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時々手にして、人類存在の神秘、いのちの不思議さに思いを馳せるのもいい。

『40億年、いのちの旅 (岩波ジュニア新書)』['18年]『人類が生まれるための12の偶然 (岩波ジュニア新書)』 ['09年]
40億年に及ぶとされる、地球における生命の歴史を、いのちとは何か? いのちはどのようにして生まれたのか? どのように考えられてきたのか? というところからその歴史をひもときながら、人類の来た道と、これから行く道を探っった本。
第1章で「いのち」とは何かをを考え、第2章で、「いのち」の特徴である多様性と普遍性がどのようなものか、それらがゲノム・DNAを通じてどのように発揮されてきたかを考えています。
第3章では「いのち」の始まりとその後の進化について考え、「いのち」の旅の方向づけに大きな影響を与えた事項・イベントとして、光合成と酸素呼吸の出現や真核細胞の登場、性の出現、陸上への進出など7項目に焦点を当てています。
後半の第4章、第5章、第6章では、ヒトの過去・現在・未来についてそれぞれ考えています。まず、化石とDNAからヒトの進化の旅を振り返り、次に、地球上で生き物の頂点に君臨する現況を改めて考え、最後に、これからヒトはどのような旅をするのかを考えています。
こうした学際的な内容のヒトの歴史に関する本では、同じ岩波ジュニア新書に眞淳平著『人類が生まれるための12の偶然』('09年)がありましたが、あちらは宇宙や地球の誕生から説き起こしているのに対し、こちらは40億年前の生命の誕生から説き起こしていることになります。
また、著者の専門が細胞生化学であることもあってか、細胞内小器官の話など細胞学に関する説明はやや高度な内容を含んでいたように思いますが(と言っても高校の教科書の生物基礎程度の知識があれば何とかついていけるか)、減数分裂における遺伝子の組み換えの説明などは分かりやすい方だったと思います。

最新の研究成果も織り込まれています。個人的に興味深かったのは、ネアンデルタール人と現生人(ホモ・サピエンス)の関係で、共に約90万年前にアフリカかヨーロッパのどこかで誕生したホモ・ハイデルベルゲンシスを先祖とし、ネアンデルタール人はヨーロッパにいたホモ・ハイデルベルゲンシスから進化したと考えられ、現生人は、20万年前アフリカにいたホモ・ハイデルベルゲンシスから進化したと考えられとのこと。先祖が同じでも、先祖のいた場所が違うのかと。(●後に読んだ『ご先祖さまは弱かった! 激ヨワ人類史』('21年/西東社)によると、このことは既に定説化されているとようだ。)
陸上に生息する動物の個体数の総重量が一番重いのはウシで、2番目がヒトだが、以下、スイギュウ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ、ウマと続くという話も興味深かったです。要するに、これら(ヒト以外)は全部"家畜"であって、ヒトは自分たちが生きるために、膨大な量の生物を飼育しているのだなあと。
巻末に長谷川真理子著『進化とはなんだろうか』['99年/岩波ジュニア新書]など関連の参考図書が紹介されています。時々この種の本を手にして、人類が存在することの神秘、自分が生まれてきたことの不思議さに思いを馳せるのもいいのではないでしょうか。
《読書MEMO》
●地球上の「野生哺乳類」と「人類」の総質量を比較したら圧倒的に人類の方が重かった!(ナゾロジー)
全人類より家畜の総質量の方が重い。野生哺乳類は一番軽く全体の6%ほど。 / Credit:Ron Milo(Weizmann Institute of Science)_Wild land mammals weigh less than 10 percent of the combined weight of humans and are outweighed by cattle and other domesticated mammals by a factor of 30(2023)



人類進化のストーリーを一般読者が身近に感じられるようにとの狙いから写真・イラスト・図説が充実していて、本書の編集長で英国の科学ジャーナリストであるアリス・メイ・ロバーツ(Alice Roberts)は、医学、解剖学、骨考古学、人類学に精通したサイエンス・コミュニケーターで、BBCの科学番組などにも出演しているとのこと、とりわけ、「人類」の章に出てくる、古生物を専門とする模型作家オランダのアドリー&アルフォンス・ケネス兄弟による、古代人類13体の容貌の精緻な復元モデルは、今にも動き出しそうなほどのリアリティがあります。
続いて登場のアウストラロピテクス・アファレンシスは、現生人類(ホモ・サピエンス)が属するヒト属(ホモ属)の祖先ではないかと考えられていますが、これも同じくサルのように見えると言っていいのでは(特に横顔)。しかしながら、生態図(イメージイラスト)をアルディピテクス・ラミダスのものと比べると、より完全な二足歩行になっていて"人間"っぽい感じ。
そして登場するのが「ネアンデルタール人」ことホモ・ネアンデルタレンシスで、最も新しい遺跡はジブラルタルで見つかっているが、どうして絶滅したのかはまだ謎であるとのこと。ある本には、ネアンデルタール人が床屋にいって髪を整え、スーツを着てニューヨークの街中を歩けば、誰もそれがネアンデルタール人であることに気が付かないであろうと書いてあった記憶がありますが、復元された容貌を見ると確かに。そして最後に、ホモ・サピエンスの登場―人類系統樹の中で唯一生き残った枝であり、最初は黒人しかいなかったわけだ。
「出アフリカ」の章では、最後にオセアニアに至る人類移動(ロコモーション)全体を扱っていますが、この章も図説が多く、写真も豊富で分かり良いです(初期人類の出アフリカは200万年前、ホモ・サピエンスの出アフリカは8万年前から5万年前としている)。








冒頭で、700万年の人類の進化史には、①サヘラントロプスなど初期ヒト属の誕生(700万年前)、②初期型ホモ属(アフリカ型ホモ・エレクトスなど)の分岐(250万年前)、③ホモ・サピエンスの出現(20万年前)の3つの画期があったとし、本書前半部分は、700万年前から数十万年前までのホミニン(ヒト属)の発見史となっており、後半部分はネアンデルタール人やホモ・サピエンス(現生人類)を主に扱っており、三井誠氏の『人類進化の700万年』と比べると、"始まり部分"と"直近部分"が詳しいという印象。
第2章(350万~290万年前)は、アファール猿人(350万年前)についてで、アウストラロピテクス・アファレンシス(アファール猿人)の脳の大きさは現生人類の3分の1程度ですが、既に人類固有の成長遅滞(脳がまだ小さいうちに産み、ゆっくりと時間をかけて育てる)の形跡が見られるそうです。



![[新装版]アフリカで誕生した人類が日本人になるまで.jpg](http://hurec.bz/book-movie/%5B%E6%96%B0%E8%A3%85%E7%89%88%5D%E3%82%A2%E3%83%95%E3%83%AA%E3%82%AB%E3%81%A7%E8%AA%95%E7%94%9F%E3%81%97%E3%81%9F%E4%BA%BA%E9%A1%9E%E3%81%8C%E6%97%A5%E6%9C%AC%E4%BA%BA%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%8B%E3%81%BE%E3%81%A7.jpg)
①アフリカで現代人(ホモ・サピエンス)にまで進化した集団の一部が、5~6万年前までには東南アジアに来て、その地の後期更新世人類となった。


「新人」に関しては、ネアンデアルタール人(ホモ・ネアンデアルターレンシス)とクロマニヨン人(ホモ・サピエンス)の関係などを図説でもって分かり易く解説していますが、形態的な進化の過程を探るだけでなく、"おしゃれ"の始まりなどの「心の進化」の過程や、農耕、家畜の飼育、飲酒などの習慣がいつ頃から始まったのかを解説し、また我々にとって興味深い「日本人の起源」についても考察していますが、こと後者については、遺伝子情報から解析すると相当複雑で、単に「南から来た」とか「北から来た」といった二者択一的な解答を出すのは難しいようです(このテーマについては、篠田謙一著『日本人になった祖先たち-DNAから解明するその多元的構造』('07年/NHKブックス)により詳しく解説されている)。
埴原和郎(はにはら かずろう)
学術文庫刊行と時同じくして著者は肺がんで亡くなっていますが、生前からダンディな合理主義者で知られ、遺言により供花・香典を固辞し会葬を執り行わなかったこと、その死がマスコミにより報じられたのは、近親者による密葬が終わった後でした。
かつて学校でアウストラロピテクス((Australopithecus)が一番古い猿人だと習いましたが、アウストラロピテクスというのは属名で、その中にもいろいろあり、それでも一番古いもので400数十万年前だったように思いますが(このあたりまでは習ったような記憶がある)、サヘラントロプス・チャデンシスの「700万年前」というと、それより200数十万年も古いことになります。
