【3648】 ○ フェルディナント・フォン・シーラッハ (酒寄進一:訳) 『罪悪 (2012/02 東京創元社) ★★★★

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短篇集第2弾。時にユニークに、時に衝撃を持って描かれた"事件簿"。

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罪悪 (創元推理文庫) 』['16年]           『罪悪』['12年]

 2012年より「本屋大賞」で新設された翻訳部門で第1位となった短編集『犯罪』(2009年の原著刊行)に続く短篇集第2弾で(2010年原の著刊行、原題:Schuld)、「ふるさと祭り」「遺伝子」「イルミナティ」「子どもたち」「解剖学」「間男」「アタッシュケース」「欲求」「雪」「鍵」「寂しさ」「司法当局」「清算」「家族」「秘密」の15編が収録されています。本自体の厚さは200ページ前後と前作とほとんど変わりませんが、前作と比べて収録短編の数が少し多く、その分、1作当たりが短めでしょうか。

すなわち前作に比べて短い短編も収録されているというわ

「ふるさと祭り」... 小さな町の六百年祭。町の住人たちからなるブラスバンドの男たちは、みな白粉に口紅、つけ髭で扮装をしていた。転んでビールを浴びた給仕の娘の裸がTシャツに浮かび上がると、突然皆で襲い始めて―。語り手の弁護士としての初仕事が、暴漢たち(といっても元は普通の市民だったはずだが)の弁護かあ。しかも、裁判に勝ってしまう。娘の父親の痛々しさ。弁護士が罪を犯した気分になるのがわかる。

「遺伝子」... 家を出て乞食をしている17歳の少女ニーナと、同じく駅で暮らしていて知り合った24歳の青年トーマス。60歳から65歳くらいの老人に、家に誘われるが、ふとしたはずみで殺してしまい―。好色老人は強姦魔になるまでには至らなかったわけで、後からそれを知ったトーマスがまずいと思ったわけだ。19年(時効成立の1年前か)平穏に暮らしていたのになあ。捜査方法なので、「遺伝子」と言うより、原題通り「DNA」でいいと思う。

「イルミナティ」... 人付き合いの苦手なヘンリーは寄宿学校で出会った60代の美術の女性教師に絵の才能を認めてもらう。ところが秘密結社イルミナティを名乗るグループに目をつけられ、陰惨ないじめのターゲットになってしまう―。男子寄宿学校生らの"生け贄"の生徒へのいじめが引き起こす悲劇。裁かれるべき者が充分に裁かれないもどかしさ。

「子どもたち」... 妻ミリアム(29歳)と幸せな家庭を築いていたホールブレヒト(38歳)。しかし「24件の児童虐待」容疑(24件中にミリアムの学校の教え子もいた)で捕まってしまったことでホールブレヒトの人生は一変。3年半の禁錮刑の判決が下される―。女の子の嫉妬は怖い。過去の事件が冤罪であった場合、真犯人が少女であったにせよ、マスコミ報道を敢えてしないということがあるのだろうか。

「解剖学」... 勇気を振り絞って声を掛けたのに「タイプじゃないわ」と冷たくあしらわれ恨みに思った男は、女の殺害計画を立てる。解剖道具などすべての準備を整え(サイコパスか)、計画を実行に移すばかりだったが―。まさにこれからとき事故に遭うわけで、相手は過失致死罪なのだが結果として殺人を未遂に終わらせたわけで、1年半の執行猶予付き有罪判決というのは、軽くて済んだということか。

「間男」... 高級紳士服店を経営する48歳のパウスルベルクと弁護士である36歳の妻。サウナでのある出来事を契機に2人はいつしか妻が他の男と関係することに興奮を覚えるようになっておりその秘密の楽しみはうまくいっていたが―。匿名の関係性の中に知っている人間が入ってくると、微妙な変則的(変態的)関係が崩れて、おかしくなってしまうのか。

「アタッシュケース」... ベルリンの環状高速道路で見回りをしていた婦警が、一台の車のトランクを調べると、死体の写真が18枚入ったアタッシュケースが見つかる。運転手は自分は運ぶよう頼まれただけだと言って―。この人の作品はたまにこういう完全迷宮入り事件があるが、「作者の事件簿」という触れ込みにリアリティを持たせるため?

「欲求」...幸せな家庭を築いているもののいつしか自分をからっぽだと思うようになった彼女は、ストッキング売場の棚の前で30分も立ちつくし。やがて一足をコートに押し込んで、レジを通り抜けたが―。不要なものを万引きするのは病気だろう。本当に問題解決したか怪しい。

「雪」... 特別出動コマンド(SEK)に突入され麻薬密売の容疑で捕まった老人。老人は確かに千ユーロで、ブツを小分けしたい密売人に部屋を貸していたのだ。やがて見知らぬ若い女性が面会にやって来て―。老人、女、その恋人。売人を巡る掟は厳しい。老人の女への思い遣りが唯一の救いか。

「鍵」... フランクとアトリスはクスリで儲けるためにロシア人と取引しようとしていた。金を入れた駅のコインロッカーの鍵を預かるのがアトリスの係だったが、飼い犬バディが鍵を飲み込んでしまって―。"鍵"を巡るドタバタ劇。墟リスは間抜けそうに見えて、意外としっかりしていたのかも。

「寂しさ」... 14歳のラリッサは、隣のアパートに住む父の友人のラックなーに脅され、無理やりに乱暴されてしまう。やがてラリッサは体調が悪くなり、吐き気やめまい、腹痛を感じるようになり―。望まない妊娠に至る事件。赤ん坊は死産だったから、殺人ではなく死体遺棄だと思うが、証明しようがないね。一応ハッピーエンドだが、最後に覗く女性の想い。自らの"腹を痛めた子"には違いないか。

「司法当局」... 飼い犬同士の争いがケンカに発展し、相手の犬を蹴った加害者と思しきタュランが逮捕されるが、彼は犬も飼っておらず、そもそも彼は生まれつき脚が悪い。しかしトゥランは何も行動しようとせず―。「事件簿」らしい誤認逮捕の例。

「清算」... アレクサンドラは優しい夫との間にザスキアという娘が生まれ、幸せに暮らしていた。しかし、やがて夫は酔うと彼女に暴力をふるうようになる。ザスキアを連れて逃げ出すが―。DV回避のための夫殺し。裁判長は理解ある人物で、正当防衛が成立。しかし、本当に彼女が殺したのか。ラストの一文が答え。

「家族」... 日本の僧院で修業し、日本の自動車メーカーで働き、退社後は株で儲けてバイエルンの湖近くに豪邸を建てたヴァラー。やがて父親違いの弟フリッツ・マイネリングがブラジルで犯罪で捕まると、助けてやろうするが―。異父兄弟でありながら、片や努力して成功を勝ち取った男と、片や更生できない根っからの犯罪者。ヴァラーの父も喧嘩や泥棒の常習犯だったのだが、その気質が血の繋がりの無い方に引き継がれていた?

「秘密」... カルクマンと名乗る男が毎朝〈私〉の弁護士事務所を訪ねて来てCIA(中央情報局)とBND(ドイツ連邦情報庁)に追われているという話をする。〈私〉は彼を精神科医に連れて行くが―。短い話である分、ラストが効いている(笑った)。

 裁判所や弁護士の力で簡単に解決出来ない複雑な事件が、時にユニークに、時に衝撃を持って描かれた短編集。最初の方は暗い話が多かったけれども、読んでいくうちにいいバランスになっていった感じ。1作当たりが短めであるということもあってか、前作『犯罪』ほどのインパクトはないですが、それぞれの話が短い分読みやすく、また、楽しめる一冊になっています。

【2016年文庫化[創元推理文庫]】

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