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映画よりも謎解きが分かりやすかった。プロットを落ち着いて確認できるのはドラマのメリットか。


「名探偵ポワロ 34 [レンタル落ち]」『ナイルに死す (ハヤカワ・ミステリ文庫)
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解雇に遭って文無しのサイモン・ドイルと婚約したジャックリーンは資産家の友人リネットに彼を雇ってもらうが、若く美しいリネットは友人の婚約者を奪って結婚してしまい、エジプトへ新婚旅行に出かける。リネットは、エジプトのホテルで一緒になったポワロに、ジャクリー
ンが執拗に二人を追いまわしているので交渉してほしいと相談をもちかけるが、略奪婚の話を聞いているポワロは断る。ポワロはジャクリーンにストーキング行為を止めるよう注意するが彼女は聞き入れず、サイモン夫妻が参加したナイル川クルーズの同じ船に彼女もいた。クルーズには、ゴシップ好きなアラートン夫人、その息子ティム、リネットの会社の米国管財人ペニントン、小説家サロメ・オタボーン、その娘ロザリー、ヴァン・シュワイラー夫人、その娘コーネリア、共産主義者ファーガソン、医師ベクターなどもいた。遺跡見学中にリネットの頭上から石が落ちてくる出来事
があった。一方、ポワロは旧知のレイス大佐と再会。その晩、ポワロが早く寝てしまった後、ブリッジをしていた人たちの所にジャクリーンとコーネリアが来てリネットが寝室に戻たところで、ジャクリーンが突然ピ
ストルでサイモンの脚を撃つ。自身狼狽するジャクリーンをコーネリアとファーガソンが部屋に連れて行き、ベクター医師がサイモンの膝を治療、鎮静剤を打って眠らせる。翌朝、起床したポワロにレイス大佐から、リネットが撃たれて死んだとの知らせが入り、大佐の指揮で捜査が始まるが、不審者の目撃を仄めかしたドイルのメイドのルイーズが刺殺され、更にはルイーズと会った人物について話そうとしたサロメが射殺される―。
「名探偵ポワロ」の第52話(第9シーズン第3話)でロング・バージョン。本国放映は2004年4月12日、本邦初放映は2005年8月23日(NHK-BS2)。原作はアガサ・クリスティが1937年に発表した長編作品であり、クローズド・サークルものの傑作とされ、1982年に行われた日本クリスティ・ファンクラブ会員の投票ではクリスティの全作品中5位に入っています。
「ナイル殺人事件」('78年/英)
同じ原作の映画化作品であるジョン・ギラーミン監督の「ナイル殺人事件」('78年/英)が、ポワロ役のピーター・ユスティノフ他オールスター・キャスト映画としてよく知られていて、しかも"クルーズ観光映画"とでも言うべきか旅行気分も味わえる作品ですが、犯人が誰だったかということについては強烈な印象があるものの、事件の細かい経緯は忘れてしまったので(映画は'78年の公開年に観てその後テレビでも観たと思うが)、この「名探偵ポワロ・シリーズ」で改めて観て経緯を再確認したといったところでしょうか(原作の船客からは考古学者のリケティ、弁護士のファンソープ、看護師のミス・バワーズの3人が削られている)。
犯人の解明に至るプロセスを改めて堪能したという感じです。映画の方は、推理半分・観光半分みたいな感じで、最後ポワロが関係者全員を集めて定番の謎解きをするのですが、それがややバタバタっという印象であったのに対し(後で原作を読んで細部について納得した記憶がある)、このテレビ版は、ポワロがさほど大げさなことはしませんが丹念に謎解きをしてくれているように思いました(舞台の派手さよりも。謎解き重視か)。"観光映画"としては、劇場版に比べるとさすがに地味ですが、それでもTVシリーズとしては結構お金がかかっている感じです。戯曲にもなっているように、その気になれば全て室内での演技でも出来てしまう作品なのですが、原作より上流の方らしいけれどちゃんとナイル川に船を出して遺跡巡りもしています(エジプトが舞台の第7話「海上の悲劇」('89年)はギリシャで、第34話「エジプト墳墓のなぞ」('93年)はスペインでそれぞれ撮影されている)。

映像化作品では、リネットがお金持ちであるだけでなく美人であり(このドラマでは「プラダを着た悪魔」('06年/米)でブレイクする直前のエミリー・ブラントが金髪のウィッグで演じている)、一方のエマ・グリフィス・マリン(「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第15話)/魔術の殺人」 (09年)にも出演している)演じるストーカー行為を行うジャクリーンはコンプレックスをしょい込んだような、普通の男性だったらあまり近づきたくない感じ
の女性であって(映画版では
演技派ミア・ファローが好演)、ジャクリーンからリネットに"乗り換えた"サイモン・ドイルはややとっぽい感じの美男子というのがミソでしょうか。男女間の意外な関係がラストで明かされるというのは、クリスティだけでなく、その後も英国ミステリで何度か使われていますが、この作品の場合、先入観無しで映像(見た目)から入っていくと尚更分からないだろなあ(映画もそうだった)。
Emma Griffiths Malin as Jacqueline de Bellefort
最初に映画を観た時には、動機について伏線が全然無かったではないかとの印象で星3つの評価(△評価)をつけましたが、このTVドラマ版では、ポワロが先入観ではなくロジックで謎解きをしていることがよく分かり、映画よりやや上の星3つ半(○評価)にしました。映画とTVシリーズとで同列で評価するのは難しいけれど、プロットを落ち着いて確認できるというTVドラマのメリットが生かされていたように思います。
Death on the Nile

「名探偵ポワロ(第52話)/ナイルに死す」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON9:DEATH ON THE NILE●制作年:2004年●制作国:イギリス●本国放映:2004/04/12●監督:アンディ・ウィルソン●脚本:ケヴィン・エリオット●時間:99分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/エマ・グリフィス・マリン(ジャクリー
ン)/JJ・フィールド(サイモン)/エミリー・ブラント(リネット)/バーバラ・フリン(アラートン夫人)/ダニエル・ラパイン(ティム)/ジュディ・パーフィット(ヴァン・シュワイラー)/デイジー・ドノヴァン(コーネリア)/フランセス・デラチュア
(オタボーン夫人)/デビッド・ソウル(ペニストン)/ジェームズ・フォックス(レイス)●日本放映:2005/08/23●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)
Emma Griffiths Malin






ポワロの秘書ミス・レモンの姉ハバード夫人が管理人を務めるヒッコリー・ロードにある学生寮で奇妙なものが盗まれる事件が頻発し、ミス・レモンはポワロに相談する。学生寮のオーナーのニコレティスは気難しい女性で、学生たちへの犯罪学の講演名目で寮ににやった来たポワロを歓迎していない様子。寮
にいる学生は、医学生のレオナルド、アメリカからフルブライト留学生で英文学専攻のサリー、考古学・中世史専攻のナイジェル、政治学専攻のパトリシア、心理学専攻のコリン、化学専攻のシーリア、服飾デザイン専攻のヴァレリーら7人。盗まれた品物の内訳は、聴診器、指
輪、ライター、ホウ酸、夜会靴の片方、リュックサック、電球などで、被害は大したものではないが、それを見たポワロは盗みの陰に潜む危険を察知する。程なくして盗
みの犯人が盗癖持ちだったという女子学生シーリアと判明するが、彼女は一部の品については盗んでいないと言う。ポワロが事件の予感を覚えた直後にシーリアが毒殺される事件が起き、医学生のレオナルドへの容疑が強まるが、次いで学生寮のオーナー女性ニコレティスが何者かに刺殺される―。
「名探偵ポワロ」の第43話(第6シーズン第2話)でロング・バージョン。本国放映は1995年2月12日、本邦初放映は1996年12月30日(NHK)で、第42話「ポワロのクリスマス」より1年早く放映されています。原作はクリスティが1955年に発表したポアロシリーズ第26作。映像化作品としては、戦後発表されたものの中では(戦前に発表した短編を戦後に中篇に拡張した「盗まれたロイヤル・ルビー」「スペイン櫃の秘密」を除いて)シリーズ初登場とのことですが、時代設定は他のシリーズ作品同様1930年代半ばにしています。
原作は、学生寮にいて様々な出身国の学生が集い自由に議論したりする様は印象深かったですが、登場人物が多すぎて(文庫巻頭の登場人物一覧表に記載されている寮生だけでも11人、全部で16人か)、しかもその中で殺害された者を除いて全員容疑者とあって、もう最後は犯人が誰だっていいや的な気分になりそうでしたが、推理通に言わせれば、ロジックで辿っていくと犯人は判るようになっているとのことです(個人的には全然判らなかった)。
この映像化作品では、さすがに100分の話の中に寮生十数人を全部詰め込むのは無理と考えたのか7人に絞っていて、原作では、ジャマイカからの黒人の留学生エリザベス、西アフリカ人の黒人の留学生アキンボ、その他インド人の学生など有色人種の学生も結構いましたが、全部白人になっています。これは別に人種差別ということでもなく(フランス人の留学生なども省かれている)、時代設定を戦前にしたことに関係しているのではないかと思います。
まあ、その前に、登場人物を減らしてスッキリさせるという狙いがあったかと思いますが、それが成功しているように思います。品物が盗まれる事件に複数の人物の動機が絡んでいて、それだけでも複雑であるため、これで容疑者が10人も15人もいたら何が何だか分からなくなるところでしたが(原作を読んだ時はその印象に近かった)、この映像化作品を観て腑に落ちたという感じでしょうか。
「名探偵ポワロ(第43話)/ヒッコリー・ロードの殺人」●原題:AGAHTA CHRISTIE'S POIROT SEASON6:HICKORY DICKORY DOCK●制作年:1995年●制作国:イギリス●本国放映:1995/02/12●監督:アンドリュー・グリーブ●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●時間:103分●出演:デビッド・スーシェ(ポワロ)/フィリップ・ジャクソン(ジャップ)/ ポーリン・モラン(ミス・レモン)/パリス・ジェファーソン(サリー・フィンチ)/ナイジェル・チャップマン(ジョナサン・ファース)/ダミアン・ルイス(レナード・ベイトソン)/ギルバート・マーティン(コリン・マクナブ)/エリナー・モリストン(バレリー・ホブハウス)/ポリー・ケンプ(パトリシア・レーン)/ジェシカ・ロイド(シーリア・オースティン)/サラ・ベデル(ハバード夫人)/レーチェル・ベル(ニコレティス夫人)/グランヴィル・サクストン(キャスタマン氏)/デビッド・バーク(サー・アーサー・スタンリー)●日本放映:1996/12/30●放映局:NHK(評価:★★★☆)



1938年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロ・シリーズの第16作で(原題:Appointment with Death)、前年発表のポワロシリーズ『
『ナイルに死す』はジョン・ギラーミン監督の映画「
映画「死海殺人事件」は、「ナイル殺人事件」やガイ・ハミルトン監督の「
演じていますが(共演者に「
原作では、ボイントン夫人は虐待に近いような子供達の扱いぶりで、しかも太った醜い女性として描かれていますが、映画では専制的ではあるものの、原作までは酷くないといった感じでしょうか。それでも、殺害された彼女は皆から嫌われていたわけで、遺産相続も絡んでいて(それが目眩ましにもなっているのだが)、登場人物全員が容疑者候補であるのは原作と同様です(殺人事件があって禁足令が出ているけれど、旅行自体は皆続けるのだろうなあ)。『オリエント急行の殺人』と同様、ポワロの聴き取りに対して誰かが(場合によっては複数が)虚偽を述べているわけであって、ある種"叙述トリック的であるわけですが、これを映像化するのは難しかったかもしれません。
実際、映画を観ると、容疑者達の陳述が真実であろうと虚偽であろうと、その陳述に沿った映像化がされているため、途中からある程度そのことを含み置いて観ていないと、無かったことを映像化するのは《掟破り》ではないか(フランソワ・トリュフォーなどはアルフレッド ヒッチコックへのインタビュー『映画術』でそう言っている)ということになります。まあ、原作でも映画でも、初めてで犯人が判ればなかなかのものだと思いますが、映画を観て改めて新米医師であるサラの死亡推定時刻の見立ては正しかったのだなあと再確認しました。ピーター・ユスティノフがポワロを演じてきた映画は、この作品で英国から米国のB級映画会社に製作が移った
ものの(この会社は後に倒産する)、ユスティノフの演技自体は悪くないし(「ナイル殺人事件」「地中海殺人事件」に続いてこの映画も"旅行もの"であるため違和感が無い)、ローレン・バコールのキツイ顔もいいけれど
(初めて観た時はさすがに老けたなあと思ったが、彼女が亡くなったのは2014年でこの作品の26年後89歳で亡くなっている)、やはり、「起きなかったことを映像化している」点がちょっと引っ掛かりました(他に何かいい手があるわけではないが)。デヴィッド・スーシェ版「


ける)が事件解決に臨む。ストーリーは概ね原作通りで、原作に対するリスペクトが感じられる。ただし、時代設定を昭和30年に置き換え、舞台を"巡礼の道"として世界遺産にも登録されている熊野古道および和歌山県天狗村にある「黒門ホテル」にしているため、作品の雰囲気はかなり違ったも
のとなっている。熊野本宮大社は本物の現地ロケ、熊野古道ツアーのスタート地点「発心門王子」には浜松市にある「方広寺」が使われ(2018年に行った。参道が長い山道になっている)、黒門ホテルの外観
の概観は「蒲郡クラシックホテル」が使われたが、内観はセット撮影であるとのこと。全体に三谷幸喜らしいコメディタッチで、殺害される金持ちの未亡人(松坂慶子)さえもユーモラスでどこか憎めない(松坂慶子はコメディ専門になったのか?)。映画でローレンン・バコールが演じた女性代議士(鈴木京香)が、勝呂と旧知であるというのはドラマのオリジナル。でも、プロットは原作をそのまま活かしていることもあって愉しめた。
「死海殺人事件」●原題:APPOINTMENT WITH DEATH●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督・製作:マイケル・ウィナー●脚本:アンソニー・シェーファー/ピー
ター・バックマン/マイケル・ウィナー●撮影:デヴィッド・ガーフィンケル●音楽:ピノ・ドナッジオ●原作:アガサ・クリスティ「死との約束」●時間:103分●出演:ピーター・ユスティノフ/ローレン・バコール/キャリー・フィッシャー/ジョン・ギールグッド/パイパー・ローリー/ヘイリー・ミルズ/ジェニー・シーグローヴ/デビッド・ソウル/アンバー・ベゼール/マ
イケル・グレイブ/ニコラス・ゲスト/ジョン・ターレスキー/マイク・サーン●日本公開:1988/05●配給:日本ヘラルド映画(評価★★★)


【1957年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(高橋豊:訳)/1978年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(高橋豊:訳)]/2004年再文庫化[ハヤカワ・クリスティー文庫(高橋豊:訳)]】



日露戦争開戦目前の1901(明治34)年10月、軍部はロシア軍と戦うためには雪と寒さに慣れておく必要があると判断、弘前の第4旅団司令部で行われた「日露戦争に備えての雪中行軍作戦会議」に、弘前第8師団より第4旅団長・友田少将(島田正吾)、参謀長・中林大佐(大滝秀治)、「弘前第31連隊」より連隊長・児島大佐(丹波哲郎)、第1大隊長・門間少佐(藤岡琢也)、徳島大尉(高倉健)、「青森第5連隊」よ
り津村中佐(小林桂樹)、木宮少佐(神山繁)、神田大尉(北大路欣也)、第2大隊長・山田少佐(三國連太郎)らがそれぞれ出席して、耐寒訓練として冬の八甲田山を軍行する計画を立て、神田大尉率いる「青森第5連隊」と徳島大尉率いる「弘前第31連隊」の参加が決まる。双方は青森と弘前から出発、八甲田山ですれ違うという進行が大筋だった。翌年1月20日、徳島率いる弘前
第31連隊は、雪に馴れている27名の編成部隊で弘前を出発し、一方の神田大尉も小数精鋭部隊の編成を申し出たが、大隊長・山田少佐に拒否され210名という大部隊で青森を出発した。神田の青森第5連隊の実権は大隊長・山田少佐に移っており、神田の用意した案内人を山田が断ってしまう。神田の部隊は低気圧に襲われ、磁石が用をなさなくなり、ホワイトアウトの中に方向を失い、次第に隊列は乱れ、狂死する者
さえ出始める。一方徳島の部隊は、案内人(秋吉久美子)を先頭に風のリズムに合わせ、八甲田山に向って快調に進む。出発してから1週間後、徳島隊は八甲田に入って神田大尉の従卒の遺体を発見、神田の青森第5連隊の遭難は疑う余地はなかった。そして徳島は、吹雪の中で永遠の眠りにつく神田と再会。青森第5連隊の生存者は山田少佐以下12名。徳島の弘前第31連隊は全員生還。山田少佐はその後に拳銃自殺する―。
1977年公開の森谷司郎監督、橋本忍脚本、高倉健・北大路欣也主演作品で、原作は新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』('71年/新潮社)。原作は、1902(明治35)年)1月、陸軍第8師団の「青森歩兵第5連隊」が青森市街から八甲田山の田代新湯に向かう雪中行軍訓練で参加者210名中199名が死亡した事件に材を得ていますが、「弘前歩兵第31連隊」の雪中行軍訓練と時期は重なるものの、お互いに相手の計画を知らなかったということで、これを徳島・神田両大尉が同時に行軍指揮の命令を受け、事前に両隊が八甲田山で出会うことを示し合わてスタートしたように描き、更に、強行スケジュールを立てて先を急いだ神田・青森隊と、自然の驚異への畏怖からそれに逆らわず慎重に行動した徳島・弘前隊を対比的に描くことで、ちょうど南極点一番乗りを目指して片や偉業達成、片や全滅したアムンゼン隊とスコット隊の物語のようにドラマチックにしたのは、新田次郎の作家としての力量の為せる技でしょう。
従って、事実としては、映画のように高倉健が演じた徳島大尉(モデルは福島泰蔵大尉)と北大路欣也が演じた神田大尉(モデルは神成文吉大尉)が出発前に出会って語らったこともなく、また、映画では三國連太郎演じる山田少佐(モデルは山口鋠少佐)の我田引水の判断や行動が遭難事故の誘因となったように描かれていますが、実際には山口少佐の遭難事故に与えた影響は判明していないそうです(部下の犠牲で生き残ったことへの自責の念から病院で拳銃自殺するというのも新田次郎の創作)。
一方の、徳島大尉は理想のリーダーのように描かれていますが、実際には福島隊も地元の案内人との関係は良くなかったらしく、高倉健の徳島大尉が秋吉久美子演じる(軽々と雪山を登って行く部分はスタント?)案内人に感謝の意を表して部下らに捧げ銃を命じるのは完全に映画のオリジナルで、新田次郎原作においてすら、小銭を渡して冷たくあしらったことになっています(映画では、三國連太郎演じる山田少佐が「金目当てか?」と案内人を追い返したのと対照的な行動として描かれている。感動的な場面ではある)。
しかしながら、事実がどうだったかはともかく、映画は映画としてみれば面白く、少なくとも長尺の割には、途中飽きることはありませんでした。原作の方は企業研修や大学において、リスクマネジメントやリーダー論などの経営学のケーススタディに用いられることがあるようですが、当然事前に読ませておくということでしょう。映画も(その後の討論を含め1日がかりの研修ならともかく)勤務時間中に見せるのは約2時間40分の長さはきついかもしれません。
そもそも、原作にしても映画にしても、明治陸軍という特殊な組織の中での話であって、これを現代のビジネス社会に当て嵌めて考えたり応用したりするには無理があるという見方もあるようですが、確かにそうした面もあるかもしれないし(「北大路欣也演じる神田大尉が上官の無茶な命令に逆らえないのはフォロワーシップの欠如だ」と言うのは簡単だが、当時の陸軍においては上官命令には絶対服従だっただろう)、一方、高倉健演じる徳島大尉はあまりに理想的に描かれ過ぎている感じもします。しかしながら、個々のリーダーシップと言うより組織論的な観点から見ると、命令系統の混乱が青森隊を混迷状況に陥れたわけで、マネジメントにおける「命令統一の原則」が守られなかった場合どうなるかということと呼応しており、参考になる部分はあるかもしれません。
今日まで続く"山岳映画"の流れの嚆矢にもなったとされる作品ですが(一応これ以前にも「



「八甲田山」●制作年:1977年●監督:森谷司郎●製作:
山谷初男/丹古母鬼馬二/菅井きん/加藤嘉/田崎潤/栗原小巻/金尾哲夫/玉川伊佐男/江角英明/樋浦勉/浜田晃/加藤健一/江幡連/高山浩平/安永憲司/佐久間宏則/大竹まこと/新克利/山西道宏/船橋三郎●公開:1977/06●配給:東宝(評価:★★★☆)



チェロ奏者の小林大悟(本木雅弘)は、所属していた楽団の突然の解散を機にチェロで食べていく道を諦め、妻・美香(広末涼子)を伴い、故郷の山形へ帰ることに。さっそく職探しを始めた大悟は、"旅のお手伝い"という求人広告を見て面接へと向かう。しかし旅行代理店だと思ったその会社の仕事は、"旅立ち"をお手伝いする"納棺師"というものだった。社長の佐々木生栄(山崎努)に半ば強引に採用されてしまった大悟。世間の目も気になり、妻にも言い出せないまま、納棺師の見習いとして働き始める大悟だったが―。
2008年公開の滝田洋二郎監督作で、脚本は映画脚本初挑戦だった放送作家の小山薫堂。第32回「日本アカデミー賞」の作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞(本木雅弘)・助演男優賞(山崎努)・助演女優賞(余貴美子)・撮影賞・照明賞・録音賞・編集賞の10部門をを独占するなど多くの賞を受賞しましたが(第63回「毎日映画コンクール 日本映画大賞」、第33回「報知映画賞 作品賞」、第21回「日刊スポーツ映画大賞 作品賞」も受賞)、その前に第32回モントリオール国際映画祭でグランプリを受賞しており、更に日本アカデミー賞発表後に第81回米アカデミー賞外国語映画賞の受賞が決まり、ロードショーが一旦終わっていたのが再ロードにかかったのを観に行きました(2009年(2008年度)「芸術選奨」受賞作。脚本の小山薫堂は第60回(2008年)「読売文学賞」(戯曲・シナリオ賞)、本木雅弘と映画製作スタッフは第57回(2009年)「菊池寛賞」を受賞している)。
主演の本木雅弘のこの映画にかけた執念はよく知られていますが、"原作者"に直接掛け合ったものの、原作者から自分の宗教観が反映されていないとして「やるなら、全く別の作品としてやってほしい」と言われたようです。もともとは、本木雅弘が20歳代後半に藤原新也の『メメント・モリ―死を想え』('83年/情報センター出版局)を読み、インドを旅して、いつか死をテーマにしたいと考えていたとのことで、まさに「メメント・モリ」映画と言うか、いい作品に仕上がったように思います(結局、原作者も一定の評価をしているという)。
特に、前半部分で主人公が"納棺師"の仕事の求人広告を旅行代理店の求人と勘違いして面接に行くなどコメディタッチになっているのが、重いテーマでありながら却って良かったです(逆に後半はややベタか)。技術的な面や宗教性の部分で原作者に限らず他の同業者からも批判があったようですが、それら全部に応えていたら映画にならないのではないかと思います。こうした仕事に注目したことだけでも意義があるのではないかと思いますが(ジャンル的には"お仕事映画"とも言える)、米アカデミー賞の選考などでは、同時にそれが作品としてのニッチ効果にも繋がったのではないでしょうか(アカデミーの外国語映画賞が、前3年ほど政治的なテーマや背景の映画の受賞が続いていたことなどラッキーな要素もあったかも)。
Wikipediaに「地上波での初放送は2009年9月21日で21.7%の高視聴率を記録したが、2012年1月4日の2回目の放送は3.4%の低視聴率」とありましたが、2回目の放送は日時が良くなかったのかなあ。こうした映画って、ブームの時は皆こぞって観に行くけれど、時間が経つとあまり観られなくなるというか、《無意識的に忌避される》ことがあるような気がしなくもありません。そうした傾向に反発するわけではないですが、個人的には、最初観た時は星4つ評価(○評価)であったものを、最近観直して星4つ半評価(◎評価)に修正しました(ブームの最中には◎つけにくいというのが何となくある?)。「メメント・モリ」映画の"傑作"と言うか、むしろ"快作"と言った方が合っているかもしれません。
滝田洋二郎監督は元々は新東宝で成人映画を撮っていた監督で、初めて一般映画の監督を務めた「コミック雑誌なんかいらない!」('86年/ニュー・センチュリー・プロデューサーズ)でメジャーになった人です。個人的には、鹿賀丈史、桃井かおり主演の夫婦で金儲けに精を出す家族を描いた「木村家の人びと」('88年/ヘラルド・エース=日本ヘラルド映画)を最初
に観て、部分部分は面白いものの、全体として何が言いたいのかよく分からなかったという感じでした(ぶっ飛び度で言えば、石井聰互監督の「
また、滝田洋二郎(1955年生まれ)監督は、'81(昭和56)年、「痴漢女教師」で監督デビュー後、'82(昭和57)年2本、'83(昭和58)年4本、'84(昭和59)年8本と倍のペースでメガホンを取り、"邦ピン・ニューエンタテイメントの旗手"などと称され(「ニューエンタテイメントの旗手としてピンクの枠を超える29歳」「シティロード」1985年4月号)、成人映画の監督として話題作を連発し耳目を集めましたが(森崎東監督はピンク映画の撮影現場を舞台にした「
寂れたポルノ映画館で自身が犯した強姦殺人事件の時効を待ちつつ映写技師として働く勝三(大杉漣)は、都会の人混みに紛れることで気付かれないようにしていた。ある日、上映中の映画「密写 連続暴姦」の中に、過去自分が起こした強姦殺人事件とそっくりな場面が写っていた。何故だ! 一方、自分が7歳の時に目の前で殺された姉(織本かおる)の復讐をするために犯人の男を必死に捜す妹・冬子(織本かおる、二役)。犯人の手掛かりは現場に落ちていた映画のフィルムを繋げる特殊なテープであり、きっと映画関係者に違いないと思い、シナリオを勉強して姉の殺害シーンを盛り込んだシナリオを書き、同僚の山崎千代子(竹村祐佳)の名で発表、それが映画化されたらきっと犯人の目に止まると考えていた。そして、その目論見は当たり―。
個人的には、自由が丘の「自由ヶ丘劇場」で観ましたが、仄聞していた通りピンク映画と言うよりサスペンス映画でした(勿論ピンク映画でもあるが)。凝った構成と人物描写、脚本に緻密に伏線を張り巡らせていて(ただし、張り巡らせている割には長さが60分しかないため説明不足の箇所があり、評価は△。今や"滝田洋二郎研究"ための作品か)、本作は第5回「ズームアップ映画祭」作品賞と監督賞、第5回「ピンクリボン賞主演」男優賞(大杉漣)を受賞しています(もちろん、当時は大杉漣(1951-2018/66歳没)はまだ一部の人しか知らない無名俳優)。滝田洋二郎監督に限らず、
「おくりびと」●制作年:2009年●監督:滝田洋二郎●製作:中沢敏明/渡井敏久●脚本:小山薫堂●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:130分●出演:本木雅弘/広末涼子/山崎努/杉本哲太/峰岸徹/余貴美子/吉行和子/笹野高史/山田辰夫/橘ユキコ/飯森範親/橘ゆかり/石田太郎/岸博之/大谷亮介/諏訪太郎/星野光代/小柳友貴美/飯塚百花/宮田早苗/白井小百合●公開:2008/09●配給:松竹●最初に観た場所:丸の内ピカデリー3(09-03-12)(評価:★★★★☆)




丸の内松竹(丸の内ピカデリー3) 1987年10月3日「有楽町マリオン」新館5階に「丸の内松竹」として、同館7階「
ン、1996年6月12日~「丸の内ブラゼール」、2008年12月1日~「丸の内ピカデリー3」) (「丸の内ルーブル」は2014年8月3日閉館)
「木村家の人びと」●制作年:1988年●監督:滝田洋二郎●脚本:一色伸幸●撮影:志賀葉一●音楽:大野克夫●原作:
谷俊彦●時間:113分●出演:鹿賀丈史/桃井かおり/岩崎ひろみ/伊崎充則/柄本明/木内みどり/風見章子/小西博之/清水ミチコ/中野慎/加藤嘉/木田三千雄/奥村公延/多々良純/露
原千草/辻伊万里/今井和子/酒井敏也/鳥越マリ/池島ゆたか/上田耕一/江森陽弘/津村鷹志/竹中
直人/螢雪次朗/ルパン鈴木/山口晃史/三輝みきこ/小林憲二/野坂きいち/江崎和代/橘雪子/ベンガル●劇場公開:1988/05●配給:東宝 (評価★★★)
「秘密」●制作年:1999年●監督:滝田洋二郎●製作:児玉守弘/田上節郎/進藤淳一●脚本:斉藤ひろし●撮影:栢野直樹●音楽:宇崎竜童●原作:東野圭吾●時間:119分●出演:広末涼子/小林薫/岸本加世子/金子賢/石田ゆり子/伊藤英明/大杉漣/山谷初男/篠原ともえ/柴田理恵/斉藤暁/螢雪次朗/國村隼/徳井優/並樹史朗/浅見れいな/柴田秀一●劇場公開:1999/09●配給:東宝 (評価★★★☆).jpg)
「壬生義士伝」●制作年:2003年●監督:滝田洋二郎●製作:松竹/テレビ東京/テレビ大阪/電通/衛星劇場●脚本:中島丈博●撮影:浜田毅●音楽:久石譲●時間:137分●出演:中井貴一/佐藤浩市/夏川結衣/中谷美紀/山田辰夫/三宅裕司/塩見三省/野村祐人/堺雅人/斎藤歩/比留間由哲/神田山陽/堀部圭亮/津田寛治/加瀬亮/木下ほうか/村田雄浩/伊藤淳史/藤間宇宙/大平奈津美●公開:2003/01●配給:東宝 (評価:★★☆)
「連続暴姦」●制作年:1983年●監督:滝田洋二郎●脚本:高木功●撮影:佐々木原保志●時間:60分●出演:織本かおる/大杉漣/麻生うさぎ/螢雪次朗/佐々木裕美/伊藤正彦/末次真三郎/竹村祐佳/早川祥一●公開:1983/10●配給:新東宝●最初に観た場所:自由ヶ丘劇場(84-04-15)(評価:★★★)●併映:「神田川淫乱戦争」(黒沢清)/「女子大生・教師の目の前で」(水谷俊之)



結婚式から7日後。仕事の引継ぎのため、以前の勤務地である金沢に戻った鵜原憲一(西島秀俊)が姿を消す。憲一の妻・禎子(広末涼子)は、見合い結婚のため夫の過去をほとんど知らず、失踪の理由もさっぱり見当がつかない。夫の足跡を辿って金沢へと旅立った禎子は、憲一のかつての得意先企業、室田耐火煉瓦会社で社長夫人の室田佐知子(中谷美紀)、受付嬢の田沼久子(木村多江)という2人の女性と出会う。日本初の女性市長選出に向けて
支援活動に精を出す佐知子。教養がなく貧しい出身だが、社長のコネで入社した久子。交わるはずのなかった3人の女性の運命だったが、憲一の失踪事件がきっかけとなり、複雑に絡み合っていく。一方、憲一の失踪と時を同じくして起こった連続殺人事件に関して、ある事実が判明する。事件の被害者は、いずれも憲一に関わりのある人間だったのだ。夫の失踪の理由とは?連続殺人の犯人の正体とその目的は?全ての謎が明らかになるとき、衝撃の真相が禎子を待ち受ける―。
野村芳太郎版では、脚本の橋本忍が混み入った原作の背景を1時間半の中に収めようと腐心し、ラストの崖っぷちで犯人が長台詞の告白をするという設定になっていましたが、それが後の数多くの推理ドラマで使われる原型的パターンとなったとされるものの
、今観ると逆に映画ではなくテレビドラマのように見えてしまうという印象を個人的に持ちましたが、こちらは2時間超なので、そのあたりはどう描くのかと思ったら、広末涼子演じる主人公が、汽車に揺られたりしながら自分の頭の中で想像で謎解きをしてしまう形になっていて、旧作よりも更に謎解きの部分が軽く扱われている印象を受けました(独白ナレーションでの謎解きには興醒めさせられる)。
犬童一心監督はロケ地探しに苦心したとのことで、韓国でロケしたりして、更にはVⅩ技術を駆使したりして昭和30年代の金沢を再現しており、安易に現代に置き換えず、当時のままを再現しようとしたその意欲と努力は買いますが、市長選に肩入れする佐和子を遠して婦人参政運動を描くことの方にウェイトがかかり過ぎた感じもして、昭和30年代の金沢を知る自分としては、もっと金沢の街並みとかを描いて欲しかった気もします(東京の場面も含め、いきなり室内シーンから入るパターンが多い)。
広末涼子(禎子)、中谷美紀(佐和子)、木村多江(久子)の演技陣の中では、中谷美紀が目立ってしまった分、主人公である広末涼子が埋没してしまった印象で、事件を通して禎子が人間的に成長することが原作のモチーフの1つ
であるのにそれがイマイチ伝わってきませんが、これは広末涼子のせいなのか演出のせいなのか(おそらく両方のせい?)。逆に木村多江だけがまともな演技をしているようにも見えますが、何れにせよ、背景映像の作り込みがしっかりしているのに、3人とも何となくスタジオで昨今のテレビドラマ風の演技をしているようで背景とマッチしてこず、よって、背負っている過去の重たさも伝わってこないのは、女優たちが化粧品会社の広告のようなポスターの収まり方をしているように感じた個人的先入観のせいだけではないでしょう。
推理ドラマとしてより人間ドラマとして描こうとして、その部分でも弱さを感じたのか佐知子の夫・儀作(おそらく登場人物の中で原作から最もキャラクター改変されている)をラスト近くで自殺させてしまったのだと思いますが(無理やりドラマチックにしようとしてよく使われる手法)、原作における夫婦が見えない絆で結ばれていたということが映画では殆ど描かれていないため、その自死は単に唐突な印象しか与えていないように思います。
この作品で広末涼子は第33回日本アカデミー賞の主演女優賞、中谷美紀、木村多江は助演女優賞を受賞していますが、これは"ノミネート"みたいなもので"最優秀"賞は獲っていません(木村多江は同年の「ぐるりのこと」('08年)で最優秀主演女優賞受賞)。まあ、この作品が作品賞ほか計11部門で優秀賞を受賞しながら、トップの賞は1つも受賞していないというのは分かる気がするし、キネ旬のベストテンに入っていないのもむべなるかな。松本清張の初期作品を当時の時代背景のもとで再現するのは今後ますます難しくなっていくのかもしれません(繰り返しになるが、化粧品の広告のようなポスターは自ら墓穴を掘っている)。




1991年春、数々の困難な任務を遂行し今や伝説の存在であるCIA工作員ネイサン・ミュアー(ロバート・レッドフォード)は、引退前の最後の勤務日を迎えようとしていた。彼にとってトム・ビショップ(ブラッド・ピット)はその弟子でもあり最も信頼のおける相棒でもあった。ミュアー自身がスカウトし、スパイに関するあらゆることを教え育て上げ、二人は互いに固い絆で結ばれていた。しかし、まさにミュアーのCIA退官日に、ビショップが中国側にスパイ容疑で逮捕される事件が起きる。本来ビショップはCIA香港支局長のダンカン(デヴィッド・ヘミングス)が指揮をとっていた米中通商会談の盗聴作戦に従事するはずだったが、許可なく中国人協力者を指揮して蘇州刑務所に侵入したのだった。ミュアーはビショップを見捨てようとするCIA上層部の反対を押し切り、背後の巨大な陰謀を承知の上で、ビショップ救出の壮大な作戦を計画する―。
2012年に高い橋から飛び降りて自殺してしまったトニー・スコット監督(1944-2012)。彼の2001年監督作で、 ロバート・レッドフォードが監督した「
レッドフォードは「コンドル」ではCIA職員でありながら凄腕の諜報部員でも何でもない単なる素人役だったのが、ここでは伝説的存在の工作員ミュアー役となっています。捕らえられてから24時間後に処刑予告されているブラッド・ピッ
ト演じるビショップをいつ助けに行くのかと思ったら、ミュアーはCIAの幹部らにビショップをCIA工作官に育て上げた経緯を語るばかりで、なかなか助けに行かない。その間に、ミュアーの口からベトナム戦争での二人の出会いから、西ドイツでの仕事やベイルートでの仕事が語られ、映画の大部分の時間はそのカットバックで占められ、ビショップがなぜ蘇州刑務所に侵入したのかも明かされます。
ミュアーが延々と過去を語るのは、ビショップの解放を外交交渉に委ねるための時間稼ぎだったわけですが、結局CIAは中国との通商交渉を控えたホワイトハウスの意向に沿ってビショップを見殺しにすることになり、これではミュアーは観客に過去の経緯を見せるためだけに"昔話"をしていたようなものだなあと思いましたが、実はミュアーはしっかり裏で手を打っていた―。
ロバート・レッドフォードがおいしいところの殆どを持っていってしまったような映画で、監督第一作の「普通
の人々」('80年)でアカデミー賞監督になったレッドフォードですが、こうした映画に出る時は昔ながらにカッコいい役をやるのだなあと。ブラッド・ピット演じるビショップは助けを待っているだけなので、ブラッド・ピットのファンには相当物足りない映画ではないでしょうか。
最後、あまりにすんなり事が運んで、ちょっと話が出来すぎている感じもしました。終わり方もあっさりしすぎたかな。もう少しCIAの幹部らが唖然とする様を見たかったような気もします。CIA香港支局長を演じたデヴィッド・ヘミングス(1941-2003)が、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の「
べると、キャスカート大使夫人役のシャーロット・ランプリングは、最近でもアンドリュー・ハイ監督の「さざなみ」('15年/英)でベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)を受賞するなどして、かつての美貌を維持しながら齢を重ねているという感じでしょうか(この作品の前年にはフランソワ・オゾン監督の「
「スパイ・ゲーム」●原題:SPY GAME●制作年:2001年●制作国:アメリカ●監督:トニー・スコット●製作:ダグラス・ウィック/マーク・エイブラハム●脚本:マイケル・フロスト・ベックナー●撮影:ダニエル・ミンデル●音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ●原案:マイケル・フロスト・ベックナー●時間:126分●出演:ロバート・レッドフォード/ブラッド・ピット/キャサリン・マコーマック/スティーヴン・ディレイン/ラリー・ブリッグマン/マリアンヌ・ジャン=バプティスト/デヴィッド・ヘミングス/シャーロット・ランプリング●日本公開:2001/12●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ(評価★★★☆)
(●2025年、ロバート・レッドフォードが亡くなった。トニー・スコット監督のアクション・スリラー「スパイ・ゲーム」(2001年)の時は65歳でブラッド・ピットの指南役だったが、「フィールド・オブ・ドリームス」のF・アルデン・ロビンソンが監督した、コンピュータハッキングを題材にしたクライム・アクション「スニーカーズ」(1992年)の時は56歳で、自らもアクションしていた。そんなロバートレッドフォードもカッコいいが、シドニーポワチエ、ダン・エイクロイド、リヴァー・フェニックスの熱演も見どころ。さらには、レッドフォードの敵役がベン・キングズレーと配役はかなり豪華。ここまではいいのだが、肝心のハッカー組織との争奪の的となる暗号解読器がチャチなせいもあってか、リアルさに欠ける。今観るとさらに古臭く感じるのではないかと思うが、Amazonのレビューなどを見ると、「非常に高い完成度を持つ超一流のサスペンス」などの高い評価が並ぶ。追悼特集で上映(放映)されたらもう一度観てみようか。)
「スニーカーズ」●原題:SNEAKERS●制作年:1992年●制作国:アメリカ●監督:フィル・アルデン・ロビンソン●製作:ローレンス・ラスカー/ウォルター・F・パークス●脚本:フィル・アルデン・ロビンソン/ローレンス・ラスカー/ウォルター・F・パークス●撮影:ジョン・リンドリー●音楽:ジェームズ・ホーナー●時間:126分●出演:ロバート・レッドフォード/ダン・エイクロイド/ベン・キングズレー/メアリー・マクドネル/リヴァー・フェニックス/シドニー・ポワチエ/デヴィッド・ストラザーン/ジェームズ・アール・ジョーンズ●日本公開:1993/02●配給:ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ(評価★★★)