【1068】 ○ コリン・デクスター (大庭忠男:訳) 『オックスフォード運河の殺人 (1991/04 ハヤカワ・ミステリ) ★★★★ (○ ロバート・ナイツ 「主任警部モース(第32話)/オックスフォード運河の殺人」 (98年/英) (2001/06 NHK-BS2) ★★★☆)

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130年前の事件の謎解き。状況設定がシンプルな一方で、トリックは巧妙。本格推理として満足。

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"The Wench is Dead (Inspector Morse Mysteries)" (1991)" The Wench is Dead" (1989)『オックスフォード運河の殺人 (ハヤカワ ポケット ミステリ)』 ['91年] 『オックスフォード運河の殺人 (ハヤカワ・ミステリ文庫)』 ['96年] "Inspector Morse Set Eleven: The Wench Is Dead [DVD] [Import]"

 1991(平成3) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(海外部門)第5位作品。

 モースは不摂生が祟り胃潰瘍にため入院生活を余儀なくされるが、たまたま病院で入手した『オックスフォード運河の殺人』という130年前のヴィクトリア朝時代に起きたある殺人事件と裁判に関する郷土史家の研究書を読むことになり、それは、夫に会いに行くためにオックスフォード運河を船旅中のある女性が荒くれ者の船員に殺され運河に投げ込まれたという事件で、裁判により船員2名が絞首刑になっているというものだったが、モースはその記録を読み進むうちに、彼らは無実の罪で処刑されたのではないかと考えるようになる―。

INSPECTOR MORSE:THE WENCH IS DEAD Double Audio Cassette.jpg 1989年発表のコリン・デクスター(Colin Dexter)による、オックスフォード、テムズ・バレイ警察の主任警部モースを主人公とした「主任警部モース」シリーズの第8作(原題:The Wench is Dead)で、2段組ながら200ページとコンパクトですが、一本筋の運河での事件という状況設定がシンプルな一方で、トリックは巧妙で、なかなか密度が濃く、本格推理として満足できる1冊でした。

INSPECTOR MORSE:THE WENCH IS DEAD Double Audio Cassette U.K.

 刑事や探偵がベッドや安楽椅子で文献のみを頼りに過去の事件を解くというパターンには、ジョセフィン・テイ女史の歴史ミステリの傑作『時の娘』('51年/早川書房)があり、一方こちらは史実を扱ったものではなく『オックスフォード運河の殺人』という研究書自体がコリン・デクスターの創作なのですが(原題"The Wench is Dead"はテイを意識したのかも知れないが、研究書のタイトルをストレートに持ってきた邦題の方がいいかも)、本書も傑作と言えるのでは(コリン・デクスターは本書により、英国推理作家協会(CWA)賞ゴールド・ダガー賞を初受賞)。

 『時の娘』の事件の舞台は15世紀で、それに比べると1859年の事件というのは比較的"最近"なのかも知れませんが、それにしても130年も遡って、当時の審判をひっくり返してしまうというのはなかなかのもの。
 同じ英国のアリソン・アトリー女史の『時の旅人』('81年/評論社)は16世紀にトリップするタイムトラベル・ファンタジーでしたが、本書での事件の検証場面にもあるように、英国の家って旧いものがよくもまあいろいろな痕跡を留めているなあと感心しました(130年前の事件の証拠物件を破棄せず、保管しているというのもたいしたもの)。

THE WENCH IS DEAD.bmp アイルランドまで墓を掘り返しに行くなど、やや酔狂が過ぎる気もしないでもないですが、これぞモースの探究心が本領発揮されたものとも言え、ラストのアナグラムは、いかにもクロスワードを得意とするモースらしい(デクスターらしい)ものでした。

 「オックスフォード運河の殺人」はテレビ版も観ましたが(かつてNHK-BS2で放送していたものをAXNで再々放送していた)、モースが過去の事件について推理を巡らせる部分が「時代モノ」のドラマとして再現されていて、その部分の占める比重が大きいため、通常の現代劇としてのミステリ・ドラマとは違った雰囲気に仕上がっており、一風変わった味わいがありました。


INSPECTOR MORSE/THE WENCH IS DEAD.jpg第32話)/オックスフォード運河の殺人.jpg「主任警部モース(第32話)/オックスフォード運河の殺人」●原題:INSPECTOR MORSE: THE WENCH IS DEAD●制作年:1998年●制作国:イギリス●監督:ロバート・ナイツ●脚本:マルコム・ブラッドベリ●原作:コリン・デクスター●時間:104分●出演:ジョン・ソウ/ジェームズ・グラウト/クレア・ホルマン/リサ・アイクホーン/ジュディ・ロー/マシュー・フィニー/ジュリエット・コーワン●日本放映:2001/06 (NHK-BS2)(評価:★★★☆)
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モース 英ITV.jpg主任警部モース2.jpg「主任警部モース」Inspector Morth (英ITV 1987~2000)○日本での放映チャネル:NHK-BS2(2001)/ミステリチャンネル(2003~2004)
オックスフォード運河の殺人[ハヤカワ・ミステリ文庫].jpg
 【1996年文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫]】 
 
 
 

《読書MEMO》
●モース警部シリーズ(原作発表順)
 ・ウッドストック行最終バス Last Bus To Woodstock
 ・キドリントンから消えた娘 Last Seen Wearing
 ・ニコラス・クインの静かな世界 The Silent World of Nicholas Quinn
 ・死者たちの礼拝 Service of all the Dead (1979年CWA「シルバー・ダガー賞」受賞)
 ・ジェリコ街の女 The Dead of Jericho (1981年CWA「シルバー・ダガー賞」受賞)
 ・謎まで三マイル The Riddle of the Third Mile
 ・別館三号室の男 The Secret of Annexe 3
 ・オックスフォード運河の殺人 The Wench is Dead (1989年CWA「ゴールド・ダガー賞」受賞)
 ・消えた装身具 The Jewel That was Ours
 ・森を抜ける道 The Way Through the Woods(1992年CWA「ゴールド・ダガー賞」受賞)
 ・カインの娘たち The Daughters of Cain
 ・死はわが隣人 Death is Now My Neighbour
 ・悔恨の日 The Remorseful Day

2 Comments

大庭 忠男(おおば ただお、1916-2013) 2013年1月16日肺炎で死去、96歳。

コリン・デクスター(英推理作家)2017年3月21日、オックスフォードの自宅で死去、86歳。

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This page contains a single entry by wada published on 2008年12月28日 23:13.

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