかなり全体のトーンを重苦しく暗いものにしている感じがしました。しかし、役者陣は、東山紀之(原島)の周りを、同時期にスタートしたTBS日曜劇場「半沢直樹」には半沢の上司役で出ていた舞台出身の吉田鋼太郎(八角)や、ロッカー出身で今は俳優としての渋い演技ぶりが定着している石橋凌(北川)、「鉄の骨」にも出ていた豊原功補(佐野)らが固め、まずます良かったのではないかと思われます。「半沢直樹」のような派手さはないけれど、こちらの方を評価する人も七つの会議 4.jpgいたみたいです(個人的には「半沢直樹」の方が面白かったが、反面、「半沢」には引っ掛かる部分もあった)。「半沢直樹」は個人に起因する不正融資を描いていますが、こちらは企業ぐるみのリコール隠しなわけで、民放でやってもスポンサーが嫌うかも。その意味ではNHKらしいと言えばNHKらしいドラマ。2つの内部告発が出てきますが、最初のカスタマー室長・佐野の社内での内部告発は、グループ企業内で秘密にされ、原島もその方針に従う―こうなるともう、八角(ハカック)のようなマスコミを使ったやり方しかないのか(「半沢」も同じ手を使っていたが)。
     
七つの会議 吉田鋼太郎.jpg七つの会議1.jpg ドラマを観ると東山紀之演じる「原島」から始まって「原島」で終わっている印象を受けますが、原作は「原島」から始まってドラマで吉田鋼太郎が演じた「八角」で終わっている印象があり、個人的にはこの辺りが、原作とドラマから受ける印象の最も大きな違いだったかもしれません。

「七つの会議」●演出:堀切園健太●脚本:宮村優子●原作:池井戸潤「七つの会議」●出演:東山紀之/吉田鋼太郎/田口淳之介/石橋凌/長塚京三/眞島秀和/豊原功補/山崎樹範/戸田菜穂/堀部圭亮/村川絵梨/野間口徹/中村育二/矢島健一/北見敏之/神保悟志/竜雷太/浜野謙太/松尾れい子/甲本雅裕/遊井亮子●放映:2013/07/13~08(全4回)●放送局:NHK

【2016年文庫化[集英社文庫]】

映画 七つの会議86.jpg映画 七つの会議.jpg2019年映画化。出演:野村萬斎、香川照之、及川光博、片岡愛之助、音尾琢真、立川談春、北大路欣也
七つの会議 (集英社文庫) eiga tie up cover.jpg

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原作もわりと劇画調だが、「倍返し」「土下座」は2作を通して1、2度出てくる程度。

オレたちバブル入行組 単行本.jpg オレたちバブル入行組 文庫.jpg  オレたち花のバブル組 単行本.jpg オレたち花のバブル組 文庫.jpg 半沢直樹 -ディレクターズカット版 dvd.jpg
単行本/『オレたちバブル入行組 (文春文庫)』  単行本/『オレたち花のバブル組 (文春文庫)』「半沢直樹 -ディレクターズカット版- DVD-BOX

オレたちバブル入行組s.jpg バブル期に入行し、大阪西支店の融資課長を勤める半沢直樹は、支店長の浅野の強引な指示で無担保でへの5億円の新規融資を実行したが、7ヵ月後に当の相手企業が不渡りを出し倒産、半沢は支店長から融資の責任を一手に負わされ、窮地に立たされる。雲隠れした倒産会社社長の東田を捕まえることはできるのか、果たして5億円を回収できるのか―。(『オレたちバブル入行組』)

オレたち花のバブル組s.jpg ビデオリサーチ速報値での「最終回」の平均視聴率42.2%、瞬間最高視聴率 46.7%(何れも関東)を記録したTBS日曜劇場「半沢直樹」(関西は平均45.5%、瞬間最高50.4%)の原作で、ドラマの第1部の「西大阪スチール」の話が『オレたちバブル入行組』、第2部の「伊勢島ホテル」の話が『オレたち花のバブル組』に対応していますが、原作もドラマも面白かったように思います。

『オレたち花のバブル組』.JPG ドラマがかなり劇画調に脚色されているかのように思われていますが、原作がそもそも池井戸作品の中ではかなり劇画調な方で、カタルシス効果にウェイトを置いたエンタテインメント企業小説となっています。但し、「倍返し」といった言葉や「土下座」シーンは、2作を通して1、2度出てくる程度で、ドラマではそれが頻繁に繰り返され、気持ちは分かるなあという一方で、土下座させれば全て問題が解決したことになるのかという疑問も覚えました。でも、ドラマの場合、ずっと読み進んで最後にカタルシスを覚える小説とは違って、毎回、1話毎の時間内に山場を作る必要があるため、そうした枠組みの中で「倍返し」などを決め台詞をにした点などは、視聴者心理を掴んで巧みであり、その戦略は見事に功を奏したと言えます。

半沢直樹 黒崎.jpg 原作では主要な登場人物のそれぞれの出自などに踏み込んで描かれていて、但し、ネジ製造工場経営の半沢の父親が自殺したという話は原作にはありません(彼が学生時代に剣道をやっていて今も時々道場に足を運ぶ、という話も)。片岡愛之助(この人、実生活では歌舞伎とは無縁のスクリュー製造工場を営む家庭に生まれ、両親は20代の頃に相次いで他界している)が演じて、そのオネエキャラで話題となった国税庁の黒崎は、原作でもオネエキャラです。但し、本格的に登場するのは、大阪国税局就航中の『オレたちバブル入行組』よりも、金融庁に戻って主任検査官となった『オレたち花のバブル組』に入ってからで、しかもそう頻繁に登場するキャラクターでもなく、人気が出て、ドラマの方での出番が原作より多くなっているようです。

半沢直樹3.jpg半沢直樹 大和田常務.jpg 浅野支店長(石丸幹二)に株取引の失敗で重ねた5千万もの借金があり(原作では3千万円)、大和田常務(香川照之)の妻の会社は1億円以上の借金を抱えているという―2人とも不正を働く動機としては分かり易いけれど、銀行のお偉いさんってこういう人ばかりなのかなあ。バブルの夢よ、もう一度、か。

半沢直樹 吉田鋼太郎.jpg七つの会議 吉田鋼太郎.jpg ドラマとして成功した要因は、「劇画」として割り切って作ったことにあるかと思いますが、そうした中、全体を通して観て振り返ると、後半部分の半沢の直属上司で、半沢の能力・人格を買って常に彼を庇う姿勢を貫く第2営業部長の内藤を演じた吉田鋼太郎が結構渋かったかもしれません。同時期スタートした同原作者のNHK土曜ドラマ「七つの会議」では、反骨精神に富み、最後はj自分の会社の悪事をマスコミに内部告発する"万年係長"という全く異なるタイプのキャラクターを演じていました。

 こうしてドラマで第1部・第2部と観てみると、原作の『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』が良く似た展開であり、リフレイン構造になってることに気付かされます(続けて読むとお腹いっぱい、という感じになってしまう)。シリーズ第3作『ロスジェネの逆襲』('12年/ダイヤモンド社)が楽しみ、と言いつつ、ドラマ化が決まるまでしばらく読まないかも。
半沢直樹1.jpg
2半沢直樹.jpg
「半沢直樹」●演出:福澤克雄●脚本:八津弘幸●原作:池井戸潤「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」●出演:堺雅人/上戸彩/及川光博/片岡愛之助/滝藤賢一/山崎直子/北大路欣也/香川照之/赤井英和/笑福亭鶴瓶/宇梶半沢直樹 片岡愛之助 壇蜜.jpg半沢直樹 壇蜜 宇梶剛士.jpg剛士/宮川一朗太/森田順平/緋田康人/石丸幹二/中島裕翔/壇蜜/福田真夕/松本さやか/モロ師岡/石丸雅理/大谷みつほ/相築あきこ/倍賞美津子●放映:2013/07/07~09(全10回)●放送局:TBS


『オレたちバブル入行組』...【2007年文庫化[文春文庫]】/『オレたち花のバブル組』...【2010年文庫化[文春文庫]】

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「聞く力」というよりインタビュー術、更にはインタビューの裏話的エッセイといった印象も。

聞く力1.jpg 聞く力2.jpg 阿川 佐和子 菊池寛賞.jpg
聞く力―心をひらく35のヒント (文春新書)』  阿川佐和子氏(第62回(2014年)菊池寛賞受賞)[文藝春秋BOOKS]

阿川 佐和子 『聞く力―心をひらく35のヒント』130.jpg 本書は昨年('12年)1月20日に刊行され12月10日に発行部数100万部を突破したベストセラー本で、昨年は12月に入った時点でミリオンセラーがなく、「20年ぶりのミリオンゼロ」(出版科学研究所)になる可能性があったのが回避されたのこと。今年に入ってもその部数を伸ばし、5月には135万部を、9月13日には150万部を突破したとのことで、村上春樹氏の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が発売後7日で発行部数100万部に達したのとは比べようもないですが、今年('13年)上半期集計でも村上氏の新刊本に次ぐ売れ行きです。

プロカウンセラーの聞く技術3.jpg 内容は主に、「週刊文春」で'93年5月から20年、900回以上続いている連載インタビュー「この人に会いたい」での経験がベースになっているため、「聞く力」というより「インタビュー術」という印象でしょうか。勿論、日常生活における対人コミュニケーションでの「聞く力」に応用できるテクニックもあって、その辺りは抜かりの無い著者であり、エッセイストとしてのキャリアも実績もあって、文章も楽しく読めるものとなっています。

 ただ、対談の裏話的なものがどうしても印象に残ってしまい(それも誰もが知っている有名人の話ばかりだし)、タイトルからくるイメージよりもずっとエッセイっぽいものになっている印象(裏話集という意味ではタレント本に近い印象も)。「聞く力」を本当に磨きたければ、著者自身が別のところで推薦している東山紘久著『プロカウンセラーの聞く技術』(`00年/創元社)を読まれることをお勧めします。もしかしたら、本書『聞く力』のテクニカルな部分の典拠はこの本ではないかと思われるフシもあります。
プロカウンセラーの聞く技術

 因みに、昨年、その年のベストセラーの発表があった時点ではまだ本書の発行部数は85万部だったのが、同年4月に文藝春秋に新設されていた「出版プロモーション部」が、この本が増刷をかけた直後にリリースしたニュース情報が有効に購入層にリーチして一気に100万部に到達、この「出版プロモーション」の成果は村上氏の新刊本『色彩を持たない...』にも応用され、インターネット広告や新刊カウントダウンイベントなどの新たな試みも加わって、『色彩を持たない...』の「7日で100万部達成」に繋がったとのことです。

 本もプロモーションをかけないと売れない時代なのかなあ。ただ、こうしたやり方ばかりだと、更に「一極(一作)集中」が進みそうな気もします。まあ、この本は、村上春樹氏の新刊本とは異なり、発刊以降、地道に販売部数を重ねてきたものでもあり、プロモーションだけのお蔭でベストセラーになった訳でもないとは思いますが。

「●む 村上 春樹」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2374】 村上 春樹 『女のいない男たち

精神的ご都合主義? これまでの作品のリフレインの枠を出ていない気がした。

2色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』.jpg色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年.jpg 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(2013/04 文藝春秋)

 自分が勝手に名付けた「5人の物語」3冊シリーズの3冊目(他は、窪美澄の『ふがいない僕は空を見た』と、朝井リョウの『何者』)。本書は発売後「7日」で発行部数100万部を突破したということで、昨年('12年)の唯一のミリオンセラー本、阿川佐和子氏の『聞く力』(文春新書)が、1月20日に刊行されて100万部突破が12月10日と、ほぼ「1年」をかけての到達だったとを考えるとスゴイ話。これは、作者の前作『1Q84 BOOK3』の「14日」を塗り替える新記録でもあり、出版不況どこ吹く風の本ですが、「良い・悪い」の前に「読む・読まない」の選択を多くの人に迫った形になったその結果ととれば、この「一極(一作)集中」ぶりは、これもまた出版不況を反映しているとも言えるかも。

 名古屋の公立高校を卒業後、東京の工科大学土木工学科に進んだ多崎つくる(36歳)は、東京の鉄道会社に就職し、駅舎を設計管理する仕事をしている。紹介で知り合った大手旅行代理店勤務の木元沙羅(38歳)との3度目のデートで体を交わし、4度目のデートのとき、高校時代に仲良し5人組を成していた4人から、大学2年のときに突如、理由も告げられないまま絶交を言い渡されたことを語る。5度目のデートで沙羅から、なぜ4人から絶交されたのか「あなた自身の手でそろそろ明らかにしてもいいじゃないかという気がするのよ」と言われる―。

 4人はそれぞれ赤松慶(アカ)、青海悦夫(アオ)、白根柚木(シロ)、黒埜恵理(クロ)という名で、つくるは先ず、名古屋で働くアカとアオに会いに行くが、アオはトヨタのショールームで高級車レクサスを販売する営業マン、アカは社員教育カリキュラムを実践するベンチャー経営になっていて、共に成功していた。16年ぶりに会ったアオとアカから、シロが、つくるが大学2年時につくるからレイプされたと訴えたという、つくるには全く身に覚えのない話を聞かされ、しかもシロは妊娠して一人で産み育てる決意をしたが流産、音大学業後に浜松に移り住み、2年後にマンションの自室で絞殺されたという。クロは、フィンランド人の陶芸家と結婚してフィンランドに住んでいるとのことで、つくるは休暇を取り、沙羅が手配してくれた飛行機でフィンランドに飛ぶ―。

 「色彩を持たない」ってそういうことだったのか―とやや拍子抜けした感もありましたが、それはともかく、過去と現在の間を埋めるために最後はフィンランドまで行っちゃうわけだから、まあ「巡礼の旅」ではあるのだろうなあ。

 前作『1Q84 BOOK3』以来、3年ぶりの長編小説であるとのことですが、前作の主人公の「天吾」と「青豆」が29歳にして10歳の時の想い出を引き摺っているという構図が、36歳にして二十歳頃の出来事に執着する多崎つくるにも継承されている感じで、この作品における「喪失」というテーマに関して東日本大震災のテーマへの反映を指摘する人も多いようですが、「少年や若者が大人になる際に失った何か」というのは、『海辺のカフカ』然り、ずっとこの人の作品のモチーフとしてあり続けてきたのではないでしょうか。

 つくるは4人と会って、これまで自分のことを犠牲者だと考えてきたが、知らないうちに周りの人たちを傷つけてきたのかもしれないと思い始め(謙虚!)、更に、クロから、「君は彼女(沙羅)を手に入れるべきだよ」と言われて、帰国後、沙羅に「君には僕のほかに誰か、つきあっている男の人がいるような気がするんだ」と本心を明かして、彼女の自分に対する気持ちはどうなのか返事を待ちます(新宿駅で。この駅、乗降客数世界一なんだね)。

 つくるの「すべてが時の流れに消えてしまったわけじゃないんだ」「僕らはあのころ何かを強く信じていたし、何かを強く信じることのできる自分を持っていた。そんな思いがそのままどこかに虚しく消えてしまうことはない」という内面の言葉は心に残るものですが、クロとの別れ際にそれを言うべきだったのにその時は言葉に出来ず、後になってその言葉を見つけたというのは、クロが何だか放ったらかしにされた印象も。

 考えてみれば、アカもアオも一応の成功は収めているけれどどっぷり俗世間に浸かってしまっているわけで、彼らも放ったらかしにされている印象で(と言って、つくるにはどうすることも出来ないわけだが)、何だかつくるだけが無垢のままでいるような、彼だけが精神的エリートであるような描かれ方がされてなくもない気がするけれど、だからこそ読者はつくるに惹かれながらこの物語を読み進むのだろうなあ。

 推理小説でご都合主義はまずいけれど、文芸小説においては、こうした精神的ご都合主義はありなのかも。こういう「自分のために世界はあるの」的な小説って決して嫌いな訳ではありませんが、『1Q84』以上に「ああ、これこそ村上春樹」って感じの作品であり、その分、これまでの作品のリフレインの枠を出ていない気がしました。

 それにしても、作中に登場するロシアのピアニスト、ラザール・ベルマンが演奏するリストのピアノ独奏曲集である「巡礼の年」の国内盤CDが廃盤になっていたのが急遽再発売されることになるなど(輸入盤CDは本書刊行後すぐに売り切れてしまったらしい)、『1Q84』に出てきたヤナーチェック作曲「シンフォニエッタ」に続いて、クラシックCD業界まで影響を及ぼすとは....。

 因みに、リストの「巡礼の年」の「年」は複数形であり、「第1年:スイス」「第2年:イタリア」「ヴェネツィアとナポリ(第2年補遺)」「第3年」の4集で構成されますが、村上春樹のこの小説に登場するのは、「第1年:スイス」 の第8曲〈郷愁(ル・マル・デュ・ペイ)〉になり、セナンクールの小説『オーベルマン』からとられて、主人公オーベルマンの故郷アルプスへの望郷の念を音楽で表現しているとのことです。

【2015年文庫化[文春文庫]】

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朝井 リョウ 『何者』.jpg 朝井 リョウ 『何者』1.jpg  朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』.jpg     三田誠広『僕って何』.jpg
何者』(2012/11 新潮社)/映画タイアップカバー['16年]桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)』  三田誠広『僕って何 (1977年)

現代若者気質を反映して上手い。現実の彼らとTwitter上での彼らが表裏になっている。。

 自分が勝手に名付けた「5人の物語」3冊シリーズの2冊目(他は、窪美澄の『ふがいない僕は空を見た』と村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』)。2012(平成24)年下半期・第148回「直木賞」受賞作。直木賞初の平成生まれの受賞者であり、男性受賞者としては史上最年少の23歳での受賞(戦後の受賞者としても、山田詠美の28歳、平岩弓枝の27歳より若い最年少)。

 就活の情報交換をきっかけに集まった、拓人、光太郎、瑞月、理香、隆良の5人。学生団体のリーダー、海外ボランティア、手作りの名刺...自分を生き抜くために必要なことは、何なのか。この世界を組み変える力は、どこから生まれ来るのか。影を宿しながら光に向いて進む、就活大学生の自意識をリアルにあぶりだす―。(Amazon.comより)

 冒頭に主要登場人物のTwitterのアカウントのプロフィールがあって(「烏丸ギンジ」も入れると「6人の物語」だが)、作中でも、現実の彼らと、Twitter上での彼らが表裏になっているのが面白く、更に、Twitterにおいても、表のアカウントと裏のアカウントを使い分けたりしているのがいたりして、今の若者ってご苦労さんだなあという気も。

 現代若者気質をストレートに反映しているようで、上手いと思ったし、面白い、と言うより、たいへん興味深く読めました(当の若者からすれば、みんながみんなこうとは限らないのに、この5人に現代若者気質が集約されていると思われるのはたまらん、という声もあるかもしれないが)。

 こうした二重構造、三重構造の自分がいて、更に、就活のために目一杯「自分探し」していて、分裂症にならないかとこっちが気を揉んでしまいそうですが、そんな中、主人公である拓人の視線が比較的クールでしょうか。クールだから就職が決まらないと言うのもあるけれど、みんな「何者」になろうとしているのかという疑問が湧いてくることには共感を覚えました(でも、結局、強く「自分」を持っていたのは、最初はやや無定見に見えた女子2人だった)。

 昔の芥川賞受賞作で、同じくワセダを舞台にした、三田誠広の『僕って何』('77年/河出書房新社)は、かつて"学園紛争"時代、肩肘張ってイズムを主張する男性像が主流の中、軟弱で世間知らずなゆえに"何となく"流されるかのようにあるセクトに入ってしまった大学生だった主人公の述懐話でしたが、雑誌「文藝」に掲載された時から話題になっていて、皆こぞって読んだでいたような記憶があるけれども(「文藝春秋」に転載後かもしれないが、何れにせよ単行本になる前から読まれていた)、モラトリアム型の若者を描いている点ではこの2つの作品は似ています(タイトルも似ている)。

 時代は変われど昔も今も、学生は「自分」を探し求めて彷徨するのでしょうか。新卒学生の就職難の今の時代をリアルタイムで描写し、更に、他者との関係性の今風のスタイルをリアルに描いているという点では、こちらの方が上かも。出てくるのはモラトリアム型の若者にに偏っている気もしますが、まあ、類は友を呼ぶということなのでしょう。

 小説すばる新人賞を受賞した『桐島、部活やめるってよ』('10年/集英社)(これも"5人"の高校生の物語)の背景テーマが「スクールカースト」だったとすれば、こちらは「就職氷河期」がそれにあたるとも言え、結構、社会派かも。

 それにしても、自分に近い年齢の登場人物たちを、よく冷静に対象化して書き分けることが出来るなあと感心。何だかこの人、「若者身の上相談」でもやりそうだなあと思ったら、もう既にそうした類の本を書いていました(まあ、芥川賞作家である中上健次だって村上龍だって、その類の本を書いているけれどね)。

『何者』...【2016年文庫化[新潮文庫]】
『僕って何』...【1980年文庫化・2008年改版[河出文庫]】

映画 何者4.jpg映画 何者M.jpg2016年映画化「何者」(東宝)

2016年10月15日(土)全国東宝系ロードショー
出演:佐藤 健/有村架純/二階堂ふみ/菅田将暉/岡田将生/山田孝之
原作:朝井リョウ『何者』(新潮文庫刊)
監督・脚本:三浦大輔

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前半部は良かったが、読み進むにつれて、どことなく読み心地の悪さを感じた。

残穢 小野 不由美.jpg   
残穢』(2012/07 新潮社)2016年映画化「残穢 -住んではいけない部屋-」(監督:中村義洋、主演:竹内結子)

 2013(平成25)年・第26回「山本周五郎賞」受賞作。

 作家の「私」は、読者の手紙を通して、部屋に怪異が起きるという久保と知り合い、久保を手足として怪異の調査に乗り出す。久保の住んでいる岡谷マンションと、隣にある狭小住宅の岡谷団地に怪異が多発していることが分かって、更に土地の古老を訪ねたり、文献を調べたりしていくと、怪異の源は福岡の奥山家にあることが分かる。奥山家は炭鉱を営んでいたが、当時は安全性がないがしろにされており、事故が多発していた。また、奥山家の者が、家族や使用人を殺害して自殺した事件があった。奥山家にあった絵の中の女性が、それ以来笑うことがある。昔は家の資材は、ほどほどに質が良ければ他に転用されるのが一般的であり、奥山家の資材も転用され、そうして穢れは拡散していくこととなったようだ。奥山家に端を発する怪談は九州最恐の怪談と言われ、記録したり伝えたりするだけで障りが出るとのことで、私、久保、平山、福澤の皆らの体調が悪化するのだった―。

 語り手の職業がホラー作家で、かつては少女小説を書いていたとか、夫も同業者であるとかで、作者自身を指していることは明らかで、何よりも「残穢」の"伝染" 過程を辿る様子が、緻密な調査記録のようにドキュメンタリータッチで描かれているのが真に迫ってきます。「私」が、平山夢明氏や福澤徹三氏といった実在の怪奇幻想小説作家などにいろいろ訊ねてみたりするのも、「もしかして全部ホントの話」と思わせる効果を醸しているし、とにかく前半部は良かったです。

 ただ、後半部になって、やや社会学的観点が入ってきた分、逆にお話そのものは作り話っぽくなってきたかなあ。作者がホラー作家でなければ、結構スゴイと思うのだけれど、現実にホラー作家であるだけに、「新手のホラー小説」の印象が濃くなっていったように思います。山本周五郎賞の受賞が決まる前にこの作品を読んでいて、山本賞が決まった時は個人的にはやや意外感がありました(この賞の系譜からすると"直球"ではなく"変化球"?)。

 選考委員の1人である石田衣良氏は、「僕はこの賞を小野さんにあげたいと思ったけれど、この本を自宅の本棚に置くのはイヤ」と言ったそうですが(それだけホラー小説としてよく出来ているという意味での褒め言葉だろう)、個人的にはむしろ、「虚実皮膜譚」的な要素が、読み進むにつれて、どことなく読み心地の悪さを感じることに繋がってしまったかも。端的に言えば、「あざとさ」を感じたとでも言うのでしょうか。多分、この作者をの作品を愛読している人には、メタフィクション・ホラーとして最初から全て織り込み済みなのでしょうが(自分には元々ホラー小説ってあまり合わないのかも)。

 この小説に描かれているようなことは、心霊学からでも超心理学からでも説明可能ではないかと思いますが(自分自身としては心霊学には全く信を置いていないが、超心理学は必ずしも全否定はしない)、いずれにせよ、何十人に1人いるかいないかといった霊感またはESP感性の高い人が、偶然、集中的に連なっていないと、こうしたことは起きません。

 哲学者の内山節氏の『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』('07年/講談社現代新書) によれば、キツネに騙されたという話を聞かなくなったのは1965年頃だということで、日本人が「キツネに騙される能力」を失った(と、騙されなくなったことを精神性の"衰退"とする捉え方をしているわけだが)その理由を5つに纏めていて、その中には、「自然や共同体の中の生死という死生観が変化し、個人としての"人間らしさ"を追求するのが当然になった」というのもあります。

 怪奇作家の集まりと言うのは、"人間らしい人"の集まりなのかもね。

【2015年文庫化[新潮文庫]】

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連作の繋がり方が上手いなあと。最後は「恢復する家族」の物語のように思えた。

ふがいない僕は空を見た 新潮社 単行本.jpg ふがいない僕は空を見た 新潮文庫.jpg ふがいない僕は空を見た 映画.bmp 2017年映画化(出演:永山絢斗/田畑智子)
ふがいない僕は空を見た』『ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)』「ふがいない僕は空を見た [DVD]

 自分が勝手に名付けた「5人の物語」3冊シリーズの1冊目(他は、朝井リョウの『何者』と村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』)。2011(平成23)年・第24回「山本周五郎賞」受賞作。2011(平成23)年・第8回「本屋大賞」第2位。2009(平成21)年・第8回「R‐18文学賞大賞」受賞作(「ミクマリ」)。2010(平成22)年度・「『本の雑誌』編集部が選ぶノンジャンル・ベスト10」第1位。

 助産院を営む母に女手ひとつで育てられた高校生の斉藤卓巳は、イベントで知り合った人妻の里美(自分のことをコスプレネームであんずと呼ばせている)と不倫関係になる。夫の不在時に、あんずの書いたシナリオに沿って情事を重ねるという、風変りながらもそれが日常化していた2人の関係だったが、卓巳が、自分が好きだった同級生の七菜に告白されたことで状況は一変、卓巳は、もうあんずの元には行かないことに決め、あんずに決別を告げる―。

 「ミクマリ」「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」「2035年のオーガズム」「セイタカアワダチソウの空」「花粉・受粉」の5部構成の連作で、「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」は里美の視点、「2035年のオーガズム」は七菜の視点からといった具合に、以降は、卓巳をとりまく人々それぞれの視点からの物語になっています。

 作者は、本作の冒頭の短編「ミクマリ」が「R‐18文学賞大賞」を受賞した際に、「賞を貰ったらどんどん書かなければだめよ」と人から言われて、この連作を仕上げたそうですが、最初から計算されていたかのような見事な繋がりで、上手いとしか言いようがありません。

 最初の「ミクマリ」は、男性が書いたと言われてもそうかと思ってしまうような、リアリティに満ちた男子高校生の目線で、かつ骨太でスピード感がありましたが、連作を読み進むにつれて、女性らしい皮膚感覚が行間に滲んでいるのが感じられました。

 4人目の物語、貧乏団地に住む高校生の良太の物語「セイタカアワダチソウの空」も良かったです。と、それまで、若妻や高校生など、比較的若年層の視点で描かれていたのが、最後の「花粉・受粉」でいきなり卓巳の母の視点になっておやっと思いましたが、"性欲"→"セックス"→"出生"ということでちゃんと環になっていた―しかも、最後は"家族の再生"のような話で、全体を通して描写はどろどろしているのに、読後感は爽やかでした。

 映画化されて、「性欲、炎上、貧困、団地、出産。日常のシーンから生命の愚かさと美しさを描いた紛れもない名作」というキャッチがついたけれど、個人的には、大江健三郎ではないですが、「恢復(かいふく)する家族」の物語のように思えました。

 【2012年文庫化[新潮文庫]】

ふがいない僕は空を見た ド.jpgふがいない僕は空を見た 09.jpg2012年映画化「ふがいない僕は空を見た」
監督 タナダユキ
脚本 向井康介
原作 窪美澄
出演者 永山絢斗/田畑智子/原田美枝子

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"トミ・タぺ"にミス・マープルがしゃしゃり出て、何から何まで全て解決してしまったように見えてしまう。

ミス・マープル2 親指のうずき dvd.jpg ミス・マープル2 親指のうずき.jpg   マープル2 親指のうずき0.jpgアガサ・クリスティーのミス・マープル DVD-BOX 2

マープル2 親指のうずき2.jpg トミー(アンソニー・アンドルー)とその妻タペンス(グレタ・スカッキ)は、トミーの叔母エイダ(クレア・ブルーム)に会いに養護ホーム「サニー・リッジ」に行く。養老院には、タペンスのブローチを誉める老ランカスター夫人(ジェーン・ウィットフィールド)や時間にこだわるマジョリー(ミリアム・カーリー)がいた。エイダ叔母から邪険にされたタペンスは、ランカスター夫人の部屋で、彼女から突然、「暖炉の奥の子供はあなたのお子さん?」と聞かれ驚く。数週間後、エイダ叔母が心臓病で急死し、遺品の引き取りに来たタペンスは、その中に、以前には彼女の部屋には無かった風景画と、1通の手紙を発見、手紙には「ランカスター夫人は安全ではない。なにかあったらこの絵を見て」とあった。 タペンスは、エイダの死んだ日にランカスター夫人が身内に引き取られたと聞き、マージョリーに面会に来ていたミス・マープル(ジェラルディン・マクイーワン)から、ランカスター夫人は無理やり連れ去られたらしいと聞かされる。タペンスとマープルは、絵に描かれていた家から、その家のある村を探し出す。村で酒場の女主人ハンナ(ジョシー・ローレンス)や司祭(チャールズ・ダンス)とその妻ネリー(リア・ウィリアムズ)、ジョンソン夫妻と娘ノラ、フィリップ卿(レスリー・フィリップス)などに会うが、皆、何かを隠している雰囲気がある―。

 2006年に本国イギリスで放映されたジェラルディン・マクイーワン主演の英国グラナダ版で、この年に作られたシーズン2全4話の内の第3話(通算第7話)であり、日本ではNHK‐BS2で2008年6月24日に発放映(第6話「動く指」の前日)。原作『親指のうずき』はアガサ・クリスティ(1890‐1976)が1968年、78歳の時に発表した、トミー&タペンス・ベレズフォード夫妻シリーズの長編第3作ですが(原題:By the Pricking of My Thumbs)、トミ・タぺ夫婦は齢を重ね、原作ではこの時点で2人共60代後半になっています。

 この映像化作品では、時代設定を第二次世界大戦後(50年代初め)にしているようで、それでも既に2人とも探偵染みたことはしていませんが、トミーはそれなりに老けているけれど(「新・刑事コロンボ/汚れた超能力」で犯人役グレタ・スカッキ.gifを演じたアンソニー・アンドリュース。この時、実年齢58歳)、仕事上はまだ現役、一方のタペンスは彼より随分と若い感じで(「推定無罪」「ザ・プレイヤー」のグレタ・スカッキ。この時の実年齢は46歳)、暇を持て余し気味の状態にあり、しかも、夫から相手にされていないという思い込みから、ややキッチン・ドランカー気味(これは原作にない描写)。彼女なりの直感で事件の臭いを嗅ぎつけ、持ち前の好奇心で、ランカスター夫人誘拐(?)事件を追います。

グレタ・スカッキ(Greta Scacchi)

親指のうずき 映画タイアップカバー2.jpg パスカル・トマ監督の映画化作品『アガサ・クリスティーの奥様は名探偵』('05年/仏)の原作が同じくこの『親指のうずき』ですが、話がちょっと分かりづらかった印象があり、このTV版にも背後関係においてそのキライはあったかも(村全体が、ある種"犯罪装置"みたいになっているのだが、元々原作が、その部分の説明的要素が少ない)。

ミス・マープル2 親指のうずき3.jpg 非マープル物に強引にミス・マープルを登場させていることによって、改変される部分が自ずと多くなるわけですが、更にオリジナリティを出そうとして、駐留米軍兵士のクリス(O・T・ファグベンル)と警官イーサン(マイケル・ベグリー)の村の娘ローズ(ミシェル・ライアン)を巡る恋の鞘当の話があり、警察はクリスを疑うという―原作に無い話、原作に無い登場人物、原作に無い容疑者―もはや改変過剰...。

親指のうずき ミステリ文庫 2.jpg 絵に描かれた家は、原作では早いうちに「運河の家」をタペンスが見つけるのに、この映像化作品では「魔女の家」がなかなか見つからない―この原作の焦点である「意外な犯人」はさすがに変えてなかったけれど、エイダ叔母さんも犯人の犠牲者にしてしまったなあ。タペンスを甥の嫁とも思わず邪険に扱い、認知症にさしかかっているかに思えた彼女が、実は、原作以上に事の真相に気付いていて、絵の中で色々とそのことを示唆し、それゆえに殺害されたということなのでしょう(絵に書き加えられた暗示は、原作では、ハヤカワ・ミステリ文庫の表紙の真鍋博のイラストにもあるように、舟一艘だけだったのではないか。この映像化作品では外にも色々と...)。

ミシェル・ライアン.jpg ミス・マープルは、クリスの無実を晴らして彼のローズへの想いをバックアップし、更に、最後にはタペンスに「あなた一人で事件を解決したのよ」と言って、トミーも改めて彼女のことを評価し直し愛おしく思うという、夫婦の倦怠期の脱却にも彼女が一役果たした終わり方ですが、どうみても、ミス・マープルがしゃしゃり出て、何から何まで全てを解決してしまったように見えてしまうなあ。

ミシェル・ライアン(Michelle Ryan)

ミシェル・ライアン2.jpg「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第7話)/親指のうずき/●原題:BY THE PRICKING OF MY THUMBS, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 2●制作年:2006年●制作国:イギリス●演出:ピーター・メダック●脚本:スチュワート・ハーコート●原作:アガサ・クリスティ「親指のうずき」●時間:93分●出演:ジェラルディン・マクイーワン/アンソニー・アンドルーズ/グレタ・スカッキ/パトリック・バーロウ/マイケル・ベグリー/スティーブン・バーコフ/クレア・ブルーム/ブライアン・コンリー/チャールズ・ダンス/ミシェル・ライアン/O・T・ファグベンル/クレア・ホルマン/ミリアム・カーリン/ボニー・ラングフォード/ジョシー・ローレンス●日本放送:2008/06/24●放送局:NHK‐BS2(評価:★★★)

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初老ながら溌剌としたタペンス。白眉は、全体の構成よりも、真犯人の意外性に尽きるか。

親指のうずき  ハヤカワ・ポケット・ミステリ.jpg 親指のうずき ミステリ文庫.jpg 親指のうずき クリスティー文庫.jpg
親指のうずき (1970年) (世界ミステリシリーズ)』『親指のうずき (1976年) (ハヤカワ・ミステリ文庫)』『親指のうずき (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 トミーとタペンスは、トミーの叔母エイダが余生を送る養老院を訪ねる。その後叔母が亡くなり、2人は遺品を引き取りに行った際、タペンスは叔母の部屋にあった一枚の風景画に描かれている運河の傍の一軒屋に見覚えがあるように思う。その絵は叔母が亡くなる前に、同じ養老院にいたランカスター夫人から譲り受けた物で、そのランカスター夫人は突然養老院を出ていったのだった。タペンスは、何者かによって連れ去られたと思われるランカスター夫人の身を案じてその風景画の場所を一人探し求め、ついにその村を見つけるが、村の人々の話を聞くうちに、村全体を覆う不穏な事実の数々を知る―。

By the Pricking of My Thumbs.jpg 1968年、アガサ・クリスティ(1890‐1976)が78歳の時に刊行された作品で(原題:By the Pricking of My Thumbs)で、トミー&タペンス・ベレズフォード夫妻シリーズの長編第3作ですが、2人の年齢を合わせても45にもならなかったという『秘密機関』(1922)から46年、『NかMか』(1941)から27年経っていて(その間に短編集『おしどり探偵』(1929)がある)、さすがにトミーもタペンスも年齢を重ねています。       "By the Pricking of My Thumbs"(ペーパーバック・1971)

 トミーとタペンスの子供たちデボラとデリクもすでに結婚しており、実際の月日の流れからしても2人とも60代後半のはずですが(この作品の5年後に発表されたシリーズ最終作品『運命の裏木戸』(1973)では2人とも75歳前後になっているというから、殆ど70近いことになる)、それでもタペンスは冒険心に満ち、その上、よく動き回るなあ。少なくとも60代のイメージではないかも。この作品は、世界中の多くの読者からの「その後、トミーとタペンスはどうしました?今なにをやっています?」という問い合わせに答える形でクリスティが書いたもので、2人とも今もって溌剌としていることを印象づけたかったのかな。

BY THE PRICKLING OF MY THUMBS.jpg 村人たちは、人の良さそうな人もいれば怪しげな人もいるけれど、何れもタペンスの問いになかなかまともな回答を与えず、むしろ、タペンスの動きを監視している風。それでも、タペンスの地道な聞き込みで、背後の闇が浮かび上ろうかとしたところで、タペンス自身が行方不明に。そこで、最初はタペンスの疑念をまともに受けてはいなかったトミーが動きだし、ランカスター夫人誘拐(?)事件だけでなく、それに絡んでいる大規模な組織団による強盗事件、20年前に村で起きた連続少女殺人事件などが浮かび上がってきて、村全体が犯罪及びその隠蔽装置のようなものだったと―。

"BY THE PRICKLING OF MY THUMBS" Fontana 1987

 この作品の3年前に発表された『バートラム・ホテルにて』(1965)の"ホテル版"ならぬ"村版"のような印象もあります。78歳でこんな入り組んだ話を書いているクリスティもスゴイけれど(作者から見れば60代はまだ若いということか)、ただ、大規模な強盗組織を持ち出してきたところで、『バートラム・ホテルにて』同様、ミステリとしては逆にリアリティが希薄になったかも。

ミス・マープル2 親指のうずき dvd.jpgマープル2 親指のうずき2.jpg この作品の白眉は、全体の構成よりも、真犯人の意外性であり、この点に尽きると思います。オリジナリティのあるサイコ・シリアルキラーだったと思います。

「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第7話)/親指のうずき」 (06年/英) ★★★

【1970年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(深町眞理子:訳)]/1976年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(深町眞理子:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(深町眞理子:訳)]】

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法廷戦術のぶつかり合いは通好みか。カードを捏造した人物の意図がイマイチしっくりこない。

無罪 二宮馨訳.jpg無罪 INNOCENT 2.jpg無罪 INNOCENT』(2012/09 文藝春秋)

 2012(平成24)年度・第4回「翻訳ミステリー大賞」受賞作であり、2012 (平成24)年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)(第3位)、2013(平成25)年「このミステリーがすごい」(海外編)(第3位)、2012(平成24)年「ミステリが読みたい!」(海外編)(第7位)などにもランクインした作品。

Innocent Scott Turow.jpg 女性検事補殺害の嫌疑に対して無罪を勝ち取った23年後、判事となっているラスティ・サビッチの妻バーバラが死ぬ。もともと心臓に難を抱えるバーバラだけに自然死に見えたが、奇妙なことにラスティはすぐに通報せず、1日妻の亡骸の側にいたという。かつてラスティを追いつめたトミー・モルトはサビッチが殺したのではないかと考える。トミーは23年前のサビッチ事件で敗れていた―。

"Innocent"

 2010年にスコット・トゥロー(Scott Turow)が発表した作品で、彼のデビュー作にして代表作であり、ハリソン・フォード主演で映画化もされた『推定無罪』の続篇で、あのラスティ・サビッチ首席検事補も60歳となり、上訴裁首席判事を務め、州最高裁判所判事候補であるにも関わらず、また、浮気している―そんな最中に起きた神経症を病む妻の死は、自殺なのか、他殺なのか、はたまた事故死なのかという展開。

 同じく弁護士作家であるジョン・グリシャムの作品がその殆どが法廷外を舞台にしているのに対し、トゥローの作品は、この作品もそうですが、その殆どが法廷内を舞台にしており、よりプロっぽいと言うか"通好み"と言えるかも。

 事件や裁判に関係する複数の人物の視点から描かれていますが、最初の内は、ラスティ・サビッチの視点からの、自らが愛人との関係にずぶずぶハマっていく様がリアルに描かれていて、う~ん、アメリカ版"渡辺淳一"のようだなあと(それ以上の技量かもしれず、思わず感情移入した)。ラスティを、相変わらずふらふらしているダメ男とすっぱり定義づけ出来るほど、男性は皆、清廉潔白なのかなあ。

 中盤以降は、妻バーバラ殺害容疑で訴えられたラスティの公判場面が殆どですが、ここでのトミー・モルトら検察側と、同じく『推定無罪』でも活躍したサンディ・スターンら弁護側の法廷戦術のぶつかり合いの描写がまさにこの作家の真骨頂で、同じく法曹界に身を置くラスティの息子ナットの視点からの分析が分かり易かったですが、一方、真相を知るはずのラスティの視点からの心理描写は殆ど無くなり、その分、サスペンスの度合いは深まるものの、謎の解明は一向に進展しない―その間ずっと続く検察側と弁護側の遣り取りを冗長と感じるか興味をもって読めるかが、この作品に対する好き嫌いの分かれ目の一つかもしれません。

 そして、残り4分の1になったところで、夫を苦境に陥れることで、その浮気行為に対する復讐を図ったことを示唆するような妻バーバラのクリスマス・カードが、ひょっこり押収されたラスティのパソコンから飛び出してきて、当初から妻殺害容疑でラスティを責め立てていた検察側は、これをラスティが捏造したものとして、今度はその非違行為を責めるわけですが、この辺りが、個人的にはややしっくりこなかったかな。とにかく、ラスティ・サビッチの収監が目的になっていて、ラスティ・サビッチの妻殺害容疑の方はどっかにいってしまったような気もするのだけど...。

 ところがラスティは、自ら証拠の捏造を認め(実質的に司法取引に応じ)収監される―。え~っ、PC操作に関してそれほど高度な知識を持たないラスティがそれをどうやって成し得たのかも、更に遡れば、妻が亡くなって丸1日通報をしなかった理由も、何も解明されてないのでは...と普通だったら思う処ですが、そんなことを神のみぞ知るであって、どこかに落とし処を見出せればいいというのが司法取引の世界なのでしょうか(この辺りの日米の感覚の違いというのが、また興味深い点ではあるのだが)。

 何だかおかしいと気づいたのはラスティの宿敵、検察側のトミー・モルトで、クリスマス・カードを仕組んだのが誰かが分かってからの彼の行動は気高いと呼べるものであり、この作品の主人公はサビッチではなくトミー・モルトであるという見方も出来るかもしれません(最後は、ラスティとの間に友情が芽生えた?)。

 ラストでは、ラスティ自身の息子への告白によって、読者には事件の全容が明かされますが、真実を知る者がごく少数のまま終わるという点は『推定無罪』と似ているかも。 ラスティの不倫相手が誰であったかということを含めれば、真実を"全て"知っていたのはラスティ一人ということになり、更にその枠は狭められていることになります(その意味ではやはりラスティが主人公?)。

 最後の(読者に向けた)事実の開示は衝撃的でした。一方で、終盤のクリスマス・カードを巡る展開はやや蛇足ではなかったかとの声もありますが、個人的には全体を通して面白く読めました。但し、ラスティは妻を殺害したに違いないと信じている人物が、なぜ、証拠捏造というチンケな罪で彼を追い込もうとしたのか、ラスティの妻殺害を立証するのが困難とみて、そのことを直接は罪に問わず、但し、世間にはそうした印象は与える―という戦術に切り替えたということなのでしょうかね。それにしてもわざわざ「妻の自殺」を匂わすクリスマス・カードを仕組んで、その上でそれが偽物であることを暴いてみせるとは、随分と手の込んだことをしたものだと思わざるを得ませんでした。

 ラスティは、クリスマス・カードそのものは(夫を苦しめたいが、監獄暮らしをさせるのは息子のためにも望まないとする)バーバラが作成したものだとの推測を語っていますが、彼女がいくらPCの天才であったにしても、実際に起きた出来事から振り返ると、彼女自身がそんなことをするはずはない(彼女の狙いは全く別にあったわけだから)ということは知っていたのでは―そこで、息子を疑い、彼を守るために司法取引を持ちかけたということか。結構、ややこしいね。

 何れにしろ、やはり個人的に引っ掛かったのは、カードを捏造した人物の意図がイマイチしっくりしなかったことか。

【2015年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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