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「●「放送映画批評家協会賞 作品賞」受賞作」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ
ベン・アフレック才気煥発。「強いアメリカ」と言うより「賢いアメリカ」を強調した作品か。
第85回アカデミー賞の作品賞、脚色賞、編集賞受賞作で、その前にゴールデングローブ賞のドラマ部門作品賞と監督賞も受賞しており、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の作品賞が重なることはもう珍しいことではなくなったという感じ出です(その他に放送映画批評家協会賞作品賞なども受賞)。
イラン革命真っ最中の1979年、イスラム過激派グループがテヘランのアメリカ大使館を占拠し、52人のアメリカ人外交官が人質に取られたが、占拠される直前に6人のアメリカ人外交官が大使館から脱出、カナダ大使公邸に匿われる。CIA工作本部技術部のトニー・メンデス(ベン・アフレック)は6人をイランから救出するため、「アルゴ」という架空のSF映画をでっち上げて6人をそのロケハンのスタッフに身分偽変させるという作戦を立てる―。
あの池上彰氏が試写会で、「すべて史実に基づいていると念頭に置いて楽しんでほしい」とアピールしたそうですが、ラストの脱出劇、テヘランの空港のカウンターで、一旦取り消された搭乗券の予約が土壇場で復活する場面から滑走路での軍のジープと飛行機のチェイス・シーンまでは殆どがフィクションだそうで、物理的にも、離陸直前ボーイング747の後をジープで追っかけたりすれば、追いつく前にエンジン排気によってジープはぶっ飛ばされてしまうことになるとの話もあります。
個人的には、こうした映画の娯楽性を高めるための演出はあってもいいかなとは思います。池上彰氏の言う「史実」には、こうした"細部"の表現は含まれないのでしょう。ベースになっているのは、CIAが17年間公表を控えていた事実であることには違いないし、タイトルにもなっているニセ映画「アルゴ」をでっち上げるという奇抜なアイデアが実行されたのも事実だし、概ね「事実」だと思って観るからこそハラハラし、面白くもあるわけで、そう思って観る方が確かに楽しめるかと思います(仮に全てが創作だとして、それが事前に分かって観ているとすれば、ハラハラ度はずっと低下するに違いない)。
監督兼主演のベン・アフレックって才人だなあと思いました。本人の抑制された演技だけでなく、演出面でも、俳優6人に事前に合宿生活を送らせ、潜伏生活を疑似体験させたという効果は出ているし、エンドロールのサービスカットで、場面ごとにディテールまで忠実に再現したことをアピールするなどの技はなかなかのものです(これで、映画の「全ての場面」が事実通りであると錯覚してしまう?)。
但し、これまで「カナダの策謀」と呼ばれてきたこの救出劇において(CIAの関与が公表されたのは1997年)、CIAの果たした役割を強調するあまり、カナダの果たした役割が相対的に軽んじられているキライもあるようです。
CIAから送り込まれたのは、映画のように主人公1人ではなく2人だったのを、トニー(アントニオ)・メンデス1人に集約させているといったヒロイズム的効果を狙っての改変は許せるとしても、ビザの日付にミスがあって危ういところだったのをカナダ大使館員の1人が気づいて指摘した事実は割愛されているし、非常事態に備えて色々と奔走したカナダ大使が、映画では、いきなりもうこれ以上匿えないからといって6人に緊急出国を余儀なくさせたように描かれているのは、元カナダ大使本人は一応はアメリカから表彰されているせいか苦言を呈さなかったようですが、カナダ側からすれば不満が出て当然の作りのように思えます。
George Clooney: 'Argo' Premiere with Stacy Keibler
まあ、この作品を観て一番頭にくるだろうと思われるのは、イランの人たちだろうなあ。「強いアメリカ」と言うより「賢いアメリカ」を強調した"愛国"作品と言えるのでは。この作戦が実行された時、アメリカはジミー・カーター大統領の民主党政権で、ベン・アフレックも、この映画のプロデューサーの1人ジョージ・クルーニーも共に民主党及びバラク・オバマ大統領支持者。因みに、スティーブン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス両監督やロバート・デ・ニーロ、トム・ハンクス、ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、ウィル・スミスらも民主党支持者であり、一方、クリント・イーストウッド、アーノルド・シュワルツェネッガーら政治家経験者や、ブルース・ウィリス、シルベスター・スタローンらは共和党支持者。支持政党によって、作る映画、出る映画に傾向の違いはあるかも。
「アルゴ」●原題:ARGO●制作年:2012年●制作国:アメリカ●監督:ベン・アフレック●製作:ジョージ・クルーニー/グラント・ヘスロヴ/ベン・アフレック●脚本:クリス・テリオ●撮影:ロドリゴ・プリエト●音楽:アレクサンドル・デスプラ●原作:アントニオ・J・メンデス「The Master of Disguise」/ジョシュア・バーマン「The Great Escape」●時間:124分●出演:ベン・アフレック/ブライアン・クランストン/クレア・デュヴァル/ジョン・グッドマン/マイケル・パークス/テイラー・シリング/カイル・チャンドラー/アラン・アーキン/ケリー・ビシェ/ロリー・コクレーン/クリストファー・デナム/テイト・ドノヴァン/ヴィクター・ガーバー/ジェリコ・イヴァネク/リチャード・カインド/スクート・マクネイリー/クリス・メッシーナ●日本公開:2012/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)





ミッドサマーワーシー近付近レイヴンズウッド(カラスの森)で女性の全裸死体が子供により発見された。死因はネクタイによる絞殺、身元は大手タバコ会社モナクのヒット商品「カーラ」のテレビCMに出ているブラジル人女優カーラ(左上)だった。現場は9年前に3人の女性が同様にネクタイで絞殺され未だ解決を見ず、マスコミに「首締めの森」と名付けられた場所だった。バーナビーの捜査で、現場で見つかった高級時計は、カーラのCM起用を決めたタバコ会社のマーケティング部長ジョン・メリル(右上)のものと分かる。
地元紙の身の上相談蘭を担当し、タバコ会社の社長(左下)と不倫関係にあるジョン・メリルの妻(右下)も、夫が犯人でないかと疑い始める。バーナビーは、9年前に一連の事件を担当していた元警察官ジョージ・ミーカムから、満月の夜に次の犠牲者が出るとの警告を受けていたが、果たしてその予告通り、第2、第3の事件が起きる―。
トム・バーナビー警部のシリーズの第7話となる本作「首絞めの森」(原題:Strangler's Wood)の本国放映は1999年2月、日本では2002年6月から7月にかけてNHK‐BS2にて前後編(第11話・第12話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「カラスの森が死を招く」でした。原作はキャロライン・グレアムということになっていますが、脚本家アンソニー・ホロヴィッツのオリジナル色が強いように思われます。
ジョン・メリルが犯人であることを示す状況証拠が続出し、これが却って不自然なわけで、誰かが彼に罪をなすりつけようとしていることはバーナビーならずとも分かることであり、高齢の母親と一緒に暮らし、のらりくらりとバーナビーの質問をかわす旅館経営の男がどう見ても雰囲気的に怪しい...。これは殆ど「刑事コロンボ」風の倒叙法に近いのではないかと思わされましたが、その男が何者かに風呂場で「サイコ」風に刺殺されてから、全く犯人の見当がつかなくなりました。
トロイって、ポルトガル語(正しくはスペイン語か)がかなり上手に話せるくせに、サンパウロがどこにあるのかとかは知らなかったね。イタリアですかね、なんてね。バーナビーをあきれさせたり、はたまた驚かせる能力を発揮したりと、なかなか面白い。
いつもながら、複雑な事件の展開と併せて、家族サービスしようと思ってなかなか出来ないでいるバーナビーやそのバーナービーと部下トロイとの遣り取りなどのコミカルなシーンが楽しめ、加えて、イギリスの片田舎の田園風景が美しい作品です。


ポワロやミス・マープルに代わって、ラロジエール警視とランピオン刑事のコンビが事件を解決していく「フレンチ・ミステリー」の2012年の作品で、「AXNミステリー」で放映された際は第9話でしたが、もともと「フランス2」での放映では「第11話」となっています。このシリーズは2013年4月に第13話が放映されていますが、アントワーヌ・デュレリ(ロジエール)、マリウス・ コルッチ(ランピオン)コンビとしてはこの「第11話/エッジウェア卿の死」が最終出演作品でした(日本での放映は本国放映(9/14)の翌日(9/15)であり、この日はクリスティの誕生日だった)。
往年の大女優が夫と離婚したがっているのは原作と同じですが、この夫は原作にあるエッジウェア「男爵」ではなく、かつては名優で今はアル中の「役者」という設定になっていて、大女優は彼と別れて伯爵(原作では「公爵」)と結婚したいと思っているけれど、今はとりあえず夫と「ドン・ジュアン」の舞台稽古をしている―ところが夫はいつもへべれけで稽古はままならず、これには大女優も舞台監督(オカマっぽい)も切れてしまう。一方、ラロジエール警視は昔から憧れていた大女優に会うことが出来て感激し、彼女を崇拝するあまり、捜査の方はやや片手間気味で、しかも、そこへ娘が行方不明になるという事態が発生し、なおさらそれどころではないといった状況に。そんな中、大女優の夫が殺害されますが、大女優の要請で代役でなんとラロジエールがドン・ジュアンを演じることに。更に、大女優の付き人の元女優(原作では有名女優の形態模写を得意とする新進女優)が殺害されます。一方、絞殺魔の劇場の管理人を追って娘の行方を突き止めたラロジエールが、娘共々管理人に殺さそうになったところへランピオン刑事が駆けつけ、あわやのところでの逆転劇。これで絞殺魔が犯した倒叙型の事件は決着。絞殺魔の最期の言葉から、大女優の夫と付き人を殺害した犯人は別にいると察したラロジエールは、犯人と思しき人物にある罠をかける―。
大女優の夫を殺害したのが大女優自身であり、アリバイ作りに自分にそっくりの真似ができる女性をパーティに出席させていたというのは原作と同じ。更に、パーティの席上で古代エジプト文明についての知識を披瀝したのが大女優の偽者であったことを確認するために、ラロジエールが大女優にエジプト風の置物をプレゼントしたというのも、原作のモチーフを一応は踏襲しています(原作では、別々のパーティに出席した同一女性であるはずの人物の教養の格差に気付き不審に思った俳優がポワロに相談をしようと電話するが、その前に殺害されてしまう。大女優よりも「新進女優」の方が教養があったということだが、ここでは大女優よりも「付き人」の方が教養があったということになっている)。
「クリスティのフレンチ・ミステリー(第11話)/エッジウェア卿の死」」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ LE COUTEAU SUR LA NUQUE(Lord Edgware Dies)●制作年:2012年●制作国:フランス●本国上映:2012/9/14●監督:ルノー・ベルトラン●脚本:Thierry Debroux●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/A Maruschka Detmers/Jean-Marie Winling/Alice Isaaz/Guillaume Briat/Julien Alluguette/Frédéric Longbois●日本放映:2012/09/15●放映局:AXNミステリー(評価:★★★)



ロンドン郊外の片田舎ウォームズリイに住むクロード一族は、億万長者ゴードン・クロードの庇護下で金に不自由しない生活を送っていたが、ゴードンがニューヨークで孫のような年の娘ロザリーンと結婚、ロンドンに戻ってきて数ヵ月後に空襲で亡くなったことから、一族の歯車が狂いだす。空襲では3人の使用人とゴードンは死んだが、ロザリーンと、一緒にいた彼女の兄デイヴィッド・ハンターは助かる。ゴードンは莫大な遺産をロザリーンが相続させるよう遺言状を書き換えていた。彼女は再婚で、最初の夫ロバート・アンダーヘイはナイジェリアの行政官だったが、現地で熱病にかかって死亡していた。教養に乏しいロザリーンに全てを持っていかれるのがクロード一族の人々には耐え難かったが、粗野で下品なロザリーンの兄のデイヴィッド・ハンターは、一族の者が金に困ってロザリーンに無心に行くと、頼みを断れないロザリーンの代わって断り追い返していたため、ロザリーン以上に嫌われていたー。
1948年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロシリーズの長編第23作で(原題:Taken at the Flood (米 There Is a Tide))、戦争が生んだ一族の心の闇をポアロが暴くもの。前半部で一族の関係を丁寧に描いていますが、傍らに家系図のメモが必要かも。ポワロが本格登場するのは第2部からで、前半部分を冗長と感じるか、伏線として後半の展開を楽しみにしながら読めるかで評価は分かれそうです(個人的には愉しめた)。






1933年に刊行されたアガサ・クリスティのエルキュール・ポアロシリーズの長編第7作で(原題:Lord Edgware Dies)、ヘイスティングスが事件の顛末を語るスタイルのものですが、結構プロットは複雑な方ではないかと思います。
「名探偵ポワロ/エッジウェア卿殺人事件」 (85年/米) ★★★☆ David Suchet/Peter Ustinov






1995年にジェフリー・ディーヴァー(Jeffery Deaver)が発表した作品で(原題:A Maiden's Grave(乙女の墓))、『ボーン・コレクター』('97年)の一つ前の作品ということになりますが、この作品でコアなミステリ・ファンの間でディーヴァーの名が認知されるようになったとのことです(「このミステリーがすごい!」第5位、「週刊文春ミステリーベスト10」第8位)。そして『ボーン・コレクター』で一気に世界的メジャーのサスペンス作家になったわけですが、この作品も『ボーン・コレクター』に匹敵するぐらいの力作で、むしろある部分では超えているくらいの出来ではなかったかと思います。
但し、残酷な場面も多く、映画化はされにくい作品との印象を持っていましたが、ダニエル・ペトリー・ジュニア監督、ジェームズ・ガーナー、マーリー・マトリン(「愛は静けさの中に」('86年)でアカデミー主演女優賞受賞。彼女自身、難聴者)主演でテレビ映画「デッドサイレンス(Dead Silence)」('96年製作、1997年放映/米)として映像化されています(日本では劇場公開されたようだが、前半部分で少女が射殺される場面や、後半部分で中年の女教師がレイプされる場面などは改変されているのではないか)。


ダニエル・クレイグ(Daniel Craig)などは最初見た時は、ジェームズ・ボンドと言うよりもボンドの敵役のスナイパーかなにかのような印象で、最初の出演作「007 カジノ・ロワイヤル」('06年/英・米)がシリーズ第21作でありながら原作の第一作ということもあって(かつて'67年にパロディとして映画化された)、かなり今までのボンド像と違った印象を受けましたが(肉体派? 若気の至りからか結構窮地に陥る)、演じていくうちに独自のボンド像が出来上がっていき、彼自身にとっての第3作「007 スカイウォール」('12年/英・米)あたりになると、もうすっかりそれらしく見えます。
サム・メンデス監督による「007 スカイウォール」はそこそこ楽しめました。特に前半部分は映像と音楽に凝っていたように思われ、それに比
べると後半はドラマ重視性重視だったでしょうか。ジェフリー・ディーヴァーの本書『白紙委任状』におけるボンドの上司"M"は、映画と異なり男性ですが、ジュディ・デンチ(Judi Dench)演じる"M"が「スカイウォール」で殉職することは以前から決まっていたということなのでしょう(因みに秘密兵器開発担当の"Q"も配役が入れ替わった。そして、"ミス・マネーペニー"もナオミ・ハリス演じるイヴに入れ替わり)。「スカイフォール」の製作は、MGMの財政難のために2010年の間は中断されていたとのことです。結局、製作費は前作「慰めの報酬」の2億ドルから1億5千万ドルに抑えられ、それが前半と後半の手間のかけ方の違いに表れているような気がしないでもありませんが、興業的にはかなりの成功を収めたようです(チッケト代のインフレ調整をした上での比較で、シリーズ中、「サンダーボール作戦」「ゴールドフィンガー」に次ぐ興行収入だとか)。
ベレニス・マーロウ(Bérénice Marlohe)演じるボンド・ガー
ルが(ボンドが助け出すと約束していたにも関わらず)早々に犯人に殺害されてしまうとか、犯人の犯行目的が、"M"への復讐という個人的怨念に過ぎないものであるとか、冒頭の派手なアクションや前半の凝ったシークエンスに比べると、後半はボンドの実家に籠って
「ホーム・アローン」風の戦いになってしまい、前半ではディーヴァーの小説の犯人並みにサイバー攻撃をしていた敵役も、ここへきて火薬を使いまくるだけの芸の無い攻撃しかしなくなるとか、もの足りない面は少なからずありますが、ダニエル・クレイグのボンド像そのものは悪くなく、ディーヴァーもインタビューで、自身が映画のプロデューサーだったら、今回の作品のボンド役には誰をキャスティングするかと訊かれて「個人的にはダニエル・クレイグが気に入っている」と言ってます。
バーバラ・ブロッコリ●脚本:ジョン・ローガン/ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド●撮影:ロバート・エルスウィット●音楽:トーマス・ニューマン[●原作:イアン・フレミング●時間:143分●出演:ダニエル・クレイグ/ハビエル・バルデム/レイフ・ファインズ/ナオミ・ハリス/ベレニス・マーロウ/アルバート・フィニー/ベン・ウィショー/ジュディ・デンチ/ロリー・キニア●日本公開:2012/12●配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(評価:★★★☆)
断片的な通報を受けたウィスコンシン州ケネシャ郡の保安官は、女性保安官補ブリン・マッケンジーを、現場である周囲を深い森に囲まれた湖畔の別荘へ派遣、彼女はそこで別荘の所有者である夫婦が殺されているのを発見するとともに殺し屋の銃撃に遭い、現場で出会った銃撃を逃れた女性を連れて深夜の森を走る。無線も無く、援軍も望めない中、女2人vs.殺し屋2人の戦いが始まる―。



アマチュア作家サークルのメンバー、ジェラルド・ハドリーが自宅で惨殺された。殺害される直前、ジェラルドが緊張しているのを他のメンバーは不審に思っていた。その夜、サークルがゲストに招いたプロ作家マックス・ジェニングズと関係があるのか......。捜査が進展するにつれ、被害者ジェラルドの素性を誰も知らないことがわかる。一方、疑惑の人、ジェニングズは事件後に旅立ったまま、行方がわからない。ロンドン郊外の架空の州ミッドサマーを舞台に、バーナビー主任警部と相棒のトロイ刑事が、錯綜する人間関係に挑む―。
とは言え、ドラマは原作のストーリー展開をほぼ活かしていたように思われ、但し、時間的制約もあって、その重厚さにおいてやはり原作にはかなわないといった印象もあり、そのために、第二の殺人を強引にもってきたのではないでしょうか。今風のテンポの速いサスペンスに慣れた読者には、原作はやや話がゆったりし過ぎているように感じられるというのもあるのかもしれませんが、個人的にはやはり原作の方が上。

結婚25周年目のバーナビー夫妻は、妻のたっての望みで12世紀建造の教会で結婚式をやり直すことに。その教会は牧師のスティーブン・ウェントワース(ジュディ・パーフィット)が中心となって補修基金を集めているのだが、修繕委員の一人で脳腫瘍のため余命幾許も無いと診断された不動産開発業者リチャード・ベイリー(ドミニク・ジェフコット)が、深夜に何者かにインド刀で惨殺される。リチャードはタイ・ハウス地域の開発を進めていたが、立ち退きを拒み続けていたタイ・ハウスの不動産管理人デビッド・ホワイトリー(クリストファー・ビラーズ)も深夜に自分のトレーラーハウスに閉じ込められて焼き殺され、村で子供時代を過ごし、たまたま村に帰ってきていた演劇監督のサイモン・フレッチャー(ジュリアン・ワダム)も教会修繕基金を集うバザーの最中に弓矢で殺される。当初、事件はタイ・ハウスの開発を巡るトラブルに起因しているとバーナビー(ジョン・ネトルズ)は考えていたが、村の元小学校教師で村の開発反対派アグネス・サンプソン(ヴィヴィアン・ピクルス)から聞いた10歳の子供の話を思い出し、次に狙われるのは、殺された3人と小学校の同級生だった村の不動産屋イアン・イーストマン(ニック・ダニング)だと推測、また事件が教会を中心に起こっていることに気づく―。
トム・バーナビー警部のシリーズの第6話「秘めたる誓い」(原題:Death's Shadow)の本国放映は1999年1月、日本では2002年6月から7月にかけてNHK‐BS2にて前後編(第13話・第14話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「少年時代は秘密のベール」でした。一応、シリーズの原作はキャロライン・グレアム(Caroline Graham)ということになっていますが、この辺りから原作の洋書版が見当たらず、原作者名のクレジットもされていないため、脚本家アンソニー・ホロヴィッツ(Anthony Horowitz)のオリジナルであるように思われます。但し、この作品に関しては、それまでのキャロライン・グレアムの原作に沿ったエピソードより面白かった面もありました。
結局、個人的には、完全にプロットの罠にハマったのですが、バーナビーも途中まで現在起きている問題に引っ張られてミスリード されていたわけだなあ―それが、事件が教会を中心に起こっていることに気づいて...。前作「沈黙の少年」同様、"隠された係累"ということで、最後は後出しジャンケンみたいな印象もありましたが、真犯人の意外性はインパクトがありました。
凄惨で猟奇性を帯びた連続殺人事件と、その捜査に当たるバーナビーとトロイのユーモラスな遣り取り、或いはバーナビーを支える暖かい家庭―このギャップのある2つの要素の取り合わせに加えて、ストーリーの出来不出来に関わらず、ロケ地にこだわった美しい田舎町の風景が楽しめるシリーズです。



村人が資金を出しあった工場の経営が行き詰まり、責任者のアラン・ホリングスワース(ロジャー・アラム)を糾弾する声が高まっていた。批判者の急先鋒グレイ(マーク・ベズレイ)はチャリティーバザーで「殺す」とアランに脅しをかける。最悪の事態を回避するため捜査を始めたバーナビー(ジョン・ネトルズ)は、アランの妻シモーヌ(レズリー・バイカレッジ)が実家に帰ったのではなく何者かに誘拐され、出資金は身代金に使われたものと推定する。トロイがホリングスワース家
を見張っていたが、ブレンダ(ミシェル・ドゥートリス)の手引きでアランはトロイをまいて何処かへ行ってしまい、アランを追っていたブレンダが何者かに殺されてしまう。更にブレンダに続きアランが睡眠薬で何者に殺され、前夜訪れていたパブの主人ナイジェル(ポール・ブルック)の指紋がそこら中から検出される。だがナイジェルは犯人ではなかった。バーナビーは捜査の末、シモーヌの元恋人ビンス・ペリー(アンドリュー・ポール)を逮捕する。バーナビーは犯人一味を逮捕し追及するが、主犯を有罪にもちこむ決定的証拠に欠けていた―。
トム・バーナビー警部のシリーズの第4話「誠実すぎた殺人」(原題:Faithful unto Death)の本国放映は1998年4月、日本では2002年5月から6月にかけてNHK‐BS2にて前後編(第9話・第10話)に分けて初放映され、その時のタイトルは「愛する人のためならば」でした。原作はキャロライン・グレアムのシリーズ第5作"Faithful unto Death"(1996年発表)ですが、2013年現在邦訳はされていません。
新興宗教団体ゴールデンウィンドホースロッジのメイ・カトル(ジュディ・コーンウェル)から、教団設立時の出資者の一人ウィリアム・カーター(ロバート・ピッカバンス)が階段から落ちて死んだとの知らせがバーナビーに入る。事故ということで片付いたものの、嵐の夜、屋根飾りの砲弾が落ちて危うく信者に当たりそうになる不審事が起きる。新参の若い
信者クリストファー・ウェンライト(ステファン・モイヤー)は、信者の一人スハミことシルビー・ガムラン(アンナ・ボルト)と仲良くなる。スミハの父で俗物の金持ちガイ・ガムラン(マイルズ・アンダーソン)は、娘スハミの誕生日祝いに団体を訪ねて娘に贈った大金を、彼女が全て教祖イアン・クレイギー(マイケル・フィースト)に寄付したため激怒する。そのスハミの誕生日の祝いの席で、教祖は何者かに刺殺される。事件の鍵を握るのは自閉症の物言えぬ少年だった―。
教祖の殺害が、部屋の灯りが消えた一瞬の隙に行われるのは、クリスティの『予告殺人』を想起させるし、言葉を発することがなかった少年が、何者が教祖を刺したのかというバーナビーの問いに初めて発した言葉が「マジック」であるというのもクリスティの『魔術の殺人』を意識してか。憑依による儀式が行われるところは『蒼ざめた馬』もそうであるし、クリスティへのオマージュが感じられるととるのは、穿ち過ぎた見方でしょうか。
「バーナビー警部(第4話)/誠実すぎた殺人(愛する人のためならば)」●原題:MIDSOMER MURDERS:FAITHFUL UNTO DEATH●制作年:1998年●制作国:イギリス●本国上映:1998/04/22●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロウィッツ●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●原作:キャロライン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ロジャー・アラム/レズリー・バイカレッジ/ポール・ブルック/ロザリンド・アイレス/エレオノーラ・サマーフィールド/ピーター・ジョーンズ/ポール・チャプマン/ミシェル・ドゥートリス/ソフィー・スタントン/マーク・ベイズレィ/テッサ・ピーク-ジョーンズ●日本放映:2002/05●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★)
「バーナビー警部(第5話)/沈黙の少年(祈りの館に死が宿る)」」●原題:MIDSOMER MURDERS:DEATH IN DISGUISE●制作年:1998年●制作国:イギリス●本国上映:1998/05/06●監督:バズ・テイラー●脚本:ダグラス・ワトキンソン●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●音楽 : ジム・パーカー●原作:キャロライン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケーシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ロバート・ピッカバンス/マイケル・フィースト/ダニエル・ハート/アンナ・ボルト/マイルズ・アンダーソン/スーザン・トレーシー/コリン・ファレル/ダイアン・ビル/ジュディ・コーンウェル/チャールズ・ケイ/ステファン・モイヤー●日本放映:2002/04●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★)



ミッドサマー地区で中年女性アグネス・グレイ(デニーズ・アレクサンダー)が何者かに殺された。アグネスは不治の病に冒されており、「とてつもない過ちを犯したのでそれを正したい」と漏らし、意外なほどの大金を動物保護団体に寄付していた。一方、ハロルド・ウィンスタンリー(バーナード・ヘプトン)が舞台監督を務めるコーストン・アマチュア劇団による舞台劇「アマデウス」の初日が近づいていたが、バーナビー(ジョン・ネトルズ)の妻ジョイス(ジェーン・ワイマーク)も端役で出演する、サリエリ役で主演する会計士のエスリン(ニコラス・ラ・ブレボスト)はアグネスのいとこで唯一の親族だった。
キティ(Debra Stephenson)/ローザ(Sarah Badel)
エスリンの妻キティ(デブラ・スティーブンソン)は(舞台ではモーツァルトの恋人役)は不倫をしており、そのことを同じ劇団員のエスリンの元妻のローザ(サラ・バデル)がエスリンに示唆したことで、エスリンはローザに離婚話を切り出す。人々の愛憎が錯綜する中で初日の幕は上がるが、クライマックスでエスリンは、何者かによってテープが剥がされた剃刀で喉を切ってしまい死亡。バーナビーの調べで劇団員兼大道具係デービッド(イアン・フィッツギボン)の父で大道具係のコリン(ジェフリー・ハッチングス)が「自分が殺した」と自供するが、それは息子を庇ってのことで息子も無実が明らかになり、となると、アグネスとエスリンを殺した真犯人は別にいることになる―。
アマチュア劇団を舞台にした演出家と俳優の確執をモチーフにした作品ですが、ちゃんと原作者の著作がある作品で、しかも、今回は珍しく原作者本人が脚本を担当しているにしては、第1話「謎のアナベラ」、第2話「血ぬられた秀作」と比べると、人間関係の入り組み具合もさほどではなく、プロットも単純で、分かりやすけれど物足りないと言うか、ミステリとしてはややランク落ちの印象を受けます。
プロットは物足りないけれども、今回も怪しい人物、奇妙な人々には事欠きません。エスリンの妻の不倫相手は、ゲイの書店主アベリーの本屋で働いていた"ゲイ友"の書店員ティムだったんだなあ(舞台では2人は舞台美術係と照明係)。ハロルドのお手伝い(舞台では進行係兼小道具係)デアドレ・ティブス(ジャニーン・ダヴィツキー)が、ハロルドが劇の評判を聞くよう彼女に頼んだのに、彼女は事件のことを記者たちに話したくて仕方がない様子がおかしいです(でも、これが"マトモな感覚"なんだろなあ)。
トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)が初めて警部の娘カリー(ローラ・ハワード)に出会って一目惚れするのはこの回だったんだなあと。彼女は、役者の卵ニコラス(エド・ウォーターズ)の方と仲良くなってしまいましたが、このプロの役者を目指している青年も書店員。バーナビーも、舞台美術の手伝いで書割の絵をかいているし、今回は、関係者ほぼ全員が劇団員であるか何らかの形で舞台に関係しているという中で事件が起きるというのが、最大のミソと言えるのでしょう。
しかし、「アマデウス」とはねえ。田舎のアマチュア劇団にしては随分難しそうな演目を選んだものだと思いますが、わざとそうした設定にしたのでしょう。原作は、サリエリが喉を搔き切る場面で"血糊"を見せるかどうかを演出家らが議論している場面から始まり、シェークスピア劇をはじめ演劇に関する薀蓄がてんこ盛りです。
映画の方は、アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞など8部門を獲得した作品で、双葉十三郎(1910-2009/享年99)の『
個人的にも大作であるとは思いましたが、モーツァルト像がややデフォルメされ過ぎている印象もありました。アカデミー賞の「主演男優賞」には、"ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト"を演じたトム・ハルスと、"サリエリ"を演じたF・マーリー・エイブラハムの両方がノミネートされましたが、F・マーリー・エイブラハムが受賞したのは順当と言えるかと思います(F・マーリー・エイブラハムはゴールデングローブ賞「主演男優賞」(ドラマ部門)、
「アマデウス」●原


アマチュア作家サークルを主宰するジェラルド・ハドリー(ロバート・スワン)の家で、主人の死体が発見される。サークルでは前夜、プロの作家マックス・ジェニングス(ジョン・シャープネル)を招いて講演会を開いていたが、ジェラルドとマックスの間には緊張感が漂っていた。
マックスを招くことを提案したエイミー(ジョアンナ・デビッド)は、講演会の前にハドリーから「マックスと二人きりにしないでくれ」と懇願されていたが、義姉オノーリア(アンナ・マッセイ)の命令で、やむなく二人だけを残して先に帰っってしまったことを後悔していた。
バーナビー警部(ジョン・ネトルズ)は、トロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)と共にサークルの面々に聞き込みに廻るが、ハドリーの素性を訊いいても誰も知らない。サークルのメンバーで中学校で演劇を指導しているブライアン(ディビッド・トロートン)も、事件当時不審な行動をとった一人だが、教え子イーディー(ナンシー・ロデル)に性的行為をしている現場の写真を生徒に撮られてしまって、事件どころではない。
そうした中、ハドリーに続いて、マックス・ジェニングスも海辺のコテージで遺体となって発見される。マックスの妻のセリーナ(ウナ・スチュブス)や秘書バーバラ(アノーシュカ・ルガロア)の話によれば、彼は海外へ講演旅行に行っていたはずとのことだったが、バーナビーの調べで、彼は出張を装い、愛人であるバーバラとそこで落ち合うことになっていたことが判る。二人を殺した犯人は一体誰なのか―。
ジェラルド・ハドリーはプロ作家マックス・ジェニングスと会うのを嫌がり、それでもサークルのメンバーの総意で彼を呼ぶことになって渋々それに従い、一方、マックス・ジェニングスもジェラルド・ハドリーと会うことを恐れていた―そして、その両方が殺される、という展開にぐぐっと引き込まれます。
ン・グレアム●時間:102分●出演:ジョン・ネトルズ/ダニエル・ケイシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ロバート・スワン/ジェーン・ブッカー/ローラ・ハットン/ジョアンナ・デビッド/アンナ・マッセイ/ディビッド・トロートン/ジュディス・スコット/ジョン・シャープネル/アノーシュカ・ルガロア/マレーネ・サイダウェイ/ナンシー・ロダー/ティモシー・ベーテソン/ウナ・スチュブス●日本放映:2002/04●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★☆)


高齢の元教師エミリー・シンプソン(ルネ・アッシャーソン)が自宅で不審死を遂げる。捜査を開始したトム・バーナビー警部(ジョン・ネトルズ)は、年の離れたキャサリン・レイシー(エミリー・モーティマー)との結婚を控えた富豪ヘンリー・トレース(ジュリアン・グローバー)の最初の妻ベラの「事故死」が今回の事件に関係しているのではないかと考える。エミリーの葬儀から幾日もしない内に、今度はレインバード親子(エリザベス・スプリッグス/リチャード・キャント)が何者かに殺され、二人が町のゴシップを収集して金を脅し取っていたことが判明する。
殺された時刻に二人の家を訪れていたキャサリンは、ショックを受け結婚式の延期を懇願する。
バーナビーは新たな証拠にもとづき、ヘンリーの義妹フィリスを1995年のベラ殺害容疑で逮捕、フィリスは自白し、拘留中に自殺を遂げる。更に新たな証言を得て、バーナビーはキャサリンの兄で画家のマイケル・レイシー(ジョナサン・ファース)をレインバード親子殺害容疑で逮捕、マイケル宅からは凶器の刃物も発見される。事件はこれで解決したかに思われたが、新たな証言でマイケルのアリバイが成立し、彼は釈放される。エミリー及びレインバード親子を殺した真犯人は誰なのか―。

連続殺人事件とそれに纏わる村の奇妙な人々、そして謎めいた兄妹―と、おどろおどろしい雰囲気満載でありながらも、バーナビー警部と部下のトロイ巡査部長(ダニエル・ケイシー)とのユーモラスな会話や、警部と妻ジョイス(ジェーン・ワイマーク)や一人娘カリー(ローラ・ハワード)とのホームドラマ的な遣り取りなどのバランスが絶妙で、この一話でもってバーナビー警部が好きになった視聴者も多いのではないでしょうか。海外でも当シリーズ作品の人気投票で、この第1話「The Killings at Badgers Drift」が1位にくることが圧倒的に多いようです。
原作は7作ぐらいしかないようですが(しかも、邦訳されているのは2013年現在3作のみ)、トム・バーナービーを主人公としたTVシリーズの方は2011年まで13シーズン81作作られ、実質的には早い段階で脚本家アンソニー・ホロヴィッツによるシリーズになったと言えます。
「バーナビー警部(第1話)/謎のアナベラ(森の蘭は死の香り)」●原題:MIDSOMER MURDERS:THE KILLINGS AT BADGER`S DRIFT●制作年:1997年●制作国:イギリス●本国上映:1997/03/23●監督:ジェレミー・シルバーストン●脚本:アンソニー・ホロヴィッツ●撮影: ナイジェル・ウォルターズ●原作:キャロライン・グレアム「蘭の告発」(バジャーズドリフトの殺人)●時間:120分●出演:ジョン・ネトルズ/

ジョナサン・ファース/エミリー・モーティマーダニエル・ケイシー/ジェーン・ワイマーク/ローラ・ハワード/バリー・ジャクソン/ルネ・アッシャーソン/ロザリー・カーチレイ//ジュリアン・グローバー/セリーナ・カデル/クリストファー・ヴィリエ/リチャード・キャント/エリザベス・スプリッグス/ビル・ウォリス/ダイアナ・ハードキャッスル/ジェシカ・スティーブンソン/バーバラ・ヤング/アブリル・エルガー●日本放映:2002/04●放映局:NHK‐BS2(評価:★★★★) Emily Mortimer 


ある日、ランピオン刑事(マリウス・コルッチ)が歩いていると怪しげな男が近づいてきて、男はルブランという浮気調査の探偵だった。君は出世の道をラロジエール警視(アントワーヌ・デュレリ)に邪魔されているとランピオンに話すルブランは、ランピオンを探偵社にスカウト、常日頃のラロジエールの横暴に耐えかねていたランピオンは、警察を辞め、探偵社に転職する。その探偵社に一人の女性マリー(プリュンヌ・ブシャ)が訪ねてきて、死んだと聞かされていた母親が夫殺しの罪で獄中にあることを最近知り、画家である父親は心臓発作で亡くなったと聞かされていたのだが、その15年前の出来事の真相を知りたいと調査依頼する。元上司のラロジエールを見返すべく、ランピオンは調査に奔走、事件は、女性の母親が、愛人を同じ屋敷内に住まわせた夫に対して嫉妬し、毒入りのビールを飲ませたというものだったが、マリーは母親の無実を信じていた―。
原作では、16年前に画家である夫を殺害したとして死刑を宣告され、その1年後に獄中で死亡した母の無実を訴える遺書を読んだ若き娘が、母が潔白であることを固く信じポアロのもとを訪れる―というものですが、この映像化作品では母親は獄中にて存命しています。
加えて、本編冒頭からラロジエール警視の横暴に不満の募るランピオン刑事の探偵社への転職話があったりして、原作が非常に完成度の高い構成を備えた傑作であるため、あんまり極端な改変をしないで欲しいなあと思って観ていましたが、まあ、上司・部下の関係の展開はサブストーリーであって、観終わってみれば、本筋の部分では原作をそう外れておらず、むしろ、母親がなぜ自身の無実を娘に伝えながらも公には冤罪を主張することをしなかったのか、或いは、なぜ犯人は被害者に対して殺意を抱いたのか、などといったことが状況と併せてスンナリ分かるものとなっています。
原作では、事件当時の5人の関係者それぞれにポワロが会って、過去の事件の状況を訊いて回り、まるで童謡にある「五匹の子豚」のような行動をとった5人に"レポート"まで出させるわけですが、さすがに"レポート"提出まではないものの、最後に関係者を集めて謎解きをしてみせるのは原作と同じ。しかもそこへ、存命だった(であることにしてしまった)母親が疑い晴れて釈放されて現れるというハッピーエンドで、冒頭で母親が絞首刑になる場面を入れた改変を行っているデヴィッド・スーシェ版(第50話、2003年)の暗さの対極にある、このシリーズならではの明るさです。カタルシス効果もあって良かったのではないかと思います。
原作では、母親が被害者の殺害現場にあったビール瓶の指
紋を拭ったのを見たと言う元家庭教師の後からの証言から、それこそ彼女が犯人ではないことを証明するものだというポワロの洞察が導かれるわけですが、この映像化作品では、当時5歳くらいだった娘に、二十歳過ぎの今になって、母親のそうした所為を見た記憶が甦ってくるというふうに改変されていて、これは改変する必要があったのかなとも。
そう言えば、「刑事コロンボ」の中にも、「殺意のキャンバス」(Murder, a Self Portrait、第50話、1989年)という、3人の女性(妻・前妻・愛人)と海辺のコテージで暮らす天才画家の話がありました。こうした状況設定のモデルはパブロ・ピカソ(1881-1973)だそうです。
「殺意のキャンパス」の方は、前妻は隣りのコテージに住んでいますが、今の妻と絵のモデルの愛人は自分のコテージに同居させていて、何れにせよ、妻妾同居はトラブルの元―といったところでしょうか。
って描いていたとうことをアリバイに、実は既に出来上がっていいる絵を持ち込んで、その間にアトリエを抜け出して海辺で日光用中の前妻を殺害するというもの。3人の女性との暮らしがギクシャクして、前妻を殺したら多少は落ち着くかと思ったら、現在の妻も愛人も画家の自己チューぶりに愛想をつかして出て行ってしまうという展開も皮肉がよく効いていて、80年代終わりに始まった新・シリーズの中では、比較的よく出来ている方ではないでしょうか。
このシリーズのコメディっぽいシーンに欠かせない俳優ヴィト・スコッティは、新旧シリーズ通して6話に登場していて、これが最後となりました。この作品以前は、第19話「
督:エリック・ウォレット●脚本:シルヴィ・シモン●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ●日本放映:2011/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)
「刑事コロンボ(第50話)/殺意のキャンバス」●原題:MURDER, A SELF PORTRAIT●制作年:1989年●制作国:アメリカ●監督:ジェームズ・フローリー●製作:スタンリー・カリス●脚本:ロバート・シャーマン●音楽:パトリック・ウィリアムズ●時間:90分●出演:ピーター・フォーク/ロバート・フォックスワース/パトリック・ボーショー/フィオヌラ・フラナガン/シーラ・ダニーズ/イザベル・ロルカ/ヴィト・スコッティ/ジョージ・コー/デヴィッド・バード●日本初放送:1994 /11●放送:NTV:★★★☆)


そもそも原作では、「退役大佐の家の書斎」で若い女の死体が見つかることになっているのが、何と、このシリーズの探偵役であるラロジエール警視の「自宅」で女の死体が見つかってしまうわけで、冒頭からビックリ。これ、爆笑パロディ版なのかと。
原作では、被害者の女性がホテル付きのダンサーであったことから、ホテルを舞台に謎解きが進むわけですが、こちらは「ホテル」ではなく「売春宿」になっていて、しかも、ラロジエール警視の馴染みの店であるというのが笑えます。拘禁の身にあったラロジエールは、移送中に脱走し、売春宿に逃げ込んでそのままそこを根城にしてしまう―。
事件の源となる大金持ちの老人も、高級ホテル住まいの客ではなく、売春宿の女に惚れてそこに滞在し続けているという設定で、原作はこのホテル住まいの大富豪を中心に関係者の姻戚関係がかなり複雑なのですが、そこは放蕩癖のある「娘婿」を「実の息子」に置き換えたり、「息子の嫁」も方は出てこなかったりして、やや端折っています。
前半は第一容疑者としてラロジエール警視に容疑がかかっているため、その無実を晴らせるかどうかは、ランピオン君にかかっているという感じすが、ラロジエール警視の指示で、ホモセクシャルの彼が嫌々ながら売春宿に行った揚句、宿の経営を手伝っているハンサム男とホモ達になってしまうのは、このシリーズならでは(何と、ホモ達同士ベットで知恵を出し合う。そして、ランピオンがその彼を犯人ではないかと疑ってしまったことで二人の仲は決裂、そのことをランピオンは後々まで悔いる―という、この部分だけでBL的なストーリーが1つ仕上がっている)。
個人的には原作を大きく捻じ曲げているものはあまり好きではないのですが、このシリーズは最初から「改変の妙」を楽しむものであってあまり気にならず、この作品などは、冒頭どうなることかと思ったけれど、結局は、意外とプロットの根幹部分は変えずに、どう"味付け"するかにこだわっているなという感じ。
「クリスティのフレンチ・ミステリー(第9話)/書斎の死体」」●原題:LES PETITS MEURTRES D'AGATHA CHRISTIE/ UN CADAVRE SUR L'OREILLER(BODY IN THE LIBRARY)●制作年:2011年●制作国:フランス●本国上映:2011/10/28●監督:エリック・ウォレット●脚本:Sylvie Simon ●出演:アントワーヌ・デュレリ/マリウス・コルッチ/Valérie Sibilia/Juliet Lemonnier/Nicolas Abraham/Charles Templon/Vernon Dobtchef●日本放映:2012/09●放映局:AXNミステリー(評価:★★★☆)

20歳のサーシャは閉じ込められていた精神病院から脱出し、密かに所持していた大金で空き家となっていた邸宅を購入して身を潜めるが、その最初の晩から、邸の階段下に血まみれになった女性の姿が見えるという恐ろしい幻想に苛まれる―。
冒頭、若い女性(サーシャ)が電気ショック療法を受けているという、原作には全く無いシーンから始まるので、何だ、こりゃ、という感じも。一方、ラロジエール警視とランピオン刑事は、冒頭から女性精神分析学者の講義を受けていて、ラロジエール警視はこの女性が気になるようで、と思ったら女性の方から逆アプローチを受けて、どっぷり情事にハマるという―。
おい、おい、こんな女性、原作には出てこないよと思いつつ、更に原作には無い殺人事件が早々に起き、サーシャが第一容疑者に。そんなサーシャを救おうと、ホモセクシャルが定着していたはずのランピオン刑事が「女性で愛せるのは君だけだ」と奮闘、女性精神分析学者との交際でインポテンスになってしまったため生きがい喪失気味のラロジエール警視と、上司-部下関係を逆転させたロールプレイを演じつつ、現在と過去の両事件の解決にあたるという―あ~あ、何だかドタバタ喜劇みたい。
ということで、振り却ってみれば、まあまあ真っ当な翻案になっていたと言えるかも。ユーモアナ乃至エスプリと(かなり"お遊び"しているが)、どろっとした気味悪さが混在した、このシリーズらしい作品でした。
DVD(輸入盤) 
フランスの大富豪の館で起きた2つの殺人事件の判決が下ろうとしていた。容疑をかけられているクレール・ヴィゾル(レナ・ブレバン)という女性は、館の主である実母エリザベット(フレデリク・ティルモン)と下男の娘である母の付き添い人だったクレマンス(ルー・ドゥ・ラージュ)殺害したとされ、彼女には死刑が宣告される。殺害された二人には、3ヵ月前に「財産が狙われている」との脅迫状が届いており、エリザベットの秘書でクレールの無罪を信じるルイ・セルヴェ(ヤニック・ショワラ)は、古くからの友人でもあるランピオンに助けを求めていた―。
こちらの"フレンチ版"も倒叙スタイルで彼女の裁判から始まる点は原作と同じであり、彼女の無実を信じるランピオン刑事の友人の男性秘書(原作では家付きの医師)に頼まれて、ラロジエール警視とランピオン刑事が調査をしたが、結局、彼女の無実を証明できなかった―彼女は処刑の日を待つしかないのか、といった状況から、事件発生当時に時を遡って話が展開していきます。
クレールの実母は女権推進者で(という話は原作には全く無いのだが)、邸に女権活動家を招いて庭で講演会を開こうとしているという設定になっていて、そこへラロジエール警視の命により、ランピオン刑事が女性活動家に化けて乗り込む(しかも、そこで本物に成り代わってj女権拡張講演をしなければならない)というスゴイ無茶な話で、ラロジエール警視は妻の尻に敷かれているその夫という役回りなのに、邸に早めに来たある女性の後を追いまわすという、いつもながらの猟色漢ぶりを発揮します。
原作がストーリー的にそう複雑ではないためか、女装がばれそうになって慌てるランピオン刑事など、ドタバタのユーモアにウェイトが置かれてしまった感じで、第二の殺人が起きて(原作の毒殺ではなく刺殺になっている)、いきなり仕掛人のラロジエール警視自身に皆の前でその正体を明かされてしまったのはやや気の毒でした(ラロジエール警視が追い回していた件の女性が、「あなたより奥さんの方が好み」と言っていたのはどこまで本気か。女装したランピオン刑事は実は同性愛者であるだけに複雑?)。
ラスト近くでのクレールと彼女を思い続けてきた男性秘書との会話は切ないのですが、原作ではポワロが「彼女にはあなたが必要だ」と男性を後押しする優しさを珍
しく見せるのに、このラロジエール警視の方はそうした役回りが苦手なのかこうした場面には出てこず(むしろここまでランピオン刑事が男性を後押ししている)、最後は二人が別れの言葉を交わす感じになっていて、えーっという印象も。



ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は友人のドリー・バントリー(ジョアンナ・ラムレイ/左)と一緒に女優マリア・グレッグ(リンゼイ・ダンカン/右)の主演映画「マリー・アントワネット」を鑑賞し、王妃が息子を奪われる場面に涙する。そのマリア・グレッグは、ゴシントン・ホールをドリーから買い取って村の住人になったばかりで、二人は邸に招かれるが、帰り道ミス・マープルは暴走する車
に煽られて転んで足首を捻挫し、傍にいたヘザー・バドコック(キャロリーネ・クエンティン)に介抱してもらうことになる。よって、後日、マリア・グレッグが映画監督で彼女の5番目の夫ジェィソン・ラッド(ナイジェル・ハーマン)と共にゴシントン・ホールで開いたお披露目の慈善パーティには、邸の前所有者であるドリーだけが出席するが、パーティ大いに賑わい、グレッグの4番目
の夫で芸能ゴシップ記者のヴィンセント・ホグ(マーティン・ジャーヴィス)が愛人で女優のローラ・ブルースター(ハンナ・ワディンガム)まで連れてやってくる(彼女はジェイソンの元愛人)。その時、グレッグの昔からの熱狂的ファンで、戦時中に病気をおして彼女に会いに行ったことがあるヘザー・バドコックが、その話をグレッグに一方的に話したあと、何者かが抗うつ剤のカーモで規定の6倍の量入れたダイキリを飲んで死んでしまう。ドリーは、ヘザー・バドコックがグレッグに一方的にお喋りしていた時、グレッグの表情は、テニスンの詩にあるシャロット姫のような"鏡が横にひびわれた"表情をしていたとミス・マープルに話す。
ヒューイット警部(ヒュー・ボネヴィル)と若いティドラー巡査部長(サミュエル・バーネット)が事件捜査にあたるが、ティドラーもグレッグ
のファン。一方、ヒューイット警部は、警視総監からミス・マープルに話を聞くことを勧められていた。 マープルの捻挫を治療した医師ヘイドック(ニール・ステューク)の話では、ヘザーがダイキリのグラスをこぼしてグレッグの服を濡らし、グレッグは自分のグラスをヘザーに渡したという。そうすると、これはグレッグの命を狙った犯行だったのか。パーティ会場では、写真家のマーゴット・ベンス(シャーロット・ライリー)が写真を撮っていたが、ドリーとそのスタジオを訪ねたマープルは、グレッグのこわばった表情が写った問題の写真を見つけるとともに、彼女が、グレッグが3番目の夫との間でも子どもができないでいた時に養子になったものの、直後にグレッグが妊娠するや相手にされなくなったという過去があることを知る。そのグレッグが生んだ息子には重度の障害があり、彼女は以来、情緒不安定を繰り返しているのだった―。
ゴシントン・ホールはシリーズ第1話「書斎の死体」(2004年)の舞台でもありますが、ドリー・バントリーを同じくジョアンナ・ラムレイが演じていて、マープルの方はジェラルディン・マクイーワンからジュリア・マッケンジーに交代しているのに、この人は変わらないなあ。元ボンドガールだけあって、マリア・グレッグ役のリンゼイ・ダンカンよりむしろ派手かも。
「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第18話)/鏡は横にひび割れて」●原題:THE MIRROR CRACK'D FROM SIDE TO SIDE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 5●制作年:2010年(本国放映[米国]2010年(5/23)/[英国]2011年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:トム・シャンクランド●脚本:ケヴィン・エリオット●撮影:シンダース・フォーショウ●音楽:ドミニク・シャーラー●原作:アガサ・クリスティ「鏡は横にひび割れて」●時間:89分●出演:ジュリア・マッケンジー/ジョアンナ・ラムレイ/リンゼイ・ダンカン/ナイジェル・ハーマン/マーティン・ジャーヴィス/ハンナ・ワディンガム/ヴィクトリア・スマーフィット/ブレナン・ブラウン/シャーロット・ライリー/ロイス・ジョーンズ/キャロライン・クエンティン/ウィル・ヤング/ミッシェル・ドトリス/ニール・ステューク/ヒュー・ボネヴィル/サミュエル・バーネット●日本放送:2012/03/29●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★★)


航空会社社長ジョージ・プリチャード(トビー・ステーヴンス)の妻メアリー(シャロン・スモール)は、占いに凝って青い花を恐れていたが、ある朝、メイドのキャロライン(クレア・ラッシュブルック)が食事を持っていくと部屋には鍵が掛かっており、ジョージが扉を突き破って中に入ると、彼女は口から血を吐いて死んでいた。事件は「青いゼラニウム事件」として報じられ、浮気をしていた夫ジョージが逮捕された。半年後に新聞で公判の予告記事を読んだミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は、庭師ジョン(イアン・イースト)の蜂避け薬を混ぜる作業を見て、自分は事件現場に居合わせながら真犯人を突き止められなかったことを悟り、警察を引退したサー・ヘンリー・クリザリング(ドナルド・シンデン)に会って、ジョージは間違って死刑にされようとしていると説明する。
マープルは6ヵ月前、友人のダーモット牧師(ディヴィッド・カルダー)に招かれ向かったリトル・アンブローズ村行きのバスで、エディー・セワード(クリザリング・ジェイソン・ダー)と乗り合わせたことから話す。彼はどもりがちで、アルコール依存症のようだった(後に断酒施設から来たことが判明する)。マープルは教会の寄付活動を手伝いに来たのだが、寄付の目当
てのプリチャード家は兄弟、姉妹で結婚していた。ジョージは元婚約者フィリッパ(クラウディー・ブレイクリー)を振って、そこへ割り込んだ姉のメアリーと結婚していたが、メアリーがすぐに癇癪を起こすためうんざりしていた。フィリッパはジョージの弟で売れない作家ルイス(ポール・リス)と結婚し、競馬に金を注ぎ込み作品を完成させない夫のために生活苦に陥っていた。ダーモット牧師の姪で、プリチャード家の料理人ヘスター(ジョアンナ・ペイジ)とは、マープルは、彼女が幼い頃に会ったきりの再会だった。
告」と脅され発狂寸前で、壁紙のゼラニウムが赤から青になったと大騒ぎして皆をうんざりさせるが、彼
女が亡くなったのはその翌朝だった。彼女は常に薬を飲んでいたが、医師ジョナサン・フレイン(パトリック・バラディ)は「本当は病気じゃない」とニセ薬(水)を与えていた。メアリーが恐慌をきたした夜、壁紙のゼラニウムは青く変色していたため、その壁紙を描いた画家で、ジョージの不倫の恋人ヘイゼル(キャロライン・キャッツ)が疑われる。ヘスターが、ジョージがメアリーの前看護婦スーザン・カーステアーズ(レベッカ・マニング)に、室内でゴルフを教えながらキスしていたと話すのを聞いたヘイゼルはショックを受ける。そのスーザンが絞殺死体で発見され、彼女は妊娠しており、首にはジョージのネクタイが巻かれていた―。
元が短編であるだけに、かなり話を膨らませていますが、教会での牧師ダーモットのメアリー追悼シーンなどはかなりドタバタ。メアリーにこき下された経験を持つ牧師は、説教の中で「神もメアリーの人生は無駄なものだったと言われるでしょう」なんて言っちゃうし、それに反発するかの如く、フィリパは、メアリーは殺されたのだと(犯人はヘイゼルだと)言う―聖域どころじゃないね。教会でこんなことってあるのかなという気もしますが、犯人は誰かをミスリードさせる上では効を奏していて、以前に原作は読んでいるはずなのに、観ていて誰が真犯人なのか判らなくなってきてしまいました(共犯者もいたのだなあ。どちらかと言えば、こっちの方が主犯っぽいかも)。
牧師はミス・マープルに、実はフィリパが告発した時刻、ヘイゼルは自分にジョージとの恋愛について告解に来たのだがこのことは守秘義務上話せなかったのだと言いますが、牧師が、フィリッパがメアリーのために作ったスープをつまみ食いして体調がおかしくなった時点でも、フィリパにさほど疑念を抱いていなかったのか。サマーセット警部(ケヴィン・R・マクナリー)はジョージを犯人だと確信して彼を逮捕し、その時点ではミス・マープルも彼が犯人だと(或いは第一容疑者だと)思っていたことになるのかな。「私が間違ったことがありますか」とサー・ヘンリーに言うミス・マープルにしてみれば珍しいチョンボかも。サマーセット警部って、かつて酒で失敗して今地方で燻っているのに(その辺りは全てミス・マープルに見抜かれてしまっている?)、未だにアルコールが手放せない。人間臭いと言えば人間臭い警部だけれど、この事件の解決は彼の功績になるのか気になります。
ジョージは、始まった公判でエディ、メアリー、スーザンの殺害を認めますが、半年後にして真相に気付いたミス・マープルは、ジョージが愛する女性を守るために罪を被っていると言って、それを聞き驚いたヘンリー卿の急遽の計らいで、開廷中の法廷に駆け込んで証人の立場で謎解きをし、まるで、E・S・ガードナーの「ペリー・メイスン」シリーズみたい。
今回映像化作品を観て、ああ、そうだったのかと思ったのは、マープルがバスで乗り合わせた、ワーズワースの詩を唱えていたアルコール依存症のエディ・セワードが会いに来た相手は、ヘイゼルだったということ(最初はよく解らなかった)。ジョージとヘイゼルの繋がりは、不幸な結婚をした者同士ということか(フィリッパの結婚も不幸だったわけで、その源はジョージにあるのだが)。犯人はジョージに罪を着せるために、エディを殺したということか。そのジョージは、ヘイゼルが犯人だと思い込んで身代わりになって絞首刑に処せられようとしたわけか。但し、ヘイゼルの方も、ジョージの逮捕に対する抗弁のシーンが無いことからすると、ジョージが自分と結婚するために3人を殺したのではないかと疑ってしまったものと解されます(お互いの誤解。う~ん、原作、こんな複雑な話だった?)。

1932年、チムニーズ館階下で開催された舞踏会の曲に合わせて踊っていたメイドのアグネス(ローラ・オトゥール)は侵入者に気付いて止めようとして殴られ、鉄枠に頭を打って死ぬ。それから23年後の1955年、チムニーズ館所有者のクレモント・ケイタラム卿(エドワード・フォックス)は、政府高官ジョージ・ロマックス議員(アダム・ゴッドリィ)から、オーストリアの鉄鉱石の権利を有するルードウィッヒ伯爵の依頼により、チムニーズ館で取引交渉したいとの申し出を受
けていた。一方、ケイタラム卿の娘ヴァージニア・レヴェル(シャーロット・ソルト)は、男に誘拐されそうになったところを通りがかりのアンソニー・ケイド(ジョナス・アームストロング)に救われ、犯人はアンソニーを殴って逃走する。ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は、従妹の娘に当たるヴァージニアの運転でチ
ムニーズ館へ。週末に館に集まって来た人々は、ケイタラム卿の上の娘バンドル(デルヴラ・キルワン)、オーストリアの伯爵ルードウィッヒ(アンソニー・ヒギンズ)、社会活動家ブランケンソープ(ルース・ジョーンズ)など。伯爵がチムニーズ買収の話を持ち出すとバンドルは「売り物じゃない」と反発するが、ケイタラム卿は売買契約を受け入れる。同日の真夜中、護衛が誰かに殴られ、客らは警報で起こされるが、館の秘密の通路から銃声が聞こえ、そこでは伯爵がアンソニー・ケイドの腕の
中で死んでいた。アンソニーは容疑者として部屋に監禁され、スコットランド・ヤードから主任警視フィンチ(スティーブン・ディラン)が来て調査を進める。全員から話を聞いた後、フィンチはミス・マープルと秘密の通路を現場検証し、伯爵のポケットから暗号文(楽譜)を発見する。アンソニーはチムニーズ館に夜忍んで来るようにという手紙を受け取っており、夜警を殴り倒して秘密の地下通路に入ったが、23時30分頃に館の煙突から煙が出ているのを目撃したという。バンドルとマープルは楽譜の謎を解こうとする。
フィンチとマープルが召使トレッドウェル(ミシェル・コリンズ)に話を聞くと、1923年の夜会の晩にメイド仲間のアグネスが誰かに殺されたのを目撃したと言い、離れの石棺をフィンチとケイタラム卿が開くと、彼女の白骨死体が発見された。楽譜はバンドルが解読し、当時この館でルードウィッヒ伯爵は秘密の恋人に呼び出されたらしい。侯爵のダイイング・メッセージ「ヴァント」はドイツ語の「壁」の意味だとフィンチとマープルは気付く。夕食時にヴァージニアは、ジョージの助手ビル(マシュー・ホーン)に作らせた館の立体模
型で銃撃当夜の人々の位置を示すが、それぞれにアリバイがあるようだった。そんな中、皆の気分が急に悪くなり、夕食を中断してそれぞれ部屋に帰る。食中毒らしいが、トレッドウェルは翌朝亡くなり、残された彼女の昔の手紙がかつて楽団員だったルードウィッヒ伯爵への恋文であったことから、マープルは彼女は毒殺されたと推理する。更にマープルは、タイプライターの文字の特徴から、アンソニーを呼び出した手紙の主はビルで、ヴァージニア誘拐未遂は、南アフリカで事業に失敗した友人の金策していたアンソニーと組んだ狂言だったとの告白を彼から引き出す。アンソニーはチムニーズのダイヤをネタに脅迫されていた。彼に裏切られたヴァージニアはロマックスの求愛を受け入れようと決心する―。
作ほどに社交の場を仕切るような超絶的魅力は無いなあ。また、原作では快男児であるはずの主人公のアンソニー・ケイドも、ここでは
チンケな詐欺師みたいな設定になっているし、率先して謎解きをするはずが、伯爵殺しの容疑者として部屋に監禁され、ヴァージニアに助けを求めるという情けない設定。原作で殺害される賓客は、ヘルツォスロヴァキアの王子ミカエルですが、この作品では、オーストリアの伯爵ルードウィッヒで、王族ではない上にかなりのお年寄。「ジヤッカルの日」のエドワード・フォックス演じるケイタラム卿ばかりが矢鱈その存在感が目立ちましたが、これも原作とは違った意味で俗物だった...。フィンチ警視のスティーブン・ディランも悪くは無いけれど、原作のバトル警視はポアロ、ミス・マープルに次ぐキャラだからなあ。ここではミス・マープルの相手役にならざるを得ない。とは言え、これまで多くの部下の刑事がミス・マープルを最初は小馬鹿にして最後は彼女に鼻を明かされてきたのに対し、最初から協調路線で彼女と推理を遣り取りして、共に事件を解決していく様は、これまでの警部連中より一段レベルが高いと言えるでしょう。さすが、スコットランド・ヤードの主任警視。
「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第18話)/チムニーズ館の秘密」●原題:THE SECRET OF CHIMNEYS, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 5●制作年:2010年●制作国:イギリス・アメリカ●演出:ジョン・ストリックランド●脚本:ポール・ラトマン●原作:アガサ・クリスティ「チムニーズ館の秘密」●時間:89分●出演:ジュリア・マッケンジー/スティ
ーヴン・ディレイン/シャーロット・ソルト/エドワード・フォックス/アダム・ゴドリ/デヴラ・カーワン/マシュー・ホーン/ョナス・アームストロング/ミシェル・コリンズ/ルース・ジョーンズ/アンソニー・ヒギンズ●日本放送:2012/03/27●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★)

霧深い夜、瀕死のディビス夫人(エリザベス・ライダー)を訪ねたゴーマン神父(ニコラス・パーソンズ)は、夫人から邪悪な計画の犠牲者たちの名前を伝えられ、その名前リストを封筒に入れてミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)宛に投函するが、その直後に何者かに襲われ撲殺される。封書は翌朝マープルの許に届き、新聞で神父の死を知ったマープルは警察に捜査を依頼するが、ルジューン警視(ニール・ピアソン)と監察医のケリガン(ジェイソン・メレルズ)はリストにあまり関心を示さない。故ディビス夫人の宿を訪問したマープルは、ディビス夫人の靴の中から神父のメモと同じ名前の書かれたホテル「蒼ざめた馬」の便箋を見つける。宿の女主人コピンズ夫人(リンダ・バロン)によれば、ディビス夫人は何かに怯えていたと言い、宿泊人で会計士のポール・オズボーン(JJ・フィールド)は、神父撲殺事件当夜に現場付近で目撃した頬に傷のある男のことを語ってくれた。
Pauline Collins as Thyrza Grey/Holly Valance as Kanga
一方、ミス・マープルは、ハンプシャーの小村マッチディーピングにある小さなホテル「蒼ざめた馬」を訪れ、経営者のサーザ・グレイ(ポーリーン・コリンズ)、受付のシビル・スタンフォーディス(スーザン・リン
チ)、料理人ベラ・エリス(ジェニー・ギャロウェイ)らに挨拶される。「蒼い馬亭」の客は、家事で家が焼けたコッタム大佐(トム・ワード)とその妻カンガ(ホリー・ヴァランス)、ポリオの後遺症で車椅子生活で頬に傷のあるヴェナブルズ(ナイジェル・プラナー)。マープルは大佐の家政婦リディア・ハースネット(サラ・アレクサンダー)やマーク・イースターブルック、友人トマシーナ・タッカートンの死を悲しむジンジャー・コリガン(エイミー・マンソン)らと会う。



また、コッタム大佐の妻カンガを演じたホリー・ヴァランス (Holly Valance)はオーストラリア出身で、モデル、歌手を経て女優になった人です。かつて、ヒット曲"Kiss Kiss"(2002)で一世を風靡し、また、セクシーなプロモーションビデオで話題になりましたが、いつの間にか演技派女優に転身していたのだなあと。


「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第17話)/蒼ざめた馬」●原題:THE PALE HORSE, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 5●制作年:2010年(本国放映[英国]2010年/[米国]2011年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:アンディ・ヘイ●脚本:ラッセル・ルイス●原作:アガサ・クリスティ「蒼ざめた馬」●時間:89分●出演:ジュリア・マッケンジー/ニール・ピアソン/エイミー・マンソン/ジョナサン・ケイク/ポーリーン・コリンズ/JJ・フィールド/サラ・アレクサンダー/ジェイソン・メレルズ/スーザン・リンチ/ホリー・ヴァランス/リンダ・バロン/ナイジェル・プレイナー/ビル・パターソン/ジェニー・ギャロウェイ/ニコラス・パーソンズ/エリザベス・ライダー/トム・ウォード●日本放送:2012/03/28●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★☆)


ボビー(ショーン・ビガースタッフ)はゴルフのプレー中に崖の上で瀕死の男を発見する。男は息絶える前に「なぜ、エヴァンズに頼まなかったか?」という言葉を残す。男は事故死とされたが、男の最後の言葉と男が持っていた美女の写真が紛失していることが気になったボビーは、幼馴染みの
令嬢フランキー(ジョージア・モフェット)と母親の友人ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)と共に謎解きを始める。3人は男の持ち物のなかにサベッジ城に印の付いた地図を発見し、ボビーは何者かに命を狙われた矢先で怯えるが、好奇心旺盛なフランキーは単身で城に乗り込み、城の前でクルマ事故を起こしてしまい、サベッジ家の女主人シルヴィア・サヴェィジ(サマンサ・ボンド)の世話になる―。 Georgia Moffett/Sean Biggerstaff
原作に出てこないミス・マープルがどう事件に絡むのかと思ったら、いきなりフランキーの元家庭教師ということで乗り込んできて(「城」という住いは、いつ誰が来ても滞在する部屋はあるのかと...)、それにボビーがフランキーの運転手に扮してミス・マープルに付いてきて(原作ではこれはフランキーのアイディアとなっている)、淡い恋心を抱く二人が偽の主従関係を演じる中、フランキーはピアノ教師ロジャー・バッシントンに言い寄られ、ボビーはドロシーに追い回されたり、ニコルソン医者の妻モイラと真夜中に思わぬ場面で遭遇したりで、二人の関係の行方はどうなるのかみたいな趣向も。
しかし、それにしても随分と原作と変えちゃったなあ(原作の保守的なファンは許さないだろうね)。原作は、確かに大富豪のジョン・サヴェィジは既に死んでいますが、物語の舞台はバッシントン・フレンチという地元の名家で、こちらの当主ヘンリイ・バッシントン・フレンチは物語の前半まで生きており(彼がモルヒネ中毒)、原作の女主人シルヴィア・サヴェィジに該当するであろうその奥さんシルビア・バッシントン・フレンチはまだ若く(こちらは健全)、ヘンリイ・バッシントンの弟がロジャー・バッシントン・フレンチ。毒蛇を飼う病的な青年も生意気なその妹も登場せず、更には庭師のクロード・エヴァンズも登場することなく、物語の途中で殺されるのはエヴァンズではなく、当主のヘンリイ・バッシントン・フレンチとなっています。



時...。最初のうちは、ジョージア・モフェット(Georgia Moffett)演じるフランキーの明るく活発で、突然「城」を訪ねてそれなりに丁重に扱われる英国風お嬢さんぶりが目を引く一方、モイラの方は、初登場時はやつれた感じでしたが、次第に存在感が逆転していき、最後はスゴかった...。ナタリー・ドーマーって、怖い時が一番美しく見える女優なのか(最近は「THE TUDORS〜背徳の王冠〜」に出ている)。
改変の激しさには賛否があるかと思いますが、元がミス・マープルものではないこともあってそれはある程度仕方ないとしても、子供向けにも翻訳されている原作に対して、ある意味"人間の業"を描いており、かなりヘビィな仕上がりかも。但し、あのラストの背中のスネーク・タトゥーはあまりにエロチックで、シリーズのトーンからやや外れていたかもしれません(ちょっとやり過ぎ?)。でも、改変には目くじらを立てずに観ようと決め込めば、「こう来ましたか」という感じで充分に楽しめた作品でした。星3つ半の個人評価は、ある程度原作と切り離してのもので(このシリーズに「原作に忠実であること」を求めても詮無いことなのか)、原作との対比で評価すると星3つ。「ダルジール警視」のウォーレン・クラークがピータース警視長役で出てたけれど、濃いなあ、この人。
「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第16話)/なぜエヴァンズに頼まなかったのか?」●原題:WHY DIDN'T THEY ASK EVANS?, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 4●制作年:2009年(本国放映[米国]2009年/[英国]2011年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:ニコラス・レントン●脚本:パトリック・バーロウ●原作:アガサ・クリスティ「殺人は容易だ」●時間:93分●出演:ジュリア・マッケンジー/ショーン・ビガースタッ
フ/ジョージア・モフェット/ヘレン・レデラー/サマンサ・ボンド/リック・メイオール/レイフ・スポール/マーク・ウィリアムズ/ウォーレン・クラーク/ハンナ・マレー/フレディー・フォックス/ナタリー・ドーマー/リチャード・ブライアーズ/シューアン・モリス/デビッド・ブキャナン●日本放送:2012/03/21●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★☆)


ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は、友人のルース・ヴァン・リドック(ジョーン・コリンズ)から、青少年更正施設を運営するルイス・セロコールド(ブライアン・コックス)と結婚した妹キャリー・ルイーズ(ペネロープ・ウィルトン)のことが心配だと
聞かされる。キャリーは最初の夫の遺産で暮らしているが、数週間前に屋敷で
火事があった。ルースに調査を依頼されたミス・マープルは、静養を装ってキャリーのもとを訪れる。彼女を駅に出迎えたのは,キャリーの養女で明朗なジーナ・エルスワース(エンマ・グリフィス・マリン)で、アメリカで結婚した夫ウォルター(ウォリー)・ハッド(エリオット・コーワン)と実
家へ戻っているのだが、義弟(キャリーの二番目の夫の息子)のスティーヴン・
レスタリック(リーアム・ギャリガン)は彼女に気があるようだ。その他に屋敷には、キャリーの実娘ミルドレッド(サラ・スマート)、施設上がりの秘書の青年エドガー・ローソン(トム・ペイン)、家政婦ジョリー・ベレバー(マキシーネ・ピーケ)らがいた。そこへ、ルイスの共同経営者
クリスチャン・ガルブランドセン(ナイジェル・テリー)が尋ねて来るが、彼はキャリーの最初の夫の長男である。ルイスは施設で予定されている演芸会の練習に余念が無く、その夜もインディアンの酋長に扮装して皆を相手に練習していた。そこへエドガーが拳銃を携えてやって来て、ルイスに恨みがあると言い立て、拳銃を発射、偶然やって来たキャリーの二番目の夫で演劇プロデューサーのジョニー・レスタリック(イアン・オジルビー)に取り押さえられる。その騒ぎの最中に、隣室でクリスチャンが刺殺され、カリー警視(アレックス・ジェニングス)が来訪して捜査を始める―。
夫ということで、前夫の子や養女もいたりして、人物相関の複雑さは相当なもの。キャリーの最初の夫の長男クリスチャン・ガルブランドセンがやけに老けているのがややこしいけれど、原作でも、この継子の方が継母のキャリーより2歳年上となっています。原作を読んでいないと人物関係を追うのがややキツイかも。因みに、原作では、彼女の姉ルース・ヴァン・リドックも3回結婚し、3回離婚して、その度に金持ちになっていった女性という設定です(この役を演じているジョーン・コリンズは実生活で5回結婚している)。
この映像化シリーズの特徴で、若い男女、とりわけヒロインに相当する女性の恋愛の行方をミステリと同じくらいの比重で扱ったりするものが幾つかある中で、この作品はその典型であり、そうなると、エンマ・グリフィス・マリン(Emma Griffiths Malin)演じるジーナにどれぐらい好感が持てるかが、この作品に対する好悪の分かれ目になることもあるかもしれません。彼女は、離れて見ている分にはいいけれど、付き合うとなる(ましてや結婚するとなると)大変そう―という感じかな。
犯人は原作ではエゴイスティックな殺人鬼という印象でしたが、この作品では、配偶者への思いやりから殺人を犯しているような解釈になっていて、原作ではあと2人若者を殺害していますが、この映像化作品では、あと1人、オジさん(ジョニー・レスタリック)を殺すのみ―と、やや犯人寄りの改変?(犯人に共感的に描くことで、その加害性をうやむやにしてしまうというのは、「パディントン発4時50分」などにも見られたこの演出家の傾向か)
「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第15話)/魔術の殺人」●原題:THEY DO IT WITH MIRRORS, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 4●制作年:2009年(本国放映[米国]2009年/[英国]2010年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:アンディ・ウィルソン●脚本:ポール・ラトマン●原作:アガサ・クリスティ「魔術の殺人」●時間:93分●出演:ジュリア・マッケンジー/ペネロープ・ウィルトン/ブライアン・コックス/エマ・グリフィス・マリン(Emma Griffiths Malin)/サラ・スマート/マキシン・ピーク/エリオット・コーワン/リアム・ギャリガン/トム・ペイン/イアン・オギルビー/ナイジェル・テリー/ジョーン・コリンズ/ジョーダン・ロング/アレクセイ・セイル/アレックス・ジェニングス/ショーン・ヒューズ●日本放送:2012/03/22●放送局:NHK‐BSプレミアム(評価:★★★)
地方の村の教区の牧師が養蜂作業中に毒を吸い込んで死ぬ。ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)は列車内で村の老婦人ラヴィニア・ピンカートン(シルヴィア・シムズ)に出会うが、彼女は牧師の毒死も以前に村で起きた老婦人の毒キノコ中毒死も何れも殺人事件だと言い、捜査依頼のためロンドン警察へ行くところだと。彼女は「殺人は容易だ」と連続死を仄めかすが、その直後、乗換駅で何者かにエスカレーターで突き落とされて死亡する。
新聞でその死亡記事を見たミス・マープルは葬儀に参列し、植民地から来た元警官ルーク・フィッツウィリアム(ベネディクト・カンバーバッチ)と知り合ってホテルに間借りし、共に謎解きを始める。ラヴィニアの予言通り、今度はハンブルビー医師(ティム・ブルック・テイラー)が敗血症で死亡するが、その夫人ジェシー(ジェンマ・レッドグレイヴ)は夫の死に疑問を持っていない。

その娘ローズ(カミラ・アーフウェドソン)、彼女と恋仲でハンブルビーの後継のトーマス医師(ジェイムズ・ランス)、退役軍人ホートン少佐(デヴィッド・ヘイグ)、公立図書館員アボット(ヒューゴ・スピア)、教会のオルガン弾きオノリア(シャーリー・ヘンダーソン)、メイドのエイミー(リンゼイ・マーシャル)といった面々に若い捜査官テレンス・リード(ラッセル・トビー)はマープルの助言をもとに聞き込みを行う―。![殺人は容易だ[装]上泉秀俊 pm.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E6%AE%BA%E4%BA%BA%E3%81%AF%E5%AE%B9%E6%98%93%E3%81%A0%5B%E8%A3%85%5D%E4%B8%8A%E6%B3%89%E7%A7%80%E4%BF%8A%20pm.jpg)
オノリアには知的傷害者の弟がいて、昔、泥酔して川に落ちて死亡しており、エイミーは、教会で何かを告解しようとしていた矢先に帽子塗料をセキ止め薬と誤飲して死亡(彼女は妊娠していた)、ホートン少佐は議員選挙に出馬するつもりだったが、過去の買収行為をネタに脅喝されて出馬を取りやめ、それに落胆したかのようには妻リディア(アナ・チャンセラー)が浴室で死亡、インスリンの過剰注射による自殺と思われたが―。牧師、老婦人、医師、メイド、少佐夫人と、ホント次々と人が死ぬなあと。

但し、こうしたトリビアな改変はさておき、大枠そのものについても「アガサ・クリスティー協会」公認の改変とはいえ、どうみても改変過剰気味で、結局、何と犯人まで改変されていたけれど(完全に別個の犯人当てクイズみたいになっている。原作にこだわりを持つ人には受け容れられないだろう)、原作では犯人はサイコっぽいシリアルキラーという印象でしたが、この作品では、人間の原罪を背負った悲劇的人物という描かれ方をしている印象もあり(これも原作には無い近親相姦の話が絡んでいる)、一方で、ミス・マープルが謎解きと犯人への追及を同時に行うため、クライマックス場面は結構キツイ感じの作りになっています。
別の意味で楽しめたのは、'10年にTVシリーズ「SHERLOCK (シャーロック)」の主役に抜擢されることになるベネディクト・カンバーバッチ(一度見たら忘れられない英国俳優)演じるルークと、スタイル抜群のマーゴ(マルゴ)・スティリー(アダルト女優からセレブ女優へ転身?)演じるブリジットの遣り取りで、"将来のシャーロック"は、魅惑的な謎の女ブリジットに惹かれるも、ずっと彼女に翻弄されっぱなしで、でも最後は何となく脈ありの雰囲気で終わる―という、ドロドロした話にしてしまった後の"口直し的ラスト"とも言えますが、事件解決によって明らかになったブリジットの"出自の重さ"を考えると、こんなんでいいのか~という、やっかみめいた感想も抱かざるを得ませんでした(改変も含め、トータルではそれなりに楽しめたが)。

ワトスンが、軍医として従軍したアフガン戦争で負傷して右足が不自由なうえに、戦争トラウマにより左手に断続的な痙攣があって職業生活に困難をきたし、 物価の高いロンドンで暮らしていくため必要に迫られて下宿をシェアできるルームメイトを探し、そこでホームズと出会うという設定になっていて、まずホームズは初対面のワトスンを一目見て、彼の経歴や現況からからストレスの原因まで全て言い当ててしまう―というのはお約束通りでしょうか。ワトスンがそうしたホームズのことを最初は気味悪く思いながらも、彼を通して次第にトラウマを克服していく一方、やや引き籠り傾向のあるホームズも、ワトソンを通して現実社会との関わりを保っていくという両者の"共生"関係のようなものが、第1話にして分かり易く示唆されていたのは、今思えば、かなりの"巧みの技"だったかも。やはり、目の肥えた視聴者が多い英国だと、ただ改変すればいいということでは済まないのだろうなあ。


「アガサ・クリスティー ミス・マープル(第14話)/殺人は容易だ」●原題:MURDER IS EASY, AGATHA CHRISTIE`S MARPLE SEASON 4●制作年:2008年(本国放映2009年)●制作国:イギリス・アメリカ●演出:ヘティ・マクドナルド●脚本:スティーヴン・チャーチェット●原作:アガサ・クリスティ「殺人は容易だ」●時間:93分●出演:ジュリア・マッケンジー/ベネディクト・カンバーバッチ/シャーリー・ヘンダーソン/マーゴ(マルゴ)・スティリー/アナ・チャンセラー/ジェンマ・レッドグレイブ/カミラ・アーフウェドソン/デビッド・ヘイグ/ヒューゴ・スピア/ラッセル・トビー/ジェームズ・ランス/ティム・ブルック・テイラー/シルビア・シムズ/リンゼイ・マ




朝の投資信託会社内で社長秘書のグロブナー(ラウラ・ハドック)が社長のレックス・フォテスキュー(ケネス・クランハム)にお茶を持って行くと、お茶を飲んだ社長は苦しみ出してじき亡くなる。ニール警視(マシュー・マックファディン)とビリングスリィ巡査部長(ポール・ブルーク)の調べにより、自宅での朝の紅茶に毒物のタキシンが入れられたと考えられたが、社長の上着のポケットにライ麦が詰め込まれていたことの意味は解らない。
フォテスキュー家には、レックスの若い後妻アデール(アンナ・マデリー)、長男のパーシヴァル(ベン・マイルズ)、パーシヴァルの妻で元看護婦のジェニファー(リズ・ホワイト)、娘のエレーヌ(ハッティー・モラハン)、家政婦のメアリー・ダヴ(ヘレン・バクセンデール)、執事のクランプ(ケン・キャンベル)とその妻で料理人の(ウェンディ・リチャード)、ミス・マープル(ジュリア・マッケンジー)が教育した養護施設出身の小間使いグラディス(ローズ・ハインニー)がいて、アデールにはヴィヴィアン・デュボア(ジョセフ・ビーティー)という若い男の愛人がいた。
ちょうど翌日、放蕩のため家を追い出されていたパーシヴァルの弟ランスロット(ルパート・グレイヴズ)が、父に呼ばれたからと妻パット(ルーシー・コフ)と共にアフリカのケニアから戻ってくる。そのランスが帰還した日に、アデールが飲んだ紅茶に入っていた青酸カリのために亡くなる。そして同じ夜、小間使いのグラデイスが洗濯場で絞殺死体で発見され、鼻を洗濯バサミで挟まれていた。自分が仕込んだグラディスが亡くなったことで、ミス・マープルは、ニール警視とピックフォード巡査部長(ラルフ・リトル)による事件捜査に協力を申し出る。ミス・マープルは、事件の経緯が執事クランプの口ずさんだマザーグースの歌と符合していることに気づき、歌の中に出てくるクロツグミ(ブラックバード)のことで家人に聴いてみるようニール警視に示唆すると、クロツグミの死骸がレックス・フォテスキューの机の引き出しに入れられていた事件が何か月か前にあったことと、アフリカのクロツグミ鉱山を共同経営していたマッケンジーという男がアフリカの地でレックスに置き去りされる形で横死し、彼には妻との間に息子と娘がいたらしいことがわかる。ミス・マープルがサナトリウムいるマッケンジーの妻を訪ねると、息子は戦死し、娘はいないと言うが、ミス・マープルは、娘のルビー・マッケンジーが偽名を使って復讐のためにフォーテスキュー家に潜入していると推理、ニール警視は、しっかり者だがどことなく冷たい感じの家政婦メアリー・ダヴがルビーではないかと疑うが―。

家政婦メアリー・ダヴ役のヘレン・バクセンデールは、悪女ぶりがものすごくキマっていたように思います(原作より存在感が大きい)。パーシヴァルの妻で元看護婦のジェニファー(リズ・ホワイト)は、本来は影がある女性ではないかと思われるですが、ヒステリニックかと思ったら落ち込んだりの情緒不安定で、あまり頭も良さそうでなく、むしろ、レックスの実の娘のエレーヌ(ハッティー・モラハン)の方が魅力的だったかも(原作でも元々影が薄いというのはあるが)。ランスロット(ルパート・グレイヴズ)の妻パット(ルーシー・コフ)も、ちょっと老けた感じだったなあ。あなたはまだ若いんだから...とは言いにくい?


