「●筋トレ」の インデックッスへ Prev|NEXT ⇒ 「●雑学・クイズ・パズル」 【1732】 多湖 輝 『頭の体操 〈第4集〉』
紹介されている種目が類書に比べ多い。石井直方先生のご逝去を悼む。


『筋トレ 動き方・効かせ方パーフェクト事典』['19年] 石井直方(1955-2024)
本書は、バイオメカニクスに基づき、主要な筋トレ種目の動作を分析し、負荷のかかる範囲、最大負荷の位置を解説したものです。姿勢や負荷のかけ方を変えた多彩なバリエーション種目を紹介し、ひとつひとつの種目に「負荷のかかる範囲」「最大負荷の位置」を解説、筋トレの効果を最大限に得るために最適な種目選びが可能となるよう、理論と実践を紹介しています。
筋トレは、各トレーニング種目の姿勢や負荷のかけ方を変えることで、鍛えられる部位や筋肉、トレーニング強度が変わってくるため、こうした知識は筋トレの効率を上げる上で欠かせないものと言えるでしょう。BIG3種目からフリーウエイト、自重種目、マシン種目までを網羅し、各種目の動作を写真で解説しているので、正しいポジションや動きを目で見て確認することができます。
特長としてはやはり、紹介されている種目が類書に比べ多いことでしょう。その分、1種目当たりの解説が少なくなっているかというとそうでもなく、個人的には満足しています(あまり詳しすぎても頭に入らないのでちょうどいいくらい)。電子版が出れば、ジムなどで確認できるかと思うのですが、シリーズとして、電子版を出すことはしていないようです(図版ものなので、この先もずっと出ないかも)。

2019年刊で、以前から持っていましたが、今回敢えて取り上げたのは、本書の監修者であり、"筋肉博士"として有名な、東京大学名誉教授の石井直方(いしい・なおかた)先生(1955年生まれ)が、今年['24年]8月20日に69歳で亡くなったこともあってです(ご逝去を悼みます)。東大生時代には「東京大学運動会ボディビル&ウェイトリフティング部」に所属し、1975年から関東学生パワーリフティング選手権で6連覇、1976年から全日本学生パワーリフティング選手権で2連覇、1977年に全日本学生ボディビル選手権で優勝するなど、輝かしい成績を残しています。癌を起因とする疾患が死因とのことで、ビルダーのイメージからしても、もっと長生きしてほしかったです。
順天堂大学スポーツ健康科学部教授で、NHKの「みんなで筋肉体操」(今は「あさイチ」でやっている)でお馴染みの谷本道哉氏の恩師にあたる人でもありました。谷本氏はボディービルディングの専門誌で石井先生の記事を読み、「この人の元で学びたい」と東大大学院へ入るための勉強を始め、大学卒業後に就職した会社を辞め、ゴールドジムの正社員として働きながら勉強を続け、大学院の試験に合格、東大の石井直方研究室で修士と博士課程を修了しています(今年['24年]、順天堂大の先任准教授から教授になった)。
谷本道哉氏

石井直方先生の前の時代のウェイトトレーニングの先達と言えば、早稲田大学名誉教授だった窪田登(くぼた・みのる、1930-2017/87歳)先生が思い浮かびます。いちばん最初に読んだのが窪田先生の『新ボディビル入門』('72年/スポーツ新書(ベースボール・マガジン社))で、その後、早稲田大学での体育の授業にウェイトトレーニングというのがあって、縁あって70年代後半に授業の助手のアルバイトをしたのが個人的には懐かしいです。
窪田登『新ボディビル入門 (スポーツ新書 174) 』['72年]
窪田登(くぼた・みのる、1930-2017)(「月刊ボディビルディング」1968年9月号)



60歳前後は「筋トレ適齢期」であるとともに、時間が自由に使えるようになる定年前後は、まさに「はじめどき」でもあると説いた本。シニアの運動は「ウオーキング」ばかりになりがちだが、ウオーキングばかりしていても筋肉は増えず、きちんとした知識を身につけて行えば、少々ハードな筋トレをやっても大丈夫とのことです。去年['19年]観た映画で、「RBG 最強の85才」('18年/米)という米国で最高齢の女性最高裁判事として国民的アイコンとなったRBGことルース・ベイダー・ギンズバーグを追ったドキュメンタリー映画がありましたが、その中でギンズバーグが85歳にしてパーソナルトレーナーをつけてがんがん筋トレしていたのを思い出しました。
著者は京大名誉教授であり、「京大の筋肉」のキャッチとヌード写真で一躍注目を浴びましたが(当時64歳)、個人的にどんな人か知ったのは、NHK-BSプレミアムのフットボールアワーがMCを務める「美と若さの新常識〜カラダのヒミツ〜」で"実践!おサボり筋トレ"というテーマの時にコメンテーターとして出演しているのを見たのが最初だったでしょうか。自分で実践しているので、言っていることに説得力がありました(同じ番組に出ていたフィットネスビキニの日本女王・安井友梨などにも言えることだが)。
冒頭に挙げた「RBG 最強の85才」は、米国では関連本が何冊も出版され、Tシャツやマグカップといったグッズまで作られるほどの知名度と人気を誇る、RBGことルース・ベイダー・ギンズバーグの若い頃から現在までを二人の女性監督が描いたドキュメンタリーで、85歳(映画製作時)で現役の最
高裁判所判事として活躍する彼女は、ニューヨークのユダヤ系の家に生まれ、苦学の末に判司となり、1980年にカーター大統領によってコロンビア特別区巡回区連邦控訴裁判所判事に指名され、1993年に
はビル・クリントン大統領政権下で女性としては2人目のアメリカ最高裁判事(長官を含めて9人で構成される)に任命されています。85歳の年齢で現職にあるので保守派かというと、実はその逆で、これまでも女性やマイノリティへの差別撤廃に寄与した判決を多く出しているリベラル派です(だか
ら若者に人気がある)。映画の中でも一部解説されていますが、ドナルド・トランプは2017年1月大統領就任後、引退する連邦最高裁判事の後任として保守派の判事を次々に任命しているため、リベラル派のギンズバーグはこれ以上の連邦最高裁の保守化を食い止めるために、少なくともトランプが退陣して新たな民主党出身の大統領が現れるまでは、引退を見送ると見られているようです。現職に留まっているのには理由があり、また、職務継続のため「筋トレ」で健康を維持しているということになるかと思います(もうすぐ87歳になるなあ)。





今やスポーツジムのメインの利用者はシニア世代だと言われるのは、ジムにもよりますが、行ってみるとその通りだなあとも思わされます。このことは増田晶文 著『
早稲田大学スポーツ科学学術院教授で、2017年・第20回「秩父宮記念スポーツ医・科学賞功労賞」を受賞した著者による本書では、シニアにとって自立した健康な生活を送るために必須なものは「体幹と下半身の筋肉トレーニング」であると言い切っています。この"言い切り"ぶりが分かりやすいですが、体力とはなにか、体力をつけるのに筋肉はなぜ重要なのかを科学的にきちんと説明しているところはさすが専門家であり、また、誰でも簡単に自宅でもできる「ローイング」(ボート漕ぎ運動)というトレーニング法を紹介するとともに、筋肉にとって最適な食生活についても紹介しています。 



今回の著者は、ボディビルダーたちを主人公にした著書『果てなき渇望』で「文藝春秋Numberスポーツノンフィクション新人賞」を受賞した作家であり、1960年生まれの著者自身、1968年から本格的に筋トレを始め、20代、30代の若い頃にボディビルの大会に出場していたとのこと。しかし、34歳で会社を辞めて文筆の世界に入ってから運動不足になり、2000年40歳の時に奮起して筋トレを再開、現在('14年2月)体重60㎏、体脂肪率5.9%だそうです。そうした"筋トレ歴"を持つ著者らしい入門書になっているように思いました。
本書は基本的に、50歳を過ぎても細マッチョやスレンダー体系の理想に近づけるということを説いた本であることを冒頭に謳っていますが、最後に、50代ミドル、60代シニアが筋トレをするのは、人生の道のり半ばにあって体力や筋力の衰えを自覚するところからスタートし、衰えた分を取り返し、プラスに転じていけるから中年のトレーニングは面白しい、味わい深いと。老いと正面衝突したり、老いから逃げ回るのではなく、さらりといなすのが50代、60代の筋トレの極意であるという本書の結語は、なかなか奥深いように思いました。





