【1344】 ◎ 山崎 豊子 『沈まぬ太陽 (4)(5)―会長室篇 (上・下)』 (1999/08 新潮社) ★★★★☆

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面白かった。企業小説はこうでなくてはという感じ。でも、事実に基づいていると思うと...。

沈まぬ太陽(四) 会長室篇 上巻.gif 沈まぬ太陽(五) 会長室篇 下巻.jpg   沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上)文庫.jpg 沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下)文庫.jpg  山崎豊子.png 山崎 豊子 氏 
沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上)』『沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下)』 『沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上) (新潮文庫)』『沈まぬ太陽〈5〉会長室篇(下) (新潮文庫)
新潮文庫 映画タイアップ帯/映画 「沈まぬ太陽」('09年)
沈まぬ太陽 会長室篇.jpg沈まぬ太陽5.jpg '85年の御巣鷹山墜落事故の後、利根川総理は国民航空再建のため、関西の紡績会社会長の国見正之を国民航空会長に据える。新体制の下、遺族係として大阪に赴任していた恩地は国見により東京に呼び戻され、新設の「会長室」の部長に抜擢される。改革に奔走する国見と恩地、そして次期社長の座を狙う行天を中心に、彼らを取り巻く社内外の腐敗体質の元凶や黒幕が描かれる―。

 国見らが統合に腐心する5つに分断された組合、腐敗体質の温床となった生協購買部や関連会社のリベート構造、財務体質の悪化を招いた海外不動産の買収とそれに伴うサヤ抜き、更にドル先物予約による膨大な為替差損など、まあ、出てくる出てくる、しかも、それらが実際の取材に基づいて書かれた事実であるとのことで、これが一流企業と目される会社の実体なのかと唖然とさせられます。

 そして、自らの出世と保身に走る経営幹部と、その背後で蠢く政治家や政商たち―う〜ん、読んでいて先ず面白い! 企業小説はやはりこうでなければという感じで、総合商社の内幕を描いた『不毛地帯』以来の作者の筆の冴えを感じましたが、過程においてのエンタテインメイント性とは裏腹に、ラストは必ずしも読者のカタルシスを満たすものとはなっていません。
第2次中曽根内閣.bmp これは、実際に'86年に日本航空に招聘された伊藤淳二氏の改革が様々な圧力のため中断し、主人公の原型モデルである小倉寛太郎氏も再びアフリカに追いやられたという事実に即しているためでしょう。

 利根川総理(中曽根康弘)が国民航空の会長人事を託したのが、元大本営参謀の龍崎一清(瀬島龍三)で、どうしょうもない運輸大臣の道塚(三塚博)、警察官僚出身の官房長官・十時(後藤田正晴)、巨額の裏金作り工作をする副総理・竹丸(金丸信)、闇将軍・田沼(田中角栄)の"刎頚の友"である政商・小野寺(小佐野賢治、日航の社外取締役だった)...etc. 政治家などがモデル人物が特定し易い形で登場するため興味が尽きず、会社の経営陣はもとより、会社が組合分断工作のために起こした新生労働組合の関係者や、リベートを貪る関連会社の黒幕たちも、実際に特定できるモデルがいるようです(但し、映画で三浦友和が演じている行天四朗だけは架空の人物)。

瀬島龍三.jpg 『不毛地帯』での壱岐正のモデルとされる瀬島龍三ですが、この作品での龍崎一清は、国見の目から見て、当初は"国士"だと思われたが実際はそうではなかったというのが興味深く、一方の国見の方は、『不毛地帯』での壱岐正のように理想的人物像として描かれていて、これは誰かそうしたキャラクターを設けないと、もう魑魅魍魎を描いただけの小説になってしまうため致し方ないのか。

沈まぬ太陽51.JPG 結局、日本航空の労組は今でも、企業寄り組合1(最大組合)、反企業的組合7(職種別)の8労組に分かれており、従業員の所属組合の違いによる差別待遇は、日本航空キャビンクルーユニオンの訴えにより、'09年11月に東京都労働委員会が日航に昇級・賃金差額支払いなどの改善命令を出していることなどを見ても、いまだに続いていることが窺えます。
 更に、経営再建に向けた動きの中で、海外投資での新たな為替差損も明らかになっており、「変わらぬ企業体質」は、こうした点においても見られます。
 
 いきなり話が急展開して小説が完結し、「なに、コレ」みたいに思った読者もいるかも知れませんが、元々が、ハッピーエンドで終わらせようとするには無理がある"素材"なのでしょう。

 魑魅魍魎たちの暗躍は、フィクションであると断っているとは言え、容易にモデルが特定できる形で書かれていることを考えると、かなりの事実が含まれていると思われました。もしそれらが本当に事実であるとするならば、心底ぞっとします。
 
 【2001年文庫化[新潮文庫(上・下)]】

1 Comment

山崎豊子 2013年9月29日、心不全のため入院先の病院で死去。88歳。

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This page contains a single entry by wada published on 2010年3月15日 00:33.

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