2008年11月 Archives

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邦題より原題が相応しいシビアな内容。ジェーン・フォンダの演技には鬼気迫るものがある。

ひとりぼっちの青春.jpg  彼らは廃馬を撃つ.jpg ホレス・マッコイ「彼らは廃馬を撃つ」.jpg    .映画「バーバレラ」(1968).jpg   追憶パンフ.jpg 
ひとりぼっちの青春 [DVD]」 「彼らは廃馬を撃つ」['70年/角川文庫]['88年/王国社]「バーバレラ」「追憶

『ひとりぼっちの青春』(1969)2.jpgひとりぼっちの青春1.png 1932年、不況下にハリウッドで行われた「マラソン・ダンス」の会場には、賞金を狙って多くの男女が集まっていた。ロバート(マイケル・サラザン)もその1人で、彼は、大会のプロモーター兼司会者(ギグ・ヤング)の手配により、グロリア(ジェーン・フォンダ)と組んで踊ることになるのだが―。

『ひとりぼっちの青春』(1969).jpg 「ひとりぼっちの青春」('69年/米)は、不況時のアメリカの世相と、一攫千金を願ってコンテストに参加し、ぼろぼろになっていく男女を通して、世相の退廃と人生の孤独や狂気を描いた作品で、 甘ちょろい感じのする邦題タイトルですが、原題は"They Shoot Horses, Don't They?"(「廃馬は撃つべし」とでも訳すところか)というシビアなもの(オープニングで馬が撃たれるイメージ映像が流れる)。

By Jeffrey Ressner.jpg 余興で行われた二人三脚競走で足がつって踊れなくなったロバートを、今までの苦労が水の泡になるとして無理やり引きずって踊ろうとするグロリアを演じたジェーン・フォンダの演技には、鬼気迫るものがありました(ジェーン・フォンダはこの作品でゴールデングローブ賞、ニューヨーク映画批評家協会賞の各「主演女優賞」を受賞)。

 グロリアは、もはや賞金のためではなく、自らの尊厳のために踊り続けようとする。しかし、このダンス・コンテスト自体がある種のヤラセ興行であることに気づいたとき、彼女はロバートに自殺幇助を頼み果てる―。"They Shoot Horses Don't They?"は、ロバートが子供の頃、父親から言い聞かされていた言葉だったというのが、強烈な皮肉として効いています。 

バーバレラ 1993.jpgBARBARELLAes.jpg 雑誌モデル出身のジェーン・フォンダは、この映画に出るまではセクシーさが売りの女優で、ピンク・コメディのようなものによく出演しており、この映画の前の出演作は、ロジェ・ヴァディム監督の「バーバレラ」('68年/伊・仏)というSFコミックの実写版でした。偶々テレビで観たという作品だったため、相対的に印象が薄かったのですが、この作品のオープニング、今観ると凄いね。ジェーン・フォンダの格好もスゴかったけれども、アニタ・パレンバーグの格好もスゴかった。

 そんな彼女が演技開眼したのが、この「ひとりぼっちの青春」であったことは本人も後に語っているところであり、その後2度もアカデミー主演女優賞を獲得しています。しかも、「黄昏」("On Golden Pond")の映画化権を買取り、父ヘンリー・フォンダに初のアカデミー主演男優賞をもたらす契機を作ってさえいます。一方、映画でアクの強いプロモーターを演じたギグ・ヤングは、この映画の8年後に、妻を射殺して自らも命を絶っています。シドニー・ポラック.jpg この作品は、今年('08年)5月に亡くなったシドニー・ポラック(1934‐2008/享年73)監督作で、この人の代表作には、「追憶」や「愛と哀しみの果て」などの大物俳優の組み合わせ作品や「トッツィー」('82年、アカデミー助演女優賞)などがあります。
 

『追憶』(1973) 3.jpg 「追憶」('73年)は、やはりあくまでもバーブラ・ストライサンドの映画という感じで、バーブラ・ストライサンドが政治活動に熱心な苦学生を、ロバート・レッドフォードがノンポリの学生を演じていますが、2人の20年後の再会から自分たちの歩んできた道を振り返る構成になっていて、よって「追憶(THE WAY WE WER)」というタイトルになるわけです。

『追憶』(1973) 1.jpg 何事にもひたむきにしか生きられない、不器用だが一途な女性をバーブラ・ストライサンドが好演、人間ってそう簡単には変われないのかもと...。

 テーマ曲もバーブラ・ストライザンドが歌っているわけで、これだけの歌唱力と演技力を兼ね備えているというのは考えてみれば凄い才能ということになります。一時期、ネスカフェ・コーヒーのCMが流れる度に思い出す映画でもありましたが、個人的にはこの映画のお陰で、暫くはロバート・レッドフォード自体にノンポリのイメージを抱いていました。

The way we were

愛と哀しみの果て  0.jpg そのロバート・レッドフォードがメリル・ストリープと共演したのが「愛と哀しみの果て」('85年)で、原作は「バベットの晩餐会」の原作者でもあるカレン・ブリクセン(イサク・ディーネセン)の文芸作品で、池澤夏樹氏が自身の個人編集の世界文学全集においてもチョイスしている『アフリカの日々』ですが、アカデミーの作品賞や監督賞を獲ったにしては中身はハーレクイン・ロマンスみたいだなあと...(原作から何か抜け落ちているのでは?)。でも、メリル・ストリープってコンプレックスを持った女性を演じるのが上手いなあとは思わされ、実際彼女ははこの作品でロサンゼルス映画批評家協会賞の「主演女優賞」受賞していますが、映画自体は全く自分の好みに合わなかったです(この他に、男爵を演じたクラウス・マリア・ブランダウアーがゴールデングローブ賞「助演男優賞」とニューヨーク映画批評家協会賞「助演男優賞」を受賞している)。

トッツィー1.jpg 「トッツィー」('82年)は、女装のダスティン・ホフマンがアカデミー主演男優賞(女優賞?)を獲るかと言われた映画ですが、むしろ共演トッツィーのジェシカ・ラング.jpgジェシカ・ラングの方が進境著しく、彼女はこの作品で、アカデミー賞、ゴールデングローブ賞、ニューヨーク映画批評家協会賞全米映画批評家協会賞の各「助演女優賞」を受賞しています。個人的には、ソープオペラって収録が間に合わなくなると"生撮り"するというのが興味深かった...(日本でも昔のNHKの「お笑い三人組」や民放の「てなもんや三度笠」などは公開録画だったようだが)。

 こうして見ると、男優よりもむしろ女優の方の魅力を引き出しているものが並び、「ひとりぼっちの青春」もその類ということになるのかも知れませんが、「ひとりぼっちの青春」に関しては、シドニー・ポラック監督作の中では忘れてはならない作品だと個人的には思っています。

「ひとりぼっちの青春」米国版 ポスター&ビデオカバー
[ひとりぼっちの青春.jpgThey Shoot Horses Don't They? video.jpgThey Shoot Horses Don't They?.jpg「ひとりぼっちの青春」●原題:THEY SHOOT HOURSES,DON'T THEY?●制作年:1969年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:ジョン・グリーン●原作:ホレース・マッコイ 「彼らは廃馬を撃つ」●時間:133分●出演:ジェーン・フォンダ/マイケル・サラザン/スザンナ・ヨーiひとりぼっちの青春 の画像.jpgク/ギグ・ヤング/ボニー・ベデリア/マイケル・コンラッド/ブルース・ダーン/アル・ルイス/セヴァン・ダーデン/ロバート・フィールズ/アリン・アン・マクレリー/マッジ・ケネディ/レッド・バトンズ●日本ひとりぼっちの青春09.jpg公開:1970/12●配給:20世紀フォックス●最初に観た場所:三鷹東映(78-01-17) (評価★★★★☆)●併映:「草原の輝き」(エリア・カザン)/三鷹オスカー.jpg「ジョンとメリー」(ピーター・イェイツ)

ジェーン・フォンダ(ニューヨーク映画批評家協会賞主演女優賞・ゴールデングローブ賞主演女優賞)

三鷹東映 1977年9月3日、それまであった東映系封切館「三鷹東映」が3本立名画座として再スタート。1978年5月に「三鷹オスカー」に改称。1990(平成2)年12月30日閉館。
  
BARBARELLAs.jpgバーバレラ [DVD].jpgBARBARELLA.jpg「バーバレラ」●原題:BARBARELLA●制作年:1968年●制作国:イタリア/フランス●監督:ロジェ・ヴァディム●製作:ディノ・デ・ラウレンティス●脚本:ジャン=クロード・フォレ/クロード・ブリュレ/クレメント・ウッド/テリー・サザーン/ロジジェーン・フォンダ9.pngバーバレラes.jpgアニタ・パレンバーグ in 『バーバレラ』.jpgェ・ヴァディム/ヴィットーリオ・ボニチェッリ/ブライアン・デガス/テューダー・ゲイツ●撮影:クロード・ルノワール●音楽:チャールズ・フォックス●原作:ジャン=クロード・フォレスト「バーバレラ」●時間:98分●出演:ジェーン・フォンダ/ジョン・フィリップ・ロー/アニタ・パレンバーグ/ミロ・オーシャ●日本公開:1968/10●発売元:パラマウント(評価★★★)
バーバレラ [DVD]」アニタ・パレンバーグ/ジェーン・フォンダ in 「バーバレラ」
    

THE WAY WE WERE .jpg追憶 dvd.jpgThe way we were.gif「追憶」●原題:THE WAY WE WER●制作年:1973年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:マービン・ハムリッシュ●原作:アーサー・ローレンツ●時間:118分●出演:バーブラ・ストライサンド/ロバート・レッドフォード渋谷文化劇場.png/ブラッドフォード・ディルマン/ロイス・チャイルズ/パトリック・オニール/ヴィヴェカ・リンドフォース●日本公開:1974/04●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:渋谷文化劇場(77-10-23) (評価★★★☆)●併映:「明日に向かって撃て!」(ジョージ・ロイ・ヒル)

渋谷文化劇場 1952年11月17日、渋谷東宝会館地下にオープン 1989年2月26日閉館(1991年7月6日、跡地に渋東シネタワーがオープン)
    
愛と哀しみの果てdvd.jpg愛と哀しみの果て パンフ.jpg愛と哀しみの果てs.jpg「愛と哀しみの果て」●原題:OUT OF AFRICA●制作年:1985年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:ジョン・バリー●原作:アイザック・ディネーセン(カレン・ブリクセン)「アフリカの日々」●時間:161分●出演:メリル・ストリープ/ロバート・レッドフォード/クラウス・マリア・ブランダウアー/マイケル・キッチン/マリック・ボーウェンズ●日本公開:1986/03●配給:ユニヴァーサル愛と哀しみの果て meriru .jpgクラウス・マリア・ブランダウアー.jpg映画●最初に観た場所:テアトル池袋(86-10-12) (評価★★)●併映:「恋におちて」(ウール・グロスバード) メリル・ストリープ(ロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞)ラウス・マリア・ブランダウアー(ゴールデングローブ賞助演男優賞・ニューヨーク映画批評家協会賞助演男優賞)
    
トッツィー ジェシカ・ラング.jpgトッツィー.jpg「トッツィー」●原題:TOOTSIE●制作年:1982年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ポラック●音楽:デイブ・グルーシン●時間:113分●出演:ダスティン・ホフマン/ジェシカ・ラング/ビル・マーレイ/テリー・ガー/ダブニー・コールマン/チャールズ・ダーニング●日本公開:1983/04●配給:コロムビア映画●最初に観た場所:自由が丘武蔵野推理 (85-07-14) (評価★★★)●併映:「プレイス・イン・ザ・ハート」(ロバート・ベントン) ダスティン・ホフマン(全米映画批評家協会賞主演男優賞)ジェシカ・ラング(ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞・全米映画批評家協会賞助演女優賞・ゴールデングローブ賞助演女優賞・アカデミー賞助演女優賞)

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感動作。2度目のオスカーで「母親役のチャンピオン」への道を歩んだサリー・フィールド。

プレイス・イン・ザ・ハート パンフ.bmp PLACE IN THE HEART 1984.bmp プレイス・イン・ザ・ハート.jpg
「プレイス・イン・ザ・ハート」映画パンフレット  「プレイス・イン・ザ・ハート [VHS]」 サリー・フィールド/ダニー・グローヴァー/ジョン・マルコヴィッチ/エド・ハリス

PLACE IN THE HEART 1984 1.jpgプレイス・イン・ザ・ハート2.jpg 1935年のアメリカ南部テキサスを舞台に、夫である保安官を酔っ払いの黒人によって誤って撃ち殺された妻が、貧困にもめげずに必死になって家族を守ろうとする姿を追った人間愛ドラマで、個人的にも感動しました。ベルリン国際映画祭「銀熊賞」(監督賞)、トロント国際映画祭「観客賞」など多くの賞を受賞しています。

 サリー・フィールド(Sally Field)が、2人の子供と多大な借金を抱えたまま未亡人になり、途方に暮れながらも、物乞いの黒人(ダニー・グローヴァー)に綿花の栽培方法などを教わって、竜巻の被害にあったりしながらも苦難を乗トランザム7000 pos.jpgり切ろうとする母親の役を好演(と言うか力演)していて、バート・レイノルズ主演の「トランザム7000」('77年)(アトランタのトラック野郎が"28時間以内にテキサス州テクサカナまで行きビールを積んで帰ってくれば8万ドルの報酬を出す"という金持ちの申し出に挑むもので、面白かった。コメディ仕立てトランザム7000 2.jpgなので、面白くなければどうしようもないのだが。監督のハル・ニーダムはスタントマン出身)に出ていたころは、バート・レイノルズの愛人という印象が強かったのが(プライベートではバート・レイノルズとの"夫婦"喧嘩がよくゴシップになっていた)、いつの間にかこんなに上手くなったのかと...。

Sally Field place i n the heart academy.jpg 彼女が演技開眼したのは、先に同じく父親のいない家庭の2児の母を演じた「ノーマ・レイ」('79年)であり、この作品でのアカデミー主演女優賞を受賞していますが、この「プレイス・イン・ザ・ハート」での2度目の受賞も順当だと思いました。

Sally Field winning an Oscar® for "Places in the Heart"

 個人的に「母子モノ」に弱かったりする面もあるのですが、あんまり暗い話は苦手です。この映画では、暗くなりがちな話を、彼女が明るく気丈に演じているのがいいです(舞台スケールの大きさもそうだが、日本の「母子モノ」と通じるところがあっても、やはりどこか違っている)。

Sally Field in FORREST GUMP(1994)/ER,Season 7(2000-2001)
Sally Field in FORREST GUMP.jpgER緊急救命室  サリー・フィールド.jpgサリー・フィールド.jpg ロバート・ゼメキス監督の「フォレスト・ガンプ/一期一会」 ('94年/米)でトム・ハンクス演じる主人公の母親ミセス・ガンプを演じていましたが、テレビシリーズ「ER緊急救命室」に医師を目指す看護師アビーの母親で躁うつ病を患っているマギー役でゲスbrothers-and-sisters.jpgブラザーズ&シスターズ   .jpgト出演していたのを久しぶりに見て、やはり上手いなあと思ったらエミー賞ゲスト出演賞受賞で、更には「ブラザーズ&シスターズ」で同賞ドラマ・シリーズ部門の主演女優賞を獲っています(この番組、完全に娘役の「アリーmyラブ」のキャリスタ・フロックハートとの演技合戦の様相を呈しており、ロブ・ロウなど他の役者の影が薄い)。

アメイジング・スパイダーマン サリー・フィールド.jpg まさに「母親役のチャンピオン」という感じで、映画からテレビに来て(映画の方も「アメイジング・スパイダーマン」('12年)、「リンカーン」('12年)、「アメイジング・スパイダーマン2」('14年)と出続けていて、「リンカーン」でアカデミー助演女優賞にノミネートされている)最も成功している女優の1人ではないかと思われますが(元々デビュー当時は「ギジェットは15才」などというTVドラマに出ていたが、この時すでに子役にして"主役"だった)、母親としての強さを持つ反面、非常に神経質そうな(神経衰弱気味な)役柄が多くなっているのは、時代を反映してのことなのでしょうか。
「アメイジング・スパイダーマン」('12年)マーティン・シーン/サリー・フィールド/アンドリュー・ガーフィールド

ダニー・グローヴァー/ジョン・マルコヴィッチ(全米批評家協会賞「助演男優賞」受賞)
プレイス・イン・ザ・ハート」 es.jpgプレイス・イン・ザ・ハート  .jpg「プレイス・イン・ザ・ハート」●原題:PLACE IN THE HEART●制作年:1984年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ロバート・ベントン●製作:アーレン・ドノヴァン●撮影:ネストール・アルメンドロス●音楽:ジョン・カンダプレイス・イン・ザ・ハート13.jpgプレイス・イン・ザ・ハート es.jpgー●時間:133分●出演:サリー・フィールド/リンゼイ・ クローズ/エド・ハリス/ダニー・グローヴァー/ジョン・マルコヴィッチ/エイミー・マディガン/ヤンクトン・ハットン/ジェニー・ジェームズ /テリー・オクイン/レイ・ベイカー●日本公開:1985/03●配給:コロムビア映画●最初に観た場自由が丘武蔵野推理 案内.jpg自由が丘武蔵野推理2.jpg自由ガ丘武蔵野推理2.jpg所:自由が丘武蔵野推理(85-07-14) (評価★★★★)●併映:「トッツィー」(シドニー・ポラック)
    
自由が丘武蔵野推理 (後の自由が丘武蔵野館)1951年自由が丘武蔵野館6.jpg自由が丘武蔵野館.jpgオープン、1985(昭和60)年11月いったん閉館し改築、「自由が丘武蔵野館」と改称して再オープン。 2004(平成16)年2月29日閉館 


トランザム7000 1.jpg「トランザム7000」●原題:SMOKEY AND THE BANDIT●制作年:1977年●制作国:アメリカ●監督:ハル・ニーダム●製作:モート・エンゲルバーグ●脚本:ジェームズ・リー・バレット/チャールズ・シャイア/アラン・マンデル●原案:ハル・ニーダム/ロバート・L・レヴィ●撮影:ボビー・バーン●音楽:ビル・ジャスティス/ジェリー・リード●時間:96分●出演:バート・レイノルズ/サリー・フィールド/ジェリー・リード/ジャッキー・グリーソン/マイク・ヘンリー/パット・マコーミック/ポール・ウィリアムズ●日本公開:1977/10●配給:ユニバーサル・ピクチャーズ●最初に観た場所:三鷹オスカー(78-07-20) (評価★★★★)●併映:「ロンゲスト・ヤード」(ロバート・アルドリッチ)/「デキシー・ダンスキングス」(ジョージ・G・アビルドセン)
トランザム7000 [DVD]

ブラザーズ&シスターズ1.jpgブラザーズ&シスターズ2.jpgブラザーズ&シスターズs.jpg「ブラザーズ&シスターズ」Brothers & Sisters (ABC 2006/09~2011) ○日本での放映チャネル:AXN(2007~ )/テレビ東京

ブラザーズ&シスターズ シーズン2 COMPLETE BOX [DVD]

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ドキュメンタリーという枠組みを逆利用した奥崎健三のしたたかさ。

ゆきゆきて、神軍 海外版.jpgYuki Yukite shingun(1987) ゆきゆきて、神軍2.jpg  ヤマザキ、天皇を撃て!2.jpg
ゆきゆきて、神軍 [DVD]」['00年/パイオニアLDC]  『ヤマザキ、天皇を撃て!―"皇居パチンコ事件"陳述書』 ['87年]
"Emperor's Naked Army Marches on [DVD] [Import]"

ゆきゆきて、神軍.jpg このドキュメンタリー映画の"主演"の奥崎健三は、太平洋戦争時に「天皇の軍隊」の駒として密林で死んでいった仲間たちの無念を想い、生き残りの元軍曹を訪ねて行き、当時の上官だった軍曹による部下の射殺事件の事実や、果ては食人行為があったことまでを暴こうとするのですが(まるで、武田泰淳の『ひかりごけ』の世界!)、その姿には鬼気迫るものがありました。

ヤマザキ、天皇を撃て!.jpg宇宙人の聖書.gif 彼は、皇室一般参賀で天皇に向けてパチンコ玉を発射('69年)した人で、この経緯は『ヤマザキ、天皇を撃て!』('72年)という自著に詳しいのですが、'76年に書いた『宇宙人の聖書』(絶版)はより過激で、この本の内容宣伝としてデパートの屋上から天皇家をコラージュしたポルノビラを撒いて全国指名手配となり、その間に独立工兵連隊の生き残りの元軍曹を訪ね、映画と同様の糾弾を試みましたが、訪問直後に逮捕されています。
ヤマザキ、天皇を撃て!―"皇居パチンコ事件"陳述書 (1972年)』『宇宙人の聖書!?―天皇ヒロヒトにパチンコを撃った犯人の思想・行動・予言 (1976年)

Emperor's Naked Army Marches1.jpg 何だか無茶苦茶なことをする人物のようにも見えますが、奥崎健三の本を読むと、彼がこうした"弔い合戦"を何年にもわたり行脚的に続けていたことと、彼なりに論理的・計画的思考をする人であることが分かります。

ゆきゆきて、神軍2a.jpg この作品はドキュメンタリーですが、彼が"作品"という枠組みを利用して積年の計画を実行しようとしたのは明らかで、"激昂していきなり元上官に掴みかかる"のもすべて計算の内であり、カメラを意識した演技の要素がかなり含まれているというのが、自分の個人的な見方です。
  
Emperor's Naked Army Marches2.jpg この映画の企画に今村昌平が関わっていることもさることながら、彼自身そうしたドキュメンタリーという枠組みを逆利用する"したたかさ"を持っていたように思われ、と言うのは、彼は本当に激昂したならば、本来は鉄砲を持ってくるような人だからです。実際に映画のクランクアップ後に、元上官宅で発砲傷害事件を起こし(映画が"予行演習"で、これが"本番"だった?)、これが殺人未遂にあたるとして懲役12年の刑を言い渡され、'98年まで服役しています。

ゆきゆきて、神軍2.jpg この映画は渋谷のユーロスペースで公開され、場所柄もあってかなりの若い層が観たようで(同館の興業記録を作った)、映画のヒットで一時カリスマ文化人的存在にもなったりしたのを覚えていますが、'05年に87歳で没しています。原一男『ゆきゆきて神軍』a.jpg映画は、彼が殺人未遂により服役することになったことと、彼の活動を支えてきた彼の奥さんが亡くなったことを伝えて終わっています。常に意気軒昂な人物でしたが、自分には、彼もある意味においての戦争犠牲者であったように思われます。 

「ゆきゆきて、神軍」●制作年:1987年●製作:疾走プロ●監督:原一男●企画:今村昌平●時間:122分●出演:奥崎謙三●劇場公開:1987/08●最初に観た場所:渋谷ユーロスペース(87-09-23) (評価★★★★) 

ユーロスペース1・2.jpg渋谷ユーロスペース.jpgシアターN.jpg旧・渋谷ユーロスペースシアターN渋谷 1982(昭和57)年渋谷駅南口桜丘町にオープン、2005(平成17)年11月移転のため閉館。2006(平成18)年1月から渋谷円山町「Q-AXビル」に再オープン。旧ユーロスペース跡地に、2005年12月3日「シアターN渋谷」がオープン(2012年12月2日閉館)

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「ドキュメンタリーもまたフィクションなり」ということを鮮やかに示した作品「人間蒸発」。

人間蒸発.jpg 人間蒸発2.jpg 今村昌平.jpg
人間蒸発 [DVD]」    早川佳江/今村昌平(1926-2006)

Ningen jôhatsu(1967.jpg 結婚の直前に突然失踪した婚約者を探す早川佳江という女性。露口茂がレポーターとなり、カメラと共に捜索を続ける彼女を追うが、やがて婚約者の二重生活が明らかになる。社会における人と人の繋がりの脆さに自分自身をも見失って呆然とする女性―。

人間蒸発2.jpg 松本清張の『ゼロの焦点』('58年発表)の"ドキメンタリー版"みたいな装いですが、この作品の狙いは"人と人の繋がりの脆さ"を描くと言うよりもむしろ、ドキメンタリーと言われるもの自体の脆さ、ドキメンタリー成立の不可能性を示すことにあったと思います。
Ningen jôhatsu(1967)

『人間蒸発』.jpg人間蒸発1.jpg 途中から佳江さんの実の姉が婚約者と密会していたなどという証言も出てきて、幼い頃から姉を憎んでいた佳江さんはカッとなり、婚約者の捜索をめぐる家族会議に証言者を交えこぞって姉を糾弾し始める―(弩号は飛び交うは、佳江さんは泣き出すは、まさに修羅場の様相)。人間蒸発3.jpgそのようにして家族会議の場で大いに激昂し口角泡飛ばしていた関係者たちですが、監督の「セット飛ばせ」の一言で、何処からともなく現れたスタッフらが"セット"の障子や襖を片付け始める―(観客はここで初めて、家族会議が人間蒸発4.jpg行われていたのは茶の間ではなく映画の撮影スタジオであったことに気づく)。スタッフが大道具、小道具を片付ける間、彼らは一瞬我に返ったかのように見えましたが、カメラが回り始めると、再び口角泡飛ばし猛然人間蒸発 早川佳枝_4.jpgと話し出します。この時彼らは、事件当事者と言うよりも"出演者"になっているということが、面白いほどよく分かる、(ドキュメンタリー)映画史に残る名場面です。

今村監督がネズミと呼んだ早川佳枝さん  

ネズミの後見人兼レポーターを務める露口茂氏/日本海に立つネズミと露口氏 
人間蒸発 露口茂氏_4.png人間蒸発_4.jpg 佳江さんはやがて婚約者を探す気力を失い、彼女の後見人としてこの作品のレポーターを務める俳優の露口茂氏が好きになったことをカメラに向かって告白しますが、その時の彼女はまるで物語の"主役"を演じている(しかも自分で脚本を書いている)"女優"のように見えます。思わぬ告白に戸惑う露口茂の方が、よほど"ドキメンタリー"的。今村監督は「ドキュメンタリーもまたフィクションなのだ」ということを、この"作品"で鮮やかに示しているように思います。

楢山節考 ps.jpg楢山節考 洋.jpg楢山節考 グランプリ受賞.jpg その今村監督が世界的に注目されるきっかけとなったのが、「楢山節考」('83年/東映)で、深沢七郎の原作は、1958(昭和33)年にも木下恵介監督が映画化しています。'83年のカンヌ国際映画祭では「戦場のメリークリスマス」との熾烈な争いを経てグランプリに該当するパルム・ドールを獲得、今村監督自身は、姥捨伝説の話など外国人に分かるわけがなくどうせ受賞しないのだからと映画祭を欠席していました。

グランプリ受賞を今村監督に報告する坂本スミ子(「今村昌平ワールド」より)

Narayama Bushiko, 1958.jpg楢山節考3.jpg 寒村の中で因習に捉われながらも力強く生き抜いていく村人たちの姿を描いた作品で、「姥捨て」をはじめ農村の風習の不気味さと恐ろしさが存分に表現されている一方で、「人間蒸発」に衝撃を受けた自分としては、この作品はやや作り過ぎている印象も受けました(ラストで母と子の愛情が強調されている)。今村監督の作品の中ではベストワンに挙げる人も多い作品ですが、個人的には、「神々の深き欲望」('68年/日活)の方がパワーが感じられ、この作品はそこまで行かなかったかな。観る側との相性を選ぶ作品だとも思うのですが、パルム・ドール受賞で当時誰もが絶賛していたことに対する反発も若干あったかもしれません。
              
人間蒸発_05.jpg人間蒸発ド.jpg「人間蒸発」●制作年:1967年●製作:今村プロ=ATG●監督・企画:今村昌平●音楽:黛敏郎●時間:130分●出演:露口茂/早川佳江/早川サヨ/今村昌平●劇場公開:1967/06●配給:ATG=日活●最初に観た場所:有楽町・日劇文化劇場(80-07-05) ●2回目:池袋文芸地下(83-07-30)(評価★★★★★)●併日劇文化.jpg映(1人間蒸発es.jpg回目):「肉弾」(岡本喜八)●併映(2回目):「神々の深き欲望」(今村昌平)
日劇文化入口.jpg日劇文化劇場 1935年12月30日日劇ビル地下にオープン、1955年8月12日改装/ATG映画専門上映館)。日劇ビルの再開発による解体工事のため、1981(昭和56)年2月22日閉館。/「日本劇場」(左写真:「銀座百点」624号より(1980年当時))[右下「日劇文化劇場」地下入口]/「日劇文化劇場」地下入口(「音楽・映画・生活雑筆」より)
楢山節考 dvd.jpg
Narayama bushikô(1983).jpgNarayama bushikô(1983)
「楢山節考」●制作年:1983年●製作:友田二郎●監督・脚本:今村昌平●撮影:栃沢正夫●音楽:池辺晋一郎 ●時間:131分●出演:緒形拳/坂本スミ子/あき竹城/倉崎青児/左とん平/辰巳柳太郎/深水三章/清川虹子 江藤漢/常田富士男/小林稔侍/三木のり平/ケーシー高峰/倍賞美津子/殿山泰司/樋浦勉 /小沢昭一/志村幸江/岡本正己/岩崎聡子/長谷川秀夫/村瀬賢二●劇場公開:1983/04●配給:東映=今村プロ●最初に観た場所:渋谷東映(83-04-29) (評価★★★☆)  「楢山節考 [DVD]

「楢山節考」パンフレット/倍賞美津子(おえい)ほか   左とん平(利助)・小林稔侍(常)
楢山節考 01.jpg 楢山節考  左とん平 小林稔侍.jpg 

渋谷TOEI.jpg渋谷東映.jpg渋谷東映 旧.jpg旧・渋谷東映 1953年11月、宮益坂下交差点前に東映の直営モデル劇場としてオープン(モノクロ写真は「渋谷フォトミュージアム」より(1953年当時))。隣渋谷東映 -2.jpg接の「渋谷松竹」と共に、1990(平成2)年9月16日閉館。跡地に「渋谷東映プラザ」が建設され、1993年2月20日、渋谷東映(7階)と渋谷エルミタージュ(9階)渋谷東映s-touei.jpgがオープン(2004年10月9日~渋谷TOEI1・渋谷TOEI2)。
[左]菅野正写真展 「平成ラストショー hp」より(1999(平成2)年9月13日撮影)

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多才な人だったマイケル・クライトン。年下の女性上司からの強烈な「逆セクハラ」を描く。

Disclosure 1994.bmpディスクロージャー.jpg デミ・ムーア DISCLOSURE.bmp ディスクロージャー〈上〉 (ハヤカワ文庫NV).jpg ディスクロージャー〈下〉 (ハヤカワ文庫NV).jpg
ディスクロージャー [DVD]」 マイケル・ダグラス、デミ・ムーア/マイケル・クライトン『ディスクロージャー〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)』『ディスクロージャー〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

DISCLOSURE 2.jpg「ディスクロージャー」.jpg ハイテク企業に勤めるトム・サンダース(マイケル・ダグラス)は、自分に内定していた副社長ポストに、社の創設者ボブ・ガーヴィン(ドナルド・サザーランド)が目をかけてきた野心溢れる女性メレディス(デミ・ムーア)が就任したことを知らされ唖然とする。彼女はかつてのトムの恋人だったのだ。そしてトムは就任したばかりの彼女に部屋に呼び出されて誘惑され、その誘いに負けそうになるも、かろうじて踏み止まり部屋を出る。しかし今度は、彼女から部屋でレイプをされそうになったと訴えられる―。

DISCLOSURE 1994 .jpg マイケル・クライトン.jpg 今月('08年11月)亡くなったマイケル・クライトン(Michael Crichton、1942‐2008/享年66)の原作で、この人のデビュー作が『アンドロメダ病原体』('69年)であり、『ジュラシック・パーク』('90年)などのバイオ・サスペンスやTVドラマ『ER』のようなメディカル系に強かった印象があるけれども(ハーバード・メディカルスクールの出身でもある)、『大列車強盗』('75年)などのミステリもあれば、『ライジング・サン』('92年)のようなビジネスドラマ(ビジネス・サスペンス)もあり、何でもござれといった多才さというか、守備範囲の広さを感じさせ、まだバリバリの現役であっただけに、66歳でのガン死は、壮絶な戦死といった印象も受けます。

 この作品もビジネスドラマ(ビジネス・サスペンス)であり、年下の女性上司による「逆セクハラ」を扱っていますが、日本では「セクシャル・ハラスメント」が「新語・流行語大賞」の"新語"部門金賞に選ばれたのが'89年です(この段階ではまだ"新モノ"扱いか)。男女雇用機会均等法に「性的嫌がらせへの配慮」が盛り込まれたのが8年後の'97年改正に於いてであり、「男性への性的嫌がらせ」も配慮の対象となったのが更に10年後の'07年4月ですから、この作品の原作が1993年に発表され'94年に映画化されたことを思うと、向こうは随分と先を行っていたなあと。但し、米国では、原著発表時点で既に「テーマが古い」との批評もあったとのこと...。

音楽:エンニオ・モリコーネ

 セクハラ事件を契機に主人公は、野望渦巻く企業のパワーゲームに巻き込まれていきますが、映画におけるマイケル・ダグラスは、「ウォール街」('87年)で若僧チャ-リー・シーンを翻弄するやり手の投資銀行家ゲッコー氏のイメージよりも、「危険な情事」('87年)で不倫相手のグレン・クローズに翻弄される弁護士のイメージに近いかも。

ドナルド・サザーランド ディスクロージャー .jpg 映画としては凡作になってしまったと思いますが、マイケル・クライトンへの追悼と、「ライジング・サン」よりはまだ映画らしい映画になっているということで本作品を取り上げました。DISCLOSURE film.gif上司デミ・ムーアの誘いを断った主人公に対する上司の仕打ちの1つに、会社のサーバーへのアクセス権を奪ってしまうというのがあって、そのことで主人公は仕事が完全にストップしてしまいパニックに陥るというのが当時としてはすごく"現代風"の恐怖だなあと思われ、印象的に残りました。

ドナルド・サザーランド ディスクロージャー.jpg「ディスクロージャー」●原題:DISCLOSURE●制作年:1994年●制作国:アメリカ●監督:バリー・レヴィンソン●音楽:エンニオ・モリコーネ●原作:マイケル・クライトン 「ディスクロージャー」●時間:128分●出演:マイケル・ダグラス/デミ・ムーア/ドナルド・サザーランド/キャロライン・グッドオール/デニス・ミラー/ロマ・マフィア/ニコラス・サドラー/ローズマリー・フォーサイス/ディラン・ベイカー/ジャクリーン・キム/ドナル・ローグ/アラン・リッチ/ スージー・プラクソン●日本公開:1995/02●配給:ワーナー・ブラザース (評価★★★)

 【1994年単行本〔早川書房〕/1995年文庫化[ハヤカワ文庫NV(上・下)]】

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「作品力」の源はダスティン・ホフマンとトム・クルーズの挑戦意欲。

『レインマン』(1988).jpg 映画パンフレット『レインマン』.jpg レインマン.jpgRAIN MAN (1988).jpg みんなの精神科2.jpg
RAIN MAN (1988)/「レインマン」パンフレット/「レインマン [DVD]」 きたやまおさむ『みんなの精神科―心とからだのカウンセリング38 (講談社プラスアルファ文庫)』  

アカデミー賞 レインマン.jpg この作品は、ロードショー公開時の平日夜に新宿グランドヲデオン座で観ましたが、ロード中にアカデミー賞受賞が決まり、劇場は超満員でした(1988年の作品賞、主演男優賞、監督賞、脚本賞)。その前に、ゴールデングローブ賞の作品賞も受賞してはいましたが...(第39回ベルリン国際映画祭「金熊賞」(グランプリ)も受賞)。

RAIN MAN film.jpg 精神科医の北山修氏(=元ザ・フォーク・クルセダーズの「きたやまおさむ」氏)は、その著書『みんなの精神科―心とからだのカウンセリング38』('97年/講談社)の中で「『レインマン』の中の自閉症という病気から出てくる面白いエピソードは、ひょっとしたら現実には20人の自閉症患者と20年付き合ってやっと経験できるかもしれない話であって、それが1週間で1人の自閉症の人に起こってしまうところは完全にフィクションである」と書いていますが、それは多分正しい指摘であるのだろうと思います。それでもこの映画が評価されるところがアメリカらしいと思うし、北山修氏自身も、そうした専門家からの指摘をねじ伏せてしまう「作品の力」は認めています。

RAIN MAN (1988)es.jpg その力の源は、「自閉症者は火星人のようなものだから理解できるとは思わない方がいい」と著名な学者に言われ(『レナードの朝』『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』のオリヴァー サックスじゃないかなあ)、かえって発奮したというダスティン・ホフマンと、LD(学習障害)であるためbとd、pとqの区別がつかないなどの識字困難により教科書が読めず幼い頃から苦労したトム・クルーズの、両俳優の挑戦意欲だと思います。

RAIN MAN (1988)s.jpg アメリカのTVドラマなどには、自閉症やアスペルガー症候群の登場人物が結構出てきますが、わざとらしい説明的な描写は少ないようです。アメリカ社会での自閉症に対する認知度・理解度を高める上で、この映画の果たした役割は大きかったのではないかと思いますが、日本でのヒットが国内でのそうしたムーブメントに繋がったかというと、どうでしょうか。

RAIN MAN (1988)ges.jpg 「君が教えてくれたこと」('00年/TBS系列)とか「光とともに...〜自閉症を抱えて〜」('04年/日本テレビ)といったテレビドラマがあり、それぞれは良質な作品なのですが、全体のムーブメントで捉えた場合、結果として単発的な"感動狙い"で終わっている感じもしなくもないのですが。

「レインマン」●原題:RAIN MAN●制作年:1988年●制作国:アメリカ●監督:バリー・レヴィンソン●撮影:ジョン・シール●音楽:ハンス・ジマー●原作・脚本:バリー・モロー●時間:133分●出演:ダスティン・ホフマン/トム・クルーズ/バレリア・ゴリノ/ジェリー・モルデン/ジャック・ マードック/マイケル・D・ロ新宿グランドオデヲン.jpg新宿グランドオデヲン座.jpg新宿グランドオデヲン .jpgバーツ/ボニー・ハント●日本公開:1989/02●配給:ユナイテッド・アーティスツ●最初に観た場所:新宿グランドヲデオン座(89-04-15) (評価★★★★)
新宿グランドオデヲン座 (1975年12月「第一東亜会館」新装に伴い1Fにオープン)2009(平成21)年11月30日閉館

「●ルイ・マル監督作品」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 【2422】 ルイ・マル「五月のミル
「●「フランス映画批評家協会賞(ジョルジュ・メリエス賞)」受賞作」の インデックッスへ 「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「○都内の主な閉館映画館」の インデックッスへ(八重洲スター座)○ノーベル文学賞受賞者(パトリック・モディアノ) 

無垢のままナチの手先となる17歳の少年の悲劇を鮮烈に描く。

「ルシアンの青春」1.jpg ルシアンの青春1.jpg ルイ・マル.jpg ルシアンの青春 00.jpg
Lacombe Lucien(1974)ルシアンの青春 [DVD]」Louis Malle

「ルシアンの青春」2.jpgルシアンの青春.jpg ルイ・マル(1932‐1995/享年63)監督作で、脚本はゴンクール賞受賞作家でパトリス・ルコント監督の「イヴォンヌの香り」('94年/仏)の原作者パトリック・モディアノ(2014年にノーベル文学賞受賞)とルイ・マルの共同脚本。1944年、ビシー政権下のフランス片田舎の病院で雑役夫として働く17歳の少年ルシアンは、反ナチスの動きを牽制する「ドイツ警察」と呼ばれるゲシュタポの手先集団に成り行きで入ってしまい、レジスタンスの地下運動に携わる人々の逮捕や財産没収に参加するなど仲間と共に非道を尽くすが、あるきっかけでユダヤ人の娘フランスと知り合って恋に落ち、彼女に危機が訪れたときに、その祖母とともにスペインへの逃避行を図る―。

ルシアン3.jpg ルシアンが「ドイツ警察」のメンバーになった契機が、最初はレジスタンスに志願したのに若すぎて信用できないと拒否され、渋々職場に戻る途中に自転車がパンクして外出禁止時刻の夜になり、スパイ容疑で「ドイツ警察」がある屋敷に連れて行かれ、そこルシアンの青春  02.jpgで繰り広げられる刹那的な享楽の世界に見入っているところを勧誘されたというもの。自分を拒絶したレジスタンスのリーダーの名前を挙げて彼らの逮捕に貢献し、そのことで家族やかつての仲間から裏切り者呼ばわりされることで、彼はますますナチ・グループに傾斜していく―その様は、彼がイデオロギーによってではなく、ただ自分を認めてくれる"世間"を求めて彷徨っていることが明らかなだけに、辛いものがあり、また恐くもあります。

ルシアンの青春    06.jpgルシアン2.jpg そうしたルシアンも、ユダヤ人娘への恋を通して人間性を回復し、彼女を救うためにナチスに背を向けるまでに成長しますが、映画の最後には、野外で娘との無邪気とも動物的とも思えるようなセックスをし、陽光のもと満足そうに寝そべる彼の笑顔に被って、「1944年10月12日ルシアンはレジスタンス側の裁判で銃殺刑に処せられた」という字幕が出ます。

ルシアン4.jpg 病院雑役夫をしていたのが同じ年の6月で、それから僅か4ヵ月の間に、罪の意識を持たないままナチ協力者として行動し、生まれて初めての恋をし、国境への逃避行を図り、結局は刑場の露と消えることになる17歳の少年―この個人的にも強い印象を受けたルシアンの役を演じたのは公募で選ばれた素人(ピエール・ブレーズ)で、本作完成の2年後に交通事故で亡くなったとのことです。

ルシアンの青春  01.jpg「ルシアンの青春」●原題:LACOMBE LUCIEN●制作年:1973年●制作国:フランス・イタリア・西ドイツ●監督:ルイ・マル(写真右端)●製作:ルイ・マル/クロード・ネジャール●脚本:ルイ・マル/パトリック・モディアノ●撮影:トニーノ・デリ・コリ●音楽:ジャンゴ・ラインハルト●時間:130分●出演:ピエール・ブレーズ/オロール・クレマン/オルガー・ローウェンアドラー/テレーズ・ギーゼ/ステファニ・ブイ/ルム・イアコベスコ●日本公開:1975/05●配給:20世紀フォックス●最オルガー・ローウェンアドラー.jpg初に観た場所:八重洲スター座(79-02-01) (評価★★★★★)●併映:「愛のオーロール・クレマン.jpgピエール・ブレーズ.jpg嵐」(リリアーナ・カヴァーニ)

オルガー・ローウェンアドラー(ユダヤ人の洋服屋オルン)[1974年(第9回)全米批評家協会賞・助演男優賞受賞]/オーロール・クレマン(オルンの娘フランス)/ピエール・ブレーズ(ルシアン)

八重洲スター座 - 2.jpgヤエススター座2.jpg八重洲スター座o.jpg八重洲スター座.jpgヤエススター座 4.jpg

八重洲スター座(1978年まで「ヤエス・スター座」)
東京駅八重洲口・八重洲大通り出て左地下入ル。1989年8月31日閉館。


パトリック モディアノ 嫌なことは後まわし_.jpg
   

菅野 正 写真展 「平成ラストショー hp」より


パトリック・モディアノ ド.jpg脚本:パトリック モディアノ(Patrick Modiano)

2014年ノーベル文学賞受賞


嫌なことは後まわし

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「●「カンヌ国際映画祭 監督賞」受賞作」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ「○都内の主な閉館映画館」のインデックッスへ(シネヴィヴァン六本木)

映画の通念をはるかに超えた"断絶"的ラスト。

「ラルジャン」 (83年/仏・スイス).jpgL'argent(1983).jpg ラルジャン1.jpg robert bresson.JPG
L'argent(1983)ラルジャン [DVD]」 Robert Bresson (1901‐1999/享年98)

ラルジャン2.jpg 1枚の500フラン札を偽札と知らずに使ったイヴォン(クリスチャン・パティ)は、逮捕され有罪となる。出所後に更に強盗の手伝いをして逮捕・投獄され、妻(カロリーヌ・ラング)に離婚され家族とも別れ、自殺をも考える。しかし彼は脱獄し、今度は自分を匿ってくれた一家との間にも事件を引き起こす―。

L'ARGENT 1983 01.jpgラルジャン.jpg ロベール・ブレッソン監督作で、原作はトルストイの短編小説ですが、主人公や周辺の人物が些細なことから犯罪に染まっていく過程はドストエフスキー的で(原作の複数の人物が映画では主人公1人に集約的に投影されている)、但し、後半で主人公の改心の過程が描かれるので、ヴィクトル・ユーゴーっぽい感じもします。ところがこの映画化作品では、トルストイの原作小説の後半の主人公が信仰に目覚め改心する話を完全にカットしているため、主人公が凶行に及んだところで映画はいきなり終わってしまいます。映画館で上映が終わった後、観客が少しどよめいていたような記憶があり、1983年のカンヌ映画祭で監督賞を受賞していますが、その時にも上映終了時にはブーイングも巻き起こったとのことです。

L'ARGENT 19832.jpg それはそうでしょう。逃亡者となった主人公と偶然出会い、彼を匿った心優しい老婆に対して、自然に溢れた環境で老婆からの慈しみを受け改心に向かうかと思われた主人公が、老婆に突然に見舞った返礼は、斧で彼女を惨殺することだったのですから。

ラルジャン _.jpg それまで物語の流れに身を委ねる「観客」として観ていたのが、このような終わり方によって、起きてしまった出来事の中に実際にとり残されたような落ち着かない気持ちになりました。観客が無意識的に期待する"予定調和"の裏をかくというレベルを超えて、映画芸術そのものに対するアンチテーゼを示しているように思えます。

 80歳を超えてこの作品を作ったブレッソン監督は、映画の通念をはるかに超えたところにいたのだともとれるし、映画のラストシーンの、人々が誰もいなくなったレストランを眺めている場面について、「彼らは空虚を見つめているのだ。そこにはもはや何も無い。善は去ってしまったのだ」とカンヌの記者会見で述べたブレッソンの言葉からは、キリスト者としての彼の深い絶望も窺えます。
L'argent (1983)

waveオープン 1983-11-18.gifシネヴィヴァン六本木.jpgシネヴィヴァン六本木2.jpg「ラルジャン」●原題:L'ARGENT●制作年:1983年●制作国:フランス・スイス●監督:ロベール・ブレッソン●原作:レフ・トルストイ 「にせ利札」●時間:85分●出演:クリスチャン・パティ/カロリーヌ・ラング/ヴァンサン・リステルッチ/マリアンヌ・キュオー●日本公開:1986/11●配給:フランス映画社●最初に観た場所:シネヴィヴァン六本木(86-12-01) (評価★★★★)
シネヴィヴァン六本木 1983(平成5)年11月19日オープン(「WAVEビル」オープン11月18日告知[朝日新聞])/1999(平成11)年12月25日閉館

《読書MEMO》
是枝裕和監督の選んだオールタイムベスト10["Sight & Sound"誌・映画監督による選出トップ10 (Director's Top 10 Films)(2012年版)]
 ●ラルジャン(ロベール・ブレッソン)
 ●恋恋風塵(ホウ・シャオシェン)
 ●浮雲(成瀬巳喜男)
 ●フランケンシュタイン(ジェームズ・ホエール)
 ●ケス(ケン・ローチ)
 ●旅芸人の記録(テオ・アンゲロプロス)
 ●カビリアの夜(フェデリコ・フェリーニ)
 ●シークレット・サンシャイン(イ・チャンドン)
 ●シェルブールの雨傘(ジャック・ドゥミ)
 ●こわれゆく女(ジョン・カサヴェテス)

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静かな情感を湛えつつ、ストレートにわかり易く人間の"原罪"を描く。

情事.jpg L'Avventura(1960).jpg L' AVVENTURA Michelangelo Antonioni.jpg L'Avventura (1960).jpg 
情事 [DVD]」 L'Avventura(1960) モニカ・ヴィッティ
 元大使の娘アンナ(レア・マッセリ)の誘いで、彼女とは冷えかけた関係にある建築家の恋人サンドロ(ガブリエル・フェレゼッティ)と、彼女の友人クラウディア(情事03.jpgモニカ・ヴィッティ)の3人は、夏の数日間をシチリアのエオリア諸島のある島にて過ごすことになるが、ヨットで小さな無人島に立ち寄った際にアンナが忽然と姿を消す。捜索隊も出て、残された2人も懸命に行方を捜すが、そのうち疚しさを覚えながらも2人は情事に耽るようになり、やがてアンナの件も口にしなくなる―。

Michelangelo Antonioni.jpg いいなあ、アントニオーニのモノクロ映画! 晩年は寡作で、日本でも一旦は忘れかけたみたいな感じだったのが、90年代に静かなリバイバル・ブームが起こり、この作品も'94年にリバイバルされています。そして、今また人気が出ているようです。
Michelangelo Antonioni (1912‐2007/享年94)

img_8.jpg "愛の不毛"を描き続けた監督と言われていますが、フェリーニの「8 1/2」やゴダールの「パッション」、トリュフォーの「アメリカの夜」と同じく映画監督を主人公にした「ある女の存在証明」('82年)などは、同じ"愛の不毛"を描いたものでも「抽象画」という感じで、自分としてはやや期待外れで、やはり「欲望」('66年)以前、とりわけ「さすらい」('57年)とこの両モノクロ作品が、静かな情感を湛え、ストレートにわかり易くていいです。
Monica Vitti in L'Eclisse
太陽はひとりぼっち71.jpg「情事」 6.jpg 何がわかり易いかと言えば、先ずもってモニカ・ヴィッティのアンニュイな魅力がわかり易いです(アラン・ドロンと共演した「太陽はひとりぼっち」(L'Eclisse、'62年)の彼女も良かった)。これに抗しきれない男の気持ちが理解できるだけに、身につまされる思い?

L'Avventura2.gif 「太陽はひとりぼっち」のアラン・ドロンはイケメン証券マンという役柄でしたが、ガブリエル・フェレゼッティ演じるサンドロは、創造力の面で才能に恵まれず、今は「構造計算」の仕事を専門にしているという建築家という設定で、レア・マッセリ演じる元大使の娘アンナから見放されかけているというのが辛そうでした。

『情事』【ニュー東宝版】.jpg コトがなし崩し的に進行したある時から、モニカ・ヴィッティ演じるクラウディアは不安感に見舞われるようになり、サンドロも、俺たちは一体何をやっているんだと我に返ったように愕然とする―。

 男女の関係で捉えれば、筋立て自体はどこでもありそうな極めて俗な話で、にもかかわらずラストが重いのは、キリスト教のイメージが映画の伏線にあるためかも知れません。原罪とは逃れられないものなのかという想いに暫し浸されました。

 失踪者した元大使の娘のことを離れ、2人の成り行きに引き込まれて観ましたが、失踪者した娘がどうなったのかというミステリだと思って観てはいけない作品です(そう思って観たがために、この作品を貶す人がたまにいる)。

「情事」パンフレット(ニュー東宝版) 

L'Avventura (1960)
L'avventura (1960).jpg
「情事」(1960).jpg「情事」●原題:L' AVVENTURA●制作年:1960年●制作国:イタリア●監督・脚本:ミケランジェロ・アントニオーニ●音楽:ジョヴァンニ・フスコ●時間:129分●出演:ガブリエル・フェルゼッティ/モニカ・ヴィッティ/レア・マッセリ/ドミニク・ブランシャール/ジェームズ・アダムス/レンツォ・リッチ●日本公開:1962/01●配給:イタリフィルム●最初に観た場所:六本木・俳優座シネマテン(82-06-30)●2「情事」 7.jpg回目:三鷹文化(82-11-06)●3回目:飯田橋ギンレイホール (83-07-10) (評価★★★★★)●併映(2回目):「フランス軍中尉の女」(カレル・ライス)●併映(3回目):「甘い生活」(フェデリコ・フェリーニ)

三鷹文化 劇場 - 2.jpg三鷹文化 チラシ.jpg三鷹文化劇場 3.jpg三鷹文化.jpg
三鷹文化劇場 (三鷹駅南口中央通り) 1988(昭和63)年9月閉館
①三鷹オスカー ②三鷹文化劇場

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青春映画の原点とされる作品。主演3人がそれぞれに夭逝しているだけに複雑な思いも。

理由なき反抗 輸入版ポスター.jpg  理由なき反抗パンフレット.jpg 理由なき反抗.jpg Rebel Without A Cause.jpg
「理由なき反抗」輸入版ポスター/パンフレット 「理由なき反抗 特別版 [DVD]
Co-stars Natalie Wood and Sal Mineo
Co-stars Natalie Wood and Sal Mineo.jpg ジェームズ・ディーンが補導されて警察署いる場面のパンフレットが懐かしいこの映画は、「理由なき反抗」1.jpgマーロン・ブランドが出演を断った脚本が、ジョージ・スティーブンス監督の「ジャイアンツ」('56年)の撮影がエリザベス・テーラーの妊娠により中断し時間的余裕のあったジェームズ・ディーンに回ってきて、急遽彼を使うことにした低予算映画だったそうですが、当初はモノクロの予定が、エリア・カザン監督の「エデンの東」('55年)のヒットでカラーに計画変更されたとのことです。ジェームズ・ディーンの演技が良く、結果として青春映画の原点みたいな位置づけの作品になりました(ディーンは撮影の途中からノッてきて、ナイフでの喧嘩シーンでは本物のナイフを使ったりしている)。

理由なき反抗・Rebel Without a Cause.jpg「理由なき反抗」 2.jpg この映画でのジム(ジェームズ・ディーン)とプレイトウ(サル・ミネオ)の関係はよく同性愛だと言われていますが、17歳という設定ですから思春期的なものであると思われ、それでも当初はジムがプレイトウにキスしようとするシーンもあったそうですが、米国内の検閲でカットされたとのこと。個人的には、カットされて良かったと思います。もしそのシーンがあると、BL色が濃くなって、ジュディ(ナタリー・ウッド)を含めた3人の関係のバランスが壊れていたのではないかと思われるからです。

『理由なき反抗』(1955).jpg 一方で、この映画の脚本には、当時の若者の声を聞いたアンケートが反映されていて、そのため、世間の親への教唆的要素が多分に含まれているようにも思います(「理由なき反抗」というタイトルからして)。

 ジムが"チキン・ラン"レースに臨む前に小心者の父親にナイフで切られた血のついたシャツをわざと見せて、これから自分がする事の危険について話したにも関理由なき反抗 Jディーン・Nウッド.jpgわらず、父親は叱ることも止めることも出来ずジムをガッカリさせる場面な理由なき反抗 ディーン.jpgどは、当時言われるようになっていた"父権の失墜"に対する警告ともとれるのではないでしょうか。

 この作品については、こうした作品の意図とは別に、主演の3人の俳優が何れも不慮の死を遂げたこともあって、やや複雑な感慨があります(よく知られるように、ジェームズ・ディーンはこの作品の公開の1ヵ月前に事故死していている(享年24)。アカデミー賞に死後ノミネートされた俳優は何人かいるが、2度ノミネートされたのはジェームズ・ディーンのみである(「理由なき反抗」と「ジャイアンツ」)。

Sal Mineo(1936-1976)/Natalie Wood(1938-1981)
サル・ミネオes.jpg「理由なき反抗」3.jpgNatalie Wood.jpgNATALIE WOOD  (1938 - 1981).jpg '75年にレイ・コノリー監督により「ジェームズ・ディーンのすべて-青春よ永遠に」(James Dean:The First American Teenager)という記録映画(TV用ドキュメンタリー)が作られていて、その中でナタリー・ウッドもサル・ミネオもジェームズ・ディーンの思い出を語っていますが、その翌年の'76年にサル・ミネオは強盗に刺殺され(享年38、生前はピーター・フォークと知己の関係にあり、「刑事コロンボ」の「ハッサン・サラーの反逆」('75年)に、アラブのある国の大使館員の役で出演していた。犯人役はヘクター・エリゾンド(最近では「名探偵モンク」でモンクの新しいかかりつけの精神分析医役を演じている)で、犯人に協力させられて、結局口封じのため殺されてしまう役だった)、更にそのハッサン・サラーの反逆720.jpgハッサン・サラーの反逆 2.jpgハッサン・サラーの反逆 サル・ミネオ.jpg5年後の'81年には、ナタリー・ウッドが撮影中にボートの転覆事故で亡くなっています(享年43、その死因には、事故説以外に他殺説、自殺説もある)。

サル・ミネオ、ヘクター・エリゾンド in「刑事コロンボ(第33話)/ハッサン・サラーの反逆」

Marlon Brando and James Dean.bmp この記録映画の中では、ジェームズ・ディーンがマーロン・ブランドの演技を意識していたことが窺えたのが興味深かったです(演技ばかりでなく、自分はパーティ嫌いでバーティを避けていたのに、パーティに出ていたマーロン・ブランドがどういった様子だったかを人に聞くなど、普段の立ち振る舞いにも強い関心を示していた)。もし、もっと長生きしていたら、どんな作品に出ていただろうかと、ついつい考えてしまいますが、オヤジになったジェームズ・ディーンなんて見たくないという人も結構いるだろうなあ。

James Dean and Marlon Brando
 
エデンの東」('55年)(ケイレブ(キャル)・トラスク)/「ジャイアンツ」('56年)(ジェット・リンク)
iエデンの東H.jpgGiant is best known as Dean's last film.jpg         
James Dean and Natalie Wood
nwood-0730-06.jpg「理由なき反抗」 ちらし.jpgJAMES DEAN REBEL WITHOUT A CAUSE.jpg「理由なき反抗」●原題:REBEL WITHOUT A COUSE●制作年:1955年●制作国:アメリカ●監督・原案:ニコラス・レイ●製作:デヴィッド・ワイスバート●脚本:スチュワート・スターン
/アーヴィング・シュルマン●撮影:アーネスト・ホーラー●音楽:レーナード・ローゼンマン●時間:105分●出演:ジェームズ・ディーン/ナタリー・ウッド/サル・ミネオ/デニス・ホッパー/ジム・バッカス/ロシェル・ハドソン/コーレイ・アレン/ウィリア理由なき反抗08.jpgム・ホッパー/ニック・アダムス/エドワード・プラット/アン・ドーラン/フランク・マッゾラ●日本公開:1956/04●配給:ワーナー・ブラザース●最初に観た場所:高田馬場・早稲田松竹(77-12-21)●2回目:池袋文芸坐(79-02-18)(評デニス・ホッパー 理由なき反抗.jpg価★★★★)●併映(1回目):「ジャイアンツ」(ジョージ・スティーブンス)●併映(2回目):「エデンの東」(エリア・カザン」

デニス・ホッパー(左から2人目)
 

ジェームズ・ディーンのすべて パンフ.jpgJAMES DEAN THE FIRST AMERICAN TEENAGER.jpg「ジェームズ・ディーンのすべて 青春よ永遠に」●原題:JAMES DEAN:THE FIRST AMERICAN TEENAGER●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監ジェームズ・ディーンのすべて 青春よ永遠に00.jpg督:レイ・コノリー●製作:デイヴィッド・パトナム/サンディ・リーバーマン●時間:80分●出演:ジェームズ・ディーン/ナタリー・ウッド/サル・ミネオ/デニス・ホッパー/サミー・デイビスJr./キャロル・ベイカー●日本公開:1977/09●配給:東宝東和●最初に観た場所:テアトル新宿(78-01-13)(評価★★★) ●併映:「サスペリア」(ダリオ・アルジェント)●記録映画
「ジェームズ・ディーンのすべて 青春よ永遠に」 パンフレット

テアトル新宿 tizu.jpgテアトル新宿13.jpgテアトル新宿3.jpgテアトル新宿 1968年12月5日、靖国通り沿いに名画座としてオープン、1989年12月に封切り館としてニューアル・オープン(新宿伊勢丹メンズ館の隣、新宿テアトルビルの地下一階)
  
ハッサン・サラーの反逆9.jpgハッサン・サラーの反逆 00.jpg「刑事コロンボ(第33話)/ハッサン・サラーの反逆」●原題:A CASE OF IMMUNITY●制作年:1975年●制作国:アメリカ●監督:テッド・ポスト●製作:エドワード・K・ドッズ●脚本:ルー・ショウ●撮影:リチャード・C・グローナー●音楽:ベルナルド・セガール/ハル・ムーニー●時間:73分●出演:ピーター・フォーク/ヘクター・エリゾンド/サル・ミネオ/ケネス・トビー/バリー・ロビンス/ビル・ザッカート/ハンク・ロビンソン/ハーヴェイ・ゴールド/アンドレ・ローレンス/ネイト・エスフォームス/ジョージ・スカフ/ジェフ・ゴールドブラム(ノンクレジト(デモ隊の男))●日本公開:1976/12●放送:NHK:★★★☆)
ヘクター・エリゾンド in「名探偵モンク」(2008)
ヘクター・エリゾンド モンク.jpg 名探偵モンク1.jpg

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「シェーン」.jpg 「父親は強い男でなければならない」ということか。アラン・ラッドが降りて役を得たジェームズ・ディーン。
ジャイアンツ.jpg ジャイアンツ3.jpg エドナ・ファーバー「ジャイアンツ(上・下)」早川書房.jpg
ジャイアンツ [DVD]」/エドナ・ファーバー『ジャイアンツ(上・下)』 [56年/早川書房]/「シェーン [DVD]

ジャイアンツ パンフ.jpgジャイアンツ ポスター.jpg  「ジャイアンツ」('56年)はエドナ・ファーバー女史のベストセラー小説の映画化作品ですが、完成3日後にジェームズ・ディーンが事故死するという不幸もあって話題を呼び、当時アメリカでも日本でも大ヒットしたとのこと。
GIANT 1956.jpg ジェームズ・ディーンの老け役の演技には批評家の間で賛否があったものの、ディーンのスタニフラフスキー流演技が、ロック・ハドソンの古典派演技と好対照を成している点でも興味深い作品です。

 その他にも実に色々な見方ができる映画です。以前観た際には、アメリカン・ドリームの光と影を体現したジェームズ・ディーン演じるところのジェット・リンクにばかり目がいっていましたが、実はこの作品は、ロック・ハドソン、エリザベス・テーラーが夫婦役を演じる家族ドラマだったのだと思いました(当初は夫役をウイリアム・ホールディンがやる予定だったが、監督の気が変ってロック・ハドソンに。妻役も、グレース・ケリーに決めていたが、彼女がモナコ大公と結婚したために、オードリー・ヘップバーンなどが候補としてあがり、最終的にエリザベス・テーラーに決まった。一方、ジェームズ・ディーンは、ジョージ・スティーブンス監督にこのジェット・リンク役をやらせてほしいと直訴していた)。

シェーン.jpgSHANE.jpg ある家族の前に突然現れた流れ者という設定は、同じジョージ・スティーブンス監督の前作「シェーン」('53年)と似ていますが、流れ者の"シェーン"を演じたアラン・ラッドが、実は「ジャイアンツ」の同じく"流れ者"であるジェット・リンク役に予定されていたのが、アラン・ラッドが役を降りたために、監督に直訴していたジェームズ・ディーンの願いが叶い、ジェット・リンク役が彼に回ってきたという経緯があります。

Shane (1953).jpg 「シェーン」に出てくる家族の父親は、シェーンに一方的に助けられ何とか悪徳牧畜業者から家族を守りますが、これでは家長としての面目は丸つぶれではないでしょうか。奥さんはシェーンに惹かれ、シェーンも奥さんに惹かれている―その想いを断ち切るかのようにシェーンは去っていきますが、この後の夫婦の関係という観点から考えると、ハッピーエンドとは言い切れないモヤモヤしたものが残ります。

 但し、この映画、日本で西部劇の人気投票をすると必ず上位にくるだけでなく、しばしばトップに選ばれる作品で、映画評論家に言わせれば、日本の股旅物のストーリーと見事に重なるため、日本人の心情に合いやすい作品であるとのこと。

 一方、この「ジャイアンツ」の一家の父親(ロック・ハドソン)は、流れ者(ジェームズ・ディーン)に対し、家長としての威厳を賭して対抗し、ジェット・リンクに惹かれそうになる奥さん(エリザベス・テーラー)の気持ちを自らの元に繋ぎとめているように思えます。

 ジョージ・スティーブンス監督には幼い頃に母親喪失の不安感があったそうですが、自身の不安の克服が「父親は母親を守ることができる強い男でなければならない」というアメリカ的な信条に沿った内容に結実したということなのでしょうか。

 撮影中にジェームズ・ディーンは、自分の役の影が薄いことをジョージ・スティーブンス監督に何度も抗議したものの、監督にことごとく却下されたそうです。

Jaiantsu(1956).jpg 何よりも、タイトルに表される舞台スケールの大きさ(「ジャイアンツ」はテキサス州のことを表すと同時に、原題「ジャイアント」は巨大油田を表す)に惹かれます。ここが日本の家族ドラマと一番違うところであり、あの石油が噴き出すシーンなどはマネできない。なにせ、テキサス1州だけで日本の国土の総面積の1.8倍ぐらいの広さがありますから、まさに"ジャイアンツ"。

Jaiantsu(1956)

 ところで、「シェーン」で主役を演じたアラン・ラッド(1913-1964)は、それまでも二枚目俳優としてそこそこ人気はありましたが、ダシール・ハメット原作、スチュアート・ヘイスラー監督の「ガラスの鍵」('42年)などにアラン・ラッド.jpgシェーン002.jpgおいても、原作における主人公の役を演じているのに映画の中では準主役級にされてしまっていたように、大スターと言えるほどの俳優ではなかったのが、この「シェーン」1作で一気にハリウッドの大スターとなります。ところが、その後は大した作品に出ておらず、60年代を過ぎて人気にも陰りが出てからはノイローゼになり、最後は睡眠薬の多用が原因で亡くなっています(享年50)

Alan Ladd in SHANE(1953) 

Jack Palance  in SHANE(1953)/in Bagdad Cafe(1987)
ジャック・パランス1.jpgOUT OF ROSENHEIM.jpg 一方のシェーンの敵役の殺し屋のウィルソン(酒場でコーヒーしか飲まないところが却って凄味があった)を演じたジャック・パランス(1919-2006)は、その後も性格俳優として活躍し、どちらかと言うと相変わらず悪役が多かったですが、パーシー・アドロン監督のバグダッド・カフェ」('87年/西独)で"老い楽の恋"に静かな情念を燃やす老画家役を好演し、個人的には、あの映画では、ジェヴェッタ・スティールが歌うテーマ曲「コーリング・ユー」と並んで最も印象に残りました(「あのジャック・パランスが」という想いで観たということもあるが)。

 しかし、その後も娯楽映画で"しっかり"悪役を演じ続け(「デッドフォール」('89年)でシルヴェスター・スタローン、カート・ラッセルを相手に犯罪組織のボスを演じていた)、一方、コメディ映画「シティ・スリッカーズ」('91年)ではアカデミー賞助演男優賞、ゴールデングローブ賞助演男優賞 をダブル受賞しています。「シティ・スシティ・スリッカーズ dvd.jpgリッカーズ」は、ビリー・クリスタルらが演じる3人の中年男シティ・スリッカーズ パランス.jpgが「カウボーイ体験ツアー」に軽い気持ちで参加し、予期せずにもそこで自らを見つめ直し、自己を取り戻していくという話で(当時のアメリカの不況を反映している面もあったのかも)、「カウボーイ体験ツアー」なるものがあるのを初めて知りましたが、ジャック・パランスはツアーの教官役の老齢のカウボーイを演じ、当時72歳でしたが、老境に達していい味を出していました。「シティ・スリッカーズ [DVD]」Jack Palance & Billy Crystal in City Slickers(1991)
ジャック・パランス.jpg 映画の中でジャック・パランス演じるベテラン・カウボーイは心臓病で急死し、残された3人は、素人のまま「牛追い」の旅をすることになるわけですが(ジョン・ウェインの「赤い河」を意識したかのような牛追いシーンがあった)、実際のジャック・パランス本人は'06年に87歳で老衰のため亡くなっています。

 「役者」としての足跡はアラン・ラッドの方が大きいのかもしれないけれど、「人生」としてはジャック・パランスの方が恵まれていたかも。

Elizabeth_Taylor_in_Giant.jpgRock_Hudson_in_Giant.jpgGiant is best known as Dean's last film.jpg「ジャイアンツ」●原題:GIANT●制作年:1956年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・スティーブンス●製作:ジョージ・スティーヴンス/ヘンリー・ジンスバーグ●脚本:フレッド・ジュイオル/アイヴァン・モファット●撮影:ウィリアム・C・メラー/エドウィン・デュパー●音楽:デミトリー・ティオムキン/レイ・ハインドーフ●原作:エドナ・ファーバー「ジャイアンツ」●時間:201分●出演:ジェームズ・ディーン/エリザベス・テーラー/ロック・ハドソン/ジェーDennis Hopper Giant (1956).jpgン・ウィザース/キャロル・ベイカー/チル・ウィリス/メーセデス・マッキャンブリッジ/サル・ミネオ/ロッド・テイラー/ナポレオン・ホワイティング/ジュディス・エヴリン/ポール・フィックス/エルザ・カルデナス/フラン・ベネット/デニス・ホッパー/マーセデス・マッケンブリッジ●日本公開:1956/12●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:早稲田松竹(77-12-21) (評価★★★★)●併映:「理由なき反抗」(ニコラス・レイ)

デニス・ホッパー(ジョーダン3世)[中央]

シェーン001.jpgシェーン jパランス.jpg「シェーン」●原題:SHANE●制作年:1953年●制作国:アメリカ●監督:ジョージ・スティーブンス●製作:ジョージ・スティーヴンス●脚本:A・B・ガスリー・Jr●撮影:ロイヤル・グリグス●音楽:ヴィクター・ヤング●原作:ジャック・シェーファー「シェーン」●時間:118分●出演:アラン・ラッド/ヴァン・ヘフリン/ジーン・アーサー/ブランドン・デ・ワイルド/ジャック・パランス/ペン・ジョンスン/エドガー・ブキャナン/エミール・メイヤー/エリシャ・クック・Jr./ダグラス・スペンサー/ジョン・ディエルケス●日本公開:1953/10●配給:パラマウント映画●最初に観た場所:高田馬場パール座(77-12-20) (評価★★★☆)●併映:「駅馬車」(ジョン・フォード)          
パール座入口(写真共有サイト「フォト蔵」)①②高田馬場東映/高田馬場東映パラス ③高田馬場パール座 ④早稲田松竹
高田馬場パール座2.jpg高田馬場パール座 地図.pngパール座.jpg高田馬場パール座4.JPGパール座1.jpg高田馬場パール座(高田馬場駅西口、早稲田通り・スーパー西友地下) 1951(昭和26) 年封切館としてオープン。1963(昭和38)年の西友ストアー開店後、同店の地下へ。1989(平成元)年6月30日閉館。


「シティ・スリッカーズ」●原題:CIシティ・スリッカーズ 2.jpgTY SLICKERS●制作年:1991年●制作国:アメリカ●監督:ロン・アンダーウッド●製作:アービー・スミス●脚本:ローウェル・ガンツ/ババルー・マンデル●撮影:ディーン・セムラー●音楽:マーク・シェイマン●時間:112分●出演:ビリー・クリスタル/ダニエル・スターン/ブルーノ・カービー/ヘレン・スレイター/ジャック・パランス●日本公開:1992/03●配給:東宝東和 (評価★★★)

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「参審制」裁判員制度で大丈夫か。考えさせられる「12人の優しい日本人」。

「12人の優しい日本人」2.png 12人の優しい日本人.jpg 12人の優しい日本人 3.jpg  12人の浮かれる男 筒井康隆劇場.jpg
12人の優しい日本人 [DVD]」/「12人の優しい日本人」豊川悦司/『12人の浮かれる男―筒井康隆劇場(1979年)

 「12人の優しい日本人」は、筒井康隆の『12人の浮かれる男』を原作とする劇団東京サンシャインボーイズの舞台戯曲の映画化作品で、もしも日本に陪審員制が導入されたら...という前提でのコメディです。 ストーリーはちょうど、シドニー・ルメット監督の第7回ベルリン国際映画祭「金熊賞(グランプリ)」受賞作「十二人の怒れる男」('57年/米)を裏返しにしたようなもので、尚且つ一ひねり入れています。

12 ANGRY MEN.jpg 「十二人の怒れる男」は、ナイフで実父を殺害した容疑がかかる少年の裁判における12人の陪審員の討議において、唯一人、少年の犯行だという意見に疑問を感じた陪審員(ヘンリー・フォンダ)が、残り11人の有罪説の根拠の脆弱を順番に暴いていくものです。圧倒的に被告に不利だった数々の証拠が全て崩され、結局、全員一致で「無罪」の評決が下されるまでの展開は息をもつかせぬものですが、この作品のテーマは、「議論による民主主義の勝利」と言うよりも、その議論の中核を成す「事実に基づく強固な論理」そのものにあるとも言え、推理劇としての楽しさを満喫できるものでした(企業の社員研修などで使われることもあるようだ。ロジカル・シンキングの強化が狙い?)。

 原作者のレジナルド・ローズは、実際に殺人事件の陪審員を務めたことがこの話を書くきっかけになったとのことで、舞台劇の脚本のイメージがありますが、元々のオリジナルはテレビドラマ用に書かれたものでした(当時は生放送で連続ドラマをやっていた。演出はCBS社員だったフランクリン・J・シャフナー(後の「パピヨン」('73年/米)の監督))。

12人の優しい日本人(映画).jpg  「12人の優しい日本人」は、12人の陪審員のうち11人までが被告を無罪だと考えていたところ...という「十二人の怒れる男」とは逆の状況から始まり、その後の展開も含め明らかに「十二人の怒れる男」のパロディなのですが、一人の若い男の陪審(相島一之)が有罪を主張して周囲を一人ずつ論理的に説得し、ほぼ有罪で固まりかけたところへ、それまで黙っていた男の陪審員(豊川悦司)が口を開き始めて、但し、自分が主張するだけでなく、他の陪審員に自らの考三谷幸喜s.jpgえも言わせつつ、再び一人ずつ無罪支持に導いて最初の状況に戻してしまう、という―三谷幸喜の凝った脚本もいいし(東京サンシャインボーイズは'83年、三谷が大学3年の時に結成)、役者も全員が一定の水準以上にあって下手な人がおらず、自然に笑えると言うか、むしろテンポのいい緊張感を持って最後まで観続けることができます。

「12人の優しい日本人」3.jpg どちらかと言えば良識派だが、ちょっと偏屈なところもある歯科医(村松克己、当初「銀行員」と称していた)、うず潮1.jpg「難しいことは私には分かりません」と繰り返すばかりの主婦(林美智子、NHKの朝の連ドラ「うず潮」('64年度、原作は林芙美子)の主人公・林フミ子役だった。平均視聴率30.2%、最高視聴率47.8%。林美智子は'65年の「NHK紅白歌合戦」の紅組司会にも抜擢された)、論理的には有罪の証拠をも提示しながら、自らの心証としての無罪を主張し続ける初老の男性(二瓶鮫一、これこそ「優しい日本人」!)、徹底したメモ魔で、裁判でのやり取りの事実だけを並べているが、自分個人の意見は全くないというキャリアウーマン(中村まり子、中村伸郎の娘)、とにかく早く終わらせて帰ることしか考えていないセールスマン(大河内浩)、べらんめえ口調で気性が激しく途中でひねくれてしまう独身男(梶原善)..etc.多種多様な12人ですが、やはり豊川悦司の「実は○○○のふりをしていた△△」は良かったです。

リー・J・コッブ.jpg28歳の会社員の2号(相島一之).jpg ネタばれになりますが、ヘンリー・フォンダに相当する役は相島一之ではなく、実は豊川悦司の役であり、一見ヘンリー・フォンダに相当する役み見えた相島一之は実はリー・J・コッブに相当する役だったんだなあと。このあたりのネジレさせ方もパロディとして上手いと思いました。

「12人の優しい日本人」.jpg 豊川悦司はこの作品が本格的映画デビューでしたが(内容的には殆ど舞台劇だが)、元々はシェイクスピア劇で知られる演劇集団「円」出身で、演技の基礎はしっかりしているし、この作品の役はハマリ役12人の優しい日本人 江口洋介版_.jpgだったと思います(最近の舞台では、江口洋介がこの役をやっていて、江口洋介にとっての舞台デビュー作となっている)。

江口洋介版

 「陪審制」は市民だけで有罪・無罪を決める裁判方式で、それに対し裁判官と市民が合議して判決を導き出すのが「参審制」。この映画で描かれているのは市民のみの討議だから「陪審制」で(但し、米国等の陪審制は有罪・無罪を決めるもので、量刑判断はしない)、日本でも昭和3年から昭和18年まで「陪審制」がありました(因みに、司法制度改革で今回導入される裁判員制度は「参審制」である)。

「十二人の怒れる男」.jpg 「十二人の怒れる男」に対しては、日本に陪審制がないのは、体制側がこういう結果を恐れているからだ、という説もあるようです(ヘンリー・フォンダに対してではなく、残り11人の陪審員について言っているのだろうが、逆説的にはヘンリー・フォンダも含めた"場"または"座"として言えるかも)。日本人は会議などで権威者や専門家の意見に靡(なび)きやすいと言われますが、そうした専門家または専門家っぽい人に対して過剰な敬意を抱いてしまいやすい傾向にあるらしいです。

12人の優しい日本人5.jpg  「12人の優しい日本人」は「十二人の怒れる男」と同様「陪審制」における話ですが、専門家(裁判官)が討議に加わる「参審制」の裁判員制度であればなおのこと、この映画のままとは言わないまでも類似のことが(つまり裁判官の意見に市民がどんどん引っ張られるようなことが)ありうるのではと、この映画の豊川悦司の役にすっかりダマされた自分をふりかえって思うのです。

12人の優しい日本人5.jpg「12人の優しい日本人」●制作年:1991年●製作:ニュー・センチュリー・プロデューサーズ●監督:中原俊●脚本:三谷幸喜●原作:筒井康隆「12人の浮かれる男」●時間:116分●出演:塩見三省/相島一之/上田耕一/二瓶鮫一/中村まり子/大河内浩/梶原善/山下容莉枝/村松克己/林美智子/豊川悦司/加藤善博●劇場公開:1991/12●配給:アルゴプロジェクト (評価★★★★)

尾道みなと祭.jpgうず潮(1964).jpgうずしお タイトル.jpg「うず潮」●演出:関口象一郎●脚本:田中澄江●音楽:田中正史●原作:林芙美子●出演:林美智子/日高澄子/永野達雄/大塚国夫/雪代敬子/津川雅彦/桜田千枝子/池田和歌子/茅島うずしお 林・津川1.jpg成美/渡辺文雄/紅新子/永野達雄●放映:1964/04~1965/04(全310回)●放送局:NHK
「うずしお」 林美智子/津川雅彦

1969(昭和44)年・尾道みなと祭 /「うず潮」主演の林美智子(中央パレード・カー)[山陽日日新聞]

                                          
十二人の怒れる男3.jpg「十二人の怒れる男」●原題:12 ANGRE MEN●制作年:1957年●制作国:アメリカ●監督:シドニー・ルメット●製作:レジナルド・ローズ/ヘンリー・12 Angry Men(1957).jpgフォンダ●脚本:レジナルド・ローズ●撮影:ボリス・カウフマン●音楽:ケニヨン・ホプキンス●原作:レジナルド・ローズ(TVドラマ)●時間:96分●出演:ヘンリー・フォンダ/リー・J・コッブ/エド・ベグリー/ E・G・マーシャル/ジャック・ウォーデン/マーティン・バルサム/ジョン・フィードラー/ジャック・クラグマン/エドワード・ビンズ●日本公開:1959/08●配給:ユナイテッド・アーティスツ (評価★★★★)
12 Angry Men(1957)

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映像美、スケールの大きさ、ジグソーパズルのような構成の謎解きを堪能できる「旅芸人の記録」。

旅芸人の記録.jpgO thiasos(1975).jpg旅芸人の記録 dvd.jpg  旅芸人の記録パンフ2.jpg 旅芸人の記録(映画パンフレット).jpg テオ・アンゲロプロス.jpg
「岩波ホール」公開時ポスター(1979.08) O thiasos(1975)テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX I」/映画パンフレット2種/Theo Angelopoulos(1935-2012

旅芸人の記録5.jpg テオ・アンゲロプロス監督には、「ギリシャ現代史3部作」、「国境3三部作」、「20世紀3部作」(第1作「エレニの旅」('04年)のみ公開済み)などのシリーズがあり、70年代に発表された「旅芸人の記録」は「ギリシャ現代史3部作」の1つ。カンヌ映画祭で寺山修司の「田園に死す」と競い、国際映画批評家連盟賞を受賞しました(当時の映画情報誌「シティロード」に両監督の対談が載った)。

 新作「エレニの旅」では個人史的色合いが強くなっていますが、「旅芸人の記録」を観れば、この監督がもともとは、歴史とそれに巻き込まれる人民の関係をダイナミックに描く映像作家であることがわかります。劇中劇としての「エレクトラ」の神話(娘が父親を愛し母親を憎むという精神分析用語"エレクトラ・コンプレックス"の由縁となっている話)と登場人物たちの相関関係との相似構造、同じ場所で年代差のある複数の事件が継ぎ目なく現れるなどの複雑なカットバック(これスゴイ!)が今見ても斬新です。

アレクサンダー大王_01.jpgアレクサンダー大王 アンゲロプロス1.jpg アンゲロプロス監督の次の作品でヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞(EMERGING CINEMA)を受賞した「アレキサンダー大王」('80年)にも期待しましたが、これは実在のアレキサンダー大を扱ったものではなく、義賊の頭領となった男をギリシャ歌劇「アレキサンダー大王」に重ねて描いたものです。

 1900年の大晦日、手下の手引きで刑務所を脱獄した義賊の頭は、貴族と英国人を人質にとって故郷の北ギリシアに帰還し、彼は元々は本名も知られていない孤児だったが、このことにより「アレクサンダー大王」と呼ばれるようになる。アレクサンダーは人質を盾に、政府の密使と交渉し、仲間の釈放と身代金、更に村の解放を要求する―。

Alexander_the_Great_(1980_film).jpgアレクサンダー大王 アンゲロプロス vhs1.jpg この作品の"アレクサンダー大王"は癇癪持ちで、自分の育ての母と結婚するも彼女を射殺し、交渉相手の密使も殺し、仕舞には英国人の人質らも殺してしまうという―。そこに至るまでに、複雑な政治背景が重層的に描かれていますが、その描かれ方が象徴的であったりして分かりにくかったです(併せて、カットバックで彼の子ども時代が描かれていて、現在と過去が同じフレームで併行する手法などは「旅芸人の記録」にもあった)。

 「長回し」もこの人の特徴で、その分、映画自体も長くなるわけですが、「アレキサンー大王」では「長回し」が更に昂じたような気もして、「旅芸人の記録」の3時間52分に対して「アレキサンダー大王」の方が3時間28分とやや短いのに、観ていて「旅芸人の記録」より長く感じました(ロード館と大井武蔵野館の椅子のクッションの違いだけのためではないだろう)。

 何よりも、この作品でアンゲロプロスが、エイゼンシュタインが「イワン雷帝」で、黒澤明が「乱」で陥ったような、あたかも歌舞伎でも見せられているような様式美へ傾斜し過ぎたのでないかという気がしました(映像的には「イワン雷帝」に迫る壮大さだけど、観客は置き去りにされているような...)。


 個人的にはやはり「旅芸人の記録」が、映像美、スケールの大きさ、ストーリー構築などあらゆる点からみて一番。劇場で鑑賞したいところですが、ジグソーパズルのような構成に謎解きを挑むつもりで、自宅で冷静に鑑賞するというスタンスでも充分堪能できます。

「旅芸人の記録」
旅芸人の記録1.jpg 旅芸人の記録2.jpg
旅芸人の記録3.jpg 旅芸人の記録4.jpg
旅芸人の記録5.jpg Tabi geinin no Kiroku (1975).jpg Tabi geinin no Kiroku (1975)
劇中で右翼の男達に暴行され捨てられた後、いきなり立ち上がって「血の日曜日」事件などのギリシャへの侵略戦争史について滔々と語り始めるエヴァ・コタマニドゥ

「旅芸人の記録」●原題:O THIASSOS(THE TRAVELLING PLAYERS)●制作年:1975年●制作国:ギリシャ●監督・脚本:テオ・アンゲロプロス●撮影:ヨルゴス・アルヴァニティス●音楽:ルキアノス・キライドニス●時間:232分●出演:エヴァ・コタマニドゥ/ペトロス・ザルカディス/ストラト・スパキス/アリキ・ヨルグリ/マリア・ヴァシリウ/ヨルゴス・クティリス/キリアトス・カトリヴァノス新宿文化シネマ.jpg新宿文化シネマ1劇場内.jpg/グレゴリス・エヴァンゲラドス/アレコス・ブビス/ニナ・パパザフィロプル/ヤニス・フィリオス/ヴァンゲリス・カザン●日本公開:1979/08●配給:フランス映画社●最初に観た場所:新宿文化シネマ1(80‐02‐11) (評価★★★★★
新宿文化シネマ1 文化シネマ1〜4・2006(平成18)年9月15日閉館、2006(平成18)年12月9日〜文化シネマ1・4が「新宿ガーデンシネマ1・2」としてオープン(2008(平成20)年6月14日「角川シネマ館」に改称)、文化シネマ2・3が「シネマート新宿1・2」としてオープン

アレクサンダー大王80.jpg「アレクサンダー大王」●原題:O MEGALEXANDROS(ALEXANDER THE GREAT)●制作アレクサンダー大王 アンゲロプロス2.jpg年:1975年●制作国:ギリシャ/イタリア/西ドイツ●監督:テオ・アンゲロプロス●製作:ニコス・アンゲロプロス●脚本:テオ・アンゲロプロス/ペトロス・マルカリス●撮影:ジョルゴス・アルヴァニティス●音楽:クリストドゥス・ハラリス●時間:208分●出演:オメロ・アントヌッティ/エヴァ・コタマニドゥ/グリゴリス・エバンゲラトス●日本公開:1982/03●配給:フランス映画社●最初に観た場所:大井武蔵野館(83-11-13) (評価★★★)

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脳梗塞の後遺症によるハンデを負いつつ、単なる闘病記を超えたメッセージを伝える。

寡黙なる巨人.jpg 『寡黙なる巨人』(2007/07 集英社)多田富雄.jpg NHKスペシャル「脳梗塞(こうそく)からの"再生"〜免疫学者・多田富雄の闘い〜」より(2005.12.4)

 2008(平成20)年度・第7回「小林秀雄賞」受賞作。     

 世界的な免疫学者である著者は、'01年に旅先の金沢で脳梗塞に見舞われ、数日間死線を彷徨った後に生還したものの、後遺症によって発語機能が奪われるとともに右半身不随になり、突然に不自由な生活を強いられるようになりますが、本書はその闘病(リハビリ)の過程において自分の中に目覚めた新たなる人格、生への欲動とでも言うべきものを「寡黙なる巨人」として対象化し、巨人とともに歩む自分を通して、単なる闘病記を超えたメッセージを読者に伝えるものとなっています。

リハビリに励む多田富雄氏.jpg '05年12月にNHKスペシャルとして放映された「脳梗塞(こうそく)からの"再生"〜免疫学者・多田富雄の闘い〜」を見たときの、キーボードを打つと音声を発する機械で会話する著者の様に強く印象づけられましたが、既にこの時点でガン告知も受けており、まさか著者の書いたものがこうした1冊の単行本になって新たに上梓され、それを読むことができるとは思いませんでした。ワープロは病いに倒れて初めて使用したとのことで、'05年の段階でも、あまりスピードは速くなかったように思います(と言うか、めちゃくちゃ遅かった...)。

 にもかかわらず、病いに倒れてからの方が活発に創作活動をしているということで、本のページすらまともにめくることが出来ないようなハンデキャップなのに、知的創作力は衰えておらず、もともとエッセイストクラブ賞も受賞(『独酌余滴』('99年/朝日新聞社))している文筆家でもありますが、後半のアンソロジーにはそれぞれに深みがあって、以前よりもキレが増したような気さえします(小林秀雄や中原中也についての論考が個人的には興味深かったが、リハビリテーション医療に対する社会的提言や福祉政策への批判なども含まれていて、思考が内に籠もっていない)。

 しかし、それにも増して驚くのは、本の前半を占める100ページ近くも通しで書かれた「闘病記」で、病いに倒れたときの臨死体験に近い経験や、意識が戻ったものの、全身の筋肉が不随意となり、唾液すら自分で飲み込めない地獄のような苦しみ、明けても暮れても自死を考える日々、苦しいリハビリなどを経て初めて1歩だけ歩けた時の歓びなどが、切々と伝わってきます。

小林秀雄賞を受賞し、記者会見する多田富雄.bmp 確かに、脳梗塞で倒れ不自由な生活を送っている人は多くいるかと思いますが、介助する人に恵まれていたとは言え、これだけのハンデキャップを負いながら、これだけ冷静に力強くその闘病を伝えたケースというのも稀ではないでしょうか。「小林秀雄賞」の受賞会見で著者は、キーボード音声機器で、「本当にうれしい。渾身で書いた。修道僧のように書くことだけが生きがい」と、その喜びを述べています。

小林秀雄賞を受賞し、記者会見する多田富雄氏(2008/08/28)【共同通信】

 【2010年文庫化[集英社文庫]】

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社会時評らしくなってきた分、面白みを欠く。 書評に読みどころがあったのが救い。

ぼちぼち結論.jpg 『ぼちぼち結論 (中公新書 1919)』 ['07年]

 自分にとっては、解ったような 解らなかったような所があって、読み直すのも何だから次の本を買って読んでみる―といった感じもある養老氏の本ですが、本書は「中央公論」連載の時評エッセイ「鎌倉傘張り日記」の2005年11月号〜2007年6月号の掲載文を収録したもので、『まともな人』『こまった人』('03年・'05年/共に中公新書)に続く第3弾で、7年間の連載の完結篇。

 小泉首相の靖国神社参拝やイラク戦争の戦後処理問題に対する言及など、だんだん社会時評らしくなってきましたが、そうなればなるほど、イマイチ面白みに欠けるような気も...。この人、やはり、生命論とか自然科学寄りの話の方が面白い、とういう気が個人的にはするのですが。

 話の内容としては、納得できるものもあれば論理の飛躍を感じるものもありましたが、「結論」ということを特に意識した書き方でもないように思え、アメリカが言う「テロに対する正義の戦い」というのは見せかけで、石油供給の安全性確保が強迫観念となっているために米軍はイラクから引き揚げない(或いはサウジに駐留してビン・ラディンを怒らせる)というのは尤もだと―、でもこれが本書の結論とも思えないし。

ウェブ進化論.jpg 文中や章の間に挿入されている書評に面白いものがあり(これが本書の救いと言えば救い)、例えば、梅田望夫氏が『ウェブ進化論』('06年/ちくま新書)でネットの世界を「あちら側」、リアルの世界を「こちら側」として対比させ、既成の世界にいる人はグーグルなど「あちら側」で起きていることが理解できないとしたことを、養老氏自身は既成の世界でのアナロジーでこれを語ったとし(『バカの壁』のことか?)、自らを、「こちら側」の既成の人たちから放逐されている「あちら側」に属する人間だとしています。

 氏にとっての「あちら側」の世界とは「虫の世界」で、この本にある「ロングテール現象」の説明にも痛く感じ入った模様で、虫を「知られている順」に並べると同じくロングテールとなり、氏が指向しているのは、その尾っぽの先の(或いは裏の)まだ情報化されていない世界のようです(これが結論? 相変わらず、よくわからん)。

 【2011年文庫化[中公文庫〕】

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男性原理、或いは"ハリウッド映画"に受け継がれるようなヒロイズム。

世界の文学 44 ヘミングウェイ.jpg老人と海/ヘミングウェイ 福田恆存・訳 新潮文庫.jpg   老人と海.jpg
世界の文学〈第44〉ヘミングウェイ (1964年)武器よさらば・老人と海・その他六編』['64年]/『老人と海 (1966年) (新潮文庫)』旧版/『老人と海 (新潮文庫)』 改版版

The Old Man And the Sea.jpg ヘミングウェイの代表作、且つ、生前に発表された最後の作品。最初に読んだのは中学生の時で、多少気負って読み始めたら、最初の老人と少年との会話の部分でいきなり野球の話などが出てきて、文学全集に収まるような作品にプロ野球(正確にはメジャーリーグだが)の話があるのがちょっと意外な印象を受け、結局今でもそのことが一番印象に残っていたりもします(川上弘美氏だったかな?小学5年生の時に読んだという作家は)。

ヘミングウェイ .jpg ヘミングウェイは1952年にこの作品を書き上げ、1954年にノーベル文学賞を受賞しており、ノーベル文学賞は個別の作品ではなく作家の功績および作品全体に与えられるものですが、一方で、この「老人と海」が受賞に寄与したとされていて、これを"受賞対象作"とすれば、書かれてから受賞まで僅か2年しかないことになります(まあ、それまでの実績が評価されたのだろうけれど)。ヘミングウェイはこの作品でピュ-リッツア-賞も受賞しています。

 新潮文庫版は、シェイクスピア作品の翻訳で知られる福田恒存の訳で(福田恒存・野崎孝以外で誰が訳している?)、作中人物の個性にも歴史が反映される(空間が時間に支配されている)ヨーロッパ文学に比べ、ただそこに空間があるだけのアメリカ文学は「食い足りない」とする福田恒存にとって、大海原での老人と魚の格闘というシチュエーションに的を絞ったこの作品は、そうしたアメリカ文学の弱点を逆手にとることで成功しているということになるようです。

アーネスト・ヘミングウェイ (Ernest Miller Hemingway).jpgGrace Hall Hemingway dressed Ernest like a girl for the first two years of his life.bmp 「ハードボイルド・リアリズム」と呼ぶに相応しい福田訳(経年疲労しない名訳)から、センチメンタリズムを排した男性原理、ギリシャ悲劇的なヒロイズム(或いはハリウッド映画に受け継がれるようなヒロイズム)が浮き彫りにされているように思えます(実際、このサンチャゴ老人のストイシズムはカッコいい)。ヘミングウェイは母グレイスに女の子のように育てられたとのこと、幼少の頃の女装させられた写真は有名で(後のハンティングなどに興じる数ある"逞しい"写真と対比すると興味深い)、彼のマッチョ願望をそうした幼児体験の反動であると見る心理学者もいます。
Grace Hemingway dressed Ernest like a girl for the first two years of his life. 女の子姿のヘミングウェイ(右上)
The Old Man and the Sea(老人と海)by Alexandre Petrov(アレクサンドル・ペトロフ) '99年/アニメーション(右下)
老人と海(99年公開).jpgアニメーション「The Old Man and the Sea(老人と海)」 by Alexandre Petrov(アレクサンドル・ペトロフ) 1999.jpg 「OK牧場の決斗」のジョン・スタージェスが監督しスペンサー・トレーシーが主演した映画('58年)もありますが、変わったところでは、ロシアのアレクサンドル・ペドロフ監督が約2万9千枚ものガラスの板に油絵具を使って指で描いて制作しアカデミー賞に輝いたアニメーション作品('99年)があります。

 日本では東京アイマックスシアターなどで上映されましたが、この手法(「手作り」で完結しているのではなく、最終的には膨大なコンピュータ制御により動画構成されている。これは最近のアニメ芸術に共通して見られる傾向)だと、海が本当に綺麗に描かれて、実際、この人の作品は水をモチーフにしたものが多いようですが、これはまさに「動く巨大絵本」だなあと感心させられました。ただ、時間が23分と短いため(この23分に4年もかけたそうだが)、アイマックスで観た時はスゴイと思ったけれど、後で振り返ると文学的なエッセンスはかなり抜け落ちた感じも拭えませんでした(星3つ半はやや辛目の評価か)。

Oceanic White‐tip Shark.jpg 余談ですが、サンチャゴ老人はまず、獲物であるカジキマグロと闘い、次にその獲物を狙う鮫たちと戦うわけで、最初に襲って来るのが「アオザメ」で、その次に、サンチャゴが「ガラノー」と呼ぶところの"シャベル鼻の鮫"が襲って来て、結局この鮫が獲物を食い尽くしてしまうのですが、この「ガラノー」というのは「シュモクザメ」(Hammerhead)のことだと思っていましたが、メジロザメ科の「ヨゴレ」(Oceanic White‐tip Shark)のことのようです(シャベルの"柄"と"先"を取り違えていたかも)。

東京アイマックスシアター2.jpgタイムズスクエア 東京アイマックスシアター.gif 「老人と海」●原題:THE OLD MAN AND THE SEA●制作年:1999年●制作国:ロシア/カナダ/日本●監督・脚本:アレクサンドル・ペドロフ/和田敏克●製作:ベルナード・ラジョア/島村達夫●撮影:セルゲイ・レシェトニコフ●音楽:ノーマンド・ロジャー●原作:アーネスト・ヘミングウェイ●時間:23分●日本公開:1999/06●配給:IMAGICA●最初に観た場所:東京アイマックス・シアター (99‐06‐16) (評価★★★☆)●併映:「ヘミングウェイ・ポートレイト」(アレクサンドル・ペトロフ)●アニメーション
東京アイマックスシアター (タカシマヤタイムズスクエア) 2002(平成14)年2月1日閉館

【1953年老人と海、チャールズ・イー・タトル商会版.jpg単行本[チャールズ・E・タトル商会(福田恒存:訳)]/1956年全集[三笠書房(福田恒存:訳)]/1964年「世界の文学44」[中央公論社(福田恒存:訳)]/1966年文庫化・1980年改版[新潮文庫(福田恒存:訳)]/1970年「新潮世界文学44」[新潮社(福田恒存:訳)]/2014年再文庫化[光文社古典新訳文庫(小川高義:訳)]】
老人と海 (1955年)』チャールズ・E・タトル商会

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何時か確実に訪れる自らの「死」を想起させる。黒澤明に「生きる」を着想させた作品。

イワン・イリッチの死4.jpgイワン・イリッチの死_iwan.jpg イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ.jpg  Ikiru(1952).jpg Ikiru(1952)   
イワン・イリッチの死 (岩波文庫)』 米川正夫:訳 ['34年/'73年改版] 『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ (光文社古典新訳文庫)』 望月哲男:訳 ['06年] 

The Death of Ivan Ilyich.jpgレフ・ニコライビッチ・トルストイ.jpg レフ・ニコライビッチ・トルストイ(1828‐1910/享年82IMG_3146.JPGの中篇小説。45歳の裁判官が不治の病に罹り、肉体的にも精神的にも耐え難い苦痛を味わいながら着実に「死」に向かっていく、その3カ月間の心理的葛藤を、今まで世俗的な価値に固執し一定の栄達を得た自らの人生に対する、それがいかに無意味なものであったかという価値観の転倒からくる混乱と絶望、周囲から哀れみの眼差しを浴びながらも、あたかも自分の死が「予定調和」乃至は「ちょっとした不意の出来事」のように受け取られていることへの苛立ち、そして死の直前の苦悶と周囲への思いやりにも似た「回心」に至るまでを、まさに描き難いものを描き切ったと言える作品です。
                         
生きる 映画.jpg「生きる」1952.jpg生きる 志村喬 伊藤雄之助.jpg 1886年3月、文豪57歳の時に完成した作品ですが、1881年に実在のある裁判官の死に接して想を得たもので、主人公の葬儀とその世俗的な生涯の振り返りから始まるこの作品は、黒澤明監督の「生きる」と導入生きるA.jpg部分や主人公が役人である点が似ており、黒澤はこの作品から「生きる」を着想したとされています。映画関連のデータベースでは、「生きる」の原作としてこの小説が記されているものがありましたが、実際のクレジットはどうだったでしょうか。
                               
『生きる』.jpg 映画は映画で独立した傑作であり(第4回ベルリン国際映画祭「市政府特別賞」受賞、第26回キネマ旬報ベスト・テン第1位)、トルストイのイワン・イリッチの死』が「原作」であるというより、この作品を「翻案」したという感じに近いかもしれません(或いは、単にそこから着想を得たというだけとも言える。伊藤雄之助が演じた無頼派作家に該当しそうな人物なども『イワン・イリッチの死』には登場しないし)。

 作品テーマから捉えても、「生きる」が残された時間をどう生きるかがテーマであったのに比べ、この作品は、自らの死をどう受け入れるかが大きなテーマになっているように思います。

「生きる」(1952・東宝/出演:志村喬/伊藤雄之助)
   
iイワン・イリイチの死7.jpgThe Death of Ivan Ilyich6.jpg 『イワン・イリッチの死』の主人公イワン・イリッチは、「カイウスは人間である、人間は死すべきものである、従ってカイウスは死すべきものである」という命題の正しさを信じながらも、「自分はカイウスではない」とし、死を受け入れられないでいます。一見、バカバカしいように思われますが、一歩引いて考えると、ほとんどの人がこれに近い感覚を持ち合わせているような気もします。

 彼を最も苦しめるのは、「ただ病気しているだけで、死にかかっているわけではなく、落ち着いて養生していれば治る」という「(彼をとりまく家族など)一同に承認せられた嘘」であり、それは皮肉にも彼自身が生涯奉仕してきた「礼儀」というものからくるものですが、その「嘘」に自分も加担させられていることに彼は苛立つわけです。

『イワン・イリッチの死』.JPG この作品は読む者に、日常の雑事により隠蔽されている、但し何時か確実に訪れる自らの「死」を想い起こさせるものであり、ある意味、怖いと言うか、向き合うのが苦痛に感じる面もありますが、一方で、文庫で僅か100ページ、「メメント・モリ」をテーマとしたものとしては、比較的手に取り易い、ある種"テキスト"的作品であるようにも思います。

 周囲との断絶に苦しむ主人公は、死の直前、自分の今の存在こそが周囲を苦しめており、そこから周囲を解き放つことによって自分も楽になると感じる。その時、そこには「死は無かった」―。

 死は生の側にあり、死自体は無であるということを如実に示す実存的作品であり、訳者の米川正夫(1891‐1965)はドストエフスキー作品の翻訳でも知られた人、最近刊行された光文社古典新訳文庫でも、ドストエフスキーが"専門"である望月哲男氏が翻訳にあたっています。

 尚、望月氏もそうですが、『新潮世界文学20-トルストイ5』('71年)の中で本作品を訳している工藤精一郎氏も主人公の名前を「イワン・イリイチ」としており、通常ロシア人の名前を日本語で表す際の慣例に従えば「イリッチ」となるのかもしれませんが、韻を踏むことで主人公の規則的な「役人」人生を表象しているらしく、その点からすれば、この作品においては「イリッチ」より「イリイチ」の方が相応しいのかもしれません。

生きる2.jpg「生きる」●制作年:1952年●製作:本木莊二郎 ●監督:黒澤明●脚本:黒澤明/橋本忍小国英雄●撮影:中井朝一●音楽:早生きる パンフ.bmp坂文雄●原作:生きる 加東.jpgレフ・トルストイ「イワン・イリッチの死」●時間:143分●出演:志村喬/小田切みき/金子信雄/関京子/浦辺粂子/菅井きん宮口精二 生きる.jpg/丹阿弥谷津子/田中春男/千秋実/左ト全/藤原釜足/中村伸郎/渡辺篤/木村功/伊藤雄之助/清水将夫/南美江/加東大介/山田巳之助/阿部九洲男宮口精二河崎堅男/勝本圭一郎/鈴木治夫/今井和雄/加藤茂雄/安芸津広/長濱藤夫/川越一平/津田光男/榊田敬二/熊谷二良/片桐常雄/田中春男/日「生きる」中村伸郎.jpg「生きる」阿部九洲男.jpg守新一●公開:1952/10●配給:東宝●最初に観た場所:大井武蔵野館 (85-02-24)(評価★★★★)●併映「隠し砦の三悪人」(黒澤明) 中村伸郎(市役所助役)/阿部九州男(市会議員)

黒澤 生きる 小田切みき.jpg生きる 菅井きん.jpg

小田切みき(1930-2006/享年76)(小田切とよ)

菅井きん(1926-2018/享年92)(陳情の主婦)                                                                                                                                       
大井武蔵野館 閉館日2.jpg大井武蔵野館 閉館日.jpg大井武蔵野館.jpg「大井武蔵野館」ぼうすの小部屋 - おでかけ写真展より(左写真)

大井武蔵野館 1999(平成11)年1月31日閉館(右写真・最終日の大井武蔵野館) 

大井武蔵野館2.jpg 【1934年文庫化・1973年改定[岩波文庫(米川正夫訳)〕/2006年再文庫化[光文社古典新訳文庫(望月哲男訳『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』)〕】

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「ホラー・メルヘン」みたいな感じ。時代が違えばホラー作家になっていたかも。

セメント樽の中の手紙.jpg葉山 嘉樹 『セメント樽の中の手紙』.jpg  葉山嘉樹.jpg  セメント樽の中の手紙2.jpgセメント樽の中の手紙1.jpg
葉山嘉樹 (1894‐1945/享年51)/「DS文学全集」('07年/任天堂)
セメント樽の中の手紙 (角川文庫)』 ['08年]

 表題作は、1926(大正15)年1月にプロレタリア文芸誌「文芸戦線」に発表されたもので、「DS文学全集」('07年/任天堂)にも収められていますが、まさかこの作品が、この表題での文庫で読めるとは思いませんでした。やはり、昨今の世の中を反映して、「ワーキングプア問題」→「『蟹工船』(小林多喜二)ブーム」→「プロレタリア文学」という流れできているのか。

 愛人がセメント製造の機械に巻き込まれ、形が無くなってしまったから、その愛人はそのセメントがどこで使われるか知りたいと思い、彼の血と骨の混ざったセメントの樽に手紙を入れ、セメント樽を空けた人に連絡してくれるよう書き記す―。

 資本主義の生産機構の人間蔑視を巧みに象徴化させていますが、実際に、葉山嘉樹(1894‐1945)は、名古屋のセメント工場勤務時代に、職工が防塵室に落ちて死亡した事故を契機に労働組合の結成を図り、そのセメント会社を首になっています(1921年)。

 とは言え、こうした形で作品化されると、何となく、「ホラー・メルヘン」みたいな感じになっているような気がしないでもなく、続く「淫売婦」なども、作り話っぽさが抜けきれないように思えました。

 他に角川文庫に同録されている「労働者の居ない船」「牢獄の半日」「集浚渫船」などを読み進むにつれその傾向は強く感じられ、「死屍を食う男」などは、完全にホラー小説。中村光夫によれば、葉山嘉樹は新時代を代表する社会主義の使徒として文壇に迎えられましたが、その私生活は、どんな破滅型芸術家にも劣らぬほど「デーモニッシュ」であったとのこと(中村光夫『日本の現代小説』('68年/岩波新書))、時代が違えばホラー作家になっていたかも。

 「志賀直哉」一辺倒だった文学青年・小林多喜二が、プロレタリア文学へ大きく方向転換するほどに影響を受けた作家ですが、これに続いた多くのプロレタリア文学作家で、今もなお読まれているのが、ブルジョア作家「志賀直哉」を創作の師とした小林多喜二のみであることは皮肉なことです。

 一方の葉山嘉樹は、プロレタリア作家として小林多喜二の次に名前の挙がる作家の1人ですが、代表作と言えるのは、この「セメント樽の中の手紙」くらいしかないのでは(平野謙にその観念性を批判された長編「海に生くる人々」などもあるが)。

 「セメント樽の中の手紙」は文庫本で僅か5ページ強しかなく、国語の教科書にも収められたことがありますが、セメント樽を空けて手紙を見つけた男が、酒をあおるだけで何もアクションを起こさないところで終わっているのが却って余韻があっていいように思えます(学校でわざわざ「その時男はどう思ったのか」みたいな「読み方指導」などしない方がいいような気がする)。個人的には、抑制が効いた表題作だけ星4つで、あとの作品は星3つかな。

木版漫画 「セメント樽の中の手紙01.jpg木版漫画 「セメント樽の中の手紙02.jpg 藤宮史 版画  「木版漫画 セメント樽の中の手紙」(原作:葉山嘉樹)[黒猫堂出版]

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「ケイ・スカーペッタ完全復活」には程遠い。

異邦人[上].gif 異邦人[下].gif 『異邦人 上 (講談社文庫 こ 33-26)』 『異邦人 下 (講談社文庫 こ 33-27)

Book of the Dead - Patricia Cornwell.jpg 全米女子テニス界のスター選手が休暇先のローマで惨殺されるが、その遺体はひどく傷つけられ、くり抜かれた眼窩には砂が詰め込まれていた。イタリア政府から依頼を受けた法医学コンサルタントのケイ・スカーペッタは、元FBI心理分析官で法心理学者のベントン・ウェズリーと共に、事件の調査に乗り出す―。

 2007年に発表された「検屍官シリーズ」の第15作で、"検屍官" ケイ・スカーペッタは、シリーズ第12作『黒蠅』('03年)以降、検屍局長の職を辞し、フロリダ州デルレイビーチに住んで法病理学者の資格で犯罪コンサルタントをしていますが、今回の事件の舞台はローマ、ということで、邦訳タイトルは『異邦人』(原題の「死者の書」(Book of the Dead)は確かにピンと来ない)。

 このシリーズ、日本では毎年年末に新作が出ていたのが、前作『神の手』('05年)との間に「捜査官ガラーノ」シリーズなどがあってやや間があっただけに、「ファン待望の作」、「ケイ・スカーペッタ完全復活」などと歓迎されましたが、一方で、「以前ほど面白くない」「ちょっとがっかり」との声も。

 自分自身の感想も後者で、以前の相方マリーノとかも落魄しておかしくなっていて、スカーペッタ自身の存在も、姪のルーシーなどに押され気味でやや薄く、久しぶり同窓会に行ったら皆が疲れて元気なくて盛り下がったみたいな感じ。

 ケイ・スカーペッタのフィアンセでもあるベントンがスカーペッタを巡ってローマのハンサム法医学者オットー・ポーマにやきもきさせられたり、スカーペッタを憎む女性精神科医マリリン・セルフの存在があったりと、登場人物が増えた分、愛憎ドラマみたいになって、事件そのものの影も薄い。

 そのマリリン・セルフのもとにサンドマンと名乗る者から怪しいメールが届いて、スカーペッタ自身にも危険が迫りますが、身内を事件に巻き込まないと話は盛り上がらないと作者は思っているのでしょうか。

 随所に織り込まれる"最新"の科学捜査のテクニックも、「FOXクライム・チャンネル」などでやっているものの後追いにしか見えず、やたら時事ネタが盛り込まれているところに、逆に、時代に後れまいとする作者の焦りのようなものを感じてしまいました。

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ミステリとしては△だが、小説としては○。「理屈」よりも「情」に訴える?

東野 圭吾 『流星の絆』.jpg 東野 圭吾 『流星の絆』2.jpg


流星の絆 tv.jpg TBSドラマ「流星の絆」(2008)
出演:二宮和也/錦戸亮/戸田恵梨香
流星の絆』(2008/03 講談社) 

 14年前のペルセウス流星群の日、それを見るため夜中にこっそり家を抜け出した功一、泰輔、静奈の洋食屋の3人兄妹が、店に帰り着いたときには両親が殺されていた。彼らは自分たちの親の復讐を果たすべく、詐欺師稼業を営みながらも、時効前になんとか犯人を探し求めようとする―。

白夜行 単行本.gif 不条理な運命から社会の底辺へ突き落とされ、そこから這い上がってくる少年たちの生き様は、『白夜行』('99年/集英社)の系譜かと思ったけれども、前半の詐欺師家業のテクニック紹介とかは、やや軽めの感じ。

 犯人と思しき人物を突き止めるも、「静奈」が「功一」に...辺りから、彼らの復讐計画がすんなりとは行かないであろうことは大方の予想がつきましたが(そもそも帯の文句が既にネタばらし気味)、最後にどんでん返しがあって、やはりこの人の書くものは一筋縄ではないなあと。但し、プロット自体はあちこちに相当無理があるのではないかと―。どんでん返しも、読者を「拍子抜け」させるような側面が大いにあるように思いました。

 でも、読後感は悪くなかったように思え、今回は「理屈」よりも「情」に訴える作品だったなあと。作者の『容疑者χの献身』('05年/文芸春秋)が2006年の「このミス」に選ばれた際に、これは本格ミステリと言えるのかという議論がありましたが、むしろ、この作家は、もともと読者の「情」に訴える部分で優れているように思います。

ドラマ「流星の絆」07.jpg この作品も、個人的には、ミステリとしては△だけれども、小説としては○といったところ。2008年10月にはTBSでテレビドラマ化されていますが、原作をいじくり回す傾向にある脚本家が手掛けていて、最初から外れたトーンになっているようなので、あまり関心が湧かないなあ。

TVドラマ「流星の絆」2008年 10~12月 TBS
出演:二宮和也/錦戸亮/戸田恵梨香

【2011年文庫化[講談社文庫]】

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映画も怖かったが、映画ではそぎ落とされてしまった独特の怖さが原作にはある。

シャイニング(上).gifシャイニング(下).gif シャイニング(下)映画.gifシャイニング(上)映画.gif シャイニング〈新装版〉 上.jpgシャイニング〈新装版〉 下.jpg  The scrap.jpg
シャイニング (1978年) 』 初版(上・下)/パシフィカ 1980年改装版 (上・下)(映画タイアップ・カバー)/『シャイニング 上』 ['08年/文春文庫 新装版]/村上春樹『'THE SCRAP'―懐かしの1980年代』(装丁:和田 誠

The Shining.bmp コロラド山中にある「オーバールックホテル」は冬の間閉鎖されるリゾートホテルで、作家志望のジャックはその妻と息子と共にホテル住み込みの冬季管理人としてやってきたが、そのホテルでは過去に、管理人が家族を惨殺するという事件が起こっていた―。

THE SHINING3.jpg 1977年に書かれたスティーヴン・キング(Stephen Edwin King, 1947- )の長編第3作(原題:"THE SHINING")で、この人のホラー小説は、後期のものになればなるほど「何でもあり」Stephen King.jpgみたいになってきていて、どちらかというと初期のものの方がいいような気がしていますが(TVドラマの「デッド・ゾーン」はそう悪くないと思うが)、その中でもこの作品はやはり記念碑的傑作と言ってよいのではと思います。
Stephen King

シャイニング  00.jpg スタンリー・キューブリック(1928-1999/享年70)の監督・製作・脚本による映画化作品('80年/英)の方を先に観ましたが、映画の方も、イギリスの学者によると数学的に計算すると世界最高のホラー映画になるとのこと(根拠よくわからないが)、確かに、家族を殺し自殺したホテルの前任者の霊にとりつかれた主人公が、タイプに向かって"All work and no play make Jack a dull boy "(働かざるもの食うべからず)と打ち続けるシーンは、映画のオリジナルですが怖かったです(それにしてもシェリー・デュバルは恐怖顔がよく似合う女優だ)。

THE SHINING2.jpg 但し、原作では、ホテル自体が邪悪な意志のようなものを宿し、それに感応する能力を持つ5歳の息子の(内なる)異界との交流がかなりのページを割いて描かれているのに対し、映画は、ジャックが閉塞状況の中で神経衰弱になり狂気に蝕まれていく様に重点が置かれており、ジャック・ニコルソンの演技自体には鬼気迫るものがあるものの、そこに至る過程は、書けない作家の単なるノイローゼ症状の描写みたいになってしまっている感じもしなくもないです。

シャイニング s.jpg 最後に、生垣を走り回って...というのも映画のオリジナルで、独創性は感じられるものの原作を曲げていることには違いなく、これでは原作者のキングが怒るのも無理からぬこと。

シャイニング es.jpg 劇場予告編で、ホテルの過去の歴史を暗示すべく、双子の少女をモチーフにした怖〜いイメージ映像がありましたが、これは本編では違った使われ方になっていて、こうした取ってつけたようなやり方もルール違反ではないかなあ。

creepshow (1982).jpgcreepshow .jpg キングはキューブリックに対して「あの男は恐怖の何たるかを知らん」とくそみそにこきおろした末に、「クリープ・ショー」というオムニバス・ホラー・ムビーの脚本を自分で書き、自らも出演したほか、「シャイニング」も自分で脚本を書き下ろして製作総指揮を務めTV版に作り直していますが、どういうわけか共に評判は今一だったようです。

"creepshow" (1982)

THE SCRAP80.JPG村上春樹 09.jpg キングの「クリープ・ショー」の失敗を指して作家の村上春樹氏が、「恐怖小説作家が真剣に恐怖とは何かと考えはじめたり、ユーモア小説作家が真剣にユーモアとは何かと考えはじめたりすると、物事はわりにまずい方向に流れちゃうみたいである」と『'THE SCRAP'―懐かしの1980年代』('87年/文藝春秋)に書いています。まあ、何となく当たっているような気がします。

村上春樹『'THE SCRAP'―懐かしの1980年代』(装丁:和田 誠

 因みにこの『'THE SCRAP'』という本の中身は、スポーツ雑誌「ナンバー」に連載されたもので、アメリカの雑誌や新聞に掲載された記事やコラムをネタに、村上春樹流にコラムとして再構成した感じの本ですが、アメリカナイズされている感性の持ち主であるとも言われる彼の、アメリカ文化に関する「元ネタ帳」みたいで興味深いです。雑誌連載期間は'82年春から'86年2月にかけてで、単行本刊行は'87年。「懐かしの1980年代」とサブタイトルにありますが、80年代前半、彼が33~37歳の頃に、当時の雑誌から"リアルタイム"での様々な出来事、流行事をピックアップして書いているわけであって、その際に話が更に遡ることもあるけれど、基本的には、過去を振り返った回想記ではないです。でも、結構、「アメリカ文化オタク」みたいで面白かったです。

THE SHINING4.jpg「シャイニング」●原題:The Shining●制作年:1980年●制作国:イギリス・アメリカ●監督・製作・脚本:スタンリー・キューブリック●音楽:ベラ・バルトーク●原作:スティーヴン・キング「シャイニング」●吉祥寺東亜.jpg時間:140分●出演:ジャック・ニコルソン/シェリー・デュヴァル/ダニー・ロイド/スキャットマン・ クローザース/バリー・ネルソン/フィリップ・ストーン/ジョー・ターケル/アン・ジャクソン●日本公開:1980/12●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:吉祥寺セントラル(83-12-04) (評価★★★)●併映:「時計じかけのオレンジ」(スタンリー・キューブリック )
吉祥寺スカラ座・吉祥寺オデヲン座・吉祥寺セントラル・吉祥寺東宝
吉祥寺セントラル・吉祥寺スカラ座.jpg吉祥寺セントラル内.jpg吉祥寺セントラル 1954(昭和29)年、吉祥寺駅東口付近に「吉祥寺オデヲン座」オープン。1978(昭和53)年10月、吉祥寺オデヲン座跡に竣工の吉祥寺東亜会館5階にオープン(3階「吉祥寺スカラ座」、2階「吉祥寺アカデミー」(後に「吉祥寺アカデミー東宝」→「吉祥寺東宝」)、B1「吉祥寺松竹オデヲン」(後に「吉祥寺松竹」→「吉祥寺オデヲン座」)。 2012(平成24)年1月21日、同会館内の全4つの映画館を「吉祥寺オデヲン」と改称。2012(平成24)年8月31日、地下の前・吉祥寺オデヲン座(旧・吉祥寺松竹)閉館。 

吉祥寺東亜会館
吉祥寺オデオン.jpg 吉祥寺オデヲン.jpg

 【1986年文庫化・2008年新装版[文春文庫]】

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「純愛」というより「偏愛」。直木賞作品としては軽すぎる。

容疑者χの献身.jpg容疑者Xの献身.jpg     容疑者Xの献身 dvd.jpg 容疑者Xの献身 映画.jpg
容疑者Xの献身』['05年/文藝春秋] 「容疑者Xの献身 スタンダード・エディション [DVD]」福山雅治/柴咲コウ

 2005(平成17)年下半期・第134回「直木賞」受賞作。2005 (平成17) 年度「週刊文春ミステリー ベスト10」(国内部門)第1位。2006 (平成18) 年「このミステリーがすごい!」(国内編)第1位。2006(平成18)年版「本格ミステリ・ベストテン」第1位。2006(平成18)年・第6回「本格ミステリ大賞」(小説部門)も受賞。

 以前に水商売をしていて今は弁当屋に勤める子持ち女性・靖子は、自分につきまとう前夫・富樫が自分のアパートに押しかけてきたために思わず絞殺してしまうが、現場に駆けつけたアパートの隣に住む「石神」という高校の数学教師は、「私の論理的思考に任せてください」と言って事件の事後処理を請け負う―。

NUMBERS 天才数学者の事件ファイル.jpg 作者の「物理学者湯川シリーズ」の第3弾で、TVドラマ化されている「ガリレオ」('07年放映開始)を見て海外ドラマ「NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」('05年米国放映開始)を想起しましたが、実は、オリジナルである「物理学者湯川シリーズ」の第1弾『探偵ガリレオ』('98年/文藝春秋)の刊行は「NUMBERS」の放映より7年も早い。
 「NUMBERS 天才数学者の事件ファイル」(FOX)

 今回の第3弾では、この「石神」という数学教師が湯川学の大学時代の同窓で、実は天才的な数学者であり、物理学者・湯川学と"論理対決"をすることになるという構図で、敢えて天才数学者を敵役にしたのは、数学者が探偵役である「NUMBERS」を意識したということでもないでしょうけれど。

 さらっと読めて、トリックも奇想天外で、シリーズものの1編としてはまあまあの出来の小品だと思いましたが、これが直木賞作品だと思うと、同じ作者の『秘密』('98年)や『白夜行』('99年)に比べてどう見てもインパクト不足で、ついついケチをつけたくなってしまう...。

 天才と呼ばれる数学者の考えたトリックというのが、こんな危なっかしくて非効率なものなのかとか、警視庁の科学捜査というのはずいぶん手抜きだなあとか、プロットに対する不満もいろいろありますが、個人的には「石神」という人物にあまり共感できないし、それ以前に、その人物像にリアリティが感じられないのが一番の不満な点でした。

 帯に「純愛」とありますが、むしろ「偏愛」と言った方がよく、その心理構造がよく見えない分、作品として軽いものになってしまっている気がしました。

 これが直木賞か...。シリーズものの1品としては、可もなく不可もないといったところですが。
 
容疑者x スチール.jpg 「県庁の星」('06年/東宝)の西谷弘監督によって映画化されましたが、探偵役の物理学者・湯川(福山雅治)の主たる相方が、同窓の草薙刑事ではなく、柴咲コウ演じる部下の女性刑事になっていて、「県庁の星」で西谷監督と相性が良かったのかなと思ったら、テレビドラマ「ガリレオ」からこのパターンになっていたようです(テレビ版を見ていないので知らなかった)。

容疑者Xの献身ド.jpg 原作にない雪山登山シーンとかあって面喰いましたが、数学教師「石上」役の堤真一(本来は二枚目であってはならないのだが)と「靖子」役の松雪泰子は、どちらもベテランらしい手堅い演技で(松雪泰子は好演と言っていいかも)、その分、映画化作品にありがちなことですが、ミステリよりも人情ものの要素が強くなっているように思いました。

容疑者Xの献身 2008フジテレビジョン.jpgYôgisha X no kenshin (2008).jpg 前日ベンチに座っていたはずの浮浪者が翌日消えているのが、同じカメラワークを反復させることで分かり易くなっていますが、浮浪者に対する「石上」の排他的・優越的な考え方(愛する人のためなら浮浪者1人の命なんぞ...という)などは映画では必ずしも充分に説明されてはおらず、そのあたり、一体、親切なのか不親切なのかよく分からない作りでした。

Yôgisha X no kenshin (2008)

「容疑者Xの献身」●制作年:2008年●監督:西谷弘●製作:亀山千広●脚本:福田靖●撮影:山本英夫●音楽:福山雅治/菅野祐悟●原作:東野圭吾「容疑者Xの献身」●時間:1289分●出演:福山雅治/柴咲コウ/堤真一/松雪泰子/北村一輝/ダンカン/長塚圭史/金澤美穂/益岡徹/林泰文/渡辺いっけい/品川祐/真矢みき/リリー・フランキー(友情出演)/八木亜希子/石坂浩二(特別出演)/林剛史/葵/福井博章/高山都/伊藤隆大●公開:2008/10●配給:東宝●最初に観た場所:台シネマメディアージュ.jpgシネマメディアージュ2.jpgシネマメディア-ジュ「容疑者Xの献身」zj.jpeg場・シネマメディアージュ(08-11-01)(評価:★★★) シネマメディアージュ 2000年4月22日アクアシティお台場のメディアージュ1階にオープン。13スクリーン3034席を有するシネマコンプレックス。2017年2月23日閉館

天才数学者の事件ファイル2.jpgNUMBERS 天才数学者の事件ファイル 5 dvd.jpg「NUMBERS~天才数学者の事件ファイル」Numbers (CBS 2005/01~ ) ○日本での放映チャネル:FOX CRIME (2006~)

 【2008年文庫化[文春文庫]】

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相変わらず手馴れている。薀蓄も含め、懐かしさみたいなものは感じたが、"裏焼き"は遊びすぎ。

ゴッホは欺く 上.jpg ゴッホは欺く下.jpg    Archer back with Van Gogh novel.jpg Archer back with Van Gogh (本書より)
ゴッホは欺く 上巻 (新潮文庫)』 『ゴッホは欺く 下巻』['07年]

FalseImpression.jpg ある英国貴族秘蔵のファン・ゴッホの自画像を巡って、貴族に無理な貸付をして担保として名画も財産も巻き上げてしまおうと謀る悪辣銀行家、自画像の所有者である姉を殺された貴族の妹、彼女の財産を守るために、銀行家に挑んでいく女性美術史家(美術コンサルタント)、その彼女が悪徳銀行の手先なのか味方なのか判断がつかないまま追跡するFBI捜査官、更にこれらに、銀行家の手先のルーマニア出身の女暗殺者が絡んでのニューヨーク→ロンドン→ブカレスト→東京→ニューヨーク→ロンドンと繰り広げられる追走劇―。

"False Impression"

 2005年に刊行されたジェフリー・アーチャーの長編で(原題:False Impression)、作者お得意のハラハラドキドキもの、しかも、これまた造詣の深い絵画を題材にしたものでしたが、前段はややだるかったと言うか、主人公が9.11テロに巻き込まれるというのなどは、何かとってつけたような感じがし、但し、中盤、主人公が「ホテル西洋銀座」に泊まるあたりから、主人公、FBI、暗殺者のチェイスが面白くなり、この作家独特のテンポが復活してきたように思えました。  

 結局、これ、女性ばかりが活躍するサスペンス・ドラマだなあと(創作意図してのそれを如実に感じる)。
 聡明な貴族女性と、大胆な機知と行動力を兼備した主人公の女性美術史家、彼女を助ける親友の秘書、さらには執拗かつ冷徹な暗殺者までが女性。一方、男性側は、銀行家、FBI捜査官からして、すべてに後追い気味で、日本人実業家のナカムラが英国紳士風に振舞っていうのが、ちょっと洒落ている程度というか(これさえも、キザで芝居っぽいと言えなくもないけれど)。

 "絵画モノ"という点で『ダ・ヴィンチ・コード』を想起させ、あそこまで絵に込めた様々な意味というものは無く、その分仰々しさもありませんが、『ダ・ヴィンチ・コード』のように話が横滑りしていくだけといった感じも無く、ちゃんとクライマックスでまとめている―、でも、やはり、読んでいるときは楽しいけれど、読み終わったらそれでお終いで、それほど残らないと言う点では同じかも(『ダ・ヴィンチ・コード』のようないかがわしさが無いだけ、こっちの方がマトモであるとも言えるかも知れないが)。

 普通の作家だったら傑作かもしれないけれども、ジェフリー・アーチャーだと思って読むから、多少評価が厳しくなってしまうのかも知れません(ゴッホの絵の"裏焼き"はちょっと遊びすぎ。普通に"贋作"でいいのに)。
 相変わらず手馴れているなあ、息長く頑張っているなあと、英国人作家らしい薀蓄描写も含め、懐かしさみたいなものは感じましたが。                                    

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