【3707】 ○ ロバート・スティーブンス (原作:トマス・バーク)「ヒッチコック劇場(第49話)/手(オッターモール氏の手)(S 2 E 32 #71)」 (57年/米) (1957/05 米国放映) ★★★☆(○ トマス・バーク 「オッターモール氏の手」―江戸川乱歩(編)『世界推理短編傑作集4【新版】』 (2019/02 創元推理文庫) ★★★★)

「●TV-M (その他)」のインデックッスへ Prev|NEXT⇒ 【3233】 ロッド・ホルコム 「ER緊急救命室(第1話)/甘い誘い
「●TV-M (ヒッチコック劇場)」の インデックッスへ「○外国映画 【制作年順】」の インデックッスへ 「●海外サスペンス・読み物」の インデックッスへ 「○海外サスペンス・読み物 【発表・刊行順】」の インデックッスへ

チェスタトン的な"見えない人間"の「盲点」。「サンドイッチのハム」で氷解するのが肝(キモ)。

オッターモール氏の手 1957.jpg オッターモール氏の手 4.jpg オッターモール氏の手 1.jpg
「手(オッターモール氏の手)」セオドア・バイケル/リース・ウィリアム
オッターモール氏の手 tvm.jpg 1919年のロンドン。ハーバート・ホワイブロー氏はイースト・エンドの路地を抜け、妻の待つ自宅へ帰り着く。その時ノックの音が。ドアを開け、ホワイブロー氏は笑顔でその人物に語りかけた。「さあ、どうぞ。一緒に座ってお茶でも...」その瞬間、その首に手が巻き付いた!―彼は驚愕の叫びを上げ、ホワイブロー夫人は奥の部屋から「ハーバート?」と声を掛けた。ホワイブロー夫妻の殺害現場に出動した巡査部長(セオドア・バイケル)は入口で騒ぐ群衆を整理していた。そこへホワイブロー氏の甥(バリー・ハーヴェイ)がやってくる。「誰がやった?」「まだわからん」 巡査部長は、家の前を通りかかるとドアが開いており、中を覗いたら死んでいたと甥に告げる。現場には争った跡もなく、金も残っており物盗りの気配もなかった。隣人は、夫婦は5年前に引っ越して来て以来、穏やかで皆から好かれていたと語った。指紋もない。甥は叫んだ。「何の理由もない!」「その通り、何の理由もなく彼らは死んだ」。そこへ「ガーディアン」紙の記者サマーズ(リース・ウィリアムズ)もやって来る。マスコミ関係者をシャットアウトした巡査部長は、たまたまバーを巡回中に会ったサマーズと情報の開示について口論する。巡査部長「ところで...何故、あなたはあんなに早く現場に来れたのか?」「たまたまあの時、あの辺りをうろついていたのさ。おやすみ、巡査部長」。その頃、町を歩く花売りの老婆に近付く口笛...その首に手が巻きつく!次の朝、警察へ赴くサマーズ。そこで演説をぶつ初老の巡査ジョンソン(トリン・サッチャー)と浮かぬ顔のピータースン(ジョン・トレイン)。「どこにも理由がないということは...全く理由がないということだ。判るか?...いや、家を間違えたか?そんなバカな...」「どうしたって ワケが判らない。どんな動機が?」サマーズ「多分無いのだ」。ジョンソン「いや、あるはずだ、必要だ」「違う違う...犯罪も殺人もずっと前から動機など必要としてない。」その考えに賛同する巡査部長に、サマーズは続ける。「その男を想像してみよう...普通に見えて、そうじゃない。古風な罪の呵責など全くなく、彼の手の許に3つの殺人は行われた。そして間違いなくどこかで静かにお茶を楽しんでる...我々のように。彼は微笑んでいる―警察が余りに愚かだからだ」。ジョンソン「笑ってはいるだろう...しかし彼はイギリス人じゃない、外国人だ」。その後次なる犠牲者として、あろうことか巡査ピータースンが巡回中に絞め殺されてしまう。記者サマーズは、バーで知り合いがサンドウィッチを食べているのを見て、何となく質問した。「何故、パンにハムがはさんである?」「決まってるだろう。誰かがここにハムを入れたからさ」彼は、それを聞いてあることに気付き、街へ出て行く―。

世界推理短編傑作集4【新版】.jpgトマス・バーク.jpg江戸川 乱歩 .jpg トマス・バーク(Thomas Burke, 1886-1945)によって1929年に発表された短編「オッターモール氏の手」のヒッチコック劇場版。原作者トマス・バークはロンドンのイースト・エンドに生まれ、両親を幼い頃失って孤児院育ち、地元を舞台にした小説を書きました。中でもこの作品はエラリイ・クイーン、ディクソン・カー、アントニー・バウチャー、ハワード・ヘイクラフト等から絶賛され、数多くのアンソロジーに選ばれています。EQMM1950年アンケートの短編ベスト12(所謂「黄金の十二」)の一編(得票数でポー「盗まれた手紙」などを抑えて第1位)に選出され、ディクソン・カーは「最上、最高級、非の打ちどころのない優秀な作品である」と評価、日本では江戸川乱歩が編者である『世界短編傑作集4』('61年/創元推理文庫)に収録されています('19年に発表年順に再編集された新版が刊行。第4巻には1929年から1935年に発表された作品を収録)。

オッターモール氏の手 2.jpg ホラーとして分類される場合も多い本作ですが、ミステリとしてはチェスタトン的な"見えない人間"とも言うべき「盲点」を扱っています(でも、ミステリと言うよりサスペンスホラーか)。原作は、明確に個々のキャラクターを描かず、濃霧に覆われた街を暴走する"殺人者の思惟"が時折、一人称で顔を出す構成も不気味であると同時に、その中に"犯人を埋没させる"効果を発揮して、ラストの衝撃性を高めています(ある種"叙述トリック")。その点、TVドラマ化するとある程度キャラクターを限定し、生身の人間として描かざるを得ず、「ガーディアン」紙の記者サマーズ(原作では"「デイリー・トーチ」紙の若い新聞記者"で名前はない)、巡査部長、ピータースン巡査(原作ではピーターセン)、ジョンソン巡査などが具体的に絡み合う展開で、その分、残念ながら原作の"何かがたち込めている"ような恐怖感は薄れています(原作の犯人は7人を殺害している)。特に、年老いたジョンソン巡査はドラマ独自のオリジナル・キャラクターであり、若き巡査部長との世代間ドラマとして原作に無い微妙なニュアンスを醸してます。また、他にもサマーズの記者魂などが強調され、巧みな脚色ではあるのですが、「普通のドラマ」っぽくなってしまっているとも言えます。

オッターモール氏の手 3.jpg TVドラマ化における最大の個人的関心は、叙述トリック的構造を持つ原作をどう扱うのかでしたが、そうしたこともあって、雰囲気(霧のロンドン)は出ていたけれどイマイチでした(TVドラマとしては良くできているが、原作と比べると―という感じ)。そもそも、これ、タイトルが最大の叙述トリックで、映像化作品の原題は原作と同様"The Hands Of Mr.Ottermole"(「オッターモール氏の手」)なのですが、日本放映時に「手」というタイトルになっていて(ドラマタイトルも今や通称は「オッターモール氏の手」だと思うが)、これだけでオッターモール氏が何者なのかを探る愉しみが無くなっているほか、ラストの衝撃も弱められているように思いました(原作は、記者もラストで犯人に首を絞められようするところで終わっていて、誰かが助けに来るような描写は無い。ドラマで誰かが助けに来る方が、なぜそこが分かったかということなどの点から不自然かも)。

オッターモール氏の手 45.jpg それともう1つ。記者が犯人が誰かに気づく契機となる、ドラマでの「何故、パンにハムがはさんである?」「決まってるだろう。誰かがここにハムを入れたからさ」のセリフの遣り取り部分。原作ではこれだけでなく、記者がそこからどう考えたかもう少し詳しく説明されていますが、基本的には同じコンセプトであり、原作を読んだ時は、正直、この部分からなぜ記者は犯人に思い当たったのか、そんな単純な話なのかと思いました。ただ、今回ドラマを観て、さらに原作を読み直して、やっぱり"単純"なことだったのだと再認識しました。「あまりに日常的すぎる存在は、人間の盲点となり見えなくなる」というチェスタトンの"見えない人間"の「盲点」に帰結するテーマでした。動機の観点からすると、犯人自身も犯行動機がわかっていないわけで、これはやはり(今ではそれほどでもないかもしれないが)発表当時は物議を醸しただろなあと思います。その点も画期的ですが、やはり「サンドイッチのハム」(ある種の形而上学的メタファーになっているとも言える)で謎が氷解するところが、この作品の肝(キモ)なのでしょう。

オッターモール氏の手 刑事コロンボ.jpg 因みに、巡査部長役のセオドア・ビケル(1924-2015、91歳没)は映画「私は死にたくない」('58年)などに出ているほか、「スパイ大作戦」「チャーリーズ・エンジェル」など多くのTVシリーズにゲスト出演している俳優で、本作の20年後には「刑事コロンボ(第40話)/殺しの序曲」('77年)で犯人のオリヴァー・ブラント役を演じています。 この「オッターモール氏の手」は、犯人の意外性が最大のポイントなのですが、原作を読んで犯人を知ってしまっていたので、どこか「刑事コロンボ」を見るような見方で味わっていたかもしれません(苦笑)。

「ヒッチコック劇場(第49話)/手(オッターモール氏の手)(S 2 E 32 #71)」●原題:Alfred Hitchcock Presents -THE HANDS OF MR.OTTERMOLE●制作年:1959年●制作国:アメリカ●本国放映:1957/05/05●監督:ロバート・スティーブンソン●脚本:フランシス・コックレル●原作:トーマス・バーク●時間:30分●出演:セオドア・ビケル/リース・ウィリアム/バリー・ハーヴェイ/トリン・サッチャー/ジョン・トレイン/アルフレッド・ヒッチコック(ストーリーテラー)●日本放映:「ヒチコック劇場」(1957-1963)●放映局:日本テレビ(評価★★★☆)


世界推理短編傑作集4【新版】.jpg世界推理短編傑作集4【新版】 (創元推理文庫)』['19年]
収録作品(9篇)
「オッターモール氏の手」トマス・バーク(1929) 
「信・望・愛」アーヴィン・S・コッブ(1930) 
「密室の行者」ロナルド・A・ノックス(1931)
「スペードという男」ダシール・ハメット(1932) 
「二壜のソース」ロード・ダンセイニ(1932) 
「銀の仮面」ヒュー・ウォルポール(1932)
「疑惑」ドロシー・L・セイヤーズ(1933)
「いかれたお茶会の冒険」エラリー・クイーン(1934) 
「黄色いなめくじ」H・C・ベイリー(1935)

世界推理短編傑作集4.jpg世界短編傑作集 4 (創元推理文庫 100-4)』['61年]
収録作品(9篇)
ヘミングウェイ「殺人者」
フィルポッツ「三死人」
ハメット「スペードという男」
クイーン「キ印ぞろいのお茶の会の冒険」
コッブ「信・望・愛」
バーク「オッターモール氏の手」
チャーテリス「いかさま賭博」
セイヤーズ「疑惑」
ウォルポール「銀の仮面」
   
 
黄金の十二.jpg黄金の十二 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)』['00年]
収録作品(12篇)
バーク「オッタモール氏の手」
ポー「盗まれた手紙」
ドイル「赤毛組合」
バークレイ「偶然は審く」
バー「健忘症連盟」
フットレル「13号独房の問題」
チェスタートン「犬のお告げ」
ポースト「ナボテの葡萄園」
ハックスレイ「ジョコンダの微笑」
ベイリイ「黄色いなめくじ」
ベントリイ「ほんものの陣羽織」
セイヤーズ「疑惑」


Categories

Pages

Powered by Movable Type 6.1.1