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"混沌"が魅力の「ロケーション」、アナーキーでパワフルな「党宣言」、"ごった煮"の「ニワトリはハダシだ」。

「あの頃映画 松竹DVDコレクション ロケーション」美保純/西田敏行

「生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言【DVD】」平田満/倍賞美津子/原田芳雄

「ニワトリはハダシだ [DVD]」倍賞美津子/原田芳雄 肘井美佳/加瀬亮

ピンク映画のキャメラマンであるべーやんこと小田辺子之助(西田敏行)は、妻で主演女優の奈津子(大楠道代)が自殺未遂し、撮影がストップし困り果てていた。たまたまロケ現場として借りた連れ込み宿の掃除婦・笑子(美保純)を強引に主演女優の代役に仕立てて、撮影を続行させる。しかし撮影中、監督(加藤武)は病気で倒れ、笑子は自分の田舎に墓参りに帰るので撮影は降りると言い出す。笑子の帰郷を逆手にとり、ロケ場所を笑子の故郷である福島の湯本に代え、その場その場で脚本を変えながら撮影していく―。(「ロケーション」)
「ロケーション」('84年)は、ピンク映画のスチールマンだった津田一郎の『ザ・ロケーション』('80年/晩声社)を原作に、ピンク映画づくりの現場を描き出したもので、森崎東監督は、映画作りの参考にするため、滝田洋二郎監督(あの、第81回アカデミー賞外国語映画賞受賞作「おくりびと」('08年)の監督だが)による「真昼の切り裂き魔」('84年/新東宝)の撮影現場に足を運んだとのこと(個人的には滝田洋二郎監督の「連続暴姦」('83年/新東宝)を自由ヶ丘劇場で観た。大杉漣が演じる連続殺人鬼が映写技師として勤務する成人映画館という設定で、今は無き上坂東映が使用されている)。それでも森崎東監督らしく、とにかくごちゃごちゃのストーリーです。

まず、西田敏行演じるキャメラマンと、大楠道代演じるその女房の女優と、柄本明演じる脚本家の三角関係があり、映画の撮影が始まるや、主役の彼女が降りてしまい、やっと見つけた代役も逃げ出し、監督は入院するという始末で、カメラマンと竹中直人演じる助監督が中心になり、美保純演じる連れ込み旅館の掃除婦をヒロインに仕立てて撮影を続けるも、彼女が福島へ墓参りに帰ると言い出し、それを追ってロケに行くと、彼女の過去が一家心中、父親殺し、母親殺しと錯綜し、ロケ隊一行は映画の内容を変更して、彼女と母親(大楠道代・二役)の愛僧劇をドキュメンタリーのように撮影することになるといった具合。映画内映画のもともとのストーリーは、3人の男に襲われ海で溺死した母親の娘が男たちに復讐する設定だったので、随分と話が違っていきますが、これもこの映画の脚本の内なのでしょうか。
美保純が演じる笑子が、、最初の内は幼児体験の影響で
無口だったのが、ラストの方では大楠道代演じる母親と拮抗して互いの情念をぶつけあっており、美保純としては最高傑作ではないでしょうか。美保純と同様にそれまで主にピンク映画に出ていた竹中直人が、最初に一般映画に出演した作品でもあります。作品全体としても、「喜劇 女は男のふるさとヨ」('71年)などよりは上ではないでしょうか。
西田敏行/大楠道代/美保純
竹中直人/西田敏行/美保純
倍賞美津子 in「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」

バーバラ(倍賞美津子)は15年前、19歳の時にコザ暴動で沖縄を離れたヌードダンサー。恋人の宮里(原田芳雄)は、原子力発電所の定期検査に携わる、所謂"原発ジプシー"だが、今は暴力団の手先に。バーバラは、元教師の野呂(平田満)と一緒に旅に出て、福井県で昔馴染み
のアイコ(上原由恵)と再会、彼女は頭の弱い娼婦で、足抜けを図ったためにヤクザに追われている。そんなアイコには、原発で働く安次
(泉谷しげる)という恋人がいたが、死んだという。ところが安次の墓に出向いたバーバラと野呂は、実は安次が生きていることを知る。安次は、原発事故で放射能を浴び、原発での事故のことを知っていることがばれるのを恐れ、死んだ
ふりをしていたのだ。アイコと安次は、"じゃぱゆきさん"マリア(ジュビー・シバリオス)と一緒に逃亡するが、暴力団
に見つかって殺されてしまう。アイコ殺しの罪を着せられそうになった宮里は、暴力団の戸張(小林稔侍)を猟銃で射殺、バーバラたちは、マリアをフィリピンに帰してやろうと密航を企て、それを阻止しようと、暴力団や悪徳刑事の鎧(梅宮辰夫)が港にやってくる。撃たれて息を引き取った宮里に代わって、バーバラは猟銃をぶっ放して追っ手を撃退。結局マリアの乗った船は、船長(殿山泰司)が油を積み忘れ止まってしまうが、最終的に彼女はフィリピンに送還されることに。移送される船上からバーバラの姿を見

つけたマリアは、アイコと安次のスローガンの言葉「溢れる情熱、みなぎる若さ、協同一致団結、ファイト!」と呼び掛ける―。(「党宣言」)
殿山泰司(真志城亀吉船長)
泉谷しげる(アイコの恋人・原発の作業員・姉川安次)/梅宮辰夫(鎧刑事)/小林稔侍(ヤクザ組織組員・戸張)
「ローケーション」の翌年に撮られたのが「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」('85年)ですが、森崎東監督のインタビューによれば、この作品の最初の構想では、原発内部の実態を暴露しようと教師ら多数の人質とともに立て籠もる男(原発ジプシー)の物語で、彼の要求で現場からの生中継が実現しそうになった時、突然天皇崩御の情報が入り、現場からの生中継が吹っ飛んでしまうという展開で、物語のオープニングでは犯人である主人公がトイレに入りながら天皇陛下の遺体を運ぶパレードがテレビで放映されている場面を見るという場面が用意されていたそうです(この映画の公開は1985(昭和60)年)。そして、その物語の主人公で立て籠もり犯のモデルは金嬉老だったそうです。
こちらは、監督自身によるオリジナル脚本による作品であるため、撮影中にもセリフはどんどん変わったようでが、それは、森崎作品の多くに共通することだったようで、この作品でもセリフでけでなく、現場でどんどん物語や配役が変えられていったようです。
この映画の配役も、当初は平田満が演じた教師の役を原田芳雄が演じる予定だったといいます。しかし、原田芳雄が「俺に先生役は無理です」と監督に直訴し宮里を演じることになり、そのキャラクターも彼に合わせて変わっていったそうです。もちろん、野呂の役も平田に合わせて変えられたのでしょう。こうした、行き当たりばったり的な映画作りの手法は、完成度の高い作品を生み出すのには向いていないかもしれませんが、完成された芸術作品にはない、見るものを元気にするエネルギーを持つことあるとも思いました。
昨年['20年]7月16日の森崎東次監督の逝去を受け、同月31日付の朝日新聞夕刊でこの作品をフィーチャーしていましたが、この映画には「虐げられた者への人間賛歌」であり、「ごった煮に落とし込んだ『怒り』」が込められているとしています。非常によくまとまった記事でした(さすが朝日新聞の映画担当記者。的を射た表現をするものだ)。

2020年7月31日朝日新聞夕刊
一言で言えば、「ロケーション」は、ごちゃごちゃしていて、もう何だか「わけわかんない」、言わば先の読めない"混沌"がむしろ魅力的であり、この映画の神髄であるのかも。「党宣言」の方も、アナーキーでパワフルであり、こうして2作比べてみると、通じ合う部分もあるように思え、故・森崎東監督の作品の持ち味がみえてくるように思いました。また、これは、「党宣言」の19年後に、脚本・撮影・音楽などの主要スタッフはすべて「党宣言」と同じメンバーで撮られた「ニワトリはハダシだ」('04年)にも見られた特徴のように思います。

舞鶴に住む養護学校中学部3年生のサムこと大浜勇(浜上竜也)は重度の知的障害をもちながらも意外な記憶力を持つ。在日朝鮮人のハハこと金子澄子(倍賞美津子)は潜水夫のチチこと大浜守(原田芳雄)とサムの教育方針をめぐって対立し、現在は小学生の妹・チャルこと金子千春(守山玲愛)を連れて別居中である。そんなある日、サムとチャルが暴力団に拉致されてしまう。養護学校でサムを担任する桜井直子(肘井美佳)がサムたちの行方を追う―。(「ニワトリはハダシだ」)

森崎東監督の'04(平成16年)年度「芸術選奨」受賞対象となったこの作品においても、現代日本が抱える社会問題を詰め込められるだけ詰め込んで、その混沌とした中での猥雑で骨太な笑いから庶民の逞しさを描く構図になっています。20年近く経てもまったく枯れていないと言えば枯れていないと言えますが、相変わらずのごった煮感にはやや胃もたれがしそう(笑)。ただ、倍賞美津子、原田芳雄など森崎映画ならではの常連キャストの演技は安定感があってさすがであり、また養護学校教師役の肘井美佳の初々しい快活さも印象的でした(「時代屋の女房」の夏目雅子へのオマージュと思われる演技シーンがあった)。

「ロケーション」●制作年:1984年●監督:森崎東●製作:中川滋弘/赤司学文●脚本:近藤昭二/森崎東●撮影:水野征樹●音楽:佐藤允彦●原作:津田一郎●時間:99分●出演:西田敏
行/大楠道代/美保純/柄本明/加藤武/竹中直人/アパッチけん/大木正司/草見潤平/イヴ/パルコ/河原さぶ/殿山泰司/初井言榮/愛川欽也/乙羽信子/根岸明美/花王おさむ/和由布子/矢崎滋●公開:1984/09●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(19-12-23)(評価:★★★★)



「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」●制作年:1985年●監督:森崎東●製作:木下茂三郎●脚本:近藤昭二/森崎東/大原清秀●撮影:浜田毅●音楽:宇崎竜童●時間:105分●出演:倍賞美津子/原田芳雄/平田満/片石隆弘/竹本幸恵/久野真平/上原由恵/泉谷しげる/梅宮辰夫/河原さぶ/小林稔侍/唐沢民賢/左とん平/水上功治/小林トシエ/殿山泰司/ジュビー・シバリオス●公開:1985/05●配給:ATG●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-01-12)(評価:★★★★)

「ニワトリはハダシだ」●制作年:2004年●監督:森崎東●製作:シマフィルム/ビーワイルド/衛星劇場●脚本:近藤昭二/森崎東●撮影:浜田毅●音楽:宇崎竜童●時間:114分●出演:倍賞美津子/原田芳雄/肘井美佳/石橋蓮司/余貴
美子/浜上竜也/守山玲愛/加瀬亮/李麗仙/岸部一徳/塩見三省/笑福亭松之助/柄本明/河原さぶ/不破万作/三林京子/露の五郎/眞島秀和●公開:2004/11●配給:ザナドゥー●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-01-27)(評価:★★★★)

西田 敏行(にしだ・としゆき)
2024年10月17日昼過ぎ、東京・世田谷にある自宅で死亡しているのが見つかった。76歳。

(●西田敏行は、「ロケーション」もそうだが、2011年公開の三谷幸喜脚本・監督作品第5作で深津絵里とW主演した「ステキな金縛り」(東宝)も懐かしい。落ち武者の幽霊が裁判の証言台に立つというシュールな設定だが、西田敏行の演技に深津絵里の演技達者ぶりが重なって、二人の掛け合いが愉しかった。相乗効果とはこういうことなのだろうと
思った。三谷幸喜監督作の中ではかなり面白い方ではないか。阿部寛、市村正親、唐沢寿明、中井貴一などオールキャスト。佐藤浩市は前作「ザ・マジックアワー」で演じた売れない役者の役で、篠原涼子は『THE有頂天ホテル」で演じたコールガール役でそれぞれカメオ出演。大泉洋に
至っては「勝訴を持つ男」としてエンドロールのみの出演という遊びがあった。西田敏行はもっと年齢がいってからの演技も見たかった。)
「ステキな金縛り」●制作年:2011年●監督・脚本:三谷幸喜●製作:前田久閑/土屋健/和田倉和利●撮影:山本英夫●音楽:佐藤允彦●時間:142分●出演:深津絵里/西田敏行/阿部寛/竹内結子/浅野忠信/草彅剛/市村正親/小日向文世/小林隆/KAN/木下隆行/山本亘/山本耕史/戸田恵子/浅野和之/生瀬勝久/梶原善/阿南健治/近藤芳正/佐藤浩市/深田恭子/篠原涼子/唐沢寿明/中井貴一/大泉洋(※エンドロールのみ出演)●公開:2011/10●配給:東宝(評価:★★★★)



1926年、大正末年で昭和元年の東京。新派の劇作家・松崎春狐(松田優作)は偶然謎の女・品子(大楠道代)と出会う。三度重なった奇妙な出会いを、自分のパトロン玉脇(中村嘉葎雄)に打ち明けるが、玉脇の邸宅の一室は、松崎が品子と会った部屋とソックリだった。品子は玉協の妻ではと松崎は訝る。数日後、松崎は品子とよく似た振袖姿のイネ(楠田枝里子)と出会い、イネは「玉脇の家内です」と言う。しかし、玉脇によれば、イネは松崎と出会う直前に息を引きとったという。松崎の下宿の女主人みお(加賀まりこ)が玉脇の過去を語る。玉脇はドイツ留学中イレーネと結ばれ、彼女は日本に来てイネになりきろうとし、やがて病気で入院、玉脇は品子を後添いにしたという。折しも品子から松崎に、「金沢、夕月楼にてお待ち申し候。三度びお会いして、四度目の逢瀬は恋になります。死なねばなりません」との手紙が来る。金沢に向う松崎は列車の中で玉脇に出会い、松崎は金沢へ亭主持ちの女と若い愛人の心中を見に行くと言う。金沢
では不思議なことが相次ぎ、品子と死んだはずのイネが舟に乗っていたかと思うと、やっと会えた品子は手紙を出した覚えはないと言う。玉脇は松崎に心中を唆すが、仕組まれた心中劇に松崎は乗れない。逃れた松崎は、アナーキストの和田(原田芳雄)と知り合い、和田は松崎を秘密めいた人形の会に誘う。人形を裏返して空洞を覗くと、そこには男と女の情交の世界が窺え、松崎が最後の人形を覗くと人妻と若い愛人が背中合わせに座っている。死後の世界であり、松崎は衝撃を受ける。金沢を逃げ出し彷徨う松崎は、子供芝居の小屋「陽炎座」に辿り着く。舞台で玉脇、イネ、品子の縺れた糸が解かれようとした刹那、愛憎の念が一瞬にして小屋を崩壊させる。松崎が不安に狂ったように帰京すると、品子の手紙が待っていた。「うたた寝に恋しき人を見てしより夢てふものは頬みそめてき」"夢が現実を変えたんだ"とつぶやく松崎の運命は奈落に落ちていくのだった―。
1981年公開作で、今年['17年]2月に93歳亡くなった鈴木清順監督の「(大正)浪漫三部作」(「
原作は泉鏡花ですが、「春昼」「春昼後刻」など複数の作品から引いているようです。但し、あるのかないのか分からないストーリーながらも、振り返ってみればそう複雑な話ではなく、次にどっちへ行くか分らないながらも、意外とシンプルな展開だったかも。「チゴイネルワイゼン」もそうでしたが、何だか分からない部分の方が多いのでけれども、幻想的な映像美とテンポの良い展開で愉しませてくれた作品という感じです。
松田優作(1949-1989/享年40)がいい味を出していたように思います。それまでアクション映画ばかりだった松田優作に、鈴木清順監督は、直径1mの円を描き「この中から出ないような演技をしてください」と指導したそうです。松田優作はこの映画の翌年には森田芳光(1950-2011/享年61)監督の「家族ゲーム」('83年/ATG)に出演して好評を博し、森田芳光監督の「それから」('85年/東映)にも出演して、こちらも高い評価を得ましたが、そした演技の幅を拡げる契機となったのがこの作品ではないでしょうか。個人的には、「それから」のやけに重々しい松田優作よりも、TV版「探偵物語」の軽さを一部残しているようなこの作品の松田優作の方が好きです。鈴木清順監督は、松田優作の演技の個性を活かしているように思いました。

楠田枝里子
「陽炎座」●制作年:1981年●監督:鈴木清順●脚本:田中陽造●撮影:永塚一栄●音楽:河内紀●原作:泉鏡花●時間:139分●出演:松田優作/大楠道代/中村嘉葎雄/加賀まりこ/原田芳雄/楠田枝里子/大友柳太郎/麿赤児/江角英/東恵美子/玉川伊佐男/佐野浅夫/佐藤B作/トビー門口●公開:1981/08●配給:日本ヘラルド映画●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(17-08-21)(評価:★★★★)

夏の朝の海岸で、西本
清(広瀬昌助)は、大学生らに襲われ置き去りにされた少女・三原早苗(テレサ・野田)を救い出すが、少女の姉の三原真紀(藤田みどり)に自分が妹を襲ったと疑われてカ
ッとなり、真紀を襲う。一方、西本の同級生の友人で、高校がいやで退学した野上健一郎(村野武範)は、秀才の川村修司(中沢治夫)がプラトニックな交際をしていた稲垣和子(隅田和世)に悪戯をしたことを言い、川村はその悔しさから和子を呼び出して襲い、それによって和子は自殺する―。
藤田敏八(1932-1997)監督の'71年作品で、'71年と言えば大学紛争が後退を余儀なくされた直後であり、目標を失った当時の若者のシラけた雰囲気をよく伝えている作品とされ
ています。但し、その時代にその世代に達していないと、観てもぴんとこない部分もあるかも。散文詩的な作り方を織り交ぜたりしているので、随所に見られる抒情的な映像イメージは印象に残りましたが
ストーリーが繋がりにくく、湘南を舞台にした青春映画なのに何だか暗いなあとか、どうしてこの若者たちはこんなことばかりしているのかとか、初めて観たときはそんな感じで、後で観直してみて、あぁ、70年代の閉塞感ってこんな感じかという印象を改めて受けました。

今観るとレトロ感に溢れた作品であり、藤田みどり、テレサ・野田、隅田和世といった女優陣そのものにノスタルジーを感じます。沖雅也
(1952-1983/享年31(自死))が当初の主演予定でしたが、バイク事故のため急きょ広瀬昌助(1946-1999/享年53)に主役が代わっており、ただし予告スチールには真ん中に沖雅也が写っています(ポスターには沖雅也の顔が正面からは写ってなく隠れているものの方を部分合成して使用
している)。そのことはともかくとして、村野武範などはデビューしたてではありましたがこの時すでに26歳で、高校生にも不良にも見えないのがやや難点で、翌年にはNTV系の青春ドラマ「飛び出せ!青春」の教師役におさまっています。
この作品の音楽にはメイン・テーマと主題歌があって、BGMのようなムーディ・ポップス調のメイン・テーマに対して、当時19歳の「石川セリ」が歌う主題歌「八月の濡れた砂」(この映画主題歌が石川セリのデビュー曲で、レコード・デビューは翌年)の方は演歌みたいだなあと思っていたら、後に「石川さゆり」がカバーしています(テーマと主題歌のどちらも映画に合っている。要するにポップス調も演歌調もフィットしてしまう、そういう映画なのかも)。
日活がロマンポルノに路線変更する前の青春映画路線の最後の作品ですが、石原慎太郎原作・石原裕次郎主演の往年の青春映画「狂った果実」('56年/日活)を意識してたようなカメラ撮りがあったりする一方で、内容的にはもうこの頃はヤクザが出てきたりレイプシーンがあったりして、かなりB級色が強くなっているように思います。公開時の併映は蔵原惟二監督の「不良少女魔子」('71年/ダイニチ映配)で、この2作を最後に日活は「にっかつロマンポルノ」路線へと製作方針を転換させます。
藤田敏八監督はその後も、原田芳雄、桃井かおり主演の焦燥感に苛まれている28歳の青年・坂東宏(原田芳雄)を主人公とした「赤い鳥逃げた?」('73年)などを撮っていますが、これは東宝映画。同じ年に日活では、桃井かおり主演で「エロスは甘き香り」('73年)を撮っており、秋吉久美子主演の「赤ちょうちん」('74年)や「妹」('74年)も日活映画、更には江藤潤、永島敏行主演の「
藤田敏八監督の映画人としてのデビューは、三島由紀夫原作・蔵原惟繕監督「愛の渇き」('67年/日活)における脚本担当でしたが、この人は結局、70年安保の挫折感とその後の虚無感を描いた映画を10年近く撮り続けたという感じがします(鈴木清順監督
の「



敏八●脚本:藤田敏八/峰尾基三/大和屋竺●撮影:萩原憲治●音楽:むつひろし(主題歌:「八月の濡れた
砂」(作詞:吉岡治/作曲:むつひろし/歌:石川セリ))●時間:91分●出演:広瀬昌助/村野武範/剛たつひと/赤沢直人/隅田和世/藤田みどり/テレサ
・野田(テレサ野
田)/三田村元/八木昌子/奈良あけみ/渡辺文雄/地井武男/原田芳雄/山谷初男/藤田みどり/中沢治夫/英原穣二/野村隆/赤塚直人/原田千枝子/新井麗子/重盛輝江/田畑善彦/溝口拳/中平哲仟/市村博/大浜詩郎/木村英幸/野村隆/長
浜鉄平/小島克巳/衣あけみ/光でんすけ/ザ・ハーフ・ブリード/●公ギ



信/殿山泰司/地井武男/佐原健二/江波多寛児/青木義朗/阿藤海/戸浦六宏/加村赳雄/山谷初男/広瀬正一/大出洋行/古山桂治●公開:1973/02●配給:東宝●最初に観た場所:飯田橋・ギンレイホール(79-05-23)(評価:★★★)●併映:「八月の濡れた砂」(藤田敏八)/「

「エロスは甘き香り」●制作年:1973年●監督:藤田敏八●脚本:大和屋竺●撮影:萩原憲治●音楽:樋口康雄●時間:98分●出演:桃井かおり/伊佐山ひろ子/川村真樹/高橋長英/山谷初男/五条博/谷本一/橘田良江●公開:1973/03●配給:日活●最初に観た場所:池袋文芸地下(79-11-25)(評価:★★☆)●併映:「



「祭りの準備」('75年/ATG)は、昭和30年代の高知を舞台に、1人の青年がしがらみの多い土地の人間関係に圧迫されながらも巣立っていく姿を描いた青春映画で、主人公(江藤潤)が信用金庫に勤めながらシナリオライターになることを夢見ていることからも窺えるように、原作は中島丈博の自伝的小説であり、監督は'06年に亡くなった黒木和雄です。


青年がシナリオを書くとセックス描写が頻出し、左翼かぶれの"心の恋人"に「労働者階級をもっときちんと描くべきで、どうしてセックスのことばかり書くの」となじられる始末。そのくせ、彼女はオルグの男性にフラれると、宿直中の青年に夜這いして来て、そこで小火(ボヤ)事件が起きてしまうという、青年同様に彼女自身、青春の混沌の中でちょっと取りとめが無い状態になっています。
こんな状況から脱したいという青年の気持ちがよく分かり、その旅立ちを駅のホームで列車に伴走しながら万歳して見送る、青年の隣家の泥棒一家「中島家」の次男で殺人の容疑をかけられ逃亡の身の男「中島利広」を演じているのが原田芳雄(1940-2011)で、

竹下景子(1953年生まれ、当時22歳)の映画デビュー2作目、主演級は初で、桂木梨江(1955年生まれ、当時20歳)も映画デビュー2作目。この作品は竹下景子のヌードシーンで話題になることがありますが、主人公の青年に夜這いした際の下着姿と引き続く火事の炎の向こうにチラッと見える全裸(半裸?)姿程度で(この頃の彼女は結構コロコロ体型、よく言えばグラマラスだった)、この後清純派で売り出し、"お嫁さんにしたい
女性No.1"などと言われたために以降全くスクリーン上では脱がなくなり(「天の花と実」('77年/テレビ朝日)ではヌードを拒否した)、そんな経緯もあって「祭りの準備」のこのシーンの付加価値が出たのかも? むしろ、この作品で大胆なヌードを見せたのは「中島家」の末娘で男達の性欲の捌け口となっている狂女を演じた桂木梨江の方で、彼女はこの演技で第18回ブルーリボン賞新人賞、第49回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞にノミネートされています。

長崎の軍艦島から漫画家を志望して上京し、遊園地の修理工場で働いている主人公の二十歳の松岡純(江藤潤)は、恋人がいながらその手さえ握らず、通勤電車の中で痴漢行為に耽ける―漫画家を志望で軍艦島から東京に出てきたというところが、脚本家志望で高知・四万十から都会へ行こうとする「祭りの準備」の主人公と似ていますが、ラストまでのプロセスが観ていて気が滅入るくらい暗くて(痴漢行為に耽っているわけだから明るいはずはないが)、脇を固めている俳優陣は非常にリアリティのある演技をしていたものの、イマイチ自分の肌には合わなかったなあ(リアリティがあり過ぎて?)。江藤潤はやはり「祭りの準備」の彼が良かったように思います(「純」はどうして海外でウケたのだろう。外国人には痴漢が珍しいのかなあ。そんなことはないと思うが、クロード・ガニオン監督の「Keiko」('79年/ATG)でも冒頭に痴漢シーンがあった)。
女優のデビュー時乃至デビュー間もない頃のスクリーン・ヌードという点では、「高校生ブルース」('70年/大映)の関根(高橋)惠子(1955年生まれ、当時15歳)、「旅の重さ」('72年/松竹)の高橋洋子(1953年生まれ、当時19歳)、「十六歳の戦争」('73年制作/'76年公開)の秋吉久美子(1954年生まれ、当時19歳)、「恋は緑の風の中」('74年/東宝)の原田美枝子(1958年生まれ、当時15歳)、「青春の門(筑豊篇)」('74年/東宝)の大竹しのぶ(1957年生まれ、当時16歳)、「はつ恋」('75年/東宝)の仁科明子(亜季子)(1953年生まれ、当時22歳)などがありますが(これらの中では、関根惠子と原田美枝子の15歳が一番若くて、仁科明子の22歳が竹下景子と並んで一番遅いということになる)、個人的には、'05年に亡くなった岡本喜八監督の「肉弾」('68年/ATG)の大谷直子(1950年生まれ、当時17歳)が鮮烈でした。

この「肉弾」という作品は、特攻隊員(寺田農)を主人公に据え(「肉弾」とは「肉体によって銃弾の様に敵陣に飛び込む攻撃」のこと)、戦争の悲劇というテーマを扱っていながら、コミカルで悲壮感を(一応は)表に出していないという変わった映画で、映画
自体は、太平洋に漂流するドラム岳の中で魚雷を抱えている(ある意味、既に死んでいる)主人公の回想という形で進行し、主人公が1日だけの外出許可日に古本屋に行くつもりが思わず女郎屋に駆け込んでしまい、そこにいたセーラー服姿の肥溜めに咲いた一輪の白百合のような少女と防空壕の中で結ばれるという、その少女の役が映画初出演の大谷直子でした(その後、NHKの朝の連ドラ「信子とおばちゃん」('69年)でTVデビュー)。
笑えないなあ。岡本監督はその後も自らと同年代の戦中派の心境を独特のシニカルな視点で描き続けますが、「独立愚連隊」('59年)とこの「肉弾」は、そのルーツ的な作品でしょう。「日本のいちばん長い日」('67年)のようなオールスター大作を撮った後に、私費を投じてこのような自主製作映画のような作品を撮っているというのも凄いことだと思います。

「祭りの準備」●制作年:1975年●監督:黒木和雄●製作:大塚和/三浦波夫●脚本:中島丈博●撮影:鈴木達夫●音楽:松村禎三●原作:中島丈博●時間:117分●出演:江藤潤/馬渕晴子/ハナ肇/浜村純/竹下景子/原田芳雄/杉本美樹/桂木梨江/石山雄大/三戸部スエ/絵沢萠子/原知佐子
/真山知子/阿藤海/森本レオ/斉藤真/芹明香/犬塚弘/湯沢勉/瀬畑佳代子/夏海千佳子/石津康彦/下馬二五七/福谷強/中原鐘子/柿谷吉美●公開:1975/11●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋・ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★★☆)●併映:「
高田昭●音楽:一柳慧(1933-2022)●時間:88分●出演:江藤潤/朝加真由美/中島ゆたか/榎本ちえ子/赤座美代子/山内恵美子/田島令子/橘麻紀/花柳幻舟/原良子/江波杏子/小松方正/深江章喜/大滝秀治/安倍徹/小坂一也/小鹿番/
今井健二/森あき子/田中小実昌●公開:1980/12●配給:東映セントラルフィルム●最初に観た場所:新宿昭和館(83-05-05)(評価:★★☆)●併映:「

7月13日新宿3丁目にオープン(前身は1932年開館の洋画上映館「新宿昭和館」)。1956年、昭和館地下劇場オープン。2002(平成14)年4月30日 建物老朽化により閉館。跡地にSHOWAKAN-BLD.(昭和館ビル)が新築され、同ビル3階にミニシアター「K's cinema」(ケイズシネマ)がオープン(2004(平成16)年3月6日)。 

「肉弾」●制作年:1968年●監督・脚本:岡本喜八●撮影:村井博●音
楽:




晃一(主題歌「冬物語」作詞:

寺田農 2024年3月14日未明、肺がんのため81歳で死去。代表作「肉弾」など。出演作「





中国における高倉健の人気は、ハリウッドスターを含めた海外映画俳優の中で今でもトップという圧倒的なものだそうですが、女優で最大人気は、'84年から中国で放映されたTVドラマ「赤い疑惑」シリーズの山口百恵だそうで、殆どカリスマのような存在。
大物女優の鞏俐(コン・リー)なども、中国が本当にオリジナルな芸術性を持った作品を作り始めた第五世代の代表的監督・張芸謀(チャン・イーモウ)の初期作品「紅いコーリャン」('87年)に出演した頃は、中国国内で「中国の山口百恵」と言われているという話を聞いた覚えがあります(本書によれば、その後すぐに彼女はそのイメージから脱却したそうだが、スピルバーグがプロデュースした「SAYURI」('05年)に、チャン・ツィイーと共に日本人女性役で出ているというのが興味深い。本来は日本人がやる役だけれど、ハリウッド進出は中国女優の方が既に先行している)。
冒頭で掲げた「君よ憤怒の河を渉れ」は(原作は「ふんぬ」だが映画タイトルには「ふんど」のルビがある。因みに監督の佐藤純彌は東大文学部卒)、高倉健の東映退社後の第一作目(当時45歳)で、高倉健が演じるのは、政界黒幕事件を追ううちに無実の罪を着せられ警察に追われる立場になる東京地検検事・杜丘冬人(上
司の伊藤検事正を池部良が演じている)。原田芳雄が演じる彼を追う警視庁の矢村警部との間で、次第に友情のようなものが芽生えてくるのがポイントで、最後は2人で黒幕を追い詰め、銃弾を撃ち込むという任侠映画っぽい結末でした(検事と警官で悪を裁いてしまうという無茶苦茶ぶりだが、その分カタルシス効果はあったか)。健さんは逃亡過程においては、馬を駆ったりセスナ機を操縦したりと007並みの活躍で、その間、中野良子や倍賞美津子に助けられるという盛り沢山な内容です。
そこそこ面白いのですが、B級と言えばB級で、なぜこの映画が中国で受けたのか不思議というのはあります。中国人の約80%以上が観たというのが大袈裟だとして、たとえそれが30%であったとしても、最も多くの人が観た日本映画ということになるのではないでしょうか。張藝謀(チャン・イーモウ)監督のように、この映画を観て高倉健に恋い焦がれ、その想いがコラボ的に高倉健が主演することになった「単騎、千里を走る。」('05年)に結実したということもあります。やっぱり、中国で文革後に実質初めて公開された日本映画という、そのタイミングが大きかったのでしょう。今観ると、意外と2時間半の長尺を飽きさせずに見せ、また70年代テイスト満載の映画でもあり、その部分を加味して星半個オマケしておきます。


「君よ憤怒の河を渉れ」●制作年:1976年●監督:佐藤純彌●製作:永田雅一●脚本:田坂啓/佐藤純彌●撮影:小林節雄●音楽:青山八郎●原作:西村寿行「君よ憤怒の河を渉れ」●時間:151分●出
演:高倉健/原田芳雄/池部良/大滝秀治/中野良子/倍賞美津子/岡田英次/西村晃/田中邦衛/伊佐山ひ
ろ子/内藤武敏
/大和田伸也/下川辰平/夏木章/石山雄大/松山新一/木島進介/久富惟晴/神田隆/吉田義夫/木島一郎/浜田晃/岩崎信忠/姿鉄太郎/沢美鶴/田畑善彦/青木卓司/田村貫/里木佐甫良/阿藤
海(阿藤快)/松山新一/小島ナナ/中田勉、/飛田喜佐夫/細井雅夫/千田隼生/宮本高志/本田悠美子●公開:1976/02●配給:松竹 (評価:★★★☆) 
池部良(杜丘の上司・伊藤検事正)/原田芳雄/高倉健



'02(平成14)年に第1巻が刊行され第6回「文化庁メディア芸術祭マンガ部門」で優秀賞を受賞した(その後、'04(平成16)年・第33回「日本漫画家協会賞」大賞も受賞)このシリーズは、あの立花隆氏が絶賛、氏曰く―、「(この漫画は)いまやコミックを超え、ノンフィクションを超え、文学すら超えて、我々の時代が初めて持った、知・情・意のすべてを錬磨する新しい情報メディアとなった。これからの時代、『ブラックジャックによろしく』を読んで悩み苦しんだことがない医者にはかかるな、と言いたい」と、ものすごい褒めようで、東大での講義素材にも使ったりしていますが、確かに医療現場においてあるかもしれない問題を鋭く突いているなあという感じはします(実態とかけ離れているという現場の声もあったようですが)。
この第1巻では、研修医の劣悪な労働条件や治療よりも研究を優先する大学病院の内実を抉っていて、続く第2巻で主人公の研修医は、大学病院の面目を潰してまでも患者を市井の名医に診せたりしています(なかなかの行動力)。
第3巻、第4巻でダウン症の生前告知を通して新生児医療の問題を扱っていて(これは感動しました)、第5巻~第8巻のガン告知の問題を扱っているところまで読みましたが(この部分は'03年にTBS系でテレビドラマ化されたシリーズの中では取り上げられず、翌年の正月にスペシャル版としてドラマ化された)、その後も精神障害とマスコミ報道の問題を扱ったりしているようで、どちらかと言うとジャーナリスティックな(悪く言えばセンセーショナリスティックな)路線を感じます。







久世光彦(1935-2006/享年70) 

坪内祐三氏の解説が興味深く、百閒が住んだことのないはずの小田原を舞台にしている理由の1つに、鈴木清順監督の映画「ツィゴイネルワイゼン」('80年/シネマ・プラセット)のイメージが久世氏にあったのではないかとしています(確かに映画の中に砂浜のシーンがあった)。
「ツィゴイネルワイゼン」は黒澤明監督の「影武者」('80年/東宝)を押さえてその年のキネ旬ベストワンを獲得した作品ですが、実際いい映画でした。大楠道代が「桃は
腐りかけているときがおいしいの」と言いながら、水蜜桃を舌で妖しく舐めまわすシーンが印象的であり、またこの映画に漂う死のイメージを象徴していた場面でもありました。


「ツィゴイネルワイゼン」●制作年:1980年●監督:鈴木清順●製作:荒戸源次郎●脚本:田中陽造●撮
長政/夢村四郎/江の島ルビ/中沢青六/相倉久人●公開:1980/04●配給:シネマ・プラセット●最初に観た場所:有
藤田敏八に演技をつける鈴木清順監督

江戸下町のはずれ、一膳飯屋の"まる太"で2人の浪人が対立した。この街で用心棒をしている赤牛弥五右衛門(勝新太郎)と、新顔の荒牧源内(原田芳雄)だ。対立する2人の前に、源内とかつてただならぬ仲であったお新(樋口可南子)に密かに心を寄せている浪人・母衣権兵衛(石橋蓮司)が仲裁に入る。一方、長屋の井戸端には土居孫左衛門(田中邦衛)という浪人が妹おぶん(杉田かおる)と共に住んでいた。2人にとって帰参は夢だが、それにはどうしても百両という大金が必要だった。そんな時、街で夜鷹が次々と斬られる事件が起こる。赤牛は白塗りの夜鷹に扮し、夜鷹殺しの侍を斬るが、それにもかかわらず夜鷹斬りは続く。翌朝、まる太の主人・太兵衛(水島道太郎)の惨殺死体が発見される。すべては旗本・小幡七郎右衛門(中尾彬)一党の仕業だった。お新をはじめとする夜鷹たちが集まって太兵衛の遺骸を囲んでいる時、突然その夜鷹斬りの旗本・小幡ら7人が乗り込んでくる。一触即発の気配が漂う中、赤牛は小幡一党らと共にその場を去るが、その日赤牛は戻って来なかった。数日後、お新は、小幡を銃で暗殺しようとして逆に彼らに捕らえられてしまう。そして、その一味の中には何と赤牛がいた。その頃、孫左衛門のところに、おぶんから相談を受けていた豪商・伊勢屋(佐藤慶)の妾・お葉(伊佐山ひろ子)が百両の情報を持って飛び込んできた。孫左衛門は手形を預かった同心の柏木(津村鷹志)を斬り倒し、首尾よく百両を手に入れるが、その夜、赤牛は酒盛りの席で小幡に「手形を盗んだのは源内に違いない」と告げ口をする。そこで、小幡は源内を誘い出す手として、おぶんを逃がし、お新を牛裂の刑に処することにした。おぶんから聞いて事態を知った源内は、十数本の剣を体中にくくり付け、お新のもとへと駆け出す。それを知った権兵衛、孫左衛門たちも―。
黒木和雄監督の1990年公開作。マキノ正博監督により1928(昭和3)年に制作・公開された「浪人街 第一話 美しき獲物」の4度目のリメイク作品で、もともとはマキノ正博監督によるセルフリメイクとして企画されたものの、マキノの健康上の理由で断念し、マキノの後押しもあって、黒木和雄が監督したもの(マキノは総監修という立場。また、終盤の17分間の大殺陣シーンの撮影は宮川一夫が特別参加している)。
公開を目前にした1990年1月16日、勝新太郎がハワイのホノルル国際空港で下着にマリファナとコカインを入れていたとして現行犯逮捕されるという事態が発生しため、公開は先送りとなり、ようやく8月18日になって公開にされたとのこと。勝新にとって最後の映画出演作となりました(この映画を観ていると、セリフが何言っているかよくわからないところもあったが、まだまだやれたと思われて惜しい)。
勧善懲悪のある程度パターナルな結末ではありますが、原田芳雄、勝新太郎、石橋蓮司、田中邦衛が演じる4人の浪人のキャラの描き分けがしっかりできているほか、勝新とやりとりする長門裕之の蕎麦屋、伊佐山ひろ子のお葉のきりっとした視線、絵沢萠子の殺される哀れな遊女おとく、天本英世の琵琶法師...etc. 絶妙の配役が隅々まで行き渡っている感じの作品でした。
「浪人街」●制作年:1990年●監督:黒木和雄●総監修: