【3696】 ○ サタジット・レイ 「ビッグ・シティ(大都会)」 (63年/インド) (1976/03 エキプ・ド・シネマ) ★★★★ (○ サタジット・レイ (原作:ラビンドラナート・タゴール) 「チャルラータ」 (64年/インド) (1975/11 エキプ・ド・シネマ) ★★★★)

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女性の活躍・自立を描いた「ビッグ・シティ」。恋と孤独の心理ドラマ「チャルラータ」。

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映画チラシ 岩波ホール「大都会」監督 サタジット・レイ 出演 マドビ・ムカージー、アニル・チャタージービッグ・シティ デジタルリマスター [Blu-ray]
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映画チラシ 岩波ホール「チャルラータ」監督/脚色/音楽 サタジット・レイ 出演 マドビ・ムカージー、ショーミットロ・チャタージーチャルラータ デジタルリマスター [Blu-ray]
大都会 ビッグ・シティ01.jpg 1953年、カルカッタ。ニュー・バーラット銀行のしがない行員であるシュブラト・ムジャンダー(ハレン・チャタージー)は途方に暮れていた。妹のバニの授業料は2ヵ月たまっており、元校長だった父親のプリヤゴパル(ハラドン・バナージー)は老眼鏡が必要だと言い、母親は十日ごとにカギタバコを買わなければならない。こう出費が重なっては、1ヵ月250ルピーという薄給の身ではどうしようもない。夫の友人が夫婦共稼ぎをしていることを知った妻アラチ(マドビ・ムカージー)は働きに出る気になった。求職先も決まったが、これを知った父親は驚いて大反対した。シュブラトが時勢は変わったと説得しても受け入れない。しかし、アラチはやがて勤めに出るようになる。上流家庭を訪問してまわる編物機の外交販売だ。月給はわずか100ルピーでも仕事はけっこう楽しかったし、英国人二世の若い女性エディスとは特に親しくなった。一方、父親は彼なりに金を得る道を考え出した。昔の教え子の中から名を成した人を訪ねあて、謝恩金をせびることにしたのである。老眼鏡も眼科医となっている教え子に無料で作ってもらった。アラチの会社の社長ムカジー(ハレン・チャタージー)はなかなかの切れ者で、アラチがすっかり気に入り月給の他に売り上げの歩合も出すようになった。おかげで家計は楽になったが、シュブラトは夫としての立場上、面白くなかった。家庭以外のことにも大都会 ビッグ・シティ02.jpg急に興味をもち始め身なりも派手になり、子供のピントゥも病気のとき母がいないのを淋しがった。彼は友人にアルバイトの口を頼み、妻に勤めを辞めるように宣告した。翌日、アラチは辞職届けを持って、重い足どりで会社に向かった。しかし、それを提出する前にシュブラトから電話がかかってきた。銀行が閉鎖になり失職したから仕事を辞めないでくれという。この日かサタジット・レイ「ビッグ・シティ」2.jpgら、アラチは一家のただ一人の稼ぎ手となった。さらに不幸は続いた。父親が階段から落ちて家に担ぎ込まれたのだ。だが、アラチの仕事ぶりを気に入っていたムカジーは、失業中のシュブラトにも会社で働くよう勧めてくれた。折りも折り、前からムカジーに気に入られていなかったエディスが突然クビにされた。高熱で欠勤し、顧客との約束を破ったのを、仕事不熱心と断定されたのである。泣き悲しむ親友のエディスにすっかり同情したアラチは、ムカジーの措置に憤慨して、何のためらいもなく辞職届けを叩きつけた。彼女からこのことを聞いて、シュブラトは妻の勇気に驚いた。しがない銀行員だった彼には到底できないことだった。彼は妻をたしなめるどころか、正しいと信ずることを通す勇気を讃えたが、さてこれから先、一家はどうやって暮らしていくのだろう―(「ビッグ・シティ」)。

サタジット・レイ」2.jpg サタジット・レイが1963年に発表した彼の代表作のひとつで、大都会カルカッタを舞台に共働き夫婦の暮らしを描いたドラマ。1964年・第14回 「ベルリン国際映画祭」で「銀熊賞(監督賞)」を受賞。日本では「大都会」のタイトルで'76年に岩波ホールで公開(その時は観に行けなかったが、個人的には「大都会」のタイトルの方が馴染みがある)。2015年9月、レイ監督のデビュー60周年を記念した特集上映「Season of Ray シーズン・オブ・レイ」でリバイバル公開(この時「ビッグ・シティ」と改題された)。昨年['25年]7月にレイ監督のデビュー70周年を記念した特集上映「サタジット・レイ レトロスペクティブ2025」で、再度リバイバル公開されました。

大都会 ビッグ・シティm.jpg サタジット・レイ監督作の中でも「女性の活躍・自立」という観点から現代にも通じるテーマを扱っている作品です。急速な時代の変化の中で、伝統と近代、西洋と東洋が複雑に交差している独立後間もない1950年代のコルカタ。そこで主人公の女性アロティが初めて職場で給料を受け取ります。給料を手にし、社会的に認められ金銭を手にした自分を鏡越しに見て、思わず笑みをこぼすアロティが実に印象的です。

 またアロティは、そのすぐあとに英国人二世の同僚女性から口紅を渡され戸惑いますが、意を決し塗っています。後に出てくる、夫が失業していよいよ自分が頑張らばらなければとういう局面で口紅を塗るシーンと併せて印象的なシーンであり、最初のシーンは女性の社会進出や自己実現を表し、後のシーンはアロティの決意を見事に表す名場面です(この組み合わせが見事)。個人的には、この初めて給料をもらうシーンと、口紅を巡る2つのシーンが印象に残りました。


 1880年のカルカッタ。金と若さと才気の三拍子揃ったブパチ・ダット(ショイレン・ムカージー)は「センチネル」という政チャルラータ01.jpg治新聞の編集長兼経営者として多忙な毎日を送っていた。当時のインドはイギリスの統治下にあり、彼はその植民地支配を批判する進歩的な論陣に健筆をふるっていた。そのブパチの美しい妻チャルラータ(ショイレン・ムカージー)は、当時のインドの女性の常として一日中家に閉じ込められたまま、あり余る時間を刺繍と読書にあてていた。ある日、ブパチは仕事口を頼んできていた妻の兄ウマパダ(シャモル・ゴサル)とその妻マンダキニ(ギタリ・ロイ)を呼び寄せ、ウマパダには「センチネル」紙の経理を担当させ、マンダキニにはチャルラータの話相手をさせることにした。ところが、マンダキニはガサツで無学な女で、チャルラータとは何一つ話が合わない。そこへ文学専攻のブパチの従弟アマル(ショーミットロ・チャタージ)が大学の休暇で訪ねてきた。文学のことなら何でも知っているアマルの出現で、チャルラータの孤独感は癒えた。二人は時の経つのも忘れて文学の話しに熱中した。そんなとき、アマルに富豪の娘との縁談が持ち込まれた。承知すればイギリスに留学させてやるというのだ。しかし、アマルはチャルラータのために断わる。ある日、事件が起きた。経理担当のウマパダが、会社の金を持ち逃げしたのだ。親類だからと信頼していた彼のショックは大きく、悲歎のうチャルラータ02.jpgちに信頼するアマルにだけこの事件を告げた。アマルは悩んだ。自分もまた、チャルラータとの間にブパチの知らない裏切りをしているのではないか。自分がこのままこの家にいれば、いつか彼女の上に不幸が襲う。その夜遅く、アマルは置き手紙を残して、そっと家を出た。翌朝、アマルが家を出たことを知ったチャルラータは、耐えがたいショックを夫の手前懸命に隠し通した。そんなことは何も知らないブパチは心機一転を図るために、チャルラータと共に海岸で休暇を過ごした。カルカッタに戻ると、アマルからの手紙が届いていた。何とか消そうと努めてきたチャルラータの恋が激しく燃え上がった。激しく泣き崩れる彼女の背後にブパチが音もなく近づく。チャルラータの真実を見たブパチは、ショックのあまり家を飛び出した。妻のあの悲しみは、仕事の忙しさにかまけて相手にしなかった自分自身にも責任があるのではないだろうか。イギリスの圧政を批判し、インドの将来を論じることも重要だが、人間にはもっと大切なことがある筈だ。冷静になった彼は、家庭の再建を誓い、再びわが家の門をくぐった―(「チャルラータ」)。

チャルラータ06.jpg サタジット・レイの中期の代表作で、同国の文豪で1913年にノーベル文学賞を受賞した(これはアジア人に与えられた初のノーベル賞だった)ラビンドラナート・タゴール(1861-1941)の短編小説「壊れた巣」を自身の脚本と音楽で映画化し、1965年の「ベルリン国際映画祭」で前年受賞の「ビッグ・シティ(大都会)」('63年)に続いて「銀熊賞(監督賞)」を受賞した作品(日本での公開はこの「チャルラータ」が先)。2015年9月、こちらも、レイ監督のデビュー60周年を記念した特集上映「Season of Ray シーズン・オブ・レイ」でリバイバル公開。昨年['25年]7月にレイ監督のデビュー70周年を記念した特集上映「サタジット・レイ レトロスペクティブ2025」で再度リバイバル公開されました。

チャルラータ04.jpg 「ビッグ・シティ」と同じく夫婦の関係を軸に描いていますが、「ビッグ・シティ」がリアリズムに徹した現代劇で、社会派ドラマであったのに対し、こちらは19世紀末のイギリス植民地時代のベンガルを舞台にした、詩的で内省的な時代劇であり、新聞編集者の裕福な夫に顧みられない孤独な妻が、訪れた従弟に淡い恋心を抱く、人間の心理と内面的な孤独を描いた心理ドラマとなっています。邸宅という閉鎖的な空間の中で、オペラグラス越しに見える風景や、窓から眺める外の世界など、カメラワークや映像美を通じて主人公の妻の「閉じ込められた状況」や内面の変化を繊細に描写しているように思いました。家の中で閉じ込められていた女性が自由になる瞬間を、心情に寄り沿った丁寧なカメラワークで鮮やかに切り取っています。

 「ビッグ・シティ」で家計を助けるためセールスレディとして働き出した妻を演じたのと同じ女優マドビ・ムカージーが、この映画では、贅沢暮らしをしながらも退屈かつ不自由な日々を過ごすチャルラータを演じているというのも、対比的で面白いです(同じ日に観たというのもある)。何れにせよ、両作品とも、彼女の凛とした美しさが映画の大きな魅力であることに違いはありません。両方とも星4つの評価としましたが、個人的好みは「ビッグ・シティ」の方が少しちょっと上だったかも。

サタジット・レイ「ビッグ・シティ」7.jpg「ビッグ・シティ(大都会)」●原題:চারুলতা(英題:MAHANAGAR)●制作年:1963 年●制作国:インド●監督・脚本:サタジット・大都会 ビッグ・シティ015.jpgレイ●製作:R・D・バンサル●撮影:スブラタ・ミットラ●原作:ナレンドラナート・ミットラ●時間:131分●出演:マドビ・ムカージー/アニル・チャタージー/ハレン・チャタージー/シェファリカ・デビ/ジャヤー・バードゥリー/プロシェンジト・ショルカル/ハラドン・バナルジ/ビッキー・レッドウッド●日本公開:1976/04●配給:エキプ・ド・シネマ●最初に観た場所: Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(25-07-22)(評価:★★★★)

チャルラータ Blu-ray
チャルラータ b.jpgチャルラータ03.jpg「チャルラータ」●原題:চারুলতা(英題:CHARULATA)●制作年:1964 年●制作国:インド●監督・脚本:サタジット・レイ●製作:R・D・バンサル●撮影:スブラタ・ミットラ●原作:ラビンドラナート・タゴール「壊れた巣」●時間:119分●出演:マドビ・ムカージー/ショウミットロ・チャタルジー/ジョイレン・ムカージー/シャマル・ゴーシャル/ギタリ・ロイ●日本公開:1975/11●配給:エキプ・ド・シネマ●最初に観た場所: Bunkamura ル・シネマ渋谷宮下(25-07-22)(評価:★★★★)


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