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1冊1冊の内容紹介や解説が丁寧で、抜粋も要所を押さえている。これが単著であることが驚き。

『500冊の死刑―死刑廃止再入門』['20年]

法学者の前田朗(あきら)東京造形大学名誉教授による本書は、サブタイトルにもあるように、死刑「廃止論」のブックガイドであり(対象期間は基本的には1996年から2018年)、著者も死刑廃止論者です。従って、死刑「存置論」の本も第4章の「死刑存廃論」のところで廃止論と対比論的に取り上げられていますが、それらは数は限られます。
第1章「再燃する死刑論議」では、死刑論議の現況を俯瞰しつつ、死刑に向き合うための本として、森達也、辺見庸、向井武子、日方ヒロコ、鈴木道彦、安田好弘などの本を紹介しています。
第2章「死刑の現場へ」では、秘密主義と現場の苦悩や、死刑囚の処遇と執行に関して、死刑執行の実際、残虐性をめぐる新研究、死刑囚処遇、執行官と教誨師などに関する本を取り上げています。死刑執行の実際については、原裕司『なぜ「死刑」は隠されるのか?』('01年/宝島社新書)や、前エントリー取り上げた佐藤大介『ルポ 死刑―法務省がひた隠す極刑のリアル』('21年/幻冬舎新書)の元本『ドキュメント 死刑に直面する人たち―肉声から見た実態』('16年/岩波書店)、篠田博之『ドキュメント 死刑囚』('08年/ちくま新書)、坂本敏夫『元刑務官が明かす死刑はいかに執行されるか―実録 死刑囚の処遇から処刑まで』('03年/日本文芸社)、これも先に取り上げたばかりの堀川惠子『教誨師』('14年/講談社)などが紹介されています。
第3章「死刑囚からのメッセージ」では、木村修治、永山則夫、大道寺将司、坂口弘、河村啓三などの本を紹介しています。また、加賀乙彦『死刑囚の記録』('80年/中公新書)やその小説『宣告』('79年/新潮社)、池谷孝司『死刑でいいです―孤立が生んだ二つの殺人』('09年/共同通信社)なども取り上げられています。
第4章「死刑存廃論」では、死刑存廃論を存置論、廃止論の両面に渡って取り上げ、肯定論では、森炎『死刑肯定論』('15年/ちくま新書)などが取り上げられています(同著者の『死刑と正義』('12年/講談社現代新書)も紹介されている)。一方の廃止論では、これも前々エントリー取り上げた萱野稔人『死刑 その哲学的考察』('17年/ちくま新書)などが取り上げられています。
第5章「凶悪犯罪と被害者」では、凶悪犯罪と被害者による厳罰要求の関係に関して、オウム真理教事件、光市事件、池田小学校事件、秋葉原事件などを具体的に扱った本を取り上げ、加害者家族の問題を扱った本も紹介しています。
第6章「死刑と冤罪」では、誤判の危険性と不可避性について、森炎『司法殺人―元裁判官が問う歪んだ死刑判決』('12年/講談社)などが紹介されています。また、再審の壁の問題に触れ、さらに、大逆事件、帝銀事件、免田事件、財田川事件、松山事件、三鷹事件、松川事件など16もの冤罪事件についてそれぞれ具体的に扱った本を取り上げています。首都圏連続不審死事件を扱った北原みのり『毒婦。― 木嶋佳苗100日裁判傍聴記』('12年/朝日新聞出版)なども取り上げられています。
第7章「死刑の基準」では、死刑の基準、終身刑、少年と死刑の問題を扱った本を紹介しています。終身刑については、河合幹雄 『終身刑の死角』('09年/洋泉社新書y)などを取り上げています。
第8章「裁判員制度と死刑」では、裁判員裁判の現在を問うた書籍を紹介し、第9章「世界の死刑―比較法と国際法」では、世界で孤立する日本の死刑制度について、アジアやアメリカなどとの比較で述べ、ここでは市K死刑制度容認派から死刑廃止廃止派に転じた弁護士作家スコット・トゥローの『極刑―死刑をめぐる一法律家の思索』('05年/岩波書店)なども紹介されています。第10章「歴史と現代」では日本と世界の死刑の歴史を扱った本を紹介しています。
最終第11章「死刑と文学」では、死刑をモチーフとした内外の小説を紹介ししています。ジョン・グリシャム『処刑室』('95年/新潮社)やスコット・トゥロー『死刑判決』('04年/講談社文庫)、東野圭吾『虚ろな十字架』('14年/光文社)など、紹介されているものはミステリの比重が高くなっていますが、それなりに重いものを含んでいると言えるかと思います(対象期間外だが、ヴィクトル・ユーゴー『死刑囚最後の日』('50年/岩波文庫)は古典文学か)。
500冊という冊数もさることながら、1冊1冊の内容紹介や解説が丁寧で、抜粋もポイントを押さえていて本の趣旨が伝わりやすいです。結果として2段組みで280ページ、ぎっしり活字が詰まって、必ずしも読みやすくはないですが、もともとテーマごとに括られているのと、末尾に索引があるので、本を探すのは何とかなります。
基本的に良書を網羅していますが、500冊もある中には、どこか論旨がもの足りなかったり、論拠が曖昧なものもあって、そこは著者がしっかり批評していて、まえがきにも「コメントの部分は筆者の主観に基づいていることをお断りしておく」とあります。何れにしても、これが単著であることが驚きです。
《読書MEMO》
●目次
第1章 再燃する死刑論議 9
一 からまりあった糸――死刑という問題圏 10
二 死刑に向き合う 11
1 年報・死刑廃止 11
2 さまざまな語り 13
①死刑に向き合うために 13
②死刑をめぐる旅――森達也 16
③妥協なき精神を――辺見庸 20
④死刑囚の母となって――向井武子 22
⑤傷だらけの記録――日方ヒロコ 24
⑥時代を引き受ける知性――鈴木道彦 26
⑦死刑事件弁護人――安田好弘 28
⑧映画に見る死刑――京都にんじんの会 29
第2章 死刑の現場へ 33
一 秘密主義と現場の苦悩 34
二 処遇と執行のはざまで 34
1 死刑執行 34
2 残虐性をめぐる新研究 40
3 死刑囚処遇 43
4 執行官と教誨師 49
第3章 死刑囚からのメッセージ 59
一 本当の自分を生きたい――木村修治 60
二 死してなお闘う――永山則夫 62
三 虹を追いかけた狼――大道寺将司 72
四 暗黒世紀を見据えて――坂口弘 77
五 こんな僕でも生きてていいの――河村啓三 79
六 死刑囚の表現 81
第4章 死刑存廃論 89
一 主要論点の再認 90
1 尽きない論点 90
2 古典的論点 91
3 現代的論点 94
4 死刑のない社会をイメージするために 95
二 文献に見る存廃論 96
1 存置論 96
2 廃止論 103
3 弁護士会 110
4 刑事法学 115
① 刑事法学者による存廃論 115
② 団藤重光 118
③ 菊田幸一 120
④ 三原憲三 123
⑤ 福田雅章 124
⑥ 石塚伸一 125
⑦ 刑事法学の展開 126
第5章 凶悪犯罪と被害者 133
一 主な論点 134
二 凶悪犯罪と厳罰要求 136
1 被害者の傷 136
2 オウム真理教事件 140
3 光市事件 144
4 池田小学校事件 149
5 秋葉原事件 151
6 首都圏連続不審死事件 153
7 相模原障害者殺傷事件 154
8 凶悪犯罪の諸相 156
三 加害者家族 159
第6章 死刑と冤罪 163
一 誤判の危険性と不可避性 164
二 再審研究 174
三 雪冤の叫び 179
1 大逆事件 179
2 帝銀事件 181
3 免田事件 186
4 財田川事件 187
5 松山事件 188
6 三鷹事件 190
7 松川事件 192
8 福岡事件 195
9 波崎事件 196
10 名張毒ぶどう酒事件 196
11 袴田事件 197
12 鶴見事件 202
13 飯塚事件 203
14 和歌山カレー事件 205
15 秋好事件 207
16 本庄事件 207
第7章 死刑の基準 209
一 死刑の基準210
二 終身刑 217
三 少年と死刑 221
第8章 裁判員制度と死刑 225
一 裁判員制度へ向けて 226
二 裁判員裁判の現在 233
第9章 世界の死刑――比較法と国際法 237
一 孤立する日本の死刑――国際法の動向238
二 東アジア 246
三 アメリカ 253
第10章 歴史と現代 263
一 日本における死刑 264
二 世界における死刑 267
第11章 死刑と文学 275
一 死刑文学を読む 276
二 死刑を素材とした作品 277
あとがき 286
