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面白かったが重厚さはさほどなかった。映画化でますます浅くなった感じがした『人間の証明』。

『人間の証明』1976単行本.jpg 『人間の証明』1977角川文庫.jpg 『人間の証明』1997カッパノベルズ.jpg 『人間の証明』講談社文庫.jpg.png
『人間の証明』2004.jpg 『人間の証明』20047カッパノベルズ.jpg 『人間の証明』2015.jpg 「人間の証明」dvd.jpg 「人間の証明」b.jpg
『人間の証明』['76年/角川書店]/['77年/角川文庫]/['83年/講談社文庫]/['97年/カッパ・ノベルズ]『新装版 人間の証明 (角川文庫)』['04年]『人間の証明 (カッパ・ノベルス) 』['04年]『人間の証明 (角川文庫)』['15年]「人間の証明 角川映画 THE BEST [DVD]」「人間の証明 角川映画 THE BEST [Blu-ray]
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 東京・赤坂にある「東京ロイヤルホテル」のエレベーター内で、胸部を刺されたまま乗り込んできた黒人青年ジョニー・ヘイワードが死亡した。麹町署の棟居弘一良刑事らは、ジョニーを清水谷公園から東京ロイヤルホテルまで乗せたタクシー運転手の証言から、車中で彼が「ストウハ」という謎の言葉を発していたことを突き止める。さらに羽田空港から彼が滞在していた「東京ビジネスマンホテル」まで乗せた別のタクシーの車内からは、ジョニーが忘れたと思われる恐ろしく古びた『西條八十詩集』が発見された。一方、バーに勤めていたとある女性が行方不明になる。夫の小山田は独自に捜索をし、妻・文枝の浮気相手である新見を突き止めるが文枝の居場所は分からなかった。文枝はこの時点で轢死しており、犯人は政治家郡陽平とその妻の家庭問題評論家・八杉恭子の息子・郡恭平だった。恭平は車の運転中、スピンを起こし文枝をはねてしまったのだ。発覚を怖れた恭平は同棲相手の路子と共に遺体を東京都西多摩郡の山林へ隠す。その後路子の勧めで身を隠すため、路子を伴ってニューヨークへ渡った。棟居刑事は「ストウハ」がストローハット(麦わら帽子)を意味すると推理した。また、事件現場であるホテルの回転ラウンジの照明が遠目には麦わら帽子のように見えるため、ジョニーがそれを見て現場に向かったのだと解釈した。また、タクシーから発見された詩集の中の一編の詩が「麦わら帽子と霧積(きりづみ)という地名」を題材としていたことと、ジョニーがニューヨークを去る際に残した「キスミー」という言葉から、捜査陣は群馬県の霧積温泉を割り出した。棟居らが現地に向かうと、ジョニーの情報を知っているであろう中山種という老婆がダムの堰堤から転落死していた。群馬県警は転落による事故と考えていたが棟居らは殺人事件と主張する。棟居らは中山種の本籍のある富山県八尾町へ向かう。そして捜査の中で、八杉が八尾出身であることを偶然発見する。更にアメリカ側からの捜査により、ハーレムに住むジョニーの父親が資産家アダムズの車に飛び込み示談金を得て、ジョニーの渡航費を捻出したことがわかる。父親はその後死亡した。新見によるひき逃げ事件の捜査も進み、現場に残されていた熊のぬいぐるみの所持者が恭平であること、ぬいぐるみに付着していた血液が文枝のものであることが明らかになると、新見は単身ニューヨークへ飛び、恭平からひき逃げと死体遺棄を白状させた。同じ頃、文枝の遺体がハイカーの大学生アベックに山中で発見され、その現場に恭平のコンタクトケースが落ちていたことで、犯人は恭平と断定された。新見から、恭平と路子の身柄が警察へ引き渡された。八杉とジョニーは生き別れた母子だった。ジョニーの父親は八杉と恋人同士であったが、当時は米国軍人と正式な結婚をすることが出来ず、親子3人で霧積温泉へ旅行した後、父親は二歳になるジョニーを連れて米国へ帰国し、日本に残された八杉は勧められるままに郡と見合結婚をした。ジョニーの存在が世間に知れ渡り、過去に黒人と関係を持っていた事実が露見することを恐れた恭子は自分に会いに来日したジョニーを殺害し、事情を知っている中山種も殺していた―。

 作者が、1975年に父を引き継ぎ角川書店社長に就任した角川春樹から、「作家の証明書になるような作品を書いてもらいたい」と依頼されて書いた作品で、1975年に旧「野性時代」(角川書店)で連載されました。1976年・第3回「角川小説賞」受賞作。

 映画監督の押井守氏が対談で、「『人間の証明』というのは松本清張みたいな話じゃん。『ゼロの焦点』とかあの辺の話だよね。戦後に暗い過去があって混血児を生んだ女が、いまはセレブになってるんだけどその息子が会いに来て、結局殺しちゃいましたというさ。これってまるっきり松本清張だよ」と言っていましたが、まさにそうだと思いました(「ストウハ」がストローハット(麦わら帽子)を意味したというところなどは、『砂の器』の「亀田」が「亀嵩」だったというのを想起させる)。

 テンポよく読めて面白く、様々な伏線もちゃんと繋がっていて、文庫の解説で横溝正史が評価し、帯で宮部みゆき氏が推薦しているのも分かります。ただ、松本清張作品ほどの重厚さは感じられなかったでしょうか。戦後の闇市で強姦されかけていた恭子を助けた棟居の父は、米軍兵士たちに袋叩きにあって命を落としていますが、その米軍兵の一人がケン・シュフタン刑事だったというのも、あまりに偶然が過ぎて、ご都合主義的な気がしました(一方で、ケン・シュフタン刑事が混血だったと最後に出てくるが、途中どこにもその説明が無かったのが不可解)。

「人間の証明」03.jpg 1977年、角川春樹事務所製作の第2弾として映画化され、八杉恭子を演じた岡田茉莉子は、角川春樹と作者で直接を出演依頼し、松田優作、ジョージ・ケネディらが日本映画で初めて本格的なニューヨークロケをしたとのこと。映画は途中までは原作に比較的近いですが、原作では棟居とケン・シュフタンの刑事同士接触はなく、棟居(松田優作)がアメリカに行ってケン・シュフタン刑事(ジョージ・ケネディ)に会う辺りから急激に原作を外れてしまいます。作者自身は「映像化にOKを出した時点で、嫁に出すようなもの。好きに料理してくれ、という考えです」と言い、原作にはない米国ロケでアクションを繰り広げた松田優作にも感謝していたそうですが...。

「人間の証明」松田ハナ.jpg それにしても原作から外れすぎ、と言うか、いろいろ付け加えすぎて、ますます浅くなった感じ。八杉恭子の息子・恭平(岩城滉一)は 、ヘイワード殺しの犯人を追っていたはずのニューヨーク市警ケン・シュフタン刑事(ジョージ・ケネディ)に射殺されるし、息子の死の知らせを受けた八杉恭子は、授賞式の舞台で「あの子は私の生きがいです。 あの子は私の麦わら帽子だったんです。 私はすでに一つの麦わら帽子を失っています。 だからもう一つの麦わら帽子を失いたくなかったんです」という、黒人の息子より恭平の方が大事だったみたいな演説をぶって、最後は霧積まで行って『ゼロの焦点』よろしく自殺するし―。

「人間の証明」岡田.jpg 莫大な宣伝費をかけたメディアミックス戦略の効果で映画はヒットし、実際、観た人の中には感動したという人も少なくなかったようですが、映画評論家からは酷評されました(第51回「キネマ旬報ベスト・テン」では第50位、読者選出では第8位)。「山本寛斎のファッションショーが延々と長すぎる」「松田優作が、テレビドラマのジーパン刑事そのままで何とも異様」等々。小森和子は雑誌の映画評で「日米合作としては違和感のない出来上がり。ただすべてが唐突な筋立て」と述べたように、滅多に悪く批判しない映画評論家までが映画作品としての密度の希薄さを指摘し、特に大黒東洋士と白井佳夫の批判がキツ過ぎ、この二人は角川関連の試写会をボイコットされたそうです。出演した鶴田浩二も映画誌で、「製作に12億かけて宣伝に14億かけるなんて武士の商法じゃない。本来、宣伝費は製作費の1割5分か2割でしょう。これは外道の商法です」と角川商法を批判しました。

「人間の証明」松田.jpg 批判の多さに原作者の森村誠一自身が激怒し、「作品中のリアリティと現実を混同したり、輪舞形式をとった設定をご都合主義と評したりするのは筋違いの批評...映画評論家は悪口書いて、金をもらっている気楽な稼業。マスコミ寄生人間の失業対策事業で、マスコミのダニ」などと映画評論家を猛烈に批判したとのことです。

 いずれにせよ、メディアミックス戦略等で映画業界に1つ革新をもたらしたのは事実だと思いますが、そうしたビジネス上の功績と併せて、角川映画ってこんなものだという質的評価は、良くも悪くも映画「人間の証明」で定まってしまったように思います。

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野性の証明 単行本.jpg「野性の証明」図3.jpg 作者は、『人間の証明』の発表翌年に『野性の証明』を発表、東北の寒村で大量虐殺事件が起き、その生き残りの少女と、訓練中、偶然虐殺現場に遭遇した自衛の二人を主人公に、東北地方のある都市を舞台にした巨大な陰謀を描いた作品でした。こちらも発表翌年に高倉健、薬師丸ひろ子主演で映画化されましたが、大掛かりな分、多分に大味な映画になっていました。結局、高倉健演じる自衛隊の特殊部隊の隊員(味沢岳史)がある集落でたまたま正当防衛的に住民を殺してしまい、いろいろな経緯があって、薬師丸ひろ子演じる集落の生き残りの少女を守りながら、三國連太郎演じる日本のある地方を牛耳ってるボスと戦うというわけのわからない話である上に、映画では誰もが簡単に人を殺し、味沢もまたその例外ではなく、ラストも原作の味沢が細菌に侵されて狂人になってしまうというものではなく、異なる結末になっていました。まあ、とことん駄作にしてしまった感じ。結局は高倉健のカッコ良さも空回りしていて、お金をかけてこうした映画を撮る監督(どちらかと言うと製作者?)の気が知れないです。

「人間の証明」d.jpg「人間の証明」三船.jpg「人間の証明」●英題:PROOF OF THE MAN●制作年:1977年●監督:佐藤純彌●製作:角川春樹/吉田達/サイモン・ツェー●脚本:松山善三●撮影:姫田真佐久●音楽:大野雄二(主題歌:ジョー山中「「人間の証明のテーマ」)●原作:森村誠一●時間:133分●出演:岡田茉莉子/松田優作/ジョージ・ケネ「人間の証明」長門夏八木勲范文雀.jpgディ/ハナ肇/鶴田浩二/三船敏郎/ジョー山中/岩城滉一/高沢順子/夏八木勲/范文雀/長門裕之/地井武男/鈴木瑞穂/峰岸徹/ブロデリック・クロフ「人間の証明」09.jpgォード/和田浩治/田村順子/鈴木ヒロミツ/シェリー/竹下景子/北林谷栄/大滝秀治/佐藤蛾次郎/伴淳三郎/近藤宏/室田日出男/小林稔侍(ノンクレジット)/西川峰子(仁支川峰子)/小川宏/露木茂/坂口良子/リック・ジェイソン/ジャネット八田/小川宏/露木茂/三上彩子/姫田真佐久/今野雄二/E・H・エリック/深作欣二/角川春樹/森村誠一●公開:1977/12●配給:東映(評価:★★★)「人間の証明」m」.jpg「人間の証明」八田.jpg 「人間の証明」深作.jpg 「人間の証明」長門.jpg
[上]坂口良子(おでん屋の女将)/大滝秀治(おでん屋の客A)・佐藤蛾次郎(おでん屋の客B)
[下]森村誠一(ロイヤルホテル チーフ・フロントマネージャー)/ジャネット八田(ハーレムで写真屋を営む女性・三島雪子...写真提供:吉田ルイ子)/深作欣二(渋江警部補)・長門裕之(なおみ(范文雀)の夫・小山田武夫)

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「野性の証明」●制作年:1978年●監督:佐藤純彌●製作:角川春樹/坂上順/遠藤雅也●脚本:高田宏治●撮影:姫田真佐久●音楽:大野雄二(主題歌:町田「野性の証明」高倉.jpg義人「戦士の休息」)●原作:森村誠一●時間:143分●出演:高倉健/薬師丸ひろ子/中野良子/夏木勲 /三國連太郎(特別出演)/成田三樹夫/舘ひろし/田「野性の証明」[図3.jpg村高廣/松方弘樹/リチャード・アンダーソン/鈴木瑞穂/丹波哲郎/大滝秀治/角川春樹/ジョー山中/ハナ肇/中丸忠雄/渡辺文雄/北村和夫/山本圭/梅宮辰夫/成田三樹夫/寺田農/金子信雄/北林谷栄/絵沢萠子/田中邦衛/殿山泰司/寺田「野性の証明」3.jpg農/芦田伸介(特別出演)/角川春樹/ジョー山中●公開:1978/10●配給:日本へラルド映画=東映(評価:★★)

田中邦衛(八戸市のバーのマスター)/殿山泰司(八戸市のおでん屋台の主人)
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『人間の証明』... 【1977年3月文庫化[角川文庫]/1977年3月新書化[カッパ・ノベルズ(『長編推理小説 人間の証明』)]/1983年再文庫化[講談社文庫]/1997年再文庫化[ハルキ文庫]/2004年再文庫化[角川文庫(『新装版 人間の証明』) ]/2004年再新書化[カッパ・ノベルズ(『長編推理小説 人間の証明』)]/2015年再文庫化[角川文庫(2004年角川文庫版に「永遠のマフラー」を併録)]】
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『野生の証明』... 【1978年3月文庫化[角川文庫]/1978年3月新書化[カッパ・ノベルズ(『長編推理小説 野生の証明』)]/2004年再文庫化[角川文庫(『新装版 野生の証明』) ]/2015年再文庫化[角川文庫(2004年角川文庫版に「深海の隠れ家」を併録)]】
『野性の証明『』.jpg 『野性にの証明』文庫.jpg

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映画を救った斉藤由貴。雄一と伊織に男女間の距離があったのは近親者的感情のせいか。

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雪の断章-情熱-」斉藤由貴/榎木孝明

「雪の断章-情熱-」02.jpg 広瀬雄一(榎木孝明)は、7歳の少女・伊織(中里真美)と出会い、彼女を自分のアパートへ連れ帰った。みなし児だった伊織は、那波家に引きとられたが、酷い使われ方をされていた。人間不信に陥っていた彼女を、雄一は引きとるため那波家を訪ねる。東京に家のある雄一は、仕事で札幌に赴任しており、彼の面倒は家政婦のカネ(河内桃子)が見ていた。カネは反対するが、親友、「雪の断章-情熱-」03.jpg津島大介(世良公則)の励ましもあり、雄一は伊織を育てる決心をする。10年の歳月がたち、伊織(斉藤由貴)は17歳。雄一は伊織に北大を受けさせようとしていた。彼女の高校には、同じく北大を受けようとする那波家の次女・佐智子(藤本恭子)もいた。そして伊織の住む雄一のアパートに、那波家の長女・裕子(岡本舞)が引っ越して来た。裕子の歓迎会がアパートの住人たちによって開かれ、見事な舞踊をみせた彼女は、いったん自室へ引きあげた。伊織がコーヒーを運び、再び裕子の部屋を訪れた時、裕子は死んでいた。青酸で殺されたことが検証され、伊織は重要容疑者として刑事の吉岡(レオナルド熊)につきまとわれる。自室を警察に荒らされ、またカネから、雄一は伊織がひとりの女として成長する時を待っていると言われ、伊織は二重のショックを受ける。そして、雄一に"偽善者"という言葉を吐いてしまう。雄一のフィアンセだという細野恵子(矢代朝子)がアパートを訪れた。恵子は伊織が結婚の障害になっていると告げる。大介の誕生日が来た。大介の部屋に、彼に内緒で花束を持ち込んだ伊織が見たものは、彼女に殺人事件の真相を浮かび上がらせた。伊織は家出し、尾行していた吉岡に補導された。彼女は真犯人を知っていると告げる。迎えに来た雄一は、北大だけは受験しろと言う。大介が伊織を函館へ誘い出した。函館は故郷であり、自分もみなし児であったことを告白する大介。春、伊織は北大に合格した。博多転勤となった大介は、伊織について来てくれと言う。伊織は頷いた。大介が九州へ発つ前日、吉岡が現われ、一生容疑者として汚名を背負って生きる伊織に、真犯人を告白するよう忠告する―。

「雪の断章-情熱-」原作.jpg「雪の断章-情熱-」04斉藤.jpg 「セーラー服と機関銃」('81年)の相米慎二監督(1948-2001/53歳没)のの'85年公開の第7作で、当時売り出し中の斉藤由貴が映画初主演した異色アイドル映画。原作は、二千万円テレビ懸賞小説'75年度佳作入選作品である佐々木丸美(1949-2005/56歳没)の『雪の断章』です(後に「孤児四部作」としてシリーズ化された)。

 相米慎二監督は「翔んだカップル」('80年)で映画初主演の薬師丸ひろ子を使い、「ションベン・ライダー」('83年)で同じく映画初主演の河合美智子を、「台風クラブ」('84年)でこれも映画初主演の工藤夕貴を使って撮っていて、この'85年の「雪の断章-情熱-」の後も、「東京上空いらっしゃいませ」の牧瀬里穂('90年)、「お引越し」('93年)の田畑智子と、アイドルの映画デビュー作を撮っています。ただし、1986年当時、相米監督は、薬師丸ひろ子、河合美智子、斉藤由貴らの若手女優が(一人前の)役者になるために映画をやっているのであって、歌手が歌の合間にやるというのとは別なので、そういう意味では「アイドル映画」など撮影したことなどないと発言しています。

「雪の断章-情熱-」j.jpg しかしながら、今回この作品を観た神保町シアターの特集タイトルが「澤井信一郎と相米慎二―80年代アイドル映画ブームを牽引した二人の映画監督」(左チラシ[上]澤井信一郎「野菊の墓」('81年/東映)松田聖子・桑原正/[下]「雪の断章」('85年/東宝)斉藤由貴・世良公則)というものであったように、これら一連の作品は、一般的には「アイドル映画」と見られているのではないでしょうか。とは言いつつも、この「雪の断章-情熱-」は、それらの中でも異色作かもしれません。

 なぜ異色かというと、映画としては必ずしも成功しているとは言えない作品を、映画初出演・初主演の斉藤由貴がその演技力で救っている印象を受けるためです。普通は新人の拙(つたな)い演技を監督の演出や周囲のベテランで補うのが、アイドル映画のパターンでしょう。原作ももともと、ミステリとしての「謎」の部分よりは、主人公の少女の胸の内で渦巻く感情に重きが置かれていて、斉藤由貴がその部分を上手く表現しており、とても映画初出演とは思えないものでした。もちろん可憐さも兼ね備え、後に"美魔女"と言われる萌芽はこの頃からあったのかと。

 因みに、以下はネタバレになりますが、実は裕子を殺害した犯人は大介で、彼は最後に自殺し、遺書の中で、彼の両親が裕子の父親がもとで自殺を計り、そのための犯行だと告白していました。また、雄一を頼って生きろと伊織に言い残していて、伊織は雄一のもとから出る決心をいったんはしますが、最後は雄一と伊織はお互いの気持を確認し合うのでした。小説で読むと泣かせる話ですが、ストーリーで追っていくと、伏線が無いままラストで急展開した印象も受け、どうかなあという気もしました。雄一と伊織にずっと"男女"としては距離があったのは、保護者的・近親者的感情が両者の間にあったからではないでしょうか。

「雪の断章-情熱-」05屋台.jpg寺田農.jpg 因みに、俳優の寺田農は、相米の監督第2作「セーラー服と機関銃」から遺作「風花」('01年)まで、「東京上空いらっしゃいませ」を除く全ての作品に関わっていて(「お引越し」では、映画本編への出演はないが、メイキングのナレーションを担当し、「魚影の群れ」('83年)、「光る女」('87年)では、クレジットは表記されているが、完成作品では1カットも出演していない)、前作「台風クラブ」では、特殊メイクで老人に扮していましたが、ロングショットのため誰が演じているのかが判別できない出演シーンとなっています。

「雪の断章-情熱-」屋台2m.jpg この「雪の断章-情熱-」では、雄一と大介が伊織の北大合格を祝って3人で祝杯を上げる屋台の親父を演じていて、その親父は元工業デザイナーで、客の写真を撮るのが趣味で、なおかつカセットテープでクラシックをかけるのも趣味で、カセットを裏返しにしたり、3人が決定的な話をしていたらポラロイドで撮って渡したりしますが、それが寺田農だとは最初分かりませんでした(先日観た「あ、春」('98年)ではトラック運転手役をやっていたが、これも事前に言われないと分からない)。寺田農本人によれば、こうした役どころは、俳優が自分で考えて監督に提案して演じていたそうです。

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「雪の断章-情熱-」v裏.jpg 尚、相米監督は寺山修司監督の「草迷宮」('79年/仏、'83年/日本)の助監督を務めており、主人公の心情を表すかのように西洋人形や曲芸師のような足長の男が出てくる寺山修司的表現が一部見られましたが、これも観る人にもよると思ますが、個人的には、必ずしも効果的とは言えないように思えました。

「雪の断章-情熱-」●制作年:1985年●監督:相米慎二●製作:伊地智啓/富山省吾●脚本:田中陽造●撮影:五十畑幸勇●音楽:ライト・ハウス・プロジェクト●原作:佐々木丸美●時間:100分●出演:斉藤由貴/榎木孝明/岡本舞/矢代朝子/藤本恭子/中里真美/伊藤公子/東静子/高山千草/中真千子/レオナルド熊/塩沢とき/伊達三郎/斎藤康彦/酒井敏也/加藤賢崇/大矢兼臣/森英治/寺田農/河内桃子/世良公則●公開:1985/12●配給:東宝●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-02-21)(評価:★★★☆)

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山崎努が演じる"父"老人が破天荒で人間臭く面白い。死して後に何かを遺した?

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あの頃映画 「あ、春」 [DVD]」佐藤浩市/山崎努/斉藤由貴

「あ、春」02.jpg 一流大学を出て証券会社に入社、良家のお嬢様・瑞穂(斉藤由貴)と逆玉結婚して可愛いひとり息子にも恵まれた韮崎紘(佐藤浩市)は、ずっと自分は幼い時に父親と死に別れたという母親の言葉を信じて生きてきた。ところがある日、彼の前に父親だと名乗る男が現れたのである。ほとんど浮浪者としか見えないその男・笹一(山崎努)を、俄かには父親だと信じられない紘。だが、笹一が喋る内容は、何かと紘の記憶と符合する。しかも、実家の母親・公代(富司純子)に相談すると、笹一はど「あ、春」04.jpgうしようもない男で、自分は彼を死んだものと思うようにしていたと言う。笹一が父親だと知った紘は、無碍に彼を追い出すわけにもいかず、同居する妻の母親・郁子(藤村志「あ、春」 8.jpg保)に遠慮しながらも、笹一を家に置くことにした。しかし、笹一は昼間から酒を喰らうわ、幼い息子にちんちろりんを教えるわ、義母の風呂を覗くわで紘に迷惑をかけてばかり。堪忍袋の緒が切れた紘は笹一を追い出すが、数日後、笹一が酔ったサラリーマン(木下ほうか)に暴力を振るわれているのを助けたことから、再び家に連れてきてしまう。図々しい笹一はそれからも悪びれる風もなく、ただでさえ倒産が囁かれる会社が心配でならない紘の気持ちは休まることがない。そんなある日、笹一の振る舞いを見かねた紘の実家の母・公代が来て、紘は笹一との子ではなく、自分が浮気してできた子供だと告白する。その話に身に覚えのある笹一は、あっさりその事実を認めるが、紘の心中は複雑だ。ところが、その途端に笹一が倒れてしまう。医師(塚本晋也)の診断では、末期の肝硬変。笹一は入院生活を強いられ、彼を見舞う紘は、幼い頃に覚えた船乗りの歌を笹一が歌っているのを聞いて、彼が自分の父親にちがいない、と思うのだった。しばらくして、ついに紘の会社が倒産する―。

「ナイスボール」.jpg「あ、春」06.jpg '98年公開の相米慎二(1948-2001/享年53)監督のホームドラマ的作品で、第73回(1999年度)「キネマ旬報ベストテン」第1位、第49回ベルリン国際映画祭「国際批評家連盟賞」受賞作品。原作は村上政彦『ナイスボール』('91年/福武書店)。証券会社勤務のサラリーマン(佐藤浩市)で、良家の娘(斉藤由貴)と結婚し、一人息子をもうけ、義母(藤村志保)と同居する、そんな主人公の家庭に、5歳の時に死別したと母(富司純子)から聞かされていた父(山崎努)が突然の闖入者としてやって来たという話です。

「あ、春」山崎1.jpg この、山崎努が演じる"父"老人がなかなか破天荒で人間臭く面白いです。末期の肝硬変だとわかって入院生活を余儀なくされた彼と佐藤浩市演じる息子が、病院の屋上で船乗りの歌を歌って親子であることを感じるシーンは、美しかったです。結局、母親・郁子(藤村志保)の証言によれば、血は繋がっていないが、5歳まで一緒にいたため幼児記憶がある、つまり「心の父親」であるということでしょう。

「あ、春」山崎2.jpg その「心の父親」笹一が息を引き取り、紘(佐藤浩市)は死に目に会うことは叶いませんでしたが、笹一のお腹に、彼がこっそり温めて孵化したチャボの雛を見つけます(雛の孵化に失敗するというシチュエーションも用意されていたそうだが、それだと、「あ、春」というタイトルにならないのでは)。紘の会社は倒産しますが(1997年11月に自主廃業した山一証券がモデルか)、紘は既に、笹一のように強く生きていける自信を彼から授かったように見えます。

 ラストの笹一の遺体を荼毘に付した紘たちが、彼の遺灰を故郷の海に船に乗って撒くシーンも良かったです。妻・瑞穂(斉藤由貴)、義母・郁子(藤村志保)、母・公代(富司純子)、笹一の愛人・三林京子の4人の女性が、強風の中、髪を振り乱して散骨している様はなぜか仄々(ほのぼの)とした気持ちにさせられ、ユーモラスでもあります。何となく亡くなった笹一が、紘に限らず後の人々に何かを遺したことが感じられるラストでした。

「あ、春」05.jpg「あ、春」03.jpg「あ、春」富士d.jpg「あ、春」●制作年:1998年●監督:相米慎二●製作:中川滋弘●脚本:中島丈博●撮影:長沼六男●音楽:大友良英●原作:村上政彦「ナイスボール」●時間:100分●出演:佐藤浩市/山崎努/斉藤由貴/藤村志保/富司純子/三浦友和/三林京子/岡田慶太/村田雄浩/原知佐子/笑福亭鶴瓶/塚本晋也/河合美智子/寺田農/木下ほうか/掛田誠●公開:1998/12●配給:松竹●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-02-12)(評価:★★★★)

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3時間43分の大作だが討ち入りシーン抜き。前半は忠義とは何かを問う論争劇、終盤は女性映画。

元禄忠臣蔵 前後編[VHS].jpg元禄忠臣蔵1941・42.jpg
あの頃映画 松竹DVDコレクション 元禄忠臣藏(前篇・後篇)<2枚組>」河原崎長十郎(大石内蔵助)/高峰三枝子
元禄忠臣蔵 前後編(全2巻セット)[VHS]
元禄忠臣蔵 松の廊下.jpg 浅野内匠頭(五代目嵐芳三郎)は江戸城・松の廊下で吉良上野介(三桝萬豐)に斬りつけたかどにより切腹を命じられる。さらに浅野が藩主を務める赤穂藩はお家取り潰しとなってしまう。赤穂藩では国を守るために戦うか、あるいは主君に殉じて切腹をするか、意見が真っ二つに分かれた。家老の大石内蔵助(四代目河原崎長十郎)は、幕府に城を明け渡すことにする。上野介を討つため、内蔵助は主君の妻である瑶泉院に別れを告げる。その他の赤穂浪士も家族と別れ、続々と大石のもとに集まった。討ち入りを終え吉良の首を討ち取った大石は、泉岳寺にある浅野の墓を訪れる。その後、大石ら浪士たちに切腹の命が下る―。

元禄忠臣蔵 前編・後編 0.jpg 1941年12月に前編が公開され、翌年2月に後篇が公開された溝口健二監督による3時間43分の大型時代劇。劇作家の真山青果(1878-1948)による新歌舞伎派の演目「元禄忠臣蔵」を、原健一郎と依田義賢が共同で脚色し、厳密な時代考証、実物大の松の廊下をはじめとする美術、ワンシーンワンカットの実験的手法を用いた流麗なカメラワークなどによって、それまでの「忠臣蔵もの」とは全く異なる作品に仕上げています。映画はいきなり江戸城内松の廊下で浅野内匠頭(嵐芳三郎)が吉良上野介(三桝萬豐)に斬かかる場面から始まります(まるで御所のようなセットのスケールの大きさ!)。事件後、上野介が沙汰無しで、内匠頭が切腹との御下知を伝える使者に対し、多門伝八郎(小杉勇)が、内匠頭が斬りつけようとした時に、吉良が損得のために脇差に手をかけなかったことを、侍として風上にも置けない人物だと批判しています(これは明らかに創作だろうなあ)。
 
元禄忠臣蔵 前編・後編6.jpg また、内蔵助(河原崎長十郎)を幼馴染みの井関徳兵衛(板東春之助)が訪ね、一緒に籠城に加えてくれと申し出る話があります。内蔵助は思うところがあってその申し出を拒絶し、家臣たちに対し開城を宣言します。その夜、内蔵助は帰宅途中で息子と共に自害した徳兵衛を見つけ、徳兵衛の死に際に、内蔵助はその本心を打ち明けます。

 さらに、上野介の首を取ろうとしない内蔵助に業を煮やし、富森助右衛門(中村翫右衛門)が上野介が徳川家の「御浜御殿」を訪れた際に討とうとするエピソードがあります。助右衛門が能装束(「義経記」の義経の姿)の男を上野介だと思って襲うものの、実はそれは後に六代将軍・家宣となる綱豊(市川右太衛門)で、綱豊は内蔵助の心中を察するよう助右衛門を諭します。そして、また、能舞台へと戻り、義経記の続きを舞います(カッコ良すぎ(笑)。上野介はその能を観る客の側だった。でも、がっちりした綱豊と爺さんの上野介を見間違えるかなあ)。実は、この作品は討ち入りの場面がないので、このシーンが本作の最大の立ち回りシーンになります(歌舞伎「元禄忠臣蔵」でも、この「御浜御殿綱豊卿」の場面は一番の見せ場のようだ)。

元禄忠臣蔵 前編・後編4.jpg 内蔵助は浅野家再興が正式に潰えると、時機到来とばかりに吉良邸に乗り込む準備をして、浅野内匠頭の未亡人・瑶泉院(三浦光子)に別れの挨拶に行きますが、外部に情報が漏れるのを怖れ、瑶泉院に本心を打ち明けられず、彼女の怒りを買ってしまう。密偵に悟られないよう、自分の詠んだ歌と称し、服差包みを瑶泉院に仕えるお喜代(山路ふみ子)に渡して去る。昼間の内蔵助の態度が気に掛かり眠れずにいた瑶泉院が服差包みを開けると中に連判状が―と、この「南部坂雪の別れ」は通常の「忠臣蔵もの」と同じですが、すぐそこに吉良への討ち入り成功の知らせが届き、画面は、討ち入りを果たして、泉岳寺の亡き主君の墓へ報告に向かう内蔵助ら義士一行に切り替わるといった流れです。

「元禄繚乱」('99年/NHK)主演:中村勘九郎
「元禄繚乱」1.jpg「元禄繚乱  99.jpg 討ち入り後、まだ45分くらい映画は続き、内蔵助が義士らが潔く切腹したのを見届けるところまでいきますが('99年のNHKの大河「元禄繚乱」(原作:船橋聖一/脚本:中島丈博)も中村勘九郎(五代目)演じる内蔵助が義士らの切腹を見届けるまでをやっていたなあ)、その間に最も時間を割いているエピソードが、磯貝十郎左衛門(五代目河原崎國太郎)とその許嫁おみの(高峰三枝子)の悲恋物語です。十郎左衛門への想いから吉良邸の情報を十郎左衛門に提供したおみのは、討ち入り後に蟄居を命じられている十郎左衛門に、その気持ち元禄忠臣蔵 前編・後編01.jpgが本心なのか吉良邸の情報が欲しかっただけなのかを確かめるため会おうと、身の回りを世話をする小姓に擬して接近しますが、内蔵助に女だと見抜かれます(高峰三枝子は誰が見ても女性(笑))。それでも、十郎左衛門の懐におみのの琴の爪が忍ばせてあることを知った彼女は喜び、これから切腹の場に向かおうとする十郎左衛門と最期の面会を果たします(こんなことが可能とは思えないが、ここはお話)。

元禄忠臣蔵 前編・後編10.jpg 討ち入りの場面がなく、セリフも堅苦しくてあまり人気のある作品ではないですが、前半は忠とは何か?義とは何か? 武士とは何か? をとことん問う価値観の「論争劇」的な展開であり、内蔵助が、浅野大学頭を立ててのお家再興願いが叶えば、仇討ちの大義がなくなることに苦悩する場面があったりします。一方、討ち入りシーンが無いまま迎えた終盤は、高峰三枝子演じるおみのにフォーカスした、溝口健二お得意の「女性映画」であったように思いました。

 この「論争劇」の側面と「女性映画」の部分が撮りたくて、溝口はこの映画を撮ったとの話もありますが(そう言えば「山椒大夫」('54年)も終盤は森鷗外の原作にはまったく無い政治劇になっていた)、そうだとすれば、討ち入りシーンは単なるアクションシーンということになるから、割愛してもいいという道理なのでしょうか。そこのところは個人的にはよく分かりませんが、溝口ファンなら一度は観ておきたい作品かと思います。

「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣」('16年~'17年/NHK)主演:武井咲
忠臣蔵の恋2.jpg忠臣蔵の恋1.jpg また、この磯貝十郎左衛門と女性の悲恋物語は、諸田玲子が『四十八人目の忠臣』('11年/毎日新聞社)として小説に描いており、NHKの「土曜時代劇」枠で「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣」('16年~'17年・全四十八人目の忠臣.jpg20回)としてドラマ化されています。「おみの」に該当する女性「きよ」は武井咲が演じましたが、「きよ」はこの映画で市川右太衛門が演じた後の6代将軍・徳川家宣の側室になり、7代将軍・徳川家継の生母・月光院となるという話になっています。すごく飛躍した設定だなあと思いますが、月光院の家宣の側室時代の名は「喜世(きよ)」であったとのことで、ただし、浅野家に関わった事実はないようです。『四十八人目の忠臣』では、浅野家と想い人であった礒貝十郎左衛門の仇討として徳川家将軍の生母となったという、ある種の復讐物語にしたのではないでしょうか。さらに、家宣の寵愛を得たきよは、男児(後の徳川家継)を産んだ褒美として、赤穂浅野家の再興と島流しとなっていた遺児たちの恩赦を願うという話で、つまり"48人目の忠臣"とは「きよ」こそがその人だということになります。小説は2012年(平成24)年度・第1回「歴史時代作家クラブ賞」の「作品賞」を受賞しています。

四十八人目の忠臣 (集英社文庫)
 
「元禄繚乱」991.jpg「元禄繚乱」●脚本:中島丈博●演出:大原誠 ほか●音楽:(オープニング)池辺晋一郎●原作:舟橋聖一『新・忠臣蔵』●出演:中村勘九郎/(以下五十音順)安達祐実/阿部寛/井川比佐志/石坂浩二/柄本明/大竹しのぶ/菅原文太/鈴木保奈美/京マチ子/滝沢秀明/滝田栄/宅麻伸/堤真一/中村梅之助/夏木マリ/萩原健一/東山紀之/松平健/宮沢りえ/村上弘明/吉田栄作(ナレーター)国井雅比古●放映:1999/01~12(全49回)●放送局:NHK

5代目中村勘九郎(大石内蔵助)/東山紀之(浅野内匠頭)/山口崇(大野九郎兵衛)/柄本明(進藤源四郎)・寺田農(奥野将監)
「元禄繚乱」東山ほか.jpg 「元禄繚乱」菅原.jpg菅原文太(肥後国熊本藩藩主・細川越中守綱利(内蔵介らがお預けとなった細川家の当主))
「元禄繚乱」00.jpg

宮崎あおい(矢頭さよ).jpg 宮崎あおい[左](赤穂浪士・矢頭右衛門七の妹・さよ)[当時14歳]

忠臣蔵の恋0.jpg忠臣蔵の恋4.jpg「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣」●脚本:吉田紀子/塩田千種●演出:伊勢田雅也/清水一彦/黛りんたろう●音楽:吉俣良●原作:諸田玲子『四十八人目の忠臣』●出演:武井咲/福士誠治/中尾明慶/今井翼/田中麗奈/佐藤隆太/石丸幹二/大東駿介/皆川猿時/新納慎也/陽月華/辻萬長/笹野高史/平田満/伊武雅刀/三田佳子(ナレーター)石澤典夫●放映:2016/09~217/02(全20回)●放送局:NHK      
   
市川莚司(加東大介)/市川右太衛門/中村翫右衛門(右)/高峰三枝子
元禄忠臣蔵 前編・後編 12.jpg「元禄忠臣蔵 前編・後編」●英題:The 47 Ronin●制作年:1941・42年●監督:溝口健二●製作総指揮・総監督:白井信太郎●脚本:原健一郎/依田義賢●撮影:杉山公平●音楽:深井史郎●原作:真山青果●時間:(前編)111分/(後編)112分●出演:(前進座)四代目河原崎長十郎/三代目中村翫右衛門/四代目中村鶴蔵/五代目河原崎國太郎/坂東調右衛門/助高屋助蔵/六代目瀬川菊之丞/市川笑太郎/橘小三郎/市川莚司(加東大介)/市川菊之助/中村進五郎/山崎進蔵/市川扇升/市川章次/市川岩五郎/坂東銀次郎/生島喜五郎/山本貞子/(松竹京都)海江田譲二/坪井哲/風間宗六/和田宗右衛門/竹内容一/征木欣之助/梅田菊蔵/大川六郎/村時三郎/大河内龍/松永博/大原英子/岡田和子/(第一協団)河津清三郎/浅田健三/(フリー)三桝萬豐/島田敬一/(新興キネマ)市川右太衛門/加藤精一/荒木忍/梅村蓉子/山路ふみ子/(松竹大船「元禄忠臣蔵 前編・後編」ph03.jpg)高峰三枝子/三浦光子/(その他)五代目嵐芳三郎/山岸しづ江/四代目中村梅之助/三井康子/市川進三郎/坂東春之助/中村公三郎/坂東みのる/六代目嵐德三郎/筒井德二郎/川浪良太郎/大内弘/羅門光三郎/京町みち代/小杉勇/清水将夫/山路義人/玉島愛造/南光明/井上晴夫/大友富右衛門/賀川清/粂譲/澤村千代太郎/嵐敏夫/市川勝一郎/滝見すが子●公開:(前編)1941/12/(後編)1942/02●配給:松竹(評価:★★★★)

  
河原崎長十郎(大石内蔵助)
 

   
人情紙風船」('37年) 河原崎長十郎/中村翫右衛門/市川莚司(加東大介)
「人情紙風船」河原崎 中村.jpg「人情紙風船>」加東 .jpg

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社会派作品であり、心を揺さぶる作品、且つ、カフカ的不条理の世界「壁あつき部屋」。

壁あつき部屋 dvd.jpg 壁あつき部屋2.jpg   私は貝になりたいDVD.jpg 私は貝になりたい 1959 vhs 1.jpg
あの頃映画松竹DVDコレクション 壁あつき部屋」['16年]「私は貝になりたい <東宝DVD名作セレクション>」['20年]/VHS

「「壁あつき部屋」 .jpg 戦後4年が過ぎたが、巣鴨拘置所には多くのBC級戦犯が服役している。その一人・山下(浜田寅彦)は、戦時中南方で上官・浜田(小沢栄太郎)の命令で一人の原地人を殺したのだが、その浜田の偽証で罪を被せられ、重労働終身刑の判決を受けている。また横田(三島耕)は戦時中、米俘虜収容所の通訳だっただけで巣鴨に入れられた。横田が戦時中、唯一人間らしい少女だと思つた隠亡燒(北竜二)の娘・ヨシ子(岸惠子)は、今では渋谷の歓楽街に働いている。朝鮮人の許(伊藤雄之助)も、戦犯の刻印を押された犠牲者の一人だった。山下はある日脱獄を企てて失敗、その直後に母の死を知る。葬儀のため時限付で出所を許された山下は、浜田へのかつての恨みと、浜田が山下の母と妹(林トシ子)を今まで迫害し続けていたことへの怒り壁あつき部屋 0.jpgから、浜田家に向かうも、恐怖に慄く浜田を見て殺意が失せる。たった一人の妹は、「これからどうする?」という山下の問いに、「生きて行くわ」とポツリ答える。再び拘置所に戻り、横田らに迎えられる山下、そこには厚い壁だけが待っていた―。

 巣鴨拘置所に服役中のBC級戦犯の手記「壁あつき部屋」の映画化で、新鋭プロ第一回作品。脚色には芥川賞受賞作家の安部公房が当り、小林正樹が監督しています。作品自体は1953年10月に完成しましたが、GHQの検閲を恐れた松竹の上層部によって、一部カットされそうになったのを小林監督が拒否したため、公開が3年遅れ1956年10月となりました。

壁あつき部屋1.jpg 小説家の安部公房の脚本ということもあるためか、人間心理を深く追求しながらも、余分な説明は削ぎ落とし、多くのエピソードを組み込んでいます。同じ部屋(雑居房)の受刑者6人の話という構成ですが、信欣三が演じる男がやはり手を下したくなかった処刑で人を殺めてしまった苦悩から狂い死ぬ(自殺)という凄絶な場面が早々にあり、あとは5人になります。

壁あつき部屋3.jpg その5人の中心となる浜田寅彦演じる山下は、戦地で疑心暗鬼に駆られた上官に現地人の殺害を命じられたわけですが、その現地人は部隊が食料も無くジャングルを彷徨い歩いていたところを助けてくれた言わば命の恩人であり、山下自身は上官に抗議するも、それでも殺害命令に従わなければ反逆罪として銃殺すると言われて、失意の中で恩人の命を奪ったものでした。

壁あつき部屋m5.jpg それが戦犯として裁かれる際に、上官の方は偽証により罪を全て山下になすりつけ、山下には瞬く間に死刑判決が下って、現地で執行ぎりぎりのところで刑を減免されて巣鴨刑務所に送致されたわけです。そこではまた人間扱いされず不当な処遇のもと強制労働させられる「BC級戦犯」が多く収容されていて、中には精神を病む者もいる状況。この山下の自身が置かれた理不尽な状況は、カフカ的不条理の世界にも通じ、その辺りが安部公房なのかなとも思いました。

 戦争の現地である南方での裁判において、アメリカ人らが報復にも近い形で日本人を裁き処刑していく場面があり(処刑も残酷だが、それを日本人捕虜に見せるのも残酷!)、銃殺後に現地に遺体をぞんざいに埋葬するため、現地人の反感を買うという、こうした自分本位の「正義」を振りかざして現地人の反感さえ買うアメリカ人の横暴が描かれているところが、松竹の上層部がGHQの検閲を恐れた由縁ではないかと思われます。
    
壁あつき部屋 岸恵子.jpg壁あつき部屋 ポスター.jpg この映画は社会派作品であることは確かですが、今の時代でも人の心を揺さぶるような戦争というものの根本に迫った作品でもあります(且つ、壁あつき部屋17.jpgカフカ的不条理の世界にも通じるということか)。一時的に出所を許された山下は、世の中がすっかり平和ムードに変化しているのに驚かされますが、一方で、横田が戦時中、唯一人間らしく優しい少女だと感じたヨシ子は、戦後は米兵に体を売る女となっていて、心もすれっからしになっており、そこにも戦争の悲劇が縮図として組み込まれています。岸惠子が、戦時中の可憐な少女と、戦後の淪落した女性の両方を演じ分けています。

私は貝になりたい2.jpg私は貝になりたい 1958.jpg もともとこの雑居房の6人は普通の市井の善良な市民であり、それがいわれなき罪を負わされて重い刑に服しているわけです。無実の人間が戦犯とされてしまう話としては、「壁あつき部屋」と同じように、戦争中に上官の命令で捕虜を刺殺した理髪店主が、戦後C級戦犯として逮捕され処刑されるまでを描いた「私は貝になりたい」('59年/東宝)があります。もともと1958年10月にテレビ放映された作品が、芸術賞受賞をきっかけに翌年4月に映画化されたもので、監督はTV版の脚本を書いた橋本忍です(橋本忍にとっての初監督作品)。
私は貝になりたい <1958年TVドラマ作品> [DVD]
私は貝になりたい」 508.jpg私は貝になりたい」tbs.jpg<1958年TV版> ラジオ東京テレビ(KRT/現TBS)(第13回芸術祭文部大臣賞受賞)〈出演〉フランキー堺/清水房江/桜むつ子/平山清/高田敏江/佐分利信(特別出演)/大森義夫/原保美/南原伸二(特別出演)/清村耕次/熊倉一雄/小松方正/内藤武敏/恩田清二郎/浅野進治郎/増田順二/坂本武/十朱久雄/垂水悟郎/河野秋武/田中明夫/ジョージ・A・ファーネス(特別出演)/佐野浅夫/梶哲也/織本順吉
「私は貝になりたい」<1959年映画作品>
私は貝になりたい 1959 vhs.jpg こちらは、主人公の理髪店主・豊松(フランキー堺)が戦後やっとの思いで家族のもとに戻り、理髪店で再び腕を揮い、やがて二人目の子供を授かったことを知私は貝になりたい 1959 01.jpgり平和な生活が戻ってきたかに思えた―その時、突然やってきたⅯP(ミリタリーポリス)に従軍中の事件の戦犯として逮捕されてしまうというもので、しかも最後は死刑になるという結末であるため、相当にヘビーです。

私は貝になりたい 1959 2.jpg いかにも橋本忍っぽい脚本に思えなくもないですが、こちらもBC級戦犯・加藤哲太郎の巣鴨獄中手記「狂える戦犯死刑囚」が一部モチーフとなっていて、そこには「私は貝になりたいと思います」という囚人の切実な叫びが綴られています(加藤哲太郎自身は、絞首刑→終身刑→有期刑と減刑されている)。

私は貝になりたい 所1.jpg私は貝になりたい 所2.jpg 「壁あつき部屋」は、北千住・シネマブルースタジオでの「戦争の傷跡特集」で観ました。「私は貝になりたい」と観比べてみるのもよいかと思います。「私は貝になりたい」はその後、1994年に所ジョージ主演でテレビドラマ・リメイク版が放送されたほか、2008年に福澤克雄監督、中居正広主演で再映画化されています。
「私は貝になりたい」<1994年TVドラマ化作品>所ジョージ/田中美佐子
私は貝になりたい 所0111.jpg私は貝になりたい vhs.jpg<1994年TV(所ジョージ)版> TBS(第43回日本民間放送連盟賞ドラマ番組部門優秀受賞)〈出演〉所ジョージ/田中美佐子/長沼達矢/瀬戸朝香/津川雅彦/春田純一/桜金造/柳葉敏郎/渡瀬恒彦/矢崎滋/石倉三郎/杉本哲太/森本レオ/三木のり平/室田日出男/すまけい/小宮健吾/小坂一也/段田安則/竹田高利/寺田農/尾藤イサオ/ラサール石井


シネマ ブルースタジオ 戦争の傷跡 特集.jpg壁あつき部屋 (1956).jpg「壁あつき部屋」●制作年:1956年●監督:小林正樹●脚本:安部公房●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:「壁あつき部屋―巣鴨BC級戦犯の人生記」●時間:110分●出演:浜田寅彦/三島耕/下元勉/信欣三/三井弘次/伊藤雄之助/内田良平/林トシ子/北竜二/岸惠子/小沢栄太郎/望月優子/小林幹/永井智雄/大木実/横山運平/戸川美子●公開:1956/10●配給:松竹●最初に観た場所:北千住・シネマブルースタジオ(20-10-12)(評価:★★★★)

「壁あつき部屋」巣鴨プリズン(現在は池袋サンシャインシティ)       
壁あつき部屋 巣鴨プリズン.jpg
     
「私は貝になりたい」フランキー新珠.jpg私は貝になりたい 1959 tokoya.jpg「私は貝になりたい」●制作年:1959年●監督・脚本:橋本忍●製作:藤本真澄/三輪礼二●撮影:中井朝一●音楽:木佐藤勝●原作:(物語、構成)橋本「私は貝になりたい」95.jpg忍/(題名、遺書)加藤哲太郎●時間:113分●出演:フランキー堺/新珠三千代/菅野彰雄/水野久美/笠智衆/中丸忠雄/藤田進/笈川武夫/南原伸二/藤原釜足/稲葉義男/小池朝雄/佐田豊/平田昭彦/藤木悠/清水一郎/加東大介/織田政雄/多々良純/桜井巨郎/加藤和夫/坪野鎌之/榊田敬二/沢村いき雄/堺左千夫/ジョージ・A・ファーネス●公開:1959/04●配給:東宝●最初に観た場所:高田馬場・ACTミニシアター(84-12-09)(評価:★★★★)


143865267608226030179_PDVD_006_20150804104437.jpg143867866083089746178_PDVD_008_20150804175741.jpg1「私は貝になりたい」笠智衆.jpg143868414555329634178_PDVD_010_20150804192906.jpg加東大介(豊松に赤紙を届ける町役場職員・竹内)/フランキー堺(清水豊松)
藤田進(豊松の元上官(軍司令官)矢野中将)/笠智衆(教誨師の小宮)


平田昭彦(陸軍参謀)... 平田昭彦は陸軍士官学校出身
「私は貝になりたい」平田.jpg

「●ま 松本 清張」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2087】 松本 清張 『点と線
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「ゼロの焦点」('58年)の女性主人公へと繋がる「声」('56年)、「白い闇」('57年)。

白い闇 (1957年) (角川小説新書).jpg  『顔・白い闇』.JPG 松本清張短編全集〈第5〉声 (1964年).jpg 声―松本清張短編全集〈5〉 (カッパ・ノベルス).jpg
白い闇 (1957年) (角川小説新書)』(白い闇/一年半待て/地方紙を買う女/共犯者/声)『顔・白い闇 (角川文庫)』(装画:駒井哲郎)(顔/張込み/声/地方紙を買う女/白い闇)『松本清張短編全集〈第5〉声 (1964年) (カッパ・ノベルス)』(声/顔/恋情/栄落不測/尊厳/陰謀将軍)『声―松本清張短編全集〈5〉 (カッパ・ノベルス)』['02年]
「松本清張の「声」.jpg  「松本清張の白い闇.jpg
「松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き」['78年/テレビ朝日・土曜ワイド劇場]/「松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中」['80年/テレビ朝日・土曜ワイド劇場](共に音無美紀子主演)

 新聞社で電話の交換手・高橋朝子は、数百人の声を聞き分けられるベテラン。ある日、社会部の石川汎に頼まれて、赤星という姓の学者に電話をかけるが、太く厭らしい声で電話を切られてしまう。電話帳を見誤り、同じ赤星姓でもまったくの別人にかけてしまったとすぐに分かったが、不快なので、間違えた方の住所を見てみると、世田谷の邸町であった。帰宅し夕刊を開いた朝子は、世田谷の赤星邸で強盗殺人事件が起こったことを知る。朝子は警察に出頭し電話の件を伝えたが、犯人の手掛かりは掴めない。ところが、月日は流れたある日、結婚して離職した彼女の耳に、あの電話の声の主が...。声の持ち主は意外なところから朝子のもとに現われる―。(声)

 信子の夫の精一は、仕事で北海道に出張すると言って家を出たまま失踪した。夫の身を案ずる信子は、精一の従弟・高瀬俊吉の助言に従い、夫の仕事関係の炭鉱会社に電報を打つが、北海道には一度も来ていないと返事が来る。信子は俊吉に結果を報告したが、俊吉から、実は精一には青森に田所常子という隠れた女がいるとの思いがけない"夫の裏切り"を聞かされる。信子は青森に向かい女と対峙するが、却って田所常子に圧倒されてしまう。病人のようになって東京へ帰った信子を俊吉はいたわるが、その二ヵ月後、思いがけない事件が発生する。俊吉が連れてきた田所常子の兄だという白木淳三という仙台の旅館経営者が、田所常子は青森県の十和田湖に近い奥入瀬の林の中で死体で発見されたという。田所常子を殺害したのは夫・精一なのか。その精一はいまどこにいるのか―。(白い闇)

「影なき声」0.jpg 「声」は、文庫で80ページほどの短編で、「小説公園」1956(昭和31)年10月号・11月号に連載され、1957年2月に『森鴎外・松本清張集』(文芸評論社・文芸推理小説選集1)収録の一編として刊行されています。また、鈴木清順監督、二谷英明(石川汎)、南田洋子(朝子)主演で「影なき声」('58年/日活)として映画化されるとともに、1950年代から70年代にかけて5回テレビドラマ化されています。電話交換手という仕事が人々にとってまだ馴染みのあったころに集中していうように思います(今後ドラマなどで映像化される可能性は低いか)。

「影なき声」('58年/日活)南田洋子・二谷英明
        
「影なき声」posuta-.jpg「影なき声」1.jpg「影なき声」●制作年:1958年●監督:鈴木清順●脚本:佐治乾/秋元隆太●音楽:林光●撮影:永塚一栄●原作:松本清張「声」●時間:92分●出演:二谷英明/南田洋子/高原駿雄/宍戸錠/芦田伸介/金子信雄/高品格●劇場公開:1958/10●配給:日活
二谷英明/南田洋子   
『声―松本清張短編全集〈3〉』 (1964/03 カッパ・ノベルス)
「声」松本清張 カッパノベルズ.jpg

 「白い闇」は、文庫で70ページ弱の短編で、「小説新潮」1957(昭和32)年8月号に掲載され、1957年8月に短編集『白い闇』収録の表題作として、角川書店(角川小説新書)より刊行されています。こちらは、映画化はされていませんが、50年代から00年代にかけて8回テレビドラマ化されています。

 何度もドラマ化されていることからも窺えるように、共に傑作です。短編集『白い闇』所収作では、「一年半待て」が2016年までに12回、「地方紙を買う女」が9回ドラマ化されていますが、内容的にもそれらに比肩し得るレベルにあると思います。「声」は時間差トリックが秀逸で、「白い声」は誰が味方で誰が敵かという点でほとんどの読者を欺いてみせるのではないかと思います。

 この両作品の特徴は、平凡な女性である主人公が、警察に頼らず独力で事件の謎を解こうとする点で、そこで思い出されるのが「ゼロの焦点」('58年発表)です。「ゼロの焦点」も、夫が単身赴任先の北陸で行方不明になり、妻・が単身捜査に乗り出す過程で夫の二重生活が浮き彫りになってくるというものなので、「白い闇」と少し似ています。

 三作とも女性が主人公ですが、「声」では、主人公の朝子は、事件に深入りしたばかりに犯人グループの犠牲になり、あとは警察が事件を解決することになり、「白い闇」では、主人公の朝子は、犯人を見抜くことが出来たものの、霧深い湖のボートの上で犯人と対峙し、最後は危うく犯人に殺害されかけます。それに比べると、「ゼロの焦点」の女主人公・板根禎子は、やはり断崖絶壁の上で犯人と対峙しますが、二人きりではなくそこにもう一人の人物がいて、自らが犯人に崖から突き落とされるということにはなりません。

 こうしてみると、「声」('56年)、「白い闇」('57年)から「ゼロの焦点」('58年)へと女性主人公が進化してきている(推理小説として洗練されてきている)ように思えました。「声」「白い闇」は、名作「ゼロの焦点」へと繋がる作品でもあるように思いました。特に「白い闇」は、夫の失踪などのモチーフは「ゼロの焦点」と重なり、さらに偽装自殺は「点と線」('57年)とも重なるように思いました。

松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き.jpg ドラマ化作品では、「声」のドラマ化作品で、'78年にテレビ朝日の「土曜ワイド劇場」枠(2時間ドラマがまだ定着しておらず90分枠だった)で放送された音無美紀子主演の「松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き」がありました(4回目のドラマ化作品であり、その後ドラマ化されていまいのは、やはり「電話交換手」という職業設定のためか)。

 新聞社の電話交換手・朝子(音無美紀子)は、ある日、大学教授宅への電話を間違って繋いでしまう。そこで出た男の「こちらは墓場」という声を聞く朝子。翌日、新聞に強盗殺人事件の記事が出て朝子は被害者が自分が間違えて電話を繋いだ人物と知る。強盗殺人を働いたのは不動産ブローカー・川井(小松方正)、浜野(米倉斉加年)ら三名。浜野は週刊誌記者を装って朝子に近づこうとするが、話を聞いたのは朝子の同僚・良江(泉ピン子)。浜野ら三人は役所に勤める朝子の婚約者・小谷(秋野太作)と良からぬ企み。朝子は浜野に小谷を外すよう頼み、二人の間には奇妙な繋がりが。だが、ある日浜野がかけてきた電話の声が事件の時聞いた声と朝子が気づいた時から新たな事件が――とやや原作を脚色しています。

 音無美紀子演じる朝子と米倉斉加年演じる浜野のキャラがいいし、秋野太作の小谷も小谷らしいというか。それぞれの俳優の持ち味が活かされた好編だったように思います。
【2975】○ 水川 淳三 (原作:松本清張) 「松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き」 (1978/03 テレビ朝日) ★★★☆
松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き2.png1松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き.png「松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き」●監督:水川淳三●プロデューサー:佐々木孟●脚本:吉田剛●音楽:菅野光亮●原作:松本清張●出演:音無美紀子/秋野太作(津坂匡章)/米倉斉加年/泉ピン子/小松方正/柳生博/波多野憲/高橋征郎/寄山弘/土田桂司/加島潤/高杉和宏/小林悦子/本木紀子/沖秀一/山本譲二●放映:1978/03/11(全1回)●放送局:テレビ朝日(評価:★★★☆)

 音無美紀子は、同じく「土曜ワイド劇場」枠で、'80年に放送された「白い闇」のドラマ化作品「松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中」にも主演していますが、コレ、何と原作と犯人を変えています。

松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中10.jpg 小関信子(音無美紀子)は、不動産屋を経営する夫・精一(津川雅彦)姑の初子(賀原夏子)と三人で暮らしていた。精一は北海道の新規案件のためパンフレットのデザインを従兄弟の高瀬俊吉(速水亮)に依頼することになり俊吉が精一の家にやって来た。たたき上げで勢力旺盛な精一と違い俊吉は一流商社のデザイナーで性格も対照的だった。精一は俊吉が信子に心を寄せていることはわかっていた。それを信子も気が付いているだろうが、信子は自分を愛しているという自信があった。その晩、俊吉は精一夫婦の家に泊まることになった。俊吉が隣の部屋に寝ているのも気にせず、精一は信子を求めてきた。気配を察した俊吉は、精一の家を飛び出すと馴染みのバーへ行った。ホステスのユリ(池波志乃)がひとりいただけでそのままふたりはユリの家へ行く。ユリは同僚の田所常子(横山エリ)が俊吉と付き合っていたと思い、俊吉に自分は常子と違って結婚は求めないと迫っるが、俊吉はユリを振り切って帰ってきてしまう。精一は北海道へ出張に行くことになった。信子は妊娠したことがわかり早くそれを伝えようと空港まで急きょ精一を見送りに行くことにした。信子が精一に妊娠を告げると、性格的に大喜びしそうな精一だが複雑な表情だった。信子は早く帰ってくるように言って見送ったが、精一はいつまで経っても帰ってこなかった。不安に思った信子が北海道へ電話すると、そこはもう10日も前に発っていたという。信子は俊吉の会社へ行き、心当たりを聞くが、俊吉は自分は何も知らないという。羽田空港に到着した信子を俊吉が迎えに来ててくれた。俊吉は今度は自分が常子のところへ行ってみるという。心労が重なった信子は病院で流産してしまう。知らせを受けた初子が来て、俊吉から精一に女がいたことを聞かされた。俊吉は信子を飲みに誘い、酔った俊吉は信子の家へ行き二人はその晩関係を持ってしまう。警察から常子が死体で見つかったと連絡が入り、信子と俊吉は署まで出向く。刑事が言うのには十和田湖近くの林で見つかり死後約2か月ほどで、青酸系の毒物を飲んだらしい。依然として精一の行方はわからない。常子の兄で元宮城県警の刑事・白木淳一(下川辰平)も来ていて、長らく音信不通だった常子から1か月ほど前に手紙が来てアパートへ行ったものの10日前に家を出たきりだった。それから、ずっと妹を探し続けていたのだと話すー。

下川辰平.jpg かなり原作を改変していますが、放映当時はこれはこれで面白いということで(視聴率23.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区))'83年3月に同じ土曜ワイド劇場枠で再放送されています。ドラマ「太陽にほえろ!」('72年~'75年)で七曲署の「長さん」こと野崎太郎・巡査部長を演じた下川辰平(1924-2004/75歳没)を元宮城県警の刑事・白木淳一役で起用していて、原作を読んでいれば尚のことですが、ほとんどの人が引っかかったのではないでしょうか(「これはないよ」という気も若干したが)。音無美紀子はホームドラマのイメージですが、このほかにも同じく土曜ワイド劇場の「松本清張の山峡の章・みちのく偽装心中」('81年/ANB)にも出ていて(主演)、サスペンスでも安定した演技力を発揮していたことがわかります。

松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中4.jpg松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中お.jpg「松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中」●監督:野村孝●プロデューサー:吉津正/柳田博美/野木小四郎●脚本:柴英三郎●音楽:菅野光亮●原作:松本清張●出演:音無美紀子/津川雅彦/速水亮/賀原夏子/横山リエ/下川辰平/池波志乃/小野武彦●放映:1980/12/06(全1回)●放送局:テレビ朝日(評価:★★★☆)



 結局、'96年にテレビ東京で放送された、白い闇 ドラマ 大竹晩.jpg大竹しのぶ主演の「松本清張ドラマスペシャル・白い闇 十和田湖奥入瀬殺人事件」あたりが、一番原作に忠実なのかも。時代が原作の昭和30年代から〈今〉に置き換えられているため、主人公の夫の職業は石炭商から魚のブローカーに換えられていますが、おおむね原作に忠実です。主人公がどこで犯人に気づくかが原作の一つのポイントですが、大竹しのぶが上手く演じていてさす白い闇 大竹しのぶ3.jpgがです。この女優はときどき演技過剰になるような印象もありますが、この作品は適度な演技達者ぶりで良かったです。演技達者ぶりと言えば、旅館経営者の白木を演じた寺田農も良かったです(ちょっと怪しげなところが役にぴったり)。

「松本清張ドラマスペシャル・白い闇 十和田湖奥入瀬殺人事件」●演出:木下亮●プロデューサー:鶴間和夫/大野晴雄/林悦子●脚本:須川栄三●音楽:福井峻●原作:松本清張●出演:大竹しのぶ/加勢大周/寺田農/左時枝/三浦浩一/清水ひとみ/一柳みる/片桐竜次/田岡美也子/川津花/中条佳代子/佐藤功/中村徳彦/大船滝二/水野ケイ/楠美千穂/樽見幸子●放映:1996/02/08(全1回)●放送局:テレビ東京
  

 
●「声」ドラマ化
 •1958年「声」(KRテレビ(現TBS))佐野周二・三井弘次・藤間紫
 •1959年「声」(フジテレビ)千典子・飯沼慧
 •1961年「声」(TBS)福田公子・岩井半四郎
 •1962年「声」(NHK)小山明子・松本朝夫・三島耕
 •1978年「松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き」(テレビ朝日)音無美紀子・秋野太作・泉ピン子・米倉斉加年

・1978年松本清張の「声」・ダイヤルは死の囁き(テレビ朝日)音無美紀子・秋野太作・泉ピン子・米倉斉加年[上]
松本清張の「声」t.png 松本清張の「声」お.png 松本清張の「声」3.png

●「白い闇」ドラマ化
 •1959年「白い闇」(KRテレビ(現TBS))乙羽信子・高橋昌也・金子信雄
 •1959年「白い闇」(フジテレビ)日野明子・真木祥次郎・入川保則
 •1961年「白い闇」(TBS)月丘夢路・井上孝雄・山茶花究
 •1962年「白い闇」(NHK)吉行和子・金内吉男・鈴木瑞穂
 •1977年「白い闇」(TBS)吉永小百合・草刈正雄・二木てるみ・井上孝雄
 •1980年「松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中」(テレビ朝日)音無美紀子・津川雅彦・速水亮
 •1996年「松本清張ドラマスペシャル・白い闇 十和田湖奥入瀬殺人事件M」(テレビ東京)大竹しのぶ・加勢大周・寺田農
 •2005年「黒革の手帖スペシャル〜白い闇」(テレビ朝日)米倉涼子・豊原功補・岡本健一・田村高廣

・1977年「松本清張傑作選 2 白い闇 [レンタル落ち]」「白い闇」(TBS)吉永小百合・草刈正雄
1977年「白い闇」(TBS)dsd.jpg 1977年「白い闇」(TBS).jpg
・1980年松本清張の白い闇・十和田湖偽装心中(テレビ朝日)音無美紀子・津川雅彦・速水亮[上]
白い闇・テレビ朝日・音無.jpg 白い闇・テレビ朝日・2.jpg
・1996年松本清張ドラマスペシャル・白い闇 十和田湖奥入瀬殺人事件(テレビ東京)大竹しのぶ・加勢大周・寺田農[上]
白い闇 大竹しのぶ3.jpg 3白い闇 寺田.jpg 3白い闇 大竹しのぶ2.jpg
・2005年「黒革の手帖スペシャル〜白い闇」(テレビ朝日)米倉涼子・豊原功補
黒革の手帖スペシャル〜白い闇0.jpg 黒革の手帖スペシャル〜白い闇.jpg

「白い闇」...【1959年文庫化[角川文庫(『顔・白い闇―他三篇』)]/1965年再文庫化[新潮文庫(『駅路―傑作短編集6』)]】
「声」...【1959年文庫化[角川文庫(『顔・白い闇―他三篇』)]/2009年再文庫化[光文社文庫(『声―松本清張短編全集〈05〉』)]】

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"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向において力を発揮する作家?

鉄道員(ぽっぽや)単行本.jpg 鉄道員(ぽっぽや)文庫.jpg 鉄道員poster.jpg 鉄道員 dvd.jpg 駅station poster.jpg
鉄道員(ぽっぽや)』『鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)』「鉄道員(ぽっぽや)」映画ポスター「鉄道員(ぽっぽや) [DVD]」「駅 STATION」チラシ

 1997(平成9)年上半期・第117回「直木賞」受賞作。

 道央の廃止寸前のローカル線「幌舞線」の終着駅「幌舞駅」の駅長・佐藤乙松(おとまつ)は。鉄道員一筋に生きてきたが近く定年を迎え、また同時に彼の勤める幌舞駅も路線と共に廃止の時を迎えようとしていた。彼は生まれたばかりの一人娘を病気で失い、妻にも先立たれ、孤独な生活を送っていた。ある雪の日、ホームの雪掻きをする彼のもとに、忘れ物をしたと一人の鉄道ファンの少女が現れる。乙松が近所にある寺の住職の孫だと思い込んだ彼女の来訪は、彼に訪れた優しい奇蹟の始まりだった―(「鉄道員」)。

 「鉄道員(ぽっぽや)」「ラブ・レター」「悪魔」「角筈にて」「伽羅」「うらぼんえ」「ろくでなしのサンタ」「オリヲン座からの招待状」の8編を収録し、何れも1995(平成7)年から1997(平成9)年にかけて発表された作品で、作者によれば「奇蹟」をモチーフにしたものを集めたとのことです。

井上ひさし2.jpg 直木賞の選評を見ると、8人の選考委員のうち田辺聖子、黒岩重吾、井上ひさし、五木寛之の各氏が◎で、他の委員も概ね推している印象ですが、故・井上ひさしが、「高い質を誇っていた」と評価しつつも、「8つの短編が収められているが、内4つは大傑作であり、残る4つは大愚作である」とし、「大傑作群に共通しているのは、"死者が顕われて生者に語りかける"という趣向」であると指摘しているのが興味深いです(「この趣向で書くときの作者の力量は空恐ろしいほどだ」とも述べている)。

 "死者が顕われて生者に語りかける"作品となると、冒頭の、鉄道員の男のもとへ亡き娘の甦りとも思える少女が現われる「鉄道員」と、ポルノショップの店長である主人公に、自分との偽装結婚の末に亡くなった戸籍上の妻で出稼ぎ外国人の白蘭という女性が、手紙を通してまだ見ぬ夫である自分への想いを語る「ラブ・レター」、海外配転が決まったサラリーマンの主人公が、40年前自分が幼い頃に自分を捨てた父親と歌舞伎町で再会する「角筈にて」、子どもの頃に肉親を亡くして身寄りが無くなり、薬剤師となって医師と結婚した主人公が、嫁いだ先で夫の親族に苛められているところへ亡くなった祖父が現われ、主人公の力になるという「うらぼんえ」の4つということになるのでしょうか。

 文庫解説の北上次郎氏が、この短編集を「すごくよかった」と言う人が「鉄道員」「ラブ・レター」「角筈にて」「うらぼんえ」の4派に分かれるとし、それを派ごとの主張争いに模して解説していますが、そもそもこの4作品が選ばれていることが、故・井上ひさしの"死者が顕われて生者に語りかける"作品という指摘と合致しているように思いました。

 それ以外の作品はどうかと言うと、ややベタが過ぎたり気味悪かったりして、やはり個人的もこの4つかなあと。更に自分の好みを言えば、「ラブ・レター」はやはりベタ過ぎる印象があるし(北上次郎氏は女性読者には好評な作品としている)、上手さから言えばやはり「鉄道員」になるのかなあ。これだって、斎藤美奈子氏に言わせれば、「怪談、死んだ娘だから父に優しい(生きていたらグレてる)」ということになるのであって、直木賞選考委員の中にも阿刀田高氏のように、「悪くはないけれど、あまりにも型通りで、涙腺をふくらませながらも、こんなことで泣けるかと、しらけるところなきにしもあらず」ということにもなるのかも(考えてみればすべて乙松の頭の中で起きたこととも取れるし)。

鉄道員  02.jpg 「鉄道員」は降旗康男監督、高倉健主演で映画化されましたが('99年/東映)、昔劇場で観た、同じ降旗康男監督、高倉健主演の「駅 STATION」('81年/東映)が、倉本聰が高倉健のために書き下ろした脚本だったためか、何だか高倉健のプロモーション映画みたいで、日本映画ワースト・テンに名を連ねることも多く、個人的にも、自殺した円谷選手の遺書のナレーションを映画の中で使うことなどに抵抗を感じ、いいと思えませんでした(小谷野敦氏が「日本語をローマ字読みしてくっつけた作品のタイトルはダサい」と言っていた(『頭の悪い日本語』('14年/新潮新書))。先にそのイメージと何となくあって、結局「鉄道員」の方は劇場で観ることはなく、テレビがビデオで観たように思います。

鉄道員 志村けん.jpg 原作が短編なので、志村けんが酒癖の悪い炭坑夫として出て来きて炭鉱事故で亡くなる話や、その息子が成長してイタリアへ料理修業に行く話など、原作に無いエピソードで膨らませている部分はありますが、原作の持ち味(ひとことで言えば気持よく泣けるということか)はまずまず保たれていたのではないでしょうか。志村けん志村けん.jpg自宅の留守番電話に主演の高倉健直々の出演依頼のメッセージが入っていて驚いたとのこと。志村けんが俳優として映画出演したのは、ドリフターズの付き人時代に志村康徳名義で端役出演した「ドリフターズですよ!冒険冒険また冒険」('68年/東宝)、「ドリフターズですよ!特訓特訓また特訓」('69年/東宝)の2作以外ではこの作品のみとなります(志村けんは山田洋次監督の「キネマの神様」に菅田将暉とダブル主演の予定だったが、'20年に新型コロナウイルスによる肺炎で急逝したため叶わなかった)

鉄道員 02.jpg これも一歩間違えばどうしようもない映画になりそうなところを、高倉健をはじめとする俳優陣の演技力で強引に持たせていたという感じがします。実際、日本アカデミー賞の主要7部門のうち、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞(高倉健)、主演女優賞(大竹しのぶ)、助演男優賞(小林稔侍)の6部門を受賞していて、高倉健主演映画で、主要7部門中"6冠"達成は山田洋次監督の「幸福鉄道員 大竹しのぶ.jpgの黄色いハンカチ」('77年/松竹)以来ですが、「幸福の黄色いハンカチ」の方は第1回日本アカデミー賞ということもあって、監督賞や脚本賞は「『男はつらいよ』シリーズ」との合わせ技でした(因みに、「駅 STATION」も作品賞、脚本賞、主演男優賞を獲っている)。「鉄道員」で獲らなかったのは助演女優賞だけで、これは広末涼子のパートになるかと思いますが、その広末涼鉄道員  s.jpg子さえも、けっして上手いとは言えませんが、そう悪くもなかったように思います(最優秀賞の候補にはなっている)。大竹しのぶは流石に上手ですが、やはりこの映画は高倉健なのでしょう(高倉健は'99年モントリオール世界映画祭で主演男優賞受賞)。「駅STATION」の頃より年齢を重ねて良くなっていて、これなら泣ける? 泣けるかどうかと評価はまた別だとは思いますが。降旗康男監督、高倉健のコンビは2年後に再タッグを組み「ホタル」('01年/東映)を撮りますが、こちらも日本アカデミー賞で13部門ノミネートされ、高倉も主演男優賞にノミネートされましたが、後輩の俳優に道を譲りたい」として辞退しています。

「鉄道員(ぽっぽや)」●.jpg鉄道員 s.jpg「鉄道員(ぽっぽや)」●制作年:1999年●監督:降旗康男●脚本:岩間芳樹/降旗康男●撮影:木村大作●音楽:国吉良一(主題歌:坂本美雨「鉄道員」)●原作:浅田次郎●時間:112分●出演:高倉健/大竹しのぶ/広末涼子/吉岡秀隆/安藤政信/志村けん/奈良岡朋子/田中好子/小林稔侍/大沢さやか/安藤政信鉄道員  1s.jpg/山田さくや/谷口紗耶香/松崎駿司/田井雅輝/平田満/中本賢/中原理恵/坂東英二/きたろう/木下ほうか/田中要次/石橋蓮司/江藤潤/大沢さやか●公開:1999/06●配給:東映(評価★★★☆)
    
高倉健、小林稔侍、田中好子(1956-2011)  大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子
鉄道員 高倉健、小林稔侍、田中好子.jpg 鉄道員 大竹しのぶ、高倉健、奈良岡朋子.jpg
吉岡 秀隆            撮影の合間に談笑する志村けんと高倉健
鉄道員 吉岡 秀隆1.jpg撮影の合間に談笑する志村けんと高倉健.jpg


「駅 STATION」●.jpg駅station dvd.jpg「駅 STATION」●制作年:1981年●監督:降旗康男●製作:田中寿一●脚本:倉本聰●撮影:木村大作●音楽:宇崎竜童(主題歌のみ坂本龍一)●時間:132分●出演:高倉健/倍賞千恵子/いしだあゆみ/岩淵建/名古屋章/大滝秀治/八木昌子/池部良/潮哲也/寺田農/渡会洋幸/高駅station 01.jpg橋雅男/榎本勝起/烏丸せつこ/田中邦衛/竜雷太/小林念侍/根津甚八/宇崎竜童/北林谷栄/藤木悠/永島敏行/古手川祐子/今福将雄/名倉良/平田昭彦/阿藤海/室田日出男●公開:1981/11●配給:東宝●最初に観た場所:テアトル池袋(82-07-24)(評価★★☆)●併映:「泥の河」(小栗康平)
駅 STATION [DVD]
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駅 STATION 池部良.JPG 駅station 06.jpg 駅Station 大滝秀治2.jpg
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【2000年文庫化[集英社文庫]/2004年再文庫化[講談社文庫(『鉄道員/ラブ・レター』)]/2013年文庫化[集英社みらい文庫]】

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片岡千恵蔵の真田昌幸、萬屋錦之介の徳川家康、高峰三枝子の淀君。超豪華「B級」時代劇。

真田幸村の謀略ps.jpg 真田幸村の謀略ns.jpg 真田幸村の謀略 1979.jpg 真田幸村の謀略 松方.jpg
「真田幸村の謀略」チラシ・ポスター・パンフレット/「真田幸村の謀略 [DVD]」松方弘樹(1942-2017/享年74

真田幸村の謀略O.jpg 慶長15年、天下統一を図る家康(萬屋錦之介)は、大坂城の豊臣秀頼(小倉一郎)一党を討つための準備を進めている。一方、真田昌幸(片岡千恵蔵)・幸村(松方弘樹)父子も九度山で戦いの決意を固めていたが、昌幸は家康の間者に殺害され、幸村の妻・綾(萩尾みどり)は自刃を遂げる。幸村は穴山小助(火野正平)のみ残して他の家臣を上田城へ帰し、家康側についた兄・信幸(梅宮辰夫)と決別、亡父の遺志を継ぎ、家康の首をとる決心をする。家康の送った服部半蔵(曽根晴美)に殺された戸沢白雲斎(浜村純)の残した人名帖から、猿飛佐助(あおい輝彦)、霧隠才蔵(寺田農)、海野真田幸村の謀略 00.jpg六郎(ガッツ石松)、望月六郎(野口貴史)、筧十蔵(森田健作)、由利鎌之助(岩尾正隆)、根津甚八(岡本富士太)、三好伊三入道(真田広之)、三好清海入道(秋野暢子)などの草の者を集める。フランキー砲試射を見に来る家康を暗殺するために幸村と十勇士は出発するが、計画を見抜いた家康配下の半蔵の忍者部隊に幸村は片目を射抜かれる。家康は幸村達を豊臣が雇っ真田幸村の謀略 02.jpgた牢人と決めつけ、豊臣氏に叛逆の意図ありと口実を作り、徳川連合軍40万を大坂へ向けて進撃、1614年10月大坂冬の陣が始まる。報償金目当ての者、ひと旗上げようとする者が大坂に集まり、幸村と十勇士も大坂へ向かう。大坂城では徳川を迎え打つ軍議が開かれ真田幸村の謀略 38.jpg、籠城を主張する豊臣譜代衆と、野戦を主張する幸村達牢人衆が対立するが、淀君(高峰三枝子)の一言で籠城と決定、幸村は鉄壁の出城「真田丸」を作る。幸村は、小助に天竺渡来の麻薬を持たせ遊女たちと共に前田軍に送り込んで前田軍を骨抜きにし、翌日の合戦で真田軍が圧勝する。家康は和議の交渉を進め、フランキー砲の偶発に驚愕した淀君も和議に応じてしまうが、和議が済むと家康は大坂城の堀を埋めつくし、裸同然の無防備な城に一変させてしまう。そして、1615年4月大坂夏の陣が始まる―。

真田幸村の謀略 01.jpg 1979(昭和54)年公開の中島貞夫監督による東映"何でもあり"時代劇。冒頭、いきなり夜空から巨大隕石が落下してくる場面があり(「妖星ゴラス」('62年/東宝)かと思った真田幸村の謀略71.jpgけれど、映画会社が違ったか)。この星に乗ってやってきたのがどうやら猿飛佐助だったらしく、最後は独りまた宇宙へ帰っていきます。超能力が使えるならばそれをもっと使えばいいのに、刀や徒手空拳で東映時代劇の殺陣の流儀に沿って闘っているというのもおかしいし、と思ったら、「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」と思い出したように九字を切る(とても宇宙から来たとは思えない)―という具合に、突っ込みどころは多く、穿った見方をすれば、そうした突っ込みどころを愉しむ映画なのかもしれません。

真田幸村の謀略 608.jpg真田幸村の謀略19.jpeg その外にも、真田昌幸(片岡千恵蔵)が、家康の間者が放った猫にひっかかれて死んでしまったり(猫の爪に毒が塗ってあった)、三好清海入道が朝鮮から連れてこられた姫君で切支丹のジュリアおたあ(秋野暢子)の変名であって、しかも真田幸村の謀略 0259.jpg加藤清正(丹波哲郎nXnh.jpgテレパシスト能力を有し、人の心を読み取ることが出来るという設定になっいていたり(三好清海入道の弟・三好伊三入道役は真田広之)、幸村が敵に片目を射抜かれて途中から"独眼竜政宗"みたいに眼帯をしていたり、加藤三好伊三入道(真田広之).jpg真田幸村の謀略ド.jpg清正(丹波哲郎)が大阪城内の座敷牢みたいなところでトラを飼っていたり...。幸村が十勇士だけ引き連れて徳川の大軍と戦っているのも非現実的ですが、極めつけはラストで、幸村が家康との一騎打ちの末その首を刎ね、家康の首が空高くぶっ飛びます(公開当時は「家康の首が50メートル飛ぶ!」という宣伝がなされていた)。

片岡千恵蔵(真田昌幸)/秋野暢子(三好清海入道)/松方弘樹(真田幸村)/丹波哲郎(加藤清正)/真田広之(三好伊三入道)

真田幸村の謀略 pannhu.jpg こうした荒唐無稽な内容でありながらも、ベースはNHK大河ドラマ「真田丸」などでもお馴染みの展開であり(ある意味、ラストの家康の死を除いては、後の「将軍家光の乱心 激突」('89年/東映)などよりは"史実逸脱度"は低いかも)、その「真田丸」もしっかり作られ、合戦シーンはかなり大掛かりなものとなっています。そして何よりも、片岡千恵蔵「真田幸村の謀略」横尾1.jpgの昌幸、萬屋錦之介の家康、高峰三枝子の淀君と、配役が超豪華です(思えば、片岡千恵蔵が「赤穂浪士」('61年/東映)で大石内蔵助を演じた時に松方弘樹はその息子の大石主悦役で出ており、当時18歳で映画デビュー2作目だった)。また、十勇士が初登場する際にストップ・モーションとなってイラスト化されますが、そのイラストを描いているのは横尾忠則です。

真田幸村の謀略   .jpg 難点の1つは、その十勇士達の個性がそれほど活かされておらず、真田の郷にいる時でも訓練行動の時から同じようなユニフォームで動き回っていて、何だかレインジャー部隊にしか見えない点でしょうか。正直、後でスチール写真で誰が誰だったか確認した次第(「将軍家光の乱心 激突」のように千葉真一こそ出ていないが、JACの面々は出ているみたい)。ただ動き回っているだけで、あまり演技させてもらっていない俳優達が可哀そうです。強いて言えば、三好清海入道を女性にしたことで、秋野暢子にドラマ部分を担わせた印象もありますが、これもちょっと弱かったか。別に難点は1つではなく、他に難点はと言われれば幾つでもありますが、むしろ突っ込みどころがあり過ぎてコメントし辛いという、超豪華「B級」時代劇、といった感じの作品でした。

 因みに、この作品で徳川家康を演じた萬屋錦之介は、13年前の1966(昭和41)年のTBS連続ドラマ「戦国太平記 真田幸村」(全52回)では真田幸村を演じており(当時、中村錦之助)、真田幸村を演じた松方弘樹(1942-2017)は、19年後の1998(平成10)年1月2日にテレビ東京で放送された12時間超ワイドドラマ「家康が最も恐れた男 真田幸村」でも真田幸村を演じています。

真田幸村の謀略 title.jpg「真田幸村の謀略」●制作年:1989年●監督:中島貞夫●特撮監督:矢島信男●脚本:笠原和夫/松本功/田中陽造/中島貞夫●撮影:赤塚滋●音楽:佐藤勝●時間:148分●出演:松方弘樹/寺田農/あおい輝彦/ガッツ石松/野口貴史/森田健作/火野正平/岩尾正隆/岡本富士太/真田広之/秋野暢子/片岡千恵蔵梅宮辰夫/萩尾みどり/北村英三/村居京之輔/和田昌也/橘麻紀/谷川みゆき/浜村純/丹阿弥谷津子/小泉美由記/木村英/岡麻美/田中みき/市川好朗/志茂山高也/勝野賢三/タンクロウ/萬屋錦之介/小坂和之/進藤盛裕/茂山千五郎/金子信雄/香川良介/小林昭二/林彰太郎/江波杏子/川浪公次郎/壬生新太郎/曽根晴美/笹本清三/春田純一/福本清三/大矢敬典/木谷邦臣/平河正雄/奔田陵/志賀勝/丸平峰子/小峰隆司/池田謙治/司裕介/畑中伶一/山田良樹/藤沢徹夫/平沢彰/唐沢民賢/波多野博/阿波地大輔/宮城幸生/大城泰/秋山勝俊/高並功/泉好太郎/五十嵐義弘/小倉一郎/高峰三枝子/上月左知子/桜町弘子/松村康世/富永佳代子/星野美恵子/森愛/戸浦六加藤清正(丹波哲郎mN.jpg真田幸村の謀略 梅宮.jpg宏/梅津栄/野口元夫/白井滋郎/疋田泰盛/土橋勇/成田三樹夫/遠藤征慈/宮内洋/丘路千/中村錦司/丹波哲郎●公開:1979/09●配給:東映(評価:★★☆) 


丹波哲郎(トラに餌をやる加藤清正)/梅宮辰夫(徳川家康陣中の真田信幸)


中島貞夫.jpg中島貞夫(なかじま・さだお)映画監督。2023年6月11日死去(88歳没)
京都・太秦の東映京都撮影所を拠点に活躍し、63本もの監督作品を生むなど、京都映画界の顔だった映画監督。東京大文学部卒後、東映に入社。「日本映画の父」と呼ばれた牧野省三の息子であるマキノ雅弘、今井正両監督らに師事し、64年に「くノ一忍法」で監督デビューした。菅原文太主演の「木枯し紋次郎」(72年)などの時代劇、「日本の首領(ドン)」シリーズなどのヤクザ映画など数多くの作品を手がけた。近年は京都国際映画祭で映画の振興に尽力し、立命館大学の客員教授も務めた。他の代表作に「真田幸村の謀略」「制覇」「序の舞」「瀬降り物語」など。

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石原慎太郎の脚本監修。意外と素直な高校生よりは、併映の"エビラ"の方がインパクトあった?

これが青春だ.jpg これが青春だ! vhs.jpg これが青春だ! 1シーン.jpg  これが青春だ! シネマヴェーラ渋谷.jpg
「これが青春だ!」ポスター/VHS(絶版)['66年/カラ―]/2009年「シネマヴェーラ渋谷」再映時チラシ

これが青春だ 夏木陽介.jpg 森山高校に赴任してきた由木(夏木陽介)は型破りの熱血漢。授業では教科書を使わず、職員室では歯に衣着せぬ物言いで教師たちを驚かせる。生徒からの人気はうなぎ上りで、女生徒達は次々と由木に熱を上げる始末。そんな中、部員の成績悪化で廃部寸前のラグビー部を救うため、由木は奮闘するのだが―。(「シネマヴェーラ渋谷」2009年再映時のチラシより)
    
青春とはなんだ2.jpg青春とはなんだ 1.jpg 日本テレビ系で1965年10月から翌年11月まで放送されていたテレビドラマ「青春とはなんだ」を映画化したものです。テレビドラマ版は当時まだ白黒で、映画「これが青春だ!」はカラーであり、ドラマの監督をしていた松森健(1928-2016)の初映画監督作品です(主演もドラマと同じく夏木陽介、役名は野々村健介だったのが映画では由木真介となった)。因みに、ドラマの原作は石原慎太郎の同名小説であり、テレビドラマ放送青春とはなんだ 石原慎太郎3.jpg開始の3カ月前に舛田利雄監督、石原裕次郎主演で「青春とはなんだ」('65年/日青春とはなんだps.jpg活)として映画化されています。そのため、東宝映画の方は「青春とはなんだ「青春とはなんだ」映画.jpg」という既に日活で使われたタイトルではなく、「これが青春だ!」になったものと思われます。映画脚本はドラマのメインライターだった須崎勝弥、映画では石原慎太郎は"脚本監修"となっています(ドラマの方も好評のため延長となった第3クール第27話からは原作を離れたオリジナル・ストーリーになり、石原慎太郎は"脚本監修"となっている)。 『青春とはなんだ (1965年)
映画「青春とはなんだ」('65年7月/日活)石原裕次郎/十朱幸代/太田博之
     
これが青春だ tv.jpgこれが青春だ 竜雷太.jpg 1966年11月からは、学園ドラマシリーズの第2弾として竜雷太主演(夏木陽介が映画出演でテレビの方に出られなくなったための抜擢)の「これが青春だ」がスタートしており(「竜雷太」の芸名は、このドラマの役名「大岩雷太」から付けた)、何だかややこしいですが、こっちは"ラグビー部"ではなくて"サッカー部"が舞台になっています。"ラグビー部"が舞台の映画のタイトルは「これが青春だ!」と最後に"!"がつきますが、"サッカー部"が舞台の竜雷太主演のテレビ版「これが青春だ」には"!"がつきません。

 映画の内容としては、森山高校の生徒と隣町との高校の番長(黒沢年男)グループとの争いが、「学ランのボタン狩徳光和夫 .jpgり」というのが時代を感じさせ(まるでイヴ・ロベールの「わんぱく戦争」('61年/仏)か)、結局最後は由木が間に入って両校のラグビー試合で決着をつけさせることにしたというのが、話が旨く出来過ぎているような気もしますが...(因みにTVドラマ「青春とはなんだ」の最終回もラグビー対決で、日テレ入社3年目の徳光和夫アナ(当時26歳)が実況中継をしている)。

『これが青春だ!』香代(演:酒井和歌子).jpg酒井和歌子_10.jpgこれが青春だ! 酒井和歌子.bmp 無理やりスナック勤めをさせられている相手高校の女生徒・香代を酒井和歌子が演じていて、実年齢も17歳と初々しく、この映画の第2弾とも言える松森健監督、夏木陽介主演の「でっかい太陽」('67年/東宝)でも、同じように相手高校の女子高生役で出ています(こちらも、「青春とはなんだ」酒井.jpg飛び出せ! 青春_3.jpg今度はラグビー試合ではなく"サッカー"対決で決着を図るという、競技種目を変えただけの鉄壁のワンパターン)。因みに酒井和歌子は、テレビ版では「青春とはなんだ」の 第13話「危険な年輪」の1話のみにやはり女子高生役で登場、6年後の村野武範主演の「飛び出せ!青春」(1972年2月-1973年2月)では教師役で準主演としてレギュラー出演しています。
「青春とはなんだ」 第13話「危険な年輪」(1966年1月16日)/「飛び出せ!青春」1972年2月-1973年2月)
酒井和歌子青春ドラマ.jpg


ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘 これが青春だ.gif「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」6.jpg 「これが青春だ!」は布施明の歌うテーマソングもヒットしましたが、正月映画として公開された当時の併映が「ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘」('66年/東宝)というのが凄かった気がします。一見反抗的に見えて意外と素直な面が多く見られた高校生らよりは、南海の暴れん坊"エビラ"の方がインパクトあったかも?

豊浦美子1.jpg勝子(岡田可愛)と順子(豊浦美子).jpg 尚、この映画に出ていた野村美子役の豊浦美子(同じ松森健監督の「空想天国」('68年/東宝)にも社長令嬢役で出演している)は、ドラマの中でも女子高生・山下順子役で松井勝子役の岡田可愛と共に人気を二分しますが、高校生役を演じながら実は当時22歳でした(まあ、TVドラマ「柔道一直線」('69~'71年/TBS)で近藤正臣は27歳で高校生を演じているが)。
菱見百合子2.jpg
岡田可愛/豊浦美子

 豊浦美子はその頃、「ウルトラセブン」('67~'68年/TBS)のアンヌ隊員役としてキャスティングされ撮影にも入っていましたが、「クレージーの怪盗ジバコ」('67年/東宝)に浜美枝と共に準主演級で出演することが決まり、東宝においては1期後輩にあたる菱見百合子(右)にアンヌ隊員の役が「代役」として転がり込んだとのことです。

iこれが青春だ!パンフ.jpg「これが青春だ!」(映画)●制作年:1966年●監督:松森健●製作:森田信●脚本:須崎勝弥●脚本監修:石原慎太郎●撮影:西垣六郎●音楽:いずみたく●主題歌「若い明日」歌:布施明(作詞:岩谷時子/作曲・編曲:いずみたく)●時間:92分●出演:夏木陽介/藤山陽子/団令これが青春だ!佐藤充.jpg子/佐藤允/黒沢年男/三木のり平/藤木悠/十朱久雄/田中春男/南都雄二/早崎文司/豊浦美子/岡田可愛/土田早苗/酒井和歌子/矢野間啓治/木村豊幸/関戸純方/柴田昌宏/大沢健三郎/井上これが青春だ! 映画1966 2.JPG博之/馬場添良一/布施明●公開:1966/12●配給:東宝 (評価:★★☆)●併映:「ゴジラ・エこれが青春だ! 映画1966 3.JPGビラ・モスラ 南海の大決闘」(本多猪四郎) 映画「これが青春だ!」パンフレット  

青春とはなんだ (1967年) (ロマン・ブックス)』/重版      
青春とはなんだ (1967年).jpg春とはなんだ    石原慎太郎  重版.jpg「青春とはなんだ」(テレビドラマ).jpg青春とはなんだ.jpg「青春とはなんだ」(テレビドラマ)●演出:松森健/出目昌伸/児玉進/高瀬昌弘●制作:岡田晋吉/中根敏雄/酒井知信●脚本:井手俊郎/須崎勝弥/浅川清道/田波靖男/倉本聰●音楽:いずみたく●主題歌「若い明日」歌:布施明(作詞:岩谷時子/作曲・編曲:いずみたく)●原作:石原慎青春とはなんだ 加東大介.jpg青春とはなんだ 藤山陽子.jpg青春とはなんだ「マーガレット」昭和40年21号.jpg郎(第27話以降は脚本監修)●出演:夏木陽介/藤山陽子/藤岡琢也/三遊亭金馬/名古屋章/加東大介/久保菜穂子/平田昭彦/十朱久雄/有島一郎/三井弘次/寺田農/豊浦美子/土田早苗/岡田可愛/矢野間啓治/木村豊幸/杉本哲章/藤木悠/十朱久雄/田崎潤/藤原釜足/寺田農●放映:1965/10~1966/11(全41回)●放送局:日本テレビ

「青春とはなんだ」(「マーガレット」1965(昭和40)年21号の表紙から)夏木陽介/藤山陽子/矢野間啓治/木村豊幸/岡田可愛/豊浦美子

夏木陽介 in「宇宙大怪獣ドゴラ」('64年/東宝)/「三大怪獣 地球最大の決戦」('64年/東宝)with 若林映子
夏木ドゴラ0.jpg 夏木「三大怪獣 地球最大の決戦」61.jpg

これが青春だ6.jpgこれが青春だ tvドラマ.jpg「これが青春だ」(テレビドラマ)●演出:松森健/児玉進/小松幹雄/竹林進/土屋統吾郎●制作:大木亀雄/岡田晋吉●脚本:須崎勝弥/田波靖男/倉本聰/井手俊郎●音楽:いずみたく●主題歌:布施明「これが青春だ」(作詞・岩谷時子/作編曲・いずみたく)●出演:竜雷太/岡田可愛/松本めぐ/木村豊幸/矢野間啓治/藤山陽子/結城美栄子/寺田農/沢村貞子/藤木悠/三井これが青春だ (1967年) 0_.jpgこれが青春だ tvテーマ.jpg弘次/西村晃/弓恵子/北島マヤ/堺駿二/渚健二/柏木由紀子/名古屋章/十朱久雄/寺田農●放映:1966/11~1967/10(全39回)●放送局:日本テレビ

これが青春だ (1967年)
これが青春だ~青春ドラマ テーマソング大全

木村豊幸/松本めぐみ/竜雷太/岡田可愛

 
松本めぐみ/加山雄三        松本めぐみ in「ズバリ!当てましょう」
松本めぐみ・加山雄三.jpg松本めぐみ ズバリ!当てましょう.jpg

松本めぐみ:1970年9月4日、「エレキの若大将」(1965年)で共演した加山雄三とロサンゼルスで結婚、それを機に芸能界を引退。

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薀蓄やテクニックだけではなく、ドラマ的にも結構面白かったが...。

ドラゴン桜 13.jpg ドラゴン桜 14.jpg ドラゴン桜15.jpg ドラゴン桜16.jpg ドラゴン桜17.jpg ドラゴン桜18.jpg ドラゴン桜19.jpg ドラゴン桜20.jpg ドラゴン桜21.jpg ドラゴン桜 ドラマ1.jpg テレビドラマ「ドラゴン桜」
ドラゴン桜 |モーニングKC [コミックセット])』 (全21巻)

 '03(平成15)年から'07(平成19)年まで講談社の「モーニング」に連載された作品で、'05(平成17)年度・第29回「講談社漫画賞」並びに第9回「文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞」受賞作。'05(平成15)年にTVドラマ化もされましたが、自分にとって直接関わるテーマに思えなくて(画も上手だとは思えないし)第1巻だけ買ってずーっと読まずにいて、ドラマも1度も見ずにいたのが、連載終了を機に全巻まとめ買いして読んでみたら、当初のそれほど期待していなかった予想と違って結構面白かったです。

 主人公の男女2人の高校生は教師・桜木と出会ってひょんなことから受験生としては殆ど"無"の状態で1年後の東大受験を目指すことになり、最初から東大受験のノウハウ、薀蓄がだーっと出てきてやや圧倒されましたが、先月('09年3月)退官した東大の小宮山総長が以前から「知識の構造化」の重要性を説いており、実際、東大の入試問題は、詰め込みの知識ばかりを問うのではなく、それを構造化する"知恵"のようなものを求めているのだということがこのマンガでよくわかりました。

 ただ、どこまで自分の社会人としての勉強法に取り込めるかと思うとやや消化不良気味で、このままテクニック・オンリーで最後までいくのはキツイなあと思いながら、それでも教師・桜木の断定的な物言いと周囲との確執などに引き込まれて読んでいると、後半部分は2人の受験生の精神面の問題に重点が移行し、それがそのまま2人の成長物語になっているという―たまたま選ばれた2人に発奮する要因がそれなりに内包されていたというのがマンガの"お約束ごと"であるにせよ、何故ヒトは勉強するのかといった問題にまで踏み込んでいて、ドラマ的にも良く出来ていると思いました。

 巻が進むにつれて、このマンガの人気が出たせいか、教育関係者に限らず色々な分野の人のアドバイスが挿入されていますが、受験産業の業界人パブリシティみたいなものも少なからずあり、便乗商法ではないかとちょっと邪魔っ気に感じたりもしました。

  '04年に同じく講談社のマンガ雑誌で連載がスタートした『もやしもん』が'08年の「手塚治虫文化賞」(朝日新聞社主催)のマンガ大賞を受賞し、薀蓄マンガは(身内の賞である「講談社漫画賞」を除いては)賞に縁が無いのか思っていたらそうでもないのかと。
 でも『ドラゴン桜』はテーマもテーマだし...と思ったら、既に'04年に「文化庁メディア芸術祭マンガ部門」の優秀賞を受賞していました(文化庁も"便乗"した?)。

 諦めかけている受験生をやる気にさせるという意味ではいいマンガかも知れませんが(親がやる気になって変な期待を抱いてしまう?)、桜木のような教師に巡り逢えない生徒は多いと思うし、このマンガでやっているのは、学校の授業の時間帯を全て(更に通常の時間帯を超えて)塾講師の講義に置き換えているようなものです。
 そこに作者の学校教育に対する批判が込められているとも言えますが、(文化庁は文部科学省の外局であるけれども)文科省はこのマンガをどう捉えているのだろうか。

 '05(平成17)年にTBSでドラマ化されましたが、連載が完結しないうちのドラマ化であったためか、原作における2人の中心的な生徒の外に何人かの原作に無い生徒の人物造型があって、教師とそれら生徒たちとの人間関係や葛藤が更に前面に出ているため(「金八先生」を意識したのか?)、「受験蘊蓄」的な要素はかなり薄まっています。

ドラゴン桜2.jpgドラゴン桜 ドラマ.jpg「ドラゴン桜」●演出:塚本連平/唐木希浩●制作:遠田孝一/清水真由美●脚本:秦建日子●音楽:仲西匡●原作:三田紀房「ドラゴン桜」●出演:阿部寛/長谷川京子/山下智久/長澤まさみ/中尾明慶/小池徹平/新垣結衣/サエコ/野際陽子/品川徹/寺田農/金田明夫●放映:2005/07~09(全11回)●放送局:TBS 

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振り切ってきた過去へのノスタルジーに満ちた「祭りの準備」。大谷直子が鮮烈な「肉弾」。

祭りの準備.jpg 祭りの準備  タイトル.jpg  肉弾.jpg 肉弾 大谷直子3.jpg
祭りの準備 [DVD]」(監督:黒木和雄)          「肉弾 [DVD]」 (監督:岡本喜八)

黒木和雄.jpg中島丈博.jpg 「祭りの準備」('75年/ATG)は、昭和30年代の高知を舞台に、1人の青年がしがらみの多い土地の人間関係に圧迫されながらも巣立っていく姿を描いた青春映画で、主人公(江藤潤)が信用金庫に勤めながらシナリオライターになることを夢見ていることからも窺えるように、原作は中島丈博の自伝的小説であり、監督は'06年に亡くなった黒木和雄です。
祭りの準備 DVDカバー.jpg
黒木和雄(1930‐2006/享年75)/中島丈博

映画チラシ 黒木和雄「祭りの準備」.jpg 「青春映画」とは言え青春の真只中でこの作品を観ると、あまりにどろどろしていて結構キツいのではないかという気もしましたが、このどろどろ感が中島丈博の脚本の特色とも言えます。

 父親(ハナ肇)は女狂い、祖父(浜村純)はボケ老人、母親(馬渕晴子)は主人公の青年を溺愛し、彼は二十歳にしてそこから逃れられないでいて、心の恋人(竹下景子)も片思いの対象でしかなく、結局、男達の性欲の捌け口となっている狂った女(桂木梨江)と寝てしてしまうが、その女が妊娠したらしいことがわかる―。 映画チラシ 黒木和雄「祭りの準備」

祭りの準備00.jpg祭りの準備2.jpg 青年がシナリオを書くとセックス描写が頻出し、左翼かぶれの"心の恋人"に「労働者階級をもっときちんと描くべきで、どうしてセックスのことばかり書くの」となじられる始末。そのくせ、彼女はオルグの男性にフラれると、宿直中の青年に夜這いして来て、そこで小火(ボヤ)事件が起きてしまうという、青年同様に彼女自身、青春の混沌の中でちょっと取りとめが無い状態になっています。

祭りの準備図0.jpg こんな状況から脱したいという青年の気持ちがよく分かり、その旅立ちを駅のホームで列車に伴走しながら万歳して見送る、青年の隣家の泥棒一家「中島家」の次男で殺人の容疑をかけられ逃亡の身の男「中島利広」を演じているのが原田芳雄(1940-2011)で、冬物語2.gif役柄にしっくり嵌っていい味を出しています(この俳優を渋いなあと最初に思ったのは映画ではなくテレビで観た「冬物語」('72年~'73年/日本テレビ)というメロドラマだった。恋人役は浅丘ルリ子、ふられ役は大原麗子)。

「冬物語」('72年~'73年)浅丘ルリ子・原田芳雄

 創作の要素はあるとは言え、この「祭りの準備」という映画には、原作者(中島丈博)が過去に振り切ってきた諸々に対するノスタルジーが詰まっている感じがします(東京への"脱出"行を果たした江藤潤と、それが出来ないでいる原田芳雄という対比構造になっている)。
竹下景子 in 「祭りの準備」(1975)[下写真]
祭りの準備3.jpg 祭りの準備 竹下景子.jpg 祭りの準備 図1.jpg
竹下景子 (たけしたけいこ) 1953年9月15日生まれ.jpg 竹下景子(1953年生まれ、当時22歳)の映画デビュー2作目、主演級は初で、桂木梨江(1955年生まれ、当時20歳)も映画デビュー2作目。この作品は竹下景子のヌードシーンで話題になることがありますが、主人公の青年に夜這いした際の下着姿と引き続く火事の炎の向こうにチラッと見える全裸(半裸?)姿程度で(この頃の彼女は結構コロコロ体型、よく言えばグラマラスだった)、この後清純派で売り出し、"お嫁さんにしたい桂木梨江 祭りの準備.jpg女性No.1"などと言われたために以降全くスクリーン上では脱がなくなり(「天の花と実」('77年/テレビ朝日)ではヌードを拒否した)、そんな経緯もあって「祭りの準備」のこのシーンの付加価値が出たのかも? むしろ、この作品で大胆なヌードを見せたのは「中島家」の末娘で男達の性欲の捌け口となっている狂女を演じた桂木梨江の方で、彼女はこの演技で第18回ブルーリボン賞新人賞、第49回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞にノミネートされています。
桂木梨江/原田芳雄 in 「祭りの準備」(1975)
映画「純」 横山博人 江藤潤 ポスター.jpg純 江藤潤DVD.jpg 主演の江藤潤(1951年生まれ)も、映画初主演の割には良い演技をしていたように思います。その後も、「帰らざる日々」('78年/日活)、「純」('80年/東映セントラルフィルム)などの作品に出演していますが、主演の「純」は東映出身の横山博人監督の第一回作品で、'78年4月に完成したものの国内公開の目途の立たぬまま翌年度のカンヌ映画祭に出品され、新人監督の登竜門「批評家週間」オープニング上映作品に選出され、以後、ロンドン映画祭、ロサンゼルス映画祭に招待されるなど高い評価を得ため、'80年に一般公開となったという作品。

映画 「純」朝加真由美.jpg 長崎の軍艦島から漫画家を志望して上京し、遊園地の修理工場で働いている主人公の二十歳の松岡純(江藤潤)は、恋人がいながらその手さえ握らず、通勤電車の中で痴漢行為に耽ける―漫画家を志望で軍艦島から東京に出てきたというところが、脚本家志望で高知・四万十から都会へ行こうとする「祭りの準備」の主人公と似ていますが、ラストまでのプロセスが観ていて気が滅入るくらい暗くて(痴漢行為に耽っているわけだから明るいはずはないが)、脇を固めている俳優陣は非常にリアリティのある演技をしていたものの、イマイチ自分の肌には合わなかったなあ(リアリティがあり過ぎて?)。江藤潤はやはり「祭りの準備」の彼が良かったように思います(「純」はどうして海外でウケたのだろう。外国人には痴漢が珍しいのかなあ。そんなことはないと思うが、クロード・ガニオン監督の「Keiko」('79年/ATG)でも冒頭に痴漢シーンがあった)。

大谷直子 in 「肉弾」(1968)[下写真]
『肉弾』(監督 岡本喜八)2.bmp 女優のデビュー時乃至デビュー間もない頃のスクリーン・ヌードという点では、「高校生ブルース」('70年/大映)の関根(高橋)惠子(1955年生まれ、当時15歳)、「旅の重さ」('72年/松竹)の高橋洋子(1953年生まれ、当時19歳)、「十六歳の戦争」('73年制作/'76年公開)の秋吉久美子(1954年生まれ、当時19歳)、「恋は緑の風の中」('74年/東宝)の原田美枝子(1958年生まれ、当時15歳)、「青春の門(筑豊篇)」('74年/東宝)の大竹しのぶ(1957年生まれ、当時16歳)、「はつ恋」('75年/東宝)の仁科明子(亜季子)(1953年生まれ、当時22歳)などがありますが(これらの中では、関根惠子と原田美枝子の15歳が一番若くて、仁科明子の22歳が竹下景子と並んで一番遅いということになる)、個人的には、'05年に亡くなった岡本喜八監督の「肉弾」('68年/ATG)の大谷直子(1950年生まれ、当時17歳)が鮮烈でした。

nikudann vhs.jpg肉弾3.jpg肉弾 寺田農.jpg この「肉弾」という作品は、特攻隊員(寺田農)を主人公に据え(「肉弾」とは「肉体によって銃弾の様に敵陣に飛び込む攻撃」のこと)、戦争の悲劇というテーマを扱っていながら、コミカルで悲壮感を(一応は)表に出していないという変わった映画で、映画肉弾 大谷直子4.jpg自体は、太平洋に漂流するドラム岳の中で魚雷を抱えている(ある意味、既に死んでいる)主人公の回想という形で進行し、主人公が1日だけの外出許可日に古本屋に行くつもりが思わず女郎屋に駆け込んでしまい、そこにいたセーラー服姿の肥溜めに咲いた一輪の白百合のような少女と防空壕の中で結ばれるという、その少女の役が映画初出演の大谷直子でした(その後、NHKの朝の連ドラ「信子とおばちゃん」('69年)でTVデビュー)。

 彼女が全裸で土砂降りの雨の中を走るシーンは衝撃的で、モノクロ映画ゆえに却ってその美しさは印象に残りましたが、かの特攻隊員は、そこで初めて自らが守るべきものを見出し、空襲で彼女が犠牲になったことで復讐心から戦闘意欲に燃え、魚雷と共に太平洋に出るという―これ、岡本喜八ならではのアイロニーなのですが、笑えるようでやっぱり岡本喜八.jpg笑えないなあ。岡本監督はその後も自らと同年代の戦中派の心境を独特のシニカルな視点で描き続けますが、「独立愚連隊」('59年)とこの「肉弾」は、そのルーツ的な作品でしょう。「日本のいちばん長い日」('67年)のようなオールスター大作を撮った後に、私費を投じてこのような自主製作映画のような作品を撮っているというのも凄いことだと思います。

岡本喜八(1924- 2005/享年81) 下:「肉弾」大谷直子  寺田農/笠智衆
肉弾 大谷直子1.jpg 肉弾 大谷直子2.jpg 肉弾 笠智衆5.jpg 
 

祭りの準備es.jpg祭りの準備ド.jpg「祭りの準備」●制作年:1975年●監督:黒木和雄●製作:大塚和/三浦波夫●脚本:中島丈博●撮影:鈴木達夫●音楽:松村禎三●原作:中島丈博●時間:117分●出演:江藤潤/馬渕晴子/ハナ肇/浜村純/竹下景子/原田芳雄/杉本美樹/桂木梨江/石山雄大/三戸部スエ/絵沢萠子/原知佐子祭りの準備 桂木梨江.jpg祭りの準備 竹下景子.jpg/真山知子/阿藤海/森本レオ/斉藤真/芹明香/犬塚弘/湯沢勉/瀬畑佳代子/夏海千佳子/石津康彦/下馬二五七/福谷強/中原鐘子/柿谷吉美●公開:1975/11●配給:ATG●最初に観た場所:飯田橋・ギンレイホール(78-07-25)(評価:★★★★☆)●併映:「サード」(東陽一)
飯田橋ギンレイホールド.jpgギンレイホール.jpg飯田橋ギンレイホール内.jpgギンレイホール 1974年1月3日飯田橋にオープン 2022年11月27日閉館


  
      
 
  

「純」●制作年:1978年●監督・脚本:横山博人●製作:横山博人プロダクション●撮影:「純」dv.jpg高田昭●音楽:一柳慧(1933-2022)●時間:88分●出演:江藤潤/朝加真由美/中島ゆたか/榎本ちえ子/赤座美代子/山内恵美子/田島令子/橘麻紀/花柳幻舟/原良子/江波杏子/小松方正/深江章喜/大滝秀治/安倍徹/小坂一也/小鹿番/「純」p.jpg今井健二/森あき子/田中小実昌●公開:1980/12●配給:東映セントラルフィルム●最初に観た場所:新宿昭和館(83-05-05)(評価:★★☆)●併映:「聖獣学園」(鈴木則文新宿昭和館2.jpg新宿昭和館3.jpg/主演:多岐川裕美)
新宿昭和館 1951(昭和26)年K's cinema.jpg7月13日新宿3丁目にオープン(前身は1932年開館の洋画上映館「新宿昭和館」)。1956年、昭和館地下劇場オープン。2002(平成14)年4月30日 建物老朽化により閉館。跡地にSHOWAKAN-BLD.(昭和館ビル)が新築され、同ビル3階にミニシアター「K's cinema」(ケイズシネマ)がオープン(2004(平成16)年3月6日)。


肉弾 アートシアター.jpg肉弾 vhs2.jpg『肉弾』(監督 岡本喜八)1.bmp「肉弾」●制作年:1968年●監督・脚本:岡本喜八●撮影:村井博●音日劇文化.jpg楽:佐藤勝●時間:116分●出演:寺田農/大谷直子/天本英世/笠智衆/北林谷栄/三橋規子/今福正雄/春川ますみ/園田裕久/小沢昭一/菅井きん/三戸部スエ/頭師佳孝/雷門ケン坊/田中邦衛/中谷一郎/高橋悦史/伊藤雄之助/(ナレーター)仲代達矢●公開:1968/10●配給:ATG●最初に観た場所:有楽町・日劇文化(80-07-05)(評価:★★★★)●併映:「人間蒸発」(今村昌平)
田中邦衛(区隊長)/笠智衆(戦争で両腕が無い古本屋の老人)
映画 肉弾 tanaka.jpg 映画 肉弾 ryuu.jpg


冬物語.gif「冬物語」.jpg冬物語 ドラマタイトル.jpg「冬物語」●演出:石橋冠●制作:銭谷功/早川恒夫●脚本:清水邦夫/林秀彦●音楽:坂田「冬物語」2.bmp晃一(主題歌「冬物語」作詞:阿久悠/作曲・編曲:坂田晃一/唄:フォー・クローバース)●出演:浅丘ルリ子/原田芳雄/津川雅彦/扇千景/大原麗子/高松英郎/原田大二郎/宝生あや子/南美江/荒谷公之/鳥居恵子/渡辺篤史/下元勉/潮万太郎/上野山功一/柿沼真二/下川清子/野々あさみ/渥美マリ●放映:1972/11~1973/04(全20回)●放送局:日本テレビ

原田芳雄/浅丘ルリ子/原田大二郎/津川雅彦/大原麗子
冬物語0d87.jpg 冬物語31645_21.jpg 冬物語 大原.jpg
          
    
    
寺田農25.jpg 寺田農 2024年3月14日未明、肺がんのため81歳で死去。代表作「肉弾」など。出演作「雪の断章-情熱-」など。

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工藤夕貴の演技がいい「台風クラブ」。少女を撮るのが上手だった故・相米慎二監督。

Typhoon Club 1985.jpg 台風クラブ.jpg    逆噴射家族.jpg 逆噴射家族 1シーン.jpg 
「台風クラブ」ポスター「台風クラブ [DVD]」(相米慎二監督)「逆噴射家族 [DVD]」(石井聰互監督)ラストシーン

台風クラブ1.jpg 地方都市の女子中学生たちが、学校のプールに夜中に泳ぎにやってきて、先に来ていた男子生徒にイタズラをするが、度が過ぎて溺死寸前の状態に追い込んでしまう。翌朝、ニュースでは台風の接近を告げていた―。

台風クラブ2.bmp 「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)は、'85(昭和60)年の第1回東京国際映画祭のグランプリ受賞作で、台風の接近に伴い、言いようのない感情の昂ぶりを見せ騒乱状態に陥る中学生たちを生々しく且つ瑞々しく描き出した作品。女子中学生役の工藤夕貴が、中学生の日常とそこに潜む思春期の生理的・精神的危うさを演じて台風クラブ22.jpg秀逸で、何か自分でそうしたものを観察でもしたかのような相米慎二監督の演出が際立っています。実際、女子中学生の私生活を「長回し」で写し撮っているような感じのシーンもあり、今ならば児童保護の名目で規制の対象になりそうな際どい場面もあって、更にストーリー的にも結構どろどろした出来事がありますが、そうしたことも含め、「観察対象」としての距離を置いて撮っているような感じもします。

 迫りくる台風に対する不安と非日常への漠たる期待、台風という非日常の中での狂騒、そして台風台風クラブ 図1.jpg一過、中学生たちは何事もなかったかのようにまた元気に学校に通い出す―でも実は、台風が来る前に比べぐっと大人に近づいているという、 "大人になるための出来事"を台風に絡めているところが旨く、また、女子中学生の方が男子よりも逞しく描かれているように思いました。人間の自律神経は気圧の変化には敏感で、酸素がたくさんある高気圧だと酸素ストレスで交感神経が緊張して体は興奮して元気になり、逆に雨や台風で低気圧が接近すると、副交感神経が優位に働いて、特に神経痛やリュウマチなどの持病がある人にとっては低気圧は不快感を増幅させるそうですが、思春期にある者の情緒不安定を引き起こすことについても何か科学的根拠があるんじゃないかなあ。

相米慎二.jpg 相米慎二(1948‐2001/享年53)監督は、薬師丸ひろ子(当時17歳)主演の「セーラー服と機関銃」('81年)の後に夏目雅子(当時25歳)主演の「魚影の群れ」('83年)や斉藤由貴(当時19歳)主演の「雪の断章‐情熱‐」('85年)などを撮り、そして工藤夕貴(当時14歳)主演のこの作品「台風クラブ」を撮っていますが、その内夏目雅子を除いて当時何れも二十歳未満で、斉藤由貴は映画初出演で主演、工藤夕貴もこの作品が初主演でした。何だか新人専門みたいですが、とりわけ未成年(少女)を撮るのが上手だった(?) 相米慎二監督はその後も、「東京上空いらっしゃいませ」('90年)で当時18歳の牧瀬里穂を、「お引越し」(93年)で当時11歳の新人・田畑智子を、それぞれ主役に据えた作品を撮っています。

台風クラブ 三浦友和 演.jpg 「台風クラブ」では三浦友和が不良っぽい教師役で出ていて、なかなか良かったです。三浦友和は、所謂「百恵・友和ゴールデンコンビ」と言われた作品群で1970年代に二枚目の俳優として10代に大変な人気がありましたが、その百恵・友和のゴールデン・コンビの第8作、大林宣彦監督、ジェームス三木脚本の「ふりむけば愛」('78年/東宝)を友達と観に行って、2人とも途中で眠くなりました。ただ、本作を契機に山口百恵と三浦友和は結婚に踏み切ることを決意したと言われています。2本立てで小原宏裕監督の「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」('78年/日活)の後でしたが、大林宣彦監督はいい作品(尾道3部作など)も撮る一方で駄作も多い気がし、これもその1つ。百恵・友和コンビ作では、市川昆監督、川端康成原作の「古都」('80年)が山口百恵引退記念作品となり、三浦友和は村川透監督、勝目梓原作の「獣たちの熱い眠り」('81年/東映)でイメージチェンジを図りますが(三浦友和は萩原健一や松田優作のような反体制タイプの役者に憧れていたらしい)、映画内で風吹ジュンらとの激しいベッドシーンなどがあったものの、「三浦友和のイメチェン作」と言われている割にはイメチェンに成功しておらず、彼の後の演技の糧にはなったかもしれませんが、「友和クンにハードボイルドは似合わない」というのが当時の印象でした(この作品は過去にビデオあれておらず、'09年現在DVD化もされていない)。その三浦友和が、この「台風クラブ」では、その無責任ゆえに生徒たちから反発を喰う教師役を演じていて、恋人(小林かおり)が台台風クラブ 三浦友和 演技.jpg所で料理をしている隣りの部屋でだらしなく寝転がってる三浦友和が、近よってきた恋人に足を絡ませ倒して抱きつく長回しなど、ダメさ加減がよく出ていました(ハードボイルド風よりよりこっちの方がいい)。個人的には、この作品こそが彼のイメージチェンジ作ではないかなと思います(イメチェンって、ただこれまでと違う役をやればいいというものでもなく、新たなキャラを確立させなければならないだけに難しい)。三浦友和はこの作品で、第10回報知映画賞助演男優賞を受賞しています。
「NHKあさイチ~あさイチ・プレミアムトーク~」(2011.11.25)

「ふりむけば愛」('78年/東宝)、「獣たちの熱い眠り」('81年/東映)、「台風クラブ」('85年/東宝=ATG)
三浦友和1 ふりむけば愛.jpg 0三浦友和2 獣たちの熱き眠り2.jpg 三浦友和3 台風クラブ.jpg

逆噴射家族5.bmp 一方、工藤夕貴の映画初出演は、この作品の前年の石井聰互監督の「逆噴射家族」('84年/ATG)で(当時13歳)、真面目で小心者のサラリーマン(小林克也)が長期ローンでやっとマイホームを建て、家族4人でそれなりの幸せ気分でいたところに(この家族が変人揃いで皆それぞれ勝手気儘というかバラバラなのだが、その1人が工藤夕貴演じる娘)、郷里からまた変な祖父(植木等)が舞い込んで来て家の中がおかしくなりだし、更にある日、このサラリーマン氏が自宅でシロアリの群れを発見して、マイホームが朽ちるのではとの不安に駆られ、シロアリ駆除に向けて大暴走するというものです。

逆噴射家族6.bmp 小林よしのり氏(当時31歳)の原案だそうですが、映画としてはあくまでも石井聰互監督(当時27歳)の映画という感じで、DJ・小林克也の演技は役者並みだし、ちょっと狂い気味の妻役の倍賞美津子や、植木等の怪しい老人ぶりもいいです。

0有薗芳記 in 「逆噴射家族」.jpg 更には工藤夕貴の兄を演じた有薗芳記の電脳オタクぶりも、映画初出演ながら凄かった―ということで、工藤夕貴のぶっ飛び感も、これらに比べるとちょっと弱かったかも知れません("緊縛シーン"(?)に象徴されるように、彼らの被害者的立場という色合いが強い役柄のせいもあったが)。
有薗芳記 in 「逆噴射家族」

逆噴射家族ンロード.jpg逆噴射家族A.jpg 「逆噴射家族」は海外の映画祭でもグランプリなどを獲っている作品ですが、狂気を描くことが目的化してしまっている面も感じられ、むしろ異価値・異文化的な面で海外に受台風クラブ07.jpgけたのではないかなあ。個人的には「台風工藤夕貴 in 「台風クラブ」.jpgクラブ」の方がより好みでしょうか。

[上]小林克也 in 「逆噴射家族」

[下]工藤夕貴 in 「台風クラブ」
        
  

台風クラブes.jpg「台風クラブ」●制作年:1985年●監督:相米慎二●製作:宮坂進●脚本: 加藤裕司●撮影:伊藤昭裕●音楽:三枝成章●時間:85分●出演:工藤夕貴/三上祐一/大西結花台風クラブ  13.jpg三浦友和/佐藤充/寺田農/尾美としのり/鶴見辰吾/紅林茂/松永敏行/会沢朋子/小林かおり/きたむらあきこ/石井富/佐藤浩市(友情出演)●公開:1985/08●配給:東宝=ATG●最初に観た場所:有楽町スバル座(1985/8/31)●2回目:大井武蔵野館(1986/9/20)(評価:★★★★)●併映(2回目):「時代屋の女房」(森崎東) 
    
ふりむけば愛〈別冊近代映画〉.jpgふりむけば愛9.jpg「ふりむけば愛」●制作年:1978年●監督:大林宣彦●製作:堀威夫/笹井英男●脚本:ジェームス三木●撮影:萩原憲治●音楽:宮崎尚志(主題歌:三浦友和「ふりむけば愛 dvd.jpgふりむけば愛」(作詞・作曲:小椋佳 編曲:松任谷正隆))●時間:92分●出演:山口百恵/三浦友和/森次晃嗣/玉川伊佐男/奈良岡朋子/黒部幸英/神谷政浩/名倉良/高橋昌也/南田洋子/大内勇/藤木啓士/安西卓人/星野晶子/岡田英次●公開:1978/07●配給:東宝●最初に観た場所:池袋文芸坐(79-06-03)(評価:★★)●併映:「桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール」(小原宏裕)
ふりむけば愛 [DVD]

獣たちの熱い眠り .jpg獣たちの熱き眠り 00.jpg獣たちの熱い眠り 3.jpg「獣たちの熱い眠り」●制作年:1981年●監督:村川透●脚本:永原秀一●撮影:仙元誠三●三浦友和風吹ジュン宇佐美恵子「獣たちの熱い眠り」広告.jpg音楽:速水清司●原作:勝目梓●時間:111分●出演:三浦友和/風吹ジュン/なつきれい/宇佐美恵子/石橋蓮司/鹿内孝/峰岸徹/宮内洋/佐藤蛾次郎/阿藤海/安岡力也/草薙幸二郎/中丸忠雄/中尾彬/成田三樹夫/伊吹宇佐美恵子1.jpg宇佐美恵子2.jpg吾郎/(以下、特別出演)吉行和子/池波志乃/来栖アンナ●公開:1981/09●配給:東映●最初に観た場所:池袋文芸坐(82-03-21)(評価:★★)●併映:「吼えろ鉄10文芸坐.jpg拳」(鈴木則文)
[上]「映画チラシ 「獣たちの熱い眠り」監督 村川透 出演 三浦友和、なつきれい、宇佐美恵子」/[右]広告切抜き
宇佐美恵子
三浦友和/風吹ジュン
0「獣たちの熱い眠り」.jpg 0「獣たちの熱い眠り」2.jpg
     
逆噴射家族1.jpg逆噴射家族 2.png逆噴射家族 1.png「逆噴射家族」●制作年:1984年●監督:石井聰互●製作:長谷川和彦/山根豊次/佐々木史郎●脚本:石井聰逆噴射家族E-.jpg亙/小林よしのり/神波史男●撮影:田村正毅●時間:106分●出演:小林克也/倍賞美津子/植木等/工藤夕貴/有薗芳記/岸野一彦/小海とよ子/緒方明/林崎巌/郷守信廣/井上欣逆噴射家族   .jpg則/高橋佑奈/井手国弘/アレックス・アブラモフ●公開:1984/06●配給:ATG●最初に観た場所:池袋日勝文化劇場(85-11-04)(評価:★★★☆)●併映:「お葬式」(伊丹十三)

「逆噴射家族」スチール写真(左から有薗芳記/植木等/小林克也/倍賞美津子/工藤夕貴)
   
日勝文化2.jpg池袋.jpgビックカメラ池袋.jpg池袋日勝映画劇場・池袋日勝文化劇場・池袋スカラ座・池袋日勝地下劇場 (現・池袋東口ビックカメラ池袋本店付近) 1995(平成7)年6月25日閉館
池袋日勝 日勝文化3.jpg
日勝文化705.jpg③池袋東急 ④池袋スカラ座 ⑮池袋日勝地下劇場 ⑬池袋日勝映画劇場 ⑭池袋日勝文化劇場

・1937年 池袋日勝映画館オープン
・1946年10月 - 池袋日勝映画劇場として再オープン
・1951年12月 - 池袋日勝地下劇場オープン
・1960年前後 - 池袋日勝文化劇場、池袋松竹劇場オープン
・1963年 - 池袋松竹劇場を池袋スカラ座と改称
・1995年 - 4館ともすべて閉館
池袋スカラ座/池袋日勝文化 菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より  
池袋日勝 日勝文化 6月25日.jpg 池袋日勝.jpg 
青木 圭一郎 『昭和の東京 映画は名画座』(2016/03 ワイズ出版)より
昭和の東京 映画は名画座  池袋.jpg

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