2025年12月 Archives

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28年ぶりの劇場公開。翻案は成功している。ベルモンドの1人三役。2日続けて観に行った。

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レ・ミゼラブル 2Kリマスター版 [Blu-ray]」ジャン=ポール・ベルモンド
 1899年の大晦日の深夜、醜聞に巻き込まれた伯爵(ダニエル・トスカン・デュ・プランティエ)が逃亡中に自殺した。逃亡をレ・ミゼラブル 1995. 00.jpg助けた運転手のアンリ・フォルタン(ジャン=ピエール・ベルモンド)が状況証拠から伯爵殺害の嫌疑を受け、有罪になる。フォルタンの妻カトリーヌ(クレマンティーヌ・セラリエ)と幼い息子アンリはノルマンディーの海岸にある居酒屋でなんとか職を得る。彼女は吝嗇で残酷な主人ギヨーム(ルフュ)にこき使われながら夫の再審のため懸命に金を稼ぎ、ギヨームの手引きで売春までするが、アンリは脱獄に失敗して命を落とす。彼女は夫の後を追って自殺し、息子のアンリだけが遺される。1918年、成長したアンリはボクシングのチャンピオンになり、養父ギヨームレ・ミゼラブル 1995.jpgから独立した。彼はその後1931年までチャンピオンの地位を守り、引退してトラック運送屋になった。同じ1931年、バレリーナのエリーズ(アレサンドラ・マルティネス)は弁護士の卵アンドレ・ジマン(ミシェル・ブジューナー)と結婚した。1939年、第2次世界大戦でパリはドイツの占領下になり、ユダヤ人のジマン夫妻はノルマンディーに引っ越す。その運送屋がアンリ・フォルタン(ベレ・ミゼラブル 1995. 07.jpgルモンド=二役)だった。ノルマンディーも安全でないと知った夫妻は、アンリにスイス国境まで運んでくれるよう頼む。道中、非識字者のアンリはセーヌ川の古本屋(ダリー・カウル)から買った『レ・ミゼラブル』を読んでくれるようアンドレに頼む。力持ちの彼は、まるでジャン・ヴァルジャンだとよく人に言われていたのだ。前レ・ミゼラブル ベルモント.jpg科者ジャン・ヴァルジャン(ベルモンド=三役)が田舎の司教(ジャン・マレー)の慈愛に触れて人間らしさを取り戻す物語を聞いたこの日から、アンリ・フォルタンは小説のヴァルジャンのように、自分でなく人間愛のためレ・ミゼラブル 1995. 03.jpgに生きていくことを決意する。アンリはジマンの娘サロメ(サロメ・ルルーシュ)をカトリックの寄宿学校に預ける。修道院長(ミシュリーヌ・プレール)は、サロメがユダヤ人と見抜きつつも彼女を庇護する。アンリのお蔭で国境にたどり着いたジマン夫妻だが、逃がし屋が独軍に通じており、亡命ユダヤ人たちは虐殺される。アンドレは重傷を負うが、近所の農家の夫婦もの(アニー・ジラルド、フィリップ・レオタール)に匿われる。一方捕虜になったエリーズは、独軍の慰安婦になることを拒否し、ドイツの強制収容所へ。アンリはペタン派の刑事(フィリップ・コルサン)に捕らえられ拷問に遭うが、同じ房にいた強盗団(ティッキー・オルガドほか)に助けられ脱走。強盗団はゲシュタポから情報を得て、空襲警報中の邸宅に盗みに入るのが仕事。アンリは助けられた義理から嫌々ながら手を貸す。そこへ連合軍上陸作戦の噂が入り、一同は早速レジスタンスに鞍替えする。ノルマンディーにあるギヨームの居酒屋は、今では息子(ルフュ=三役)が経営しているが、その海岸こそ連合軍の上陸地点だった。一同が居酒屋に着いた翌朝に作戦が始まり、アンリは居酒屋の裏手にあるトーチカを爆破して英雄になる。やがてパリも解放され、仲間と別れたアンリは、ギヨームの店で働いていた青年マリウスと共に、パリ郊外にリゾート風のレストランを買う。ジマン夫妻は未だ行方不明で、アンリがサロメを引き取る。実はアンドレはまだ地下に籠もったままだった。匿ってくれた夫婦の妻の方が彼に恋し、嫉妬しながらも妻から離れられない夫が、ドイツ軍の勝利というレ・ミゼラブル 1995. 04.jpg嘘を吹き込んで彼を引き止めていたのだ。アンリは福祉などに力を尽くして地域の尊敬を集め、市長から自分の後任にと頼まれる。強制収容所で生き残ったエリーズ・ジマンが戻り、サロメと親子の再会を果たす。だがそこへアンリの昔の仲間が匿ってくれと言って現れ、彼らを追ってかつてアンリを拷問した元ペタン派の刑事もやって来る。アンリは血に飢えた昔の仲間が許せず、最後には逮捕に協力すらするが、逮捕される。刑事はアンリを裁判にかければ自分の対独協力も白日のもとに晒されると悟り、いったんはアンリを殺そうとするが、アンリの善良さに自らを恥じて自殺する。しかしアンリは刑事殺しの濡れ衣まで着せられそうになる。そのころスイス国境の山中ではアンドレ・ジマンを匿っていた夫婦がついに殺し合い、アンドレは初めて戦争が終わっていたことを知る。アンリの留守中にその店を支えるエリーズと、それにサロメと再会したアンドレは、一家の大恩人アンリの弁護を引き受ける。無罪を勝ち取って数年後、市長になったアンリは、美しく成長したサロメとマリウスの結婚式を執り行うのだった―。

レ・ミゼラブル 1995. 02.jpg 1995年公開のクロード・ルルーシュの製作・監督・脚本作で、主演は「あの愛をふたたび」「ライオンと呼ばれた男」以来ルルーシュと3度目のタッグとなったジャン=ポール・ベルモンド。ヴィクトル・ユーゴーの原作を大幅にアレンジし、その物語にソックリの人生を送る男が主人公で、20世紀の激動の時代を舞台に描いた大河ロマン(第2次大戦前後に時代設定され、ドイツ軍のユダヤ人狩りにかなりの時間が割かれている。因みにクロード・ルルーシュはユダヤ人である)。1996年・第17回「ロンドン映画批評家協会賞 外国語映画賞」、同年・第53回「ゴールデングローブ賞 外国語映画賞」受賞作。

ジャン=ポール・ベルモンド

 海外では評価も高く、またヒットもしたのに、日本ではシネマスクエア東急の単館ロードで終わってしまいました。トークイベントでの解説によれば、日本では当時、娯楽映画はCGなどを駆使したハリウッド映画の方に関心が行ってしまい、一方、フランス映画は、ゴダールやトリュフォーなどヌーベルバーグの監督を中心に"作家主義"的に語られることが多くなり、ジャン=ポール・ベルモンドのこうした作品は、日の目を見ない不遇の時代が続いたとのこと。ベルモンドという俳優そのものも、ゴダールの「勝手にしやがれ」などの作品の中で語られるのが主で、結果として、こうした作品に目が行かなかったのではないかということです。

レ・ミゼラブル 輝く光の中で.jpg 本邦では1997年にVHS版とレーザーディスク版が「レ・ミゼラブル 輝く光の中で」というタイトルでリリースされて以来ソフト化されておらず、ずっと観る機会がありませんでした。それが、昨年['24年]、ベルモンド主演作をリマスター版で上映する「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選グランドフィナーレ(第4弾)」('24年6月28日~東京・新宿武蔵野館ほか)にて28年ぶりに劇場公開され、本作としての初日それを観ましたが、期待に違わず楽しめた3時間が短く感じられる作品で、2日目にまた観にいきました(その2日目が、仏文学者・翻訳家の野崎歓氏のトーク・イベント付きだった)。

レ・ミゼラブル~輝く光の中で~【字幕版】 [VHS]>

 まず、アンリ・フォルタン(父)として登場するジャン=ポール・ベルモンドは、アンリ・フォルタン(子)役のほか、劇中劇としての原作『レ・ミゼラブル』でジャン・ヴァルジャン役も務める1人三役で(オープニングシーンのベルモンドは、そのジャン・ヴァルジャンとしての彼であることが暫くして判る)、さらに、居酒屋を営む夫婦にこき使われながら育てられるアンリ(子)の子供時代は、原作の宿屋のテナルディエ夫婦にこき使われたコゼットにダブります(このことが、大人になったアンリが『レ・ミゼラブル』に惹かれる要因の1つにもなり、彼は自分がヴァルジャンでありコゼットであるとい言う)。

 アンリ(子)を追う警部役のフィリップ・コルサンも、原作のジャヴェール警部との二役で、原作のジャヴェール警部は橋の欄干から飛び降り自殺しましたが、自殺死する点でもジャヴェール警部と同じです。コルサンは、原作のジャヴェール警部を、職務に忠実な男として尊敬しています(そこでアンリと意見が合わない)。

 また、アンリ(父)の妻カトリーヌ役のクレマンティーヌ・セラリエも、同じく非業の死を遂げる、原作のゴゼットの母ファンティーヌとの二役です。さらには、吝嗇な居酒屋の主人ギヨーム(ルフュ)を演じたルフュも、店を継いだその息子役と、作中劇としての原作の宿屋のテナルディエの三役です(ギヨームはテナルディエを尊敬している。その点でアンリと意見が合わない)。こうしたことを確認しながら観るのも面白いです。

 そのほか、アンリが一時仲間に加わる「強盗団」は、原作の悪党集団「パトロン=ミネット」の翻案で、そこから身を転じるレジスタンスは原作の共和派秘密結社「ABC(ア・ベ・セー)の友」の翻案でしょうか(原作で「ABCの友」に加入するのはマリウスなのだが)。

 原作『レ・ミゼラブル』は劇中劇とし、本編は内容を大幅に改変しているわけですが、物語が原作とパラレルになっている点で、脚本がよく出来ていると思いました。しかも演出は見事であり、感動的させられます(1回目観て感動を味わい、2回目観て翻案を楽しんだという感じ)。結末のハッピーエンドはある程度見えていましたが、それでもカタルシス効果充分で、クロード・ルルーシュの翻案は成功したと思います。

 ジャン=ポール・ベルモンド(1933生まれ)は当時62歳。渋みがあり、顔の皺の一つ一つに味わいがある感じ。ヴァルジャンに銀器を与える司教を演じたジャン・マレー(1913生まれ)(「美女と野獣」('46年/仏))は81歳で、貫録の演技。アンドレを匿うことで夫から心が離れてしまう妻を演じたアニー・ジラルド(1931生まれ)(「若者のすべて」('68年/伊・仏))も、演技達者ぶりを見せています(夫婦の愛憎劇はサスペンスフルでもあった)。

 これまで観た「レ・ミゼラブル」映画の評価は以下の通り(◎が多いね)。ジャン・ギャバン版は原作を忠実に映画化しているとされており、リーアム・ニーソン版は、ジャン・ヴァルジャンとジャヴェール警部の葛藤を中心に描いていて、ジャヴェール警部が自殺したところで終わります。ヒュー・ジャックマン版はミュージカルで、ミュージカルのオリジナル脚本を忠実に映画化しているとされるようです。

「レ・ミゼラブル」 (57年/仏・伊).jpg「レ・ミゼラブル」 (98年/米).jpg「レ・ミゼラブル」 (12年/英).jpg◎ ジャン=ポール・ル・シャノワ 監督、ジャン・ギャバン主演 「レ・ミゼラブル」 ('57年/仏・伊)(186分) ★★★★☆
〇 ビレ・アウグスト監督、リーアム・ニーソン主演 「レ・ミゼラブル」 ('98年/米)(124分) ★★★☆
◎ トム・フーパー監督、ヒュー・ジャックマン主演 「レ・ミゼラブル」 ('12年/英)(158分) ★★★★☆


「レ・ミゼラブル」1995.jpg◎ クロード・ルルーシュ 監督、ジャン=ポール・ベルモンド主演 「レ・ミゼラブル」 ('95年/仏・伊)(175分) ★★★★☆

 このジャン=ポール・ベルモンド版が、いちばん独創に富んでいると言えばそういうことになるかと思います(原作をベースとした別個の物語との言える)。先述の通り、新宿武蔵野館がそれまで'20年、'21年、'22年の3回にわたって上映してきた「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」('21年9月にベルモンドが亡くなり、'22年が言わば「1周忌上映」になってしまった)の第4弾「グランド・フィナーレ」('24年)で鑑賞したわけですが、観ることができて良かったです。

「レ・ミゼラブル」●原題:LES MISERABLES●制作年:1995年●制作国:フランス●監督・製作・脚本:クロード・ルルーシュ●撮影:クロード・ルルーシュ/フィリッペ・パヴァン・ド・チェカティ●音楽:ディディエ・バルベリヴィエン/エリック・ベルショー/フランシス・レイ/ミシェル・ルグラン/フィリップ・サーヴェイン(挿入歌:パトリシア・カース(作詞:ディディエ・バルブリヴィアン/作曲:フランシス・レイ))●原作:ヴィクトル・ユーゴー●時間:175分●出演:ジャン=ポール・ベルモンド/ミシェル・ブジュナー/アレサンドラ・マルティネス/サロメ・ルルーシュ/マルゴ・アバスカル/アニー・ジラルド/フィリップ・レオタール/クレマンティーヌ・セラリエ/フィリップ・クロワシル/ティッキー・オルガド/ウィリアム・レイメルジー/ジャン・マレー/ミシュリーヌ・プレール/ダニエル・トスカン・デュ・プランティエ/ミカエル・コーエン/ジャック・ブーデ/ロベール・オッセン/ダリー・コール/アントワーヌ・デュレリ/ジャック・ガンブラン/ピエール・ヴェルニエ/ルフュ●日本公開:1996/08●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:新宿武蔵野館(24-07-05)●2回目:新宿武蔵野館(24-07-06)(評価:★★★★☆)

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難しいことは考えず、愉しむ映画。ジャクリーン・ビセットの魅力全開。

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「おかしなおかしな大冒険」ポスター   ジャン・ポール・ベルモンド/ジャクリーン・ビセット
Le Magnifique / おかしなおかしな大冒険 北米版DVD [Import] [DVD]
おかしなおかしな大冒険 北米版.jpgおかしなおかしな大冒険02.jpg フランソワ・メルラン(ジャン・ポール・ベルモンド)は、007ばりのスパイ・シリーズで人気の冒険小説作家だ。毎月、編集者のシャロン(ヴィットリオ・カプリオーリ)に新しいスパイものを提出し、目下メキシコを舞台にしてスパイ小説を執筆中。彼はアパートの窓越しに見染めた クリスティーヌ(ジャクリーン・ビセット)をヒロインとし、スーパーマンである秘密諜報員ボブ・セント・クレア(ベルモンド二役)がヒーローになって大おかしなおかしな大冒険12.jpg 活躍する白日夢に浸ってしまう。夢の中での事件の発端はメキシコの港町で、米国諜報員が殺されたことから始まる。この事件究明のため、中近東にい たボブがアカプルコに派遣され、メキシコ諜報部の連絡員タチアナ(ジャクリーン・ビセット二役)と連絡をとる。アカプルコではボブとタチアナの命を狙うカルポフ(カプリオーリ二役)一味のために次々に危険が降りかかるが、ボブの大活躍によって何とか脱出する。カルポフはボブに一大仕掛けで挑戦してくる。それは海岸沿いのハイウェイに鏡の巨大な壁を築き、ドライ ブ中のボブを錯覚させようというものだ。ボブはハンドルを切りそこねて鏡の壁に大衝突。絶壁から海へと投げ飛ばされる。しかし 彼は...。そこでフランソワはヒーローを殺すわけにはいかないと我に返る。やがて、クリスチィーヌがフランソワの部屋にやって来るようになる。彼女は女子大生で社会心理学を専攻しているのだが、フランソワの小説を偶然読んだことから、なぜ彼の創造したスーパーマンが大衆に受ける のかを分析し、論文を書こうとしていた。そのクリスチィーヌが、編集者のシャロンと付き合い出したことを知って、フランソワは気が気でない。いっ そのことボブをアンチ・ヒーローにしやらどうなるか―。最後の仕上げを急ぐフランソワは、ボブを徹底してズッコケ三枚目にしてタチアナとのラブ・アフェ アを面白おかしく書き出した。フランソワはやっと書き上げた原稿を、窓からシャロンに投げつけた。そしてクリスチィーヌを抱きしめ、やっと自分のものにした―。

おかしなおかしな大冒険13.jpg 1973年のフィリップ・ド・ブロカ監督作で、「カトマンズの男」('65年/仏・伊)以来となる、ド・ブロカ監督とジャン=ポール・ベルモンドと4度目のタッグを組んだ作品。作中小説の舞台であるメキシコで、かなり大掛かりなロケ撮影が行われていますが、日本国内では劇場公開、テレビ放送はあったものの、長らくソフト化は行われていませでした。新宿武蔵野館が'20年、'21年、'22年の3回にわたって上映してきた「ジャン=ポール・ベルモンド傑作選」の「グランド・フィナーレ」('24年)で鑑賞。この上映を機に、4Kリマスター版DVDが今年['25年]リリースされました。原題の「magnifique(マニフィック)」は、「すばらしい」という意味で、英語の「magnificent」と同じ意味です。

 物語は小説と現実がパラレルに進行し、共にベルモンドが演じる小説の中のスーパーマン的ヒーローのボブと、現実世界の原稿の締め切りに追われるスパイ小説作家フランソワの対比が面白かったです。作者のフランソワがだんだん自分が生み出したヒーロー・ボブが嫌いになってきて、最後は、作者が小説の主人公をヒーローの座から引きずり下ろしたという感じでしょうか。それによって、フランソワは自己疎外から脱し、目出度くクリスチィーヌと理解し合えるというオチですが、この後シリーズ小説の方はどうなる?
  
 まあ、難しいことは考えず、愉しむ映画なのでしょう。そもそも、冒頭からボブが繰り広げるスパイの世界は"お馬鹿映画"そのもので(007シリーズのパロディが随所にみられる)、フランソワが人気作家ではあるものの通俗作家であることを表しており(そのことに本人も嫌気をさしている風。したがって、窓から原稿を投げたのは、シリーズの打ち止めを示唆しているともとれる)、ジャクリーン・ビセット演じる現実世界の女子大生クリスティーヌも、彼の作品自体と言うより、なぜそれが「大衆に受ける のか」がテーマになっている感じでした。

 そのジャクリーン・ビセットの魅力全開の映画でもあります。この作品の前に「ブリット」('68年/米)でスティーブ・マックイーンと、後に「セント・アイブス」('76年/米)でチャールズ・ブロンソンと共演するなどしていますが、露出度はこの作品が一番では。このように英国人でありながら、米国映画だけでなくフランス映画にも出ていて、ロバート・フリーマン監督の「フランソワの青春」('69年/仏)ですでに主役としてフランス映画デビューしています。ただし、この作品、ジャクリーン・ビセット絶頂期の美貌を堪能できるらしいのに日本未公開です。

おかしなおかしな大冒険<4K.jpgおかしなおかしな大冒険00.jpg「おかしなおかしな大冒険」●原題:LE MAGNIFIQUE●制作年:1973年●制作国:フランス/イタリア●監督・脚本:フィリップ・ド・ブロカ●製作:アレクサンドル・ムヌーシュキン/ジョルジュ・ダンシジェール●撮影:ルネ・マテラン●音楽:クロード・ボリング●時間:94分●出演:ジャン・ポール・ベルモンド/ジャクリーン・ビセット/ヴィットリオ・カプリオーリ/レイモン・ジェローム/ハンス・メイヤー/モニーク・タルベ/マリオ・ダヴィッド/ブルーノ・ガルサン/ジャン・ルフェーブルン●日本公開:1974/06●配給:エデン●最初に観た場所:新宿武蔵野館(24-07-02)((評価:★★★☆)

おかしなおかしな大冒険<4Kリマスター版> [DVD]」['25年]

2024年7月2日 新宿武蔵野館
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ルイ・マルの冒険活劇コメディ。「鬼火」があったからこそ撮られたセラピー的作品。女性讃歌。

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ビバ、マリア [DVD]」ブリジット・バルドー/ジャンヌ・モロー
ビバ!マリア02.jpg アイルランドの刑務所で生まれたマリー(ブリジット・バルドー)は、アナーキストの父のもとで幼い頃からテロ活動を続けてきた。中米での作戦中に父を亡くし、ひとりで逃亡生活を始めた彼女は、ある旅芸人一座に遭遇。一座の花形である歌手マリア(ジャンヌ・モロー)は、同じ名を持つコンビの相方を亡くしたばかりだった。一座はマリーをスペイン語式に「マリア」と呼んでペアを復活させ、2人はたちまち人気者となる。悪政に耐えかねた民衆の不満が高まるなか、一座は偶然にも革命軍を率いるフローレス(ジョージ・ハミルトン)と出会うが、やがてフローレスは銃弾に倒れてしまう。2人のマリアはフローレスの遺志を継ぎ、壮絶な戦いに身を投じていく―。

ビバ!マリア03.jpg 1965年公開の、ルイ・マル監督がブリジット・バルドーとジャンヌ・モローを主演とし、革命に揺れる20世紀初頭の中米を舞台に、同じマリアという名を持つ2人の女性の活躍をアクション映画や西部劇のパロディ満載で活写したコメディ。ルイ・マル監督による冒険活劇コメディというのが意外ですが、「鬼火」('63年)完成後、スタッフ間に蔓延していた自殺願望、厭世的な雰囲気を一掃すべく、ルイ・マルが異国情緒豊かな中南米を舞台にしたコメディを構想したのがこの作品だそうです(それにしても「鬼火」の影響力、スゴイ。「鬼火」があったからこそ撮られた、ある種セラピー的な作品とも言える)。

 ルイ・マル監督は一応、「地下鉄のザジ」('60年)のようなコメディ色の濃い作品も前に撮っていることは撮っています。フィリップ・ド・ブロカ監督、ジャン=ポール・ベルモンド出演の南米を舞台にした活劇コメディ「リオの男」('64年)が公開された翌年の作品でもあります。

ビバ!マリア01.jpg ブリジット・バルドー演じるマリーは元々はIRAの戦士みたいですが、ひょんなことから旅芸人の一座に加わり、ジャンヌ・モロー演じる踊り子マリアと共に、ストリッパーとして2人で客を沸かせるという流れは、当時31歳のブリジット・バルドーを迎え撃つ当時37歳ジャンヌ・モローという感じもしなくはないですが、16週間もの長く厳しい撮影期間を通して2人の間には戦友意識が生まれ、この作品で生涯の盟友となったそうです。

ビバ!マリア07.jpg 元々は戦いなどに興味のなかったジャンヌ・モローの演じるマリアが恋に落ち、いつの間にか立派な闘争集団のドンになる流れと、そこに手を貸す元バリバリの反体制派テロリストのブリジット・バルドー演じるマリア(元マリー)。女性の力が男性を凌駕するものとして描かれている作品であり(タイトルそのものが女性讃歌)、ルイ・マルらしいと言うよりジャンヌ・モローらしいと言えるかもしれません。ジャンヌ・モローはこの作品で「英国アカデミー賞海外女優賞」を受賞し、ブリジット・バルドーもノミネートされました。


 ジャンヌ・モローが恋に落ちる闘争集団のリーダーを演じているのは、様々な女優と浮名を流したプレイボーイとして知られる米国俳優のジョージ・ハミルトン(1939年生まれ)(この映画は仏・伊合作映画だが、米国資本で製作されている)。後に「ドラキュラ都へ行く」('79年)のようなコメディ映画にも出ていて、映画でも実生活を地でいくキザでニヤけたジゴロ役が多い俳優ですが、この「ビバ!マリア」では、革命の道半ばで斃れ、ジャンヌ・モローに後を託すというシリアスな役柄。全編ドタバタではなく、シリアスなところはシリアスに作っているのが功を奏しています。

 BB(バルドー)の健康的なセクシーさとジャンヌ・モローの知的な美しさの対照、2人が歌って踊るショーシーン、馬に乗ってのアクション、ピエール・カルダンが担当した衣装など、愉しみどころ盛沢山ですが、しかし、この映画は一体何人エキストラを使ったのだろうか。火薬の量ビバ!マリアb1.jpgも半端じゃないね。どうしてもルイ・マル監督作というイメージが湧かない(笑)。


ビバ!マリア06.jpg「ビバ!マリア」●原題:VIVA MARIA!●制作年:1965年●制作国:フランス・イタリア●監督:ルイ・マル●製作:オスカル・ダンシヘルス●脚本:ルイ・マル/オスカル・ダンシヘルス●撮影:アンリ・ドカエ●音楽:ジョルジュ・ドルリュー●時間:122分●出演: ジャンヌ・モロー/ブリジット・バルドー/ジョージ・ハミルトン/クラウディオ・ブルック/カルロス・ロペス・モクテズマ/ポーレット・デュボスト●日本公開:1966/04●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:新宿武蔵野館(24-10-01)(評価:★★★☆)

ビバ! マリア [Blu-ray]

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「ヘルシンキ3部作」第3作。"人生、捨てたもんじゃない"と思わせてくれる。

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街のあかり [DVD]」マリア・ヤルヴェンヘルミ/ヤンネ・フーティアイネン
街のあかり2.jpg ヘルシンキの百貨店で夜間警備員を務める冴えない男コイスティネン(ヤンネ・フーティアイネン)は、魅力的な女性ミルヤ(マリア・ヤルヴェンヘルミ)と出会う。2人はデートをし、コイスティネンは恋に落ちた。人生に光が射したと思った彼は、起業のため銀行の融資を受けようとするが、まったく相手にされなかった。それでも恋している彼は幸せだった。街のあかり1.jpgしかし、実は恋人は彼を騙していた。ミルヤは、宝石強盗を目論むリンドストロン(イルッカ・コイヴラ)の手先だった。まんまと利用されたコイスティネンだったが、惚れたミルヤを庇って服役する。リンドストロンはそこまで読んで、孤独な彼を狙ったの街のあかり4.jpgだ。馴染みのソーセージ売りアイラ(マリア・ヘイスカネン)の彼への思いには気づかぬまま、粛々と刑期を終え社会復帰を目指すコイスティネン。だがある日、リンドストロンと一緒のミルヤと居合わせた彼は、そこで初めて自分が利用されていたに過ぎないことを悟る―。

街のあかり5.jpg 2006年公開の、アキ・カウリスマキ監督の、「浮き雲」('96年)、「過去のない男」('02年)に続く「ヘルシンキ3部作」(または「敗者3部作」)の第3作(完編)で、'06年カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作。

 この作品の主人公の男は"孤独"の中にいて、彼の身に起こる不幸はとても辛いものだけれど、彼自身は自分の不幸に気づいてない様子でもあります。さらには、幸せの芽がすぐ傍にあることをも―(やや"無力症"気味?)。そんな彼が起業を思い立ったのはいいですが、職業訓練校の終了証明だけを持って銀行に行き、それだけでもって融資を受けようとするのが滑稽(この辺り、カウリスマキ独特のユーモアか)。それでも、切ない出来事のあとにジンワリ心に広がる希望があって、誰かがこの映画についてそう言ってたけれど、"人生、捨てたもんじゃない"と思わせてくれる、やさしさで包み込むような物語が心地いいです。

街のあかり31.jpg コイスティネンを演じるヤンネ・フーティアイネンは、アキ・カウリスマキ作品では前作「過去のない男」などに脇役出演し、今回がカウリスマキ作品で初めての主演。恋人のいない寂しい男を演じるにはマルチェロ・マストロヤンニに似ていて男前過ぎる気もしましたが、その分、寂しそうな姿は絵になっていました(職場でも孤立し、男たちは彼のことを蔑んでいるのに、女性たちは同情的であるのはこのイケメンのせい?)。一方、アキ・カウリスマキ作品主役級常連のカティ・オウティネンは、スーパーのレジ係の役でカメオ出演していました。

街のあかり7.jpg「街のあかり」●原題:LAITAKAUPUNGIN VALOT(英:LIGHTS IN THE DUSK)●制作年:2006年●制作国:フィンランド・フランス・ドイツ●監督・脚本・製作・撮影:アキ・カウリスマキ●時間:78分●出演:ヤンネ・フーティアイネン/マリア・ヤルヴェンヘルミ/イルッ街のあかりcb.jpgカ・コイヴラ/マリア・ヘイスカネン/ヨーナス・タポラ/ペルッティ・スヴェホルム/メルローズ(バンド)/カティ・オウティネン(カメオ出演)/パユ(犬)●日本公開:2007/07●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-05-12)((評価:★★★☆)

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「ヘルシンキ3部作」第2作。貧しい暮らしをしている人々の方が不遇の男に親切。

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過去のない男 [DVD]」カティ・オウティネン/マルック・ペルトラ
過去のない男1.jpg フィンランドのヘルシンキに向かう列車の乗客の中にその男(マルック・ペルトラ)はいた。辿り着いた夜の公園で彼は一眠りしていたが、そこに現れた3人組の暴漢に身ぐるみ剥がれた上にバットで執拗に殴打され、半死半生の身で病院に搬送された。一時は死んだと診断された男だったが奇跡的に蘇生した。その後、港の岸辺で再び昏倒していた男を救ったのは、コンテナに住むニーミネン(ユハニ・ニユミラ)一家であった。徐々に回復していった彼であったが、一家の妻カイザ(カイヤ・パリカネン)過去のない男2.jpgに何者か問われたときに、答えられなかった。彼は、頭を殴られたことにより、それまでの記憶、それまでの自分を失ってしまっていたのだ。そんな「過去を失った男」である彼に港町の人々は快く手を貸してくれる。コンテナ一家の主人は金曜日にスープを配給する救世軍の元に男を連れて過去のない男3.jpg行き、「人生は後ろには進まない」と励ます。地元の悪徳警官アンティラ(サカリ・クオスマネン)は彼に空きコンテナを貸し与え、男はその前にじゃがいも畑を作り、拾ったジュークボックスを置いた。職安では身分がないという理由で門前払いされたが、救世軍の事務所で仕事を得ることが出来た。そして、そこに属する下士官の女性イルマ(カティ・オウティネン)と仲を深めながら、男は徐々に人間としての生活を取り戻していく―。

過去のない男4.jpg アキ・カウリスマキ監督の2002年公開作。「浮き雲」('96年)に続く「ヘルシンキ3部作(敗者3部作)」の第2作。'02年・第55回「カンヌ国際映画祭」で「グランプリ」と、救世軍の女性イルマを演じたカティ・オウティネンが「女優賞」を受賞しています(カンヌは格差社会を描いたものがよく賞を獲る)。

過去のない男5.jpg コンテナで暮らすような貧しい暮らしをしている人々の方が役人などより、不遇の男に対してよほど親切だったなあ。そんな貧しい人が「ディナーに行く」といっておめかししているので、どんなレストランに行くのかと思ったら...(笑)。救世軍が貧しい人々のスープを配るというのは、現代でも同じなのか。神田神保町に日本本営があるけれど...。それにしても、救世軍の弁護士って年寄りだったけれど有能だったなあ。拘留された男の許にその弁護士を遣わして彼の身柄を救ったのもイルマだったという、この辺りは分かりやすかったです。

 「植物人間になるくらいなら死なせてやろう」って医者が口に出して言うのが、あちらの国らしいと思いました。

過去のない男6.jpg この年の「パルム・ドール」はロマン・ポランスキー監督の「戦場のピアニスト」でしたが、優秀な演技を披露した犬に贈られる「パルム・ドッグ賞」を、犬のタハティ(役名:ハンニバル)が受賞しています(同監督作品は必ず犬が登場し、何度かこの賞にノミネートされている。「ルアーヴルの靴みがき」('11年)では、「パルム・ドッグ賞」の「審査員特別賞」を受賞)。フィンランドのムード歌謡=イスケルマの曲の数々とともに(同時監督の作品にはしばしば地元のバンドやミュージシャンが出てくる)、アキ・カウリスマキ監督がファンだと公言する日本のクレイジーケンバンドの「ハワイの夜」が挿入歌として流されています(もともとカウリスマキ・ファンである小野瀬雅生が、自分たちのCDが出るたびに欠かさずカウリスマキ監督に送っていて、その彼らのサウンドが監督に気に入られたという経緯がある)。

過去のない男 サカリ・クオスマネン.jpgカティ オウティネン .jpg 因みに、救世軍の女性を演じて「カンヌ国際映画祭女優賞」を受賞したカティ・オウティネンは「パラダイスの夕暮れ」('86年)、「マッチ工場の少女」('90年)、「浮き雲」('96年)、この後の「ルアーヴルの靴みがき」('11年)などにも出演し、悪徳警官を演じたサカリ・クオスマネンも「浮き雲」でレストランのドアマン、「希望のかなた」('17年)でレストラン店主役など出ていて(こちらはどちらとも"いい人"の役)、2人とも同監督作品の常連です。この監督、常連の俳優か、そうでなければ素人に近い人を使う傾向があるのではないでしょうか。おそらく、中途半端に演技されるのが嫌なんだろうなあ。

過去のない男7.jpg「過去のない男」●原題:MIES VAILLA MENNEISYYTTA(仏:L'HOMME SANS PASSE、英:THE MAN WITHOUT A PAST)●制作年:2002年●制作国:フィンランド・ドイツ・フランス●監督・脚本・製作:アキ・カウリスマキ●撮影:ティモ・サルミネン●音楽:レーヴィ・マデトーヤ●時間:97分●出演:カティ・オウティネン/マルック・ペルトラ/アンニッキ・タハティ/マルコ・ハーヴィスト&ポウタハウカ(救世軍バンド)/ユハニ・ニユミラ/カイヤ・パリカネン/エリナ・サロ/サカリ・クオスマネン/アンネリ・サウリ/オウティ・マエンパー/ペルッティ・スヴェホルム/タハティ(犬のハンニバル)●日本公開:2003/03●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-04-29)((評価:★★★★)

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「ヘルシンキ3部作」第1作。会話がすべてではないところに夫婦のリアルを感じ、一方で、寓話的でもあった。
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【映画チラシ】浮き雲 アキ・カウリスマキ カティ・オウティネン」 カリ・ヴァーナネン
カティ・オウティネン/サカリ・クオスマネン
浮き雲01.jpg浮き雲012」.jpg 伝統的スタイルのレストラン"ドゥブロヴニク"で給仕長を務めるイロナ(カティ・オウティネン)は、市電の運転士である夫ラウリ(カリ・ヴァーナネン)とつましく幸せに暮らしていた。しかし不況の影響でラウリは整理解雇、"ドゥブロヴニク"も大手チェーンに買収されイロナたち従業員は失職してしまう。働き盛りを過ぎた中年の夫婦は職探しに苦労する。イロナは場末の安食堂のコック兼給仕の仕事に就くが、税務調査のゴタゴタで給料がうやむやに。妻の給料を食堂経営者に請求しに行ったラウリは浮き雲02.jpg、袋叩きにされ港に放り出される。安宿でしばらく静養したラウリが帰宅すると、家財は差し押さえられており、イロナはラウリの妹のもとに身を寄せていた。イロナの元同僚で"ドゥブロヴニク"のドアマンだったメラルティン(サカリ・クオスマネン)の紹介で仕事にありついたラウリは、彼にレストランの開業を提案される。夫婦は決意して事業計画を立てるが、資金を借してくれる銀行がない。ラウリはクルマを売った金をカジノで増やそうとするが浮き雲03.jpg、全額スッてしまう。途方に暮れるイロナだったが、求職に訪れた美容院で偶然、"ドゥブロヴニク"の元経営者スヨホルム夫人(エリナ・サロ)と再会する。引退して生きがいを失っていた夫人は、イロナの計画を聞いて出資を申し出る。ラウリとメラルティンは、"ドゥブロヴニク"の元シェフでアルコール依存症のラユネン(マルク・ペルトラ)を探し出し、治療施設に送り込んで更生させる。"ドゥブロヴニク"の元従業員たちが揃い、イロナとラウリのレストラン"ワーク"が開店した。ランチタイムになっても客が入らず不安になるが―。

 1996年公開の、アキ・カウリスマキ監督の「ヘルシンキ3部作」(社会の底辺で生きる「敗者」たちの姿を独特のユーモアと哀愁を交えて描いた作品群で、「敗者3部作」とも呼ばれている)の第1作。

 妻が勤めるのはなかなかいい感じのレストランでしたが、いきなりリストラをし、加えて夫も失業。失業補償なんていらない!と、夫は積極的に運転関連の職を探し、長距離バス運転士に内定するが健康診断で不適とされ運転資格まで失い、妻はレストランを回るも、「38歳は高年齢」と前職経験も評価されない―というように失業による不幸が怒涛のように主人公の夫婦を襲ってきますが、それでいてこの夫婦、どこかユーモラスで間の抜けたところがあり、クスリと笑ってしまう場面もあるのはこの監督ならではでしょうか。

こんな映画が、.jpg この作品、漫画家の吉野朔美(1950-2016/57歳没)の『こんな映画が、―吉野朔実のシネマガイド』('01年/PARCO)にも取り上げれていましたが、吉野朔美氏は、この監督は「間」を作るのが上手い人で、「......」の部分ばかりで出来上がっていてセリフが極めて少ないのが特徴であると。ナルホド(そう言えば、「孤高のグルメ」の俳優・松重豊がアキ・カウリスマキ監督の作品が大好きだという)。

 妻の給料がうやむやになったことに怒り、食堂経営者の所に行き、逆にぼこぼこににされて血だらけの顔を妻にみせられず何日も家に帰らない夫。帰ってこないことに怒った妻は家を出ていってしまいます。事情を説明してもなかなか許さない妻。でも、一緒に家に帰ったということは、許したということでしょう(吉野朔美氏によれば、妻は夫が帰らなかったことは許していないが、夫の怒りには感謝しているのだと)。会話がすべてではないところに夫婦のリアルを感じます。

浮き雲04.jpg 一方で、元経営者に偶然出会い、彼女が引退して生きがいを失い、金の使い道を持て余していた(いつの間に蓄財した? 店を売却した金か)というのはややご都合主義とみる向きもあるかもしれません。この部分は寓話的と言うか、大人のメルヘンのようにも感じました。監督インタビューによると、結末はハッピーエンドにするしかなかったが、本当は結末をもっと非情なものにしたいと思っていたので、自身でも納得がいかないという気持ちもあったとのことです(これに対し、前作「マッチ工場の少女」('90年)は悲劇的、非情な終り方で突っ切ったと言える)。

浮き雲05.jpg ラスㇳ、店を開店しランチタイムになっても客が入らず不安がる夫婦ですが、しばらくすると1人入り2人入り、やがて満員となった上、ディナーの団体予約まで入る―。喜びを噛みしめて店の前で一服し、空を見上げる夫婦の表情がいいです。吉野朔美氏は、「見終わった時、少し上向きな気分になっている気持ちの良い映画です。こうゆうのは作ろうと思ってもなかなかできない」と。何気ない小さなエピソードの積み重ねなのだなあ。吉野朔美はこの監督の上手さをよく見ていたと改めて思いました。偶然も重要だが、その機会を掴める心構え・準備が必要であるということ。『その幸運は偶然ではないんです!』のJ・D・クランボルツの「プランドハプンスタンス理論」を想起させる作品でもありました。

愛しのタチアナ浮き雲 HD.jpg真夜中の虹 浮き雲dvd.jpg「浮き雲」●原題:KAUAS PILVET KARKAAVAT(英語:DRIFTING CLOUDS)●制作年:1996年●制作国:フィンランド●監督・脚本・製作:アキ・カウリスマキ●撮影・音楽:ティモ・サルミネン●時間:98分●出演:カティ・オウティネン/カリ・ヴァーナネン/エリナ・サロ/サカリ・クオスマネン/マルク・ペルトラ/マッティ・オンニスマー/ピエタリ(犬)●日本公開:1997/07●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-12-07)(評価:★★★★)

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《読書MEMO》
■監督のインタビューからの抜粋
「わたしが「浮き雲」を作ろうとしていたとき、フィンランドでは失業率が22%にも達し、友人たちも破産の憂き目にあっていました。それほどたくさんの人たちが仕事を失い、 国中が絶望に覆われている状況のなかで、わたしはこの問題を見つめる映画を作りたいと思ったのです。結末については、ハッピーエンドにするしかありませんでした。 これはわたしが作った唯一のソーシャル・セラピー的な映画です。ただ本当は結末をもっと非情なものにしたいと思っていたので、納得がいかないという気持ちもありますが...」

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「労働者3部作」第3作。希望の無い終わり方だが、個人的にはこれはこれで良かった。

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「マッチ工場の少女」カティ・オウティネン
マッチ工場の少女01.jpg イリス(カティ・オウティネン)は母(エリナ・サロ)と継父(エスコ・ニッカリ)と暮らす冴えない独身女性。マッチ工場に勤めるが、両親は彼女の収入をあてにして働かず、家事までさせる始末。質素な身なりゆえか男性との出会いもなく、味気ない日マッチ工場の少女04.jpg々を送るイリス。ある給料日、イリスはショーウィマッチ工場の少女034.jpgンドーで見かけた派手なドレスを衝動買いする。両親に咎められ返品を命じられるが、かまわずドレスを着てディスコに行くと、アールネ(ヴェサ・ヴィエリッコ)という男に声をかけられる。一流企業に勤める彼の豪華なアパートで一夜を共にする二人。アールネに惚れ、さらなるデートを取り付けようとするイリス。自宅へ招き両親にまで会わせるが、あの夜のことは遊びだったとアールネは告げる。後日、妊娠していたことをマッチ工場の少女03.png知ったイリスは、一緒に子供を育てるようアールネに手紙を書く。しかし返事は小切手と、中絶を求める短い言葉だけ。放心して町へ彷徨い出たイリスは、クルマに撥ねられ流産する。さらに追い打ちをかけるように、母に心労をかけたとマッチ工場の少女058.jpgして継父から勘当される。兄(シル・セッパラ)のアパートに転がり込み、悲嘆に暮れるイリス。やがて意を決した彼女は、薬局で殺鼠剤を購入し、水に溶かして「毒」を作りボトルに入れてハンドバッグにしまう。アールネのアパートを訪ねると女が出てくる。入れ違うように中に入り、「お酒」と言うとアールネが二人分持ってくる。「氷も」と言い、アールネが取りに行っている間、彼のグラスに毒を注ぐ。「お別れに来マッチ工場の少女054.jpgたの。もうご心配要らないわ」小切手を返しマッチ工場の少女06.jpgイリスは去る。安心したアールネは酒を飲み干す。帰りにイリスがバーに寄りビールを飲みながら本を読んでいると、酔った男がナンパしてくる。イリスは微笑みかけ、彼のグラスに毒を注ぐ。翌日、イリスは実家に行き、母と継父に食事を用意する。ウォッカのボトルに残りの毒を全部入れ、自分は隣の部屋で一服しながら音楽を聴く。両親が死んだのを確認して家を出る。翌日工場で働いていると、二人の刑事がやってくる―。

 1990年公開のアキ・カウリスマキ監督の、「労働者(プロレタリアート)3部作」の「パラダイスの夕暮れ」('86年)、「真夜中の虹」('88年)に続く第3作。ベルリン国際映画祭「インターフィルム賞」受賞作。

マッチ工場の少女05.jpg 主演は「パラダイスの夕暮れ」に続いてカティ・オウティネン。ただし、「パラダイスの夕暮れ」「真夜中の虹」のような主人公たちの先行マッチ工場の少女02.pngきに希望を持たせるような話でもなく、むしろ、主人公のイリスがシリアルキラーみたになってしまうため(4人殺害した?)、後味の悪い作品と言えるかもしれません。こうした救いに無い終わり方をする作品は、カウリスマキ監督作では珍しいと言えます。したがって一般にはウケないかもしれませんが、個人的には、こうしたハッピーエンドではない作品も好きです。

 カウリスマキ監督が敬愛する小津安二郎の作品で言えば、主人公が終盤一気に自滅の道へ突き進んで行く「東京暮色」('57年)みたいな位置づけになるでしょうか。(「東京暮色」は1957年度「キネマ旬報ベストテン」で第19位と低位だったが、笠智衆によれば、小津安二郎自身がそのことを自虐を込めて語っていたようだ)。

 ハッピーエンドしか撮らない監督というのもまた面白味がないし、この作品の場合、確かに後味はよくないですが、主人公の内面では行為が完結したものとなっており(落とし前をつけた形で終わる)、しっかりとした芯が感じられる作品でした(ハッピーエンドとは別の意味でのカタルシスがある)。イリスの逮捕で映画は終わりますが、それがイリスにとっては納得済みで、むしろ的な終幕だったと言えます(因みに、フィンランドには死刑制度は無い)。

マッチ工場の少女061.jpg 主人公が唯一の理解者であると思われる兄の家に駆け込むと、室内にジュークボックスやビリヤード台がある洒落た感じの佇まいで、彼は意外と器用に生きているのかも(このシル・セッパラ演じる兄のキャラクターは、アキ・カウリスマキの兄ミカ・カウリスマキ監督、シル・セッパラ主演の「ゾンビ・アンド・ザ・ゴースト・トレイン」('91年/フィンランド)という作品に引き継がれているようだ)。家族の中で彼女だけが割食っている感じで、男女格差というのもモチーフとしてあるように思われます。簡単に女を捨てる男、娘に生活の糧をアテにする義父―こうした輩への批判が込められているのは勿論で、その意味では、フェニミズム映画とも言えるかと思います。

マッチ工場の少女v.jpgマッチ工場の少女p.jpg「マッチ工場の少女」●原題:TULITIKKUTEHTAAN TYTTO(英: THE MATCH FACTORY GIRL)●制作年:1990年●制作国:フィンランド●監督・脚本:アキ・カウリスマキ●製作:アキ・カウリスマキ/クラス・オロフソン/カティンカ・ファラーゴ●撮影:ティモ・サルミネン●時間:69分●出演:カティ・オウティネン/ヴェサ・ヴィエリッコ/エリナ・サロ/エスコ・ニッカリ/シル・セッパラ●日本公開:1991/03●配給:シネセゾン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-11-23)((評価:★★★★)
 
   
  
 
マッチ工場の少女 [VHS]
 

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「労働者3部作」第2作。ハードボイルドロマン? 切なさと希望の映画。

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「真夜中の虹」トゥロ・パヤラ/スサンナ・ハーヴィスト/マッティ・ペロンパー
「真夜中の虹」00.jpg「真夜中の虹」01.jpg 北国の炭鉱が閉山し失業したカスリネン(トゥロ・パヤラ)。「南へ行け」と父からキャデラックのコンバーチブルを譲り受けた。父は拳銃自殺した。旅の途中二人組の強盗から有り金を全部奪われてしまう。辿り着いた港で日雇い労働者として働き出す。駐車監視員のイルメリ(スサンナ・ハーヴィスト)から違反を見逃してもらったかわりに食事をご馳走した。その夜彼女の家でベッドを共にした。翌朝寝ていると息子のリキ(エートゥ・ヒルカモ)に起こされ「仕事に行かないの?」と尋ねられる。シングルマザーのイルメリはいくつかのバイトを掛け持ちしていた。カスリネンは街に出て仕事を捜すがなかなか見つからない。安く泊まれる「教会宿泊所」を追い出され、やむを得ず父の車を売る。駅でシケモクを拾って火をつけようとしていたら強盗の一人を見つける。追い詰めたらナイフを出してきた。そ「真夜中の虹」04.jpgれを奪って床に押さえつけたところで警察が来た。強盗殺人未遂、凶器所持、公務執行妨害でカスリネンに1年11か月の懲役刑が下る。駅には不当逮捕を裏付けるであろう監視カメラがあったのに。イルメリと息子が刑務所に面会に来る。出所したら結婚しようと約束する。イルメリのことで侮辱してきた「真夜中の虹」05.jpg看守を殴り懲罰房に入れられる。イルメリとリキから差し入れのケーキが届く。ケーキの中には金鋸が入っていた。それを使い、同室者のミッコネン(マッティ・ペロンパー)と共に脱獄に成功する。売った車を取り戻し、イルメリを迎えに行き結婚式をあげる。カスリネン、ミッコネンは闇の業者に国外逃亡のための偽造パスポートを依頼する。業者から銃と車を借り、銀行強盗をして資金を調達する。ミッコネンが金のことで業者とトラブルになり刺される。それをみたカスリネンは業者二人を撃つ。ミッコネンを埋葬したあと、カスリネン、イルメリ、リキの3人は真夜中の港に停泊する貨物船アリエル号でメキシコをめざす―。

 1988年公開の、アキ・カウリスマキ監督の長編5作目で、「労働者(プロレタリアート)3部作」の第2作。仕事も家もお金も何もかも失った男が希望を求めて南へと向かう波乱万丈の旅を、カウリスマキ節というべき淡々としたタッチで綴っています(それでもカウリスマキ作品にしては"波乱万丈")。

「真夜中の虹」06.jpg 「ハードボイルドロマン」という触れ込みもあり、確かに「脱獄」を描いた箇所もありますが、誰かが言っていたように、ティム・ロビンスの用意周到さも(「ショーシャンクの空に」('94年/米))、スティーブ・マックイーンの華麗さや過酷さも(「大脱走」('63年/米)、「パピヨン」('73年))、クリント・イーストウッドの執念も(「アルカトラズからの脱出」('79年/米))、その何れも無い緩~い感じの脱獄でした(笑)。これがまたアキ・カウリスマキ監督らしいのですが、でも「レザボア・ドッグス」('92年/米)みたいなところもあって、一応、ハードボイルドなのかも(主人公はほとんど表情を変えず淡々としている点でもハードボイルド? だとしたら、カウリスマキ作品はどれもハードボイルドだとうことになってしまうが)。

「真夜中の虹」03.jpg カウリスマキ監督作品の常連マッティ・ペロンパーが演じる、主人公と刑務所で同室の男ミッコネンが良かったです(主人公が監房に入ったとたんに彼がいて、マッティ・ペロンパー、どんな役でもやるなあと(笑))。最初は不愛想で脱獄にも乗り気でなかったように見えましたが、実は同じような思いを秘めていた。共に脱獄した後は、カスリネンとイルメリの結婚式の立会人を務めたりもします。もう一人の立会人がそこらの警備員か何かなのが可笑しいですが(こうしたユーモアがカウリスマキ監督らしい)。
真夜中の虹 [VHS]
「真夜中の虹」v.jpg そのミッコネン、最後は、偽造パスポートの闇業者がカネを総獲りしようとしたことに抗って刺されてしまい、貨物船「アリエル号」で逃避行にタ旅立とうとするカスリネンらに対し、(自分の死体を)ごみ捨て場に埋めてくれと言うのがあまりに切な過ぎました。〈自由〉の夢はカスリネンら3人に託したということでしょう。

 カスリネンらが港について初めて船の行き先がメキシコであることを知るというのも、彼らの計画がかなり大雑把であったことを物語っていますが、「メキシコ」というのは、中盤のミッコネンがカスリネンに話した逃亡先の候補の中にありました。理想的だが行くのに金がかかると(物語としてはちゃんと伏線とオチになっているわけだ)。

 ラストに流れる「オズの魔法使い」('39年/米)のテーマ「虹の彼方に」が、映像的にもテーマ的にも作品にマッチしていて、アキ・カウリスマキ監督の音楽センスの良さを感じました(ウォン・カーウァイ監督が「欲望の翼」('90年/香港)でロス・インディオス・タバハラスやザビア・クガートの曲を使ったのを想起した)。原題は「アリエル」ですが、「真夜中の虹」という邦題は上手い付け方だと思います。

 イルメリの息子リキは賢くて強い子でした。幼い頃にこうした経験をした子は、メキシコの地でどんな大人になるかなあ。母親を支え続けるのは間違いないでしょう。切なさと希望の映画でした。

「真夜中の虹」●原題:ARIEL●制作年:1988年●制作国:フィンランド●監督・脚本・製作:アキ・カウリスマキ●撮影:ティモ・サルミネン●音楽:ヨウコ・ルッメ●時間:73分●出演:トゥロ・パヤラ/スサンナ・ハーヴィスト/マッティ・ペロンパー/ エートゥ・ヒルカモ/エスコ・ニッカリ●日本公開:1990/09●配給:シネセゾン●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-11-19)(評価:★★★★☆)

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「労働者3部作」第1作。カウリスマキ映画の作風の雛形が出来上がった作品。

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パラダイスの夕暮れ (字幕版)」[Prime Video]マッティ・ペロンパー/カティ・オウティネン

パラダイスの夕暮れ103.jpg ニカンデル(マッティ・ペロンパー)はゴミの収集人。相棒と二人、収集車に乗ってゴミを集めて回る。仕事帰りにスーパーで買い物をしていると手首から血が出ていた。レジ係の女性イロナ(カティ・オウティネン)が親切に手当してくれた。ニカンデルは彼女に一目惚れする。年配の同僚(エスコ・ニッカリ)から「俺は独立してのし上がるつもりだ。一緒にやろう。」と誘われ、その気になったが、同僚は仕事中に急死してしまう。ショックを受けたニカンデルはバーで酔って暴れ、留置所に入れられた。そこで出会ったメラルティン(サカリ・クオスマネン)という失業中の男に自分の会社を紹介し、一緒に働くことになる。仕事中にパラダイスの夕暮れ104.jpg偶然イロパラダイスの夕暮れ105.jpgナに再会し、デートに誘う。ビンゴホールに連れて行ったら「わたしたちうまくいかない」と振られてしまう。イロナはスーパーの店長(ペッカ・ライホ)からクビを言い渡される。悔しくて事務所の手提げ金庫を盗んだ。帰り道、ニカンデルを見つけドライブをねだった。二人は郊外のホテルに泊まりゆっパラダイスの夕暮れ106.jpgくり話をした。翌朝、海を見ながら初めてキスをした。イロナがアパートに帰ると刑事が待っていた。彼女が取り調べを受けている間、ニカンデルはこっそりと金庫をスーパーの事務所に戻す。ニカンデルがイロナのアパートに行くとルームメイト(キッリ・ケンゲス)しかいなかった。彼女は荷物を纏めて出て行ったらしい。ニカンデルは車で探し回ったが見つからない。イロナはホテルが満室だったのでベンチで夜を明かし、朝になってニカンデルの部屋のベルを鳴らした。ニカンデルはコーヒーを出した。彼が仕事をしている間、イロナは彼のベッドで眠った。同棲が始まり、イロナは衣料品店で働き出したが、二人の心はすれ違う。夕食後、イロナが「散歩に行きたい」と言うのでニカンデルが「一緒に行こう」と言うと「独りがいいの」パラダイスの夕暮れ107.jpgと答える。メラルティン夫婦と一緒に4人で映画を観て、酒を飲もうと約束をしたのにイロナはすっぽかす。寂しく情けない思いをしたニカンデルはヘソをまげ、彼女をアパートから追い出す。レコードを聴いたり、パブで酒を飲んで自分を慰めたが、どうしても彼女に会いたかった。イロナは勤め先の店長(ユッカ=ペッカ・パロ)と高級レストランで食事をしていたが、気分が乗らず「帰るわ。ご馳走さま」と中座し、ニカンデルの部屋へ行き、留守だったが彼のレコードを聴きながら寝入ってしまった。その頃ニカンデルはパブの帰り道、暴漢におそわれてケガをして倒れていた。翌日、搬送された病院にメラルティンが見舞いに来た。やっぱりイロナに会いたい。病院を抜け出して彼女の店に行った。「迎えに来た。新婚旅行に行こう」「いいわね」二人をメラルティンは港まで送った―。

パラダイスの夕暮れ109.jpg 1986年公開の、アキ・カウリスマキ監督の、長編3作目で、「労働者(プロレタリアート)3部作」第1作。今に見られるカウリスマキ映画の独特の作風の雛形が出来上がった作品とされ、さらに、既にそれは完成形と言えるものになっています。また、アキ・カウリスマキ監督作の常連となるマッティ・ペロンパーとカティ・オウティネンの初共演作でもあります(ただし、マッティ・ペロンパーの方は、アキ・カウリスマキ監督と親交のあるジム・ジャームッシュ監督のオムニバス映画「ナイト・オン・ザ・プラネット」('91年/米)のヘルシンキ編にも出たりしていたが、残念ながら44歳で早逝した)。

マッティ・ペロンパー(1951-1995/44歳没)
 
 「労働者3部作」の第1作の主人公がゴミの収集人というのも象徴的です。因みに、労働者3部作のあとの2作(「真夜中の虹」「マッチ工場の少女」)はそれぞれ失業者、女工を主人公にしています。徹底して社会の片隅に生きる人々(少し貧しいが、心は優しい)を主人公にし続けているとこころが、ある意味凄いと思います(小津安二郎などの影響も受けているようだが、小津は途中から中流以上の家庭を舞台にするようになった)。

 この作品を観て、経済的に裕福ではない人を主人公に据えるとともに、彼らは、現状では幸福感が得られていないと言うか、幸福とは何か、自分が不幸だということにも気づかないでいるような状況で登場するのも特徴であると改めていました。イロナに「なぜ私といるの?」と訊かれたニカンデルが、「俺には理由なんてない。あるのはただ、この名前と、ゴミ集めの制服、虫歯に病気の肝臓、慢性胃炎...いちいち理由をつける贅沢なんて俺にはない」と、ちょっとハードボイルドっぽく返しますが(この男、時々ハードボイルドを気取るところもある)、自虐的と言うか達観してしまっている印象も受けます。二人は急接近したと思ったら離反したりしますが、最後はハッピーエンドに。でも、この先この二人、大丈夫かなという気もします(結構、発作的に行動する傾向が二人ともある)。

 ニカンデルの友人となるメラルティンを演じたサカリ・クオスマネンがいい味出していて、演じているメラルティンというのも実はいい男でした。ラスト、2人がソ連船でエストニアのタリンに新婚旅行で旅立つときに見送る姿が何とも言えませんでした(因みに、カウリスマキ監督は、旅立つ二人を映さず、見送る友人だけを撮っている)。この人もアキ・カウリスマキ監督作の常連で、「過去のない男」('02年)では悪徳警官を演じていました。強面の悪(ワル)の方が風貌的に似合うため、この映画での意外性が効いています。

 ビンゴホールというのがあるんだね。まあ、フツー、デートするような場所ではないけれど(笑)。カウリスマキ監督自身もホテルのフロント係として出演しています。フィンランドの地元のムード歌謡曲などが使われているのも、カウリスマキ監督作の特徴。あと無いのは、「犬」の演技だけでしょうか。

パラダイスの夕暮れ f.jpgパラダイスの夕暮れ108.jpg「パラダイスの夕暮れ」●原題:VARJOJA PARATIISISSA(英: SHADOWS IN PARADAISE)●制作年:1986年●制作国:フィンランド●監督・脚本:アキ・カウリスマキ●製作:ミカ・カウリスマキ●撮影:ティモ・サルミネン●時間:78分●出演:マッティ・ペロンパー/カティ・オウティネン/サカリ・クオスマネン/エスコ・ニッカリ/キッリ・ケンゲス/ペッカ・ライホ/ユッカ=ペッカ・パロ/ヴァンテ・コルキアコスキ/マリ・ランタシラ/ アキ・カウリスマキ(カメオ出演)●日本公開:2000/04●配給:ユーロスペース●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(24-10-10)(評価:★★★☆)

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