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「愚なる妻」、凄い映画だなあ。同じ年(1914年)デビューのシュトロハイムとチャップリン。


「愚なる妻《IVC BEST SELECTION》 [DVD]」「Cruel, Cruel Love」「One A.M.」
「シュトロハイム狂気のツインパック [DVD]」(「愚なる妻」「グリード」)
様々な種類の人間が集まる国際都市モナコに、ロシア貴族カラムジン伯爵と称する軍人風の男が、従妹2人と滞在していたが、実は彼らは詐欺師で、上流階級に取り入り金銭を騙し取ったり、贋
金を作ったりしていた。モナコへの米公使来訪の報を目にした彼らは、公使夫人をカラムジンの手管で篭絡し、金を巻き上げようと企む―。
完璧主義者だったことで知られるエーリッヒ・フォン・シュトロハイム(Erich Von Stroheim、1885‐1957)監督の1922年に公開された長編サレント映画で(原題:Foolish Wives、日本公開は1923(大正12)年2月)、冒頭に少しだけ映画のメイキングシーンが流れますが、膨大な製作費で
カジノやホテル等、モンテカルロの街並みごと再現し(無声映画なのにホテルのどの部屋のベルもちゃんと鳴ったという)、豪華な食事を俳優たちに食べさせて、雰囲気から徹底的に作り込んだそうです。そのうえで、人間の性に対する露わな欲望を、カラムジンなる怪物的人物を通して描いたリアリズム作品であり(監督・主演のほかに脚本・衣装もシュトロハイムが担当)、シュトロハイムは、ハリウッドに初めてリアリズム演出を持ち込んだ天才監督と評されています。
Monte Carlo @ Universal Studios.
マツダ映画社の「無声映画鑑賞会」(日暮里サニーホール・コンサートサロン)で澤登翠氏の活弁で鑑賞しましたが、108分の長尺の活弁はお疲れ様でしたという感じ。但し、オリジナルは上映時間が8時間あったのが長すぎるということで、それが最終的に1時間50分ほどに短縮させられたものが今日あるものであるとのことです(同監督の「グリード」('24年)も9時間超のオリジナルを100分に縮めたものしか残っていない)。
「グリード」と比べると、シュトロハイム本人が主演しているという点でその多才ぶりがより強く印象づけられます(この前に「悪魔の合鍵」('19年)という監督・出演・原案・美術を担当した長編もあるがフィルムが現存していない)。いやあ、凄い話だなあ。シュトロハイム演じるカラムジンは貴婦人だけでなくメイドまで誑かすし(結局彼女は自殺に追い込まれる)、最後は高跳びする前に贋金作りのやや頭の弱い娘まで襲おうと
してその父親に惨殺され下水に捨てられるのですが(殺される場面はフィルムが紛失しているが活弁で補足説明されていた)、自分がその役をやる映画で普通こんな脚本を書くかねえ。しかも、この部分もフィルムが現存していませんが、オリジナルでは死体がネズミの餌になっている場面があったそうな(これぞリアリズム)。
作品全体のテーマは、タイトルに表象されるように、上流階級の欺瞞や空疎、浅薄さを揶揄したものでしょうが、カラムジン伯爵の人物造型があまり強烈であり、プロセスにおいてはある種ピカレスクロマンになっています。カラムジンがニセモノの涙を流すところなどはやや演出過剰な感もありましたが、当時の基準からすれば、こうしたシーンもリアリズムの範囲内ということになるのか。 カラムジン中心にみれば人間の飽くなき「性欲」を描いているとも言え、人間の「金銭欲」を描いた「グリード」との対比で、そうした捉え方の方がすっきりするかもしれません。
「無声映画鑑賞会」での併映は、チャールズ・チャップリン(Charles Chaplin、1889 - 1977)主演の短編「チャップリンの恋のしごき」('14年)と「チャップリンの大酔(たいすい)」('16年)で、それぞれ澤登翠氏のお弟子さんである山内菜々子氏と山城秀之氏が活弁を担当。先にこの2作を観て、場内を「お煎にキャラメル」を売って歩く「中入り」の後に大作「愚なる妻」が始まるという、大体この映画鑑賞会では定着している上映パターンでした。
「チャップリンの恋のしごき」は1914年3月26日公開作。チャップリンがデビューした年の作品で(原題:Cruel, Cruel Love、「痛ましの恋」の邦題で公開されたこともある)、但しチャップリンはこの年だけで40本近くの短編に出ていて、この作品はデビュー作「成功争い」から数えて第8作です。因
みに、エーリッヒ・フォン・シュトロハイムの映画デビューも100年前のチャップリンのデビューと同じ年の1914年です(D・W・グリフィスの「國民の創生」('14年)で監督助手兼エキストラ出演)。
恋の行き違いを描いたような話で、ドタバタの部分もありますが、ストーリー自体はさほどヒネリがないように思いました(まあ、最後は誤解が解けてハッピーエンドだろうなあと)。むしろ、チャップリンのちょび髭にタキシードという定番スタイルが未だ出来上がる前の作品である点で興味深いかもしれまん。髪型などもちょっと違っているなあ。
「チャップリンの大酔(たいすい)」は1916年8月7日公開作で、チャップリンのミューチュアル・フィルムにおける4作目。酔っぱらったチャップリンがタクシーから降りて我が家に入り寝室に行き着こうとするまでを描いた(結局最後はバスタブに行き着いてしまうのだが)純粋なドタバタコメディで(原題:One A.M.、そのまま「午前一時」の邦題で公開されたこともある)、しかも冒頭のタクシー運転手を除いては実質チャップリン
の完全な一人芝居です。ここにきて、ようやくと言うか、既にすっかりチャップリンのコメディスタイルが出来上がっているなあという感じで、それをずっと一人芝居でじっくり観ることが出来るという意味では貴重な作品とも言えるかもしれせん。
ストーリー性のある「チャップリンの恋のしごき」よりも、ストーリー性のない「チャップリンの大酔」の方がむしろ完成度としては高くなっているわけですが、両作品を見比べることで、チャップリンのあのスタイルが出来上がった時期やプロセスが大まかに推し量れる―その辺りが主催者側が両作品を揃えた狙いではないでしょうか。
Foolish Wives(1922)

「愚なる妻」●原題:FOOLISH WIVES●制作年:1921年(公開1922年)●制作国:アメリカ●監督・原作・脚本:エーリッヒ・フォン・シュトロハイム●製作:カール・レムリ●撮影:ベン・レイノルズ/ウィリアム・ダニエルズ●時間:108分(117分(オリジナル版)・142分(2013年版)・147分(2023年版))●出演:エリッヒ・フォン・シュトロハイム/ルドルフ・クリスチャンズ/ミス・デュポン/モード・ジョージ/メエ・ブッシュ/デイル・フラー/セザール・グラヴィーナ/マルヴィン・ポーロ●日本公開:1923/02/01●最初に観た場所(活弁付き):日暮里サニーホール・コンサートサロン (14-09-30) (評価★★★★)●併映:「チャップリンの恋のしごき」(ジョージ・ニコルズ)/「チャップリンの大酔」(チャールズ・チャップリン)

日暮里サニーホール 1989年3月、日暮里駅東口ホテルラングウッド開業と併せてオープン(ホテルラングウッド/コンサートサロン)
「チャップリンの恋のしごき(痛ましの恋)」●原題:CRUEL, CRUEL LOVE●制作年:1914年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・ニコルズ●製作:マック・セネット●脚本:クレイグ・ハッチンソン●撮影:フランク・D・ウィリアムズ●時間:現存9分(オリジナル18分)●出演:チャールズ・チャップリン/エドガー・ケネディ/ミンタ・ダーフィ/アリス・ダヴェンポート/グレン・カーヴェンダー●最初に観た場所(活弁付き):日暮里サニーホール・コンサートサロン (14-09-30) (評価★★★)●併映:「チャップリンの大酔」(チャールズ・チャップリン)/「愚なる妻」(エーリッヒ・フォン・シュトロハイム)」

「チャップリンの大酔(たいすい)(午前一時)」●原題:ONE A.M.●制作年:1916年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:チャールズ・チャップリン●撮影:ローランド・トザロー●時間:12分(オリジナル32分)●出演:チャールズ・チャップリン/アルバート・オースチン●最初に観た場所(活弁付き):日暮里サニーホール・コンサートサロン (14-09-30) (評価★★★☆)●併映:「チャップリンの恋のしごき」(ジョージ・ニコルズ)/「愚なる妻」(エーリッヒ・フォン・シュトロハイム)」
「チャップリン・アーリー・コレクション」(第1巻/全10巻)「チャップリンの消防夫」「午前一時」「三つ巴事件」「チャップリンの移民」 「チャップリン アーリー・コレクション 【限定セット】(DVD10枚組み) [Box set]」



![モダン・タイムス [字幕版].jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%83%A2%E3%83%80%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%A0%E3%82%B9%20%5B%E5%AD%97%E5%B9%95%E7%89%88%5D.jpg)
フレデリック・W・テイラー(Frederick Winslow Taylor, 1856-1915)が1911年に著した有名な本ですが(原題:The Principles of Scientific Management)、1921年の本邦初訳以来、何度か新訳が出されていたものの、1957年の上野陽一(1888-1957)訳(技報社刊)の新訳版が、彼が創始した産業能率大学(当初は短大)の出版部より1969年に刊行され、1983年と1995年に改版された後はずっと絶版となっていて、今回は14年ぶりの新版(40年ぶりの新訳)ということになります(因みに、上野陽一訳はテイラーの他の論文等も収めて579ページあり、それに対し今回の新訳版は175ページ)。
ともすると最後の差別的出来高払い制が注目されがちですが(テイラーが最初に提唱したのが差別的出来高払い制であり、この成果によって彼は職長に昇進した)、テイラー自身は出来高制がはらむ危険性にも早くから気づいていました。働き手が、「記録的な成果を上げて、それが出来高制の賃金基準になってはたまらない」という不安から、作業ペースを落とすことが考えられるからです。そのことを防ぐためには、マネジャーと最前線の働き手が密接に連携し、それぞれの役割を分担することが重要であると説いています。この場合のマネジャーの役割とは、作業プランを作成し、実行することです。そのためには、仕事の分析だけでなく、人間観察、人間理解が必要になってくるということが、本書から十分に理解できます。
ヘンリー・フォードは、それまでの、シャーシーを固定して同じグループの工員達がそれにエンジンやタイヤなどの部品を順次取り付けるという自動車製造法を一変させ、シャーシーをベルトコンベアに乗せて作業することを発想し、1913年までに完全ベルトコンベア化し(これが現在の自動車工場の所謂"製造ライン"の始まり)、1920年までにはT型フォード(A型から始まって20番目の試作完成品であるためこう呼ばれた)の生産台数を年間100万台超に引き上げ、大量生産による単価の低減により、それまで金持ちの贅沢嗜好品であった自動車を、一般の人々の身近な生活の道具にしたわけです(当時、アメリカのクルマの2台に1台はT型フォードだったとのこと)。ある意味、「働き手に豊さを届ける」というテイラーの理念が現実のものとなった事例でもあります。
まだ日本にはトヨタも日産も会社そのものが存在していなかった頃の話ですが、1910年代には東洋紡績がこの「科学的管理法」を採り入れ、倉敷紡績も研究所を設けるなど、当時の日本の主力産業にも大きな影響を与えました。
あの有名なウエスタン・エレクトリック社の「ホーソン工場の実験」も、機械組立て作業のための最適な照明の明るさを検証するために行われたことを考えれば、前提として「科学的管理法」の考え方があったと思われますが、作業効率と照明の明るさの相関が得られず、殆ど真っ暗な状態でも作業効率が落ちないチームがあったりした-そのことに関心を持ったハーバード大学のエルトン・メイヨーらが途中から実験に加わり、作業チームのメンバー間のインフォーマルな人間関係の強さが作業結果に影響を及ぼしていることを突き止め、これが「人間関係論」の始まりで、更に「新人間関係論」(テイラー的人間観を"経済人モデル"と規定してその限界を説き、新たな人間観として"社会人モデル"を提唱する)、マクレガーやハーズバーグの近代モチベーション理論へと発展していくわけです。
チャールズ・チャップリンの「モダン・タイムス」('36年/米、チャップリン初のトーキー作品。監督・製作・原作・脚本・音楽の何れもチャップリン)などにも、「科学的管理法」批判ととれなくもない場面がありますが(個人的にはスラップスティック感覚に溢れる「チャップリンの黄金狂時代」('25年/米)の方が若干好みだが、これも傑作)、この映画はこうしたテイラーイズムやフォーディズム批判の風潮の中で作られた作品でもあるのだなあと改めて思います。
「モダン・タイムス」●原題:MODERN TIMES●制作年:1936年●制作国:アメリカ●監督・製作・原作・脚本:チャールズ・チャップリン●脚本:ロバート・J・アヴレッチ/ブライアン・デ・パルマ●撮影:ローランド・トセロー/アイラ・モーガン●音楽:チャールズ・チャップリン/アルフレッド・ニューマン●時間:87分●出演:チャールズ・チャップリン/ポーレット・ゴダード/ヘンリー・バーグマン/チェスター・コンクリン●日本公開:1938/02●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:高田馬場パール座 (79-03-06)(評価:★★★★☆)●併映:「チャップリンの黄金狂時代」(チャールズ・チャップリン)




映画雑誌「スクリーン」に長年にわたって映画評論を書き続けてきた著者による、20世紀に公開された外国映画500選の評論です。何しろ1910年生まれの著者は、見た洋画が1万数千本、邦画も含めると約2万本、1920年代中盤以降公開の作品はほとんどリアルタイムで見ているというからスゴイ!
淀川長治(1909-1998)が「キネマ旬報」1980年12月下旬号に寄せた自らのベスト5が「黄金狂時代(チャールズ・チャップリン)」「戦艦ポチョムキン(セルゲイ・エイゼンシュテイン)」「グリード(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)」「大いなる幻影(ジャン・ルノワール)」「ベニスに死す(ルキノ・ヴィスコンティ)」となっており、「黄金狂時代」と「大いなる幻影」が重なっています。年齢が近かったこともありますが(双葉氏が1歳年下)、意外と重なるなあという印象でしょうか。巻末の「ぼくの映画史」も、著者の人生と映画の変遷が重なり、その中で著者が、映画の過去・現在・将来にどういった思いを抱いているかが窺える味わい深いものでした。
ストに挙げているのが興味を引きました(淀川長治は別のところでは、"生涯の一本"に「黄金狂時代」を挙げている)。「黄金狂時代」はチャップリン初の長編劇映画であり、ゴールドラッシュに沸くアラスカで一攫千金を夢見る男たちを描いたもので
すが、チャップリンの長編の中では最もスラップスティック感覚に溢れていて楽しめ(金鉱探しのチャーリーたちの寒さと飢えがピークに達して靴を食べるシーンも秀逸だが、その前の腹が減った仲間の目からはチャーリーがニワトリに見えてしまうシーンも可笑しかった)、個人的にもチャップリン作品のベストだと思います(後期の作品に見られるべとべとした感じが無い)。

「チャップリンの黄金狂時代(黄金狂時代)」●原題:THE GOLD RUSH●制作年:1936年●制作国:アメリカ●監督・製作・脚本:チャールズ・チャップリン●撮影:ローランド・トザロー●時間:82~96分(サウンド版73分)●出演:チャールズ・チャップリン/ビッグ・ジム・マッケイ/マック・スウェイン/トム・マレイ/ヘンリー・バーグマン/マルコム・ウエイト/スタンリー・J・サンフォード/アルバート・オースチン/アラン・ガルシア/トム・ウッド/チャールズ・コンクリン/ジョン・ランドなど●日本公開:1925/12●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:高田馬場パール座 (79-03-06)(評価:★★★★☆)●併映:「モダン・タイムス」(チャールズ・チャップリン)
