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個々のテーマについて掘り下げて書かれているのはいいが、横の繋がりが今一つという気も。

地球外生命 9の論点 (ブルーバックス).jpg地球外生命 9の論点 (ブルーバックス)』['12年]

 少し以前までは、学者が地球外生命を論じるのは科学的でないとしてタブー視されていたようですが、どちらかと言うとよりこのテーマに近い専門家である生物学者らの、地球に生命が誕生したのは奇跡であって、地球以外では生命の発生はあり得ないとする《悲観論》が、宇宙のどこかには地球の生命とは別の生命が存在するのではないかという宇宙学における《楽観論》を凌駕してきたということもあったかもしれません。

 それが近年、系外惑星が候補も含め3千個以上発見されているとか、太陽系内にも水がある衛星やかつて水があった惑星がある可能性があるといった天文学者の指摘や、隕石や宇宙空間から有機物が発見されているという新事実から、生物学者の中にも生命の生成が地球外でもあり得るとの仮説を検証しようという動きが出てきたように思われます。

 そうした意味では、生物学者、物理学者らが、それぞれの専門的視点から地球外生命の存在を考察している本書は、学際的な切り口として大変興味深いものがあります。

 9人の専門家(加えて、立花隆氏と宇宙物理学者の佐藤勝彦氏が寄稿)が考察する9つの論点は次の通り。
  1.極限生物に見る地球外生命の可能性 (長沼毅)
  2.光合成に見る地球の生命の絶妙さ (皆川純)
  3.RNAワールド仮説が意味するもの (菅裕明)
  4.生命は意外に簡単に誕生した (山岸明彦)
  5.共生なくしてわれわれはなかった (重信秀治)
  6.生命の材料は宇宙からきたのか (小林憲正)
  7.世界初の星間アミノ酸検出への課題 (大石雅寿)
  8.太陽系内に生命の可能性を探す (佐々木晶)
  9.宇宙には「地球」がたくさんある (田村元秀)

 う~ん。もう、これまで地球外生命の存在に慎重だった生物学者側の方も、今や《楽観論》が主流になりつつあるのかな。
 
 かつて水があった惑星の最有力候補は火星であり、こうなると、地球生命の起源は火星にあるのかも知れないと―(彗星や隕石が火星の有機物を地球に運んできた)。

 但し、本書によれば、海底の熱水噴出孔近くなどの特異な環境で生きる生物の実態が近年少しずつ分かってきており、こうなると、まず地球単独で生命を生み出す条件を揃えていることになったりもして、火星から有機物をわざわざ持ってこなくともいいわけです。

 もちろん、太陽系内で液体の水や火山活動など生命が存在しうる環境が見つかってきていることも、大いに関心は持たれますが、一方、太陽系外となると、生命存在の可能性はあっても、地球に到達する可能性という面で厳しそうだなあと。
 ましてや、知的生命体との遭遇なると、本書にも出てくる「ドレイク方程式」でよく問題にされる「生命進化に必要な時間」と「高度な文明が存在する時間の長さ」がネックになるかなあと。

 まあ、この辺りは不可知論からロマンはいつまでもロマンのままであって欲しいという情緒論に行ってしまいがちですが、これ、一般人に限らず、本書に寄稿している学者の中にもそうした傾向が見られたりするのが興味深いです(やっぱり、自分が生きている間にどれぐらいのことが分かるか―というのが一つの基準になっているのだろうなあ)。

 個々のテーマについて掘り下げて書かれているのはいいけれど、横の繋がりが今一つという気もしました(本当の意味での"学際的"状況になっていない?長沼毅氏以外は、専ら研究者であり、一般向けの本をあまり書いていないということもあるのか)。結局、まだ学問のフィールドとして市民権を得ていないということなんでしょうね。でも、各々のフィールドでの研究は着々と進んでいる印象を受けました。
 
 「自然科学研究機構」というのは、国立天文台、核融合科学研究所、基礎生物学研究所、生理学研究所、分子科学研究所の5研究機関から構成される大学共同利用機関法人で(大学院もある)、「異なる分野間の垣根を越えた先端的な新領域を開拓することにより、21世紀の新しい学問を創造し、社会へ貢献することを目指して」いる団体とのことで、こうしたコラボを継続していくのでしょうね。現機構長である佐藤勝彦氏に期待したいところ。

ロズウェル .jpg 個人的には、ロマンはいつまでもロマンのままであって欲しいという思いは否定するものではなく、自分自身、そうした思いがあるかも。そう言えば、かつて「ロズウェル・星の恋人たち」という海外ドラマがあり、地球にやって来たエイリアンたちが高校で学園生活を送っており、SFがバックボーンではあるが(彼らはFBIに疑いを掛けられている)、恋愛・友情ドラマという色合いが強かったなあ。仕舞いには地球人との間に子どもまでできてしまう(笑)。日本でもNHKで放映されていましたが、本国の方の視聴率が伸びず打ち切りになり、それでも、シーズン3までで全61話作られました。ちょっと懐かしいです。

ロズウェル/星の恋人たち (字幕版)」[Prime Video]

「ロズウェル/星の恋人たち」(ROSWELL) (The CW 1999.10~2002.05) ○日本での放映チャネル:NHK(2001.05~2002.10)NHK教育テレビ(2003.04~2004.04)

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分かれば分かるほど、分からないことが増える。「宇宙論」って奥が深い。

宇宙は何でできているのか1.jpg宇宙は何でできているのか2.jpg 宇宙は何でできているのか3.jpg  野本 陽代 ベテルギウスの超新星爆発.jpg  宇宙論入門 佐藤勝彦.jpg
宇宙は何でできているのか (幻冬舎新書)』 野本 陽代 『ベテルギウスの超新星爆発 加速膨張する宇宙の発見 (幻冬舎新書)』 佐藤 勝彦 『宇宙論入門―誕生から未来へ (岩波新書)

 村山斉氏の『宇宙は何でできているのか―素粒子物理学で解く宇宙の謎』は、「宇宙はどう始まったのか」「私たちはなぜ存在するのか」「宇宙はこれからどうなるのか」という誰もが抱く素朴な疑問を、素粒子物理学者が現代宇宙物理学の世界で解明出来ている範囲で分かり易く解説したもので、本も売れたし、2011年の第4回「新書大賞」の第1位(大賞)にも輝きました。

 分かり易さの素は「朝日カルチャーセンター」での講義が下敷きになっているというのがあるのでしょう。但し、最初は「岩波ジュニア新書」みたいなトーンで、それが章が進むにつれて、「ラザフォード実験」とか「クォークの3世代」とかの説明に入ったくらいから素粒子物理学の中核に入っていき(小林・益川理論の基本を理解するにはいい本)、結構突っ込んだ解説がされています。

 その辺りの踏み込み具合も、読者の知的好奇心に十分応えるものとして、高い評価に繋がったのではないかと思われますが、一般には聞きなれない言葉が出てくると、「やけに難しそうな専門用語が出てきましたが」と前フリして、「喩えて言えば次のようなことなのです」みたいな解説の仕方をしているところが、読者を難解さにめげさせることなく、最後まで引っ張るのだろうなあと。

 本書によれば、原子以外のものが宇宙の96%を占めているというのが分かったのが2003年。「暗黒物質」が23%で「暗黒エネルギー」が73%というところまで分かっているが、暗黒物質はまだ謎が多いし、暗黒エネルギーについては全く「正体不明」で、「ある」ことだけが分かっていると―。

 分からないのはそれらだけでなく、物質の質量を生み出すと考えられている「ヒグス粒子」というものがあると予言されていて、予想される量は宇宙全体のエネルギーの10%の62乗―著者は「意味がさっぱり分かりませんね」と読者に寄り添い、今のところ、それが何であるか全て謎だとしています。

 しかしながらつい最近、報道で「ヒッグス粒子」(表記が撥音になっている)の存在が確認されたとあり、早くも今世紀最大の発見と言われていて、この世界、日進月歩なのだなあと。

 小林・益川理論は粒子と反粒子のPC対称性の破れを理論的に明らかにしたもので、それがどうしたと思いたくもなりますが、物質が宇宙に存在するのは、宇宙生成の最初の段階で反物質よりも物質の方が10億分の2だけ多かったためで、このことが無ければ宇宙には「物質」そのものが存在しなかったわけです(但し、それがなぜ「10億分の2」なのかは、小林・益川理論でも説明できていないという)。

 本書はどちらかというと「宇宙」よりも「素粒子」の方にウェイトが置かれていますが(著者の次著『宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門 (ブルーバックス)』('11年)の方が全体としてはより"宇宙論"的)、最後はまた宇宙の話に戻って、宇宙はこれからどうなるかを述べています。

 それによると、10年ばかり前までは、減速しながらも膨張し続けているという考えが主流だったのが(その中でも、膨張がストップすると収縮が始まる、減速しながらも永遠に膨張が続く、「永遠のちょっと手前」で膨張が止まり収縮もしない、という3通りの考えがあった)、宇宙膨張は減速せず、加速し続けていることが10年前に明らかになり、そのことが分かったのは超新星の観測からだといいます(この辺りの経緯は、野本陽代氏の『ベテルギウスの超新星爆発-加速膨張する宇宙の発見』('11年/幻冬舎新書)にも書かれている)。

 加速膨張しているということは、膨張しているのにエネルギーが薄まっていないということで、この不思議なエネルギー(宇宙の膨張を後押ししているエネルギー)が「暗黒エネルギー」であり、その正体は何も分かっていないので、宇宙の将来を巡る仮説は、今は「何でもアリ」の状況だそうです。

 分かれば分かるほど、分からないことが増える―それも、細部においてと言うより、全体が―。「宇宙論」って奥が深いね(当然と言えば当然なのかもしれないけれど)。

 そこで、更に、著者が言うところのこの「何でもアリ」の宇宙論が今どうなっているかについて書かれたものはと言うと、本書の2年前に刊行された、佐藤勝彦氏の『宇宙論入門―誕生から未来へ (岩波新書)』('08年)があります。

佐藤 勝彦.jpg この本では、素粒子論にも触れていますが(『宇宙は何でできているのか』の冒頭に出てくる、自分の尻尾を飲み込もうとしている蛇の図「ウロボロスのたとえ」は、『宇宙論入門』第2章「素粒子と宇宙」の冒頭にも同じ図がある)、どちらかというとタイトル通り、宇宙論そのものに比重がかかっており、その中で、著者自身が提唱した宇宙の始まりにおける「インフレーション理論」などもより詳しく紹介されており、個人的にも、本書により、インフレーション理論が幾つかのパターンに改変されものが近年提唱されていることを知りました(著者は「加速的宇宙膨張理論の研究」で、2010年に第100回日本学士院賞を受賞)。
佐藤 勝彦

  第4章「宇宙の未来」では、星の一生をたどる中で「超新星爆発」についても解説されており、最後の第5章「マルチバースと生命」では、多元宇宙論と宇宙における生命の存在を扱っており、このテーマは、村山斉氏の『宇宙は本当にひとつなのか―最新宇宙論入門』とも重なるものとなっています(佐藤氏自身、『宇宙はわれわれの宇宙だけではなかった (PHP文庫)』('01年)という著者もある)。

 『宇宙論入門』は、『宇宙は何でできているのか』よりやや難解な部分もありますが、宇宙論の歴史から始まって幅広く宇宙論の現況を開設しており、現時点でのオーソドックスな宇宙論入門書と言えるのではないかと思います。

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2人の物理学者の興味深い考察が随所に。

宇宙はすべてを教えてくれる.jpg 『宇宙はすべてを教えてくれる―未知なる「知」への探求 タイムマシーンから地球外生命体まで』 〔'03年〕

 佐治晴夫(理論物理学)、佐藤勝彦(宇宙物理学)両氏の対談形式ですが、宇宙論から始まって、教育論、進化論、知性の意味、時間論と話題は駆けめぐり、最後にまた宇宙へ。自らの専門に固執しない自由な対談は、「知」への探究意欲を感じます。

 と言っても、佐藤氏の「インフレーション理論」や佐治氏の「f分に1ゆらぎ理論」の話に多少の説明を要しているぐらいで、メガネ屋でどうして鏡に映った逆向きの顔を見て納得しているのか? 快晴の空はなぜ気持ちがいいのか?といった素朴かつ身近な切り口から、認知論や進化心理学などを語っています。

 時間が循環しているとしたら人間の自由意志はどうなるかとか、ETと遭遇しないのは高度な知的生命体は短い期間に滅びるからではないかとか(何となく納得)、興味深い考察やうんちくが随所に。

 宇宙について知ることは、単に知識として知ることでなく、鳥瞰的に自分の位置づけを知ることだという両者の考えに共鳴しました。

《読書MEMO》
●【佐治】眼鏡屋にいって鏡に映る顔は、他人が見る顔ではない-顔をデジカメで撮ってパソコン上でフレームわかける合成画像方式の店がある(25p)
●【佐治】鳥の目【佐藤】宇宙について知ることは、単に知識として知ることではない(28p)
●「ミトコンドリア・イブ」...10万年前のアフリカに(44p)
●【佐藤】量子論ではタイムマシンは可能、親殺しのパラドックスは、その時点で別の宇宙が分離いしていくと考える(別の宇宙へ行って別のお母さんを殺しただけ)(55p)
●【佐藤】インフレーション理論...空間自体の真空のエネルギーでミクロの極小宇宙が急激に膨張、インフレーションが終わると真空エネルギーが熱エネルギーに変わり、火の玉宇宙、ビッグバンへ(64p)
●【佐治】ドーキンスによると戦争の原因は集団帰属意識【佐藤】長谷川訳書によると殺人原因の最多は酒場の口論(雄の虚勢←メスの獲得)(102ー104p)
●【佐藤】快晴の青空がいい訳を進化心理学で説明(144p)
●【佐治】f分の1ゆらぎ...半分は予測できて半分は予測できない変化の度合い(153p)
●【佐藤】因果のループ...時間が循環しているとする場合、人間の自由意思はどう説明?(自由意思と思っているものも何かに決められている、または時間が枝別れする(165p)
●【佐治】本川達雄の動物の時間論(179p)
●【佐藤】カミオカンデ゙の目的は陽子崩壊の確認(187p)
●【佐藤】高度な知的生命体は100か〜1000年程度で滅びる?(201p)

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中学生でも読める「相対性理論」についてのバランスよい解説。

『「相対性理論」の世界へようこそ』.JPG「相対性理論」の世界へようこそ.jpg    「相対性理論」を楽しむ本2.bmp
「相対性理論」の世界へようこそ―ブラックホールからタイムマシンまで』PHP文庫〔'04年〕/『「相対性理論」を楽しむ本―よくわかるアインシュタインの不思議な世界 (PHP文庫)』PHP文庫〔'98年〕

 本書は中学生でも読めることを意図し、わかりやすく書かれていて、相対性理論について、定番ですが、光時計、ミューオンの時間の遅れといった思考実験や観測、ウラシマ効果、双子のパラドックスの話などで平易に説明した上で、副題にもある通り、ブラックホールやタイムマシンへと話は拡がっていき、佐藤教授の初期宇宙論(インフレーション理論)にも触れています。

 姉妹本の『「相対性理論」を楽しむ本』('98年/PHP文庫)の方は、特殊相対性理論を中心に構成されていますが(ただし宇宙論などにも触れてはいますが)、本書でも特殊相対性理論には触れていて、その部分では焼き直しの感じもあります。

 しかし「相対性理論」というテーマから見れば、全体的にはこちらの方が構成にバランスがとれていて、「特殊相対性理論(=等速直線運動のみに使える)」→「一般相対性理論(=加速度運動にも使える)」という流れの中で読み進むことができます。
 文章もより練れているので、どちらかを読むならばこちらの方をお薦めします。

 加速度=重力、重力は時間を遅らせる...だから電車に乗って会社に着いたら、自分だけ時間が遅れているということになるのか...でも他の人も電車に乗ってきているわけだから...とか、あまり実生活に役立たないことを考えるのは何となく楽しいものです。

《読書MEMO》
●《特殊相対性理論》(等速直線運動のみに使える)
・光の速さはどんな速度で動く人からみても一定/・運動するものは時間が遅れる(時間はお互いに遅れる)/・動くものは質量が増える/・E=mc2
●《一般相対性理論》(加速度運動にも使える)
・重力によって時間が遅れる/・ウラシマ効果/・双子のパラドックス(等速直線運動ではお互いの過去を見ている。兄弟が出会うためにUターンしたとき、加速運動を行う必要が生じて、特殊相対性理論ではなく、一般相対性理論になる

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