【3579】 ◎ つげ 義春/山下 裕二/戌井 昭人/東村 アキコ 『つげ義春―夢と旅の世界 (とんぼの本)』 (2014/09 新潮社) ★★★★☆

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名作「ねじ式」「赤い花」「ゲンセンカン主人」の原画と4時間のロング・インタヴューが良い。

つげ義春 夢と旅の世界.jpgつげ義春 夢と旅の世界01.jpg つげ義春 夢と旅の世界3.jpg
つげ義春: 夢と旅の世界 (とんぼの本)』['14年]

つげ義春 夢と旅の世界。.jpg つげ義春の作品で「月刊刊漫画ガロ」の1968年臨時増刊号に掲載され、従来のマンガの常識を打ち破ったとセンセーションを引き起こした「ねじ式」を始め、1968年12月の「夢日記」をベースとした「外のふくらみ」、「ガロ」の1967年10月号に掲載された名作「赤い花」、同じく1967年7月号に掲載された「ゲンセンカン主人」の4作を原画で掲載。さらに山下裕二氏による作者へのインタビューや山下裕二氏自身へのインタビュー、作者自身による作品解説の付いた略年譜や、作者自身が全国各地の鄙びた温泉地で撮った、失われた侘しい日本が滲み出る写真など、密度濃く盛りだくさんです。

 本書は、2017年度・第46回「日本漫画家協会賞」の「大賞」を受賞していますが、個人的にも、「ねじ式」「赤い花」「ゲンセンカン主人」がつげ義春 夢と旅の世界02.jpg原画で掲載されているというだけで◎評価になってしまうなあ(笑)。表紙とタイトルだけ見ると、名作が原画で掲載されているということが分からないのがやや惜しいです(本が汚れていると思った図書館員がいる)。作者のアングレーム国際漫画祭での授賞式参加のための初の海外旅行を機に、2022年に刊行された第2弾は、『つげ義春 名作原画とフランス紀行(とんぼの本)』というタイトルになっています(編者も同じことを思ったか)。

 記事部分では、明治学院大学教授の美術史家で、「日本の美術史上いちばん好きな作家は誰ですか」と聞かれると躊躇なく「つげ義春」と答えるという山下裕二氏による作家本人への4時間のロング・インタヴューが充実しています。このインタヴューの時点で、作家は25年以上もの休筆状態にあり、作家からの貴重な発信と言えます。

つげ義春 夢と旅の世界s.jpg その中で、リアリズムとシュルレアリスムの一致点についてかなり形而上学的な議論を展開しているのが興味を引きます(個人手にはヘンリー・ミラーのシュヘンリー・ミラー.jpgルㇾアリスム論を想起させられた。ミラーはリアリズムもシュルレアリスムも着地点は同じだとしている)。一方で、好きな映画・音楽談義や身近な生活上の話もあり、いちばん好きな映画を聞映画 居酒屋.jpgかれてルネ・クレマンの「居酒屋」を挙げ、それに対し山下氏が「原作はゾラだからまさにリアリズムだ」と言うと、次にビットリオ・デ・シーカの「自転車泥棒」を挙げ、「こっちはネオリアリズモ」と突っ込まれているのが可笑しかったです。

ルネ・クレマン「居酒屋」

 山下氏が長らく隠棲状態にある作家から、深い話、興味深いをいろいろ引き出している、このインタビューを読むと、「日本漫画家協会賞」の「大賞」受賞も頷けます。「この本は買っても買わなくても後悔するでしょう」(つげ義春)というキャッチが面白いですが、つげ義春の作品のうち名作とされるものは、何回も読み返せる魅力があるので、買って後悔はしないかと思います(笑)。

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