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面白かった。企業小説はこうでなくてはという感じ。でも、事実に基づいていると思うと...。
山崎 豊子 氏
『沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上)』『沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下)
』 『沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上) (新潮文庫)
』『沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下) (新潮文庫)
』
新潮文庫 映画タイアップ帯/映画 「沈まぬ太陽」('09年)

'85年の御巣鷹山墜落事故の後、利根川総理は国民航空再建のため、関西の紡績会社会長の国見正之を国民航空会長に据える。新体制の下、遺族係として大阪に赴任していた恩地は国見により東京に呼び戻され、新設の「会長室」の部長に抜擢される。改革に奔走する国見と恩地、そして次期社長の座を狙う行天を中心に、彼らを取り巻く社内外の腐敗体質の元凶や黒幕が描かれる―。
国見らが統合に腐心する5つに分断された組合、腐敗体質の温床となった生協購買部や関連会社のリベート構造、財務体質の悪化を招いた海外不動産の買収とそれに伴うサヤ抜き、更にドル先物予約による膨大な為替差損など、まあ、出てくる出てくる、しかも、それらが実際の取材に基づいて書かれた事実であるとのことで、これが一流企業と目される会社の実体なのかと唖然とさせられます。
そして、自らの出世と保身に走る経営幹部と、その背後で蠢く政治家や政商たち―う〜ん、読んでいて先ず面白い! 企業小説はやはりこうでなければという感じで、総合商社の内幕を描いた『不毛地帯』以来の作者の筆の冴えを感じましたが、過程においてのエンタテインメイント性とは裏腹に、ラストは必ずしも読者のカタルシスを満たすものとはなっていません。
これは、実際に'86年に日本航空に招聘された伊藤淳二氏の改革が様々な圧力のため中断し、主人公の原型モデルである小倉寛太郎氏も再びアフリカに追いやられたという事実に即しているためでしょう。
利根川総理(中曽根康弘)が国民航空の会長人事を託したのが、元大本営参謀の龍崎一清(瀬島龍三)で、どうしょうもない運輸大臣の道塚(三塚博)、警察官僚出身の官房長官・十時(後藤田正晴)、巨額の裏金作り工作をする副総理・竹丸(金丸信)、闇将軍・田沼(田中角栄)の"刎頚の友"である政商・小野寺(小佐野賢治、日航の社外取締役だった)...etc. 政治家などがモデル人物が特定し易い形で登場するため興味が尽きず、会社の経営陣はもとより、会社が組合分断工作のために起こした新生労働組合の関係者や、リベートを貪る関連会社の黒幕たちも、実際に特定できるモデルがいるようです(但し、映画で三浦友和が演じている行天四朗だけは架空の人物)。
『不毛地帯』での壱岐正のモデルとされる瀬島龍三ですが、この作品での龍崎一清は、国見の目から見て、当初は"国士"だと思われたが実際はそうではなかったというのが興味深く、一方の国見の方は、『不毛地帯』での壱岐正のように理想的人物像として描かれていて、これは誰かそうしたキャラクターを設けないと、もう魑魅魍魎を描いただけの小説になってしまうため致し方ないのか。
結局、日本航空の労組は今でも、企業寄り組合1(最大組合)、反企業的組合7(職種別)の8労組に分かれており、従業員の所属組合の違いによる差別待遇は、日本航空キャビンクルーユニオンの訴えにより、'09年11月に東京都労働委員会が日航に昇級・賃金差額支払いなどの改善命令を出していることなどを見ても、いまだに続いていることが窺えます。
更に、経営再建に向けた動きの中で、海外投資での新たな為替差損も明らかになっており、「変わらぬ企業体質」は、こうした点においても見られます。
いきなり話が急展開して小説が完結し、「なに、コレ」みたいに思った読者もいるかも知れませんが、元々が、ハッピーエンドで終わらせようとするには無理がある"素材"なのでしょう。
魑魅魍魎たちの暗躍は、フィクションであると断っているとは言え、容易にモデルが特定できる形で書かれていることを考えると、かなりの事実が含まれていると思われました。もしそれらが本当に事実であるとするならば、心底ぞっとします。
【2001年文庫化[新潮文庫(上・下)]】


10年の"懲罰人事"に耐えて日本に帰国した恩地元であったが、国民航空は恩地を排除しようとするその手を緩めず、更に10年の間、東京本社での閑職に追いやる。そんな中、御巣鷹山で「国航ジャンボ機墜落事故」が発生、救援隊・遺族係へ回される―。



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'95年から週刊新潮で連載が始まり'99年に完結、単行本化されるや200万部を超えるベストセラーになり、'09年に若松節朗監督、渡辺謙主演で映画化された作品ですが(渡辺謙は、恩地役をぜひ自分にやらせて欲しいと山崎豊子に直接懇願して主役の座を射止めたという。このパターンは田宮二郎や唐沢寿明と同じ)、連載当初の3部構成の第1部から第3部が、単行本化されるあたって、それぞれ「アフリカ篇」「御巣鷹山篇」「会長室篇」と名付けられています。
主人公がケニア勤務だからと言ってハンティングをしているというのはいかにも小説的だと思われるかも知れませんが、恩地の原型とされる小倉寛太郎(おぐらひろたろう、通称おぐらかんたろう)元日本航空労組委員長は、日航を定年退職後は、アフリカ研究家・自然写真家として活躍し、『フィールドガイド・アフリカ野生動物―サファリを楽しむために』('94年/講談社ブルーバックス)という著者もあり、「アフリカの地まで飛ばされた主人公が、なお屈しなかったのは、穢れなきサバンナ、壮大な太陽の輝きに、自身を律することが出来たからだった」(新潮文庫帯「原作者・山崎豊子・映画化の寄せて」より)という言葉も、説得力を帯びているように思えます。





『白い巨塔』('65年/新潮社)、『華麗なる一族』(73年/新潮社)が、それぞれ映画も含め力作だったのに対し、この『不毛地帯』の仲代達矢主演の"映画"の方は、配役は豪華だけれど個人的には今ひとつでした(テレビで観たため、平幹二朗主演のテレビ版と記憶がごっちゃになっている)。そもそも、181分という長尺でありながらも、原作の4分の1程度しか扱っておらず、原作が連載中であった事もありますが次期戦闘機決定をめぐる攻防部分だけを映像化したと言ってもよく、結果として壱岐正という主人公の生き方に深みが出てこない...。
ただし"原作"だけでみると、自分が最初に読んだ当時の読後の感動はこれが一番で、もともと映画に納まり切らない部分が多すぎたか? それと、こうした複雑な話が映画化された時によくありがちな傾向で、愛憎劇中心になってしまった感じもしました。



雄/嵯峨善兵/伊沢一郎/青木義朗/アンドリュー・ヒューズ/デヴィット・シャピロ/●劇場公開:1976/08●配給:東宝(評価★★★)
丹波哲郎(防衛庁・川又空将補)/加藤嘉(防衛庁・原田空幕長)/大滝秀治(経済企画庁長官・久松清蔵)




古さを感じさせない。政財界にわたっての丹念な取材の跡が窺える。




万俵財閥の当主で阪神銀行頭取の万俵大介の野望を軸に、それに翻弄される一族の姿を金融業界の内幕に絡めて描いた作品で、'73(昭和48)年の発表ですが、「金融再編」に伴う「銀行の合併問題」がモチーフになっているため、あまり古さを感じさせません。

同じ山崎豊子原作の映画化作品「
佐分利信であり、その佐分利信が演じる万俵大介と仲代達矢が演じる鉄平の"暗い血"にまつわる確執に重きが置かれていたような感じもしました。また、鉄平の最期が、大介の女婿を演じた田宮二郎の実人生での自殺方法と同じだったことに思い当たりますが、鉄平役は実は田宮二郎がやりたかった役だったそうです。
どうしても、こういう複雑なストーリーの話が映画化されると、情緒的な方向に重きがいってしまったりセンセーショナルな部分が強調されるのは仕方がありませんが(大介の「妻妾同衾」シーンなども当時話題になった)、それなりの力作でした。"いい人"がとにかく苛められる(相手方銀行の頭取の二谷英明とか)点で「白い巨塔」に共通するものを改めて感じたのと、農家の預金獲得のために、ワイシャツ姿で終日稲刈りまでする銀行員なども描いていて「銀行員って意外と泥臭いなあ」と思わされたりもしました。

も担当)/嵯峨善兵/荒木道子/小夜福子/中村哲/武内亨/梅野泰靖/浜田寅彦/花布辰男/下川辰平/伊東光一/田武謙三/若宮大祐/青木富夫/五藤雅博/生井健夫/白井鋭/夏木章/笠井一彦/守田比呂也/
鳥居功靖/堺美紀子/横田楊子/川口節子/森三平太/千田隼生/金親保雄/南治/麻里とも恵/木島一郎/坂巻祥子/隅田一男/久遠利三/鈴木昭生/記平佳枝/東静子/加納桂●劇場公開:1974/01●配給:東宝●最初に観た場所:渋谷・東急名画座(山本薩夫監督追悼特集) (84-01-08) (評価★★★☆) 京マチ子(万俵大介の愛人・高須相子)


阪重工社長・安田太左衛門)/小沢栄太郎(永田大蔵大臣)/仲代達矢(阪神特殊鋼専務・万俵鉄平)/加藤嘉(阪神特殊鋼常務・銭高)

[左奥から時計回りに]月丘夢路(万俵大介の妻・万俵寧子)/香川京子(長女・美馬一子)/京マチ子(家庭教師・高須相子)/山本陽子(長男鉄平の妻・万俵早苗)/中山麻理(次男銀平の妻)/酒井和歌子(次女・万俵二子)




この作品は何度かテレビドラマ化ざれ、佐藤慶('67年/テレビ朝日系/全26回)、田宮二郎('78年/フジテレビ系/全31回)、村上弘明(90年/テレビ朝日系/全2回)などが主役の財前五郎を演じています。更に最近では、'03年にフジテレビ系で唐沢寿明主演のもの(全21回)がありましたが、断トツの視聴率だったのは記憶に新しいところ(唐沢寿明版の最終回の視聴率32.1%で、'78年の田宮二郎版の最終回31.4%を上回る数字だった)。
しかしながら個人的には、やっぱりテレビ版よりは、原作を読む前に観た山本薩夫(1910-1983)監督による映画化作品(田宮二郎主演)が鮮烈な印象として残っており、また観たいと思っていたら、'04年にニュープリント版が銀座シネパトス(東銀座・三原橋の地下にあるこの映画館は、しばしば昔の貴重な作品を上映する。2013年3月31日閉館)で公開されたため、約20年ぶりに劇場で観ることができました。これも全て今回の唐沢寿明版のヒットのお蔭でしょうか。

田宮二郎(1935-1978/享年43)は、31歳の時にこの小説と巡り会って主人公・財前五郎に惚れ込み、作者の山崎豊子氏に懇願してその役を得たとのこと。その演技が原作者に認められ、それがテレビでも財前医師を演じることに繋がっていますが、テレビドラマの方も好評を博し、撮影終盤の頃、ドラマでの愛人役の太地喜和子(1943‐1992/享年48)との対談が週刊誌に掲載されていた記憶があります。それがまさか、ヘミングウェイと同じ方法でライフル自殺するとは思わなかった...。クイズ番組「タイム・ショック」の司会とかもやっていたのに(司会者は自殺しないなどという法則はないのだが)。
していたそうです。それが終盤に入ってうつ状態になり、リハーサル中に泣き出すこともあったりしたのを、周囲が励ましながら撮影を進めたそうで、彼が自殺したのはテレビドラマの全収録が終わった日でした(実現が困難な事業に多額の投資をし、借金に追われて「俺はマフィアに命を狙われている」とか、あり得ない妄想を抱くようになっていた)。当時週刊誌で見た大地喜和子とのにこやかな対談は、実際に行われたものなのだろうか。


文庫の方は、当初は正(上下2巻)・続に分かれていましたが、'93年の改定で「続」も含め『白い巨塔』として全3巻になり、更に'02年の改定で全5巻になっています(「続」という概念がある時期から消されているともとれる)。最近のテレビドラマもそれに準拠し、財前が亡くなるところまで撮り切っていますが、文庫で読むときは、もともとは今ある全5巻のうち、第3巻までで終わる話だったことを意識してみるのも良いのではないでしょうか。

は、権力に憧れる気持ちと真実を追究し正義を全うしようという気持ちが入り混じっているような"普通の人"も多く出てきて、この辺りがこの小説の充実したリアリティに繋がっていると思います。 
「白い巨塔」(映画)●制作年:1966年●製作:永田雅一(大映)●監督:山本薩夫●脚本:橋本忍●音楽:池野成●原作:山崎豊子●時間:150分●出演:田宮二郎
/東野英治郎/小沢栄太郎/小川真由美/岸輝子/加藤嘉/田村高廣/船越英ニ/滝沢修/藤村志保/下条正巳/石山健二郎/加藤武/里見明凡太朗/鈴木瑞穂/清水将夫/下條正巳/須賀不二男/早川雄三/高原駿雄/杉田康/夏木章/潮万太郎/北原義郎/長谷川待子/瀧
花久子/平井岐代子/村田扶実子/竹村洋介/小山内淳/伊東光一/南方伸夫/河原侃二/山根圭一郎/浜世津子/白井玲子/天池仁美/岡崎夏子/赤沢未知子/福原真理子●劇場公開:1966/10●配給:大映●最初に観た場所:渋谷・東急名画座(山本薩夫監督追悼特集) (83-12-05)●2回目:銀座シネパトス (04-05-02) (評価★★★★)





月1日「銀座東映」跡地に「銀座名画座」開館、1988(昭和63)年7月1日「銀座地球座」→「銀座シネパトス1」、「銀座名画座」→「銀座シネパトス2」「銀座シネパトス3」に改装。2013(平成25)年3月31日閉館













●2019年再ドラマ化【感想】'78年の田宮二郎版の全31回、'03年の唐沢寿明版の全21回に対して今回の岡田准一版は全5回とドラマ版としては短く、盛り上がる間もなくあっという間に終わってしまった感じで、岡田准一は大役を演じ切れてない印象を持った。最終回の視聴率が15.2%というのはそう悪い数字ではないが、この原作ならば本来はもっと高い数字になって然るべきで、やはり内容的に...。田宮二郎版の31.4%、唐沢寿明版の32.1%と比べると平凡な数字に終わったのもむべなるかなと。
哉/小円真●音楽/兼松衆●原作:山崎豊子「白い巨塔」「続・白い巨塔」●出演:岡田准一/松山ケンイチ/寺尾聰/小林薫/松重豊/岸部一徳/沢尻エリカ/椎名桔平/夏帆/飯豊まりえ/斎藤工/向井康

二/岸本加世子/柳葉敏郎/満島真之介/八嶋智人/山崎育三郎/高島礼子/市川実日子/美村里江/市毛良枝/小林稔侍●放映:2019/05/22-26(全5回)●放送局:テレビ朝日
