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推理小説か、女性小説か。「若い女性向け」仕様? でも、面白く読めた。


『波の塔―長編小説 (カッパ・ノベルス (11-3))』『新装版 波の塔 上下巻 セット』 映画「波の塔」
2025.3.30 蓼科親湯温泉にて

司法修習生の小野木喬夫は、観劇中に隣席の女性が気分を悪くしているのに気づき、医務室へ連れて行く。周囲にその女性の同伴者と思われているうちに、小野木は彼女をタクシーで送ることになり、そのまま縁が切れるのを惜しむ気持ちになる。一週間ほど経ち、小野木のもとに、名刺を渡した彼女―結城頼子から電話が来て、夕食の誘いを受ける。検事になった小野木は、その後も自分を誘ってくれた結城頼子を愛するようになるが、彼女からは自分の住所や生活は何も知らされないでいた。彼女の落ちついた動作や身につけている着物は贅沢な環境と人妻であることを推察させ、小野木は何度か頼子の境遇を聞こうとしたが果たせない。一方、小野木の所属する東京地検特捜部は密告からR省の汚職事件を掴んだ。内偵を進める小野木は、思わぬ場面で頼子の素性を知る―。

松本清張が週刊誌「女性自身」の1959年5月29日号から1960年6月15日号にかけて連載した長編小説で、1960年6月に光文社(カッパ・ノベルス)から刊行されています。政界推理小説でありながら、「ミステリ」的要素よりも「女性小説」的要素の方が濃くなっていて、ちゃんと読者ターゲットに合わせているなあという印象です。
小野木喬夫と結城頼子の恋愛劇に絡めて、女子大を卒業して一人旅の最中、諏訪湖近くの古代遺跡で小野木に会い、以後小野木のことが気になってゆく田沢輪香子と、輪香子の親友の京橋の呉服屋の娘で、人見知りせず思いつくとすぐに行動する佐々木和子という二人組が登場し、この辺りも「若い女性向け」仕様といった感じです。
本作の連載中、「女性自身」の部数は急上昇し、更には主人公と自分を同一視する読者まで出てきたのか、カッパ・ノベルス刊行後、青木ヶ原樹海に入って自殺する女性が増加し、そのたびに編集部と作者宅に警察から連絡が入ったとのこと、1974年には樹海内で本作を枕にした女性の白骨死体が発見され、自殺者はその後も相次いだそうです。
結末に関しては、「頼子の自己満足ではないか」「小野木は社会的な指弾も受け職も投げ打ったのに、生きながらの骸ではないか」との批判もあったようですが、作者は「非情に描かなければだめなんだ」と答えたそうです。ただし、ミステリとしても面白く読め、文春文庫では、松本清張記念館監修「松本清張生誕百年記念・長編ミステリー傑作選」の全10作の1つとしてラインアップされています。
中村登監督により1960年に映画化され、結城頼子を有馬稲子、小野木喬夫を津川雅彦、田沢輪香子を桑野みゆきが演じています。
また、テレビドラマとしては、2012年にテレビ朝日系で「松本清張没後20年特別企画 ドラマスペシャル 波の塔」として沢村一樹、羽田美智子主演で放映されましたが、それが8度目のドラマ化でした。90年代以降は単発2時間ドラマとして放映されていますが、それ以前に、60年代・70年代に連ドラとして4回ドラマ化されています(確かに「昼メロ」枠でやりそうな感じ)。
1961年版「波の塔」フジテレビ系列「スリラー劇場」1月9日 - 4月24日・全16回(主演:池内淳子・井上孝雄)
1964年版「波の塔」NETテレビ系列「ポーラ名作劇場」8月24日 - 11月2日・全13回(主演:村松英子・早川保)
1970年版「波の塔」TBS系列「花王 愛の劇場」8月31日 - 10月30日・全45回(主演:桜町弘子・明石勤)
1973年版「波の塔」NHK「銀河テレビ小説」4月2日 - 5月11日・全30回(主演:加賀まりこ・浜畑賢吉・山口いづみ)
1983年版「松本清張シリーズ 波の塔」NHK「土曜ドラマ」10月15日 - 10月29日・全3回(主演:佐久間良子・山﨑努)
1991年版「松本清張作家活動40年記念 波の塔」フジテレビ系列「金曜エンタテイメント」5月24日・全1回(主演:池上季実子・神田正輝)
2006年版「松本清張ドラマスペシャル 波の塔」TBS系列 12月27日・全1回(主演:麻生祐未・小泉孝太郎)
2012年版「松本清張没後20年特別企画 波の塔」テレビ朝日 6月23日・全1回(主演:沢村一樹・羽田美智子)



【1960年ノベルズ版[光文社カッパ・ノベルス]/2009年文庫化[文春文庫]】


「密会」('58年)... 大学教授夫人・紀久子は、夫の教え子である学生との密会中に、思いもかけずある殺人事件を目撃することになる―。作者が「週刊新潮」から依頼されて書いたもので、吉村昭が初めて原稿料を貰ったという作品ですが、短い分、キレがあるサスペンスになっていて、翌年に中平康監督で「
ストには多くの疑惑を残したその死でしたが、「職業的条件反射」といった感じだったでしょうか。'94(平成6)年には緒形拳主演でドラマ化されていますが、個人的には未見です(2021年、「BSフジサスペンス劇場」で再放映されたようだ)。

芸者上りの倉橋きん(杉村春子)は言葉の不自由な女中・静子(鏑木ハルナ)と二人暮し。今は色恋より金が第一で、金を貸したり土地の売買をしていた。昔の芸者仲間たまえ(細川ちか子)、とみ(望月優子)、のぶ(沢村貞子)の三人も近所で貧しい生活をしているが、きんはたまえやのぶにも金を貸して喧しく利子を取り立てた。若い頃きんと無利心中までしようとした関(見明凡太郎)が会いたがっていることを呑み屋をやっているのぶから聞いても、きんは何の感情も湧かない。しかし、かつて燃えるような恋をした田部(上原謙)から会いたいと手紙を受けると、
彼女は懸命に化粧して待つ。だが田部が実は金を借りに来たのだと分かると、きんはすぐに冷い態度になり、今まで持っていた彼の写真も焼き捨てる。たまえはホテルの女中をしているが、その息子・清(小泉博)は、お妾をし
ている栄子(坪内美子)から小遭いを貰っている。息子が手に届かない所にいる気がして、たまえは母親としては悲しかった。雑役婦のとみには幸子(有馬稲子)という娘がいて、雀荘で働いていたが、店へ来る中年の男と結婚することを勝手に決めていた。無視されたとみは、羽織を売った金でのぶの店へ行き酔い潰れる。北海道に就職した清は、栄子と一夜別れの酒を飲み、幸子はとみの留守に荷物を纏め、さっさと新婚旅行に出かけた。子供たちは母親のもとを離れたが、清を上野駅へ見送った後のたまえととみは、子供を育てた喜びに生甲斐を覚えるのだった。一方のきんは、のぶから関が金の事で警察へ引かれたと聞いても、私は知らないと冷たく言い捨てて、不動産の板谷(加東大介)と購買予定の土地を見に出掛ける―。
もともとは別の話だったのを、3人ともかつて芸者仲間だったという設定にし、原作には無いキャラクターの呑み屋を営んでいるのぶ(沢村貞子)が、これもまたかつての芸者仲間という設定で、扇の要のように3人を繋いでいます。それが極めて自然で、まさに脚本の妙と言えます。
金満家への道を突き進むきんと、貧乏を嘆くたまえ、のぶの二人を対立構造的に描いていて、しかも後者の二人は共に子どもの問題も抱えています。それが、金の亡者と思われたきんは、昔の恋人に会えるとなると夢心地の気分になり、ところが実際にその彼に会ってみて幻滅、恋人の写真を焼いて過去と決別します(上原謙は「
林芙美子は1949年から1951年に掛けて9本の中長編を並行して新聞・雑誌に連載しており、私用や講演や取材の旅も繁くして、1951(昭和26)年6月27日の夜分、「主婦の友」の連載記事のため料亭を2軒回ったところ、帰宅後に苦しみ出し、翌28日払暁、心臓麻痺で急逝しています(新聞連載中の「
「晩菊」●英題:LATE CHRYSANTHEMUMS●制作年:1954年●監督:成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●脚本:田中澄江/井手俊郎●撮影:玉井正夫●音楽:斎藤一郎●原作:林芙美子●時間:97分●出演:杉村春子/沢村貞子/細川ちか子/望月優子/上原謙/小泉博/有馬稲子/見明凡太郎/沢村宗之助/加東大介/鏑木ハルナ/坪内美子/出雲八枝子/馬野都留子●公開:1954/06●配給:東宝●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-05-02)(評価:★★★★☆)

島崎雪子)が家出して東京からやって来て、その華やいだ奔放な態度で家庭の空気を一層搔き乱す。三千代が同窓会で家を空けた日、初之輔と里子が家に居るにもかかわらず、階下の入口にあっ
た新調の靴が盗まれたり、二人が居たという二階には里子が寝ていたらしい毛布が敷かれていたりして、三千代の心に忌まわしい想像をさえ搔き立てる。そして里子が出入りの谷口のおばさん(浦辺粂子)の息子・芳太郎(大泉滉)と遊び回っていることを三千代はつい強く叱責したりもするのだった。家庭内のこうした重苦しい空気に堪えられず、三千代は里子を連れて東京へ立つ。三千代は再び初之輔の許へは帰らないつもりで、東京で職を探す気にもなっていたが、従兄の竹中一夫(二本柳寛)からそれとなく箱根へ誘われたりもする。その一夫と里子が親しく交際を始めたことを知った折、初之輔は三千代を迎えに東京へ出て来た―。
1951(昭和26)年11月23日公開の成瀬巳喜男監督作で、原作は1951年4月1日から7月6日に「朝日新聞」に連載された林芙美子の同名長編小説(タイトルは冒頭の三千代の言葉にあるように、所謂"夫婦の最低限会話"とされる「飯、風呂、寝る」のメシからきている)。同年6月28日の作者の急死により絶筆となり、150回の予定を97回で連載終了(同年11月朝日新聞社より刊行
)、映画のラストは成瀬監督らによって付与されたものです(監修:川端康成)。後に「稲妻」('52年)、「
興行的にも成功を収めましたが、やはり原作がいいのでしょう。それと、川端康成の監修によるアレンジが功を奏したとの見方もあるようですが、主演の上原謙、原節子の演技も高い評価を得ています。原節子は当時、一連の小津安二郎作品で「永遠の処女」と呼ばれ
る神話性を持ったスター女優でしたが、この作品では市井の所帯やつれした女性を演じていて、それがまた良かったし(原節子はこの年に、黒澤明監督の「白痴」と小津安二郎監督の「麦秋」に出演したばかりで、同じ年に黒澤・小津・成瀬作品に主演したことになる)、上原謙の時にコミカルに見える演技も、杉村春子(三千代の母親役。「寝かしておいておやりよ 女はいつも眠たいもんなんだよ!」というセリフがいい)をはじめ脇役陣もみな良かったです。
ただし、この映画に付された独自の結末は(脚本は成瀬巳喜男監督作の常連の田中澄江)、林文学のファンなどからは批判を受けることもあるようです。「女性は好きな男性に寄り添って、それを支えていくことが一番の幸せ」みたいな終わり方になっているため無理も
ありません。初之輔が三千代を迎えに東京へ出て来くるところまでは原作もそうなっていますが、三千代がもとの大阪天神の森での生活に戻ることについては、「この夫婦は別れるべきだった」「林芙美子自身は夫婦の離別を結末として想定をしていた」などの意見があります(因みに、作者がどのような結末を想定していたかは不明とされている)。
原作にも描かれている大阪の名所が数多く登場し、復興期の街の風景をちょっとしたタイムスリップ的観光案内として楽しむという味わい方も出来る作品でもあります(三千代が上京するため、東京の街の様子も見られる)。
三千代(原節子)の義弟を演じた小林桂樹は当時大映からのレンタルでしたが、翌'52年に東宝映画初代社長・藤本真澄の誘いで東宝と契約し、源氏鶏太原作の「三等重役」('52年)、「続三等重役」('52年)から、引き続き森繁久彌が主役を演ずる「社長シリーズ」('56年-'71年)の全てに秘書役などで出演することになりました(「
「めし」●制作年:1951年●監督:成瀬巳喜男●製作:藤本真澄●脚本:田中澄江/井手俊郎●撮影:玉井正夫●音楽:早坂文雄●原作:林芙美子●時間:97分●出演:上原謙/原節子/島崎雪子/杉葉子/風見章子/杉村春子/花井蘭子/二本柳寛/小林桂樹(大映)/大泉滉/清水一郎/田中春男/山村聡/中北千枝子/谷間小百合/立花満枝/音羽久米子/出雲八重子/長岡輝子/浦辺粂子/滝花久子●公開:1951/11●配給:東宝●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-20)(評価:★★★★)

花岡始(ハナ肇)は57歳。東京の商事会社で34年間真面目にコツコツと働き続けた万年課長だが、間もなく定年を迎えようとしていた。いまや仕事もさほど忙しくなく、若い部下達もあまり相手にしてくれない。家に帰れば家族間のトラブルがまたストレス
の種。そんな花岡にとって唯一の心の安らぎは、愛らしく気立てのよい新入社員の由美(西山由美)だけだった。彼女は若いエリートの恋人がいたが、わざわざ花岡のために二人だけの送別会を開いてくれた。退職が近づいたある日、同僚がジャズ・バンド結成の話を持ってきた。若い頃に情熱を傾けたジャズで有志を集めて、コンサートをやろうというのだ。犬山(犬塚弘)、安井(安田伸)、桜田(桜井センリ)、谷山(谷啓)、それに会社の守衛
をしている上木原(植木等)とメンバーも揃い、花岡は練習に精を出して再び生活に張り合いを取り戻した。そして12月25日にコンサートが始まったが、その時花岡の家では息子が暴れ回っていた。花岡は途中で家に帰り、息子を止めようとしてケガをしてしまう。しかし花岡は再び会社に戻り、コンサートを成功させる。退職の日。花岡は、娘のように親しみを感じていた由美を二股にかけて振った生意気な若いエリートをぶっ飛ばし、会社を後にするのだった―。
1988年の市川準(1948-2008/59歳没)監督作で、定年を間近に控えた主人公のサラリーマンが、退職前に昔のバンド仲間と共にジャズコンサートを企画する話。その「昔のバンド仲間」を演じているのが、「ハナ肇とクレージーキャッツ」のメンバーで、1971年1月に石橋エータローが脱退後、メンバーは各自での活動が多くなり、80年代には各メンバーとも俳優としての存在感が増し、グループとして事実上の解散状態を迎えていたため、久しぶりの「同窓会」的映画と言えます。
ただ、冒頭部分でハナ肇が演じる花岡始が、定年を迎えるサラリーマンの悲哀を一身に負っている感じで、矢鱈"重々しい"と言うか"暗~い"印象でした。「えっ、コメディじゃなかったの」という感じです。ストーリー的にも、最後の方に出てくる花岡の息子の家庭内暴力(こっちの方が情緒的なサラリーマンの悲哀よりよほど大きな現実問題ではないか)も解決した風には見えないし、「同窓会」映画ならクレージーらしくもっとも明るくてもよかったのでは。
そのくせ、クレージーのメンバーがジャズバーのようなところで「チャーリー・パーカーはいいよね」とかジャズ談義しているシーンがドキュメンタリー風に挿入されていたりして、これって一体、サラリーマンの悲哀を描いた映画なのか、クレージーキャッツの「同窓会」映画なのか、どうもはっきりしなかったように思います(一応、ハナ肇はこの作品で、1988年度・第31回「ブルーリボン主演男優賞」を受賞している)。
植木等演じる会社の守衛が、実は大邸宅に住み、羽田美智子演じる若妻を侍らせているという設定だけが面白く(羽田美智子はこの年['88年]、'89年日本旅行キャンペーンガールに選
ばれデビューしたばかりだった)、これとて、植木等が物語の設定に異議を唱えて、彼自身のアイディアで実現したようで、ああ、植木等という人は分かっていたなあ。「
乱
花岡にフィリピン出張を命じる常務が伊東四朗だったり(伊東四朗と羽田美智子は、'03年から昨年['22年]までテレビ朝日系で放送された刑事ドラマシリーズ「おかしな刑事」でW主演としてコンビを組むことになる)、花岡をバイトに勧誘するベンチの変な男がイッセー尾形だったり、職場の課員役として木野花や小川菜摘(ダウンタウンの浜田雅功と1989年に結婚)が出ていたり、色んな人が出ているなあと(ジャイアント馬場も本人役で出ている)。
ハナ肇 1930年生まれ・1993年9月10日(63歳没)
「会社物語 MEMORIES OF YOU」●制作年:1988年●監督:市川準●脚本:鈴木聡/市川準●撮影:小野進●音楽:板倉文●時間:99分●出演:ハナ肇/谷啓/植木等/犬塚弘/安田伸/桜井センリ/石橋エータロー/西山由美(西山由海)/イッセー尾形/鈴木理江子/木野花/小川菜摘/馬渕晴子/羽田美智子/笹野高史/石丸謙二郎/岩松了/近藤宏/堺左千夫/宮部昭夫/余貴美子/ジャイアント馬場/村松友視/伊東四郎●公開:1988/11●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(23-05
-14)(評価:★★★)
2023年年10月26日(94歳没)



茂呂井民雄(もろいたみお)(川口浩)は平和大学を卒業し、駱駝麦酒株式会社に就職した。日本には我々が希望をもって坐れる席は空いてない。訳もなく張り切らなくては、というのが彼の持論。新人研修の日、東北・一関の高校教師となって行く同窓で恋人の壱岐留奈(小野道子)に逢い、二人は軽くキスして別れた(茂呂井はほかに、百貨店の女店員と映画館
のもぎりの二人の恋人たちにも別れを告げる)。研修が終わると、民雄は関西・尼崎へ赴任した。そこで彼は先輩の更利満(船越英二)から、「健康が第一、怠けず休まず働かず」というサラリーマンの原則を聞かされる。ある日、故郷の父・権六(笠智衆)から母・乙女(杉村春子)が発狂したと知らせてきた。民雄は平和大学生課に月二千円で母の発狂の原因、治療を研究する学生を依頼した。応募したのは和紙破太郎(わしわたろう)(川崎敬三)という精神科医の卵。彼は民雄の父・権六に
会い、時計屋の権六が市会議員でもあり、市の有力者であることを利用して、精神病院の設立を約束させる。ある日民雄の許に、県の財政縮小で教職リストラされた留奈が訪ね、生きるために結婚を迫る。しかし、気持はあっても毎月の出費に追われる彼としては断るしかなく、彼女は帰って行く。その後、民雄は膝の痛み止め注射に苦しみ、高熱のため髪が真白になる。そこへ気狂いになったはずの母が訪ねてきて、狂ったのは父だと聞かされる。民雄
は病院で和紙に会い、父を利用した彼を難詰する。チャンスは利用すべきと
の「三段跳び」論を振り回す和紙は、三段跳びの勢いが余ってバスにはねられ、止めようとした民雄は電柱に頭をぶつけて昏倒。目覚めると髪は元の黒。看護婦は精神に休養を与えたからだと。しかし尼崎に帰った彼は、1カ月の無断欠勤でクビになっていた。安定所で職を求める彼に小学校の小使いの口。そして、職安の人だかりの中で偶然留奈に逢った彼は、嬉しさの余り結婚を申込むが、既に彼女は別の小使いと結婚していた。ある小学校での入学式に、万国旗をあげる民雄の小使姿があった。が、すぐに彼は、帝大卒を隠していたことがばれてクビになる。彼は母親とバラック小屋に住むことになるも、一念発起してそこで学習塾を開くことを思いつく―。
て面白くも何ともない」とする人もいて、個人的には自分も小谷野敦氏の感想に近いです。実は、市川崑と増村保造(助監督)もこの作品を口を揃えて「失敗」と切り捨てていますが、監督からも見捨てられた分、今になってカルト的価値が出てきたのかもしれません。
また、民雄は「駱駝麦酒」株式会社入社後に尼崎工場に赴任しますが、かつて尼崎駅北側には2万7千平方メートル以上の敷地を持つキリンビールの大工場があり、'96年に今の神戸工場(神戸市北区)に移転するまで、映画にも見えるように、煙突が林立する工場と社員寮や社宅が立ち並ぶ企業城下町でした(跡地は今は大型商業施設で、ある調査では「住みやすい街」関西1位となり、若い家族やカップルが住む街となっている)。
「満員電車」●制作年:1957年●監督:市川崑●脚本:和田夏十/市川崑●撮影:村井博●音楽:宅孝二●時間:99分●出演:川口浩(茂呂井民雄)/笠智衆(その父・権六)/杉村春子(その母・乙女)/小野道子(茂呂井の彼女で教師になった壱岐留
奈)/川崎敬三(精神科医の卵・和紙破太郎)/船越英二(茂呂井の先輩社員・更利満)/潮万太郎(山居直)/山茶花究(駱駝麦酒社長)/見明凡太郎(本社総務部長)/伊東光一(場場博士)/浜村純(平和大学総長)/入江洋佑(若竹)/袋野元臣(曾根武名夫)/杉森麟(町の歯医者)/響令子(その奥さん)/新宮信子(女歯科医)/葉山たか子(看護婦)/半谷光子(看護婦)/佐々木正時(茂呂井のYシャツを修理する洋服屋)/酒井三郎(既卒者・茂呂井の就職あっせんを断わる学生課長)/葛木香一(小学校校長)/泉静治(教頭)/杉田康(教師)/花布辰男(新人教育講師の工場長)/高村栄一(新人教育講師の営業部長)/春本富士夫(尼崎工場の給与課長)/南方伸夫(人事課長)/宮代恵子(茂呂井の彼女で百貨店の女店員)/久保田紀子(茂呂井の彼女で映画館の女)/直木明(体格の良い男)/志保京助(青白い顔の男)/此木透(無精たらしい男)/志賀暁子(社長秘書)/吉井莞象(大学総長(明治時代))/河原侃二(大学総長(大正時代))/宮島城之(大学総長(昭和時代)/(ノンクレジット)田宮二郎(大学卒業式の場に茂呂井といる同期生)●公開:1957/03●配給:東宝●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(23-04-29)(評価:★★★☆)

ここ鬼怒川温泉では、日東電機工業のお得意様招待の新年宴会が盛大に行われていた。芸者衆がずらりと居並ぶ前で、ハッピ姿でサービスにつとめる社員たち。舞台で踊り終った大取引先の畑田商会社長・畑田元十郎(東野英治郎)は、同じく大取引先の矢部商会社長の令嬢・美沙子(水谷良重)の隣に腰を据えた。酒癖の悪い畑田は、やがて美沙子にからみ出す。困った彼女は、傍に控えていた日東電機社員・高坂(石原裕次郎)に助けを求めた。最初は躊躇したものの、畑田の
態度をみかねた高坂は、思わず畑田を投げ飛ばしてしまう。腐った高坂はビール手に風呂場へ降りて行った。そこで畑田と出会った彼は、畑田から意外なことを聞く。営業部長の湯浅(宇野重吉)を失脚させて社を食い物にしようとする陰謀があるというのだ。
先刻の事は水に流して仲直りした二人は、湯浅を守ることを誓い合う。一方、タイピストの十三子(芦川いづみ)と美沙子は高坂に好意を持っていた。面白くないのは十三子に婚約を破棄された営業部員の大崎(藤村有弘)と、美沙子につきまとう矢部商会の専務・田崎(高橋昌也)で、二人は何とかして高坂を馘にしようと企む。さらに田崎は、日東電機総務部長の菱山(滝沢修)と組んで、日東電機を食いものにしようとしていた。菱山一派は行動を開始し、菱山は湯浅に彼の部下の悪事を暴き責任をとるように迫る。辞職しようとする湯浅を引き留めた高坂は、畑田の力を借り巻き返しを開始し、美沙子を慕う矢部商会の木瀬(山田吾一)も高坂に協力を申し込む―。

やはり、ヒーロー裕次郎の特徴は喧嘩が強いこと。愚連隊なんか蹴散らして返り討ちにしてしまいます。それと、何事にも無感情になりがちな今の社会と違って(当時でも言いにくいことは言えない雰囲気はあったと思うが)、素直に感情を吐露する姿も心地よいです。まあ、東野英治郎演じるお得意先の社長の非礼にたまらず相手を投げ飛ばしてしまうも、そのことで却ってその社長との絆が深まるというのは出来すぎた話ですが、そこはコメディということで...。
み/芦田伸介/水谷良重/藤村有弘/山田吾一/高橋昌也/谷村昌彦/青木富夫/矢頭健男/小川虎之助/大森義夫/三崎千恵子/宮城千賀子/東野英治郎/滝沢修/宇野重吉●公開:1962/04●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-06)(評価:★★★☆)