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獄中にて事件の謎を解く黒田官兵衛。上手いなあと思った点がいくつもあった。


『黒牢城』
2021(令和3)年下半期・第166回「直木賞」、2021(令和3)年度・第12回「山田風太郎賞」受賞作。① 2021(令和3)年度「週刊文春ミステリー ベスト10(週刊文春2021年12月9日号)」(国内部門)第1位、② 2022(令和4)年「このミステリーがすごい!(宝島社)」(国内編)第1位、③「2022本格ミステリ・ベスト10(原書房)」国内ランキング第1位、④ 2022年「ミステリが読みたい!(ハヤカワミステリマガジン2022年1月号)」(国内編)第1位の、国内小説では初の「年末ミステリランキング4冠」達成。2022年・第19回「本屋大賞」第9位。そして先月['22年5月]、2022年・第22回「本格ミステリ大賞」も受賞(もろもろ併せて「9冠」になるとのこと(下記《読書MEMO》参照))。
本能寺の変より四年前、天正六年の冬。摂津池田家の家臣から上り詰め、摂津一国を任され織田家の重臣となっていた荒木村重は、突如として織田信長に叛旗を翻し、有岡城に立て籠もる。織田方の軍師・小寺官兵衛(黒田官兵衛)は謀叛を思いとどまるよう説得するための使者として単身有岡城に来城するが、村重は聞く耳を持たず、官兵衛を殺すこともせずに土牢に幽閉する。荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求める―。
荒木村重による摂津・有岡城での約1年間の籠城期間を冬・春・夏・秋の4章(+終章)に分けた構成。まず冬に「人質殺害事件」が起き、春に「手柄争い騒動」が、さらに夏には「高僧殺害事件」、そして秋には、前の事件の犯人の死をめぐる「鉄炮放の謎」が浮上してくるという―有岡城はミステリに事欠かない(笑)。
上手いなあと思ったのは、4つの事件すべての"探偵役"が黒田官兵衛になっていることで、獄中に居ながら事件の謎を解いてみせるという"安楽椅子探偵"みたいなポジショニングにしてみせているところです(「獄中」と「安楽椅子」で言葉上は真逆だが)。
それと、4つの事件が単に並列なのではなく、最後の事件がそれまでの3つを包括的に謎解きしている点も上手いと思ったし、黒田官兵衛が荒木村重を助けてあげたくて謎解きをしたのではなく、そこには深謀があったというのも上手いなあと思いました。

作者のこれまでの警察物や海外ものとはがらっと変わった時代物で、しかも荒木村重という戦国武将の中では数奇な生涯を送った人物を取り上げたのも良かったと思います(NHKの大河ドラマでは、'14年の岡田准一主演の「軍師官兵衛」で、田中哲司の演じた荒木村重が印象深い)。
NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」['14年]岡田准一(黒田官兵衛)/田中哲司(荒木村重)
桐谷美玲(荒木だし)

因みに、主要登場人物の一人、荒木村重の妻・千代保(荒木だし。村重の妻だが、正室か側室かは不明だそうだ)は「絶世の美女」と称されたそうですが(大河ドラマでは村重に隠れて囚われた官兵衛の世話をしていた)、有岡城落城後に捕えられるも城主の妻として潔くすべてを受け入れ、京の六条河原で一族の者とともに処刑されています。一方、荒木村重の方は、だし等一族が処刑されたことを知ると「信長に殺されず生き続けることで信長に勝つ」ことを誓って尼崎城から姿を消したとのこと。そうした村重の信長の逆を行くという思いは、この作品でも示唆されているように思われます。
年末ミステリランキングで、前作『満願』『王とサーカス』に続いて「3冠」を達成し、加えて「4冠」全制覇した作品は国内では初で(下記参照)、海外も含めると、アンソニー・ホロヴィッツ の『カササギ殺人事件』『メインテーマは殺人』『その裁きは死』の3年連続「4冠」に次ぐ快挙でした。直木賞の選考会でも、選考委員9人による1回目の投票の時点で「抜けていた」という評価を受けています。
●年末ミステリランキング3冠達成作品(『黒牢城』は4冠達成)
東野 圭吾『容疑者Xの献身』(2005年刊)
「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位、
「本格ミステリ・ベスト10」1位、「ミステリが読みたい」賞自体が未創設
米澤 穂信『満願』(2014年刊)
「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位、
「本格ミステリ・ベスト10」2位、「ミステリが読みたい」1位
米澤 穂信『王とサーカス』(2015年刊)
「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位、
「本格ミステリ・ベスト10」3位、「ミステリが読みたい」1位
今村 昌弘『屍人荘の殺人』(2017年刊)
「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位、
「本格ミステリ・ベスト10」1位、「ミステリが読みたい」2位
辻 真先『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』(2020年刊)
「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位、
「本格ミステリ・ベスト10」4位、「ミステリが読みたい」1位
米澤 穂信『黒牢城』(2021年刊)
「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位、
「本格ミステリ・ベスト10」1位、「ミステリが読みたい」1位
米澤 穂信『可燃物』(2023年刊)
「週刊文春ミステリーベスト10」1位、「このミステリーがすごい!」1位、
「本格ミステリ・ベスト10」2位、「ミステリが読みたい」1位
「大河ドラマ 軍師官兵衛 完全版3」竹中直人(豊臣秀吉)/寺尾 聰(徳川家康)


「軍師官兵衛」●脚本:前川洋一●演出:田中健二ほか●プロデューサー:中村高志●時代考証:小和田哲男●音楽:菅野祐悟子●出演:岡田准一/(以下五十音順)東幹久/生田斗真/伊吹吾郎/伊武雅刀/宇梶剛士/内田有紀/江口洋介/大谷直子/大橋吾郎/忍成修吾/片岡鶴太郎/勝野洋/金子ノブアキ/上條恒彦/桐谷美玲/黒木瞳/近藤芳正/塩見三省/柴田恭兵/春風亭小朝/陣内孝則/高岡早紀/高橋一生/高畑充希/竹中直人/田中圭/田中哲司/谷原章介/塚本高史/鶴見辰吾/寺尾聰/永井大/中谷美紀/二階堂ふみ/濱田岳/速水もこみち/吹越満/別所哲也/堀内正美/眞島秀和/益岡徹/松坂桃李/的場浩司/村田雄浩/山路和弘/横内正/竜雷太(ナレーター)藤村志保 → 広瀬修子●放映:2014/01~12(全50回)●放送局:NHK
《読書MEMO》
●『黒牢城』(9冠)
★「第166回直木三十五賞」受賞
★「第12回山田風太郎賞」受賞
★「週刊文春ミステリーベスト10」(週刊文春2021年12 月9 日号)国内部門 第1位
★『このミステリーがすごい! 2022年版』(宝島社)国内編 第1位
★「ミステリが読みたい! 2022年版」(ハヤカワミステリマガジン2022年1月号)国内篇 第1位
★『2022本格ミステリ・ベスト10』(原書房)国内ランキング 第1位
★「第22回本格ミステリ大賞」受賞
★「2021年SRの会ミステリーベスト10」国内部門 第1位
★「週刊朝日 歴史・時代小説ベスト3」(週刊朝日 2022年1月7・14日号) 第1位
・「2022年本屋大賞」第9位
・『この時代小説がすごい! 2022年版』(宝島社)単行本 第3位



2018年「本屋大賞」の第1位が『かがみの孤城』(651.0点)、第2位が『盤上の向日葵』(283.5点)、第3位が『屍人荘の殺人』(255.0点)です。因みに、「週刊文春ミステリーベスト10」(2017年)では、『屍人荘の殺人』が第1位、『盤上の向日葵』が第2位、『かがみの孤城』が第10位、別冊宝島の「このミステリーがすごい!」では『屍人荘の殺人』が第1位、『かがみの孤城』が第8位、『盤上の向日葵』が第9位となっています。『屍人荘の殺人』は、第27回「鮎川哲也賞」受賞作で、探偵小説研究会の推理小説のランキング(以前は東京創元社主催だった)「本格ミステリ・ベスト10」(2018年)でも第1位であり、東野圭吾『

埼玉県天木山山中で発見された白骨死体。遺留品である初代菊水月作の名駒を頼りに、叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志していた新米刑事・佐野のコンビが捜査を開始した。それから四か月、二人は厳冬の山形県天童市に降り立つ。向かう先は、将棋界のみならず、日本中から注目を浴びる竜昇戦の会場だ―。(『盤上の向日葵』)
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、曰くつきの映画研究部の夏合宿に加わるため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子と共にペンション紫湛荘を訪ねた。合宿一日目の夜、映研のメンバーたちは肝試しに出かけるが、想像しえなかった事態に遭遇し紫湛荘に立て籠もりを余儀なくされる。緊張と混乱の一夜が明け、部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。しかしそれは連続殺人の幕開けに過ぎなかった―。(『屍人荘の殺人』)
先にも紹介した通り、「週刊文春ミステリー ベスト10」「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ・ベスト10」の"ミステリランキング3冠"作(加えて「本格ミステリ大賞」も受賞)ですが、殺人事件が起きた山荘がクローズド・サークルを形成する要因として、山荘の周辺がテロにより突如発生した大量のゾンビで覆われるというシュールな設定に、ちょっとついて行けなかった感じでしょうか。謎解きの部分だけ見ればまずまずで、本格ミステリで周辺状況がやや現実離れしたものであることは往々にしてあることであり、むしろ周辺の環境は"ラノベ"的な感覚で読まれ、ユニークだとして評価されているのかなあ。個人的には、ゾンビたちが、所謂ゾンビ映画に出てくるような典型的なゾンビの特質を有し、登場人物たちもそのことを最初から分かっていて、何らそのことに疑いを抱いていないという、そうした"お約束ごと"が最後まで引っ掛かりました。
(●『屍人荘の殺人』は2019年に木村ひさし監督、神木隆之介主演で映画化された。原作でゾンビたちが大勢出てくるところで肌に合わなかったが、後で考えれば、まあ、あれは推理物語の背景または道具に過ぎなかったのかと。映画はもう最初からそういうものだと思って観
ているので、そうした枠組み自体にはそれほど抵抗は無かった。その分ストーリーに集中できたせいか、原作でまあまあと思えた謎解きは、映画の方が分かりよくて、原作が多くの賞に輝いたのも多少腑に落ちた(原作の評価★★☆に対し、映画は取り敢えず星1つプラス)。但し、ゾンビについては、エキストラでボランティアを大勢使ったせいか、ひどくド素人な演技で、そのド素人演技のゾンビが原作よりも早々と出てくるので白けた(星半分マイナス。その結果、★★★という評価に)。)
「屍人荘の殺人」●制作年:2019年●監督:木村ひさし●製作:臼井真之介●脚本:蒔田光治●撮影:葛西誉仁●音楽:Tangerine House●原作:今村昌弘『屍人荘の殺人』●時間:119分●出演:神木隆之介/浜辺美波/葉山奨之/矢本悠馬/佐久間由衣/山田杏奈/大関れいか/福本莉子/塚地武雅/ふせえり/池田鉄洋/古川雄輝/柄本時生/中村倫也●公開:2019/12●配給
:東宝●最初に観た場所:新宿ピカデリー(19-12-16)(評価:★★★)●併映(同日上映):「

アニメ映画「かがみの孤城」('22年/松竹)監督:原恵一
●2019年ドラマ化(「盤上の向日葵」) 【感想】 2019年9月にNHK-BSプレミアムにおいてテレビドラマ化(全4回)。主演はNHK連続ドラマ初主演となる千葉雄大。原作で埼玉県警の新米刑事でかつて棋士を目指し奨励会に所属していた佐野が男性(佐野直也)であるのに対し、ドラマ
では蓮佛美沙子演じる女性(佐野直子)に変更されている。ただし、最近はNHKドラマでも原作から大きく改変されているケースが多いが、これは比較的原作に沿って
丁寧に作られているのではないか。原作通り諏訪温泉の片倉館でロケしたりしていたし(ここは映画「テルマエ・ロマエⅡ」('14年/東宝)でも使われた)。主人公の幼い頃の将棋の師・唐沢光一朗を柄本明が好演(子役も良かった)。竹中直人の東明重慶はややイメージが違ったか。「竜昇戦」の挑戦相手・壬生芳樹が羽生善治っぽいのは原作も同じ。加藤一二三は原作には無いドラマ用ゲスト出演か。
「盤上の向日葵」●演出:本田隆一●脚本:黒岩勉●音楽:佐久間奏(主題歌:鈴木雅之「ポラリス」(作詞・作曲:アンジェラ・アキ))●原作:柚月裕子●出演:千葉雄大/大江優成/
『かがみの孤城』...【2021年文庫化[ポプラ社文庫](上・下)】











「
原作にない雪山登山シーンとかあって面喰いましたが、数学教師「石上」役の堤真一(本来は二枚目であってはならないのだが)と「靖子」役の松雪泰子は、どちらもベテランらしい手堅い演技で(堤真一は第33回「報知映画賞」最優秀主演男優賞を受賞、松雪泰子も好演と言っていいかも)、その分、映画化作品にありがちなことですが、ミステリよりも人情ものの要素が強くなっているように思いました(一方で、富樫の死体は一体どうやって始末したのかとか、プロット面での突っ込みどころが出てきてしまう)。

ワークを反復させることで分かり易くなっていますが、浮浪者に対する「石上」の排他的・優越的な考え方(愛する人のためなら浮浪者1人の命なんぞ...という)などは映画では必ずしも充分に説明されてはおらず、そのあたり、親切なのか不親切なのかよく分からない作りでした。
リリー・フランキーが草野球の監督役で出演しているのは、福山雅治と「仕事を超えた盟友」のような関係であるためでしょうか(リリー・フランキーは子供の頃から大の読売ジャイアンツのファンで、草野球チーム「ヤング・ジャイアンツ」を主宰しており、映画でも読売ジャイアンツっぽいユニフォームのチームを率いている)。リリー・フランキーはここではカメオ出演のような感じですが、同年公開の橋口亮輔監督の「ぐるりのこと。」('08年/ビターズ・エンド)で初主演を果たしています。(●さらに、5年後の是枝裕和監督の「




