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フランス的文化・恋愛価値観が垣間見られた「ラ・ブーム」。少女が大人になるのは早い。

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「ブーム」とはパーティーのこと。ブームに誘われることを夢見る13歳のヴィック(ソフィー・マルソー)が、自分の14歳の誕生日ブームを開くまでの物語。リセの新学期(夏のバカンス明け)に始まり、歯科医の父親(クロード・ブラッスール)とイラストレーターである母親(ブリジッド・フォッセー)の別居騒動、ハープ奏者の曾祖母プペット(ドゥニーズ・グレイ)の折々の助言を背景に、ブームで出会ったマチュー(アレクサンドル・スターリング)との恋模様、春休み明けに自身が開く誕生日ブームまでを描く。

「ラ・ブーム」('80年/仏)はクロード・ピノトー(1925-2012/87歳没)監督によるフランス映画で、個人的にはこの映画で「禁じられた遊び」('52年/仏)に出ていたブリジッド・フォッセー(1946年生まれ)の大人になった姿と相まみえることができました。「禁じられた遊び」のラストが切ないだけに、何となく良かったというか、ほっとした感じでした。この作品は当時13歳のソフィー・マルソー
(1966年生まれ)のデビュー作であり(日本で言えば"中一"だが高校生くらいに見えたりもする)、ブリジッド・フォッセーはソフィー・マルソー演じる思春期の娘をも持つ母親役。個人的にはどうってことない映画でしたが、ヨーロッパ各国や日本を含むアジアでヒット作となりました。
娘の恋愛だけでなく、親夫婦の倦怠期とそこからの脱脚を
も描いているところがフランス映画らしく、改めて観ると、フランス的文化・恋愛価値観が垣間見られた作品だったように思います。映画パーソナリティの襟川クロ(1950年生まれ)氏が「おもちゃ箱的青春ムービー。(中略)ごく普通の少女達が、普通の恋をして、またひとつ大人になるのでありました、とりまく大人は大人でイロイロあり、ひとつ年をとりましたとさ。といった、よくあるパターンではありますが、しかし、その味つけがなかなかのもの」と評価したほか、映画評論
家の小藤田千栄子(1939-2018/79歳没)が、「何を着て行こうかと、あれこれ迷う若いヒロインの、カット重ねによるファッションの見せ方は、こちらも心がはずむ」「(ヒロインの曾祖母が)いかにもフランスらしい人生の練達者に見える。この人が、影に日向に、若いヒロインの先導者となるのである。この豊かさは、他の国の映画では、ちょっと見あたらない」「両親が、娘の初めてのブームの、送りむかえをするところなど、気の使い方がしのばれて、描写はユーモラスにも細かい。別居から、離婚寸前までいく(中略)親のいざこざに遭遇する、現代の子供という、世界共通のテーマを提示してくる」と褒めています。ソフィー・マルソー自身は後年、「とりたててどうということもないリセエンヌの淡い初恋物語だったり、友情物語だったり。社会現象をともなったあのヒットぶりは、一体何だったのか」と半自伝的小説『うそをつく女』(2000年/草思社)の中で振り返っていますが、個人的には、映画がヒットしたベースには、ブリジッド・フォッセーやその夫役を演じたクロード・ブラッスール(1936-2020/84歳没)の演技力があったように思います。
「スクリーン 」'83(昭和58)年10月号表紙/'84(昭和59)年7月号付録
この映画は高田馬場パール座で観て、併映がフィービー・ケイツ(1963年生まれ)の19歳の時の
デビュー作である「パラダイス」('82年/米)(公開時のタイトルは「フィービー・ケイツのパラダイス」)でしたが、こちらは当時のメモを見ると「フィービー・ケイツのアイドル映画。中身がない」(評価★☆)とだけありました(笑)。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーは当時、米仏2大アイドルだったのかもしれません。米国にはあと1人、二人
と同年代のブルック・シールズ(1963年生まれ)がいましたが、ルイ・マル監督の「プリティ・ベイビー」('78年/米)も観ました(これも高田馬場パール座で、併映はダイアン・レイン主演の「リトル・ロマンス」('79年/米))。ニューオリンズの娼館が舞台のこの作品に、ルイ・マル監督が渡米して自ら発掘した彼女を起用したもので、ブルック・シールズは11歳で娼婦(12歳)を演じてセンセーションを巻き起こしましたが、ルイ・マル作品としてはイマイチだったかも(評価★★★)。フィービー・ケイツについては「初体験/リッジモント・ハイ」('82年/米)(評価★★☆)や「グレムリン」('84年/米)(評価★★★)も観ました。
フィービー・ケイツ/ソフィー・マルソー/ブルック・シールズ
結構、アイドル映画を観ていたのだなあと今になって思います。「プリティ・ベイビー」はブルック・シールズのアイドル映画ではありませんが(彼女の出たアイドル映画と言えば17歳の時の「青い珊瑚礁」('80年/米)あたりか)、彼女を一気にアイドルに押し上げた映画でしょう。フィービー・ケイツとソフィー・マルソーを比べると、米国型アイドルとフランス型アイドルとではやはり違うなあと思わされます(映画雑誌「スクリーン」だと、ソフィー・マルソーが表紙向きで、フィービー・ケイツがグラビア向きと言ったところか)。フランス人監督のルイ・マルが見出したブルック・シールズはどちらか。天皇徳仁(今上天皇)が皇太子時代、日本人では柏原芳恵、外国人ではブルック・シールズの熱烈なファンであったとされていましたが、プリンストン大学を首席で卒業するような才女でした。

「ラ・ブーム」で父親と娘の役だったクロード・ブラッスールとソフィー・マルソーが、この作品の6年後、フランシス・ジロー監督の「デサント・オ・ザンファー 地獄に堕ちて」('86年/仏)では年齢の離れた夫と妻を演じましたが、これも夫婦の危機を打開しようとする話で、ただし、結構どろっとした話になっています。滞在先のリゾートホテルで殺人事件が起きる犯罪ミステリ仕様ですが、やや猟奇的側面も(原作は『狼は天使の匂い』『ピアニストを撃て』『華麗なる大泥棒』のデイビッド・グーディス)。さらには、「ラ・ブーム」の父親役と裸で激しいラブシーンを演じたりしていることもあり、そうした映画を企画する側も企画する側だが、「みんな父娘相姦みたいな目で私たちを見たがってるのよね」と自分でも承知していながら、こうした作品に簡単に出演してしまうソフィー・マルソーもソフィー・マルソーだとの批判と言うか苦言もあったようです。やはり、「ラ・ブーム」のソフィー・マルソーのイメージを壊されたくないファンがいるのだろうなあ(タイトルが何のことだかよく分からないのが難。ビデオタイトルは「地獄に墜ちて」)。
さらにその13年後、ソフィー・マルソーはマイケル・アプテッド監督の007シリーズシリーズ第19作「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」('99年/英)(公開時タイトルは「ワールド・イズ・ノット・イナフ」)でボンドガールとなり、当時で32歳ぐらいでしょうか、役どころは、ピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドを翻弄する悪役エレクトラ・キングで、結構ボンドと微妙な関係になりながらも、やがて本性を現しサディスティックにボンドを苛め倒していましたが(やや変態性欲気味)、詰まるところ悪役なのでやはり最期は...。彼女は、1996年に、半自伝的小説『うそをつく女』を刊行し、作品は「女性のアイデンティティの探求」と評され、フランスでは大きくとりあげられたとのことですが、こうした有名人女優がボンドガールになるのは当時としては珍しかったのではないでしょうか。その後、2002年に、長編映画監督としてのデビュー作「聞かせてよ、愛の言葉を」('01年)でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を受賞するなどの活躍を遂げています。
「禁じられた遊び」の少女ブリジッド・フォッセーがソフィー・マルソーの母親役になり、そのソフィー・マルソーがボンドガールに。そして今や映画監督として活躍―。子役(少女)が大人になるのは早い。でも、それは他人事ではなく、自分もその間に歳をとったということなのだろうなあ。

「禁じられた遊び」●原題:JEUX INTERDITS●制作年:1952年●制作国:フランス●監督:ルネ・クレマン●脚本:ジャン・オーランシュ/ピエール・ポスト●撮影:ロバート・ジュリアート●音楽:ナルシソ・イエペス●原作:フランソワ・ボワイエ●時間:86分●出演:ブリジッド・フォッセー/ジョルジュ・プージュリー/スザンヌ・クールタル/リュシアン・ユベール/ロランヌ・バディー/ジャック・マラン●日本公開:1953/09●配給:東和●最初に観た場所:早稲田松竹 (79-03-06)●2回目:高田馬場・ACTミニシアター (83-09-15)(評価:★★★★☆)●併映(1回目):「鉄道員」(ピエトロ・ジェルミ)●併映(2回目):「居酒屋」(ルネ・クレマン)
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「ラ・ブーム」●原題:LA BOUM●制作年:1980年●制作国:フランス●監督:クロード・ピノトー●製作:アラン・ポワレ●脚本:ダニエル・トンプソン/クロード・ピノトー●撮影:エドモン・セシャン●音楽:ウラジミール・コスマ(主題歌:「愛のファンタジー」歌:リチャード・サンダーソン)●時間:110分●出演:クロード・ブラッスール/ブリジッド・フォッセー/ソフィー・マルソー/ドゥニーズ・グレイ/ アレクサンドル・スターリング/ ベルナール・ジラルドー/シェイラ・オコナー/アレクサンドラ・ゴナン/ジーン=フィリップ・レオナール/リシャール・ボーランジェ/ウラジミール・コスマ●日本公開:1982/03●配給:松竹=富士映画●最初に観た場所:高田馬場パール座(82-09-15)(評価:★★★☆)●併映:「フィービー・ケイツのパラダイス」(スチュワート・ジラード)

「パラダイス」●原題:PARADISE●制作年:1982年●制作国:カナダ●監督・脚本:スチュアート・ギラード●製作:ロバート・ラントス/スティーブン・J・ロス●撮影:アダム・グリーンバーグ●音楽:ポール・ホファート●時間:95分●出演:フィービー・ケイツ/ウィリー・エイムス/リチャード・カーノック/チュヴィア・タヴィ/ニール・ヴィポンド●日本公開:1982/06●配給:松竹富士(評価:★☆)●併映:「ラ・ブーム」(クロード・ピノトー)

「プリティ・ベビー」●原題:PRETTY BABY●制作年:1978年●制作国:アメリカ●監督・製作:ルイ・マル●脚本:ポリー・プラット●撮影:スヴェン・ニクヴィスト●音楽:ジェリー・ウェクスラー●時間:110分●出演:ブルック・シールズ/E.J.ベロッ/キース・キャラダイン/スーザン・サランドン/アントニオ・ファーガス/マシュー・アントン/ダイアナ・スカーウィッド/バーバラ・スティール/ドン・フッド●日本公開:1978/10●配給:パラマウント●最初に観た場所:高田馬場パール座(80-01-16)(評価:★★★)●併映:「リトル・ロマンス」(ジョージ・ロイ・ヒル)

「デサント・オ・ザンファー 地獄に墜ちて」●原題:DESCENTE AUX ENFERS●制作年:1986年●制作国:フランス●監督:フランシス・ジロー●製作:アリエル・ゼイトゥン●脚本:フランシス・ジロー/ジャン=ルー・ダバディ●撮影:シャルリー・ヴァン・ダム●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●原作:デイビッド・グーディス●時間:88分●出演:ソフィー・マルソー/クロード・ブラッスール /ベッツィ・ブ
レア /ジェラール・リナルディ/シディキ・バカダ/マリー・デュボア/ユスタシュ/イポリット・ジラルド●日本公開:1986/11●配給:TAMT●最初に観た場所:池袋:サンシャイン劇場(88-07-17)(評価:★★☆)
池袋:サンシャイン劇場(1978年10月、池袋文化会館4Fに開館)
「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ」●原題:THE WORLD IS NOT ENOUGH●制作年:1999年●制作国:イギリス・アメリカ●監督:マイケル・アプテッド●製作:マイケル・G・ウィルソン/バーバラ・ブロッコリ●脚本:ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド●撮影:エイドリアン・ビドル●音楽:デヴィッド・アーノルド(主題歌:「The World is Not Enough」ガービッジ)●原作:イアン・フレミング●時間:127分●出演:ピアース・ブロスナン/ソフィー・マルソー/ロバート・カーライル/デニス・リチャーズ/ロビー・コルトレーン/デスモンド・リュウェリン/マリア・グラツィア・クチノッタ/サマンサ・ボンド/マイケル・キッチン/コリン・サーモン/セレナ・スコット・トーマス/ウルリク・トムセン/ゴールディ/ジョン・セル/クロード=オリビエ・ルドルフ/ジュディ・デンチ●日本公開:2000/02●配給:UIP(評価:★★★☆)
ソフィー・マルソー

「すべてうまくいきますように」●原題:TOUT S'EST BIEN PASSÉ (英:EVERYTHING WENT FINE)●制作年: 2021年●制作国:フランス/ベルギー●監督・脚本:フランソワ・オゾン●製
作:エリッ
ク・アルトメイヤー/ニコラス・アルトメイヤー●撮影:イシャーム・アラウィエ●音楽:ニコラス・コンタン●原作:エマニュエル・ベルンエイム●時間:113分●出演:ソフィー・マルソー
/アンドレ・デュソリエ/ジェラルディーヌ・ペラス/シャーロット・ランプリング/エリック・カラヴァカ/ハンナ・シグラ/グレゴリー・ガドゥボワ/ジャック・ノロ/ジュディット・マーレ/ダニエル・メズギッシュ/ナタリー・リシャール●日本公開:2023/02●配給:キノフィルムズ●最初に観た場所:ヒューマントラストシネマ有楽町(シアター2)(23-02-17)(評価:★★★★)



東都精密工業社長・河原専造(山村聡)は癌で後3カ月しか生きられないことを知る。専造は、3億円に及ぶ財産を以前に関係あった女性らの子どもに分配することにした。妻・里枝(渡辺美佐子)、秘書課長・藤井(千秋実)、秘書
・宮川やす子(岸恵子)、顧問弁護士・吉田(宮口精二)とその部下・古川(仲代達矢)が呼び集められ、妻・里枝に3分の1、残りの3分の2が行方不明の子供3人に渡されることになった。捜索期限は1カ月、呆然とする人びとに役割が振り当てられ。藤井には川越にいる7つの子を、吉田は
温泉街に流れて行った二十歳になる娘を、やす子は役人と結婚した女の息子を探すことに。古川は、温泉街のヌード・スタジオで専造の落し子の神尾真弓と思しき娘・神尾マリ(芳村真理)を見出し、彼女に札びらを切って関係を持ち、ある契
約を結ぶ。川越へ行った藤井は、産婆のさよ(千石規子)から目当ての子・ゆき子がすでに死んでいることを突き止め、代わりにある女の子を〈ゆき子〉として連れて来るが、実はそれは里枝との間にできた子だった。やす子が探し出した定夫(川津祐介)は、養父母にとっては手におえない二十歳の不良青年だった。やす子は暴風雨の晩、河
原に挑まれて体の関係を持ち、以来、幾たびか体の関係があった。いよいよ河原の容態が悪化し、彼は定夫を除いた2人の子に遺言を伝えようとするが、その場に刑事(安部徹)がやって来て、殺人容疑で〈真弓〉を逮捕する。実は彼女の姉が河原の子で、彼女は父親違いの妹のマリエであり、姉を自殺に見せかけて殺害し入れ替わったのだ。古川も仲間として吉田弁護士に追放される。一方、河原に遺産で財団法人を設立させ、その幹部に収まることを目論んでいた吉田弁護士は、〈ゆき子〉が偽物であることを事前に掴み、それをやす子に伝え、自分は出張に行くから関係書類を河原に渡すよう言う。やす子は専造に妊娠したことを打明けると、死期迫る専造は狂喜し、3分の1は無条件に生れる子のため遺すと言う。実は、やす子には体だけの
関係の男がいたが、男はやす子が妊娠したと知って身を退いたため、やす子はお腹の子を専造の子に仕立たのだ。遺言書は書き直され、財産は、妻の里枝に3分の1、ゆき子に3分の1、そしてやす子のお腹にいる子に3分の1ずつ分けられることになる。やがて河原が死亡し、倉山弁護士(滝沢修)の前に関係者が集まるが、その場で、吉田弁護士の調べで〈ゆき子〉が河原の子ではないことが判明したと倉山弁護士から発
表され、ゆき子はもちろん、詐欺罪に該当する里枝も相続権を失う。吉田弁護士は、ゆき子が替え玉であること知りながら黙っていたやす子にも相続の資格は無いと主張するが、やす子は、自分はゆき子が替え玉であると知らされていないし、書類の中身も見ていないと嘘をつく。吉田弁護士は逆に倉山弁護士から、ゆき子が替え玉であること知りながら河原に知らせなかったことの責任を追及される。結局、やす子のお腹の子だけが相続人となる―。
1962(昭和37)年公開作。原作は、経済学者でもあった直木賞作家・南条範夫(1908-2004/95歳没)の『からみ合い』で、1959年12月創刊の〈カッパ・ノベルス)で、松本清張の『ゼロの焦点』とこの作品が第一回配本でした。監督は、この年「
ピカレスク・ロマンの主役は秘書の宮川やす子(岸恵子)ですが、最初は他の関係者連中が、藤井(千秋実)が子どもの替え玉を用意したり、古川(仲代達矢)が里枝(渡辺美佐子)と二股かけようとしたりする中、彼女だけが唯一真面目に河原の息子(川津祐介)を探していて、それが終盤にになって彼女自身が急速な変貌を遂げてピカレスク・ロマンの主役となっていくところに引き込まれます。
吉田弁護士(宮口精二)が、河原に財団法人の設立資金を遺させ、その幹部に収まるの目論んで、〈ゆき子〉が偽物であることを自分から河原には言わず、(出張前に言うチャンスが無かったとして)やす子に言わせることでやす子を利用しようとしたのに対し、やす子は、〈ゆき子〉が偽物であると吉田からは聞かされておらず、(河原が亡くなる前に言うチャンスが無かったとして)書類の中身を見ないまま倉山弁護士(滝沢修)に渡したとして、吉田のやり方を逆手にとったところが面白いです。自分が財団の幹部になったら、「君の将来も十分に保証する」という吉田の言葉を、やす子はハナから信じていなかったということでしょう。
冒頭と結末が、すっかり貴婦人風となったやす子と、やや恨めしさを漂わす吉田弁護士との再会シーンになっていますが、やす子の子が生まれて間もなくして死んだと聞かされ、吉田はやす子の謀略を確信したのでしょう(その前に「河原とどっちに似た子か楽しみだったのに」と言っているから、最初から河原の子ではないと踏んでいたのかもしれない)。怪しい儲け話を持ち掛ける吉田に、やす子に弁護士は廃業しないのかと訊きますが、いつかあなたの弁護人を買って出るかも分からない、その時まで弁護士を辞めないと言っているから、その疑念は固い。ただし、それさえも、「ご心配なく。私は法律に逆らうようなことは決してしません」とのやす子の言葉にあっさり跳ね返されてしまうラストが見事でした。
いよいよ河原(山村聡)の容態が悪化し、やす子を抱けなくなって、裸で目の前を歩かせ(画面では首から上しか映ってないが)、それを病床から眺める様は、谷崎潤一郎原作の「


「からみ合い」●制作年:1962年●監督:小林正樹●製作:若槻繁/小林正樹●脚本:稲垣公一●撮影:川又昂●音楽:武満徹●原作:南条範夫●時間:115分●出演:岸惠子/山村聰/渡辺美佐子/千秋実/宮口精二/仲代達矢/滝沢修/信欣三/浜村純/槙芙佐子/川口敦子/芳村真理/鷹理恵子/利根司郎/大杉莞児/三井弘次/安部徹/永井玄哉/水木
涼子/千石規子/菅井きん/本橋和子/北龍二/北原文枝/川津祐介/蜷川幸雄/瀬川克弘/田中邦衛/佐藤慶●公開:1962/02●配給:松竹●最初に観た場所:神田・神保町シアター(08-09-20)(評価:★★★★)





長距離タンクローリーの運転手ゴロー(山﨑努)とガン(渡辺謙)がとある寂れたラーメン屋に入ると、店主のタンポポ(宮本信子)が
幼馴染の土建屋ビスケン(安岡力也)にしつこく交際を迫られていたところだった。それを助けようとしたゴローだが逆にやられてしまう。翌朝、タンポポに介抱されたゴローはラーメン屋の基本を手解きしタンポポに指導を求められる。そして次の日から「行列のできるラーメン屋」を目指し、厳しい修行が始まる―。
1985(昭和60)年公開の伊丹十三(1933-1997/64没)脚本・監督による「ラーメンウエスタン」と称したコメディ映画で、伊丹十三監督作としては、長
編第1作「
ーの運転手役で出演しており、この作品へのオマージュととれるし、三谷幸喜監督がこの作品を高く評価していることが窺える)。
伊丹十三作品の人気ランキングなどを見ると、「お葬式」「マルサの女」と並んでこの「タンポポ」はベスト3に入っていることが多いですし、個人的には、「マルサの女」に匹敵する面白さだとは思っていましたが、今回観直して、これは「マルサの女」よる上ではないかと(評価○から◎に変更!)。
米国で受け入れられたのは、〈ラーメン・ウエスタン〉のスタイルで「
を作り上げたことが大きいと思います。ラーメン店を一人で営む宮本信子の下にふらりと店に入ってきたトラック運転手の山崎努にしても常にカウボーイハットだし、自分たちの店のラーメンの味を貶された男たりがタンポポの店に押し掛ける時も、4人の男の内1人はさりげなくカウボーイハットで
した(ここは「
また、この作品の中には、13の食べ物にまつわるエピソードが織り交ぜられているということで、それらも愉しめたし、今思うと、錚々たる面子(メンツ)の俳優がそれらサブストーリーに出ていたことが思い起こされ、暫く観ていない人は観直してみるのもいいのではないでしょうか。メインストーリーに関わる登場人物が主役の宮本信子、山崎努らを含め23名なのに対し、サブストーリーの登場人物が冒頭の役所広司、黒田福美(ヴィスコンティ監督の「ベニスに死す」のパロディか。黒田福美はこの作品以降、伊丹作品の常連に)を筆頭に46名と倍以上いるといいいます。
また、渡辺謙演じるガンが本を読みながら頭の中で描き出しているラーメンの先生を演じた大友柳太朗(1912‐1985/73歳没)は、この映画が公開される前の1985年9月27日、東京都港区の自宅マンション屋上から飛び降り自殺しています。したがって、この「タンポポ」が遺作となったわけですが、死の前日には自ら監督の伊丹十三(この人も'97年に自殺することになるのだが)に電話をかけ、自分の出番がすべて撮影済みであることを確認していたそうです。


岡千恵蔵)ら赤穂浪士の動向を探る浪人「堀田隼人」という重要な役どころでした。80年代には現代劇において老人役として人気を博しましたが、次第に台詞覚えに苦労するようになり「老人性痴呆にかかった」と悲観しはじめ、不眠症にも悩まされるようになり、特に後輩の杉良太郎からの執拗なダメ出し・批判に悩まされ、自信を喪失していったとのことです。
因みに、西洋レストランで行われていた岡田茉莉子が講師を務めるマナー講座の近くの席で、パスタをすすったりげっぷを放つなどの騒音を出し、生徒たちが全員真似てパスタをすすって食べる元凶となった太った外人は、フランス出身のパティシエで日本で初となるフランス菓子専門店を開店させたアンドレ・ルコント(1932-1999)という人です。東京オリンピックを翌年に控えた1963年、ホテルオークラのシェフ・パティシエとして初めて日本を訪れ、本格的な砂糖菓子の彫刻を日本で最初に広めた人物です。
「タンポポ」●制作年:1985年●監督・脚本:伊丹十三●製作:玉置泰/細越省吾●撮影:田村正毅●音楽:村井邦彦●時間:115分●出演:山﨑努/宮本信子/渡辺謙/役所広司/安岡力也/加藤嘉/桜金造/大滝秀治/黒田福美/岡田茉莉子/高橋長英/橋爪功/大犮柳太朗/津川雅
彦/原泉/藤田敏八/高見映(高見のっぽ)/ギリヤーク尼ヶ崎/洞口依子/アンドレ・ルコント/中村伸郎/林成年/田武謙三/井川比佐志/三田和代/大月ウルフ/上田耕一●公開:1985/11●配給:東宝(評価:★★★★☆)
➀ 白服の男(役所広司)とその情婦(黒田福美)が冒頭に登場し、映画館の最前列を陣取って食事をしようとする。



15世紀前半のヨーロッパのP王国では、C教という宗教が中心となっていた。地動説は、その教義に反く考え方であり、研究するだけでも拷問を受けたり、火あぶりに処せられたりしていた。その時代を生きる主人公・ラファウは、12歳で大学に入学し、神学を専攻する予定の神童であった。しかし、ある日、地動説を研究していたフベルトに出会ったことで地動説の美しさに魅入られ、命を賭けた地動説の研究が始まる―。
こうした設定自体が、なかなかユニークだと思いましたが、第1巻で主人公が死んじゃうのですねえ。後、どうするんだろうと思ったら、どんどん次の人というか次の世界に話を繋げていくようです。これって、結構。描く側はたいへんだと思いますが、ちゃんと構想は出来上がっているのでしょう。

バリバリのキャリアウーマンで生涯独身だった伯母が孤独死。黒いシミのような状態で発見された。衝撃を受けた山口鳴海(35歳独身)は婚活より終活にシフト。誰にも迷惑をかけず、ひとりでよりよく死ぬためにはよりよく生きるしかないと決意する―。
●2025年ドラマ化【感想】2025年6月21日からNHK総合の「土曜ドラマ」枠にて綾瀬はるか主演でドラマ放映された。脚本は、以前に観てそこそこ面白かった「
えないし)。W主演ではないが、美術館の同僚の那須田優弥を演じる佐野勇斗の方が、役との親和性が高く独自の存在感があったかも。
「ひとりでしにたい」●脚本:大森美香●演出:石井永二/小林直希)●音楽:パスカルズ(エンディング:椎名林檎「芒に月」)●原作:カレー沢薫●時間:45分●出演:綾瀬はるか/佐野勇斗/山口紗弥加/小関裕太/恒松祐里/満島真之介/麿赤兒/岸本鮎佳/藤間爽子/小南満佑子/コウメ太夫/國村隼/


一見うだつが上がらなそうに見えて実は剣の達人・三沢伊兵衛(長門勇)は、恋人である家老の娘・妙(岩下志麻)を連れて脱藩した。古谷藩の愚鈍な殿様の側室になるよう強要された妙との旅は、すぐ追手につけられる破目となる。すぐにも宿賃を稼がなければならない伊兵衛は、神道
無双流秘法極意階伝の腕前を利用して、武士の掟を犯して町道場で賭試合を挑んだ。太刀落しという奇妙な手で勝った伊兵衛のもとに、迫手は刺客として浪人・大庭軍十郎(丹波哲郎)をむけていた。一方隣藩ににげるため十両を必要とした伊兵衛は武道大会で偶然にも軍十郎と相討ちとなった。この試合を見ていた小室帯刀(宮口精二
)はかつて娘・千草(倍賞千恵子)を川越人足から助けてくれた礼をも兼ねて伊兵衛に仕官を勧める。念願の仕官成就に喜ぶ伊兵衛だった、後日、賭試合をして剣を汚した事を理由に、一転して小室藩は仕官を断ってくる。傷心の伊兵衛だが帯刀と千草の温い心に送られて関所を越えようとするが、その関所で追手に正体を見破られて斬り合いになり、大立回りの最中に敵方の軍十郎が現れるが―。
内川清一郎(1922-2000)監督の1964(昭和39)年作で、原作は山本周五郎の「
まず、「道場破り」では、伊兵衛の脱藩理由が、岩下志麻が演じる、藩のバカ殿の側室になるよう強要された妙(たえ)を、独り道中の駕籠を襲って奪還し、一緒に出奔したことになっていますが、原作では特にそうした理由はなかったように思います。また、賭け試合をしたことが仕官の話が白紙化する原因となったのは原作と同じですが、原作では賭け試合をした理由が、宿賃を稼いで日々の糊口をしのぐためだったのに対し、映画「道場破り」では、関所越えに使う賄賂のためにまとまった金子(きんす)を作ろうとしたのが理由になっています。
また、倍賞千恵子が演じる千草(倍賞千恵子は岩下志麻と同じ年の生まれなのだが、ここでは倍賞がすごく"お嬢さん"に見え、対する岩下志麻は、しばしば"超絶
美人"に見える)は、原作の「雨あがる」にも続編の「雪の上の霜」にも出て来ないし、さらに、丹波哲郎が演じる、映画で大きな役割を占める大庭軍十郎も、同じく映画のオリジナルキャラクターです(したがって、軍十郎がかつて伊兵衛
と同じ境遇にあったという話も、当然に原作には無い話)。
その上で、丹波哲郎が演じる、いかにも剣豪風の大庭軍十郎との賭け試合での対戦などがあり、剣豪ものとして愉しめました。映画「雨あがる」の寺尾聡の演技もまずまずでしたが、「道場破り」の方は、丹波哲郎と長門勇というギャップのある二人が闘っているところが、面白さを倍増させています。
貧しい人たちが泊まる宿の様子もリアルに描かれていてシズル感があり、殿山泰司が演じる人情味のある宿の主人も良かったです。易者役で浜村純、いかけ屋役で左卜全なども出ていて、脇役・端役に至るまで芸達者揃い。映画「雨あがる」の方は、細部の描き方がそこまでいっていなかったし、「道場破り」ほど光る脇役がおらず、エキストラに至っては学芸会並みだったので、いろいろ面で「道場破り」の方が上であるように思いました。
最後、伊兵衛は当初意図していなかったものの、結果的には〈関所破り〉になってしまっていて、この後は伊兵衛は追われる身になるのでは、と心配になりますが、軍十郎とたった二人で全員を片付けてしまっているので、生きている目撃者は一人もいないということなのでしょう。
因みに、長門勇(1932-2013)は、浅草のコメディアン出身で全国的には無名だったのが、この映画の前年'63年10月から始まったテレビドラマ「三匹の侍」で、岡山弁丸出しの槍の名手・桜京十郎を演じて(実際
「三匹の侍」の第1シリーズの演出を主に担当したのは当時フジテレビのディレクターだった五社英雄で、かつてない斬新な殺陣とカメラワークに加え、"バサッ、ビュン、カキーン、ズボッ"と、人を斬る音、刀の刃風、刀と刀が打ち当る刃音、槍の突き刺す音が初めてテレビに出現、また、効果音だけでなく、狭いスタジオでの立ち回りをカバーするために、「写真斬り」(等身大に引き伸ばした写真を刀で斬ってこれを撮影すると、一瞬のことなので、小さなテレビの画面では本当に人が斬られたように見える)といったテクニックなども生み出しています。
「三匹の侍(2)」1964/10~1964/04(全27回)/「三匹の侍(3)」1965/10~1966/04(全27回)/「三匹の侍(4)」1966/10~1967/03(全26回)/「三匹の侍(5)」1967/10~1968/03(全26回)/「鬼平犯科帳(6)」1968/10~1969/03(全25回)(全157回)
「道場破り」●制作年:1964年●監督:内川清一郎●製作:岸本吟一●脚本:小国英雄●撮影:太田喜晴●音楽:佐藤勝●原作:山本周五郎「雨あがる」●時間:91分●出演:長門勇/丹波哲郎/岩下志麻/倍賞千恵子/宮口精二/上田吉二郎/富田仲次郎/今橋恒/青木義朗/浜村純/殿山泰司/高橋とよ/左卜全●公開:1964/01●配給:松竹(評価:★★★★)
長門勇(三沢伊兵衛)/宮口精二(小室帯刀)