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俗説の誤謬を検証している点では「最強の書」か。
『年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可能か (中公新書 1901)』 〔'07年〕
長年にわたり年金問題を研究してきた著者が(と言っても本来は社会階層論やリベラリズム研究など社会学が専門の東大教授)、公的年金の制度的問題を鋭く且つ緻密に説いた書。
たまたま社保庁の年金記録問題に揺れる世情の中での刊行となりましたが、社保庁や年金制度に対するワイドショー的な批判や不信とは一線を画し、様々な角度から現行制度を数値的にシミュレーションすることで、巷に溢れる俗説や識者と言われる人たちの見解の誤謬を指摘し、中長期的に持続可能な制度の確立こそ重要であるとして、その方向性(と同時にその難しさ)を示しています。
まず「年金は得か損か」という疑問に対して「個人ベースでは国民年金も厚生年金も得」ということを具体的シミュレーションで示し(年金というのは長生きするということに対する保険なのだなあと再認識)、では世代間格差がなぜ生じたのかを、現役世代の賃金上昇に合わせ年金支給額の計算基礎となる受給者の過去の賃金を再評価する「賃金再評価制」と、物価上昇に合わせて支給額を調整する「物価スライド制」が導入された1973年の改正が、そもそも「大盤振る舞いスキーム」だったとしています(「賦課方式」や「少子高齢化」が"犯人"ではないことを数値と計算式を以って明快に検証している)。
一方、2004年改正のスキームについても、「マクロ経済スライド調整率」の導入に対し、一定の評価をしながらも政府が言う「100年安心」と呼ぶには程遠いことを示しています。
巷で言われる国民年金の未納者の問題や保険料を支払わなくてよい3号被保険者(専業主婦)の問題については、実際には国民年金の未納が減れば年金収支は悪化し(要するに国民年金は構造的に赤字ということになる)、また、専業主婦は別に得をしているわけではないことを証明し、識者の唱える基礎年金の消費税化が世代間格差の是正には繋がらないことを(「民営化」することなどはもってのほか)、また、年金の一元化がそう簡単に出来るものではないことを論証しています。
現行制度は経済成長の如何によって大きく左右されるが、経済成長があれば大丈夫というものでもなく、と言って安易な賦課方式批判や税方式導入論にも釘をさし、異なる世代間での"相対的"年金水準(これは著者独自のユニークな視点)を一定に保つことが年金制度存続の要としているように思えますが、では具体的にどうすればいいのか―、その点は考え方の方向性を示して終わっているような感じもします。
でも、そうした考え方の基点を示しているだけでも良書だと言えるし、俗説の誤謬を「検証」している点では現時点で「最強の書」かもしれず、結構、目からウロコ...の思いをしました(数値と計算式が多いので、それらを理解するのにはまず公的年金制度全体の仕組みを大まかに知っておく必要があるように思える)。






「年金術」というタイトルですが、本文全5章のうち4章は日本版401kについて述べられていて、日本版401kについての加入者・受給者(つまり一般の人)の側に立った解説書と言えます。


森戸 英幸 氏 (上智大学教授)
本田 由紀 氏 (略歴下記)
とりわけ本田氏が執筆している第1章が明快で、「ニート」という概念を英国から輸入した玄田有史氏らが、その著書『ニート』('04年/幻冬舎)のサブタイトルにもあるように、フリーターでもなく失業者でもない人たちを「ニート」という言葉で安易に一括りに規定し、近年増加した(求職中ではないが働く意欲はある)「非求職型(就職希望型)」無業者を、ほとんど増えていない(働く予定や必要の無い)「非希望型」無業者と同じに扱ってしまったと。
