【3525】 ○ 竹倉 史人 『輪廻転生―〈私〉をつなぐ生まれ変わりの物語』 (2015/09 講談社現代新書) ★★★★

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宗教人類学的観点からの入門書としてよく纏まっている。進化してきた「輪廻転生」。

輪廻転生 〈私〉をつなぐ生まれ変わりの物語.jpg輪廻転生―〈私〉をつなぐ生まれ変わりの物語.jpg  竹倉 史人.jpg 竹倉 史人 氏

輪廻転生 〈私〉をつなぐ生まれ変わりの物語 (講談社現代新書 2333)』['15年]

 本書によれば、日本人の4割以上が「生まれ変わりはある」と思っているそうです。そんなに多いかなあ。それはともかく、本書は、世界中の人々が少なくとも2500年以上も前から様々な形で信じてきた「生まれ変わり」の思想について、"正面から考えた類を見ない入門書"だそうです。著者は"新進気鋭の研究者"とのことで、東大卒業後に予備校講師を経て東工大の大学院に入り、本書を書いた時点で博士課程在籍中とのこと。専門は宗教人類学で、現代宗教やスピリチュアリティについて考察、とりわけ「輪廻転生」に注目しているそうです。

 本書では、輪廻転生の観念を、「再生型」「輪廻型」「リインカネーション型」の3つに分けて、第1章から第3章にかけて解説しています。

 「再生型」は、世界中の民俗文化に見られるもので(現在でもエスキモーやアフリカの部族で信じられている)、多くが祖霊祭祀や呪術の実践とともに保持されてきたもので、逆に言えば、「自然法則」によって起こるものではなく、儀礼や呪術を介することが必須で、また、地縁・血縁を基盤として成立しているため、死者が自分の家族の子孫として転生する〈同族転生〉が特徴だそうです(転生に要するのは"手続き"であり、生前に徳を積んだかといった倫理的なことは、次に述べる「輪廻型」と違って関係ない)。

 「輪廻型」は、古代インドで発明された転生思想で、戒律を遵守し、瞑想やヨーガを実践することで輪廻からの「解脱」が目指されるものであり、本書では、宗教哲学書であるウパニシャッドと、仏教の開祖ブッダの教説を中心に紹介しています。「再生型」が〈循環〉であるのに対し「輪廻型」は〈流転〉であり、〈私〉は繰り返し〈私〉であり 、ただし、その〈私〉は「輪廻の主体」ではなく、「輪廻の主体」は〈私〉を織りなす〈五蘊〉と、その〈五蘊〉が織りなす〈業(カルマ)〉の方であるとのことです(個人的には、プラトンのイデア論などと似ていると思った)。

 「リインカネーション型」は、19世紀にフランスから起こったもので(19世初頭にはテーブル・ターニングなどが流行った)、「霊魂の進捗」が強調され、来世の自分を意志で決定する、自己決定主義になるようです。近代版の生まれ変わり思想であり、現代のスピリチュアリズムにも深い影響を及ぼしているとのことす(本書ではプラトンをスピリチュアリズムの先駆者としている)。

前世を記憶する子どもたち (角川文庫).jpg 第4章では「前世を記憶している子どもたち」について、米国ヴァージニア大学医学部の付属機関DOPSで行われている、子どもたちが語る「前世の記憶」が客観的事実と一致しているかという研究を中心に考察しています。そもそも、大学付属でそうした研究機関があるのが驚きですが、精神科医で「生まれ変わり現象」研究で知られ、『前世を記憶する20人の子供』『前世を記憶する子どもたち』といった著書のあるイアン・スティーヴンソン(1918-2007)が創始者で、その研究を巨額の私財で支えたのが、世界で初めてゼログラフィー(コピー機の原理である技術)の開発で巨万の富を得たチェスター・カールソン(1906-1968)だそうです(大学側を、金出してくれるならいいだろという感じか)。

前世を記憶する子どもたち (角川文庫) 』['21年]

人はなぜエセ科学に騙されるのか.jpg人はなぜエセ科学に騙されるのか2.jpg この章では、「前世を記憶する子ども」の証言も紹介されており、またそれに対する意見なども紹介されていますが、アメリカの惑星学者カール・セーガン(1934-1996)が『人はなぜエセ科学に騙さされるのか』という本の中で、「前世ついて具体的に語る幼い子供が一部におり、それは調べてみると正確であることがわかり、生まれ変わり以外では知ることができなかったはずのことである」と述べていることです。セーガンも生まれ変わりは信じていないとしており(否定派)、でも「自分の考えがも違っている可能性もある」「真面目に調べてみるだけの価値はある」としているそうです。
人はなぜエセ科学に騙されるのか 上巻 (新潮文庫 セ 1-3)』『人はなぜエセ科学に騙されるのか 下巻 (新潮文庫 セ 1-4)』['00年]['00年]

「生まれ変わり」を科学する.jpg また、この章では、、「前世を記憶する子ども」について、言語学者の大門正幸(1963- )(肯定派)の発表した資料なども紹介されています(前世を記憶している子供たちがそれを語り始めるのは平均2歳からで、自分から話さなくなるのは平均7歳までということと、過去生の死から次の誕生までは平均4年5か月。前世を記憶しているのは、非業の死を遂げた場合が多いことなど)。
「生まれ変わり」を科学する―過去生記憶から紐解く「死」「輪廻転生」そして人生の真の意味』['21年/桜の花出版]

 著者自身は、どちらか一方に立ってもう一方を非難するといった立場はとっておらず、読者には、ひとりひとりが「裁判官」となって、そうした「証拠」を吟味してほしいと述べています。何かを「証明」するのではなく、自分にとって合理的な「事実認定」をし、「腑に落とす」作業をすることを推奨しているようです。

 最後の第5章では、日本における生まれ変わりの特徴について、「再生型」「輪廻型」「リインカネーション型」の3類型すべてがあることだとしています。「循環」の概念もあれば仏教的な「輪廻」もあり、また、「リインカネーション型」もあると。ここでは、江戸時代の学者・平田篤胤が、「前世を語る少年」に興味を持って、自分の家に招いて詳しい聞いた話を記した『勝五郎再生記聞』も紹介されていて、小泉八雲によって海外に紹介され、それを知ったイアン・スティーブンソン博士によって本格的な研究が始まったことでも知られる事例です。

 個人的には、主体としての「私」の死後の再生には否定的な立場ですが、本書はそもそも「肯定・否定」を論じようとするものではありませんでした。「輪廻転生」についての宗教(文化)人類学の観点からの入門書としてよく纏まっており、「輪廻転生」の考え方が"進化"してきていることが読み取れて興味深かったです。

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