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『赤い収穫』『ガラスの鍵』と並ぶ傑作。サム・スペードの長編登場は本作のみ。


『マルタの鷹 (1954年) (Hayakawa pocket mystery books)』('54年/砧 一郎:訳)/『マルタの鷹〔改訳決定版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
』('12年/小鷹信光:訳)/『マルタの鷹 (創元推理文庫 130-2)
』('61年/村上啓夫:訳)/『マルタの鷹 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
』('88年/小鷹信光:訳)「マルタの鷹 [DVD]
」
THE MALTESE FALCON: In Old Fashioned Book Form


サンフランシスコの私立探偵サム・スペードは、家出した妹を連れ戻したいという女性の依頼を受けて、相棒のマイルズ・アーチャーに、フロイド・サースビーという男を尾行させる。しかし、その夜サースビーとアーチャーは死体となって発見される。スペードはアーチャーの妻と密通しており、警察は彼に嫌疑を向ける。スペードはジョエル・カイロという男の訪問を受ける。彼はスペードが何かを握っていると考えており、それを探ろうとしている様子だった。女依頼人に再会したスペードは、彼女が最初に名乗ったのは偽名で、本名はブリジッド・オショーネシーであること、カイロとも関係していることを知る。2人を引き合わせたスペードは、彼らの会話からその関心がある鳥の彫像にあること、「G」なる人物もまたそれを求めているらしいことを知る。やがて「G」ことガットマンもスペードに接触してくる。スペードははったりをしかけて、彼らの捜し求めるマルタ騎士団にゆかりを持つ「マルタの鷹」の存在を聞きだす。ガットマンは、ロシアの将軍が「鷹」を所持していることを知り、カイロ、サースビー、オショーネシーの3人を代理人として派遣したが、「鷹」の価値に勘付いた3人はそれを秘匿してしまったのだという。やがて、オショーネシーの意を受けて、貨物船「ラ・パロマ」号の船長がスペードの事務所を訪れる。彼は「鷹」をスペードに託して息絶える。「鷹」を手に入れたスペードはそれを切り札にガットマンらと交渉し、すべての経緯を炙り出す。「鷹」の取り分をめぐる仲間割れから、アーチャーも殺されたのだった。それをめぐって3人の男が殺されることになった「鷹」は模造品だった。ガットマンらの態度からそれが高価なものだと気付いた持ち主のロシア人が、偽物を掴ませたのだった。落胆しながらも、再び「鷹」を求めて出立していったガットマンらを、スペードはあっさりと警察に密告する。そして、アーチャーを射殺した実行犯であったオショーネシーも、必死の哀願にもかかわらず、警察に突き出すのだった―。
1930年に単行本として刊行されたダシール・ハメットの探偵小説で、元は「ブラック・マスク」という雑誌の1929年9月号から翌1930年1月号に連載され連載小説でした。1931年(ビーブ・ダニエルズ(オショーネシー)主演)、1936年(ウィリアム・ディターレ監督、ベティ・デイヴィス主演、"Satan Met A lady(魔王が婦人に出遭った)")、1941年(ジョン・ヒューストン監督、ハンフリー・ボガード主演)と3度にわたって映画化されていますが、最も有名なのはハンフリー・ボガート主演の「マルタの鷹」('41年)です。この映画が日本で公開されたのは本国公開の10年後の1951年ですが、原作が翻訳されたのはハヤカワ・ミステリの砧一郎訳で1954年であり、つまり日本には映画の方が先に入ってきたことになります。ですから、当初は映画を観てから本を読んだ人の方が多かったのではないかと思います。独占翻訳権が発生しなかったために、田中西二郎訳('56年/新潮社・探偵小説文庫)、村上啓夫訳('61年/創元推理文庫)などが相次いで刊行されましたが、これらの翻訳者たちも何らかのかたちで映画の影響を受けたのではないかという気がします。
"The Maltese Falcon"Cover of the first edition
ジョン・ヒューストン 「マルタの鷹」 (41年/米) (1951/01 セントラル) ★★★★
ミステリ翻訳者の小鷹信光(1936-2015/享年79)(松田優作主演のテレビドラマ「探偵物語」の企画立案者でもあった)の翻訳は、最初1985年に河出書房新社版が刊行され、その3年後にハヤカワ・ミステリ文庫に収められましたが、近年になって諏訪部浩一(東京大学准教授)の研究・講義に触発され、自らの翻訳を改訳したものが2012年に刊行されました(講義内容の方も『「マルタの鷹」講義』('12年/研究社)として刊行されている)。ハメットの小説の登場人物は余計なことはあまり喋らないので、英語を日本語に訳す時に訳し方によってニュアンスが異なってくる部分が大きいのだろうと思います。小鷹信光のような大御所にさえ、改訳する気を起こさせると言うか、むしろ75歳を過ぎて自分より二回りも若い大学准教授の講義を受け、過去に自分が翻訳したものを27年ぶりに訳し直してみるという、その気力に感服するとともに、この作品への愛着も感じます。

個人的には自分も映画が先だったので、初読の時から映画のイメージが強くありました。ただ、映画は話のテンポを良くするために(それだけが理由ではないと思うが)若干端折っている部分もあり、原作を読んで理解が深まる部分もあるように思いまいした(例えば「ラ・パロマ」号の中で何があったかなど)。訳文自体も更に読みやすくなっているように思います。
時期的には'29年刊行の『赤い収穫』と'31年刊行の『ガラスの鍵』の間の作品で、この2作と並ぶ傑作だと思いますが、所謂"コンチネンタル・オプ"が主人公の2作に対し、こちらはサム・スペードが主人公です。サム・スペードが長編で出て来るのはこの『マルタの鷹』のみですが(こちらの方が有名になった?) キャラクターなども当然のことながら違っています。個人的に面白いなあと思ったのは、サム・スペードは殺害された同僚のマイルズ・アーチャーをそれほど評価も尊敬もしていなかったみたいで、それどころか彼の妻と不倫関係にある様子であり(秘書ともいい関係みたいだが)、それでいて、身の危険を冒してまでも同僚の仇はしっかり果たし、蠱惑的な女性の誘惑を撥ねつけてまでも罪には罰で報いる―といった感じで、その、ある種"職業倫理"的なけじめのつけ方が印象に残りました。
因みに『「マルタの鷹」講義』によれば、ハメットのサム・スペードがいなければ、レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウも、ロス・マクドナルドのリュウ・アーチャーも存在しなかったとのことです。まあ、後のハードボイルドにそれくらい大きな影響を与えたということなのでしょう。

「マルタの鷹」●原題:THE MALTESE FALCON●制作年:1941年●制作国:アメリカ●監督・脚本:ジョン・ヒューストン●撮影:アーサー・エディソン●音楽:アドルフ・ドイチュ●原作:ダシール・ハメット●時間:101分●出演:ハンフリー・ボガート/メアリー・アスター/グラディス・ジョージ/ピーター・ローレ/バートン・マクレーン/リー・パトリック/シドニー・グリーンストリート/ウォード・ボンド/ジェローム・コーワン/エリシャ・クック・Jr/ジェームズ・バーク/マレイ・アルパー/ジョン・ハミルトン/ウォルター・ヒューストン(ノン・クレジット)●日本公開:1951/01●配給:セントラル●最初に観た場所:新宿・シアターアプル(85-10-13)(評価:★★★★)
【1954年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(砧一郎:訳)/1956年文庫化[新潮社・探偵小説文庫(田中西二郎:訳)]/1961年再文庫化[創元推理文庫(村上啓夫:訳)]/1963年再文庫化[角川文庫(石一郎:訳)]/1978年再文庫化[筑摩書房・ロマン文庫(鳴海四郎:訳)]/1988年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(小鷹信光:訳)]/2012年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(小鷹信光:訳〔改訳決定版〕)]】
小鷹信光(こだか・のぶみつ、本名・中島信也=なかじま・しんや)松田優作主演のテレビドラマ「探偵物語」の原案者で、海外ハードボイルド小説の翻訳の第一人者。215年12月8日、すい臓がんのため埼玉県内の自宅で死去。79歳。




にはいっていたのだ」ということの、逆説的な証左となっているとも言えるのではないかと思いました。


『
個人的には、結構面白かったし、小鷹氏が「『赤い収穫』とはまったく異なる小説であり、探偵役のオプの役柄もまるで別人」と言っているのがよく解りました。ハメットの小説と言うだけで、1つの固定した原初的なハードボイルドのイメージを抱きがちですが、実は作品ごとに随分違うなあと。
という端折りぶりですが、ハメット未亡人はジェームズ・コバーンがハメットに似ているのを気に入っていたそうです。




実業家で市政の黒幕でもあるポール・マドヴィックは、上院議員の娘ジャネットに恋をしており、次回の選挙では、議員を後押しすることにするが、それを快く思わない地元暗黒街のボスは、ポールを失脚させようと妨害工作を始める。そんな折、議員の息子テイラーが、何者かに殺害され、遊び人テイラーと娘オパールの交際を嫌っていたポールに嫌疑がかかる。ポールの右腕である賭博師ネッド・ボーモントは、友人を窮地から救うべく奔走する―。
この作品は、1935年と1942年に映画化されていますが、スチュアート・ヘイスラー監督の1942年作品は、(「![ガラスの鍵 [DVD] .jpg](http://hurec.bz/book-movie/%E3%82%AC%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%81%AE%E9%8D%B5%20%5BDVD%5D%20.jpg)


「ガラスの鍵」●原題:THE GLASS KEY●制作年:1942年●制作国:アメリカ●監督:スチュアート・ヘイスラー●脚本:ジョナサン・ラティマー●撮影:セオドア・スパークル●音楽:ヴィクター・ヤング●原作:ダシール・ハメット●時間:85分●出演:アラン・ラッド/ヴェロニカ・レイク/ブライアン・ドンレヴィ/ボニータ・グランヴィル/リチャード・デニング/ジョセフ・カレイア/ウィリアム・ベンディックス/エディー・マー/フランシス・ギフォード●日本公開:VHS/2003/11ビデオメーカー(評価★★★☆)





コンティネンタル探偵社支局員の私は、小切手を同封した事件依頼の手紙を受けとってある鉱山町に出かけるが、入れちがいに依頼人が銃殺され、利権と汚職とギャングの縄張り抗争で殺人の修羅場と化した町を、1人奔走することになる―。

で、『赤い収穫』から多くのヒントを得たことを自ら認めています(黒澤本人が「用心棒は『血の収穫』(赤い収穫)ですよね?」という問いに「血の収穫だけじゃなくて、本当はクレジットにきちんと名前を出さないといけないぐらいハメット(のアイデア)を使っている」と述べている)。洋画では、強いて言えば、その「用心棒」を、禁酒法時代の西部の町に舞台を置き換えて忠実に翻案した「ラストマン・スタンディング」('96年/米)が、雰囲気的にはやや近いのかも知れません(主人公の桑畑三十郎に相当するジョン・スミスを演じているのは、ブルース・ウィリス)。
まあ、「用心棒」に限らずこの作品のプロットは多くの作品に使われていて、筒井康隆氏の『
斎藤美奈子女史が『
【1953年新書化[ハヤカワ・ポケットミステリ(砧一郎:訳『赤い収穫』)/1959年文庫化[創元推理文庫(田中西二郎:訳『血の収穫』)/1960年再文庫化[新潮文庫(能島武文:訳『血の収穫』)]/1977年再文庫化[中公文庫(河野一郎:訳『血の収穫』)]/1978年再文庫化[講談社文庫(田中小実昌:訳『血の収穫』)]/1989年再文庫化[ハヤカワ・ミステリ文庫(小鷹信光:訳『赤い収穫』)]/2005年再文庫化[嶋中文庫(河野一郎・田中西二郎:訳『血の収穫』)]】