【1033】 ○ スティーヴン・キング (深町真理子:訳) 『シャイニング (上・下)』 (1978/03 パシフィカ) ★★★★ (△ スタンリー・キューブリック 「シャイニング」 (80年/英) (1980/12 ワーナー・ブラザーズ) ★★★/○ 村上 春樹 『'THE SCRAP'―懐かしの1980年代』 (1987/01 文藝春秋) ★★★☆)

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映画も怖かったが、映画ではそぎ落とされてしまった独特の怖さが原作にはある。

シャイニング(上).gifシャイニング(下).gif シャイニング(下)映画.gifシャイニング(上)映画.gif シャイニング〈新装版〉 上.jpgシャイニング〈新装版〉 下.jpg  The scrap.jpg
シャイニング (1978年) 』 初版(上・下)/パシフィカ 1980年改装版 (上・下)(映画タイアップ・カバー)/『シャイニング 上』 ['08年/文春文庫 新装版]/村上春樹『'THE SCRAP'―懐かしの1980年代』(装丁:和田 誠

The Shining.bmp コロラド山中にある「オーバールックホテル」は冬の間閉鎖されるリゾートホテルで、作家志望のジャックはその妻と息子と共にホテル住み込みの冬季管理人としてやってきたが、そのホテルでは過去に、管理人が家族を惨殺するという事件が起こっていた―。

THE SHINING3.jpg 1977年に書かれたスティーヴン・キング(Stephen Edwin King, 1947- )の長編第3作(原題:"THE SHINING")で、この人のホラー小説は、後期のものになればなるほど「何でもあり」Stephen King.jpgみたいになってきていて、どちらかというと初期のものの方がいいような気がしていますが(TVドラマの「デッド・ゾーン」はそう悪くないと思うが)、その中でもこの作品はやはり記念碑的傑作と言ってよいのではと思います。
Stephen King

シャイニング  00.jpg スタンリー・キューブリック(1928-1999/享年70)の監督・製作・脚本による映画化作品('80年/英)の方を先に観ましたが、映画の方も、イギリスの学者によると数学的に計算すると世界最高のホラー映画になるとのこと(根拠よくわからないが)、確かに、家族を殺し自殺したホテルの前任者の霊にとりつかれた主人公が、タイプに向かって"All work and no play make Jack a dull boy "(働かざるもの食うべからず)と打ち続けるシーンは、映画のオリジナルですが怖かったです(それにしてもシェリー・デュバルは恐怖顔がよく似合う女優だ)。

THE SHINING2.jpg 但し、原作では、ホテル自体が邪悪な意志のようなものを宿し、それに感応する能力を持つ5歳の息子の(内なる)異界との交流がかなりのページを割いて描かれているのに対し、映画は、ジャックが閉塞状況の中で神経衰弱になり狂気に蝕まれていく様に重点が置かれており、ジャック・ニコルソンの演技自体には鬼気迫るものがあるものの、そこに至る過程は、書けない作家の単なるノイローゼ症状の描写みたいになってしまっている感じもしなくもないです。

シャイニング s.jpg 最後に、生垣を走り回って...というのも映画のオリジナルで、独創性は感じられるものの原作を曲げていることには違いなく、これでは原作者のキングが怒るのも無理からぬこと。

シャイニング es.jpg 劇場予告編で、ホテルの過去の歴史を暗示すべく、双子の少女をモチーフにした怖〜いイメージ映像がありましたが、これは本編では違った使われ方になっていて、こうした取ってつけたようなやり方もルール違反ではないかなあ。

creepshow (1982).jpgcreepshow .jpg キングはキューブリックに対して「あの男は恐怖の何たるかを知らん」とくそみそにこきおろした末に、「クリープ・ショー」というオムニバス・ホラー・ムビーの脚本を自分で書き、自らも出演したほか、「シャイニング」も自分で脚本を書き下ろして製作総指揮を務めTV版に作り直していますが、どういうわけか共に評判は今一だったようです。

"creepshow" (1982)

『'THE SCRAP'―.jpg村上春樹 09.jpg キングの「クリープ・ショー」の失敗を指して作家の村上春樹氏が、「恐怖小説作家が真剣に恐怖とは何かと考えはじめたり、ユーモア小説作家が真剣にユーモアとは何かと考えはじめたりすると、物事はわりにまずい方向に流れちゃうみたいである」と『'THE SCRAP'―懐かしの1980年代』('87年/文藝春秋)に書いています。まあ、何となく当たっているような気がします。

村上春樹『'THE SCRAP'―懐かしの1980年代』(装丁:和田 誠

 因みにこの『THE SCRAP』という本の中身は、スポーツ雑誌「ナンバー」に連載されたもので、アメリカの雑誌や新聞に掲載された記事やコラムをネタに、村上春樹流にコラムとして再構成した感じの本ですが、アメリカナイズされている感性の持ち主であるとも言われる彼の、アメリカ文化に関する「元ネタ帳」みたいで興味深いです。雑誌連載期間は'82年春から'86年2月にかけてで、単行本刊行は'87年。「懐かしの1980年代」とサブタイトルにありますが、80年代前半、彼が33~37歳の頃に、当時の雑誌から"リアルタイム"での様々な出来事、流行事をピックアップして書いているわけであって、その際に話が更に遡ることもあるけれど、基本的には、過去を振り返った回想記ではないです。でも、結構、「アメリカ文化オタク」みたいで面白かったです。

THE SHINING4.jpg「シャイニング」●原題:The Shining●制作年:1980年●制作国:イギリス・アメリカ●監督・製作・脚本:スタンリー・キューブリック●音楽:ベラ・バルトーク●原作:スティーヴン・キング「シャイニング」●吉祥寺東亜.jpg時間:140分●出演:ジャック・ニコルソン/シェリー・デュヴァル/ダニー・ロイド/スキャットマン・ クローザース/バリー・ネルソン/フィリップ・ストーン/ジョー・ターケル/アン・ジャクソン●日本公開:1980/12●配給:ワーナー・ブラザーズ●最初に観た場所:吉祥寺セントラル(83-12-04) (評価★★★)●併映:「時計じかけのオレンジ」(スタンリー・キューブリック )
吉祥寺スカラ座・吉祥寺オデヲン座・吉祥寺セントラル・吉祥寺東宝
吉祥寺セントラル・吉祥寺スカラ座.jpg7吉祥寺セントラル.jpg吉祥寺セントラル 1954(昭和29)年、吉祥寺駅東口付近に「吉祥寺オデヲン座」オープン。1978(昭和53)年10月、吉祥寺オデヲン座跡に竣工の吉祥寺東亜会館5階にオープン(3階「吉祥寺スカラ座」、2階「吉祥寺アカデミー」(後に「吉祥寺アカデミー東宝」→「吉祥寺東宝」)、B1「吉祥寺松竹オデヲン」(後に「吉祥寺松竹」→「吉祥寺オデヲン座」)。 2012(平成24)年1月21日、同会館内の全4つの映画館を「吉祥寺オデヲン」と改称。2012(平成24)年8月31日、地下の前・吉祥寺オデヲン座(旧・吉祥寺松竹)閉館。 

吉祥寺東亜会館
吉祥寺オデオン.jpg 吉祥寺オデヲン.jpg

 【1986年文庫化・2008年新装版[文春文庫]】

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This page contains a single entry by wada published on 2008年11月 2日 00:47.

【1032】 △ 東野 圭吾 『容疑者Xの献身』 (2005/08 文藝春秋) ★★★ (△ 西谷 弘 「容疑者Xの献身」 (2008/10 東宝) ★★★) was the previous entry in this blog.

【1034】 ○ 東野 圭吾 『流星の絆』 (2008/03 講談社) ★★★☆ is the next entry in this blog.

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