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本来は星4つクラスだと思うが、状態の悪い不完全版でしか残っていないのが残念。


「エノケンの法界坊」VHS
下:「大鐵ニュース会館」(昭和13年)
永楽屋の女将おらく(英百合子)は大の骨董好きで、お宝掛け軸"鯉魚の一軸"を手に入れるために、手代の要助(小笠原章二郎)に捜させていた。偶々それを持っていることが判った大坂屋・源右衛門(中村是好)が親子ほ
どに年齢の違う自分の娘のおくみ(宏川光子)に惚れていることを知って、その気を引くために源右衛門に娘を嫁がせる素振りをみせるが、おくみは実は要助と相思相愛の仲だった。源兵衛がおくみとの結
婚を迫る一方、永楽屋の番頭の長九郎(如月寛多)もおくみに気があり、機会を画策する。更には、鐘楼寄進を名目に布施を集めては懐に入れていた破戒坊主の法界坊(榎本健一)までがおくみにぞっこんとなり、この恋愛合戦は四つ巴の様相を呈す。法界坊は長
九郎にそそのかされて掛け軸を盗み出すが、源右衛門から掛け軸奪回の依頼を受けた長九郎が源右衛門を裏切って殺し、要助と共に法界坊の住処に行って今度は法界坊を刺し殺し、掛け軸を奪い返した要助も川に突き落とす。要助が死んでいまったと思ったおくみは、泣く泣く長九郎と祝言を挙げることになるが、そこへ幽霊となった法界坊が現われ、長九郎の悪事を暴き、そんな所に九死に一生を得た要助も戻って来る。幽霊の法界坊は、おくみと要助の婚礼を執り行なう事、自分の供養のために寺に鐘を寄贈する事をおくみたちに頼むと姿を消す―。
1938(昭和13)年公開の斎藤寅次郎(1905-82)監督の東宝移籍第一回監督作品で、オリジナルが74分、現存するフィルムが53分です。一部ミュージカル風で、前半、要介がおくみに恋歌を唄っていたと思ったら、いつの間にかおくみが行方不明になって、実はエノケンの法界坊の住処に身を寄せていたなど、話が繋がらない部分がありますが、全体としてはそれほど欠落の影響は無かったでしょうか。
元の話は歌舞伎の「隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)」、所謂「法界坊」から取っていますが、歌舞伎では法界坊は最後までワルで、ライバルを殺しておくみを手籠めにしようとしてその母親に殺され、幽霊になって出てきた後もおくみと要助を苛むことになっている一方、こちらのエノケンの法界坊は、生前は破戒坊主だったのが、幽霊になってからころっといい人になっています。
エノケンは、幽霊になってからの方がナンセンスギャグの連発で面白かったです。幽霊になってから自分の行いを反省しているのは、自身が言うように、三途の川で追い返されたからでしょうか。その割には、プロローグで、完成した鐘の完成式でおくみ、要助らが見守る中、僧侶が鐘を鳴らすと鐘の中から法界坊が落ちて来て尻餅をつき、慌ててまた元の鐘の中へ...(まだしつこく成仏してなかった?)。脇を固める源右衛門役の中村是好はいつもながら、この作品では源右衛門を上回るワルの長九郎を演じた如月寛多も良く、ワルかった分だけ幽霊の法界坊にビビりまくる様がお可笑しいです。
前半で要介がおくみに唄っていた歌のフシは、「モダン・タイムズ」('36年)でチャップリンがキャバレーでインチキ外国語で歌っていた「ティティーナ」(1920年代ぐらいにフランスで作られた元歌をチャップリンが編曲したもの)に日本語歌詞をつけたもので(歌詞にある、エノケンも使った「柘榴のようなその唇」という表現は今日ではぴんと来ないが、当時は巷でよく使われていたのなのか?)、「モダン・タイムズ」の日本公開が1938年2月、この映画の公開が同年の6月ですから、良く言えば新しいものに敏感、別な見方をすれば素早いパクリぶりと言えるかも。ラストの方のおくみと要助の婚礼場面でも、エノケンがワーグナーの「(ローエングリンの)結婚行進曲」に「高砂や~」の歌詞をつけて歌っているのがモダンです(但しこの曲は、この作品の2年前の伊丹万作監督の「赤西蠣太」('36年/日活)のラストで、志賀直哉の原作をアレンジした主人公の赤西蠣太と小波(さざなみ)が向かい合う場面でも流れていた)。
エノケンの映画は戦前のものの方が出来がいいと言われますが、この映画などもその代表格なのかも。この映画について天野祐吉(1933年生まれ)、筒井康隆(1934年生まれ)、筈見有弘(1937年生まれ)の各氏らが書いているものを読んだことがありますが何れもべた褒めで、但し、最初の方のエノケンの「ナムアミダーブツ」という歌がもっと長かったのではないかとか。この人たちは、小学生の頃にリバイバルで観ているようですが、その頃は完全版だったのだろなあ。
個人的には、欠落部分があることもさることながら、フィルムの保存状態が良くないことが気になりました。「喜劇の神様」とまで言われた斎藤寅次郎監督ですが、山本嘉次郎監督などに比べるとアクションシーンがあまり得意でないのか、格闘シーンなどが何をやっているのか一層分かり辛いし、小林信彦氏の『日本の喜劇人』('82年/新潮文庫)によると、エノケン本人もこの作品を失敗作と言っていたそうです(アクションが少ないことに不満があったのでは)。
故・筈見有弘は、「この映画がかなり状態の悪い不完全版でしか残っていないらしいのは残念だ」(『洋・邦名画ベスト150〈中・上級篇〉』('92年/文春文庫ビジュアル版))と書いており、「らしい」というのは、自分が観た時はそうではなかったということなのでしょう。完全版を観たことがある人には、やはり欠損部分があるのが気になるのかもしれません。一応、星3つの評価としましたが、完全版で画質が良ければ、おそらく星4つ以上の評価だったと思います。
「エノケンの法界坊」●制作年:1938年●監督:斎藤寅次郎●脚本:和田五雄/小川正記/小国英雄●撮影:鈴木博●音楽:栗原重一●時間:74分(現存53分)●出演:榎本健一/宏川光子/小笠原章二郎/柳田貞一/中村是好/如月寛多/英百合子●公開:1938/06●配給:東宝東京(評価:★★★)




清水次郎長(鳥羽陽之助)の子分・森の石松(榎本健一)は、次郎長親分に呼ばれ、親分の代参で讃岐の金比羅宮に刀と奉納金50両を納めに行くことを命じられる。小遣いに30両を別に持たせるというが、但し道中いっさい酒を飲んではならないと言われ、酒好きの石松は断りかける。しかし、誰も見ている者はいないという仲間の入れ知恵で、次郎長親分には言いつけを守ると言って引き受ける。恋人の茶店のお夢(宏川光子)にしばしの別れを告げ、お夢から貰った肌守りを懐に旅に出る石松。金比羅宮で無事に代参を済ませた帰路、草津の追分に身受山の謙太郎(北村武夫)を訪ねて一宿の仁義を切り、親分への百両の香典を親分へと託される。その翌日、幼い頃から兄貴分だった小松村の七五郎(柳田貞一)を訪ねる道すがら都鳥の吉兵衛(小杉嘉男)に偶然出逢い、吉兵衛の家に草履を脱ぐことに。しかし、吉兵衛の狙いは石松の持つ百両であり、石松は吉兵衛兄弟の騙し討ちに遭って重傷を負う。何とか危地を脱し、一旦は七五郎とその女お民(竹久千恵子)の住家に匿われた石松だったが―。
「エノケンの森の石松」('39年/東宝東京)は中川信夫(1905-1984)監督による1939(昭和14)年5月公開作。原作は「エノケンの法界坊」('38年)の脚本も手掛けた和田五雄ですが、冒頭、2代目広沢虎造(1899-1964)の浪曲で始まり、途中でも何度か虎造の口演が入ることからも窺えるように、浪曲「清水次郎長伝」の中の「石松金比羅代参」などをオーソドックスになぞっています。
喜劇的要素の面での見所は、浪曲「清水次郎長伝」の中の「石松三十石船道中」から引いた例の「飲みねぇ、飲みねぇ、鮨を食いねぇ、江戸っ子だってねぇ」「神田の生まれよ」で知られる石松と江戸ッ子留吉(柳家金語楼)との掛け合いです。船客同士で街道一の親分は誰かと言う話題になって、「身受山の謙太郎」の名前が挙がったところへ留吉がケチをつけ、「清水の次郎長」と言おうとしますが思い出せず、「国定村の...」とか言ってしまいます(史実では国定忠治は1851年に刑死している)。やっと次

督をしている男・石田勝彦(片岡千恵蔵)が夢の世界でタイムスリップして自身が「石松」になってしまうというパロデイです。この映画での例の「三十石船」の場面では広沢虎造自身が浪花節語りの船客役(現実の世界では舞台の照明係役)で出演しており、片岡千恵蔵と掛け合いをしています。タイトルから"夢落ち話だと分かってしまい、タイムスリップした当事者が歴史の真実を知っているというのもタイムスリップものの定番ですが、それでも惹き込まれるのは

但し、その後、森繁久彌、中村錦之助、勝新太郎など多くの役者が森の石松を演じるようになる中で(美空ひばりまで演じた)、喜劇俳優である榎本健一によって比較的早い時期に演じられたものであるということで、観る機会があれば観ておくのもいいのでは。ウィキペディアに拠れば、この「エノケンの森の石松」以降で森の石松が映画の中で題材となった作品は40作近くあるのに、「エノケンの森の石松」以前で森の石松が映画の題材となったのは前年の大河内傳次郎が石松をやった「清水次郎長」('38年/東宝)しかないことになっていますが、実際には無声映画時代から直前の羅門光三郎の「金毘羅代参 森の石松」('38年/新興キネマ)までエノケン以前にも石松を演じた役者はもっといます。
その萩原遼監督、大河内傳次郎主演の「清水次郎長」('38年/東宝)は、次郎長と森の石松の出会いの頃を描いたもので、大河内傳次郎が演じる次郎長はまだ駆け出し時代(というよりヤクザから足を洗って堅気暮らしをしている)、大村千吉が演じる石松に至ってはまだ全くの少年であり、子分にして欲しいとすがる石松少年に対し、次郎長の方は石松を
何とか堅気にしよう商家に丁稚奉公させたりするなど骨を折るというものです。身寄りのない石松を不憫に思い、次郎長とともに何かと面倒をみるのがお蝶(千葉早智子)で、彼女がやがて次郎長の妻になるわけですが、そこまでは描かれていません。だた、結局石松が堅気にならないのは観る側も分かっているだけに、この話ちょっと引っ張り過ぎた印象も。石松が使い込みをやってしまって、次郎長は自らを頼ってきた駆け落ち男女に逃亡資金を施したばかりで手元に金が無かったため、以前助太刀をしてやったやくざの保下田久六(鳥羽陽之助)の所へ、その時は受け取らなかった礼金を貸してはくれまいかと頼みに行くが拒否され、やがて久六によって自分が助けた者を殺害された次郎長は久六を仇討ちにする―という「桜堤の仇討ち」をモチーフとしてものとなっています。実際にはこの間にお蝶は病いを得て(次郎長が久六に金を借りに行ったのは家が貧しく金の無かったお蝶を医者にみせるため)亡くなっており(次郎長が森の石松を讃岐の金毘羅様へお礼参りの代参に出すのはその7年後)、金を貸すのを断った久六は、亡くなる前に次郎長の妻になっていたお蝶の葬式にも顔を見せなかったいう伏線があるのですが、映画では、久六討ちを果たした後、次郎長・石松・お蝶(生きている)で一緒に清水に帰るような終わり方になっています。半ば過ぎまではやや悠長な展開だったのが、終盤は若干ペースアップしたという感じでしょうか。最後は活劇調で、大河内傳次郎ならではの剣戟となりますが、大河内傳次郎が剣戟をやると、清水次郎長と言うより丹下左膳に見えてしまうのは先入観のためでしょうか。
黒駒の勝蔵を倒して清水へ引上げてきた次郎長(長谷川一夫)に、新たな押しかけ子分の小松村の七五郎(本郷功次郎)が待っていた。石松(勝新太郎)と七五郎は、桝川の仙右衛門(中村豊)の仇討を買って出、八角一家を斬りまくり、次郎長の命で旅に出る。七五郎は旧友のお役者の政(月田昌也)に会い、政の女出入りの傍杖を喰った。反次郎長派の親分平
親王の勇蔵(石黒達也)は、政のまちがいを利用し、次郎長陣営の仲間割れを図る。勇蔵の背後には、黒駒の弟分黒竜屋の亀吉(香川良介)や坂東の新助(見明凡太朗)らが糸を引いていた。石松の報告で彼らの奸計を知った次郎長は、二十八人衆を連れて勇蔵の家へ乗り込む。大喧嘩が予想されたが、青年代官の山上藤一郎(市川雷蔵)の裁きで治まった。次郎長と別れた石松は、三河の為五郎(荒木忍)から次郎長へ二百両の金を預って帰途につく。が、その二百両を道で会った都鳥の吉兵衛(杉山昌三九)に貸してしまう。折から都鳥にワラジを脱いだ新助たちが、吉兵衛をそそのかし石松をだまし討ちにかけた。石松は手傷を負い、一度七五郎の家に逃げこんだが、また躍り出して殺される。勇蔵が都鳥兄弟を匿い、吉兵衛を追って来た小政(鶴見丈二)も生捕りにされるハメになる。勇蔵は小政を生きながら棺桶へ入れて清水へ送り、石松の死骸を引取りたいなら次郎長一人で来いと言う―。
旅の途中の石松(勝新太郎)に絡んでくるのがお亀(中村玉緒)で、この2人はこの共演の2年後に結婚します。中村玉緒は当時20歳で、父は「

鳥羽陽之助/浮田左武郎/松ノボル/木下国利/柳田貞一/北村武夫/小杉義男/斎藤勤/近藤登/梅村次郎/宏川光子/竹久千恵子/柳家金語楼●公開:1939/08●配給:東宝(評価:★★★)
「清水港代参夢道中(続清水港)」●制作年:1940年●監督:マキノ正博●脚本:小国英雄●撮影:石本秀雄●音楽:大久保徳二郎●原作:小国英雄●時間:96分(現存90分)●出演:片岡千恵蔵/広沢虎造/沢村国太郎/澤村アキヲ/瀬川路三郎/香川良介/
志村喬/上田吉二郎/団徳麿/小川隆/若松文男/前田静男/瀬戸一司/岬弦太/大角恵摩/石川秀道/常盤操子/轟夕起子/美ち奴●公開:1940/07●配給:日活(評価:★★★☆)
「清水次郎長」●制作年:1938年●監
督:萩原遼●製作:青柳信雄●脚本:八住利雄●撮影:安本淳●音楽:太田忠●原作:小島政二郎●時間:87分●出演:大河内傳次郎/大村千吉/鳥羽陽之助/横山運平/清川荘司/小杉義男/鬼頭善一郎/山口佐喜雄/永井柳太郎/河村弘
二/千葉早智子/一の宮敦子/音羽久米子/山岸美代子●公開:1938/09●配給:東宝映画(評価:★★★)
「続次郎長富士」●制作年:1960年●監督:森一生●製作:三浦信夫●脚本:八尋不二●撮影:牧田行正●音楽:小川寛興●時間:108分●出演:長谷川一夫/市川雷蔵/勝新太郎/本郷功次郎/月田昌也/根上淳/北原義郎/鶴見
丈二/林成年/舟木洋一/中村豊/小林勝彦/近藤美恵子/阿井美千子/中村玉緒/毛利郁子/浜田雄史/石黒達也/香川良介/見明凡太朗/伊達三郎/越川一/光岡龍三郎/志摩靖彦/原聖四郎/東良之助/寺島雄作/小町瑠美子/美川純子/杉山昌三九/千葉敏郎/水原浩一/清水元津/南部彰三/佐々十郎/楠トシエ/寺島貢/羅門光三郎/尾上栄五郎/荒木忍/浜世津子/伊沢一郎
/南条新太郎●公開:1960/06●配給:大映(評価:★★★☆) 

鞍馬天狗(榎本健一)は、池田屋で新撰組に追い詰められた桂小五郎(北村武夫)を白馬で長駆し救った上に、芹沢鴨(如月寛多)らをさんざんコケ
にして去る。その頃、新撰組の近藤勇(鳥羽陽之助)らの下に勤王の志士の行動を密報する「天狗廻状」という怪文書が廻る。一方、角兵衛獅子の杉作(悦っちゃん)と新吉(ギャング坊や)は、その日の稼ぎの入った財布を落としてしまい、自分たちの元締めの岡っ引きの隼の辰吉(永井柳太郎)の所へ戻れば折檻されるのが明らかなため松
月院の寺門の前で泣き暮れていると、寺から出てきた倉田某を名乗る鞍馬天狗に出会い助けられる。杉作らからその顛末を聞いた辰吉は、倉田某は天狗であると確信し、天狗のことを血眼で追っている新撰組にその情報を売って賞金を得ようする。その天狗は、宗像右近(柳田貞一)の一人娘、お園(霧立のぼる)に恋をしており、彼女の元に忍び込むと、彼女が折った折り鶴を密かに持ち帰って自分の宝にする。宗像右近が近藤勇から勤王の志士の名を列ねた浪人人別帳を取り寄せようとしているのを知った天狗は、密使に化けて近藤邸へ潜入するが、先に情報を得ていた近藤勇らに見抜かれ、捕えられてしまう―。
近藤勝彦監督による1939(昭和14)年5月公開作。大佛次郎の原作のうち、「角兵衛獅子」(1928年)を軸に「天狗廻状」(1931年)を織り込んだものとなっており、冒頭「池田屋事件」のパロディから始まって一体どういうストーリーになるのかと思ったら、意外とそれぞれの元のストーリーを(嵐寛寿郎版との比較だが)大筋ではきちんとなぞっており、ディテールなどもそれなりに押さえていて、エノケンらしさはギャグの方で発揮されているという感じでした(因みにエノケンは、「
折しも嵐寛寿郎の「鞍馬天狗」シリーズが人気を博していた時期で(この頃は日活が製作していた)、「角兵衛獅子」などはこの作品の前年に「
エノケンの鞍馬天狗は白頭巾で登場しますが、夜中に宗像右近の所へ忍び込むときは黒頭巾になったりもし、敵を相手に馬上からチャンバラ攻撃もすれば、追い詰められればピストルも使って相手を怯ませたりもし、逃げる時は地蔵に化けたりといろいろ見せてくれて楽しいです。更にラストの梯子や荷車を使った立ち回りはまさに"大立ち回り"で、天狗一人で相手にしている敵方の人数では本家を大きく上回っているのではないでしょうか。
天狗が思いを寄せるお園を演じた霧立のぼる(1917-1972/享年55)は「
杉作を演じた'悦っちゃん'というのは女の子で、獅子文六原作の「悦ちゃん」('36年/日活多摩川)という作品でデビューし、当時「和製テンプルちゃん」と呼ばれていた子役です。杉作の役は、後に美空ひばり(1937-89/享年52)がアラカン版鞍馬天狗における「角兵衛獅子」の3回目の映画化作品「鞍馬天狗 角兵衛獅子」('51年/松竹)以降「鞍馬天狗 鞍馬の火祭」('51年/松竹)、「鞍馬天狗 天狗廻状」('52年/松竹)において、また、松島トモ子(1945- )が「鞍馬天狗 御用盗異変」('56年/東宝)、「疾風!鞍馬天狗」('56年/東宝)でそれぞれ演じますが、このエノケン版鞍馬天狗の前年の本家アラカン版も男の子(香川良介の息子・宗春太郎)が杉作を演じており、杉作を女の子に演じさせたのはこちらの方が先ではないでしょうか。

「鞍馬天狗」●制作年:1939年●監督:近藤勝彦●脚本:小林正●撮影:山崎一雄●音楽:栗原重一●原作:大仏次郎●時間:72分●出演:榎本健一/如月寛多/鳥羽陽之助/北村武夫/柳田貞一/沢井三郎/永井柳太郎/南光一/金井俊夫/浮田左武郎/霧立のぼる/花島喜代/〆香/悦ちゃん/ギャング坊や/山田
長正●公開:1939/05●配給:東宝京都(評価:★★★☆)




また、番組のエンディングテーマ「レオのうた」の作曲者は、後にシンセサイザー音楽作家として名を馳せる冨田勲(1932-2016)で、弘田三枝子(1947-2020)のパンチの効いた歌唱力により、アニメのエンディングテーマとしては人々の記憶に最も残るものの1つとなりました。弘田三枝子は、伊東ゆかりらと同様、少女時代から米軍キャンプで唄っていた経歴の持ち主で、このテーマを唄っている頃の彼女はややふっくら体型でしたが、自分で作ったカロリーブックをもとに、1日の食事を2000キロカロリー以内に抑えて半年間で17キロのダイエットに成功、1969年に「人形の家」がブレイクして第11回日本レコード大賞の歌唱賞を受賞し、1970年には『ミコのカロリーBOOK』を出版し150万部を超えるベストセラーになりました。
「ジャングル大帝」は、本書の手塚治虫自身の談によれば視聴率40%を超えたとのことで、その翌年に映画化され、主人公のレオが大人になってからの物語「新ジャングル大帝 進めレオ!」も引き続きテレビ放映されました。




「ジャングル大帝」(劇場版)●制作年:1966年●監督:山本暎一●脚本:辻真先●音楽:冨田勲●原作:手塚治虫●時間:75分●声の出演:太田淑子/明石一/勝田久/松尾佳子/田村錦人/緑川稔●公開:1966/07●配給:東宝(評価:★★★★)







北陸道を奥州へ向かって山路を登る山伏姿の一行は、実は鎌倉将軍源頼朝に追われた義経(仁科周芳)と、弁慶(大河内傳次郎)らその家来達であり、その先の安宅の関では、地頭の富樫左衛門(藤田進)が一行の通過を待ち構えていたが、既に、義経らが山伏姿でいて一行の人数が7人であることまでが広く知られていた。そして、彼ら一行には、麓の村で雇った強力(榎本健一)がついていた―。
大河内傳次郎の弁慶は、歌舞伎俳優の舞台さながらの大時代的な演技、一方、エノケンは(なぜ北陸の村に江戸弁の強力がいるのかはともかく)例のちゃきちゃきの江戸っ子のままで、藤田進の富樫がその中間というか、舞台っぽくはなっていない普通の時代劇映画風の台詞の言い回しなのですが、全体には義経・弁慶主従ら登場人物の大多数が大時代的であるため、エノケンのコミカルな演技が際立つようになっています。
自らのお喋りを通して、山伏風の一行が義経・弁慶らであることに気付いて腰を抜かすなど、観客に対する「狂言回し」的な役回りを担い、全員が緊張を悟られまいと型どおりに得る舞う中で、1人だけ冷や冷やぶりを露わにしてその心理を観客に向けて代弁し、更に、後半の富樫の使者からの差し入れで一行が酒宴に至る場面では、ミュージカル風の踊りも披露して、完全に自分の映画にしてしまっている感じです(黒澤監督が山本嘉次郎のエノケンの使い方を、普段からよく観察していたために成せる業とも言えるが)。
そうした大河内傳次郎らの演技とエノケンの演技の対比がこれまた楽しめますが、やはりこの作品のエノケンは「役得」しているように思います(「
「虎の尾を踏む男達」●制作年:1945年●監督:黒澤明●製作:伊藤基彦●脚本:黒澤明●撮影:伊藤武夫●音楽:服部正●時間:59分●出演:大河内傳次郎/藤田進/榎本健一/森雅之/志村喬/河野秋武/小杉義男/横尾泥海男/仁科周芳(岩井半四郎)/久松保夫/清川荘司●公開:1952/02(
完成:1945/09)●配給:東宝(評価:★★★☆)●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(10-10-19)



1940(昭和15)年11月公開の山本嘉次郎(1902-1974)監督作。ベース・ストーリーはオリジナル通りですが、登場人物全員が歌いながら芝居をするオペレッタ形式であ
り、戦時色の濃い中で制作された戦前最後にして最大規模のドタバタ・ミュージカル・コメディと言えるものです。'36年1月に日本劇場でデビューした「日劇ダンシングチーム」総動員のレビュー風の踊りがオープニングから見られ(まるで「
中国ロケを敢行していて中国人俳優も出演していますが、ハリウッド映画のパロディなどもあり、バタ臭い印象が強いのはそのためでしょうか。それでいて、悟空を演じるエノケンの喋りがもろ江戸弁で、エノケン自身がこれまで演じてきた「鞍馬天狗」や「近藤勇」のパロディもあったりするため、もはや国籍不詳という感じ。しかも、最後はSF風になって「未来国」へ行くという、もう何でもありの世界です(そもそも、悟空の移動手段であるキン斗雲がプロペラ戦闘機に置き換わっており、特殊撮影はあの

犬に姿を変えられてしまった少女に、当時人気絶頂の国民的アイドル・高峰秀子(当時16歳)、その国の案内役の少女・袖珍に天才子役として人気のあった中村メイコ(当時6歳)といった具合です。
中村メイコの袖珍(いつも小脇に百科辞典を抱えている)は、金角・銀角らの頭脳交換機で記憶を奪われ虚脱状態になった孫悟空らに、ホウレン草の缶詰を与えて元気を回復させるという、これもまた日米開戦直前の作品であるにも関わらず「ポパイ」のパロディで(実際ポパイのテーマ曲が流れる)、「ポパイ」は、'59年から'65年までTBS「不二家の時間」でテレビ放映されたアニメですが(後番組は「オバケのQ太郎」)、ポパイというキャラクター自体は日本でも戦前からよく知られていたようです。



「エノケンの孫悟空」●制作年:1940年●監督・脚本:山本嘉次郎●製作:東宝東京●制作:滝村和男●撮影:三村明●特殊技術撮影:円谷英二●音楽:鈴木静一●原作:山形雄策●時間:135分●出演:榎本健一/岸井明/金井俊夫/柳田貞一/北村武夫/高勢実乗/土方健二/中村是好/如月寛多/三益愛子/高峰秀子/中村メイ子/徳川夢声/服部富子/渡辺はま子/李香蘭(山口淑子)/伊達里子/千川照美/藤山一郎●公開:1940/11●配給:東宝映画(評価:★★★☆)




幕末・明治維新前夜の江戸、名うてのスリ金太(榎本健一)は、財布と一緒に薩摩藩・勤皇派の密書をスッてしまったことから、薩摩の侍連中と八丁堀の岡っ引き・倉吉(中村是好)の両者に追われるハメに。追っ手を逃れて江戸から西へと旅立った金太の行く手には数々の事件が巻き起こる―。
1937(昭和12)年作品で、P.C.L.(東宝の前身の1社)のエノケン映画10本の内の最後の作品であり、この作品の後、松竹に在籍していた榎本健一は、新会社の東宝へ移籍することになります。
映画評論家の山根貞男氏曰く、この作品は「走る映画」であり、「登場人物の誰もが突っ走り、映画そのものが疾走している」とのことですが、まさにそうであり、個人的にはエノケンの韋駄天ぶりから「キートンのセブンチャンス」('25年/米)を想起したりもしました。
その金太と、彼を追っていたはずがひょんなことから一緒に旅することになる岡っ引きの倉吉とのやりとりが面白く(エノケン一座の中村是好も好演)、フィルムの逸失部分を含めて想像すると、エノケンの映画の中でもギャグの絶対数はかなり多い方ではないでしょうか。
結局、薩摩藩・勤皇派の行軍に潜伏して大政奉還後に江戸への帰還を果たす2人ですが、こうした行進を揶揄的に撮っているところは山本嘉次郎監督ならではであり、戦時中は軍の依頼を受けて国威発揚映画も撮っていますが、根は全体主義、権威主義的なものを嫌った人だったように思います(黒澤明、三船敏郎といった人材の発掘者でもあった。黒澤明はこの作品のセカンド助監督に就いている)。
作家の吉行淳之介(1924-1994)が、文藝春秋のアンケートの中で、この作品を好きな日本映画の第1位に挙げていて(『大アンケートによる日本映画ベスト150』('89年/文春文庫ビジュアル版))、「エノケンは天才で、それにまた戦前の時代、ただ出演しただけで軍国主義批判になりえた」「戦中派としては第1位にするしかない」と言っています。おそらく、吉行淳之介の場合は10代前半にリアルタイムで観たのでしょう。公開当時はエノケンの映画は世間一般には低俗映画と見做されていたようですが、10代でこういうの観ちゃうと、そんなことに関係なく一生忘れられなくなるような気はします。
ストーリー的には(いきなり助っ人が現れたり)かなり乱暴な部分もありますが、モノクロであるのが却って良く、大井川で川止めを喰って逗留する旅人達の様子とか宿の様子に何かリアリティがあって、こういうの観ると、最近の時代劇はテレビでも映画でも、セットも衣装も綺麗過ぎるように思えます。
「エノケンのちゃっきり金太」●制作年:1937年●監督:山本嘉次郎●製作:P.C.L.映画製作所●原作:脚本:山本嘉次郎●撮影:唐沢弘光●音楽:栗原重一●漫画: 横山隆一●時間:72分●出演:榎本健一/中村是好/二村定一/如月寛多/柳田貞一/市川圭子/花島喜世子/山懸直代/千川輝美/宏川光子/北村武夫/近藤登/金井俊夫/椿澄枝/宮野照子/清水美佐子/南弘一/小坂信夫/斎藤務/松ノボル●公開:1937/07●配給:東宝映画配給(評価:★★★★)

勤皇派と反目し合う新撰組組長・近藤勇(榎本健一)らが桂小五郎(二村定一)暗殺に動く中、組員の加納惣三郎(花島喜代子)は芸姑との恋に落ちていた。一方、薩長同盟を成し、大政奉還実現を目指ざす坂本龍馬(榎本)は、寺田屋騒動ではお龍(高尾光子)の機転で何とか難を逃れるものの、その後に中岡慎太郎(柳田真一)と共に暗殺される。新撰組は脱党者が増えて混乱し、更に、辻斬りの疑いをかけられた加納は同士・田代又八(如月寛多)を斬ってしまい芸姑と心中。近藤は、池田屋に勤皇の志士が集まっていることを聞き、斬り込みをかける―。

エノケン一座「ピエル・ブリヤント」で、エノケンと共に座長だった二村定一演じる桂小五郎の殺陣シーンなどは完全に舞台風で、それに対して主役のエノケンは、場面々々で様々なパターンの演技を見せているのが芸達者ぶりを窺わせます(この頃のエノケンは若々しく、爆笑問題の太田光とナイティナインの岡村隆史を足して2で割って少し男前にしたような感じ。ヒロポン中毒になる以前の彼か)。
「エノケンの近藤勇」●制作年:1935年●監督:山本嘉次郎●脚本・原作:ピエル・ブリヤント/P.C.L.文芸部●撮影:唐沢弘光●音楽:栗原重一●時間:81分●出演:榎本健一/二村定一/中村是好/柳田貞一/如月寛多/田島辰夫/丸山定夫/伊藤薫/花島喜世子/宏川光子/北村季佐江/千川輝美/高尾光子/夏目初子●公開:1935/10●配給:P.C.L.(評価:★★★)