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「メメント・モリ」映画の"傑作"と言うか、むしろ"快作"と言った方が合っている?

Okuribito (2008).jpgおくりびと 2008 .jpgおくりびと1.jpg
おくりびと [DVD]」 山崎努・本木雅弘
Okuribito (2008)

おくりびと2.jpg チェロ奏者の小林大悟(本木雅弘)は、所属していた楽団の突然の解散を機にチェロで食べていく道を諦め、妻・美香(広末涼子)を伴い、故郷の山形へ帰ることに。さっそく職探しを始めた大悟は、"旅のお手伝い"という求人広告を見て面接へと向かう。しかし旅行代理店だと思ったその会社の仕事は、"旅立ち"をお手伝いする"納棺師"というものだった。社長の佐々木生栄(山崎努)に半ば強引に採用されてしまった大悟。世間の目も気になり、妻にも言い出せないまま、納棺師の見習いとして働き始める大悟だったが―。

おくりびと アカデミー賞.jpg 2008年公開の滝田洋二郎監督作で、脚本は映画脚本初挑戦だった放送作家の小山薫堂。第32回日本アカデミー賞において作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞(本木雅弘)・助演男優賞(山崎努)・助演女優賞(余貴美子)・撮影賞・照明賞・録音賞・編集賞の10部門をを独占するなど多くの賞を受賞しましたが、その前に第32回モントリオール国際映画祭でグランプリを受賞しており、更に日本アカデミー賞の発表後に第81回米アカデミー賞の外国語映画賞の受賞が決まり、ロードショーが一旦終わっていたのが、アカデミー賞受賞で再ロードにかかったのを観に行きました。

滝田洋二郎監督、本木雅弘、余貴美子、広末涼子(第81回アカデミー賞授賞式/2009年2月23日(日本時間))

おくりびと3.jpg 主演の本木雅弘のこの映画にかけた執念はよく知られていますが(菊池寛賞が"本木雅弘と「おくりびと」制作スタッフ"に贈られている)、"原作者"に直接掛け合ったものの、原作者から自分の宗教観が反映されていないとして「やるなら、全く別の作品としてやってほしい」と言われたようです。もともとは、本木雅弘が20歳代後半に藤原新也の『メメント・モリ―死を想え』('83年/情報センター出版局)を読み、インドを旅して、いつか死をテーマにしたいと考えていたとのことで、まさに「メメント・モリ」映画と言うか、いい作品に仕上がったように思います(結局、原作者も一定の評価をしているという)。

おくりびと4.jpg 特に、前半部分で主人公が"納棺師"の仕事の求人広告を旅行代理店の求人と勘違いして面接に行くなどコメディタッチになっているのが、重いテーマでありながら却って良かったです(逆に後半はややベタか)。技術的な面や宗教性の部分で原作者に限らず他の同業者からも批判があったようですが、それら全部に応えていたら映画にならないのではないかと思います。こうした仕事に注目したことだけでも意義があるのではないかと思いますが(ジャンル的には"お仕事映画"とも言える)、米アカデミー賞の選考などでは、同時にそれが作品としてのニッチ効果にも繋がったのではないでしょうか(アカデミーの外国映画賞が、前3年ほど政治的なテーマや背景の映画の受賞が続いていたことなどラッキーな要素もあったかも)。

おくりびと5.jpg Wikipediaに「地上波での初放送は2009年9月21日で21.7%の高視聴率を記録したが、2012年1月4日の2回目の放送は3.4%の低視聴率」とありましたが、2回目の放送は日時が良くなかったのかなあ。こうした映画って、ブームの時は皆こぞって観に行くけれど、時間が経つとあまり観られなくなるというか、《無意識的に忌避される》ことがあるような気がしなくもありません。そうした傾向に反発するわけではないですが、個人的には、最初観た時は星4つ評価(○評価)であったものを、最近観直して星4つ半評価(◎評価)に修正しました(ブームの最中には◎つけにくいというのが何となくある?)。「メメント・モリ」映画の"傑作"と言うか、むしろ"快作"と言った方が合っているかもしれません。

 これもWikipediaに、「本作では、一連の死後の処置(エンゼルメイク)を納棺師が行っているが、現在では、臨終全体の8割が病院死であり、実際には、看護師が病院で行うことが多い」(小林光恵著『死化粧の時―エンゼルメイクを知っていますか』('09年/洋泉社))とありましたが、病院側がやるエンゼルメイクとは別に葬儀会社に「湯灌」などを頼めば、有料の付加サービスとしてやってくれるでしょう。納棺師と湯灌師の違いの厳密な規定はないそうですが、そうした人たちもある意味"おくりびと"であるし(最近若い女性の湯灌師が増えているという)、エンゼルメイクする看護師もその仕事をしている時は、広い意味での"おくりびと"であると言えるのではないでしょうか。
   
丸の内ルーブル.jpg丸の内ピカデリー3.jpg「おくりびと」●制作年:2009年●監督:滝田洋二郎●製作:中沢敏明/渡井敏久●脚本:小山薫堂●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:130分●出演:本木雅弘/広末涼子/山崎努/杉本哲太/峰岸徹/余貴美子/吉行和子/笹野高史/山田辰夫/橘ユキコ/飯森範親/橘ゆかり/石田太郎/岸博之/大谷亮介/諏訪太郎/星野光代/小柳友貴美/飯塚百花/宮田早苗/白井小百合●公開:2008/09●配給:松竹●最初に観た場所:丸の内ブラゼール4.jpg丸の内ブラゼールes.jpg丸の内ピカデリー3(09-03-12)(評価:★★★★☆)
丸の内松竹(丸の内ピカデリー3) 1987年10月3日「有楽町マリオン」新館5階に7階「丸の内ルーブル」とともにオープン、1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」) (「丸の内ルーブル」は2014年8月3日閉館)

「サロンパス ルーブル丸の内/丸の内ブラゼール」(2008)

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片岡千恵蔵の真田昌幸、萬屋錦之介の徳川家康、高峰三枝子の淀君。超豪華「B級」時代劇。

真田幸村の謀略ps.jpg 真田幸村の謀略ns.jpg 真田幸村の謀略 1979.jpg 真田幸村の謀略 松方.jpg
「真田幸村の謀略」チラシ・ポスター・パンフレット/「真田幸村の謀略 [DVD]」松方弘樹(1942-2017/享年74

真田幸村の謀略O.jpg 慶長15年、天下統一を図る家康(萬屋錦之介)は、大坂城の豊臣秀頼(小倉一郎)一党を討つための準備を進めている。一方、真田昌幸(片岡千恵蔵)・幸村(松方弘樹)父子も九度山で戦いの決意を固めていたが、昌幸は家康の間者に殺害され、幸村の妻・綾(萩尾みどり)は自刃を遂げる。幸村は穴山小助(火野正平)のみ残して他の家臣を上田城へ帰し、家康側についた兄・信幸(梅宮辰夫)と決別、亡父の遺志を継ぎ、家康の首をとる決心をする。家康の送った服部半蔵(曽根晴美)に殺された戸沢白雲斎(浜村純)の残した人名帖から、猿飛佐助(あおい輝彦)、霧隠才蔵(寺田農)、海野真田幸村の謀略 00.jpg六郎(ガッツ石松)、望月六郎(野口貴史)、筧十蔵(森田健作)、由利鎌之助(岩尾正隆)、根津甚八(岡本富士太)、三好伊三入道(真田広之)、三好清海入道(秋野暢子)などの草の者を集める。フランキー砲試射を見に来る家康を暗殺するために幸村と十勇士は出発するが、計画を見抜いた家康配下の半蔵の忍者部隊に幸村は片目を射抜かれる。家康は幸村達を豊臣が雇っ真田幸村の謀略 02.jpgた牢人と決めつけ、豊臣氏に叛逆の意図ありと口実を作り、徳川連合軍40万を大坂へ向けて進撃、1614年10月大坂冬の陣が始まる。報償金目当ての者、ひと旗上げようとする者が大坂に集まり、幸村と十勇士も大坂へ向かう。大坂城では徳川を迎え打つ軍議が開かれ真田幸村の謀略 38.jpg、籠城を主張する豊臣譜代衆と、野戦を主張する幸村達牢人衆が対立するが、淀君(高峰三枝子)の一言で籠城と決定、幸村は鉄壁の出城「真田丸」を作る。幸村は、小助に天竺渡来の麻薬を持たせ遊女たちと共に前田軍に送り込んで前田軍を骨抜きにし、翌日の合戦で真田軍が圧勝する。家康は和議の交渉を進め、フランキー砲の偶発に驚愕した淀君も和議に応じてしまうが、和議が済むと家康は大坂城の堀を埋めつくし、裸同然の無防備な城に一変させてしまう。そして、1615年4月大坂夏の陣が始まる―。

真田幸村の謀略 01.jpg 1979(昭和54)年公開の中島貞夫監督による東映"何でもあり"時代劇。冒頭、いきなり夜空から巨大隕石が落下してくる場面があり(「妖星ゴラス」('62年/東宝)かと思った真田幸村の謀略71.jpgけれど、映画会社が違ったか)。この星に乗ってやってきたのがどうやら猿飛佐助だったらしく、最後は独りまた宇宙へ帰っていきます。超能力が使えるならばそれをもっと使えばいいのに、刀や徒手空拳で東映時代劇の殺陣の流儀に沿って闘っているというのもおかしいし、と思ったら、「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」と思い出したように九字を切る(とても宇宙から来たとは思えない)―という具合に、突っ込みどころは多く、穿った見方をすれば、そうした突っ込みどころを愉しむ映画なのかもしれません。

真田幸村の謀略 608.jpg真田幸村の謀略19.jpeg その外にも、真田昌幸(片岡千恵蔵)が、家康の間者が放った猫にひっかかれて死んでしまったり(猫の爪に毒が塗ってあった)、三好清海入道が朝鮮から連れてこられた姫君で切支丹のジュリアおたあ(秋野暢子)の変名だったり(しかも真田幸村の謀略 0259.jpg加藤清正(丹波哲郎nXnh.jpgテレパシスト能力を有し、人の心を読み取ることが出来るという設定)、幸村が敵に片目を射抜かれて途中から"独眼竜政宗"みたいに眼帯をしていたり、加藤真田幸村の謀略ド.jpg清正(丹波哲郎)が大阪城内の座敷牢みたいなところでトラを飼っていたり...。幸村が十勇士だけ引き連れて徳川の大軍と戦っているのも非現実的ですが、極めつけはラストで、幸村が家康との一騎打ちの末その首を刎ね、家康の首が空高くぶっ飛びます(公開当時は「家康の首が50メートル飛ぶ!」という宣伝がなされていた)。

真田幸村の謀略 pannhu.jpg こうした荒唐無稽な内容でありながらも、ベースはNHK大河ドラマ「真田丸」などでもお馴染みの展開であり(ある意味、ラストの家康の死を除いては、後の「将軍家光の乱心 激突」('89年/東映)などよりは"史実逸脱度"は低いかも)、その「真田丸」もしっかり作られ、合戦シーンはかなり大掛かりなものとなっています。そして何よりも、片岡千恵蔵の昌幸、萬屋錦之介の家康、高峰三枝子の淀君と、配役が超豪華です(思えば、片岡千恵蔵が「赤穂浪士」('61年/東映)で大石内蔵助を演じた時に松方弘樹はその息子の大石主悦役で出ており、当時18歳で映画デビュー2作目だった)。また、十勇士が初登場する際にストップ・モーションとなってイラスト化されますが、そのイラストを描いているのは横尾忠則です。

真田幸村の謀略   .jpg 難点の1つは、その十勇士達の個性がそれほど活かされておらず、真田の郷にいる時でも訓練行動の時から同じようなユニフォームで動き回っていて、何だかレインジャー部隊にしか見えない点でしょうか。正直、後でスチール写真で誰が誰だったか確認した次第(「将軍家光の乱心 激突」のように千葉真一こそ出ていないが、JACの面々は出ているみたい)。ただ動き回っているだけで、あまり演技させてもらっていない俳優達が可哀そうです。強いて言えば、三好清海入道を女性にしたことで、秋野暢子にドラマ部分を担わせた印象もありますが、これもちょっと弱かったか。別に難点は1つではなく、他に難点はと言われれば幾つでもありますが、むしろ突っ込みどころがあり過ぎてコメントし辛いという、超豪華「B級」時代劇、といった感じの作品でした。

真田幸村の謀略 title.jpg「真田幸村の謀略」●制作年:1989年●監督:中島貞夫●特撮監督:矢島信男●脚本:笠原和夫/松本功/田中陽造/中島貞夫●撮影:赤塚滋●音楽:佐藤勝●時間:148分●出演:松方弘樹/寺田農/あおい輝彦/ガッツ石松/野口貴史/森田健作/火野正平/岩尾正隆/岡本富士太/真田広之/秋野暢子/片岡千恵蔵/梅宮辰夫/萩尾みどり/北村英三/村居京之輔/和田昌也/橘麻紀/谷川みゆき/浜村純/丹阿弥谷津子/小泉美由記/木村英/岡麻美/田中みき/市川好朗/志茂山高也/勝野賢三/タンクロウ/萬屋錦之介/小坂和之/進藤盛裕/茂山千五郎/金子信雄/香川良介/小林昭二/林彰太郎/江波杏子/川浪公次郎/壬生新太郎/曽根晴美/笹本清三/春田純一/福本清三/大矢敬典/木谷邦臣/平河正雄/奔田陵/志賀勝/丸平峰子/小峰隆司/池田謙治/司裕介/畑中伶一/山田良樹/藤沢徹夫/平沢彰/唐沢民賢/波多野博/阿波地大輔/宮城幸生/大城泰/秋山勝俊/高並功/泉好太郎/五十嵐義弘/小倉一郎/高峰三枝子/上月左知子/桜町弘子/松村康世/富永佳代子/星野美恵子/森愛/戸浦六加藤清正(丹波哲郎mN.jpg真田幸村の謀略 梅宮.jpg宏/梅津栄/野口元夫/白井滋郎/疋田泰盛/土橋勇/成田三樹夫/遠藤征慈/宮内洋/丘路千/中村錦司/丹波哲郎●公開:1979/09●配給:東映(評価:★★☆) 


丹波哲郎(トラに餌をやる加藤清正)/梅宮辰夫(徳川家康陣中の真田信幸)

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エノケンと柳家金語楼の「江戸っ子だってねぇ」「神田の生まれよ」の掛け合いが見所か。

エノケンの森の石松 vhs1.jpg エノケンの森の石松 yanagiya .jpg
「エノケンの森の石松」VHS        柳家金語楼/榎本健一 リンク「石松三十石船道中

エノケンの森の石松 vhs2.jpg 清水次郎長(鳥羽陽之助)の子分・森の石松(榎本健一)は、次郎長親分に呼ばれ、親分の代参で讃岐の金比羅宮に刀と奉納金50両を納めに行くことを命じられる。小遣いに30両を別に持たせるというが、但し道中いっさい酒を飲んではならないと言われ、酒好きの石松は断りかける。しかし、誰も見ている者はいないという仲間の入れ知恵で、次郎長親分には言いつけを守ると言って引き受ける。恋人の茶店のお夢(宏川光子)にしばしの別れを告げ、お夢から貰った肌守りを懐に旅に出る石松。金比羅宮で無事に代参を済ませた帰路、草津の追分に身受山の謙太郎(北村武夫)を訪ねて一宿の仁義を切り、親分への百両の香典を親分へと託される。その翌日、幼い頃から兄貴分だった小松村の七五郎(柳田貞一)を訪ねる道すがら都鳥の吉兵衛(小杉嘉男)に偶然出逢い、吉兵衛の家に草履を脱ぐことに。しかし、吉兵衛の狙いは石松の持つ百両であり、石松は吉兵衛兄弟の騙し討ちに遭って重傷を負う。何とか危地を脱し、一旦は七五郎とその女お民(竹久千恵子)の住家に匿われた石松だったが―。

エノケンの森の石松zj.jpeg 「エノケンの森の石松」('39年/東宝東京)は中川信夫(1905-1984)監督による1939(昭和14)年5月公開作。原作は「エノケンの法界坊」('38年)の脚本も手掛けた和田五雄ですが、冒頭、2代目広沢虎造(1899-1964)の浪曲で始まり、途中でも何度か虎造の口演が入ることからも窺えるように、浪曲「清水次郎長伝」の中の「石松金比羅代参」などをオーソドックスになぞっています。

「エノケンの森の石松」公開時(1939.8.15)チラシより

 個人的には、吉兵衛兄弟との結構本格的な剣戟シーンがあるのが意外だったでしょうか。まあ、エノケンの運動神経ならば剣戟くらいは充分にこなしたのかもしれませんが、「石松金比羅代参」などを知って観ている人は、これが石松の最期に繋がるものであることを知っているため、エノケン喜劇には珍しくやや悲壮感も感じられるかもしれません。石松が都鳥の吉兵衛に殺害されたのは1860年7月と言われ、清水次郎長こと山本長五郎(1820-1893)は翌1861年1月に駿河国江尻追分で都鳥の吉兵衛こと都田吉兵衛を仇討ちにしています。

エノケンの森の石松  21.jpg 喜劇的要素の面での見所は、浪曲「清水次郎長伝」の中の「石松三十石船道中」から引いた例の「飲みねぇ、飲みねぇ、鮨を食いねぇ、江戸っ子だってねぇ」「神田の生まれよ」で知られる石松と江戸ッ子留吉(柳家金語楼)との掛け合いです。船客同士で街道一の親分は誰かと言う話題になって、「身受山の謙太郎」の名前が挙がったところへ留吉がケチをつけ、「清水の次郎長」と言おうとしますが思い出せず、「国定村の...」とか言ってしまいます(史実では国定忠治は1851年に刑死している)。やっと次石松三十石船道中」 広沢虎造ド.jpg郎長の名を思い出したところへ、今度は同じ船に乗っていた次郎長の子分の中で一番強いのは誰だか知ってっか」と問うて自分の名を導き出そうとするがなかなか石松の名が出てこない―。定番であるだけに喜劇俳優同士"両雄"競演の様相も呈していますが、金語楼って味があって上手いなあと思わせます。この場面などは、この作品で前振りの口上を述べている2代目広沢虎造の浪曲がネットで聴けたりするので、比較してみると面白いかもしれません。エノケンは遣り取りの最後に得意のアクションも加えています。

「清水港」1939.jpg 因みに、マキノ正博監督の「清水港代参夢道中(続清水港)」('40年/日活)は、現実の世界で「森の石松」の舞台の監続清水港 kataoka .jpg督をしている男・石田勝彦(片岡千恵蔵)が夢の世界でタイムスリップして自身が「石松」になってしまうというパロデイです。この映画での例の「三十石船」の場面では広沢虎造自身が浪花節語りの船客役(現実の世界では舞台の照明係役)で出演しており、片岡千恵蔵と掛け合いをしています。タイトルから"夢落ち話だと分かってしまい、タイムスリップした当事者が歴史の真実を知っているというのもタイムスリップものの定番ですが、それでも惹き込まれるのは「続清水港」daf.jpg続清水港 片岡.jpg、マキノ正博の演出の上手さのためか、小国英雄(1904-1196)の脚本の上手さのためか、或いは森の石松という素材の面白さのためでしょうか(小松村の七五郎を志村喬が演じていて、これも現実世界での劇場専務役との1人2役)。


「清水港代参夢道中(続清水港)」('40年/日活)
片岡千恵蔵・志村喬・轟夕起子・澤村アキヲ(子役・長門裕之)・広沢虎造

 この「エノケンの森の石松」では、浪曲の「石松と見受山鎌太郎」に該当するシーンがすっぽり抜けていて、これは当初あった巻が一部逸失したのでしょう。57分となっていますが、元は74分あったらしいです。石松が身受山の謙太郎を訪ねたのは「三十石船道中」でその名を知ったためで、鎌太郎が7年前に次郎長の妻・お蝶が亡くなった時の香典をまだやっていないとのことで百両の香典を石松に託すというもの。この金が石松の命取りになるわけですが、見受山の鎌太郎のシーンが抜けているため、50両を代参奉納した石松がなぜ100両持っているのかが分かりにくい気がしました。この辺りのエノケン作品は、年3本から5本くらいと量産している割には、スタイル的には出来上がっていて一定のレベル以上にあるものが多く、むしろフィルムがどれくらい完全な形で残っているかが評価の分かれ目になってしまう印象も受けます。そうした意味では、この作品などは逸失部分があるために繋がりがスムーズでないことが残念です。

「続次郎長富士」('60年/大映)勝新太郎
続次郎長富士(1960) suti-ru.jpg 但し、その後、森繁久彌、中村錦之助、勝新太郎など多くの役者が森の石松を演じるようになる中で(美空ひばりまで演じた)、喜劇俳優である榎本健一によって比較的早い時期に演じられたものであるということで、観る機会があれば観ておくのもいいのでは。ウィキペディアに拠れば、この「エノケンの森の石松」以降で森の石松が映画の中で題材となった作品は40作近くあるのに、「エノケンの森の石松」以前で森の石松が映画の題材となったのは前年の大河内傳次郎が石松をやった「清水次郎長」('38年/東宝)しかないことになっていますが、実際には無声映画時代から直前の羅門光三郎の「金毘羅代参 森の石松」('38年/新興キネマ)までエノケン以前にも石松を演じた役者はもっといます。
 
大村千吉(石松)・大河内傳次郎(次郎長)・横山運平・千葉早智子(お蝶)
清水次郎長1.jpg清水次郎長(1938年)oomura .jpg その萩原遼監督、大河内傳次郎主演の「清水次郎長」('38年/東宝)は、次郎長と森の石松の出会いの頃を描いたもので、大河内傳次郎が演じる次郎長はまだ駆け出し時代(というよりヤクザから足を洗って堅気暮らしをしている)、大村千吉が演じる石松に至ってはまだ全くの少年であり、子分にして欲しいとすがる石松少年に対し、次郎長の方は石松を清水次郎長vhsvhs_ura.jpg何とか堅気にしよう商家に丁稚奉公させたりするなど骨を折るというものです。身寄りのない石松を不憫に思い、次郎長とともに何かと面倒をみるのがお蝶(千葉早智子)で、彼女がやがて次郎長の妻になるわけですが、そこまでは描かれていません。だた、結局石松が堅気にならないのは観る側も分かっているだけに、この話ちょっと引っ張り過ぎた印象も。石松が使い込みをやってしまって、次郎長は自らを頼ってきた駆け落ち男女に逃亡資金を施したばかりで手元に金が無かったため、以前助太刀をしてやったやくざの保下田久六(鳥羽陽之助)の所へ、その時は受け取らなかった礼金を貸してはくれまいかと頼みに行くが拒否され、やがて久六によって自分が助けた者を殺害された次郎長は久六を仇討ちにする―という「桜堤の仇討ち」をモチーフとしてものとなっています。実際にはこの間にお蝶は病いを得て(次郎長が久六に金を借りに行ったのは家が貧しく金の無かったお蝶を医者にみせるため)亡くなっており(次郎長が森の石松を讃岐の金毘羅様へお礼参りの代参に出すのはその7年後)、金を貸すのを断った久六は、亡くなる前に次郎長の妻になっていたお蝶の葬式にも顔を見せなかったいう伏線があるのですが、映画では、久六討ちを果たした後、次郎長・石松・お蝶(生きている)で一緒に清水に帰るような終わり方になっています。半ば過ぎまではやや悠長な展開だったのが、終盤は若干ペースアップしたという感じでしょうか。最後は活劇調で、大河内傳次郎ならではの剣戟となりますが、大河内傳次郎が剣戟をやると、清水次郎長と言うより丹下左膳に見えてしまうのは先入観のためでしょうか。

続次郎長富士(1960) .jpg 最近観直してまあまあ楽しめたのが、森一生監督の「続次郎長富士」('60年/東映)で、これは前年に公開された「次郎長富士」の続編です。本作では富士川の決戦の直後から石松の弔い合戦までが描かれいて、出演者には長谷川一夫、市川雷蔵、勝新太郎など前作と同じメンバーが顔を揃えていますが、役どころは一部変更されています。
続次郎長富士 [DVD]

ZOKUJIROTYOFUJI1960.jpg 黒駒の勝蔵を倒して清水へ引上げてきた次郎長(長谷川一夫)に、新たな押しかけ子分の小松村の七五郎(本郷功次郎)が待っていた。石松(勝新太郎)と七五郎は、桝川の仙右衛門(中村豊)の仇討を買って出、八角一家を斬りまくり、次郎長の命で旅に出る。七五郎は旧友のお役者の政(月田昌也)に会い、政の女出入りの傍杖を喰った。反次郎長派の親分平親王の勇蔵(石黒達也)は、政のまちがいを利用し、次郎長陣営の仲間割れを図る。勇蔵の背後には、黒駒の弟分黒竜屋の亀吉(香川良介)や坂東の新助(見明凡太朗)らが糸を引いていた。石松の報告で彼らの奸計を知った次郎長は、二十八人衆を連れて勇蔵の家へ乗り込む。大喧嘩が予想されたが、青年代官の山上藤一郎(市川雷蔵)の裁きで治まった。次郎長と別れた石松は、三河の為五郎(荒木忍)から次郎長へ二百両の金を預って帰途につく。が、その二百両を道で会った都鳥の吉兵衛(杉山昌三九)に貸してしまう。折から都鳥にワラジを脱いだ新助たちが、吉兵衛をそそのかし石松をだまし討ちにかけた。石松は手傷を負い、一度七五郎の家に逃げこんだが、また躍り出して殺される。勇蔵が都鳥兄弟を匿い、吉兵衛を追って来た小政(鶴見丈二)も生捕りにされるハメになる。勇蔵は小政を生きながら棺桶へ入れて清水へ送り、石松の死骸を引取りたいなら次郎長一人で来いと言う―。

「続次郎長富士」('60年/大映)中村玉緒・勝新太郎
続次郎長富士 勝新太郎.jpg 旅の途中の石松(勝新太郎)に絡んでくるのがお亀(中村玉緒)で、この2人はこの共演の2年後に結婚します。中村玉緒は当時20歳で、父は「」('59年/大映東京)、「小早川家の秋」('61年/東宝)の2代目中村鴈治郎。中村玉緒も10代半ばで映画界入りしており、この時点で8歳年上の勝新太郎よりも映画への出演本数は圧倒的に多かったようです(この「続次郎長富士」と同年の出演作「大菩薩峠」('60年/大映)でブルーリボン助演女優賞を受賞している)。勝新太郎の方はまだ売り出し途上で、この作品でも長谷川一夫はもとより、市川雷蔵よりもずっと格下で、本郷功次郎とどっこいどっこいの扱いであるのが分かって興味深いです。序盤はむしろ小松村の七五郎を演じた本郷功次郎の方が目立っていたでしょうか(小松村七五郎が石松の「弟分」として描かれている)。それを、石松の最期のところで勝新太郎が盛り返したといった感じでしょうか。でも、結局最後は、次郎長の1対何百人(?)かの大殺陣で長谷川一夫がおいしいところを全部持っていってしまうのですが。市川雷蔵と根上淳の対決なんていうのもあったりして、まあ飽きさせない展開ではありました。
 
エノケンの森の石松 vhs3.jpg「エノケンの森の石松」●制作年:1939年●監督:中川信夫●脚本:小林正●撮影:唐沢弘光●音楽:栗原重一●口演:広沢虎造●原作:和田五雄●時間:72分(現存57分)●出演:榎本健一/竹久千恵子1937sep.jpg竹久千惠子エノケンの森の石松1935aug.jpg鳥羽陽之助/浮田左武郎/松ノボル/木下国利/柳田貞一/北村武夫/小杉義男/斎藤勤/近藤登/梅村次郎/宏川光子/竹久千恵子/柳家金語楼●公開:1939/08●配給:東宝(評価:★★★)
竹久千恵子(1937年:雑誌「映画之友」九月號/1935年:雑誌「日の出八月號附録:映画レビュー夏姿寫眞帖」)
 
続清水港  .jpg「清水港代参夢道中(続清水港)」●制作年:1940年●監督:マキノ正博●脚本:小国英雄●撮影:石本秀雄●音楽:大久保徳二郎●原作:小国英雄●時間:96分(現存90分)●出演:片岡千恵蔵/広沢虎造/沢村国太郎/澤村アキヲ/瀬川路三郎/香川良介/清水港 代参夢道中17shimizu.jpg清水港代参夢道中(続清水港)e.jpg志村喬/上田吉二郎/団徳麿/小川隆/若松文男/前田静男/瀬戸一司/岬弦太/大角恵摩/石川秀道/常盤操子/轟夕起子/美ち奴●公開:1940/07●配給:日活(評価:★★★☆)

大河内傳次郎(清水次郎長)
清水次郎長3.jpg清水次郎長vhs_vhs.jpg清水次郎長2.jpg「清水次郎長」●制作年:1938年●監督:萩原遼●製作:青柳信雄●脚本:八住利雄●撮影:安本淳●音楽:太田忠●原作:小島政二郎●時間:87分●出演:大河内傳次郎/大村千吉/鳥羽陽之助/横山運平/清川荘司/小杉義男/鬼頭善一郎/山口佐喜雄/永井柳太郎/河村弘二/千葉早智子/一の宮敦子/音羽千葉早智子s4.jpg久米子/山岸美代子●公開:1938/09●配給:東宝映画(評価:★★★)

千葉早智子(お蝶)


  
続次郎長富士 NL.jpg「続次郎長富士」●制作年:1960年●監督:森一生●製作:三浦信夫●脚本:八尋不二●撮影:牧田行正●音楽:小川寛興●時間:108分●出演:長谷川一夫/市川雷蔵/勝新太郎/本郷功次郎/月田昌也/根上淳/北原義郎/鶴見続次郎長富士(1960)03.jpg丈二/林成年/舟木洋一/中村豊/小林勝彦/近藤美恵子/阿井美千子/中村玉緒/毛利郁子/浜田雄史/石黒達也/香川良介/見明凡太朗/伊達三郎/越川一/光岡龍三郎/志摩靖彦/原聖四郎/東良之助続次郎長富士s.jpg/寺島雄作/小町瑠美子/美川純子/杉山昌三九/千葉敏郎/水原浩一/清水元津/南部彰三/佐々十郎/楠トシエ/寺島貢/羅門光三郎/尾上栄五郎/荒木忍/浜世津子/伊沢一郎/南条新太郎●公開:1960/06●配給:大映(評価:★★★☆)
勝新太郎(森の石松)[左]
    
 

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概ね原作に忠実に作られているように思われた。ラストは「砂の器」より上か。原作も越えた?
鬼畜398.jpg
鬼畜dvd 2015.jpg鬼畜dvd.jpg Kichiku  (1978)  .jpg
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鬼畜 岩下.jpg 川越市で印刷屋を営む竹下宗吉(緒形拳)は、妻・お梅(岩下志麻)に隠れ、鳥料理屋の女中・菊代(小川真由美)を妾として囲い、7年間に3人の隠し子を作鬼畜 小川.jpgった。やがて火事と大印刷店攻勢で宗吉の商売は凋落し、手当を貰えなくなった菊代が、利一(6歳)、良子(4歳)庄二(1歳半)を連れて宗吉の家に怒鳴り込む。菊代はお梅と口論した挙句、3人を宗吉に押しつけて蒸発し、お梅が子供達と宗吉に当り散らす地獄の日々が始まる。末の庄二が栄養失調で衰弱し、医者に行ったある日、寝鬼畜 緒形・岩下.jpgている庄二の顔の上にシートが故意か偶然か被さって庄二は死ぬ。宗吉はお梅の仕業と思いながらも口に出せず、逆に、「あんたも一つ気が楽になったね」と言われる。その夜、夫婦は久しぶりに燃え、共通の罪悪感に昂ぶる。お梅鬼畜k5.jpgは残りの子供も〈処分〉することを宗吉に迫り、宗吉は良子を東京タワーに連れて行って置き去り鬼畜k3 .jpgにし、一人エレベーターを降りる。更に長男・利一を毒殺しようとするものの果たせず、何日か後、新幹線こだま号に利一を乗せ、北陸海岸に連れて行く。能登半島に辿り着き、日本海を臨む岸壁で、宗吉は利一を海に落す。翌朝、沖の船が絶壁の途中に引掛っている利一を発見し、かすり傷程度で鬼畜 09.jpg助け出す。警察の調べに利一は父親と遊びに来て眠っているうちに落ちたと言い張り、名前、住所、親のことや身許の手掛かりになることは一切言わない。しかし警察は、事故ではなく利一は突き落とした誰かを庇っていると判断し、利一の持っていた石版印刷に使用する石材のかけら(利一はこれを石蹴り遊びに使っていた)から宗吉が殺人未遂容疑で警察に拘束される。そして、移送されてきた宗吉が警察で利一と対面する―。

鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)1.jpg 松本清張の短編小説「鬼畜」を野村芳太郎(1919-2005)監督が映画化した1978年公開作で、脚本は「赤ひげ」('65年/東宝)の井出雅人、音楽は「砂の器」('74年/松竹)の芥川也寸志(他に「ゼロの焦点」「黒い十人の女」(共に'61年)など)。主な出演者は、緒形拳(1937-2008)、岩下志麻、小川真由美。野村芳太郎による松本清張原作の映画化作品では「砂の器」の評価が高いようですが、この「鬼畜」も非常に良く出来ていると思います。「砂の器」は原作を超えていませんが、「鬼畜」は一面において原作を超えているようにも思います。
鬼畜―松本清張短編全集〈7〉 (カッパ・ノベルス)

鬼畜01.jpg まず、前半部分しか出てきませんが、小川真由美の3人の子供を連れての鬼畜k2.jpg押しかけぶりが良く、岩下志麻との競演は見所であり、更に中盤の見せ場は、岩下志麻演じるお梅の児童虐待ぶりの凄まじさでしょうか(子役たちは撮影の休憩時間中も岩下志麻に寄りつかなかったという)。

鬼畜k6.jpg それらに比べると、2人の女の間でおろおろしている宗吉を演じた緒形拳はやや影が薄いようにも見えましたが、これはこれで、あまりやりすぎると喜鬼畜k3.jpg劇になってしまうし、あまり抑え過ぎると面白くないし、意外と加減の難しい役どころだったのではないでしょうか(緒形拳はこの演技で、「第2回日本アカデミー賞」「第3回報知映画賞」「第21回ブルーリボン賞」の主演男優賞を"3冠"受賞した)。

鬼畜 蟹江.jpg その他にも、印刷所の工員(原作でもいることになっているが人物造型は描かれていない)を蟹江敬三(1944-2014)が好演していたし、子役の演技も、賛否ありますが、個人的には悪くなかったと思います(子役の演技力というより監督の演出力の成果だろう)。

 原作が発表されたのは'57(昭和32)年ですが、それを映画が作られた'78(昭和53)年に置き換えていて(利一が歌う「科学忍者隊ガッチャマン」は、この映画が公開された'78年10月に続編のアニメ放送が始まっている)、宗吉の営む印刷所は、東京から急行列車で3時間を要する地方にあるS市から埼玉県の川越市に、宗吉が菊代を囲った家は、原作ではS市から1時間ばかり汽車で行く町ということで、埼玉県の男衾(おぶすま)駅付近となっています。

「鬼畜」 9s.jpg鬼畜 6.jpg 宗吉が良子を置き去りにするのは原作では東京タワーではなく銀座のデパートの屋上のミニ動物園、利一を毒殺しようとして上野動物園で食鬼畜 緒形 .pngべさせるのはアンパンではなく最中(もなか)、利一を旅に連れて行ったのは北陸ではなく原作では西伊豆です。映画では西伊豆を北陸に変え(米原まで新幹線で行く)、能登金剛までやって来て、そこで利一を崖から放ってしまう―。能登金剛は「ゼロの焦点」('61年/松竹)のラストシーンの舞台でもあります(こちらは原作通り)。これら細かい改変点はありますが、概ね原作に忠実に作られているように思われ、こうした作り方は個人的には割合と好きな方です。

「鬼畜」 s.jpg 原作と一番異なる点はラストで、原作が、利一が頑なに黙秘を続けるも、持っていた石材で宗吉の犯行の足が付くことを示唆して終わるのに対し、映画では、宗吉が殺人未遂容疑で逮捕され、利一と面会を果たす場面が加えられていることです。そこでも利一は、「坊やのお父さんだね?」 との警官の問いに、「知らないおじさんだよ!」と否定し、宗吉はそんな利一にすがりつき、後悔と罪悪感で号泣する―。利一は何故黙秘を続けたのかという疑問を更に発展させて、利一は宗吉を庇ったのか見捨てたのかという究極の問いを観る者に投げかけている訳で、この持って行き方は悪くないように思いました。答えはそう難しくないと思いますが、観る者にちょっとだけ考えさせるこの終わり方が余韻となっており、「砂の器」の加藤剛が延々とピアノ曲「宿命」を奏でる(やや大仰な)エンディングより上だったかもしれません。一面において原作を超えていると思うのも、この分かりやすい問題提起とでも言うか、まさにこの点にあります(因みに、原作にはモデルとなった実際の事件があって、犯人の男は在獄中に発狂死したという凄まじいエピソードがある)。

鬼畜 パンフ.jpg鬼畜 o.jpg「鬼畜」●制作年:1978年●監督:野村芳太郎●製作:野村芳太郎/ 野村芳樹●脚本:井手雅人●撮影:川又昂●音楽:芥川也寸志●時間:110分●出演:緒形拳/岩下志麻/小川真由美/加藤嘉/蟹江敬三/大滝秀治/大竹しのぶ/田中邦衛/浜村純/鈴木瑞穂/岩瀬浩規/吉沢美幸/穂積隆信/石井旬/山谷初男/三谷昇●公開:1978/10●配給:松竹●最初に観た場所(再見):新宿ピカデリー(緒形拳追悼特集)(08-11-16)●2回目:北千住・シネマブルースタジオ(10-01-31)(評価:★★★★☆)
映画パンフレット 「鬼畜」 監督 /野村芳太郎 出演 /岩下志麻、緒方拳

小川真由美 in「鬼畜」('78年)/「復讐するは我にあり」('79年) 
小川真由美 鬼畜 - 2.jpg 小川真由美 復讐するは我にあり.jpg


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原作者に「原作を超えた」と言わせた作品。ドラマではだんだん原作の雰囲気を伝えにくくなってきている?

張込み dvd.jpg 張込み_.jpg 張込み 映画1.gif  張込み 水曜ミステリー1.jpg 張込み 松本清張 カッパノベルズ.jpg
張込み [DVD]」/「『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション 張込み』 [Blu-ray]」/大木実・宮口精二/TX系「水曜ミステリー9」松本清張特別企画「張込み」2011年11月2日放映(若村麻由美)/『張込み―松本清張短編全集〈3〉 (カッパ・ノベルス)

張込み 映画 dvd.jpg張込み 3.jpg 警視庁捜査第一課の刑事・下岡(宮口精二)と柚木(大木実)は、質屋殺しの共犯者・石井(田村高廣)を追って佐賀へ発った。主犯の自供によると、石井は兇行に使った拳銃を持ってい、三年前上京の時別れた女・さだ子(高峰秀子)に『張込み』(1958).jpg会いたがっていた。さだ子は今は佐賀の銀行員横川(清水将夫)の後妻になっていた。石井の立寄った形跡はまだなかった。両刑事はその家の前の木賃宿然とした旅館で張込みを開始した。さだ子はもの静かな女で、熱烈な恋愛の経験があるとは見えなかった。ただ、二十以上も年の違う夫を持ち、不幸そうだった。猛暑の中で昼夜の別なく張込みが続けられた。三日目。四日目。だが石井は現れなかった―。

『張込み』(1958)2.jpg 原作は松本清張が「小説新潮」1955年12月号に発表した短編小説。橋本忍脚本、野村芳太郎監督によるこの映画化作品では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が原作の1人に対して2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1人にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写せねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノローグ過剰とならざるを得ず、しかも、見張る側の私的な状況など原作には無い描写を多々盛り込んでおり、もともと短篇であるものを2時間にするとなると、こうならざるを得ないのでしょうか。しかしながら、この作品の世評は高く、野村芳太郎はこの作品で一気にメジャー監督への仲間入りを果たすことになります。

 橋本忍・野村芳太郎のコンビは以降も「ゼロの焦点」('61年)、「影の車」('70年)、「砂の器」('74年)と、この作品以降次々と松本清張作品の映画化を手掛けており、そうした一連の作品の中でもこの作品に対する原作者・松本清張の評価・満足度は高かったそうですが、個人的には、最初にこの映画「張込み」を観た際には、後年の作品ほどの演出のキレが感じられませんでした。ただ、田中小実昌などは「砂の器」よりもこっちの方がずっと傑作だと言っおり、エライ人が出てこないのがいいと。確かにそういう見方もあるかもしれないと思った次第です。

松本清張 .jpg 因みに、松本清張本人が評価していた自作の映画化作品は、この「張込み」と、「黒い画集 あるサラリーマンの証言」('60年/東宝)、「砂の器」('78年/松竹)だけであったといい(3作とも脚本は橋本忍)、特に「張込み」と「黒い画集 あるサラリーマンの証言」については、 「映画化で一番いいのは『張込み』『黒い画集 あるサラリーマンの証言』だ。両方とも短編小説の映画化で、映画化っていうのは、短編を提供して、作る側がそこから得た発想で自由にやってくれるといいのができる。この2本は原作を超えてる。あれが映画だよ」と述べたとのことです。(白井佳夫・川又昴対談「松本清張の小説映画化の秘密」(『松本清張研究』第1号(1996年/砂書房)、白井佳夫・堀川弘通・西村雄一郎対談「証言・映画『黒い画集・あるサラリーマンの証言』」(『松本清張研究』第3号(1997年/砂書房))。

 この「張込み」という作品は、時代劇に翻案されたものも含めると、これまでに少なくとも10回はテレビドラマ化されています。
 •1959年「張込み(KR(現TBS))」沢村国太郎・山岡久乃・安井昌二
 •1960年「黒い断層~張込み(KR(現TBS))」宇津井健・三井弘次
 •1962年「張込み(NHK)」沼田曜一・福田公子・小林昭二
 •1963年「張込み(NET(現テレビ朝日))」江原真二郎・織田政雄・高倉みゆき
 •1966年「張込み(KTV(関西テレビ))」中村玉緒・下条正巳・高津住男
張込み 吉永小百合.bmp •1970年「張込み(NTV)」加藤剛・八千草薫・浜田寅彦
 •1978年「松本清張おんなシリーズ1・張込み(TBS)」吉永小百合・荻島真一・佐野浅夫
 •1991年「松本清張作家活動40年記念・張込み(CX)」大竹しのぶ・田原俊彦・井川比佐志
 •1996年「文吾捕物絵図 張り込み(TX)」中村橋之助・萬屋錦之介・國生さゆり
 •2002年「松本清張没後10年記念・張込み(ANB)」ビートたけし・緒形直人・鶴田真由

張込み 田村高廣/高峰秀子.jpg 女主人公の方は、映画では高峰秀子が演じ、テレビドラマでは八千草薫や吉永小百合などが演じているとなると、女優にとっては演じてみたい役柄なのでしょう。でも、相応かつ相当の演技力が要求される役どころだと思います。

映画「張込み」 田村高廣/高峰秀子

 一方、張り込む側の男優の方は、テレビドラマ版は、見張りの刑事が2人になっているものが多く、その点では映画版を踏襲していますが、だんだんベテラン刑事と若手刑事の取り合わせという風になっていき(但し、吉永小百合版は若手の荻島真一が一人で張り込み)、ベテランがメインになったり若手がメインになったりと色々バリエーションがあるようです(大竹しのぶ版では若手エリート刑事と地元の田舎刑事との取り合わせ、ビートたけし版ではビートたけしと一緒に張り込む緒形直人の方が「年下の上司」ということになっている)。

若村麻由美.bmp そして2011年にまた、TX系の「水曜ミステリー9」で、「松本清張特別企画」として、若村麻由美・小泉孝太郎主演で放送されました(若村麻由美は「無名塾」種出身。90年代にも清張ドラマに何度か出演しており、女優業復帰でこの人も結構長いキャリアになる)。

張込み 水曜ミステリー2.jpg 張り込む刑事は小泉孝太郎1人で、先輩刑事のムダだという意見に抗して張り込むことを主張する熱血漢である一方で、色男でもあり、かつて関与したDV事件の女性被害者に対して、今はストーカーまがいのことをしているという変なヤツ。原作ではラストに1回あるだけの、主人公の女(若村麻由美)との接触場面が矢鱈と多く、逃亡中の犯人(元恋人)と女を引きあわせるお膳立てまでして、結果として女の目の前で犯人は取り押さえられることになり、これって却って残酷ではなかったか。

張込み 水曜ミステリー3 携帯.jpg 原作にはあまり記述の無い女の家庭での妻としての暮らしぶりが描かれることは、これまでのドラマ化作品でもあったかと思いますが、これはやや"描き過ぎ"。しかも、「幸せそうではない」夫婦生活のはずが、一見「幸せそうな」家庭になっていて、夫婦の結婚の経緯から始まって、女の夫が携帯の着信記録から妻の行動に不審を抱き妻を問い詰めると、ストーカーに狙われていると言うので警察に通報するとか、事件解決後に女は家から出奔してしまうとか―何だか余計なものを付け加え過ぎて、原作とはテーマからして別物になった感じ(ベクトル的には原作と真逆。特にラストは)。

張込み 1958.jpg張込み 映画1.jpg ドラマ化されるごとに原作から離れていく感じがしますが、最近のドラマ化作品が原作と別物に見えるのは、野村芳太郎のモノクロ映画の冒頭で10数分間続く夜行列車のシーンに見られるような(その外にも移動シーンで蒸気機関車がふんだんに見られ、S張込み 1958汽車.pngLファン必見?)、高度成長期初期の熱に浮かされたような活気や雑然とした時代の雰囲気みたいなものが、最近のテレビドラマでは再現されにくいということもあるのかもしれません。まあ、半世紀以上経っているのだから仕方が無いか。 [上写真]「張込み」撮影風景(高峰秀子)

 大方が時代設定を現在に置き換えており、最初から原作を再現するつもりも無いわけですが、1回"原点回帰"したものも観てみたい気がするし、間に入る脚色部分とりわけ演出が、近年の刑事ドラマのパターンをステレオタイプで踏襲しているのにはややウンザリもします(このTX系「水曜ミステリー9」版も、若村麻由美はまあまあなのだが、男優陣の演技は"全滅"に近かったように思う)。

張込み タイトル.jpg 野村芳太郎監督の映画化作品を最初に観た時の個人的評価は星3つでしたが(多分、原作との違いが気にかかったというのもあったと思う)、今観直すと、時代の雰囲気をよく伝えているような印象も。後にこれを超えるものが出てこないため、相対的にこちらの評価が高くなって星半分プラスしたという感じでしょうか。

張込み vhs.jpg張込み 映画2.jpg「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張込み」●時間:116分●出演:大木実/宮口精二/高峰秀子/田村張込み 1958汽車2.png高廣/高千穂ひづる/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)

張込み 水曜ミステリー1.jpg「張込み」●監督:星田良子●製作:TX・BSジャパン●脚本:西岡琢也●原作:松本清張●出演:若村麻由美/小泉孝太郎/忍成修吾/渡辺いっけい/塩見三省/六平直政/田山涼成/上原美佐●放映:2011/11(全1回)●放送局:テレビ東京 

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東野圭吾原作。大掛かりは大掛かりだったけれど、やはりやや大味に。

天空の蜂ps.jpg 天空の蜂 .jpg 天空の蜂 dvd.jpg   天空の蜂  i.jpg
映画「天空の蜂」イメージポスター/映画「天空の蜂」ポスター/「天空の蜂 [DVD]」/東野 圭吾『天空の蜂』単行本

天空の蜂G.jpg 1995年8月8日、最新鋭の超巨大ヘリ《ビッグB》が、突然動き出し、子供を一人乗せたまま、福井県にある原子力発電所「新陽」の真上に静止した。遠隔操縦によるハイジャックという手口を使った犯人は〈天空の蜂〉と名乗り、"全国すべての原発の破棄"を要求、従わなければ、大量の爆発物を搭載したヘリを原子炉に墜落させると宣言する。機内の子供の父天空の 蜂W1.jpg親であり《ビッグB》を開発したヘリ設計士・湯原(江口洋介)と、原子力発電所の設計士・三島(本木雅弘)は、上空に取り残された子供の救出と、日本消滅の危機を止めるべく奔走するが、政府は原発破棄を回避しようとする。燃料が尽きてヘリが墜落するまで残された時間は8時間―。その頃愛天空の蜂C.jpg知県では、《ビッグB》と原発を開発した錦重工業本社に、家宅捜索が入っていた。総務課に勤める三島の恋人・赤嶺(仲間由紀恵)は、周囲に捜査員たちが押し寄せる中、密かに恋人の無事を祈る。一方、事件現場付近で捜査にあたる刑事たちは、《ビッグB》を奪ったと思われる謎の男・雑賀(綾野剛)の行方を追う―。

 原作は東野圭吾が20年前に発表した書き下ろし長編で('95年講談社刊)で、作者にとっては最も思い入れのある作品であるとのこと。これまで映画化されていなかったのは、映像化が困難であったためとのことですが、まあ、それだけスケールの大きな作品であることには違いないのかも。その分、大味なのではないかと勝手に決め込んで、こういうのは原作を読み返すより映画を観てしまった方がよいのではないかと思い、先に劇場に行きました。

 CGも使ってはいますが(こうした作品はもうCG無しでは作れないみたいになっているなあ)、大掛かりは大掛かりでした。その分逆に、東野圭吾らしい捻ったプロットは見られないのかなあと思ったら、一応、ストーリー上はありました。ただ、この"二重構造の犯人"はちょっと天空の蜂 ehara.jpg天空の蜂 motoki.jpg分かりにくかったように思われ、138分は少し長く感じられたでしょうか。全部アクションシーンで撮るわけにもいかないでしょうが、ドラマ部分がちょっとダルく感じられ、むしろ、三島と雑賀の繋がりなど、プロットに関わる部分をもっとしっかり描いて欲しかったように思います(結果として、やはり、やや大味だったというところか)。

天空の蜂 amino.jpg天空の蜂 D1.jpg 江口洋介、本木雅弘は初共演ということで、まずまずの"競演"ぶりでしたが、ややオーバーアクション気味のところもあって、逆にイマイチ胸に響かない面も。更には、綾野剛、仲間由紀恵などの演技も何となくワンパターンに感じられ、むしろ、刑事役の手塚とおる、落合モトキなどの"脇の脇"の演技が光ったかも。ラストで、湯原の子供が自衛官(向井理)になっていて2011年3月13日、東日本大震災の2日後に現地で支援活動任務に服しているという設定は、当然のことながら原作には天空の蜂E.jpg天空の蜂T70.jpg天空の蜂 向井.jpgありません。自衛隊のリクルートも兼ねたシーンかと思いきや、自衛隊はこの映画には協力していないようです。自衛隊どころか、川崎重工業 富士重工業といった国産ヘリコプター・メーカーも協力しておらず(協力はエアバス社)、やはり、国からの受注企業は原発は危険というイメージが伴う作品には協力出来ないのでしょう(原発で頑張っている人も描いているのだけど)。

天空の蜂 ビッグB.jpg ラスト近くで、仮に《ビッグB》が原子炉建屋に墜落して建屋が壊れても格納容器までは壊れないだろうという犯人の読みが明かされていたように思いましたが(その理屈に従って、緊急時の格納容器内への避難を提案している場面が既にあった)、むしろ、使用済み核燃料庫の上に墜落する方が危険であるならば、ヘリ落下の際にリモコンで位置をずらすのも、落下に要する時間が数秒しかないということからみて、それなりに危険なのではないでしょうか。

 また、超巨大ヘリの後部ハッチが、缶コーヒーの缶と懐中電灯を挟んだだけで閉まらなくなるというのもどうかとか、こういのって、テクニカルな部分にケチをつけ始めると際限が無くなるのかも。

天空の蜂 cast.jpg「天空の蜂」●制作年:2014年●監督:堤幸彦●製作:大角正/木下直哉/古川公平/坂本健/宮本直人●脚本:楠野一郎●撮影:唐沢悟●音楽:リチャード・プリン●原作:東野天空の蜂 文庫.jpg圭吾「天空の蜂」●時間:138分●出演:江口洋介/元木雅弘/仲間由紀恵/綾野剛/國村隼/柄本明/石橋蓮司/竹中直人/手塚とおる/松島花/石橋けい/落合モトキ/向井理/佐藤二朗/光石研/やべきょうすけ/永瀬匡●公開:2015/09●配給:松竹●最初に観た場所:シネマサンシャイン池袋(15-09-22)(評価:★★★)天空の蜂 新装版
  
           
サンシャインシネマ池袋47.jpg池袋シネマサンシャイン 1985年7月6日池袋サンシャイン60通りに「池袋シネマサンシャイン」オープン、2009年5月1日「シネマサンシャイン池袋」に改称(6館体制)。
サンシャインシネマ池袋 tizu.png1番館:234席
2番館:176席
3番館:135席
4番館:264席
5番館:409席
6番館:139席

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2章の主人公の、自身の新たな運命を切り拓こうとする投企的な意思がいい。"母性小説"。

八日目の蝉 単行本.jpg 八日目の蝉 文庫.jpg   八日目の蝉 dvd.jpg 八日目の蝉 映画2.jpg
単行本['07年]/『八日目の蝉 (中公文庫)』「八日目の蝉 通常版 [DVD]」出演:井上真央/永作博美/小池栄子

八日目の蝉 英訳本.jpg 2005(平成17)11月から翌年7月24日まで読売新聞夕刊に連載された作品で、2007(平成19)年・第2回「中央公論文芸賞」受賞作。2008(平成20)年・第5回「本屋大賞」第6位。

(英文版) 八日目の蝉 - The Eighth Day

 [0章] 秋山丈博の愛人であった野々宮希和子は秋山宅に侵入、眠っていた赤ん坊(秋山恵理菜)を一目見るためだったが、赤ん坊が笑いかけたのを見て衝動的に誘拐する。[1章] 希和子はこれにより誘拐犯として追われる身となり、薫と名づけた赤ん坊とともに逃亡を始める。まず事情を知らない親友の手を借り、その後、立ち退きを迫られている女の家に滞在、更に、女性だけで共同生活を送る「エンジェルホーム」に所持金をすべて手放して入所する。そこでも自分達の娘や妻を奪い返そうとする家族団体からの抗議に巻き込まれる中、警察の介入を避けて再び逃亡、エンジェルホームで出会った共同生活者の手助けで小豆島に逃亡し、安寧な生活を送ったものの、1枚の写真を契機に逮捕される。[2章] 成人した恵理菜は、妻子持ちの岸田と付き合う中で希和子と同様に妊娠するが、岸田は丈博と同様頼りにならない。恵理菜の前に、エンジェルホームの問題や恵理菜の事件を取材しているフリーライターで、かつてホームにいたという安藤千草が現れる。恵理菜の妊娠を知ってわめき叫ぶ実の母親に絶望した恵理菜は、自分なりの判断を下す―。

 少し長めの[1章]の方は、希和子の母性から誘拐という犯罪を為す希和子の心理を描いて巧みですが、作者は希和子に寄り添って描いているように思えるものの、読み手としては、やはり希和子そのものを好きになれないというのはありました(この作家の作品は、出てくる人の誰もが好きになれないということが往々にしてあるのだが)。むしろ、こうした逃亡者を匿う人がいたり施設があったりするという、そうした社会状況が反映されている点が興味深かったです(今日でもDV被害者の駆け込み寺のような施設は結構あるのだろうなあ。居所不明児童を生む一因にもなっているようだが)。

 [2章]の成人した恵理菜の話は、最初の内は[1章]よりもっと暗い感じがしました。恵理菜の血の繋がった父母、とりわけ母親の方は完全に家庭人としては機能不全しており、恵理菜が不倫相手の子どもを妊娠したことを知ってヒステリーを起こしてしまう―こうした流れは、恵理菜の育ての親・希和子が父の不倫相手であったわけで、ある種「負の連鎖」的なものも感じられますが、終盤、そこから"開き直った"とでも言うか、実の親に見切りをつけたと言うか、恵理菜の思い切った決断は清々しいものでした。

 固定観念的な運命論に囚われず、自分で自身の新たな運命を切り拓いていこうとする、その投企的な意思に感動させられます。安藤千草の助けもあったかと思いますが、やはり原動力は"母性愛"なのでしょう。希和子が恵理菜を誘拐したのも母性愛的な犯行動機であるし、恵理菜が島に渡るのも母性愛から。「母性小説」と言っていい作品でした。

 2010年にNHKで、壇れい(希和子)・北乃きい(恵理菜)主演でテレビドラマ化され(全6回)、第27回「ATP賞テレビグランプリ2010」のグランプリを受賞していますが個人的には未見。更に翌2011年に八日目の蝉 映画.jpg八日目の蝉 映画N.jpg成島出監督、永作博美(希和子)、井上真央(恵理菜)主演で映画化され、第35回「日本アカデミー賞」の最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演女優賞(井上真央)・最優秀助演女優賞(永作博美)・最優秀脚本賞など「10冠」を獲得しました。さらに、「芸術選奨文部科学大臣賞」も受賞、第66回「日本放送映画藝術大賞」でも、最優秀作品賞・最優秀脚本賞・最優秀助演女優賞(小池栄子=安藤千草役)など「7冠」を獲得しています。井上真央の日本アカデミー賞最優秀主演女優賞は"ぶっちぎりの前評判通り"だったものと記憶し、永作博美と小池栄子はそれぞれ第85回「キネマ旬報ベスト・テン」主演女優賞と助演女優賞も受賞していて、「女性の映画」らしく、女優陣が賞を総なめした感じでした。

八日目の蝉 映画4.jpg 原作のラストで、そうとは知らずに恵理菜と希和子の2人が偶然フェリー乗り場で居合わせるのは、ちょっと話が出来過ぎな気もしますが、映像化した場合の効果まで狙っているのかと思ったら、映画では「互いに相手を認識しない偶然のすれ違い」はカットされていました。全体として、[2章]が"現在"で、そこへ[1章]の"過去"の話をカットバック的に挟むという構成で、フェリー乗り場の"現在"と"過去"も、そういう重ね方をしています。

八日目の蝉 映画K.jpg 原作が[1章]の方が量的なウェイトが大きいのに対し、映画の方は[2章]のウェイトが大きくなっています。その分、小池栄子演じる安藤千草の存在の比重が大きくなっていて、恵理菜と2人で島に渡って過去を巡る(但し、エンジェルホームは廃墟になっている)といった原作にない展開がありますが、そもそも、最初の2人の出会いから最後のそこに至るまでの2人のやりとりは殆ど全て原作に無いオリジナルの脚本(セリフ)であり、結果的に、映画全体がオリジナル色が濃かったという印象です(登場人物によっては原作のままのセリフもあるが)。

 映画も悪くなかったのですが、やや冗長感があったのと、恵理菜の希和子に対する思いが、原作の吹っ切れた印象とは違って、恵理菜の方から希和子に寄り添ったものになっているように感じられ、その部分は原作とやや違うような印象を受けました(映画だけ観た人は、恵理菜が希和子を探して会いに行ってもおかしくないと思うのでは)。但し、原作者である角田光代氏は、この映画を観て大号泣させられたそうですが。

八日目の蝉02.jpg「八日目の蝉」●制作年:2011年●監督:成島出●製作総指揮:佐藤直樹●脚本:奥寺佐渡子●撮影:藤澤順一●音楽:安川午朗●時間:147分●原作:角田八日目の蝉6.jpg光代「八日目の蝉」●出演:井上真央/永作博美/小池栄子/森口瑤子/田中哲司/渡邉このみ/吉本菜穂子/市川実和子/余貴美子/平田満/風吹ジュン/劇団ひとり/田中泯/相築あきこ/別府あゆみ/安藤玉恵/安澤千草/ぼくもとさきこ/畠山彩奈/宮田早苗/徳井優/吉田羊/瀬木一将/広澤草勲●公開:2011/04●配給:松竹(評価:★★★☆)

【2011年文庫化[中公文庫]】 

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昭和28年から昭和32年にかけての発表作品。「張込み」はやはり傑作。

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張込み―松本清張短編全集〈03〉 (光文社文庫)』/「張込み [DVD]
張込み―松本清張短編全集〈3〉 (カッパ・ノベルス)

 '55(昭和30)年発表の「張込み」をはじめ、昭和28年から32年にかけて発表された松本清張(1909-92)の短篇集。

 銀行員の夫との平凡な日常を脱し、かつての恋人(今は強盗殺人犯として逃亡中)との一瞬の情愛に全てを賭けようとする女性を、張込みをする刑事の視点から描いた「張込み」、台頭する後輩家臣・羽柴秀吉の前に、隠忍型の性格ゆえに苦渋の思いを強いられる丹羽長秀の晩節を描いた「腹中の敵」(昭和30年発表)、小倉に在住していた女流歌人・杉田久女(1890-1946)をモデルに、女流歌人・ぬいの愛が狂気に変貌していく様を描いた「菊枕」(昭和28年発表)、考古学に携わる者の間で"考古学の鬼"との異名とったアマチュア考古学者・森本六爾(1903-1936)をモデルに、34歳で亡くなった不遇の考古学者・木村卓治の葛藤と反抗の生涯を描いた「断碑」(昭和29年発表)、同じく考古学者である直良信夫をモデルに、"明石原人"の人骨発見し、旧石器文化説を唱えるも学界から嘲笑される考古学者の苦悩を一人称で描いた「石の骨」(昭和30年発表)、父親とその系譜に対する主人公の嫌悪と葛藤を同じく一人称で綴った「父系の指」(昭和30年発表)、加藤清正の子で、嫡男・光広の退屈凌ぎの悪戯が昂じて、家康に謀反を抱く者ととられ御家取り潰しの憂き目に遭った大名・加藤忠広を史実をもとに描いた「五十四万石の嘘」(昭和31年発表)、江戸時代の佐渡金山を舞台に、夫婦で佐渡に赴任した役人が、自分が島流しにした妻のかつての恋人の今の姿を見ようとして起こる出来事を描いた愛憎劇「佐渡流人行」(昭和32年発表)の8篇を所収。

 朝日新聞にいた松本清張が社を辞めたのが「五十四万石の嘘」を書いた頃と自分であとがきに書いていますから、ここに収められている作品の多くは在職中に書いたものということになりますが、推理小説と呼べるものがない点が興味深く、作者が当時、色々な小説のスタイルを模索していたことが窺えます。

 「腹中の敵」「五十四万石の嘘」「佐渡流人行」は時代もので、「石の骨」「断碑」は考古学もの、「父系の指」は自伝的小説の色合い濃いものですが、それぞれ、歴史ものでは「西郷札」(昭和25年発表)、学究者ものでは「或る『小倉日記』伝」(昭和25年発表)、自伝的なものでは「火の記憶」(昭和27年発表)といった先行作品があります。

 因みに、「五十四万石の嘘」のモデルの丹羽長秀は、秀吉の振舞いに憤って切腹したとの説もありますが、一般には胃癌で亡くなったというのが史実とされており、「菊枕」のモデルの杉田久女は、実際には夫に縛られるような生活を送ったわけでも精神を病んだわけでもないなど、この辺りは「或る『小倉日記』伝」にも見られたような巧みな"物語化"が見られます。

 何れも珠玉の名篇ですが、やはり一番の傑作は、一見平凡な主婦に宿る"女の情念"を描いた「張込み」でしょうか。「今からだとご主人の帰宅に間に合いますよ」と刑事が女主人公に言うくだりが印象に残ります。作者の推理小説への出発点とされている作品ですが、作者自身が、推理小説だとは考えずに書いたと言っているように、サスペンスではあるが、ミステリではありません(敢えて推理小説風に言えば、「倒叙法」がとられていることになるが)。

 橋本忍脚本、野村芳太郎監督で映画化され('58年/モノクロ)、映画では、逃亡中の犯人(田村高廣)の昔の恋人(高峰秀子)を見張る刑事が2人(大木実・宮口精二)になっており、やはり1対1にしてしまうと、見張る側に関してもセリフ無しで心理描写張込み 3.jpgせねばならず、それはきつかったのか...。それでもモノローグ過剰とならざるを得ず、しかも、原作には無い描写を多々盛り込んでおり、もともと短篇であるものを2時間にするとなると、こうならざるを得ないのでしょうか。ともかくも、野村芳太郎はこの作品で一気にメジャー監督への仲間入りを果たすことになります。「張込み」 (1958/01 松竹) ★★★☆
張込み 映画2.jpg「張込み」●制作年:1958年●製作:小倉武志(企画)●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍●撮影:井上晴二●音楽:黛敏郎●原作:松本清張「張込み」●時間:116分●出演:大木実/宮口精二/高峰秀子/田村高廣/高千穂ひづる/内田良平/菅井きん/藤原釜足/清水将夫/浦辺粂子/多々良純/芦田伸介●公開:1958/01●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-22)(評価★★★☆)

【1964年ノベルズ化・2002年第3版[カッパ・ノベルス]/2008年文庫化[光文社文庫]】

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谷口千吉の初監督作だが「黒澤明」色が濃い。三船敏郎のデビュー作だが「志村喬」の映画。

銀嶺の果て 大.jpg銀嶺の果て dvd.jpg『銀嶺の果て』.jpg銀嶺の果て1.jpg 志村 喬/三船敏郎

 
銀嶺の果て [DVD]

 北アルプスの雪山に逃げ込んだ銀行強盗の野尻(志村喬)、江島(三船敏郎)、高杉(小杉義男)の3人組だが、雪渓を行くうち、高杉は雪崩に巻き込まれて姿を消す。残った野尻、江島の2人は、吹雪に苦しみながらも小さな盆地に辿り着き、雪に埋もれた山小屋を発見、そこには老人(高堂国典)とその孫娘(若山セツ子)が暮らしており、本田(河野秋武)という登山家の男が逗留していた。野尻は彼らの暖かい人情に心を動かされるが、江島は周囲の全てに反抗するが如く更に粗暴になっていく―。

銀嶺の果て01.bmp '47(昭和22)年公開の日本初の本格的山岳アクション映画であり、骨太のヒューマンドラマでもあるこの作品は、谷口千吉の監督デビュー作であり、三船敏郎の実質的デビュー作でもありますが、この2人のデビューが重なったのは、'46年から'48年まで間歇的に続いた東宝大争議(ストライキ)で多くのスターが東宝を離れ、新人監督及びニューフェイス俳優に出番が廻って来たという事情があります(三船敏郎の東宝採用については、高峰秀子が周囲の反対を押し切って強く推したことが知られている)。

 脚本は、当時37歳の黒澤明が、当時35歳の谷口千吉と共に僅か20日間で書き上げたもので、当初のタイトルは「山小屋の三悪人」。脚本もさることながら、演出など映画全体に(特に中盤以降)"黒澤色"を強く感じるのは、三船敏郎、志村喬という後の黒澤作品に欠かせない俳優が出演しているということによるばかりではなく、当時の映画作りが、監督・脚本家・俳優らのまさに共同作業であったことにもよるのでしょう(三船敏郎自らも、雪山への撮影機材の運搬を手伝ったという)。

銀嶺の果て00.bmp 江島役の三船敏郎の不敵な面構えもさることながら、野尻役の志村喬の強盗グループのリーダーも重厚な存在感があり、野尻が山小屋の純朴な人達に接するうちに人間らしい気持ちを取り戻し始めるのに対し、江島はあくまで冷徹非情で、本田に山越えの道案内をさせて逃走を図ろうとし、本田が滑落した自分達を救うために腕を骨折して重態となると、あっさり彼を見捨てようとする―この両者の態度変容のシンプルな対比のさせ方が、この作品を、人間ドラマとして分かり易く、また厚みのあるものにしているように思いました。

 後に「ゴジラ」映画の音楽で名を馳せる伊福部昭も、これが映画音楽デビュー作で、スティーヴン・フォスターの「懐かしきケンタッキーの我が家」が、野尻の心象風景にマッチさせて旨く使われている一方で、河野秋武と若山セツ子のカップルでスキーをするシーンで、谷口千吉が「スケーターズ・ワルツ」のような楽しい曲をオーダーしたのに対し、伊福部昭が重々しい曲をということで譲らず、黒澤明が仲裁に入ったとう逸話があります(結局、伊福部昭の当初案通りとなり、ここで流れた曲は後に「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年/東宝)でも使われることに。この作品のメインテーマ自体も「空の大怪獣 ラドン」('54年/東宝)に流用されている)。

 一般的には三船敏郎(1920-1997)のデビュー作であることが注目されがちですが、実際に作品を観れば、やはりこれは志村喬(1905-1982)の映画であると思われ、志村喬はかつて日活映画の脇役として活躍していましたが、'42(昭和17)年に、興亜映画(松竹)に、'43(昭和18)年に東宝へ移籍、以降、黒澤作品の常連となります。

銀嶺の果て2.jpg この作品撮影時、志村喬は41歳、本田を殺そうとする江島と揉み合いなったり、重態の本田を背負って雪中行するなど、身体を張った演技が随所に見られる(やや"もっさい"ながらも目一杯アクションしている)一方で、山小屋のレコードから流れる「懐かしきケンタッキーの我が家」に聴き入る姿には、後の「生きる」('52年/東宝)などの演技を想起させるものがありました。

「銀嶺の果て」●制作年:1947年●監督:田谷口千吉●製作:田中友幸●脚本:黒澤明/谷口千吉●撮影:瀬川順一●音楽:伊福部昭●時間:89分●出演:三船敏郎/志村喬/河野秋武/小杉義男/若山セツ子/高堂国典/深見泰三/坂内栄三郎/浅田建三/石島房太郎/登山晴子/岡村千鶴子/笠井利夫/石田鉱/花沢徳栄●公開:1947/08●配給:東宝●最初に観た場所:池袋・文芸地下(評価:★★★★)

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日本のホームドラマの基盤がこんなところで着々と築かれていたのだなあと。斎藤達雄、栗島すみ子がいい。

淑女は何を忘れたか vhs.jpg淑女は何を忘れたか1.bmp 「淑女は何を忘れたか [VHS]」(斎藤達雄/栗島すみ子/桑野通子)

ozu  'What Did the Lady Forget?'.jpg
節子(桑野通子)と岡田(佐野周二).jpg 大学の医学部教授の小宮(斎藤達雄)は日頃から、口うるさい妻の時子(栗島すみ子)に頭が上がらなかったが、それは、夫婦円満を保つ彼流の秘訣でもあった。そんなある日、大阪より時子の姪・節子(桑野通子)が上京、小宮家にやって来る。自分とは対照的に思ったままに行動する彼女に触発された小宮は、ある揉め事を契機に初めて時子に平手打ちをくらわせてしまう―。

 トーキー時代に入ってもしばらくサイレント映画にこだわり続けた小津安二郎監督の、「一人息子」('36年)に続くトーキー第2作で、サイレント映画時代の彼のコメディ的要素と戦後の家庭劇の要素が混ざった作品のように思えました。

 それまで下町の庶民を題材にすることが多かった小津ですが、この作品では一転して舞台を山の手へ移し(丁度この頃に小津自身も深川から高輪へ転居している)、アメリカ映画から得られた素養をふんだんに生かしたモダニズム溢れるソフィストケティッド・コメディに仕上がっています。

淑女は何を忘れたか3.jpg 31際の若さで夭逝した桑野通子が演じる(当時22歳)姪の節子は、いわば当時のモダンガールといったところでしょうか。未婚だがタバコも酒も嗜むし、車の運転にも興味がある活発な彼女は、妻の尻に敷かれる小宮を見て、夫権の復活を唱えて盛んに小宮をけしかける―そこへ時子がいきなり現れたりして、小宮が節子を叱るフリをする、時子が去ると節子が小宮を軽く小突くなどといった具合に、小宮と節子の遣り取りが、爆笑を誘うというものではないですが、クスッと笑えるものとなっています。

ozu  'What Did the Lady Forget?' 2.jpg この作品の斎藤達雄はいいです。サイレント時代の小津作品では、もてない大学生(「若い日」)やしがないサラリーマン(「生まれてはみたけれど」)を演じたりもしていましたが、この作品で「ドクトル」と世間から呼ばれるインテリを演じてもしっくりきています(独りきりになると結構このドクトルは剽軽だったりするが)。

ozu  'What Did the Lady Forget?' 3.jpg 有閑マダム3人組(栗島すみ子、吉川満子、飯田蝶子)の会話なども、それまでの小津作品には無かったシークエンスですが、関西弁で話しているためかどことなくほんわかした感じがあり、それでいて畳み掛けるところは畳み掛けるという、トーキー2作目にしてこの自在な会話のテンポの操り方には、トーキー参入に際しての小津の周到な事前準備が感じられました。

淑女は何を忘れたか4.jpg その他に、小宮家で家庭教師をすることになる大学の助手・岡田を佐野周二が演じていますが、息子・関口宏より相当濃いハンサム顔に似合わず、この作品では教え子の友達(突貫小僧)に先に算数の問題を解かれてしまって面目を失うというとぼけた役回り。

 小宮は、妻にはゴルフに行ったことにしながら、節子の東京探訪に付き合わされて、その晩は岡田の下宿に泊めてもらいますが、アリバイ工作のためにゴルフ仲間の会社役員(坂本武)に投函を託した葉書に書かれた当日の天候が全く違っていたことに気付いて慌てふためくも、まあ、大丈夫でしょうと、岡田はのんびり構えてしまっています(結局、そのことで小宮の工作は時子にばれてしまう)。

淑女は何を忘れたか2.jpg 岡田と節子の間で何かあるのかなと思いましたが、これは"夫婦"がテーマの映画なのでそうはならず、結局、「雨降れば地固まる」みたいな映画だったんだなあと。

 まあ、全体として他愛の無い話と言えばそうなのですが、こうした細部のユーモラスなシチュエーションの組み入れ方もそうですし、ストーリーの落とし所からも、ああ、日本のホームドラマの基盤がこんなところで着々と築かれていたのだなあと思わせるものがありました。

流れる 栗島すみ子.jpg流れる 栗島すみ子2.jpg また、この作品は、日本映画史上初のスター女優と言われた栗島すみ子(1902-1987)の映画界引退作品でもあり、さすがに堂々たる存在感を見せています。彼女はその後、成瀬巳喜男監督の「流れる」('56年/東宝)で一度だけスクリーンに復帰、田中絹代(1909-1977)、山田五十鈴(1917-2012)、杉村春子(1906-1997)、高峰秀子(1924- 2010)らと共演しましたが、それら大女優の更に先輩格だったわけで、まさに貫禄充分!

『お嬢さん』栗島すみ子、岡田時彦.jpg そもそも、成瀬巳喜男の監督デビュー(1930年)よりも栗島すみ子の映画デビューの方が先であり(1921年)、年齢も彼女の方が3歳上。成瀬監督を「ミキちゃん」と呼び、「流れる」撮影の際は、「あたしはミキちゃんを信用して来てるのだから」と、セリフを一切覚えず現場入りしたという話があり、小津安二郎の「お嬢さん」('30年/松竹蒲田)で岡田時彦と共演したりしていることから、自分の父親が自分が1歳の時に亡くなったためその記憶が無い岡田茉莉子(1933-)には、「あなたのお父さんは美男子の中でもずば抜けて美男子だった」と「流れる」の撮影現場で話してやっていたそうな。

栗島すみ子、岡田時彦 in「お嬢さん」('30年/モノクロ。フィルムは現存せず)

流れる 映画ポスター.jpg それにしても「流れる」の配役陣は、今になった見れば見るほどスゴいなあという感じ。大川端にある零落する置屋を住込みのお手伝いさん(田中絹代)の視点から描いた作品でしたが、先に挙げた田中絹代、山田五十鈴、高峰秀子、杉村春子ら大物女優に加えて、岡田茉莉子、中北千枝子、賀原夏子らが脇を固めるという布陣で、成瀬巳喜男作品は個人的には合う合わないがあって、世間で評価されるほど自分としての評価は高くないのですが(若い頃に観たというのもあるかもしれない)、この作品も、ストーリーよりも一人一人の演技が印象に残った感じでした。

流れる 1シーン.jpg 杉村春子を除いて皆、着物の着こなしがいい、との評がどこかにありましたが、年増芸者を演じた杉村春子は、あれはあれで役に合わせた着こなしだっだのでしょう。個人的には、水野の女将を演じた栗島すみ子の演技は"別格"として、当時、田中絹代・山田五十鈴・高峰秀子の三大女優より一段格下だった杉村春子が一番上手いのではないかと思いました(高峰秀子は子役としてのデビューは早かったが、1940年、豊田四郎監督の「小島の春」に出演した杉村春子の演技にショックを受けて演技開眼したという。杉村春子を"格下"と言ったら失礼にあたるか)。岡田茉莉子などは実に若々しく、和服を着ると昭和タイプの美女という感じでしたが(着物を着るとスレンダーで足長に見える)、演技そのものは当時はまだ大先輩たちの域には全然達していなかったのではないでしょうか。機会があれば、また観直してみたいと思います。
 
神保町シアター.jpg桑野通子.jpg「淑女は何を忘れたか」●制作年:1937年●監督:小津安二郎●脚本:伏見晁/ジェームス槇(小津安二郎)●撮影:茂原英雄/厚田雄春●音楽:伊藤冝二●時間:71分●出演:斎藤達雄/栗島すみ子/桑野通子/佐野周二/飯田蝶子/坂本武/吉川満子/葉山正雄/突貫小僧/上原謙●公開:1937/03●配給:松竹大船●最初に観た場所:ACTミニシアター(90-08-05)●2回目:神保町シアター(10-12-11)(評価:★★★)●併映(1回目):「お早よう」(小津安二郎) 神保町シアター 2007(平成19)年7月14日オープン
桑野 通子 (1915-1946/享年31)

淑女は何を忘れたか vhs.jpg


流れる%20(1956年).jpg流れる [DVD]流れる dvd .jpg映画「流れる」.jpg「流れる」●制作年:1956年●監督: 成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●脚本:田中流れる09.jpg澄江/井手俊郎●撮影:玉井正夫●音楽:斎藤一郎●原作:幸田文「流れる」●時間:117分●出演:田中絹代/山田五十鈴/高峰秀子/杉村春子/岡田茉莉子/中北千枝子/賀原夏子/栗島すみ子(特別出演) /泉千代/加東大介/宮口精二/仲谷昇/中村伸郎●公開:1956/11●配給:東宝(評価:★★★☆)

右手前:田中絹代

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前半はカフカ的。単館ロードのインディペンデント系作品の中でも伝説的なカルトムービー。

鉄男 チラシ.jpg鉄男 dvd.bmp 中野武蔵野ホール 2.jpg中野武蔵野ホール 地図.jpg
「鉄男 TETSUO」チラシ/「鉄男 [DVD]」 中野武蔵野ホール(「出撃!!アド街ック天国」2003年8月16日放送より)

「鉄男 TETSUO」  .jpg 平凡なサラリーマンである"男"がある朝目覚めると、頬に金属のトゲのようなニキビが生じ、やがて彼の身体は時間とともに鉄に蝕まれていくが、それは、それは数日前に男が車で轢いてしまい、山林に捨てた"やつ"の復讐によるものだった―。

「鉄男 TETSUO」1.jpg 前半から、何だかカフカの「変身」みたいで引き込まれ、全体的にも、モノクロながらも映像構成が素晴しいと思いました。製作・監督・脚本・美術・撮影・照明・編集・特撮を1人でこなした(出演までしている)塚本晋也というのはスゴイなあと。

「鉄男 TETSUO」2.jpg 拾い集めた廃物を利用したSFX、SFXと言っても殆どコマ撮りやモンタージュの集積なのですが、低予算にも関わらず(低予算ならではの?)いい味を出しています。

 本作の約20年後の'10年に第3弾「鉄男 THE BULLET MAN」が製作されていますが(第2弾は'92年に製作)、本作の良さであるインディペンデントな雰囲気は保たれているのでしょうか(予告編を見る限り、そうは思えなかった)。

 主演の田口トモロヲも、俳優のほか、ミュージシャン・映画監督・劇画家などとして多才ぶりを発揮していたそうですが、NHKの「プロジェクトX」のナレーションで一気に有名になったのがこの作品に出演した15年後で、あの田口トモロヲが...という感慨がありました(随分と落ち着いた感じになったなあ)。

中野武蔵野ホール.jpg 中野武蔵野ホールでの単館ロードでしたが(確か、レイト・ショーの初日に観たと思う)、前年公開の松井良彦監督の「追悼のざわめき」('88年/欲望プロダクション)と並んで(これも中野武蔵野ホールでの単館ロード)、当時のインディペンデント系作品の中でも伝説的なカルトムービーと言えるのではないでしょうか。

中野武蔵野ホール 1987年8月、中野駅北口方面「中野武蔵野館」跡地にオープン 2004(平成16)年5月7日閉館

鉄男 TET.jpgTetsuo(1989).jpg「鉄男 TETSUO」●制作年:1989年●監督・製作・脚本・美術・撮影・照明・編集・特撮:塚本晋也●音楽:石川忠●時間:67分●出演:田口トモロヲ/塚本晋也/藤原京/叶岡伸/六平直政/石橋蓮司●日本公開:1989/07●配給:海獣シアター●最初に観た場所:中野武蔵野ホール (89-07-01)(評価:★★★★) 

Tetsuo(1989)


《読書MEMO》
Top 10 Strange Japanese Films You Need to Watch(海外個人サイト)
10.House (1977)
9.Marebito (2004)
8.Versus (2000)
7.Survive Style 5+ (2004)
6.Tokyo Gore Police (2008)
5.Paprika (2006)
4.Dead Leaves (2004)
3.Robo Geisha (2009)
2.Rampo Noir (2005)
1.Tetsuo the Iron Man (1989)

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純粋トリックから心理トリックへ。意外と乾いた感じの初期作品。

心理試験 復刻版.gif心理試験 春陽堂文庫.jpg     屋根裏の散歩者 文庫.jpg  江戸川乱歩猟奇館/屋根裏の散歩者(1976).jpg VHSカバー
心理試験 (1952年) (春陽文庫)』『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)』 映画「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」(1976/06 日活) 石橋蓮司・宮下順子主演
心理試験 (創作探偵小説集)』 ['93年/復刻版]

 蕗屋清一郎は下宿屋を営む老婆の貯めた大金を狙って彼女を絞殺するが、犯人として挙げられたのは蕗屋の同級生・斎藤勇だった。しかし、事件に疑問を抱いた笠森判事は、蕗屋を召還て斉藤と共に「心理試験」を受けさせることにし、一方、蕗屋はその心理試験に備えて万全の応答を準備する―。

 江戸川乱歩(1895-1965)の「心理試験」(1925(大正14)年2月に雑誌「新青年」に発表)を最初に読んだのは、春陽文庫の「江戸川乱歩名作集7」('52年3月初版)で、他に「二銭銅貨」「二癈人」「一枚の切符」「百面相役者」「ざくろ」「芋虫」の6編を所収していますが('87年の改版版も同じラインアップ)、やはり「心理試験」のインパクトが一番で、「D坂の殺人事件」に続いての素人探偵・明智小五郎の"試験分析"が鮮やかです。

 『心理試験』の単行本は、1924(大正14)年7月の刊行で、「創作探偵小説集1」として'93年に春陽堂書店から復刻刊行されています(「二銭銅貨」「D坂殺人事件」「黒手組」「一枚の切符」「二廃人」「双生児」「日記帳」「算盤が恋を語る話」「恐ろしき錯誤」「赤い部屋」の10編を所収)。
 個人的には、高校生の時に読んだ春陽文庫に思い入れがありますが、今読むならば、光文社文庫の『屋根裏の散歩者―江戸川乱歩全集1』('04年7月刊)が読み易いかも。

 光文社文庫版は初期作品21編を収め、「二銭銅貨」「一枚の切符」「恐ろしき錯誤」「二癈人」「双生児」「D坂の殺人事件」「心理試験」...といった具合に発表順に並べられており、それぞれの作品に、作者自身が全集などに所収する際に書いた自作解説が添えられており(「心理試験」がドストエフスキーの「罪と罰」の中のラスコーリニコフの老婆殺しから示唆を得ていることを、この解説で始めて知った)、作者の自作に対する評価がなかなか興味深いです(「D坂」「心理試験」「屋根裏の散歩者」は、本人評価も良いみたい)。

 こうして見ると、初期作品(1923‐25年の間に発表されたもの)の中でも最初の数編は洋物推理的な純粋トリックが主体で、「D坂」あたりから、次第に人間心理的な要素が推理に織り込まれてくるようになったことが窺えますが、何れも乾いた感じのものが多いように思えます(春陽文庫版の「ざくろ」「芋虫」は、それぞれ'34年、'29年の発表作)。

屋根裏の散歩者 映画.jpg 光文社文庫版の表題作「屋根裏の散歩者」(1925(大正14)年8月に「新青年」に発表)は、'70年、'76年、'94年、'07年の4度映画化されており、田中登監督、石橋蓮司・宮下順子主演の映画化作品「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」('76年/日活)を観ましたが、映画がエロチックな作りになっているのに対し、原作は、女の自慢話する男を嫌った主人公が、単に犯罪の愉しみのために、天井裏から毒薬を垂らして男の殺害を謀るもので、エロチックな要素はありません(この作品の事件も明智小五郎が解決するが、その行動にも、どこか剽軽で乾いたところがある)。因みに、この天井裏から毒薬を垂らす殺害方法は、映画「007は二度死ぬ」('67年/英)で採用されており、これによって若林映(あき)子が演じる公安エージェントのアキは殺害されてしまいます。
 
江戸川乱歩猟奇館/屋根裏の散歩者(1976).jpg屋根裏の散歩者 01.jpg 映画がどろっとした感じになっているのは、「人間椅子」(1925年発表)の要素を織り込んでいるためですが(人間椅子になって喜ぶ下僕が出てくる)、「人間椅子」の原作には実は空想譚だったというオチがあり、乱歩の初期作品には、実現可能性を考慮して、結構こうした作りになっているものが多いのです。江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者   .jpg映画には、「乱歩=猟奇的」といったイメージがアプリオリに介在しているように思えました。宮下順子演じる美那子と逢引するピエロの話も、関東大震災の話(まさに"驚天動地"の結末)も原作には無い話です。自分が最初に観た時も、宮下順子の「ピエロ~、ピエロ~」という喘ぎ声に館内から思わず笑いが起きたくらいで、今日においてはカルト的作品であると言えばそう言えるかもしれません。

江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者 米.jpg「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」●制作年:1976年●監督:江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者 dvd .jpg田中登●製作:結城良煕/伊地智●脚本:いどあきお●撮影:森勝●音楽:蓼科二郎●原作:江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」●時間:76分●●出演:石橋蓮司/宮下順子/長弘/織田俊彦/渡辺とく子/八代康二/田島はるか/中島葵/夢村四郎●公開:1976/06●配給:日活●最初に観た場所:池袋文芸地下(82-11-14)(評価:★★★)●併映:「犯された白衣」(若松孝二) 北米版DVD
江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者 [DVD]
 
 「心理試験」...【1952年文庫化・1987年改版版[春陽文庫・江戸川乱歩文庫]/1960年再文庫化[新潮文庫(『江戸川乱歩傑作選』)]/1971年再文庫化[講談社文庫(『二銭銅貨・パノラマ島奇談』)]/1973年再文庫化[角川文庫(『黄金仮面』)]/1984年再文庫化[創元推理文庫(『日本探偵小説全集2』)]/1987年再文庫化[江戸川乱歩推理文庫(講談社)(『二銭銅貨』)]/2004年再文庫化[光文社文庫(『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者』)]/2008年再文庫化[岩波文庫(『江戸川乱歩短篇集』)]】

【読書MEMO】
二銭銅貨[『新青年』1923.04]/一枚の切符[『新青年』1923.07]/恐ろしき錯誤[『新青年』1923.11]/二癈人(二廃人)[『新青年』1924.06]/双生児[『新青年』1924.10]/D坂の殺人事件[『新青年』1925.01]/心理試験[『新青年』1925.02]/屋根裏の散歩者[『新青年』1925.08]/人間椅子[『苦楽』1925.10]
 

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主人公にとっては、嫁が不憫であるとともに、老境の光明にもなっているような。

川端 康成 『山の音』  .jpg2川端 康成 『山の音』新潮文庫.jpg川端 康成 『山の音』sinntyoubunnko .jpg  山の音 dvd.bmp    たまゆら2.jpg
山の音 (新潮文庫)』['57年]/「山の音 [DVD]」/連続テレビ小説「たまゆら」

川端康成肖像(昭和25-26年頃).jpg 1954(昭和29)年・第7回「野間文芸賞」受賞作。

 鎌倉に居を構える一家の家長・尾形信吾(62歳)は、夜中にふと感じた「山の音」に、自分の死期を予告されたような恐怖感を抱き、迫り来る老いや死を実感しながらも、息子・修一の嫁・菊子に、青春期にこの世を去った美しい憧れの女性の面影とを重ね、淡い恋心に似た気持ちを抱く―。

 1935(昭和10)年、東京の谷中から鎌倉に住まいを移した川端康成(1899- 1972)は、終生この地に住み、鎌倉を舞台とした作品を幾つか書きましたが、この『山の音』もその一つで、同じく鎌倉を舞台とした『千羽鶴』と同時期(昭和24年‐29年)に並行して連載発表され、1951(昭和26)年度日本芸術院賞を授与されています(受賞年は1952年。この賞は"作品"ではなく"人"が対象だが、この2作が実質的な受賞対象作か)。

川端康成(1950(昭和25)-1951(昭和26)年頃)

 『山の音』は、「改造文芸」の1949(昭和24)年9月号に「山の音」として掲載したのを皮切りに、「群像」「新潮」「世界川端康成 1949.jpg春秋」などに「雲の炎」「栗の実」「島の夢」「冬桜」「朝の水」「「夜の声」「春の鐘」などといった題名で書き継がれて、1954年に完結、同年4月に単行本『山の音』として筑摩書房から刊行されたもので、作家の50歳から55歳にかけての作品ということになりますが、山本健吉の解説によれば、「川端氏の傑作であるばかりでなく、戦後日本文学の最高峰に位するものである」と。

1949(昭和24)年頃。鎌倉・長谷の自宅にてロダンの彫刻に見入る。

 夫婦二世代で同じ家に住み、父親と息子が同じ会社に通っているなどというのは、当時は珍しいことではなかったのでしょう(小津安二郎など昔の日本映画にありそうだし、「サザエさん」もそうだなあ)。当時は55歳定年制が一般的であったことを考えれば、60歳過ぎても、会社に行けばお付きの女性秘書(事務員と兼務?)もいるというのは、信吾は所謂「高級サラリーマン」の類でしょうか。その事務員・英子と盛り場(ダンスホール)探訪などしたりもして。そうした信吾ですが、妻がいながらにして外に愛人を持つ息子・修一や、子連れで嫁先から出戻ってすっかり怠惰になった娘のために、老妻との穏やかな老後というわけにはいかず、その心境は、常に鬱々とした寂寥感が漂っています。

 そうした日常において、可憐な菊子の存在は信吾の心の窓となっていて、何だかこれも小津安二郎の映画にありそうな設定だなあと。但し、そこは川端康成の作品、舅と嫁の関係が表向きは不倫なものには至らないものの、昔の恋人に菊子を重ねる自分に、結婚する前の菊子を自分は愛したかったのではないかと信吾は自問しており、ついつい菊子の身体に向けられる仔細な観察眼には、かなり性的な要素もあります。

 しかし、現実に信吾が菊子にしてやれることは何も無く、修一と愛人を別れさせようという試みも空振りに終わり(この試みが信吾本人ではなく英子主導なのがミソなのだが)、ドラマチックなことは何も起こらずに、季節だけが虚しく過ぎて行く―信吾の住む鎌倉の四季の移いを背景に、そこに日本的な諦観が織り込まれたような感じで、その繊細なしっとり感が、この作品の持ち味なのでしょう。

 ただ、この菊子という女性はどうなのだろう。老人の「心境小説」の登場人物の1人の生き方を云々するのも何ですが、身籠った子を中絶したのが、「夫に愛人がいる間は夫の子を産まない」という彼女のある種の"潔癖"によるもの乃至は夫への"反抗"だとすれば(共に修一の解釈)、現代の女性たちから見てどれぐらい共感を得られるか。

山の音 スチール.jpg この作品は映画化されていて('54年/東宝)、個人的にはCS放送であまり集中できない環境でしか観ていないので十分な評価は出来ないのですが(一応星3つ半)、監督は小津安二郎ではなく成瀬巳喜男ということもあり、それなりにどろっとしていました(小津も実はどろっとしているのだという見方もあるが)。

山の音4_v.jpg 62歳の信吾を演じた山村聰(1910‐2000)は当時44歳ですから、「東京物語」の笠智衆(当時49歳)以上の老け役。息子・修一役の上原謙(1909‐1991)が当時45歳ですから、実年齢では息子役の上原謙の方が1つ上です。

山の音05_v.jpg そのためもあってか、原節子(1920‐2015)演じる菊子が舅と仲が良すぎるのを嫉妬して修一が浮気に奔り、また、菊子を苛めているともとれるような、それで、ますます信吾が菊子を不憫に思うようになる...という作りになっているように思いました(菊子が中絶しなければ、夫婦関係の流れは変わったように思うが、それでは全然違った物語になってしまうのだろう)。

並木道o.JPG 映画のラストの、信吾と菊子が新宿御苑の並木道を歩くシーンを観てもそうだし(キャロル・リード監督「第三の男」('49年/英)のラストシーンと構図が似ている)、原作についても、信吾と菊子が信吾の郷里に紅葉を観に行くという「書かれざる章」があったのではと山本健吉も想像しているように、信吾と菊子の関係はこのまま続くのだろうなあ。それが、また、信吾の潜在的願望であるということなのでしょう。

たまゆら 川端康成.jpg この作家は、こうした家族物はおたまゆら 朝ドラ.jpg手のものだったのではないかという気もします。「たまゆら」という1965年度のNHKの連続テレビ小説(朝の連ドラ)(平均視聴率は33.6%、最高視聴率は44.7%)の原作(『たまゆら』('55年/角川小説新書))も書き下ろしていたし...(ノーベル文学賞作家が以前にこういうの書いていたというのが、ちょっと面白いけれど)。

「たまゆら」番宣用カラー絵ハガキ

 「たまゆら」は、会社を引退した老人(笠智衆、テレビ初出演)が、第二の人生の門出に『古事記』を手に旅に出るという、朝ドラにしては珍しく男性が主人公の話ですが、この老人には嫁に行ったり嫁入り前だったりの3人の娘がいて、基本的には"家庭内"ドラマ(要するに"ホームドラマ")。NHKの連続テレビ小説の第5作として「うず潮」(林芙美子原作)と「おはなはん」の間の年('65(昭和40)年)に放送され、川端康成自身が通行人役でカメオ出演していました(職業は「サザエさん」のいささか先生みたいな作家ではなかったか)。


日本映画傑作全集 山の音.jpg山の音92.jpg「山の音」●制作年:1954年●監督:成瀬巳喜男●製作:小林一三●脚本:水木洋子●撮影:玉井正夫●音楽:斉藤一郎●原作:川端康成「山の音」●時間:94分●出演山の音39.jpg:原節子/上原謙/山村聡/長岡輝子/杉葉子/丹阿弥谷津子/中北千枝子/金子信雄/角梨枝子/十朱久雄/北川町子/斎藤史子/馬野都留子●公開:1954/01●配給:東宝●評価:★★★☆   
 
 
たまゆら2.jpgたまゆら.jpgたまゆら2.jpg「たまゆら」●演出:畑中庸生●脚本:山田豊/尾崎甫●音楽:崎出伍一●原作:川端康成●出演:笠智衆/加藤道子/佐竹明夫/扇千景/直木晶子/亀井光代/勝呂誉/武内亨/川端康成/光本幸子/長浜藤夫/鳳八千代●放映:1965/04~1966/04(全?回)●放送局:NHK

 【1957年文庫化[新潮文庫]/1957年再文庫化[岩波文庫]/1957年再文庫化[角川文庫]/1967年再文庫化[旺文社文庫]】

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作者のこのジャンル(宗教モノ)における集大成的な作品と言えるのではないか。

篠田 節子 『仮想儀礼』.jpg仮想儀礼1.jpg 仮想儀礼2.jpg   教祖誕生.jpg 「教祖誕生」2.jpg
仮想儀礼〈上〉』『仮想儀礼〈下〉』['08年]  「教祖誕生 [VHS]」('93年)萩原聖人

 2009(平成21)年度・第22回「柴田錬三郎賞」受賞作。

 38歳の作家志望の男・鈴木正彦は、ゲーム会社の矢口誠に誘われ、勤めていた都庁を辞めてファンタジーノベルを書くが、結局矢口の会社が倒産して仕事も家族も失い、不倫がもとで同じく職も家も失くしていた矢口との再会を機に、2人で正彦が書いた原稿をベースとした教義と手作りの仏像で宗教団体を設立、信者は徐々に増え、食品会社の社長がバックに付いてから飛躍的にその数は伸びて、5000人の信者を抱えるようになる―。

 金儲けのために設立した極めていい加減な教義の教団に、こんなにホイホイ入信する人がいるのかなあもと思ったけれども、信者それぞれが抱えている事情が家族崩壊の様々なパターンを示していたりして("生きづらい"系の人にとっては「鰯の頭も信心から」なのか)、更に、色々な成り行きで教団が拡大していく様や、そうした教団に利害ベースで接近を図ったり出入りしたりする様々な人物がリアルに描かれているため、興味深く読めました。

 後半は、更に予期せぬ出来事が次々と起こり、教団はマスコミからの誹謗中傷に加え政治家筋からも圧力をかけられ、一方、一部の女性信者たちが信仰を先鋭化させて暴走し、教祖である正彦自身にもそれを止められなくなってしまう様が、畳み掛けるように描かれていて一層引き込まれました。

「教祖誕生」.jpg 本書を読んで高橋和巳の『邪宗門』を想起する人もいるかと思いますが、個人的には天間敏広監督の映画「教祖誕生」('93年/東宝)を思い出しました。

教祖誕生 [VHS]」 ('93年/東宝/監督:天間敏広/原作:ビートたけし)

 これ、意外と傑作でした(原作はビートたけし)。この映画にも、教団をビジネスと考える者(ビートたけし、岸部一徳)とそこに真実を求める者(玉置浩二)が出てきますが、映画ではむしろ後者に対する揶揄が込められています(オウム真理教による松本サリン事件の約半年前、地下鉄サリン事件の1年半前に作られたという点では予見的作品でもある)。

教祖誕生スチール.jpg「教祖誕生」●制作年:1993年●監督:天間敏広●製作:鍋島壽夫/田中迪●脚本:加藤祐司/中田秀子●撮影:川上皓●音楽:藤井尚之●原作:ビートたけし「教祖誕生」●時間:93分●出演:萩原聖人/玉置浩二/岸部一徳/ビートたけし/下絛正巳/国舞亜矢/山口美也子/もたいまさこ/南美江/津田寛治/寺島進●公開:1993/11●配給:東宝(評価:★★★★)

 「教祖誕生」の主人公の青年(萩原聖人)は、後継教祖に指名されて自分がホントに神になったような錯覚を起こしますが、『仮想儀礼』の主人公・正彦は自分が作り上げたものが虚構であることを忘れない常識人であり、生起する諸問題に仕事上の問題解決に対応するビジネスマンのように、或いは一般的水準以上に理性人として対応しているように思えます。
 しかし、重篤なトラウマを抱えた女性信者など、相手が相手だけに思うように彼らを御しきれず、やがて教団施設や財産の全てを失い、少数のファナティックな信者たちに拉致されるような形で逃避行へと追いやられていくことになり、あくまでもビジネスで「宗教」を始めた男が、そうした過程を辿るというのが、読んでいて強烈な皮肉に思われました。

 信者たちが自らの内面で教義を自己救済的な方向に血肉化させて、教団をカルト化していく様が見事に描かれており、深刻で暗くなりがちな話でありながらも、随所に事態の思わぬ展開に対する主人公の軽妙な嘆き節があり(それこそ、正彦が常識人であることの証しなのだが)、どことなくカラッとした感じになっているのは、この作家の特質でもあるかも知れません(桐野夏生なら、こうはならない)。

 だだ、全体にちょっと長いかなあ。取材したエピソードを出来るだけ漏らすまいという、作者のこのテーマに対する思い入れが感じられるのですが、全体構成的に見ると、前半はもう少し圧縮しても良かったかも。

 とは言え、最後は急速展開。家族による信者奪回などを巡って凄惨な事件も起き、全体にカタストロフィに向かう予感の中、正彦自身にどういった形でそれが訪れるのか、後になればなるほど気がかりになりましたが、エンタテインメントとしてのバランスを保った終わり方になっているように思えました。

【2011年文庫化[新潮文庫]】

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予定調和だが、それなりに楽しめた。映画の方は「スーパーの女」などと比べるとやはり...。

県庁の星2.jpg 『県庁の星 (2) (ビッグコミックス)』 (全4巻) 県庁の星 桂.jpg 桂 望実 『県庁の星

 Y県のエリート県庁職員である野村聡は、民間との人事交流プロジェクトに選ばれ、スーパー富士見堂で1年間の研修を受けることになるが、最初は役員根性・県庁マインド丸出しだった彼が、全く肌違いの民間の仕事を通して変質し、真の"スーパー改革"を実現するに至る―。

 公務員って、民間で言う「出向」のことを「研修」と言ってるみたいですね(「研修(出向)」と言っても、労務提供はしているわけだが、民間の「出向」と異なり、労災の請け元は官公庁のまま)。

 ということで、実質的なマンガの舞台は県庁内では無く、前半部分(1巻・2巻)はスーパーマーケット。
 後半部分(3巻・4巻)は、スーパーの経営を建て直した彼が、第3セクター赤字テーマパークを"潰す"ために送り込まれますが、前半からの流れで、結果はともかく、彼がどう立ち回るかは大体予想がついてしまいます。

 官庁の上層部や主人公の同期の役人の描き方はパターン化していて、事の展開もかなりご都合主義ですが、それでも、主人公とその教育係であるシングルマザーのパート女性とのやりとりも含め、結構楽しく読めました。
 "ギャグ的"に面白いというか、テーマパークに赴任した初日、「名刺を猿に配って終了」には思わず噴きました。

県庁の星 ポスター.jpg県庁の星1.jpg '05(平成17)年から'07(平成19)年にかけて「ビッグコミックススペリオール」に連載されたコミックで(桂望実の原作を杉浦真夕が脚色)、連載途中の'06年に織田裕二主演で映画化されていますが(実際に制作されたのは'05年。「白い巨塔」などのTVドラマを手掛けた西谷弘の映画初監督作品)、織田裕二って本気で演技してそれが丁度マンガ的になるようなそんな印象があり、こうした作品にはピッタリという感じでした。 柴咲コウ/織田裕二
「県庁の星」●制作年:2006年●監督:西谷弘●製作:島谷能成/亀山千広/永田芳男/安永義郎/細野義朗/亀井修朗●脚本:佐藤信介●撮影:山本英夫●音楽:松谷卓●原作:桂望実「県庁の星」●時間:131分●出演:織田裕二/柴咲コウ/佐々木蔵之介/和田聰宏/紺野まひる/奥貫薫/井川比佐志/益岡徹/矢島健一/山口紗弥加/ベンガル/酒井和歌子/石坂浩二●公開:2006/02●配給:東宝(評価:★★★)

スーパーの女.jpgスーパーの女2.jpg 但し、スーパーを舞台にした作品では、伊丹十三(1933-1997)監督、宮本信子主演の「スーパーの女」('96年/東宝)があるだけに、それと比べるとインパクトは劣るし、「スーパーの女」が食品偽装問題など今日的なテーマを10年以上も前から先駆的に扱っていたのに対し、「県庁の星」は映画もマンガもその部分での突っ込み度は浅く、特に映画は単なるラブ・コメになってしまったきらいも無きにしも非ずという感じ。
「スーパーの女」●制作年:1996年●監督・脚本:伊丹十三●製作:伊丹プロダクション●撮影:前田米造/浜田毅/柳島克巳/高瀬比呂志●音楽:本多俊之●原作:安土敏「小説スーパーマーケット」●時間:127分●出演:宮本信子/津川雅彦/三宅裕司/小堺一機/伊東四朗/金田龍之介/矢野宣/六平直政/高橋長英●公開:1996/06●配給:東宝(評価:★★★★)

マルサの女 1987.jpgマルサの女.jpg 「お葬式」('84年/ATG)で映画界に旋風を巻き起こした伊丹十三監督でしたが、個人的には「マルサの女」('87年/東宝)がドラマチックで面白かったです(それぞれ第58回と第61回のキネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれている)。「マルサの女」は、山崎努がラブホテル経営者"権藤"を演じていますが、彼が新人として出演した「天国と地獄」('63年/黒澤プロ・東宝)で三船敏郎が演じていた会社社長の苗字も"権藤"でした。巧妙な手口で脱税を行う経営者らとそれを見破る捜査官たちとの虚々実々の駆け引きをテンポよく描いており、ラストに抜けてのスリリングな盛り上げ方はなかなかのものでした。

マルサの女2 三國.jpgマルサの女 .jpg それまであまり世に知られていなかった国税査察部の捜査の様子をリアルに描いたということで社会的反響も大きく、翌年には「マルサの女2」('88年/東宝)も作られましたが、山崎努に続いてこちらも、宗教法人を隠れ蓑とし巨額の脱税を企てようとする"鬼沢"に大物俳優・三國連太郎マルサの女2 dvd.jpgを配し、これもまた脇役陣を含め演技達者が揃っていた感じでした。

 伊丹十三監督は「前作はマルサの入門編」であり、本当に描きたかったのは今作であるという伊丹十三.jpg趣旨のことを後に述べていますが、確かに、鬼沢さえも黒幕に操られている駒の1つに過ぎなかったという展開は重いけれども、ラストは前作の方がスッキリしていて個人的には「1」の方がカタルシス効果が高かったかなあ。監督自身は、高い娯楽性と巨悪の存在を一般に知らしめることとの両方を目指したのでしょう。
伊丹十三(1933-1997/享年64(自死))

お葬式 映画 dvd.jpgお葬式 映画 00.jpg 確かに「お葬式」で51歳で監督デビューし、高い評価を得たのは鮮烈でしたが、作品の質としては3作目・4作目に当たる「マルサの女」「マルサの女2」の方が密度が濃いように思いました。それが、この「マルサの女1・2」以降は何となく作品が小粒になっていたような気がしたのが、この「スーパーの女」を観て、改めて緻密かつパワフルな伊丹作品の魅力を堪能できた―と思ったら、この「スーパーの女」を撮った翌年に伊丹十三は自殺してしまった。残念。
伊丹十三DVDコレクション お葬式

お葬式 映画 02.jpg「お葬式」●制作年:1お葬式 映画01.jpg984年●監督・脚本:伊丹十三●製作:岡田裕/玉置泰●撮影:前田米造●音楽:湯浅譲二●時間:124分●出演:山崎努/宮本信子/菅井きん/財津一郎/大滝秀治/江戸家猫八/奥村公廷/藤原釜足/高瀬春菜/友里千賀子/尾藤イサオ/岸部一徳/笠智衆/津川雅彦/井上陽水●公開:1984/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋日勝文化 (85-11-04)(評価:★★★☆)●併映「逆噴射家族」(石井聰互)
Marusa no onna (1987)
Marusa no onna (1987) .jpgマルサの女  .jpg「マルサの女」●制作年:1987年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:前田米造●音楽:本多俊之●時間:127分●出演:宮本信子/山崎努/津川雅彦/大地康雄/桜金造/志水季里子/松居一代/室田日出男/ギリヤーク尼ヶ崎/柳谷寛/杉山とく子/佐藤B作/絵沢萠子/山下大介/橋爪功/伊東四朗/小沢栄太郎/大滝秀治/芦田伸介/小林桂樹/岡ジョイシネマ3 .jpg新宿ジョイシネマ3.jpg田茉莉子/渡辺まちこ/山下容里枝/小坂一也/打田親五/まる秀也●公開:1987/02●配給:東宝●最初に観た場所:新宿シネパトス (88-03-12)(評価:★★★★)●併映「マルサの女2」(伊丹十三)
新宿シネパトス (1956年3月「新宿名画座」オープン→1987年5月「新宿シネパトス」→1995年7月「新宿ジョイシネマ5」→1997年11月「新宿ジョイシネマ3」) 2009(平成21)年5月31日閉館 

佐渡原:丹波哲郎.jpgマルサの女2 笠.jpg「マルサの女2」●制作年:1987年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:前田米造●音楽:本多俊之●時間:127分●出演:宮本信子/津川雅彦/三國連太郎丹波哲郎/大地康雄/桜金造/加藤治子/益岡徹/マッハ文朱/加藤善博/浅利香津代/村井のりこ/岡本麗/矢野宣/笠智衆/上田耕一●公開:1988/01●配給:東宝●最初に観た場所:新宿シネパトス (88-03-12)(評価:★★★☆)●併映「マルサの女」(伊丹十三)

企業家サラリーマン.gif 「スーパーの女」の原作は、『小説スーパーマーケット』(『小説流通産業』('81年))で、作者の「安土敏」こと荒井伸也氏は元サミット社長であり、この人の『企業家サラリーマン』('86年/講談社、'89年/講談社文庫)は、海外飲食店グループを指揮する男と、新しい時代の経営者を目指す女の22人の生き方を描いた作品で、作者が現役役員の時点で書いているということもあってシズル感があり面白かったですが、こちらもテレビドラマ化されているらしい。どこかで再放送しないものかなあ。

企業家サラリーマン (講談社文庫)

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石橋蓮司主演2作。時代の空疎感伝える「あらかじめ...」と中上文学を再現した佳作「赫い髪の女」。

あらかじめ失われた恋人たちよ(ポスター).jpg あらかじめ失われた恋人たちよ プレス.jpg  「赫い髪の女」.jpg 赫い髪の女.jpg
あらかじめ失われた恋人たちよ」 DVD/チラシ 「赫い髪の女 [DVD]」(監督:神代辰巳)

arakajime.jpgあらかじめ失われた恋人たちよド.jpg 棒高跳びでのオリンピック出場の夢を断たれて自棄になり、強盗を働きながら日本中を放浪していたあらかじめ失われた恋人たちよ.jpg青年(石橋蓮司)はある日、日本海のある街のスーパーの開店イベントで、全身に金粉を塗ってパフォーマンスをする聾唖者の男女(加納典明・桃井かおり)の姿に目を奪われ、彼らにつきまとい始める―。(加納典明/桃井かおり/石橋蓮司

「アートシアター 90 あらかじめ失われた恋人たちよ」より
あらかじめ失われた恋人たちよ0.JPG 「あらかじめ失われた恋人たちよ」('71年/ATG)は、劇作家の清水邦夫と当時「東京12チャンネル」のディレクターだった田原総一朗(この人、最初は岩波映画でカメラ助手をやっていた)の共同脚本・共同監督作品で、桃井かおりの実質的なデビュー作であり(桃井かおりは藤田敏八監督の「赤い鳥逃げた?」('73年/東宝)でも、シロクロ・ショーをしながら旅する女という役だった)、今は写真家になっている加納典明なども出ている映画ですが、今の田原総一郎、加納典明とこの映画とは、自分の中では長い間リンクしなかったような気がします。

 ストーリーはあるものの、多少前衛がかっていて(加納典明・桃井かおりが喋らないので石橋蓮司の独白で話は進む)、地下演劇的なムードもあるかも(田舎でやるシロクロ・ショーなどは何となく土俗的)。加えて、タイトルもしゃれているし何だか難しそうですが、少なくとも「あらかじめ失われた」ものが第一義的には「言葉」であることは、容易にわかるのではないでしょうか(だから、言葉を駆使している評論家・田原総一郎、カメラマン・加納典明とリンクしない?)。 

内灘夫人.jpg 後半の主要舞台は金沢郊外の内灘砂丘ですが、かつてここで米軍の試射場設置に対する反対闘争があったわけで、この作品にも試写場の廃墟が出てきます。五木寛之が60年安保の余韻を伝える作品『内灘夫人』を発表したのが'68年、しかしながらこの映画の公開は'71年で、もう既に70年安保という"政治の季節"が終わってしまったようなムードが、作品の中にもどことなくあります。

 というわけで、面白いと言うよりもどちらかと言えば一時代の記念碑的な作品ですが、石橋蓮司のパフォーマンス的な演技がその時代の空疎感、閉塞感をよく伝えていて、神代(くましろ)辰巳監督の「赫い髪の女」といいこの作品といい、70年代の石橋蓮司っていいなあと思います。

「赫い髪の女」英語版.jpg赫い髪の女 poster.jpg赫い髪の女2.jpg 「赫い髪の女」('79年/にっかつ)は中上健次の原作で、ダンプ運転手(石橋蓮司)といきずりの女(宮下順子)の愛欲の生活をリアルに描いた作品ですが、雨のジトジト降る日に狭いアパートの一室で、セックスの合間にインスタントラーメンを音をたてて啜る2人が、どういうわけか個人的にはすごく印象的でした。この作品も時代の閉塞を表していると言えるかも知れません赫い髪の女3.jpg(一体70年代のいつからいつまで"閉塞"状況だったのか、70年代がずーっと閉塞状況だったか、自分にはよくわからないが)。

(上)山口美也子 (下)石橋蓮司/宮下順子
 
 こちらはDVD化されているので、再見しようと思えばいつでも観ることができるのですが、出来れば劇場で観たい作品です(自分がこの作品を最初に観た「銀座並木座」は閉館してしまったが)。中上健次の原作のムードを損なわずに丁寧に撮られた佳作だったと思います。

映画・あらかじめ失われた恋人たちよ.jpgあらかじめ失われた恋人たちよ4.png「あらかじめ失われた恋人たちよ」●制作年:1971年●監督・脚本:清水邦夫/田原総一郎●企画:葛井欣士郎●撮影:奥村祐治●音楽:成毛滋●時間:123分●出演:石橋蓮司/桃井かおり/加納典明/岩淵達治/内田ゆき/正城睦子/緑魔子/カルメン・マキ/蟹江敬三/豊田紀雄/井上博一/吉田潔/竹之内文芸坐休館.jpg池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg弾/秋浜悟史/井田邦明/キムカンザ/佐藤重臣/大森直人/蜷川幸雄/佐々倉英雄●公開:1971/11●配給:ATG●最初に観た場所:池袋文芸地下 (79-11-25)(評価:★★★★)●併映:「エロスは甘き香り」(藤田敏八)
池袋・文芸地下 1997(平成9)年3月6日閉館。
 
『赫い髪の女』.bmp「赫い髪の女」●制作年:1979年●監督:神代辰巳●製作:三浦朗●脚本:荒井晴彦●撮影:前田米造●音楽:憂歌団●原作/中上健次「赫髪」●時間:75分●出演:宮下順子/石橋蓮司/亜湖/阿藤海/三谷昇/山口美也子/絵沢萠子/山谷初男/石堂洋子/高橋明/庄司三郎/佐藤了一●公開:1979/02●配給並木座.jpg並木座閉館.jpg:にっかつ●最初に観た場所:銀座並木座 (79-06-03)(評価:★★★★)●併映:「女教師」(田中登)
銀座並木座  1953年オープン。1998(平成10)年9月22日閉館。

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森田作品は出来にムラあり(?)。80年代前半の松田優作と秋吉久美子がいい。

家族ゲーム(ポスター).jpg 家族ゲーム.jpg   森田 芳光 「それから」.jpg  の・ようなもの.jpg   ウィークエンド・シャッフル.png
「家族ゲーム」チラシ/「家族ゲーム [DVD]」「それから [DVD]」 「の・ようなもの [DVD]」「映画パンフレット 「ウィークエンド・シャッフル」監督 中村幻児 出演 秋吉久美子/泉しげる/風間舞子/池波志乃/秋川リサ/渡辺えり子

家族ゲーム1.jpg「家族ゲーム」2.jpg「家族ゲーム」1.jpg 森田芳光監督・脚本の「家族ゲーム」('83年/ATG)は、家族が食卓に横一列に並んで食事するシーンなど凝ったカットの多い作品でしたが、個人的には、川沿いの団地へ松田優作が演じる家庭教師が小舟に乗って赴く冒頭シーンと、教え子が無事に志望校に合格した後の家族全員の食事の席で、その家庭教師が食卓をぐちゃぐちゃにしてしまうラストが印象的でした。

 冒頭シーンはアクション映画のパロディ(?)。ラストはかなりKazoku gêmu (1983) .jpg唐突な気もしましたが、おそらく家族が一緒に後かたずけをすることを余儀なくされ、その結果初めて家族が一体となる―という、ある意味、カタストロフィではなくハッピーエンドと見るべきなのかもしれません。全体を通して、松田優作のぼそぼそっと小声で早口で話す演技は、映画の家庭教師の特異なキャラクターとよくマッチしていたように思います(第57回キネマ旬報ベ「家族ゲーム」12.jpgスト・テン第1位作品)。
Kazoku gêmu (1983)

「家族ゲーム」●制作年:1983年●監督・脚本:森田芳光●製作:佐々木志郎/岡田裕/佐々木史朗●撮影:前田米造●原作:本間洋平「家族ゲーム」●時間:106分●出演:松田優作/伊丹十三/由紀さおり/宮川一朗太/辻田順一/松金よね子/岡本かおり/鶴田忍/戸川純/白川和子/佐々木志郎/伊藤克信/加藤善博/土井浩一郎/植村拓也/前川麻子/渡辺知美/松野真由子/中森いづみ/佐藤真弓/小川隆宏●公吉祥寺パーキングプラザ.jpgテアトル吉祥寺.jpg吉祥寺ピカデリー.jpg開:1983/06●配給:ATG●最初に観た場所:テアトル吉祥寺 (84-02-11)(評価:★★★☆)●併映:「転校生」(大林宣彦)
テアトル吉祥寺 (1999年〜吉祥寺ピカデリー) 1979年、吉祥寺パーキングプラザ(右写真・現)地下1階にオープン。2000(平成12)年5月22日閉館

探偵物語 松田優作.jpg 松田優作(1949‐1989/享年40)は、ハードボイルド作家・翻訳家の小鷹信光(1936-2015)の原案によるNTV系ドラマ「探偵物語」(左)や、赤川次郎が薬師丸ひろ子のために書き下ろした小説が原作である根岸吉太郎監督の映画「探偵物語」('83年/探偵物語 パンフレット.jpg探偵物語.jpg角川春樹事務所)(左)で見せたような、コミカルな面のある軽めのキャラクターがハマっていたように思い、また彼自身、自然体でそうした役柄を演じているように感じました。

 但し、映画の方のストーリーはイマイチで(TV版「探偵物語」とは全く別物の話。テレビは小鷹信光原案、映画は赤川次郎原作なので違ってWの悲劇.jpg当然だが)、恋愛ドラマ的要素が入る分、薬師丸ひろ子の演技力不足が痛いし(澤井信一郎監督の 「Wの悲劇」('84年/角川春樹事務所)より前の彼女の演技は素人並みか。「セーラー服と機関銃」('82年/角川春樹事務所)では相米慎二監督の魔術的演出に救われていたが)、「探偵物語」では、そんな演技未熟の薬師丸ひろ子を相手に演技している松田優作がやや気の毒に思えました。TV版の方がハードボイルド・ヒーローでありながらずっこけたような面があるという点で、より"優作らしい"演技だったと言えるかも。

Wの悲劇 薬師丸 三田.jpg 薬師丸ひろ子が舞台女優を目指す劇団員を演じた「Wの悲劇」は、夏樹静子の原作は劇中劇として用いられているだけで、ストーリーは別物です("原作者"の夏樹静子氏は、劇場にこの作品を観に行って初めてそのことを知り、唖然としたという)。劇団の演出家蜷川幸雄.jpg役で蜷川幸雄が出演し、実際に劇中劇の演出も担当しています。三田佳子がベテランらしい渋い演技を見せ(日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞)、薬師丸ひろ子もそれに触発されwの悲劇 高木美保.jpg演技開眼したのか、そう悪くない演技でした(高木美保の映画デビュー作でもあり、主人公を陥れようとする敵役だった)。夏樹静子の原作は、その後、テレビドラマとしてそれそれアレンジされながら繰り返し製作されることとなります('83年TBS(秋吉久美子主演)、'86年フジテレビ(高峰三枝子主演)、'01年テレビ東京(名取裕子主演)、'10年TBS(菅野美穂主演)、'12年テレビ朝日(武井咲主演))。

時をかける少女 1983 併映.jpg 因みに、「探偵物語」と「Wの悲劇」の併映作品はそれぞれ「時をかける少女」('83年/角川春樹事務時をかける少女 1983 2.jpg所)、「天国にいちばん近い島」('84年/角川春樹事務所)でした。共に大林宣彦監督、原田知世主演で、「時をかける少女」は原田知世の映画デビュー作でした。配役の時点では原田知世は当時圧倒的人気を誇っていた薬師丸ひろ子のアテ馬的存在でしたが、「時をかける少女」一作で薬師丸ひろ子と共に角川映画の二枚看板の一つになっていきます。「時をかける少女」は筒井康隆の原作の舞台を尾道に移して、大林監督の「尾道三部作」(他の2作は「転校生」「さびしんぼう」)の第2作目という位置づけになっていますが、原田知世の可憐さだけでもっている感じの映画になってしまった印象があり、「尾道三部作」の中では秀作「転校生」に比べるとやや落ちるか。それでも当時ヒットし、角川は'97年に白黒映画で、'02年にアニメでそれぞれリメイク作品を作っています('10年に更に実写版のリメイクが作られ(主演はアニメ版の主人公の声を務めた仲里依紗)、'16年に日本テレビでテレビドラマ化された(主演は黒島結菜)。テレビドラマ化はこれが5回目になる)

天国に一番近い島 2.jpg 「天国にいちばん近い島」は個人的にはイマイチもの足りない映画でしたがこれもヒットし、舞台となったニューカレドニアに初森村桂.jpgめてリゾート・ホテルが建ったとか(バブルの頃で、日本人観光客がわっと押しかけた)。原作者・森村桂(1940-2004)が行った頃はリゾート・ホテルなど無かったようです。舞台は美しいけれど、バブルは崩壊したし、原作者が自殺したということもあって、今となってはちょっと侘しいイメージもつきまとってしまいます(森村桂の自殺の原因はうつ病とされている)。

それから 松田優作/小林薫.jpg 「家族ゲーム」の後、松田優作が森田芳光監督と再び組んだ「それから」('85年/東映)は、評論家の評価は高かったですが、個人的にはミスキャストだったように思え(何だか肩に力入り過ぎ)、松田優作や小林薫のロボットのような独特のエロキューションもちょっと違和感が感じられたし、作品自体も漱石の原作のイメージ(勝手に自分が抱いているイメージだが)とやや食い違ったものになってしまったような気がします。世間の評価が高いのが不思議です。

探偵物語 松田優作2.jpg探偵物語 松田優作 dvd.jpg「探偵物語」(TVドラマ)●演出:村川透/西村潔/澤田幸弘/長谷部安春/加藤彰/小澤啓一/小池要之助●制作:伊藤亮爾/紫垣達郎/山口剛●脚本:丸山昇一/那須真知子/佐治乾/柏原寛司/宮田雪●音楽:鈴木清司●原案:小鷹信光●出演:松田優作/成田三樹夫/山西道広/竹田かほり/ナンシー・チェニー/平田弘美/橘雪子/重松収/倍賞美津子/佐藤蛾次郎/中島ゆたか/片桐竜次/草薙幸二郎/清水宏/広京子/川村京子/三原玲奈/真辺了子/戸浦六宏●放映:1979/09~1980/04(全27回)●放送局:日本テレビ
左から竹田かほり、倍賞美津子、松田優作、ナンシー・チェニー

甦れ!東急名画座3.jpg甦れ!東急名画座1.jpg東急文化会館.jpg 「探偵物語」●制作年:1983年●監督:根岸吉太郎●製作:角川春樹●脚本:鎌田敏夫●撮影:仙元誠三●音楽:加藤和彦●原作:赤川次郎●時間:106分●出演:薬東急名画座 1.jpg師丸ひろ子/松田優/秋川リサ/岸田今日子/北詰友樹/坂上味和/藤田進/中村晃子/鹿内孝/荒井注/蟹江敬三/財津一郎●公開:1983/07●配給:角川春樹事務所●最初に観た場所:東急名画座 (83-07-17)(評価:★★☆)●併映:「時をかける少女」(大林宣彦) 東急名画座 (東急文化会館6F、1986年〜渋谷東急2) 2003(平成15)年6月30日閉館

高木美保 Wの悲劇.jpgWの悲劇 [DVD].jpg「Wの悲劇」●制作年:1984年●監督:澤井信一郎●製作:角川春樹●脚本:荒井晴彦/澤井信一郎●撮影:仙元誠三●音楽:久石譲 ●原作:夏樹静子●時間:108分●出演:薬師丸ひろ子/三田佳子/世良公則/三田新宿 武蔵野館(1936年).jpg新宿武蔵野館.jpg村邦彦/仲谷昇/高木美保/蜷川幸雄/清水浩治/内田稔/草薙二郎/南美江/絵沢萠子/藤原釜足/香野百合子/志方亜紀子/幸日野道夫/西田健/堀越大史/渕野俊太/渡瀬ゆき●公開:1984/12●配給:東映/角川春樹事務所●最初に観た場所:新宿武蔵野館 (85-01-15)(評価:★★★★)●併映:「天国にいちばん近い島」(大林宣彦) 旧・新宿武蔵野館 (1920年武蔵野館オープン、1928年に現在の「新宿武蔵野館」の地に新築移転(左写真:新宿 武蔵野館(1936年))。1968年、武蔵野ビルを改装し、7階に「新宿武蔵野館」として再オープン。2002年〜新宿武蔵野館1(旧)) 。2003(平成15)年9月30日閉館。それに伴い3階の「新宿武蔵野館2・3・4」を「新宿武蔵野館1・2・3」に改称し3館体制となる。

時をかける少女 dvd.jpg時をかける少女 1983 3.jpg「時をかける少女」●制作年:1983年●監督:大林宣彦●製作:角川春樹●脚本:剣持亘●撮影:前田米造●音楽:松任谷正隆(主題歌作詞・作曲:松任谷由実)●原作:筒井康隆●時間:104分●出演:原田知世/高柳良一/尾美としのり/津田ゆかり/岸部一徳/根岸季衣/内藤誠/入江若葉/高林陽一/上原謙/入江たか子●公開:1983/07●配給:東映●最初に観た場所:東急名画座 (83-07-17)(評価:★★★)●併映:「探偵物語」(根岸吉太郎)
時をかける少女 [DVD]
天国に一番近い島 lp.jpg天国に一番近い島 dvd.jpg「天国にいちばん近い島」●制作年:1984年●監督:大林宣彦●製作:角川春樹●脚本:剣持亘●撮影:阪本善尚●音楽:朝川朋之●原作:森村桂●時間:102分●出演:原田知世/高柳良一/朝川朋之/赤座美代子/泉谷しげる/高橋幸宏/小林稔侍/小河麻衣子/入江若葉/室田日出男/松尾嘉代/乙羽信子●公開:1984/12●配給:東映●最初に観た場所:新宿武蔵野館 (85-01-15)(評価:★★☆)●併映:「Wの悲劇」(澤井信一郎) 「天国にいちばん近い島 デジタル・リマスター版 [DVD]

藤谷美和子 それから.jpgそれから.jpg「それから」●制作年:1985年●監督:森田芳光●製作:黒沢満/藤峰貞利樹●脚本:筒井ともみ●撮影:前田米造●音楽:梅林茂●原作:夏目漱石●時間:130分●出演:松田優作/藤谷美和子/小林薫/笠智衆/中村嘉葎雄/草笛光子/風間杜夫/美保純/イッセー尾形/森尾由美/羽賀研二/川上麻衣子/遠藤京子/泉じゅん/一の宮あつ子/小林勝彦/佐原健二/加藤和夫/水島弘/小林トシエ/佐藤恒治/伊藤洋三郎●公開:1985/07●配給:東映●最初に観た場所:新宿ミラノ座 (85-11-17)(評価:★★☆)

「の・ようなもの」(1981 ヘラルド).jpgの・ようなもの1.jpg 森田芳光監督には、「の・ようなもの」('81年/N.E.W.S.コーポレーション)というある若手の落語家の日常と恋を描いた劇場用映画デビュー作があり、映画のつくりそのものはやや荒削りな面もありましたが、落語家の世界の描写に関しては丹念な取材の跡がみてとれ(森田監督は日大落研出身)、落語家志望の青年に扮する伊藤克信のとぼけた個性もいいし、彼が通うソープ嬢エリザベス役の秋吉久美子も"軽め"のしっとりした演技で好演しています。

の・ようなもの3.gifの・ようなもの2.jpg 「の・ようなもの」●制作年:1981年●監督・脚本:森田芳光●製作:鈴木光●撮影:渡部眞●音楽:塩村宰●原作:本間洋平●時間:103分●出演:秋吉久美子/伊藤克信/尾藤イサオ/でんでん/小林まさひろ/大野貴保/麻生えりか/五十嵐知子/風間かおる/直井理奈/入船亭扇橋/内海好江/鷲尾真知子/吉沢由起/小宮久美子/三遊亭楽太郎/芹沢博文/加藤治子/春風亭柳朝/黒木まや●公開:1981/09●配給:N.E.W.S.コーポレーション=日本へラルド映画●最初に観た場所:大井武蔵野館 (83-03-13)(評価:★★★☆)●併映:「転校生」(大林宣彦)/「ウィークエンド・シャッフル」(中村幻児)大井武蔵野館 閉館日2.jpg「大井武蔵野館」ぼうすの小部屋 - おでかけ写真展より
大井武蔵野館2.jpg大井武蔵野館.jpg大井武蔵野館 1999(平成11)年1月31日閉館。

 
 
 

愛と平成の色男/.jpg愛と平成の色男.png 愛と平成の色男/バカヤロー2.jpg「愛と平成の色男/バカヤロー!2 幸せになりたい。」
財前直見 写真集「とってもいいよ!」.jpg武田久美子 1989 .bmp 結局、森田芳光という監督の演出力はよくわかりません。監督の力量なのか役者のお陰なのか...。「愛と平成の色男」('89年/松竹)などは、ストーリーもどうしょうもないし(石田純一にぴったりとも言えるが)、役者もみんな下手くそなのに、結果として、当時はグラビアアイドルで、役者としては殆ど新人に近かった鈴木保奈美、財前直美、鈴木京香、武田久美子の4人を女優としていっぺんに発掘したことになっているし...鈴木京香などはこの映画の出演を機にNHKの朝の連ドラに抜擢されています。
とってもいいよ!―財前直見写真集』(1988/11)/『マイディア ステファニー―武田久美子写真集』(1989/09)
鈴木京香2.jpg 鈴木保奈美はカネボウのCMモデル、財前直美は東亜国内航空の沖縄キャンペーンガール、鈴木京香はカネボウの水着キャンペーンガール出身。少女モデルから歌手になった武田久美子は、「東大生が選んだアイドル」として一時人気を博したもののやがてマイナーに。それが、昭和が終わったこの年に刊行された"貝殻ビキニ"の写真集が売れに売れて人気復活。この頃は、CMもグラビアも撮影と言えば3泊4日でハワイ―バブル期でした。武田久美子だけ今もって肉体派路線を継続中?
鈴木京香
鈴木保奈美/財前直見/武田久美子/鈴木京香
鈴木保奈美.jpg財前直美.jpg武田久美子.jpg鈴木京香.jpg「愛と平成の色男」●制作年:1989年●監督・脚本:森田芳光●製作:鈴木光●撮影:仙元誠三●音楽:野力奏一●時間:96分●出演:石田純一/鈴木保奈美/財前直見/武田久美子/鈴木京香/久保京子/桂三木助/佐藤恒治●公開:1989/07●配給:松竹●最初に観た場所:渋谷松竹(89-07-15)(評価:★☆)●併映:「バカヤロー!2」(本田昌広/鈴木元/岩松了/成田裕介、製作総指揮・脚本:森田芳光)
渋谷松竹1.jpg渋谷松竹sibuyatoei1.jpg渋谷東映・松竹・全線座shibuya.jpg渋谷松竹 1938年、前身の松竹系「東京映画劇場」オープン。1990(平成2)年9月16日、隣接の「渋谷東映」と共に開館 (1985年道玄坂「ザ・プライム」6Fにオープンしていた渋谷松竹セントラル(2003年~「渋谷ピカデリー」)が後継館となる(2009(平成21)年1月30日「渋谷ピカデリー」閉館))(⑦渋谷東映/⑨渋谷松竹/⑬全線座(1977年閉館))

 因みに、「愛と平成の色男」と併映の「バカヤロー!2 幸せになりたい。」('89年/松竹)は、森田監督の製作総指揮・脚本による4人の若手監督によるオムニバスで、岩松了監督(第3話)のチェッカーズの藤井郁弥が、山のようなレコードを抱え、CD全盛の世に取り残された男に扮する「新しさについていけない」と、成田裕介バカヤロー2 幸せになりたい 新しさについていけない.jpgバカヤロー2 幸せになりたい 女だけがトシとるなんて.jpg監督(第4話)の山田邦子が再就職に苦戦するハイミスに扮した「女だけがトシとるなんて」が良かったように思います。あとの2話は、本田昌広監督(第1話)の小バカヤロー2 幸せになりたい 小林.jpg林稔侍が家族のためにとったニューカレドニア旅行のチケットを会社から顧客に回すように言われた旅行代店社員を演じた「パパの立場もわかれ」と、堤真一が深夜のコンビニでバイトしてお客の扱いで頭を悩ますうちに妄想ノイローゼになっていく男を演じた鈴木元監督(第二話)の「こわいお客様がイヤだ」(堤真一にとっては初主演映画。他に爆笑問題の太田光・田中裕二が映画初出演、太田光は後に「バカヤロー!4」('91年)の第1話を監督している)でした。

バカヤロー2 幸せになりたい こわいお客様がイヤだ.jpg「バカヤロー!2 幸せになりたい。」●制作年:1989年●製作総指揮・脚本:森田芳光●監督:本田昌広(第1話「パパの立場もわかれ」)/鈴木元(第2話「こわいお客様がイヤだ」)/岩松了(第3話「新しさについていけない」)/成田裕介(第4話「女だけがトシとるなんて」)●製作:鈴木光●撮影:栢原直樹/浜田毅●音楽:土方隆行●時間:98分●出演:(第1話)小林稔侍/風吹ジュン/高橋祐子/橋爪功/(第2話堤真一/金子美香/イッセー尾形/太田光/田中裕二/金田明夫/(第3話)藤井郁弥/荻野目慶子/尾美としのり/柄本明/佐藤恒治/竹中直人/(第4話)山田邦子/香坂みゆき/辻村真人/水野久美/加藤善博/桜金造●公開:1989/07●配給:松竹●最初に観た場所:渋谷松竹(89-07-15)(評価:★★★)●併映:「愛と平成の色男」(森田芳光)

ウィークエンド・シャッフル 秋吉久美子 泉谷しげる.jpg「ウィークエンド・シャッフル」('82年/幻児プロ=らんだむはうす)

ウィークエンド・シャッフル 秋吉久美子.jpg 秋吉久美子は柳町光男監督の「さらば愛しき大地」('82年/プロダクション群狼)のような重い作品でその演技力を見せつける一方、ピンク映画出身の中村幻児監督の「ウィークエンド・シャッフル」('82年/幻児プロ=らんだむはうす)では、「の・ようなもの」以上に軽いノリで演じています。ウィークエンド・シャッフル(1982) ぴあ.gif強盗(泉谷しげる)が主婦らに児童誘拐犯と間違えられ、さらに主婦(秋吉久美子)の偽夫の役回りを演じさウィークエンド・シャッフル スチール.jpgせられるというハチャメチャなストーリーの原作は筒井康隆で、秋吉久美子、池波志乃、秋川リサら女優陣が惜しげもなく脱いでいますが、スラップスティク・コメディ調であるためにベタベタした現実感がなく、さらっと乾いた感じの作品に仕上がっています。秋吉久美子って「70年代」というイメージのある女優ですが、80年代の作品を観ても、演技の幅が広かったなあと、改めて思わされます。

「ウィークエンド・シャッフル」スチール(秋吉久美子/泉谷しげる)
               
(池波志乃/秋川リサ/渡辺えり子/泉谷しげる)
「ウィークエンド・シャッフル」スチール.jpgウィークエンド・シャッフル ビデオカバー.jpg「ウィークエンド・シャッフル」●制作年:1982年●監督:中村幻児●製作:渡辺正憲●脚本:中村幻児/吉本昌弘●撮影:鈴木史郎●音楽:山下洋輔●主題歌:ジューシィ・フルーツ●原作:筒井康隆「ウィークエンド・シャッフル」●時間:104分●出演:秋吉久美子/伊大井武蔵野館 閉館日.jpg大井武蔵野館.jpg武雅刀/泉谷しげる/池波志乃/渡辺えり子/秋川リサ/新井康弘/村上不二夫/尾口康生/永井英里/野上正義/芦川誠/春風亭小朝/美保純●公開:1982/10●配給:幻児プロ=らんだむはうす●最初に観た場所:大井武蔵野館 (83-03-13)(評価:★★★)●併映:「転校生」(大林宣彦)/「の・ようなもの」(森田芳光) 大井武蔵野館 閉館日(1999(平成11)年1月31日)
 
さらば愛しき大地3.jpgさらば愛しき大地 poster.jpg「さらば愛しき大地」●制作年:1982年●監督:柳町光男●製作:柳町光男/池田哲也/池田道彦●脚本:柳町光男/中上健次●撮影:田村正毅●音楽:横田年昭●時間:120分●出演:根津甚八/秋吉久美子/矢吹二朗/山口美也子/蟹江敬三/松山政路/奥村公延/草薙幸二郎/小林稔侍/中島葵/白川和子/佐々木すみ江/岡本麗/志方亜紀子/日高澄子●公開:1982/04●配給:プロダクション群狼●最初に観た場所:シネマスクウェアシネマスクエアとうきゆう.jpgシネマスクウエアとうきゅう 内部.jpg東急(82-07-10)(評価:★★★★)
シネマスクエアとうきゅう 1981年12月、歌舞伎町「東急ミラノビル」3Fにオープン。2014年12月31日閉館。


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絵だけで言えば大人向けと言えるかも。鬼が島から宝物の代わりに姫を連れて帰った桃太郎。

ももたろう.jpg 『ももたろう (日本傑作絵本シリーズ)桃太郎・海の神兵.gif桃太郎・海の神兵 [VHS]

ももたろう 赤羽.jpgももたろう 赤羽末吉.jpg 1965(昭和40)年に刊行された子供向け絵本(読み聞かせなら5歳から、自分で読むなら小学校中級向き)ですが、赤羽末吉(1910-1990)の絵に水墨画のような味わいがあります。

 これと比べると、"100円ショップ"などで売っている絵本はもとより、他の「桃太郎絵本」が霞んでしまうかも。むしろ、絵だけで言えば、大人向けと言えるかも知れません。

 ところで、桃太郎伝説に出てくる鬼が島というのは、室町か江戸の時代に日本近海の島に外国人が漂着したのが起源だと思っていましたが、古代の大和政権が吉備国に攻め込んだ時に活躍した人物をモデルにしたものであるとの説が有力らしく、ルーツを辿ると結構ヤマトタケル並みに古い話のようです。

桃太郎 海の神兵    .jpg桃太郎 海の神兵.jpg 太平洋戦争中は、軍神的キャラクターとして「桃太郎 海の神兵(しんぺい)」('45年公開、74分)などの国策アニメ映画の主人公になっていますが、「桃太郎 海の神兵」はその内容はともかく、長さで1時間を超える日本初の長編アニメーション映画にしてそのアニメ技術はなかなかのもので、今手塚治虫2.jpg見ると北朝鮮のアニメみたいですが、手塚治虫が公開初日にこの映画を見て、そのレベルの高さに感動し、アニメーションの楽しさに目覚めたのだそうです。
  
桃太郎の海鷲.jpg桃太郎の海鷲2.jpg 30分以上1時間未満を"中編"ではなく"長編"とするならば、「桃太郎 海の神兵」に先立つものとして、同じ瀬尾光世監督による「桃太郎の海鷲」('43年公開、37分)があり、これが日本初の長編アニメーション映画ということになるのかも。こちらも技術水準はなかなかのものですが、100人以上のスタッフが関わった「海の神兵」に対し、「海鷲」の方は僅か4名のスタッフだったというから驚きです。内容的には、日本海軍による真珠湾攻撃をモデルにしており、桃太郎を隊長とする機動部隊が鬼が島へ「鬼退治(空襲)」を敢行し、多大な戦果を挙げるというものです(真珠湾攻撃のメタファーになっている)。アメリカ漫画が締め出された頃であったにも関わらず、たまmomotaro_bluto.jpgたま敵兵の中に大男ブルートにそっくりの顔が出てくるため、宣伝ビラで間違ってミッキーマウスやポパイなどが出てきて桃太郎と戦うというのがあったらしく、それを期待して観に行った人もいて「なんだ、ちっとも出てこないじゃないか」とがっかりしたという話もあったそうです(「マンガ映画メイドイン・ジャパン」―『フィルムは生きている―手塚治虫選集5』1959)。この時から既に桃太郎は「軍神」扱いだったのだなあと思わされますが、これらの作品は日本ではなくアメリカでDVD化され市販されています。

 しかし、桃太郎を「軍神」扱いするというのは、明治時代にすでに福沢諭吉などが、桃太郎が鬼が島から宝を獲って帰ったのは「略奪行為」にほかならないと言っていたことを思うと、当時としてもやはりアナクロではないでしょうか(戦争は時代を逆行させるのだろなあ)。

 桃太郎伝説については各地に様々なバリエーションがあるようで、実は桃太郎は家の事を手伝わない怠け者だったのが、家が鬼に襲われて鬼退治に目覚めたとか。芥川龍之介によるパロディなどは、ちょうどこの怠け者説と福沢諭吉の考えをミックスしたようなものになっています。

松居直.jpg 本書の松居直(まつい・ただし、1926- )氏の文による桃太郎は、最後に鬼が島から宝物を持ち帰らない代わりに鬼たちに囚われていたお姫様を連れて帰って、桃太郎は姫と結婚する!(「一寸法師」みたいだなあ)

 松居氏は児童文学者であるとともに、福音館書店の社長も長く務め、多くの絵本作家や挿画家を発掘した人ですが(無名だったいわさきちひろ・初山滋・田島征三・安野光雅・堀内誠一・長新太などを発掘)、最後の部分は松居氏のオリジナルなのでしょうか、それとも実際、そうしたバリエーションも伝承としてあるのでしょうか。

 版元による内容紹介には、「桃太郎の原型、あるべき姿を追求して作りあげた"桃太郎絵本の決定版"」とありますが、鬼が島から宝物を持ち帰る話を「嫁取り話」に仕立てたのは、やはり作者のオリジナルなのでしょう。伝承に忠実というより、軍神のイメージを払拭するという意味での「桃太郎の原型、あるべき姿」であったように思います(福沢諭吉らの「宝の持ち帰りは略奪行為」説にも符合する)。

 因みに、「桃太郎 海の神兵」を撮った瀬尾光世監督の方は、「桃太郎 海の神兵」で「燃え尽きた」と言われ、1949年の「王様のしっぽ」を最後にアニメ界を去り、それ以後は「瀬尾光男」や「せお・たろう」のペンネームで絵本作家へ転向しています。

桃太郎 海の神兵 vhsカバー.jpg「桃太郎 海の神兵」●制作年:1945年●監督・脚本・撮影:瀬尾光世●製作:松竹動画研究所●後援:海軍省●動画:桑田良太郎/高木一郎/小幡俊治/木村一郎●影絵:政岡憲三●音楽:古関裕而●作詞:サトウハチロー●時間:74分●公開:1945/04●配給:松竹映画(評価:★★★)

桃太郎の海鷲桃.jpg「桃太郎の海鷲」●制作年:1942年●監督・撮影:瀬尾光世●製作:芸術映画社、大村英之助●脚本:栗原有茂●後援:海軍省●技術・構成:持永只仁/田辺利彦/橋本珠子/塚本静世●音楽:伊藤昇●時間:37分●公開:1943/03●配給:映画配給社(評価:★★★)

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「参審制」裁判員制度で大丈夫か。考えさせられる「12人の優しい日本人」。

「12人の優しい日本人」2.png 12人の優しい日本人.jpg 12人の優しい日本人 3.jpg  12人の浮かれる男 筒井康隆劇場.jpg
12人の優しい日本人 [DVD]」/「12人の優しい日本人」豊川悦司/『12人の浮かれる男―筒井康隆劇場(1979年)

 「12人の優しい日本人」は、筒井康隆の『12人の浮かれる男』を原作とする劇団東京サンシャインボーイズの舞台戯曲の映画化作品で、もしも日本に陪審員制が導入されたら...という前提でのコメディです。 ストーリーはちょうど、シドニー・ルメット監督の「十二人の怒れる男」('57年/米)を裏返しにしたようなもので、尚且つ一ひねり入れています。

12 ANGRY MEN.jpg 「十二人の怒れる男」は、ナイフで実父を殺害した容疑がかかる少年の裁判における12人の陪審員の討議において、唯一人、少年の犯行だという意見に疑問を感じた陪審員(ヘンリー・フォンダ)が、残り11人の有罪説の根拠の脆弱を順番に暴いていくものです。圧倒的に被告に不利だった数々の証拠が全て崩され、結局、全員一致で「無罪」の評決が下されるまでの展開は息をもつかせぬものですが、この作品のテーマは、「議論による民主主義の勝利」と言うよりも、その議論の中核を成す「事実に基づく強固な論理」そのものにあるとも言え、推理劇としての楽しさを満喫できるものでした(企業の社員研修などで使われることもあるようだ。ロジカル・シンキングの強化が狙い?)。

 原作者のレジナルド・ローズは、実際に殺人事件の陪審員を務めたことがこの話を書くきっかけになったとのことで、舞台劇の脚本のイメージがありますが、元々のオリジナルはテレビドラマ用に書かれたものでした(当時は生放送で連続ドラマをやっていた。演出はCBS社員だったフランクリン・J・シャフナー(後の「パピヨン」('73年/米)の監督))。

12人の優しい日本人(映画).jpg  「12人の優しい日本人」は、12人の陪審員のうち11人までが被告を無罪だと考えていたところ...という「十二人の怒れる男」とは逆の状況から始まり、その後の展開も含め明らかに「十二人の怒れる男」のパロディなのですが、一人の若い男の陪審(相島一之)が有罪を主張して周囲を一人ずつ論理的に説得し、ほぼ有罪で固まりかけたところへ、それまで黙っていた男の陪審員(豊川悦司)が口を開き始めて、但し、自分が主張するだけでなく、他の陪審員に自らの考三谷幸喜s.jpgえも言わせつつ、再び一人ずつ無罪支持に導いて最初の状況に戻してしまう、という―三谷幸喜の凝った脚本もいいし(東京サンシャインボーイズは'83年、三谷が大学3年の時に結成)、役者も全員が一定の水準以上にあって下手な人がおらず、自然に笑えると言うか、むしろテンポのいい緊張感を持って最後まで観続けることができます。

「12人の優しい日本人」3.jpg どちらかと言えば良識派だが、ちょっと偏屈なところもある歯科医(村松克己、当初「銀行員」と称していた)、うず潮1.jpg「難しいことは私には分かりません」と繰り返すばかりの主婦(林美智子、NHKの朝の連ドラ「うず潮」('64年度、原作は林芙美子)の主人公・林フミ子役だった。平均視聴率30.2%、最高視聴率47.8%。林美智子は'65年の「NHK紅白歌合戦」の紅組司会にも抜擢された)、論理的には有罪の証拠をも提示しながら、自らの心証としての無罪を主張し続ける初老の男性(二瓶鮫一、これこそ「優しい日本人」!)、徹底したメモ魔で、裁判でのやり取りの事実だけを並べているが、自分個人の意見は全くないというキャリアウーマン(中村まり子、中村伸郎の娘)、とにかく早く終わらせて帰ることしか考えていないセールスマン(大河内浩)、べらんめえ口調で気性が激しく途中でひねくれてしまう独身男(梶原善)..etc.多種多様な12人ですが、やはり豊川悦司の「実は○○○のふりをしていた△△」は良かったです。

リー・J・コッブ.jpg28歳の会社員の2号(相島一之).jpg ネタばれになりますが、ヘンリー・フォンダに相当する役は相島一之ではなく、実は豊川悦司の役であり、一見ヘンリー・フォンダに相当する役み見えた相島一之は実はリー・J・コッブに相当する役だったんだなあと。このあたりのネジレさせ方もパロディとして上手いと思いました。

「12人の優しい日本人」.jpg 豊川悦司はこの作品が本格的映画デビューでしたが(内容的には殆ど舞台劇だが)、元々はシェイクスピア劇で知られる演劇集団「円」出身で、演技の基礎はしっかりしているし、この作品の役はハマリ役12人の優しい日本人 江口洋介版_.jpgだったと思います(最近の舞台では、江口洋介がこの役をやっていて、江口洋介にとっての舞台デビュー作となっている)。

江口洋介版

 「陪審制」は市民だけで有罪・無罪を決める裁判方式で、それに対し裁判官と市民が合議して判決を導き出すのが「参審制」。この映画で描かれているのは市民のみの討議だから「陪審制」で(但し、米国等の陪審制は有罪・無罪を決めるもので、量刑判断はしない)、日本でも昭和3年から昭和18年まで「陪審制」がありました(因みに、司法制度改革で今回導入される裁判員制度は「参審制」である)。

「十二人の怒れる男」.jpg 「十二人の怒れる男」に対しては、日本に陪審制がないのは、体制側がこういう結果を恐れているからだ、という説もあるようです(ヘンリー・フォンダに対してではなく、残り11人の陪審員について言っているのだろうが、逆説的にはヘンリー・フォンダも含めた"場"または"座"として言えるかも)。日本人は会議などで権威者や専門家の意見に靡(なび)きやすいと言われますが、そうした専門家または専門家っぽい人に対して過剰な敬意を抱いてしまいやすい傾向にあるらしいです。

12人の優しい日本人5.jpg  「12人の優しい日本人」は「十二人の怒れる男」と同様「陪審制」における話ですが、専門家(裁判官)が討議に加わる「参審制」の裁判員制度であればなおのこと、この映画のままとは言わないまでも類似のことが(つまり裁判官の意見に市民がどんどん引っ張られるようなことが)ありうるのではと、この映画の豊川悦司の役にすっかりダマされた自分をふりかえって思うのです。

12人の優しい日本人5.jpg「12人の優しい日本人」●制作年:1991年●製作:ニュー・センチュリー・プロデューサーズ●監督:中原俊●脚本:三谷幸喜●原作:筒井康隆「12人の浮かれる男」●時間:116分●出演:塩見三省/相島一之/上田耕一/二瓶鮫一/中村まり子/大河内浩/梶原善/山下容莉枝/村松克己/林美智子/豊川悦司/加藤善博●劇場公開:1991/12●配給:アルゴプロジェクト (評価★★★★)

尾道みなと祭.jpgうず潮(1964).jpgうずしお タイトル.jpg「うず潮」●演出:関口象一郎●脚本:田中澄江●音楽:田中正史●原作:林芙美子●出演:林美智子/日高澄子/永野達雄/大塚国夫/雪代敬子/津川雅彦/桜田千枝子/池田和歌子/茅島うずしお 林・津川1.jpg成美/渡辺文雄/紅新子/永野達雄●放映:1964/04~1965/04(全310回)●放送局:NHK
「うずしお」 林美智子/津川雅彦

1969(昭和44)年・尾道みなと祭 /「うず潮」主演の林美智子(中央パレード・カー)[山陽日日新聞]

                                          
十二人の怒れる男3.jpg「十二人の怒れる男」●原題:12 ANGRE MEN●制作年:1957年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:レジナルド・ローズ/ヘンリー・12 Angry Men(1957).jpgフォンダ●脚本:レジナルド・ローズ●撮影:ボリス・カウフマン●音楽:ケニヨン・ホプキンス●原作:レジナルド・ローズ(TVドラマ)●時間:96分●出演:ヘンリー・フォンダ/リー・J・コッブ/エド・ベグリー/ E・G・マーシャル/ジャック・ウォーデン/マーティン・バルサム/ジョン・フィードラー/ジャック・クラグマン/エドワード・ビンズ●日本公開:1959/08●配給:ユナイテッド・アーティスツ (評価★★★★)
12 Angry Men(1957)

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「純愛」というより「偏愛」。直木賞作品としては軽すぎる。

容疑者χの献身.jpg容疑者Xの献身.jpg     容疑者Xの献身 dvd.jpg 容疑者Xの献身 映画.jpg
容疑者Xの献身』['05年/文藝春秋] 「容疑者Xの献身 スタンダード・エディション [DVD]」福山雅治/柴咲コウ

 2005(平成17)年下半期・第134回「直木賞」受賞作。2005 (平成17) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2006 (平成18) 年「このミステリーがすごい」(国内編)第1位。2006(平成18)年版「本格ミステリベストテン」第1位。2006(平成18)年・第6回「本格ミステリ大賞」(小説部門)も受賞。

 以前に水商売をしていて今は弁当屋に勤める子持ち女性・靖子は、自分につきまとう前夫・富樫が自分のアパートに押しかけてきたために思わず絞殺してしまうが、現場に駆けつけたアパートの隣に住む「石神」という高校の数学教師は、「私の論理的思考に任せてください」と言って事件の事後処理を請け負う―。

NUMBERS 天才数学者の事件ファイル.jpg 作者の「物理学者湯川シリーズ」の第3弾で、TVドラマ化されている「ガリレオ」('07年放映開始)を見て海外ドラマ「NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」('05年米国放映開始)を想起しましたが、実は、オリジナルである「物理学者湯川シリーズ」の第1弾『探偵ガリレオ』('98年/文藝春秋)の刊行は「NUMBERS」の放映より7年も早い。
 「NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」(FOX)

 今回の第3弾では、この「石神」という数学教師が湯川学の大学時代の同窓で、実は天才的な数学者であり、物理学者・湯川学と"論理対決"をすることになるという構図で、敢えて天才数学者を敵役にしたのは、数学者が探偵役である「NUMBERS」を意識したということでもないでしょうけれど。

 さらっと読めて、トリックも奇想天外で、シリーズものの1編としてはまあまあの出来の小品だと思いましたが、これが直木賞作品だと思うと、同じ作者の『秘密』('98年)や『白夜行』('99年)に比べてどう見てもインパクト不足で、ついついケチをつけたくなってしまう...。

 天才と呼ばれる数学者の考えたトリックというのが、こんな危なっかしくて非効率なものなのかとか、警視庁の科学捜査というのはずいぶん手抜きだなあとか、プロットに対する不満もいろいろありますが、個人的には「石神」という人物にあまり共感できないし、それ以前に、その人物像にリアリティが感じられないのが一番の不満な点でした。

 帯に「純愛」とありますが、むしろ「偏愛」と言った方がよく、その心理構造がよく見えない分、作品として軽いものになってしまっている気がしました。

 これが直木賞か...。シリーズものの1品としては、可もなく不可もないといったところですが。
 
容疑者x スチール.jpg 「県庁の星」('06年/東宝)の西谷弘監督によって映画化されましたが、探偵役の物理学者・湯川(福山雅治)の主たる相方が、同窓の草薙刑事ではなく、柴咲コウ演じる部下の女性刑事になっていて、「県庁の星」で西谷監督と相性が良かったのかなと思ったら、テレビドラマ「ガリレオ」からこのパターンになっていたようです(テレビ版を見ていないので知らなかった)。

 原作にない雪山登山シーンとかあって面喰いましたが、数学教師「石上」役の堤真一(本来は二枚目であってはならないのだが)と「靖子」役の松雪泰子は、どちらもベテランらしい手堅い演技で(松雪泰子は好演と言っていいかも)、その分、映画化作品にありがちなことですが、ミステリよりも人情ものの要素が強くなっているように思いました。

容疑者Xの献身 2008フジテレビジョン.jpgYôgisha X no kenshin (2008).jpg 前日ベンチに座っていたはずの浮浪者が翌日消えているのが、同じカメラワークを反復させることで分かり易くなっていますが、浮浪者に対する「石上」の排他的・優越的な考え方(愛する人のためなら浮浪者1人の命なんぞ...という)などは映画では説明されておらず、そのあたり、一体、親切なのか不親切なのか...。

Yôgisha X no kenshin (2008)

「容疑者Xの献身」●制作年:2008年●監督:西谷弘●製作:亀山千広●脚本:福田靖●撮影:山本英夫●音楽:福山雅治/菅野祐悟●原作:東野圭吾「容疑者Xの献身」●時間:1289分●出演:福山雅治/柴咲コウ/堤真一/松雪泰子/北村一輝/ダンカン/長塚圭史/金澤美穂/益岡徹/林泰文/渡辺いっけい/品川祐/真矢みき/リリー・フランキー(友情出演)/八木亜希子/石坂浩二(特別出演)/林剛史/葵/福井博章/高山都/伊藤隆大●公開:2008/10●配給:東宝●最初に観た場所:台シネマメディアージュ.jpgシネマメディアージュ2.jpgシネマメディア-ジュ「容疑者Xの献身」zj.jpeg場・シネマメディアージュ(08-11-01)(評価:★★★) シネマメディアージュ 2000年4月22日アクアシティお台場のメディアージュ1階にオープン。13スクリーン3034席を有するシネマコンプレックス。2017年2月23日閉館

天才数学者の事件ファイル2.jpgNUMBERS 天才数学者の事件ファイル 5 dvd.jpg「NUMBERS~天才数学者の事件ファイル」Numbers (CBS 2005/01~ ) ○日本での放映チャネル:FOX CRIME (2006~)

 【2008年文庫化[文春文庫]】

「●て 寺山 修司」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●と コナン・ドイル」 【1403】 コナン・ドイル 『緋色の研究
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初読は土俗的な暗いイメージ、再読でみずみずしい情感と神話的な虚構性を。

誰か故郷を想はざる―自叙伝らしくなく.jpg誰か故郷を想はざる53.JPG誰か故郷を想はざる.jpg  誰か故郷を想はざる2.jpg
誰か故郷を想はざる―自叙伝らしくなく (角川文庫)』 ('73年初版・改訂版/表紙イラスト:林 静一)/角川文庫 新装版('05年)
自叙伝らしくなく誰か故郷を想はざる (1968年)』('68年/芳賀書店/表紙イラスト:辰巳四郎)

現代の青春論―家族たち・けだものたち.jpgの『家出のすすめ』('72年/角川文庫).jpg 寺山修司(1935‐1983)の『家出のすすめ』('72年/角川文庫)を読んで実際に家出したという人がいたとかいないとか言われていますが、直接の原因とならなくても、20代後半から大学の文化祭などで"家出のすすめ"を説いていた彼の言葉は、当時の多くの若者にとって強いインパクトがあったのではないでしょうか。特に地方の若者にとっては、都会への"脱出"を図る潜在的誘因にはなったりしたのではないかと...(因みに、『家出のすすめ』はその9年前に刊行された『現代の青春論』('63年/三一書房)の改題)。

家出のすすめ―現代青春論 (角川文庫)』('72年/角川文庫)(表紙イラスト:林 静一)/『現代の青春論―家族たち・けだものたち (1963年) (三一新書)
              
書を捨てよ、街に出よう 角川文庫1.jpg書を捨てよ、町へ出よう .jpg 一方、本書『誰か故郷を想はざる―自叙伝らしくなく』は、寺山修司30代前半の自叙伝的エッセイ集で、第1章「誰か故郷を想はざる」と第2章「東京エレジー」から成りますが、初読の際には「誰か故郷を想はざる」の土俗的な暗いイメージに馴染めませんでした。最初に読んだ時は、『書を捨てよ、街に出よう』('67年/芳賀書店)などの方が良かったという印象でした(タイトルからして何か能動的ではないか)。

書を捨てよ,街へ出よう (1967年)』(芳賀書店)(カバー・表紙・目次:横尾忠則9/『書を捨てよ、町へ出よう』('75年/角川文庫)(表紙イラスト:林 静一)
                                      
 「草迷宮」.jpg
『草迷宮』.bmp『迷宮譚』.bmp

img_03_02.jpgimg_03_03.jpg「草迷宮」 「迷宮譚」「マルドロールの歌」「一寸法師を記述する試み」

 しかしその後、寺山修司の映画、自伝的作品「田園に死す」('74年)や「草迷宮」('78年)(母がいつも口ずさんでいた手毬唄のルーツを探そうと青年が各地を回り、情報を捜し求めていくうちに巡り逢う数々の女性との関わりの中で成長していく青年の話)、実験映画「迷宮譚」('75年)、「二頭女」「マルドロールの歌」「一寸法師を記述する試み」('77年)などに触れて(何れも新高恵子や蘭妖子という不思議なムードを醸す女優が出ていた)、これらの映像作品そのものは、アブストラクトに弱い自分にとってはいまだに評価不能な面も多いのですが 改めて本書を読むと、映像作品と意外にと言うか、かなりイメージ的に重なり、エッセイの一篇一篇が抒情詩のようなみずみずしい情感をもって伝わってきました。ああ、これって散文詩なのだ。この中にいる寺山少年というのは、神話の登場人物みたいだなあと。

草迷宮 ちらし.bmp草迷宮 (DVD).jpg 因みに「草迷宮」は、フランスのプロデューサー、ピエール・ブロンベルジュが製作したオムニバス映画「プライベート・コレクション」の1話として製作された中編。寺山の死後、日本で公開された作品で、原作は泉鏡花の同名小説です。

新宿東映パラス2.jpg 「草迷宮」●制作年:1978年(日本公開:1983年)●制作国:フランス・日本●監督:寺山修司●製作:ピエール・ブロンベルジュ●脚本:寺山修司/岸田理生●撮影:鈴木達夫●音楽:J・A・シーザー●助監督:相米慎二/ピエール・ブロンベルジェ●原作:泉鏡花「草迷宮」●時間:40分●出演:三上博史/若松武/新高恵子/伊丹十三/中筋康美/福家美峰/末次章子/蘭妖子/根本豊/サルバドール・タリ●公開:1983/11●配給:東映●最初に観た場所:新宿東映ホール (83-11-12)(評価:★★★☆)●併映:「迷宮譚」(寺山修司)/「消しゴム」(寺山修司)/「質問 (寺山修司へのインタビュー記録映画)」(田中未知) 新宿東映ホール (1972年、新宿東映の2階席を分割して「新宿日活」開館、1978年〜「新宿東映ホール」→「新宿東映パラス2」2004年1月9日閉館

kan.gif 寺山修司の自叙伝的作品の虚構性については既に多く論じられているところで、映画「田園に死す」については、寺山修司自身がはっきり、「これは一人の青年の自叙伝の形式を借りた虚構である」(演出ノート)と述べていますが、同じことが文章において端的に表れているのが、この「誰か故郷を想はざる」ではないでしょうか。

 私生児の母、自殺した級友のエピソード(これ、かなり強烈)など、すべてが虚構というわけではないでしょうが、成人した彼が、映画を作るようにして、或いは自らの神話を編むようにして、自分史を脚色しているという感じがします。

カルメン・マキ(当時18歳)「時には母のない子のように」
('69年第20回NHK紅白歌合戦(紅組司会:伊東ゆかり)
寺山修司.jpg 47年間の生涯に様々なことを成し遂げたものだなあと改めて思います。「天井桟敷」に新人女優として入団したカルメン・マキのデビュー曲「時には母のない子のように」('69年)の作詞者でもあり、詩や演劇、実験的な映画ばかりでなく、一般向けに公開された映画「初恋・地獄篇」('68年/ATG)や「サード」('78年/ATG)の脚本なども手掛けています。今も各芸術分野に多くの影響を残している寺山修司ですが(少し前の時代になるが、自分『初恋・地獄篇』(羽仁進監督)1.bmpサード 79.jpgの少し上の世代に、"テラヤマ"と亡くなった友人の名前を呼ぶような感じで呼ぶ人がいた)、虚構を通して構築しようとした彼のアイデンティティとはどのようなものだったのでしょうか。ちょっとだけ、三島由紀夫のことを思い出しました。

羽仁 進監督「初恋・地獄篇」('68年/ATG)/東 陽一監督「サード」('78年/ATG)
 
 【1968年単行本[芳賀書店(『自叙伝らしくなく―誰か故郷を想はざる』])/1973年文庫化・2005年改版[角川文庫]】

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ピカレスク・ロマン或いはサクセス・ストーリーとして楽しめる"小説"になっている『花の嵐』。

花の嵐―小説・小佐野賢治〈上〉.jpg花の嵐―小説・小佐野賢治〈下〉.jpg花の嵐 小説小佐野賢治 上.jpg 花の嵐 小説小佐野賢治下.jpg  女教師 清水一行 カッパ・ノベルズ.jpg
『花の嵐 小説・小佐野賢治 (上・下)』(朝日新聞社)/『花の嵐―小説小佐野賢治〈上〉』『花の嵐―小説・小佐野賢治〈下〉』光文社文庫/『女教師―長編推理小説 (カッパ・ノベルス)

清水一行.jpg小説兜町(しま).jpg 高杉良、城山三郎と並び、日本における経済小説の第一人者として知られる清水一行(1931-2010)ですが、'59年に『総会屋錦城』で直木賞を取った城山三郎、'75年に『虚構の城』でデビューした高杉良に対し、清水一行は'66年に『小説 兜町(しま)』で作家デビューしており、デビュー期で言えば、城山三郎と高杉良の間になります。
 また、評論家の佐高信は、高杉良、城山三郎を「向日派」とし、清水一行を「暗部派」としていますが、前向きで夢を感じさせる主人公が登場して読後感も爽やかなものが多い高杉作品などに比べると、確かに清水一行の作品はドロドロした経済や社会の暗部を抉ったものが多い。

花の嵐 (上) 小説 小佐野賢治.jpg 本書も政商・小佐野賢治(1917-1986)を扱ったものであるから、当然のことながらドロドロして暗いのかと思いきや、ピカレスク・ロマンとして、或いはサクセス・ストーリーとして楽しめる"小説"に仕上がっていました(ロッキード事件に連座する前で話は終わっている)。

 箱根・強羅ホテルの買い取り依頼に応じたことで東急の総帥・五島慶太から寵愛され、東急からバス事業を譲り受けたことが成功への足掛かりになっていますが、その後、弁護士・正木亮の紹介で田中角栄と知り合い、一方で児玉誉士夫らとも交わり、財界の裏道を歩んでいく―。
 もともと政治家には関心が無かったようですが、「農家出の無学歴」コンプレックスという点で田中角栄と合い通じ、"刎頚の交わり"となったようです。

花の嵐〈上〉 (角川文庫)

小佐野賢治.jpg ガソリン横流しでGHQに逮捕されたにもかかわらず、投獄期間中に看守を騙して外出し芸者遊びをした話など、ニヤリとさせられる"悪漢"ぶりで、作者の小佐野に対する愛着が感じられる一方、こんなに好人物に描いちゃっていいのかなあという気も。

 ただし、不良会社を社員のクビを切ることなく次々と再建したというのは、やはり並々ならぬ手腕だと思うし、コワモテのイメージがあり、面の皮も厚そうだけれども(ロッキード事件(1976年)の証人喚問で小佐野が何度も口にした「記憶にございません」はその年の流行語となった)、小佐野の近くで接した人によれば、あまり感情を表に表さない紳士然とした人物だったそうです。

モアナ・サーフライダー.jpgシェラトン・ワイキキ(左)とロイヤル・ハワイアン(右).jpg バス会社だった国際興業は、ハワイのロイヤル・ハワイアン、モアナ・サーフライダー、シェラトン・プリンセス・カイウラニ、シェラトン・ワイキキといった名門ホテルを買収し、小佐野はハワイの「ホテル王」と呼ばれるようになって、更に自身が夢見た帝国ホテルの買収も果たしましたが、その後バブルが崩壊し、彼が社主だった国際興業は外資の傘下に入っています(従って帝国ホテルも外資傘下となっている)。('06年時点) モアナ・サーフライダー(左)/シェラトン・ワイキキとロイヤル・ハワイアン(右) 

 因みに、清水一行の作品では、『女教師』('77年/カッパ・ブックス)という小説があり、ストーリーは、若い音楽教師が中学校内で暴行され、3年生の不良グループの生徒が犯人と思われたが、事を荒立てたくない校長はじめ学校側はもみ消しをはかり、女教師が生徒を誘惑したのだという流言飛語まで流されたため女教師は失踪、そんな中、主犯格と思われる生徒が誘拐され、更に教師が殺害される―というもの。

清水一行・『女教師』.jpg女教師 清水一行 tokuma.jpg この通り、推理サスペンスであるわけですが、校内暴力や教職員の不正と、それに対し何も手を打たない学校―といった教育現場の荒廃を鋭く抉っており、いつの時代にも通じる社会的テーマを背景としています。「いつの時代にも通じる」というのは残念なことでもありますが、この作品は佳作であると思います。
女教師 (徳間文庫)


女教師 (集英社文庫)
田中 登(1937-2006/享年69)
田中登.jpg女教師 ポスター.jpg この作品は映画化され、先月['06年10月]動脈瘤解離のため急逝した田中登が監督し、脚本は中島丈博、主演は永島暎子。日活ロマンポルノの一作品として作られたためか、一応テーマは原作に沿おうとしてはいるものの(基本的には学校や社会の体制を批判した真面目な作品だった)、登場人物などの改変が激しく、ロマンポルノの一環としてこの作品を撮るのはどうかという気もしました。名画座で併映の「赫い髪の女」は、愛欲がテーマだからロマンポルノでもいいのだけれど...(但し、映画はヒットし、第9作まで作られた。風営法の強化改正で、「女教師」という言葉がポルノ映画のタイトルに使えなくなったため、シリーズを終わらざるを得なかったらしい)。自殺した古尾谷雅人(1963‐2003/享年45)の映画デビュー作。泉谷しげるの「春夏秋冬」が劇中で使われています。

女教師 1977.jpg「女教師」.jpg「女教師」●制作年:1977年●監督:田中登●製作:岡田裕●脚本:中島丈博●撮影:前田米造●音楽:中村栄●原作:清水一行●時間:100分●出演:永島暎子/砂塚英夫/山田吾一/鶴岡修/宮井えりな/ 久米明/穂積隆信/蟹江敬三/樹木希林/古尾谷康雅 (古尾谷雅人)/絵沢萠子/福田勝洋●公開:1977/10●配給:日活●最初に観た場所:銀座並木座 (評価:★★★)●併映:「赫い髪の女」(神代辰巳)

『花の嵐』...【1993年文庫化[角川文庫(上・下)]/1994年再文庫化[朝日文庫(上・下)]/1999年再文庫化[光文社文庫(上・下)]】『女教師』...【1980年文庫化[角川文庫]/1984年再文庫化[集英社文庫]/2007年再文庫化[徳間文庫]】

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面白く読めることは読めるが、"オヤジ泣かせ"のテクニックのあざとさがミエミエではないかと...。
浅田次郎 『壬生義士伝 (上)』.bmp 壬生義士伝  2.jpg  壬生義士伝 上.jpg 壬生義士伝 下.jpg  壬生義士伝m2.jpg
壬生義士伝〈上〉〈下〉』(題字:榊莫山)/文春文庫(上・下) 2003年映画化(松竹/監督: 滝田洋二郎)

 2000(平成12)年度・第13回「柴田錬三郎賞」受賞作。

 貧しさゆえ盛岡の南部藩を脱藩し、壬生浪(みぶろ)と蔑称された新撰組隊士となった吉村貫一郎は、鳥羽伏見の戦に破れ、傷だらけのまま大坂・南部藩蔵屋敷にたどり着き、妻子のいる故郷盛岡への帰還を望むが、大坂屋敷の差配で貫一郎のかつての幼馴染である大野次郎右衛門は、彼に今すぐに腹を切るよう命じる―。

 明治維新からから半世紀を経た頃、記者らしき人物が貫一郎ゆかりの人たちを訪ねて回り、貫一郎をめぐる彼らの思い出話を聞き書きするという"取材記"スタイルをベースに、今まさに切腹に追い込まれた貫一郎の南部弁の独白が挿入されているという構成。

 そうした回想スタイルが最初はまどろっこしいけれど、極度の倹約のため守銭奴と蔑まれた貫一郎が、実は"人斬り貫一"と怖れられる剣の使い手であったというこのギャップがアクセントになっており、新撰組の近藤、土方、沖田といった隊士たちの作者なりの描き方も興味深く、どんどんハマっていく感じ。
 中でも中盤の、新撰組随一の剣豪として知られた斎藤一の、自身と貫一郎をめぐる回想が、剣豪小説として面白く読めました(斎藤一の竜馬暗殺説にはビックリ)。

 しかし個人的に良かったのは中盤までで、なぜ旧友の大野が貫一郎に切腹を命じたのかという謎で一応は後半に引っぱっていくものの、その答えはまあ大方予想がつくものであり、また何よりも、貫一郎の南部弁の独白がベタで、これが"浅田調"なのだろうけれども、泣ける前に少し白けてしまいました。
 後に五稜郭に馳せ参じた貫一郎の息子の生き方も、果たしてこれが父の望むところだったか、疑問を抱いてしまいます。

 この小説は、普段は時代小説を読まない人にも多く読まれた一方で、時代小説ファンの間でも評価が高いようですが、"オヤジ泣かせ"のテクニックのあざとさがミエミエではないかと...。

 「もう一つの武士道」って言っても、結局はフツーの家族愛のことになってしまっているような気がしました(その"フツー"さが普遍性となって読者に受けるのかも)。

 史実では吉村貫一郎は鳥羽伏見の戦で行方不明になっていて、うまいところに虚構の糸口を見つけたなあという感じはしますが、子母澤寛『新選組物語-新選組三部作』(「隊士絶命記」)を参照していることは本人も認めており、そうすると、この聞き書きの主の職業は新聞記者ということなのだろうか(子母澤寛は新聞記者として新選組ゆかりの人たちを取材してまわり、昭和3年に「新選組三部作」の第1部『新選組始末記』を書いている)。

 '03年に滝田洋二郎監督によって映画化されましたが(貫一郎役は中井貴一)、この監督、比較的原作に忠実に作るタイプなのか、主人公の語りが冗長になった感は否めませんでした。
 これは、原作を読んでクドイと思った自分の感性の問題で(中井貴一は日本アカデミー賞の最優秀主演男優賞受賞)、映画化される前の'02年に、テレビ東京の「新春ワイド10時間ドラマ」として放映されているのですが(貫一郎役は渡辺謙)、こちらも概ね好評だったようです。
 好きな人は好きなのだろうし、正月なので腰を落ち着けて観るというのもあるんだろうなあ。

2003年映画化(松竹/監督: 滝田洋二郎)
壬生義士伝(DVD).jpg壬生義士伝m.jpg「壬生義士伝」●制作年:2003年●監督:滝田洋二郎●製作:松竹/テレビ東京/テレビ大阪/電通/衛星劇場●脚本:中島丈博●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:137分●出演:中井貴一/佐藤浩市/夏川結衣/中谷美紀/山田辰夫/三宅裕司/塩見三省/野村祐人/堺雅人/斎藤歩/比留間由哲/神田山陽/堀部圭亮/津田寛治/加瀬亮/木下ほうか/村田雄浩/伊藤淳史/藤間宇宙/大平奈津美●公開:2003/01●配給:東宝 (評価:★★☆)

 【2002年文庫化[文春文庫(上・下)]】

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映画を見てドラマを見て再読して、"本格派" 推理小説だったと...。

砂の器 カッパ.jpg 砂の器 (カッパ・ノベルス 11-9).jpg 砂の器.jpg 砂の器 下.jpg  砂の器 dvd.jpg 砂の器 unnmei.jpg
砂の器 (カッパ・ノベルス 11-9)』『砂の器〈上〉 (新潮文庫)』 『砂の器〈下〉 (新潮文庫)』〔'06年改版版〕「砂の器 デジタルリマスター版 [DVD]

sunanoutuwa12.jpg この作品は、'60(昭和35)年5月から翌年4月にかけて「読売新聞」夕刊に掲載され、カッパ・ノベルスで'61(昭和36)年7月刊行、'74年に映画化されたほか、'04年には中居正広主演でTVドラマ化されているので、ストーリーを知る人は多いと思います。

 映画館で映画を観て、「宿命」という言葉(または"曲の演奏")が頭にこびりついてしまい、パセティックな作品とのイメージを持っていましたが、もう一度原作にあたってみると、刑事たちに視点を置いて犯人を地道に追う"本格派" 推理小説の色合いが強いという印象を受けました(中居正広主演のテレビ版は最初から犯人を明かす倒叙型だったので、ミステリとしての面白さは半減。脇役陣は手堅いが、主演の中居正広の演技下手が目立つのも痛い)。

 好みは人それぞれだと思いますが、小説における、推理を通して徐々に、間接的に"犯人像"を浮き彫りにして行く描き方の方が、主人公の"業"のようなものがじわ〜っと感じられる気もします(元々テレビ版の配役で「人間の業」のようなものの描出を期待する方が無理がある?)。

映画「砂の器」.jpg 野村芳太郎(1919‐2005)監督、橋本忍・山田洋次脚本による映画化作品('74年/松竹)は、他の野村監督作品と比較しても、また同じ時期に映画化された他の松本清張原作のものと比べても比較的良い出来だったと思います(個人的には同監督の「鬼畜」('78年/松竹)の方が若干上かなという気がするが、松本清張自身はこの映画化作品を気に入っていたらしい。世間的な(?)評価も「砂の器」の方が上か)。

「砂の器」3.jpg 加藤剛が演じた〈和賀英良〉は、「飢餓海峡」('64年/東映)で三國連太郎が演じた〈犬飼多吉(樽見京一郎)〉や「白い巨塔」('66年/大映)で田宮二郎が演じた〈財前五郎〉と並んで、恵まれない境遇から「成り上がる男」を体現していたと思われ、また、刑事役の丹波哲郎の演技も光るものがありました(その部下役を森田健作が演じている)。

『砂の器』(1974).jpg ただし、幼児期の暗い記憶や、自分をいじめた社会に対しての見返してやるという登場人物のリベンジ・ファクターが清張作品ならではのものだと思うのですが、どこまで映像で表現されていただろうかという気もします。テレビ版では「ハンセン病」というファクターを抜いてしまっているので、なおさらに原作とのギャップを感じざるを得ませんでした。

砂の器 チラシ.bmp『砂の器』(1974)21.jpg  個人的には、この小説が今まで読んだ清張作品の中で一番だとは思わないし、「ハンセン病」に対する偏見を助長したという批判までありますが、作者の代表的な傑作作品であることに異存はなく、結末を知ったうえでも原作を読む価値はあると思います。

映画「砂の器」チラシ
Suna no utsuwa (1974)         
Suna no utsuwa (1974).jpg砂の器  1.jpg「砂の器」●制作年:1974年●製作:橋本プロ・松竹●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍/山田洋次●音楽:芥川也寸志●原作:松本清張●時間:143分●出演:丹波哲郎/森田健作/加藤剛/加藤嘉/緒形拳/山口果林/島田陽子/佐分利信渥美清笠智衆/夏純子/松山省二/内藤武敏/春川ますみ/花沢徳衛/浜村純/穂積隆信/山谷初男/菅井砂の器sunanoutuwa 1.jpg砂の器 丹波哲郎s.jpgきん/加藤健一/春田和秀/稲葉義男/信欣三/松本克平/ふじたあさや/野村昭子/今井和子/猪俣光世/高瀬ゆり/後藤陽吉/森三平太/今橋恒/櫻片達雄/瀬良明/久保砂の器 丹波.jpg丹波哲郎 .jpg砂の器 74松竹/橋本プロ.jpg晶/中本維年/松田明/西島悌四郎/土田桂司/丹古母鬼馬二●劇場公開:1974/10●配給:松竹●最初に観た場所:池袋文芸地下(84-02-19) (評価★★★★)●併映:「球形の荒野」(貞永方久)
丹波哲郎 2006年9月24日没

 
緒方拳 砂の器.jpg佐分利信 砂の器.jpg緒形拳/佐分利信




渥美清 砂の器.jpg笠智衆 砂の器.jpg渥美清/笠智衆




池袋文芸地下 地図.jpg文芸坐.jpg



 
池袋・文芸地下 1997(平成9)年3月6日閉館。



「砂の器」 2004.jpeg砂の器 中居版.jpg「砂の器」(TVドラマ版)●演出:福澤克雄/金子文紀●脚本:龍居由佳里●音楽:千住明●出演:中居正広/松雪泰子/渡辺謙/武田真治/京野ことみ/永井大/夏八木勲/赤井英和/原田芳雄/市村正親/かとうかずこ/佐藤仁美/佐藤二朗/森口瑤子/松岡俊介●放映:2004/01~03(全11回)●放送局:TBS

 
  【1961年ノベルズ版[光文社]/1973年文庫化・2006年改版版[新潮文庫]】

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社会ドラマとしての人間がしっかり描かれている初期代表作。

松本清張「ゼロの焦点」.jpg ゼロの焦点.jpg ゼロの焦点2.jpg 『ゼロの焦点』(1961)3.jpg 『ゼロの焦点』(1961).jpg 「ゼロの焦点」真野あずさ・林隆三 vhs - コピー.jpg
ゼロの焦点―長編推理小説 (カッパ・ノベルス)』/『ゼロの焦点 (新潮文庫)』/野村芳太郎 監督「ゼロの焦点 [DVD]」(1961年)/新藤兼人脚本「ゼロの焦点 [VHS]」(1991年)

 板根禎子は、広告代理店に勤める鵜原憲一と見合い結婚、信州から木曾を巡る新婚旅行を終えた。その7日後、東京へ転勤になったばかりだった憲一は、仕事の引継ぎをしてくると言い前勤務地の金沢へ出張へ旅立つが、予定を過ぎても帰京しない―。やがて禎子のもとに、憲一が北陸で行方不明になったという勤務先からの知らせがある。
 禎子は単身捜査に乗り出すが、その過程で夫の知られざる過去が浮かび上がる―。

点と線.png 『ゼロの焦点』('58年発表)は、松本清張(1909‐1992)が点と線の翌年に発表したものですが、最初読んだ時は、時刻表トリックにハマって『点と線』の方が面白く感じたものの、時間が経つにつれ、『ゼロの焦点』も好きな作品になってきました(『点と線』のトリックは時代を経ても色褪せたという印象は無く、むしろ、見合いだけで相手のことをよく知らないで結婚する―という設定においては、『ゼロの焦点』の方がよりクラシカルな雰囲気の背景設定とも言えるかも)。

点と線―長編推理小説 (カッパ・ノベルス (11-4))』 

松本清張1.jpg この『ゼロの焦点』が書かれた時点で"社会派"推理小説というジャンル分けは確立していなかったと思いますが、この辺りがその始まりではないでしょうか。ミステリーとしては瑕疵が多いとの指摘もありますが、社会ドラマとしての人間がしっかり描かれて、これがこの作家の大きな魅力でしょう。また、清張の推理小説作品の中でも、風景の描写などに文学的な細やかさがあり、『点と線』と並んで"旅情ミステリー"のハシリとも言えるのではないでしょうか。冒頭部分だったかが国語の試験問題に出されたのを覚えています。

『ゼロの焦点』1.jpgzero1b.jpg 映画化された「点と線」('58年・カラー)「ゼロの焦点」('61年・モノクロ)をそれぞれ観ましたが、「ゼロの焦点」の方が、白黒の画面が"裏日本"北陸の寒々とした気候風土に合った感じがして良かったです(松本清張がヒッチコックばりにちらっと出演していますが、どこで出てくるかは見てのお楽しみ)。
映画「ゼロの焦点 [DVD]」(1961年/松竹)
      
「ゼロの焦点」●vhs.jpg野村 芳太郎『ゼロの焦点』(1961)2.jpg 多くのサスペンスドラマの典型モデルとなった、日本海の荒波を背に崖っぷちで犯人が告白するというラストシーンなど、橋本忍の脚本の運びを原作と比べてみるもの面白いかと思います(橋本忍脚本の犯人の長台詞は、込み入った原作の背景を1時ゼロの焦点9.jpg間半の映画に収めようとした結果の「苦肉の策」としてのものだったともとれるのだが)。

 この映画作品が発表された後、作品の舞台周辺への観光客が増加し、一方、能登金剛・ヤセの断崖(映画の舞台)での投身自殺が急増したとのことです。自分も行ったことがありますが、「早まるな」と書いた立て札があったように思います。

 因みに、「ゼロの焦点」は、調べた限りでは60年代から90年代にかけて6回テレビドラマ化されていますが、「点と線」は1回もドラマ化されていないようです。(「点と線」はその後、2007年にビートたけし主演でドラマ化)
ゼロの焦点 1991.jpg •1961年「ゼロの焦点(CX)」野沢雅子・河内桃子
 •1971年「ゼロの焦点(NHK)」十朱幸代・露口茂
 •1976年「ゼロの焦点(NTV)」土田早苗・北村総一朗
 •1983年「松本清張のゼロの焦点(TBS)」星野知子・竹下景子
 •1991年「ゼロの焦点(NTV)」真野あずさ・林隆
 •1994年「ゼロの焦点(NHK BS-2)」斉藤由貴・萩尾みどり

「ゼロの焦点」真野あずさ・林隆三.jpg この中で印象に残っているのは'91年の鷹森立一監督の日テレ版で、眞野あずさ (板根禎子)、林隆三(北村警部補)、芦川よしみ(田沼久子)、増田恵子(室田佐知子)といった布陣ですが、原作者・松本清張の指名を受けた新藤兼人(1912‐2012/享年100)が脚本を手掛けています。個人的には、主役の真野あずさ、林隆三(1943‐2014/享年70)とも良かったように思います。眞野あずさ 演じる板根禎子が、パンパン上が「ゼロの焦点」真野あずさ.jpgりのふりをして増田恵子(元ピンク・レディー!)演じる室田佐知子に探りを入れるというのが素人にそこまで演技が出来るかと思うとちょっとどうだったか。ラストの犯人が海上に小舟を漕ぎ出すシーンの撮影に関しては新藤兼人の発案ではなく、原作者である松本清張の希望により脚本に導入され、むしろ新藤は難色を示したものの、その方向で撮影が行われたとのこと(原作も一応そうなっているのだが)。おそらく松本清張は、このTV版のロケの時期が初夏になったことで、部分的に趣向を変えてみてもいいかなと考えたのではないでしょうか。すでに5回目のTVドラマ化であったというのもあるかと思います。

Zero no shôten (1961)
Zero no shôten (1961) .jpg「ゼロの焦点」●制作年:1961年●監督:野村芳太郎●脚本:橋本忍/山田洋次●撮影:川又昂●音楽:芥川 也寸志●原作:松本清張●『ゼロの焦点』2.jpg時間:95分●出演:久我美子/高千穂ひづる/有馬稲子/南原宏治/西村晃/加藤嘉/穂積隆信/野々浩介/十朱久雄/高橋とよ/沢村貞子/磯野秋雄/織田政雄/永井達郎/桜むつ子/北龍二/稲川善一/山田修吾/山本幸栄/高木信夫/今井健太郎/遠山文雄●劇場公開:1961/03●配給:松竹●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(11-02-20)(評価★★★☆)

「ゼロの焦点」真野あずさ・林隆三 vhs.jpg「ゼロの焦点―松本清張作家活動40年記念スペシャル」●監督:鷹森立一● プロデュー増田恵子.jpgサー:嶋村正敏(日本テレビ)/赤司学文(近代映画協会)/坂梨港●脚本:新藤兼人●音楽:大谷和夫●原作:松本清張●出演:眞野あずさ/林隆三/増田恵子(元ピンク・レディー)/芦川よしみ/藤堂新二/並木史朗/岸部一徳/神山繁/音無真喜子/乙羽信子/平野稔/金田明夫●放映:1991/07/09(全1回)●放送局:日本テレビゼロの焦点 [VHS]」 

ゼロの焦点 ブルーレイ.jpg『あの頃映画 the BEST 松竹ブルーレイ・コレクション ゼロの焦点』 [Blu-ray]ゼロの焦点 [VHS]/(2009年再映画化)新潮文庫・映画タイアップカバー 
映画「ゼロの焦点」(1961) vhs.jpg ゼロの焦点 新潮文庫.jpg
   
ゼロの焦点0.jpgゼロの焦点 2009.jpgゼロの焦点 2009 03.jpg犬童 一心 「ゼロの焦点」 (2009/11 東宝) ★★★

【1959年ノベルズ版・2009年カッパ・ノベルス創刊50周年特別版[光文社]/1971年文庫改版[新潮文庫]】 

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"感動ストーリー"だが、色々考えさせられるという意味で面白かった。

秘密.jpg  映画 秘密.jpg 秘密DVD.jpg秘密 [DVD]
秘密』(1998/09 文藝春秋) 1999年映画化(監督:滝田洋二郎、主演:広末涼子/小林薫)

 1999(平成11)年度・第52回「日本推理作家協会賞」受賞作。 

 愛する妻と11歳の娘に囲まれ満ち足りた生活を送る杉田平介。だがある日、 妻・直子と娘・藻奈美が乗ったスキーバスが崖から転落する。妻は亡くなってしまうが、意識を取り戻した娘の方に妻の意識が宿ってしまい、残された平介は「娘の姿をした妻」と生活することになる―。

 某編集者の結婚披露宴の挨拶で、自らのことを「キャリアは20年だが、14年間売れなかった」と言ったという作者の、そうした状況を脱する契機となったとされる出世作。主人公は、世間に対しては「娘が実は妻であること」は伏せていて、そのことがまずこの物語の第一の「秘密」。そして、第二の「秘密」は―。

天国から来たチャンピオン.jpgゴースト ニューヨークの幻.jpg これ以上は何を書いてもネタバレになってしまいますが、アメリカ映画の「天国から来たチャンピオン」('79年)や「ゴースト/ニューヨークの幻」('90年)などのスピリチュアル・ファンタジーの系譜と同種のプロットかと思って読んでいました。
天国から来たチャンピオン [DVD]」/「ゴースト ニューヨークの幻 [DVD]

 そうしたら「憑依」という言葉が出てきて、この作品では心霊学的な「憑依」ではなく、超心理学的な「憑依現象」(心理学的には「多重人格」)としてのそれが扱われているので、「娘の姿をした妻」は実は「妻の意識を持った娘」であることがはっきりします。

 それでも読者を、「妻の人格」に感情移入させて読ませるところが、著者の力量でしょうか。夫の妻に対する想いを描き、「妻」の夫に対する想いを描きますが、後者は「娘の人格により投射された妻の像」であるはず。娘と妻の関係を直接的には描写せず、更に夫をセンチメンタリズムの中に埋没させ事実を直視させないことで、"科学的"ファンタージーとして成立しているように思えました。

 作者はそれでも不充分だと思ったのか、最後に"指輪"を巡る第二の「秘密」を用意していましたが、それさえも、「霊」を持ち出さなくとも超心理学的には説明できてしまうことだと思います(ただしこの辺りにくると、真実はもうどうでもよくなっているような感じ)。

 亡くなった人の自我や個性が別の人の脳にコピーされた場合、その「別の人」が「亡くなった人」になり、状況的には「亡くなった人」が生きているというのと同じことになるのでしょうか。妻が娘にかけた、自分が死んだときに自動起動する「後催眠暗示」というふうにとれなくもないし、娘がそれを逆手にとって、夫の心の中での妻の座を占めようとしているようにとれなくもないない場面もあるからややこしい。

 "感動ストーリー"仕立てですが、著映画「秘密」.jpg者は当初、コメディ仕立てでいこうかと考えたとのこと、自分にとっては、色々な見方ができて考えさせられるという意味での"面白さ"がありました。

滝田洋二郎 秘密.jpg 映画化もされましたが、話が途中から始まっているし、設定も細部において異なっているものの(娘の事故当時の年齢設定が11歳から17歳に引き上げられている)、物語の本筋の部分は生かされていたように思います。 映画「秘密」(1999年・東宝)

 ベテランの役者陣が周りをしっかり固めているということもありましたが、広末涼子の演技も悪くなかったです(う~ん、この演技力でワセダにAO入学したわけか。中退しちゃったけれど)。

幽霊紐育を歩く.jpg 因みに、先にあげた「天国か天国から来たチャンピオン23.jpgら来たチャンピオン(Heaven Can Wait)」は、「幽霊紐育を歩く(Here Comes Mr. Jordan)」('41年)のリメイク作品で、前途有望なプロ・フットボール選手(ウォーレン・ベイティ)が交通事故で即死するが、それは天使のミスによるものだったため、困った天界は彼の魂を殺されたばかりの若き実業家の中に送り込み、その結果全く新しい人物となった彼は、再びフットボールの世界に乗り出す―というもの。

 ボクシングのチャンピオンだった男を主人公としたオリジナルのリメイク作品だと分かるように、わざわざ邦題に"チャンピオン"と入れたのでしょうか(アメフトで個人を指してチャンピオンとはあまり言わないのでは)。今観ると、天国へ行く人々が乗るジェット機が〈コンコルド〉風だったりして時代を感じさせますが、「感動作」であることには違いなく、"自分とは何か"を考えさせら天国から来たチャンピオン  ジェット機.jpgれる部分もありました。一方で個人的に今ひとつノリ切れなかったのは、映像上のウソ天国から来たチャンピオン2.jpgがあるためで、つまり、死んだウォーレン・ベイティの魂が身体を借りた実業家兼フットボール選手を、やはりウォーレン・ベイティが演じているという点。これは致し方ないことであり、あまりこだわる人もいないのかも知れませんが、このウソを克服しないと映画が楽しめないような気もしました(オリジナル作品では、ボクシング選手の魂が実業家にのり移るのだがそれなりに実業家に見える。その点、ウォーレン・ベイティはどこから見てもウォーレン・ベイティ)。                                 

映画 秘密3.jpg これに比べると、映画「秘密」は、こうした「お約束」を観る者に強いるほどではない分、その点に関して言えば旨く出来ているようにも思いました(原作がいいということか)。 

「秘密」●制作年:1999年●監督:滝田洋二郎●撮影:栢野直樹●音楽:宇崎竜童●原作:東野圭吾●時間:119分●出演:広末涼子/小林薫/岸本加世子/金子賢/石田ゆり子/伊藤英明/大杉漣/山谷初男/篠原ともえ/柴田理恵/斉藤暁/螢雪次朗/國村隼/徳井優/並樹史朗/浅見れいな/柴田秀一●劇場公開:1999/09●配給:東宝 (評価★★★☆)

天国から来たチャンピオン チラシ.jpg「天国から来たチャンピオン」●原題:HEAVEN CAN WAIT●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督:ウォーレン・ベイティ/バック・ヘンリー●製作:ウォ天国から来たチャンピオン  .jpgーレン・ベイティ●脚本:エレイン・メイ/ウォーレン・ベイティ●撮影:ウィリアム・A・フレイカー●音楽:デーヴ・グルーシン●原作:ハリー・シーガル●時間:101分●出演:ウォーレン・ベイティ/ジュリー・クリスティ/ジェームズ・メイソン/ジャック・ウォーデン●日本公開:1979/01●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:新宿パレス(83-02-04)(評価:★★★☆)

 【2001年文庫化[文春文庫]】

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