【3585】 ◎ 林 忠彦 『林忠彦写真全集 (1992/08 平凡社) ★★★★☆

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全生涯にわたる作品から1000点を収録したまさに決定版。太宰治のあの写真は偶然撮られた。

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林忠彦写真全集』['92年]350mm × 263mm 650ページ函
林忠彦 2.jpg林忠彦.jpg 林忠彦(1918-1990/享年72)は日本写真界の重鎮として「木村伊兵衛写真賞」「土門拳写真賞」と並んで「林忠彦賞」として日本の三大写真賞にその名を連ねる写真家ですが、その全生涯にわたる作品から1000点を収録した決定版とでも言うべき写真集です。戦前の写真から晩年までを年代順に網羅し、林忠彦の写真家人生を総括した一冊と言え、ページ数 650ペ―ジ、厚さ5.5センチのボリュームになります。

 全4部構成で第1部が「戦時下の日本 昭和16年~20年」、第2部が「甦った平和 昭和21年~25年」、第3部が「新しい時代の幕あけ 昭和26年~36年」、第4部が「繁栄の時代 昭和39年~平成2年」となっており、貴重な時代の記録にもなっています。また、文章も書ける写真家なので、当時の時代背景や写真が撮られた際の状況が詳しく解説されています。

林忠彦写真全集001.jpg 第1部の戦時下では、松戸飛行場の哨戒出動前の航空兵たちや、昭和17年のシンガポール陥落時の街の賑わい、秋田で材木運搬に携わる女性たちの写真などがあります。

林忠彦写真全集002.gif 第2部の戦後間もない頃の写真には、復員兵・引揚者・戦災孤児の写真や、占領下で復興していく日本の様子を写した写真に続いて、最後に「無頼派の作家たち」として、太宰治や坂口安吾、織田作之助などを撮った、よく知られている写真があります。太宰治を撮ったのは、銀座の酒場「ルパン」に織田作之助を撮りに行ったら、反対側で坂口安吾と並んで「おい、俺も撮れよ」とわめいたベロベロに酔った男がいて、「あの男はいったい何者ですか」と人に訊くと太宰治だったということで、あの写真、"偶然の産物"だったのかあ(太宰が写っている写真の右手前は坂口安吾の背中)。

林忠彦写真全集 三島・石原.jpg 第3部の昭和26年~36年の写真では、冒頭に三島由紀夫など戦後文学の旗手たちの写真があり(後の方に石原慎太郎も裕次郎とともに出てく林忠彦写真全集 川端.jpgる)、長嶋茂雄、力道山といったスポーツ界のスターの写真もあります。さらに賑わう街の裏表を映した写真があって、サブリナスタイルで街を闊歩する八頭身美人の写真もあれば、ヌード劇場、女相撲、SMショーなどの写真も。しかし、昭和29年に撮られた帰省者で溢れる上野って、当時まだこんな感じかと。都会ばかりでなく地方の農村・漁村の当時の風俗を撮った写真も多数あり林忠彦写真全集003.jpgます(昭和28年の復帰時の奄美大島の写真などは貴重)。さらには、昭和30年に渡米した際に撮られた写真も。東海道を撮った写真に続いて第3部の後半には、谷崎潤一郎、川端康成、志賀直哉をはじめ、数多くの作家が登場、「婦人公論」の企画として撮られた小説作品の舞台を探訪した写真群を復刻編集したものがあり、さらに、女優、映画監督、俳優、さまざまな分野の芸術家の写真があり、この有名人の写真の部分だけで140ページほどもあります。

林忠彦写真全集004.jpg 第4部の昭和39年以降についても、変わりゆく日本の姿を追う一方で、日本の著名な画家や経営者の写真があり、この辺りからカラー写真になってきます。高林庵(奈良慈光院の茶室) など全国の有名な茶室の写真があり、家元を撮った写真も。また、五百羅漢像の写真、旅先で撮った世界中の美しい写真、日本各地の懐かしい風景写真、長崎の海と十字架をモチーフとした写真、維新の英傑・西郷隆盛の跡を追ったや若き英傑の跡を追った長州路の写真、第3部でもあった東海道の写真(箱根杉並木の写真がいい)等々です。

 没後2年後に刊行されたため、ある意味〈追悼特集〉とも言え、巻末に多くの人がその人柄を懐かしむ文章を寄せる一方、「林忠彦論」も4編あり、最後は在りし日の林忠彦を偲ぶアルバム集と、生涯を辿る年譜となっています。冒頭にも述べましたが、まさに決定版と言えるものです。

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林忠彦 3冊.jpg文士の時代 (中公文庫 は 67-1) 』['14年]/『時代を語る 林忠彦の仕事』['18年]/『林忠彦 昭和を駆け抜ける』['18年]

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