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アン・リー監督2度目の金獅子賞。原作短編を「長編に展開」し、女性映画として秀逸な「ラスト、コーション」。


「ラスト、コーション [DVD]」(トニー・レオン(梁朝偉)/タン・ウェイ(湯唯))『ラスト、コーション 色・戒 (集英社文庫)
』「ブロークバック・マウンテン [DVD]
」(ヒース・レジャー/ジェイク・ギレンホール)
1938年、日中戦争の激化によって混乱する中国本土から香港に逃れていた女子大学生・王佳芝(ワン・チアチー)(タン・ウェイ)は、学
友・鄺祐民(クァン・ユイミン)(ワン・リーホン)の勧誘で抗日運動を掲げる学生劇団に入団し、やがて劇団は実践を伴う抗日活動へと傾斜していく。翌1939年、佳芝も抗
日地下工作員(スパイ)として活動することを決意し、特務機関の易(イー)(トニー・レオン)暗殺の機を窺うため麦(マイ)夫人として易夫人(ジョアン・チェン)に麻雀・買い物友達として接近、易を誘惑したが、学生工作員の未熟さと厳しい警戒で
暗殺は未遂に終わる。3年後、日中戦争開戦から6年目の1942年、特務機関の中心人物に昇進していた易暗殺計画の工作員として上海の国民党抗日組織から再度抜擢された佳芝は、特訓を受けて易に接触したが、度々激しい性愛を交わすうち、特務機関員という職務から孤独の苦悩を抱える易にいつしか魅かれていく。工作員としての使命を持ちながら、暗殺対象の易に心を寄せてしまった佳芝は―。
「ブロークバック・マウンテン」('05年/米)で2005年・第62回ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞や2005年度アカデミー監督賞を受賞したアン・リー(李安)監督の2007年公開作で、1942年日本軍占領下の中国・上海を舞台に、日本の傀儡政権である汪兆銘政権の下で、抗日組織の弾圧を任務とする特務機関員の暗殺計画を巡って、抗日運動の女性工作員ワン(タン・ウェイ)と、彼女が命を狙う日本軍傀儡政府の顔役イー(トニー・レオン)による死と隣り合わせの危険な逢瀬とその愛の顛末を描いたもので、2007年・第64回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞と撮影賞をW受賞し、アン・リー監督はルイ・マルや張藝謀(チャン・イーモウ)と並んで、金獅子賞を2度獲った歴代4人目の監督となりました。

原作は、ドミニク・チャン南カリフォルニア大学教授によれば、「国民党と共産党の政治的分裂がなければノーベル賞を受賞していたはずだ」という作家・張愛玲(ちょう あいれい、アイリーン・チャン、1920-1995)による小説『惘然記』(1983)に収められた短編小説「色、戒」で、1939年に実際にあった暗殺事件にヒントを得て書かれたものです。1955年に作者は米国に移り住むことになりますが、その頃から既に構想されていたもののようです(1977年初出)。映画公開に併せて『ラスト、コーション 色・戒』('07年/集英社文庫)など訳書が刊行され、『短編コレクションⅠ(池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 Ⅲ‐05)』('10年/河出書房新社)にも収められていますが、池澤夏樹氏は、「『色、戒』はぼくには圧縮された長編小説と読める」としています。
『短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)』
原作は女性工作員・王佳芝(ワン・チアチー)の数日を描いていますが(それは劇的な結末で終わる)、映画も、その形をきっちり踏襲した上で、回想の部分に肉付けして2時間38分の作品にしています。そして、その肉付けの仕方が、ぎゅっと詰まった高密度の原作を分かりやすく展開して"長編小説"に戻したような形になっています。ジェーン・オースティン原作の「いつか晴れた日に」('95年/米・英)のように英国小説が原作の映画を撮れば英国の監督が撮ったように撮り、「ブロークバック・マウンテン」のように米国小説が原作の映画を撮れば米国の監督が撮ったように撮るアン・リー監督ですが、やはりこの中国を舞台とした小説の映画化で一番力を発揮したように個人的には思います。
ヒロインの王佳芝を演じた湯唯(タン・ウェイ)は、オーディションで約1万人の中から主演に選ばれたそうですが、当時28歳ながら学生を演じれば学生らしく見え、男を誘惑する女スパイを演じればそれなりに魅力的な女性に見えました(タン・ウェイは第44回台湾金馬奨最優秀新人賞受賞)。原作とイメージが若干違うのは、原作では「ねずみ顔の中年の小男」とされている特務機関の易(イー)をトニー・レオンが演じているため、"いい男"過ぎる点でしょうか(笑)(トニー・レオンはアジア・フィルム・アワード主演男優賞、台湾金馬奨最優秀主演男優賞受賞)。
鄭蘋茹(Zheng Pingru)/丁黙邨(てい もくそん)

因みに、「色、戒」の王佳芝のモデルは、父親が中国人、母親が日本人の女スパイ・鄭蘋茹(テン・ピンルー、1918 -1940/享年22)で、易のモデルは、汪兆銘政権傘下の特工総部(ジェスフィールド76号)の指導者・丁黙邨(ていもくそん、1903-1947)です。鄭は丁に近づき、1939年12月、丁の暗殺計画を実行するも失敗、特工総部に出頭して捕らえられ、1940年2月に銃殺されますが、後に中華民国より殉職烈士に認定されています。一方の丁は、戦後も蒋介石の国民政府に再任用されるなどしましたが、結局は漢奸として逮捕され、1947年に死刑判決を受け、南京で処刑されています(享年45)。
この映画は所謂「漢奸問題」を引き起こしました。佳芝を演じたタン・ウェイは、トニー・レオンが演じる戦時中日本の協力者と見なされた漢奸を愛するようになる役柄であることから、漢奸を美化し「愛国烈士」を侮辱する象徴として中国国内のネット上では批判された時期があったようです。張愛玲の原作では愛欲描写は殆ど無いものの、佳芝が易を逃がすのは原作も同じです。原作者の張愛玲は人生半ばで渡米して今は故人、そうなるとこの作品を選んだアン・リー監督に矛先が行きそうですが、当のアン・リーは台湾出身で米国国籍も有し普段は中国にはいないので、トニー・レオンと大胆なラブシーンを演じたタン・ウェイに批判の矛先が向けられたのかもしれません(タン・ウェイは2008年に香港の市民権を得て、その後は主に香港映画に出演、ハリウッドにも進出した)。
原作では、佳芝が易にどのような理由で愛情を抱くようになったかは明確に描かれていません。また、佳芝が易を逃がしたことが、同時に彼女が仲間を裏切ったことになり、そのため彼女だけでなく仲間が皆捕まって処刑されたということも、原作ではさらっと触れているだけで、この佳芝の言わば"裏切り"行為は、原作よりも映画の方がより前面に押し出されていると言えます。敢えてそうした上で(つまり批判を見越した上で)、それでもヒロインとして観る者を惹きつける佳芝の描きっぷりに、アン・リー監督による"原作超え"を感じました。3年も経ってからやっと佳芝に口づけをしたかつての学友に、「3年前にしてくれていれば...」と佳芝が言う場面で、「ああ、これは"女性映画"なのだなあと」とも思いました(アン・リー監督は女性映画の名手として定評がある)。

この作品の2年前にヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を獲った「ブロークバック・マウンテン」は、ワイオミング州ブロークバック・マウンテンの雄大な風景をバックに、2人のカウボーイの1963年から1983年までの20年間にわたる秘められた禁断の愛を綴った物語で、原作は『シッピング・ニュース』でピューリッツァー賞を受賞した女流作家E・アニー・プルーの同名中編で、1997年に雑誌「ニューヨーカー」に掲載され、1998年の全米雑誌賞とO・ヘンリー賞を受賞した作品です(これも佳作だった。彼女は「ブロークバック・マウンテン」がアカデミー作品賞にノミネートされるも受賞を逃したことで、代わりにアカデミー作品賞を受賞した「クラッシュ」を酷評した)。
"Brokeback Mountain"ペーパーバック
1963年、ワイオミング。ブロークバック・マウンテンの農牧場に季節労働者として雇われ、運命の出逢いを果たした2人の青年、イニス・デル・マー(ヒース・レジャー)とジャック・ツイスト(ジェイク・ギレンホール)。彼らは山でキャンプをしながら羊の放牧の管理を任される。寡黙なイニスと天衣無縫なジャック。対照的な2人は大自然の中で一緒の時間を過ごすうちに深い友情を築いていく。そしていつしか2人の感情は、彼ら自身気づかぬうちに、友情を超えたものへと変わっていくのだったが―。
2005年のアカデミー賞で8部門にノミネートされましたが、監督賞、脚色賞、作曲賞の3部門の受賞にとどまりました(保守的な傾向があるアカデミー賞では作品賞は難しいのではないかという事前予想はあった)。ただし、ゴールデングローブ賞作品賞、英国アカデミー賞作品賞、インディペンデント・スピリット賞作品賞ほか、ニューヨーク、ロサンゼルス
、ロンドンなどの各映画批評家協会賞作品賞を受賞し、ゲイ・ムービーにはスティーヴン・フリアーズ監督の「マイ・ビューティフル・ランドレット」('85年)やウォン・カーウァイ監督の「ブエノスアイレス」('97年)など先行する作品が結構ありましたが、多くの賞を受賞したという点では画期的な作品でした。2000年代中盤以降LGBT映画がますますその数を増していく契機にもなり、最近では、バリー・ジェンキンス監督の「ムーンライト」('16年)がアカデミー作品賞を受賞し、ルカ・グァダニーノ監督の「君の名前で僕を呼んで」('17年)がアカデミー脚色賞を受賞するなどしています(「君の名前で僕を呼んで」の脚本は「モーリス」('87年)のジェームズ・アイヴォリー監督)。
この映画の場合、主人公の2人の男性は共に家庭も持っていて、しかも時代設定が60年代から80年代にかけてということで、ゲイに対する偏見が今よりもずっと強かった時代の話であり、それだけ"禁断の愛"的な色合いが強く出
ているように思います。一方で、その"禁断の愛"をブロークバック・マウンテンの美しい自然を背景に描いており、
ドロドロした印象はさほどなく、自然の美しさが浄化作用のように効いているという点で、アルプスの自然を背景に姉弟の近親相姦を描いたフレディ・M・ムーラー監督のロカルノ国際映画祭「金豹賞」受賞作「山の焚火」('85年/スイス)を想起したりしました。
イニスとジャックを演じた、故ヒース・レジャー(1979-2008/享年28)とジェイク・ギレンホールの演技も良かったです。この作
品のイニス役でニューヨーク映画批評家協会賞主演男優賞などを受賞し、アカデミー主演男優賞にもノミネートされたヒース・レジャーは、映画の中でイニスと結婚したアルマを演じたミシェル・ウィリアムズと実生活において婚約しましたが、両者の間に女の子が産まれたものの婚約を解消しています。
その後ヒース・レジャーは、クリストファー・ノーラン監督のバットマン映画「ダークナイト」('08年/米・英)にバットマンの宿敵ジョーカ役で出演、バットマン役のクリスチャン・ベールを喰ってしまうほどの演技でジャック・ニコルソンのとはまた違ったジョーカー像を創造することに成功し、アカデミー助演男優賞、ゴールデングローブ賞助演男優賞、英国アカデミー賞助演男優賞、ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞など主要映画賞を総なめにしたものの、2008年1月に薬物摂取による急性中毒でニューヨークの自宅で亡くなっています。アカデミー助演男優賞の受賞は亡くなった後の決定であり、故人の受賞は「ネットワーク」('76年/米)のピーター・フィンチ以来32年ぶり2例目でした(因みに、共演のクリスチャン・ベールも2年後の「ザ・ファイター」('10年/米)でアカデミー助演男優賞を受賞している)。
「ブロークバック・マウンテン」においてイニスがジャックの事故死を彼のジャックの妻ラリーン(アン・ハサウェイ)から聞かされた時に、リンチを受けるジャックの姿をイメージしたのは、単にイニスのトラウマからくる思い込みというより、実際にリンチ死だったということだったのでしょう。原作では、イニスは最初はジャックがリンチ死だったのか本当に事故死だったのか分からないでいますが、後になってジャックはリンチ死したと確信するようになります。
「ブロークバック・マウンテン」「ラスト、コーション」とも傑作映画です。原作に比較的忠実に作られている「ブロークバック・マウンテン」もいいですが、個人的には、原作からの"展開度"という点で(しかも"正しく"肉付けされている)「ラスト、コーション」の方がやや上でしょうか。
ジョアン・チェン(易夫人)/ワン・リーホン(鄺祐民(クァン・ユイミン))

「ラスト、コーション」●原題:色,戒/LUST, CAUTION●制作年:2007年●制作国:アメリカ・中国・台湾・香港●監督:アン・リー(李安)●製作:アン・リー/ビル・コン/ジェームズ・シェイマス●脚本:ワン・ホイリン/ジェームズ・シェイマス●撮影:ロドリゴ・プリエト●音楽:アレクサンドル・デスプラ●原作:張愛玲(ちょう あいれい、アイリーン・チャン)「色、戒」●時間:158分●出演:トニー・レ
オン(梁朝偉)/タン・ウェイ(湯唯)/ジョアン・チェン(陳冲)/ワン・リーホン(王力宏)/トゥオ・ツォンファ/チュウ・チーイン/ガァオ・インシュアン/クー・ユールン/ジョンソン・イェン/チェン・ガーロウ/スー・イエン/ホー・ツァイフェイ/ファン・グワンヤオ/アヌパム・カー●日本公開:2008/02●配給:ワイズポリシー)(評価:★★★★☆)
トニー・レオン(梁朝偉)/タン・ウェイ(湯唯)/アン・リー(李安)監督/ワン・リーホン(王力宏)/ジョアン・チェン(陳冲)〔2007年・第64回ヴェネツィア国際映画祭〕
ジョアン・チェン/ベルナルド・ベルトルッチ監督「ラストエンペラー」('87年/伊・中国・英)・デヴィッド・リンチ監督「ツイン・ピークス」('90/英)・アン・リー監督「">ラスト、コーション」('07年/米・中国・台湾・香港)
アン・ハサウェイ(ジャックの妻ラリーン)/ミシェル・ウィリアムズ(イニスの妻アルマ)

「ブロークバック・マウンテン」●原題:BROKEBACK MOUNTAIN●制作年:2005年●制作国:アメリカ●監督:アン・リー(李安)●製作:
ダイアナ・オサナ/ジェームズ・シェイマス●脚本:ワダイアナ・オサナ/ジェームズ・シェイマス●撮影:ロドリゴ・プリエト●音楽:グスターボ・サンタオラヤ●原作:E・アニー・プルー「ブロークバック・マウンテン」●時間:134分●出演:ヒース・レジャー/ジェイク・ギレンホール/アン・ハサウェイ/ミシェル・ウィリアムズ/ランディ・クエイド/リンダ・カーデリーニ/アンナ・ファリス/ケイト・マーラ●日本公開:2006/03●配給:ワイズポリシー(評価:★★★★)

「ダークナイト」●原題:THE DARK KNIGHT●制作年:2008年●制作国:アメリカ・イギリス●監督:クリストファー・ノーラン●製作:クリストファー・ノーラン/チャールズ・ローヴェン/エマ・トーマス●脚本:クリストファー・ノーラン/ジ
ョナサン・ノーラン●撮影:ウォーリー・フィスター●音楽:ハンス・ジマー/ジェームズ・ニュートン・ハワード●原作:ボブ・ケイン/ビル・フィンガー「バットマン」●時間:152分●出演:クリスチャン・ベール/ヒース・レジャー/アーロン・エッカート/マギー・ジレンホール/マイケル・ケイン/ゲイリー・オールドマン/モーガン・フリーマン/メリンダ・マックグロウ/ネイサン・ギャンブル/ネスター・カーボネル●日本公開:2008/08●配給:ワーナー・ブラザース(評価:★★★☆)
モーガン・フリーマン(バットマンのテクノロジーをサポートするルーシャス・フォックス)/マイケル・ケイン(ウェイン家の執事・アルフレッド・ペニーワース)

「ラスト、コーション」...【2007年文庫化[集英社文庫(『ラスト、コーション 色・戒』)]】
「ブロークバック・マウンテン」...【2006年文庫化[集英社文庫(『ブロークバック・マウンテン』)]】



貴族のダッシュウッド氏(トム・ウィルキンソン)が亡くなった後、ダッシュウッド夫人と3人の娘、エリノア(エマ・トンプソン)、マリアンヌ(ケイト・ウィンスレット)、マーガレットは、年500ポンドの遺産しか残されなかったことに愕然とする。ダッシュウッド氏は妻と娘たちの身を案じ、死ぬ間際に彼女たちを頼むと先妻との間の息子ジョン(ジェームズ・フリート)に頼んでいたにもかかわらず、ジョンの妻ファニー(ハリエット・ウォルター)がそれを阻止してしまったのだった。ジョンとファニーは母娘が住んでいたノーランド・パーク邸に乗り込み、彼女たちを邪険に扱うようになる。エリノアは、屋敷を訪れたファニーの弟エドワード(ヒュー・グラント)と互いに好感を抱く。ダッシュウッド母娘はミドルトン卿(ロバート・ハーディ)の厚意でバートン・コテージへ移り住む。マリアンヌは年の離れたブランドン大佐(アラン・リックマン)から愛情を寄せられるが、彼女は青年貴族ウィロビー(グレッグ・ワイズ)と恋仲になってしまう。しかし、ウィロビーは理由も告げずにロンドンへ去り、マリアンヌは悲しみに沈む。一方、エリノアはエドワードの秘密の婚約者ルーシー(イモジェン・スタッブス)の存在に大きな衝撃を受ける。ジェニングス夫人(エリザベス・スプリッグス)の招待で、失意のエリノアとマリアンヌ姉妹、そしてルーシーはロンドンを訪れるが、そこでは思いがけない事態が待っていた―。
1995年製作のアン・リー(李安)監督による米・英合作映画で、アン・リー監督にとっては、本格的にハリウッド進出を果たした第1作。ジェーン・オースティンの『分別と多感』が原作であり、原題は原作と同じです(Sense and Sensibility)。1996年・第46回ベルリン国際映画祭で、アン・リー監督としては「ウェディング・バンケット」('93年/台湾・米)に次ぐ2度目の「金熊賞」を獲得したほか(複数回の金熊賞受賞は2017年現在アン・リー監督のみ)、主演のエマ・トンプソンが脚本を担当しており、第68回アカデミー賞にて脚色賞を受賞しています。
ジェーン・オースティン作品では『高慢と偏見』が2005年にジョー・ライト監督によるイギリス映画としてキーラ・ナイトレイ主演で映画化されていますが(「プライドと偏見」)、文学全集などによく収められているのは『高慢と偏見』の方だけれども(或いは『エマ』か)、この「いつか晴れた日に」の原作『分別と多感』もなかなか面白いのではないでしょうか(個人的には未読だが、2009年に英国ガーディアン紙が発表した「英ガーディアン紙が選ぶ必読小説1000冊」に『高慢と偏見』と共に入っている)。『高慢と偏見』の最初の映画化作品は、ローレンス・オリヴィエ主演の「高慢と偏見」('40年/米)で、当時ハリウッドで流行したスクリューボール・コメディの影響を受けた作りになっているそうですが、ジェーン・オースティンの小説に登場する姉妹(『高慢と偏見』の場合は5人姉妹)は、いい男が現われる度にどんどん恋に
陥っていくので、何となく分かる気がします。
長女エリノア役のエマ・トンプソンはイングランド出身で、ジェームズ・アイヴォリー監督の「ハワーズ・エンド」('92年/英・日)でアカデミー主演女優賞を受賞済み、同じく
ジェームズ・アイヴォリー監督の「
次女マリアンヌ役のケイト・ウィンスレットもイングランド出身で、この作品の後、ジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」('97年/米)でレオナルド・ディカプリオと共演し、スティーブン・ダルドリー監督の「
エドワード役のヒュー・グラントは、こうした英国風映画には欠かせないイングランド出身の俳優で(個人的には ジェームズ・アイヴォリー監督の「
ブランドン大佐役のアラン・リックマンは、この人もイングランド出身で、映画初出演だった「
年/米)の冷酷無比なテロリスト集団のリーダー・ハンス役で一気に有名になりましたが、元々は英ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身の舞台俳優であり、この映画を観ているとそのことが感じられます。「ハリー・ポッター」シリーズのセブルス・スネイプ役も印象的でしたが、2016年に膵臓癌により69歳で死去したのが惜しまれます。
脇役もいいですが、やはりこの4人の演技力が映画の完成度に寄与している部分が大きいです。ハリウッド映画ですが、グレッグ・ワイズまで含めて主要な配役の5人ともイングランド出身で、彼らの演技力を引き出したのが、台湾出身のアン・リー監督であるというのが興味深いです。



イラン革命真っ最中の1979年、イスラム過激派グループがテヘランのアメリカ大使館を占拠し、52人のアメリカ人外交官が人質に取られたが、占拠される直前に6人のアメリカ人外交官が大使館から脱出、カナダ大使公邸に匿われる。CIA工作本部技術部のトニー・メンデス(ベン・アフレック)は6人をイランから救出するため、「アルゴ」という架空のSF映画をでっち上げて6人をそのロケハンのスタッフに身分偽変させるという作戦を立てる―。
個人的には、こうした映画の娯楽性を高めるための演出はあってもいいかなとは思います。池上彰氏の言う「史実」には、こうした"細部"の表現は含まれないのでしょう。ベースになっているのは、CIAが17年間公表を控えていた事実であることには違いないし、タイトルにもなっているニセ映画「アルゴ」をでっち上げるという奇抜なアイデアが実行されたのも事実だし、概ね「事実」だと思って観るからこそハラハラし、面白くもあるわけで、そう思って観る方が確かに楽しめるかと思います(仮に全てが創作だとして、それが事前に分かって観ているとすれば、ハラハラ度はずっと低下するに違いない)。
監督兼主演のベン・アフレックって才人だなあと思いました。本人の抑制された演技だけでなく、演出面でも、俳優6人に事前に合宿生活を送らせ、潜伏生活を疑似体験させたという効果は出ているし、エンドロールのサービスカットで、場面ごとにディテールまで忠実に再現したことをアピールするなどの技はなかなかのものです(これで、映画の「全ての場面」が事実通りであると錯覚してしまう?)。
CIAから送り込まれたのは、映画のように主人公1人ではなく2人だったのを、トニー(アントニオ)・メンデス1人に集約させているといったヒロイズム的効果を狙っての改変は許せるとしても、ビザの日付にミスがあって危ういところだったのをカナダ大使館員の1人が気づいて指摘した事実は割愛されているし、非常事態に備えて色々と奔走したカナダ大使が、映画では、いきなりもうこれ以上匿えないからといって6人に緊急出国を余儀なくさせたように描かれているのは、元カナダ大使本人は一応はアメリカから表彰されているせいか苦言を呈さなかったようですが、カナダ側からすれば不満が出て当然の作りのように思えます。
まあ、この作品を観て一番頭にくるだろうと思われるのは、イランの人たちだろうなあ。「強いアメリカ」と言うより「賢いアメリカ」を強調した"愛国"作品と言えるのでは。この作戦が実行された時、アメリカはジミー・カーター大統領の民主党政権で、ベン・アフレックも、この映画のプロデューサーの1人ジョージ・クルーニーも共に民主党及びバラク・オバマ大統領支持者。因みに、スティーブン・スピルバーグ、ジョージ・ルーカス両監督やロバート・デ・ニーロ、トム・ハンクス、ブラッド・ピット、モーガン・フリーマン、ウィル・スミスらも民主党支持者であり、一方、クリント・イーストウッド、アーノルド・シュワルツェネッガーら政治家経験者や、ブルース・ウィリス、シルベスター・スタローンらは共和党支持者。支持政党によって、作る映画、出る映画に傾向の違いはあるかも。
「アルゴ」●原題:ARGO●制作年:2012年●制作国:アメリカ●監督:ベン・アフレック●製作:ジョージ・クルーニー/グラント・ヘスロヴ/ベン・アフレック●脚本:クリス・テリオ●撮影:ロドリゴ・プリエト●音楽:アレクサンドル・デスプラ●原作:アントニオ・J・メンデス「The Master of Disguise」/ジョシュア・バーマン「The Great Escape」●時間:124分●出演:ベン・アフレック/ブライアン・クランストン/クレア・デュヴァル/ジョン・グッドマン/マイケル・パークス/テイラー・シリング/カイル・チャンドラー/アラン・アーキン/ケリー・ビシェ/ロリー・コクレーン/クリストファー・デナム/テイト・ドノヴァン/ヴィクター・ガーバー/ジェリコ・イヴァネク/リチャード・カインド/スクート・マクネイリー/クリス・メッシーナ●日本公開:2012/10●配給:ワーナー・ブラザーズ(評価:★★★☆)
2010年ゴールデングローブ賞 作品賞(ドラマ部門)受賞作。
全世界で5億人以上のユーザーが登録しているFacebookの創業にまつわる物語で、一躍時代の寵児となったザッカーバーグは、若くして億万長者へと成り上がっていくのですが、この映画によれば、Facebookの前身が、ザッカーバーグがガールフレンドのエリカ(ルーニー・マーラ、「
鎖されると、やはり女の子との出会いを目的としたハーバード大生専用のコミュニティサイト「ハーバード・コネクション」の制作に協力して、そこからヒントを得て、「ザ・フェイスブック」が誕生し、それがエドゥアルドの所属する大学一のファイナル・クラブである「フェニックス」の人脈を利用して瞬く間に広まっていったという―真偽のほどはともかく、その過程が興味深かったです。
結局、ザッカーバーグは、「ハーバード・コネクション」の創設者ウィンクルボス兄弟と、彼が共同設立した会社のCEOとなったエドゥアルド(ショーン・パーカーを巡って2人の意見が対立し、結局彼はザッカーバーグに設立会社の重役を降ろされてしまう)の両者から訴えられていて、映画は、ザッカーバーグが抱える2つの訴訟場面を現在とし、過去を時系列で顧みる形で物語が展開されていくため、必ずしもハッピーエンドとは言えない現在が予め観客に提示されている「成功物語」ということになります。
IT業界の裏側を覗き見ると言うより、Facebookがどのようにして生まれたか自体に関心があって観ましたましたが、意外だったのは、最初は極端にオタクっぽく見えたザッカーバーグ(この人、アスペルガー症候群?)が、後半になると随所で経営者才覚を発揮する点で、ビル・ゲイツなどもこのプロセスを経てきているのだろうけれど、前半及び裁判シーンでザッカーバーグの"KY(空気読めない)ぶり"がやや強調され過ぎている感じもしました(映画として面白くするため?)。
えば、Facebookを作った理由が"女の子にモテたいから"ってなってたけど、僕と彼女はFacebookを作る前から付き合っているし、別れたこともないんだよ(実際にザッカーバーグは'12年5月、このハーバード時代の同窓生である東洋系の彼女と結婚式を挙げた)。ただ、映画を観た多くのFacebookユーザーから"感激しました!"という反応があった。この映画を観て、コンピューターの分野に進むことを決意する人が出てきたり、そういう影響を与えたことは最高に凄いと思う。その部分だけはね」とコメントしており、割合マトモな談話ではないかなあ(元々はマトモな人物なのか、それとも財界人になって社会的協調性を身につけたのか?)。


「ソーシャル・ネットワーク」●原題:THE SOCIAL NETWORK●制作年:2010年●制作国:アメリカ●監督:デヴィッド・フィンチャー●製作:スコット・ルーディン/マイケル・デ・ルカ/シーアン・チャフィン●脚本:アーロン・ソーキン●撮影:ジェフ・クローネンウェス●音楽:トレント・レズナー/アッティカス・ロス●原作:ベン・メズリック「facebook」●時間:121分●出演:ジェシー・アイゼンバーグ/アンドリュー・ガーフィールド/ジャスティン・ティンバーレイク/ブレンダ・ソング/ラシダ・ジョーンズ/ジョゼフ・マゼロ/マックス・ミンゲラ/ルーニー・マーラ/アーミー・ハマー/ダグラス・アーバンスキ/ダコタ・ジョンソン/トレヴァー・ライト/ウォレス・ランガム●日本公開:2011/01●配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(評価:★★★)