「●た‐な行の日本映画の監督」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2357】 堤 幸彦 「天空の蜂」
「●本木 雅弘 出演作品」の インデックッスへ 「●藤村 志保 出演作品」の インデックッスへ 「●石橋 蓮司 出演作品」の インデックッスへ 「●竹中 直人 出演作品」の インデックッスへ「●浅野 忠信 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」のインデックッスへ 「●え 江戸川 乱歩」の インデックッスへ 「○近代日本文学 【発表・刊行順】」の インデックッスへ
原作ミステリを塚本晋也風ホラー映画に改変。元木雅弘が兄弟二役を怪演。原作より上。


「双生児-GEMINI- 特別版 [DVD]」『双生児 (角川ホラー文庫)』『人間椅子 (江戸川乱歩文庫)』(「双生児」所収)『江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者 (光文社文庫)』(「双生児」所収)
明治末期、大徳寺雪雄(本木雅弘)は、大徳寺医院の跡取りとして医師の地位と名誉、そして美しい記憶喪失の妻りん(りょう)を手にした充実した日々を送っていた。ところが、大徳寺家で不審な出来事が続き、彼の父・茂文(筒井康隆)と母・(藤村志保)が謎の死を遂げる。そんなある日雪雄は庭を散歩していると、自分と瓜ふたつの男に襲われ、古井戸に投げ捨てられた。彼を井戸に落とした男・捨吉(本木雅弘、二役)は、何くわぬ顔をして雪雄に成りすまし、大徳寺
家の当主に収まった。捨吉は井戸の中の雪雄に、二人は実は双生児であり、捨吉は両親に捨てられて貧民窟で育ったのだと惨めな生い立ちを語り、復讐のため両親の死に関わったのだと打ち明ける。さらに、貧民窟では、りんと恋仲であったことを話す。捨吉は、井戸の中の雪雄に最低限の飲食物を与え、奇妙な関係を続ける。一方、りんも今の雪雄は捨吉ではないかと気付くが、成りすました捨吉はシラを切り続ける。必死の思いで井戸を脱した雪雄と捨吉は争い、捨吉は死に至る。生還した雪雄は、りんと新たな絆を結び、かつては蔑み、忌避していた貧民窟への往診を行う医師となっていた―。


1999年に公開された、あのカルトムービー「鉄男 TETSUO」('89年)の塚本晋也監督(「シン・ゴジラ」('16年)、「沈黙-サイレンス-」('17年)[右]など俳優としても活躍しているが)による作品です。原作は、江戸川乱歩が1924(大正13)年10月に「新青年」に発表した短編小説(正式タイトル「双生児~ある死刑囚が教誨師にうちあけた話~」)で、ある種「ドッペルゲンガー小説」と言えます。
因みに、自分そっくりな存在(ドッペルゲンガー)との遭遇によってアイデンティティが揺らぐというモチーフの文学作品(ドッペルゲンガー小説)の嚆矢はエドガー・アラン・ポーの「ウィリアム・ウィルソン」(1839)で、こちらはオムニバス映画「世にも怪奇な物語」('67年)の第2話「影を殺した男」[左]として、ルイ・マル監督、アラン・ドロン、ブリジット・バルドー主演で映画化されています。
江戸川乱歩の原作とはずいぶん違う話になってはいますが、江戸川乱歩作品の雰囲気は出ていたように思います。登場人物が全員眉を剃っていて、それだけで乱歩的な雰囲気が出てしまうのが不思議ですが、全体を通しても映像的に成功していて、塚本晋也監督ならではの作品になっているように思いました。
ホラー映画であり、後を引くような怖い話になるのかなと思ったけれども、最後、雪雄がこれまで忌避していた貧民窟へ往診に向かうという"いい人"になっていて、後に引きません(笑)。しいて言えば、以前に彼を見ていたはずの乞食僧(石橋蓮司)がそれを見て慄くというのが、解釈の入る部分でしょう(彼は延命治療に疑問を感じた末に、安楽死推進派に転じたとする説もあるようだが、それだと逆に怖いラストだけれども、ちょっと無理がある?)。
原作の乱歩の真意を読み取ろうにも、原作は、ある殺人犯死刑囚が教誨師に、まだ告白していなかった殺人の告白をするという、全然違う話なので...。この死刑囚は、親からのすべての財産を相続し、美しい妻もいる兄に対し、弟の自分は何も持たざる身であることを妬ましく思い、ある日遂に兄を殺害して井戸に死体を捨て、何食わぬ顔して兄に成り代わるというもので、兄側から見ればいわば「入れ替わり怪談」のようなモチーフです。このパターンは昔からあり、ここでは兄にとって井戸が冥界への入り口になっていますが、トイレや鏡が媒介になっているものが結構あるように思います。
ただし、原作はどちらかと言うとホラー怪談ではなくミステリ―であり、井戸に捨てられた兄(映画で言えば雪雄の立場になるが)は上から土を盛られてもう甦ることはなく、弟である自分(捨吉の立場?)は兄の指紋を採取しておいて、それを利用して強盗殺人を犯すのですが、犯行現場にゴム手袋に写し取った兄の指紋を遺しておいたので、自分の指紋と一致するはずがなく、自分は絶対に安全だったはずが―。
原作は、オチはケアレスミスだったわけで、主人公はそのために捕まって死刑にはなるわけですが、プロット的には
乱歩の初期作品に多く見られる比較的軽い感じのミステリ―といったところでしょうか。映画は、完全に塚本晋也風ホラーで(貧民窟時代の捨吉やりょうらのメイクは「鉄男」のイメージを一部踏襲している)、浅野忠信がパンク風な格好で出てくるほか、田口トモロヲ、麿赤兒、竹中直人、石橋蓮司といった癖のある役者が癖のある演技を見せます。しかしながら、それらを凌駕して余るのが、雪雄・捨吉兄弟の二役を演じた元木雅弘の怪演ではなかったかと思います。原作より映画の方が上です。
りょう/藤村志保/筒井康隆/田口トモロヲ/浅野忠信/麿赤兒/竹中直人/石橋蓮司


「双生児-GEMINI-」●制作年:1999年●監督・脚本:塚本晋也●製作:中澤敏明/古里靖彦●撮影:森下彰生●音楽:久石譲●原作:石川忠●時間:84分●出演:本木雅弘/りょう/藤村志保/筒井康隆/もたいまさこ/石橋蓮司/麿赤兒/竹中直人/浅野忠信/田口トモロヲ/村上淳/内田春菊/今福将雄/大方斐紗子/広岡由里子/猪俣由貴/溝口遊/金守珍●公開:1999/09●配給:東宝(評価:★★★★)



売り出し中のアイドル歌手・沖晴美(岡田奈々)は所属事務所の社長で不動産業も営む伊勢省吾
(待田京介)に新しいマンションを購入して貰う。早くに両親を
亡くした晴美は、将棋棋士の兄・沖良介(天知茂・二役)に育てられ、やっと掴んだ成功だった。晴美のマンションに伊勢が引っ越し祝いに訪れていたところへ、突然、夫の浮気を疑った伊勢の妻・友子(西尾三枝子)が現れ、ナイフを手に晴美に
襲いかかる。揉み合ううち、知子はナイフを誤って友美に突き立ててしまい、彼女は斃れる。伊勢は、妻の死を自殺に見せかける工作を企て、晴美に友子の服を着させ、その日友子が自分が傾倒する新教宗教の用事で行く予定だった伊東へ行かせて
、断崖で投身自殺したように見せかけるよう指示する。一方、自分はクルマのトランクに友子の死体を載せ、それを遺棄するため自分の会社の所有地がある多摩平へ向かうが、途中、調布市の交差点で接触事故を起こす。その交差点付近のバー「桃子」では、晴美のマネジャー・真下幸彦(中条きよし)と、晴美の兄・良介が飲んでいた。良介の婚約者でママの桃子(奈美悦子)の目の前で二人は口論にな
り、揉み合いになる。突き飛ばされて頭を打った良介は、泥酔状態でふらふらと店を出て行き、ちょうど交番で調書を取られている最中でその場に不在だった伊勢のクルマの後部座席に乗り込んでぐったりしてしまう。クルマに戻った伊勢は、そうとは知らず多摩平の社有地にある「首なし沼」に到着、友子の死体を沼へ遺棄しようとしていると、目の前に良介が立っていたので、咄嗟に持っていたナイフで刺殺する。予期せぬことで、二人もの遺体を遺棄することになった伊勢だったが、それら始終を、自分が突き飛ばした良介のことが心配になって後をつけていた真下が見ていた―。
原作である江戸川乱歩作の「十字路」は1955(昭和30年)11月刊行の書下ろし小説で、文庫で240ページほどの長さ(2018年版「江戸川乱歩文庫」(春春堂))であり、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。渡辺剣次(1919-1976)による第一稿をリライトしたもので、トリック、プロットも渡辺剣次の案出です。従って、乱歩独特の怪奇風乃至エログロ風の雰囲気は全く無く、モダンで都会的な印象で、また、明智小五郎
も出てこないため、これを松本清張とか笹沢佐保の作品だと言われて読んでも判らないかも。ただ、乱歩っぽくないことを気にしなければ、話そのものは一作品としてまあまあ面白かったように思います。井上梅次監督は、ドラマに先行して同じ原作で映画「死の十字路」('56年/日活)を撮っていて、この時は、晴美=新珠三千代、伊勢=三國連太郎、良介と探偵の二役で大坂志郎でした。ポプラ社の『少年探偵 江戸川乱歩全集』版のタイトルは映画と同じ「死の十字路」で、表紙('72年半)の探偵と思われる人物が大坂志郎に似ています(ゴーストライターの氷川瓏(ひかわ・ろう)(=渡辺祐一、渡辺剣次の実兄)によって内容は改変されていて、友子と晴美とはもともと仲のよい友だち同士だったが、晴美が友子に誘われて参加した「過激な思想を持つ研究会」に晴美は馴染めず脱会したため、友子は「裏切り者を制裁する」ということで晴美のアパートへ押しかけて襲いかかり、そこに居合わせた青年社長の伊勢省吾に殺害されてしまうという、昭和47年の年明けに起きた「あさま山荘事件」の影響がみられるものになっている)。
原作では、商事会社の伊勢省吾と沖晴美は社長とその秘書兼愛人という関係で、一方、真下幸彦は商業美術家で、その恋人の相良芳江(ドラマには登場しない)の兄で画家の良介が事件に巻き込まれてしまうという設定になっています。ドラマでは、伊勢(待田京介)は不動産会社社長で芸能事務所も経営し、彼の事務所所属の売り出し中の歌手が沖晴美(岡田奈々)で、その兄が将棋棋士の良介(天知茂・二役)、晴美のマネージャーが真下幸彦(中条きよし)となっていて、原作の相良芳江のキャラクターを「沖晴美」に一本化した感じですが、これは結構大きな人物相関の改変かと思います。
原作では、伊勢が妻・友子を揉み合いの末にほぼ事故的に刺殺するため、そもそもドラマのように秘蔵っ子アイドル歌手が人を刺してしまったのでそれを揉み消すという話ではないのですが、ドラマではさらに一捻り入れて、友子(西尾三枝子)が晴美と揉み合っているうちに肩にナイフが刺さるが、それは実は致命傷ではなかったということでした(事故的であるのは原作に通じる)。この点は、晴美が全てを打ち明けに明智の下へ来て、肩を抑えながら友子は「心臓にナイフが刺さって」死んでいたと言うのを聞いた明智がおかしいと思ったのが事実解明の糸口となりました。つまり、明美が気を失っている間に伊勢が改めて友子の心臓を刺したわけで、偶発事故に便乗したような形になっていて、その殺意は原作と異なり明確なものとなっています。
原作では、幸彦が前半部分の"素人探偵役"となり、後半部分では、良介の妹・芳江が相談した南探偵事務所の私立探偵・南重吉がより突っ込んだ調査をして(この南が良介と顔がそっくりであるという設定は、ドラマで明智が良介にそっくりであることに置き換えられて活かされている)、最後は警察の花田警部(ドラマの浪越警部より優秀?)が事件の全容を解明するようになっていますが、ドラマでは、幸彦が"探偵役"どころか、伊勢に
よる友子および良介の死体遺棄現場を実際に目撃したのを機に、"恐喝者"になります(その結果、犯人に殺されてしまうという、よくある末路を辿る)。因みに、原作では、良介は伊勢のクルマの後部座席で、伊勢がその存在すら知らないうちに脳出血か何かで死亡しているため、伊勢が殺害したのは友子だけになっていますが、ドラマでは良介に加え、バー「桃子」(原作では「桃色」)のママ・桃子(奈美悦子)まで訳あって伊勢に殺されれています(今回の「浴室要員」は奈美悦子だった。岡田奈々は顔だけのシャワーシーンのみ)。
遺体をトランクに載せた伊勢のクルマが、交差点で接触事故を起こすのは、原作では新宿のガード下ですが、ドラマでは、都心と多摩平の中間点の調布市のどこかになっています(因みにクルマは原作ではキャデラック
だが、ドラマではマツダ・ルーチェ)。ちょうど伊勢が足止めを食ったその交差点付近のバーで、そこで良介とその妹・晴美のマネージャーである幸彦が飲んでいるわけですが、伊勢と良介という「無関係な者同士」が出くわしたとする原作よりも、伊勢と良介が「共に晴美の関係者」であるドラマの方が、偶然度が高くなっていると言えます。
原作では伊勢は遺体をダム建設の水没予定地の古井戸に遺棄しますが、ドラマでは沼に棄てます。原作との大きな違いは、伊勢が現場に再び行くのを文代らが尾行し、沼を突き止めますが、警察が沼を浚っても死体は見つからず、伊勢は勝ち誇って明智を痛罵するという展開。しかし、実は、尾行されているのを計算して、わざと遺留品を警察に見つけさせ、死体がこの沼にあると思わせる伊勢の作戦で、伊勢はその前に恐喝者である幸彦に手伝わせて遺体を沼から引き揚げ、警察の調べて何も無いという証左を得てから改めて死体をそこへ沈める作戦でした(そこが死体の隠し場所として最も安全な場所となる)。しかし、明

ドラマでの天知茂演じる棋士・沖良介が挑んだ「王位戦」の対戦相手は升田幸三に似ていました。しかもその名が「大村誠」で、大山康晴、木村義雄、中原誠から一文字ずつとって
いる(笑)。対局は伊東かどこかで行われたらしく、伊勢に言われた偽装工作を終えた晴美が兄の元へ立ち寄ります。一方、天知茂演じる明智の方は、文代、小林と伊東へ釣りに行って(事務所の社員旅行?)晴美が残した自殺の痕跡を見つけ、地元の警察へ。そこへ良介が現れ、良介はアマ三段の警察署長の将棋の先生で、一緒に呑む約束をしていたとのことで、都合よく(笑)天知茂同士のご対面となります。良介が、「僕のやり方はね、相手の出方を見てこっちのやり方を決める」と言い、明智が「探偵と同じですね。そして最後は...」と言うと、良介が「逆手で勝負」と言って意気投合しており、これが「パイルD-3の壁」的やり方の伏線になっているので、シナリオ的にはこの「有名人対談」はどうしても入れたかったのでしょう(折角の一人二役でもあるし)。
岡田奈々演じる売り出し中の歌手・沖晴美のステージ衣装は、ジュディ・オング(シリーズ第5話「



「江戸川乱歩 美女シリーズ(第13話)/悪魅せられた美女」●制作年:1980年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:成澤昌茂/井上梅次●音楽:鏑木創(オリジナルテーマ曲「静舞」(作詞:三浦徳子/作曲:佐藤健))●原作:江戸川乱歩「十
字路」●時間:90分●出演:天知茂(二役)/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/岡田奈々/奈美悦子/中条きよし/待田京介/北町嘉郎/西尾三枝子/吉田良全/喜田晋平/松井紀美江/横山繁/小田草之助/今井健太郎/岡本正幸/城戸卓/沖秀一/小森英明/篠原靖夫/羽生昭彦/田中哲也/上地雄大/工藤和彦/加藤真琴/鈴木謙一/永妻晃/楢岡泉/酒井栄子/松尾友子●放送局:テレビ朝日●放送日:1980/11/01(評価:★★★★)


宝石王・岩瀬庄兵衛(柳生博)に黒蜥蜴から「あなたの一番大切なものを頂戴にあがる」という予告状が届く。相談を受けた明智(天知茂)と波越警部(荒井注)が岩瀬と娘の早苗(加山麗子)とホテルロビーで話していると、ドイツ帰りで岩瀬の顧客の緑川夫人(小川真由美)がやって来る。岩瀬は、明智たちが大切なものとは何か尋ねると、「エジプトの星」というダイヤを見せる。黒蜥蜴が指定した夜、明智は浪越警部と共に黒蜥蜴の出現を待ち受けるが、警部はシャワーを浴びると睡魔が襲ってきて岩瀬と共にベッドで寝てしまう。緑川夫人と早苗は隣の部屋に戻り、明智が独りトランプをしながら寝ずの番をすることに。
そこへ再び緑川夫人が現れ、明智に、明智と黒蜥蜴どちらが勝つかという賭けを持ち掛け、明智は探偵稼業を賭けることに。緑川夫人は自分の全財産、身も心も賭けると言う。緑川夫人が隣の部屋で物音がすると言い、明智と早苗の部屋を見に行くが、早苗はベッドに寝ているらしく、夫人の問いかけにも「眠い」と応える。安心した二人は、部屋に戻る。犯行予告の深夜12時までポーカーをする明智と緑川夫人。しかし、何事もなく12時を過ぎる。緑川夫人は、明智たちが黒蜥蜴の目的の品をとり間違えてはいないかと言い、岩瀬に宝石よりもっと大切なものはないかと尋ね、それが早苗であることがわかると一同は慌てて部屋を飛び出す。早苗の部屋に行くと、彼女は先ほど同じくベッドで寝ていたが、明智がその髪を掴むと、マネキンの頭部だった。波越警部はホテルをチェックアウトした不審者
を洗い、山川教授が量子力学の論文を書いていて大量の原稿を部屋に持ち込み、大きなトランクを下げてホテルを出たという情報を得る。部屋には大量の原稿が残されていて、山川教授に扮していた雨宮(清水章吾)という男が、トランクに早苗を詰めてホテルを出たのだ。宿泊者名簿を見た時から雨宮に目を付けていた明智は、助手の文代(五十嵐めぐみ)と小林(柏原貴)に雨宮の車をつけさせていることを話し、再び緑川夫人とポーカーをする。文代と小林は雨宮からトランクを奪い、中を開けると下着姿で猿轡で手足を縛られた早苗が出てくる。明智はこの報告を受け波越たちに伝えると、早苗が救出されたが雨宮が逃げたことで、緑川夫人は「どうやらこの勝負引き分けのようでしたね」と言うが、明智は「この勝負は僕が勝ちました」と言う―。
原作では、緑川夫人こそが「黒蜥蜴」であることを、最初の3分の1くらいのところで指摘してしまいますが、ドラマも(この回からシリーズがレギュラーで2時間枠となった)、正味90分くらいの内の最初の30分で、同じく明智が当人の目の前で指摘します。でも、その前に緑川夫人が明智をさんざん挑発しているので、明智もかなり何となく気がついていた印象がドラマではありました。前半部の明智と緑川夫人の心理合戦がなかなか面白く、ポーカー
をやる明智と緑川夫人とで、最初のうちは緑川夫人が圧勝し、やがてそれに呼応するように早苗が誘拐されたことが明らかになりますが、その後、実は、山川教授に扮してホテルを抜け出た雨宮に、明智の助手・文代と小林の尾行がついていることを明智から知らされるや、今度は緑川夫人のツキが落ちたかのように明智に負け続けます。原作でも二人はトランプゲームをしますが、勝負の形勢推移はドラマのオリジナルであり、上手いと思いました。
因みに、黒蜥蜴による最初の誘拐の試みの際に、早苗が「眠い」と言ったのは実は緑川夫人の腹話術で、原作通り(原作の方がいっぱい喋っている)。二度目の誘拐の試みの際に、長椅子を用いるのも原作通りですが、緑川夫人が顔パックしたり風呂に入ったりして早苗になりすますのはドラマのオリジナルです(「浴室要員」が小川真由美とは!)。
小川真由美の演技も良かったかと思います(この人、岩下志麻と「
映画化作品の前二作は何れも三島由紀夫の戯曲を原作とした「三島戯曲の映画化」であり(深作欣二版の方は三島由紀夫自身が特別出演していることでも知られる)、ドラマの方が原作に近いかと思います。ただし、三島は戯曲化するにあたり、「女賊黒蜥蜴と明智小五郎との恋愛を前景に押し出して、劇の主軸」にしたとのことですが、ドラマ版もその影響を受けている面があるように思いました。ただし、「美女」が明智の腕に抱かれて死ぬというのは、このシリーズの定石でもあります。
早苗役の加山麗子の入浴シーンもありますが、躰だけの部分は吹き替えのように見えます。トランクから助け出される場面も、実は原作では全裸なのですが、ドラマでは下着姿です。でも、後半、黒蜥蜴に囚われてからは、吹き替え無しでほとんど全裸に近かったです(原作では完全に全裸なのだが、まあ、頑張っている方だろう)。


清水章吾が、山川教授に扮した黒蜥蜴の部下・雨宮(黒蜥蜴の指示で"獲物"を剥製にするために水槽に沈める係だが、逆に明智に早苗の替わりに水槽に沈められてしまう。この回の明智は結構シビア)を演じていますが、かつてチワワ犬とともに出演した「アイフル」のCMで一躍ブレイクしましたが、昨年['19年]末、仕事も家族関係もうまくいかず自殺未遂したとの報道があり心配です(この人、2010年に脳梗塞となり保険会社のCMや
舞台を降板するなどした際も、ストレスでうつ状態となり1度目の自殺未遂している)。

第6話、第7話で本名の「詫摩繁春」名義で出演していた宅麻伸が、ここでは黒蜥蜴に囚われ、水槽に沈められて、はく製にされてしまう役でした。当時、宅麻伸は、キャバレーのボーイをしながらデビューを目指していた時期で、キャバレーの店主が天知茂に紹介して天知の事務所に預かりとなっていたそうです(「明智事務所」ならぬ「天知事務所」か)。


「江戸川乱歩 美女シリーズ(第8話)/悪魔のような美女」●制作年:1979年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:ジェームス三木●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「黒蜥蜴」●時間:90 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/小川真由美/加山麗子/清水正吾/大前均/北町嘉郎/託磨繁春(宅麻伸)/羽生昭彦/水木涼子/工藤和彦/加島潤/岡本忠幸/鈴木謙一/市東昭秀/篠原靖夫/沖秀一/加藤真琴/マリー・オーマレイ/ウィリー・ドーシイ●放送局:テレビ朝日●放送日:1979/04/14(評価:★★★★)


宝石窃盗犯・西岡三郎(睦五郎)が脱獄し、逃走中に仲間(沖秀一)を射殺して行方をくらます。撃たれた男の最期の言葉から、西岡は白髪の鬘を被って変装しているらしい。明智も事務所で文代(五十嵐めぐみ)、小林(柏原貴)とこのニュースを見ていた。西岡は10年前に盗んだ宝石の隠し場所である、富豪・大牟田の別荘にある墓所に行くが、盗品は全て無くなっていた。西岡の行方を追う波越警部(荒井注)に、大牟田家に痴漢が入
ったという通報が入る。痴漢は白髪にサングラスの男とのことで、一同は大牟田家へ向かう。大牟田邸では、未亡人のルリ子(金沢碧)が、妹の豊子(田島はるか)と画家の川村(小坂一也)と3人で住んでいた。ルリ子は夫の財産が思ったより少なかったため、近くの別荘を売却するという。別荘には
川村が住んでいたが、ルリ子と川村は結婚することとなり一緒に住み始めたのだった。ルリ子は前夜、入浴中に白髪とサングラスの男に覗かれたという。すると、別荘の買い手と
して現れた、顔にアザがある白髪にサングラスの里見(田村高廣)という
人物が、それは自分だと告白する。別荘の持ち主の家を捜しているうちに近くまで来て、庭から浴室を覗いてしまったのだという。西岡に関する情報もなく一同は大牟田邸を去る。里見が夫に似ているのを気味悪がるルリ子たち。実は大牟田(田村高廣、二役)はルリ子に唆された川村が断崖から突き落として殺害し、妹の豊子もこのことを知っていて、さらに、主治医の住田洋子(奈美悦子)を使って他殺と判らないように死亡診断書を書かせていた。里見は近くのホテル
に宿泊していた。明智が大牟田家の墓へ来ると、散歩中の里見と会い、彼はルリ子を気に入って、彼女にプロポーズをするという。里見から宝石をプレゼントされ、欲深いルリ子の心は動く。ただ、里見のタバコを取り出す際の仕草やペンダントを振り回す癖が大牟田に似ているのが、夫の殺害に関与していたルリ子は気味が悪い。それでも、金に余裕がある里見へと関心がいくのだった―。
改変のポイントは、窃盗犯・西岡(原作では「紅髑髏」ことシナ海の海賊王・朱凌谿)を里見こと大牟田が利用して、犯行時のアリバイ工作をすることで(最初は西岡の方が利用していたのだが、途中で立場が逆転する)、原作にはこうした話はありません(ドラマでは、犯人が誰か(WHO)ということより、犯人がどうやったか(HOW)がポイントになっている)。原作は、瑠璃子(ルリ子)、川村、里見の3人以外に主だった登場人物はいないシンプルな作りで、プロットよりも「怪奇・復讐譚」であることにウェイトが置かれていますが、ドラマでは、原作には無いルリ子の妹や主治医まで共謀者として登場させ、何れもが大牟田の復讐対象となっています。
恒例の「浴室」要員は、風呂場で覗き被害に遭う「宝石の美女」ことルリ子を演じた金沢碧(1953年生まれ)で、本人と吹き替えを巧みに織り交ぜて(笑)、自然な感じで撮られていました。この「江戸川乱歩の美女シリーズ」は、1977年から1994年までテレビ朝日系「土曜ワイド劇場」で17年間放送されたテレビドラマシリーズですが、金沢碧はこの「土曜ワイド劇場」に1979年から2012年までの間、全部で27回出演していて、その中でこの「宝石の美女」が初登場でした。この「美女シリーズ」でも第15話「鏡地獄の美女」('81年)で再登場しますが、"天知茂版"の「美女シリーズ」で「美女」として2度出演したは叶和貴子(第17話「天国と地獄の美女」、第21話「白い素肌の美女」)と金沢碧だけで、この回が好評であったことを示すものかもしれません。
ドラマで付け加えられたキャラクターのうち、田島はるか(1957年生まれ)演じる妹の豊子は、裸にされて逆さ吊りされた遺体で発見されますが、田島はるかはもともとロマンポルノの女優なので、これは吹き替え無しでしょうか(1976年の日活時代から1978年の「にっかつ」初年まで活動)。奈美悦子(1950年生まれ)が演じる死亡診断書において私利のために共謀する主治医の住田洋子も、半裸の状態で遺体で発見されますが、これは"全裸"ではなく"半裸"なので、岩場に逆さに
突っ立った脚はともかく、あとは奈美悦子本人でしょう(何だか、こんなことばかりにこだわっている(笑))。奈美悦子は第13話「
先にも述べた通り、原作が犯人の手記による叙述スタイルであるところに無理やり明智を絡ませているため、プロセスにおいて明智が事件に関与する部分は少な目で、文代や小林に至っては殆ど事務所内にいるだけという感じでした。そうした
物足りない面もありますが、探偵ものではない原作を大幅アレンジしているわりには、原作のテイストはよく残しているように思いました(田村高廣の演技が光り、天知茂と競演する形になっている)。
を知った里見こと大牟田は、別の嬰児の屍体を入手し、川村や瑠璃子の恐怖を増すための演出に使ったのですが、この話はドラマでは割愛されています(気持ち悪すぎる?)。そして、語り手である人物は、今、十何年になる獄中生活にあるというオチです(終身刑に服していることを示唆)。原作で、閉じ込められたはずの瑠璃子が犯人の前に(おそらく幻影として)現れた時、彼女は、手に宝石をつかんで、それをサラサラと赤ん坊の上に砂遊びのようにこぼす仕草をし、この部分が原作の恐怖の最後のクライマックスになっていますが、ドラマでも、赤ん坊は出てこないものの、エンディングでその部分は活かしています。この辺りは、まずまず工夫されていたと思います。
江戸川乱歩には、アラン・ポーの「早すぎた埋葬」をモチーフにした作品が幾つかあり、この作品も、原作にも出てきたし、ドラマの方も明智がペーパーバック(英語版)を手にしています。しかし、この作品に関しては、埋葬された人物が墓所で甦るというのは、黒岩涙香版も、その元となったマリー・コレリの『ヴェンデッタ』も同じです。ウィキペディアによれば、江戸川乱歩版の原作・涙香版との主な相違点は、原作・涙香版ではあくまで妻と友人がしていたのは浮気のみで、主人公の死因は不測の事態であったのに対し、乱歩版は明らかの殺意が友人にある事。また、復讐方法も原作・涙香版では友人は衆人環視の拳銃による決闘で堂々と行っているのに対し、乱歩版は別荘におびき寄せてのからくり仕掛けによるじわじわした殺し方になっているなどより凄絶になっている点とのことです。また、法を無視しても復讐を肯定するか、それを犯罪者とするかは大きな違いで、乱歩版では終身刑になっている主人公が、原作・涙香版では復讐を果たした英雄のようになっているのは、マリー・コレリのオリジナルが、『モンテ・クリスト伯』や『巌窟王』など系譜の物語であることによるのでしょう。ドラマ版で明智などに出てこられると、復讐すら完遂できないというのは、まあ仕方がないのかもしれません。

冒頭「皆さんはもう、『黄金仮面』のことはよくご存じだと思いますが」と語る明智。都内で黄金の仮面を被った
怪人の姿が目撃され、国宝級の古美術品が盗まれる事件が頻発していた。古美術品の蒐集家である大島喜三郎(松下達夫)に黄金仮面から手紙が届き、彼の長女・絹枝(結城美栄子)の恋人で、フランス商社の東京支店長ロベール・サトー(伊吹吾郎)の訪問予定日に、大島所有の古美術品を奪うと予告してきた。フランス大使館の職員ジョルジュ・ポアン(ジェリー伊藤)がロベールの友人であり、大島のコレクションを見たいということから大島が二人を招いたところを狙われたのだ。不安を抱いた秘書の三好(藤村有弘)が、波越警部(荒井注)に相談、明智に捜査協力を依頼することに。明智
と波越警部は箱根・芦ノ湖畔の大島美術館に行き、黄金仮面との対決準備をする。美術館にやってきたロベールとジュルジュも美術品を見て回るが、ジョルジュは次女の不二子(由美かおる)に興味を抱く。もちろん美術品にも関心を示し、特にインド・ジャイナ女神像に関心を注ぐ。さらに自宅に置かれている大島家秘蔵の虚空蔵菩薩にも関心を抱いたため、自宅に招待することを大島が約束をする。芦ノ湖での美術品紹介は無事終ったが、後日、茶席を抜け出してきた大島家の三女・よし子(岡麻美)が入浴中に何者かに刺され、「黄金仮面」と言って息絶える。明智は今までの黄金仮面の犯行から、その犯行ではないと言う。事務員・小雪(野平ゆき)の通報で、秘書の三好と事務員の千秋が事務所でガスで眠らされているのが発見されるが、明智は犯人は小雪だと断言。千秋に言い寄るよし子への嫉妬心からの犯行だった。美術館の一室に追い詰められた小雪は自害しようとするが、突然、鎧が動き出しナイフを持つ手を止める―。
年末特別版としてこれまでの枠を30分延長して初めて2時間枠で放映されたこのドラマ化作品(小林君が初登場する)も、原作の傾向に即して、アクション映画風のシーンが多くなっていて、
モーターボートが出てくるところなどもしっかり映像化していました(第1話「氷柱の美女」の原作『
「浴室」要員は、三女・美子(岡麻美)で(浴室で刺殺されるのは原作通り)、かなり大胆に見せます。さらには、事務員・小雪(野平ゆき)もライフルで撃たれて明智がウェットスーツの胸をはだけ...(これは原作に無い。原作では刺殺)。ヒロインである次女の不二子(由美かおる)は「水戸黄門」ではないですが、背中だ
け見せるシャワーシーンがあるくらいなので、その代わりにみたいな感じで、それ以上の部分は他の女優が担うという、第4話「
いたそうな)。因みに、由美かおるの役名の「不二子」ですが、原作でも「不二子」であり、「ルパン三世」の峰不二子はこれに由来するのかと思いましたが、モンキー・パンチ(1937-2019/81歳没)自身は、たまたまカレンダーの富士山を見て着想したとかで、「黄金仮面」との関係については否定しています。セシルとかいう役で出ている山本リンダは、どういう役回りなのかよく分かりませんでした(笑)。

ジョルジュ役のジェリー伊藤(1927-2007/79歳没)は、映画「
に書かれた曲でした(トワ・エ・モワ、越路吹雪が'70年の同じ日にカバー曲のシングルを出した。個人的には、グラシェラ・スサーナ版が印象深い)。ロベール役の伊吹吾郎(由美かおるとは「水戸黄門」コンビ)は、第3話「死刑台の美女」にも出ていましたが、この後、第11話「桜の国の美女」では同じくロベール役で登場します。最初は日本語をぎこちなさげに喋っていましたが、途中からフツーの日本人になっていました。船に乗ると、何だか漁師が似合いそう(笑)。
乱歩の原作『黄金仮面』もこのドラマ版も、結局は明智がルパンに勝っているわけですが、ルパンは追い詰められながらも捕まることはなく、一応は両者イーブンの形にしているところが、『ルパン対ホームズ』とやや似ているように思います。原作では、ルパンは不二子さえも連れていくことが出来ず、何も持たずに日本を離れることになりますが、ドラマではそこまで露骨に差をつけてはいません(続編への伏線か)。
ドラマにおけるルパンは殺人を犯さないという主義であるはずなのに、部下は小雪を殺害しているし(これは原作も同じだが)、また、部下たちは明智にもピストルをがんがん放っています。さらには自身も、自分が手先として使ったウルトラセブン、あっ、違った!森次晃嗣が演じる浦瀬を、盗品を横流ししたという理由のみで自分を裏切ったとして殺しています。
ラストの犯人改変は、原作を読んだ視聴者の予想を裏切るどんでん返しなのでしょう。それはいいとして、トータルでみると、年末2時間枠で派手なアクションもあったものの、結構突っ込みどころが多い回だったように思います。




ある蒸し暑い夜、明智は仕事を終えた後、表のビルで奇妙な影が映し出されているのを目にして不審に思い、助手の文代(五十嵐めぐみ)を連れて調べに現場へ行く。明智と文代はそこで、怪しい影が通りかかった女性に対しナイフを突き立てる瞬間を目撃する。そこには影の恐怖に怯える笹本芳枝(夏純子)がいて、彼女は偶然にも、文代の女子大テニス部の先輩だった。明智が芳枝に話を聞きながら周辺の捜査を開始した時、また影の男が現れる。緑のマントを羽織り、けむくじゃらの髪をした影がそこにいた明智や芳枝に目撃され、芳枝の夫で詩人の笹本静雄はショックで寝込んでしまう。周辺を探していた文代は、庭先で芳枝の写真が入ったロケットを発見、芳枝のものではないというロケットの中の写真は10年近く前のもので、明智は、そのロケットを波越警部(荒井注)に渡して捜査の要請をする。一方、明智の言いつけで笹本家を
訪ねた文代は、芳枝が気を失っているのを見つける。そして、顔が潰された静雄の変わり果てた姿も。その時、文代は緑色の服を着た何者かに殴りつけられ、気を失う。文代からの連絡が途絶え、明智はヤキモキするが、波越警部からの連絡で、ロケットが芳江の伯父で夏目財閥の当主・夏目菊太郎(松村達雄)が10年前に作らせたものとわかり、また文代のことも気がかりで、明智は笹本邸に向かう。するとそこには、気を失って倒れている文代がいて、ただし、気がついた文代が言う笹本静雄の死体は無く、一方、浴室で全裸で殺されているお手伝い・たま子(日野繭子)が発見される―。
原作は、読んでいて犯人の見当が途中でついてしまいましたが、この犯人、相当な「早変わり」をしていることになるなあと。でも、乱歩の小説だからそれはアリということで読むべきなのだなあと。ところが、そう思い込んでしまうと推理の方の詰めが甘くなってしまい、ラストで明かされる犯行の意外な全体像に自力では行きつけないということになってしまいます(自分がそうだった)。元々評価されている洋物を基にしていることもってプロットはしっかりしており、それに乱歩風の味付けがあって、トータルで見て、「本格」風のプロットでありながらも娯楽性の高い面白い作品になっています。
あとは、この長編をどうやって約70分くらいに纏めるかだったと思いますが、原作の洋物の「本格」風のプロットと、乱歩が加味した乱歩らしい雰囲気をそれほど損なわずによく活かしていたと思います。ドラマを観て、ある人物が登場した時には、怪しい!コイツが犯人だ!と思い、終盤、やっぱりそうだったと思いながらも、犯行の全容は最後まで分からなかったという、自分が原作を読んだ時と同じような経験をする人が何割かいるのではないでしょうか。それでも犯人は相当な「早変わり」をしていることになりますが(走りながら着替えていた(笑))、むしろ、原作通りに解釈するならばですが、犯人が誰もいないところで視聴者に向けて演技している"映像のウソ"があるところが少し気になったでしょうか(そのあたりはドラマは原作とは別の解釈なのか)。
原作で静雄の死体を見つけたかと思ったら後ろから緑衣の怪人に殴られ、気がついたら芳枝もいなくなっていたという目に遭うのは探偵作家の大江白虹であり、それがドラマでは明智の助手の文代に置き換わっています。また、原作では、笹本芳枝を巡って探偵作家・大江白虹とドラマで荻島真一が演じる笹本家のボディガード・山崎の恋のさや当てがあり、結局、山崎が夫・静雄を失った芳枝の新たな婚約者の地位を得ますが、ドラマでは、芳江の美しさに惹かれる明智に文代がやきもちを焼くような別の三角形の構図になっていて、ここでも文代に大江白虹の肩代わりをさせることで、原作のテイストを活かしています。原作の大江白虹は乗杉龍平との推理合戦に敗れ、プロとアマチュアの差を見せつけられますが、ドラマの文代は、ラストで緑衣の怪人に扮するなど大活躍でした。
ヒロイン笹本芳枝役の夏純子(1949年生まれ)は、18歳の時に若松孝二監督の「犯された白衣」('67年/若松プロ)でデビューし、主演の唐十郎の相手役として熱演した「"日活"最後の主演女優」と言われる人で、犯人に襲われるシーンなどで肩まで脱いでいますが、水族館の水槽に全裸で生きながら閉じ込められ、「白い人魚」と化すシーンなどの全身が映る箇所は吹き替えのようです。そのためか、原作には
無い「浴室で全裸で殺されているお手伝い」役として、この年(1978年)"にっかつ"デビューの日野繭子(1959年生まれ)が起用されているのでしょう。彼女は現在はノイズ・ミュージシャンとして活動し、鍼灸師でもあるとのことです。
その他、朝加真由美(1955年生まれ)が演じた夏目太郎の妹・知子もドラマのオリジナルで、時間内に収めるために原作の人間関係を単純化して端折るというのはよくありますが(本作でも原作の夏目菊三郎は最初からいない)、特に「浴室要員」としてではなく、新たなキャラクターを付け加えるというのは、ストーリーをわかりやすくするためというより、この場合、サスペンス気分を盛り上げるためなのでしょう(知子も犯人に殺害される)。朝加真由美は1973年、「ウルトラマンタロウ」(TBS)のヒロイン・白鳥さおり役でドラマデビューしましたが第16話で降板し、その後舞台の方に行って、この年がドラマ復帰の1年目で(まだ、ギャラガや安かった?)、その2年後に横山博人監督の「純」('80年)で映画デビューしています(映画デビューは夏純子の方が13年も早いことになる)。
ロケ地で、晴海のホテル浦島や熱川のワニ園が出てくるのが、「昭和」って感じで懐かしかったです。原作における「廃墟となった水族館」での追跡劇は、ドラマでは実際に魚がいる夜の水族館でやっていて、それはそれで雰囲気が出ていたし、洞窟での追走劇もしっかり映像化されていました。「緑衣」の魔人がシルクハットを被ってなんだか手品師みたいなのと、ラストのシーンがシーリーズの定番とは言え、当人以外はぼーっと突っ立っていてややぎこちなさがあったのが難でしたが、やはりこの作品はプロットが良いです。プロットの良さは当然ながら原作の良さに負うところ大かと思いますが、乱歩作品の雰囲気と併せて、それらを上手く活かして映像化している点を評価したいと思います。
「江戸川乱歩 美女シリーズ(第4話)/白い人魚の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「緑衣の鬼」●時間:72 分●出演:天知茂(明智小五郎)/五十嵐めぐみ(文代)/夏純子(笹本芳枝)/荒井注(浪越警部)/朝加真由美(夏目知子)/松村達雄(夏目菊太郎)/荻島真一(山崎)/日野繭子(家政婦)/北町嘉朗/羽生昭彦/池田駿介/加地健太郎/東村元行/小田草乃介/篠原靖夫/久木念/土屋靖雄/鈴木謙一/沖秀一/青沼三郎/山本幸栄/岡本忠幸/福谷光一●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/07/08(評価:★★★★)


明智小五郎は、犯罪研究の権威・宗方隆一郎(伊吹吾郎)の妻・京子(松原智恵子)の依頼を受け、論文発表のため香港に飛ぶことに。車椅子の女性・京子の美貌に接したとき、この依頼は断れないと思ったのだ。その頃、実業家の川手庄太郎(増田順司)と3人の娘は何者かに脅迫を受けていたが、明智は不在になるため、宗方が代理で警護することになる。しかし三女・雪子(結城マミ)、次女・春子(三崎奈美)殺害された上に死体を辱められ、川手の腹違いの妹・北園竜子(稲垣美穂子)とその愛人・須藤が容疑者となる。現場には特殊な指紋・三重渦状紋が残されていた。宗方は川手と長女・民子(かたせ梨乃)を伊豆の山荘に匿うが、その夜、覆面の男女に襲われる。彼らは、強盗殺人犯だった川手の父に両親を殺された兄妹だった。川手の父は獄死したため、30年かけて息子と孫娘たちを根絶やしにするつもりなのだ。警察も犯人の意図を察知する。一方、竜子は疑われることを恐れ、三重渦状紋のある自分の指を切り落とすが、須藤に殺される。その須藤も罪を認める遺書を遺して自殺したことから、事件は終わったと思われた―。
その1:ドラマでは、明智が宗方隆一郎と妻・京子の依頼で香港に行くことになりますが、原作では明智は政府から国事犯調査の依頼を受け朝鮮に出張しており、車椅子の京子が明智の前に現れるようなこともありません(京子が車椅子生活を送っているというのもドラマのオリジナル)。また、原作で明智は、ドラマのように警察の捜査途中から現場に入るのではなくもっと後の、一見事件が落着したかに見えた時点で帰国して、それから独自の推理を展開します(この部分はある種"安楽椅子探偵"と言える)。でも、原作通りドラマ化したら、明智が最後しか出てこないことになってしまうので、早めに帰国させたのでしょう。
その2:原作では川手庄太郎の娘は2人きりで、共に惨殺されますが、ドラマではその2人にさらにもう一人、長女の民子(かたせ梨乃)がいて、父と共に犯人に騙され誘拐されます。川手親子は救出されますが、2人組が病院に侵入し、川手氏を殺害、民子を連れ去ってしまい、民子と尾行してきた文代(五十嵐めぐみ)を処刑台にかけて殺害しようとするのですが、そもそも原作には民子は登場しないので、こうした「死刑台」シーンもドラマのオリジナルです。
その3:原作では、川手の娘の誘拐事件を巡って、宗像と犯人と思しき人物の「見世物小屋」での追跡劇が延々あるのですが(これが実はプロット要素にもなっている)、「見世物小屋」というのが原作が書かれて40年後の70年代においては古めかしすぎたのか割愛されていて、次女・春子(三崎奈美)の死体はヌード劇場で見つかるようになっています(犯人が川手に見せた"再現"演劇も割愛されるかと思ったら映像化されていて、70年代はアングラ劇場ブームだったため、こちらはアリだったのか)。最初に三姉妹がいる部屋でラジカセから流れている曲がピンク・レディーが'77年12月にリリースした「UFO」であり、あれからまた40年以上経ったのかあ...。
その4:やはり、ラストの改変がかなり効いています。いつも〈美女〉はみんな明智に惚れて結局メロドラマ調になってしまうのだけれど、もうこれはこのドラマシリーズの路線なのだと割り切ってしまえばいいのでは。原作では、犯人が明智に向けたピストルの弾丸は明智が予め抜き取っていて、絶望した犯人は自害します。それがドラマでは、ピストルに弾丸は入っていたっぽく、そうすると明智は女性に命を救われたことになります。
「美女シリーズ」としての〈美女〉は松原智恵子でしたが、「死刑台の美女」の〈美女〉はかたせ梨乃(1957年生まれ)ということになるのでは。贅沢なキャスティングでしたが、かたせ梨乃は前回の「
顔が映らない部分は吹き替えでした。となると、ヌード劇場の三崎奈美が、今回無かった「入浴シーン」の代替だったということか。それでは弱いということで(エロスの総量が足りない?)、五十嵐めぐみ演じる、犯人に捕まってしまった文代まで、犯人からSMチックな責めを被ることになったのではないかと思ったりもします。五十嵐めぐみ(1954年生まれ)は後にインタビューで「まさか文代があんな目に遭うとは思っていませんでした(笑)。お芝居とはいえ、けっこう痛い思いをした記憶がありますね。井上監督からは現場で『もうちょっとよく見えるようにしてくれ』なんて言われたり(笑)」と語っています(「
かたせ梨乃は1978年4月、テレビ東京の「大江戸捜査網」第3シリーズ(里見浩太朗主演)で〈はやぶさお銀〉役の安西マリアが降板したのと入れ替わりに〈流れ星おりん〉として参入したのが、ドラマの本格デビューですが、この「美女シリーズ」出演はそれと同じ頃になります。「大江戸捜査網」へのレギュラー出演は、三船プロダクションの鳴り物入りだったというのもあるかと思いますが、翌年にはNHK大河ドラマ「草燃える」に出演するなどしていて、背景にはCMモデル、カバーガールとしての高い人気と知名度もあったかと思います。人気モデルの地位に安住ぜす、若いうちに女優の世界に足を踏み入れたのが成功した1つの要因かと思います。
「江戸川乱歩 美女シリーズ(第3話)/死刑台の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎/井上梅次●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「悪魔の紋章」●時間:72 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/荒井注/伊吹吾郎/松原智恵子/稲垣美穂子/増田順司/かたせ梨乃/三崎奈美/結城マミ/宮口二郎/加地健太郎/東村元行/小田草乃介/喜田晋平/村上記代/紺あき子/谷よしの/土屋靖雄/青沼三郎/山本幸栄/羽生昭彦/沖秀一/篠原靖夫/加藤真琴/中村正人/下坂泰男/小野塚千枝子/藤原美佐穂/新垣嘉啓●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/04/08(評価:★★★☆)

![江戸川乱歩「魔術師」より 浴室の美女 [DVD].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E6%B1%9F%E6%88%B8%E5%B7%9D%E4%B9%B1%E6%AD%A9%E3%80%8C%E9%AD%94%E8%A1%93%E5%B8%AB%E3%80%8D%E3%82%88%E3%82%8A%20%E6%B5%B4%E5%AE%A4%E3%81%AE%E7%BE%8E%E5%A5%B3%20%5BDVD%5D.jpg)



榛名湖で静養中の明智小五郎(天地茂)は、玉村妙子(夏樹陽子)という女性に出会い、彼女の美しさに魅せられるが、彼女には起きる事を予感がする不思議な能力があるという。そんな折、資産家の伯父・福田徳二郎から、東京に戻ってきてほしいと電話がある。カウントダウンのような数字を示すものが順番の送られてくるようになって恐怖を覚え、妙子に助けを求めた
のだ。東京に帰った妙子と福田は警察に相談するが、波越
警部(荒井注)は、まだ何も起きていない事件なので、民間の探偵に頼むことを勧め、明智を紹介する。妙子の依頼と聞いて捜査に協力すると言った明智だが、帰京
した上野駅で、福田の代理人という人物に騙され拉致される。やがて、福田が自室で首を落とされた姿で発見され、隠し金庫のダイアも盗まれていた。さらに翌日、"獄門舟"の札が掲げられて川を流れていた福田の首が発見される。一方で連れ去られた明智は船に監禁されていて、脱出しよ
うとするも阻れる。玉村家に強い恨みをもった奥村源造(西村晃)が魔術師と称して明智に挑戦し、父親を殺された恨みを晴らすことに執念を燃やし、こ
まの犯行を企てたのだった。明智は、犯罪への罪悪感を抱くその娘・綾子(高橋洋子)の助けで脱出するが、海中に落ちて水死体が発見されたとして、新聞に「明智小五郎氏 殺害さる」と報
じられる。一方、福田の兄で宝石王の玉村(佐野周二)にも数字の通知が送られ始め、入浴中の妙子が何者かに襲われて傷を負う。さらに、長男・一郎(志垣太郎)は、危うく時計の針に首を落とされそうになる。最近雇われた庭師の音吉に犯人の疑いを抱いた玉村は、彼をクビにする。一方、明智の遺志を継いで、この事件の調査をしていた助手の文代(五十嵐めぐみ)は、玉村邸から怪しげな人物、"魔術師"その人が抜け出してきたのを発見、彼が《オクムラ魔術団》へ入っていくのを見届ける。彼女からの連絡で、《オクムラ魔術団》に踏み込んだ波越警部らは、間一髪で"魔術師"に逃げられてしまうが、その場には音吉もいた―。
原作は、江戸川乱歩が1930(昭和5)年7月から翌年5月まで「講談倶楽部」に掲載した、文庫で300ページ(2018年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))ほどの長編で、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。明智が死んだように見せかけるというのは、「
ンガ壁に人間を塗り込める」というのは、ポーの「アモンティリャードの樽」の着想を得たとのことですが、ポーで「レンガ壁に人間を塗り込める」と言えば「黒猫」を思い浮かべる人も多いのでは。前半は犯人である"魔術師"が圧倒的に優勢なのが、終盤、明智が畳みかけるように逆転攻勢するする展開は原作もドラマと同じです(原作で
は「水責め」だったのがドラマでは「火責め」になっていたりしたが)。しかも、いったん"魔術師"が亡んで事件が解決したかにみえて、その後にもう一つ意外な展開があるのも原作通りです。
シリーズ第1話の『吸血鬼』が原作の「
原作を読んだ人にとって観ていて興味深いと思われるのは、五十嵐めぐみ(第1話の時から髪を切った)演じる明智の助手の文代が事件にどう絡むかではないでしょうか。原作には、明智の助手としての「文代」は登場せず、ただし、非常に重要なキャラクターとして「文代」が登
場します。原作通りでいくと、ドラマでは、同一人物が時間を超えて同じ場所に二人いることになってしまうので、ドラマの方の「(原作における)文代」に別の名前を与え、明智の助手としての「文代」とは別人にしたということでしょう。それによって、ドラマにおける明智の助手としての「文代」は、有能で気丈ではあるけれど特別おどろおどろしい出自を有するのでもなく、また、原作のラストに示されているように将来「明智夫人」と呼ばれるようなことにもならないことが示唆されていることになるかと思います。
「江戸川乱歩 美女シリーズ(第2話)/浴室の美女」●制作年:1977年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「魔術師」●時間:72 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/荒井注/西村晃/夏樹陽子/高橋洋子/志垣太郎/佐野周二/宮口二郎/高桐真/白石奈緒美/北町嘉郎/池田駿介/水原ゆう紀●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/01/07(評価:★★★★)

![[Prime Video]氷柱の美女.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%EF%BC%BBPrime%20Video%EF%BC%BD%E6%B0%B7%E6%9F%B1%E3%81%AE%E7%BE%8E%E5%A5%B3.jpg)

明智が静養中の箱根湖畔で釣りをしていると、そこに美しい女性が現れる。さらに、帰り際にも彼女と出会い、霧で道に迷ったというが、そこへ青年が駆けつける。明智は事務所のメンバーと湖畔のホテルに滞在していて、その女性、資産家の未亡人・畑柳倭文子(はたやなぎ しずこ)(三ツ矢歌子)は、ホテルの近くの別荘に一人息子の茂といて、湖畔ホテルへもよく来ていたのだ。その日、明智が文代(五十嵐めぐみ)、小林(大和田獏)とホテルのバーにいると、二人の男を
携えた倭文子がいた。一人は画家の岡田道彦(菅貫太郎)で、もう一人は、今日倭文子を探しにきたグラフィックデザイナーの青年・三谷房夫(松橋登)だった。やがて、宿の一室で、岡田と三谷の二人の男による、倭文子の愛を得るため命を賭けた決闘が始まる。テーブルにふたつのワイングラスがあり、岡田は、どちらかに毒が入っているので、三谷にひとつ選んで飲み干すように要求する。結果、三谷は賭けに勝利し、岡田はその決闘で死こそ免れたものの、劇薬を顔に浴びて醜い姿となり、倭文子の前で屈辱を味わって姿を消す。やがて、岡田と思しき顔が潰れた水死体が見つかるが、それ以降、唇のない怪人が倭文子の周囲に出没する。恒川警部(稲垣昭三)は明智に事件解決への協力を依頼をするが、唇のない怪人は今度は明智を挑発するかのような行動に出る―。
ドラマでの文代役の五十嵐めぐみは、シリーズ全25作中19作まで文代役を務めることになりますが、この頃はまだ髪が長くて、後のボーイッシュな髪形ではありません。小林を演じた大和田獏は、「少年」と呼ぶには年齢がいきすぎていたせいか、大和田獏はこの第1作のみの登場で終わっています。稲垣昭三(1928-2016/享年88)が演じた恒川警部は、原作通り「恒川警部」なのですが、こちらも第2作から荒井注演じる「浪越警部」に代わります。また、第2話「浴室の美女」まで放映が5カ月も空くことから、ある意味この回はパイロット版的な位置づけだったようにも思われます(「刑事コロンボ」の第1話「殺人処方箋」などは完全にそうだが、パイロット版ってスタイルの初期の完成度を知るうえで興味深いが、観ていて何となく落ち着かない気がする)。
原作は、明智の謎解きを待たなくとも何となく犯人が判ってしまうのですが、ドラマの方は、原作以上に早くから犯人がミエミエという印象も。明智も"判っている"風で、あとは、明智がどう犯人を追い詰めるかしか楽しみがないのですが、「氷柱の美女」の脚本におけるクライマックスで、明智が単に普通に犯人の前に現れて謎解きをすることになっていたのが、それでは面白くないと考えた井上梅次(1923-2010/享年86)監督が現場で思いついたのが、犯人が鏡に向って仮面を取ると、その鏡の中に脱いだはずの吸血鬼の仮面が映り、びっくりして振向くと、もう一人の吸血鬼がゆっくり仮面を取って明智の顔が現れるという演出だったそうです。以降、明智がラスㇳに変装して犯人の前に現れ、仮面をはがした上で謎解きをするというのがシリーズの定番になったとのことです。
一方で、後にお決まりとなる「入浴シーン」はまだなく、その代わり、三ツ矢歌子(1936-2004/享年67)演じる倭文子が前半と後半各一度犯人に襲われますが、顔や肩から上は本人であるものの、胸や躰全体が映るシーンは吹き替えになっています。「昼メロの女王」と呼ばれながらも上品な役が多かった三ツ矢歌子が、ここまでやっただけでも当時驚くべきことだったようで、それ以上は無理だったのでしょう(その昔は「
ラストも原作から改変されていますが、「氷柱の美女」を実現したのはなかなかのものです(タイトルが「氷柱の美女」なら、やらない訳にはいかないが)。ただ、最初に氷ごと横向き現れた時、どう見ても明らかにマネキンなので、これはいくらなんでも製氷機から出てきた瞬間に犯人が気づくだろうと。でもアップになると三ツ矢歌子で、そこだけ映していればまだよかったのにと思ったりもしました。というのは、中途半端にカメラを引くとその姿はまたマネキンになり、さらに別の角度から背景としての映り込みになると、その顔が紙に書かれた下手な似顔絵みたいで(なぜか笑っている)げんなりさせられたからです。ラストには"異形の愛"的なドラマチックな要素もあるだけに、最後に技術面で「荒唐無稽小説」の壁を乗り越えられなかった気がして惜しいです。
「江戸川乱歩 美女シリーズ(天知茂版)」●監督:井上梅次(第1作-第19作)/村川透/長谷和夫/貞永方久/永野靖忠●プロデューサー:佐々木孟●脚本:宮川一郎/井上梅次/長谷川公之/ジェームス三木/櫻井康裕/成沢昌茂/吉田剛/篠崎好/江連卓/池田雄一/山下六合雄●撮影:平瀬静雄●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩●出演:天知茂/五十嵐めぐみ(第1作-第19作)/高見知佳(第20作-第23作)/藤吉久美子(第24作・第25作)/大和田獏(第1作)/柏原貴(第6作-第19作)/小野田真之(第20作-第25作)/稲垣昭三(第1作)/北町嘉朗(第1作・第4作-第9作)/宮口二郎(第2作・第3作)/荒井注(第2作-第25作)●放映:1977/08~1985/08(天知茂版25回)【1986/07~1990/04(北大路欣也版6回)、1992/07~1994/01(西郷輝彦版2回)】●放送局:テレビ朝日
1 1977年8月20日 氷柱の美女 『吸血鬼』 三ツ矢歌子 12.6%
11 1980年4月12日 桜の国の美女 『黄金仮面II』 古手川祐子 15.9%
21 1983年4月16日 白い素肌の美女 『盲獣』(『一寸法師』) 叶和貴子 13.3%



明智探偵(天知茂)は、彫刻家・伊志田鉄造(岡田英次)の「呪」と題された彫刻展の招待状を受け、文代(五十嵐めぐみ)と彫刻展に。そこで女性の悲鳴が上がる、展示してある彫刻が口から血を流していたのだ。いたずら好きの長男・太郎(北公次)の仕業かと思われたが、それは次女・悦子(泉じゅん)がやったことだった。展覧会を後にしようとする明智たちを一人の女性がずっと見ていた。伊志田の長女・待子(ジュディ・オング)で、彼女こそが明智に招待状を送った本人だっ
た。待子は明智に伊志田邸に正体不明の黒い影が出現し、母の君代(空あけみ)はそれがもとで寝込んでいるという。明智に伊志田家に出没する黒い影についての捜査を依頼した。その夜、待子が独りでいると不気味な声が聞こえ、待子は明智に電話で助けを求める。
耳を澄ませた明智にもその声は確かに聞こえた。黒い影は声だけでなく邸内を自由自在に跳び回って待子を恐怖に陥れる。そして、彫刻の一つに成りすました黒い影が待子の首を絞める。そこへチャイムが鳴り、待子の電話により伊志田家に到着した明智を、邸付きの看護婦・三重野早苗(江波杏子)が出迎える。邸内では待子が気絶していた。黒い影の主を見つけようと伊志田家の庭に出た明智は、例の不気味な声を聞き、その正体を暴こうとするも見失ってしまう。やがて三女の鞠子が殺害される事件が起き、続いて次女・悦子も浴室で―。
登場人物の相関がやや分かりにくいですが、長女の待子は伊志田の亡くなった先妻・靜子の子であり、悦子と太郎、鞠子の三人が今の妻の子であって、待子が二歳の時、鉄造は絹代と関係を持ち、太郎と悦子が生まれ、伊志田家へ押し掛けてきたという過去があったと。離れの小屋で祈祷している精神を病んだ老女(原泉)は、靜子の母、つまり待子の祖母であると把握できれば、実は靜子には待子のほかにもう一人子がいたということが判った時点で、ああ、それが犯人だと思い当たるし、助けを求められて駆けつけた明智に「待子さんは夢遊病の気があるから」と言った時点でもう怪しいです。
原作は、江戸川乱歩が1939年1月から12月に雑誌「講談倶楽部」に連載したもので、本人名義で児童向けにリライトされた作品もあります(ポプラ社『少年探偵 江戸川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。文庫で200ページほどの長さ(2015年版「江戸川乱歩文庫」(春陽堂))。原作で
は、伊志田の子供は、長女・「綾子」、長男・一郎、次女・鞠子の3人で、何れも今の母・君代の子ではなく、伊志田の前妻の子であるということになっています。明智に相談を持ち掛けるのは長男の一郎で(「講談倶楽部」挿絵の右が一郎、左が明智)、電話で助けを呼ぶのも一

ドラマはこのように、物語の設定の細部が原作とかなり異なりますが(いや、細部どころか犯人さえ違っている)、不思議と原作の雰囲気をよく伝えているように思います。何よりも、ジュディ・オング、江波杏子(2018年没)という二大女優を配したことで、それぞれをそれに見合った役柄に改変したものと思われます(それが活かされている)。その他にも、父親
役が岡田英次で、長男役が北公次(2012年没)と、配役は全体的に豪華です(北公次にとっては、ジャニーズ事務所在籍最後の仕事となった)。原作で浴室で殺害されるのは義母の君代ですが、
ドラマでの"浴室要員"は次女・悦子(原作には無い)役の泉じゅんで、彼女が日活ロマンポルノから離れていた時期です(この頃、山口百恵と三浦友和の主演コンビ
の「泥だらけの純情」('77年)、「古都」('80年)にヒロインの女友達の役で出たりしている)。このドラマでは、財産のために自分以外の家族を皆殺しにしたい、そのために力を貸して欲しいと明智探偵に囁き(なんと大胆!)、逆に明智から「金と女性の誘惑に乗らないのが探偵の第一条件」と言われてしまうという、ドラマオリジナルのキャラになっています(これもその演技力を買われてのことか)。
それにしても、ドラマで見ると、犯人は服装面で相当な早替わり(現実には不可能?)をしていたということになるかと思います(その上、無駄にいっぱいバック転をしていた。ステージでバック転を披露した最初のアイドルが北公次であることを思い出した)。一方の明智は、わざわざ犯人に変装する必要があったのかなと疑問に思われますが、原作では変装する理由がちゃんと説明されています。原作と比べてみると、翻案の妙が愉しめるかと思います。
「江戸川乱歩 美女シリーズ(第5話)/黒水仙の美女」●制作年:1978年●監督:井上梅次●プロデューサー:佐々木孟●脚本:井上梅次●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「暗黒星」●時間:72 分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/荒井注/江波杏子/ジュディ・オング/岡田英次/泉じゅん/北公次/原泉/北町嘉郎●放送局:テレビ朝日●放送日:1978/10/14(評価:★★★☆)




ある絵画の展示会で、明智探偵(天知茂)は黒真珠のイヤリングをしていた美女(岡江久美子)に出会う。その後、ゴッホの「星月夜」を画商の蕗屋裕子が手に入れたと発表され、西洋美術館が入手しようと名乗りを上げていると噂されていた。明智は展覧会場で、同級生で東京美術大学の教授・北原(久富惟晴)から蕗屋裕子を紹介してもらうが、彼女が例の黒真珠の美女だった。そこには蕗屋画廊の顧客で美術収集家の徳田礼二郎(高橋昌也)と、画商の宍戸(長塚京三)も来ていた。その後、明智の事務所に無記名の封筒が届き、文代(藤吉久美子)が開けると、中には百万円が入っていて、絵は偽物に違いないので入手経路を調べてほしいとあった。明智は、裕子を訪ねるが、彼女は絵の入手経路
を明かさない。一方、この絵を前にして、徳田は「偽物だよ」と呟く。宍戸は、あの絵が本物なら時価十億は下らず、そんな大金を裕子がどうやって工面したか謎であり、偽者の可能性が高いことを明智に説明する。明智は宍戸を尾行し、ホテルで徳田の家のお手伝い・ユミエ(東千晃)と関係を持っていることを知る。彼女は聖ヨハネ病院の元看護婦で、同じ病院に勤める元恋人の小池(伊藤克信)から復縁を迫られていた。徳田邸ではカメラマン志望の恋人・富山(貞永敏)との交際を反対された徳田の一人娘・ユカ(代日芽子)が徳田と口論の末、家を飛び出し車で出かけていった。徳田と約束をしていた裕子から仕事が長引いてまだ京都駅にいるという電話が入り、それを受けたユミエが徳田に知らせに行くと徳田が血を流して倒れていた―。
2017(平成29)年に、テレビ朝日で渡瀬恒彦主演の「
は思っていないと思いますが、明智がその喫煙を制止する文代の目を盗んでタバコを美味そうに吸う場面があったりして、ひやっとします。もっと最近では、今年['20年]3月30日放送開始のNHKの朝ドラ「エール」でテレビドラマ初出演の志村けんが、3月29日に新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなり、山田耕筰をモデルとする役で5月1日放映分から登場して、これも実質"追悼放映"になってしまったということがありました。
そして、同じく新型コロナウイルスによる肺炎のため4月23日に亡くなったのが、この「黒真珠の美女」の"美女"こと岡江久美子です。近年ではTBS「はなまるマーケット」の総合司会(1996年~2014年)のイメージが強く、また、かつてはNHKの「連想ゲーム」での名解答者(1978年~1983年)ぶりから「才女」のイメージがありますが、別冊スコラで『岡江久美子写真集 華やかな自転』を出したのが'82年で、フォトジェニックな女優でもありました(写真集は当時25歳。翌年、大和田獏と結婚)。
この「黒真珠の美女」の撮影時の岡江久美子は28歳で、若くして着物も似合うからなかな
監督の貞永方久(さだなが まさひさ、1931-2011/79歳没)は九州大学法学部出身。卒業後、松竹京都撮影所演出部に入社して映画監督になっていますが、こうしたテレビ映画の演出も多数あり、特にABCテレビの「必殺シリーズ」では第2作(中村主水シリーズの第1作)である「必殺仕置人」('73年、全26話、山﨑努、藤田まこと主演)から参加し、劇場版「必殺仕掛人 春雪仕掛針」('74年/松竹)では監督も務めています。TVシリーズの「必殺仕掛人」('72~'73年、全33話、林与一、緒形拳主演)は「必殺シリーズ」の第1作で、「必殺仕置人」の前番組にあたり、第1作「必殺仕掛人」の原作は池波正太郎の「仕掛人・藤枝梅安」ですが、後番組の「必殺仕置人」の方は「必殺仕掛人」の枠組みだけ踏襲したTVオリジナルでした。「必殺仕掛人」は、当時のフジテレビの笹沢佐保原作の「
映画「必殺仕掛人 春雪仕掛針」は、「必殺仕掛人」('73年/松竹、田宮二郎主演)、「必殺仕掛人 梅安蟻地獄」('73年/松竹、緒形拳主演)に続く「必殺仕掛人」シリーズ第3作(最終作)で、第1作と第2作の監督は松本清張原作の「


岩下志麻演じる千代を堕落させる悪役・勝四郎を夏八木勲が演じていたりして、今観るとなかなかのキャスティング、林与一ばかりか、TV版では直接手を下すことがほとんどない仕掛人の元締め・音羽屋半右衛門役の山村聰も立ち回りをやるし、岩下志麻は「きつい女」役がもうすでに板についている感じでした。ただ、哀しい話ではあるのですが、今一つ哀しみが伝わってきにくいのは、千代が
梅安に「あんたが私を捨てなければ私は今頃...」と恨み節ばかり言っているせいもあるでしょうか(千代にとって梅安は"最初の男"だった)。梅
安は第1作と違って原作通り、かつて自分が結果的に自分の妹を殺してしまったことを自覚している作りになっているので、自分には所帯を持つ資格はないと思ったのではないでしょうか(と思ったら、「あの頃映画 松竹DVDコレクション」のキャッチに「私は人殺しですからね、人並みの夢を持っちゃいけねえ...」とあった)。それくらい梅役の心の闇は深く、ここにきてまた悪の世界に堕ちてしまった千代を...。シリーズで一番暗い作品かもしれませんが、この陰の深さは映画的には悪くないように思います。
「江戸川乱歩 美女シリーズ(第25話)/黒真珠の美女」●制作年:1985年●監督:貞永方久●プロデューサー:川田方寿/佐々木孟●脚本:山下六合雄●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「心理試験」●時間:92分●出演:天知茂/藤吉久美子/小野田真之/荒井注/岡江久美子/高橋昌也/久富惟晴/長塚京三/東千晃/代日芽子/貞永敏/堀之紀/伊藤克信/北町嘉朗/秋山武史●放送局:テレビ朝日●放送日:1985/08/03(評価:★★★☆)
「必殺仕掛人 春雪仕掛針」●制作年:1974年●監督:貞永方久●製作:織田明●脚本:安倍徹郎●音楽:鏑木創●撮影:丸山恵司●原作:池波正太郎●時間:89分●
出演:緒形拳/林与一/山村聰/岩下志麻/夏八木勲/高橋長英/竜崎勝/地井武男/高畑喜三/花澤徳衛/佐々木孝丸/村井国夫/ひろみどり/荒砂ゆき/相川圭子●公開:1974/02●配給:松竹(評価:★★★☆)
「必殺仕掛人」●監督:深作欣二(1)(2)(24)/三隅研次(3)(4)(9)(12)(21)(33)/大熊邦也(5)(8)(14)(16)(27)(30)、松本明(6)(7)(15)(19)(23)(32)/松野宏軌(10)(11)(13)(17)(20)(25)(28)/長谷和夫(18)(22)(26)(29)(31)/ほか●プロデューサー:山内
久司(朝日放送)/仲川利久(朝日放送)/櫻井洋三(松竹)●脚本:池上金男(池宮彰一郎)(1)(4)(5)(28)/国弘威雄(國弘威雄)(2)(10)(11)(18)(25)(31)(33)/安倍徹郎(安部徹郎)(3)(8)(12)(20)(21)(28)/山田隆之(6)(7)(9)(13)(15)(19)(23)(32)/石堂淑朗(14)(27)/ほか●音楽:(オープニング)作曲:平尾昌晃「仕掛けて仕損じなし」●原作:池波正太郎『仕掛人・藤枝梅安』より●出演:緒形拳/林与一/山村聡/津坂匡章/太田博之/中村玉緒/松本留美/岡本健/ 野川由美子/(ナレーション(オープニング、エンディング))睦五郎(作: 早坂暁)●放映:1972/09~1973/04(全33回)●放送局:朝日放送 



大宝映画夏の大作「燃える女」のヒロイン役を決めるためのコンテストの最終審査会にて、準女王に選ばれたのは相川珠子(野平ゆき)、そして女王として春川月子(三崎奈美)が選ばれた。このコンテストが出来レースだったことに不平を漏らす珠子と、その義理の姉となる桜井品子(永島瑛子)。そして、恋人役の男優・吉野圭一郎(永井秀和)が女王に王冠を戴冠させたその時、天井から照明器具が落ちてきた。間一髪、それを避けた二人だったが、これが、この後に起こる怪事件の前哨であることに気づいた者は誰もいなかった。やがて連続殺人が。街角にディスプレイされる春川月子と吉野圭一郎の死体。浴室で珠子に放たれる毒蠍。囚われの身となる品子。犯人は、明智探偵(天知茂)に変装して犯行を繰り返す―。
川乱歩全集』(全46巻)の中の第27巻「黄金仮面」以降は、実際は本人ではなく別の作家が書いたものだったため、今は絶版となっている)。探偵役は三笠竜介という老人ですが(作者は当時、明智小五郎に替わる新キャラクターを模索していたらしい)、当然のことながらドラマでは天知茂演じる明智小五郎に置き換えられています。この作品について、乱歩本人は「自註自解」として、「相変わらずの荒唐無稽小説だが、真犯人とその動機はちょっと珍しい着想であった」と述べています。
作者本人が「荒唐無稽小説」と言うくらいなので、どこまで映像化できるのかなという思いはありましたが、思った以上に原作を反映していたように思います。バラバラ死体風のマネキン、銀座街頭ショーウインドウへの死体陳列、犯人と明智探偵の変装合戦、密室からの脱出など、このシリーズにおけるドラマとしてのリアリティを何とか維持しつつ頑張っていたように思います。
原作と大きく違ったのは、蠍研究の世界的権威であったという匹田博士なる人物を登場させ、そこに犯人との愛憎劇を一枚咬ませていることで、原作は主犯格の者が手配の者を使っているのに対し、ドラマの方はこの二人の共犯になっていました。それと、原作では、珠子の家庭教師・殿村京子が次に教えることになった、珠子の学校の先輩の20歳になる美人ヴァイオリニスト・桜井品子が犯人の第三の標的になり、三笠竜介が何とか第三の殺人を起こさせまいとするものでしたが、ドラマでは、この桜井品子が珠子の義理の姉となっていて、彼女には犯人に狙われる理由があったことになっています。入浴中に狙われるのは野平ゆき(レイモン・ラディゲ原作「肉体の悪魔」('77年/日活))演じる珠子ですが、永島瑛子(清水一行原作「
冒頭にミスコンの場面がありますが、原作では春川月子がミスジャパン、珠子がミストウキョウということで、同じミスコンで競ったわけではないようです。原作では、そうしたミスコンそのものは描かれていませんが、二人が競い合うミスコンをリアルタイムでやって、ドラマ映えするようにしたのでしょう。珠子が春川月子に代わって映画のヒロインに選ばれるのもドラマのオリジナル。また、珠子の家庭教師・殿村京子は原作では中年の醜女ということになっていて、ドラマではこれを美女である宇都宮雅代が演じており、ただし、原作とは異なるハンディを彼女に負わせています。
因みに、宇津宮雅代は、TBS・加藤剛主演のTVドラマ「大岡越前」の第1部('70年)で 初代「雪絵」(後の忠相の妻)役で第4話「慕情の人」から登場して、第6部('82年)まで雪絵役を演じ(敵によく捕まって人質になるが(笑)、小太刀の腕も確かで、悪人相手にひるむことはない)、その後を酒井和歌子に引き継いでいます(「雪絵」は、
加藤剛演じる「忠相」、高橋元太郎演じる「すっとびの辰三」、山口崇演じ
る「徳川吉宗」らと並んで、全シリーズを通して登場した数少ないキャラクターであり、また、演者が交代しながら全シリーズ登場した唯一のキャラクターである)。また、天知茂も南町奉行与力「神山左門」(カミソリ左門)役で、このドラマシリーズの第1部から第3部('72-'73年)にレギュラー出演しています(祝言をあげたばかりの妻を盗賊に人質にとられ亡くしたため、悪に対する憎しみが人一倍強く、また、別人になりすまして敵方に潜入したり、常にニヒル感が漂う(笑)ところは「美女シリーズ」の明智小五郎と同じ)。



宇津宮雅代/夏八木勲/



「江戸川乱歩 美女シリーズ(第9話)/赤いさそりの美女」●制作年:1979年●監督:井上梅次●プロデューサ:中井義/植野晃弘/佐々木孟●脚本:井上梅次●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「妖虫」●時間:95分●出演:天知茂/五十嵐めぐみ/柏原貴/荒井注/宇津宮雅代/永島瑛子/永井秀和/入川保則/野平ゆき/速水亮/本郷直樹/堀之紀/北町嘉郎/高木次郎/増田順司●放送局:テレビ朝日●放送日:1979/06/09(評価:★★★☆)






出掛けるのであとをつけると、男の兄は「浅草12階」に登って双眼鏡を覗いている。声を掛けると男の兄は片思いの女性を覗いていたことを白状するが、その女性のいる所へ二人で行ってみると、その女性は押絵だった。すると男の兄はその双眼鏡を逆さまに覗いて自分を見ろと言い、男がそうすると兄は双眼鏡の中で小さくなり消えてしまう。男の兄は小さくなってその女性の横で同じ押絵になっていたのだった。以来、男は、ずっと押絵の中も退屈だろうからと、「兄夫婦」をこうして旅に連れて行っているのだという。ただ押絵の女性は歳をとらないが、兄だけが押絵の中で歳をとっているのだという。男が兄たちもこんな話をして恥ずかしがっているのでもう休ませますと、風呂敷の中に包み込もうとしたとき、気のせいか押絵の二人が「私」に挨拶の笑みを送ったように見えた―。
物語全体を「男の話」にしていることで、("夢落ち"にしなくとも)全てが男の作り話か男自身が嵌っている幻想ととれなくもなく、一方で、目の前にそうした押絵があれば、やはり「私」ならずとも、幻想的な気持ちにさせられるでしょう。また、こうしたストーリーを成立させるには、昭和から大正を通り越して明治まで遡ることは必然だったようにも思います。「浅草十二階」と呼ばれた凌雲閣は、1890(明治23)年に完成し、1923(大正12)年の関東大震災で崩壊していますが、こうしたモチーフを持ち出しているのも巧みです(浅草は乱歩が愛した街でもある)。
この作品は、「竜二」('83年)、「チ・ン・ピ・ラ」('84年)の川島透監督によって、「押繪と旅する男」('94年/バンダイビジュアル)として映画化されています(「チ・ン・ピ・ラ」は金子正次の遺作脚本に川島透監督が手を加えて演出したもので、個人的にはイマイチだった)。映画「押繪と旅する男」は、「私」ではなく「弟」の"主観"で描かれていて、戦時中に特高警察として名を馳せながらも今はよぼよぼの老人となってしまった「弟」(浜村純)がいる「現代」の東京と、その回想としての「過去」―少
年時代の「弟」(藤田哲也)の兄(飴屋法水)が凌雲閣から押絵の美少女を眺め、遂には押絵の中に入ってしまうという出来事があった大正時代―が交錯する形で描かれています。「私」に該当する人物は出てこないで、代わりに、「弟」の兄に嫁(鷲尾いさ子)がいて、押絵の少女(八百屋お七になっている)に夫を奪われたかたちとなった兄嫁への少年の淡い慕情が大きなウェイトを占める作りになっています。大正ロマンの香りがして、映画としては悪くないです。"主観"を変えて更に脚色されているため、原作とは随分と印象が異なるものになっていますが、川島透監督が自分が撮りたいものを撮ったという感じで、同監督の商業映画とは比べると、いい意味でかなり異なった印象を受けました。
浜村純(1906-1995)演じる今は老人となった「弟」たる男の他に、特高だった男にかつて虐げられた恨みを持つ老人
に多々良純(1917-2006)、男の友人で今は老人病院のような所に入院して死にかけている男に天本英世(1926-2003)など、老優たちが更に老け役で出ていて、「現代」のパートは老人ばかりの世界と言ってよく(老いと死が映画のテーマであるとも言えるか)、その分「過去」のパートの若々しい鷲尾いさ子(1967年生まれ)などは魅力的です。おそらく、押絵の娘になまめかしさを求めるのは映像的に難しいので、その部分を代替させたのではないでしょうか。


「押繪と旅する男 (江戸川乱歩劇場 押繪と旅する男)」●制作年:1994年●監督:川島透●製作:並木幸/村上克司●脚本:薩川昭夫/川島透●撮影:町田博●音楽:上野耕路●原作:江戸川乱歩●時間:84分●出演:浜村純/鷲尾いさ子/藤田哲也/天本英世/飴屋法水/多々良純/伊勢カイト/小川亜佐美/和崎俊哉/高杉哲平/原川幸和/山崎ハコ●公開:1994/03●配給:バンダイビジュアル(評価★★★☆)


「チ・ン・ピ・ラ」●制作年:1984年●監督:川島透●製作:増田久雄/日枝久●脚本:金子正次●撮影:川越道彦●音楽:宮本光雄●時間:102分●出演:柴田恭兵/ジョニー大倉
/石田えり/高樹沙耶/川地民夫/鹿内孝/我王銀次/小野武彦/久保田篤/利重剛/大出俊●公開:1984/11●配給:東宝●最初に観た場所:新宿・ビレッジ2 (84-11-25)(評価★★★)●併映:「海に降る雪」(中田新一)







1924-86)監督により「盲獣」('69年/大映)として映画されていて(増村保造は東京大学法学部卒業後、大映に入社。同大学文学部哲学科に再入学し、イタリアにも留学、フェデリコ・フェリーニやルキノ・ヴィスコンティらに学んだ)、出演は、「
映画「盲獣」では、時代
が現代に置き換えられていて、誘拐される女性は原作では浅草歌劇の人気踊り子だったのが、映画では売れないファッションモデルから有名写真家のヌードモデルへ転身してその個展まで開かれるようになった女性(緑魔子)というように改変されています(彼
女が呼ぶ「按摩師」は「マッサージ師」(船越英二)になっているが、まあ、これは同じこと)。その彼女が攫(さら)われて連れてこられた地下室の、女性の身
体の部位をかたどったオブジェが林立する様が、映
映画では、盲目の男による誘拐は1度だけで、中盤までの展開は、監禁される側が監禁する側に対して憐れみを抱くようになるという点で、ウィリアム・ワイラー監督の「
コレクター
作と同じですが、終盤にかけて、それまで息子である男のために"獲物"の調達と監禁に協力していた母親(千石規子)が、2人の関係が思いもよらず深いものとなったことを危惧してそこへ入り込んできたために三角関係の展開となり、その時点で原作とは別物になったように思いました(マザコン映画だったということか)。
原作は、後に「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」('69年)の石井輝男(1924-2005)監督によって、その遺作「盲獣vs一寸法師」('04年/石井プロダクション=スローラーナー)の中でも一部映像化されていますが、先行例があったからこそ石井輝男監督も映像化に踏み切れたのではないでしょうか。でも、増村保造版に比べると石井輝男版セットなどは安っぽい印象を受け(意図したキッチュ感なのかもしれないが)、両者を見比べると、映画会社と独立プロダクションの差はあるにしても、改めて増村保造の映画作りへのこだわりを感じさせます。
「盲獣vs一寸法師」は、リリー・フランキーが映画初出演にして主演を演じた作品ですが(彼はオーディションで選ばれた。オーディション落選組に「シン・ゴジラ」('16年/東宝)での主演が決まった長谷川博己がいた)、全部を観ていないので評価不可。増村保造監督の「盲獣」は、カルト的なポイントは加味しない評価で「星3つ」。カルト的要素を加点すれば「星3つ半」か或いは「星4つ」に近いといったところです。
また、「盲獣」は、「江戸川乱歩 美女シリーズ(第21話)/白い素肌の美女」('83年/テレビ朝日)としてもテレビドラマ化されていますが、このシリーズは、天知茂演じる明智小五郎が事件の捜査に臨み、最後は変装して犯人を欺き、犯人の目の前で謎解きをするという推理仕立てがパターンであるため、それに合わせたストーリーになっています。前半のあらすじは、
助手の文代(高見知佳)と小林少年(小野田真之)に無理やりディスコに連れてこられた明智小五郎だったが、どうにも馴染めずその場を飛び出してしまう。その帰り道の公園で不自然に荷物を包み直している尼僧に目が止まる明智、よくみるとその荷物は人の前腕部を包んだものだった。明智に気づいた尼僧は、その場を立ち去る。明智がその後を追いかけると、寺に中から僧侶が出てきて、ここには自分しかおらず、尼僧がいる寺ではないと言う。多摩川の丸子橋付近で遊んでいる子供達の元にいくつもの風船に吊られた荷物が落ちてきて、それが紙に包まれた人の両脚であったため騒ぎになる。警察で、事件を担当する波越警部(荒井注)は、この猟奇的な事件を明智に相談する。一方の明智は、山野文化学院の院長・山野(田中明夫)の茶会に呼ばれ、山野の後妻・百合枝(叶和貴子)がなにかを明智に相談しようとした時、マッサージの宇佐美鉄心(中条きよし)がやってくる。彼女はそれをやり過ごし、一人娘の三千子(美池真理子)の行方を捜してほしいと明智に頼むが、後日、都心のデパートで人間の右手が発見され、指紋から三千子の右手と判明する―。
クレジットも原作は「盲獣」となっていますが、「一寸法師」からかなり引いています。まったくのオリジナル脚本にしてしまわないだけ良心的とも言えますが、かなり込み入った話になっています
。ただし、犯人は、最初に出てきた時から犯人らしい(笑)妖しい雰囲気なので、あとは犯行の謎解きを愉しんでくださいということかと思います(純粋推理的と言えなくもないが、そう言い切るにはややアンフェアか)。叶和貴子は、「パノラマ島奇譚」を原作とするシリーズ第17話「
やはり、映画と比べると、犯人の「秘密の部屋」のセットがあまりにちゃちだったでしょうか(照明で隠している感じ)。「天国と地獄の美女」と比べても安上がりに仕上げた感じで(「天国と地獄の美女」の方がシリーズの中では特別だったのかもしれないが)、その分、ミステリの方にウェイトを置いたのでしょう。ただ、そのミステリの方も、ややパンチ不足だったように思いました。
「江戸川乱歩 美女シリーズ(第21話)/白い素肌の美女」●制作年:1983年●監督:篠崎好●プロデューサー:佐々木孟●脚本:長谷和夫●音楽:鏑木創●原作:江戸川乱歩「盲獣」●時間:90分●出演:天知茂/高見知佳/小野田真之/荒井注/叶和貴子/美池真理子(池まり子)/五代高之/福田妙子/曽我町子/飯野けいと/喜田晋平/加藤土代子/桜川梅八/小田草之介/田中明夫/中条きよし●放送局:テレビ朝日●放送日:1983/04/16(評価:★★★)

「盲獣」●制作年:1969年●監督:増村保造●脚本:白坂依志夫●撮影:小林節雄●音楽:林光●原作:江戸川乱歩「盲獣」●時間:84分●出演:船越英二/緑魔

子/千石規子●公開:1969/01●配給:大映(評価:★★★)









「月刊コミックビーム」の2007(平成19)年7月号から翌年の1月号にかけて連載された作品に加筆修正したもの。「エスプ長井勝一漫画美術館主催事業」として、「江戸川乱歩×丸尾末広の世界 パノラマ島綺譚」展が今年(2011年)3月に宮城県塩竈市の「ふれあいエスプ塩竈」(生涯学習センター内)で開催されており(長井勝一氏は「月刊漫画ガロ」の初代編集長)、3月12日に丸尾氏のトークショーが予定されていましたが、前日に東日本大震災があり中止になっています。主催者側は残念だったと思いますが、原画が無事だったことが主催者側にとってもファンにとっても救いだったでしょうか。
個人的には、昔、春陽堂の春陽文庫で読んだのが初読でしたが、ラストの"花火"にはやや唖然とさせられた印象があります。原作者自身でさえ"絵空事"のキライがあると捉えているものを、漫画として視覚的に再現した丸尾末広の果敢な挑戦はそれ自体評価に値し、また、その出来栄えもなかなかのものではないかと思われました。
但し、本当に描きたかったのは、後半のパノラマ島の描写だったのでしょう。海中にある「上下左右とも海底を見通すことのできる、ガラス張りのトンネル」などは、実際に最近の水族館などでは見られるようになっていますが、その島で行われていることは、一般的観念から見れば大いに猟奇変態的なものです。

たことがあり(タイトルは「天国と地獄の美女」)、正月(1月2日)に3時間の拡大版(正味142分)で放映されています。明智小五郎役は天知茂、パノラマ島を造成する人見広介役は伊東四朗で(山林王・菰田源三郎と二役)、菰田千代
子(源三郎の妻)役が叶和貴子(当時25歳)、その他に小池朝雄、宮下順子、水野久美らがゲスト出演しています。パノラマ島
自体は再現し切れていないというのがもっぱらの評価で、実際観てみると、特撮も駆使しているものの、ジャングルとか火山とかの造型が妙に手作り感に溢れています(特撮と言うより"遠近法"?)。ただ、逆にこの温泉地の地獄巡り乃至"秘宝館"的キッチュ感が後にカルト的な話題になり、シリーズの中で最高傑作に推す人もいます(叶和貴子は第21話「白い素肌の美女」(原作『盲獣』(実質的には『一寸法師』)('83年)、北大路欣也版第3話「赤い乗馬服の美女」(原作『何者』)('87年)でも"美女役"を務めた)。
「江戸川乱歩 美女シリーズ(第17話)/天国と地獄の美女」●制作年:1982年●監督:井上梅次●プロデューサ:佐々木
孟/植野晃弘/稲垣健司●脚本:

ジェームズ三木 脚本家、作家、演出家、元歌手。
「善人の条件」●制作年:1989年●監督・脚本・原作:ジェームス三木●撮影:坂本典隆●音楽:羽田健太郎●時間:123分●出演:津川雅彦/すまけい/小林稔侍/橋爪功/井上順/イッセー尾形/山下規介/森三平太/浪越徳治郎/柳生博/松村達雄/丹波哲郎/小川真由美/桜田淳子/山岡久乃/野際陽子/汀夏子/守谷佳央理/野村昭子/小竹伊津子/鷲尾真知子/松金よね子/浅利香津代/泉ピン子/黒柳徹子●公開:1989/05●配給:松竹(評価:★★★)
「


この「パレットナイフの殺人」は、そうしたブームの先鞭となった作品の1つで、興行的にはそれなりに成功を収めたものですが、物語には原作のヤマ場である"心理テスト"だけを使用し、事件そのものは高岩肇によるオリジナルで、そもそも何よりも原作と異なるのは、「明智小五郎」が出てこず、代わりに宇佐美淳演じる「川野警部」が事件を解決する点です。
宇佐美淳に「明智小五郎」を名乗らせなかったのは、久松静児は戦前からこの「川野警部」を主人公とした犯罪映画シリーズを何本か撮っており、また大映側にも彼をスターダムに押し上げようという意向があったためのようです(戦後の映画復興期に作品が乱造され、原作にいちいち頓着しない映画界のムードのようなものもあったようだ)。宇佐美淳は翌年、小津安二郎監督の「
原作と別物になってしまったことに加え、「明智小五郎」も登場しないこの作品に対する原作者・江戸川乱歩の評価が気になりますが、横溝正史宛ての手紙で「『パレットナイフ』は本当の意味ではつまらない作ですが、殺し場と心理試験だけに重点をおいたので、変わったものにはなっています。監督・俳優ともに駄目だけれど」(昭和21年10月22日)と書いており、辛口批評の背景には、改変に対する不満も滲んでいるように思います。
脇役にも西條秀子(真田数枝 役)など当時美人女優と言われた人を配しているけれど、この人も含め、全体に演技陣の力不足は否めないのも確か。
「パレットナイフの殺人」●制作年:1946年●製作:大映(東京撮影所)●監督:久松静児●脚本:.高岩肇●撮影:高橋通夫●音楽:斎藤一郎●原作:江戸川乱歩●時間:71分(76分)●出演:宇佐美淳(宇佐美淳也)/植村謙二郎/小柴幹治(三条雅也)/小牧由紀子/松山金嶺/平井岐代子/西條秀子/若原初子/須藤恒子/上代勇吉/花布辰男/桂木輝夫●公開:1946/10●配給:大映(評価:★★★) 
VHS
『心理試験』の単行本は、1924(大正14)年7月の刊行で、「創作探偵小説集1」として'93年に春陽堂書店から復刻刊行されています(「二銭銅貨」「D坂殺人事件」「黒手組」「一枚の切符」「二廃人」「双生児」「日記帳」「算盤が恋を語る話」「恐ろしき錯誤」「赤い部屋」の10編を所収)。個人的には、高校生の時に読んだ春陽文庫に思い入れがありますが、今読むならば、光文社文庫の『屋根裏の散歩者―江戸川乱歩全集1』('04年7月刊)が読み易いかも。
光文社文庫版の表題作「屋根裏の散歩者」(1925(大正14)年8月に「新青年」に発表)は、'70年、'76年、'94年、'07年の4度映画化されており、田中登監督、石橋蓮司・宮下順子主演の映画化作品「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」('76年/日活)を観ましたが、映画はエロチックな作りになっているように思いました。原作は、女の自慢話する男を嫌った主人公が、単に犯罪の愉しみのために、天井裏から毒薬を垂らして男の殺害を謀るもので、エロチックな要素はありません。この作品の事件も明智小五郎が解決しますが、その言動にもどこか剽軽で乾いたところがあります。因みに、この天井裏から毒薬を垂らす殺害方法は、映画「
映画がどろっとした感じになっているのは、「人間椅子」(1925年発表)の要素を織り込んでいるためですが("人間椅子"になって喜ぶ下僕が出てくる)、「人間椅子」の原作には実は空想譚だったというオチがあり、乱歩の初期作品には、実現可能性を考慮して、結構こうした作りになっているものが多いのです。
映画には、「乱歩=猟奇的」といったイメージがアプリオリに介在しているように思えました。宮下順子演じる美那子と逢引するピエロの話も、関東大震災の話(まさに"驚天動地"の結末)も原作には無い話です。自分が最初に観た時も、宮下順子の「ピエロ~、ピエロ~」という喘ぎ声に館内から思わず笑いが起きたくらいで、今日においてはカルト的作品であると言えばそう言えるかもしれません。




「江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者」●制作年:1976年●監督:田中登●製作:結城良煕/伊地智●脚本:いどあきお●撮影:森勝●音楽:蓼科二郎●原作:江戸川乱歩「屋根裏の散歩者」●時間:76分●●出演:石橋蓮司/宮下順子/長弘/
織田俊彦/渡辺とく子/八代康二/田島はるか/中島葵/夢村四郎/秋津令子/水木京一●公開:1976/06●配給:日活●最初に観た場所:池袋文芸地下(82-11-14)(評価:★★★)●併映:「犯された白衣」(若松孝二) 
