【3703】 ○ ジョルジュ・メリエス 「カレーとドーヴァーの間」「舞踏会のあとの入浴」 (97年/仏) (1897年 フランス公開)★★★☆/「海底の軍艦メーヌ号見学」「幾つもの頭を持つ男」 (98年/仏) (1898年 フランス公開)★★★☆)

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ジョルジュ・メリエスが監督した初期の短編4作。どの作品も"遊んでる"感があって愉しい。

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「カレーとドーヴァーの間」「舞踏会のあとの入浴」(1997)/「海底の軍艦メーヌ号見学」「幾つもの頭を持つ男」(1998)

カレーとドーヴァーの間23.jpg 蒸気船「ロベール=ウーダン・スター・ライン」号の乗客らは、英国海峡を渡る際に荒波に遭う。甲板上で、頬髯を伸ばし格子柄の上下を着た男(ジョルジュ・メリエス)が大揺れの中で何とか飲み食いをしようとジタバタし、長髭の聖職者が動転した乗客たちを宥めようと話しかけ、船長は上部甲板からこの混乱した状態を窺い、船酔いになったと思しき女性が介抱される―(「カレーとドーヴァーの間」)。

 英仏海峡を渡る船の揺れをコミカルに描いた、トリックを使わない写実的(ドキュメンタリー)路線の傑作とされる作品です。メリエスの所有する家の庭で、屋外撮影されており、書割の背景画は用いられていません。「ロベール=ウーダン・スター・ライン」という船名は、メリエスが所有していたロベール=ウーダン劇場や、映画会社の商標スター・フィルムからとっています。映画史家のジョン・フレイザーによれば、「乱雑で混乱した振り付けは、準備され、リハーサルされたものであり、全体的な大混乱の中でも、重要な動きはきちんと明示されている」とのこと。嵐に遭う船に自分の劇場の名前を付けているのは鷹揚と言うべきか(笑)。

メリエス2入浴2.jpg 女性(ジュアンヌ・ダルシー)が舞踏会から帰ってくると、女中の手を借りながらドレス、ペチコート、下履き、黒い靴下などを脱いでいく。最後に後ろを向いて肌着を脱ぎ、背中を見せる。そのあとに女中が彼女に湯をかけ、バスローブを羽織らせてて体を乾かす―(「舞踏会のあとの入浴」)。

 女性が風呂に入り、メイドが手伝う様子を描いた作品で、「映画史上初の女性のヌードを撮った映画」の1つと言われています。この作品も、メリエスの家の敷地内にある桃畑の周りに築かれた壁を背景にして屋外で撮影が行われています。入浴する女性を演じたのは、メリエスの愛人であり、彼の舞台や映画に出演していたジュアンヌ・ダルシーという女性で、裸になるシーンでは肌色の肉襦袢を着て演技していますが、彼女が寒がったため、入浴シーンでメイドは水の代わりに砂をかけているそうです(笑)。

メリエス3メーヌ号2.jpg 1898年2月15日、アメリカ海軍の戦艦メイン号はキューバのハバナ湾で停泊中に爆破し、海底に沈没した。その海底とメイン号の残骸が画面に映し出される。長いエアホースが付いた送気式の潜水服の3人のダイバーは、梯子を使って海底へと降りる。ダイバーはメイン号の残骸の大きな穴の開いたところから中へ入り、死体を回収する。死体はロープで結ばれ、海上へと引き上げられる。別のダイバーは船体から重い物体を回収する―(「海底の軍艦メーヌ号見学」)。

 1898年にハバナ港で爆沈した米軍艦メーヌ号をテーマにしたニュース映画風のフィクション(所謂「再構成されたニュース映画」)。内容的には「見学」と言うより、英題の通り「遭難したメイン号で仕事するダイバーたち」が主。ダイバーたちが海底の残骸を探索する海中シーンは、実際に海に潜水したのではなく、スタジオセット内での撮影だったようです。本物の魚が泳ぐ大きな水槽をカメラの前に置き、それを通してセットで演じられるアクションを撮影したとのこと(ダイバー役は水には潜ってはいないらしい)。そう言えば、26年後のバスター・キートンの「海底王キートン」('24年)では、キートンがシエラネヴァダ山中のタホ湖(かつては世界第3位の透明度を誇った)に、時間は短いですが実際に潜水服で潜っていたことを思い出しました(まあ、その間に潜水服も進歩したとは思うが)。

メリエス4幾つもの頭2.jpg マジシャン(ジョルジュ・メリエス)は、ステージ上にある2つのテーブルの間に立ち、自分の頭を引き抜いてテーブルの上に置く。頭はあたりを見回したり、喋ったりしている。マジシャンの首には、すぐに新しい頭が付いてくる。マジシャンはこの芸当に誤魔化しがないことを見せるために、頭を置いたテーブルの下を通り抜ける。それからマジシャンは、新しく生えてきた自分の頭を抜いてはテーブルの上に置くという行為を2回繰り返し、最後に自分の首に4つ目の頭が付く。マジシャンはバンジョーを弾き始め、テーブルの上にある3つの頭も一緒に歌い出す。マジシャンは頭たちの歌声が不快になり、バンジョーで2つの頭を叩いて消してしまう。さらに自分の頭を取って投げ捨て、テーブル上にある残る一つの頭を宙に放り投げると首にくっついて戻る。マジシャンは画面に向かってお辞儀をしてステージから出て行く―(「幾つもの頭を持つ男」)。

 メリエス自身が演じる奇術師が、自分の頭を次々と外してテーブルに並べるという不思議な分身現象を表現した短編トリック映画で、多重露光技術(ストップ・トリック)を駆使した最初の1本と言われています。撮影は4回の多重露光とストップ・トリックの組み合わせで行われ、ここで言うストップ・トリックとは、黒いビロードの幕を背景にしつらえ、メリエスが自分の頭を取り外そうとする仕草をするところで撮影を中断し、黒い頭巾を被ってから撮影を再開すると、頭巾と背景が同化し、頭だけがなくなったかのように見せることができるという技です。雑誌「リテレール」別冊の『映画の魅惑―ジャンル別ベスト1000』('93年/メタローグ)で、版画家の山本容子氏がこの作品をモチーフにした表紙絵を描いていました。

 映画の創成期において様々な技術を開発した人物であり、世界初の職業映画監督の一人といわれている大御所ですが、どの作品も"遊んでる"感があって愉しいです。

メリエ1カレー3.jpg「カレーとドーヴァーの間」●原題:ENTRE CALAIS ET DOUVRES(英:BETWEEN DOVER AND CALAIS /BETWEEN CALAIS AND DOVER)●制作年:1897年●制作国:フランス●監督:ジョルジュ・メリエス●時間:約1分●出演:ジョルジュ・メリエス/ジョルジェット・メリエス/ジョゼ・グラピネ●フランス公開:1897年(評価:★★★☆)
  
メリエス2入浴3.jpg「舞踏会のあとの入浴」●原題:APRES LE BAL (LE TUB)(英:AFTER THE BALL)●制作年:1897年●制作国:フランス●監督:ジョルジュ・メリエス●時間:約1分●出演:ジュアンヌ・ダルシー/ジャンヌ・ブラディ●フランス公開:1897年(評価:★★★☆)
  
    
メリエス3メーヌ号4.jpgメリエス3メーヌ号3.jpg「海底の軍艦メーヌ号見学」●原題:VISITE SOUS-MARINE DU "MAINE"(英:DIVERS AT WORK ON THE WRECK OF THE "MAINE")●制作年:1898年●制作国:フランス●監督:ジョルジュ・メリエス●時間:約1分●パリ公開:1898/04(評価:★★★☆) 
 
 
 
 
 
  
 
映画の魅惑―ジャンル別ベスト1000』('93年/メタローグ)(表紙絵:ジョルジュ・メリエス by 版画家・山本容子)
『映画の魅惑―.jpgメリエス4幾つもの頭3.jpg「幾つもの頭を持つ男」●原題:UN HOMME DE TETES(英:THE FOUR TROUBLESOME HEADS●制作年:1898年●制作国:フランス●監督:ジョルジュ・メリエス●時間:約1分●フランス公開:1898年(評価:★★★☆)

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