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女性映画。新珠三千代のエロチシズムも見どころだし、街の風景や風俗も見どころ。

「日活100周年邦画クラシック GREAT20 洲崎パラダイス 赤信号 HDリマスター版 [DVD]」芦川いづみ・新珠三千代/三橋達也
売春防止法施行直前の東京。義治(三橋達也)と蔦枝(新珠三千代)は、故郷を駆け落ち同然に飛び出してから生活が安定せず、東京中を彷徨っていた。財布の金も尽きかけたある日、蔦枝は、勝鬨橋で、追いかけてバスに飛び乗り、義治に何も言わず、「洲崎弁天町」のバス停で降りる。洲崎川の橋を渡ったすぐ先は赤線地帯「洲崎パラダイス」だった。蔦枝はかつて洲崎で娼婦をしていた過去があり、義治は「橋を渡ったら、昔
のお前に逆戻りじゃないか」と言う。二人は、赤線の「外側」の橋の袂の居酒屋兼貸しボート屋「千草」に入る。「千草」の女主人お徳(轟夕起子)は、女手一つで幼い息子ふたりを育てているため住み込み店員を求めており、蔦枝はその晩から仕事を始める。翌日、義治はその近所のそば屋「だまされ屋」で住み込みの仕事を得る。蔦枝は人あしらいのうまさで、赤線を行き帰りする寄り道客の人気を得、やがて神田(秋葉原)のラジオ商の落合(河津清三郎)に気に入られて和服やアパ
ートを与えられるようになり、いつの間にか「千草」から去った。義治は怒りのあまり歩いて神田へ出向くも、不慣れな地理や暑さと空腹のために倒れ、落合と会えず仕舞いに。そんな中、洲崎の女と共に行方を眩ませていたお徳の夫・伝七(植村謙二郎)が姿を現し、お徳は何も言わず伝七を家に招き入れる。数日後、蔦枝は落合のアパートを引き払い、洲崎に戻ってきた。「千草」を訊ねた蔦枝に、お徳は、「義治をいずれ『だまされ屋』の同僚店員・玉子(芦川いづみ)と一緒にさせたい」と言う。蔦枝は「千草」を飛び出し、「だまされ屋」に向かう。お徳は義治と蔦枝を会わせないよう、出前帰りの義治を日暮れまで「千草」に釘付けにする。伝七は店に帰る義治に付き合って外出し、「遅まきながら、なんとかいい親父になろうと思っている」と心境の変化を吐露し、途中で別れる。いつまでも「だまされ屋」に戻らない義治を探して洲崎を歩き回る蔦枝は、「千草」の常連客で顔馴染みの信夫(牧真介)と橋で出会う。信夫は、ある女を足抜けさせるために毎晩赤線に通っていたが、その女が消えたことを話す。蔦枝は慰めるつもりで「吉原か鳩の街で、今頃誰かといいことしてるわよ。それより私と......」と言うが、「売春防止法なんかできたって、どうにもなりはしないんだ」と叫ぶ信夫に平手打ちを食わされる。義治が「だまされ屋」に戻ると、玉子から蔦枝がさっきまで待っていたことを告げられ、義治は仕事を放り出し、雨の中を傘も持たずに飛び出す―。
1956(昭和31)年7月公開の川島雄三監督作。原作は芝木好子(1914-1991/77歳没)が1953(昭和28)年に発表した「洲崎パラダイス」で、売春防止法の公布が1956年、施行が1957(昭和32)年4月ですから、原作も映画もほぼリアルタイムということになります。原作が書かれた翌年1954(昭和29)年に〈洲崎〉(現・木場駅付近)には、カフェ220軒が従業婦800人を擁し、合法的に営業をしていたとのことで、〈吉原〉を上回る規模でしょうか。三浦哲郎の「忍ぶ川」のヒロイン・志乃も「洲崎パラダイス」にある射的屋の娘でした(因みに、蔦枝のセリフに出てくる〈鳩の街〉は、吉行 淳之介 の「原色の街」の舞台である〈玉の井〉あたり(現・曳舟駅付近)。
新珠三千代(脱がないのにすごくエロチック)と三橋達也が演じる、別れた方がいいのに別れられない男女、義治と蔦枝。周囲にいくら止められようと、磁石のように引き合ってしまう腐れ縁といった感じで、樋口一葉の「にごりえ」や織田作之助の原作「夫婦善哉」の系譜のようにも思いました。そんな男女とそれを取り巻く人間模様が、〈橋〉に始まり〈橋〉に終わる物語として描き出されています。ただし、冒頭でバスに飛び乗ったのが蔦枝で、義治は慌ててそれについていくだけだったのに、ラストでは義治の方が自ら駆け出してバスに飛び乗るという―最初のうちはいじけてばかりいた義治の変化を、こうした対比で見せているのが上手いと思いました。

一方、轟夕起子が演じるお徳は、夫・伝七が戻ってきてせっかくいい親父になろうと思っていたところに、その夫が別れた女に殺されることになり、実に気の毒でした(その事件現場で、義治と蔦枝が再会するというのも何か運命的)。こうした悲劇もありましたが、義治が働いた蕎麦屋「だまされ屋」の女店員・玉子を演じた芦川いづみの可憐さ 先輩店員・三吉を演じた小沢昭一のユーモラスな味わいなど、いろんな要素が盛り込まれた群像劇になっていました。
現在は埋め立てられてしまっている洲崎川や船着き場など、もうこの映画でしか見られない風情ある風景も、時代の記録として貴重です。ボンネット型のバス車両には車掌がいて、「次は〜洲崎〜洲崎弁天町」とアナウンスをしています(都バスでは1965年からワンマンバスが運行されている)。
バスの車窓からは、材木を保管している貯木場が見え、これは、荒川の河口に近い沖合の埋立地に1969年、新たな貯木場、新木場が建設される前のものです(大島渚監督「青春残酷物語」('60年)の冒頭にも使われていた)。義治がラジオ商の落合を訪ねて彷徨う神田・秋葉原の当時の風景も貴重映像ではないかと思います。
川島雄二監督の「とんかつ大将」('52年)から連なる市井の人々を描いた人情物であると同時に、赤線に墜ちるか堅気を通せるかという境界線にある女性を描いた、後の「女は二度生まれる」('61年)などに連なる川島雄三監督ならではの「女性映画」でもあったように思います。ごく自然な所作の中にちらりと肌を見せる新珠三千代のエロチシズムも見どころだし(エロチックだからこそ境界線上を彷徨っている危うさを感じさせる)、街の風景や風俗も見どころの映画でした。
新珠三千代/三橋達也/轟夕起子

「洲崎パラダイス 赤信号」●制作年:1956年●監督:川
島雄三●製作:坂上静翁●脚本:井手俊郎/寺田信義●撮影:高村倉太郎●音楽:眞鍋理一郎●原作:芝木好子●時間:81分●出演:新珠三千代/三橋達也/轟夕起子/植村謙二郎/平沼徹/松本薫/芦川いづみ/牧真介/津田朝子/河津清三郎●公開:1956/07●配給:日活●最初に観た場所:神保町シアター(24-02-01)(評価:★★★★☆)
洲崎神社(2024.4.27撮影、以下同じ)
「特飲街」の面影を残す店々
「洲崎橋跡地」の碑
映画「洲崎パラダイス」における居酒屋「千草」のあった場所(写真手前:現在は不動産屋)
不動産屋の隣の「特飲街」の面影を残す店

神保町シアター(24-02-01)

三橋達也 in「洲崎パラダイス赤信号」('56年)/「ガス人間第1号」('60年)/「天国と地獄」('63年)



NHK「連想ゲーム」('69年4月-'91年3月)白組1枠レギュラー解答者・三橋達也('73年4月-'79年3月)「グラフNHK」'73年8月号


ここ鬼怒川温泉では、日東電機工業のお得意様招待の新年宴会が盛大に行われていた。芸者衆がずらりと居並ぶ前で、ハッピ姿でサービスにつとめる社員たち。舞台で踊り終った大取引先の畑田商会社長・畑田元十郎(東野英治郎)は、同じく大取引先の矢部商会社長の令嬢・美沙子(水谷良重)の隣に腰を据えた。酒癖の悪い畑田は、やがて美沙子にからみ出す。困った彼女は、傍に控えていた日東電機社員・高坂(石原裕次郎)に助けを求めた。最初は躊躇したものの、畑田の
態度をみかねた高坂は、思わず畑田を投げ飛ばしてしまう。腐った高坂はビール手に風呂場へ降りて行った。そこで畑田と出会った彼は、畑田から意外なことを聞く。営業部長の湯浅(宇野重吉)を失脚させて社を食い物にしようとする陰謀があるというのだ。
先刻の事は水に流して仲直りした二人は、湯浅を守ることを誓い合う。一方、タイピストの十三子(芦川いづみ)と美沙子は高坂に好意を持っていた。面白くないのは十三子に婚約を破棄された営業部員の大崎(藤村有弘)と、美沙子につきまとう矢部商会の専務・田崎(高橋昌也)で、二人は何とかして高坂を馘にしようと企む。さらに田崎は、日東電機総務部長の菱山(滝沢修)と組んで、日東電機を食いものにしようとしていた。菱山一派は行動を開始し、菱山は湯浅に彼の部下の悪事を暴き責任をとるように迫る。辞職しようとする湯浅を引き留めた高坂は、畑田の力を借り巻き返しを開始し、美沙子を慕う矢部商会の木瀬(山田吾一)も高坂に協力を申し込む―。

やはり、ヒーロー裕次郎の特徴は喧嘩が強いこと。愚連隊なんか蹴散らして返り討ちにしてしまいます。それと、何事にも無感情になりがちな今の社会と違って(当時でも言いにくいことは言えない雰囲気はあったと思うが)、素直に感情を吐露する姿も心地よいです。まあ、東野英治郎演じるお得意先の社長の非礼にたまらず相手を投げ飛ばしてしまうも、そのことで却ってその社長との絆が深まるというのは出来すぎた話ですが、そこはコメディということで...。
み/芦田伸介/水谷良重/藤村有弘/山田吾一/高橋昌也/谷村昌彦/青木富夫/矢頭健男/小川虎之助/大森義夫/三崎千恵子/宮城千賀子/東野英治郎/滝沢修/宇野重吉●公開:1962/04●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-06)(評価:★★★☆)


秋葉原の「やっちゃ場」(青果市場)に勤める三杉耕平(石原裕次郎)は写真大学卒で、本職はカメラマン。彼はある日、桜フィルムの宣伝部長・宇野(西村晃)から「東京探検」というテーマで仕事を依頼される。そして耕平の面倒をみる担当として、宣伝部員・矢巻みはる(芦川いづみ)を付けられた。みはるは才女で、耕平にとっては全くの苦手タイプだった。その上バー"ホブーブ"のホステス・セツ子(中原早苗)
も耕平を追いかけ回し、苦手が二人になる。その夜、宇野に連れていかれたバーで、みはるが愚連隊に因縁をつけられるが、偶然通りがかったみはるの従弟・昌一(杉山俊
夫)によって救われる。翌朝、耕平は目を覚まして仰天する。みはるの家に泊ってしまったのだ。みはるには、しのぶ(渡辺美佐子)という美しい姉がいた。しのぶは、美容学研究家の洒落男・下田(庄司永建)に求愛されていた。やがて、耕平の仕事が本格的に始まる。深川の不動尊、佃島の渡船場、旧赤線地帯、野犬抑留場―みはるは一日中耕平の傍に付きながら、彼に惹かれていくのを感じた。ふとしたことから耕平はセツ子の父親・清作(東野英治郎)と知り合う。清作は昔ヤクザだったが今は堅気の生活をしている。しかし六年前に清作がビッコにした人斬り根津(安部徹)という男が清作を探していた。ある日、根津に探し出された清作を、危機一髪、耕平が駆けつけて救ける―。
'60年10月公開の中平康(1926-1978)監督作で、原作は菊村到(1925-1999)の新聞連載小説。'60年に東京新聞に268回に渡って連載されたものです。『あした晴れるか』('60年/光文社)として同年刊行されていますが、同じ年に映画化もされたことになります。菊村到は、「不法所持」で'57(昭和32)年・第3回「文學界新人賞」、「硫黄島」で'57(昭和32)年上期・第37回「芥川賞」を受賞していますが、個人的イメージとしては西村寿行(1930-2010)とかに近い印象。ビジネス小説も書いていたのかあ(しかもユーモア小説!まあ、ヤクザは出てくるが)。
全体としては、裕次郎のモテ男はつらいといったお話ですが、テンポが良くて楽しめるのと、どちらかというと可憐な女性の役が多い芦川いずみが、矢巻みはるという、アンリ・カルティエ・ブレッソンやロバート・フランク、ユージン・スミスといった有名写真家にかぶれた頭でっかちのインテリで、隠語・符牒を使うような八百屋には偏見を持つ、眼鏡をかけたキャリアウーマン風の女性を演じているところが変わったところでしょうか(実は周囲に馬鹿にされないための伊達メガネだったのだが)。
芦川いずみ演じる矢巻みはるは、中原早苗が演じる元気なホステス・セツ子と、裕次郎が演じる耕平を巡って張り合うし、渡辺美佐子が演じる矢巻みはるの姉しのぶも、政略的な婚約を断ち切り、最後、独り窓に向かって「昨日風吹き、今日雨吹り、明日晴れるか」と落書きし(これがタイトルの由来)、その瞳は耕平にじっと向けられていて―。

芦川いづみの大きな黒眼鏡の役どころのせいもあってか、彼女の出演作品としても、裕次郎の日活青春映画としてもやや異色ですが、肩が凝らずに楽しめるコメディでした。
映画の舞台の1つである秋葉原の「やっちゃ場」(青果市場)は、 足立市場、豊島市場(駒込市場)と並び、江戸の三大青物市場のひとつだった神田市場が昭和初期に秋葉原に移転したもので、その後1990(平成2)年 に大田区に移転して今はありません。因みに、足立区に現在ある水産物専門の市場「足立市場」は、千住宿の青物市場として天正(1580年ごろ)年間から存在していた「やっちゃ場」をルーツとしています。青果部門は1979(昭和54)年に当時千住大橋駅近くにあったものを足立区入谷に移転し、現在の足立市場は、水産物専門の市場として都内で唯一の存在となっています。
「あした晴れるか」石原裕次郎/芦川いづみ
「あした晴れるか」●制作年:1960年●監督:中平康●脚本:池田一朗/中平康●撮影:岩佐一泉●音楽:黛敏郎●原作:菊村到●時間:90分●出演:石原裕次郎/芦川いづみ/渡辺美佐子/杉山俊夫/信欣三/嵯峨善兵/高野由美/中原早苗/安部徹/草薙幸二郎/藤村有弘/庄司永建
/殿山泰司/宮城千賀子/西村晃/東野英治郎/三島雅夫●公開:1960/10●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-06)(評価:★★★☆)







杉本省吉(千田是也)は銀座の洋品店主。娘の秀子(左幸子)とやもめ暮しで、店の二階を画廊に改造しようと考えていた。洋品店には無愛想で化粧嫌いな竹山順子(渡辺美佐子)がいた。順子は他人の迷感も顧みない貧乏画家・田所草平(安井昌二)にその美貌を指摘されるや、一転してお化粧に専念し、草平を恋するようになる。省吉の画廊が完成する。画廊のお披露目パーティの日に、草平の絵が有名画家の岡本太郎らの目にとまり、彼は一躍有名となり、発表会は連日盛況を極める。秀子は、松山小平
(葉山良二)の妹・章子(芦川いづみ)のもとに草平の画が4、5点埋れているというので、それを持って章子と画廊に来た。章子を見た省吉は、彼女が初恋の人(芦川いづみ、二役)に瓜二つであることに驚く。その後、彼女はその娘で、初恋の人本人は亡くなったということを知る。順子と草平の結婚式の夜、祝酒に深酔した章子は秀子の家に泊まる。いつしか省吉は章子の寝顔が初恋の人と重なって見える。熱い思いを前に衝動を抑えきれない省吉は、三十年前に果せなかった接吻を章子にする。章子の目には涙が浮んできたが、それは母と省吉の秘密を知っている章子の歓びの涙だった―。
全体としては、銀座すずらん通りの洋品店を舞台にしたちょっと洒落たコメディです。千田是也が演じる寡夫の父・省吉と、左幸子が演じるその娘・秀子と同世代の仲間たちの恋模様―といった群像劇風ですが、終盤で芦川いづみ演じる小平の妹・章子が登場して、これが省吉の秘められた過去の恋の相手の娘であったところから、ミステリアスな要素も入ってきます。
実は、当の章子は、母がかつて省吉から接吻されることを望んでいたことを知っていて、母に代わって自分が亡くなった母の願いを叶えたということになるのでしょう。そうなると、章子が酒に酔って秀子の家に泊まったのも、寝苦しそうに咳をして省吉に介抱させたのもすべて計画の内だったということになります。つまり、章子は母に代わって省吉を計画的に「誘惑」したわけであり、タイトルが即ち"解題"だったのだなあと思いました(ある意味スゴイね。これ、かなり特殊な心理だと思う。当時、母の望みが叶っていたら、自分は生まれてなかったのではないか)。
岡本太郎、東郷青児らが本人役で出ていて(映画.comではそれぞれ山本次郎、西郷赤児の役名になっているが、映画に中では本名で呼ばれていた)、岡本太郎などはしっかり草平の絵を褒める演技していました。その草平の絵が岡
本太郎が描いたっぽいのが可笑しいです。そう言えば、中伊豆の吉奈温泉に「
諏訪湖のほとりの町に住む高校生・綾部桃子(芦川いづみ)は、同級生で病院長の令嬢・川野恵美(白木マリ)と湖に遊びに来たが、恵美の同性愛的な愛撫を拒んだため、ひとり湖の真中にある小さな島に取り残されてしまう。困り果てた桃子を同級生の南条靖(川地民夫)がボートで救ってくれ、桃子は彼と親しくなる。二人は大学進学の夢を語り合った。
ところが桃子の家は経済的に苦しく、寡の父・健司(宇野重吉)は大学進学を諦めろと告げる。女は大学など行く必要が無いという父に反発し、桃子はアルバイトをしてでも大学に行くことを決意する。靖は厳しい父の監視を受けながら、受験勉強を続けていた。桃子への同性愛に破れた恵美は、若い医師・三樹(小高雄二)と遊び、学友であるバーの娘・津川洋子(中原早苗)の家で、夫婦雑誌や実話雑誌を読んで性の世界に興味を抱いていた
。一方、三樹は恵美の若い母・順子(利根はる恵)をも狙っていた。夏休みに桃子と洋子は湖畔のホテルでアルバイトを始める。祭りの夜、桃子と靖は湖のほとりで月光の下、唇を触れ合った。洋子は都会から来た不良青年らに純潔を奪われてしまい、恵美の病院に担ぎ込まれた後、服毒自殺する。桃子は盲腸炎になり、三樹の手術を受けたが、靖の輸血で快方へ向かう。しかし輸血が靖からと知らぬ桃子は、他人の血が体に入ったことに不潔感を覚えた。そして三樹は桃子に迫る―。
「知と愛の出発」は、1958年公開の齋藤武市監督作で、原作は中村八朗(1914-1999)の『知と愛の出発』('58年/小壷天書房)。中村八朗は、1954年まで直木賞候補に挙がること7回の記録を作ったものの最後まで受賞に至らず、1956年頃からは青春小説やジュニア小説をメインに執筆、昭和40年代のジュニア小説ブームの中で、十代を主人公に設定した小説を多く発表したとのこと。かなり人気はあったようで、この作品も刊行と同時に映画化されています。
芦川いづみがのセーラー服姿がよくて(当時22歳だが)、ウェイトレス姿も可憐。これらが見られるだけでこの作品の価値があるという人も結構いるのではないかと思わせます。ただし、この主人公の女性、純潔の証明を自分を犯そうとした医師に求めたり、自分の躰に他人の血が輸血されたことに不潔感を覚えたり、ちょっと今の時代からすると理解しにくい部分もありました。
神保町シアターでカラーDVD上映。当時コニカラーというシステムでカラー作品として製作公開されましたが、現在では復元が難しく、長らくモノクロでの視聴しか叶わなかったものを、白黒プリントから4Kスキャンを行い、疑似カラーによって復元したもの。 神保町シアターで2015年に「恋する女優 芦川いづみ」特集で上映された際は、当時まだ白黒版での上映でしたが、今回の2023年版「恋する女優 芦川いづみ」特集でカラー上映となりました。
美しい諏訪湖の自然がカラーで見られるほか、芦川いづみの入浴シーンの肌の色などもまずまず。一方で、室内シーンなどが意図せずにセピア調になってしまっていて色の出がイマイチだったりし、芦川いづみのセーラー服のスカートが風に舞うごとにその色がブルーに見えたり茶色に見えたりして、もう少し色ムラの補正もして欲しかった気もしました。


田靖(靖の父・南
条茂人)/夏川静江(靖の母・南条夏江)/永井智雄(恵美の父、河野病院院長・河
野秀樹)/利根はる恵(恵美の妻・河野順子)/廣岡三栄子(洋子の母・津川咲江)/二谷英明(雑誌記者)/清水マリ子(諏訪湖ホテルのアルバイトの少女A)/鎌倉はるみ(同B)/江端朱実(靖の妹・南条春子)/近藤宏(咲江の愛人・吉川)
/河上信夫(雑誌記者の上司)/河合健二(記者)/鴨田喜由(バー「ナポリ」の客)/弘松三郎(自動車会社のセールスマン)/長尾敏之助(諏訪湖ホテルの支配人)/阪井幸一朗(ボーイ頭)/小柴隆(バー「ナポリ」の客)/堀江勇(都会の青年)/柳瀬志郎(同)/大須賀更生(同)/須藤孝(記者)/亀谷雅
敬(桃子の弟・綾部満)/松原光一(都会の青年)/清水千代子(看護婦)/高田栄子(同)/菅乃梨子(同)/鈴木俊子(同)/佐川明子(同)●公開:1958/06●配給:日活●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-04-11)(カラー上映)(評価:★★★)


文久2年(1862年)の江戸に隣接する品川宿。お大尽を装って遊郭旅籠の相模屋で豪遊した佐平次(フランキー堺)は、金が無いのを若衆の喜助(岡田真澄)に打ち明けると居残りと称して相模屋に長居を決め込み、宿の主人(金子信雄)と女将(山岡久乃)は働いて宿代を返すとの佐平次の申し出を渋々承諾する。遊
郭の売れっ子、こはる(南田洋子)、おその(左幸子)は互いに相手を罵り合っていたが、ある日遂に大喧嘩になって廓中を暴れまくり、中庭まで転げ落ちて凄まじい
女の戦いを繰り広げる。そ
うした中、佐平次は下働きから女郎衆や遊郭に出入りする人々のトラブル解決に至るまで八面六臂の活躍をし、果てはこの旅籠に逗留する高杉晋作(石原裕次郎)ら攘夷派の志士たちとも渡り合う。様々な出来事の末に佐平次は体調を悪くするが、それでもなお「首が飛んでも動いてみせまさぁ」と豪語する―。
1957(昭和32)年公開の川島雄三(1918-1963/享年45)監督作で(川島雄三はこれが最後の日活映画となった)、脚本はチーフ助監督も務めた今村昌平と田中啓一が川島雄三と共同で執筆したもの。ストーリーはオリジナルですが、材として、古典落語「居残り佐平次」から主人公を拝借し、「品川心中」「三枚起請」「お見立て」「「明烏」などの数多くの落語の要素を物語の随所に織り込んでいます。
品川宿にある遊郭で佐平次が居残りを決め込むというメインストーリーは「居残り佐平次」をそのまま踏襲していますが、佐平次以前に石原裕次郎演じる高杉晋作や、まだ売出し中の小林旭や二谷英明が演じる攘夷派の侍が相模屋に'居残り'でいるという設定になっているため、話がやや複雑になっています(当時、石原裕次郎→太陽族→反社会的というイメージがあった中で、石原裕次郎に攘夷派を演じさせることに日活の上層部はいい顔しなかったようだが)。
貸本屋の金造(小沢昭一)が「品川心中」の後半のサゲの部分(心中に誘いながら自分を置いて逃げた女郎へのニセ幽霊による仕返し話)まで演じています。遊郭の遊女が、雇用期間が満了すれば客と結婚することを約束する起請文(きしょうもん)を乱発
する話は、吉原遊郭を舞台にした「三枚起請」から取っており、この落語のサゲは、高杉晋作が品川遊郭の「土蔵相模」で作ったとされる都々逸「三千世界の鴉(からす)を殺しぬしと朝寝がしてみたい」をもじったものになっていますが、それも作品の中で生かされています。他にもまだまだ落語からネタを取っていると言うか、モチーフを得ている要素が多くあるようですが、全部まではちょっと分からないです。
落語のモチーフを映画に取り込んだ作品としては「唯一成功している」とも言われる作品ですが、唯一かどうかは分からないにしても、大いに成功しているには違いないと思います。これだけ多くの落語から引用して、滑らかに流れるようなストーリー体系を成しているというのは奇跡に近いというか、今村昌平と田中啓一の協力を得た脚本であるにしても、川島雄三という人の才気が尋常ならざるものだというのが、この映画について言えることかと思います。
フランキー堺の活き活きした演技もいいです。川島雄三は役者にあまり細かい指示は出さない監督だったそうですが、この映画におけるフランキー堺の演技には何度もダメ出しをしたそうです。一方、当時人気絶頂の石原裕次郎が高杉晋作役ですが、完全にフランキー堺の脇に回っていて、これも日活の上層部は不満だったようです。そうしたこともあって川島雄三はフランキー堺の演技に発破をかけたのかもしれませんが、結果この作品はフランキー堺の最高傑作となり、一方では石原裕次郎の大根役者ぶりが浮き彫りになったような印象です(見方によっては、カッコいい'大根'なのだが)。これは、たまたま結果的にそうなったのではなく、そこまで川島雄三は織り込み済みだったとの説もあるようで、そうだとしたら、もうスゴイとしか言いようがないです。
ラスト、すっかり相模屋の中で必要欠くべからざる人材となった佐平次ですが、夜明け前にこっそり荷物を纏めて旅に立ちます。彼の将来の夢が自然と口から洩れますが、それは自らの病を自覚している佐平次には残された時間が少ないということともに、米国渡航に賭けてまでも生きることへの希望を捨てないという決意が感じられるものでもありました。
川島雄三自身は、映画の冒頭シーンにあった'現代'の品川(と言っても、この映画が撮られた頃の「さがみホテル」付近はまだ赤線街だった)を佐平次が駆け抜けるラストを構想していたようですが、現場のスタッフ、キャストからも
あまりに斬新すぎると反対の声が出て、結局現場の声に従わざるを得なかったとのことです。川島雄三が折れて撮った墓場シーンのラストは陰鬱な風景であり、佐平次がそこから逃避するという点では、川島雄三の「サヨナラだけが人生だ」という言葉に見られる人生観を反映したものになっているとも言われています(このラストシーンの解釈は諸説ある)。



「幕末太陽傳」●制作年:1957年●監督:川島雄三●製作:山本武●脚本:今村昌平/田中啓一(山内久の変名)/川島雄三●撮影:高村倉太郎●音楽:黛敏郎●時間:110分●出演:フランキー堺/左幸子/南田洋子/石原裕次郎/芦川いづみ/市村俊幸/金子信雄/山岡久乃/梅野泰靖/織田政雄/岡田真澄/高原駿雄/青木富夫/峰三平/菅
井きん/小沢昭一/植村謙二郎/河野秋武/西村晃/熊倉一雄/三島謙/殿山泰司/加藤博司/二谷英明/小林旭/関弘美/武藤章生/徳高渓介/秋津礼二/宮部昭夫/河上信夫/山田禅二/井上昭文/榎木兵衛/井東柳晴
/小泉郁之助/福田トヨ/新井麗子/竹内洋子/芝あをみ/清水千代子/高山千草/ナレーター:加藤武(クレジットなし)●公開:1957/07●配給:日活●最初に観た場所(再見):北千住・シネマブルースタジオ(16-05-17)(評価:★★★★★) 
《読書MEMO》
●田中小実昌(作家・翻訳家,1925-2000)の推す喜劇映画ベスト10(『