「●中村 登 監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●市川 昆 監督作品」【3252】 市川 昆 「満員電車」
「●桑野 みゆき 出演作品」の インデックッスへ 「●菅原 文太 出演作品」の インデックッスへ 「○日本映画 【制作年順】」の インデックッスへ ○あの頃映画 松竹DVDコレクション
桑野みゆきが娼婦に墜ちていく女、平幹二朗がヤクザのヒモ男を演じた異色作。


「あの頃映画 松竹DVDコレクション 夜の片鱗」平幹二朗/桑野みゆき/園井啓介
野上芳江(桑野みゆき)は19歳。彼女はレコード会社の下請け工場で働く傍ら、夜は知り合いのマダム佳代(千石規子)から頼まれ、バーのホステスをしていた。北見英次(平幹二朗)は、芳江が働くバーのなじみ客だったが、二度、三度と会う瀬を重ねるうち急速に親しくなっていった。ある夜芳江は誘われるままにホテルにいき、英次に身体を許す。それからの芳江は次第に英次との情事に溺れ、両親に無断で英次とアパートで同棲するようになった。しかし、そんな頃から英次の態度が変り、たびたび芳江に金を無心するようになる。やがて英次は自らの正体を暴露した。英次はそこの盛り場を支配するヤクザだったのだ。英次は金のために芳江に売春を迫る。
芳江はヤクザに対する恐怖と、行き場のない孤独から言われるままに客をとった。が、英次はさらに芳江に街に出て客をとることを強いる。さすがに耐えられなくなった芳江は、英次の手をふりきってアパートを逃げ出した。しかし数日後、芳江はその組のヤクザにつかまり残酷なリンチを受けた。事件後、芳江は放心したように夜毎街に出て客をとった。そんな客の一人に建築技師の藤井(園井啓介)がいた。藤井は熱心に芳江の元に通い、ある夜結婚を申し込む。そんな折も折、英次の組に縄張り争いが起り、英次は争いに巻き込まれ、下腹部にひどい打撲を受けて男としての機能を失った。それからというもの、芳江と英次との間には、穏やかな愛情が芽生えてきたが、事情を知らない藤井は芳江に駈け落ちを迫った―。
1964(昭和39)年11月公開の中村登監督作で、室生犀星に認められてデビューした太田經子(おおた きょうこ1928-2008)の原作を、「古都」('63年/松竹)で中村登監督とコンビの権藤利英が脚色、撮影もコンビの成島東一郎です。この作品は2013年・第70回「ヴェネツィア国際映画祭」のクラシック部門に選出され、小津安二郎監督の「彼岸花」、大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」とともに上映され、絶賛を浴びたとのこと。2014年・第64回「ベルリン国際映画祭」フォーラム部門でも上映され、ベルリンの地元紙ターゲスピーゲル紙では「生は暗く、死もまた暗い:心を描く名匠」と、マーラーの交響楽「大地の歌」の歌詞から引用した見出しを付けて絶賛されたそうです。
同じ中村登監督による前年作で川端康成原作・岩下志麻主演の「古都」('63年/松竹)などとはかなり雰囲気の異なる、どろっとした風俗ドラマ的作品(因みに原作者の太田經子は「小説宝石」などに官能小説を書いた人で(双葉社の「レディース文庫」などにその作品があった)で、中村登監督は良質なホームドラマの代名詞でもある"松竹大船調"の正統的な後継者として語られることが多いので、この作品は異色作と言えるかと思います。また、桑野みゆきが娼婦に墜ちていく女を、平幹二朗がヤクザのヒモ男を演じているという点でも異色作と言えるでしょう(東京オリンピックで世間が沸いた直後ぐらいの頃に、こんな重苦しい映画が公開されていたのかあ)。
どうしようもないクズ男と知りつつ離れることができず、孤独という闇に取り憑かれ、底なしの沼に堕ちて行く女の複雑で繊細で狂おしいまでの情念を、桑野みゆきが圧倒的な心理描写で魅せてくれます。桑野みゆきが演じる芳江の激しく揺れ動く心を、巧みな色彩設計で映像として焼き付けてくる成島東一郎のカメラワークもいいです。
結末のネタバレになりますが、結局、最後、無感動に慣れ切った芳江には、藤井の結婚の申し込みに応えることができず、ある日、彼女の下着や食事の後片付けを嬉々として担う平幹二郎演じる英次を見ていて心に狂おしい激情が走り、彼を刺します。虚脱して立ちつくす芳江の脳裏に、英次と過した盛り場の灯が懐かしく甦る―。
芳江が藤井の結婚の申し込みに応えることができないのは、いつかこんな暮らしから抜け出すと言っていた娼婦仲間のケイ子(広村芳子)が、ヤクザに追われ交通事故に見せかけて殺されたことから、藤井と一緒になっても逃げ切れず、藤井に迷惑をかけることになるだろうという思ったからでしょうか。英次との関係も含め、全てをリセットするために刑務所へ入るという選択になったのでしょう。オトシマエを付けたとも言え、無表情だった桑野みゆきの顔が夜叉のように変化する一瞬がすごいです。
桑野みゆきは、大島渚監督の「青春残酷物語」('60年/松
竹)に主演した年に、松本清張原作、中村登監督の「波の塔」('60年/松竹)や里見弴原作、小津安二郎監督の「秋日和」('60年/松竹)に〈お嬢さん〉的な役で出ていましたが、この映画の翌年公開の里見弴・小津安二郎原作、中村登監督の「暖春」('65年/松竹)でも、岩下志麻が演じる主人公の女友達を倍賞千恵子と一緒に演じていて、「夜の片鱗」とは180度異なる役柄でした(「松竹とハダが合わないんじゃないか」と悩み始め、1965年11月で松竹と契約が切れ、1967年に結婚して引退)。
「暖春」倍賞千恵子/桑野みゆき/岩下志麻
「夜の片鱗」

この映画では、芳江が自らの転落の歴史を語るモノローグが、芳江自身が×重苦しさを象徴していました。タイトルクレジットに「ナレーター・神山繁」とありましたが、ラストで芳江が法廷で証言しているときの弁護士の声でした(敢えて役柄を伏せた?)。
来月['23年11月]、第14回「東京フィルメックス映画祭」の「生誕100年中村登」特集にて上映が決まっています。「王家衛の『花様年華』の先取り」とパンフレットにありますが、海外で評価されたことで、日本での再評価熱が高まっていることは確か。でも、「『花様年華』の先取り」はやや褒めすぎの感もあり、個人的評価は★★★☆としました(芳江のオトシマエの付け方に納得し切れていない自分がどこかにある)。
「夜の片鱗」●英題: THE SHAPE OF NIGHT●制作年:1964年●監督:中村登●製作:島田昭彦●脚本:権藤利英●撮影:成島東一郎●音楽:日暮雅信●原作:太田經子●時間:106分●出演:桑野みゆき/平幹二朗/園井啓介/岩本多代/富永美沙子/広村芳子/松原浩二/田中晋二/千石規子/河野秋武/中村美代子/呉恵美子/吉野憲司/永井秀明/菅原文太/木村功/東京ぼん太/高丘一二三/逗子とんぼ/佐藤芳秀/(ナレーター)神山繁●公開:1964/11●配給:松竹●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-08-19)(評価:★★★☆)

中学校の理科教師の城戸誠(沢田研二)は、日頃から遅刻を繰り返す無気力教師。ある日、生徒たちを引率し原発の社会科見学を終え
た時、火器を持つ老人(伊藤雄之助)にバスジャックされる。彼の要求は「ただちに皇居へ向かい、天皇陛下に合わせろ」。事件を解決すべく、丸の内警察署捜査一課の山下警部(菅原文太)らによる犯人確保と人質救出作戦が始まる。山下は誠と協力し、生徒らを盾にしてバスを降りてきた老人を取り押さえる。この出来事に影響され、誠は変わる。休み時間に学校のネットをよじ登る、授業は学級崩壊を気にせず延々と原子力や原爆の作り方についての講義を行う等の奇行が始まった。だがこれは、彼がこれから起こす犯罪のための予
習だった。ある日、誠は茨城県東海村の原発から液体プルトニウムを強奪し、アパートの自室で
原爆を完成させる。そして、精製した金属プルトニウムの欠片を仕込んだダミー原爆を国会議事堂に置いて日本政府を脅迫、交渉相手として山下を指名する。誠の第一の要求は「プロ野球のナイターを試合の最後まで中継させろ」。電話を介しての山下との交渉の結果、その夜の巨人vs.大洋戦は急遽完全中継される。快哉を叫ぶ誠は山下に「俺は『9番』」と名乗る。第二の要求を何にするか思いつかずに迷う誠は、愛聴するラジオDJ・ゼロこと沢井零子(池上季実子)を巻き込む。
公開リクエストの結果、誠の決めた第二の要求は「ローリング・ストーンズ日本公演」。これにも従わざるを得ない山下だったが、原爆製造のため借金したサラ金業者(西田敏行)に返済を迫られた誠が出した第三の要求は「現金5億円」。山下は、逆探知時間を把握し、ギリギリまで電話で話す誠の性癖を逆手に、電電公社に電話の逆探知時間を短縮させる罠を仕掛ける。作戦は的中し、誠が東急デパート屋上から電話をしていることが判明、デパート出入口を警察が封鎖する。誠はトイレに駆け込むも、歯茎からの出血や吐き気などの被爆症状の進行を悟る。封鎖を突破することが困難とみた誠は、山下に原爆の在りかを教え、原爆のタイマー解除を交換条件として、用
意した5億円を屋上からばら撒くことと封鎖を解くことを指示。万札が空から降ってきて大騒ぎになる街中を誠は逃げ切る。原爆を回収した山下らは、起爆装置を解除するも、解体作業は翌朝になる。誠は原爆が保管されているビルを襲い、原爆を奪取す
ると車で逃走、追跡する警察とのカーチェイスの際に零子が事故の巻き添えになる。ローリング・ストーンズ公演の日、山下と誠は対峙する。ストーンズの来日はもともと予定されておらず、観客にわざと暴動を起こさせ全員まとめて逮捕、その中から犯人を洗い出すという作戦だった。誠は山下を、原爆を置いていたビルの屋上まで連れて行って銃で撃つが、銃弾を何発も身に受けながら、山下は誠を道連れにしようと屋上から転落する。山下は全身打撲で殉職、誠はどうにか生き長らえる。誠は被爆で弱った上に転落の怪我の流血が止まらないまま、原爆を持ちながら街を歩き、やがて30分が過ぎる―。
及ぶ理由として、校長と喧嘩するとか色々と案はあったようですが、同じくパニック映画である「新幹線大爆破」('75年/東映)で高倉健が新幹線を爆破するにはそれなりに理由があるものの、それが映画をつまらなくしていると長谷川和彦は考えたため、主人公の家族の関係など全てカットし、都会で孤独に生きる中学校教師という人物造型にしたとのこと。この目論見は成功しており、犯人の無目的性がこの作品を「新幹線大爆破」などより面白く、また深くしています。
なかなか死なない菅原文太など、リアリティを外した場面もありましたが(没シーンも多かったようだ。主人公が小学校のプールにプルトニウムを撒いて多くの子供が死体となって浮き上がるシーンは、当初の"現実の出来事"の予定から"主人公の想像"に置き替わった)、「新幹線大爆破」で最後に射殺される主人公は高倉健のイメージにそぐわなかったのに対し、取り敢えずは生き延びるこの映画の主人公は、まずますジュリーのイメージに合っているのでは(「新幹線大爆破」の宇津井健演じる運転指令長運頼み的行動も疑問)。
ラストの沢田研二を羽交い絞めにし、一緒にビルの屋上から落ちようとする菅原文太の「行くぞ『9番』」というセリフは菅原文太の案で、元々は長谷川和彦自身が脚本でそう書いていたものの、ホモセクシュアルの暗示が露骨なため、「死ぬぞ『9番』」に変更していたところ、菅原文太から「行くぞ『9番』」でという提案があったそうで、菅原文太はこれがどんな映画かよく分かっていた?
「太陽を盗んだ男」●制作年:1979年●監督:長谷川和彦●製作:山本又一朗●脚本:長谷川和彦/レナード・シュレイダー●撮影:鈴木達夫●音楽:井上堯之/星勝●原作:レナード・シュレイダー●時間:147分●出演:沢田研二/菅原文太/池上季実子/北村和夫/神山繁/佐藤慶/伊藤雄之助(特別出演)/汐路章/市川好朗/石山雄大/森大河/樽仙三/中平哲仟/江角英明/風間杜夫/草薙幸二郎/小松方正/西田敏行/水谷豊●公開:1979/10●配給:東宝●最初に観た場所:神田・神保町シアター(23-07-19)(評価:★★★★☆)

「新幹線大爆破」●制作年:1975年●監督:佐藤純弥●脚本:小野竜之助/佐藤純弥●撮影:飯村雅彦/山沢義一/清水政郎●音楽:青山八郎●時間:152分●出演:高倉健/千葉真一/宇津井健/山本圭/郷鍈治/織田あきら/竜雷太/宇津宮雅代/藤田弓子/多岐川裕美/志穂美悦子/渡辺文雄/福田豊土/田坂都/十勝花子/片山由美子/風見章子/岩城滉一/小林稔侍/阿久津元/黒部進/河合絃司/志村喬/山内明/永井智雄/鈴木瑞穂/(以下、特別出演)丹波哲郎/北大路欣也/川地民夫/田中邦衛●公開:1975/05●配給:東映(評価:★★☆)



魚場を狙う地回りから嫌がらせを受けながらも、由美は先祖の財産を守るべく孤軍奮闘していたが、ある夜、その由美の枕元に髪の毛を振り乱した女の幽霊が現われる。磯では由美の遠戚の海女・加代(万
里昌代)が仲間の海女と喧嘩していた。海草研究家・水木教授(沼田曜一)は、加代を抱き込み青山家に代々伝わる財宝を狙っていた。由美の親友・恭
子(三原葉子)が不安がる由美からの手紙で青山邸にやって来たが、彼女が来てからも怪異は続く。恭子は、自分が風呂上がりに目を離した隙に、入浴中の由美の前に現われた幽霊の後を浜に追う。恭子の
恋人の野々宮刑事(菅原文太)は黒真珠を飲み込んだ女の他殺死体が見つかったため、これは恭子の友達と関係があるのではと考え、彼も浜へ来ていた。恭子は幽霊の正体が、地回りに雇われた下男と女中の企みだと気付く。恭子は邸のパーティーで、下男に雇われた婆やが捨てた幽霊の衣装で現われ犯人を挑発するが、逆に、婆やが自殺に見せかけて殺されてしまう―。 
1959(昭和34)年7月公開の新東宝映画、曲谷守平監督の"海女ものスリラー"(海女もの×B級ホラー?)で、三原葉子、菅原文太主演。一応、「菅原文太の初主演作」とされているようですが、親友の瀬戸麗子から「亡霊に呪い殺されそう! 助けて!」との手紙を受け取った三原葉子が心配して青山家を訪ねて来くるところから始まって、彼女(恭子)の視点で話は進み、化物騒動の真相を暴くところまで自らやってしまうので、どちらかと言えば三原葉子の作品という印象が強いです。
「
ヌード拒否事件で新東宝を退社した後に、彼女の後を受ける形で三原葉子(1933-2013)が起用されたということもあって、前田通子のお姉さんっぽいキャラを踏襲している感じであり、「
その三原葉子は海女役ではなく、海女役は万里昌代(「
一方、三原葉子の方は三原葉子で、風呂場での着替えのシーンなどでグラマラスな肢体を披露、最後に由美、加代と共に小舟に誘拐されますが、どういう訳か小舟ではシュミーズ一枚にされていて、沼田曜一の共犯者を演じる国方伝に襲われかけますが、助けに来た菅原文太と海にドボンと...。ここでいいきなり都会からやって来た彼女が地元の海女
のようにスイスイ泳いでみせるのが不思議なのですが、察するに、海女の遊泳シーンがこの作品の1つの"売り"のようなもので、となると主演の三原葉子にも、彼女は役柄の上では海女ではないといったことはもうどうでもよく、とにかく他の2人同様たっぷり泳いでもらおうということだったのでしょう。
菅原文太(1933-2014)はすらっとしていて腹筋も割れていて、いかにもモデル出身という感じですが、グラマラスな三原葉子に押されているだけでなく、犯人役の沼田曜一(1924-2006)の怪演にも押されている感じがします。翌1960年1月公開の同じく小野田嘉幹監督の「
葉子はベリーダンスのような踊りを踊っている)、この「海女の化物屋敷」では、沼田曜一演じる水木教授に拉致された女性らをいつ助けに来るのか、今や遅しと待っていたら、助けに行く前に水木の方が勝手に滑って転んで...え~っという感じ(これではよくある"事件解決後に現場に駆けつけた警官"という間が抜けたパターンと同じではないか)。沼田曜一は、回想シーンでの妻を絞殺するところも、水中銃の銛に射抜かれるところも見せ場充分、これでは菅原文太の影が薄いのも無理はないです。
三原葉子と沼田曜一の印象が残る映画であり、更に万里昌代、瀬戸麗子が今回の当の海女役であり(右のスチール写真は前年の小野田嘉幹監督「人喰海女」('58年)における三原葉子で、この時は「海女の化物屋敷」と違ってちゃんと海女役だった)、「初主演」の菅原文太はややお飾り気味という感じだったでしょうか(時として"正義漢"というのは影が薄くなりがちになる)。2006年に亡くなった沼田曜一に続いて、菅原文太が2014年11月に亡くなっており、更につい2週間前['16年2月]、三原葉子が実は2013年7月に亡くなっていたという報に接することとなったのが寂しいです。三原葉子の死は、彼女の出身地の地元紙「盛岡タイムス」が昨年['15年]12月のイベントの予告記事の中で既にさらっと伝えていたのですが(その時点で没後2年以上経っているのだが)、世間では全然話題にならなかったような...。

「海女の化物屋敷」●制作年:1959年●監督:曲谷守平●脚
本:杉本彰/赤司直●撮影:岡戸嘉外●音楽:長瀬貞夫●原案:葭原幸造●時間:81分●出演:三原葉子/菅原文太/瀬戸麗子/山村邦子/万里昌代
/沼田曜一/国方伝/五月藤江/岬洋二/九重京司/大原永子/由木城太郎/山下明子/沖啓二/倉橋宏明/白川晶雄/高橋一郎/西朱実/宇田勝哉 ●公開:1959/07●配給:新東宝(評価:★★★)


広能昌三(菅原文太)は復員後、遊び人の群れに身を投じていたが、山守組々長・山守義雄(金子信雄)はその度胸と気風の良さに感心し、広能を身内にする。まだ小勢力だった山守組は、土居組との抗争に全力を注ぐ。その土居組を破門された若頭・若杉(梅宮辰夫)が山守組に加入し、若杉による土居(名和宏)殺害計画が進む―。 

「仁義なき戦い 広島死闘篇「('73年)、「仁義なき戦い 代理戦争」('73年) 、「仁義なき戦い 頂上作戦('74年)、「仁義なき戦い 完結篇」('74年)も続けて観ましたが、広能の他にも、松方弘樹演じる板井や梅宮辰夫演じる若杉などサブヒーロー的な登場人物がいることはいますが、彼らは皆、この第1作の中で死んでしまいます。
シリーズの後の方になると、死んだ人物の役を演じた俳優がまた別の役で出てくるので、観ていて妙な感じがします。第1作における梅宮辰夫の「若杉」などは結構キーパーソンだったのですが、第3作「仁義なき戦い 代理戦争」と第4作と「仁義なき戦い 頂上
作戦」には「明石組幹部 岩井信一」の役で出演しています。この役を演じるのに際して眉毛を剃り落としましたが、これは、岩井のモデルで
ある三代目山口組若頭の山本健一に眉毛がなかったためで、眉のない父の顔を見た娘の梅宮アンナ(1972年生まれ)は、怖くて泣いたそうです。でも、このシリーズの演技で最も飛躍した俳優の一人が彼、梅宮辰夫であり、異なった役を演じ切ったこともその要因としてあったのでは。違った役と言えば、第3作に第1作と別の役で出てくるのは渡瀬恒彦も然り。しかも、ストーリー的には、この第3作が第1作の続編となっているのでややこしいです。松方弘樹は第4作「頂上作作戦」で別の役で登場、第5作「完結篇」でさらに別の役で出てきます。
松方弘樹 in「仁義なき戦い」(坂井鉄也・射殺される)/「仁義なき戦い頂上作戦」(藤田正一(射殺される)/「仁義なき戦い完結編」(市岡輝吉・射殺される)
準主役級でさえそうですから、主に殺され役である川谷拓三などは第1作から第5作まで全部異なる役で登場しており、一方で、小林旭は第3作から第5作まで、山城新伍は第2作から第5作まで同じ役で出ていたりもします。流れとしては、誰か特定の個人の生き様を追うというよりは、次第に"群像活劇"の色合いを濃くしていくという感じでしょうか(広能が結構長く刑務所に入っている期間があって、必ずしも毎回は表舞台に出てはこないということもある)。

菅原文太は、'60(昭和35)年の正月映画「女奴隷船」(新東宝)に26歳で主演しています。この作品は舟崎淳の「お唐さん」を基にした和風海洋アドベンチャー(?)で、これ、昭和20年初頭の時代設定なのですが(「仁義なき戦い」と大差ない)、日本女性を上海まで運んでセリにかけて売り飛ばす「お唐さん船」というものがストーリー背景となっています。
善玉主人公が菅原文太で(この頃は何となく的場浩司と似ている)、悪役は丹波哲郎(この人は昔からこんな感じだったんだなあと)、女優陣は新東宝のセクシー看板女優・三原葉子に、この映画を撮った小野田嘉幹監督と結婚することになる三ツ矢歌子など。
菅原文太は丹波哲郎とのアクション対決を演じたりしましたが、う~ん、スゴイ「B級」の冒険アクション&お色気映画。ダサいセットが微笑ましく、但し、東映風のミニチュア特撮を駆使したりしている努力は買えます。音楽は、東大文学部卒心理学科卒で作曲家になった渡辺宙明(1925-font color=red>2022/96歳没)です。
丹波哲郎の海賊の統領役はあまりに漫画チックで笑
えますが(洋画の影響?)、これでも作品全体としては新東宝作品群の中では相対的にみてゴージャスな方
と言ってよく(この作品は'60年の新東宝のお正月映画であり、新東宝は翌'61年に倒産する)、三原葉子の
ベリーダンスもどきの踊り(これも洋画の影響?)が見ることができるなど、「珍品」的意味合いで星1個オマケという感じ

(●映画評論家の春日太一氏が「週刊文春」2023年6月22日号「春日太一の木曜邦画劇場」で「女奴隷船」を取り上げ、「まるで漫画『ワンピース』からそのまま飛び出してきたような個性的
なキャラクターたちが、所狭しと暴れまくる。」と評していた。そう言えば、その「ONE PIECE」の劇場版の「FILMシリーズ」の第4作「ONE PIECE FILM RED(フィルム・レッド)」('22年/東映)を昨年['22年]観たが、メインヒロインは"世界の歌姫"ウタで、歌唱部分はAdoが担当。歌唱力はあると思ったが、ウタのキャラクターが「世界中の苦しんでいる人々を自分の歌で幸せにしよう」と考えるのは結構だけど、"独善"が目立つように思え、子どもと観に行ったということもあり、少し気になった。東映が配給した映画で初の興収200億円突破の映画となったそうで、興行的には成功を収めたが、個人的には△評価。)

「仁義なき戦い 〈シリーズ第1作〉」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干
晃一●時間:99分●出演:菅原文太/松方弘樹/田中邦衛/金子信雄/梅宮辰夫/成田三樹夫/渡瀬恒彦/曽根晴美/川地民夫/田中邦衛/名和宏/内田朝雄/伊吹吾郎/川谷拓三/中村英子/木村俊恵/渚まゆみ/内田朝雄/三上真一郎/高野真二/高宮敬二/林彰太郎/中村錦司/野口貴史/大前均/志賀勝/岩尾正隆●公開:1973/01●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)●併映:「仁義なき戦い 広島死闘篇」/「仁義なき戦い 代理戦争」/「仁義なき戦い 頂上作戦」/「仁義なき戦い 完結篇」(何れも深作欣二) 


「仁義なき戦い 広島死闘篇」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:100分●出演:菅原文太/前田吟/松本泰郎/司裕介/金子信雄/木村俊恵/名和宏/成田三樹夫/北大路欣也/山城新伍/宇崎尚韶/笹木俊志/木谷

邦臣/小池朝雄/堀正夫/遠藤辰雄/国一太郎/川谷拓三/藤沢徹夫/白川浩二郎/千葉真一/大木晤郎/室田日出男/八名信夫/志賀勝/広瀬義宣/北川俊夫/加藤嘉/中村錦司/梶芽衣子●公開:1973/04●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)
前田吟(広能組若衆・島田幸一)/千葉真一(大友組組長・大友勝利)/加藤嘉(大友連合会々長・大友長次)


戦争」●制作年:1973年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:102分●出演:菅原文太
/小林旭/渡瀬恒彦/山城新伍/池玲子/金子信雄/木村俊恵/成田三樹夫/加藤武/山本麟一/川谷拓三/北村英三/汐路章/内田朝雄/遠藤辰雄/室田
日出男/大前均/野口貴史/曽根晴美
/名和宏/丹波哲郎/梅
宮辰夫/田中邦衛●公開:1973/09●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)

「仁義なき戦い 頂上作戦」●制作年:1974年●監督:深作欣二●脚本:笠原和夫●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:101分●出演:菅原文太/梅宮辰夫/黒沢年男/田中邦
衛/小林旭/松方弘樹/堀越光恵/木村俊恵/中原早苗/渚まゆみ
/金子信雄/小池朝雄/山城新伍/加藤武/夏八
木勲/遠藤太津朗/内田朝雄/長谷川明男/小倉一郎/葵三津子/城恵美/八名信夫/汐路章/室田日出男/鈴木瑞穂/野口貴史/小林稔侍/岡部正純/高月忠/白川浩二郎/有川正治●公開:1974/01●配給:東映
●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★
★☆)

「仁義なき戦い 完結篇」●制作年:1974年●監督:深作欣二●脚本:高田宏治●撮影:吉田貞次●音楽:津島利章●原作:飯干晃一●時間:98分●出演:菅原文太/伊吹吾郎/野口貴史/寺田誠/桜木健一/松方弘樹/唐沢民賢/白川浩三郎/小林旭/北大路欣也/西田良/曽根晴美/成瀬正孝/宍戸錠/山田吾一/誠直也/織本順吉/高並功/八名信夫/山城新伍/木谷邦臣/田中邦衛/国一太郎/川谷拓三/金子
信雄/岩尾正隆/鈴木康弘/天津敏/内田朝雄/野川由美子/藤浩子/中原早苗/橘麻紀/賀川雪絵●公開:1974/06●配給:東映●最初に観た場所:吉祥寺東映(83-07-09)(評価:★★★☆)

「女奴隷船」●制作年:1960年●監督:小野田嘉幹●製作:大蔵貢●脚本:田辺虎男●撮影:山中晋●音楽:渡辺宙明●原作:舟崎淳「お唐さん」●時間:83分●出演:菅原文太/三原葉子/三ツ矢歌子/丹波


「ONE PIECE FILM RED」●制作年:2022年●監督:谷口悟朗●脚本:黒岩勉●音楽:中田ヤスタカ(主題歌:Ado「新時代」(オープニングテーマ・劇中歌)/Ado「風のゆくえ」(エンディングテーマ・劇中歌)●原作:尾田栄一郎●時間:115分●出演(声):田中真弓/中井和哉/岡村明美/山口勝平/平田広明/大谷育江/山口由里子/矢尾一樹/チョー/宝亀克寿/名塚佳織/Ado/津田健次郎/池田秀一●公開:2022/08●配給:東映●最初に観た場所:OSシネマズ ミント神戸(22-08-15)(評価:★★☆)


世間一般でもこうした「ビデオで観る」派が増えて、'96年の映画館の入場者数が1億1,957万人と史上最低だったわけですが、翌年は、この年'97年7月公開の「もののけ姫」('97年/東宝)のヒットを受けて、邦画の映画館入場者数は前年比2千万人増、さらに12月公開のジェームズ・キャメロン監督の「
「もののけ姫」は、それまでの宮崎駿監督の作品の集大成とも言える大作で、作画枚数は14万枚以上に及び、これは後の「千と千尋の神隠し」の11.2万枚をも上回る枚数です。時代の特定は難しいですが、室町後期あたりのようで、室町時代にしたのはこれ以上遡ると現実感が希薄になって自分自身もイメージが湧きにくくなるためだというようなことを、宮崎監督が養老孟司氏との対談で言っていました(『虫眼とアニ眼』 ('08年/新潮文庫))。自然と人間の対決というテーマは「風の谷のナウシカ」('84年)にも見られましたが、こちらはより深刻かつ現実的に描かれているような気もします。バックボーンになっているのは明らかに網野善彦(1928-2004)の展開する非農業民に注目した日本史観であり、映画全編を通して様々な要素が入っていて、その解釈となると結構難解
な世界とも言え、歴史学の知識に疎
い身としては、その辺りが今一つ解らなかったもどかしさもありました(その網野善彦からは、当時の女性は皆ポニーテールだったとの指摘を受けている)。「となりのトトロ」('88年)みたいに、深く考えないで観た方が良かったのかも。


「千と千尋の神隠し」が記録的な興行成績となったのは、第75回アカデミー賞長編アニメ映画賞を受賞し、海外でも評価されたということで、普段アニメを観ない人も映画館に行ったという事情もあったのではないで
しょうか。但し、米国アカデミー賞受賞は、先に第52回ベルリン国際映画祭で「
「風の谷のナウシカ」が出たての頃、この作品にすごく注目していた友人がいて、薦められてその友人の家でレーザーディスクで観たことがありますが(彼は当時パイオニアに勤務していた)、彼は先見の明があったのかもしれません。また、「となりのトトロ」については、この作品が出た時期に限らず、その後もビデオやDVDの普及で繰り返し多くの家庭で観られ、幅広い世代の幼年期の記憶に残ったのではないでしょうか(個人的には「となりのトトロ」がスタジオジブリの最高傑作だと思っている)。こうした初期作品の方が好きな人も結構いるように思います。
「もののけ姫」●制作年:1997年●監督・脚本:宮崎駿●製作:鈴木敏夫●撮影:奥井敦●音楽:久石譲(主題歌:米良美一「もののけ姫」)●時間:133分●声の出演:松田洋治/石田ゆり子/美輪明宏/渡辺哲/小林薫/森繁久彌/田中裕子/佐藤允/森光子/上條
恒彦/島本須美/名古屋章/近藤芳正/飯沼慧●公開:1997/07●配給:東宝 (評価:★★★☆)
ジコ坊(声:
乙事主(おっことぬし)(声:




「千と千尋の神隠し」●制作年:2001年●監督・脚本・原案・原作:宮崎駿●製作:鈴木敏夫●撮影:奥井敦●音楽:久石譲(主題歌:木村弓「いつも何度でも」)●時間:124分●声の出演:柊瑠美
/入野自由/夏木マリ/中村彰男/玉井夕海/内藤剛志/沢口靖子/神木隆之介/我修院達也/大泉洋/小野武彦/上條恒彦/菅原文太●公開:2001/07●配給:東宝 (評価:★★★☆)
●森卓也(映画評論家)の推すアニメーションベスト10(『

横町の法律事務所で居候弁護士として働いている新米弁護士・真野論平は、ビンボー劇団の役者でもあるが、与えられる役は着ぐるみを着た端役ばかり。そんな論平に舞い込んでくる仕事の相談は、名誉毀損、婚約不履行、遺産相続など様々であり、彼はハートでこれらの問題を解決する!
ライブドアとフジテレビのニッポン放送株を巡る経営権取得攻防(今思えば、ほとんど"騒動"と言っていいものだった)があったのが'05年のことであり、このマンガが描かれたのはその15年も前のこと。個人的には「ゴールデン・パラシュート」などというタームはこのマンガで知りましたが(学習マンガのように分かりやすい!)、実際に仕事でそうしたM&Aが絡む話に遭遇することは今や珍しいことではなく、その度にこのマンガのことを思い出しています(そう言えば、真山仁原作
のNHKの土曜ドラマ「ハゲタカ」('07年)(主演:大森南朋・柴田恭兵)にもこの言葉、出てきた)。(その後、2018年放送のテレビ朝日「ハゲタカ」(主演:綾野剛)にも第2話のタイトルとして登場。ドラマとしては綾野剛版よりかつての大森南朋版の方がいい。)


寛/菅原文太/田中泯/大杉漣●放映:2007/02~03(全6回)●放送局:NHK 「
●『総務部総務課 山口六平太』




東陽一監督による映画化作品('03年/東映)では、この主人公の祖父「グランパ」を菅原文太(1933-2014)が演じています。どちらかと言うと中学1年生の「わたし」を演じた石原さとみよりも「グランパ」を演じた菅原文太の方が主演になっていて、菅原文太にとっては「やくざ
道入門」('94年/バンダイビジュアル)以来約10年ぶりの映画主演作でしたが、これくらい俳優になると、ブランクとかあまり関係ない?(結果的に菅原文太の最後の映画主演作になった) 東陽一監督自身が後に原作をある種ファンタジーとして捉えて映画を撮ったと述べていたような記憶があり、自分が原作を読んだ時の印象に近いなと思いました。
中学1年生の「わたし」を演じた石原さとみは当時16歳で、石神国子(いしがみ・くにこ)名義で既に2本の映画に出ていましたが、石原さとみ名義で初出演したこの作品がデビュー作ということになっているようです。この作品で報知映画賞、日刊スポーツ映画大賞に続き、第25回ヨコハマ映画祭、第46回ブルーリボン賞、第13回日本映画批評家大賞、 そして第27回日本アカデミー賞において新人賞を受賞と「6冠達成」、映画公開年のNHKの連続テレビ小説「てるてる家族」のヒロイン・岩田冬子役にも抜擢されています。この「わたしのグランパ」では、オーディションを勝ち抜いて得た役であり、16歳とは思えない演技を見せているのは確かですが、東陽一監督の演出の巧みさもあったのではないかと思います。
「わたしのグランパ」●制作年:2003年●監督・脚本:東陽一●撮影:小林達比古●音楽:Alpha./タブラトゥーラ●原作:筒井康隆「わたしのグランパ」●時間:113分●出演:菅原文太/石原さとみ/浅野忠信/平田満/宮崎美子/伊武雅刀/波乃久里子●時間:113分●公開:2003/04●配給:東映●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(03-08-30)(評価:★★★☆)

米国留学を終えた吉見藍子(岡田茉莉子)は、帰国してから国際社会福祉協会に勤め社会事業に打ちこんでいた。その関係から彼女は、旋盤工の兼藤良晴(宗方勝巳)を補導しながらその更生を願っていたが、良晴は彼女に一途な思いを寄せていた。しかし藍子には、米国で結ばれた電力会社の有能な技師・立花研一(三橋達也)という恋人があった。藍子の母・克代(乙羽信子)は家政婦紹介所を営み、妹の紅子(桑野みゆき)は高校に通っていた。勝気な克代は子供達に父親は戦死したといっているが、夫の周三(山村聡)は杉電気の社長として実業界の大立物であった。藍子と紅子はふとしたことから父のことを知った。二十年前、克代の父に望まれ彼女と結婚して吉見農場の養子となった周三は、老人の死後、老母や兄夫婦の冷たい仕打ちに家を飛び出してしまった。杉を愛する克代は彼を追って復縁を迫ったが断わられ、克代は無理心中を図った。だが、二人とも生命をとりとめたのであった。藍子は自分の体の中に母と同じ血が流れていることを知った。その頃、立花には縁談が進められていた、化粧品会社を経営する未亡人・香月藤尾(高峰三枝子)の一人娘・苑子(牧紀子)との話である。ある日良晴は、藍子が自分に寄せる好意を、男女の愛情と勘違いして藍子に迫るが、藍子に突放されてしまう。それからの良晴の生活は荒れ、遂には夜の女を殺害するという事態に陥る。一方、立花は苑子との結婚のために藍子との関係を清算しようとしていた。立花のアパートを訪れた藍子は、眠っている立花の枕元からの手紙でそのことを知り、立花を殺そうとするが、どうしても殺すことができなかった。傷心の藍子は、父のところに飛び込む。翌朝、杉の知らせで克代も駆けつけて来た―。
五所平之助監督の1961年11月公開作で、原作は円地文子の『愛情の系譜』('61年5月刊/新潮社)。原作を比較的忠実に映像化していますが、結果として「てんこ盛り」的になったという感じです。原作のイメージを視覚的に確認するのにはいいですが、ややストーリー全体のテンポが鈍くなってしまいました(例えば、原作では、藍子が父親の存命や母親との過去の経緯を知るのは前半部分のかなり早い段階だが、映画では後半に入ってから)。
映画は、主人公・藍子が外人のガイドをして鷺山を見学している場面から始まり、そこへ、鷺を撮影している一人の中年の男性が話しかけます。藍子はガイド以外に罪を犯した青少年を更生させたりする仕事もしていて、その仕事に生き甲斐を感じていますが、結婚直前まで進んでいる恋人の立花はあまり評価していない様子。妹の紅子は最近派手な行動が目立ってきて母・克代は心配していますが、実は紅子が会っていたのは死んだと聞いていた父で、今は杉周三という名で事業を成功させおり、それが、藍子が鷺山で出会った紳士でした。杉は北海道で克代と結婚していたものの確執があり、克代からは離れようとした際に克代が杉をナイフで刺して怪我を負わせてしまい、克代は今も杉を恨み関わることを嫌っています。一方、立花は取引先の実業家の娘との縁談が持ち上がり、はっきり藍子に話せずにいて、藍子の方は、面倒を見ていた不良少年が殺人を犯してしまい、原因は藍子にそっけなくされて自暴自棄になったためらしい―と、やっぱり今一度振り返っても"盛り沢山"過ぎます(笑)。
同じく乙羽信子が母親、岡田茉莉子が娘を演じた映画に、木下惠介監督の「香華」('64年/松竹)があり、原作は有吉佐和子ですが、こちらの方が良かったです(原作を読んでいないせいか)。母娘の確執を描いたものでは、今村昌平監督の「
乙羽信子演じる母・郁代が実に身勝手そのものの性格で、その淫蕩な生活
がたたって岡田茉莉子演じる娘・朋子は芸者に売られることになりますが、それから暫くして借金苦のため、郁代自身も芸者となり、芸者として成功する娘に対して母の方はすっかり落ちぶれ、それでもあれやこれやで娘に迷惑をかけるという展開の話です(同じ置屋に母と娘がいるというのが凄まじい)。
原作と比べてしまうと、そういった評価になってしまうのでしょうか。「香華」の原作も「婦人公論読者賞」や「小説新潮賞」を受賞しており、映画を観てから原作を読みましたが、これがまた傑作。ただし、映画は原作を上手く映像化しており、そこには岡田茉莉子をはじめとする俳優陣の果たしている役割も大きいように思いました。もし、原作を先に読んで映画を観ていたら、物足りなさを感じたでしょうか。自分でも分かりません。今回映画「愛憎の系譜」の方が、先に原作を読んでしまった(それで映画化作品に物足りななさを感じる結果となった)こととの関係で、ちょっと考えさられました。
「愛情の系譜」●制作年:1961年●監督:五所平之助●製作:月森仙之助/五所平之助●脚本:八住利雄●撮影:木塚誠一●音楽:芥川也寸志●原作:円地文子●時間:108分●出演:岡田茉莉子/三橋達也/桑野みゆき/山村聡/園井啓介/牧紀子/乙羽信子/高峰三枝子/宗方勝巳/市川翠扇/千石規子/殿山泰司/陶隆/十朱久雄●公開:1961/11●配給:松竹●最初に観た場所:神保町シアター(24-03-15)(評価:★★★)<.font>
「香華(こうげ)」●制作年:1964年●監督・脚本:木下惠介●製作:白井昌夫/木下惠介●撮影:楠田浩之●音楽:木下忠司●原作:有吉佐和子●時間:201分●出演:岡田茉莉子/乙羽信子/田中絹代/北村和夫/岡田英次/宇佐美淳也/加藤剛/三木のり平/村上冬樹/桂小金治/柳永二郎/市川翠扇/杉村春子/菅原文太/内藤武敏/奈良岡朋子/岩崎加根子●公開:1964/05●配給:松竹●最初に観た場所:シネマブルースタジオ(19-08-27)(評価:★★★★☆)
文(加藤剛)を知ったのは、この頃のことだった。一本気で真面目な朋子と江崎の恋は、許されぬ環境の中で激しく燃えた。江崎の「芸者をやめて欲しい」という言葉に、朋子は自分を賭けてやがて神波伯爵の世話で"花津川"という芸者の置屋を始め独立した。