【3575】 ○ 春日 太一 『忠臣蔵入門―映像で読み解く物語の魅力』 (2021/12 角川新書) ★★★★

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キャラクター別・作品別データベースとして読める。「オールスター忠臣蔵」映画が廃れた理由は...カネ。
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臣蔵入門 映像で読み解く物語の魅力 (角川新書)』['21年]

 浄瑠璃や歌舞伎にはじまり、1910年の映画化以降、何度も何度も作られ続ける「忠臣蔵」。実は時代によってその描かれ方は変化しており、忠臣蔵の歴史を読み解けば、日本映像の歴史と、作品に投影された世相が見えてくると、映画史研究家である著者は言います(こちらも、前に取り上げた山本博文『東大教授の「忠臣蔵」講義』(角川新書)と同じく12月刊行(笑))。

 第1章で、「忠臣蔵」の概要です。6つの見せ場(①松の廊下、②大評定、祇園一刀茶屋、④大石東下り、⑤南部坂雪の別れ、⑥討ち入り)や三大キャラクター(①大石内蔵助、②吉良上野介、③浅野内匠頭)について、映像作品において感動的なドラマとして描く際のポイントなども含め解説、さらに、「忠臣蔵」が愛された理由を、①役者の番付、②関係性萌え、③風刺性、④群像劇として、の4つの点から述べています。

大河ドラマ「赤穂浪士」('64年/NHK)
赤穂浪士」(NHK大河ドラマ図1.jpg 第2章では、「忠臣蔵」が世につれどのように変遷してきたかを、①江戸時代=庶民たちの反逆、②国家のために利用される「忠君」、③「義士」から「浪士」へ~『赤穂浪士』(大佛次郎)、④GHQの禁令と戦後の「忠臣蔵」~「赤穂城」「続・赤穂城」('52年/東映)、⑤東映の「赤穂浪士」('56年/東映)、⑥大河ドラマ「赤穂浪士」('64年/NHK)、⑦悪役を主役に!~「元禄太平記」('64年/NHK)('75年/NHK)、⑧悩める大石~「峠の群像」('82年/NHK)、⑨ドロドロの人間模様~「元禄繚乱」('99年/NHK)、⑩TBSの三作~「女たちの忠臣蔵」「忠臣蔵・女たち・愛」('87年/TBS、橋田壽賀子脚本)、「忠臣蔵」('90年/TBS、池端俊作脚本)、⑪「決算!忠臣蔵」('19年/松竹)という流れで追っています。

 第3章は「忠臣蔵」のキャラキター名鑑で、どのようなキャラクターをどいった役者たちが演じてきたかが紹介されれいます。A.四十七士の中からは、堀部安兵衛(剣豪)、不破数右衛門(豪傑)、赤垣源蔵(飲んだくれ)、岡野金右衛門(誠実な二枚目)など9名、B.脱落者として、大野九郎兵衛ら4名、C.脇役として、立花右近、脇坂淡路守ら6名、吉良方として、千坂兵部ら4名、女性たちとして、大石りくら4名が取り上げられています。
忠臣蔵 天の巻・地の巻」('38年/日活)
忠臣蔵 天の巻・地の巻p.jpg 第4章は、「オールスター忠臣蔵」の系譜を辿っています。A.戦前編で「忠臣蔵 天の巻・地の巻」('38年/日活)や「元禄忠臣蔵 前編・後編」('41年・'42年/松竹)など3作を、B.「東映三部作」として、「赤穂浪士 天の巻・地の巻」('56年/東映)、「赤穂浪士」('61年/東映)などを3作を、C.松竹、大映、東宝の動向として、「忠臣蔵 花の巻・雪の巻」('54年/松竹)、「忠臣蔵」('58年/大映)、「忠臣蔵 花の巻・雪の巻」('62年/東宝)など4作を紹介、さらに、D.その後の2本として、70年代に作られた「赤穂城断絶」('78年/東映)、90年代に作られた「四十七人の刺客」('94年/東宝)を紹介、章の最後、E.として、「赤穂浪士」('64年/NHK)から始まるテレビの動向を追い、「大忠臣蔵」('71年/NET(現・テレビ朝日))など9作を取り上げています。

元禄忠臣蔵 前編・後編」('41年・'42年/松竹)/「忠臣蔵」('58年/大映)/「赤穂浪士」('61年/東映)
忠臣蔵3作.jpg
大忠臣蔵」('71年/NET(現・テレビ朝日))
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 第5章では「外伝の魅力」として、A.「外伝名作五選」として「薄桜記」('59年/大映)などテレビドラマを含め5作を挙げ、さらに、B.「後日談」として、「最後の忠臣蔵」('04年/NHK、'10年/ワーナーブラザーズ)など3作を紹介しています(このあたりは、取り上げていくとキリがないのではないか。自分が観た範囲内でも、「韋駄天数右衛門」('33年/宝塚)や「赤垣源蔵」('38年/日活)のような一人の義士をフューチャーしたものや、「珍説忠臣蔵」('53年/新東宝)のようなパロディなども昔からあったし)。

 「物語の見所、監督、俳優、名作ほか、これ一冊で『忠臣蔵』のすべてがわかる」というキャッチですが、確かに、という感じ。第3章がキャラクター別にどういう役者がその役を演じたか、第4章が作品別にどういう役者が出ていたか、という、両方で言わばクロスデータベースになっていて、それがコンパクトに纏まっているのがいいです(今まで意外とこの手の本は無かったのでは)。

「元禄繚乱  99.jpg 映像における「忠臣蔵」の"盛衰記"ともとれますが、「オールスター忠臣蔵」映画って、先に挙げた高倉健主演の「四十七人の刺客」('94年/東宝))が最後なのだなあ(第4章)。ドラマも、大河ドラマでは五代目中村勘九郎主演の「元禄繚乱」('99年/NHK)が今のところ最後で(第2章)、ドラマ全体では田村正和主演の「忠臣蔵 その男 大石内蔵助」('10年/テレビ朝日)が、「オールスター忠臣蔵」ドラマとしては、今のところ最後だそうです(第4章)。

 かつては「勧進帳」と並ぶ"国民的ネタバレ映画"であり、また確実に観客動員数(&視聴率)を見込めるキラーコンテンツであった「忠臣蔵」ですが、そんな「忠臣蔵」がなぜ廃れてしまったのかというと、「忠臣蔵」を作るというのはかなりの大プロジェクトであり、今作られなくなった大きな理由はまさにそこに在って、作る力(カネ)がない、つまり、「忠臣蔵」が廃れたのではなく、「忠臣蔵」を撮れる力が映画会社が無くなったということだとのことで、納得しました! (観たいと思っている人は多くいるのでは)。巻末に作品名、俳優名などの索引が付いているのは親切です。

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This page contains a single entry by wada published on 2025年2月22日 07:14.

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